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  • 特許-残留塩素除去フィルター体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】残留塩素除去フィルター体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20230626BHJP
   C02F 1/70 20230101ALI20230626BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20230626BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C02F1/28 D
C02F1/70 Z
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019085731
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020179374
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智
(72)【発明者】
【氏名】國枝 友温
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-022399(JP,A)
【文献】特開平08-164378(JP,A)
【文献】特開平08-071572(JP,A)
【文献】特開2019-018154(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102351293(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
B01J 20/00 - 20/34
C02F 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状活性炭又は繊維状活性炭のいずれか一方もしくは両方よりなる活性炭吸着材100重量部フィブリル化繊維バインダー7~22重量部、レーザー光散乱式粒度分布測定装置を用いてレーザー回析・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径である中心粒径が150~338μmである亜硫酸カルシウム10~100重量部とを水中で混合して混合スラリー状物とし、前記混合スラリー状物を中空円筒形芯部材の側面より吸引しながら被着させて吸着被着物とし、前記吸着被着物を加熱乾燥させてなる水中の残留塩素を除去する残留塩素除去フィルター体の製造方法
【請求項2】
前記粒状活性炭のヨウ素吸着性能が800~2000mg/gである請求項に記載の残留塩素除去フィルター体の製造方法
【請求項3】
前記繊維状活性炭の平均繊維径が20μm以下である請求項1又は2に記載の残留塩素除去フィルター体の製造方法
【請求項4】
前記繊維状活性炭のヨウ素吸着性能が1000~2000mg/gである請求項1ないしのいずれか1項に記載の残留塩素除去フィルター体の製造方法
【請求項5】
前記活性炭吸着材において、前記粒状活性炭100重量部に対し前記繊維状活性炭が10~850重量部の割合で含有されている請求項1ないしのいずれか1項に記載の残留塩素除去フィルター体の製造方法
【請求項6】
前記フィブリル化繊維バインダーがアクリル繊維からなる請求項1ないしのいずれか1項に記載の残留塩素除去フィルター体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の残留塩素の除去を目的とする残留塩素除去フィルター体に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水の消毒には、主に次亜塩素酸ナトリウムが使用されており、該次亜塩素酸ナトリウムが水に溶解した時に生ずる次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンは遊離残留塩素と呼ばれる。遊離残留塩素は殺菌ないし消毒効果を有する。しかし、自然水に存在するアンモニアや窒素酸化物と添加された次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンとの反応から、クロラミン等の結合残留塩素が生成される。結合残留塩素と遊離残留塩素は合わせて残留塩素と呼ばれる。取水した原水の状態、添加する遊離残留塩素の量、さらには、クロラミンの量によっては臭気が問題となることが多い。
【0003】
水道水等の飲料用水から、これら残留塩素を取り除く目的で浄水器が用いられる。このような浄水器は、活性炭やセラミック等の無機材料の吸着部材と、必要により濾過用の有機高分子膜等を備えた構造である。近年では、浄水器や空気清浄器の高性能化の要望に伴い、これらのフィルター等には活性炭が多用されている。例えば、クロラミンやアンモニアは塩基性であることから活性炭表面に酸性官能基を備えた活性炭が有効であると考えられる(例えば、特許文献1参照)。すなわち、酸-塩基反応を利用した化学結合により吸着効率が高められる。
【0004】
さらに、活性炭と亜硫酸カルシウムを多孔質ポリマーにより固化したフィルターも提案されている(特許文献2参照)。いわゆる乾式フィルターにおいて、小型のフィルターであっても、活性炭密度を高めて浄水性能を高め、かつ亜硫酸カルシウムの粒径を限定することによって、亜硫酸カルシウムの溶解を速めて遊離残留塩素の除去性能を維持しつつ、水の流量を安定して確保するフィルターが開発されている。
【0005】
ところで、病院は井戸等の地下水のような独立した水源を有していることがあり、原水が汚れていると水中にアンモニアが比較的多く含有される場合がある。そうすると、先述のように、遊離残留塩素等による消毒によりクロラミン等の結合残留塩素が生じやすい。特に、病院において人工透析に用いられる水には残留塩素を除去した水が望まれていて、遊離残留塩素と結合残留塩素を含む残留塩素の除去性能が高い濾材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-338222号公報
【文献】特開2008-207174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、活性炭吸着材と亜硫酸カルシウムを配合したフィルター体であって、良好な通水性を有し、遊離残留塩素と結合残留塩素の両者を含む残留塩素の除去性能を高度に維持することができる残留塩素除去フィルター体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の発明は、粒状活性炭又は繊維状活性炭のいずれか一方もしくは両方よりなる活性炭吸着材100重量部フィブリル化繊維バインダー7~22重量部、レーザー光散乱式粒度分布測定装置を用いてレーザー回析・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径である中心粒径が150~338μmである亜硫酸カルシウム10~100重量部とを水中で混合して混合スラリー状物とし、前記混合スラリー状物を中空円筒形芯部材の側面より吸引しながら被着させて吸着被着物とし、前記吸着被着物を加熱乾燥させてなる水中の残留塩素を除去する残留塩素除去フィルター体の製造方法に係る。
【0009】
の発明は、第の発明において、前記粒状活性炭のヨウ素吸着性能が800~2000mg/gである残留塩素除去フィルター体の製造方法に係る。
【0010】
の発明は、第1又は2の発明において、前記繊維状活性炭の平均繊維径が20μm以下である残留塩素除去フィルター体の製造方法に係る。
【0011】
の発明は、第1ないしの発明のいずれかにおいて、前記繊維状活性炭のヨウ素吸着性能が1000~2000mg/gである残留塩素除去フィルター体の製造方法に係る。
【0012】
の発明は、第1ないしの発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材において、前記粒状活性炭100重量部に対し前記繊維状活性炭が10~850重量部の割合で含有されている残留塩素除去フィルター体の製造方法に係る。
【0013】
の発明は、第1ないしの発明のいずれかにおいて、前記フィブリル化繊維バインダーがアクリル繊維からなる残留塩素除去フィルター体の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明に係る残留塩素除去フィルター体の製造方法によると、粒状活性炭又は繊維状活性炭のいずれか一方もしくは両方よりなる活性炭吸着材100重量部フィブリル化繊維バインダー7~22重量部、レーザー光散乱式粒度分布測定装置を用いてレーザー回析・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径である中心粒径が150~338μmである亜硫酸カルシウム10~100重量部とを水中で混合して混合スラリー状物とし、前記混合スラリー状物を中空円筒形芯部材の側面より吸引しながら被着させて吸着被着物とし、前記吸着被着物を加熱乾燥させてなることから、良好な通水性を有し、遊離残留塩素と結合残留塩素の両者を含む残留塩素の除去性能を高度に維持することができる残留塩素除去フィルター体を製造することができる
【0015】
の発明に係る残留塩素除去フィルター体の製造方法によると、第の発明において、前記粒状活性炭のヨウ素吸着性能が800~2000mg/gであるため、粒状活性炭に求められる一般的な吸着性能を備える。
【0016】
の発明に係る残留塩素除去フィルター体の製造方法によると、第1又は2の発明において、前記繊維状活性炭の平均繊維径が20μm以下であるため、吸着性能に優れる。
【0017】
の発明に係る残留塩素除去フィルター体の製造方法によると、第1ないしの発明のいずれかにおいて、前記繊維状活性炭のヨウ素吸着性能が1000~2000mg/gである繊維状活性炭であるため、繊維状活性炭に求められる一般的な吸着性能を備える。
【0018】
の発明に係る残留塩素除去フィルター体の製造方法によると、第1ないしの発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材において、前記粒状活性炭100重量部に対し前記繊維状活性炭が10~850重量部の割合で含有されているため、遊離残留塩素の除去性能を維持しつつ、良好な成形性や通水性を備える。
【0019】
の発明に係る残留塩素除去フィルター体の製造方法によると、第1ないしの発明のいずれかにおいて、前記フィブリル化繊維バインダーがアクリル繊維からなるため、フィルター体の耐用期間をより長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】残留塩素除去フィルター体の製造工程を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の残留塩素除去フィルター体は、水中に溶解している次亜塩素酸等の遊離残留塩素とクロラミン等の結合残留塩素を含む残留塩素の除去を目的とする。水等の液体用フィルター体には、いわゆる乾式フィルターと湿式フィルターがある。乾式フィルターは、熱可塑性樹脂を溶融して濾材である活性炭吸着材等を保持してなる。湿式フィルターは、樹脂繊維等のバインダーとしての繊維状成分と、濾材である活性炭吸着材を混合して水性スラリーとして所定形状に吸引、成形してなる。湿式フィルターは繊維状成分と濾材を絡めて一体化する構造である。
【0022】
本発明の残留塩素除去フィルター体においては湿式フィルターを採用した。湿式フィルターは、乾式フィルターと比較するとバインダーとして繊維状成分を使用しているため通水性に優れる。また、乾式フィルターにおいては、密度が高いため活性炭吸着材量が大きい利点があるものの、熱可塑性樹脂を溶融して活性炭吸着材を保持することから、活性炭吸着材の表面を樹脂が被覆してしまい吸着性能を低下させてしまうおそれがある。本発明の残留塩素除去フィルター体にあっては、フィブリル化した繊維バインダーによって活性炭吸着材及び亜硫酸カルシウムを保持するため、通水性を維持しつつ残留塩素の除去性能を確保することができる。
【0023】
活性炭吸着材は、残留塩素のうち、特に遊離残留塩素の吸着性能に優れる。本発明の残留塩素除去フィルター体は、濾材の活性炭吸着材として粒状活性炭又は繊維状活性炭のいずれか一方又は両方が使用される。本発明の残留塩素除去フィルター体に使用する粒状活性炭及び繊維状活性炭の吸着能力は、一般的な粒状活性炭及び繊維状活性炭と同程度である。具体的には、JIS K 1474(2014)、JIS K 1477(2007)に準拠する測定において、粒状活性炭では800~2000mg/g、繊維状活性炭では1000~2000mg/gを満たす粒状活性炭及び繊維状活性炭が使用される。
【0024】
活性炭の原料としては、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然物由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物等の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にも、タイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。特に、繊維状活性炭は植物系、鉱物系、天然素材、合成素材等の各種炭素材料の繊維を炭化・賦活して得られる。
【0025】
活性炭原料は、200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0026】
粒状活性炭の粒径が小さいとフィルター体の密度は高くなり、遊離残留塩素の吸着性能が向上する。一方で、粒径が大きくなるとフィルター体の密度は小さくなり、通水性が向上する。また、粒径が細かくなりすぎると、通水時に目詰まりしやすくなる等の問題も生じやすくなる。このことから、粒状活性炭の中心粒径は100~250μmとすると、通水性を確保しつつ、水中に溶解した遊離残留塩素の吸着性能を高めることができる。また、繊維状活性炭は、繊維状であることから通水性に優れる。繊維平均径が大きすぎる場合、配合量の割に表面積が少なくなるため吸着能力向上の点から好ましくない。繊維平均径が細かい繊維状活性炭の場合、吸着性能やパーティクルの濾集能力が優れている。繊維状活性炭の平均繊維径を20μm以下とすると、優れた通水性を確保しつつ、吸着性能に優れた取回しのよいフィルター体を形成することができる。
【0027】
活性炭吸着材は、粒状活性炭又は繊維状活性炭のどちらか一方のみで構成されてもよく、両方が配合されても良い。粒状活性炭は一般的に単価が安い。粒状活性炭を多く配合すると、フィルター体の密度が向上して、容量当たりの活性炭吸着材の量が増加する。繊維状活性炭は、先に述べたように通水性に優れ、また単位重量当たりの吸着性能も高い。このため、フィルター体の機能性や経済性を鑑みて、粒状活性炭と繊維状活性炭の配合割合は適宜決定されるのが良く、活性炭吸着材の構成は、粒状活性炭100重量部に対し繊維状活性炭が10~850重量部の割合とするのが良い。
【0028】
本発明の残留塩素除去フィルター体のバインダーは、フィブリル化された繊維バインダーよりなる。特にフィブリル化繊維バインダーは、アクリル繊維やアラミド繊維、ポリエチレン繊維等からなるフィブリル化繊維バインダーを用いるのが良い。アクリル繊維バインダーは加熱乾燥時の加熱によっては溶融しないため、バインダーの繊維構造は残存する。また、フィルター体の耐用期間も長くなる。繊維バインダーは、活性炭吸着材と互いに保持する構造材料として作用する。フィブリル化されていることから、より効率的に活性炭吸着材が保持されることができるため有用である。
【0029】
活性炭吸着材は、遊離残留塩素の吸着性能が高く、濾材として活性炭吸着材を使用するフィルター体は遊離残留塩素の除去性能は高い。そこで本発明の残留塩素除去フィルター体は、遊離残留塩素を主に除去する濾材である活性炭吸着と、結合残留塩素を主に除去する成分として亜硫酸カルシウムを配合することとした。フィルター体に配合された亜硫酸カルシウムは、水中に亜硫酸イオンが溶出してクロラミン等の結合残留塩素と反応し、結合残留塩素を分解、除去する。
【0030】
ここで、飲料水の確保のために、水道(給水栓)から出る水の遊離残留塩素は0.1mg/L(結合残留塩素の場合は0.4mg/L)以上保持するように塩素消毒をする旨の規定が水道法施行規則(厚生労働省令)第17条3号によりなされている。原水中の結合残留塩素濃度が低濃度である場合にあっては、亜硫酸イオンの溶出量が少なくとも除去が可能である。亜硫酸カルシウムの粒度が細小であると、通水初期には亜硫酸イオンの溶出が大きく、その後急速に亜硫酸イオンの溶出量が減少してしまう。亜硫酸カルシウムの粒度は一定程度粗大である方が、亜硫酸イオンが少しずつ溶出することとなり亜硫酸イオンの溶出が長時間維持される。これらから、亜硫酸カルシウムの中心粒径は好ましくは150μm以上、より好ましくは200μm以上とすると、残留塩素除去フィルター体の性能がより向上すると考えられる。
【0031】
続いて、図1を用い、残留塩素除去フィルター体の製造過程を説明する。はじめに、活性炭吸着剤20(粒状活性炭21、繊維状活性炭22)、フィブリル化したアクリル繊維バインダー23及び亜硫酸カルシウム24は水Wの中に投入され、十分に混合されて混合スラリー状物30が調製される。
【0032】
中空円筒形芯部材11の内部に、混合スラリー状物を減圧吸引するための多孔の金型棒状部材35が挿入される。中空円筒形芯部材11には透過のための細孔(図示省略)が形成されており、金型棒状部材35は多孔形状のステンレス製である。中空円筒形芯部材11と金型棒状部材35の一体化物が混合スラリー状物30内に降ろされた後、金型棒状部材35を介して減圧吸引することにより、混合スラリー状物30は中空円筒形芯部材11の側面に引き寄せられて被着する。図示の切り欠き部分参照のとおり、中空円筒形芯部材の表面にスラリー被着部26が形成される。所定量のスラリー被着部26が形成された後、混合スラリー状物から引き上げられ、金型棒状部材35が取り外される。こうして中空円筒形芯部材12の表面にスラリー被着部26を備えた吸着被着物25が得られる。その後、吸着被着物25は乾燥機40内で加熱乾燥される。
【0033】
加熱乾燥の温度、時間は、樹脂成分の溶融温度、吸着被着物自体の大きさ、混合スラリー状物の被着量、生産効率等を勘案して最適に設定される。乾燥時の温度は一般的に80~120℃である。アクリル繊維バインダーは加熱乾燥時の加熱によっては溶融しないためバインダーの繊維構造は残存する。
【0034】
本発明の残留塩素除去フィルター体は、例えば、浄水器等に装填されたり、人工透析器用の水濾過部位等の残留塩素除去の求められる部位に適用される。
【実施例
【0035】
[使用活性炭吸着材]
発明者らは、残留塩素除去フィルター体を作成するため、活性炭吸着材として下記の原料を使用した。
・粒状活性炭
フタムラ化学株式会社製:ヤシ殻活性炭「CW8150SZ」(中心粒径:0.16mm)
{以降、C1と表記する。}
・繊維状活性炭
フタムラ化学株式会社製:「フェノール系繊維状活性炭」(平均繊維径:15μm)
{以降、C2と表記する。}
【0036】
[使用フィブリル化バインダー]
発明者らは、残留塩素除去フィルター体を作成するため、フィブリル化バインダーとしてフィブリル化したアクリル樹脂繊維(東洋紡株式会社製,商品名ビィパル)を使用した。
【0037】
[使用亜硫酸カルシウム]
富田製薬株式会社製:亜硫酸カルシウム「細粒 No,30」を使用し、篩にて各中心粒径ごとに篩別した。ここで、中心粒径とは、レーザー光散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「MT3300EXII」)を用いてレーザー回析・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径を意味する。
・中心粒径が24μmの亜硫酸カルシウムをS1と表記する。
・中心粒径が155μmの亜硫酸カルシウムをS2と表記する。
・中心粒径が205μmの亜硫酸カルシウムをS3と表記する。
・中心粒径が293μmの亜硫酸カルシウムをS4と表記する。
・中心粒径が338μmの亜硫酸カルシウムをS5と表記する。
【0038】
[残留塩素除去フィルター体の試作]
表1ないし表3に基づく原料とその配合(単位:重量部)に従い、活性炭吸着剤、フィブリル化繊維バインダー及び亜硫酸カルシウムを水中で十分に混合し、試作例及び比較例に対応した混合スラリー状物を調製した。混合スラリー状物における水は、添加した固形分の20倍重量とした。そして、外直径34mm、内直径30mm、全長121mmであり直径2mmの細孔を有するポリプロピレン製の中空円筒形芯部材を用意した。同中空円筒形芯部材内に、多孔形状のステンレス製の金型棒状部材を挿入して固定するとともに混合スラリー状物内に投入し、減圧吸引により混合スラリー状物内から固形分を引き寄せて中空円筒形芯部材の表面に約15mm被着させた(スラリー被着部)。中空円筒形芯部材から金型棒状部材を取り外し、スラリー被着部と中空円筒形芯部材の一体化物となる吸着被着物を得た。そして、乾燥機を用いて100℃、12時間かけて吸着被着物の加熱、乾燥を行い、試作例及び比較例の浄化用フィルター体を試作した。各フィルター体の寸法は、中空円筒形芯部材を含む直径65mm、全長125mmの円筒体である。また、フィルター体の表面をポリエチレンとポリプロピレンの混抄繊維からなる不織布で覆うとともにフィルター体の上下にポリプロピレン製キャップを取り付けた。
【0039】
[残留塩素除去フィルター体の作成]
残留塩素除去フィルター体として、下記の試作例1~12を作成した。また、比較例1~3は亜硫酸カルシウムを配合せずにフィルター体を作成した。表1ないし表3に原料とその配合(単位:重量部)を示す。活性炭吸着材の項における下段の数値は、粒状活性炭100重量部を基準とした繊維状活性炭の割合を示している。
【0040】
[混合スラリー状物の調製]
〈試作例1〉
粒状活性炭(C1)を75重量部、繊維状活性炭(C2)を25重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が293μmの亜硫酸カルシウム(S4)を26重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を7重量部とを混合スラリー状物とし、試作例1のフィルター体を作成した。
【0041】
〈試作例2〉
粒状活性炭(C1)を11重量部、繊維状活性炭(C2)を89重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が293μmの亜硫酸カルシウム(S4)を11重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を7重量部とを混合スラリー状物とし、試作例2のフィルター体を作成した。
【0042】
〈試作例3〉
粒状活性炭(C1)を20重量部、繊維状活性炭(C2)を80重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が293μmの亜硫酸カルシウム(S4)を100重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を13重量部とを混合スラリー状物とし、試作例3のフィルター体を作成した。
【0043】
〈試作例4〉
粒状活性炭(C1)を88重量部、繊維状活性炭(C2)を12重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が293μmの亜硫酸カルシウム(S4)を25重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を8重量部とを混合スラリー状物とし、試作例4のフィルター体を作成した。
【0044】
〈試作例5〉
粒状活性炭(C1)を80重量部、繊維状活性炭(C2)を20重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が293μmの亜硫酸カルシウム(S4)を100重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を13重量部とを混合スラリー状物とし、試作例5のフィルター体を作成した。
【0045】
〈試作例6〉
粒状活性炭(C1)を90重量部、繊維状活性炭(C2)を10重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が293μmの亜硫酸カルシウム(S4)を10重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を7重量部とを混合スラリー状物とし、試作例6のフィルター体を作成した。
【0046】
〈試作例7〉
繊維状活性炭(C2)を100重量部を基準とし、中心粒径が293μmの亜硫酸カルシウム(S4)を100重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を13重量部とを混合スラリー状物とし、試作例7のフィルター体を作成した。
【0047】
〈試作例8〉
粒状活性炭(C1)を100重量部、中心粒径が293μmの亜硫酸カルシウム(S4)を100重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を22重量部とを混合スラリー状物とし、試作例8のフィルター体を作成した。
【0048】
〈試作例9〉
粒状活性炭(C1)を88重量部、繊維状活性炭(C2)を12重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が338μmの亜硫酸カルシウム(S5)を25重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を8重量部とを混合スラリー状物とし、試作例9のフィルター体を作成した。
【0049】
〈試作例10〉
粒状活性炭(C1)を88重量部、繊維状活性炭(C2)12重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が205μmの亜硫酸カルシウム(S3)を25重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を8重量部とを混合スラリー状物とし、試作例10のフィルター体を作成した。
【0050】
〈試作例11〉
粒状活性炭(C1)を88重量部、繊維状活性炭(C2)を12重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が155μmの亜硫酸カルシウム(S2)を25重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を8重量部とを混合スラリー状物とし、試作例11のフィルター体を作成した。
【0051】
〈試作例12〉
粒状活性炭(C1)を88重量部、繊維状活性炭(C2)を12重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、中心粒径が24μmの亜硫酸カルシウム(S1)を25重量部及びフィブリル化したアクリル樹脂繊維を8重量部とを混合スラリー状物とし、試作例12のフィルター体を作成した。
【0052】
〈比較例1〉
繊維状活性炭(C2)を100重量部を基準とし、フィブリル化したアクリル樹脂繊維を5重量部を混合スラリー状物とし、比較例1のフィルター体を作成した。
【0053】
〈比較例2〉
粒状活性炭(C1)を100重量部を基準とし、フィブリル化したアクリル樹脂繊維を9重量部を混合スラリー状物とし、比較例2のフィルター体を作成した。
【0054】
〈比較例3〉
粒状活性炭(C1)を80重量部、繊維状活性炭(C2)を20重量部、合わせて活性炭吸着材100重量部を基準とし、フィブリル化したアクリル樹脂繊維を6重量部を混合スラリー状物とし、比較例3のフィルター体を作成した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
[評価項目]
試作例1~12の残留塩素除去フィルター体及び比較例のフィルター体について、次の通り、遊離残留塩素と結合残留塩素の除去性能試験を行った。遊離残留塩素の除去性能試験においては、JIS S 3201(2010)の家庭用浄水器試験方法に準拠し、試験を行った。水温20℃、遊離残留塩素の濃度を2ppm(mg/L)、通水流量を2.5L/minに設定し、SV値500hr-1として各フィルター体に通水した。フィルター体の入口と出口の遊離残留塩素の濃度を測定して破過率を算出し、破過率が20%以上となった通水量を破過点として測定した。
【0059】
結合残留塩素の除去性能試験においては、活性炭濾過した水に塩化アンモニウム及び次亜塩素酸カルシウムを添加し、撹拌混合して、結合残留塩素の濃度を3ppm(mg/L)及び0.2ppm(mg/L)とする2種類の試料水を作成した。該2種類の濃度の試料水を用いて試験を行った。水温20℃、通水流量を2.5L/minに設定し、SV値500hr-1として各フィルター体に2種類の試料水を通水した。フィルター体の入口と出口の結合残留塩素の濃度を測定して破過率を算出し、破過率が20%以上となった通水量を破過点としてそれぞれ測定した。遊離残留塩素及び結合残量塩素それぞれの試験において、塩素濃度についてDPD吸光光度法を用いて定量測定した。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
[結果と考察]
全例の傾向から結合残留塩素の除去性能は亜硫酸カルシウムの添加量を増加させることで向上することが分かった。亜硫酸カルシウムを配合しない比較例1~3と各試作例との比較から、亜硫酸カルシウムをフィルター体に配合することによって、結合残留塩素の除去性能が大幅に向上することが分かり、亜硫酸カルシウムが結合残留塩素の除去に適していることが確認された。
【0064】
粒状活性炭の割合が高い試作例は遊離残留塩素の除去性能がより高いことが示された。遊離残留塩素の除去性能については、活性炭吸着材における粒状活性炭と繊維状活性炭の割合により変化することが分かった。繊維状活性炭の割合が高い試作例2,3及び粒状活性炭を配合しない試作例7についても、遊離残留塩素の除去性能は十分に確保されることから、通水性や成形性、ないし取り回しの良さの観点から粒状活性炭と繊維状活性炭の割合を調整するのが良いことが確認された。
【0065】
続いて、亜硫酸カルシウムの中心粒径の異なる試作例4,9~12を比較する。結合残留塩素の濃度が3ppmと高濃度の場合において、一定以上の亜硫酸イオンの水中への溶出量が必要であり、亜硫酸カルシウムの中心粒粒径が大きいと亜硫酸イオンの溶出量が少なくなり、高濃度の結合残留塩素を除去するに足る溶出量には至らないと考えられる。亜硫酸カルシウムの中心粒径が小さいと亜硫酸イオンの溶出量が多くなるが、試作例12のように亜硫酸カルシウムの中心粒径が小さすぎる場合において、通水初期の亜硫酸イオンの溶出量が非常に多く、該亜硫酸イオンの溶出量が長続きせずに除去性能が一定せず、能力が低いと考えられる。
【0066】
結合残留塩素の濃度が0.2ppmと低濃度の場合においては、亜硫酸カルシウムの中心粒径の大きい試作例の方が除去性能が高いことが示された。亜硫酸イオンの溶出量は通水初期から多量ではなく、かえって持続性が担保されたと考えられる。一般に使用される原水においては、結合残留塩素の濃度はそれほど高くはない。これらのことから、所望されるフィルター体の機能に即した中心粒径の範囲は、150μm以上、より好ましくは200μm以上とするのがよいことがわかった。また、フィルター体の成形の観点から、亜硫酸カルシウムの粒径の上限はおおよそ400μmであると考えられる。
【0067】
遊離残留塩素の除去材として活性炭吸着材、結合残留塩素の除去材として亜硫酸カルシウムを配合することにより、残留塩素の除去性能が高い残留塩素除去フィルター体を得ることができた。それぞれの配合割合を適宜調整することによって所望する機能を有した残留塩素除去フィルター体を得ることができた。また、亜硫酸カルシウムの粒径を調整することによって、結合残留塩素の除去性能を向上させることができた。これらを湿式フィルターとして成形することによって、活性炭吸着材及び亜硫酸カルシウムそれぞれの残留塩素の除去性能を低下させることなく残留塩素除去フィルター体を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の残留塩素除去フィルター体は、良好な通水性を有しつつ、遊離残留塩素と結合残留塩素の両者を含む残留塩素の除去に効果的であるため、原水中から残留塩素を除去する用途、さらには、人工透析用の精製水の濾過、調製の用途に好適である。
【符号の説明】
【0069】
11 中空円筒形芯部材
20 活性炭吸着材
21 粒状活性炭
22 繊維状活性炭
23 アクリル繊維バインダー
24 亜硫酸カルシウム
25 吸着被着物
26 スラリー被着部
30 混合スラリー状物
35 金型棒状部材
40 乾燥機
W 水
図1