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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】カチオン化セルロース繊維染色用均染剤
(51)【国際特許分類】
   D06P 1/62 20060101AFI20230626BHJP
   D06P 3/58 20060101ALI20230626BHJP
   D06P 5/22 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
D06P1/62
D06P3/58
D06P5/22 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019170811
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021046634
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】梅村 深雪
(72)【発明者】
【氏名】品川 和博
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-263678(JP,A)
【文献】特開昭63-012783(JP,A)
【文献】特開昭54-002486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルベンゼンスルホン酸及びそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のスルホン酸化合物を含む、アニオン性染料によるカチオン化セルロース繊維染色用の均染剤。
【請求項2】
前記アルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基が、炭素数10~18を有する、請求項1に記載の均染剤。
【請求項3】
カチオン化セルロース繊維染色製品の製造方法であって、
アルキルベンゼンスルホン酸及びそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のスルホン酸化合物を含む均染剤の存在下でカチオン化セルロース繊維をアニオン性染料によって染色処理することを含む、方法。
【請求項4】
前記アルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基が、炭素数10~18を有する、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン化セルロース繊維染色用の均染剤、及び当該均染剤を用いたカチオン化セルロース繊維染色製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、綿等のセルロース繊維の染色には、通常、直接染料、反応染料等のアニオン性染料が用いられている。セルロース繊維は本来的に表面にアニオン電荷を有しており、アニオン性染料との電気的反発によって染色不良を生じさせ易いことから、セルロース繊維の染色性を向上させる方法として、ぼう硝(Na2SO4)等の中性塩をセルロース繊維に添加する方法が用いられてきた。中性塩は、繊維表面の中和、及び塩析による染料ミセルの形成によって、染料と繊維との電気的反発を低下させる作用を有する。しかしこの方法では、中性塩を多量に用いる必要があることから廃液による環境負荷が問題となっていた。
【0003】
セルロース繊維の染色性向上(具体的には、染色時間の短縮及び染料のロス低減)を目的として、セルロース繊維をカチオン化することが従来提案されている。例えば特許文献1は、セルロース繊維を、湿潤剤とアルカリ組成物とアンモニウム塩とを含む溶液に接触させるステップを含むセルロース繊維の処理方法を記載する。このような方法によれば、セルロース繊維に導入されたカチオン部位(例えば第4級アンモニウム構造)がアニオン性染料とイオン結合することによってセルロース繊維に染料を強固に染着させることができるため、染色時間の短縮及び染料のロス低減が可能になり、環境への負荷を低減できる。
【0004】
一方、セルロース繊維を染色する際の均染性を向上させるために、各種均染剤が提案されている。例えば特許文献2は、セルロース系繊維製品又はセルロース系繊維を含む混紡交編織繊維製品を直接染料又は反応染料により吸尽染色するための均染剤として、アルキルアミンにエチレンオキシドを付加重合した化合物と、脂肪族多価カルボン酸又は芳香族多価カルボン酸とをエステル化して得られる化合物を記載する。また特許文献3は、セルロース系繊維単独又はセルロース系繊維を含む繊維製品を反応染料により吸収染色するための均染剤として、特定構造の脂肪酸エステルを硫酸化して得られる硫酸エステル塩又はスルホン酸塩を記載する。しかしこれらの均染剤によっては、カチオン化セルロース繊維の十分な均染性は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-511331号公報
【文献】特開昭61-89383号公報
【文献】特開昭63-92787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるようなセルロース繊維のカチオン化は、アニオン性染料を染色液中からセルロース繊維に移行し易くする点では有利である。しかし、カチオン化セルロース繊維においては、カチオン化されていないセルロース繊維と比べて染着速度を制御し難く染色ムラが発生しやすいという問題を有する。すなわち、セルロース繊維と染料との親和性が大き過ぎると、染料がセルロース繊維に急激に付着するために染色が局所的になってしまい、また繊維に一旦付着した染料が当該繊維から離れて異なる部分に移動することも困難であるため、均一な染色が困難である。
【0007】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、カチオン化セルロース繊維の染色において均染性に優れる均染剤、並びに該均染剤を用いたカチオン化セルロース繊維染色製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] アルキルベンゼンスルホン酸及びそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のスルホン酸化合物を含む、カチオン化セルロース繊維染色用の均染剤。
[2] 前記アルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基が、炭素数10~18を有する、上記態様1に記載の均染剤。
[3] カチオン化セルロース繊維染色製品の製造方法であって、
上記態様1又は2に記載の均染剤の存在下でカチオン化セルロース繊維を染色処理することを含む、方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、カチオン化セルロース繊維の染色において均染性に優れる均染剤、並びに該均染剤を用いたカチオン化セルロース繊維染色製品の製造方法が提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示の態様について具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0011】
<均染剤>
本発明の一態様は、アルキルベンゼンスルホン酸及びそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のスルホン酸化合物を含む均染剤を提供する。理論に拘束されるものではないが、アルキルベンゼンスルホン酸及びそれらの塩(本開示で、「アルキルベンゼンスルホン酸(塩)」ともいう。)は、スルホン酸系であることによって強いアニオン性を有するため、カチオン化セルロース繊維を含む染色液中に添加されると、カチオン化セルロース繊維のカチオン性を弱め、繊維表面へのアニオン性染料の過剰な付着を抑制できる。カチオン化セルロース繊維においては、アニオン性染料が、繊維表面に存在する多数のカチオン部位とイオン結合を形成してしまい、繊維内部まで浸透しにくいと考えられる。アルキルベンゼンスルホン酸(塩)は、カチオン化セルロース繊維上のこのようなカチオン部位を適度にブロックする。これにより、アニオン性染料が繊維表面のみに留まることなく繊維内部にも移動でき、均染性及び染色堅牢度(特に湿潤染色堅牢度)が良好になると考えられる。
【0012】
カチオン化セルロース繊維のカチオン性が弱まると、アニオン性染料と繊維上のカチオン部位との親和力が緩和されることで染料の可動性の増大(従って広範囲への拡散)も生じ、このことも均染性の向上に寄与する。例えば、染料として反応染料(すなわち、セルロース中の水酸基と共有結合を形成し得る反応部位を有する染料)を使用する場合には、染料の可動性の増大によって染料の反応部位とカチオン化セルロース繊維の水酸基との接近の機会が増大するため、染料とカチオン化セルロース繊維との間の共有結合の形成が促進される。共有結合は、例えばイオン結合と比べて強固な結合であり、共有結合の数が増大することは染色堅牢度の向上に寄与する。したがって、本開示の均染剤が反応染料による染色系に適用される場合、染色堅牢度(特に湿潤染色堅牢度)向上という利点が顕著である。湿潤染色堅牢度が高いことは、繊維製品からの染料の脱落が着用時の汗、洗濯時等に生じ難い点で有利である。なお湿潤染色堅牢度は、JIS L 0848の汗に対する染色堅ろう度試験方法及びJIS L 0844の洗濯に対する染色堅ろう度試験方法で評価できる。
【0013】
以上のように、本開示の均染剤は、アニオン性染料を用いたカチオン化セルロース繊維の染色に特有の問題を解決し得る特異な利点を有する。
【0014】
[アルキルベンゼンスルホン酸及びそれらの塩]
アルキルベンゼンスルホン酸及びそれらの塩(アルキルベンゼンスルホン酸(塩))としては、下記一般式(1):
【化1】
(式中、Rは、炭素数1~22のアルキル基を表し、Mn+は、n価カチオンを表し、そしてnは1又は2である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0015】
一般式(1)中、Rは、炭素数1~22のアルキル基である。当該アルキル基は、直鎖又は分岐鎖であってよいが、生分解性が良好である点では直鎖が好ましい。アルキル鎖の炭素数は、均染性の観点から、好ましくは10~18であり、一態様において10~16である。
【0016】
一般式(1)中、Mはn価カチオンである。例えばn=1の場合、Mとしては、H+、及びアルカリ金属カチオン(ナトリウムカチオン(Na+)、カリウムカチオン(K+)等)、アンモニオ基含有カチオン(アンモニウムカチオン(NH4 +)、アルカノールアンモニウムカチオン等)を例示できる。アルカノールアンモニウムカチオンとしては、下記一般式(2):
N(R1 p)H4-p + (2)
(式中、R1は、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基であり、pは1~3の整数である。)
を例示できる。またn=2の場合、M2+としては、アルカリ土類金属カチオン(カルシウムカチオン(Ca2+)、マグネシウムカチオン(Mg2+)、亜鉛カチオン(Zn2+)、バリウムカチオン(Ba2+)等)を例示できる。アルカノールアンモニウムカチオンとしては、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基を1~3個有するアンモニウムカチオン(好ましくは、モノエタノールアンモニウムカチオン、ジエタノールアンモニウムカチオン、トリエタノールアンモニウムカチオン等)が挙げられる。Mは、良好な均染性及び入手容易性の観点から、好ましくはH+又はNa+である。
【0017】
アルキルベンゼンスルホン酸塩は、上記一般式(1)中のRに相当するアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸を、上記一般式(1)中のMn+に相当するカチオン成分を与える化合物(水酸化物、アミン等)と反応させることで調製してよい。例えば、炭素数10~18のアルキルベンゼンスルホン酸を水酸化ナトリウムで中和して得られるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、炭素数10~18のアルキルベンゼンスルホン酸をジエタノールアミンで中和して得られるアルキルベンゼンスルホン酸ジエタノールアミン塩、炭素数10~18のアルキルベンゼンスルホン酸をトリエタノールアミンで中和して得られるアルキルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン塩等が好ましい。
【0018】
[追加成分]
均染剤は、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)に加えて追加成分を更に含んでよい。追加成分としては、界面活性剤(本開示のアルキルベンゼンスルホン酸(塩)ではないもの)、可溶化剤、消泡剤、無機塩、溶媒等を例示でき、当業者に公知のものを適宜選択してよい。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、及び、本開示のアルキルベンゼンスルホン酸(塩)ではないアニオン性界面活性剤、が好ましい。
【0019】
非イオン性界面活性剤としては、例えば炭素数1~22の脂肪族アルコール又はフェノール、アルキル(アルキル基の炭素数1~10)フェノール、モノ又はポリスチレン化フェノール、並びに、モノ又はポリスチレン化アルキル(アルキル基の炭素数1~10)フェノール等のアルコール類のアルキレンオキサイド(アルキレンオキサイドの炭素数2又は3)付加物が挙げられる。
【0020】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルモノエーテルの硫酸エステル塩又はリン酸エステル塩、等が挙げられる。これらのアニオン界面活性剤はアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩などの形で使用することができる。
【0021】
溶媒は、典型的には水であるが、例えばジエチレングリコール等を含んでいてもよい。
【0022】
均染剤の好適組成としては、アルキルベンゼンスルホン酸(塩):10質量%~50質量%、界面活性剤:0.5質量%~10質量%、可溶化剤:0質量%~30質量%、消泡剤:0.01質量%~5質量%を含み、残部が溶媒である組成を例示できる。
【0023】
<カチオン化セルロース繊維染色製品の製造方法>
本発明の一態様は、カチオン化セルロース繊維染色製品の製造方法であって、本開示の均染剤の存在下でカチオン化セルロース繊維を染色処理することを含む方法を提供する。
【0024】
(カチオン化セルロース繊維)
カチオン化セルロース繊維は、セルロース繊維の官能基が従来公知の方法によってカチオン化されてカチオン性基(例えば第4級アンモニウム基)が導入されたものであってよい。カチオン化されるセルロース繊維は、未変性でも変性されていてもよく、綿等の天然セルロース繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、及び、アセテート(すなわちエステル化変性されたセルロース)等の半合成セルロース繊維が挙げられる。カチオン性基は、通常、対イオン(例えば塩化物イオン)を伴う。カチオン化セルロース繊維としては、セルロース繊維が第4級アンモニウムエーテル化(例えばアンモニウムクロリドエーテル化)されている繊維を例示できる。カチオン化剤としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド等を使用できる。無水グルコース単位当たりのカチオン性基導入率は、これに限定されないが例えば0.1%~10%であってよい。
【0025】
カチオン化セルロース繊維は、他の繊維と混紡、混繊、交撚、交織、交編、交絡、融着、接着等によって複合化された状態で用いられてもよい。他の繊維としては、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維、及びこれらの混紡繊維又は複合繊維が挙げられ、カチオン化されていないセルロース繊維も使用できる。天然繊維としては麻、羊毛、綿等、再生繊維としてはレーヨン、キュプラ等、半合成繊維としてはアセテート等、合成繊維としてはポリエステル、ポリアミド、アクリル、スパンデックス等がそれぞれ挙げられる。繊維の形態に特に制限はなく、綿、スライバー、糸条、布帛(編物、織物、不織布等)等が挙げられる。ビルドアップ性が良好である(すなわち染料濃度の増大に従って染着量が良好に増大する)点で、染色対象繊維中のカチオン化セルロース繊維の比率は、好ましくは3質量%~100質量%、より好ましくは5質量%~100質量%、更に好ましくは10質量%~100質量%である。本開示の均染剤は、カチオン化セルロース繊維の染色に有用である点に加え、他の繊維の染色に対して顕著な不都合を与えないことができる。
【0026】
(染料)
染料としては、典型的にはアニオン性染料を用いる。アニオン性染料としては、反応染料、直接染料、酸性染料、含金属染料等を例示できる。反応染料としては、セルロース繊維の水酸基との反応性を有する染料を使用できる。直接染料としては、セルロース繊維と水素結合を形成し得る染料が好適である。
【0027】
反応染料の好適例は、カチオン化セルロース繊維との良好な反応性の点で、ビニルスルホン系染料、ジクロロトリアジン系染料、ジクロロキノキサリン系染料、フルオロメチルクロロピリミジン系染料、モノフルオロトリアジン系染料、トリクロロピリミジン系染料、モノクロロトリアジン系染料等である。
【0028】
染料の、カチオン化セルロース繊維100質量部に対する使用量は、好ましくは0.001質量部~15質量部、より好ましくは0.01質量部~10質量部である。
【0029】
(アルキルベンゼンスルホン酸(塩)の使用量)
アルキルベンゼンスルホン酸(塩)の使用量は、カチオン化セルロース繊維100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~20質量部である。上記使用量は、良好な均染性を得る観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、良好なビルドアップ性を得る観点から、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0030】
染色に使用する装置に特に制限はなく、従来公知の染色機を使用することができる。例えば、液流染色機、ウィンス染色機、ジッガー染色機、ビーム染色機、チーズ染色機、オーバーマイヤー染色機、高圧噴射染色機等を使用できる。
【0031】
均染剤は、染料よりも前、染料と同時、及び染料よりも後のいずれのタイミングでカチオン化セルロース繊維に接触させてもよいが、均染性向上効果を良好に得る観点から、染料よりも前にカチオン化セルロース繊維に接触させることが好ましい。例えば、カチオン化セルロース繊維には、染料を接触させる3分前~30分前に均染剤を接触させることが好ましい。均染剤の接触から染料の接触までの時間が3分以上である場合、均染性向上効果が良好である。均染剤の接触から染料の接触までの時間は、30分を超えて長くなっても均染性向上効果は顕著に変化しないことから、経済性の観点から30分以下が好ましい。典型的な態様においては、カチオン化セルロース繊維を、液体媒体(例えば、水、及び任意に界面活性剤等を含む)に接触させた後、均染剤、次いで染料に接触させる。例えば、上記液体媒体からなる浸漬浴を形成し、浸漬浴中にカチオン化セルロース繊維を浸漬した後、浸漬浴中に均染剤、次いで染料を添加することができる。
【0032】
均染処理時の浸漬浴の温度は、均染剤の使用に際して従来採用されているような温度範囲であってよいが、通常10℃~60℃、好ましくは15℃~55℃、より好ましくは20℃~50℃、であってよい。上記範囲であれば、特別な冷却等を必要とせず経済性に優れるとともに、均染効果も良好である。
【0033】
均染処理時及び染色処理時の浴比(すなわち、染色対象繊維:浸漬浴の質量比)は、好ましくは、1:3~1:50、より好ましくは1:4~1:20であってよい。
【0034】
染色処理条件としては、従来公知の条件を適用してよいが、例えば、浸漬浴温度を40℃~135℃の加温条件、染色処理時間を30分間~90分間とする条件が挙げられる。
【0035】
染色処理の後、ソーピング、洗浄等の従来公知の工程を経て、カチオン化セルロース繊維染色製品を得ることができる。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
<カチオン化セルロース繊維の製造>
綿100%ツイル生地(セルロース繊維として)を下記条件でカチオン化して、カチオン化セルロース繊維としてのカチオン化生地を得た。
(カチオン化処理条件)
使用機器:
ミニカラー染色機((株)テクサム技研製)
カチオン化液:
水に、GTA-80(四日市合成(株)製、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド80%)を60g/L(水1Lに対して60g)、NaOHを9g/L(水1Lに対して9g)となるようにそれぞれ溶解させて、カチオン化液を得た。
処理条件:
上記染色機内で、浴比1:10(セルロース繊維:カチオン化液、質量基準)として、80℃にて60分カチオン化処理を行った後、生地を取り出し、酢酸による中和、水洗、脱水、乾燥を行って、カチオン化生地を得た。
【0038】
<カチオン化セルロース繊維染色製品の製造>
上記で得たカチオン化生地を下記条件で染色して、カチオン化セルロース繊維染色製品を得た。
【0039】
[実施例1~5、比較例1~11]
染色処理にはカラーペット染色機(日本染色機械(株)製)を用いた。染色機付属のホルダーにカチオン化生地を巻き付け、上下を輪ゴムで止めてカチオン化生地をホルダーに固定した。染色機内にカチオン化生地をセットし、水(浸漬浴として)を導入して、浸漬浴を40℃に調温した。40℃にて、浸漬浴に均染剤を添加し、次いで均染剤添加から10分後に染料を添加して5分間保持した。次いで、浸漬浴温度を40℃から2℃/分で昇温し、60℃に到達した時点で染色助剤を添加し、60℃で60分間浸漬浴を保持して染色を進行させた後、生地を取り出した(染色終了)。1g/L酢酸水溶液で中和した後に流水中で水洗し、脱水、及び乾燥(60℃×30分)を行い、カチオン化セルロース繊維染色製品を得た。
浸漬浴に用いた上記成分の詳細は以下のとおりである。
【0040】
(1)均染剤
表1に示す化合物を、表2及び3に示す量で用いた。
【0041】
【表1】
【0042】
(2)染料
C.I.Reactive Red 21(Remazol Brilliant Red BB 150%、ダイスター社製)を、カチオン化生地100質量部に対して、0.6質量部(実施例1~3、比較例1~9について)又は1.8質量部(実施例4,5、比較例10、11について)となる量で用いた。
【0043】
(3)染色助剤
ソーダ灰を、10g/L(浸漬浴中の水1Lに対して10g)となる量で用いた。
【0044】
[実施例6~7、比較例12~14]
均染剤として、表1及び4に示す種類及び量の化合物を用い、染料として、C.I.Reactive Black 5(Sumifix Black B 150%、住化ケムテック製))を、カチオン化生地100質量部に対して0.5質量部の量で使用し、染色助剤の添加時点を、浸漬浴が50℃に到達した時点とし、その後浸漬浴を60分間保持する温度を50℃とした他は実施例1と同様にして、カチオン化セルロース繊維染色製品を得た。
【0045】
<均染性評価>
上記の実施例及び比較例で得られたカチオン化セルロース繊維染色製品の染めムラの程度を、目視にて、5級(ムラなし)から1級(ムラが非常に多い)の下記5段階で評価した。
5級(ムラなし)
4級(ムラを少し認める)
3級(ムラがやや多い)
2級(ムラが多い)
1級(ムラが非常に多い)
結果を表2~4に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
表2~4に示す結果から、アルキルベンゼンスルホン酸塩である化合物1又は2は、比較の化合物3~9と比べて大幅に良好な均染性を与えることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示の均染剤は、特にカチオン化セルロース繊維をアニオン性染料で染色する際に良好な均染性を付与し得ることから、カチオン化セルロース繊維染色製品の製造において有用である。