(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】建設機械およびシリンダ部品交換時期予測システム
(51)【国際特許分類】
F15B 15/28 20060101AFI20230626BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20230626BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20230626BHJP
F15B 20/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
F15B15/28 D
E02F9/20 M
E02F9/26 B
F15B20/00 Z
(21)【出願番号】P 2019177448
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】山下 亮平
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/172277(WO,A1)
【文献】特開2017-032029(JP,A)
【文献】特開2005-330935(JP,A)
【文献】特開2007-327332(JP,A)
【文献】特開平11-036381(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109357960(CN,A)
【文献】中国実用新案第207377909(CN,U)
【文献】特開2015-227582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00-15/28
E02F 9/20
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール部品を有する油圧シリンダを備えた建設機械において、
前記油圧シリンダの変位を検出する変位センサと、
報知装置と、
前記変位センサにより検出された変位に基づいて変位の変化量に関する値を演算
し、前記変位の変化量に関する値を
積算することで前記油圧シリンダの伸縮による前記シール部品の交換時点からの累積移動量を演算し、前記累積移動量が閾値以上となった場合に報知指令を前記報知装置へ出力する制御装置とを備えている
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記制御装置は、前記変位の変化量に関する値に対応した第1の補正係数、前記油圧シリンダを含む油圧システムを流れる作動油の温度に対応した第2の補正係数、及び、前記油圧シリンダの圧力に対応した第3の補正係数のうち、少なくとも1つの補正係数を用いて前記変位の変化量に関する値を補正した上で積算する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
シール部品を有する油圧シリンダを備えた建設機械において、
前記油圧シリンダの変位を検出する変位センサと、
報知装置と、
前記変位センサにより検出された変位に基づいて変位の変化量に関する値を演算すると共に、前記変位の変化量に関する値を積算した積算値が閾値以上となった場合に報知指令を前記報知装置へ出力する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記変位の変化量に関する値に対応した第1の補正係数、
前記油圧シリンダを含む油圧システムを流れる作動油の温度に対応した第2の補正係数、
前記油圧シリンダの圧力に対応した第3の補正係数のうちの最も大きい補正係数を用いて、前記変位の変化量に関する値を補正
した上で積算する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
シール部品を有する油圧シリンダを備えた建設機械において、
前記油圧シリンダの変位を検出する変位センサと、
報知装置と、
前記変位センサにより検出された変位に基づいて変位の変化量に関する値を演算すると共に、前記変位の変化量に関する値を積算した積算値が閾値以上となった場合に報知指令を前記報知装置へ出力する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記変位の変化量に関する値に対応した第1の補正係数と前記油圧シリンダを含む油圧システムを流れる作動油の温度に対応した第2の補正係数と前記油圧シリンダの圧力に対応した第3の補正係数との平均値を用いて前記変位の変化量に関する値を補正した上で積算する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項1に記載の建設機械において、
前記制御装置は、前記閾値に対する前記
累積移動量の割合である余裕度を示す交換時期情報を演算して、前記報知装置へ出力する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項6】
建設機械の油圧シリンダの変位を検出する変位センサと、
前記変位センサにより検出された変位を通信ネットワークを介して受信し、受信した変位に基づいて前記油圧シリンダに備えられたシール部品の交換時期を演算し、演算された交換時期を報知装置へ出力するサーバと、を備え、
前記サーバは、前記変位センサにより検出された変位に基づいて変位の変化量に関する値を演算
し、前記変位の変化量に関する値を
積算することで前記油圧シリンダの伸縮による前記シール部品の交換時点からの累積移動量を演算し、前記累積移動量が閾値以上となった場合に、前記シール部品の交換時期に関する情報を前記報知装置へ出力する
ことを特徴とするシリンダ部品交換時期予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械およびシリンダ部品交換時期予測システムに係り、更に詳しくは、シール部品を有する油圧シリンダを備えた建設機械および建設機械で用いられる油圧シリンダのシール部品の交換時期を予測するシリンダ部品交換時期予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルやクレーン等の建設機械は、一般的に、油圧ポンプから吐出される圧油により駆動される油圧シリンダを備えている。油圧シリンダは、一般的に、筒形状の両端部が閉塞するシリンダ本体と、シリンダ本体内を2つの圧力室に仕切るピストンと、一方側端部がピストンに取り付けられ他方側がシリンダ本体から突出しているピストンロッドとを備えている。油圧シリンダは、圧力室に対する圧油の給排によってピストンがシリンダ本体内で摺動することで、伸縮動作を行うものである。
【0003】
ピストンの外周面には環状溝が形成されており、当該環状溝にはピストンシールが介装されている。ピストンシールは、油圧シリンダの伸縮動作の際に、シリンダ本体の内周面に当接しながら移動する(摺動する)。したがって、ピストンシールは、摺動距離の増加に伴い摩耗してしまう。また、ピストンシールは、圧油の作用によって環状溝の端面に押し付けられて変形したり、圧油の熱によって材料の劣化が進行したりして、その機能が徐々に低下してしまう。そのため、ピストンシールを定期的に交換する必要がある。しかし、ピストンシールが交換前に損傷してしまい油圧シリンダの故障に至ることがある。この場合、建設機械の休止時間の増加(稼働率の低下)や修理コストの負担を招いてしまう。
【0004】
このような問題の対応策として、例えば、特許文献1に記載の技術が提案されている。特許文献1に記載のアクチュエータ予測システムは、油圧シリンダの2つのチャンバ(圧力室)内の圧力を測定して圧力対時間曲線を生成し、生成した圧力対時間曲線を、欠陥または損傷があることが知られている油圧シリンダから得られた既知の圧力対時間曲線と比較することで、ピストンシール等の故障を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術は、油圧シリンダの動作中に測定したデータによって生成した圧力対時間曲線に基づき異常を検知するものであるので、圧力対時間曲線に何らかの異常が現れたときには、既にピストンシールに欠陥や損傷が生じていることが想定される。したがって、油圧シリンダの不具合を未然に防止する手段としては、効果が不十分であると考えられる。
【0007】
本発明は、上記の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、油圧シリンダのシール部品を適切な時期に交換することを可能にして油圧シリンダの不具合を未然に防止することができる建設機械およびシリンダ部品交換時期予測システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、シール部品を有する油圧シリンダを備えた建設機械において、前記油圧シリンダの変位を検出する変位センサと、報知装置と、前記変位センサにより検出された変位に基づいて変位の変化量に関する値を演算し、前記変位の変化量に関する値を積算することで前記油圧シリンダの伸縮による前記シール部品の交換時点からの累積移動量を演算し、前記累積移動量が閾値以上となった場合に報知指令を前記報知装置へ出力する制御装置とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、変位センサにより検出された変位に基づいて演算した変位の変化量に関する値を積算した積算値を基に、油圧シリンダのシール部品の劣化状態を正確に予測することができる。したがって、正確に予測したシール部品の状態を元にシール部品の交換時期を建設機械の関係者に対して報知することで、油圧シリンダのシール部品を適切な時期に交換することが可能となり、油圧シリンダの不具合を未然に防止することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の建設機械の第1の実施の形態を適用した油圧ショベルを示す図である。
【
図2】本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する油圧シリンダを示す縦断面図である。
【
図3】
図2の符号Sで示す油圧シリンダの一部分を拡大した状態で示す断面図である。
【
図4】本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する制御装置のハード構成及び機能構成を示すブロック図である。
【
図5】
図4に示す本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する制御装置による部品交換時期に関する演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の建設機械の第2の実施の形態を適用した油圧ショベルを示す図である。
【
図7】本発明の建設機械の第2の実施の形態の一部を構成する制御装置のハード構成及び機能構成を示すブロック図である。
【
図8】
図7に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態の一部を構成する制御装置による部品交換時期に関する演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の建設機械の第2の実施の形態の変形例における制御装置のハード構成及び機能構成を示すブロック図である。
【
図10】
図9に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態の変形例の一部を構成する制御装置による部品交換時期に関する演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】本発明のシリンダ部品交換時期予測システムの一実施の形態の構成を示す図である。
【
図12】本発明のシリンダ部品交換時期予測システムの一実施の形態の一部を構成するサーバのハード構成及び機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の建設機械およびシリンダ部品交換時期予測システムの実施の形態について図面を用いて説明する。本実施の形態においては、建設機械の一例として油圧ショベルを例に挙げて説明する。
【0012】
まず、本発明の建設機械の第1の実施の形態を適用した油圧ショベルの構成について
図1~
図3を用いて説明する。
図1は本発明の建設機械の第1の実施の形態を適用した油圧ショベルを示す図である。
図2は本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する油圧シリンダを示す縦断面図である。
図3は
図2の符号Sで示す油圧シリンダの一部分を拡大した状態で示す断面図である。
【0013】
図1において、建設機械としての油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3の前部に俯仰動可能に設けられたフロント作業機4とを備えている。
【0014】
下部走行体2は、クローラ式の走行装置11を左右に備えている。左右の走行装置11はそれぞれ走行油圧モータ12により駆動する。
【0015】
上部旋回体3は、旋回油圧モータ(図示せず)によって、下部走行体2に対して旋回駆動される。上部旋回体3は、支持構造体である旋回フレーム21と、旋回フレーム21上の前部左側に設置された運転室22と、旋回フレーム21上の後部側に配置された機械室23と、旋回フレーム21の後端部に取り付けられたカウンタウェイト24とを含んで構成されている。運転室22内には、オペレータがフロント作業機4等の機体を操作するための操作装置(図示せず)や後述のモニタ装置91などが配置されている。機械室23には、フロント作業機4等の機体を駆動するための油圧システムを構成する油圧ポンプや制御弁、油圧ポンプを駆動する原動機(共に図示せず)などが収容されている。カウンタウェイト24は、フロント作業機4との重量バランスをとるためのものである。
【0016】
フロント作業機4は、掘削作業等を行うための多関節型の作業装置であり、例えば、ブーム31、アーム32、アタッチメントとしてのバケット33を備えている。ブーム31は、その基端部が上部旋回体3の旋回フレーム21の前端部に第1回動軸(図示せず)を介して回動可能に連結されている。ブーム31の先端部には、アーム32の基端部が第2回動軸35を介して回動可能に連結されている。アーム32の先端部には、バケット33の基端部が第3回動軸36を介して回動可能に連結されている。ブーム31は、上部旋回体3とブーム31に架け渡されたブームシリンダ37によって駆動される。アーム32は、ブーム31とアーム32に架け渡されたアームシリンダ38によって駆動される。バケット33は、アーム32とバケット33にリンク機構40を介して架け渡されたバケットシリンダ39によって駆動される。ブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39は、圧油の供給によって伸縮可能な油圧シリンダである。これらの油圧シリンダ37、38、39には、油圧ポンプからの圧油が供給される。各油圧シリンダ37、38、39の駆動は、操作装置が出力する油圧信号や電気信号等の操作信号によって制御される。
【0017】
ブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39は、互いに同様な基本構造を備える油圧シリンダである。そこで、ブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39の構成を同じ図(
図2及び
図3)を用いて説明する。
【0018】
図2において、油圧シリンダ(ブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39)は、シリンダ本体41と、シリンダ本体41の内部を移動可能なピストンロッド42と、ピストンロッド42の一方側端部(
図2中、右側端部)に設けられ、シリンダ本体41内をピストンロッド42が存在しないボトム側(
図2中、右側)の第1圧力室(以下、ボトム室という)C1とピストンロッド42側(
図2中、左側)の第2圧力室(以下、ロッド室という)C2との2室に仕切るピストン43とを備えている。
【0019】
シリンダ本体41は、例えば、軸方向一端側(
図2中、右端側)が閉塞し他端側(
図2中、左端側)が開口する筒状のシリンダチューブ45と、シリンダチューブ45の開口部を閉塞するように装着されたカバー46とで構成されている。シリンダチューブ45の閉塞側端部には、ボトム室C1に対する作動油の給排を行うための第1給排ポート45aが設けられていると共に、リング状の第1取付部45bが設けられている。カバー46には、ロッド室C2に対する作動油の給排を行うための第2給排ポート46aが設けられている。ピストンロッド42は、カバー46を貫通してシリンダ本体41の内外に延伸しており、シリンダ本体41の外側に位置する先端部にリング状の第2取付部42aを有している。ピストンロッド42とカバー46(シリンダ本体41)との隙間を封止するロッドシール47がカバー46側に装着されている。ロッドシール47は、ピストンロッド42の外周面に対して相対的に摺動するように構成されている。
【0020】
ピストン43は、シリンダチューブ45の内周面に対して摺動するように構成されている。ピストン43の外周面には、
図3に示すように、ピストンシール50を装着するための環状溝49が設けられている。環状溝49は、例えば、ピストン43の外周面における軸方向(移動可能な方向)の両端部(
図3中、左右の両端部)に設けられた第1の環状溝49aと、第1の環状溝49aよりも軸方向内側の位置に設けられた一対の第2の環状溝49bと、一対の第2の環状溝49bの間に設けられた1つの第3の環状溝49cとで構成されている。各第1の環状溝49aには、コンタミシールリング51が配置されている。コンタミシールリング51は、作動油中に含まれる不純物や作動油に混入した異物(コンタミネーション)がシリンダチューブ45の内周面とピストン43の外周面との隙間に侵入することを防ぐものである。各第2の環状溝49bには、軸受リング52が配置されている。軸受リング52は、その外周面がシリンダチューブ45の内周面に接触し、ピストン43をシリンダチューブ45に対して摺動可能に支持する機能を有している。第3の環状溝49cには、シールリング53が配置されている。シールリング53は、ボトム室C1とロッド室C2間の作動油の漏洩を抑制するものである。
【0021】
各油圧シリンダ37、38、39では、
図2に示すように、圧油が第1給排ポート45aを介してボトム室C1に供給されると共にロッド室C2側の第2給排ポート46aが作動油タンク(図示せず)に接続されると、ピストン43がカバー46側(
図2中、左側)へシリンダチューブ45内を摺動してピストンロッド42をシリンダ本体41から突出させるように移動することで伸長する。また、圧油が第2給排ポート46aを介してロッド室C2に供給されると共にボトム室C1側の第1給排ポート45aが作動油タンクに接続されると、ピストン43がシリンダチューブ45の閉塞端部側(
図2中、右側)へシリンダチューブ45内を摺動してピストンロッド42をシリンダ本体41内に引き込むように移動することで縮小する。
【0022】
図3に示すピストンシール50は、油圧シリンダ37、38、39の伸縮動作の際に、シリンダチューブ45の内周面に接触した状態で移動する(摺動が生じる)。したがって、ピストンシール50は、摺動距離の増加に伴って摩耗してしまう。また、ピストンシール50は、圧油の作用によって環状溝49の側壁面に押し付けられて変形したり、高温となった圧油の熱によって材料の劣化が進行したりして、その機能が徐々に低下してしまう。そのため、ピストンシール50を定期的に交換する必要がある。ピストンシール50が交換前に損傷すると、油圧シリンダ37、38、39の故障に至ることがある。この場合、油圧シリンダ37、38、39の修理費用の負担や油圧シリンダ37、38、39を備えた油圧ショベル1の休止を招いてしまう。
【0023】
ロッドシール47でも、油圧シリンダ37、38、39の伸縮動作の際に、ピストンロッド42の外周面に対して相対的に摺動した状態となる。したがって、ロッドシール47も、ピストンシール50と同様に、ピストンロッド42との摺動距離の増加に伴って摩耗してしまう。また、圧油の作用による変形や高温の圧油による材料の劣化等により機能が徐々に低下してしまう。そのため、ロッドシール47も定期的に交換する必要がある。
【0024】
そこで、本実施の形態に係る油圧ショベル1は、ブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39などの各油圧シリンダのシール部品の交換時期を予測するシリンダ部品交換時期予測システムを備えている。シリンダ部品交換時期予測システムは、
図1に示すように、ブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39の変位x(予め定められた位置を基準とした相対位置)をそれぞれ検出する第1の変位センサ61a、第2の変位センサ61b、第3の変位センサ61cと、各変位センサ61a、61b、61c(以下において3つの変位センサをまとめて61と表記することがある)が検出した変位xに基づいて、各油圧シリンダ37、38、39のシール部品の交換時期に関する各種の演算処理を行う制御装置70と、運転室22内に配置され、制御装置70の演算処理の結果を報知する報知装置として機能するモニタ装置91とを備えている。
【0025】
第1~第3の変位センサ61a、61b、61cは、例えば、各油圧シリンダ37、38、39の変位を直接的に検出するリニアポテンショメータであり、ブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39にそれぞれ取り付けられている。第1~第3の変位センサ61a、61b、61cはそれぞれ、制御装置70と電気的に接続されており、油圧シリンダ37、38、39の変位xの検出信号を制御装置70へ出力する。
【0026】
制御装置70は、油圧ショベル1内に配置されている(
図1では、便宜上、油圧ショベル1の外側に図示されている)。制御装置70は、演算処理の結果を、モニタ装置91へ出力すると共にサーバ92へ送信する。制御装置70の構成及び機能の詳細は後述する。
【0027】
モニタ装置91は、例えば、制御装置70と電気的に接続されており、制御装置70からの後述の報知指令等に応じて各種の情報を表示画面に表示する。
【0028】
制御装置70は、油圧ショベル1外の管理センタ等に設置されたサーバ92と通信ネットワーク100を介して接続可能に構成されている。サーバ92は、例えば、油圧ショベル1を含む複数の建設機械に関する各種情報を格納するものであり、制御装置70からの後述の報知指令や交換時期情報等を受信する。サーバ92は、建設機械メーカのサービス員や建設機械のオーナ、施工管理者等の建設機械の関係者が使用するPC等の情報処理装置93および携帯電話等の可搬性の端末装置94に通信ネットワーク100を介して接続可能である。本実施の形態における情報処理装置93および可搬性の端末装置94は、サーバ92を介して制御装置70の演算処理の結果を受信して油圧ショベル1の関係者に対して報知する報知装置として機能するものである。
【0029】
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態における制御装置のハード構成及び機能構成について
図4を用いて説明する。
図4は本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する制御装置のハード構成及び機能構成を示すブロック図である。
【0030】
図4において、制御装置70は、ハード構成として、例えば、RAMやROM等からなる記憶装置71と、CPU等からなる処理装置72と、サーバ92等の外部と通信ネットワーク100を介した通信を可能とする通信装置73とを備えている。記憶装置71には、各油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換時期に関する各種の演算処理に必要なプラグラムや各種情報が予め記憶されている。処理装置72は、記憶装置71から所定のプログラムや各種情報を適宜読み込み、当該プログラムに従って処理を実行することで以下の各種機能を実現する。
【0031】
制御装置70は、例えば、記憶装置71の機能としての記憶部81と、処理装置72により実行される機能としての変位変化量演算部82、累積移動量演算部83、交換時期判定部84、交換時期情報演算部85を備えている。なお、制御装置70は、ブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39のそれぞれのシール部品の交換時期に関する演算処理を別個に行うものである。しかし、それらの演算処理はすべて同様なものなので、
図4では、1つの油圧シリンダに対する演算処理のみを説明する。
【0032】
記憶部81には、閾値Xthが予め記憶されている。閾値Xthは、交換時期判定部84の判定のために用いられるものであり、後述の累積移動量Xの比較対象である。
【0033】
変位変化量演算部82は、変位センサ61(61a、61b、61c)が逐次検出した変位xに基づいて、油圧シリンダ37、38、39の変位の変化量の絶対値Δxaを逐次演算するものである。具体的には、変位変化量演算部82は、一連の演算処理(後述の
図5参照)の演算ループ毎に、変位センサ61が検出した変位xの検出信号を取り込み、現在の演算ループ(カウントnの演算ループ)で取り込んだ変位をx
nとし、1回前の演算ループ(カウントn-1の演算ループ)で取り込んだ変位をx
n-1としたときに、変位x
nから変位x
n-1を減算して得られた値の絶対値をとることで、変位の変化量の絶対値Δxaを演算する。すなわち、変位変化量演算部82は、次の式(1)に基づき、変位の変化量の絶対値Δxaを演算する。
Δxa=|x
n-x
n-1| … (1)
【0034】
累積移動量演算部83は、変位変化量演算部82による演算結果の変位の変化量の絶対値Δxaをシール部品50、47の交換時点から積算することで、シール部品50、47の交換時点から現演算処理時までの油圧シリンダ37、38、39の伸縮による累積移動量(すなわち、ピストン43やピストンロッド42の累積移動量)を演算するものである。ピストン43やピストンロッド42の累積移動量は、ピストンシール50やロッドシール47のシール部品が相対的に摺動した距離の総和に相当する。シール部品の摺動距離の大きさに応じてシール部品の摩耗状態(劣化状態)が進行するので、シール部品の摺動距離(累積移動量)はシール部品の交換時期の指標となる。
【0035】
具体的には、累積移動量演算部83は、演算ループ毎に、変位変化量演算部82の演算結果である変位の変化量の絶対値Δxaを前回の演算ループで得た累積移動量Xに対して加算することで、現在の演算ループまでの累積移動量Xを演算する。すなわち、累積移動量演算部83は、次の式(2)に基づき累積移動量Xを演算する。
X=X+Δxa … (2)
【0036】
また、累積移動量演算部83は、一連の演算処理の終了時に、最終的な演算結果の累積移動量Xを初期値Xiniとして記憶部81に記憶させる。さらに、累積移動量演算部83は、一連の演算処理の開始時に、記憶部81に記憶させた初期値Xiniを読み込んで累積移動量Xの初期値として設定する。
【0037】
交換時期判定部84は、累積移動量演算部83の演算結果の累積移動量Xに基づき、ピストンシール50又はロッドシール47のシール部品が交換時期に到達したか否かを判定するするものである。具体的には、交換時期判定部84は、累積移動量演算部83の演算結果である累積移動量Xを記憶部81に予め記憶されている閾値Xthと比較することで判定する。すなわち、交換時期判定部84は、次の式(3)に基づき、油圧シリンダ37、38、39のシール部品の交換時期の判定を行う。閾値Xthは、各油圧シリンダ37、38、39のピストンシール50やロッドシール47の摺動摩耗に対する耐久性に基づき設定されており、ピストンシール50やロッドシール47に欠陥や損傷が発生せずに正常な機能を維持することが可能な移動量である。
X≧Xth … (3)
【0038】
交換時期判定部84は、累積移動量Xが閾値Xth以上であると判定した場合に、油圧シリンダ37、38、39のシール部品が交換時期であることを報知する報知指令を、モニタ装置91へ出力すると共に通信装置73を介してサーバ92へ出力する。
【0039】
交換時期情報演算部85は、各油圧シリンダ37、38、39のシール部品の交換時期までの余裕度を示す交換時期情報Iを演算するものである。具体的には、交換時期情報演算部85は、記憶部81に予め記憶されている閾値Xthに対する累積移動量演算部83の演算結果の累積移動量Xの割合である交換時期情報Iを演算する。すなわち、交換時期判定部84は、次の式(4)に基づき交換時期情報Iを演算する。
I=X/Xth … (4)
【0040】
さらに、交換時期情報演算部85は、演算結果の交換時期情報Iを、モニタ装置91へ出力すると共に通信装置73を介してサーバ92へ出力する。
【0041】
次に、本発明の建設機械の第1の実施の形態における制御装置が実行する演算処理手順の一例について
図4および
図5を用いて説明する。
図5は
図4に示す本発明の建設機械の第1の実施の形態の一部を構成する制御装置による部品交換時期に関する演算処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0042】
図5に示す制御装置70の一連の演算処理は、基本的に、油圧ショベル1のエンジンの始動から停止までの油圧ショベル1の1稼働サイクル毎に実行されるものである(ステップS10~S100)。油圧ショベル1の稼働サイクルが多数回行われると、それに応じて、
図5に示す一連の演算処理が多数繰り返される。この場合、油圧シリンダ37、38、39の伸縮動作が繰り返し行われた状態となるので、上述の累積移動量演算部83が演算する油圧シリンダ37、38、39の累積移動量X(ピストンシール50やロッドシール47のシール部品の摺動距離の総和に相当するもの)が閾値X
th以上に到達し(ステップS70においてYES)、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47が交換時期であることを報知する報知指令が出力される(ステップS110)。
【0043】
具体的には、
図4に示す制御装置70は、油圧ショベル1のエンジン始動により、各油圧シリンダ37、38、39のシール部品の交換時期を予測する一連の演算処理の実行を開始する(
図5に示すスタート)。まず、制御装置70は、一連の演算処理で実行する演算ループのカウントを初期化すると共に、当該一連の演算処理の開始時の累積移動量Xの初期値として記憶装置71に記憶されている初期値X
iniを設定する。すなわち、n=1とすると共に、X=X
iniとする(
図5に示すステップS10)。初期値X
iniは、油圧ショベル1の前回の稼働サイクルにおいて制御装置70が実行した一連の演算処理によって得た累積移動量Xの最終的な演算結果である。
【0044】
次に、制御装置70の変位変化量演算部82が、変位センサ61(61a、61b、61c)が検出した各油圧シリンダ37、38、39の変位xを取り込む(
図5に示すステップS20)。さらに、変位変化量演算部82は、現在のカウントnの演算ループで取り込んだ変位x
nと前回のカウントn-1の演算ループで取り込んだ変位x
n-1との差分の絶対値を算出する上述の式(1)によって、変位の変化量の絶対値Δxaを演算する(
図5に示すステップS30)。この変位の変化量の絶対値Δxaは、カウントn-1の演算ループからカウントnの演算ループまでの時間(演算ループが一回実行される期間)内で油圧シリンダ37、38、39が移動した微小距離(微小移動量)に相当するものである。
【0045】
次いで、制御装置70の累積移動量演算部83は、変位変化量演算部82の演算結果である変位の変化量の絶対値Δxaを、前回の演算ループで得た累積移動量X(カウントn-1の演算ループでの累積移動量演算部83の演算結果)に加算する上述の式(2)によって、カウントnの現在の演算ループ時の累積移動量Xを演算する(
図5に示すステップS40)。これにより、1回の演算ループの期間(例えば、0.1秒)内で移動した油圧シリンダ37、38、39の微小移動量が累積移動量Xに加算される。
【0046】
それから、制御装置70の交換時期情報演算部85が、累積移動量演算部83の演算結果の累積移動量Xを記憶部81に記憶されている閾値X
thで除算する上述の式(4)によって、交換時期情報Iを演算する(
図5に示すステップS50)。さらに、演算結果の交換時期情報Iをモニタ装置91へ出力すると共に通信装置73を介してサーバ92へ出力する(
図5に示すステップS60)。
【0047】
これにより、モニタ装置91は、カウントnの現演算ループ時点における交換時期情報Iをモニタ装置91の表示画面に表示することが可能となる。また、サーバ92は、制御装置70からの交換時期情報Iを、必要に応じて、建設機械の関係者が使用する情報処理装置93および可搬性の端末装置94に通信ネットワーク100を介して送信する(
図1参照)。
【0048】
その後、制御装置70の交換時期判定部84が、累積移動量演算部83の演算結果の累積移動量Xを記憶部81に記憶されている閾値X
thと比較する上述の式(3)によって、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47が交換時期に到達したか否かを判定する(
図5に示すステップS70)。ステップS70においてNOと判定した場合、制御装置70は、ステップS80に進み、その後、ステップS80においてYES又はステップS70においてYESと判定するまで、ステップS90、S20~S80の処理ステップ(演算ループ)を繰り返す。一方、ステップS80においてYESと判定した場合には、制御装置70は、ステップS100に進んだ後に、当該一連の演算処理を終了する。また、ステップS70においてYESと判定した場合には、制御装置70は、ステップS110に進んだ後に、当該一連の演算処理を終了する。
【0049】
具体的には、ステップS70において、累積移動量Xを閾値X
thと比較して累積移動量Xが閾値X
thよりも小さい(NO)と交換時期判定部84が判定した場合には、制御装置70は、エンジン停止が行われたか否かを判定する(
図5に示すステップS80)。エンジン停止が行われていない(NO)と判定した場合、制御装置70は、演算ループのカウントnを1つ増分してn=n+1とし(
図5に示すステップS90)、次の演算ループ(カウントn+1の演算ループ)を開始する。
【0050】
制御装置70は、変位センサ61が検出した油圧シリンダの変位xを再び取り込み(
図5に示すステップS20)、カウントn+1の現演算ループで取り込んだ変位からカウントnの前回の演算ループで取り込んだ変位の差分の絶対値である変位の変化量の絶対値Δxaを演算し(
図5に示すステップS30)、カウントn+1の現演算ループからカウントnの前回の演算ループまでの期間内の変位の変化量の絶対値Δxaを加算することで累積移動量Xを演算する(
図5に示すステップS40)。この累積移動量Xは、カウント1(最初)の演算ループからカウントn+1の現在の演算ループまで逐次演算された変位の変化量の絶対値Δxaを積算したものに初期値X
iniを加えた値となる。したがって、演算結果の累積移動量Xは、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47を交換してから現演算処理時までの油圧シリンダ37、38、39の累積移動量に相当する。
【0051】
もし、ステップS90、S20~S80の演算ループが繰り返し行われた後、ステップS80においてエンジン停止が行われた(YES)と判定した場合、累積移動量演算部83が演算した最終的な演算結果の累積移動量Xを初期値X
iniとして記憶装置71に記憶させ(
図5に示すステップS100)、当該一連の演算処理を終了する。記憶装置71に記憶された初期値X
iniは、今回の一連の演算処理の開始時の記憶装置71から読み込まれた初期値X
iniに対して当該一連の演算処理の開始から終了までの油圧シリンダ37、38、39の移動量を加算したものとなる。この初期値X
iniを次回実行する一連の演算処理の累積移動量Xの初期値として用いることで、シール部品50、47の交換時点からの油圧シリンダ37、38、39の累積移動量を算出することができる。この累積移動量Xは、交換後のシール部品50、47の摺動距離の総和に相当するので、シール部品50、47の劣化状態を正確に反映した指標となる。
【0052】
油圧ショベル1のエンジンの始動から停止までの稼働サイクルが多数回行われると、上述した
図5に示すステップS10~S100の処理ステップが多数繰り返し実行される。この場合、油圧シリンダの伸縮動作が繰り返し行われた状態となるので、
図5に示す一連の演算処理が繰り返されたある時点において、制御装置70が演算した累積移動量Xが閾値X
th以上に到達する。
【0053】
この場合、ステップS70において、交換時期判定部84が、累積移動量Xを閾値X
thと比較して累積移動量Xが閾値X
th以上である(YES)と判定し、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47が交換時期であることを報知する報知指令を、モニタ装置91へ出力すると共に通信装置73を介してサーバ92へ出力する(
図5に示すステップS110)。
【0054】
モニタ装置91は、制御装置70の報知指令に応じて、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換を促す表示(例えば、文字やアイコン)を表示画面に表示する。これにより、油圧ショベル1のオペレータは、油圧シリンダ37、38、39に不具合が発生する前にシール部品50、47の適切な交換時期を知ることができる。
【0055】
また、サーバ92は、建設機械の関係者が使用する情報処理装置93および可搬性の端末装置94に対して、必要に応じて通信ネットワーク100を介して、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47が交換時期であることを報知する報知指令を送信する。したがって、油圧シリンダ37、38、39に不具合が発生する前に、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47が交換時期であることを油圧ショベル1の関係者に対して報知することができる。
【0056】
なお、
図5に示す処理ステップのうち、ステップS50~S60とステップ70との順序を入れ替えたり並列にしたりすることが可能である。
【0057】
上述したように、第1の実施の形態では、シール部品50、47を有する油圧シリンダ37、38、39を備えた油圧ショベル(建設機械)1において、油圧シリンダ37、38、39の変位xを検出する変位センサ61(61a、61b、61c)と、モニタ装置(報知装置)91と、変位センサ61により検出された変位xに基づいて変位の変化量に関する値Δxaを演算すると共に、演算された変位の変化量に関する値Δxaを積算することで得られた油圧シリンダ37、38、39の累積移動量X(積算値)が閾値Xth以上となった場合に報知指令をモニタ装置(報知装置)91へ出力する制御装置70とを備えている。
【0058】
このような構成によれば、変位センサ61により検出された変位xに基づいて演算した変位の変化量に関する値Δxaを積算することで得られる油圧シリンダ37、38、39の累積移動量X(積算値)を基に、シール部品50、47の劣化状態の正確な予測が可能である。したがって、正確に予測したシール部品50、47の状態を元にシール部品50、47の交換時期を油圧ショベル(建設機械)1の関係者に対して報知することで、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47を適切な時期に交換することが可能となり、油圧シリンダ37、38、39の不具合を未然に防止することができる。
【0059】
また、上述したように、第1の実施の形態では、油圧ショベル(建設機械)1の油圧シリンダ37、38、39が有するシール部品50、47の交換時期を予測するシリンダ部品交換時期予測システムにおいて、油圧シリンダ37、38、39の変位xを検出する変位センサ61(61a、61b、61c)と、変位センサ61により検出された変位xに基づいて変位の変化量に関する値Δxaを演算し、演算された変位の変化量に関する値Δxaをシール部品50、47の交換時点から積算することで油圧シリンダ37、38、39の伸縮による累積移動量Xを演算し、演算結果の累積移動量Xを閾値Xthと比較し、演算結果の累積移動量Xが前記閾値Xth以上であると判定した場合に報知指令を送信する制御装置70と、制御装置70の報知指令を通信ネットワーク100を介して受信し、受信した報知指令を、油圧ショベル(建設機械)1の関係者が使用するものであって報知指令に応じてシール部品50、47が交換時期であることを報知する報知装置としての情報処理装置93や可搬性の端末装置94に対して報知指令を送信するサーバ92とを備えている。
【0060】
このような構成によれば、変位センサ61により検出された変位xに基づいて演算した変位の変化量に関する値Δxaをシール部品50、47の交換時点から積算することで油圧シリンダ37、38、39の累積移動量Xを算出しているので、シール部品50、47の劣化状態の正確な予測が可能である。したがって、正確に予測したシール部品50、47の状態を元にシール部品50、47の交換時期を油圧ショベル(建設機械)1の関係者に対して報知することで、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47を適切な時期に交換することが可能となり、油圧シリンダ37、38、39の不具合を未然に防止することができる。
【0061】
また、本実施の形態においては、制御装置70が閾値Xthに対する演算結果の累積移動量X(積算値)の割合である余裕度を示す交換時期情報Iを演算してモニタ装置(報知装置)91へ出力するように構成されている。この構成によれば、交換時期までに十分な残余期間があるにもかかわらず、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換してしまうことを防止することができる。また、交換時期情報Iを基にメンテナンスの日程等の計画を作成することが可能である。
【0062】
次に、本発明の建設機械の第2の実施の形態を
図6~
図8を用いて説明する。
図6は本発明の建設機械の第2の実施の形態を適用した油圧ショベルを示す図である。
図7は本発明の建設機械の第2の実施の形態の一部を構成する制御装置のハード構成及び機能構成を示すブロック図である。
図8は
図7に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態の一部を構成する制御装置による部品交換時期に関する演算処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、
図6~
図8において、
図1~
図5に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0063】
図6及び
図7に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態が第1の実施の形態に対して相違する点は、主に以下の3つの点である。第1に、油圧シリンダ37、38、39を含む油圧システムを流れる作動油の温度を検出する温度センサ62を更に備えている。第2に、各油圧シリンダ37、38、39には、変位センサ61(61a、61b、61c)の他に、各油圧シリンダ37、38、39のボトム室C1及びロッド室C2(
図2参照)の圧力をそれぞれ検出する第1圧力センサ63及び第2圧力センサ64を備えている。第3に、制御装置70Aは、演算処理の機能に関して、追加の機能および一部が異なった機能を備えている。
【0064】
具体的には、
図6において、ブームシリンダ37には、ボトム室用の第1圧力センサ63a及びロッド室用の第2圧力センサ64aが取り付けられている。アームシリンダ38には、ボトム室用の第1圧力センサ63b及びロッド室用の第2圧力センサ64bが取り付けられている。バケットシリンダ39には、ボトム室用の第1圧力センサ63c及びロッド室用の第2圧力センサ64cが取り付けられている。第1圧力センサ63a、63b、63c及び第2圧力センサ64a、64b、64cはそれぞれ、制御装置70Aと電気的に接続されており、ブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39のボトム室の圧力P1及びロッド室の圧力P2の検出信号を制御装置70Aへ出力する。
【0065】
温度センサ62は、例えば、油圧システムの作動油タンク(図示せず)に設置されている。温度センサ62は、制御装置70Aと電気的に接続されており、作動油の温度Tの検出信号を制御装置70Aへ出力する。
【0066】
図7において、本実施の形態に係る制御装置70Aは、第1の実施の形態に係る制御装置70と同様な各種の機能の他に、処理装置72により実行される機能としての圧力選択部86、第1補正係数演算部87、第2補正係数演算部88、第3補正係数演算部89、補正係数決定部90を更に備えている。また、本実施の形態における累積移動量演算部83Aは、第1の実施の形態における累積移動量演算部83とは、累積移動量Xの演算方法が異なっている。制御装置70Aが実行するブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39の各シール部品の交換時期に関する演算処理は、別個に行われるが、同様なものである。そのため、本実施の形態の演算処理の説明でも、1つの油圧シリンダを対象とする。そのため、
図7において、第1及び第2圧力センサ63、64をそれぞれ1つのみ図示している。
【0067】
圧力選択部86は、第1及び第2圧力センサ63、64が検出した油圧シリンダ37、38、39のボトム室及びロッド室内の圧力P1、P2の検出信号を逐次(演算ループ毎に)取り込み、取り込んだ圧力P1、P2のうち大きい方を選択するものである。すなわち、圧力選択部86は、次の式(5)に基づき圧力Pを選択する。圧力選択部86は、選択した圧力Pを第3補正係数演算部89へ出力する。
P=MAX(P1、P2) … (5)
【0068】
第1補正係数演算部87は、第1補正係数Cx用テーブルに基づき、変位変化量演算部82の演算結果である変位の変化量の絶対値Δxaに対応する第1補正係数Cxを逐次(演算ループ毎に)演算するものである。第1補正係数演算部87は、演算結果の第1補正係数Cxを補正係数決定部90へ出力する。第1補正係数Cx用テーブルでは、例えば、変位の変化量の絶対値Δxaが所定値よりも小さい場合には第1補正係数Cxが1に設定され、Δxaが所定値以上の場合には第1補正係数CxがΔxaに比例して増加するよう設定されている。
【0069】
変位の変化量の絶対値Δxaは、1回の演算ループの期間内における油圧シリンダの微小な移動距離を示すものであり、ピストンシール50やロッドシール47の摺動速度とみなすことが可能である。ピストンシール50やロッドシール47の寿命(交換時期)は、摺動距離以外に、摺動速度にも影響される。そこで、第1補正係数Cxは、油圧シリンダ37、38、39のシール部品の寿命に対する摺動速度の影響をシール部品の寿命に関係する摺動距離(移動量)に転換させることを意図したものである。
【0070】
第2補正係数演算部88は、温度センサ62が検出した作動油の温度Tの検出信号を逐次(演算ループ毎に)取り込み、第2補正係数Ct用テーブルに基づき、取り込んだ温度Tに対応する第2補正係数Ctを演算するものである。第2補正係数演算部88は、演算結果の第2補正係数Ctを補正係数決定部90へ出力する。第2補正係数Ct用テーブルでは、例えば、作動油の温度Tが所定値よりも小さい場合(低温の場合)には第2補正係数Ctが1に設定され、温度Tが所定値以上の場合(高温の場合)には第2補正係数CtがTに比例して増加するよう設定されている。
【0071】
油圧シリンダ37、38、39に供給される作動油の温度Tは、ピストンシール50やロッドシール47の材料劣化(寿命)に影響を及ぼす因子の1つである。そこで、第2補正係数Ctは、油圧シリンダ37、38、39のシール部品の寿命に対する作動油の温度Tの影響をシール部品の寿命に関係する摺動距離(移動量)に転換させることを意図したものである。
【0072】
第3補正係数演算部89は、第3補正係数Cp用テーブルに基づき、圧力選択部86が選択した圧力Pに対応する第3補正係数Cpを逐次(演算ループ毎に)演算するものである。第3補正係数演算部89は、演算結果の第3補正係数Cpを補正係数決定部90へ出力する。第3補正係数Cp用テーブルでは、例えば、油圧シリンダ37、38、39内の圧力Pが所定値よりも小さい場合には第3補正係数Cpが1に設定され、圧力Pが所定値以上の場合には第3補正係数CpはPに比例して増加するよう設定されている。
【0073】
各油圧シリンダ37、38、39のボトム室またはロッド室内の圧力P(P1またはP2)は、ピストンシール50やロッドシール47の寿命に影響を及ぼす因子の1つである。そこで、第3補正係数Cpは、油圧シリンダ37、38、39のシール部品の寿命に対する各油圧シリンダ37、38、39内の圧力Pの影響をシール部品の寿命に関係する摺動距離(移動量)に転換させることを意図したものである。
【0074】
補正係数決定部90は、第1補正係数演算部87の演算結果である第1補正係数Cx、第2補正係数演算部88の演算結果である第2補正係数Ct、第3補正係数演算部89の演算結果である第3補正係数Cpのうち、最も大きい補正係数を逐次(演算ループ毎に)選択して累積移動量演算部83Aの演算に用いる補正係数Cとして決定する。すなわち、補正係数決定部90は、次の式(6)に基づき補正係数Cを決定する。
C=MAX(Cx、Ct、Cp) … (6)
【0075】
累積移動量演算部83Aは、変位変化量演算部82の演算結果である変位の変化量の絶対値Δxaを補正係数決定部90により決定された補正係数Cを用いて逐次補正した上で、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換時点から積算することによって、シール部品50、47の交換時点から現演算処理時までの油圧シリンダ37、38、39の伸縮による累積移動量Xを演算するものである。具体的には、累積移動量演算部83Aは、演算ループ毎に、変位変化量演算部82の演算結果である変位の変化量の絶対値Δxaに補正係数決定部90の補正係数Cを乗算した値を、前回の演算ループで得た累積移動量に対して加算することで、現演算ループまでの累積移動量Xを演算する。すなわち、累積移動量演算部83Aは、次の式(2A)に基づき累積移動量Xを演算する。
X=X+CΔxa … (2A)
【0076】
この演算結果の累積移動量Xは、ピストンシール50やロッドシール47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす3つの因子(シール部品50、47の摺動速度、作動油の温度T、作動油の圧力P)のうち最も影響の大きな因子をシール部品の摺動距離(移動量)として反映させている分、油圧シリンダ37、38、39の伸縮による実際の累積移動量よりも大きくなるように見積もられる。
【0077】
なお、累積移動量演算部83Aは、第1の実施の形態の累積移動量演算部83と同様に、一連の演算処理の終了時に最終的な演算結果の累積移動量Xを初期値Xiniとして記憶部81に記憶させると共に、一連の演算処理の開始時に記憶部81に記憶させた初期値Xiniを累積移動量Xの初期値として設定する。
【0078】
このように、累積移動量演算部83Aが演算する累積移動量Xは、Δxaが補正されることで、シール部品の寿命(交換時期)に影響を及ぼす因子の影響が常に反映された移動量となっている。
【0079】
次に、本発明の建設機械の第2の実施の形態における制御装置が実行する演算処理手順の一例について
図7および
図8を用いて説明する。なお、第1の実施の形態と同様な演算処理手順の説明は省略する。
【0080】
図8に示す制御装置70Aの一連の演算処理は、基本的には、油圧ショベル1のエンジンの始動から停止までの油圧ショベル1の1稼働サイクル毎に実行される(ステップS10~S100)。油圧ショベル1の稼働サイクルが多数回行われると、それに応じて、
図8に示す一連の演算処理(ステップS10~S100)が多数繰り返される。
【0081】
図8に示す第2の実施の形態の制御装置70Aによる一連の演算処理手順が
図5に示す第1の実施の形態の制御装置70による一連の演算処理手順と相違する主な点は、累積移動量Xの演算に関して、シール部品の寿命(交換時期)に影響を及ぼす作動油の温度Tや圧力P、油圧シリンダ37、38、39の移動速度に対応した補正を行うことである。具体的には、
図8に示す本実施の形態の演算処理手順のステップS10~S110のうち、ステップS20A、S32、S34、S40Aが、
図5に示す第1の実施の形態の演算処理手順とは異なっている。それ以外のステップS10、S30、S50~S110については、
図5に示す第1の実施の形態の演算処理手順と同様である。
【0082】
ステップS20Aでは、第1の実施の形態の
図5に示すステップS20と同様に、制御装置70Aの変位変化量演算部82が演算ループ毎に変位センサ61から油圧シリンダ37、38、39の変位xを取り込む。一方、第1の実施の形態の
図5に示すステップS20とは異なり、制御装置70Aの第2補正係数演算部88が演算ループ毎に温度センサ62が検出した作動油の温度Tを取り込むと共に、圧力選択部86が演算ループ毎に第1圧力センサ63及び第2圧力センサ64が検出した油圧シリンダ37、38、39のボトム室内の圧力P1及びロッド室内の圧力P2を取り込む。
【0083】
ステップS32では、第1補正係数演算部87が第1補正係数Cx用テーブルを用いてステップS30における変位変化量演算部82の演算結果である変位の変化量の絶対値Δxaに対応する第1補正係数Cxを演算する。また、第2補正係数演算部88が、第2補正係数Ct用テーブルを用いてステップS20Aにて取り込んだ温度Tに対応する第2補正係数Ctを演算する。さらに、圧力選択部86がステップS20Aにて取り込んだ第1圧力センサ63及び第2圧力センサ64からの圧力P1、P2のうち大きい方を圧力Pとして選択し、第3補正係数演算部89が第3補正係数Cp用テーブルを用いて圧力選択部86が選択した圧力Pに対応する第3補正係数Cpを演算する。
【0084】
ステップS34では、補正係数決定部90が、ステップS32における第1補正係数演算部87の演算結果である第1補正係数Cx、第2補正係数演算部88の演算結果である第2補正係数Ct、第3補正係数演算部89の演算結果である第3補正係数Cpのうち、最も大きいものを補正係数Cとして決定する。
【0085】
ステップS40Aでは、累積移動量演算部83Aが、ステップS30にて変位変化量演算部82が演算した変位の変化量の絶対値Δxaに対してステップS34にて補正係数決定部90が決定した補正係数Cを乗算して前回のカウントn-1の演算ループで得た演算結果の累積移動量に加算する上述の式(2A)によって、カウントnの現演算ループにおける累積移動量Xを演算する。この累積移動量Xは、カウント1(最初)の演算ループからカウントnの現演算ループまで逐次演算された変位の変化量の絶対値Δxaをシール部品50、47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす因子の影響を反映させる補正係数Cによって逐次補正した上で積算した値に初期値Xiniを加えたものとなる。したがって、演算結果の累積移動量Xは、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換時点から現演算処理時までの、シール部品50、47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす因子の影響が反映された油圧シリンダ37、38、39の累積移動量に相当する。この累積移動量Xは、シール部品50、47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす因子の影響が反映されている分、第1の実施の形態の場合よりも、シール部品50、47の劣化状態をより正確に反した指標となる。
【0086】
なお、
図5に示す第1の実施の形態の演算処理と同様に、
図8に示す処理ステップのうち、ステップS50~S60とステップ70との順序を入れ替えたり並列にしたりすることが可能である。
【0087】
上述した本発明の建設機械の第2の実施の形態においては、油圧シリンダ37、38、39を含む油圧システムを流れる作動油の温度を検出する温度センサ62及び油圧シリンダ37、38、39の圧力を検出する圧力センサ63、64を更に備え、制御装置70Aが第1補正係数Cx、第2補正係数Ct、第3補正係数Cpのうちの最も大きい補正係数Cを用いて演算結果の変位の変化量に関する値Δxaを補正するように構成されている。
【0088】
この構成によれば、制御装置70Aが演算する累積移動量Xに油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす因子の影響が反映されているので、シール部品の劣化状態をより正確に予測することができる。したがって、油圧シリンダ37、38、39のシール部品をより適切な時期に交換することが可能となり、油圧シリンダ37、38、39の不具合を未然に防止することができる。
【0089】
次に、本発明の建設機械の第2の実施の形態の変形例を
図9及び
図10を用いて説明する。
図9は本発明の建設機械の第2の実施の形態の変形例における制御装置のハード構成及び機能構成を示すブロック図である。
図10は
図9に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態の変形例の一部を構成する制御装置による部品交換時期に関する演算処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、
図9及び
図10において、
図1~
図8に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0090】
図9に示す本発明の建設機械の第2の実施の形態の変形例が第2の実施の形態(
図7参照)に対して相違する点は、制御装置70Bが第2の実施の形態の補正係数決定部90の機能を備えていないこと、および、累積移動量演算部83Bの演算方法が第2の実施の形態の累積移動量演算部83Aとは異なることである。
【0091】
累積移動量演算部83Bは、第1補正係数演算部87の演算結果である第1補正係数Cxと第2補正係数演算部88の演算結果である第2補正係数Ctと第3補正係数演算部89の演算結果である第3補正係数Cpとの平均値を用いて、変位変化量演算部82の演算結果である変位の変化量の絶対値Δxaを逐次補正した上で、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換時点から積算することによって、シール部品50、47の交換時点から現演算処理時までの油圧シリンダ37、38、39の伸縮による累積移動量Xを演算するものである。具体的には、累積移動量演算部83Bは、演算ループ毎に、変位変化量演算部82の演算結果である変位の変化量の絶対値Δxaに第1補正係数Cxと第2補正係数Ctと第3補正係数Cpとの平均値を乗算した値を、前回の演算ループで得た累積移動量に対して加算することで、現演算ループまでの累積移動量Xを演算する。すなわち、累積移動量演算部83Bは、次の式(2B)に基づき累積移動量Xを演算する
X=X+(Cx+Ct+Cp)/3×Δxa … (2B)
【0092】
この演算結果の累積移動量Xは、ピストンシール50やロッドシール47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす3つの因子(シール部品の摺動速度、作動油の温度T、作動油の圧力P)の影響をシール部品の摺動距離(移動量)として反映させている分、油圧シリンダ37、38、39の伸縮による実際の累積移動量よりも長くなるように見積もられる。
【0093】
また、
図10に示す第2の実施の形態の変形例の制御装置70Bによる一連の演算処理手順が第2の実施の形態の制御装置70Aによる一連の演算処理手順と相違する主な点は、制御装置70Bが第2の実施の形態の補正係数決定部90の機能を備えていないこと対応して補正係数Cの決定に関するステップS34が省略されていること、および、累積移動量演算部83Bの演算方法が異なることに対応して累積移動量演算部83Bによる累積移動量Xを演算するステップS40Bが異なることである。
【0094】
具体的には、ステップS32において、第1補正係数演算部87が第1補正係数Cxを、第2補正係数演算部88が第2補正係数Ctを、第3補正係数演算部89が第3補正係数Cpを演算した後、ステップ40Bに進む。
【0095】
ステップS40Bでは、累積移動量演算部83Bが、ステップS30にて変位変化量演算部82が演算した変位の変化量の絶対値Δxaに対してステップS32の演算結果である第1補正係数Cxと第2補正係数Ctと第3補正係数Cpとの平均値を乗算して前回のカウントn-1の演算ループで得た累積移動量に加算する上述の式(2B)によって、カウントnの現演算ループにおける累積移動量Xを演算する。この累積移動量Xは、カウント1(最初)の演算ループからカウントnの現演算ループまで逐次演算された変位の変化量の絶対値Δxaをシール部品50、47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす因子の影響を反映させる第1補正係数Cx、第2補正係数Ct、第3補正係数Cpによって逐次補正した上で積算した値に初期値Xiniを加えたものとなる。したがって、この演算結果の累積移動量Xは、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換時点から現演算処理時までの、シール部品50、47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす3つの因子(シール部品の摺動速度、作動油の温度および圧力)の影響が反映された油圧シリンダ37、38、39の累積移動量に相当する。
【0096】
第2の実施の形態における累積移動量演算部83Aによる演算結果の累積移動量Xは、第1補正係数Cx、第2補正係数Ct、第3補正係数Cpのうち最も影響の大きな因子を反映させたものである。それに対して、本変形例における累積移動量演算部83Bによる演算結果の累積移動量Xは、第1補正係数Cx、第2補正係数Ct、第3補正係数Cpのすべての要因を平均して反映させたものとなる。本変形例における累積移動量Xも、シール部品50、47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす因子の影響が反映されている分、第1の実施の形態の場合よりも、シール部品50、47の劣化状態をより正確に反した指標となる。
【0097】
上述した本発明の建設機械の第2の実施の形態の変形例においては、油圧シリンダ37、38、39を含む油圧システムを流れる作動油の温度を検出する温度センサ62及び油圧シリンダ37、38、39の圧力を検出する圧力センサ63、64を更に備え、制御装置70Bが第1補正係数と第2補正係数と第3補正係数の平均値を用いて演算結果の変位の変化量に関する値Δxaを補正するように構成されている。
【0098】
この構成によれば、制御装置70Bが演算する累積移動量Xに油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の寿命(交換時期)に影響を及ぼす3つの因子が反映されているので、シール部品の劣化状態をより正確に予測することができる。したがって、油圧シリンダ37、38、39のシール部品をより適切な時期に交換することが可能となり、油圧シリンダ37、38、39の不具合を未然に防止することができる。
【0099】
次に、本発明のシリンダ部品交換時期予測システムの一実施の形態を
図11及び
図12を用いて説明する。
図11は本発明のシリンダ部品交換時期予測システムの一実施の形態の構成を示す図である。
図12は本発明のシリンダ部品交換時期予測システムの一実施の形態の一部を構成するサーバのハード構成及び機能構成を示すブロック図である。なお、
図11及び
図12において、
図1~
図10に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0100】
図11に示す本実施の形態に係るシリンダ部品交換時期予測システムは、油圧シリンダであるブームシリンダ37、アームシリンダ38、バケットシリンダ39の伸縮により動作するフロント作業機4を備えた油圧ショベル1と、油圧ショベル1に備えられ、油圧シリンダ37、38、39の変位xをそれぞれ検出する変位センサ61(61a、61b、61c)、油圧システムを流れる作動油の温度Tを検出する温度センサ62、油圧シリンダ37、38、39のボトム室の圧力P1及びロッド室の圧力P2をそれぞれ検出する第1圧力センサ63(63a、63b、63c)及び第2圧力センサ64(64a、64b、64c)とを備えている。さらに、本実施の形態に係るシリンダ部品交換時期予測システムは、変位センサ61により検出された変位x、温度センサ62により検出された温度T、第1圧力センサ63及び第2圧力センサ64によりそれぞれ検出された圧力P1及び圧力P2を通信ネットワーク100を介して受信し、受信した変位x、温度T、第1圧力P1、第2圧力P2に基づいて油圧シリンダ37、38、39に備えられたシール部品50、47(
図2及び
図3参照)の交換時期に関する各種の演算処理を行うサーバ92Cを備えている。サーバ92Cは、演算された交換時期に関する情報を報知装置としての端末装置94へ出力すると共に、制御装置70Cを介してモニタ装置91へ出力する。
【0101】
変位センサ61、温度センサ62、第1圧力センサ63及び第2圧力センサ64を備える本実施の形態に係る油圧ショベル1は、第2の実施の形態に係る油圧ショベル1と略同様な構成である。本実施の形態に係る油圧ショベル1が第2の実施の形態の油圧ショベル1と相違する点は、次の通りである。第2の実施の形態に係る制御装置70A(
図6及び
図7参照)は、変位センサ61により検出された変位x、温度センサ62により検出された温度T、第1圧力センサ63及び第2圧力センサ64によりそれぞれ検出された圧力P1及び圧力P2に基づいて油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換時期に関する各種の演算処理を行い、演算処理の結果をモニタ装置91やサーバ92へ出力するものである。それに対して、本実施の形態に係る制御装置70Cは、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換時期に関する各種の演算処理を行うことはせず、変位センサ61により検出された変位x、温度センサ62により検出された温度T、第1圧力センサ63及び第2圧力センサ64によりそれぞれ検出された圧力P1及び圧力P2を取り込んで通信ネットワーク100を介してサーバ92Cへ送信するものである。また、制御装置70Cは、サーバ92Cの演算結果を通信ネットワーク100を介して受信してモニタ装置91へ出力するものである。
【0102】
すなわち、本実施の形態に係るシリンダ部品交換時期予測システムは、上述した第2の実施の形態に係る建設機械が備えているシリンダ部品交換時期予測システムにおける制御装置70A(
図6及び
図7参照)が実行していた油圧シリンダ37、38、39のシール部品47、50の交換時期に関する各種の演算処理を、サーバ92Cが代わりに実行するものである。具体的には、
図12に示すサーバ92Cのハード構成は、
図7に示す第2の実施の形態の制御装置70Aと同様に、RAMやROM等からなる記憶装置96と、CPU等からなる処理装置97と、制御装置70Cや端末装置94等の外部と通信ネットワーク100を介した通信を可能とする通信装置98とを備えている。記憶装置96には、各油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換時期に関する各種の演算処理に必要なプラグラムや各種情報が予め記憶されている。処理装置97は、記憶装置96から所定のプログラムや各種情報を適宜読み込み、当該プログラムに従って処理を実行することで、第2の実施の形態の制御装置70Aと同様な各種機能を実現する。
【0103】
すなわち、サーバ92Cは、記憶装置96の機能としての記憶部81と、処理装置97により実行される機能としての変位変化量演算部82、累積移動量演算部83A、交換時期判定部84、交換時期情報演算部85、圧力選択部86、第1補正係数演算部87、第2補正係数演算部88、第3補正係数演算部89、補正係数決定部90を備えている。サーバ92Cのこれらの機能部は、第2の実施の形態の制御装置70Aの機能部(
図7参照)と同様なものなので、ここでは説明しない。
【0104】
通信装置98は、変位センサ61により検出された変位x、温度センサ62により検出された温度T、第1圧力センサ63及び第2圧力センサ64により検出された圧力P1及び圧力P2を制御装置70Cから通信ネットワーク100を介して受信する。また、サーバ92Cの演算結果としての交換時期情報Iや報知指令を通信ネットワーク100を介して端末装置94及び制御装置70Cへ送信する。
【0105】
本実施の形態に係るシリンダ部品交換時期予測システムのサーバ92Cが実行するシール部品50、47の交換時期に関する演算処理手順は、第2の実施の形態の制御装置70Aが実行する演算処理手順を示す
図8のフローチャートと同様なので、ここでは説明しない。ただし、
図8に示すステップS60の交換時期情報I及びステップS110の報知指令の出力先は、サーバではなく、端末装置94である。
【0106】
上述したように、本実施の形態に係るシリンダ部品交換時期予測システムは、油圧ショベル(建設機械)1の油圧シリンダ37、38、39の変位xを検出する変位センサ61と、変位センサ61により検出された変位xを通信ネットワーク100を介して受信し、受信した変位xに基づいて油圧シリンダ37、38、39に備えられたシール部品50、47の交換時期を演算し、演算された交換時期を端末装置(報知装置)94へ出力するサーバ92Cとを備え、サーバ92Cは、変位センサ61により検出された変位xに基づいて変位の変化量に関する値Δxaを演算すると共に、演算された変位の変化量に関する値Δxaを積算することで得られた油圧シリンダ37、38、39の累積移動量X(積算値)が閾値Xth以上となった場合にシール部品50、47の交換時期に関する情報を端末装置(報知装置)94へ出力するように構成されている。
【0107】
この構成によれば、変位センサ61により検出された変位xに基づいて演算した変位の変化量に関する値Δxaを積算することで得られる油圧シリンダ37、38、39の累積移動量X(積算値)を基に、シール部品50、47の劣化状態の正確な予測が可能である。したがって、正確に予測したシール部品50、47の状態を元にシール部品50、47の交換時期を油圧ショベル(建設機械)1の関係者に対して報知することで、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47を適切な時期に交換することが可能となり、油圧シリンダ37、38、39の不具合を未然に防止することができる。
【0108】
なお、本発明は本実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0109】
例えば、上述した本発明の建設機械及びシリンダ部品交換時期予測システムの実施の形態においては、本発明を適用する建設機械として油圧ショベル1を例に説明した。しかし、交換が必要なシール部品を有する油圧シリンダを備えたクレーンやホイールローダ等の建設機械に広く適用することができる。
【0110】
また、上述した本発明の建設機械及びシリンダ部品交換時期予測システムの実施の形態においては、各油圧シリンダ37、38、39の変位を検出する変位センサ61(61a、61b、61c)として、油圧シリンダ37、38、39に設置して変位xを直接的に検出するセンサによって構成した例を示した。しかし、第1の変位センサ、第2の変位センサ、第3の変位センサはそれぞれ、第1回動軸(図示せず)の中心軸回りのブーム31の回転角度、第2回動軸35の中心軸回りのアーム32の回転角度、第3回動軸36の中心軸回りのバケット33の回転角度を検出するロータリーポテンショメータにより構成することも可能である。この場合、第1の変位センサ、第2の変位センサ、第3の変位センサはそれぞれ、ブーム、アーム、バケットに取り付けられる。各変位センサでそれぞれ検出された回転角は、ブーム、アーム、バケットの形状に応じて各油圧シリンダの変位へ変換することができる。各変位センサは、各油圧シリンダ37、38、39の変位を直接的または間接的に取得可能なセンサであれば他のセンサでもよい。
【0111】
また、上述した本発明の建設機械の第2の実施の形態及びその変形例においては、油圧ショベル1が温度センサ62及び圧力センサ63、64の両方を備えた構成の例を示した。しかし、油圧ショベル1が温度センサ62及び圧力センサ63、64のいずれか一方のみを備える構成も可能である。この場合、制御装置は、油圧ショベル1が備えるセンサに応じた補正係数を用いて演算結果の変位の変化量の絶対値Δxaを逐次補正してから積算することで、累積移動量Xを演算すればよい。この構成の場合でも、制御装置が演算する累積移動量Xには油圧シリンダ37、38、39のシール部品の寿命(交換時期)に影響を及ぼす因子うち少なくとも1つの因子を反映することができるので、シール部品の劣化状態をより正確に予測することができる。したがって、油圧シリンダ37、38、39のシール部品をより適切な時期に交換することが可能となり、油圧シリンダ37、38、39の不具合を未然に防止することができる。
【0112】
また、上述した本発明のシリンダ部品交換時期予測システムの実施の形態においては、サーバ92Cが本発明の建設機械の第2の実施の形態における制御装置70Aによる油圧シリンダ37、38、39のシール部品47、50の交換時期に関する演算処理機能と同様な演算処理機能を備えた構成の例を示した。しかし、シリンダ部品交換時期予測システムのサーバ92Cは、本発明の建設機械の第2の実施の形態の変形例に係る制御装置70Bによる油圧シリンダ37、38、39のシール部品47、50の交換時期に関する演算処理機能と同様な演算処理機能を備えた構成も可能である。また、シリンダ部品交換時期予測システムのサーバ92Cは、本発明の建設機械の第1の実施の形態に係る制御装置70による油圧シリンダ37、38、39のシール部品47、50の交換時期に関する演算処理機能と同様な演算処理機能を備えた構成も可能である。すなわち、シリンダ部品交換時期予測システムのサーバ92Cは、第1~第2の実施の形態及びその変形例に係る制御装置70、70A、70Bのいずれかの演算処理機能と同様な演算処理機能を備えた構成が可能である。
【0113】
なお、上述した本発明の建設機械の実施の形態においては、各変位センサ61a、61b、61cが検出した各油圧シリンダ37、38、39の変位xを制御装置70のシール部品47、50の交換時期に関する演算処理に用いる例を示した。油圧ショベルの中には、各変位センサ61a、61b、61cが検出した各油圧シリンダ37、38、39の変位xをフロント作業機4(ブーム31、アーム32、バケット33)の姿勢を制御するために用いるものがある。このような油圧ショベルでは、フロント作業機4の姿勢制御用のために予め設置されている変位センサを制御装置70、70A、70Bの演算処理のために利用することができる。変位センサを用いてフロント作業機の姿勢を制御する油圧ショベルでは、新たなセンサを設けることなく、油圧シリンダ37、38、39のシール部品50、47の交換時期に関する各種の演算処理に必要なプラグラムを新たに制御装置に導入するだけで、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1…油圧ショベル(建設機械)、 4…フロント作業機(作業装置)、 37…ブームシリンダ(油圧シリンダ)、 38…アームシリンダ(油圧シリンダ)、 39…バケットシリンダ(油圧シリンダ)、 47…ロッドシール(シール部品)、 50…ピストンシール(シール部品)、 61…変位センサ、 62…温度センサ、 63…第1圧力センサ(圧力センサ)、 64…第2圧力センサ(圧力センサ)、 70、70A、70B…制御装置、 91…モニタ装置(報知装置)、 92C…サーバ、 94…端末装置(報知装置)、 100…通信ネットワーク