(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】グラスラン
(51)【国際特許分類】
B60J 10/20 20160101AFI20230626BHJP
B60J 10/76 20160101ALI20230626BHJP
B60J 10/16 20160101ALI20230626BHJP
【FI】
B60J10/20
B60J10/76
B60J10/16
(21)【出願番号】P 2019226925
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】大村 拓郎
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-192933(JP,A)
【文献】特開2010-173563(JP,A)
【文献】特開2010-137585(JP,A)
【文献】特開2009-083544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 10/00 - 10/90
B60R 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と、前記底壁の幅方向の両端縁に設けられた車内側の側壁及び車外側の側壁と、該両側壁の
前記底壁と反対側に位置する端部に対向してそれぞれ設けられて、前記底壁方向へ傾斜状に突出した複数のシールリップと、少なくとも前記車内側の側壁の端部から前記車内側の側壁の外側面に沿って折り返し状に突出し、前記車内側の側壁との間に嵌合溝を形成する車内側のモールリップと、前記車内側の側壁の端部側に設けられて、先端が前記車内側のモールリップと対向する保持リップと、前記底壁の一端縁と車内側の側壁の一端部との結合箇所に設けられて、車内側の側壁の回動支点となる薄肉部と、を備え、
前記底壁や車内側の側壁及び車外側の側壁をドアパネルに組み付ける際に、前記ドアパネルに有する車内側フランジに前記嵌合溝を嵌入して、前記車内側のモールリップと前記保持リップとによって前記車内側フランジを保持するグラスランであって、
前記車内側の側壁は、前記底壁の一端縁から
前記車内側のシールリップの根元付近までの主要な部位が車外側の側壁方向へ膨らんだ円弧状に折曲形成されて、
前記主要な部位は、前記車内側のシールリップやモールリップ及び保持リップよりも剛性の高い材料で形成されており、
前記底壁や車内側の側壁及び車外側の側壁を前記ドアパネルに組み付ける際に、前記モールリップと前記車内側の側壁の結合部から前記底壁方向へ付与される圧縮方向の押圧力のベクトルを前記
主要な部位の円弧形状によって分散させることを特徴とするグラスラン。
【請求項2】
請求項1に記載のグラスランにおいて、
前記車外側の側壁を、前記車内側の側壁の主要な部位と同じ高剛性の材質で形成したことを特徴とするグラスラン。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のグラスランにおいて、
前記車内側の側壁の内部に、前記車内側の側壁の長手方向に沿って金属製のワイヤを埋設したことを特徴とするグラスラン。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のグラスランにおいて、
前記車外側の側壁の内部に、前記車外側の側壁の長手方向に沿って金属製のワイヤを埋設したことを特徴とするグラスラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の車体開口部を開閉するドアのドアパネル(サッシュ部)の内周部に取り付けられて、ドアガラスを摺動案内するグラスランの改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、この種の従来のグラスラン40は、例えば
図5及び
図6に示すように、底壁41と、該底壁41の車内外側幅方向の両端縁からほぼ直角方向に延びた車外側の側壁42及び車内側の側壁43と、を有し、サッシュ部50に図中下方から内部に押し込んで嵌着保持された断面ほぼチャンネル状に形成されている。前記両側壁42,43の各下端部42b、43bには、それぞれチャンネル状空間の内方に向けて延出し、ドアガラス44の両側面に弾接して該ドアガラス44との間をシールする一対のシールリップ45、46が互いに内方へ突設されている。
【0003】
車内側の側壁43の図中、下端部には、前記車内側のシールリップ46と反対方向へ突出して、サッシュ部50の幅方向の一端部とドアインナーパネル47の端縁部の結合部50aを被嵌する車内側モールリップ51が設けられている。一方、車外側の側壁42の下端部には、サッシュ部50の幅方向の他端部とドアアウターパネル52の結合部50bに係止する突部53が設けられている。
【0004】
また、車内側の側壁43のほぼ中央位置の外面には、保持リップ43cが設けられている。この保持リップ43cは、グラスラン40の組み付け時に、サッシュ部50の車内側の一側壁から内方に突出したV字形状の保持部50cに係止するようになっている。また、この保持リップ43cは、保持部50cに係止した状態で前記モールリップ51と一緒にドアインナーパネル47の端縁部とサッシュ部50の端縁部との結合部50aを、嵌合溝54を介して保持するようになっている。
【0005】
さらに、底壁41の幅方向の両端縁と車外側の側壁42の図中、上端部42a及び車内側の側壁43の上端部43aとのそれぞれ結合部には薄肉な第1、第2ノッチ部55a、55bが設けられている。
【0006】
そして、このグラスラン10をサッシュ部50へ組み付けるには、まず、グラスラン10を、
図5の白抜き矢印方向から押し込むと、車外側の側壁42と車内側の側壁43を、各ノッチ部55a、55bを中心として互いに接近する方向へ回動させる。これによって、車外側の側壁42と車内側の側壁43は、サッシュ部50内に押し込まれる。この時、保持リップ43cが、前記保持部50cを乗り越えて係止して、モールリップ51などと一緒にグラスラン40全体をサッシュ部50に保持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来のグラスラン40にあっては、車内側の側壁43が、第1ノッチ部55bから下端部43bまでの形状がほぼ直線状に形成されている。このため、前述したサッシュ部50の形状に追従させながら組み付ける際に、グラスラン40を
図5の白抜き矢印方向から押し込むと、車内側の側壁43に対して、
図6の破線矢印で示すようなモーメントが作用して、モールリップ51からシールリップ46方向、つまり、図中右回転方向の力が作用する。このため、車内側の側壁43は、全体が前記第1ノッチ部55bを中心に図中右回転方向へ撓み変形し易くなる。
【0009】
この結果、保持リップ43cが、保持部50cから脱落し易くなると共に、モールリップ51が、前記結合部50aの端縁部から外れて脱落し易くなると共に、シールリップ46が車内方向へ倒れやすくなるといった不具合が発生するおそれがある。
【0010】
本発明は、前記従来のグラスランの技術的課題に鑑みて案出されたもので、ドアパネルへの保持性やシールリップのシール性を損なうことなく、ドアパネル(サッシュ部)への形状へ追従した組み付けが可能なグラスランを提供することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願請求項1に記載の発明は、前記底壁の幅方向の両端縁に設けられた車内側の側壁及び車外側の側壁と、該両側壁の前記底壁と反対側に位置する端部に対向してそれぞれ設けられて、前記底壁方向へ傾斜状に突出した複数のシールリップと、少なくとも前記車内側の側壁の端部から前記車内側の側壁の外側面に沿って折り返し状に突出し、前記車内側の側壁との間に嵌合溝を形成する車内側のモールリップと、前記車内側の側壁の端部側に設けられて、先端が前記車内側のモールリップと対向する保持リップと、前記底壁の一端縁と車内側の側壁の一端部との結合箇所に設けられて、車内側の側壁の回動支点となる薄肉部と、
を備え、
前記底壁や車内側の側壁及び車外側の側壁をドアパネルに組み付ける際に、前記ドアパネルに有する車内側フランジに前記嵌合溝を嵌入して、前記車内側のモールリップと前記保持リップとによって前記車内側フランジを保持するグラスランであって、
前記車内側の側壁は、前記底壁の一端縁から前記車内側のシールリップの根元付近までの主要な部位が車外側の側壁方向へ膨らんだ円弧状に折曲形成されて、
前記主要な部位は、前記車内側のシールリップやモールリップ及び保持リップよりも剛性の高い材料で形成されており、
前記底壁や車内側の側壁及び車外側の側壁を前記ドアパネルに組み付ける際に、前記モールリップと前記車内側の側壁の結合部から前記底壁方向へ付与される圧縮方向の押圧力のベクトルを前記主要な部位の円弧形状によって分散させることを特徴としている。
【0012】
この発明の態様によれば、グラスランをドアパネル(サッシュ部)に組み付ける際に、モールリップと車内側の側壁の端縁の結合部から底壁方向へ圧縮方向の押圧力を付与すると、車内側の側壁に対して前記圧縮力のベクトルが前記圧縮方向に沿った直線方向に働くと共に、他のベクトルが車内側の側壁の円弧形状に起因して前記直線方向と直交する方向に作用する。このため、車内側の側壁には、前記直線方向とこれに直交する方向の力に対して約45°の角度方向へ分散された力が作用する。
【0013】
これにより、車内側の側壁には、全体を縦方向から潰そうとする力が働くため、薄肉部を中心に車外側へのモーメントが発生して膨らんだ方向へ撓み変形させようとするようとする力が働く。そして、前記車外方向へのモーメントの力と、このモーメントの力に反発しようとする力が車内側の側壁のモールリップ側の端部に働いて互いに釣り合おうとする。このため、車内側の側壁は、全体の撓み変形が抑えられて、原状の姿勢を維持することができることから、保持リップとモールリップとの間での車内側フランジからの外れによる脱落を抑えることができると共に、シールリップの車外側への無用な倒れを抑制できる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記車内側の側壁の主要な部位を、前記車内側のモールリップの材質よりも高剛性の材質で形成したことを特徴としている。
【0015】
この発明によれば、主要な部位の高剛性化によって、前記組付時における圧縮方向の力に対する十分な反力を得られるため、車内側の側壁の変形をさらに抑制することが可能になる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記車外側の側壁を、前記車内側の側壁の主要な部位と同じ高剛性の材質で形成したことを特徴としている。
【0017】
この発明によれば、車内側の側壁の他に、車外側の側壁の高剛性化によって、組付時の圧縮力に対して効果的に対抗できることから、グラスラン全体の変形を抑制できる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記車内側の側壁の内部に、前記車内側の側壁の長手方向に沿って金属製のワイヤを埋設したことを特徴としている。
【0019】
この発明によれば、金属製のワイヤによって、車内側の側壁の経年劣化に伴う長手方向の短縮変形を抑制できると共に、剛性が高くなるので前記圧縮力による車内側の側壁の変形を抑制できる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記車外側の側壁の内部に、前記車外側の側壁の長手方向に沿って金属製のワイヤを埋設したことを特徴としている。
【0021】
この発明によれば、金属製のワイヤによって、車外側の側壁の経年劣化に伴う長手方向の短縮変形を抑制できると共に、剛性が高くなるので前記圧縮力によるグラスラン全体の変形を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本願発明によれば、グラスランをドアのサッシュ部などに組み付ける際に、車内側の側壁のドアパネルなどからの脱落やシールリップの倒れを抑制して、組み付け作業能率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態としてのグラスランが組み付けられた自動車のフロントドアの側面図である。
【
図2】本実施形態のグラスランがフロントドアのサッシュ部に組み付けられる際の車内側の側壁に作用するベクトルを示す
図1のA-A線断面図である。
【
図3】本実施形態のグラスランがフロントドアのサッシュ部に組み付けられる際の車内側の側壁に作用するモーメントなどを示す断面図である。
【
図4】本実施形態のグラスランの自由状態を示す断面図である。
【
図5】従来のグラスランを示すサッシュ部に押し込んで組み付ける場合の押し込み圧縮方向を示す断面図である。
【
図6】従来のグラスランをサッシュ部に押し込んだ際の車内側の側壁に作用するモーメントを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明にかかるグラスランの実施形態を図面に基づいて詳述する。
【0025】
本実施形態は、グラスランを、自動車のプレスドアのフロントドアのサッシュ部に取り付けられるものに適用したものを示している。
【0026】
図1は本実施形態のグラスランが組み付けられた自動車のフロントドアの側面図、
図2は本実施形態のグラスランがフロントドアのサッシュ部に組み付けられる際の車内側の側壁に作用するベクトルを示す
図1のA-A線断面図、
図3は本実施形態のグラスランがフロントドアのサッシュ部に組み付けられる際の車内側の側壁に作用するモーメントなどを示す断面図である。
【0027】
図1~
図3に示すように、自動車のフロントドア1のドア本体2の上端部にはサッシュ部3が設けられている。このサッシュ部3は、ドアのアウターパネル4とインナーパネル5の間に配置されて、内周部が前記インナーパネル5に結合されたレインフォースブラケット(リテーナ)6を有し、このリテーナ6の内周側に、長尺な横断面ほぼコ字形状のグラスラン10が嵌着状態に取り付けられている。
【0028】
前記アウターパネル4は、端部が車内方向へほぼクランク状に折曲形成されて、先端部の車外側フランジ4aが
図2中、下方向へ延びている。一方、前記インナーパネル5は、車内側へほぼ横U字形状に膨出形成されて、先端部の車内側フランジ5aが前記アウターパネル4の車外側フランジ4aと平行に下方向へ延びている。
【0029】
図4は本実施形態のグラスランの自由状態を示す断面図である。
【0030】
前記グラスラン10は、ゴム材を押出成形によって連続一体に形成され、
図1~
図4に示すように、前記リテーナ6の折曲平坦部に当接配置される底壁11と、該底壁11の両端縁からほぼ直角方向に延出した車内側の側壁12及びこれに対向する車外側の側壁13と、を備えている。
【0031】
また、グラスラン10は、前記両側壁12、13のそれぞれの後述する他端部12b、13bに外側へ折り返し状に折曲された一対の第1、第2モールリップ25,26と、前記両側壁12、13のそれぞれの他端部12b、13bから内方へ傾斜状に突出して、ドアガラス29の外周部両側面を挟持状態に摺動案内する車内側の第1シールリップ14及び車外側の第2シールリップ15と、前記底壁11の車内側の側壁12側の内端縁に設けられて、車外側の側壁13側に延びる支持リップ16と、を備えている。
【0032】
底壁11は、車外側の側壁13側の外端縁にリテーナ6の内面に当接する当接リップ17が設けられていると共に、外面にはリテーナ6下面に当接する断面台形状の突部18が長手方向に沿って設けられている。
【0033】
車内側の側壁12は、主要部位12cの材質が例えば高発砲、高剛性の動的架橋熱可塑性エラストマ(TPV)によって形成されていると共に、他端部12b側が車外側の側壁13よりも車内方向へ長く延出している。ここで、主要部位12cとは、底壁11側の一端部12aと他端部12bの第1シールリップ14の根元部付近までの間の部位をいう。
【0034】
そして、この車内側の側壁12は、主要部位12cが車外側の側壁13方向へ弓状に膨らんだ断面円弧状に折曲形成されている。この主要部位12cの曲率半径は、比較的大きく設定されて半径が大きな円弧状に形成されている。なお、この主要部位12cの曲率半径は、本願発明者の多くの実験によって最適な大きさに設定されている。
【0035】
また、車内側の側壁12は、他端部12bの第1シールリップ14とほぼ反対側の位置に第1保持リップ19が設けられている。この第1保持リップ19は、第1モールリップ25の先端部25aに僅かな隙間をもって対向配置されて、第1モールリップ25と協働して前記インナーパネル5の車内側フランジ5aを挟持状態で保持するようになっている。
【0036】
さらに、車内側の側壁12は、
図4に示すように、一端部12aと底壁11の幅方向の一端縁との結合箇所に第1薄肉部(ノッチ部)20が形成されており、この第1薄肉部20を中心として車内側の側壁12が底壁11に対して図中、左右方向へ回動可能になっている。
【0037】
さらに、車内側の側壁12の内部、つまり、主要部位12cの幅方向のほぼ中央から一端部12a側寄りの内部位置には、金属製の第1ワイヤ21aが埋設されている。この第1ワイヤ21aは、直径が数ミリに設定されて比較的剛性が高く設定されて、主要部位12cの長手方向に沿って配置されている。
【0038】
車外側の側壁13は、主要部位13cの材質が車内側の側壁12の主要部位12cと同じく、高発砲、高剛性の動的架橋熱可塑性エラストマ(TPV)によって形成されている。また、この車外側の側壁13は、一端部13aの底壁11との結合箇所の外面に車外側へ突出した第2保持リップ22が設けられている。この第2保持リップ22は、前記第2モールリップ26の先端部26aに僅かな隙間をもって対向配置されて、第2モールリップ26と協働してアウターパネル4の車外側フランジ4aを挟持状態に保持するようになっている。
【0039】
また、車外側の側壁13は、
図4に示すように、一端部13aと底壁11の幅方向の他端縁との結合箇所に第2薄肉部23が形成されており、この第2薄肉部23を中心として車外側の側壁13が底壁11に対して図中、左右方向へ回動可能になっている。
【0040】
さらに、車外側の側壁13のほぼ中央位置の内部には、車内側の側壁12と同じく金属製の第2ワイヤ21bが埋設されている。この第2ワイヤ21bは、車外側の側壁13の断面幅方向のほぼ中央位置に長手方向に沿って配置されている。
【0041】
第1、第2モールリップ25,26は、両側壁12、13の各他端部12b、13bとの間に嵌合溝27、28を形成して、インナーパネル5の車内側フランジ5aとアウターパネル4の車外側フランジ4aを前記各嵌合溝27,28内でそれぞれ挟持状態に嵌合保持するようになっている。
【0042】
換言すれば、車内外側の側壁12、13は、第1、第2保持リップ19,22と第1、第2モールリップ25,26によってアウターパネル4とインナーパネル5の各車外側フランジ4a、5aに保持されている。これによって、グラスラン10が、サッシュ部3(リテーナ6)の下面に保持固定されている。
【0043】
また、両側壁12、13は、
図2に示すようにサッシュ部3に組み付けられた状態での対向内面間の距離Lが第1、第2シールリップ14、15を介してドアガラス29の先端部29aが車内外側への移動が可能なように比較的大きく設定されている。
【0044】
前記第1シールリップ14は、形成位置が車内側の側壁12の長く延びた他端部12bに設けられていることから、先端部14aが第2シールリップ15の先端部15aよりも底壁11側へ若干長く形成されている。また、第1シールリップ14は、全体が底壁11方向へ立ち上がった湾曲状に折曲形成されていると共に、根元部に車内方向へ容易に折曲変形可能にするノッチ部14bが形成されている。
【0045】
前記第2シールリップ15は、全体が底壁11方向へ立ち上がった湾曲状に折曲形成されていると共に、先端部15aが自由状態では第1シールリップ14の先端部14aと接近して配置されている。また、第2シールリップ15は、第1シールリップ14と同じく根元部に車外方向へ容易に折曲変形可能にするノッチ部15bが形成されている。
【0046】
また、前記底壁11や第1、第2シールリップ14,15、当接リップ17、第1、第2保持リップ19,22及び第1、第2モールリップ25,26は、それぞれの材質が車内、車内外側の両側壁12、13の各主要部位12c、13cと異なり、ソリッド系のTPVによって形成されている。したがって、前記各主要部位12c、13cよりも剛性が低くなっている。
【0047】
この状態で、
図2に示すように、車内側の側壁12の他端部12bと第1モールリップ25との結合部の下面を、図中、白抜き矢印で示すように、両車外側フランジ4a、5a間の開口部からサッシュ部3の底面方向へ押し上げる。そうすると、この押し上げによる圧縮方向の力Aのベクトルの線分は、車内側の側壁12の他端部12bを始点として、一つが白抜き矢印方向に沿った直線方向の有効成分(B)が働き、さらにこの直線方向の有効成分(B)に対して第1シールリップ14側へ直交する方向の成分(x)が働くと共に、前記直線方向成分(B)と直交する成分(x)成分との間の45°の角度方向に傾斜方向の成分(y)が働く。
【0048】
したがって、車内側の側壁12には、主要部位12cの円弧形状に起因して全体を縦方向から潰そうとする力が働くため、
図3に示すように、第1薄肉部20を中心に車外側方向へのモーメントが発生して前記傾斜方向の成分(y)のモーメントaと、膨出方向へ撓み変形させようとするようとするモーメントbが作用する。そして、前記車外方向への2つのモーメントa、bに反発しようとするモーメントcが車内側の側壁12の他端部12bから第1モールリップ25方向へ回動する力として作用する。つまり、モーメントcは、他端部12bによって車内側の車内側フランジ5aを第1モールリップ25に押し付ける方向に働いて互いに釣り合おうとする(b=c)。
【0049】
このため、車内側の側壁12は、主要部位12c全体の変形が十分に抑えられて、原状の姿勢を維持することができる。このため、車内側の車内側フランジ5aは、他端部12bと第1保持リップ19及び第1モールリップ25との間の第1嵌合溝27内に嵌入された状態で、車内側の車内側フランジ5aを安定かつ確実に保持することができる。したがって、組み立て時における車内側の車内側フランジ5aからの不用意な脱落を防止できると共に、第1シールリップ14の車外側への無用な倒れを抑制できる。
【0050】
一方、車外側の車外側フランジ4aは、前述の圧縮方向の力Aによって車内側の車内側フランジ5aに第1嵌合溝27内に嵌入されるのと一緒に第2嵌合溝28内に嵌入されて、該第2嵌合溝28内に確実に保持される。
【0051】
この結果、グラスラン10の組み付け作業が容易になり、作業コストの低減化が図れる。
【0052】
また、本実施形態では、車内側と側壁12の主要部位12cの他に、車外側の側壁13の主要部位13cを、各シールリップ14,15などよりも高剛性のTPVによって形成したことから、前記組み付け時における前述した圧縮方向の力Aに対する十分な反力を得られる。このため、前記両側壁12、13の変形、つまりはグラスラン10全体の変形をさらに抑制することが可能になる。これによって、グラスラン10の組み付け作業能率がさらに向上する。
【0053】
また、本実施形態では、前記車内側、車外側の両側壁12、13の内部に、長手方向に沿って金属製の第1ワイヤ21a、を埋設したことから、両側壁12、13の経年劣化に伴う長手方向の短縮変形を抑制できる。
【0054】
また、各ワイヤ21a、21bによって各主要部位12c、13cの剛性がさらに高くなるので、前述した前記圧縮方向の力Aによる両側壁12、13の変形をさらに抑制できる。これによって、グラスラン10の組み付け作業能率が一層向上する。
【0055】
また、両側壁12、13は、前述したように、材質によって高剛性化が図られていると共に、埋設された各ワイヤ21a、21bによって支持剛性も高くなっていることから、各シールリップ14,15による前記ドアガラス29の昇降時の作動の安定化が図れると共に、円滑な昇降作動が得られる。
【0056】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、車内側の側壁12のみを高剛性とし、車外側の側壁13を剛性の低い材質とすることも可能である。
【0057】
また、車内側の側壁12は、円弧形状によってグラスラン10の組み付け時に変形を抑制できるので、材質を剛性が実施形態のものよりも低いものであっても良い。
【0058】
また、本実施形態では、両側壁12、13の内部に金属製の第1ワイヤ21a、21bを埋設しているが、これらは必ず要求されるものでない。
【0059】
また、グラスラン10の断面形状、例えば両側壁12、13の長さや底壁11などの断面形状を、車体の形状や大きさなどに応じて任意に変更することも可能である。
【0060】
さらに、本実施形態では、グラスラン10をサッシュ型の車体に適用したが、サッシュレスの車体に適用することも可能である。
【0061】
また、本発明のグラスランは、フロントドアの他にリアドアにも適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0062】
1…フロントドア、3…サッシュ部、4…アウターパネル、4a…車外側フランジ、5…インナーパネル、5a…車内側フランジ、6…リテーナ、10…グラスラン、11…底壁、12…車内側の側壁、12a…一端部、12b…他端部、12c…主要部位、13…車外側の側壁、13a…一端部、13b…他端部、13c…主要部位、14…第1シールリップ、15…第2シールリップ、
16…当接リップ、19…第1保持リップ、19a…先端部、20…薄肉部、21a、21b…ワイヤ、22…第2保持リップ、23…第2薄肉部、A…圧縮力