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特許7301749テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化阻害剤のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化阻害剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/40 20060101AFI20230626BHJP
   G01N 33/15 20060101ALN20230626BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20230626BHJP
   G01N 33/68 20060101ALN20230626BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20230626BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
C07K16/40 ZNA
G01N33/15 Z
C12N9/12
G01N33/68
C12N15/54
C12Q1/48 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019559233
(86)(22)【出願日】2018-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2018046169
(87)【国際公開番号】W WO2019117303
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2017241157
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517440782
【氏名又は名称】増富 健吉
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(72)【発明者】
【氏名】増富 健吉
(72)【発明者】
【氏名】安川 麻美
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/110476(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/147918(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/040309(WO,A1)
【文献】TERTリン酸化機構とRdRP活性制御の分子基盤の解析,2015年度実施状況報告書[online],2017年01月06日, [検索日 2019.01.31],インターネット: <URL:https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-15K1448
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/48
C07K 16/40
G01N 33/15
G01N 33/68
C12N 9/12
C12N 15/54
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を認識する抗テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化阻害剤のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
テロメアは、染色体末端の反復配列であり、インタクトな染色体を保護する。一方、テロメアは、細胞分裂の連続ラウンドを徐々に短縮し、非常に短縮されたテロメアは老化及びアポトーシスを誘発することが知られている。
【0003】
テロメアを伸長させ、その構造を維持する酵素であるテロメラーゼの触媒サブユニットとして、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)は、悪性細胞において高いレベルで発現されるが、正常細胞においては非常に低いレベルで発現される。
TERTの活性として、テロメア構造を維持するためのテロメラーゼ活性が知られているが、最近、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)活性をも有することが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
RNA依存性RNAポリメラーゼは、RNAを鋳型にして反対向きのRNAを合成する酵素であり、これらRNAが対をなすことで2本鎖RNAが生成する。
TERTのRdRP活性は、RNA component of mitochondrial RNA processing endoribonuclease(RMRP)等の非たんぱくコードRNAを鋳型として酵素活性を発揮する。
また、TERTは、ヘリカーゼBRG1とnucleostemin(NS)と、TBN複合体を形成し、がん幹細胞の機能維持に関わることが知られている(非特許文献2)。
さらに、TERTのM期特異的なRdRP活性増強は,がん幹細胞の機能維持に関わることが知られている(非特許文献3及び4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Cancer Sci 106 (2015) 1486-1492
【文献】Proc Natl AcadSci U S A 108 (2011) 20388-20393
【文献】Mol Cell Biol 34 (2014) 1576-1593
【文献】Mol Cell Biol 36 (2016) 1248-1259
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TERTのRdRP活性は、がん幹細胞の機能維持に関わるため、TERTのRdRP活性に着目すると、新規メカニズムによる抗がん剤の創出につながると考えられる。
しかしながら、TERTのRdRP活性については、現在においても知られていないことが多く、TERTが、本来のテロメラーゼ活性を示すのではなく、RdRP活性を示す場合のメカニズムは不明である。
したがって、TERTによるRdRP活性のメカニズムを解明することは、がん治療の標的の分子基盤となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討した結果、本発明者らは、TERTのリン酸化がTERTのRdRP活性のトリガーになることを突き止めた。
本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
(1)
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片、及びテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化酵素を用いる、TERTのリン酸化阻害剤のスクリーニング方法。
(2)
リン酸化部位が、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片のT249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基である、(1)に記載のスクリーニング方法。
(3)
リン酸化部位が、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片のT249である、(1)に記載のスクリーニング方法。
(4)
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化酵素が、サイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)である、(1)~(3)のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(5)
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)の断片が、T249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を有する、(1)~(4)のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(6)
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のT249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基がリン酸化されている場合に予後が不良であると評価する、がん治療の予後予測方法。
(7)
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のT249が、アラニン又はグルタミン酸に置換されているテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片。
(8)
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片のT249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基が、リン酸化されているテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片。
(9)
配列番号1~4のいずれかのアミノ酸配列を認識する抗テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)抗体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化阻害剤のスクリーニング方法を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】HeLa細胞又は293T細胞をM期に同調し、ヒトTERT(hTERT)を10E9-2抗体(MBL)にて免疫沈降し精製した。標品を質量分析にて解析しリン酸化された2本のペプチドを同定した。同定したペプチドは、241-GAAPEPERTPVGQGSWAHPGR-261(配列番号18)及び1087-VTYVPLLGSLR-1097(配列番号19)であり、これらペプチドにはリン酸化を受ける可能性のある箇所が4カ所存在した(下線を付して示す)。それぞれのリン酸化部位特異認識抗体を作成した。λphosphataseによる脱リン酸化処理(図1A)とsiRNAによるhTERTの発現抑制(図1B)により解析した結果、リン酸化T249認識抗体(Anti-hTERT pT249)でリン酸化特異的シグナルの消失が見られたことから、T249のリン酸化が確認された。
図2】hTERT T249のリン酸化に関わる上流キナーゼの同定を試みた。T249の部位には先行論文で記述のある(S/T)P motifが存在することからCDK1を筆頭にAurora B kinase、p38 MAP kinase等を推測し、それぞれのkinaseに対するsiRNAを用いてhTERT T249のリン酸化が維持されるかどうかを確認した。その結果、CDK1に対するsiRNAで処理した細胞では、hTERT pT249のシグナルの消失を認めたことから、hTERT T249のリン酸化にはCDK1が必須であることが確認できた(図2A)。さらに、CDK1に対するsiRNAで処理した細胞では、hTERTのRdRP活性も阻害されていることを確認した(図2B)。
図3】CDK1によりhTERT T249がリン酸化(pT249)されているかどうかを試験管内で確認した。無細胞合成系で発現精製したhTERT_191-306と市販のCDK1又は陰生コントロールのIKK2を反応させリン酸化を受けたと思われるバンド(星印で示す)を回収し質量分析により解析したところ、CDK1で処理したサンプルからのみpT249が検出された。一方、IKK2で処理したサンプルからは、pS206、pS274及びpT283等が検出された。同サンプルをAnti-hTERT pT249を用いてWestern blottingを行ったところ、CDK1で処理をしたサンプルのみからシグナルが検出された。これらの実験から、CDK1はhTERTの249番のTをリン酸化する、Anti-hTERT pT249はリン酸化されたhTERTの249番のTを認識していることが確認された。
図4】hTERT T249のリン酸化ががん細胞の機能維持に重要かどうかを確認するためにたった1アミノ酸のT249に変異を加えたhTERTを作成し、がん細胞の増殖に与える影響を確認した。T249A変異体はTをAに置換することによりリン酸化がおこらなくなり内在性に存在するhTERTのRdRP活性をドミナントネガティブに抑制する変異体(A変異体)であり、一方でT249E変異体はTをEに置換することにより恒常的に同部位がリン酸化されたことを模倣する変異体(E変異体)である。図4Aは、テロメラーゼ活性の無いBJ細胞に野生型hTERT、A変異体、E変異体を導入しテロメラーゼ活性を確認した結果を示す。いずれのhTERT変異体もテロメラーゼ活性が確認された。テロメラーゼ活性のある293Tにこれらの変異体を導入してもテロメラーゼ活性(定量方法によりその増減を確認)には影響を及ぼさないことが確認できた(図4B)。一方、RdRP活性に及ぼす影響は、A変異体では内在性のRdRP活性をドミナントネガティブに抑制し、E変異体では野生型より強くRdRP活性を誘導した(図4C)。
図5】hTERTが発現していないことが知られているSaos2細胞株にE変異体を導入するとがん細胞の増殖が亢進した。また、もとより、hTERTの発現が存在することが知られているがん細胞株(HCC-MT、PEO1及びPEO14)ではE変異体での細胞増殖亢進の上乗せ効果自体はわずかである一方、A変異体でのがん細胞の増殖抑制効果は非常に顕著に見られた。このことから、T249のリン酸化そのものが、がん細胞増殖に必須であるということがいえる。図の破線はコントロール細胞、実線はA変異体導入細胞、点線はE変異体導入細胞の細胞増殖曲線を示す。
図6】CDK1によるT249のリン酸化が、がん細胞の増殖に必須であることがわかったことから、ヒト癌患者検体を用いてT249リン酸化の検出の有無ががん患者の予後や再発と関連するか調べた。これにより、T249リン酸化が治療標的と考え得るかどうかを検討した。肝臓がん患者検体102例のがん組織をAnti-hTERT pT249で免疫染色しhTERT T249のリン酸化(pT249)の検出陰性例(一例を図6Aとして示す)とpT249の検出陽性例(一例を図6Bとして示す)とに分類した(pT249陽性細胞が1視野に10%以上を陽性として判定した)。全生存期間を図6Cに示し、無再発生存期間を図6Dに示す。染色陽性例では全生存期間(図6C、p値<0.05)、無再発生存期間(図6D、p値<0.05)ともに有意に短いことがわかった。これらのことより、T249リン酸化の存在自体が癌の悪性度や再発と相関があり、癌治療の標的の分子基盤となることが確認された。
図7】膵臓がん患者検体67例のがん組織をAnti-hTERT pT249で免疫染色し、hTERT T249のリン酸化(pT249)陽性細胞が1視野に10%以上を陽性として判定した。pT249の検出陰性例とpT249の検出陽性例とに分類し、臨床病理学的解析を行った。その結果、染色陽性率59.7%(67例中40例)であり、リンパ節転移陽性例で統計学的有意差をもって染色陽性症例が多かった(p値<0.0001)(図7A及び7C)。さらに手術可能症例(47症例)の解析では、染色陽性症例では3年生存率が有意に低いことがわかった(p値<0.05)。また、同一患者検体内での染色においても、高分化腺がん成分よりも、低分化腺がん成分での染色が強く(図7A及び7B)、また、極めて予後不良な膵がんである腺扁平上皮がんでは、扁平上皮がん成分で強い染色が観察された(図7C及び7D)。これらのことより、膵臓がんにおいても、T249リン酸化の存在自体が予後不良予測因子となることが解った。
図8】293T細胞の、内在性のhTERTのT249を、CRISPR-Cas9ゲノム編集技術を用いて、リン酸化不活性型アミノ酸であるアラニンに置換したT249A-CRISPR細胞(T249A-CRISPR)を作製した。コントロール細胞(Control-CRISPR)は、PuroCas9のみを導入した。これらの細胞を、それぞれ1x105個をNOD/SCIDマウスの皮下に移植した。T249A-CRISPR細胞では造腫瘍能の著明な抑制が見られた。T249A-CRISPR細胞はT249がアラニンに置換されていることでリン酸化が起こらない細胞であることから、T249のリン酸化が腫瘍形成に重要であることを確認できた。
図9】T249A-CRISPR細胞においても、RdRP活性が著明に抑制される一方で、テロメラーゼ活性には影響がないことを確認した。すなわち、T249A-CRISPR細胞においても、T249のリン酸化がRdRP活性に必要であった。T249A-CRISPR細胞では造腫瘍能の著明な抑制が見られる一方で、テロメア長はコントロールよりも長く維持されていた。このことよりTERTのT249が、アラニンに置換されているTERT(T249A変異体)は「がん抑制・抗老化(長寿)酵素」であると言える。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化阻害剤のスクリーニング方法である。
当該スクリーニング方法においては、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片、及びテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化酵素を用いる。
TERT又はその断片は、TERTのリン酸化酵素の基質となり、TERTのリン酸化酵素によるリン酸化部位を有する。
リン酸化部位としては、キナーゼによるリン酸化部位であれば特に限定されるものではないが、例えば、セリン残基又はスレオニン残基が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法においては、TERTのリン酸化酵素によるTERT又はその断片におけるリン酸化部位のリン酸化を指標にして、TERTのリン酸化を阻害する物質を探索する方法である。
本発明のスクリーニング方法により選択される物質は、TERTのリン酸化酵素による、TERT又はその断片のリン酸化を阻害(block)するリン酸化阻害剤である。
【0012】
本発明のスクリーニング方法により選択されるTERTのリン酸化阻害剤は、TERTのRdRP活性を発現するためのメカニズムの起点となるTERTのリン酸化を阻害するため、TERTのRdRP活性を阻害する。
TERTのRdRP活性は、がん幹細胞の機能維持に関わることから、TERTのリン酸化阻害剤は、TERTのRdRP活性を阻害し、ひいては、がん幹細胞の機能を維持することをできなくする。また、TERTのリン酸化があることは、がん悪性度、再発と相関すると考えられる。
したがって、本発明のスクリーニング方法により選択されてくるTERTのリン酸化阻害剤は、新規メカニズムによる抗がん剤として用いることができる可能性を有する。
TERTのリン酸化阻害剤としては、TERTのリン酸化酵素の活性を低下又は消失させる物質であれば特に限定されず、例えば、抗体等のタンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、核酸、炭水化物、脂質及び低分子化合物等が挙げられる。
【0013】
本発明のスクリーニング方法においては、少なくとも、TERT又はその断片、及びTERTのリン酸化酵素を用いる。
TERTのリン酸化酵素によるTERT又はその断片のリン酸化が阻害されていることを確認することにより、TERTのリン酸化阻害剤である物質をスクリーニングし得る。
阻害の様式は特に限定されず、また、TERT又はその断片のリン酸化が阻害されていることの確認方法も特に限定されないが、被験物質を加えない陽性コントロールに対して、リン酸化を抑制乃至消失させる物質を探索することによりTERTのリン酸化阻害剤をスクリーニングし得る。
TERT又はその断片としては、その由来として特に限定されるものではなく、モデル動物として知られるラットやマウス等のげっ歯類、サル、イヌ、ウサギ、モルモット等の動物由来であってもよいが、ヒト由来のテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片を用いることが好ましい。
TERT又はその断片として、全長のTERTを用いてもよいが、RdRP活性化のカスケードの起点となるキナーゼ等によるリン酸化を受けるリン酸化部位となるアミノ酸残基を有すれば、TERTの断片となるアミノ酸配列を有するペプチドをTERTのリン酸化酵素の基質として用いることができる。
【0014】
TERTのリン酸化部位は、例えば、T249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基等が挙げられ、T249であることが好ましい。
リン酸化部位としての、Tはスレオニン残基を意味し、Sはセリン残基を意味する。
T249における「249」は、N末端から249番目のアミノ酸残基であることを意味するが、NP_937983 (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_937983.2)、あるいはUniprot ID O14746-1 (http://www.uniprot.org/uniprot/O14746)として公知のアミノ酸配列(配列番号17)を有するTERTにおける249番目のスレオニンであることを意味している。
ここで、本発明のスクリーニング方法においては、T249がリン酸化されることが好ましいが、その断片や、TERTとして、上記NP_937983あるいはUniprot ID O14746-1として知られるTERT以外を用いる場合には、リン酸化部位は、厳密にN末端から249番目のスレオニンであることを意味しない。
すなわち、本発明のスクリーニング方法においては、T249を有するTERTを用いることが一態様となるが、NP_937983あるいはUniprot ID O14746-1として知られるアミノ酸配列を必須として有するものではない。TERTのNP_937983あるいはUniprot ID O14746-1として知られるアミノ酸配列において、1又は数十個、好ましくは1又は数個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1又は2個のアミノ酸が付加、置換、又は欠失したアミノ酸配列を含み、TERTのリン酸化酵素によるリン酸化能を有する当該NP_937983あるいはUniprot ID O14746-1として知られるアミノ酸配列を有するTERTの誘導体を用いてもよいし、その他TERTとして同定されているテロメラーゼ逆転写酵素を用いてもよい。
また、TERTのリン酸化酵素による被リン酸化能を有する限り、TERTとして、当該NP_937983あるいはUniprot ID O14746-1として知られるアミノ酸配列と、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するTERTの誘導体を用いてもよい。
これら誘導体等を用いる場合には、T249は、当該NP_937983あるいはUniprot ID O14746-1として知られるアミノ酸配列と、アラインメントして最も相同性の高い配列において、T249に相当するスレオニン残基を意味する。好ましくは、これら誘導体等のアミノ酸配列におけるS/TPリン酸化モチーフのスレオニン残基を、NP_937983あるいはUniprot ID O14746-1として知られるアミノ酸配列のT249に対応するリン酸化部位として用いてよい。
【0015】
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)の断片としては、TERTのリン酸化酵素によるリン酸化を受けるリン酸化部位にあたるアミノ酸残基を有すれば特に限定されるものではない。
TERTの断片としては、例えば、リン酸化部位にあたるアミノ酸残基を有すれば特に限定されるものではないが、T249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基を有するTERTの部分アミノ酸配列を有する断片として挙げられ、例えば、ヒトTERTの191位~306位からなるアミノ酸配列を用いることが好適である。
また、TERTの断片としては、T249を含む断片であることが好ましく、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列のように、10アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する断片が挙げられる。
TERTの断片としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末であるTERTの245位~254位アミノ酸配列を有する断片と、TERTの191位~306位のアミノ酸配列を有する断片との鎖長において中間に位置する断片を挙げられる。
具体的には、TERTの部分断片として、リン酸化部位を含む少なくとも3アミノ酸残基からなる断片であってもよく、N末端を191位~245位のアミノ酸残基から選択し、C末端を254位~306位のアミノ酸残基から選択したアミノ酸配列を有するTERTの断片が挙げられる。
【0016】
TERTのリン酸化酵素としては、TERTのRdRP活性の起因となるTERTのリン酸化をするリン酸化酵素であれば特に限定されるものではないが、CDK1を好適に用いることができる。
CDK1の由来も特に限定されるものではなく、モデル動物として知られるラットやマウス等のげっ歯類、サル、イヌ、ウサギ、モルモット等の動物由来であってもよいが、ヒト由来のCDK1を用いることが好ましい。
また、CDK1としては、全長のCDK1を用いてもよいが、キナーゼ活性を有する限り、CDK1の断片となるアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。
【0017】
本発明のスクリーニング方法において、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片、及びテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化酵素以外に用いる試薬としては、通常のキナーゼアッセイに用いられる系としてもよく、当該アッセイ系の従来より公知のリン酸化試験を行うための試薬類が用いられる。少なくともテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片、及びテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化酵素を含むキットとしてもよく、キットには、上記試薬類を含んでいてもよい。
また、本発明のスクリーニング方法は、細胞系で行ってもよく、無細胞系で行ってもよい。
本発明のスクリーニング方法において用いられるテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)又はその断片、及びテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のリン酸化酵素等は、従来公知の方法により作成したものを使用してもよい。
例えば、細胞で発現させたタンパク質/ペプチドを従来公知の方法により精製してもよく、細胞で発現させ細胞系においてそのまま使用してもよく、遺伝子工学技術を組み合わせて大腸菌等で発現させて精製したタンパク質/ペプチドを用いてもよい。
【0018】
本発明においては、M期集積細胞を用いて行ってもよく、細胞をM期に集積させる方法は公知の方法に準じて行うことができる。
また、細胞としては、特に限定されるものではないが、がん組織に由来するがん細胞株を用いることが好適である。
がん細胞株としては、特に限定されないが、例えば、293T細胞、HeLa細胞、PEO1(ATCC)、PEO14(ATCC)、ES-2(ATCC)、Alex、HLE、HuH7細胞、及びU87MG等が挙げられる。
【0019】
TERT又はその断片のリン酸化を確認する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色法、免疫細胞染色、ドットブロッティング等の免疫学的に検出する方法が挙げられる。また、蛍光抗体法、免疫酵素抗体法(ELISA)、放射性物質標識免疫抗体法(RIA)、サンドイッチELISA法等により検出してもよい。
本発明のスクリーニング方法においては、TERT又はその断片を免疫沈降させ、Westernブロットにより確認する方法や、質量分析によりリン酸化が起こっていることを確認してもよい。
【0020】
TERT又はその断片のリン酸化を確認する場合に、かかるリン酸化されたアミノ酸残基を有するTERT又はその断片のアミノ酸配列を認識する抗体を用いることが好ましい。
当該抗体は、リン酸化されるアミノ酸残基を含むアミノ酸配列であって、当該アミノ酸残基がリン酸化されたペプチドを抗原として用いて、従来公知の方法により抗体を作製することができる。
かかる抗原としては、T249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基を有し、当該アミノ酸残基がリン酸化されているTERTの部分アミノ酸配列を有するペプチドを抗原とすることが好適である。
抗体を得る際には、例えば、アジュバンドを併用して用いたり、抗原となるTERTに由来するアミノ酸配列の5’末端に、Cを連結したペプチドを用いてKLHと結合させ免疫を賦活化させた抗原を用いてもよい。
抗体を産生させる動物も、特に限定されないため、リン酸化されたアミノ酸残基を有するTERTのアミノ酸配列を認識する抗体の由来も特に限定されない。
【0021】
本発明における抗体は、TERTに由来し、リン酸化されたアミノ酸配列を認識する抗体であり、当該リン酸化はTERTのRdRP活性を惹起するリン酸化である。
本発明における抗体は、リン酸化されているTERTを認識し得る。
本発明における抗体は、具体的には、配列番号1~4で示されるTERTに由来するアミノ酸配列を認識する抗体であることが好ましい。また、本発明における抗体は、配列番号5~8で示されるTERTに由来するアミノ酸配列を有するペプチドを、KLHに結合させたペプチドを抗原として得られる抗体でもある。
本発明における抗体は、TERTに由来し、リン酸化されたアミノ酸配列を認識する抗体であって、配列番号1~4で示されるTERTに由来するアミノ酸配列を認識し、各々が、配列番号5~8で示されるTERTに由来するアミノ酸配列を有するペプチドを、KLHに結合させたペプチドを抗原として得られる抗体であってよい。
なお、本発明における抗体は、配列番号1~4で示されるTERTに由来するアミノ酸配列を認識する抗体であれば、配列番号1~4で示されるTERTに由来するアミノ酸配列よりも鎖長の長いアミノ酸配列を有するペプチドを抗原として用いて、抗体を得てもよい。
【0022】
本発明における抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体は、当業者に周知の方法により、作成することも可能である。また、本発明における抗体については、キメラ抗体であってもよく、ヒト化抗体、ヒト抗体であってよい。
また、本発明においては、抗体の抗原結合フラグメントをも提供し得る。
抗原結合フラグメントとしては、VL、VH、CL、及びCH1領域からなるFab;2つのFabがヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されているF(ab’)2;VL及びVHからなるFv;VL及びVHを人工のポリペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体であるscFvのほか、diabody型、scDb型、tandem scFv型、ロイシンジッパー型等の二重特異性抗体等が挙げられる。
【0023】
本発明においては、ヒトTERTにおいて、特定のアミノ酸残基がリン酸化されていると予後不良であることが確認されている。
したがって、ヒトにおいて、かかるアミノ酸残基がリン酸化されているかを確認することにより、がん治療における予後不良を確認することができる。すなわち、TERTにおける特定のアミノ酸残基におけるリン酸化を、がん治療における予後不良予測因子とすることができる。
本発明においては、例えば、がん患者より、病変組織を取得し、免疫学的手法により染色して、染色陽性細胞が1視野において、例えば、5%以上、10%以上、20%以上存在していることをもって、がん治療における予後不良であると判断することができる。
【0024】
本発明は、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のT249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基がリン酸化されている場合に予後が不良であると評価する、がん治療の予後予測方法をも提供する。本発明における予後予測方法は、診断補助方法として用いてもよい。
本発明のがん治療の予後予測方法においては、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のT249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基がリン酸化されていることを確認するために、本発明のスクリーニング方法においてTERT又はその断片のリン酸化を確認する方法において用いられる方法を利用することができる。
また、TERTにおいて、T249、S255、T1088及びS1095のいずれかのアミノ酸残基がリン酸化されたTERT又はその断片を検出マーカーとすることもできる。
【0025】
本発明においては、TERTのRdRP活性が、TERTのリン酸化酵素によるTERTのリン酸化に起因することを確認している。
その過程で得られたTERTの変異体である、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のT249が、アラニン又はグルタミン酸に置換されているテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)は、T249A変異体(アラニン変異体)又はT249E変異体(グルタミン酸変異体)と表すことができる。
アラニン変異体は、がん細胞増殖を抑制する作用を有し、グルタミン酸変異体は、がん細胞増殖を亢進する作用を有する。
アラニン変異体については、がん細胞の増殖に必須の活性(RdRP活性)をドミナントネガティブに抑制する一方、テロメア伸長酵素活性はそのまま維持している。ここで、テロメア伸長酵素は「抗老化に働く」ことはよく知られているため、アラニン変異体は、がん抑制及び抗老化酵素と認識することもできる。
したがって、本発明により、アラニン変異体は、がん抑制・抗老化作用型TERTとして提供される。
本発明におけるT249A変異体(アラニン変異体)又はT249E変異体(グルタミン酸変異体)とは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドであって、249位スレオニンがアラニン又はグルタミン酸に変異されたペプチドであってもよく、249位スレオニンに相当するアミノ酸残基(好ましくは、S/TPリン酸化モチーフのスレオニン残基)がアラニン又はグルタミン酸に置換されていれば、配列番号17で表されるアミノ酸配列と、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。
また、本発明におけるT249A変異体(アラニン変異体)又はT249E変異体(グルタミン酸変異体)は、249位スレオニンに相当するアミノ酸残基(好ましくは、S/TPリン酸化モチーフのスレオニン残基)がアラニン又はグルタミン酸に置換されていれば、リン酸化モチーフのスレオニン残基)がアラニン又はグルタミン酸に置換されていれば、配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1又は数十個、好ましくは1又は数個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1又は2個のアミノ酸が付加、置換、又は欠失したアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。
上述の活性を有する限り、T249A変異体(アラニン変異体)又はT249E変異体(グルタミン酸変異体)の断片であってもよい。
【0026】
また、本発明においては、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のT249がリン酸化されたTERTをも提供する。
T249がリン酸化されたTERTは、治療標的として用いることができる。
本発明におけるTERTのT249がリン酸化されたTERTとは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を有するペプチドであって、249位スレオニンがリン酸化されたペプチドであってもよく、249位スレオニンに相当するアミノ酸残基(好ましくは、S/TPリン酸化モチーフのスレオニン残基)がリン酸化されていれば、配列番号17で表されるアミノ酸配列と、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。
また、本発明におけるTERTのT249がリン酸化されたTERTは、249位スレオニンに相当するアミノ酸残基(好ましくは、S/TPリン酸化モチーフのスレオニン残基)がアラニン又はグルタミン酸に置換されていれば、リン酸化モチーフのスレオニン残基)がアラニン又はグルタミン酸に置換されていれば、配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1又は数十個、好ましくは1又は数個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1又は2個のアミノ酸が付加、置換、又は欠失したアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。
249位スレオニンがリン酸化されていれば、TERTのT249がリン酸化されたTERTの断片であってもよい。
【実施例
【0027】
以下、実施例及び参考例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
Anti-hTERT pT249抗体の作製
1.ペプチド合成
下記「リン酸化hTERTの検出」における「(2)免疫沈降」後に、そこで得られたサンプルを用いて、質量分析により解析しリン酸化された2本のペプチドを同定した。同定したペプチドのアミノ酸配列において、リン酸化を受ける可能性のある箇所が4カ所存在したため、当該リン酸化を受ける可能性のあるアミノ酸残基を中心として、下記4つのアミノ酸配列を選択した。pT及びpSは、リン酸化スレオニン及びリン酸化セリンを意味する。
EPERpTPVGQG(配列番号1)
VGQGpSWAHPG(配列番号2)
RHRVpTYVPLL(配列番号3)
PLLGpSLRTAQ(配列番号4)
通常の方法により、配列番号5~8のアミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成した。質量分析にて目的物の分子量を確認し、HPLC精製にて純度>90%まで精製した。
hTERT T249 CEPERpTPVGQG(配列番号5)
hTERT S255 CVGQGpSWAHPG(配列番号6)
hTERT T1088 CRHRVpTYVPLL(配列番号7)
hTERT S1095 CPLLGpSLRTAQ(配列番号8)
なお、いずれのオリゴペプチドも、hTERTにおける部分配列を有する。オリゴペプチド有するアミノ酸配列は、いずれも、リン酸化部位と考えられたスレオニン又はセリンにおいてリン酸化されており、かつ、N末端には、C(システイン、Cys)を結合させたアミノ酸配列となっている。
2.KLH結合
KLH 8mgと、架橋剤EMCS 5mgを、アミノ基を介したビスイミドエステル法にて結合後、ゲルろ過精製した。次に、KLH‐EMCS複合体とペプチド4mgをCysのSH基を介して結合し、免疫源を確保した。
3.ウサギ抗血清作製
抗原感作は、Day0, 14, 28, 49に計4回実施した。リン酸化ペプチド量として、1回100μgを使用した。全工程感作部位は皮内、アジュバントはFCA(Freund complete adjuvant)使用した。Day 42に部分採血し、リン酸化ペプチドに対するELISA測定とウエスタンブロッティングを実施した。
4.特異抗体の精製(Affinity精製)
リン酸化ペプチド及び、非リン酸化ペプチド4~5mgを使用し、精製カラムを作成した。カラム担体は、CNBr-activated sepharose4Bを使用した。リン酸化ペプチドカラムに抗血清を通した。カラム吸着分画を溶出し、溶出分画を非リン酸化ペプチドカラムに通し、非リン酸化抗体を吸収した。非リン酸化素通り分画を回収し(リン酸化特異抗体)、回収した素通り画分はリン酸化及び、非リン酸化ペプチドでのELISAを実施し反応性を確認し、配列番号1~4のアミノ酸配列を認識する抗テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)抗体を得た。EPERpTPVGQG(配列番号1)のアミノ酸配列を認識する抗TERT抗体を、Anti-hTERT pT249抗体とした。
【0029】
リン酸化hTERTの検出(免疫沈降~Westernブロット)
(1)M期集積細胞の作成
10% 非働化ウシ胎児血清 (IFS)、Penicillin (100U/mL)及びStreptomycin (100μg/mL)を添加したDMEM培地 (Wako)を通常培地として、前日より培養したHela細胞(ATCC)を10cm dishあたり1x106個播種した。2日間培養した後、通常培地を、通常培地にThymidine (ナカライテスク、final 2.5mM)をさらに添加した培地に交換して培養した。24時間培養した後、細胞をPBS (phosphate buffered saline) 10mLで3回洗浄し、通常培地に交換して培養した。6時間培養した後、通常培地を、通常培地にNocodazole (Sigma、final 0.1μg/mL)がさらに入った培地に交換して培養した。14時間培養した後、細胞を回収した。
(2)免疫沈降
回収した細胞を冷却したPBSで洗浄後、1x107個を1mL Lysis buffer A (20mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl、0.5% Nonidet P-40 (NP-40))で懸濁、10秒間ソニケーション後遠心して上清を回収した。上清に40μL Protein A agarose (Thermo Fisher Scientific、bed volume 20μL)を加え4℃で30分ローテート、プレクリアを行った。遠心後上清を回収し40μL Protein A agarose (bed volume 20μL)と10μg 抗hTERT 抗体 (MBL M216-3)を加え4℃で18時間ローテートし免疫沈降した。免疫沈降後のagaroseは1mL Lysis buffer Aで3回洗浄した。
(3)λ-phophatase処理
免疫沈降、洗浄後の20μL agaroseに5μL λ-phosphatase (BioAcademia)、5μL 10xλ-phosphatase Buffer (500mM Tris-HCl (pH7.6)、1M NaCl、20mM dithiothreitol、1mM EDTA、0.1% Bryj 35)、5μL 20mM MnCl2、15μL H2Oを加え30℃で30分反応させた。結果を図1Aに示す。
(4)siRNAによる蛋白ノックダウンM期集積細胞の作成方法
10% IFSを添加したDMEM培地 (Wako)を培地 (8mL)として、HeLa細胞を10cm dishあたり1x106個播種し、16-18時間培養後siRNAをトランスフェクションした。
具体的には、以下の方法に依った。
1. Lipofectamine2000 (Invitrogen) 20μLを1mL Opti-MEMに加えた。
2. siRNA 330pmolを1mL Opti-MEM (Gibco)に加えた。
3. 1と2を混ぜ室温で20分おき10cm dishに滴下した。
トランスフェクションから48時間後Nocodazole (final 0.1μg/mL)の入った培地に換え、16~18時間培養後、細胞を回収した。この細胞を用いた結果を図1B及び図2に示す。
siRNAとしては、表1に示すものを用いた。
【0030】
【表1】
【0031】
(5)Westernブロット
免疫沈降後のagaroseに2XSDS buffer (100mM Tris-HCl(pH6.8)、4%(w/v) SDS、20%(v/v) glycerol、2%(v/v) 2-mercaptoethanol、0.01%(w/v) bromophenol blue) 20μLを加え95℃5分変性した後、SDS PAGEにより分離し、ウエット型トランスファー装置 (GE Healthcare)を用いてニトロセルロースメンブレンに転写した(4℃、18時間)。転写後のメンブレンはブロッキングバッファー (TOYOBO NYPBR01)で室温1時間ブロッキング後、0.1% Tween20を含むトリス塩酸バッファー (TBST)で洗浄し、Anti-hTERT pT249抗体 (1:1000希釈)、室温で1時間反応させ、TBSTで洗浄、さらに抗ウサギIgG-HRP抗体 (GE Helthcare)を室温1時間反応させ、TBSTで洗浄後ECL試薬 (Roche、Lumi Light Plus Wetern Blotting Substrate)で検出した。抗体希釈液は2.5% ウシ血清アルブミン (BSA)を含むTBSTを用いた。結果を図1A、1B及び2Aに示す。
【0032】
IP-RdRP 活性測定法
Mol Cell Biol 34: 1576-1593, 2014、Mol Cell Biol 36: 1248-1259, 2016に記載の方法に準じて、行った。結果を図2Bに示す。
【0033】
hTERT 191-306を用いての試験管内キナーゼアッセイ
(1)hTERT (191-306)の精製
hTERT[NP_937983 (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_937983.2)、あるいはUniprot ID O14746-1 (http://www.uniprot.org/uniprot/O14746)]のTERT191-306アミノ酸部位に対応するcDNAをpCR2.1-TOPO vector (ThermoFisher Scientific)に導入、無細胞系転写翻訳システム[J Biochem. 2017 Nov 1;162(5):357-369]を用いて、タンパク質を発現させた。発現タンパクはN末端にpoly-histidine N11-tagが標識されていることからHisTrap columns (GE Healthcare)を利用しAKTA 10S system (GE Healthcare)にてN11-tagged hTERT (191-306)を精製した。具体的には濃度勾配buffer (50mM Tris-HCl(pH 8.0)、1M NaCl、10mM imidazole)にて洗浄後、imidazole (from 10 to 500 mM)の濃度勾配を有する溶出buffer (50mM Tris-HCl (pH 8.0)、0.5M NaCl)で溶出した。Imidazole は透析により除去した。N末端にpoly-histidine N11-tag は人為的に導入されているTEV (Tobacco Etch virus)プロテアーゼ認識部位を利用しTEVプロテアーゼにより除去した。この標品をHiTrap SP column (GE Healthcare)によるイオン交換クロマトグラフィーとHiLoad 16/600 Superdex columns (GE Healthcare)によるゲル濾過により精製した。精製タンパク標品を含むbufferの最終濃度は、25 mMTris-HCl buffer (pH 7.0)、450 mM NaCl及び0.25mM TCEP [Tris(2-carboxyethyl) phosphine hydrochloride]であった。
(2)試験管内キナーゼアッセイのCDK1に変わる陰性コントロールとして用いたIKK2(2-664)の精製
IKK2 [Approved HGNC name, IKBKB; HGNC ID, 5960; UniProtKB ID, O14920]の2-664アミノ酸部位に対応するcDNAをpDEST vector (Thermo Fisher Scientific)に導入、Bac-to-Bac Baculovirus Expression System (Thermo Fisher Scientific)を用いてタンパク質を発現させた。Polyhistidineaffinity標識IKK2 (2-664)は、昆虫細胞Sf9 cellsにおいてmultiplicity of infection (MOI) 1.0にてバキュロウイルスを感染させ発現させた。感染後48時間で細胞を回収し PBS洗浄後に液体窒素にて凍結保存後、下記論文に従い精製した。[J Biol Chem. 2013 Aug 2;288(31):22758-67.]
(3)試験管内キナーゼアッセイ
精製したhTERT (191-306)とCDK1-cyclin B (New England Biolabs)を用いて37℃で2時間キナーゼアッセイを行った。
反応液 (40μL)の組成は次の通りとした。
hTERT 191-306 [0.33μg/μL(25.86μM)] 16μL
10X NEBuffer(50mM Tris-HCl (pH7.5)、10mM MgCl2、0.1mM EDTA、2mM DTT、0.01% Brij 35) 4μL
CDK1-cyclin B (20 units/μL) 6μL or H2O 6μL
H2O 12.5μL
125mM ATP(Sigma、adenosine triphosphate) 1.5μL or H2O 1.5μL
反応後のサンプル10μLに2.5X SDS sample buffer (140mM Tris-HCl(pH 6.8)、5%(w/v) SDS、250mM DTT、15%(v/v) glycerol、0.01% (w/v) bromophenol blue) 10μLを加え95℃に3分置き蛋白を変性させた後、10μLをPhos-tag SDS-PAGE (http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/product/life/phos-tag/pdf/Phos-tag4.pdf)で分離し(hTERTの最終濃度が約0.6 μg/Laneとなるように調整した)、クマシーで染色した。結果を図3に示す。
(4)リン酸化サイトの確認(質量分析)
図3の第2レーンの星印及び第3レーンの星印を示したバンド部分を切り出しtrypsin (Promega)により37℃で20時間、消化反応させた。反応後のpeptide標品をLC-ESI-MS/MSにより解析した。
(5)Anti-hTERTpT249によるWestern Blot
CDK1/CycB1あるいはIKK2_2-664と反応させたhTERT 191-306 5μLをSDS PAGEにより分離した後、ウエット型トランスファー装置を用いてニトロセルロースメンブレンに転写した。転写後のメンブレンは前述の方法でAnti-hTERTpT249抗体によりリン酸化hTERTを検出した。結果を図3に示す。
【0034】
A変異体、E変異体発現細胞の増殖能
A変異体、E変異体プラスミドの作成はQuikChange II XL site-directed mutagenesis Kit (Agilent Technologies)を使用し、推奨プロトコールに従い実施した。
A変異体は、
5’-agccggagcgggcgcccgttggg-3’ (配列番号13 Forward)
及び
5’-cccaacgggcgcccgctccggct-3’ (配列番号14 Reverse)
を、E変異体は、
5’-tgagccggagcgggagcccgttgggcag-3’ (配列番号15 Forward)
及び
5’-ctgcccaacgggctcccgctccggctca-3’ (配列番号16 Reverse)
をそれぞれプライマーとし、pBABE-puro-hTERT retroviral vector又はpNK-FLAG-z-hTERT expression vectorを鋳型としてPCRを実施した。PCR産物を制限酵素Dpn Iで37℃1時間処理し、XL-10-Gold ultracompetent cellsに形質転換した。得られたT249A変異体(A変異体)、T249E変異体(E変異体)についてのテロメラーゼ活性及びRdRP活性について試験した結果を図4に示す。
Saos2、HCC-MT、PEO1及びPEO14各細胞株にレトロウイルスベクター (TaKaRa、Retrovirus Packaging Kit Ampho)により、得られたT249A変異体、T249E変異体を導入した。各導入細胞を24wellプレートに各細胞20000個/well (HCC-MTのみ7000個/well)を播種し細胞数を経時的に測定することにより増殖能を確認した。結果を図5に示す。
Saos2、HCC-MTの培地としては、10% IFS、Penicillin (100U/mL)及びStreptomycin (100μg/mL)を添加したDMEM培地 (Wako)を用いた。
PEO1、PEO14の培地としては、10% IFS、Penicillin (100U/mL)、Streptomycin (100μg/mL)及びSodium Pyruvate (2mM)を添加したRPMI-1640培地 (Sigma)を用いた。
【0035】
肝臓がん、膵臓がん患者検体の免疫染色による臨床情報解析
Envision+ kits (Dako)を用いて、添付の手順書に従って染色した。ホルマリン固定後パラフィン包埋薄切患者検体を脱パラフィン再親水化処理後、クエン酸バッファー (DAKO、pH6)を用いてオートクレーブ処理 (120℃、5分間)にて抗原賦活処理をした。Kitに添付の、ブロッキングバッファーにて15分間処理後、Anti-hTERT pT249抗体 (1:250)を4℃、8時間反応させ、Kitに添付のDAB+ substrate chromogenで可視化させて鏡検した。200倍拡大での鏡検下で、染色陽性細胞が1視野に10%以上ある検体を「陽性検体」と判定した。結果を図6及び7に示す。
【0036】
CRISPR-Cas9ゲノム編集技術を用いた、リン酸化不活性型アミノ酸置換変異293T細胞株の作製
293T細胞株の、内在性のhTERTタンパク質のスレオニン249を、CRISPR-Cas9ゲノム編集技術を用いて、リン酸化不活性型アミノ酸であるアラニンに置換したT249A-CRISPR細胞株を作製した。始めに、ゲノム編集酵素であるCas9を発現するプラスミドベクター (PuroCas9)に、hTERTのスレオニン249近辺を標的とするガイドRNAの配列(AGCCGGAGCGGACGCCCGTTGGG 配列番号20 下線を付したACGはスレオニンをコードするコドン)を導入し、PuroCas9-hTERTを作製した。また、スレオニン249をアラニンに置換するため、標的アミノ酸部位 (スレオニンをコードするACGをアラニンをコードするGCCに置換)を含む223塩基のhTERT DNAをドナーベクターに導入した。これら2種のプラスミドベクター (PuroCas9-hTERT及びドナーベクター)を、遺伝子導入試薬FuGene HDを用いて、293T細胞に導入した。コントロール細胞 (Control-CRISPR)は、PuroCas9のみを導入した。PuroCas9はピューロマイシン耐性遺伝子を含むため、導入された細胞はピューロマイシン耐性を持つ。プラスミドベクターを導入した細胞を、ピューロマイシン処理による薬剤選択後、シングルセルを単離した。単離した細胞のゲノムDNAを抽出し、制限酵素による切断及びサンガーシークエンス法により、標的部位の配列置換を確認した。結果を図8及び9に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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