(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】電気化学セル、電気化学セルスタックおよび電気化学セル用電解質
(51)【国際特許分類】
H01M 8/126 20160101AFI20230626BHJP
H01M 8/1253 20160101ALI20230626BHJP
H01M 8/2432 20160101ALI20230626BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20230626BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20230626BHJP
C25B 9/00 20210101ALN20230626BHJP
C25B 11/03 20210101ALN20230626BHJP
C25B 13/04 20210101ALN20230626BHJP
【FI】
H01M8/126
H01M8/1253
H01M8/2432
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M4/90 M
H01M4/90 X
C25B9/00 A
C25B11/03
C25B13/04 301
(21)【出願番号】P 2020048003
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-03-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-197742(JP,A)
【文献】特開2019-008914(JP,A)
【文献】特開2016-170976(JP,A)
【文献】特開2017-069214(JP,A)
【文献】特開2014-071937(JP,A)
【文献】特開2006-302602(JP,A)
【文献】特開2017-117663(JP,A)
【文献】特許第5770400(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
H01M 8/24
H01M 4/90
C25B 1/00
C25B 9/00
C25B 11/00
C25B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素極と、
酸素極と、
前記水素極と前記酸素極との間の電解質と、を備え、
前記電解質は、
蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料と、
安定化ジルコニア系材料と、を含有し、
前記電解質は、
前記水素極の近傍に位置し、前記セリア系材料を含有する第1電解質と、
前記酸素極の近傍に位置し、前記セリア系材料を含有する第2電解質と、
前記第1電解質と前記第2電解質との間に位置し、前記安定化ジルコニア系材料を含有する第3電解質と、を有
し、
前記第1電解質および前記第2電解質の厚さは、前記第3電解質の厚さの1/2以下である、
電気化学セル。
【請求項2】
前記セリア系材料は、Gd、SmおよびYから選択される少なくとも一種類の酸化物をドープしたドープセリアであり、
前記ジルコニア系材料は、YおよびScから選択される少なくとも一種類の酸化物で安定化した安定化ジルコニアである、請求項
1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記酸素極は、ABO
3型のペロブスカイト酸化物を含有し、前記ペロブスカイト酸化物のうち、Aサイトを構成する元素が、La、Ba、SrおよびCaから選択される少なくとも一種類の元素であり、Bサイトを構成する元素が、Mn、Co、FeおよびNiから選択される少なくとも一種類の元素である、請求項1
または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記水素極は、ニッケル、コバルト、鉄および銅からなる群から選択される少なくとも一種類の金属を含有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
積層された複数の電気化学セルを備え、
前記複数の電気化学セルのそれぞれは、
水素極と、
酸素極と、
前記水素極と前記酸素極との間の電解質と、を有し、
前記電解質は、
蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料と、
安定化ジルコニア系材料と、を含有し、
前記電解質は、
前記水素極の近傍に位置し、前記セリア系材料を含有する第1電解質と、
前記酸素極の近傍に位置し、前記セリア系材料を含有する第2電解質と、
前記第1電解質と前記第2電解質との間に位置し、前記安定化ジルコニア系材料を含有する第3電解質と、を有
し、
前記第1電解質および前記第2電解質の厚さは、前記第3電解質の厚さの1/2以下である、
電気化学セルスタック。
【請求項6】
蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料と、
安定化ジルコニア系材料と、を備える、電気化学セル用電解質であり、
前記電気化学セル用電解質は、
電気化学セルの水素極の近傍に位置され、前記セリア系材料を含有する第1電解質と、
前記電気化学セルの酸素極の近傍に位置され、前記セリア系材料を含有する第2電解質と、
前記第1電解質と前記第2電解質との間に位置され、前記安定化ジルコニア系材料を含有する第3電解質と、を有
し、
前記第1電解質および前記第2電解質の厚さは、前記第3電解質の厚さの1/2以下である、
電気化学セル用電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明による実施形態は、電気化学セル、電気化学セルスタックおよび電気化学セル用電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物電気化学セル(SOC:Solid Oxide Cell)は、作動温度が高い(600~1000℃)ため、高価な貴金属触媒を用いなくても十分な反応速度を得ることができる。このため、固体酸化物電気化学セルは、固体酸化物燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)として動作する場合に、他のタイプの燃料電池と比較して最も発電効率が高く、CO2の発生も少ないため、次世代のクリーンな発電システムとして期待されている。また、固体酸化物電気化学セルは、高温水蒸気電解セル(SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell)として動作する場合に、その高い動作温度によって原理的に低い電解電圧で水素を製造することが可能であるため、高効率水素製造装置としても期待されている。さらには、固体酸化物電気化学セルおよび高温水蒸気電解セルを用いた電力貯蔵システムとしての利用も検討されている。
【0003】
固体酸化物電気化学セルは、電解質と、電解質の一方側に設けられた水素極と、電解質の他方側に設けられた酸素極とを有する。水素極は、固体酸化物燃料電池においては水素消費極として機能し、高温水蒸気電解セルにおいては水素発生極として機能する。酸素極は、固体酸化物燃料電池においては酸素消費極として機能し、高温水蒸気電解セルにおいては酸素発生極として機能する。電解質としては、高い導電率を有する安定化ジルコニア系の電解質や、ランタンーガリウム系酸化物(LaGaO3系)が一般的に用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体酸化物電気化学セルの特性は、電極触媒の活性と、端子間のオーム抵抗に依存する抵抗損失により決定され、抵抗損失の大部分は、電解質のイオン伝導性に起因する。さらに、電解質のイオン伝導性が向上すると、電極の触媒活性が向上してセルの特性が向上する。
【0006】
しかしながら、従来の固体酸化物電気化学セルにおいては、主にセラミックス材料を使用し、電解質として安定化ジルコニア系やLaGaO3系材料を用いていた。このため、酸素極側と水素極側との間の酸素ポテンシャル差により、電解質材料である酸化物の還元が進行して酸化物の結晶構造が変化することで、電解質のイオン伝導性が低下してしまっていた。イオン伝導性が低下することで、セル性能が低下してしまっていた。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、イオン伝導性の低下を抑えることで所望のセル性能を維持することができる電気化学セル、電気化学セルスタックおよび電気化学セル用電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態による電気化学セルは、水素極と、酸素極と、水素極と酸素極との間の電解質と、を備える。電解質は、蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料と、安定化ジルコニア系材料と、を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態による固体酸化物形電気化学セルを示す断面図である。
【
図2】第2の実施形態による固体酸化物形電気化学セルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で参照する模式図は、各構成の位置関係を示す図であり、各構成の寸法比等は実際のものと必ずしも一致するものではない。また、各実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、電気化学セルの一例として、第1の実施形態による固体酸化物形電気化学セル1を示す断面図である。
図1に示される固体酸化物形電気化学セル1は、固体酸化物燃料電池(SOFC)または高温水蒸気電解セル(SOEC)として利用することができる。固体酸化物形電気化学セル1は、複数積層されることで固体酸化物形電気化学セルスタックを構成することができる。
【0012】
第1の実施形態による固体酸化物形電気化学セル1は、水素極支持型の平板型の固体酸化物形電気化学セルである。
図1に示すように、固体酸化物形電気化学セル1は、水素極110と、酸素極130と、水素極110と酸素極130との間の電解質120とを備える。すなわち、固体酸化物形電気化学セル1は、水素極110、電解質120および酸素極130が順に積層された積層構造を有する。また、水素極110に対して電解質120の反対側および酸素極130に対して電解質120の反対側には、集電体140がそれぞれ設けられている。なお、必要に応じて、電解質120と酸素極130の間に反応防止層を設けても良い。以下、固体酸化物形電気化学セル1の各構成部について更に詳しく説明する。
【0013】
(水素極110)
水素極110は、多孔質構造を有する電極である。水素極110は、固体酸化物形電気化学セル1を固体酸化物燃料電池として用いる場合には水素消費極として機能し、固体酸化物形電気化学セル1を高温水蒸気電解セルとして用いる場合には水素発生極として機能する。水素極110は、電解質120と反対側に位置する水素極支持体と、電解質120側に位置する水素極活性層とによって構成されていてもよい。
【0014】
水素極110としては、例えば、金属粒子と金属酸化物を含む焼結体を用いることができる。この焼結体に粒子として含まれ、又は酸化物に固溶している金属としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄および銅からなる群から選択される少なくとも一種類の金属、もしくはそれらを含む合金を好適に用いることができる。また、金属酸化物としては、例えば、Y2O3、Sc2O3、Yb2O3、Gd2O3、CaO、MgOおよびCeO2等からなる群から選択される少なくとも一種類の安定化剤が固溶された安定化ジルコニアや、Sm2O3、Gd2O3およびY2O3等からなる群から選択される少なくとも一種類の酸化物とCeO2とが固溶したドープセリア等を好適に用いることができる。
【0015】
(電解質120)
電解質120は、水素極110と酸素極130との間において、作動イオンとして酸素イオンO2-を伝導させる。
【0016】
電解質120は、蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料と、安定化ジルコニア系材料と、を含有する。
【0017】
セリア系材料としては、例えば、Sm2O3、Gd2O3およびY2O3等からなる群から選択される少なくとも一種類の酸化物とCeO2が固溶したドープセリアを好適に用いることができる。
【0018】
安定化ジルコニア系材料としては、例えば、Y2O3、Sc2O3、Yb2O3、Gd2O3、CaO、MgOおよびCeO2等からなる群から選択される少なくとも一種類の安定化剤が固溶された安定化ジルコニアを好適に用いることができる。
【0019】
電解質120は、更に、Ln1-xAxBO3-δで表されるペロブスカイト酸化物を含有していてもよい。ペロブスカイト酸化物のLnは、例えば、Laなどの希土類元素である。Aは、例えば、Sr、Ca、Ba等である。Bは、例えば、Ga、Cr、Mn、Co、FeおよびNi等から選択される少なくとも一種類の金属である。なお、ペロブスカイト酸化物のxとδは、0≦x≦1、0≦δ≦1を満たす。
【0020】
(酸素極130)
酸素極130は、多孔質構造を有する電極である。酸素極130は、固体酸化物形電気化学セル1を固体酸化物燃料電池として用いる場合には酸素消費極として機能し、固体酸化物形電気化学セル1を高温水蒸気電解セルとして用いる場合には酸素発生極として機能する。
【0021】
酸素極130はペロブスカイト酸化物を含む焼結体で構成される。ペロブスカイト酸化物は、主として、Ln1-xAxB1-yCyO3-δで表される。Lnは、例えば、Laなどの希土類元素である。Aは、例えば、Sr、Ca、Ba等である。B及びCは、例えば、Cr、Mn、Co、Fe、Ni等である。なお、ペロブスカイト酸化物のx、yとδは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦δ≦1を満たす。
【0022】
酸素極130には、ペロブスカイト酸化物の他に、Sm2O3、Gd2O3およびY2O3等からなる群から選択される少なくとも一種類の酸化物をCeO2にドープしたセリアをさらに含有してもよい。
【0023】
第1の実施形態によれば、電解質120が蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料と、安定化ジルコニア系材料との双方を含有することで、安定化ジルコニア系材料のみを含有する場合と比較してイオンO2-の伝導性の低下を抑えることができる。イオン伝導性の低下を抑えることで、固体酸化物形電気化学セル1が所望の特性を維持することができる。
【0024】
また、第1の実施形態によれば、セリア系材料として、Gd、SmおよびYから選択される少なくとも一種類の酸化物をドープしたドープセリアを適用し、ジルコニア系材料として、YおよびScから選択される少なくとも一種類の酸化物で安定化した安定化ジルコニアを適用することで、イオン伝導性の低下を効果的に抑えることができる。
【0025】
また、第1の実施形態によれば、酸素極130が、ABO3型のペロブスカイト酸化物を含有し、ペロブスカイト酸化物のうち、Aサイトを構成する元素が、La、Ba、SrおよびCaから選択される少なくとも一種類の元素であり、Bサイトを構成する元素が、Mn、Co、FeおよびNiから選択される少なくとも一種類の元素であることで、イオン伝導性の低下を効果的に抑えることができる。
【0026】
また、第1の実施形態によれば、水素極110が金属粒子および金属酸化物を含有し、金属酸化物が、ニッケル、コバルト、鉄および銅からなる群から選択される一種類以上の金属を含有することで、イオン伝導性の低下を効果的に抑えることができる。
【0027】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態による固体酸化物形電気化学セル1を示す断面図である。
図2に示すように、第2の実施形態による固体酸化物形電気化学セル1は、第1の実施形態に対して電解質120の構成が相違し、その他の構成が共通する。
【0028】
第2の実施形態において、電解質120は、第1電解質の一例である水素極近傍電解質121と、第3電解質の一例である中央部電解質122と、第2電解質の一例である酸素極近傍電解質123と、を有する。電解質120は、水素極近傍電解質121、中央部電解質122および酸素極近傍電解質123が順に積層された積層構造を有する。
【0029】
水素極近傍電解質121は、水素極110の近傍に位置し、蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料を含有する。水素極近傍電解質121を構成するセリア系材料としては、例えば、Sm2O3、Gd2O3およびY2O3等からなる群から選択される少なくとも一種類の酸化物とCeO2が固溶したドープセリアを好適に用いることができる。
【0030】
中央部電解質122は、水素極近傍電解質121と酸素極近傍電解質123との間に位置し、安定化ジルコニア系材料を含有する。中央部電解質122を構成する安定化ジルコニア系材料としては、例えば、Y2O3、Sc2O3、Yb2O3、Gd2O3、CaO、MgOおよびCeO2等からなる群から選択される少なくとも一種類の安定化剤が固溶された安定化ジルコニアを好適に用いることができる。
【0031】
酸素極近傍電解質123は、酸素極130の近傍に位置し、蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料を含有する。酸素極近傍電解質123を構成するセリア系材料としては、例えば、Sm2O3、Gd2O3およびY2O3等からなる群から選択される少なくとも一種類の酸化物とCeO2が固溶したドープセリアを好適に用いることができる。
【0032】
水素極近傍電解質121および酸素極近傍電解質123のそれぞれの厚さは、中央部電解質122の厚さの1/2以下であってもよい。このように構成することで、中央部電解質122が薄すぎることで水素極110と酸素極130との短絡が生じることを抑制することができる。なお、水素極近傍電解質121および酸素極近傍電解質123のそれぞれの厚さが、中央部電解質122の厚さの1/2以下であることは、電解質120の成分を分析することで把握することができる。
【0033】
第2の実施形態によれば、電解質120が、蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料を含有する水素極近傍電解質121と、安定化ジルコニア系材料を含有する中央部電解質122と、蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料を含有する酸素極近傍電解質123とで構成される三層構造を有することで、イオン伝導性の低下を効果的に抑えることができる。
【0034】
以下、実施例を用いて固体酸化物形電気化学セル1のより詳細な構成および作用効果について説明する。
【0035】
(実施例1)
実施例1による固体酸化物形電気化学セル1は、以下の製法で作製した。先ず、酸化ニッケル(NiO)と、(Gd2O3)0.1(CeO2)0.9の組成になるようにGd2O3をドープしたセリア(GDC10)とを重量比6:4で混合した粉末からペーストを作製し、作製したペーストをシート化して水素極基体前駆体を作製した。
【0036】
水素極基体前駆体を作製した後、水素極基体前駆体上に、順に、水素極活性層前駆体としてのNiOとGDCとの混合物と、水素極近傍電解質121としてのGDC10と、中央部電解質122としてのイットリア安定化ジルコニアとを形成することで、積層体を作製した。
【0037】
積層体を作製した後、1200℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで積層体を焼成した。
【0038】
積層体を焼成した後、焼結した積層体上に酸素極近傍電解質123としてGDC10を形成し、1000℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで焼成した。なお、酸素極近傍電解質123は、積層体と同時焼成してもよい。
【0039】
その後、酸素極130として、La(Sr)Co(Fe)O3-δ(LSCF)を900℃以上1200℃以下の範囲内で焼成することで、実施例1の固体酸化物型電気化学セル1を作製した。
【0040】
このようにして作製した実施例1の固体酸化物型電気化学セル1を、出力特性評価装置に設置し、700℃以上で水素極側に乾燥水素を、酸素極側に体積比で4:1で混合したN2/O2混合気体を流し、水素極基体前駆体および水素極活性層前駆体を還元して水素極基体および水素極活性層を形成した。
【0041】
出力特性評価装置は、水素極側の水蒸気濃度を制御し、固体酸化物型電気化学セル1をSOFCモードおよびSOECモードで動作させ、その際のI(電流)-V(電圧)特性を評価することができる。このような出力特性評価装置を用いて、既述した還元反応を行って水素極基体および水素極活性層を形成した後、測定温度で固体酸化物形電気化学セル1をSOECとして作動させて初期のIV特性評価を行った。
【0042】
(実施例2)
実施例2による固体酸化物形電気化学セル1は、以下の製法で作製した。先ず、酸化ニッケル(NiO)と、(Gd2O3)0.1(CeO2)0.9の組成になるようにGd2O3をドープしたセリア(GDC10)とを、重量比6:4で混合した粉末からペーストを作製し、作製したペーストをシート化して水素極基体前駆体を作製した。
【0043】
水素極基体前駆体を作製した後、水素極基体前駆体上に、順に、水素極活性層前駆体としてNiOとGDCとの混合物と、水素極近傍電解質121としての(Gd2O3)0.2(CeO2)0.8(GDC20)と、電解質122としてのイットリア安定化ジルコニアとを形成することで、積層体を作製した。
【0044】
積層体を作製した後、1200℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで積層体を焼成した。
【0045】
積層体を焼成した後、焼結した積層体上に酸素極近傍電解質123としてGDC20を形成し、1000℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで焼成した。なお、酸素極近傍電解質123は積層体と同時焼成してもよい。
【0046】
その後、酸素極130として、La(Sr)Co(Fe)O3-δ(LSCF)を900℃以上1200℃以下の範囲内で焼成することで、実施例2の固体酸化物型電気化学セル1を作製した。
【0047】
このようにして作製した実施例2の固体酸化物型電気化学セル1を、出力特性評価装置に設置し、実施例1と同様に、水素極基体前駆体および水素極活性層前駆体を還元して水素極基体および水素極活性層を形成した後に、初期状態のIV特性評価試験を行った。
【0048】
(実施例3)
実施例3による固体酸化物形電気化学セル1は、以下の製法で作製した。先ず、酸化ニッケル(NiO)と、(Gd2O3)0.1(CeO2)0.9の組成になるようにGd2O3をドープしたセリア(GDC10)とを、重量比6:4で混合した粉末からペーストを作製し、作製したペーストをシート化して水素極基体前駆体を作製した。
【0049】
水素極基体前駆体を作製した後、水素極基体前駆体上に、順に、水素極活性層前駆体としてNiOとGDCとの混合物と、水素極近傍電解質121としての(Sm2O3)0.2(CeO2)0.8(SDC20)と、電解質122としてイットリア安定化ジルコニアとを形成することで、積層体を作製した。
【0050】
積層体を作製した後、1200℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで積層体を焼成した。
【0051】
積層体を焼成した後、焼結した積層体上に酸素極近傍電解質123としてSDC20を形成し、1000℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで焼成した。なお、酸素極近傍電解質123は積層体と同時焼成してもよい。
【0052】
その後、酸素極130として、La(Sr)Co(Fe)O3-δ(LSCF)を900℃以上1200℃以下の範囲内で焼成することで、実施例3の固体酸化物型電気化学セル1を作製した。
【0053】
このようにして作製した実施例3の固体酸化物型電気化学セル1を、出力特性評価装置に設置し、実施例1と同様に、水素極基体前駆体および水素極活性層前駆体を還元して水素極基体および水素極活性層を形成した後に、初期状態のIV特性評価試験を行った。
【0054】
(実施例4)
実施例4による固体酸化物形電気化学セル1は、以下の製法で作製した。先ず、酸化ニッケル(NiO)と、(Gd2O3)0.1(CeO2)0.9の組成になるようにGd2O3をドープしたセリア(GDC10)とを、重量比6:4で混合した粉末からペーストを作製し、作製したペーストをシート化して水素極基体前駆体を作製した。
【0055】
水素極基体前駆体を作製した後、水素極基体前駆体上に、順に、水素極活性層前駆体としてNiOとGDCとの混合物と、水素極近傍電解質121としての(Y2O3)0.2(CeO2)0.8(YDC20)と、電解質122としてのイットリア安定化ジルコニアとを形成することで、積層体を作製した。
【0056】
積層体を作製した後、1200℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで積層体を焼成した。
【0057】
積層体を焼成した後、焼結した積層体上に酸素極近傍電解質123としてYDC20を形成し、1000℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで焼成した。なお、酸素極近傍電解質123は積層体と同時焼成してもよい。
【0058】
その後、酸素極130として、La(Sr)Co(Fe)O3-δ(LSCF)を900℃以上1200℃以下の範囲内で焼成することで、実施例4の固体酸化物型電気化学セル1を作製した。
【0059】
このようにして作製した実施例4の固体酸化物型電気化学セル1を、出力特性評価装置に設置し、実施例1と同様に、水素極基体前駆体および水素極活性層前駆体を還元して水素極基体および水素極活性層を形成した後に、初期状態のIV特性評価試験を行った。
【0060】
(比較例1)
比較例1による固体酸化物形電気化学セル1は、以下の製法で作製した。先ず、酸化ニッケル(NiO)と、(Gd2O3)0.1(CeO2)0.9の組成になるようにGd2O3をドープしたセリア(GDC10)とを重量比6:4で混合した粉末からペーストを作製し、作製したペーストをシート化して水素極基体前駆体を作製した。
【0061】
水素極基体前駆体を作製した後、水素極基体前駆体上に、順に、水素極活性層前駆体としてのNiOとGDCとの混合物と、電解質120としてのイットリア安定化ジルコニアとを形成することで、積層体を作製した。
【0062】
積層体を作製した後、1200℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで積層体を焼成する。
【0063】
積層体を焼成した後、焼結した積層体上に反応防止層としてGDC10を形成し、1000℃以上1500℃以下の条件で、各層内及び各層間が十分な強度になるまで焼成した。
【0064】
その後、酸素極130として、La(Sr)Co(Fe)O3-δ(LSCF)を900℃以上1200℃以下の範囲内で焼成することで、比較例1の固体酸化物形電気化学セル1を作製した。
【0065】
このようにして作製した比較例の固体酸化物型電気化学セル1を、出力特性評価装置に設置し、実施例1と同様に、水素極基体前駆体および水素極活性層前駆体を還元して水素極基体および水素極活性層を形成した後に、初期状態のIV特性評価試験を行った。
【0066】
(初期IV特性評価試験の結果)
実施例1~4および比較例1についてのEC(Electrolysis Cell)モードおよび同一セル電圧での電流密度を表1に示す。
【表1】
【0067】
表1に示すように、実施例1~3の初期状態の初期IV特性評価結果はほぼ一致し、三層構造電解質の効果が良好に見られ、電気化学セルの性能/活性が再現できている。実施例4については、YDC20のイオン伝導性がGDC10、GDC20、SDC20に比べ低いため、若干の性能の低下が見られるが、大きな抵抗増大は無く、三層構造電解質の効果が見られている。他方、比較例1については、セル抵抗および過電圧が大きくなっており、セル性能の低下を導いたと考えられる。
【0068】
これにより、電解質が蛍石型の結晶構造を有するセリア系材料と安定化ジルコニア系材料との双方を含有することでイオン伝導性の低下が抑えられることが実証された。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0070】
1 固体酸化物形電気化学セル、110 水素極、120 電解質、130 酸素極