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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】電気バッテリの欠陥セルを検出する方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20230626BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230626BHJP
   G01R 31/3835 20190101ALI20230626BHJP
   G01R 31/396 20190101ALI20230626BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
H02J7/00 P
H02J7/00 S
H01M10/48 P
G01R31/3835
G01R31/396
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020538032
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2019050970
(87)【国際公開番号】W WO2019141688
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】1850345
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ドロベル, ブリュノ
(72)【発明者】
【氏名】折口 正人
(72)【発明者】
【氏名】アルサック, ブノワ
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-060803(JP,A)
【文献】特開2007-113953(JP,A)
【文献】特開平11-149944(JP,A)
【文献】特開2012-098212(JP,A)
【文献】特開2013-160582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/011820(US,A1)
【文献】国際公開第2015/037292(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H01M 10/00 - 10/34
H01M 10/42 - 10/48
G01R 31/36 - 31/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気バッテリパックの異常セルを検出する方法であって、
前記バッテリパックの各セルの端子間の無負荷電圧を測定するステップと、
前記セルの端子間で測定した前記無負荷電圧と前記バッテリパックを使用しない日数に応じて決まる既知の平均無負荷電圧との偏差を計算するステップと、
計算した前記偏差と変数n.σとの差を計算するステップであって、nが1以上の整数であり、σが前記バッテリパックを使用しない日数に応じて決まる既知の標準偏差である、計算した前記偏差と変数n.σとの差を計算するステップと、
前記差がゼロより大きい場合に、異常セルを検出するステップと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
nが、2から10の整数であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
異常セルが検出された場合の警報ステップを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記警報ステップが、当該方法を実行する人物に見える視覚信号を使用することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記警報ステップが、当該方法を実行する人物に聞こえる音声信号を使用することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの異常セルが検出された場合に前記バッテリパックの再充電を防止するステップを実行することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
σ≧5mVの場合に、n=6であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
σ≧10mVの場合に、n=4であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
σ≧20mVの場合に、n=3であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
異常セルの検出時に自律性の喪失を表示するステップを含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気バッテリの欠陥セルを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、不均衡なバッテリパックを欠陥セルから保護し得る診断手順が存在する。ただし、この不均衡は、必ずしも欠陥セルによるものではなく、端的に言えば、自己放電のばらつきに起因する。
【0003】
具体的に、この診断手順では一般的に、電圧を測定して、最大充電セルと最小充電セルとのSOC(充電状態)の差を推定する。したがって、この差が所定の閾値よりも大きい場合は、車両の再充電が禁止されることになる。車両は、放電してしまうと動かせなくなるため、販売店に返して修理してもらう必要が出てくる。ただし、明らかなこととして、技術または生産バッチに固有の「自然な」自己放電のばらつきを有する可能性もあるが、これは、バッテリパックが少なくとも1つの欠陥セルを含むという間違った印象を与えかねない。このため、クライアントは、車両を滅多に使用しない場合、長い時間でセルを均衡させる恩恵を受けられない。この状況において、クライアントの有するバッテリパックは、完全に機能するものの、一定の時間後には充電不可能となる可能性がある。これは、最小SOCのセルと最大SOCのセルとのSOC差が所定の閾値よりも大きくなって、欠陥と診断されるためである。
【0004】
所与の使用に適さないセルまたは寿命に達したセルを検出することによって当該所与の使用から除外するため、米国特許第8,332,342号は、所与の使用のための放電電流を引き込んだ場合のセルの内部の電気化学的挙動が数学的にモデル化され、これにより、前記使用後の理論的SOCおよび終端電圧が推定される方法を開示している。これにより、理論的SOCおよび終端電圧に応じて、所与の使用に対するセルの継続または除外が行われる。
【0005】
上記文献に記載の方法は、セルの電気化学を非常に正確に把握するとともに、非常に高い演算能力を有する必要があるため、実装が非常に複雑となるところが欠点である。
【0006】
したがって、現行の方法では、実際の欠陥を自然放電から識別するのに十分な性能を有していないか、または、実装が非常に複雑である。
【発明の概要】
【0007】
本発明に係る検出方法は、特に自然自己放電との混同なく、従来技術で明らかな欠点を克服しつつ、バッテリパックの欠陥セルを安全、容易、かつ確実に検出可能である。
【0008】
本発明の主題は、電気バッテリパックの異常セルを検出する方法である。
【0009】
本発明に係る方法の主要な特徴として、この方法は、
バッテリパックの各セルの端子間の無負荷電圧を測定するステップと、
前記セルの端子間で測定した前記無負荷電圧とバッテリパックを使用しない日数に応じて把握される平均無負荷電圧との偏差を計算するステップと、
計算した前記偏差と変数n.σとの差を計算するステップであって、nが1以上の整数であり、σがバッテリパックを使用しない日数に応じて決まる既知の標準偏差である、計算した前記偏差と変数n.σとの差を計算するステップと、
前記差がゼロより大きい場合に、異常セルを検出するステップと、
を含む。
【0010】
したがって、この方法では、バッテリパックを構成するセルそれぞれを個別にテストすることによって、セルのうちの少なくとも1つに関する実際の欠陥を検出することができる。これは、標準偏差に比例する変数に対して、セルの無負荷電圧測定結果とバッテリを使用しない日数に応じて各セルが有する平均無負荷電圧との間の計算した偏差を比較することに基づく。したがって、セルに関する実際の欠陥の診断の確立に用いられる基準は、バッテリパックを構成するセルの充電状態のばらつきの単純な評価よりも完全かつ正確である。このような方法は、コンピュータにより自動車において実行されるのが好ましい。運転者は、車両の始動時に、本発明に係る方法によって、バッテリパックに少なくとも1つの欠陥セルが存在することを知らされるため都合が良い。セルに割り当てられる用語「欠陥(faulty)」および「異常(defective)」は、同義である。
【0011】
nは、2から10の整数であるのが好都合である。
【0012】
本発明に係る方法は、異常セルが検出された場合の警報ステップを含むのが好ましい。具体的には、異常セルが検出された場合に、バッテリの再充電を防止する手段が実行される。車両の運転者がこのような欠陥を知らされて、可能な限り早く必要な措置を講じることが重要である。
【0013】
警報ステップは、この方法を実行する人物に見える視覚信号を使用するのが好ましい。視覚信号は、車両のダッシュボードの画面上で作動する特定の表示灯により与えられるのが好都合である。
【0014】
警報ステップは、この方法を実行する人物に聞こえる音声信号を使用するのが好都合である。
【0015】
本発明に係る検出方法は、少なくとも1つの異常セルが検出された場合にバッテリパックの再充電を防止するステップを実行するのが好都合である。このように、異常セルが検出されるとすぐに、バッテリは再充電不可能となるが、これは、ユーザが専門店を訪れて異常セルを交換する必要があることを意味する。
【0016】
σ≧5mVの場合に、n=6であるのが好ましい。
σ≧10mVの場合に、n=4であるのが好ましい。
σ≧20mVの場合に、n=3であるのが好都合である。
【0017】
本発明に係る検出方法は、異常セルの検出時に自律性の喪失を表示するステップを含むのが好都合である。これにより、セルが欠陥の場合は、車両の自律性の低下に反映され、直ちに車両の運転者にその旨が知らされる。
【0018】
本発明に係る検出方法には、特に、一部のセルが経時的に他のセルよりも急速に自然放電する構成を取り除くことによって、バッテリパックのセルに関する実際の欠陥を安全かつ確実に検出できる利点がある。
【0019】
以下の図面を参照して、本発明に係る検出方法の好適な一実施形態を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】従来技術に係る、異常セルを検出する方法の主要なステップを示したフローチャートである。
図2】本発明に係る、異常セルを検出する方法の主要なステップを示したフローチャートである。
図3】測定された無負荷電圧の関数として、バッテリパックの機能セルの分布の第1の例を示したグラフである。
図4】測定された無負荷電圧の関数として、バッテリパックの機能セルの分布の第2の例を示したグラフである。
図5】測定された無負荷電圧の関数として、バッテリパックの機能セルの分布の第3の例を示したグラフであり、異常セルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照して、バッテリパックの欠陥電気セルを検出する従来技術の方法は、
バッテリパックの各セルの端子間の電圧を測定するステップと、
前記セルそれぞれのSOCを推定するステップと、
最大充電セルと最小充電セルとのSOC差を決定するステップと、
この差が所定の値(たとえば、20%に等しくてもよいし、30%に等しくてもよい)以上である場合に、欠陥セルを検出するステップと、
を含む。
【0022】
バッテリパックの少なくとも1つの欠陥セルの検出には一般的に、前記パックの充電を禁止するステップを伴う。少なくとも1つの欠陥セルが存在することにより、このパックは、動作不可能と見なされるためである。したがって、再充電可能となるには、全容量を有する新たなセルによって、各欠陥セルを置き換える必要がある。ここで、このような方法が相対的に制限されるのは、たとえば車両の未使用期間が長引いた場合のバッテリセルの経時的な自然放電を考慮していないためである。言い換えると、この方法では最終的に、有効ながらも放電したセルから欠陥セルを識別することができない。
【0023】
本発明に係る検出方法は、健常ながらも放電したセルから欠陥セルを確実かつ明確に識別可能な特徴を有する。
【0024】
このように、図2を参照して、本発明に係る、バッテリパックの欠陥セルを検出する方法は、
バッテリパックの各セルの端子間の無負荷電圧を測定するステップと、
前記セルの端子間で測定した無負荷電圧とバッテリを使用しない日数に応じて把握される平均無負荷電圧との偏差を計算するステップと、
前記計算した偏差と変数n.σとの差を計算するステップであり、nが1以上の整数、σがバッテリを使用しない日数に応じて決まる既知の標準偏差である、前記計算した偏差と変数n.σとの差を計算するステップと、
前記差がゼロより大きい場合に、異常セルを検出するステップと、
を含む。
【0025】
上述の従来技術の方法とは対照的に、本発明に係る方法は、バッテリパックが一定の日数にわたって使用されていない場合に、セルの自然放電の現象を取り入れることによって、より現実的な手法を提案している。このように、自然放電によって、欠陥セルを検出する条件にバイアスが掛かることはなくなる。
【0026】
変数n.σは、標準偏差σの値に応じて調整可能である。このように、多くの利点をもたらす例として、
σ>5mVの場合は、nが6に設定されるようになっていてもよいし、
σ>10mVの場合は、nが4に設定されるようになっていてもよいし、
σ>20mVの場合は、nが3に設定されるようになっていてもよい。
【0027】
図3は、前記セルそれぞれの端子間で測定された無負荷電圧の関数として、バッテリパックのセルの第1の例示的な分布を示している。言い換えると、各点は、測定された無負荷電圧が同じであるセルの数を表す。欠陥セルが1つもない場合は、すべての点がガウス平均の周りにまとまるものと観測され得る。測定電圧ひいてはセル間の充電状態の差異は、程度の差こそあれセルごとに顕著な自己放電現象に起因する。
【0028】
図4は、前記セルそれぞれの端子間で測定された無負荷電圧の関数として、バッテリパックのセルの第2の例示的な分布を示している。すべての点が一貫しているのは、この分布曲線から外れる単一の点を強調することなく、連続的かつ規則的な曲線を規定可能なためである。したがって、これらすべての電圧測定結果の起点となるバッテリパックは、欠陥電気セルを一切有していない。
【0029】
図5は、前記セルそれぞれの端子間で測定された無負荷電圧の関数として、バッテリパックのセルの第3の例示的な分布を示している。図4に示す規則的な曲線とは対照的に、図5のグラフは、前記セルの端子間で測定された無負荷電圧の関数として、セルの分布を表す曲線のわずか外側にある異常点1を示している。この点は、実際に欠陥のあるバッテリパックのセルの存在を反映している。これらの条件下では、バッテリが使えないため、もはや再充電不可能である。
【0030】
本発明に係る検出方法は、適当なソフトウェアを有する車載コンピュータおよび各セルの端子間で電圧を測定するさまざまな装置によって、電気バッテリを備えた車両において実装される。このように、運転者は、イグニションスイッチを入れた場合に、バッテリの状態を直ちに直接知らされる。
【0031】
この点、少なくとも1つの欠陥セルの存在が検出されていれば、本発明に係る検出方法は、警報ステップの実行によって、欠陥セルの存在を運転者に知らせることができる。この警報ステップは、たとえばダッシュボード上に現れる表示灯または特徴的な音声信号により実行されるようになっていてもよい。
【0032】
また、本発明に係る検出方法は、バッテリの少なくとも1つの電気セルが欠陥であることが判明しているのに交換されていない場合は、前記バッテリの再充電を自動的に阻止するステップを実行するようにしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5