(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】歯周病及び関連疾患の治療に用いる細菌性グルタミニルシクラーゼの新規阻害剤
(51)【国際特許分類】
C07D 471/04 20060101AFI20230626BHJP
A61K 31/437 20060101ALI20230626BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20230626BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20230626BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20230626BHJP
A61K 31/555 20060101ALI20230626BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230626BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230626BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230626BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230626BHJP
C07D 519/00 20060101ALI20230626BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
C07D471/04 107E
A61K31/437
A61K31/444
A61K31/4545
A61K31/5377
A61K31/555
A61P1/02
A61P29/00
A61P31/04
A61P43/00 105
A61P43/00 111
C07D471/04 CSP
C07D519/00 311
C12N9/10 ZNA
(21)【出願番号】P 2020544395
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2019054476
(87)【国際公開番号】W WO2019162458
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-02-03
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】イェーガー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】リーベ,リンダ
(72)【発明者】
【氏名】ラムスベック,ダーニエル
(72)【発明者】
【氏名】リナート,ミリアム
(72)【発明者】
【氏名】ガイスラー,シュテファニー
(72)【発明者】
【氏名】ピエコッタ,アンケ
(72)【発明者】
【氏名】マイツネル,ディアヌ
(72)【発明者】
【氏名】サイニス,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】ブフホルツ,ミルコ
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-524314(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171755(WO,A1)
【文献】特表2010-502660(JP,A)
【文献】特開平2-69496(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100159(WO,A1)
【文献】EUROPEAN COMMISSION: "Final Report Summary - TRIGGER (King of hearts, joints and lungs; periodontal pathogens as etiologic factor in RA, CVD and COPD and their impact on treatment strategies.)", [検索日 2023.05.24], インターネット,2017年08月16日,<URL:https://cordis.europa.eu/project/id/306029/reporting>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
C12N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式I
【化1】
(式中、Aは、場合によっては置換
されたアリール、場合によっては置換
されたヘテロシクリル、場合によっては置換
されたシクロアルキル及び場合によっては置換
されたアルケニルからなる群より選択され;
R
1は独立して、H及び場合によっては置換されたアルキルからなる群より選択され;
Lは以下の:
【化2】
で表され;
R
a及びR
bは互いに、同一か又は異なり、独立して、H、ハロ、場合によっては置換
されたアルキル、場合によっては置換
されたアリール、場合によっては置換
されたヘテロアルキル及び場合によっては置換
されたヘテロアリールからなる群から選択され、ここで、R
a及びR
bは、場合によっては共に連結されて炭素環又は複素環を形成することができ;
ここで、「場合によっては置換(された)」とは、独立して、C
1~6アルキル
基、C
1~6ヘテロアルキル
基、C
1~6カルボシクリル
基、C
1~5ヘテロシクリル
基及びC
1~5ヘテロアリール基から選択される1つ又は複数の基による場合による置換であり、前記各基は、1つ又は複数のハロゲン原子及び/又はヒドロキシル基、ハロゲン原子、シアノ基、第一級、第二級又は第三級
のアミノ基、ヒドロキシル基、及びカルボキシル基により置換されてよい)
で表される化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
以下の:
前記アリールは、独立して、C
6~10
基、
又はC
6アリール基であり;
前記ヘテロシクリルは、独立して、単環式又は二環式のC
1~11、C
2~8、
又はC
4~5
の複素環式基であり、N、S及びOから選択される1~4個の環式ヘテロ原子を含み;
前記アルキルは、独立して、直鎖又は分枝鎖
の、開鎖のC
1~6、C
1~4、C
1~3、
又はC
1~2
のアルキル基であり;
前記シクロアルキルは、独立して、環状
のC
3~6、C
4~6、
又はC
5~6
のアルキル基であり;
前記アルケニルは、独立して、少なくとも1つのC=C結合を含む直鎖又は分枝鎖
の、開鎖又は環状のC
2~6
基、C
2~4
基、
又はC
2基であり;
前記ヘテロアリールは、独立して、芳香族単環式又は二環式のC
1~11、C
2~8、
又はC
4~5
の複素環式基であり、N、S及びOから選択される1~4個の環式ヘテロ原子を含み;
かつ、
前記ヘテロアルキルは、独立して、N、S及びOから選択される1~4個のヘテロ原子を含む直鎖又は分枝鎖
の、開鎖又は環状のC
1~5、C
1~3、
又はC
1~2
のヘテロアルキル基である;
請求項1に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
以下の式Ia
【化3】
(式中、Aは、場合によっては置換
されたアリール及び場合によっては置換
されたヘテロアリールから選択され;
R
1、R
a、R
bはHである)
で表される請求項1又は2に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
R
a及びR
bは、独立して、
1H及びDから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
Aが以下の構造B:
【化4】
(式中、n=1、2、3、4、5又は6であり、
かつ、
R
7及びR
8は、独立して、アルキル、アリール、ヘテロアルキル、ヘテロアリール、カルバミドイル、ホルミル、アルキルアシル及びアリールアシルから選択され、これらは各々、場合によってはさらに置換されてよく、ここで、R
7及びR
8は、場合によっては連結されて炭素環又は複素環を形成することができる)
により表される少なくとも1つの置換基により置換される、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
R
7が、以下の構造E:
【化5】
(式中、MはFe
2+及びFe
3+から選択されるか、又は存在しない;
R
c及びR
dは、独立して、-H、-CH
3、-CH=CH
2、-SO
3H及びCH(OH)CH
2OHから選択され;
Xは、共有結合、アルキレン、アラルキレン、ヘテロアルキレン、カルボシクレン、ヘテロシクレン、ヘテロアリーレン、ヘテロアラルキレン、アミノアルキレン、アルキルアミノ及びカルボニルアルキルアミノ基から選択され、ここで、これらは各々、主鎖中に12個までの炭素原子及び11個までのヘテロ原子があってよく、1又はそれ以上のC
1~6アルキル基、C
1~6ヘテロアルキル基、C
1~6カルボシクリル基、C
1~5ヘテロシクリル基、C
1~5ヘテロアリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、第一級、第二級又は第三級
のアミノ基、カルボキシル基及び側鎖で置換されてよい)
により表される、請求項5に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
Xが以下の構造:
【化6】
(式中、m=0,1,2又は3であり、
Reはプロテイン原性アミノ酸由来の側鎖である)
により表される、請求項6に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
Aは、以下の構造F:
【化7】
(式中、MはFe
2+及びFe
3+から選択されるか、又は存在せず、
R
c及びR
dは、独立して、-H、-CH
3、-CH=CH
2、-SO
3H及びCH(OH)CH
2OHから選択される)
により表される置換基により置換された、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項9】
以下の:
【化8】
からなる群から選択される構造で表される化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩、及び、医薬的に許容可能な賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩、又は請求項
10に記載の医薬組成物を含む、ヒト又は動物の治療に用いるための治療剤。
【請求項12】
細菌感染の治療及び/又は予防の方法において用いる請求項
10に記載の医薬組成物又は請求項1
1に記載の治療剤。
【請求項13】
以下の:
(i)細菌感染が細菌性グルタミニルシクラーゼ(bacQC)を発現する細菌により生じ、前記bacQCは配列番号1、2及び3からなる群から選択されるアミノ酸配列、及び前記配列番号1、2及び3のいずれか1つの
配列との配列相同性が90%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであるか;
(ii)前記細菌感染は、Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia及びTannerella forsythiaからなる群より選択される細菌により生じる;及び/又は、
(iii)請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩はバイオフィルム内の細菌増殖を選択的に阻害する;
請求項1
2に記載の医薬組成物又は治療剤。
【請求項14】
急性、慢性又は再発性の歯周疾患の治療又は予防の方法に用いる
ための、請求項
10に記載の医薬組成物又は請求項1
1に記載の治療剤。
【請求項15】
疾患が、歯垢誘発性歯肉疾患、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の発現としての歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周膿瘍、歯内病変に関連する歯周炎、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎、及び歯内感染症からなる群より選択され、
及び/又は、
前記化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩は、局所投与、及び/又は、非外科的方法により投与される、請求項1
4に記載の医薬組成物又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌性グルタミニルシクラーゼ(bacQC)の阻害剤として特に有用な新規化合物;当該化合物を含む医薬組成物;治療、特に歯周炎及び関連する状態の治療に用いる化合物及び/又は医薬組成物に関する。本開示はまた、細菌性グルタミニルシクラーゼを含む結晶、並びにbacQCの結合ポケットに関連し得る、及び/又はbacQC阻害剤である、候補化合物を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、世界の人口の約30%が罹患しており、個人や社会に多大な影響を及ぼし、治療に費用がかかる。歯科医療費は、全ての疾患の中で4番目に高く、全ての医療資源の5~10%を消費する(非特許文献1)。代表的な集団研究では、歯周疾患は広範に分布し、その有病率は1997年以降増加していることが示されている(非特許文献2)。ドイツの成人集団のうち、52.7%が中等度の重度の歯周炎に罹患しており、20.5%が重度の歯周炎に罹患していた。ドイツにおける歯周炎直接治療の医療保険支出は約11億ユーロであり(非特許文献3)、これには二次疾患による費用は含まれていない。
【0003】
歯周炎は,多細菌性誘発による歯周組織の炎症状態をいう一般的な用語であり,心血管疾患,関節リウマチ,慢性閉塞性肺疾患,アルツハイマー病等の種々の全身性疾患との関連が強い。
【0004】
ドイツ歯科学会の勧告によれば、現在確立されている歯周炎の治療は、手技による歯肉上及び歯肉下の剥離(細菌性プラークの除去)と防腐剤の塗布(毎日の洗口による消毒)であるが、これは、口腔内のバイオフィルム全体を崩壊させて、潜在的な病原体による再コロニー化をもたらす。さらに、進行性疾患形態では、アジュバント全身性広スペクトル抗生物質療法が適用される。後者により、バイオフィルムは非選択的に破壊され、特定の作用部位、すなわち歯周ポケットで十分な治療レベルに到達するには、高用量で長期間投与しなければならない。歯周炎の標準的なアジュバント療法には、例えば、ドキシシクリン(経口)(1回あたり1×200mg/日)を1日間全身投与し、さらに18日間2×100mg/日全身投与することが含まれる(非特許文献4)。その結果、経口病原体における耐性の発展が観察される。さらに、患者の腸内のマイクロバイオームが破壊され、代謝支持体及び免疫調節が喪失し、潜在的病原体による再定着が可能になる。残存するバイオフィルムの保存と共に焦点を絞った標的療法は、歯周炎及びそれに関連する状態の治療を有意な改善するであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Batchelor, P. British Dental Journal 2014, 217, 405-409
【文献】Micheelis, W. et al. Vierte Deutsche Mundgesundheitsstudie (DMS IV), Deutscher perzte-Verlag, Kkoln, 2006
【文献】Statistisches Bundesamt, 2008
【文献】Wissenschaftliche Stellungnahme: Adjuvante Antibiotika in der Parontitistishepie, Deutsche Gesellschaft fur ZahnMundundund Kieferheilkunde, DZZ 2003
【文献】Socranskyら、Journal of Clinical Periontology, 1998, 25, 134-144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯周病原性細菌の存在は、歯周炎患者により異なる。それにもかかわらず、歯肉下プラークにおける特定の細菌種の発生が、歯周疾患の病因と密接に関連することが明らかである(非特許文献5)。
【0007】
従って、歯周疾患を誘発する病原体を選択的に標的とすることができるが、本質的には相同的なヒト標的タンパク質に対して不活性であり、好ましくは、天然に存在するバイオフィルムの残存部分を実質的に保存する歯周炎及び関連する状態の新しい治療法の開発に対する高い需要が存在する。当該治療は、患者及び医療システムに有意な改善をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の観点から、本発明は、歯周疾患及び関連疾患の治療に有用な化合物及び/又は医薬組成物を同定及び提供することを目的とする。当該化合物及び/又は医薬組成物は、好ましくは、歯周疾患を誘発する病原体を選択的に標的化する機能がある。より好ましくは、天然に存在するバイオフィルムの残存部分は実質的に保存され、相同なヒト標的タンパク質は実質的に阻害されない。さらにより好ましくは、当該化合物及び/又は医薬組成物は、標的病原体に対して高いインビボ活性を示す。
【0009】
さらなる目的は、治療標的タンパク質の結晶及び/又は共結晶の調製であり、これは、例えば、構造に基づく薬物設計により、歯周疾患を誘発する病原体を標的化することができる阻害剤の同定に用いることができる。
【0010】
さらなる目的は、好ましくは当該治療標的タンパク質の阻害剤である、当該治療標的タンパク質の結合ポケットに結合し得る候補化合物の同定方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、治療標的タンパク質の阻害剤、及び当該阻害剤を含む医薬組成物を提供することである。前記阻害剤は、好ましくは、選択的阻害剤、すなわち、他の細菌及び/又はヒトタンパク質標的に対して実質的に不活性である一方で、(a)標的細菌性病原体を選択的に殺傷又は選択的に阻害する阻害剤である。
【0012】
本発明のさらなる目的は、ヒト又は動物の体の処置のための方法、及び/又は当該方法で用いる化合物若しくは医薬組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、好ましくは病原性細菌種の増殖を選択的に殺傷又は選択的に阻害する、細菌感染の治療又は予防の方法、及び/又は当該方法で用いる化合物若しくは医薬組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、急性、慢性又は再発性の歯周疾患の治療又は予防の方法、及び/又は当該方法で用いる化合物若しくは医薬組成物化合物を提供することである。
【0015】
上記の目的による治療方法では、投与経路は局所投与又は全身投与であることが好ましく、方法は非外科的方法であることが好ましい。
【0016】
上記課題の解決策として、本開示は、以下の式I又はII:
【0017】
【化1】
(式中、L、A及びR
1は添付の特許請求の範囲で定義されたものである。)
の一つで表される化合物、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形態、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【0018】
本開示は、さらに、上記で特定された化合物及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0019】
本開示は、さらに、ヒト又は動物の身体の治療方法、細菌感染の治療及び/又は予防方法で用いる、及び急性、慢性又は再発性歯周疾患の治療及び/又は予防方法において用いる、上記で特定された化合物及び/又は上記で特定された医薬組成物を提供する。
【0020】
本開示はさらに、PgQC及びTfQCから選択される細菌性グルタミニルシクラーゼ(bacQC)を含む結晶、並びに候補化合物、好ましくは当該bacQC阻害剤をさらに含む共結晶、並びに前記結晶及び/又は共結晶を調製する方法を提供する。
【0021】
本開示はさらに、bacQC、好ましくはbacQC阻害剤の結合ポケットに結合し得る候補化合物を同定する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(A)はヒトQC(hQC、配列番号4)及びPorphyromonas gingivalis(PgQC、配列番号1)由来の推定細菌性グルタミニルシクラーゼ(QC、すなわちグルタミンシクロトランスフェラーゼ)のアミノ酸配列アラインメントを示し;(B)はPrevotella intermedia(PiQC、配列番号3)、P.gingivalis(PgQC、配列番号1)及びTannerella forsythia(TfQC、配列番号2)由来のさらなる推定QCのアミノ酸配列アラインメントを示し;(C)P.gingivalis(PgQC)由来のグルタミニルシクラーゼ(すなわちグルタミンシクロトランスフェラーゼ)の全長配列(配列番号1)1-3333のアミノ酸のアミノ酸ナンバリングを示し;並びに(D)T.forsythia(TfQC)由来のグルタミニルシクラーゼ(すなわちグルタミンシクロトランスフェラーゼ)の全長配列(配列番号2)のアミノ酸1-333のアミノ酸ナンバリングを示す。
【
図2】大腸菌Rosetta(DE3)pLysSで発現された精製組換え細菌推定QCのSDS-PAGEを示す。
【
図3】H-Gln-AMCのPgQC(A)、PiQC(B)及びTfQC(C)触媒環化のLineweaver-Burkプロットを示す。
【
図4】参照化合物MWT-S-00431の存在下でのH-Gln-AMCのPgQC触媒環化の例示的なv/S特性、Lineweaver-Burk及びEadie-Hofsteeプロットを示す。
【
図5】seqPgQC-`PhoA融合タンパク質を発現する透過処理された大腸菌CC118 pGP1-2細胞におけるPhoA活性を示す。
【
図6】3つのグルタミニルシクラーゼ:PgQC(A)、TfQC(B)、hQC(C)、及びオーバーレイ(D)のリボン描写を示す。
【
図7】結晶中の3つのグルタミニルシクラーゼ、PgQC(A)、TfQC(B)、及びhQC(PDBコード3SI0)(C)の分子表面を示す。表面は親油性(緑色:親油性が高い、紫色:親水性が高い)により着色され、中心の穴は活性部位を示す。
【
図8】結晶中のPgQC(A)、TfQC(B)、及びhQC(C)の分子表面を示し、親水性領域は濃い灰色で強調される(上図)。
【
図9】PgQC(A)、TfQC(B)、及びhQC(C)の分子表面を示し、親油性領域は、濃い灰色(下の図)で強調される。
【
図10】PgQCとhQCの活性部位と分子表面の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔治療標的タンパク質(bacQC)〕
Socranskyら(Journal of Clinical Periontology, 1998, 25 134-144)は、歯肉下プラークにおける、Tannerella forsythia、Porphyromonas gingivalis、及びTreponema denticolaの密接に関連したグループからなる、いわゆる「レッドコンプレックス」の発生は、歯周疾患の臨床的尺度、特に、歯周ポケットの深さ及びプロービング時の出血と強く関連すると報告した。
【0024】
さらに、Fusobacterium nucleatum/peridonticum subspecies、Prevotella intermedia、Prevotella nigrescens、Peptostreptococcus microsのメンバーが「オレンジ複合体」のメンバーによる健康な歯周組織へのコロニー形成が歯肉炎の発生と相関することが見いだされた。「オレンジ複合体」の細菌は、さらに「赤色複合体」の細菌によるコロニー形成を促進し、さらに「赤色複合体」の細菌によるコロニー形成を促進し、当該細菌は、ディープポケット及び慢性歯周炎と関連する。
【0025】
「赤色複合体」と「オレンジ色複合体」の細菌は、様々な毒素因子を分泌する。例えば、P.gingivalisはジンジパイン等のシステインプロテアーゼを分泌し、P.intermediaは唾液IgAプロテアーゼを分泌し、T.forsythiaはグリコシダーゼを分泌することが見出された。
【0026】
本発明者らは驚くべきことに、経口病原体であるP.gingivalis、T.forsythia、及びP.intermediaの分泌物中にシグナルペプチドを有する分泌タンパク質の約80%が、シグナルペプチダーゼによりXaa-Glnペプチド結合で切断されることを見出した。遊離したタンパク質のN末端にはpGlu残基がある。これは、外膜を横切る成長タンパク質のトランスロケーション及び歯周病原体の成長に必須と思われるグルタミニルシクラーゼの存在を意味する。
【0027】
グルタミニルシクラーゼ(QC)(EC2.3.2.5)は、グルタミンシクロトランスフェラーゼともいい、NH3の放出下でタンパク質のN末端グルタミニル残基をピログルタミン酸(pGlu)に環化させ、ペプチドのN末端を修飾するアシルトランスフェラーゼである。
【0028】
【化2】
これまでに、2種類のQC(I型及びII型)が定義されている。I型QCは、植物、いくつかの病原性細菌及びヒト寄生虫(Huang et al., J. Mol. Biol. 2010, 401, 374-388)で認められた。パパイヤQC(papaya QC)は最もよく知られているI型QCである。この酵素は熱帯植物Carica papayaのラテックスで最初に発見された(Messer, M. Nature 1963, 197, 1299)。この酵素は広いpH範囲(pH3.5~11)で触媒活性を示す。X線結晶解析の結果、pQCは、中心チャンネル(Wintjens, R., Belrhali, H., Clantin, B., Azarkan, M., Bompard, C., Baeyens-Volant, D., Looze, Y., and Villeret, V. J. Mol. Biol. 2006, 357, 457-470)を横断する5枚羽根のβプロペラからなるハットボックス型分子であることが明らかになった。pQCは亜鉛イオンを含むが、複素環キレート剤によって全く阻害されず(Zerhouni et al,. Biochim. Biophys. Acta 1998, 1387, 275-290)、pQCは、タンパク質分解、化学的、熱変性に対する耐性が高いと考えられる(Wintjensら、Zerhouniら)。
【0029】
II型QCは、主に哺乳類の神経内分泌組織で同定された。II型QCの中で、ヒトQC(hQC)は最も広範に研究されており、分泌経路における多数の神経ペプチド及びサイトカインの成熟に重要であることが知られている。I型QCとは対照的に、hQCは化学的及び熱的変性をきわめて受けやすい。Schillingら(J. Biol. Chem. 2003, 278, 4973-49779)は、hQCがpH8.5以上pH6.0以下で有意に不安定であることを示した。hQCはα/βトポロジーを採用しており(Huang et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA, 2005, 102, 13117-13122)、複素環キレート剤による時間依存的な阻害が示唆するように金属酵素として同定された。不活化酵素は、等モル濃度のEDTAの存在下でZn2+を添加すると完全に回復させることができる(Schillingら2003)。したがって、II型QCは金属依存性トランスフェラーゼであり、亜鉛が構造的及び安定化機能のみを担うI型QCとは対照的に、活性部位結合金属(Zn2+)が触媒活性に不可欠であることを示唆する。
【0030】
要するに、I型QCは一般に植物、数種の細菌及び原生動物に見られ、βプロペラ構造を示し、タンパク質分解、熱及び酸に対する耐性が高く、最適な触媒活性はpH3.5~11であり、構造的Ca2+/Zn2+イオンを有する。
【0031】
対照的に、II型QCは主に脊椎動物に見られ、α/βトポロジーを示し、タンパク質分解、熱、酸に対する耐性が低く、最適な触媒活性はpH6.0~8.0であり、触媒に必須なZn2+イオンが存在する。したがって、II型グルタミニルシクラーゼは亜鉛依存性アシルトランスフェラーゼである。
【0032】
本発明者らは驚くべきことに、II型QCが経口病原菌のP.gingivalis、T.forsythia、及びP.intermediaにおいて発現することを見出した。
【0033】
P.gingivalis(PgQC、配列番号1)由来のQCタンパク質の一次構造は、ヒトQC(hQC、配列番号4)と相同性が25%である。さらに、P.intermedia(PiQC、配列番号3)及びT.forsythia(TfQC、配列番号2)由来のQCが同定され、PgQCとの相同性は各々42%及び49%であった。さらなる実験的証拠から、当該酵素が、特に、bacQC活性のpH及びイオン強度依存性、金属キレート剤によるQC活性の阻害、CD分光分析により示されるα/βトポロジーを示唆する3つのタンパク質すべての折りたたみパターン、及びそれらの熱安定性により確認されるように、実際にII型QCファミリーに属することが示される。
【0034】
本発明者らは、細菌性II型QCが、「赤色複合体」の歯周炎を発症させる細菌種の3種類のうち2種類、及び「オレンジ色複合体」の少なくとも1種類の細菌種の成長に必須であり、従って、歯周炎の疾患及び状態の治療の抗生物質特性を備える治療阻害剤の開発の標的として極めて重要であることを見出した。
【0035】
したがって、本発明の文脈において、治療標的タンパク質は細菌性グルタミニルシクラーゼ(bacQC)であり、ここでbacQCは配列番号1(PgQCともいう)、配列番号2(TfQCともいう)、配列番号3(PiQCともいう)、並びに配列番号1、配列番号2及び配列番号3のいずれか1つと配列相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドとして定義される。
【0036】
bacQCは、本明細書の実施例にさらに記載されるように、同定、単離及び精製されることができ、歯周炎誘導病原体の選択的標的化を可能とする阻害剤の同定に用いられうる。2つ以上のアミノ酸配列を比較する目的で、2つのアミノ酸配列間の同一性の程度(「配列相同性」の比率)は、例えば、BLAST(Altschul S.F.ら、J Mol Biol.1990,215(3),403-10)等の、技術水準で公知の標準配列アラインメントアルゴリズムにより、従来の方法により決定することができる。
【0037】
〔化合物〕
本明細書に開示される候補化合物及び/又は阻害剤を同定する方法を用いることにより、本発明者らは、細菌性グルタミニルシクラーゼの強力で治療的に有効な阻害剤の設計及び調製のためのリード構造モチーフとして新規な基を同定した。前記構造モチーフは、以下に示すイミダゾ[4,5-b]ピリジン基(環原子の番号を含む)である:
【0038】
【化3】
当該構造モチーフは、bacQCsの結合ポケットに位置するZn
2+イオンに可逆的に結合することができる適当な金属結合基を表す。好ましくは、イミダゾ[4,5-b]ピリジン基がピリジン環の6位で置換されている場合、bacQC阻害活性及び選択性は特に高くなる。
【0039】
より好ましくは、イミダゾ[4,5-b]ピリジン基に結合した基は、ベンジルアミン又は芳香族スルホンアミドのいずれかであり、各々がN原子を介してピリジン環に結合する。対照的に、その代わりに芳香族アミドを用いると活性が弱まることが見出されたため、これらはあまり好ましくない。換言すれば、Ra及びRbは、好ましくは、共に=Oでない。
【0040】
さらなる好ましい態様では、化合物は、以下の構造E
【0041】
【0042】
この部分の存在は、金属非依存系(例えば、ヘム及びヘモグロビンの両方の受容体であるHA2ドメイン)及び/又は金属依存系(例えば、上記基を認識することができるヘモフォア様ポルフィリン結合タンパク質であるHusA)により上記ポルフィリン部分を認識し、能動的に取り込み及び捕捉するII型グルタミニルシクラーゼ(P.gingivalis、T.forsythia及びP.intermedia等)を発現する細菌内の細胞内に、本発明による阻害化合物の取り込みを増強する。すなわち、一般式I又はIIの阻害剤を構造Eで表される部分と共役させると、病原体細胞への指向性送達が強化され、標的経口病原体に対する選択性が改善され、及び/又は当該病原体に対するインビボ抗生物質活性が改善されるが、当該効果は、構造Eで表される部分が、添付の特許請求の範囲において特定されるように、構造Eで表されるリンカーを介して阻害剤のA群に結合される場合に特に顕著である。
【0043】
具体的には、本開示は、以下の態様<1>~<19>のいずれか1つの化合物を提供する。
<1>以下の式I又はII:
【0044】
【化5】
(式中、Aは、場合によっては置換アリール、場合によっては置換ヘテロシクリル、場合によっては置換シクロアルキル及び場合によっては置換アルケニルからなる群より選択され;
R
1は独立して、H及び場合によっては置換アルキルからなる群より選択され;
Lは、
【0045】
【化6】
から選択され、
R
a及びR
bは、互いに同じか又は異なり、独立して、H、ハロ、場合によっては置換アルキル、場合によっては置換アリール、場合によっては置換ヘテロアルキル、及び場合によっては置換ヘテロアリールからなる群から選択され、ここで、R
a及びR
bは、場合によっては互いに連結されて炭素環又は複素環を形成することができる)
で表される化合物のうちのいずれか1つ、その個々の鏡像異性体、その個々のジアステレオ異性体、その水和物、その溶媒和物、その結晶形、その個々の互変異性体又はその薬学的に許容される塩。
【0046】
<2>以下の:
前記アリールは独立してC6~10、好ましくはC6アリール基であり;
前記ヘテロシクリルは、独立して単環式又は二環式のC1~11、好ましくはC2~8、より好ましくはN、S及びOから選択される1~4個の環式ヘテロ原子を含むC4~5複素環式基であり;
前記アルキルは、独立して、直鎖又は分枝鎖、開鎖又は環状のC1~6、好ましくはC1~4、より好ましくはC1~3、さらに好ましくはC1~2アルキル基であり;
前記シクロアルキルは独立に環状C3~6、好ましくはC4~6、より好ましくはC5~6アルキル基であり;
前記アルケニルは、独立して、少なくとも1つのC=C結合を含む直鎖又は分枝鎖、開鎖又は環状のC2~6、好ましくはC2~4、より好ましくはC2基であり;
前記ヘテロアリールは、独立して、芳香族単環式又は二環式のC1~11、好ましくはC2~8、より好ましくはC4~5複素環式基であり、N、S及びOから選択される1~4個の環式ヘテロ原子を含み;
前記ヘテロアルキルは、独立して、N、S及びOから選択される1~4個のヘテロ原子を含む直鎖又は分枝鎖、開鎖又は環状のC1~5、好ましくはC1~3、より好ましくはC1~2ヘテロアルキル基である;<1>の化合物。
【0047】
<3>以下の式Ia、IIa、Ib及びIIb:
【0048】
【化7】
(式中、Aが、場合によっては置換アリール及び場合によっては置換ヘテロアリールから選択され;並びに、
R
1、R
a、R
bはHである)
、好ましくはIaのいずれかで表される、<1>~<2>のいずれか1つに記載の化合物。
【0049】
<4>Ra及びRbは独立して、1H及びDから選択される、<1>~<3>のいずれか1つに記載の化合物。
【0050】
<5>Ra及びRbの一方が1Hであり、他方がDである、又は各々1Hである、<1>から<4>のいずれか1つに記載の化合物。
<6>Aは、以下の化学式A-1~A-7:
【0051】
【化8】
(式中、Yは、O及びSから選択され;
R
2~R
6は各々独立して、H、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシ、(アミノアルキル)オキシ、(ヘテロアリール)オキシ、アミノ、(ジアルキル)アミノ、(モノアルキル)アミノ、(アルキル)(ヘテロアルキル)アミノ、(ジヘテロアルキル)アミノ、[(アルキル)オキシ]カルボニル及びハロアルキルからなる群から選択され、これらの各々は場合によってはさらに置換されてよい)
のいずれかで表される、<1>~<5>のいずれかの1つに記載の化合物。
【0052】
<7>以下の:
(a) R4、又は
(b) R3、又は
(c) R3及びR4
は各々独立して、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、アルキル、アリール、ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、(アミノアルキル)オキシ、(ヘテロアリール)オキシ、アミノ、(ジアルキル)アミノ、(モノアルキル)アミノ、(アルキル)(ヘテロアルキル)アミノ、(ジヘテロアルキル)アミノ、[(アルキル)オキシ]カルボニル及びハロアルキルからなる群から選択され、各々は、場合によってはさらに置換されてよく;
R2~R6の残りの1つはHである、<6>に記載の化合物。
【0053】
<8>R2、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つは独立して、以下の構造B:
【0054】
【化9】
(式中、n=1、2、3、4、5又は6であり;
R
7及びR
8は独立して、アルキル、アリール、ヘテロアルキル、ヘテロアリール、カルバミドイル、ホルミル、アルキルアシル及びアリールアシルから選択され、各々は、場合によってはさらに置換されてよく、かつ、ここで、R
7及びR
8は、場合によっては連結されて、炭素環又は複素環を形成することができる)
<6>~<7>のいずれか1つに記載の化合物。
【0055】
<9>R1、Ra、RbはHであり;かつ、
Aは化学式A-1で表される、<6>~<8>のいずれか1つに記載の化合物。
【0056】
<10>以下の構造B:
【0057】
【化10】
(式中、n=1、2、3、4、5又は6であり;かつ、
R
7及びR
8は独立して、アルキル、アリール、ヘテロアルキル、ヘテロアリール、カルバミドイル、ホルミル、アルキルアシル及びアリールアシルから選択され、これらは各々、場合によってはさらに置換されてよく、かつ、ここで、R
7及びR
8は、場合によっては連結されて、炭素環又は複素環を形成することができる)
により表される少なくとも1つの置換基により置換されている、<1>~<7>のいずれか1つに記載の化合物。
【0058】
<11>R7が以下の構造E:
【0059】
【化11】
(式中、MはFe
2+及びFe
3+から選択されるか、又は存在しない;
R
c及びR
dは独立して、-H、-CH
3、-CH=CH
2、-SO
3H及びCH(OH)CH
2OHから選択され;かつ、
Xは、共有結合、アルキレン、アラルキレン、ヘテロアルキレン、カルボシクレン(carbocyclene)、ヘテロシクレン、ヘテロアリーレン、ヘテロアラルキレン、アミノアルキレン、アルキルアミノ及びカルボニルアルキルアミノ基から選択され、;ここで、これらは各々、主鎖に炭素原子が12個まで及びヘテロ原子が11個まであってよく、及び1又はそれ以上のC
1~6アルキル基、C
1~6ヘテロアルキル基、C
1~6カルボシクリル基、C
1~5ヘテロシクリル基、C
1~5ヘテロアリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、第一級、第二級又は第三級のアミノ基、カルボキシル基及び側鎖で置換されてよい)
で表される、<8>~<10>のいずれか1つに記載の化合物。
【0060】
<12>Xは、以下の構造:
【0061】
【化12】
(式中、m=0,1,2又は3、であり、
R
eはプロテイン原性アミノ酸由来の側鎖である)
で表される、<11>に記載の化合物。
【0062】
<13>Aは、以下の構造F:
【0063】
【化13】
(式中、MはFe
2+及びFe
3+から選択されるか、又は存在しない;かつ、
R
c及びR
dは独立して、-H、-CH
3、-CH=CH
2、-SO
3H及びCH(OH)CH
2OHから選択される)
により表される置換基により置換される、<1>~<12>のいずれか1つに記載の化合物。
【0064】
<14>Aが、<6>により定義され、R2、R3、R4、R5及びR6の少なくとも1つが、前記構造Fで表される、<13>に記載の化合物。
【0065】
<15>Aが以下の構造E1:
【0066】
【化14】
(式中、MはFe
2+及びFe
3+から選択されるか、又は存在しない;
R
c及びR
dは独立して、-H、-CH
3、-CH=CH
2、-SO
3H及びCH(OH)CH
2OHから選択され;かつ、
Xは、共有結合、アルキレン、アラルキレン、ヘテロアルキレン、カルボシクレン(carbocyclene)、ヘテロシクレン、ヘテロアリーレン、ヘテロアラルキレン、アミノアルキレン、アルキルアミノ及びカルボニルアルキルアミノ基から選択され、;ここで、これらは各々、主鎖に炭素原子が12個まで及びヘテロ原子が11個まであってよく、及び1又はそれ以上のC
1~6アルキル基、C
1~6ヘテロアルキル基、C
1~6カルボシクリル基、C
1~5ヘテロシクリル基、C
1~5ヘテロアリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、第一級、第二級又は第三級のアミノ基、カルボキシル基及び側鎖で置換されてよい)
により表される少なくとも1つの置換基で置換される、<1>~<14>のいずれか1つに記載の化合物。
【0067】
<16>Aが、アルコキシアリール、(アルコキシ)(ハロ)アリール、(アルコキシ)ヘテロアリール、アルキルアリール、アルキルヘテロアリール、アミノアリール、アミノヘテロアリール、アリールアリール、アリールヘテロアリール、(アリールオキシ)アリール、(アリールオキシ)ヘテロアリール、ハロアリール、ハロヘテロアリール、(ヘテロアルキル)アリール、(ハロアルキル)アリール、(ヘテロアリール)アリール、[(ヘテロアリール)オキシ]アリール、[(アミノアルキル)オキシ]アリール、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル及びヘテロシクロアルキルからなる群から選択され、各々場合によってはさらに置換されてよい)
<1>~<15>のいずれか1つに記載の化合物。
【0068】
<17>Aは、2-アルコキシフェニル、3-アルコキシフェニル、4-アルコキシフェニル、2,3-ジアルコキシフェニル、2,4-ジアルコキシフェニル、2,5-ジアルコキシフェニル、2,6-ジアルコキシフェニル、3,4-ジアルコキシフェニル、3,5-ジアルコキシフェニル、3,4,5-トリアルコキシフェニル、2,6-ジハロ-4-アルコキシフェニル、2-ハロ-4-アルコキシフェニル、3-ハロ-5-アルコキシフェニル、4-ハロ-3-アルコキシフェニル、2-アルキルフェニル、3-アルキルフェニル、4-アルキルフェニル、3-[(アルキル)(ヘテロアルキル)アミノ]フェニル、3-[(ジアルキル)アミノ]フェニル、3-[(ジヘテロアルキル)アミノ]フェニル、3-[(モノアルキル)アミノ]フェニル、4-[(アルキル)(ヘテロアルキル)アミノ]フェニル、4-[(ジアルキル)アミノ]フェニル、4-[(ジヘテロアルキル)アミノ]フェニル、4-[(ヘテロアリール)オキシ]フェニル、4-[(モノアルキル)アミノ]フェニル、アリールフェニル、2-(アリールオキシ)フェニル、3-(アリールオキシ)フェニル、4-(アリールオキシ)フェニル、2-ハロフェニル、3-ハロフェニル、4-ハロフェニル、2,3-ジハロフェニル、2,4-ジハロフェニル、2,5-ジハロフェニル、2,6-ジハロフェニル、3,4-ジハロフェニル、3,5-ジハロフェニル、2,3,4-トリハロフェニル、2,3,5-トリハロフェニル、3,4,5-トリハロフェニル、2,4,5-トリハロフェニル、2,4,6-トリハロフェニル、3-(ハロアルキル)フェニル、4-(ハロアルキル)フェニル、3-(C5モノヘテロアリール)フェニル、4-(C5モノヘテロアリール)フェニル、4-(C5モノヘテロアリール)フェニル、3-(C4モノヘテロアリール)フェニル、4-(C4モノヘテロアリール)フェニル、3-[(ヘテロアリール)オキシ]フェニル、4-{[アミノ(アルキル)]オキシ}フェニル、3-{[アミノ(アルキル)]オキシ}フェニル、ナフチル、フェニル、C5モノヘテロアリール、C4モノヘテロアリール、モルホリニル及びピペリジニルであり、各々は場合によってはさらに置換されてよい、<1>~<16>のいずれか1つに記載の化合物。
【0069】
<18>Aは、2-メトキシフェニル、3-メトキシフェニル、4-プロポキシフェニル、4-メトキシフェニル、4-イソプロポキシフェニル、4-ベンジルオキシフェニル、3,4-ジメトキシフェニル、2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル、2,2-ジフルオロ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル、7-メトキシ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル、2,6-ジフルオロ-4-メトキシ-フェニル、3-(1-ピペリジル)フェニル、4-モルフォリノフェニル、[1,1’-ビフェニル]-3-イル、[1,1’-ビフェニル]-4-イル、3-フェノキシフェニル、4-フェノキシフェニル、2-クロロフェニル、3-クロロフェニル、4-クロロフェニル、3,4-ジクロロフェニル、3,4,5-トリフルオロフェニル、4-(2-ピリジル)フェニル、4-(2-カルバミドエチロキシ)フェニル、4-(2-アミノエトキシ)フェニル、4-(2-モルフォリノエトキシ)フェニル、フェニル、2-ピリジル、4-ピリジル、2-チエニル及び3―チエニルからなる群より選択される、<1>~<17>のいずれか1つに記載の化合物。
【0070】
<19>以下の化合物:
【0071】
【0072】
【0073】
本明細書で用いられる用語「アルキル」は、特に限定されない限り、C1~12アルキル基、適当にはC1~8アルキル基、例えばC1~6アルキル基、例えばC1~4アルキル基を示す。アルキル基は、直鎖又は分枝鎖であってよい。適当なアルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル(例えばn-プロピル及びイソプロピル)、ブチル(例えばn-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル及びtert-ブチル)、ペンチル(例えばn-ペンチル)、ヘキシル(例えばn-ヘキシル)、ヘプチル(例えば、n-ヘプチル)及びオクチル(例えば、n-オクチル)が挙げられる。用語「アルキル」はまた、シクロアルキル基も含む。用語「シクロアルキル」は、特に限定されない限り、C3~10シクロアルキル基(すなわち、3~10環炭素原子)、より適当には、C3~8シクロアルキル基、例えばC3~6シクロアルキル基をいう。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルが挙げられる。最も適当な数の環炭素原子は3~6個である。
【0074】
用語「ヘテロアルキル」は、特に限定されない限り、1又はそれ以上、好ましくは1、2又は3個の炭素原子が、N、S及びOから選択されるヘテロ原子で置換されるアルキル基をいう。
【0075】
用語「カルボシクリル(carbocyclyl)」及び「炭素環式」は、特に限定されない限り、すべての環原子が炭素であるか、及び、3~12個の環炭素原子、適当には3~10個の炭素原子、より適当には3~8個の炭素原子を含む環系をいう。カルボシクリル基は、飽和又は部分的に不飽和であってよいが、芳香環を含まない。カルボシクリル基の例としては、単環式、二環式及び三環式環系、特に単環式及び二環式環系が挙げられる。他のカルボシクリル基としては、架橋環系(例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプテニル)が挙げられる。カルボシクリル基の特定の例はシクロアルキル基である。カルボシクリル基のさらなる例はシクロアルケニル基である。
【0076】
用語「アリール」は、特に限定されない限り、C6~12アリール基、適当にはC6~10アリール基、より適当にはC6~8アリール基を示す。アリール基は、少なくとも1つの芳香環(例えば、1、2又は3つの環)を含む。芳香環が1つある典型的なアリール基の例はフェニルである。芳香環が2つある典型的なアリール基の例はナフチルである。
【0077】
用語「ヘテロシクリル」及び「ヘテロシクリル」は、特に限定されない限り、1又はそれ以上の(例えば、1、2又は3)環原子がN、S及びOから選択されるヘテロ原子で置換されるカルボシクリル基をいう。ヘテロシクリル基の具体例は、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、又はより具体的にはシクロヘキシル)であり、1又はそれ以上の(例えば、1、2又は3、特に1又は2)環原子がN、S又はOから選択されるヘテロ原子で置換される。ヘテロ原子を1つ含む例示的なヘテロシクリル基としては、ピロリジン、テトラヒドロフラン及びピペリジンがあげられ、ヘテロ原子を2つ含む例示的なヘテロシクリル基としては、モルホリン及びピペラジンがあげられる。ヘテロシクリル基のさらなる具体例は、1又はそれ以上(例えば、1、2又は3、特に1又は2、特に1)の環原子が、N、S及びOから選択されるヘテロ原子で置換されるシクロアルケニル基(例えば、シクロヘキセニル基)である。そのような基の例は、ジヒドロピラニル(例えば、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン-2-イル)-である。
【0078】
用語「ヘテロアリール」は、特に限定されない限り、アリール残基を示し、ここで、1又はそれ以上の(例えば、1、2、3又は4、適当には1、2又は3)環原子は、N、S及びOから選択されるヘテロ原子、又は他の場合には、N、S及びOヘテロアリール基から選択される1又はそれ以上(例えば、1、2、3又は4、適当には1、2又は3)環原子を含む5員芳香族環により置換される。ヘテロ原子が1つある単環式ヘテロアリール基の例としては、5員環(例えば、ピロール、フラン、チオフェン);及び6員環(例えば、ピリジン、例えば、ピリジン-2-イル、ピリジン-3-イル及びピリジン-4-イル)が挙げられる。ヘテロ原子が2つある単環式ヘテロアリール基の例としては、5員環(例えば、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、イミダゾール-1-イル、イミダゾール-2-イルイミダゾール-4-イル等のイミダゾール);6員環(例えば、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン)が挙げられる。ヘテロ原子が3つある単環式ヘテロアリール基の例としては、1,2,3-トリアゾール及び1,2,4-トリアゾールが挙げられる。ヘテロ原子がつ4ある単環式ヘテロアリール基の例としては、テトラゾールが挙げられる。例示的な二環式ヘテロアリール基としては、インドール(例えば、インドール-6-イル)、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、キナゾリン及びプリンが挙げられる。
【0079】
用語「アルコキシアリール」、「カルボキシアリール」、「シアノアリール」、「ハロアリール」、「ヒドロキシアリール」及び「ヘテロアリール」は各々、特に限定されない限り、少なくとも1つのアルコキシ、カルボキシ、シアノ、ハロ、ヒドロキシ及びヘテロアリール基で置換されたアリール残基をいう。
【0080】
用語「アルコキシヘテロアリール」、「カルボキシヘテロアリール」、「シアノヘテロアリール」、「ハロヘテロアリール」及び「ヒドロキシヘテロアリール」は各々、特に限定されない限り、少なくとも1つのアルコキシ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロ基及びヒドロキシ基により置換されたヘテロアリール残基をいう。
【0081】
例えば「アルコキシ」、「ハロアルキル」に含まれる用語「アルコ(alk)」、は「アルキル」の定義により解釈されるべきである。アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ(例えば、n-プロポキシ)、ブトキシ(例えば、n-ブトキシ)、ペントキシ(例えば、n-ペントキシ)、ヘキソキシ(例えば、n-ヘキソキシ)、ヘプトキシ(例えば、n-ヘプトキシ)及びオクトキシ(例えば、n-オクトキシ)が挙げられる。例示的なハロアルキル基は、フルオロアルキル、例えばCF3を包含し;例示的なハロアルコキシ基はフルオロアルキル、例えばOCF3を包含する。
【0082】
用語「ハロゲン」又は「ハロ」は、フッ素(F)、塩素(CI)、臭素(Br)及びヨウ素(I)を含む。
【0083】
本明細書で用いられる用語「水素」又は「H」は、水素のすべての同位体、特にプロチウム(1H)及び重水素(2H、又はDとして示される)を包含する。
【0084】
用語「場合によっては置換された」とは、C1~6アルキル、C1~6ヘテロアルキル、C1~6カルボシクリル、C1~5ヘテロシクリル及びC1~5ヘテロアリール基から独立して選択される1又は複数の基によるいかなる置換をいい、ここで、当該基は各々、1又は複数のハロゲン原子及び/又はヒドロキシル基;ハロゲン原子;シアノ基;第一級、第二級又は第三級アミノ基;ヒドロキシル基;及びカルボキシル基により置換されてよい。
【0085】
〔立体異性体〕
本発明には、請求される化合物の全ての可能な立体異性体が含まれる。
【0086】
本発明の化合物に少なくとも1つのキラル中心がある場合、それらはエナンチオマーとして存在し得る。化合物のキラル中心が2又はそれ以上である場合、それらはさらにジアステレオマーとして存在し得る。当該異性体及びその混合物はすべて、本発明の範囲内に包含されることが理解されるべきである。
【0087】
本発明の化合物の製造方法により立体異性体の混合物が生じる場合、当該異性体は分取クロマトグラフィー等の通常の技術により分離することができる。化合物は、ラセミ体で調製することができ、又は個々のエナンチオマーは、エナンチオ特異的合成又は分割のいずれかにより調製することができる。化合物は、例えば、(-)-ジ-p-トルオイル-d-酒石酸及び/又は(+)-ジ-p-トルオイル-1-酒石酸等の光学活性な酸との塩形成によるジアステレオマー対の形成、続いて分別結晶化及び遊離塩基の再生、又はキニーネ、キニジン、キノトキシン、シンコトキシン、(S)-フェニルエチルアミン、(1R,2S)-エフェドリン、(R)-フェニルグリシノール、(S)-2-アミノブタノール等の光学活性な塩基との塩形成によるジアステレオマー対の形成、続いて分別結晶化及び遊離酸の再生等の標準技術により、当該成分エナンチオマーに分離することができる。化合物は、ジアステレオマーエステル又はアミドの形成後、クロマトグラフィーによる分離及びキラル補助剤の除去でも分離され得る。あるいは、化合物は、キラルHPLCカラムを用いて分割されうる。
【0088】
〔多形結晶、溶媒和物、水和物〕
さらに、化合物の個々の結晶形態のいくつかは、多形体として存在することができ、それ自体、本発明に含まれることが意図される。さらに、化合物のいくつかは、水(すなわち、水和物)又は一般的な有機溶媒と溶媒和物を形成することができ、当該溶媒和物もまた、本発明の範囲内に包含されることが意図される。化合物(それらの塩を含む)はまた、それらの水和物の形態で得られ得るか、又はそれらの結晶化に用いられる他の溶媒を含む。遊離化合物とその塩、水和物又は溶媒和物の形態の化合物との間の密接な関係を考慮し、化合物がこの文脈で言及されるときは常に、対応する塩、溶媒和物又は多形もまた、当該状況下で可能であるか適当であるならば、意図される。
【0089】
〔互変異性体〕
本明細書中で用いられる場合、用語「互変異性体」とは、隣接する単結合及び二重結合間のプロトンの移動をいう。互変異性化の過程は可逆的である。本明細書に記載された化合物は、化合物の物理的特性の範囲内にあるいかなる可能な互変異性化をも供されることができる。
【0090】
〔薬学的に許容される塩〕
本明細書中で用いられる、用語「薬学的に許容される」とは、ヒト及び獣医学的適用をともに包含し、例えば、用語「薬学的に許容される」は、獣医学的に許容される化合物又はヒト医学及び医療において許容される化合物を包含する。
【0091】
式Iで表される、医薬的に用いるのに適する化合物の塩、水和物及び溶媒和物並びにその生理学的に機能的な誘導体は、対イオン(counter-ion)又は関連溶媒が医薬として許容される。しかしながら、薬学的に許容されない対イオン又は関連溶媒がある塩、水和物及び溶媒和物であっても、例えば、他の化合物及びそれらの薬学的に許容される塩、水和物及び溶媒和物の調製における中間体として用いるため、本発明の範囲内である。
【0092】
本発明による適当な塩には、有機及び無機酸又は塩基のいずれかと共に形成される塩が含まれる。薬学的に許容される酸付加塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフェニル酢酸、スルファミン酸、スルファニル酸、コハク酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、オキサロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アリールスルホン酸(例えば、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸又はナフタレンジスルホン酸)、サリチル酸、グルタール酸、グルコン酸、トリカルバリル酸、ケイ皮酸、置換ケイ皮酸(例えば、4-メトキシケイ酸及び4-メトキシケイ酸を含むフェニル、メチル、メトキシ又はハロで置換された)、アスコルビン酸、オレイン酸、ナフトエ酸、ヒドロキシナフトエ酸(例えば、1-又は3-ヒドロキシ-2ナフトエ酸)、ナフタレンアクリル(例えば、ナフタレン-アクリル)、安息香酸、4-メトキシ安息香酸、2-又は4-ヒドロキシ安息香酸、4-クロロ安息香酸、4-フェニル安息香酸、ベンゼンアクリル酸(例えば、1,4-ベンゼンジアクリル)、イセチオン酸、過塩素酸、プロピオン酸、グリコール酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、パモ酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、サッカリン酸及びトリフルオロ酢酸から形成されるものがあげられる。薬学的に許容される塩基塩には、アンモニウム塩、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ土類金属塩、並びにジシクロヘキシルアミン及びN-メチル-D-グルカミン等の有機塩基との塩があげられる。
【0093】
本発明の化合物の全ての薬学的に許容される酸付加塩形態は、本発明の範囲に包含されることが意図される。
【0094】
〔医薬組成物〕
本発明による医薬組成物は、上記の化合物及び薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0095】
本明細書における用語「医薬組成物」は、クレームされた化合物を治療上有効な量で含む製品、並びにクレームされた化合物の組合せから直接的又は間接的に生じるいかなる製品を包含することを意図し、本明細書において用いられる用語「賦形剤」は、担体、結合剤、崩壊剤、及び/又は、例えば、懸濁液、エリキシル剤、及び溶液等の液状経口製剤用の、及び/又は、例えば、粉末、カプセル、ゲルキャップ、及び錠剤等の固形経口製剤用のためのさらなる適当な添加剤をいう。混合物に添加することができる担体には、適当な懸濁剤、潤滑剤、フレーバー剤、甘味剤、保存剤、コーティング剤、顆粒剤、染料及び着色剤を含むが、これらに限定されない、必要かつ不活性な医薬賦形剤が含まれる。
【0096】
〔治療適用〕
本開示は、化合物、例えば、上記<1>~<19>のいずれか1つ、及び/又はヒト又は動物の体の治療方法で用いる、上記医薬組成物を提供する。本開示はまた、ヒト又は動物の体の治療の方法を提供し、当該方法は、治療的有効量の前記化合物又は組成物を、それが必要な被験体に投与することを含む。
本開示は、さらに、細菌感染の治療又は予防の方法で用いる、上記の化合物及び/又は医薬組成物を提供する。本開示はまた、細菌感染の治療又は予防の方法を提供し、当該方法は、治療的有効量の前記化合物又は組成物を、それが必要な被験体に投与することを含む。細菌感染は、好ましくは、II型細菌性グルタミニルシクラーゼ(bacQC)を発現する細菌により生じる。より好ましくは、細菌感染は、Porphyromonas属、Prevotella属及びTannerella属からなる群より選択される細菌、好ましくは、種Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia及びTannerella forsythiaからなる群より選択される細菌により生じる。
【0097】
本開示による方法で用いられるbacQC阻害剤化合物又は医薬組成物は、好ましくは、殺傷内の、種Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia及びTannerella forsythiaからなる群より選択される細菌を選択的に殺傷し、又は選択的に増殖を阻害し、一方、バイオフィルム内の残りの細菌は、好ましくは、本質的には影響を受けない(すなわち、殺傷されるか、又はその増殖が有意に低く阻害される)。前記バイオフィルムは、好ましくは複雑なバイオフィルムであり、より好ましくは天然に存在するバイオフィルムであり、さらにより好ましくは天然に存在する口腔バイオフィルムである。
【0098】
本開示は、さらに、急性、慢性又は再発性の歯周疾患又は状態の治療又は予防の方法に用いる、bacQC阻害剤化合物又は医薬組成物を提供する。歯周疾患及び歯周状態の主なカテゴリーは、歯垢誘発性歯肉疾患、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の徴候としての歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周膿瘍、歯内病変に関連する歯周炎、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎、及び歯内感染のグループに分類される。本開示において、急性、慢性又は再発性歯周疾患は、好ましくは、歯垢誘発性歯肉疾患、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の症状としての歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周の膿瘍、歯内病変に関連する歯周炎、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎、及び歯内感染からなる群から選択される。本開示はまた、歯垢誘発性歯肉疾患、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎、全身性疾患の症状としての歯周炎、壊死性歯周疾患、歯周の膿瘍、歯内病変に関連する歯周炎、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎、及び歯内感染症からなる群から好ましくは選択される急性、慢性、又は再発性歯周疾患の治療又は予防の方法を提供し、当該方法は、治療的有効量のバクQC阻害剤化合物又は医薬組成物を、それが必要な被験体に投与することを含む。さらに、急性、慢性又は再発性の歯周疾患は、例えばArmitage, Ann Periodotol 1999, 4, 1-6に記載される。
【0099】
本開示の1の態様では、本開示による化合物又は医薬組成物は、好ましくは、投与経路が局所投与、及び/又は方法が非外科的方法である、上記の方法のいずれかで用いられる。別の態様では、本開示による阻害剤化合物又は医薬組成物は、好ましくは、投与経路が全身投与、及び/又は方法が非外科的方法である、上記の方法のいずれかで用いられる。
【0100】
本明細書で用いられる用語「被験体」は、治療、治療、予防、観察又は実験の対象であるか又は対象であった動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトをいう。
【0101】
本明細書で用いられる用語「治療的有効量」とは、研究者、獣医師、医師又は他の臨床医が探索する、組織系、動物又はヒトにおける生物学的又は医学的応答を誘発する活性化合物又は医薬剤の量を意味し、治療される疾患又は障害の症状の緩和を含む。
【0102】
〔タンパク質結晶〕
本開示は、細菌性グルタミニルシクラーゼ(bacQCs)の結晶を提供する。
【0103】
PgQCの結晶構造における原子配位は、本出願がその優先権を主張する2018年2月23日に欧州特許庁に出願された欧州特許出願第18158343号公報の第21~42頁の表1に示され、言及される。あるいは、2019年2月19日に寄託されたPDB識別コード6QQLとしてRCSBタンパク質データベース(www.rcsb.org)に示される。一実施形態では、細菌のグルタミニルシクラーゼ(bacQC)を含む結晶は、PgQCを含む結晶であり、PgQCは、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は配列番号1に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列があるか、好ましくは以下の:
-上記第18158343号の表1又は6QQLに記載の原子配位、又はここで、上記第18158343号の表1又は6QQLに記載のポリペプチド鎖の主鎖原子からの二乗平均平方根偏差が2Å以下である、及び/又は
-配列番号1の残基Gln133、Asp149、Glu182、Asp183、Tyr187、Gly188、Asp189、Asp190、Trp193、Cys194、Asp218、Met219、Phe232、Gly263、Ala264、Leu265、Thr266、Asp267、Val270、Ile284、Tyr286、Asn290、Glu291、His292、Gly293、Phe294、Trp298、His299で特定される結合ポケット;
-空間群P3121及びa=89.9Å、b=89.9Å、c=164.7Å、α=90°、β=90°及びγ=120°の単位胞寸法、を有する。
【0104】
さらに好ましくは、PgQC結晶は、X線を2.81~44.95Åの解像度まで回折させて結晶の原子配位を決定する。
【0105】
TfQCの結晶構造における原子配位は、本出願がその優先権を主張する2018年2月23日に欧州特許庁に出願された欧州特許出願第18158343号公報の第43~91ページの表2に示され、ここで言及される。あるいは、2019年2月19日に寄託されたPDB識別コード6QROとしてRCSBタンパク質データベース(www.rcsb.org)に示される。
【0106】
別の態様では、細菌のグルタミニルシクラーゼ(bacQC)を含む結晶は、TfQCを含む結晶であってよく、TfQCは、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は配列番号2に対する配列同一性が90%以上であり、好ましくは以下の:
-上記第18158343号の表2又は6QQLに記載の原子配位、又は-上記第18158343号の表2又は6QQLに記載のポリペプチド鎖の主鎖原子からの二乗平均平方根偏差が3Å以下であり、及び/又は
-配列番号2の残基His126、Arg130、His135、Glu183、Asp184、Gly186、Thr187、Glys189、Lys195、Pro196、Asp197、Trp199、Asp224、Met225、Gly269、Ala270、Ile271、Val272、Gln276、Tyr277、Ile290、Tyr292、Gln297、Ser298、Gly299、Phe300、Trp304、His305で特定される結合ポケット;及び/又は、
-空間群P1及びa=56.1Å、b=79.2Å、c=83.1Å、α=89.9°、β=90.0°及びγ=71.9°の単位格子寸法、を有するアミノ酸配列であってよい。
【0107】
さらに好ましくは、TfQC結晶は、X線を2.10~38.28Åの分解能まで回折させて、結晶の原子配位を決定する。
【0108】
ポリペプチド鎖の骨格原子からの二乗平均平方根偏差は、本発明によるタンパク質の構造と比較されるべき構造の構造の整列後に、DALI(登録商標)プログラム(L. Holm and C. Sander, Science, 1996, vol. 273, 595-602)を用いて、等価なCα骨格原子の構造配位からの位置の二乗平均平方根偏差として決定され得る。本明細書中で用いられる用語「結合ポケット」は、他の分子実体と安定化相互作用を開始することができる分子実体中の特定の領域(又は原子)への言及を含む。ある態様では、当該用語はまた、別の分子とのその特異的組合せに直接的に関与する高分子の反応性部分をいう。別の実施形態では、結合部位は、折りたたまれたポリペプチド内の1又はそれ以上のアミノ酸残基の三次元配列を含むか、又はそれにより定義される。最も好ましくは、本明細書中に記載されたbacQCの結合ポケットは各々、上記bacQCの各々について列挙された残基の原子により規定される。
【0109】
本発明の特定の実施形態では、細菌のグルタミニルシクラーゼ(bacQC)を含む結晶は、配列番号1の切断アミノ酸配列を含むポリペプチド断片、又は配列番号1の切断アミノ酸配列に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含む結晶である。配列番号1の切断アミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から1~132個、好ましくは1~20個、より好ましくは2~10個の連続したアミノ酸の欠失、及び/又は配列番号1のC末端から1~34個、好ましくは1~10個、より好ましくは2~5個の連続したアミノ酸の欠失により得られる。
【0110】
本発明の別の特定の実施形態では、細菌のグルタミニルシクラーゼ(bacQC)を含む結晶は、配列番号2の切断アミノ酸配列を含むポリペプチド断片、又は配列番号2の切断アミノ酸配列に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含む結晶である。配列番号2の切断アミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列のN末端から1~125個、好ましくは1~21個、より好ましくは2~10個の連続したアミノ酸の欠失、及び/又は配列番号2のC末端から1~29個、好ましくは1~10個、より好ましくは2~5個の連続したアミノ酸の欠失により得られる。
【0111】
さらに別の実施形態では、候補化合物と共に上記のbacQCを含む共結晶が提供される。候補化合物は、好ましくはbacQCの結合ポケットに結合される。候補化合物はさらに好ましくはbacQC阻害剤である。最も好ましくは、候補化合物は、<1>~<19>のいずれか1つに明記される式I又は式IIの1つによる化合物である。
【0112】
本発明による結晶及び共結晶は、好ましくは、細菌のグルタミニルシクラーゼの三次元X線回折構造を約1.9Å及び約2.8Åの分解能で決定するのに十分な品質及びサイズである。
【0113】
どちらの結晶構造もα-βヒドロラーゼの折りたたみ構造を共有し、これは7本のαへリックスで囲まれた8本のβシートにより決定される。どちらの場合も、Znイオンはそれぞれ2つのアスパラギン酸と1つのヒスチジンと四面体配位する。第4配位部位は、阻害剤のサブ構造部分として水分子、基質、又は金属結合基により占有される。小さな基とZnイオンとのこれらの金属相互作用は、本明細書に記載された病原体に対する抗菌剤として用いられる活性化合物の設計に不可欠である。さらに、結合部位は、ヒトの酵素とは異なる疎水性及び親水性領域により形成され、細菌の酵素に対する選択性を生み出す(
図7-10参照)。
【0114】
発明による結晶及び共結晶は、バッチ、液体ブリッジ、透析、ハンギング又はシッティングドロップ蒸気拡散等の蒸気拡散法により、以下にさらに記載するように調製することができる。
【0115】
上記で特定したbacQC結晶を調製する1つの好ましい方法は、以下の:
(a)好ましくは150mM NaClの存在下で、50mM Tris-HCl pH8.0等の適当な緩衝液中に、上記定義のbacQCを含む溶液を提供する工程;
(b)前記溶液を、(i)PgQCの場合は1M HEPES pH8.0、2M硫酸アンモニウム、3%(v/v)PEG400、又は(ii)TfQCの場合は0.1M酢酸ナトリウムpH4.6、2M硫酸アンモニウムを含む等量の結晶化溶液と混合する工程;かつ、
(c)得られた混合物を懸垂又は座滴蒸気拡散を促進する条件下で、bacQCの結晶を得るのに十分な時間インキュベーションする工程、を含む。
【0116】
候補化合物と共にbacQCの共結晶を調製する1つの方法は、以下の:
(a)上記で特定したbacQC、好ましくはPgQC、及び100mM HClに溶解した候補化合物を含む溶液を、bacQC:化合物=1:2.3のモル比で提供する工程;
(b)前記溶液を、1M HEPES pH8.0、2M硫酸アンモニウム、3%(v/v)PEG400を含む等量の結晶化溶液と混合する工程;
(c)得られた混合物を、bacQC及び候補化合物の共結晶を得るのに十分な時間、懸垂又は座滴蒸気拡散を促進する条件下でインキュベーションする工程;を含む。
【0117】
候補化合物と共にbacQCの共結晶を調製するための別の方法は、以下の:
(d)収穫され粉砕されたbacQC、好ましくは上記で特定されたように製造された候補化合物を含まないTfQC結晶をシードストックとして溶液を提供する工程;
(e)上記で特定されたbacQC、及び100mM HClに溶解した候補化合物を含む溶液を、bacQC:化合物=1:1.2のモル比で提供する工程;
(f)前記溶液を、1M PIPES pH6.6又はpH6.8、32.5%(v/v)PEG600、0.1M NaCl及び15%シードストック溶液を含む等量の結晶化溶液と混合する工程;
(g)得られた混合物を、bacQC及び候補化合物の共結晶を得るのに十分な時間、懸垂又は座滴蒸気拡散を促進する条件下でインキュベーションする工程;を含む。
【0118】
〔候補化合物及び/又は阻害剤を同定する方法〕
本発明は、bacQCの結合ポケットに結合し得る候補化合物を同定する方法を提供し、以下の:
(a)上記又は2の第18158343号公報の表1又は6QQLに記載の構造配位を用いて各bacQCの3次元モデルを生成する工程;
(b)上記第18158343号公報の表1又は6QQLによる配位により、配列番号1の残基Gln133、Asp149、Glu182、Asp183、Tyr187、Gly188、Asp189、Asp190、Trp193、Cys194、Asp218、Met219、Phe232、Gly263、Ala264、Leu265、Thr266、Asp267、Val270、Ile284、Tyr286、Asn290、Glu291、His292、Gly293、Phe294、Trp298、His299:1により提供される結合ポケットを分析すること工程、又は上記第18158343号公報の表2又は6QQLによる配位により、配列番号2の残基His126、Arg130、His135、Glu183、Asp184、Gly186、Thr187、Glu189、Lys195、Pro196、Asp197、Trp199、Asp224、Met225、Gly269、Ala270、Ile271、Val272、Gln276、Tyr277、Ile290、Tyr292、Gln297、Ser298、Gly299、Phe300、Trp304、His305により提供される結合ポケットを分析する工程;
(c)各bacQCの結合ポケットに結合し得る候補化合物の同定にコンピューターモデリング分析を行う工程、を含む。
【0119】
好ましくは、この方法はさらに、以下の:
(d)前記候補化合物がbacQCの触媒活性を低下させるかどうかをインビトロで検証することにより、bacQCの触媒活性を低下させる候補化合物をbacQC阻害剤として分類する工程、を含む。
【0120】
候補化合物がbacQCの触媒活性を低下させるかどうかの検証は、例えば、以下の工程(d1)~(d5):
(d1)bacQC及びbacQCの基質を含む組成物を提供する工程;
(d2)前記(c)に記載された候補化合物を提供する工程;
(d3)前記候補化合物を前記組成物と接触させる工程;
(d4)bacQCの触媒活性をモニターする工程;
(d5)bacQCの触媒活性に関する前記候補化合物の効果に基づいて、前記候補物質を前記bacQCの阻害剤として分類する工程であって、bacQCの触媒活性を低下させる候補化合物を、bacQC阻害剤に分類する;
を含む前記bacQCの阻害剤を同定する方法により行うことができる。
【0121】
(工程d1における)前記組成物は、好ましくは適当な緩衝液及び/又は塩成分を含む水溶液であり得る。前記基質は、好ましくは、そのN末端にグルタミン残基を含むペプチド又はペプチド誘導体である。前記基質は、好ましくは標識され、より好ましくは同位体標識され、最も好ましくは蛍光発生する基質である。前記蛍光発生基質は、好ましくは、bacQCにより触媒される反応の過程で変換後、蛍光強度が変化する。
【0122】
BacQC活性をモニターする適当な蛍光発生基質は、以下のスキーム
【0123】
【化17】
で示される、Schilling, S., Hoffmann, T., Wermann, M., Heiser, U., Wasternack,C., and Demuth, H.-U. Anal. Biochem. 2002, 303, 49-56 (Schillingら2002)に記載されているH-Gln-AMCである。
【0124】
当該候補化合物は、工程(d1)の組成物の残存成分の添加前、添加時、又は添加後に接触させることができる。候補化合物は、好ましくは溶液中で、より好ましくはDMSO溶液として提供される。
【0125】
当該基質の変換は、経時的に、例えば、蛍光発生基質の切断により生成されるフルオロフォアの発光をモニターすることによりモニターされる。bacQC活性は、アッセイ条件下でAMCの標準曲線から測定することができる。
【0126】
bacQC触媒活性は、異なる濃度の基質、bacQC及び/又は候補化合物を用いて測定することができる。bacQC触媒活性用の適当な尺度は、例えば、候補化合物の所定の濃度の存在下での阻害定数(Ki)、50%残留活性(RA)、及び/又はIC50値である。
【0127】
本発明は、さらに、bacQCの結合ポケットに結合する候補化合物を同定する方法を提供し、当該方法は、以下の:
(a)候補化合物と共に上記bacQCを含む共結晶の3次元モデルを生成する工程;
(b)当該候補化合物の原子と、配列番号1の残基Gln133、Asp149、Glu182、Asp183、Tyr187、Gly188、Asp189、Asp190、Trp193、Cys194、Asp218、Met219、Phe232、Gly263、Ala264、Leu265、Thr266、Asp267、Val270、Ile284、Tyr286、Asn290、Glu291、His292、Gly293、Phe294、Trp298、His299により提供される結合ポケットの原子、又は配列番号2の残基XXXX His126、Arg130、His135、Glu183、Asp184、Gly186、Thr187、Glu189、Lys195、Pro196、Asp197、Trp199、Asp224、Met225、Gly269、Ala270、Ile271、Val272、Gln276、Tyr277、Ile290、Tyr292、Gln297、Ser298、Gly299、Phe300、Trp304、His305により提供される結合ポケット原子の原子、との間の距離を分析して、前記bacQCの前記結合ポケットと会合する候補化合物を同定する工程、を含む。
【0128】
好ましくは、当該方法はさらに、以下の:
(c)前記候補化合物がbacQCの触媒活性を低下させるかどうかをインビトロで検証し、それにより、前記bacQCの触媒活性を低下させる前記候補化合物をbacQC阻害剤として分類する工程、を含む。
【0129】
候補化合物がbacQCの触媒活性を低下させるかどうかの検証には、例えば、以下の工程(c1)~(c5):
(c1)bacQC及びbacQCの基質を含む組成物を提供する工程;
(c2)前記(b)で特定された候補化合物を提供する工程;
(c3)前記候補化合物を前記組成物と接触させる工程;
(c4)前記bacQCの触媒活性をモニターする工程;
(c5)前記候補化合物の効果に基づいて前記bacQCを阻害剤として分類する工程であって、ここで、bacQCの触媒活性を低下させる前記bacQCの触媒活性に関する候補化合物を、bacQC阻害剤と分類する工程;
を含むbacQCの阻害剤を同定する方法により行うことができる。
【実施例】
【0130】
I.推定細菌性グルタミニルシクラーゼ(bacQC)の同定と調製
a)同定
経口病原体P.gingivalis、T.forsythia、及びP.intermediaのセクレトームのバイオインフォマティクス解析(http://www.oralgen.lanl.gov/)により、シグナルペプチド含有分泌タンパク質の約80%が、シグナルペプチダーゼによりXaa‐Glnペプチド結合で切断されることが示された。遊離タンパク質のN末端にはpGlu残基がある。これは、外膜を横切る成長タンパク質のトランスロケーションと歯周病原体の成長に必須と思われるグルタミニルシクラーゼの存在を意味する。
【0131】
図1の(A)は、ヒトQC(hQC、配列番号4)及びP.gingivalis(PgQC、配列番号1)由来の推定細菌QCのアミノ酸配列アラインメントを示し、並びに(B)は、さらに推定QC.intermedia(PiQC、配列番号3)及びT.forsythia(TfQC、配列番号2)及びP.gingivalis(PgQC、配列番号1)のアミノ酸配列アラインメントを示す。推定上のPgQCはヒトのQCとの相同性は25%である。さらに、推定TfQCのPgQCに対する相同性は49%を示し、P.intermedia由来のQCのPgQCに対する相同性は42%を示す。灰色下線のシステイン残基は、PgQCでは欠失するhQCのジスルフィド架橋を反映する。ヒトQCの太字配列は、II型QCの高度に保存された残基を反映する。灰色配列は、PgQC及びhQCの推定シグナル配列を示し、さらに典型的な金属結合モチーフAsp-Glu-Hisを太字及び下線付きの文字で示す。推定金属結合モチーフは、TfQC及びPiQC(B、太字)でも同定された。アラインメントは、EMBL-EBINETのClustal Omega;(*)は単一の完全に保存された残基を有する位置を示し、(:)は非常に類似した特性のグループ間の保存を示し、(.)は弱類似の特性(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)のグループ間の保存を示す。
【0132】
BLAST分析により、P.gingivalis(WP_005874301)における推定QCタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)が明らかにされた。当該推定QCタンパク質の一次構造は、ヒトQCとの相同性が25%である。さらに、推定QCタンパク質は、P.gingivalis由来の推定QCと相同性を42%又は49%共有する経口病原体P.intermedia(WP_014709208)及びT.forsythia(WP_014225037)のゲノムでも同定された(
図1)。アミノ酸アラインメントが示すように、ヒトQCの保存残基は、ヒト及び他のII型QCにおいてジスルフィド結合を形成する保存残基と細菌QCにおいて異なるようである。しかし、II型QCの高度に保存された金属結合モチーフAsp144、Glu184(Asp)及びHis322(Wintjensら、2006)は、触媒中心を表す細菌推定QCに存在するようである。当該タンパク質の一次構造は、当該タンパク質が実際のQCであることを示しうる。
【0133】
b)調製
図2は、大腸菌Rosetta(DE3)pLysSにおいて発現され、以下に詳細に記載されるように精製組換細菌推定QCのSDS-PAGEを示す。すなわち、30μgの精製タンパク質を12%SDS-PAGEに負荷し、クーマシー染色、レーン1、PageRuler Broad Range unstained(Thermofisher Scientific)、レーン2、HisPgQC、レーン3、HisPiQC及びレーン5、HisTfQCにより可視化した。3つの推定細菌QCの理論分子量はすべて約37KDaである。
【0134】
aa)宿主株及び培地
大腸菌株DH5α又はXL-1Blue(Stratagene)をクローニングに用いた。タンパク質発現に大腸菌Rosetta(DE3)pLysS(Novagene)を用いた。アルカリホスファターゼ活性アッセイをCC118 pGP1-2株で行った(Tabor, S. and Richardson, C. C. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1985, 82, 1074-1078; Manoil, C., J. J. Mekalanos and Beckwith, J. J. Bacteriol. 1990, 172(2), 515-518)。すべての大腸菌株を、20℃、30℃又は37℃で示されるように、Luria-Bertani培地中で増殖させた。必要に応じて抗生物質(アンピシリン[50~125mg/L]、クロラムフェニコール[15~30mg/L]、及びカナマイシン[25mg/L])を追加した。固形培地の調製には、1.5%寒天培地(Roth)を対応するブロスに添加した。
【0135】
bb) 細菌QCをコードするプラスミドベクターの分子クローニング
すべてのクローニング手順は、標準的な分子生物学的手法を用いて実施した。タンパク質発現は、PgQC(配列番号1、P.gingivalis由来の推定QC)、PiQC(配列番号3、P.intermedia由来の推定QC)及びTfQC(配列番号2、T.forsythia由来の推定QC)のオープンリーディングフレーム(ORF)を、ベクターpET28a(+)(Novagen)への直接クローニングに不可欠なNheI/NdeI制限部位を導入するためのPCRにおける鋳型としてEurofins Genomicsから購入した合成DNA配列を用いて増幅した。PgQC-’PhoA融合タンパク質の構築に、プライマー対seqpgQC NdeI(順方向)とseqpgQC XhoI(逆方向)を用いて、予測されたシグナル配列がある推定pgQCをNheI/XhoI制限部位を介してpET26b(+)にサブクローニングした。さらに、pET26b(+)ベクターのリボソーム結合部位を含む天然シグナル配列があるpgQCを、phoA発現ベクターpECD637にクローニングするため、プライマー対seqpgQC RBS NotI(順方向)及びseqpgQC XbaI(逆方向)を用いて増幅した。クローニング用の全てのプライマーはMetabionから購入し、表1に記載した。
表1.bacQC構築物のクローニングに用いるオリゴヌクレオチド
【0136】
【表1】
cc)His Tag融合タンパク質又は「PhoA融合タンパク質」としての細菌QCの発現
発現ベクターpET28a(+)::pgQCを大腸菌Rosetta(DE3)pLysSで形質転換した。カナマイシン(25μg/ml)及びクロラムフェニコール(15μg/ml)を含むLuria-Bertani培地中で、細胞密度がOD600が~0.6に達するまで37℃で細菌を増殖させた。培養物を0.4mMイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシドで誘導し、2%(v/v)エタノール容量を添加し、その後、20℃で16時間インキュベーションした。培養物を、4℃及び3900gで30分間の遠心分離により回収し、細胞ペレットを-20°で保存した。
【0137】
seqPgQC-’PhoA融合タンパク質の発現は、組換えベクターpECD637::seqpgQCをヘルパープラスミドpGP1-2と共にCC118(例えばphoA遺伝子が欠失)に形質転換した。培養物を30℃で一晩接種した。さらに、一晩培養したものを新鮮なLuria-Bertani培地に最終光学密度(OD600)~0.4で希釈し、続いて42℃で20分間インキュベーションしてseqPgQC-’PhoA融合タンパク質の発現を誘導した。その後、培養物をさらに2時間、30℃で接種した。最後に、分光光度計(BioRad)を用いて光学密度OD600を測定し、200μlの培養物を4℃及び16000gで15分間遠心分離することにより回収し、PhoA活性を測定した。
【0138】
dd)細菌QCの精製
培養物500mlの細胞ペレットを、50mM Tris-HCl、150mM NaCl pH8.0、10μg/mlのDNase及びプロテアーゼ阻害剤カクテルミックス(完全ミニ錠、EDTA非含有、ロシュ)からなる20mlの緩衝液中に再懸濁した。細胞は、French Press(Thermo Scientific, Waltman,MA,USA)を3~4回通過させて破壊した。4℃、30000gで30分間遠心分離して、細胞片を除去した。上清を平衡化緩衝液で1:2に希釈し、5mlのHisTrapカラム(GE Healthcare)に負荷した。カラムを150mM NaCl pH8.0を含む50mM Tris-HClで平衡化した。いくつかのカラム容量の平衡化緩衝液及び少なくとも20mMのイミダゾールタンパク質で洗浄後、多段階勾配を用いて溶出し、最終濃度が250mMのイミダゾールに達したが、一方、純粋なタンパク質の大部分は約100mMのイミダゾールで既に溶出していた。全てのbacQC含有画分をプールし、Vivaspin20(Sartorius AG)で濃縮し、HiPrep26/10脱塩カラム(GE Healthcare)に適用し、これを50mM Tris-HCl、150mM NaCl pH8.0で平衡化した。精製をSDS-PAGEにより分析し、タンパク質含有量を、NanoDrop2000分光光度計(Thermo Scientifc)を用いて280nmでの吸収により、又はBradford若しくはGill及びvon Hippelの方法(Bradford, M. M. 1976 Anal Biochem 72, 248-254; Gill, S.C. and von Hippel, P.H. 1989 Anal Biochem 182, 319-326)に従って測定した。最後に精製した組換融合bacQCタンパク質を液体窒素中でショック凍結し、-80℃で保存し、最終濃度50%まで添加し、-20℃で保存した。N末端融合タンパク質のHisタグを、20mM Tris-HCl、150mM NaCl、2.5mM CaCl2の存在下、pH8.0で1mgの融合タンパク質(Thrombin cleavage Capture Kit、Novagen)当たり1ユニットのトロンビンを用いて除去し、その後、4℃で16時間インキュベーションした。ステプタビジンアガロース(Thrombin cleavage Capture Kit、Novagen)への結合によりトロンビンを除去し、HisTagを含まないbacQCタンパク質をスピン濾過により回収した。HiPrep(26/10)bacQC画分を用いたさらなる脱塩工程の後、回収して、Vivaspin20(Sartorius AG)で濃縮した。最後に、50mM Tris-HCl、150mM NaCl pH8.0中の組換えbacQCを液体窒素中でショック凍結し、-80℃で保存するか、グリセロールを最終濃度50%に添加し、-20℃で保存した。PiQCは、PgQCと同様に発現及び精製された。TfQCはPgQCと同様に発現させ、HiTrap Talonカラム(GE Healthcare)を用いて精製した。
【0139】
[結論]すべての推定細菌QCを、シグナル配列非含有大腸菌Rosetta(DE3)pLysSでN末端Hisタグ融合タンパク質として発現させ、アフィニティークロマトグラフィーにより均一に精製した。16-40mgの組換純粋His-Tag融合タンパク質を、約500mlの誘発された大腸菌培養物から単離した。その後、融合タンパク質のHisタグをトロンビンで切断後、当該推定細菌QCの酵素的特徴付けを行った。
【0140】
II.タンパク質の結晶化
a)PgQC結晶化
結晶学的品質の結晶を、上記のように発現させて精製したPgQCから獲得した。PgQCは、懸垂液滴蒸気拡散法を用いて、15℃で40日以内に90μM(2.3mg/ml)の濃度で結晶化させた。1滴の1μLタンパク質溶液を、0.1M HEPES pH8.0、3%(v/v)PEG400及び2M(NH4)2SO4からなる同量の結晶化緩衝液と混合した。結晶化プロセスに、タンパク含有液滴を、貯蔵器に含まれる500μLの結晶化緩衝液との蒸気平衡に置いた。
【0141】
X線測定の前に、結晶を18%(v/v)グリセロールを含む結晶化緩衝液に急速浸漬により凍結保護した後、-180℃でフラッシュ凍結した。回折単結晶からのデータを、銅回転陽極源(RA Micro 007, Rigaku Europe)に取り付けたCCD検出器(SATURN 944+, Rigaku Europe)を用いて社内で収集した。その後、収集された回折データをXDSGUIを用いて処理し、スケーリングし、マージした。測定されたPgQC結晶は、三方晶系空間群P3121に属し、セル定数は、a=89.9Å、b=89.9Å、c=164.7Å、α=90°、β=90°、γ=120°である。それらは不斉単位に2分子のPgQCを含み、2.8Åに回折する。
【0142】
PgQC構造の初期相は、CCP4結晶学的スイート由来プログラムPHASER MRとPQ 50を有する検索モデルPgQCを用いた分子置換により得られ、その際、プログラムCOOTを用いた手動再構築とREFMAC5を用いた最尤精密化の幾つかのサイクルが実行された。このモデルは、Rwork値が0.2428、Rfree値が0.30404に改良された。最終的なPgQCモデルを得るためには、手動による再構築と改良のサイクルの繰り返しで十分である。
【0143】
(b)TfQC結晶化
結晶学的品質の結晶は、上記のように発現され精製されたTfQCから得られた。このタンパク質は、15℃で91日以内に、シッティングドロップ蒸気拡散法を用いて9.91mg/mL(279μM)の濃度で結晶化させた。従って、200nLのタンパク質を、2M(NH4)2SO4及び0,1M酢酸ナトリウムpH4.6からなる同量の結晶化緩衝液と、55μLの結晶化緩衝液を含むリザーバと蒸気拡散により接触したままの液滴中で混合した。
【0144】
X線測定の前に、25%(v/v)エチレングリコールを含む結晶化緩衝液に急速浸漬により結晶を凍結保護し、その後-180℃でフラッシュ凍結した。回折単結晶からの以下のデータを、銅回転陽極源(RA Micro 007, Rigaku Europe)に取り付けたCCD検出器(SATURN 944+, Rigaku Europe)を用いて社内で収集した。
【0145】
得られた回折データをXDSGUIプログラムを用いて処理し、スケーリングし、マージした。TfQC結晶は三斜晶系空間群P1に属し、細胞定数はa=56.1Å、b=79.2Å、c=83.1Å、α=89.9°、β=90°、γ=71.9°である。それらは4分子のTfQCを不斉単位に含み、2.1Åに回折する。
【0146】
推定したTfQC構造の初期相をCCP4結晶学的スイート由来のPHASER MRを用いた分子置換により得た。これらのソリューション戦略では、適当な探索モデルが生成されるに違いない。なぜなら、この時点ではTfQCのモデルは存在しなかったからである。当該モデルは、PHENIXスイートのProgram SCULPTORを用いる側鎖剪定により、PQ50を有するPgQCの最初のモデルから調製された。最終的なTfQCモデルは、プログラムCOOTを用いた手動再構築及びPHENIX.REFINEを用いた最尤精緻化のサイクルを繰り返した後に得られた。Rwork値が0.1938、Rfree値が0.2404に絞り込まれた。
【0147】
III.グルタミニルシクラーゼ活性の蛍光定量
QC活性は、(Schillingら、2002に既に記載されているように)基質としてH-Gln-AMCを用いて評価した。
【0148】
当該アッセイは、50mM Tris-HCl、50mM NaCl中、pH8.0で、様々な濃度の蛍光発生基質及び0.5Uのピログルタミニルアミノペプチダーゼからなる。10分間の30℃でのインキュベーション時間の後、最終容量125μlの反応混合物にbacQCを添加することにより、反応を開始した。励起/発光波長は380/460nmであり、bacQC活性はアッセイ条件下でフルオロフォアAMCの標準曲線から測定した。すべての測定は、FluoStar Optima(BMG Labtech)を用いて30℃で96ウェルマイクロタイタープレート(Fisher Scientific)で行った。動態データはGraFitソフトウェア(Version 7, Erithacus software Ltd., Horley, UK)を用いて評価した。
【0149】
図3は、H-Gln-AMCのPgQC(A)、PiQC(B)及びTfQC(C)触媒環化のLineweaver-Burkプロットを示す。挿入図は、Lineweaver-Burk評価で得られた勾配の二次プロットを示す。50mM Tris-HCl、pH8.0及び50mM Tris-HCl中、30℃でbacQC活性測定を実施した。動態データはGraFitソフトウェア(Version 7, Erithacus software Ltd., Horley, UK)を用いて評価した。細菌QCの酵素パラメータを決定した(表2)。これはhQCのものとは異なる(Schilling, S., Manhart, S., Hoffmann, T., Ludwig, H.-H., Wasternack, C., and Demuth, H.-U. Biol. Chem. 2003, 384, 1583-1592)。
表2:細菌QCによるH-Gln-AMCの変換の速度論的パラメータ。速度論的パラメータの決定を、30℃で50mM Tris-HCl pH 8及び50mM NaClで行った。
【0150】
【表2】
[
結論]精製組換えタンパク質の酵素活性を、基質としてH-Gln-AMCを用いた蛍光測定アッセイを用いて試験した。H-Gln-AMCを基質として、当該細菌タンパク質をターンオーバーした結果、RFUが増加し、反応速度が高まった(
図3)。基質としてのH-Gln-AMCに対するPgQC及びPiQCの親和性は、この基質に対するhQCの親和性の約10分の1である。TfQCのKm値は、実際にはhQCのKm値の20倍である。さらに、細菌タンパク質の効率は、PiQCがPgQC又はTfQCと比較して代謝回転数が2倍高いhQCの効率と類似するようである。
【0151】
IV.11細菌のグルタミニルシクラーゼ活性の阻害剤アッセイ
阻害剤試験の試料組成物は、推定阻害化合物の添加を除き、上記と同様であった。これにより、反応混合物中に1%又は2%(v/v)のDMSOが存在した。阻害定数は、1/4Km~2Kmの異なる濃度のH-Gln-AMCを用いて決定し、細菌QCの最終濃度は25nM~50nMの範囲であった。GraFitソフトウェア(Version 7, Erithacus software Ltd., Horley, UK)を用いて、一連の進行曲線を競合阻害の一般式に適合させることにより、阻害定数を評価した。
【0152】
図4は、参照化合物MWT-S-00431((3,5-ジクロロフェニル-1,4,6,7-テトラヒドロ-5H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-5-イル)メタノン)の(●)1μM、(□)0.5μM、(□)0.25μM、(△)0.125μM及び(▲)0.063μMの存在下でのH-Gln-AMC (A) の PgQC 触媒環化反応の例示的な v/S 特性、Lineweaver-Burk および Eadie-Hofstee プロットを示す。(○)は、阻害剤を含まない反応を表す。定量は、50mM Tris-HCl、50mM NaCl pH8.0及び1%(v/v)DMSO中、30℃で行った。表3に示す速度論的パラメータを得た。
表3:参照化合物MWT-S-00431の存在下におけるPgQCによるH-Gln-AMCの変換阻害の速度論的パラメーター
【0153】
【表3】
V.化合物によるグルタミニルシクラーゼの阻害
以下の化合物を、以下の合成方法の説明に記載されているように合成した。(上記のように単離及び精製された)PgQC、TfQC、PiQC及びhQCの阻害に関する平均Ki値を、上記の阻害剤アッセイを用いて測定し、以下に示す。Kiは上記のように測定された平均Ki値、Std(Ki)はKiの標準偏差を表す。
表4:bacQC阻害剤によるPgQC、TfQC、PiQC及びhQCの阻害
【0154】
【0155】
【0156】
【表6】
[
結論]本発明の化合物は全て、細菌のグルタミニルシクラーゼに対して阻害活性を示す。上記の結果は、当該化合物及び/又はその医薬組成物が歯周疾患及び関連疾患の治療に有用であることを示す。特に、当該化合物及び/又はその医薬組成物は、歯周疾患を誘発する病原体(P.gingivalis、T.forsythia及びP.intermedia)を選択的に標的化できる一方で、ヒト酵素には本質的に不活性である。
【0157】
さらに、天然に存在するバイオフィルムの残存部が実質的に保存されるべき場合が見出された。さらにより好ましくは、当該化合物及び/又は医薬組成物は、標的病原体に対して高いインビボ活性を示すはずである。
【0158】
さらに、前記病原体がバイオフィルム(例えば、複雑なバイオフィルム、天然のバイオフィルム、又は天然の経口バイオフィルム)内に埋め込まれた場合、バイオフィルム内の残りの細菌は、好ましくは、本発明による化合物に実質的に影響を受けない(すなわち、殺傷される、又はその増殖が有意に小さく阻害される)ことが見出された。
【0159】
上記の実験データから分かるように、イミダゾ[4,5-b]ピリジンコアが6位で置換される場合(すなわち、実施例2のように、式Iによる)、5位で置換される場合(すなわち、実施例1のように、フロムラIIによる)とは対照的に、特に高い阻害活性を達成することができる。それにもかかわらず、いずれの場合も、hQCヒト酵素に対する有意なbacQC阻害活性及びPgQCに対する選択性が観察された(表5)。
表5.実施例1及び2の化合物の阻害パラメータの比較
【0160】
【表7】
最後に、PiQCと他の2つのbacQCとの間の比較的高度の相同性(
図1に示すように)を考慮すると、本発明の方法を用いると、PgQC及び/又はTfQCの阻害剤として同定された化合物は、有意なPiQC活性を示すことも期待できる(上記の表6の実験データにより証明されるように)。
【0161】
VI.seqQC-’PhoA活性の測定
図5は、seqQC-’PhoA融合タンパク質を発現する透過処理した大腸菌CC118 pGP1-2細胞におけるPhoA活性を示す。天然の推定シグナル配列含有PgQCを、pECD637においてクローニングし、seqPgQC-’PhoA融合タンパク質を作製した。得られたベクターを大腸菌株CC118 pGP1-2で形質転換した。融合タンパク質の発現は、培養物を42℃で20分間インキュベーションすることにより開始した。誘導された培養物のPhoA活性は、上記の通りに測定した(Pribyl, T., Topologie des CzcCBA-Efflux-Komplexes aus Ralstonia metallidurans CH34. Dissertation, 2001, Martin-Luther-University Halle-Wittenberg)。黒色バーは、seqPgQC-`PhoAを発現する細胞のPhoA活性を示し、斜線バーは、`BlaM-`PhoA’を発現する細胞のPhoA活性を示し、陽性対照として機能し、インサートなしで発現されたベクターを陰性対照として用いた(黒色バー)。
【0162】
PhoA活性は、発色基質p-ニトロフェニルホスフェート(PNPP)(Pribyl,2001)を用いて上記のように増殖させた培養物から測定した。従って、OD600が既知である200μlの細胞懸濁液を、4℃で10分間、13000rpmで回収した。細胞ペレットを、0.5mlの10mM Tris-HCl pH8.0、10mM MgSO4及び1mMヨードアセトアミド中で洗浄した。得られた細胞ペレットを、1mlの1M Tris-HCl pH8.0、0.1mM ZnCl2及び1mMのヨードアセトアミド中に再懸濁した。次いで、0.1%(w/v)SDS50μl及びクロロホルム50μlを混合物に添加し、続いて37℃で5分間インキュベーションした。次いで、100μlの基質溶液(1M Tris-HCl pH8.0、0.4%(w/v)PNPP)の添加により反応を開始した。反応混合物をさらに、溶液が黄色になるまで37℃でインキュベーションした。次いで、120μlの1M KH2PO4、0.5M EDTA pH8.0の添加により反応を停止した。黄色発色に要する時間は、特異的な酵素的PhoA活性を規定した。細胞破片を遠心分離(13000rpm、20分)により除去し、420nmでの光学密度を上清で測定した。PhoA活性はLambert-Beerの法則に従って測定した。空ベクターpECD637含有大腸菌CC118 pGP1-2培養物を陰性対照として用い、pECD619含有大腸菌CC118 pGP1-2(Pribyl, 2001)を陽性対照として用いた。このプラスミドは`phoAドメインの下流にある短い形態のβ‐ラクタマーゼ(‘blaM)含有シグナル配列をコードする。
【0163】
[
結論]PgQCのオープンリーディングフレームのインシリコ分析は、推定シグナル配列を明らかにした。これは、P.gingivalisにおける細胞質外でのPgQCの局在を示す。アルカリホスファターゼ(PhoA)含有PgQC包含「ネイティブ」シグナル配列のC末端融合物を構築し、PgQCの「自然」局在性を検討した。アルカリホスファターゼとの融合は、ペリプラズムに局在する場合にのみ活性がある。seqPgQC-‘PhoAの発現により、638.5U/l±50.9の高ホスファターゼ活性が得られた(
図5)。これは、PgQCがペリプラズムに局在することを示す。
【0164】
VII.合成方法の説明
a)5-置換イミダゾ[4,5-b]ピリジンアミンの合成
6-クロロピリジン-2,3-ジアミンを高温でオルトギ酸トリエチルで処理して、5-クロロイミダゾ[4,5-b]ピリジンを獲得する工程(A1);その後、適当なPd-触媒及び塩基の存在下で、工程A1からの生成物を各アミンと交差カップリングさせて、対応する5-置換イミダゾ[4,5-b]ピリジンアミンを獲得する工程(A2)、を含む一般的な方法により、5-置換イミダゾ[4,5-b]ピリジンアミンを調製した。
【0165】
実施例1の化合物は、下記のスキーム1に示すように、上記の方法により調製された。
【0166】
【化18】
スキーム1:実施例1の調製用合成スキーム
〔実施例1〕N-ベンジルミダゾ[4,5-b]ピリジン-5-アミン
工程A1:5-クロロイミダゾ[4,5-b]ピリジン
6-クロロピリジン-2,3-ジアミン(718mg、5ミリモル)のメタノール(10ml)及びオルトギ酸トリエチル(10ml)溶液を3時間加熱還流した。揮発性物質を蒸発させ、残渣をCHCl
3-MeOH勾配を用いるシリカ上のフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。収量:540mg(58%);ESI-MSm/z151.1[M+H]
+
工程A2:N-ベンジリミダゾ[4,5-b]ピリジン-5-アミン
5-クロロ[4,5-b]ピリジン(207mg、1.1ミリモル、1当量)、DavePhos(10mg、0.0264ミリモル、0.25当量)及びPd
2(dba)
3(9mg、0.011ミリモル、0.1当量)を、アルゴン雰囲気下、乾燥THF(15ml)に溶解した。LiN(TMS)
2(THF中1M、2.4ml、2.4ミリモル、2.2当量)及びベンジルアミン(144μl、1.3ミリモル、1.2当量)を添加し、混合物を65℃で18時間撹拌した。室温に冷却した後、混合物を水性HCl(5N)により酸性化し、撹拌をさらに10分間続けた。反応混合物を飽和水性NaHCO
3に注ぎ、EtOAc(3×25ml)で抽出した。合わせた有機層をMgCO
3上で乾燥し、蒸発乾固した。残渣を半分取HPLCで精製した。収率:90mg(24%);
【0167】
【化19】
b)6-置換イミダゾ[4,5-b]ピリジンアミンの合成
6-置換イミダゾ[4,5-b]ピリジンアミンは、以下の工程:2-クロロ-3,5-ジニトロピリジンを適当な溶媒又は溶媒混合物中でアンモニアで処理して3,5-ジニトロピリジン-2-アミンを獲得する工程(B1);工程B1で得られた生成物を(NH
4)
2Sで処理して5-ニトロピリジン-2,3-ジアミンを獲得する工程(B2);工程B2で得られた生成物をトリエチルオルトギ酸で処理して6-ニトロイミダゾ[4,5-b]ピリジンを獲得する工程(B3);工程B3で得られた生成物を適当な還元剤で処理してイミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミンを得る工程(B4);その後、工程B4で得られた生成物を、NaBH
4等の適当な還元剤の存在下で各アルデヒドで処理して、対応するN-アリクリミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミンを得る工程(B5)を含む一般的な方法により調製した。
【0168】
上記の一般的な方法による合成経路は、下記のスキーム2に例示される。
【0169】
【化20】
スキーム2:6-置換イミダゾ[4,5-b]ピリジンアミンの合成スキーム
aa)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミンの合成
工程B1:3,5-ジニトロピリジン-2-アミン
エタノール(150ml)中の2-クロロ-3,5-ジニトロピリジン(5g、24.6ミリモル、1当量)の溶液を、NH
3水溶液(7ml、123ミリモル、5当量)で0℃で滴下処理した。完全に添加した後、混合物を周囲温度で1時間撹拌した。固体生成物を濾過により回収して乾燥させた。化合物はさらに精製せずに用いた。収量:4.17g(92%)
工程B2:5-ニトロピリジン-2,3-ジアミン
3,5-ジニトロピリジン-2-アミン(3.9g、21.2ミリモル、1当量)のメタノール(80mL)溶液を20%水性(NH
4)
2S(36.1mL、106ミリモル、5当量)で処理し、1時間加熱還流した。冷却後、固体を濾過により回収して乾燥させた。化合物はさらに精製せずに用いた。収量:3.2g(98%);
【0170】
【化21】
工程3:6-ニトロイミダゾ[4,5-b]ピリジン
メタノール(14ml)及びオルトギ酸トリエチル(14ml)中の5-ニトロピリジン-2,3-ジアミン(2.7g、17.5ミリモル)の溶液を、マイクロ波中150℃で10分間撹拌した。溶媒を蒸発させ、残渣をさらに精製せずに用いた。収量:2.64g(92%);ESI-MSm/z:165.1[M+H]
+、HPLC(勾配A):rt6.21分、100%
工程4:イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
6-ニトロイミダゾ[4,5-b]ピリジン(1240mg、7.5ミリモル、1当量)の水性塩酸(10%)溶液をSnCl2(5076mg、22.5ミリモル、3当量)で処理し、マイクロ波中100℃に30分間加熱した。室温に冷却した後、混合物を水性NaOH(1M)により塩基性化し、蒸発させた。残渣をMeOH中に懸濁し、濾過した。濾液を蒸発させ、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(シリカ、CHCl
3/MeOH勾配、0.5%NH
3)により精製した。収率:993mg(98%);ESI-MSm/z:135.2[M+H]
+;HPLC(勾配A):rt1.47分、100%
bb)N-アリクリミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミンの一般的合成法
工程5:N-アリクリミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(1当量)及び各アルデヒド(1当量)をEtOH(5ml)に溶解し、室温で4時間撹拌した。NaBH
4(1.5当量)を添加し、撹拌を一晩続けた。反応を水を用いてクエンチし、EtOAc(3×20ml)で抽出した。合わせた有機層を食塩水で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥し、蒸発させた。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(シリカ、CHCl
3/MeOH勾配)で精製した。
【0171】
以下の6-置換イミダゾ[4,5-b]ピリジンアミンの実施例を、上記の方法を用いて調製した。
【0172】
〔実施例2〕N-ベンジリミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及びベンズアルデヒド(38μl、0.4ミリモル)から出発して合成された。収量:30mg(36%);
【0173】
【化22】
〔実施例3〕N-(3,4,5-トリフルオロベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(67mg、0.5ミリモル)及び3,4,5-トリフルオロベンズアルデヒド(80mg、0.5ミリモル)から出発して合成された。収量:74mg(53%);
【0174】
【化23】
〔実施例4〕N-(4-クロロベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び4-クロロベンズアルデヒド(52mg、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:48mg(50%);
【0175】
【化24】
〔実施例5〕N-(3-クロロベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び3-クロロベンズアルデヒド(42μl、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:70mg(73%);
【0176】
【化25】
〔実施例6〕N-(3-メトキシベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び3-メトキシベンズアルデヒド(46μl、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:40mg(42%);
【0177】
【化26】
〔実施例7〕N-(4-メトキシベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び3-メトキシベンズアルデヒド(46μl、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:25mg(26%);
【0178】
【化27】
〔実施例8〕N-(3-チエニルメチル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及びチオフェン-3-カルボアルデヒド(33μl、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:60mg(70%);
【0179】
【化28】
〔実施例9〕N-(3-(1-ピペリジル)ベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び3-(1-ピペリジル)ベンズアルデヒド(71mg、0.4ミリモル)から出発して合成された。収量:56mg(49%);
【0180】
【化29】
〔実施例10〕N-(2-ピリジルメチル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及びピリジン-2-カルボアルデヒド(35μl、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:6mg(7%);
【0181】
【化30】
〔実施例11〕N-(3-ピリジルメチル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及びピリジン-3-カルボアルデヒド(35μl、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:15mg(18%);
【0182】
【化31】
〔実施例12〕N-(2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル-メチル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び1,4-ベンゾジオキサン-6-カルボアルデヒド(61mg、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:21mg(20%);
【0183】
【化32】
〔実施例13〕N-(3,4-ジメトキシベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(134mg、1ミリモル)及び3,4-ジメトキシベンズアルデヒド(166mg、1ミリモル)から出発して合成された。収量:90mg(32%);
【0184】
【化33】
〔実施例14〕N-(3,4-ジクロロベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び3,4-ジクロロベンズアルデヒド(65mg、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:75mg(69%);
【0185】
【化34】
〔実施例15〕N-(4-プロポキシベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(134mg、1ミリモル)及び4-プロポキシベンズアルデヒド(158μl、1ミリモル)から出発して合成された。収量:110mg(39%);
【0186】
【化35】
〔実施例16〕N-(4-(2-アミノエトキシ)ベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(268mg、2ミリモル)及びN-Boc-(4-(2-アミノエトキシ)ベンズアルデヒド(531mg、2ミリモル)から出発して合成し、次いで、TFA/DCM(1:1,2ml)及びTIS(100μl)を用いてBoc-脱保護し、半分取HPLCにより精製した。収量:53mg(9%);
【0187】
【化36】
〔実施例17〕1-(2-(4-((イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-イルアミノ)メチル)-フェノキシ)エチル)グアニジン
DMF中のN-(4-(2-アミノエトキシ)ベンジル)イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン*TFA(41mg、0.08ミリモル、1当量)の溶液を、N,N’-ビス(tert-ブトキシカルボニル)-S-メチルイソチオ尿素(23mg、0.08ミリモル、1当量)、DMAP(1mg、0.008ミリモル、0.1当量)及びTEA(33μl、0.24ミリモル、3当量)で処理した。混合物を室温で16時間撹拌し、水でクエンチし、EtOAc(3×20ml)で抽出した。合わせた有機層をMgCO
3上で乾燥し、蒸発させた。Boc脱保護を、TFA/DCM(1:1、2ml)及びTIS(100μl)を用いて実施した。揮発性物質を蒸発させ、残渣を半分取HPLCで精製した。収量:18mg(41%);
【0188】
【化37】
〔実施例18〕N-[(4-イソプロポキシフェニル)メチル]-3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(67mg、0.5ミリモル)及び4-イソプロポキシベンズアルデヒド(78μl、0.5ミリモル)から出発して合成された。収量:6mg(4%);
【0189】
【化38】
〔実施例19〕N-[(3-フェノキシフェニル)メチル]-3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び3-フェノキシベンズアルデヒド(64μl、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:19mg(16%);
【0190】
【化39】
〔実施例20〕N-[(4-ベンジルオキシフェニル)メチル]-3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び3-ベンジルオキシベンズアルデヒド(79mg、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:47mg(38%);
【0191】
【化40】
〔実施例21〕N-[(4-ビフェニル)メチル]-3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(50mg、0.4ミリモル)及び4-ビフェニルカルボキシアルデヒド(68mg、0.4ミリモル)から出発して合成した。収量:30mg(27%);
【0192】
【化41】
〔実施例22〕N-[(2,6-ジフルオロ-4-メトキシ-フェニル)メチル]-3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(67mg、0.5ミリモル)及び2,6-ジフルオロ-4-メトキシベンズアルデヒド(86mg、0.4ミリモル)から出発して合成された。収率:77mg(53%);
【0193】
【化42】
〔実施例23〕N-[(7-メトキシ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)メチル]-3H-イミダゾ-[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(60mg、0.45ミリモル)及び5-メトキシピペロナール(81mg、0.45ミリモル)から出発して合成した。収量:44mg(33%);
【0194】
【化43】
〔実施例24〕N-[(2,2-ジフルオロ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)メチル]-3H-イミダゾ-[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(67mg、0.5ミリモル)及び2,2-ジフルオロ-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキシアルデヒド(93mg、0.5ミリモル)から出発して合成された。収量:60mg(40%);
【0195】
【化44】
〔実施例25〕N-[[4-(2-ピリジル)フェニル]メチル]-3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(67mg、0.5ミリモル)及び4-(2-ピリジル)ベンズアルデヒド(92mg、0.5ミリモル)から出発して合成された。収量:25mg(17%);
【0196】
【化45】
〔実施例26〕N-[[4-(2-モルホリノエトキシ)フェニル]メチル]-3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(67mg、0.5ミリモル)及び4-(2-モルホリノエトキシ)ベンズアルデヒド(118mg、0.5ミリモル)から出発して合成された。収率:21mg(12%);
【0197】
【化46】
〔実施例27〕N-[(4-モルホリノフェニル)メチル]-3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン
化合物は、上記のように、イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(67mg、0.5ミリモル)及び4-(4-モルホリニル)ベンズアルデヒド(96mg、0.5ミリモル)から出発して合成された。収量:42mg(26%);
【0198】
【化47】
cc)N-ベンジリミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン-ポルフィリン結合体の合成の一般的手順
工程C1:
イミダゾ[4、5‐b]ピリジン‐6‐アミン(1当量)をMeOH又はEtOH(c=0.05~0.08M)に溶解した。各アルデヒドを添加し、混合物を、TLCが出発物質の完全なターンオーバーを示すまで室温で撹拌した。それぞれ、NaBH4(1.5当量)(Ra/b=
1Hの場合)又はNaBD4(1.7当量)(Ra/b=Dの場合)を慎重に添加し、一晩撹拌を続けた。揮発性物質を蒸発させ、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(Al
2O
3、CHCl
3/MeOH勾配)により精製した。
精製した生成物をMeOH(c=0.06~0.12M)に溶解し、新しく調製したMeOH(16当量)中の1M HClで処理した。室温で3時間撹拌した後、揮発性物質を蒸発させ、残渣はさらに精製せずに用いた。
【0199】
【化48】
スキーム3:N-ベンジリミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン-ポルフィリン結合体の合成のための例示的合成スキーム
工程C2:
工程C1により得られたN-[[4-(2-アミノエトキシ)フェニル]-メチル]-
1H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン又はN-[[4-(2-アミノエトキシ)-フェニル]ジデュテリオ-メチル]-
1H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-アミン(1当量)をジメチルホルムアミド(c=0.1~0.13M)に溶解し、Fmoc-Lys(Boc)-OH(1.2当量)、TBTU(1.2当量)及びDIPEA(4当量)を添加し、混合物を室温で4-5時間撹拌した。水を添加し、EtOAc(3×100ml)で抽出した。合わせた有機層をNa
2SO
4上で乾燥し、蒸発させた。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(Al
2O
3、CHCl
3/MeOH勾配)により精製した。
【0200】
工程C3:
工程C2(1当量)により得られた各生成物をジメチルホルムアミド(c=0.03M)に溶解し、DBU(1当量)で処理し、室温で30~40分間撹拌した。適当なポルフィリン(1.2当量)、HOBt(1.2当量)、TBTU(1当量)及びDIPEA(4当量)をジメチルホルムアミドに溶解し、室温で50分間予め混合し、溶液に添加した。混合物を室温で一晩撹拌した。TFA/DCM(1:1v/v、10ml)の添加により反応を慎重に停止し、撹拌を45分間続けた。揮発性物質を蒸発させ、粗混合物を直接半分取HPLCにかけた。
【0201】
〔実施例28〕3-[(1Z、4Z、9Z、15Z)-18-[3-[[(1S)-5-アミノ-1-[2-[4-[(3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-イルアミノ)メチル]フェノキシ]-エチルカルバモイル]ペンチル]アミノ]-3-オキソ-プロピル]-3,8,13,17-テトラメチル-21,23-ジヒドロポルフィリン-2-イル]-プロパン酸
【0202】
【化49】
〔実施例29〕3-[(4Z、10Z、15Z、19Z)-18-[3-[[(1S)-5-アミノ-1-[2-[4-[dideuterio-(1H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-6-イルアミノ)-メチル]フェノキシ]エチルカルバモイル]ペンチル]アミノ]-3-オキソ-プロピル]-3,8,13,17-テトラメチル-22,24-ジヒドロ-ポルフィリン-2-イル]プロパン酸
【0203】
【化50】
C)分析方法
HPLC:分析HPLCシステムは、LUNA RP 18(5μm)、分析カラム(長さ:125mm、直径:4mm)、及び報告波長がλ=214nmであるダイオードアレイ検出器(DAD)を利用するMerck‐Hitachiデバイス(モデルLaChrom)から構成された。化合物を1mL/分の流速で勾配を用いて分析し、溶離剤(A)がアセトニトリルであり、溶離剤(B)が水であり、両者とも0.04%(v/v)トリフルオロ酢酸を含み、次の勾配のいずれかを適用した:勾配A:0分~5%(A)、15分~60%(A)、20分~95%(A)、30分~95%(A)、31分~5%(A)、35分~5%(A)
勾配B:0分~1%(A)、5分~1%(A)、20分~20%(A)、30分~95%(A)、34分~95%(A)、35分~1%(A)、37分~1%(A)
すべての報告された化合物の純度は、214nmでのピーク面積の比率により決定された。
【0204】
質量分析:SCIEX API 1200分光計(Perkin Elmer)又は式CMS(アドバイス)を用いて、ESI及びAPCI-Massスペクトルを得た。
【0205】
NMR分光法:1H NMRスペクトルをAgilent DD2 400MHz分光計で記録した。化学シフトは、テトラメチルシランからの百万分率(ppm)ダウンフィールドで表される。分割パターンは、s(一重項)、d(二重項)、dd(二重項)、t(三重項)、m(多重項)及びbr(広いシグナル)と指定されている。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本発明による結晶及び共結晶は、治療標的タンパク質(細菌性グルタミニルシクラーゼ、bacQC)の結晶であり、bacQCの結合ポケットに関連し得る候補化合物を同定する方法を用いて、歯周炎誘発病原体の選択的標的法が可能な阻害剤の同定に、特異的かつ実質的に用いることができる。したがって、結晶は、特定の疾患、例えば歯周炎の治療に関連し、従って、産業上の利用可能性に影響されやすい。
【0207】
本発明によるbacQCの結合ポケットに関連し得る及び/又はbacQC阻害剤である候補化合物を同定する方法は、歯周炎の発生に対するbacQC酵素の薬学的関連性及び本明細書で示される歯周病原体の成長に対するそれらが必須であることを考慮すると、工業的に適用可能である。
【0208】
bacQCの結合ポケットと会合し得る、及び/又はbacQC阻害剤である候補化合物を同定する方法により同定された化合物を含む、本発明による化合物、並びに本発明による医薬組成物はまた、ヒト又は動物の体の治療方法、特に細菌感染の治療又は予防の方法、例えばPorphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia及びTannerella forsythiaからなる群から選択される細菌により生じる細菌感染、及び/又は急性、慢性又は再発性歯周疾患、例えば歯周炎の治療又は予防の方法で用いられるため、産業上の利用可能性がある。
【0209】
本結果をもたらした研究活動は、欧州連合の支援を受けたものである。
【配列表】