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特許7301885静電線形イオントラップにおける2次元フーリエ変換質量分析
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】静電線形イオントラップにおける2次元フーリエ変換質量分析
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20230626BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20230626BHJP
   H01J 49/02 20060101ALI20230626BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20230626BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230626BHJP
【FI】
H01J49/42 450
H01J49/00 590
H01J49/02 700
H01J49/00 310
H01J49/00 360
H01J49/06 100
H01J49/00 540
H01J49/00 680
G01N27/62 E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020564852
(86)(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 IB2019054295
(87)【国際公開番号】W WO2019229599
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】62/677,149
(32)【優先日】2018-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジーコンスキー, エリック トーマス
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06888130(US,B1)
【文献】特表2013-517595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
H01J 49/00
H01J 49/02
H01J 49/06
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御するためのシステムであって、前記システムは、
サンプルをイオン化し、イオンビームを生成するように構成されたイオン源デバイスと、
イオン伝達光学系と、
2つの組のリフレクトロンと、1つ以上のピックアップ電極と、断片化デバイスとを含む静電線形イオントラップ(ELIT)と、
前記イオン源デバイス、前記イオン伝達光学系、および前記ELITと通信しているプロセッサと
を備え、
前記プロセッサは、
取得の総数Nを実施するように前記イオン伝達光学系およびELITを制御し、前記N回の取得のうちの各取得nに関して、
前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御することであって、前記ELITは、前記2つの組のリフレクトロンによって生成された2つの電場間で前記イオンを軸方向に振動させる、ことと、
前記1つ以上のピックアップ電極を使用して、イオン注入から合計取得時間T acq1 まで、前記振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定することと、前記断片化デバイスを使用して、T acq1 内で、前記振動するイオンの一方または両方の転換点において前記振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを前記振動するイオンに追加することとを行うように前記ELITを制御することであって、前記断片化は、前記イオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施され、前記遅延時間tactは、各後続の取得n+1において時間増分Δtだけ増加させられ、前記振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる、ことと、
メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列n として前記測定された時間ドメインイメージ電流を記憶することと
を行う、システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記取得の総数NをN=Nに設定することであって、Nは、前駆イオン質量分解能の選択から計算される、ことと、
s2のサンプリング周波数における連続取得において、イオン注入と断片化との間の前記遅延時間tactを増加させることと
によって、前駆体次元において一様なサンプリングを実施するように前記ELITを制御し、
最大遅延時間Tacq2は、Tacq2=(N-1)/fs2から計算され、fs2は、測定されるべき前駆イオンの最小質量対電荷比(m/z)の選択から計算され、前記時間増分Δtは、一定の時間増分Δtactである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、連続取得において前記時間増分Δtを変動させることによって、前駆体次元において非一様なサンプリングを実施するように前記ELITを制御する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、fs1のサンプリング率でのNs個のサンプルを使用して、前記振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定するように前記ELITを制御し、前記合計取得時間Tacq1は、Tacq1=(N-1)/fs1から計算される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
s1は、測定されるべき生成および前駆イオンの最小質量対電荷比(m/z)の選択から計算され、Nは、生成イオン質量分解能の選択から計算される、請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサは、ミラー切り替えを使用して、前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記プロセッサは、イントラップ電位リフトを使用して、前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサは、パルス偏向器を使用して、前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記断片化デバイスは、光源を含み、前記光源は、光ビームを前記一方または両方の転換点に向け、紫外線光解離(UVPD)または赤外線多光子解離による断片化を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記断片化デバイスは、電子源を含み、前記電子源は、電子ビームを前記一方または両方の転換点に向け、電子活性化解離による断片化を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記断片化デバイスは、中性粒子源を含み、前記中性粒子源は、中性粒子ビームを前記一方または両方の転換点に向け、中性粒子解離による断片化を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記断片化デバイスは、前記一方または両方の転換点における表面を含み、前記表面は、表面誘発解離(SID)を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記プロセッサは、フーリエ変換を前記2次元行列の各列に適用することと、フーリエ変換を前記2次元行列の各行に適用することとをさらに行うことによって、周波数値の2次元行列を生成し、前記周波数値の2次元行列を転置し、前記ELITの幾何学形状に基づいて、前記転置された周波数値の2次元行列を質量対電荷比(m/z)値の行列に変換し、2次元質量スペクトルとして前記m/z値の行列の値をプロットする、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御する方法であって、前記方法は、
プロセッサを使用して、取得の総数Nを実施するようにイオン伝達光学系およびELITを制御し、前記N回の取得のうちの各取得nに関して、
前記プロセッサを使用して、オンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御することであって、前記ELITは、2つの組のリフレクトロンによって生成された2つの電場間で前記イオンに軸方向に振動させ、前記イオンビームは、サンプルをイオン化するように構成されたイオン源によって生成され、前記ELITは、前記2つの組のリフレクトロンと、1つ以上のピックアップ電極と、断片化デバイスとを含む、ことと、
前記プロセッサを使用して、前記1つ以上のピックアップ電極を使用して、イオン注入から合計取得時間T acq1 まで、前記振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定することと、前記断片化デバイスを使用して、T acq1 内で、前記振動するイオンの一方または両方の転換点において前記振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを前記振動するイオンに追加することとを行うように前記ELITを制御することであって、前記断片化は、前記イオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施され、前記遅延時間tactは、各後続の取得n+1において、時間増分Δtactだけ増加させられ、前記振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる、ことと、
メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列nとして前記測定された時間ドメインイメージ電流を記憶することと
を含む、方法。
【請求項15】
非一過性の有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、前記記憶媒体のコンテンツは、プロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含み、前記命令は、前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御する方法を実施するためのものであり、前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、制御モジュールと、記憶および分析モジュールとを備えている、ことと、
前記制御モジュールを使用して、取得の総数Nを実施するようにオン伝達光学系およびELITを制御し、前記N回の取得のうちの各取得nに関して、
前記制御モジュールを使用して、オンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御することであって、前記ELITは、2つの組のリフレクトロンによって生成された2つの電場間で前記イオンに軸方向に振動させ、前記イオンビームは、サンプルをイオン化するように構成されたイオン源によって生成され、前記ELITは、前記2つの組のリフレクトロンと、1つ以上のピックアップ電極と、断片化デバイスとを含む、ことと、
前記制御モジュールを使用して、前記1つ以上のピックアップ電極を使用して、イオン注入から合計取得時間T acq1 まで、前記振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定することと、前記断片化デバイスを使用して、T acq1 内で、前記振動するイオンの一方または両方の転換点において前記振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを前記振動するイオンに追加することとを行うように前記ELITを制御することであって、前記断片化は、前記イオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施され、前記遅延時間tactは、各後続の取得n+1において時間増分Δtだけ増加させられ、前記振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる、ことと、
前記記憶および分析モジュールを使用して、メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列nとして前記測定された時間ドメインイメージ電流を記憶することと
を含む、コンピュータプログラム製品。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願)
本願は、その内容が参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる2018年5月28日に出願された米国仮特許出願第62/677,149号の利益を主張する。
【0002】
(背景)
本明細書の教示は、質量分析計を動作させ、または制御し、静電線形イオントラップ(ELIT)において2次元フーリエ変換質量分析または質量分析法(2D FT MS)を実施することに関する。2D FT MSにおいて、前駆イオンおよび生成イオンデータが、同時に記録され、生成イオンが、前駆イオン分離を実施することなく、それらの対応する前駆イオンに合致させられる。
【0003】
より具体的に、本明細書の教示は、励起および断片化パルスのみを使用して、ELITを用いて2D FT MSを実施するシステムおよび方法に関する。これは、加えて、2D MSを実施するために複雑なエンコーディングパルスを要求する従来のシステムに優る大幅な改善である。本明細書に開示されるシステムおよび方法は、1つ以上のプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、または図1のコンピュータシステム等のコンピュータシステムと併せて実施される。
【0004】
(質量分析技法についての背景)
一般に、タンデム質量分析または質量分析/質量分析(MS/MS)は、化合物を分析するための周知の技法である。タンデム質量分析は、サンプルからの1つ以上の化合物のイオン化と、1つ以上の化合物の1つ以上の前駆イオンの選択と、断片または生成イオンへの1つ以上の前駆イオンの断片化と、生成イオンの質量分析を伴う。
【0005】
タンデム質量分析は、定性的および定量的情報の両方を提供することができる。生成イオンスペクトルは、着目分子を識別するために使用されることができる。1つ以上の生成イオンの強度が、サンプルに存在する化合物の量を定量化するために使用されることができる。
【0006】
従来のタンデム質量分析は、活性化および分離の前の前駆イオン分離に依拠する。活性化および解離は、以降、集合的に断片化とも称される。極めて複雑な混合物、例えば、原油または血液に関して、多くの化合物が、同じ名目上の質量対電荷比(m/z)を共有し得、それは、着目イオンを質量分離し、タンデム質量分析(特に、四重極において)を実施することが可能ではないこともある。加えて、サンプルに存在する全てのイオンのMS/MS質量スペクトルを得るために、注入、分離、断片化、および分析ステップの数は、異なるイオンの数とともに直線的に増減する。
【0007】
(2D FT-ICR MS)
2D FT MSは、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR MS)を使用して実施され得ることが周知である。FT-ICR MSは、FT-ICR質量分析計を使用して実施される。
【0008】
図2は、FT-ICR質量分析計の概略図200である。図2のFT-ICR質量分析計は、イオン源210と、イオン伝達光学系220と、ICRセルまたはトラップ230と、超電導磁石240とを含む。超電導磁石240の大型サイズは、FT-ICR質量分析計を購入および動作させることを高価にする。
【0009】
Floris et al.による、「2D FT-ICR MS of Calmodulin:A Top-Down and Bottom-Up Approach」(J. Am. Soc. Mass Spectrom.(2016),27:1531-1538)と題された論文(以降では「Floris論文」)は、2D FT MSがFT-ICR MSを使用して実施される方法を例証する。Floris論文は、2D FT MSが、「事前分離なしに、サンプル内の全てのイオンのデータ依存性断片化、および前駆イオンと断片イオンとの相関を可能にし」、この「相関が、一連の(無線周波数(RF)パルス)を使用して、断片化に先立って前駆イオンのサイクロトロン半径の変調を通して得られる」ことを説明する。換言すると、断片イオンとの前駆イオンの相関は、一連のRFパルスの使用を通して可能にされる。Floris論文は、これらのRFパルスをエンコーディングパルスと称する。FT-ICR質量分析計(2D FT-ICR MS)を使用して、2D FT MS実験を実施するために、Floris論文は、エンコーディングパルスに加えて、3つの他のタイプのパルスを印加することを説明する。
【0010】
図3は、FT-ICR質量分析計のICRセルにおいて2D FT-ICR MSを実施するために必要な4つのパルスを示すFloris論文からのタイミング図300である。イオンは、軸方向にICRセルに進入し、励起パルス310によって励起される。Floris論文によると、「イオンは、エンコーディング時間にわたってそれらのサイクロトロン周波数に従ってセルの内側で回転し、位相を蓄積する」。励起パルス310に等しいエンコーディングパルス320が、「次いで、印加され、イオンは、(エンコーディングパルス320)に対するそれらの瞬時位相に応じて、さらに励起されるか、または脱励起される」。エンコーディングパルス320の終わりに、「イオンのサイクロトロン半径は、(エンコーディング時間およびそれらのサイクロトロン周波数)に従って変調される」。
【0011】
エンコーディングパルス320の後、「イオンが、半径依存性断片化を受け、その存在量が(前駆イオンのエンコーディング時間およびサイクロトロン周波数)に依存する断片イオンを生成する」断片化期間が続く。半径依存性断片化は、断片化パルス330によって描写される。断片化パルス330は、他のパルスのようなRFパルスではないことに留意されたい。Floris論文は、断片化パルス330が、例えば、中性ガスパルスを用いたセル内衝突解離、赤外線多光子解離(IRMPD)、または電子捕捉解離(ECD)を含み得ることを規定する。
【0012】
断片化パルス330後、観察パルス340が、印加される。観察パルス340は、前駆イオンおよび断片イオンが、FT-ICR質量分析計のICRセルによって検出され得るように、両方を励起する。
【0013】
(LITにおける2D MS)
上で説明されるように、FT-ICR質量分析計は、購入し、動作させることが高価である。結果として、2D FT MSを実施するための低コスト代替物が、継続的に求められている。van Agthoven et al.による、「Two-dimensional mass spectrometry in a linear ion trap,an in silico model」(Rapid Commun. Mass Spectrom.(2017),31:674-6840)と題された論文(以降では「van Agthoven論文」)において、四重極線形イオントラップ(LIT)における2D MS(非FT)のシミュレーションが、実施された。
【0014】
図4は、van Agthoven論文内のシミュレーションで使用された四重極LITの概略図400である。van Agthoven論文のシミュレーションにおいて、イオン源410が、前駆イオンを四重極LIT420に供給する。イオンが、電圧発生器(図示せず)を使用して、直流(DC)電圧を四重極LIT420のエンドキャップ電極に、RF電圧発生器421を使用して、無線周波数(RF)電圧を四重極LIT420の四重極ロッドに印加することによって、四重極LIT420内に貯蔵される。DC電圧およびRF電圧は、集合的に、例えば、励起パルスである。エンコーディングパルスが、エンコーディング変調器422を使用して、四重極LIT420の四重極ロッド上のRF電圧に追加される。エンコーディングパルスは、双極子励起が実施されるのと同様に、一対のロッドのみ(各ロッドにおいて逆位相)に追加される。エンコーディングパルスは、例えば、貯蔵された波形イオン半径変調(SWIM)パルスを含む。エンコーディングパルスが印加された後、断片化パルスが、軸方向に印加される。例えば、レーザ430は、断片化パルスを提供し、光解離を実施することができる。
【0015】
van Agthoven論文において、実験は、毎回異なるSWIMエンコーディングパルスを使用して、128回繰り返される。各SWIMパルスは、イオンを励起し(振幅は、周波数依存性である)、イオン雲の半径を増加させる。イオン雲の半径が、増加させられるにつれて、断片化効率は、減少させられる(断片化ゾーン内により少ないイオン)。断片化効率は、したがって、イオンの永年周波数における励起波形の振幅/持続時間に直接関連する。各異なるSWIM波形は、異なる振幅対周波数プロファイルを有する。
【0016】
これは、次に、異なる前駆イオンのカウントを128SWIMパルスインデックスに対して異なって変動させる。異なる前駆イオンのカウントは、例えば、異なる128SWIMパルスインデックスで減少する。van Agthoven論文は、断片化パルスから生成される生成イオンが128SWIMパルスインデックスに対して変動する周波数が、それらの前駆イオンと同じであることを示す。換言すると、van Agthoven論文は、128SWIMパルスインデックスから成るエンコーディングパルスが、前駆イオンをそれらの生成イオンに関係付け、2D MSを可能にするために使用され得ることを示す。
【0017】
図5は、2D MSを可能にするために四重極LITシミュレーションにおいて印加されたパルスを示すvan Agthoven論文からのタイミング図500である。上で説明されるように、シミュレーションは、128回繰り返される。パルスの各々は、単一のシミュレーションのための総タイムラインであるタイムライン上に示される。例えば、シミュレーションは、時間501から開始し、時間509において終了する。シミュレーションの開始時、イオン化パルス510または時間量が、サンプルをイオン化し、四重極LITをイオンで充填するために提供される。シミュレーション全体に関して、RF信号520が、四重極ロッドに印加され、DC信号530が、四重極LITのエンドキャップに印加される。RF信号520は、四重極に印加されるRF捕獲場であり、実験の全体を通して一定である。同様に、DC信号530は、軸方向次元内にイオンを閉じ込め、実験の全体を通して一定である。
【0018】
イオン化後であるが断片化前、励起およびエンコーディングパルス540が、印加される。励起およびエンコーディングパルス540パルスは、単一のSWIM波形から成る。最後、エンコーディングパルスが印加された後、断片化パルス550が、前駆イオンを断片化するために印加される。実験は、異なる励起およびエンコーディングパルス540を用いて128回繰り返される。
【0019】
(エンコーディング問題)
van Agthoven論文で提案される四重極LITは、2D MSを実施するためのFT-ICR質量分析計に優る大きなコスト利点を有するが、それは、依然として、同様のレベルの複雑性を伴う。特に、2D FT-ICR MSのように、複雑なエンコーディングパルスが、前駆イオンを生成イオンに関係付けるために要求される。より重要なこととして、四重極LITによって生成される2D質量スペクトルの分解能は、最終的に質量分析器によって限定される。四重極を使用して、数千の分解能を達成することのみが可能である。結果として、追加のシステムおよび方法が、2D MSを実施するために要求される複雑性を低減させるために必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
(要約)
システム、方法、およびコンピュータプログラム製品が、前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御するために開示される。3つ全ての実施形態は、以下のステップを含む。
【課題を解決するための手段】
【0021】
プロセッサを使用して、質量分析計のイオン伝達光学系およびELITが、取得の総数Nを実施するように制御される。いくつかのステップが、プロセッサを使用して、N回の取得のうちの各取得nに関して実施される。イオン伝達光学系は、イオンビームからのイオンをELITの中に注入するように制御され、ELITは、2つの組のリフレクトロンによって生成された2つの電場間でイオンに軸方向に振動させる。イオンビームは、サンプルをイオン化するように構成されたイオン源によって生成される。ELITは、2つの組のリフレクトロンと、1つ以上のピックアップ電極と、断片化デバイスとを含む。
【0022】
ELITは、1つ以上のピックアップ電極を使用して、イオン注入から合計取得時間Tacq1まで、振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定するように制御される。ELITは、断片化デバイスを使用して、振動するイオンの一方または両方の転換点において、Tacq1内で、振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを振動するイオンに追加するように、制御される。断片化は、各後の取得n+1において時間増分Δtだけ増加させられるイオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施され、振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる。
【0023】
遅延時間tactは、一様なサンプリングまたは非一様なサンプリングを使用して、増加させられることができる。一様なサンプリングにおいて、遅延時間tactは、一定の時間増分Δtだけ増加させられる。非一様なサンプリングにおいて、遅延時間tactは、データ点がスキップされ、取得の総数が削減されることを可能にする変動する時間増分Δtだけ増加させられる。
【0024】
測定された時間ドメインイメージ電流は、メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列nとして記憶される。当業者は、同じ行列演算が、列または行に実施され得るので、このデータが、代替として、行列の行内に記憶され得ることを理解するであろう。
【0025】
出願者の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御するためのシステムであって、前記システムは、
サンプルをイオン化し、イオンビームを生成するように構成されたイオン源デバイスと、
イオン伝達光学系と、
2つの組のリフレクトロンと、1つ以上のピックアップ電極と、断片化デバイスとを含む静電線形イオントラップ(ELIT)と、
前記イオン源デバイス、前記イオン伝達光学系、および前記ELITと通信しているプロセッサと
を備え、
前記プロセッサは、
取得の総数Nを実施するように前記イオン伝達光学系およびELITを制御し、前記N回の取得のうちの各取得nに関して、
前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御することであって、前記ELITは、前記2つの組のリフレクトロンによって生成された2つの電場間で前記イオンを軸方向に振動させる、ことと、
前記1つ以上のピックアップ電極を使用して、イオン注入から合計取得時間T acq1 まで、前記振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定することと、前記断片化デバイスを使用して、T acq1 内で、前記振動するイオンの一方または両方の転換点において前記振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを前記振動するイオンに追加することとを行うように前記ELITを制御することであって、前記断片化は、前記イオン注入に対する遅延時間t act において実施され、前記遅延時間t act は、各後続の取得n+1において時間増分Δtだけ増加させられ、前記振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる、ことと、
メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列n として前記測定された時間ドメインイメージ電流を記憶することと
を行う、システム。
(項目2)
前記プロセッサは、
前記取得の総数NをN=N に設定することであって、N は、前駆イオン質量分解能の選択から計算される、ことと、
s2 のサンプリング周波数における連続取得において、イオン注入と断片化との間の前記遅延時間t act を増加させることと
によって、前駆体次元において一様なサンプリングを実施するように前記ELITを制御し、
最大遅延時間T acq2 は、T acq2 =(N -1)/f s2 から計算され、f s2 は、測定されるべき前駆イオンの最小質量対電荷比(m/z)の選択から計算され、前記時間増分Δtは、一定の時間増分Δt act である、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記プロセッサは、連続取得において前記時間増分Δtを変動させることによって、前駆体次元において非一様なサンプリングを実施するように前記ELITを制御する、項目1に記載のシステム。
(項目4)
前記プロセッサは、fs1のサンプリング率でのNs個のサンプルを使用して、前記振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定するように前記ELITを制御し、前記合計取得時間T acq1 は、T acq1 =(N -1)/f s1 から計算される、項目1に記載のシステム。
(項目5)
s1 は、測定されるべき生成および前駆イオンの最小質量対電荷比(m/z)の選択から計算され、N は、生成イオン質量分解能の選択から計算される、項目2に記載のシステム。
(項目6)
前記プロセッサは、ミラー切り替えを使用して、前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御する、項目1に記載のシステム。
(項目7)
前記プロセッサは、イントラップ電位リフトを使用して、前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御する、項目1に記載のシステム。
(項目8)
前記プロセッサは、パルス偏向器を使用して、前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御する、項目1に記載のシステム。
(項目9)
前記断片化デバイスは、光源を含み、前記光源は、光ビームを前記一方または両方の転換点に向け、紫外線光解離(UVPD)または赤外線多光子解離による断片化を生成する、項目1に記載のシステム。
(項目10)
前記断片化デバイスは、電子源を含み、前記電子源は、電子ビームを前記一方または両方の転換点に向け、電子活性化解離による断片化を生成する、項目1に記載のシステム。
(項目11)
前記断片化デバイスは、中性粒子源を含み、前記中性粒子源は、中性粒子ビームを前記一方または両方の転換点に向け、中性粒子解離による断片化を生成する、項目1に記載のシステム。
(項目12)
前記断片化デバイスは、前記一方または両方の転換点における表面を含み、前記表面は、表面誘発解離(SID)を生成する、項目1に記載のシステム。
(項目13)
前記プロセッサは、フーリエ変換を前記2次元行列の各列に適用することと、フーリエ変換を前記2次元行列の各行に適用することとをさらに行うことによって、周波数値の2次元行列を生成し、前記周波数値の2次元行列を転置し、前記ELITの幾何学形状に基づいて、前記転置された周波数値の2次元行列を質量対電荷比(m/z)値の行列に変換し、2次元質量スペクトルとして前記m/z値の行列の値をプロットする、項目1に記載のシステム。
(項目14)
前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御する方法であって、前記方法は、
プロセッサを使用して、取得の総数Nを実施するようにイオン伝達光学系およびELITを制御し、前記N回の取得のうちの各取得nに関して、
前記プロセッサを使用して、前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御することであって、前記ELITは、2つの組のリフレクトロンによって生成された2つの電場間で前記イオンに軸方向に振動させ、前記イオンビームは、サンプルをイオン化するように構成されたイオン源によって生成され、前記ELITは、前記2つの組のリフレクトロンと、1つ以上のピックアップ電極と、断片化デバイスとを含む、ことと、
前記プロセッサを使用して、前記1つ以上のピックアップ電極を使用して、イオン注入から合計取得時間T acq1 まで、前記振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定することと、前記断片化デバイスを使用して、T acq1 内で、前記振動するイオンの一方または両方の転換点において前記振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを前記振動するイオンに追加することとを行うように前記ELITを制御することであって、前記断片化は、前記イオン注入に対する遅延時間t act において実施され、前記遅延時間t act は、各後続の取得n+1において、時間増分Δt act だけ増加させられ、前記振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる、ことと、
メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列nとして前記測定された時間ドメインイメージ電流を記憶することと
を含む、方法。
(項目15)
非一過性の有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、前記記憶媒体のコンテンツは、プロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含み、前記命令は、前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御する方法を実施するためのものであり、前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、制御モジュールと、記憶および分析モジュールとを備えている、ことと、
前記制御モジュールを使用して、取得の総数Nを実施するように前記イオン伝達光学系およびELITを制御し、前記N回の取得のうちの各取得nに関して、
前記制御モジュールを使用して、前記イオンビームからのイオンを前記ELITの中に注入するように前記イオン伝達光学系を制御することであって、前記ELITは、2つの組のリフレクトロンによって生成された2つの電場間で前記イオンに軸方向に振動させ、前記イオンビームは、サンプルをイオン化するように構成されたイオン源によって生成され、前記ELITは、前記2つの組のリフレクトロンと、1つ以上のピックアップ電極と、断片化デバイスとを含む、ことと、
前記制御モジュールを使用して、前記1つ以上のピックアップ電極を使用して、イオン注入から合計取得時間T acq1 まで、前記振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定することと、前記断片化デバイスを使用して、T acq1 内で、前記振動するイオンの一方または両方の転換点において前記振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを前記振動するイオンに追加することとを行うように前記ELITを制御することであって、前記断片化は、前記イオン注入に対する遅延時間t act において実施され、前記遅延時間t act は、各後続の取得n+1において時間増分Δtだけ増加させられ、前記振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる、ことと、
前記記憶および分析モジュールを使用して、メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列nとして前記測定された時間ドメインイメージ電流を記憶することと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【0026】
当業者は、下で説明される図面が例証目的のみのためであることを理解するであろう。図面は、いかようにも本教示の範囲を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステムを図示するブロック図である。
【0028】
図2図2は、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析計の概略図である。
【0029】
図3図3は、FT-ICR質量分析計のICRセルにおいて2次元(2D)FT-ICR質量分析(MS)を実施するために必要な4つのパルスを示すFloris論文からのタイミング図である。
【0030】
図4図4は、van Agthoven論文内のシミュレーションで使用された四重極線形イオントラップ(LIT)の概略図である。
【0031】
図5図5は、2D MSを可能にするために四重極LITシミュレーションにおいて印加されたパルスを示すvan Agthoven論文からのタイミング図である。
【0032】
図6図6は、種々の実施形態による、2D FT MSを実施するための静電線形イオントラップ(ELIT)の断面側面図である。
【0033】
図7図7は、種々の実施形態による、ELITが断片化パルスのタイミングをシフトさせる複数の連続取得からの仮定のデータの3次元(3D)プロットを示し、前駆イオンm/z対生成イオンm/zの対応する2次元(2D)質量スペクトルを示す略図である。
【0034】
図8図8は、種々の実施形態による、ELITを用いて2D FT MSを実施するためのワークフローを示す例示的フローチャートである。
【0035】
図9図9は、FT-ICRを用いて2D FT MSを実施するためのワークフローを示す例示的フローチャートである。
【0036】
図10図10は、種々の実施形態による、ELITを使用して2D FT MSをシミュレートすることから得られる2Dスペクトルの例示的プロットである。
【0037】
図11図11は、種々の実施形態による、525の前駆イオンm/zにおいて図10の2Dスペクトルから抽出される生成イオンスペクトルの例示的プロットである。
【0038】
図12図12は、前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御するためのシステムの概略図である。
【0039】
図13図13は、種々の実施形態による、前駆イオン次元における一様なサンプリングを示すELITが断片化パルスのタイミングをシフトさせる複数の連続取得からの仮定のデータの3Dプロットである。
【0040】
図14図14は、種々の実施形態による、前駆イオン次元における非一様なサンプリングを示すELITが断片化パルスのタイミングをシフトさせる複数の連続取得からの仮定のデータの3Dプロットである。
【0041】
図15図15は、種々の実施形態による、前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御する方法を示すフローチャートである。
【0042】
図16図16は、種々の実施形態による、前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本教示の1つ以上の実施形態が、詳細に説明される前、当業者は、本教示が、それらの用途において、以下の詳細な説明に記載され、または図面に図示される構造の詳細、構成要素の配列、およびステップの配列に限定されないことを理解するであろう。本明細書で使用される表現法および用語が説明の目的のためであり、限定的と見なされるべきではないことも理解されたい。
【0044】
(様々な実施形態の説明)
(コンピュータ実装システム)
図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステム100を図示するブロック図である。コンピュータシステム100は、情報を通信するためのバス102または他の通信機構と、情報を処理するためのバス102と結合されたプロセッサ104とを含む。コンピュータシステム100は、プロセッサ104によって実行されるべき命令を記憶するためにバス102に結合されたランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得るメモリ106も含む。メモリ106は、プロセッサ104によって実行されるべき命令の実行中に一時的変数または他の中間情報を記憶するためにも使用され得る。コンピュータシステム100は、プロセッサ104のための静的情報および命令を記憶するためのバス102に結合された読み取り専用メモリ(ROM)108または他の静的記憶デバイスをさらに含む。磁気ディスクまたは光ディスク等の記憶デバイス110が、情報および命令を記憶するために提供され、バス102に結合されている。
【0045】
コンピュータシステム100は、情報をコンピュータユーザに表示するためにバス102を介して陰極線管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ112に結合され得る。英数字または他のキーを含む入力デバイス114が、情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信するためにバス102に結合されている。別のタイプのユーザ入力デバイスは、方向情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信すること、およびディスプレイ112上のカーソル移動を制御することを行うためのマウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御116である。この入力デバイスは、デバイスが平面内の位置を規定することを可能にする2つの軸、すなわち、第1の軸(すなわち、x)および第2の軸(すなわち、y)において2つの自由度を典型的に有する。
【0046】
コンピュータシステム100は、本教示を実施することができる。本教示のある実装と一致して、結果が、プロセッサ104がメモリ106内に含まれる1つ以上の命令の1つ以上の一続きを実行することに応答して、コンピュータシステム100によって提供される。そのような命令は、記憶デバイス110等の別のコンピュータ読み取り可能な媒体からメモリ106に読み込まれ得る。メモリ106内に含まれる一続きの命令の実行は、本明細書に説明されるプロセスをプロセッサ104に実施させる。代替として、配線回路が、本教示を実装するために、ソフトウェア命令の代わりに、またはそれらと組み合わせて、使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路とソフトウェアのいずれの具体的組み合わせにも限定されない。
【0047】
種々の実施形態において、コンピュータシステム100は、ネットワーク化されたシステムを形成するために、ネットワークを横断してコンピュータシステム100のような1つ以上の他のコンピュータシステムに接続されることができる。ネットワークは、私設ネットワークまたはインターネット等の公衆ネットワークを含むことができる。ネットワーク化されたシステムにおいて、1つ以上のコンピュータシステムは、データを記憶し、他のコンピュータシステムに供給することができる。データを記憶および供給する1つ以上のコンピュータシステムは、クラウドコンピューティングシナリオではサーバまたはクラウドと称されることができる。1つ以上のコンピュータシステムは、例えば、1つ以上のウェブサーバを含むことができる。データをサーバまたはクラウドに送信、およびそれからデータを受信する他のコンピュータシステムは、例えば、クライアントまたはクラウドデバイスと称されることができる。
【0048】
本明細書で使用されるような用語「コンピュータ読み取り可能な媒体」は、実行のために命令をプロセッサ104に提供することに関与する任意の媒体を指す。そのような媒体は、限定ではないが、不揮発性媒体、揮発性媒体、および伝送媒体を含む多くの形態をとり得る。不揮発性媒体は、例えば、記憶デバイス110等の光または磁気ディスクを含む。揮発性媒体は、メモリ106等の動的メモリを含む。伝送媒体は、バス102を備えているワイヤを含む同軸ケーブル、銅線、および光ファイバを含む。
【0049】
コンピュータ読み取り可能な媒体またはコンピュータプログラム製品の一般的形態は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または任意の他の磁気媒体、CD-ROM、デジタルビデオディスク(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク、任意の他の光学媒体、サムドライブ、メモリカード、RAM、PROM、およびEPROM、FLASH(登録商標)-EPROM、任意の他のメモリチップまたはカートリッジ、またはコンピュータが読み取り得る任意の他の有形媒体を含む。
【0050】
コンピュータ読み取り可能な媒体の種々の形態が、実行のために1つ以上の命令の1つ以上の一続きをプロセッサ104に搬送することに関与し得る。例えば、命令は、遠隔コンピュータの磁気ディスク上で最初に搬送され得る。遠隔コンピュータは、命令をその動的メモリの中にロードし、モデムを使用して、電話線を経由して命令を送信することができる。コンピュータシステム100にローカルのモデルが、電話線上でデータを受信し、赤外線伝送機を使用して、データを赤外線信号に変換することができる。バス102に結合される赤外線検出器が、赤外線信号内で搬送されるデータを受信し、バス102上にデータを設置することができる。バス102は、メモリ106にデータを搬送し、それから、プロセッサ104が、命令を読み出し、実行する。メモリ106によって受信される命令は、随意に、プロセッサ104による実行の前または後のいずれかに記憶デバイス110上に記憶され得る。
【0051】
種々の実施形態によると、方法を実施するためにプロセッサによって実行されるように構成される命令が、コンピュータ読み取り可能な媒体上に記憶される。コンピュータ読み取り可能な媒体は、デジタル情報を記憶するデバイスであり得る。例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体は、ソフトウェアを記憶するための当技術分野内で公知であるようなコンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)を含む。コンピュータ読み取り可能な媒体は、実行されるように構成される命令を実行するために好適なプロセッサによってアクセスされる。
【0052】
本教示の種々の実装の以下の説明が、例証および説明の目的のために提示されている。これは、包括的ではなく、本教示を開示される精密な形態に限定しない。修正および変形例が、上記の教示を踏まえて可能である、または本教示の実践から取得され得る。加えて、説明される実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせとして、またはハードウェア単独で実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向プログラミングシステムの両方を用いて実装され得る。
【0053】
(ELITにおける2D FT MS)
上で説明されるように、従来のタンデム質量分析は、断片化の前、前駆イオン分離に概して依拠する。しかしながら、前駆イオン分離は、多くの場合、複雑なサンプルにおいて実施することが困難であり、生成イオン質量分析を異なる前駆イオンの数とともに直線的に増減させる。
【0054】
2次元フーリエ変換質量分析(2D FT MS)は、従来のタンデム質量分析に優る大幅な改善を提供する。2D FT MSにおいて、前駆イオンおよび生成イオンデータが、同時に記録され、生成イオンが、前駆イオン分離を実施することなく、それらの対応する前駆イオンに合致させられる。
【0055】
2D FT MSは、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR MS)質量分析を使用して実施され得ることが周知である。しかしながら、FT-ICR質量分析計上で2D FT MSを実施することは、複雑である。これは、分析を実施するために、励起パルス、エンコーディングパルス、断片化パルス、および観察パルスを要求する。加えて、超電導磁石の大型サイズは、FT-ICR質量分析計を購入および動作させることを高価にする。
【0056】
結果として、2D FT MSを実施するための低コスト代替物が、継続的に求められている。1つの代替物は、四重極線形イオントラップ(LIT)を使用して2D MSを実施することである。四重極LIT質量分析計は、FT-ICR質量分析計より購入し、動作させることが確かに安価である。しかしながら、LITにおいて2D-MSを実施することの主要な欠点は、非常に限定された分解能である。2D-MS分解能は、質量分析器の分解能と同程度に良好にすぎないものであり得、それは、LITにおいて極めて不良である。
【0057】
種々の実施形態において、2D FT MSは、静電線形イオントラップ(ELIT)を使用して実施される。ELITは、FT-ICR質量分析計より安価であり、四重極LIT質量分析計より優れた分解能を提供することができる。ELITが断片化パルスを使用して2D FT MSが簡単に実施されることを可能にするので、複雑性も、低減させられる。換言すると、FT-ICR質量分析計または四重極LIT質量分析計を使用するときに必要とされるエンコーディングパルスが、排除される。代わりに、各後続の励起パルスとの断片化パルスのタイミングを単に変動させることが、前駆イオンが生成イオンに関係づけられることを可能にする。
【0058】
結果として、種々の実施形態において、ELIT質量分析計が、前駆イオン分離を伴わずに、全てのMS/MSデータを同時に記録する。走査または取得の数も、混合物に存在する前駆イオンの数に依存せず、むしろ、最も軽い着目前駆イオンの周波数に依存する。
【0059】
図6は、種々の実施形態による、2D FT MSを実施するためのELITの断面側面図600である。図6のELITは、形状が円筒形である。これは、イオン入口601と、リフレクトロンの第1の組610と、ピックアップ電極603と、リフレクトロンの第2の組620と、イオン出口602とを含む。
【0060】
リフレクトロンの第1の組610およびリフレクトロンの第2の組620の各々は、中央に孔を伴ういくつかの平行同軸電極を含む。図6に示される同軸電極は、円板である。種々の実施形態において、同軸電極は、円錐形電極であり得る。
【0061】
図6のELITにおいて、前駆イオン604が、イオン入口601を通して軸方向に注入され、リフレクトロンの第1の組610とリフレクトロンの第2の組620との間で軸方向に振動する。前駆イオン604は、リフレクトロンに印加される電圧およびそれらが生成する電場に起因して、リフレクトロンの第1の組610とリフレクトロンの第2の組620との間で軸方向に振動する。種々の実施形態において、前駆イオン604は、例えば、ミラー切り替え(軸方向注入)、イントラップ電位リフト(軸方向注入)、またはパルス偏向器(半径方向注入)によって、ELITの中に注入されることができる。
【0062】
2D FT MSを実施し、生成イオンおよび前駆イオンを分析するために、図6のELITは、断片化デバイス605をさらに含む。図6において、断片化デバイス605は、紫外線光解離(UVPD)のための紫外線光を生成する光源である。断片化デバイス605は、転換点621に、ミラー622および612を通して、転換点611に紫外線光を向ける。転換点611および621は、イオンが停止し、それらの振動において方向を変化させる軸方向場所である。転換点611および621における前駆イオンは、同時に活性化および解離(断片化)され、生成イオンを生成する。これらの生成イオンは、次いで、リフレクトロンの第1の組610とリフレクトロンの第2の組620との間で前駆イオンとともに振動する。
【0063】
種々の実施形態において、転換点611および621における前駆イオンは、UVPD以外の解離方法を使用して、断片化されることができる。例えば、転換点611および621における前駆イオンは、表面誘発解離(SID)、光ビーム(例えば、赤外線多光子)、電子(例えば、電子活性化解離)、または中性子を使用して、断片化されることができる。解離方法は、図6に示されるように、光、原子、または電子のビームを介して、半径方向に適用され得る。種々の実施形態において、解離は、表面誘発されるか、または、大量の低エネルギー電子を介したものであり得る。
【0064】
いずれの解離技法が選定されるとしても、活性化プロセスが、急速な解離につながらなければならない。断片化の任意の遅延(準安定イオン)が、生成イオンの位相ランダム化、パケットコヒーレンスの損失(より低い信号)、不安定な軌道に起因するトラップからのイオンの損失、または解離時運動エネルギー分割を可能にする。このタイプの実験は、半径方向活性化が転換点において実施され得る(運動エネルギー分割を最も小さいにする)限り、任意のELIT幾何学形状に有効である。これは、円筒形/円錐形リフレクトロンにおける孔、または平行板電極間の間隙を要求する。
【0065】
ピックアップ電極603は、振動前駆または生成イオンによって生成される誘発イメージ電荷または電流を測定するために使用される。測定されたイメージ電流は、例えば、デジタル化され、記録される。
【0066】
図6において、単一の中心ピックアップ電極603が、使用される。しかしながら、任意の検出電極構成が、稼働するであろう。2D FT MSを実施する方法が、複雑な混合物の分析のために最も有用であるので、高調波成分を最も小さいにし、それによって、質量スペクトルを単純化する検出方式を採用することが最善である。米国仮特許出願第62/562,597号は、例えば、高調波成分を最も小さいにするELIT検出方式を説明し、参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0067】
フーリエ変換が、イオンの振動周波数を得るために、ピックアップ電極603から測定される誘発電流信号に適用される。振動周波数から、1つ以上のイオンのm/zが、計算されることができる。測定後、残留イオンが、イオン出口602を使用してELITから放出されることができる。イオンは、入口601を通して放出されることもできる。
【0068】
イメージ電流がサンプリングされる率は、ナイキスト基準を満たす必要があり、すなわち、サンプリング率(fs1)は、最も高い検出イオン周波数(前駆イオンおよび生成イオン)の2倍を上回る必要がある。イメージ電流の過渡および時間ドメイン測定は、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを使用して処理され、例えば、その後、周波数ドメインは、規模モード、吸収モード、または拡張フーリエ変換(eFTTM)モードで表示されることができる。時間ドメインは、フィルタ対角化方法(FDM)、最も小さい二乗分析、または段階的スペクトルデコンボリューション方法(ΦSDM)等の超解像方法を介して、処理されることもできる。ELITにおけるイオンの基本検出周波数は、以下の式(1)に示されるように、イオンの質量対電荷比(m/z)の平方根に反比例する。
【数1】
【0069】
式(1)において、kおよびbは、ELIT幾何学形状、イオンの運動エネルギー、電極電位、検出電極構成、および検出電極の数に関連する定数である。既知の化合物の組を使用することによって、周波数スペクトルは、式1を介して、較正され、質量スペクトルに変換されることができる。
【0070】
図6のELITを使用したサンプルからの前駆イオンのパケットの単一の分析は、単一の走査、注入、または取得と称されることもできる。サンプルからの前駆イオンの単一の取得において、前駆イオンは、図6のELITの中に注入されることによって、それらがリフレクトロンの組610および620間で振動することを引き起こし、前駆イオンは、断片化デバイス605を使用して断片化され、生成イオンを生成し、生成イオンも、リフレクトロン間で振動させられる。ELITの中への前駆イオン604の注入は、したがって、取得の励起パルスである。断片化デバイス605による前駆イオンの断片化は、取得の断片化パルスである。
【0071】
結果として、図6のELITは、励起パルスおよび断片化パルスのみを使用して、前駆イオンパケットを分析することができる。エンコーディングパルスは、必要ではない。エンコーディングパルスを使用する代わりに、ELITは、前駆イオンを生成イオンに関係付けるために、連続取得において励起パルスに対する断片化パルスのタイミングをシフトさせる。
【0072】
断片化(活性化および解離とも称される)が実施される時間は、活性化時間(tact)と称される。活性化時間は、イオン注入に対する遅延時間を増加させることによって、各後続の注入に関して改変される。各活性化時間に関して、t=0から合計取得時間Tacq1に及ぶ過渡状態が、記録される。合計取得時間は、以下の式Tacq1=(N-1)/fs1に従って、サンプリング率fs1および過渡状態のサンプルの数Nから決定される。異なる取得における活性化時間間の時間差Δtactは、遅延時間の有効サンプリング周波数fs2が、最も軽い着目前駆イオンの検出周波数の2倍を上回るように選定される。実践において、fs2は、fs1以下である。
【0073】
時間とともに、前駆イオンは、通常の軸方向振動を介してELITの活性化または断片化領域に進入し、解離とその生成イオンの存在量の増加とをもたらす。前駆イオンが活性化領域から退出すると、より少ないイオンが、解離され、生成イオンの存在量が減少させられる。したがって、前駆および生成イオンの両方の強度は、前駆イオンの検出周波数において変調されるが、生成イオン強度は、それらの前駆イオンのそれと180度位相がずれている。
【0074】
図7は、種々の実施形態による、ELITが断片化パルスのタイミングをシフトさせる複数の連続取得からの仮定のデータの3次元(3D)プロットを示し、前駆イオンm/z対生成イオンm/zの対応する2次元(2D)質量スペクトルを示す略図700である。3Dプロット710は、サンプルからの前駆イオンの12回の異なる取得に関して見出される12個の生成イオンスペクトルを示す。各取得に関して、断片化または活性化の時間tactが、増分される。12個の生成イオンスペクトルは、質量の関数として強度を提供し、したがって、フーリエ変換後のデータの描写が、適用された。
【0075】
12個の生成イオンスペクトルは、1つの前駆イオンm/z711および2つの生成イオンm/z値712および713に関して、ピークを示す。3Dプロット710から、前駆イオンm/z711および生成イオンm/z値712および713の強度が、活性化時間tactの増加とともに周期的に変動することが明白である。実際、前駆イオンm/z711および生成イオンm/z値712および713の強度は、同じ周波数で変調されている。しかしながら、生成イオンm/z値712および713の強度の変調の周波数は、前駆イオンm/z711の強度の変調の周波数と180°位相がずれている。上で説明されるように、それは、生成イオンm/z値712および713が前駆イオンm/z711の前駆イオンの生成イオンであることを示す。それは、m/z値712および713を伴う生成イオンが、m/z711を伴う前駆イオンに関係づけられる様子をグラフでも描写している。
【0076】
3Dプロット710から、前駆イオンm/z対生成イオンm/zの2D質量スペクトル720が得られる様子が明白である。2D質量スペクトル720のx軸は、m/zに伴う生成イオンの変調に対応する。2D質量スペクトル720のy軸は、m/zに伴う前駆イオンの変調、より直接的に、活性化時間tactに対応する。3Dプロット710の3つの異なるピークの全ては、2D質量スペクトル720のx軸に対して異なるm/z値711、712、および713を有する。しかしながら、それらの全ては、2D質量スペクトル720のy軸に沿った同じm/z値711に対応する。これは、それらがtactに対して同じ変調周波数を有するからであり、この変調周波数は、前駆イオンm/z711のm/zに対応する。
【0077】
生成イオン質量分解能(2D質量スペクトル720の水平x軸)は、各遅延時間におけるサンプルの数(過渡状態長さ)を増加させることによって改良される。前駆イオン質量分解能(2D質量スペクトル720の垂直y軸)は、最大遅延時間Tacq2=(N-1)/fs2が増加させられるように、走査または活性化時間の総数(N)を増加させることによって改良される。
【0078】
図6において、イオン断片化が、2つの転換点において実施される。しかしながら、イオン断片化が、1つの転換点のみにおいて実施されることができる場合、振幅が変調される周波数(解離周波数)は、イメージ電流/電荷検出を介した検出周波数の半分(2・1ap_frequency)である。フーリエ変換器具における最大質量分解能(Rmax)は、Rmax=m/Δm50%=f/(2×(1/Tacq))=(f-Tacq)/2として計算されることができる。したがって、前駆体質量分解能は、Tacq1=Tacq2であるとき、生成イオン質量分解能の半分であるという結果になる。したがって、両方の次元で同じ質量分解能を得ることは、2倍多くの走査(2N)が記録されることを要求する。
【0079】
図8は、種々の実施形態による、ELITを用いて2D FT MSを実施するためのワークフローを示す例示的フローチャート800である。ステップ805において、イメージ電流のサンプリング周波数fs1および遅延時間の有効サンプリング周波数fs2が、選択される。ナイキスト基準に基づいて、サンプリング率fs1は、最も高い検出イオン周波数(前駆イオンおよび生成イオン)の2倍を上回る必要があることを想起されたい。遅延時間の有効サンプリング周波数fs2は、最も軽い着目前駆イオンの検出周波数の2倍を上回らなければならない。
【0080】
ステップ810において、過渡状態時のサンプルの数Nおよび取得または活性化時間の総数Nが、選択される。生成イオン質量分解能は、Nを増加させることによって改良されることを想起されたい。したがって、Nは、所望の生成イオン質量分解能に基づいて選択される。前駆イオン質量分解能は、Nを増加させることによって改良される。したがって、Nは、所望の前駆イオン質量分解能に基づいて選択される。
【0081】
ステップ815において、取得のカウントnが、ゼロに初期化される。
【0082】
ステップ820において、取得が、前駆イオンをELITの中に注入し、それらにプレート上のリフレクトロンの組の間で振動させることによって、開始される。加えて、ELITのピックアップ電極におけるイメージ電流の測定が、イメージ電流の選択されるサンプリング周波数fs1および過渡状態時のサンプルの選択される数Nを使用して、開始される。
【0083】
ステップ825において、位置依存性断片化が、取得のカウントnの関数である活性化時間tactにおいて実施される。上で説明されるように、位置依存性断片化は、断片化がELITにおけるイオンの転換点のうちの一方または両方で実施されることを意味する。
【0084】
ステップ830において、取得時間が、チェックされる。過渡状態イメージ電流データが、合計取得時間Tacq1に到達されるまで、ELITのピックアップ電極において測定される。合計取得時間が以下の式Tacq1=(N-1)/fs1に従って、サンプリング率fs1および過渡状態時のサンプルの数Nから決定されることを想起されたい。
【0085】
ステップ835において、合計取得時間Tacq1に到達される場合、取得が、終了され、測定された過渡状態イメージ電流データが、行列内に記憶される。取得に関する測定された過渡状態イメージ電流データは、例えば、取得のカウントnを表す行列の列内に記憶される。当業者は、同じ行列演算が列または行に実施され得るので、このデータが、代替として、行列の行内に記憶され得ることを理解するであろう。
【0086】
ステップ840において、取得のカウントnが、選択された取得の総数Nと比較される。取得のカウントnが、選択された取得の総数N未満である場合、取得のカウントnは、ステップ841において増分され、新しい取得が、ステップ820に戻ることによって開始される。nは、ステップ841において1だけ増分されるが、非一様なサンプリングを使用する場合、より多く増分されることができる。取得のカウントnが、選択された取得の総数Nに等しい場合、実験は、終了され、記憶されたデータは、ステップ845に移行することによって分析される。
【0087】
ステップ845において、フーリエ変換が、記憶された行列の各列に実施される。
【0088】
ステップ850において、フーリエ変換が、記憶された行列の各行に実施される。
【0089】
ステップ855において、変換される記憶された行列が、転置される。
【0090】
ステップ860において、変換される記憶された行列内のデータが、周波数データからm/zデータに変換される。このデータは、例えば、上で説明される式(1)を使用して変換される。変換される記憶された行列データは、2Dスペクトル865としてプロットされることができる。2Dスペクトル865は、前駆イオンm/zに対応する垂直軸および生成イオンm/zに対応する水平軸を伴う2Dマップである。
【0091】
(ELIT対FT-ICR)
ELITは、外部超電導磁石またはRF供給を要求しない純静電デバイス(低電力)である。この品質は、質量分析器をコンパクト、可搬型、かつ卓上計装に適したものにする。これは、市販の既製ステンレス鋼板から作製されることができ、構築し、動作させることが非常に安価である。
【0092】
ELITにおいて、全てのイオンが、m/zにかかわらず、注入による励起を受け、トラップのそれらの中立軸方向振動(周波数は、m/z依存性である)によって活性化領域の中に運ばれる。断片化効率は、活性化ビーム出力および/または注入されたイオンパケットの幅を調節することによって、簡単に調整されることができる。したがって、イオン注入とイオン活性化との間の時間遅延のみが、2D質量スペクトルの発生において重要な役割を果たす(単一のTTLトリガ)。現代の遅延発生器、波形発生器、レーザ等の時間ベース正確度を考慮すると、これは、問題ではない。1つの質量スペクトルが記録されている間に、次のイオン集団が、注入デバイス内で捕獲され、冷却され、束ねられることができ、それによって、前の過渡状態が完了すると、続く過渡状態が開始され得る(10~20マイクロ秒遅延)。要求されるm/z範囲および質量分解能に応じて、2D FT-ELIT MSのデューティサイクルは、容易に100%に接近することができる。
【0093】
イオンの周波数(質量分解能)が、ELITにおいてそのm/zの平方根に反比例する一方で、FT-ICRにおいて、周波数は、イオンm/zに反比例する。これは、生物学的関連性を保持する高m/zイオンの測定においてELITに質量分解能利点を与える。
【0094】
FT-ICR上の2D FT MSは、3つの別個のパルス一続き(励起、エンコーディング、観察)、およびイメージ電流検出(図3参照)の前のイオン活性化ステップ(300~400ミリ秒)を要求する。これは、3つの正確な波形(タイミング、帯域幅、電圧)、および5つのトリガを要求する。波形は、多くの場合、断片化効率を最大化するように調整および最適化される必要がある。したがって、最適化は、ELITにおいて、はるかに容易である。
【0095】
完全な2D質量スペクトルを発生させるために要する時間の長さを考慮すると、FT-ICR上の過渡状態は、多くの場合、各々、2秒未満に短縮され、数100ミリ秒が一般的である。一般に、これらの実験のための典型的デューティサイクルは、50%~85%に及ぶ。デューティサイクルに基づくと、ELITは、同数の走査に関して、FT-ICRより速く2Dワークフローを完了し得る。
【0096】
純粋に理論的な観点から、FT-ICR(>7テスラ)を使用することの主要な利点は、単位時間あたり非常に高い質量分解能を達成することである。しかしながら、それは、超電導磁石、高い保守コスト(寒剤および電気)、および器具(ポータブルではない)を収納するための広い空間を要求する。ELITが最適化され、圧力が低下させられるにつれて、分解能/時間の差異が、縮小される。代替として、ELITのデューティサイクル利点により、より長い過渡状態が、同時にワークフローを完了しながら、質量分解能の差異を低減させるために取得され得る。
【0097】
FT-ICRを所有することに関連付けられるコストに起因して、それらは、多くの場合、最も困難な分析問題のために確保され、例えば、オービトラップによって置換された。しかしながら、オービトラップは、この時点で2D FT MS実験を実施することができず、FT-ICRは、2D FT MS実験が可能であるように修正される必要がある(追加のコスト)。したがって、この技法へのアクセスは、非常に限定される。ELITを所有する/動作させるコストを考慮すると、より多くの科学者が、この技法の費用を負担し、利用することができる。
【0098】
繰り返して言うと、FT-ICR実験とFT ELIT実験との間に少なくとも3つの異なる差異が存在する。第1に、FT-ICRデバイスは、ICRセルの軸に沿って向けられる低エネルギーで長時間(数10~100ミリ秒)の照射を使用し、半径依存性断片化を実施する。ELITデバイスは、半径方向次元に沿って向けられる高エネルギーで短時間(数10ナノ秒)の活性化を使用し、軸方向位置依存性断片化を実施するであろう。基本的に、それらは、正反対である。
【0099】
第2に、2D FT-ICR実験において、イオン注入と検出との間にかなり遅延が存在する一方で、それらは、ELITにおいて、同時である。したがって、実験のデューティサイクルは、ELITにおいて、はるかに高く、より短い分析時間につながる。
【0100】
第3に、これは、示されず、または説明されていないが、FT-ICRにおけるm/zの関数としての位相は、ELITにおけるよりはるかに複雑であり、吸収モード質量スペクトルを発生させるために、より多くの計算力(より長い処理)を要求する。
【0101】
図9は、FT-ICRを用いて2D FT MSを実施するためのワークフローを示す例示的フローチャート900である。ステップ902において、イメージ電流のサンプリング周波数fs1および遅延時間の有効サンプリング周波数fs2が、選択される。
【0102】
ステップ904において、過渡状態におけるサンプルの数Nおよび取得または活性化時間の総数Nが、選択される。ステップ906において、取得のカウントnが、ゼロに初期化される。
【0103】
ステップ908において、取得が、前駆イオンをFT-ICRの中に注入し、それらを捕獲することによって開始される。
【0104】
ステップ910において、励起パルスPが、印加される。
【0105】
ステップ912において、時間が、エンコーディング期間が終了したかどうかを決定するために、エンコーディング期間遅延tと比較される。エンコーディング期間遅延tは、取得のカウントnの関数である。時間が、エンコーディング期間遅延に等しい場合、ステップ914が、実行される。
【0106】
ステップ914において、エンコーディングパルスPが、印加される。
【0107】
ステップ916において、半径依存性断片化が、期間τにわたって実施される。
【0108】
ステップ918において、観察パルスPが、印加される。
【0109】
ステップ920において、結果として生じる時間依存性イメージ電流が、検出される。
【0110】
ステップ922において、取得時間が、チェックされる。過渡状態イメージ電流データは、合計取得時間Tacq1に到達されるまで測定される。
【0111】
ステップ924において、合計取得時間Tacq1に到達される場合、取得が、終了され、測定された過渡状態イメージ電流データが、行列内に記憶される。取得に関する測定された過渡状態イメージ電流データは、例えば、取得のカウントnを表す行列の列内に記憶される。
【0112】
ステップ926において、取得のカウントnが、選択された取得の総数Nと比較される。取得のカウントnが、選択された取得の総数N未満である場合、取得のカウントnは、ステップ927において増分され、新しい取得が、ステップ908に戻ることによって開始される。nは、ステップ927において1だけ増分されるが、非一様なサンプリングを実施する場合、より大きい増分が、使用されることができる。取得のカウントnが、選択された取得の総数Nに等しい場合、実験は、終了され、記憶されたデータは、ステップ928に移行することによって分析される。
【0113】
ステップ928において、フーリエ変換が、記憶された行列の各列に実施される。
【0114】
ステップ930において、フーリエ変換が、記憶された行列の各行に実施される。
【0115】
ステップ932において、変換される記憶された行列が、転置される。
【0116】
ステップ934において、変換される記憶された行列内のデータが、周波数データからm/zデータに変換される。このデータは、例えば、上で説明される式(1)を使用して変換される。変換される記憶された行列データは、2Dスペクトル936としてプロットされることができる。2Dスペクトル936は、前駆イオンm/zに対応する垂直軸および生成イオンm/zに対応する水平軸を伴う2Dマップである。
【0117】
図9および8の比較は、FT-ICR質量分析計を用いた2D FT MSが、ELIT質量分析計を用いた2D FT MSよりはるかに複雑であることを示す。
【0118】
(ELIT対四重極LIT)
上で説明されるように、2D MS実験(非FT)が、提案され、四重極LIT質量分析器での使用のためにシミュレートされた。イオン半径は、記憶された波形イオン半径変調(SWIM)を使用して変調され、シミュレートされたレーザビームを使用して中心軸に沿って解離される。SWIMパルスは、励起およびエンコーディングパルスであり、断片化パルスに加えて必要とされる。
【0119】
ELITは、電力消費、デューティサイクル、質量分解能、質量正確度、ピーク容量、およびエンコーディング単純性の観点から、四重極を凌ぐことができる。四重極LIT質量分析器は、四重極の限界を回避するために、他の質量分析器(TOF、オービトラップ、およびFT-ICR)に結合されることが提案される。しかしながら、そうすることにおいて、他の限界および複雑性が、課せられる。
【0120】
(ELITシミュレーションデータ)
SIMION v8.1が、図6に描写される幾何学形状のELITをシミュレートするために使用された。ELITトラップ寸法および動作条件が、例えば、Dziekonski,et al. Int. J. Mass Spectrom. 2016,410,12-21 and Dziekonski,et al. Anal. Chem. 2017,89,4392-4397(参照することによって組み込まれる)に説明される。
【0121】
3つの前駆(P)イオン(m/z450、525、および600)が、2,000eV/電荷運動エネルギーを伴ってELITの中心から開始された(半径方向運動は考慮されなかった)。これは、前駆イオン調査の前に質量分離が実施されなかった場合を表す。各イオンは、1,000の電荷重み係数(CWF)を有した。したがって、各々は、1,000個のイオンの無限に狭いパケットを表した。簡単にするために、以下の値、すなわち、fs1=fs2=10MHz、Tacq1=Tacq2=1ミリ秒、およびN=N=10,001が、選択された。100の軌道品質係数が、使用された。
【0122】
両次元における取得時間が、同じであったので、自己相関線に沿った質量分解能は、前駆イオンおよび生成イオンの両方に関して同じである。誘発イメージ電流が、SIMION v8.1に提供された静電誘発コードを使用して、中心に位置するピックアップ電極上で測定された。最適化されていない検出電極幾何学形状の結果として、高調波が、2D質量スペクトルに存在することが予期された。
【0123】
解離は、前駆イオンが活性化領域内にある場合に断片化を誘発する75%可能性を有した幅3ミリメートルのレーザスポット(10ナノ秒の持続時間、転換点に中心を置かれる)を使用して、両方の転換点において実施された。イオンが、断片化に関してフラグを付けられた場合、単一の粒子が、4つのイオンに分割された。第1のものは、前駆体と同じm/zを有したが、電荷の25%(CWF=250)を伴った。他の3つは、各々が発生させられる等しい確率を伴って、m/z100の順次中性損失を表した。したがって、生成イオンは、各々がCWF=250を伴って、P-100、P-200、およびP-300のm/zを有した。
【0124】
図8のワークフローは、説明されるSIMION条件を用いて追従された。活性化時間のみが、順次シミュレーション間で変更された。Matlabが、過渡状態(合計10,001)を処理し、具体的ELIT幾何学形状、電位、およびイオン運動エネルギーに関して較正された2D質量スペクトルを発生させるために、使用された。
【0125】
図10は、種々の実施形態による、ELITを使用して2D FT MSをシミュレートすることから得られる2Dスペクトルの例示的プロット1000である。図10の2Dスペクトルは、ELITシミュレーションが2D FT MSを正常に実施したことを示す。2Dスペクトルのx軸の下方に、累積生成イオンスペクトル1010が、示される。同様に、2Dスペクトルのy軸の傍に、累積前駆イオンスペクトル1020が、示される。線1030は、自己相関線である。線1040は、中立損失線である。線1050は、525の前駆イオンm/zを伴う抽出された生成イオンスペクトルに関する線である。線1060は、350の生成イオンm/zを伴う抽出された前駆イオンスペクトルに関する線である。
【0126】
図11は、種々の実施形態による、525の前駆イオンm/zにおいて図10の2Dスペクトルから抽出される生成イオンスペクトルの例示的プロット1100である。m/z値225、325、および425における3つの生成イオン1110、1120、および1130が、この生成イオンスペクトルに示される。
【0127】
3つの生成イオンが、同数の電荷を含むとしても、ピークの強度は、m/zの増加とともに減少することに留意することが、分析的に有用である。これは、1秒あたりのクーロン数の尺度であるイメージ電流検出を実施することの結果である。より高いm/zのイオンは、より低い平均速度(v=sqrt[2zKE/m])で進行し、それによって、フーリエ変換時、より低い瞬時イメージ電流およびより低い強度を誘発する。
【0128】
(ELIT 2D FT MSシステム)
図12は、前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御するためのシステムの概略図1200である。図12のシステムは、イオン源デバイス1210と、イオン伝達光学系1220と、静電線形イオントラップ(ELIT)1230と、プロセッサ1240とを含む。
【0129】
イオン源デバイス1210は、サンプルをイオン化し、イオンビームを生成するように構成される。イオン源デバイス1210は、限定ではないが、マトリクス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)またはエレクトロスプレーイオン化(ESI)を含むイオン化技法を実施することができる。
【0130】
ELIT1230は、2つの組のリフレクトロン1231および1232と、1つ以上のピックアップ電極1233と、断片化デバイス1234とを含む。
【0131】
プロセッサ1240は、イオン源デバイス1210、イオン伝達光学系1220、およびELIT1230と通信する。この通信は、データまたは制御情報を含むことができる。
【0132】
プロセッサ1240は、限定ではないが、図1のシステム、コンピュータ、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、または制御信号およびデータをイオン源デバイス410、タンデム質量分析計401、および他のデバイスに送信し、かつそれから受信することが可能な任意のデバイスであり得る。プロセッサ1240は、図1のシステムのような1つ以上のメモリデバイスへのアクセスをさらに有する。
【0133】
プロセッサ1240は、取得の総数Nを実施するようにイオン伝達光学系1220およびELIT1230を制御する。プロセッサ1240は、例えば、イオン伝達光学系1220およびELIT1230に供給する1つ以上の電圧源(図示せず)を制御することによって、イオン伝達光学系1220およびELIT1230を制御し、またはそれらに命令を提供する。
【0134】
N回の取得のうちの各取得nに関して、プロセッサ1240は、いくつかのステップを実施する。プロセッサ1240は、イオン伝達光学系1240を制御し、イオンビームからELIT1230の中にイオンを注入し、イオンに2つの組のリフレクトロン1231および1232によって生成される2つの電場間で軸方向に振動させる。
【0135】
プロセッサ1240は、ELIT1230を制御し、1つ以上のピックアップ電極1333を使用して、イオン注入から合計取得時間Tacq1まで、振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定する。プロセッサ1240は、ELIT1230を制御し、断片化デバイス1234を使用して、振動するイオンの一方または両方の転換点においてTacq1内に振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを振動するイオンに追加する。断片化は、各後続の取得n+1において時間増分Δtだけ増加させられるイオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施され、振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる。
【0136】
最後、プロセッサ1240は、メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列nとして測定された時間ドメインイメージ電流を記憶する。
【0137】
種々の実施形態において、NおよびΔtは、前駆イオン次元の一様または非一様なサンプリングを提供するように選定される。
【0138】
(一様なサンプリング)
図13は、種々の実施形態による、ELITが、断片化パルスのタイミングをシフトさせる複数の連続取得からの仮定のデータの3Dプロット1300であり、前駆イオン次元における一様なサンプリングを示す。図7のように、図13は、断片化が実施されるイオン注入に対する異なる遅延時間tactにおける一連の生成イオンスペクトルを示す。図13のスペクトルに関して、遅延時間tactは、時間増分Δtだけ増加させられ、Δt=Δtactである。一様なサンプリングに関して、時間増分は、定数であり、Δt=Δtact=一定である。
【0139】
図7の場合のように、図13のスペクトルは、遅延時間が増加させられるにつれて、生成イオン1312および1313および前駆イオン1311が変動する様子を示す。遅延時間tactに対して強度の変化を関係づけることによって、生成イオンと前駆イオンとが、合致させられることができる。例えば、生成イオン1312および1313は、遅延時間tactに対する前駆イオン1311と同じ強度の変化を示す(但し、180度位相がずれている)。結果として、生成イオン1312および1313は、前駆イオン1311に合致させられる。
【0140】
上で説明されるように、図13の各生成イオンスペクトルは、予期される最も低いm/z前駆または生成イオンに基づく率でサンプリングされなければならない。特に、生成イオンサンプリング率(fs1)は、最も高い検出イオン周波数(前駆イオンおよび生成イオン)の2倍を上回る必要がある。生成および前駆イオンのm/zは、上で示される式1を使用して、周波数に変換される。m/zと周波数とが、反比例するので、最も小さい検出前駆イオンまたは生成イオンm/zは、最も高い周波数を生成する。したがって、fs1が、実験が検出することが予期される、最も小さい前駆イオンまたは生成イオンm/zから見出される。
【0141】
同様に、遅延時間の有効サンプリング周波数fs2または前駆体次元におけるサンプリングは、予期される前駆イオンの最も高い検出イオン周波数の2倍を上回る必要がある。再度、前駆イオンのm/zは、上で示される式1を使用して、周波数に変換される。m/zおよび周波数が、反比例するので、最も小さい検出される前駆イオンm/zは、最も高い周波数を生成する。したがって、fs2が、実験が検出することが予期される最も小さい前駆イオンm/zから見出される。
【0142】
生成イオン次元における分解能が、生成イオン次元において取得されるサンプルの数Nを増加させることによって増加させられる。当然ながら、それは、Tacq1=(N-1)/fs1に従って計算される合計取得時間Tacq1に影響を及ぼす。
【0143】
同様に、前駆イオン次元における分解能が、前駆イオン次元における取得または活性化時間の数Nを増加させることによって増加させられる。当然ながら、それは、Tacq2=(N-1)/fs2に従って計算される最大遅延時間Tacq2に影響を及ぼす。
【0144】
図12に戻ると、種々の実施形態において、前駆イオン次元における一様なサンプリングに関して、プロセッサ1240は、イオン伝達光学系1220およびELIT1230を制御し、取得の総数Nを実施し、N=Nである。加えて、一定の断片化が、時間増分Δtだけ増分されるイオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施され、Δt=Δtactである。時間差Δtactは、異なる取得における活性化時間間の一定の時間差である。これは、遅延時間の有効サンプリング周波数fs2が、最も軽い着目前駆イオンの検出周波数の2倍を上回るように選定される。
【0145】
種々の実施形態において、プロセッサ1240は、ELIT1230を制御し、fs1のサンプリング率でのNs個のサンプルを使用して、振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定する。合計取得時間Tacq1は、Tacq1=(N-1)/fs1から計算される。
【0146】
再度、種々の実施形態において、fs1は、測定されるべき生成および前駆イオンの最小質量対電荷比(m/z)の選択から計算され、Nは、生成イオン質量分解能の選択から計算される。測定されるべき生成および前駆イオンの最も小さいm/zおよび生成イオン質量分解能の選択は、例えば、システムのユーザによって行われる。
【0147】
種々の実施形態において、プロセッサ1240は、ELIT1230を制御し、fs2のサンプリング周波数における連続取得において、イオン注入と断片化との間の遅延時間tactを増加させる。最大遅延時間Tacq2は、Tacq2=(N-1)/fs2から計算される。
【0148】
再度、種々の実施形態において、fs2は、測定されるべき前駆イオンの最小質量対電荷比(m/z)の選択から計算され、Nは、前駆イオン質量分解能の選択から計算される。測定されるべき前駆イオンの最も小さいm/zおよび前駆イオン質量分解能の選択は、例えば、システムのユーザによって行われる。
【0149】
(非一様なサンプリング)
「Nonuniform Sampling Acquisition of Two-Dimensional Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometry for Increased Mass Resolution of Tandem Mass Spectrometry Precursor Ions」(Anal. Chem. 2017,89,8589-8593)と題されたBray et al.による論文(以降では「Bray論文」)において、2D FTICR質量分析における非一様なサンプリングが、提案される。Bray論文は、参照することによって本明細書に組み込まれる。Bray論文は、非一様なサンプリングに先立って、2D FTICR質量分析から四重極質量フィルタ様質量分解能を得るために、一晩の取得が要求されたことを説明する。換言すると、非一様なサンプリングが、2D FTICR質量分析の取得時間を短縮し、依然として、十分な分解能を提供するために、提案された。
【0150】
Bray論文において、非一様なサンプリングは、前駆イオン選択に対応する次元においてランダムにスキップする点を伴う。換言すると、前駆イオン次元は、アンダーサンプリングされる。より少ない生成イオンスペクトルが、得られ、それらは、互いに対してランダムな時間に得られる。欠落した点は、アルゴリズムを使用して再構築される。
【0151】
種々の実施形態において、非一様なサンプリングは、ELIT 2D FT質量分析において前駆イオン次元において実施される。断片化は、依然として、時間増分Δtだけ増分されるイオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施される。しかしながら、時間増分は、定数ではなく、Δt≠一定である。代わりに、時間増分Δtは、取得間で変動し得る。
【0152】
図14は、種々の実施形態による、前駆イオン次元における非一様なサンプリングを示すELITが断片化パルスのタイミングをシフトさせる複数の連続取得からの仮定のデータの3Dプロット1400である。図13のように、図14は、断片化が実施されるイオン注入に対する異なる遅延時間tactにおける一連の生成イオンスペクトルを示す。図14の各スペクトルに関して、遅延時間tactは、時間増分Δtだけ増加させられる。しかしながら、時間増分は、定数ではない。
【0153】
種々の実施形態において、前駆イオン次元におけるサンプルが、依然として、サンプリング周期1/fs2のある倍数において収集される。
【0154】
図13の場合のように、図14のスペクトルは、遅延時間が増加させられるにつれて、生成イオン1412および1413および前駆イオン1411が変動する様子を示す。遅延時間tactに対して強度の変化を関係づけることによって、生成イオンと前駆イオンとが、合致させられることができる。例えば、生成イオン1412および1413は、遅延時間tactに対する前駆イオン1411と同じ強度の変化を示す(但し、180度位相がずれている)。結果として、生成イオン1412および1413は、前駆イオン1411に合致させられる。これは、図14に示される非一様な間隔があると、確認することがはるかに難しい。しかしながら、相関は、Bray論文で提案されるもの等のアルゴリズムを収集されたスペクトルデータに適用することによって、回復されることができる。
【0155】
図12に戻ると、種々の実施形態において、前駆イオン次元における非一様なサンプリングに関して、プロセッサ1240は、イオン伝達光学系1220およびELIT1230を制御し、取得の総数Nを実施し、N<Nである。加えて、断片化が、変動する時間増分Δtだけ増分されるイオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施される。
【0156】
(他の実施形態)
種々の実施形態において、プロセッサ1240は、ミラー切り替え、イントラップ電位リフト、またはパルス偏向器を使用して、イオンビームからELIT1230の中にイオンを注入するようにイオン伝達光学系1220を制御する。
【0157】
種々の実施形態において、断片化デバイス1234は、光ビームを一方または両方の転換点に向け、紫外線光解離(UVPD)または赤外線多光子解離による断片化を生成する、光源を含む。
【0158】
種々の実施形態において、断片化デバイス1234は、電子ビームを一方または両方の転換点に向け、電子活性化解離による断片化を生成する、電子源を含む。
【0159】
種々の実施形態において、断片化デバイス1234は、中性粒子ビームを一方または両方の転換点に向け、中性粒子解離による断片化を生成する、中性粒子源を含む。
【0160】
種々の実施形態において、断片化デバイス1234は、表面誘発解離(SID)を生成する一方または両方の転換点における表面を含む。
【0161】
種々の実施形態において、プロセッサ1240は、さらに、フーリエ変換を2次元行列の各列に適用し、フーリエ変換を2次元行列の各行に適用し、周波数値の2次元行列を生成する。プロセッサ1240は、周波数値の2次元行列を転置し、ELIT1230の幾何学形状に基づいて、転置された周波数値の2次元行列を質量対電荷比(m/z)値の行列に変換し、2次元質量スペクトルとしてm/z値の行列の値をプロットする。
【0162】
(ELIT 2D FT MS方法)
図15は、種々の実施形態による、前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御する方法を示すフローチャート1500である。
【0163】
ステップ1510において、イオン伝達光学系およびELITが、プロセッサを使用して、取得の総数Nを実施するように制御される。
【0164】
ステップ1520において、N回の取得のうちの各取得nに関して、いくつかのステップが、プロセッサを使用して実施される。
【0165】
ステップ1530において、イオン伝達光学系は、イオンビームからELITの中にイオンを注入するように制御され、ELITは、イオンに2つの組のリフレクトロンによって生成された2つの電場間で軸方向に振動させる。イオンビームは、サンプルをイオン化するように構成されたイオン源によって生成される。ELITは、2つの組のリフレクトロンと、1つ以上のピックアップ電極と、断片化デバイスとを含む。
【0166】
ステップ1530において、ELITは、1つ以上のピックアップ電極を使用して、イオン注入から合計取得時間Tacq1まで、振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定するように制御される。そして、ELITは、断片化デバイスを使用して、振動するイオンの一方または両方の転換点においてTacq1内に振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを振動するイオンに追加するように制御される。断片化は、各後続の取得n+1において時間増分Δtだけ増加させられるイオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施され、振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる。
【0167】
ステップ1550において、測定された時間ドメインイメージ電流は、メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列nとして記憶される。
【0168】
(ELIT 2D FT MSコンピュータプログラム製品)
種々の実施形態において、コンピュータプログラム製品は、そのコンテンツが前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御する方法を実施するように、プロセッサ上で実行されている命令を伴うプログラムを含む有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を含む。方法は、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムによって実施される。
【0169】
図16は、種々の実施形態による、前駆イオンデータと生成イオンデータとを同時に測定するように質量分析計を制御する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステム1600の概略図である。システム1600は、制御モジュール1610と、記憶および分析モジュール1620とを含む。
【0170】
制御モジュール1610は、イオン伝達光学系およびELITを制御し、取得の総数Nを実施する。N回の取得のうちの各取得nに関して、いくつかのステップが、実施される。
【0171】
制御モジュール1610は、イオンビームからELITの中にイオンを注入するようにイオン伝達光学系を制御し、ELITは、イオンに2つの組のリフレクトロンによって生成された2つの電場間で軸方向に振動させる。イオンビームは、サンプルをイオン化するように構成されたイオン源によって生成される。ELITは、2つの組のリフレクトロンと、1つ以上のピックアップ電極と、断片化デバイスとを含む。
【0172】
制御モジュール1610は、1つ以上のピックアップ電極を使用して、イオン注入から合計取得時間Tacq1まで、振動するイオンの時間ドメインイメージ電流を測定するようにELITを制御する。制御モジュール1610は、断片化デバイスを使用して、振動するイオンの一方または両方の転換点においてTacq1内に振動するイオンの位置依存性断片化を実施し、生成イオンを振動するイオンに追加するようにELITを制御する。断片化は、各後続の取得n+1において時間増分Δtだけ増加させられるイオン注入に対する遅延時間tactにおいて実施され、振動するイオンの断片化をそれらの位置に依存させる。
【0173】
記憶および分析モジュール1620は、メモリデバイスにおいて、2次元行列の行または列nとして測定された時間ドメインイメージ電流を記憶する。
【0174】
本教示は、種々の実施形態と併せて説明されるが、本教示がそのような実施形態に限定されることは意図されない。対照的に、本教示は、当業者によって理解されるであろうように、種々の代替物、修正、および均等物を包含する。
【0175】
さらに、種々の実施形態を説明する際に、本明細書は、ステップの特定の一続きとして、方法および/またはプロセスを提示していることもある。しかしながら、方法またはプロセスが本明細書に記載されるステップの特定の順序に依拠しない限りにおいて、方法またはプロセスは、説明されるステップの特定の一続きに限定されるべきではない。当業者が理解するであろうように、ステップの他の一続きも、可能であり得る。したがって、本明細書に記載されるステップの特定の順序は、請求項上の限定として解釈されるべきではない。加えて、方法および/またはプロセスを対象とする請求項は、書かれる順序でのそれらのステップの実施に限定されるべきではなく、当業者は、一続きが変動され、依然として、種々の実施形態の精神および範囲内に留まり得ることを容易に理解することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
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図13
図14
図15
図16