(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】基板コーティング用真空蒸着設備及び方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20230626BHJP
C23C 14/16 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C23C14/24 C
C23C14/16 A
(21)【出願番号】P 2020569144
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 IB2019053337
(87)【国際公開番号】W WO2019239227
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-02-02
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/054297
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シルベルベール,エリック
(72)【発明者】
【氏名】パーチェ,セルジョ
(72)【発明者】
【氏名】ボンヌマン,レミ
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-026351(JP,A)
【文献】国際公開第97/047782(WO,A1)
【文献】特開平06-136537(JP,A)
【文献】特開2014-132102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
C23C 14/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ(2)を備える真空蒸着設備(1)内で、走行する基板(S)上に、少なくとも1つの金属から形成されたコーティングを連続的に蒸着させる方法であって、方法が、
-前記真空チャンバ内で、金属蒸気が、走行する基板の片面(S1)に向かって、少なくとも1つの蒸気噴射器(3)を通して
音速で噴射され、噴射された蒸気の凝縮によって、少なくとも1つの金属の層が前記片面に形成され、少なくとも1つの蒸気噴射器が、基板平面内にある軸線(A)であって、基板の走行方向に直角な軸線(A)と蒸気噴射器との角度αで位置決めされ、αは以下の式、
【数1】
を満たし、
αは絶対値で0°より大きい工程を備え、
-D1及びD2は、軸線(A)に沿った、噴射器端部と各基板端部との間のより小さい方の距離であり、Wsは基板幅であり、D1及びD2は0mmより大きい、すなわち、噴射器端部は基板端部を超えず、前記蒸気噴射器が、細長形状を有し、スロットを備え、スロットの長さLeとスロットの幅Weとによって画定される、方法。
【請求項2】
D1及びD2が、互いに独立して1mmより大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基板幅Wsが最大2200mmである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Wsが最小200mmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
αが絶対値で5°~80°である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
αが絶対値で20°~60°である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
αが絶対値で35°~55°である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
噴射器スプリットの長さLeが5mm~50mmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
噴射器が長方形又は台形である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
D1がD2と同じである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
走行する基板(S)上に、少なくとも1つの金属から形成されたコーティングを連続的に蒸着させる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法のための真空蒸着設備であって、設備(1)が、基板が所定の経路に沿って走行可能な真空チャンバ(2)を備え、真空チャンバが、
-少なくとも1つの蒸気噴射器(3)をさらに備え、蒸気噴射器(3)は、基板平面内にある軸線(A)であって、基板の走行方向に直角な軸線(A)と蒸気噴射器との角度αで位置決めされ、αは以下の式、
【数2】
を満たし、
αは絶対値で0°より大きく、
D1及びD2は、軸線(A)に沿った、噴射器端部と各基板端部との間の最小距離であり、W
sは基板幅であり、D1及びD2は0mmより大きい、すなわち、噴射器端部は基板端部を超えず、
-少なくとも一つの蒸気噴射器は、細長形状を有し、スロットを備え、スロットの長さLeとスロットの幅Weとによって画定され、少なくとも1つの蒸気ジェットコータが、αが調整されるように、蒸気源に連結された供給管を中心に回転可能に取り付けられ
、且つ、蒸気噴射器は、金属蒸気を音速で噴射することができる、真空蒸着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属又は金属合金から形成されたコーティングを、基板上に連続的に蒸着させるための方法に関する。本発明はまた、この方法で使用される真空蒸着設備に関する。
【背景技術】
【0002】
最終的に、合金で構成される金属コーティングを、鋼ストリップなどの基板上に蒸着させるための様々な工程が知られている。これらの中でも、溶融コーティング、電着、並びに真空蒸発及びマグネトロンスパッタリングなどの様々な真空蒸着工程を挙げることができる。
【0003】
国際公開第97/47782号によれば、500m/sを超える速度で推進される金属蒸気スプレーを、基板と接触させて、鋼基板を連続的にコーティングする方法が知られている。この方法はジェット蒸着と呼ばれている。
【0004】
欧州特許第2048261号明細書は、金属基板上にコーティングを蒸着させるための蒸気発生器を開示しており、蒸気発生器は、外部環境に対して低気圧状態を確保するためのユニットと、基板の出入りを可能にするユニットとを具備するエンクロージャ形態の真空チャンバを備える。エンクロージャは、蒸着のためのヘッドと、基板表面に垂直な方向に音速で金属蒸気ジェットを生成するための噴射器とを備える。噴射器は、供給管によってるつぼと接続される。るつぼは、液体状の金属混合物を収容し、真空チャンバの外側に配置され、ポンピング、又は大気圧に置かれた溶解炉から得られる溶解物の気圧効果によって供給される。ユニットは、噴射器内の金属蒸気の流れ、圧力及び/又は速度を調節するように構成される。調節ユニットは、管内に構成されたバタフライ型比例弁及び/又は圧力降下装置を備える。噴射器は、基板の全幅に延在する蒸気出口用ソニックカラーとしての長手方向のスリットと、噴射器から出る蒸気の速度を標準化し補正するための焼結フィルタ媒体又は圧力損失体とを備える。
【0005】
欧州特許第2048261号明細書において、好ましくは、発生器は、噴射器の長手方向のスリットの長さを、基板の幅に調整するための手段を備える。特に、噴射器をその軸の周りで回転させることにより、蒸気ジェットスロットをストリップの幅に調整するための簡単なシステムが開示されている。したがって、蒸気ジェットの端部と基板端部とは同一平面内にあり、つまり、蒸気ジェットの端部と基板端部との間の距離は0mmである。
【0006】
それにもかかわらず、金属蒸気をストリップの片面だけに蒸着しなければならないとき、これらの蒸気も堆積する傾向があり、その結果ストリップの反対面を汚染し、蒸着の歩留まり、及び反対側のストリップの表面形態の著しい低下を引き起こすことが観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第97/47782号
【文献】欧州特許第2048261号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、金属蒸気をストリップの片面だけに堆積させる必要があるとき、ストリップの反対側のむきだし面に堆積する金属の蓄積が著しく少ない、走行する基板上にコーティングを蒸着させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これは、請求項1による走行する基板上にコーティングを蒸着させるための方法を提供することによって達成される。本方法はまた、請求項2~10のいずれか一項の特徴を備えることができる。
【0010】
また、本発明は、請求項11~13に記載のコーティングされた基板も網羅する。
【0011】
また、本発明は、請求項14又は15に記載の真空設備も網羅する。
【0012】
本発明を説明するために、特に以下の図を参照して、非限定的実施例の様々な実施形態及び試験を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による真空蒸着設備内の、少なくとも1つの蒸気噴射器でコーティングされる基板の平面図である。
【
図2】従来技術による真空蒸着設備内の、少なくとも1つの蒸気噴射器でコーティングされる基板の平面図である。
【
図3】本発明による真空蒸着設備内の、少なくとも1つの金属でコーティングされる基板の側面図である。
【
図4】本発明による金属蒸気を噴射する蒸気噴射器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の本発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0015】
本発明は、真空蒸着設備内で走行する基板上に、少なくとも1つの金属から形成されたコーティングを連続的に蒸着させる方法に関し、本方法は、
-金属蒸気が、走行する基板の片面S1に向かって、少なくとも1つの蒸気噴射器を通して噴射され、噴射された蒸気の凝縮によって、少なくとも1つの金属の層が前記片面に形成され、少なくとも1つの蒸気噴射器であって、蒸気噴射器は、基板平面内にある軸線Aであって、基板の走行方向に直角な軸線Aと蒸気噴射器との角度αで位置決めされ、αは、
【0016】
【数1】
を満たし、
αは絶対値で0°より大きく、
D1及びD2は、軸線Aに沿った噴射器端部と各基板端部との間の距離であり、Wsは基板幅であり、D1及びD2は0mmより大きい工程を備え、
-前記蒸気噴射器は、細長形状を有し、スロットを備え、スロットの長さLeとスロットの幅Weとによって画定される。
【0017】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、本発明による方法では、金属基板の反対面S2の金属蒸気による汚染を回避することができると考えられる。実際、本発明者らは、蒸気噴射器は、金属蒸気がほとんど損失無しで噴射されるように、特定の角度αで位置決めされなければならないことを見出した。αが数式を満足すると、金属蒸気の軌跡が制御されるため、走行する基板の片面に堆積した金属蒸気の歩留まりが非常に改善される。したがって、基板の反対面に堆積する金属蒸気の蓄積が著しく少ない。
【0018】
図1を参照すると、本発明による設備1は、まず、真空チャンバ2と、チャンバを通して基板を走行させるための手段とを備える。真空チャンバ2は、好ましくは10
-8~10
-3バールの圧力に保たれた密閉可能なボックスである。ボックスは、例えば鋼ストリップなどの基板Sが所定の経路Pに沿って走行方向に走行可能な、入口ロックと出口ロック(これらは図示せず)とを有する。
【0019】
少なくとも1つの蒸気噴射器3は、走行する基板の片面S1に金属蒸気を音速で噴射する。少なくとも1つの蒸気噴射器は、基板平面内にある軸線Aであって基板の走行方向に直角な軸線Aと蒸気噴射器との角度αで位置決めされ、αは以下の式、
【0020】
【0021】
噴射器は、長方形又は台形などの様々な形状を有することができる。
図1に示すように、D1及びD2の異なる距離値が考えられる。好ましくは、D1及びD2は、軸線Aに沿った、噴射器端部と基板端部との間の最小距離を表す。
【0022】
本発明によれば、D1及びD2は0mmより大きい、つまり、噴射器端部は基板端部を超えない。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、D1及びD2が0mm以下である場合、少なくとも1つの蒸気噴射器を通して噴射される金属蒸気の軌跡が制御されず、基板の反対面S2の重大な汚染をもたらすおそれがあると考えられる。D1及びD2がゼロ未満である場合、それは、
図2に示すように、蒸気噴射器の端部が基板端部を越えて延在していることを意味する。
【0023】
好ましくは、D1及びD2は互いに独立しており、1mm超、有利には5mm~100mm、より好ましくは30mm~70mmである。
【0024】
好ましい実施形態では、D1はD2と同じである。
【0025】
好ましくは、噴射器スプリットの長さLeは5mm~50mmである。
【0026】
好ましくは、基板幅Wsは最大2200mmである。有利には、Wsは最小200mmである。例えば、Wsは1000~1500mmである。
【0027】
好ましくは、Weは最大2400mmである。有利には、Weは最小400mmである。
【0028】
好ましい実施形態では、WsはWe以下である。
【0029】
好ましくは、αは絶対値で0°より大きく、より好ましくは5°~80°であり、有利には、絶対値で20°~60°であり、例えば絶対項で35°~55°である。
【0030】
真空チャンバは、走行する基板の同じ面S1に、全て位置決めされた2つ又は複数の蒸気噴射器を備えることができる。
【0031】
図3に示すように、基板Sは、前記基板の性質及び形状により、任意の好適な手段によって走行させることができる。特に、鋼ストリップを搬送可能な回転支持ローラ4を用いてもよい。
【0032】
図4を参照すると、本発明による少なくとも蒸気噴射器3は、走行する基板(図示せず)に金属蒸気ジェット5を噴射する。少なくとも蒸気噴射器は細長形状を有し、スロットを備え、スロットの長さLeとスロットの幅Weとによって画定される。
【0033】
特に、本発明による方法を用いて、基板の片面S1に少なくとも1つの金属でコーティングされた金属基板を得ることができ、他方の基板面S2は、端部に2.0μmの前記金属の最大蓄積を備える。最大蓄積量は1μmであり、有利には、反対側の基板面に金属の蓄積はない。
【0034】
本発明において、少なくとも1つの金属は、好ましくは、亜鉛、クロム、ニッケル、チタン、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、又はそれらの混合物から選択される。好ましくは、金属は、任意にマグネシウムを含む亜鉛である。
【0035】
好ましくは、金属基板は鋼基板である。実際、いかなる理論にも拘束されることを望まないが、鋼基板を使用すると、平坦性がさらに改善されると考えられる。
【0036】
コーティング厚は、好ましくは0.1μm~20μmである。一方、0.1μm未満では、基板の防食性が不十分になるおそれがある。他方では、特に、自動車又は建設分野で要求されるレベルの耐食性を得るために、20μmを超える必要はない。一般に、自動車用途には、厚さは10μmに制限される場合がある。
【0037】
最終的に、本発明は、走行する基板上に、少なくとも1つの金属から形成されたコーティングを連続的に蒸着させるための本発明による方法のための真空蒸着設備に関し、設備は、基板が所定の経路に沿って走行可能な真空チャンバを備え、真空チャンバは、
-少なくとも1つの蒸気噴射器であって、蒸気噴射器は、基板平面内にある軸線Aであって、基板の走行方向に直角な軸線Aと蒸気噴射器との角度αで位置決めされ、αは以下の式、
【0038】
【数3】
を満たし、
α絶対値で0°より大きく、
D1及びD2は、軸線(A)に沿った、噴射器端部と各基板端部との間の最小距離であり、Wsは基板幅であり、D1及びD2は0mmより大きい少なくとも1つの蒸気噴射器を備え、
-蒸気噴射器は、細長形状を有し、スロットを備え、スロットの長さLeとスロットの幅Weとによって画定される。
【0039】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの蒸気ジェットコータは、αが調整されるように、蒸気源に連結された供給管を中心に回転可能に取り付けられる。
【0040】
実施例
亜鉛蒸気を噴射する1つのジェット蒸気コータを備える方法の効率を評価するために、真空蒸着設備でテストを実施した。幅Wsが1200mmの鋼基板の片面S1に、Le=24mm、We=1750mmの少なくとも1つの噴射器を備える真空チャンバ内で、亜鉛蒸気を蒸着させた。試験では、D1及びD2は同じであり、-10mm~+20mmの間に固定した。ここで、-10mmとは、蒸気噴射器の端部が基板端部を10mm超えて延在していることを意味し、αは、本発明による数式を用いて、各試験について算出した。真空圧は10-1ミリバールであった。鋼基板の反対面S2の金属蓄積は、蛍光X線分光法によって測定した。結果を以下の表1に示す。
【0041】
【0042】
鋼基板の反対面S2の金属の蓄積は、試験1及び試験2に関して高かった。一方、試験3及び試験4に示すように、D1及びD2が0mmより大きく、かつαが本発明による数式を満足するとき、金属蓄積は著しく低い。