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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】粒子ビームシステム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/147 20060101AFI20230626BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20230626BHJP
   H01J 37/14 20060101ALI20230626BHJP
   H01J 37/12 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
H01J37/147 B
H01J37/28 B
H01J37/14
H01J37/12
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020571464
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2019066058
(87)【国際公開番号】W WO2019243349
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】102018115012.1
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520284322
【氏名又は名称】カール ツァイス マルチセム ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】ダーク ツァイトラ―
(72)【発明者】
【氏名】ハンス フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】インゴ ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シューベルト
(72)【発明者】
【氏名】アルネ トーマ
(72)【発明者】
【氏名】アンドラーシュ マイヨール
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-243802(JP,A)
【文献】特開2005-057110(JP,A)
【文献】特開2006-210458(JP,A)
【文献】国際公開第2016/124648(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0268096(US,A1)
【文献】米国特許第05892224(US,A)
【文献】特開平09-288991(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0154756(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/147
H01J 37/28
H01J 37/14
H01J 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子ビームシステムであって、
複数の粒子ビームを生成するように構成されるマルチビーム粒子源と、
物体面を像面に粒子光学的に結像し、且つ前記像面上に前記複数の粒子ビームを導くように構成される結像光学ユニット(35)と、
前記物体面の近くの領域内で調節可能な強度の偏向電場及び/又は磁場を生成するように構成される場生成機構であって、前記粒子ビームは、前記偏向場の前記強度に依存する偏角だけ前記偏向場によって動作中に偏向される、場生成機構と
を含み、
前記場生成機構は、前記粒子ビームの1つの粒子ビームについて、以下の第1の条件:
それぞれ前記場生成機構の直接上流及び直接下流で1つの粒子ビームの軌道と一致する2つの直線は、該2つの直線が交差する点である頂点、及び、前記2つの直線を含む第1の平面を定義し、
前記頂点は、前記結像光学ユニットの光軸から距離r離れて位置し、且つ、前記頂点を含み前記物体面に平行な第2の平面を定義し、
前記頂点を通る前記第1の平面の法線と前記光軸との間の距離dは、前記距離rの0.99倍未満であり、
前記第2の平面と前記物体面との間の距離lは、前記物体面と前記像面との間の距離の0.1倍未満であること
が当てはまるように構成される、
粒子ビームシステム。
【請求項2】
前記結像光学ユニットは、20mTを超える磁場強度を前記像面において有する集束磁場を提供する対物レンズを含む、請求項1に記載の粒子ビームシステム。
【請求項3】
前記場生成機構は、前記偏向された粒子ビームが前記像面に直角に入射するように、前記偏向電場及び/又は磁場を生成するように構成される、請求項2に記載の粒子ビームシステム。
【請求項4】
前記マルチビーム粒子源は、前記物体面の近くで互いに並んで配置される複数の粒子エミッタであって、そのそれぞれは、前記複数の粒子ビームの1つの粒子ビーム又は複数の粒子ビームを生成する、複数の粒子エミッタを含み、
前記場生成機構は、前記粒子エミッタが配置される磁場を生成するように構成される磁気コイルを含み、及び前記物体面における前記磁場の場方向は、前記物体面に対して直角に方向付けられる、請求項1~3の何れか一項に記載の粒子ビームシステム。
【請求項5】
前記偏向場は、前記物体面を通過する前記複数の粒子ビームのうちの前記粒子ビームの複数の対について、以下の関係:
0.9<r1/r2*α2/α1<1.1
が当てはまるように生成され、ここで、
r1は、前記対の第1の粒子ビームが前記物体面を通過する位置と、前記面内の中心との間の半径方向距離を表し、
r2は、前記対の第2の粒子ビームが前記物体面を通過する位置と、前記面内の前記中心との間の半径方向距離を表し、
α1は、前記第1の粒子ビームが偏向される前記偏角の絶対値を表し、及び
α2は、前記第2の粒子ビームが偏向される前記偏角の絶対値を表す、請求項1~の何れか一項に記載の粒子ビームシステム。
【請求項6】
粒子ビームシステムであって、
物体面(17)上に互いに並んで複数の粒子ビーム(5)を導くように構成される照射系(3)であって、それにより、前記物体面(17)で前記粒子ビームが複数の入射位置を照らす、照射系(3)と、
前記入射位置から発せられる複数の粒子ビーム(15)を検出器アレイ(13)上に導き、且つ前記物体面と前記検出器アレイとの間のビーム経路内に配置される中間像面(75)に前記物体面を結像するように構成される結像光学ユニット(11)と、
前記中間像面の近くの領域内に調節可能な強度の偏向電場及び/又は磁場を生成するように構成される場生成機構であって、前記粒子ビームは、前記偏向場の前記強度に依存する偏角だけ前記偏向場によって動作中に偏向される、場生成機構と
を含み、
前記場生成機構は、前記粒子ビームの1つの粒子ビームについて、以下の第1の条件:
それぞれ前記場生成機構の直接上流及び直接下流で1つの粒子ビームの軌道と一致する2つの直線は、該2つの直線が交差する点である頂点、及び、前記2つの直線を含む第1の平面を定義し、
前記頂点は、前記結像光学ユニットの光軸から距離r離れて位置し、且つ、前記頂点を含み前記中間像面に平行な第2の平面を定義し、
前記頂点を通る前記第1の平面の法線と前記光軸との間の距離dは、前記距離rの0.99倍未満であり、
前記第2の平面と前記中間像面との間の距離lは、前記中間像面と前記検出器アレイとの間の距離の0.1倍未満であること
が当てはまるように構成される、
粒子ビームシステム。
【請求項7】
前記結像光学ユニットは、20mTを超える磁場強度を前記検出器アレイにおいて有する集束磁場を提供する対物レンズを含む、請求項に記載の粒子ビームシステム。
【請求項8】
前記場生成機構は、前記偏向された粒子ビームが前記検出器アレイに直角に入射するように、前記偏向電場及び/又は磁場を生成するように構成される、請求項に記載の粒子ビームシステム。
【請求項9】
前記偏向場は、前記中間像面を通過する前記複数の粒子ビームのうちの前記粒子ビームの複数の対について、以下の関係:
0.9<r1/r2*α2/α1<1.1
が当てはまるように生成され、ここで、
r1は、前記対の第1の粒子ビームが前記中間像面を通過する位置と、前記面内の中心との間の半径方向距離を表し、
r2は、前記対の第2の粒子ビームが前記中間像面を通過する位置と、前記面内の前記中心との間の半径方向距離を表し、
α1は、前記第1の粒子ビームが偏向される前記偏角の絶対値を表し、及び
α2は、前記第2の粒子ビームが偏向される前記偏角の絶対値を表す、請求項6から8の何れか一項に記載の粒子ビームシステム。
【請求項10】
前記関係は、前記粒子ビームの対の半分について当てはまる、請求項5又9に記載の粒子ビームシステム。
【請求項11】
前記偏向場は、前記粒子が前記中心の周りでほぼ円周方向に偏向されるように生成される、請求項5、9又は10に記載の粒子ビームシステム。
【請求項12】
前記距離は、前記偏角の頂点と主軸との間の距離の0.95倍未満である、請求項1~11の何れか一項に記載の粒子ビームシステム。
【請求項13】
前記場生成機構は、前記粒子ビームの1つの粒子ビームについて、以下の第2の条件:
前記1つの粒子ビームが前記場生成機構によって偏向される前記偏角は、10μradよりも大きいこと
が当てはまるように構成される、請求項12に記載の粒子ビームシステム。
【請求項14】
前記第1の条件及び/又は前記第2の条件は、前記粒子ビームの10%超について当てはまる、請求項13に記載の粒子ビームシステム。
【請求項15】
前記場生成機構は、互いに並んで配置される複数の偏向器を有する偏向器アレイ(41)を含み、粒子ビームの群は、動作中に前記偏向器のそれぞれを通過する、請求項1~14の何れか一項に記載の粒子ビームシステム。
【請求項16】
前記偏向器のそれぞれは、互いに対向して位置する電極(47)の少なくとも1つの対であって、前記電極間において、前記粒子ビームの群は、前記偏向器を通過する、電極(47)の少なくとも1つの対を含み、
前記粒子ビームシステムは、互いに異なる調節可能な電位を前記電極の対の前記電極に加えるように構成されるコントローラ(49)を更に含む、請求項15に記載の粒子ビームシステム。
【請求項17】
前記偏向器アレイは、中心(53)を含み、
各偏向器の前記電極の対の前記2つの電極の中心間の接続線(51)は、前記偏向器アレイの前記中心に対して円周方向に方向付けられる、請求項16に記載の粒子ビームシステム。
【請求項18】
前記偏向器のそれぞれは、前記ビーム経路内で前後に配置される少なくとも1つの第1のプレート(56)及び1つの第2のプレート(57)を含み、前記第1のプレートは、前記粒子ビームの群が通過する第1の開口部(45)を有し、且つ前記第2のプレートは、前記粒子ビームの群が通過する第2の開口部(45’)を有し、前記ビーム経路の方向に見られたときの前記第1の開口部の中心は、前記第2の開口部の中心に対して横方向にずらされており(61)、
前記粒子ビームシステムは、互いに異なる電位を前記第1のプレート及び第2のプレートに加えるように構成されるコントローラ(59)を更に含む、請求項16又は17に記載の粒子ビームシステム。
【請求項19】
前記偏向器アレイは、中心(53)を含み、
前記第2の開口部の前記中心に対する、前記ビーム経路の前記方向に見られたときの前記第1の開口部の前記中心は、前記偏向器アレイの前記中心に対して円周方向にずらされている、請求項18に記載の粒子ビームシステム。
【請求項20】
前記偏向器アレイの前記複数の偏向器は、複数の第1の開口部を有する共通の第1の多孔プレートと、複数の第2の開口部を有する共通の第2の多孔プレートとを含み、前記粒子ビームの群は、それぞれ前記第1の開口部の1つ及び前記第2の開口部の1つを通過する、請求項18又は19に記載の粒子ビームシステム。
【請求項21】
前記粒子ビームの群は、単一の粒子ビームを含む、請求項1~20の何れか一項に記載の粒子ビームシステム。
【請求項22】
前記マルチビーム粒子源は、粒子ビーム(23)を生成するための粒子エミッタと、前記粒子ビームの前記ビーム経路内に配置され、且つ前記粒子ビームの粒子が通過する複数の開口部(103)を有する多孔プレート(101)とを含み、それにより、前記複数の粒子ビーム(5)は、前記多孔プレートの下流の前記ビーム経路内で生成される、請求項1~21の何れか一項に記載の粒子ビームシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の粒子ビームと共に動作する粒子ビームシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、国際公開第2005/024881 A2号パンフレット及び独国特許第10 2014 008 083 B4号明細書は、検査される物体が複数の電子ビームによって並行して走査されるように前記電子ビームと共に動作する電子顕微鏡システムを開示している。電子ビームは、複数の開口部を有する多孔プレート上に向けられる電子源によって生成される電子ビームによって生成される。電子ビームの電子の一部が多孔プレート上に当たって、そこで吸収され、電子の別の部分が多孔プレートの開口部を通過し、その結果、電子ビームは、各開口部の下流のビーム経路内で成形され、前記電子ビームの断面は、開口部の形状によって画定される。更に、多孔プレートの上流及び/又は下流のビーム経路内に提供される適切に選択された電場は、多孔プレートの各開口部が、開口部を通過する電子ビームに対するレンズとしての役割を果たすという効果を有し、そのため、多孔プレートの外側の面内に実焦点又は虚焦点が生じる。電子ビームの焦点が形成される面は、検査される物体の表面上に結像光学ユニットによって結像され、その結果、個々の電子ビームは、互いに並んだ一次ビームの束として集束した状態で物体上に当たる。それらのビームは、そこで、物体から発せられる後方散乱電子又は二次電子を発生させ、それらの電子は、二次ビームの束を形成するように成形され、更なる結像光学ユニットによって検出器アレイ上に導かれる。そこで、二次ビームのそれぞれが別個の検出器要素上に当たり、それにより、検出器要素によって検出される電子強度は、対応する一次ビームが物体上に当たる位置における物体に関する情報を提供する。走査している電子顕微鏡の慣習的な方法で物体の電子顕微鏡写真を生成するために、複数の一次ビームが物体の表面上で並行して系統的に走査される。
【0003】
特に非常に構造化された物体の場合、個々の電子ビームによって得られる電子顕微鏡写真は、複数の電子ビームの束内で個々の電子ビームが占める位置に依存することが分かっている。本発明者らは、これが、個々の電子ビームが物体に対して全て直角に当たるのではなく、異なる角度で当たることに起因すると考えており、ここで、所与の電子ビームが物体上に当たる角度は、電子ビームの束内の前記電子ビームの位置によって決まる。従って、本発明者らは、電子ビームの焦点が形成される面の物体上への結像がテレセントリックではないことを認識した。従って、物体上に焦点面を結像させるテレセントリック性に影響を及ぼす要求が生じた。テレセントリック性の誤差は、通常、結像領域の中心からの距離が増加するにつれて高まるため、物体における個々のビーム間の距離が変更可能であることで物体上の照射領域のサイズに影響を及ぼす要求が更に生じた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、複数の粒子ビームと共に動作し、粒子ビームの束内の粒子ビーム間の角度及び距離に影響を及ぼすことができる粒子ビームシステムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、粒子ビームシステムは、複数の粒子ビームを生成するように構成されるマルチビーム粒子源を含む。マルチビーム粒子源は、例えば、粒子ビームを生成するための粒子エミッタと、粒子ビームのビーム経路内に配置され、且つ粒子ビームの粒子が通過する複数の開口部を有する多孔プレートとを含むことができ、それにより、複数の粒子ビームが多孔プレートの下流のビーム経路内で生成される。
【0006】
粒子ビームシステムは、物体面を像面に粒子光学的に結像し、且つ物体面上に複数の粒子ビームを導くように構成される結像光学ユニットを更に含む。物体面を像面に結像することは、1つ又は複数の中間像面を除外せず、かかる中間像面では、物体面と像面との間のビーム経路内に同じく配置される物体面の像が生成される。
【0007】
粒子ビームシステムは、物体面の近くの領域内で調節可能な強度の偏向電場及び/又は磁場を生成するように構成される場生成機構を更に含み、粒子ビームは、偏向場の強度に依存する偏角だけ偏向場によって動作中に偏向される。
【0008】
粒子ビームシステムは、物体面の近くの偏角を設定することにより、粒子ビームが像面を通過する角度に影響を及ぼすことを可能にする。
【0009】
個々の粒子ビームが偏向場によって偏向される偏角は、2つの直線間の角度として決定することができ、2つの直線の1つは、偏向場の直接上流のビーム経路内の粒子ビームの軌道と一致し、2つの直線の他方は、偏向場の直接下流のビーム経路内の粒子ビームの軌道と一致する。この事例では、粒子ビームが偏向場によって偏向されない場合、ゼロの偏角が生じる。偏向場は、広範な領域にわたってビーム経路の方向に広がる。従って、偏向場は、広範な領域にわたって粒子ビームに作用し、偏向場の領域内の軌道が湾曲経路に沿って進むという効果を有する。
【0010】
粒子ビームによって照らされる物体は、像面内に配置することができる。粒子ビームのビーム経路内に形成することができる上記で説明した粒子ビームの焦点は、物体面内又は物体面の近くに生じさせることもできる。但し、粒子ビームシステムは、かかる構成に限定されない。
【0011】
場生成機構の偏向場は、結像光学ユニットによって像面上に結像される物体面の近くのビーム経路内に生成される。物体面の近くの機構は、偏向場の効果が局所化され得る面と、結像光学ユニットによって像面上に与えられる、物体が配置される実際の物体面との間の距離が物体面と像面との間の距離の0.1倍未満、特に0.05倍未満であることを達成する。
【0012】
上記で説明したように、偏向場は、偏向される粒子ビームのビーム経路の方向に広範な領域にわたって広がる。上記で説明したように偏角が決定される場合、粒子ビームに対する偏向場の偏向効果は、例えば、偏角の頂点が配置される面に局所化することができる。
【0013】
場生成機構を通過する粒子ビームが、その粒子ビームのために生成される偏向場の強度に依存する様々な偏角で場生成機構によって偏向される場合、像面における偏角のかかる変化は、それぞれの粒子ビームが像面に当たる角度のみが変わるという効果を有する一方、像面上の粒子ビームの入射位置は、偏角の変化によって実質的に変わらない。従って、偏向場を設定することにより、粒子ビームが像面上に当たる角度は、標的を定めた方法で設定され得る。具体的には、複数の粒子ビームの全ての粒子ビームが像面上にほぼ直角に、即ちテレセントリックに入射するように偏向場を励起することができる。顕微鏡として使用される粒子ビームシステムの場合、そのように偏向場を励起することは、非常に構造化された物体の場合でも、個々の粒子ビームによって捕捉される像が粒子ビームの束内の個々の粒子ビームの位置に著しく依存しないという効果がある。
【0014】
複数の粒子ビームと共に動作する粒子ビームシステムでは、集束磁場がほぼレンズ体内でのみ粒子ビームに作用し、レンズ体から物体まで広がる漏洩磁場が可能な限り小さいように設計される磁気対物レンズを使用することが従来の慣習である。本発明の例示的実施形態によれば、粒子ビームシステムは、上記で説明した場生成機構と、20mTを超える、特に50mTを超える、特に150mTを超える磁場強度を像面において有する集束磁場を提供する対物レンズを含む結像光学ユニットとを含む。かかる対物レンズは、従来から磁場浸潤レンズと呼ばれている。磁場浸潤レンズは、通常、レンズの内側磁極片の孔よりも大きい直径を有するレンズの外側磁極片の孔によって実現される。物体において低磁場のみを提供する対物レンズとは対照的に、これらのレンズは、より低い球面収差及び色収差を実現できる利点並びにまたより大きい軸外収差の不利点を有する。他方では、物体の表面にある強磁場は、対物レンズの光軸から隔てて物体に当たる粒子ビームが前記物体に直角に入射しないという効果を有し、従って、物体から始まる粒子ビームは、物体から直角に発せられず、これは、特に非常に構造化された物体の場合に問題を引き起こし得る。従って、場生成機構を使用することで粒子ビームを物体面の近くで偏向させることが可能になり、そのため、粒子ビームは、物体の表面に磁場が存在しても前記物体に直角に入射する。更に、この構成は、浸潤レンズの不利点であると従来から見なされている浸潤レンズの軸外収差も補償する。具体的には、前記軸外収差は、典型的には、光軸からの距離と共に線形増加する。同様に、物体面に対するビームの直角入射からの角度ずれ、即ちテレセントリック性の誤差も光軸からの距離と共に比例的に増加する。テレセントリック性の誤差を訂正することにより、軸外収差も同時に大幅に低減されることを計算が明らかにしている。従って、対物レンズの光軸から隔てて、そのビームが物体上に入射するマルチビーム粒子システム内でいわゆる浸潤レンズを使用すること及び収差を減らすために浸潤レンズの可能性を完全に利用することが可能である。
【0015】
個々の粒子ビームは、物体面に焦点が合わせられるため、所与の粒子ビームの粒子の軌道は、物体面に向けて収束する。即ち、物体面に直角に入射する粒子ビームの場合でも、物体面に入射する粒子の軌道は、物体面に対して全て直角に方向付けられるわけではない。しかし、面上の粒子ビームの入射角は、通常、いわゆる粒子ビームのセントロイド光線に基づいて決定される。セントロイド光線は、粒子ビームの全ての粒子の軌道の架空の和に相当する。
【0016】
例示的実施形態によれば、マルチビーム粒子源は、物体面の近くで互いに並んで配置される複数の粒子エミッタであって、そのそれぞれは、複数の粒子ビームの1つの粒子ビーム又は複数の粒子ビームを生成する、複数の粒子エミッタを含む。この事例では、場生成機構は、粒子エミッタが配置される磁場を生成するように構成される磁気コイルを含むことができ、物体面における磁場の場方向は、物体面に対して直角に方向付けられる。
【0017】
物体における入射位置の場を偏向器アレイ上に結像するテレセントリック性の誤差は、個々の粒子ビームを使用して得られる像が、粒子ビームの場内で個々の粒子ビームが占める位置に依存するという効果を有することを本発明者らは更に認識した。
【0018】
従って、本発明の更なる例示的実施形態によれば、粒子ビームシステムは、物体面上に複数の粒子ビームを導くように構成される照射系であって、それにより、かかる物体面で前記粒子ビームが複数の入射位置を照らす、照射系と、物体面から発せられる複数の粒子ビームを検出器アレイ上に導くように構成される結像光学ユニットとを含む。この事例では、結像光学ユニットによって物体面が粒子光学的に結像される像面内に検出器アレイを配置することができる。結像光学ユニットは、物体面を中間像面に結像し、そこで物体面の像を生成する。粒子ビームシステムは、中間像面の近くの領域内に調節可能な強度の偏向電場及び/又は磁場を生成するように構成される場生成機構を更に含み、粒子ビームは、偏向場の強度に依存する偏角だけ偏向場によって動作中に偏向される。
【0019】
物体面内で始まる粒子ビームのテレセントリック性が例えば局所電場によって乱れる場合、即ち個々の粒子ビームが、物体面に対して直角に方向付けられていない方向において物体面から離れる場合、それは、物体における所与の入射位置から発せられる粒子が、前記入射位置に割り当てられている検出器アレイの検出器要素に当たらず、むしろ前記検出器要素と異なる隣接する検出器要素に当たるという効果を有し得る。前記隣接する検出器要素によって検出される信号は、所与の入射位置に間違って割り当てられない可能性がある。この問題は、通常、粒子ビーム間の「クロストーク」と呼ばれる。この問題を低減するために、物体と検出器アレイとの間の粒子ビームのビームクロスオーバ領域内に配置される絞りを通常使用する。前記絞りは、粒子が発せられる入射位置に割り当てられていない検出器要素につながる軌道上を進む粒子を吸収する。高信頼のフィルタリングを実現するために、前記絞りの開口部の直径は、可能な限り小さく選択するべきである。但し、この構成は、絞りが配置される面を通過する全てのビームが物体面からほぼ同一の角度で始まることを前提とする。しかし、実際には、入射位置から発せられる粒子ビームが粒子ビームの束内の個々の粒子ビームの位置に依存する角度で物体から始まることが起こり得る。
【0020】
粒子ビームの軌道に対するこれらの角度の効果は、場生成機構を通過するときに粒子ビームが受ける偏向によって影響を及ぼすことができ、かかる偏向によって部分的に補償することができる。
【0021】
物体と検出器アレイとの間の結像光学ユニット内に配置される場生成機構は、粒子源と物体との間のビーム経路内に配置される場生成機構の構造と同一又は同様の構造を有することができる。
【0022】
中間像面の近くの機構は、偏向場の効果が局所化され得る面と、物体が配置される物体面が結像光学ユニットによって結像される実際の中間像面との間の距離が物体面と中間像面との間の距離の0.1倍未満、特に0.05倍未満であることを達成する。
【0023】
本発明の例示的実施形態によれば、粒子ビームシステムは、上記で説明した場生成機構と、20mTを超える、特に50mTを超える、特に150mTを超える磁場強度を像面において有する集束磁場を提供する対物レンズを含む結像光学ユニットとを含む。
【0024】
例示的実施形態によれば、場生成機構は、前記1つの粒子ビームが場生成機構によって偏向される偏角の辺が、面であって、その面の法線は、偏角の頂点と主軸との間の距離の0.99倍未満、特に0.95倍未満、特に0.90倍未満である、結像光学ユニットの光軸からの距離にある、面内にあるように構成される。即ち、ビームの偏向は、専ら主軸に向けて又は主軸から離れて、即ち主軸に対して半径方向に引き起こされず、むしろ偏向の少なくとも1つの成分が主軸に対して円周方向に方向付けられる。
【0025】
この事例では、結像光学ユニットの光軸は、ビーム経路内で前後に配置される結像光学ユニットの回転対称レンズの回転軸に沿って進む。この事例では、結像光学ユニットの光軸は、共通の直線上に配置されない複数の直線領域を含むことも可能である。これは、例えば、2つの回転対称レンズ間に非回転対称ビーム偏向器が配置される場合に当てはまる。
【0026】
光軸と、偏角の2辺を含む面への法線との間の距離の上記で説明した関係は、偏向される粒子ビームの偏向が専ら光軸に向けて又は光軸から離れて、即ち光軸に対して半径方向に引き起こされないことを意味する。むしろ、偏向の少なくとも1つの有意な成分は、偏向機構に広がる光軸を中心に円周方向に与えられることが求められる。この関係は、例えば、粒子ビームシステムの動作中に粒子ビームの30%超又は60%超について満たされ得る。
【0027】
更に、偏角は、10μradよりも大きく、特に50μradよりも大きく、特に100μradよりも大きく、特に300μradよりも大きいことができる。この関係も、例えば、粒子ビームシステムの動作中に粒子ビームの30%超又は60%超について満たされ得る。
【0028】
例示的実施形態によれば、偏向場は、物体面又は中間像面を通過する複数の粒子ビームのうちの粒子ビームの複数の対について、以下の関係:
0.9<r1/r2α2/α1<1.1
が当てはまるように生成され、ここで、
r1は、対の第1の粒子ビームが物体面又は中間像面を通過する位置と、その面内の中心との間の半径方向距離を表し、
r2は、対の第2の粒子ビームが物体面又は中間像面を通過する位置と、その面内の中心との間の半径方向距離を表し、
α1は、第1の粒子ビームが偏向される偏角の絶対値を表し、及び
α2は、第2の粒子ビームが偏向される偏角の絶対値を表す。
【0029】
即ち、偏角の大きさは、中心又は光軸からの距離と共にほぼ線形に増加する。
【0030】
照射系の光軸を中心に円周方向に方向付けられる偏角による物体面における粒子ビームの偏向は、粒子ビームの束の断面が最小である(通常、クロスオーバで表される)面内の粒子ビームの束全体の断面を広くするという効果も有する。そのように断面を広げることは、従って、クーロン反発による粒子の互いからの相互反発を減らすことになり、それは、従って、像面におけるより小さいビーム焦点、従ってマルチビーム粒子顕微鏡の解像力の改善を可能にする。
【0031】
例示的実施形態によれば、場生成機構は、互いに並んで配置される複数の偏向器を有する偏向器アレイを含み、粒子ビームの群は、動作中に偏向器のそれぞれを通過する。適切な偏向器アレイの実施形態は、例えば、その開示が本願に全体的に援用される、第10 2018 202 421.9号の出願番号を有する独国特許出願に記載されている。
【0032】
例示的実施形態によれば、偏向器アレイの偏向器は、互いに対向して位置する電極の少なくとも1つの対を含み、それらの電極間において、粒子ビームの群は、偏向器を通過する。粒子ビームシステムは、異なる電位を電極に加えるように構成されるコントローラを含むことができる。互いに対向して位置する電極の対の数は、具体的には1つ又は2つに等しいことができる。
【0033】
ある例示的実施形態によれば、偏向器のそれぞれに対向電極の1つのみの対が提供される。この事例では、偏向器アレイの中心に対して円周方向に広がるように、2つの電極の中心を通る直線が方向付けられ得る。かかる偏向器アレイにより、偏向器アレイを通過した後、中心を通過する主軸と平行に進むように、前記主軸の周りでその軌道が螺旋状に進む粒子ビームに影響を及ぼすことができる。
【0034】
例示的実施形態によれば、偏向器のそれぞれは、ビーム経路内で前後に配置される第1のプレート及び第2のプレートを含み、第1のプレート及び第2のプレートは、粒子ビームの群の粒子ビームが連続して通過する開口部をそれぞれ有する。この事例では、ビーム経路の方向に見られたときの第1のプレートの開口部の中心は、第2のプレートの開口部の中心に対して横方向にずらされている。粒子ビームシステムは、互いに異なる電位を第1のプレート及び第2のプレートに加えるように構成されるコントローラを含むことができる。従って、第1のプレートと第2のプレートとの間に電場が発生し、前記電場は、開口部を通過する粒子ビームの偏向をもたらす。
【0035】
本明細書の例示的実施形態によれば、偏向器アレイは、複数の第1の開口部を有する第1の多孔プレートと、複数の第2の開口部を有する第2の多孔プレートとを含み、それぞれの粒子ビームの群は、それぞれ第1の開口部の1つ及び第2の開口部の1つを連続して通過する。この事例では、ビーム経路の方向に見られたときの、通過される第1の開口部及び通過される第2の開口部は、やはり互いに対して横方向にずらして配置される。
【0036】
更なる例示的実施形態によれば、偏向器アレイは、中心を含み、第2の開口部の中心に対する、ビーム経路の方向に見られたときの第1の開口部の中心は、偏向器アレイの中心に対して円周方向に横にずらされている。
【0037】
かかる偏向器の実施形態は、例えば、その開示が本願に全体的に援用される国際公開第2007/028596 A1号パンフレットで説明されている。
【0038】
偏向器アレイの偏向器によって偏向される粒子ビームの群の粒子ビームの数は、2つ、3つ又はそれを超えるものであり得る。ある例示的実施形態によれば、偏向器アレイの別個の偏向器が複数の粒子ビームのうちの粒子ビームのそれぞれに対して提供されるように、各群は、単一の粒子ビームのみを含む。
【0039】
本発明の更なる実施形態によれば、粒子ビームシステムは、物体面上に複数の粒子ビームを導くように構成される照射系であって、それにより、かかる物体面で前記粒子ビームが入射位置の場を照らす、照射系を含む。照射系は、粒子ビームのビーム経路内に配置され、且つ複数の開口部を有する多孔プレートであって、粒子ビームは、開口部のそれぞれを通過する、多孔プレートと、複数の粒子ビームが通過する開口部を有する第1の単孔プレートとを含み、第1の単孔プレートは、多孔プレートから第1の距離に配置される。この照射系は、複数の粒子ビームが通過する開口部を有する第2の単孔プレートを更に含み、第2の単孔プレートは、多孔プレートから第2の距離に配置される。粒子ビームシステムは、多孔プレートに対する調節可能な第1の電位を第1の単孔プレートに加え、多孔プレートに対する調節可能な第2の電位を第2の単孔プレートに加えるように構成される電圧源を含み、第1の距離は、第2の距離の0.5倍未満であり、特に第2の距離の0.2倍未満であり、特に第2の距離の0.1倍未満である。
【0040】
このように構成された粒子ビームシステムにより、複数の粒子ビームで物体を照らす間のテレセントリック性の誤差の影響に対して、物体において変化させることができる粒子ビームの場の直径によって影響を及ぼすことが同様に可能である。この変化は、電圧源によって第1の単孔プレート及び第2の単孔プレートに加えられる電位を変えることによって実現することができる。
【0041】
多孔プレート及び単孔プレートに加えられる電位差によって電場が多孔プレートにおいて発生し、かかる電場は、多孔プレートの開口部を通過する粒子ビームに対して開口部がレンズ効果を有し、そのため、開口部を通過する粒子ビームが多孔プレートの下流又は上流のビーム経路内でビーム焦点を形成するという効果を有する。前記ビーム焦点は、物体が配置される面上に結像光学ユニットによって結像することができる。この物体面上への結像は、典型的には像面湾曲と呼ばれる結像収差を含む。この収差を少なくとも部分的に補償するために、ビーム焦点が、平面ではなく、湾曲表面上にあるように多孔プレートに隣接する電場を発生させることができる。この例は、その開示が本願に全体的に援用される国際公開第2005/024881 A2号パンフレットに記載されている。
【0042】
上記で説明した粒子ビームシステムは、生じるビーム焦点が配置される表面の湾曲に影響を及ぼせるようにするだけでなく、ビーム焦点間の距離を変えることも可能にする。これらの距離を変えることは、物体面における粒子ビームの入射位置間の距離を変えること、従って物体面における粒子ビームの場の直径を変えることを直接もたらす。
【0043】
この事例では、多孔プレートと第1の単孔プレートとの間の電圧の変化は、ビーム焦点が配置される表面の湾曲の変化を実質的にもたらす一方、多孔プレートと第2の単孔プレートとの間の電圧の変化は、ビーム焦点間の距離の変化を主にもたらす。
【0044】
例示的実施形態によれば、第2の単孔プレート内の開口部の直径は、第1の単孔プレート内の開口部の直径よりも1.5倍又は3倍大きい。
【0045】
例示的実施形態によれば、第1の単孔プレート及び第2の単孔プレートは、多孔プレートに対して同じ側に配置される。更なる例示的実施形態によれば、多孔プレートは、第1の単孔プレートと第2の単孔プレートとの間に配置される。
【0046】
更なる例示的実施形態によれば、複数の粒子ビームが通過する開口部を有する少なくとも1つの第3の単孔プレートが設けられ、第3の単孔プレートは、多孔プレートから第3の距離に配置され、前記第3の距離は、第2の距離よりも大きい。少なくとも1つの第3の単孔プレートは、多孔プレートに対して第2の単孔プレートと同じ側に配置される。ビーム焦点間の距離を変えるために、調節可能な屈折力を有するレンズとして少なくとも1つの第3の単孔プレートが第2の単孔プレートと共に粒子ビームに作用するように、電圧源が少なくとも1つの第3の単孔プレートに電位を加えることができる。
【0047】
上記で説明した単孔プレートの幾何学的設計の結果、即ち単孔プレートと多孔プレートとの間の距離の選択及び単孔プレートの開口部の直径の選択の結果、ビーム焦点が形成される表面の湾曲の変化及びビーム焦点間の距離を互いに概ね切り離した方法で設定することができる。従って、ビーム焦点が配置される表面の所望の湾曲を表す第1の入力信号を受信することと、物体面における粒子ビームの入射位置間の所望の距離を表す第2の入力信号を受信することとを行うように構成されるコントローラを設けることができる。コントローラは、第1の入力信号に応じて、多孔プレートと第1の単孔プレートとの間の電位差を電圧源によって変え、且つ第2の入力信号に応じて、多孔プレートと第2の単孔プレート又は第3の単孔プレートとの間の電位差を電圧源によって変えるように構成され得る。
【0048】
本発明の更なる実施形態によれば、粒子ビームシステムは、物体面上に複数の粒子ビームを導くように構成される照射系であって、それにより、かかる物体面で前記粒子ビームが入射位置の場を照らす、照射系を含む。この事例では、照射系は、粒子ビームを生成するように構成される粒子エミッタを有するマルチビーム粒子源と、粒子ビームが通過する少なくとも1つの集光レンズと、集光レンズの下流の粒子ビームのビーム経路内に配置され、且つ粒子ビームの粒子が通過する複数の開口部を有する第1の多孔プレートであって、それにより、複数の粒子ビームは、第1の多孔プレートの下流のビーム経路内に形成される、第1の多孔プレートとを含む。この照射系は、第1の多孔プレートの下流のビーム経路内に配置され、且つ複数の開口部を有する第2の多孔プレートを更に含み、複数の粒子ビームのうちの粒子ビームの1つは、前記開口部のそれぞれを通過する。この照射系は、少なくとも1つの集光レンズが粒子ビームに調節可能な屈折力を提供するように、少なくとも1つの集光レンズを励起することと、物体面における粒子ビームの入射位置間の所望の距離を表す第1の信号を受信することと、第1の信号が変化した場合に少なくとも1つの集光レンズの屈折力を変えることとを行うように構成されるコントローラを更に含む。
【0049】
集光レンズの励起の変化による集光レンズの屈折力の変化はまた、第1の多孔プレートに入射する粒子ビームの広がりの変化、従って多孔プレートの下流のビーム経路内に生成される複数の粒子ビームの広がりの変化をもたらす。この複数の粒子ビームが最終的に物体上に導かれる。照射光学ユニットの特性が他の点で同じままである状態で、第1の多孔プレートの直接下流の複数の粒子ビームの広がりが増すことは、物体上の粒子ビームの入射位置間の距離が大きくなることをもたらし、それに対応して、第1の多孔プレートの直接下流の複数の粒子ビームの広がりが減ることは、物体上の粒子ビームの入射位置間の距離が小さくなることをもたらすことが明らかである。
【0050】
例示的実施形態によれば、この照射系は、多孔プレートの下流及び物体面の上流のビーム経路内でそれぞれ粒子ビームの焦点を合わせるように構成され、対応するビーム焦点は、湾曲表面上に配置される。この事例では、粒子ビームシステムは、第2の多孔プレートの上流又は下流のビーム経路内に配置され、且つ複数の粒子ビームが通過する開口部を有する単孔プレートを更に含む。コントローラは、単孔プレートと多孔プレートとの間に調節可能な電位差を提供することと、表面の所望の湾曲を表す第2の信号を受信することと、第2の信号が変化した場合に単孔プレートと多孔プレートとの間の電位差を変えることとを行うように構成され得る。
【0051】
上記で説明した特徴及び前記特徴の利点が以下の実施形態の説明からより明らかになる。但し、本発明の実施形態は、記載した前記特徴の全てを含む必要はなく、含まれ得るいかなる特徴も、記載する利点の全てを示す必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】粒子ビームシステムの概略図を示す。
図2図1の粒子ビームシステムの詳細の概略図を示す。
図3図1の粒子ビームシステム内で使用可能な偏向器アレイの平面図の概略図を示す。
図4】粒子ビームの偏向方向を説明するための図を示し、前記偏向は、図1の粒子ビームシステムの場生成機構によってもたらされている。
図5図1の粒子ビームシステム内で使用可能な更なる偏向器アレイの平面図の概略図を示す。
図6図5のV-Vの線に沿った、図5に示す偏向器アレイの断面図の概略図を示す。
図7図1の粒子ビームシステム内で使用可能なマルチビーム粒子源の詳細の断面図の概略図を示す。
図8図1の粒子ビームシステム内で使用可能な更なるマルチビーム粒子源の詳細の断面図の概略図を示す。
図9図1の粒子ビームシステム内で使用可能な更なるマルチビーム粒子源の詳細の断面図の概略図を示す。
図10図1の粒子ビームシステム内で使用可能な更なるマルチビーム粒子源の詳細の断面図の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下の実施形態の説明では、その構造及び機能に関して同様である構成要素には、同じ又は同様の参照記号が概ね与えられている。従って、個々の特徴の意味を完全に理解するために、「発明の概要」セクション内の同様の参照記号を有する他の特徴の説明並びにそれらの及び他の特徴の説明も考慮すべきである。
【0054】
一実施形態による粒子ビームシステムを図1に概略的に示す。粒子ビームシステム1は、物体9が配置される面7上に複数の粒子ビーム5を導くように構成される照射系3を含む。粒子ビーム5のそれぞれは、物体9上の入射位置を照らし、粒子ビーム5は、互いに並んで且つ互いに隔てて物体9に入射し、それにより入射位置の場がそこで照らされる。粒子ビーム5は、例えば、物体9において二次電子及び後方散乱電子を発生させる電子ビームであり得る。検出システムの結像光学ユニット11は、入射位置において発生する電子を集め、それを検出器アレイ13に導くように構成される。ここで、入射位置のそれぞれから発せられる電子を使用して、それぞれの事例において別個の粒子ビーム15を成形する。粒子ビーム15は、検出器アレイ13上に導かれる。検出器アレイ13は、検出器要素のアレイを含み、粒子ビーム15のそれぞれを検出するために1つ又は複数の検出器要素が設けられる。そのために、検出器要素は、物体9における入射位置の配置に対応するアレイ状に構成される。物体9の表面が、結像光学ユニット11によって与えられる結像の物体面17内に配置され、検出器アレイ13の検出器要素が前記結像の像面19内に配置されるように、結像光学ユニット11は、物体9及び検出器アレイ13の表面に対して構成される。照射系3の結像光学ユニット35及び検出器システムの結像光学ユニット11は、結像光学ユニット35の像面7と結像光学ユニット11の物体面とが一致し、物体の表面をそこに配置することができるように構成される。従って、面7は、照射系3の像面、結像光学ユニット11の物体面17及び検査される物体の表面が配置されるサンプル面である。
【0055】
照射系3は、1つ又は複数の集光レンズ25によって平行にされ、多孔プレート機構27上に当たる粒子ビーム23を生成するための粒子エミッタ22を有するマルチビーム粒子源21を含む。多孔プレート機構27は、複数の開口部を有する少なくとも1つの多孔プレートを含む。多孔プレート内の開口部を通過する粒子ビーム23の粒子が粒子ビーム5を形成する。粒子ビーム5の焦点31が表面29の周りの領域内に形成されるように、多孔プレート機構27は、個々の粒子ビーム5の焦点を合わせるように更に構成される。この事例では、表面29は、湾曲した形状を有し得る。ビーム経路に影響を及ぼす更なるレンズ33を多孔プレート機構27と面29との間に設けることができる。
【0056】
表面29と面7とが光学結像の意味で互いに共役な面であるように、照射系3は、表面29を面7に結像するように構成される結像光学ユニット35を更に含む。結像光学ユニット35は、面7の最も近くに配置される結像光学ユニット35のレンズである対物レンズ37を含む。更に、結像光学ユニット35は、更なるレンズ39を含むことができる。
【0057】
照射系3は、粒子ビーム5を、前記粒子ビーム5がそこで面7に可能な限り直角に、即ち90°の入射角で入射するように面7上に導く。しかし、レンズ37及び39の特性によってこの関係からのずれが生じ、そのため、粒子ビームは、90°と異なる入射角で面7上に入射する。具体的には、これらの方向は、粒子ビーム5の全てについて同一ではなく、むしろ粒子ビームの場内の個々の粒子ビーム5の位置に依存し得る。入射角が90°からずれることは、例えば、結像光学ユニット35のテレセントリック性の誤差によって引き起こされ得る。更に、対物レンズ37は、物体9の表面まで到達する磁場によってその焦点効果をもたらすことができる。従って、物体の表面に直接の粒子ビームの軌道が螺旋の形状を有する。テレセントリック性からのかかるずれを少なくとも部分的に補償するために、面7に結像される表面29の近くに偏向器アレイ41を配置する。
【0058】
偏向器アレイ41の一実施形態の平面図を図3に概略的に示す。偏向器アレイ41は、粒子ビーム5の1つが開口部45のそれぞれの中心を通過するようにアレイ46内に配置される複数の開口部45を有する多孔プレート43を含む。各開口部45において、互いに対向して位置する電極47の対が開口部45の中心点の両側に配置される。各電極47は、互いに異なる電位を各電極対の電極47に加えるように構成されるコントローラ49に接続される。電極47の対の電極47間の電位差は、電極47間に電場を発生させ、前記電場は、電極47の対を通過する粒子ビーム5を、電位差に依存する角度だけ偏向させる。
【0059】
粒子ビーム5が通過する開口部45のアレイ46の中心53に対して対の2つの電極47の中心間の接続線51が円周方向に配置されるように、電極を通過する粒子ビーム5に対して電極47の対が方向付けられる。その結果、偏向器アレイ41の通過後、粒子ビーム5の場の中心53を取り巻く螺旋経路を進むように粒子ビーム5を偏向させることができる。対物レンズ37から物体9の表面まで広がる磁場の効果が、粒子ビーム5が面7上にほぼ直角に入射する結果を伴って補償されるように、これらの螺旋経路の傾きをここで設定することができる。
【0060】
図3に示す偏向器アレイ41の場合、それぞれの偏向器は、互いに対向して位置し、中心53に対して円周方向にずらして配置される電極47の対を有する。これにより、中心に対して円周方向に方向付けられる方向に粒子ビームを偏向させることができる。但し、複数の電極対を通過する粒子ビームを偏向させる方向を設定できるようにするために、互いに対向して位置する2つ以上の電極対を開口部の周りで円周方向において分散式に配置することも可能である。
【0061】
図4は、粒子ビームの偏向方向を説明するための図であり、前記偏向は、場生成装置41によってもたらされている。
【0062】
図4の面201は、場生成機構41の偏向場の効果を局所化することができる面を表す。図4では、粒子ビーム5が場生成機構41に上から入り、場生成装置41から底面において出る。粒子ビーム5の軌道は、場生成機構41に入る前及び場生成機構41から出た後に直線的に進み、場生成機構41内で湾曲経路上を進む。軌道の直線部分の延長線203及び204が点205において交差し、互いに角度αを形成する。角度αは、場生成機構41の偏向場によって粒子ビーム5が偏向される偏角である。直線の延長線203及び204は、偏角αの辺を形成し、点205は、前記偏角の頂点である。辺203及び204は、面207内にある。前記面207は、場生成機構41の偏向場の効果を局所化することができる面201に対して直角に方向付けられる。偏角の頂点205は、場生成機構41の中心53からrの距離にある。結像光学ユニット35の光軸209が場生成機構41の中心53を通過する場合に有利である。中心53又は結像光学ユニット35の光軸209について、面207に対して直角に方向付けられ、偏角αの頂点205を通過する直線211が光軸からdの距離にあるように面207が向きを有し、dは、頂点205と光軸209又は中心53との間の距離rの0.99倍未満、又は0.95倍未満、又は0.90倍未満である。即ち、粒子ビーム5は、光軸209に対して円周方向にやはり方向付けられる偏角αだけ偏向される。
【0063】
図4は、結像光学ユニット35によって像面に結像される物体面29を同様に示す。粒子ビーム5に対する偏向効果を局所化することができる面201は、物体面29からlの距離にあり、距離lは、光軸209に沿った像面7からの物体面29の距離と比較して小さい。具体的には、距離lは、光軸209に沿った物体面29と像面7との間の距離の0.1倍未満である。
【0064】
偏向器アレイ41の更なる実施形態を図5及び図6に関して以下で説明する。この事例では、図5は、偏向器アレイ41の平面図を示し、図6は、図5のV-Vの線に沿って偏向器アレイ41を通る断面を示す。
【0065】
偏向器アレイ41は、複数の開口部45を有する第1の多孔プレート56と、複数の開口部45’を有する第2の多孔プレート57とを含み、粒子ビーム5は、それらの開口部を通過する。各粒子ビーム5が第1の多孔プレート56内の開口部45をまず通過し、次いで第2の多孔プレート57内の開口部45’を通過するように、2つの多孔プレート56及び57は、ビーム経路内で前後に配置される。2つの多孔プレート56及び57内の開口部45及び45’は、それぞれ同一の直径を有することができる。但し、必ずしもそうである必要はない。
【0066】
所与の粒子ビームが通過する第1の多孔プレート56内の開口部45の中心が、前記粒子ビームが通過する第2の多孔プレート57内の開口部45’の中心に対してビーム方向に見られて横方向にずれるように、2つの多孔プレート56及び57が互いに対して配置される。第1の多孔プレート56内の開口部45は、完全に見え、実線で図示しているのに対し、第2の多孔プレート57内の開口部45’は、部分的に隠れており、見える限り実線で図示し、隠れている限り破線で図示することによってこの構成を図5に示す。
【0067】
互いに異なる電位を第1の多孔プレート56及び第2の多孔プレート57に加えるようにコントローラ59が構成される。それにより、多孔プレート56と多孔プレート57との間に静電場が発生し、前記静電場は、粒子ビーム5を偏向させる。コントローラ59によって決定される多孔プレート56と多孔プレート57との間の電位差によって偏角を設定することができる。
【0068】
偏向器アレイは、図5の矢印61によって示すように、その周りで第2の多孔プレート57を第1の多孔プレートに対して回転させる中心53を含む。この回転は、粒子ビーム5が問題なく通過する開口部45及び開口部45’間の中心53の周りで横方向のずれを円周方向にもたらし、前記横方向のずれは、それぞれの開口部45及び45’と中心53との間の距離が大きくなるほど円周方向に増加する。
【0069】
従って、物体9の表面における面7に結像される面29の近くの偏向器アレイ41の構成により、面7上への粒子ビーム5の入射角に影響を及ぼすことができる。具体的には、入射角は粒子ビームの全てについて、ほぼ90°であるように設定することができる。
【0070】
図1に示す粒子ビームシステム1は、粒子ビーム5を生成し、物体9の表面が配置される面7に粒子ビーム5を導くための照射系3を含む。更に、粒子ビームシステム1は、粒子ビーム15として物体9の表面において発生した電子を検出器アレイ13上に導くための結像光学ユニット11を含む。そのために、粒子ビーム5及び粒子ビーム15のビーム経路をビームスイッチ65によって互いに分ける。図1では、ビームスイッチ65と面7との間では、粒子ビーム5及び粒子ビーム15が共通のビーム経路を横断するが、ビームスイッチ65の上の領域では、それらのビーム経路が互いに別々に進む。ビームスイッチ65は、ほぼ均一な磁場によって提供される。図1の参照符号67は、粒子ビーム5が通過し、面7上に表面29を結像させる際にビームスイッチ65の磁場によって引き起こされる結像収差を補償するために設けられる、均一磁場が与えられる領域を示す。
【0071】
結像光学ユニット11は、図1で概略的に示し、図2でより詳細に示す対物レンズ37及び複数のレンズ69を含む。結像光学ユニット11は、面17を面19上に結像し、面19では、3つの中間像71、72及び73が粒子ビーム15のビーム経路に沿って互いの後ろに生じるように検出器アレイ13の検出器要素が構成される。更に、中間像72と中間像73との間のビーム経路内に配置される面75において粒子ビーム15のクロスオーバがある。前記面75内には、切り欠き79を有する開口プレート77が配置され、開口プレート77は、粒子の開始元である面7内の位置に割り当てられている検出器要素と異なる検出器アレイ13の検出器要素上にさもなければ当たる粒子ビーム15の粒子を除去する役割を果たす。
【0072】
上記で説明したように、粒子ビーム15が面7から非直角に、即ち90°と異なる角度で始まる場合、このフィルタリングの質は、低下する。かかる質の低下は、実際には例えば対物レンズ37が面7まで到達する集束磁場を発生させる場合に生じる。
【0073】
これを補償するために中間像72の領域内に偏向器アレイ81が配置され、前記偏向器アレイは、偏向器のアレイを含み、粒子ビーム15の1つが偏向器のそれぞれを通過する。偏向器は、自らを通過する粒子ビームが面75内の可能な限り小さい領域を通過するようにかかる粒子ビームを偏向させ、開口部79は、高スループットと共に優れたフィルタリングを実現できるほど小さいように決めることができる。
【0074】
偏向器アレイ81は、偏向器アレイ41に関して図3図5を参照して上記で説明したような構造を有することができる。
【0075】
図7は、図1の粒子ビーム5を生成するための多孔プレート機構27の一実施形態の断面の概略図である。多孔プレート機構27は、粒子ビーム5が通過する複数の開口部103を有する多孔プレート101を含む。この事例では、多孔プレート101は、粒子源21の下流のビーム経路内の第1の多孔プレートであり得、そのため、多孔プレート101は、粒子源21によって生成される粒子ビーム23の粒子ビーム5に寄与しない粒子も吸収する。但し、多孔プレート101の上流に更なる多孔プレートを配置することも可能であり、粒子源21によって生成される粒子を多孔プレート101がほぼ吸収しないように、前記更なる多孔プレートがこの機能を提供する。多孔プレート101からL1の距離に単孔プレート105が配置される。単孔プレート105は、粒子ビーム5の全てが通過する開口部107を有する。
【0076】
更なる単孔プレート109が多孔プレート101からL2の距離に配置され、同様に粒子ビーム5の全てが通過する開口部111を有する。開口部111は、D2の直径を有する。更なる単孔プレート113が多孔プレート101からL3の距離に配置され、同様に粒子ビーム5の全てが通過する開口部115を有する。開口部115は、D3の直径を有する。異なる電位を多孔プレート101並びに単孔プレート105、109及び113に加えるようにコントローラ117が構成される。この事例では、単孔プレート113は、例えば、地電位にあり得るビームパイプにも接続され得る。
【0077】
多孔プレート101並びに単孔プレート105、109及び113に異なる電位を加えた結果、図7の力線119によって図示する不均一電場がこれらのプレート間で発生する。
【0078】
多孔プレート101まで広がる電場は、開口部103が、多孔プレート101内の開口部103を通過する粒子ビーム5に対するレンズとしての役割を果たすという効果を有する。図7の楕円121によってこのレンズ効果を示す。電場が不均一であることにより、多孔プレート101内の開口部103のアレイ内の中心の開口部103は、最も強いレンズ効果を与える一方、このレンズ効果は、中心から離れるにつれて減少する。この形態は、ビーム焦点31(図1を参照されたい)が平面内になく、むしろ粒子源の観点から凸状に湾曲した面内にあるという効果を有する。この面の形状及び湾曲の程度は、多孔プレート101における電場の強度及び不均一性によって決まる。不均一性は、従って、単孔プレート105内の開口部107の直径D1により、且つ多孔プレート101と単孔プレート105との間の距離L1によりほぼ決まる。これらの変数D1及びL1は、ビーム焦点31が配置される、結果として生じる面29の湾曲の形状が結像光学ユニット35の像面湾曲を補償することができるように選択され、そのため、物体の表面7における粒子ビーム5の焦点は、実質的に全て面7の非常に近くに生じる。更に、面29の湾曲の程度は、多孔プレート101と単孔プレート105との間の電位差によって決まる。
【0079】
単孔プレート109と多孔プレート101との間の距離L2は、単孔プレート105と多孔プレート101との間の距離L1よりも著しく大きい。具体的には、距離L2は、距離L1の2倍を超え、特に5倍を超え、特に10倍を超える。単孔プレート109内の開口部111の直径D2は、単孔プレート105内の開口部107の直径D1よりも更に著しく大きい。例として、直径D2は、直径D1の1.5倍を超え、特に3倍を超える。単孔プレート113と多孔プレート101との間の距離L3は、同様に単孔プレート105と多孔プレート101との間の距離L1よりも著しく大きい。距離L3は、距離L2よりも更に大きい。単孔プレート113の開口部115の直径D3は、同様に単孔プレート105内の開口部107の直径D1よりも著しく大きい。直径D3は、直径D2とほぼ等しいことができる。
【0080】
図7の楕円123によって示すように、単孔プレート105の下流のビーム経路内に形成される不均一電場は、粒子ビーム5の全体に対するレンズ効果をもたらす。前記レンズの効果は、互いに対する粒子ビーム5の広がり及び/又は収束を変化させる。このレンズ123の効果の強度は、単孔プレート105、109及び113間で電圧を変えることによって設定することができる。このレンズ123の強度を変えることは、面29上のビーム焦点31間の距離の変化をもたらす。
【0081】
多孔プレート機構27の支援により、まず結像光学ユニット35の像面湾曲を補償することができ、次いで面29内のビーム焦点31間の距離を設定することができる。この事例では、コントローラ117は、像面湾曲を補償する所望の程度をコントローラ117に入力可能な第1の信号入力125を有することができ、表面29内のビーム焦点31間の所望の距離又は面7内の粒子ビームの入射位置間の所望の距離をコントローラ117に入力可能な第2の信号入力127を有することができる。記載した多孔プレート機構27の構成により、レンズ123の効果と概ね切り離した方法でレンズ121の効果を調節することができる。第1の信号入力125に加えられる信号が変化した場合、コントローラ117は、表面29の湾曲を設定するために多孔プレート101と単孔プレート105との間の電圧を変えることができる。第2の信号入力127に加えられる制御信号が変化した場合、コントローラ117は、物体9の表面上の粒子ビームの入射位置間の距離を変えるために単孔プレート109に加えられる電位を実質的に変えることができる。
【0082】
ある例示的実施形態による図7の多孔プレート機構27のパラメータを以下に示す。
多孔プレート101を通過する前の粒子ビーム5の運動エネルギ:30keV
開口部103間の距離:100μm
開口部103の直径:30μm
レンズ121の焦点距離:100mm~300mm
D1:4mm、D2:16mm、D3:6.5mm、L1:0.2mm、L2:7.3mm、L3:65mm、U1:0、U2:500V、U3:17.5kV、U4:0
面29内の焦点間の距離:200μm~300μm
【0083】
図8は、図1の粒子ビーム5を生成するための多孔プレート機構27の更なる実施形態の断面の概略図である。図8の多孔プレート機構27は、図7の多孔プレート機構27と同様の構造を有する。具体的には、直径D1の開口部107を有する単孔プレート105が多孔プレート101からL1の距離に配置される。同様に、直径D3の開口部115を有する単孔プレート113が多孔プレート101からL3の距離に配置される。但し、図7の1つの単孔プレート109の代わりに、それぞれ直径D2を有する開口部111、111及び111を有する3つの単孔プレート109、109及び109が設けられており、これらのプレートは、多孔プレート101からそれぞれL2、L2及びL2の距離に配置されている。
【0084】
ここでも、L1は、L2及びL3よりも著しく小さく、D1は、D2及びD3よりも著しく小さい。L2とL2との差及びL2とL2との差は、例えば、L2よりも幾分小さくすることができる。
【0085】
図9は、マルチビーム粒子源21の更なる実施形態の断面の概略図である。マルチビーム粒子源21は、面135内に配置される複数の粒子エミッタ131を含む。面135から隔てて多孔プレート137が配置される。粒子エミッタ131から電子を抽出するために、多孔プレート137は、粒子エミッタ131に対して陽電位にある。複数の粒子ビーム5を成形するために、前記電子が粒子エミッタ131から多孔プレート137に向けて加速され、多孔プレート137内の開口部139を経て多孔プレート137を通過する。粒子エミッタ131は、場生成機構41内に配置される。場生成機構41は、磁場であって、その力線143が面135をほぼ直角に透過する、磁場を発生させるために電流が流れるコイル141によって形成される。粒子エミッタ131の領域において、磁場は、ほぼ均一な磁場である。
【0086】
粒子ビーム5は、粒子エミッタ131から磁場の力線143とほぼ平行に始まり、ここでは磁場によって依然として偏向されていない。しかし、粒子ビーム5は、力線143が広がる磁場領域を横断する。そこで、粒子ビーム5は、結像光学ユニット35の光軸209を中心に円周方向に方向付けられる偏角だけ偏向される。
【0087】
粒子エミッタ131が配置される面135は、結像光学ユニット35によって像面7に結像される。従って、粒子ビーム5が像面上に入射する角度を設定することをコイル141の励起が可能にする。具体的には、光軸209を中心に円周方向に粒子ビーム5の入射のテレセントリック性を設定すること及び物体17における対物レンズ37の磁場によって引き起こされるテレセントリック性の誤差を補償することができる。
【0088】
図10は、マルチビーム粒子源21を有する照射系3を含む粒子ビームシステム1の更なる実施形態の概略図である。マルチビーム粒子源21は、粒子ビーム23を生成するための粒子エミッタ22を含み、粒子ビーム23は、集光レンズ25を通過し、次いで開口部を有する多孔プレート151に当たり、多孔プレート151の下流で複数の粒子ビーム5を形成するために粒子ビーム23の粒子がそれらの開口部を通過する。多孔プレート151の下流のビーム経路内に更なる多孔プレート101が配置され、多孔プレート101は、開口部を有し、粒子ビーム5は、その開口部を同様に通過する。この更なる多孔プレート101の下流のビーム経路内に1つ又は複数の単孔プレート153が配置される。
【0089】
図7及び図8に関して上記で説明したように、位置31における湾曲表面155に粒子ビームの焦点を合わせるために、更なる多孔プレート101の開口部は、更なる多孔プレート101を通過する粒子ビーム5に対するレンズとしての役割を果たし、前記レンズは、図10内の楕円121として同様に図示し、前記面は、物体17を配置可能な像面7上に結像光学ユニット35によって結像される物体面29でもある。
【0090】
更なる多孔プレート101及び単孔プレート153の電位並びに集光レンズ25の励起を設定するためにコントローラ117が設けられる。図7及び図8に関して説明した実施形態のコントローラと同様に、コントローラ117は、像面湾曲を補償する所望の程度をコントローラ117に入力可能な信号入力125を含む。信号入力125に加えられる信号が変化した場合、面29の湾曲の変化に対してレンズ121の屈折力を設定するために、更なる多孔プレート101及び単孔プレート153の電位を変えるように、図7及び図8に関して上記で説明した実施形態における方法と同様の方法でコントローラ117が構成される。
【0091】
コントローラ117は、面7内のビーム焦点31間の所望の距離をコントローラ117に入力可能な信号入力127を更に含む。
【0092】
信号入力127を介した信号入力に応じて、コントローラ117は、集光レンズ25の励起を変化させる。集光レンズ25の励起を変化させることにより、粒子ビーム23が多孔プレート151に入射する広がりが変化する。従って、多孔プレート151の下流のビーム経路内の粒子ビーム5の束の広がりも変化する。これは、従って、更なる多孔プレート101内の粒子ビーム5が通過する開口部の断面内の領域の変化をもたらす。具体的には、粒子ビーム5は、前記開口部の中心を通過せず、むしろ開口部の中心から少し離れて通過する。集光レンズ25の励起の変化の結果、粒子ビーム5が前記開口部を通過する、更なる多孔プレート101内の前記開口部の中心からの距離が変化する。粒子ビームが更なる多孔プレート101の開口部の中心を通過しない場合、ビームに対するレンズ121のレンズ効果は、焦点合わせだけでなく、偏向ももたらし、そのため、粒子ビーム5は、レンズ121を直線的に通過せず、むしろレンズ121によって偏向もされる。レンズ121によるビーム5の偏向は、ビームの焦点が合わせられる面29内の位置31の変化をもたらす。その結果、集光レンズ25の励起を変化させることにより、面29内のビーム焦点31間の距離を変えることができる。面29は、面7に結像されるため、像面7内のビーム焦点間の距離も結果として変わる。
【0093】
好ましい実施形態を用いて本発明を上記で説明してきた。それでもなお、添付の特許請求の範囲によって規定する本発明は、記載した実施形態によって限定されず、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって示す範囲を包含する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10