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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20230626BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
F16L15/04 A
C25D7/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020572215
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004770
(87)【国際公開番号】W WO2020166500
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2019022973
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 一也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】杉野 正明
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003455(WO,A1)
【文献】特開2007-071231(JP,A)
【文献】特開平07-260053(JP,A)
【文献】特開2013-108556(JP,A)
【文献】特表2015-506445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管用ねじ継手であって、
ピン側ねじ部、ピン側金属シール部及びピン側ショルダー部を含むピンと、
ボックス側ねじ部、ボックス側金属シール部及びボックス側ショルダー部を含むボックスと、
前記ピン側ショルダー部上に配置され、1層又は複数の層を含み、最表層が高摩擦係数めっき層であるショルダー部めっき層と、
前記ピン側ねじ部、及び、前記ピン側金属シール部の上に配置され、1層又は複数の層を含み、最表層が前記高摩擦係数めっき層よりも摩擦係数の低い低摩擦係数めっき層である非ショルダー部めっき層とを備える、
管用ねじ継手。
【請求項2】
管用ねじ継手であって、
ピン側ねじ部、ピン側金属シール部及びピン側ショルダー部を含むピンと、
ボックス側ねじ部、ボックス側金属シール部及びボックス側ショルダー部を含むボックスと、
前記ボックス側ショルダー部上に配置され、1層又は複数の層を含み、最表層が高摩擦係数めっき層であるショルダー部めっき層と、
前記ボックス側ねじ部、及び、前記ボックス側金属シール部の上に配置され、1層又は複数の層を含み、最表層が前記高摩擦係数めっき層よりも摩擦係数の低い低摩擦係数めっき層である非ショルダー部めっき層とを備える、
管用ねじ継手。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載の管用ねじ継手であって、
前記ショルダー部めっき層の厚さは1~50μmであり、
前記非ショルダー部めっき層の厚さは1~50μmである、
管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の管用ねじ継手であってさらに、
前記ピン側ねじ部、前記ピン側金属シール部、前記ピン側ショルダー部、前記ボックス側ねじ部、前記ボックス側金属シール部及び前記ボックス側ショルダー部の少なくとも一部の上に最表層として液体状又は半固体状の潤滑被膜を備える、
管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の管用ねじ継手であって、
前記高摩擦係数めっき層は、Ni-P合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Cuめっき層、Crめっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択され、
高摩擦係数めっき層がNi-P合金めっき層の場合、低摩擦係数めっき層はZn-Ni合金めっき層、Cuめっき層、Crめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択され、
高摩擦係数めっき層がZn-Ni合金めっき層の場合、低摩擦係数めっき層はCuめっき層、Crめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択され、
高摩擦係数めっき層がCuめっき層の場合、低摩擦係数めっき層はCrめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択され、
高摩擦係数めっき層がCrめっき層の場合、低摩擦係数めっき層はCu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択され、
高摩擦係数めっき層がCu-Sn-Zn合金めっき層の場合、低摩擦係数めっき層は、Znめっき層である、
管用ねじ継手。
【請求項6】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の管用ねじ継手であって、
前記高摩擦係数めっき層は、Ni-P合金めっき層及びZn-Ni合金めっき層からなる群から選択され、
前記低摩擦係数めっき層は、Cuめっき層、Crめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択される、
管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油田や天然ガス田の採掘のために、油井管が使用される。油井管は、井戸の深さに応じて、複数の鋼管を連結して形成される。鋼管の連結は、鋼管の端部に形成された管用ねじ継手同士をねじ締めすることによって行われる。油井管は、検査等のために引き上げられ、ねじ戻しされ、検査された後、再びねじ締めされて、再度使用される。
【0003】
管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える。ピンは、鋼管の端部の外周面に形成された雄ねじ部及びねじ無し金属接触部を含む。ボックスは、鋼管の端部の内周面に形成された雌ねじ部及びねじ無し金属接触部を含む。ねじ無し金属接触部はそれぞれ、金属シール部及びショルダー部を含む。鋼管同士がねじ締めされる際、雄ねじ部及び雌ねじ部、金属シール部同士並びにショルダー部同士が接触する。
【0004】
ピン及びボックスのねじ部及びねじ無し金属接触部は、鋼管のねじ締め及びねじ戻し時に強い摩擦を繰り返し受ける。これらの部位に、摩擦に対する十分な耐久性がなければ、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返した時にゴーリング(修復不可能な焼付き)が発生する。したがって、管用ねじ継手には、摩擦に対する十分な耐久性、すなわち、優れた耐焼付き性が要求される。
【0005】
従来、耐焼付き性を向上するために、重金属入りのコンパウンドグリースが使用されてきた。管用ねじ継手の表面にコンパウンドグリースを塗布することで、管用ねじ継手の耐焼付き性を改善できる。しかしながら、コンパウンドグリースに含まれるPb等の重金属は環境に影響を与える可能性がある。このため、コンパウンドグリースを使用しない管用ねじ継手の開発が望まれている。
【0006】
コンパウンドグリースの代わりに、めっきによって管用ねじ継手の耐焼付き性を高める技術が国際公開第2016/170031号(特許文献1)に提案されている。
【0007】
特許文献1に開示された管用ねじ継手は、その外周又は内周面上に延びるねじ部と、周面上の第1シール面と、第1シール面と金属-金属干渉を形成可能な第2シール面とを含む。この管用ねじ継手のねじ部及び第1シール面は、重量で亜鉛を主体とする金属耐食-耐焼付き層で覆われている。
【0008】
その他に、管用ねじ継手の表面にめっきを形成することにより、管用ねじ継手の気密性を高める技術が、特開昭63-130986号公報(特許文献2)に提案されている。
【0009】
特許文献2に開示された管用ねじ継手は、テーパーねじであって、雄ねじ及び雌ねじを含む。この管用ねじ継手の雄ねじ又は雌ねじの1.0~2.0ピッチ部のねじ表面に、気密性保持のための厚さ30~200μmの金属めっき又は溶射、リン酸塩皮膜形成等の部分表面処理加工が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2016/170031号
【文献】特開昭63-130986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、管用ねじ継手は、ねじ締め完了時のトルク(以下、締結トルクという)があらかじめ決められている。ねじ締めの完了時に決められた締結トルクが得られるように、ねじ締めを行う。近年、油井の深井戸化により、従来よりも高い締結トルクでねじ締めを行う必要がある場合がある。
【0012】
管用ねじ継手のねじ締め作業は、海洋プラントや石油リグ上で行われる。ねじ締めが行われる実際の現場では、ねじ締めの作業効率は高いことが好ましい。管用ねじ継手ごとに締結トルクが大きく変動すれば、ねじ締めする機器のトルクを毎回微調整する必要が生じ、作業効率が低下する。したがって、従来と同様の締結トルクでねじ締めができ、さらに、従来よりも高い締結トルクであってもねじ締め可能な管用ねじ継手が求められている。
【0013】
一方で、管用ねじ継手は締結トルクの調節が容易であることが好ましい。具体的には、ショルダー部を有する管用ねじ継手をねじ締めしていくと、ピン及びボックスのショルダー部同士が接触する。この時に生じるトルクをショルダリングトルクという。管用ねじ継手をねじ締めする際には、ショルダリングトルクに到達した後、締結が完了するまでさらにねじ締めを行う。これにより、管用ねじ継手の気密性が高まる。ねじ締めを過剰に行えば、ピン及びボックスの少なくとも一方を構成する金属が塑性変形を起こし始める。このときのトルクをイールドトルクという。
【0014】
イールドトルクとショルダリングトルクとの差で定義されるデルタトルクの値が大きければ、締結トルクの調整が容易になる。そのため、管用ねじ継手のデルタトルクは大きいことが好ましい。
【0015】
特許文献1又は特許文献2に開示された技術によって、管用ねじ継手の耐焼付き性や気密性を高めることが可能である。しかしながら、これらの文献には、デルタトルクを大きくしたり、従来よりも高い締結トルクでねじ締めすることについて、言及がない。
【0016】
本開示の目的は、大きいデルタトルクを有し、かつ、従来と同等の締結トルク及び従来よりも高い締結トルクの両方でねじ締め可能な管用ねじ継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示による管用ねじ継手はピンとボックスとを含む。ピンは、ピン側ねじ部、ピン側金属シール部及びピン側ショルダー部を含む。ボックスは、ボックス側ねじ部、ボックス側金属シール部及びボックス側ショルダー部を含む。管用ねじ継手はさらに、ショルダー部めっき層と、非ショルダー部めっき層とを備える。ショルダー部めっき層は、ピン側ショルダー部及び/又はボックス側ショルダー部上に配置される。ショルダー部めっき層は、1層又は複数の層を含む。ショルダー部めっき層は、最表層が高摩擦係数めっき層である。非ショルダー部めっき層は、ピン側ねじ部、ピン側金属シール部、ボックス側ねじ部及びボックス側金属シール部の少なくとも一部の上に配置される。非ショルダー部めっき層は、1層又は複数の層を含む。非ショルダー部めっき層は、最表層が高摩擦係数めっき層よりも摩擦係数の低い低摩擦係数めっき層である。
【発明の効果】
【0018】
本開示による管用ねじ継手は、大きいデルタトルクを有し、かつ、従来と同等の締結トルク及び従来よりも高い締結トルクの両方でねじ締めできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、ショルダー部を有する管用ねじ継手をねじ締めした際の、鋼管の回転数とトルクとの関係を示す図(トルクチャート)である。
図2図2は、ショルダリングトルク及びイールドトルクの両方が高い場合のトルクチャートである。
図3図3は、ショルダリングトルク及びイールドトルクの両方が低い場合のトルクチャートである。
図4図4は、ショルダリングトルクが低く、イールドトルクが高い場合のトルクチャートである。
図5図5は本実施形態によるカップリング型の管用ねじ継手の構成を示す図である。
図6図6は、ねじ締め初期の管用ねじ継手の断面図である。
図7図7は、ショルダリング後の管用ねじ継手の断面図である。
図8図8は、本実施形態によるインテグラル型の管用ねじ継手の構成を示す図である。
図9図9は、管用ねじ継手の断面図である。
図10図10は、本実施形態による管用ねじ継手の断面図である。
図11図11は、図10とは異なる、他の実施形態による管用ねじ継手の断面図である。
図12図12は、図10及び図11とは異なる、他の実施形態による管用ねじ継手の断面図である。
図13図13は、図10図12とは異なる、他の実施形態による管用ねじ継手の断面図である。
図14図14は、本実施形態によるショルダー部めっき層の拡大図である。
図15図15は、図14とは異なる、他の実施形態によるショルダー部めっき層の拡大図である。
図16図16は、図14及び図15とは異なる、他の実施形態によるショルダー部めっき層の拡大図である。
図17図17は、本実施形態による非ショルダー部めっき層の拡大図である。
図18図18は、図17とは異なる、他の実施形態による非ショルダー部めっき層の拡大図である。
図19図19は、図17及び図18とは異なる、他の実施形態による非ショルダー部めっき層の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
本発明者らは、管用ねじ継手の表面のめっき層と、締結トルク及びデルタトルクとの関係について種々検討を行った。その結果、本発明者らは、以下の知見を得た。
【0022】
鋼管同士をねじ締めする際、ねじ締めを終了する最適なトルク(締結トルクという)があらかじめ決められている。図1は、ショルダー部を有する管用ねじ継手をねじ締めした際の、鋼管の回転数とトルクとの関係を示す図(トルクチャート)である。鋼管の回転数とトルクとの関係を示す図を以下、トルクチャートと呼ぶ。図1を参照して、管用ねじ継手をねじ締めすれば、初めは、回転数に比例してトルクが上昇する。この時のトルクの上昇率は低い。さらにねじ締めをすれば、ショルダー部同士が接触する。この時のトルクを、ショルダリングトルクTsという。ショルダリングトルクTsに達した後、さらにねじ締めをすれば、再び回転数に比例してトルクが上昇する。この時のトルクの上昇率は高い。トルクが所定の数値(締結トルクTo)に達した時点で、ねじ締めは完了する。
【0023】
ねじ締めの際のトルクが、締結トルクToに達していれば、金属シール部同士が適切な面圧で干渉し合う。この場合、管用ねじ継手の気密性が高まる。また、油井内では、ねじ継手に高い圧縮応力や高い曲げ応力がかかる。この様な応力下においても管用ねじ継手の締結が緩まないためには、十分に高いトルク(適切な締結トルクTo)で管用ねじ継手が締結されている必要がある。
【0024】
締結トルクToに達した後さらにねじ締めを実施すれば、トルクが高くなり過ぎる。トルクが高くなり過ぎれば、ピン及びボックスの一部が塑性変形を起こす。この時のトルクをイールドトルクTyという。ショルダリングトルクTsとイールドトルクTyとの差で定義されるデルタトルクΔTが大きければ、締結トルクToの調整が容易になる。したがって、デルタトルクΔTは大きい方が好ましい。
【0025】
デルタトルクΔTを大きくするには、ショルダリングトルクTsを低下させるか、イールドトルクTyを高めることが有効である。本発明者らは、ピン及びボックスの表面の摩擦係数を変化させることで、ショルダリングトルクTs及びイールドトルクTyを調整できるのではないかと考えた。しかしながら、ピン及びボックスの表面を、単純に摩擦係数が増減するように変化させても、ショルダリングトルクTsとイールドトルクTyとは一般的には同様の挙動をする。
【0026】
図2は、ショルダリングトルクTs及びイールドトルクTyの両方が高い場合のトルクチャートである。図2中、従来のトルクチャートを破線で示す。図2を参照して、ピン及びボックスの摩擦係数が高くなると、イールドトルクTyは高くなるが、ショルダリングトルクTsも高くなる(ハイショルダリングという)。その結果、従来の締結トルクToに達してもショルダー部が互いに接触せず、締付けが完了しない場合がある(ノーショルダリングという)。
【0027】
図3は、ショルダリングトルクTs及びイールドトルクTyの両方が低い場合のトルクチャートである。図3中、従来のトルクチャートを破線で示す。図3を参照して、ピン及びボックスの摩擦係数が低くなると、ショルダリングトルクTsは低くなるが、イールドトルクTyも低くなる。その結果、定められた締結トルクToに達する前にイールドトルクTyに達し、ショルダー部又は金属シール部が降伏してしまう。この場合、十分な締結トルクToが得られない。
【0028】
ショルダリングトルクTsを低く抑えつつ、イールドトルクTyを高めることができれば、デルタトルクΔTが大きくなるだけでなく、従来と同じ締結トルクToでねじ締めでき、さらに、従来よりも高い締結トルクTohでねじ締めできる。図4は、ショルダリングトルクTsが低く、イールドトルクTyが高い場合のトルクチャートである。図4中、従来のトルクチャートを破線で示す。図4を参照して、ショルダリングトルクTsを低く維持したまま、イールドトルクTyを高めたトルクチャートでは、従来のデルタトルクΔT’よりもデルタトルクΔTが大きくなる。また、従来の締結トルクToでねじ締めしても、ショルダリングトルクTs以上であることから十分な気密性を確保できる。さらに、従来の締結トルクToよりも高い締結トルクTohでねじ締めしても、イールドトルクTy以下であるため、管用ねじ継手を降伏させずに、ねじ締めすることができる。
【0029】
本発明者らの鋭意検討の結果、ピン及びボックスの表面のうち、ショルダリングトルクTsの発生に大きく影響を与える部分と、イールドトルクTyの発生に大きく影響を与える部分とが異なっていることがわかった。
【0030】
図5は本実施形態によるカップリング型の管用ねじ継手の構成を示す図である。図5を参照して、管用ねじ継手は、鋼管1とカップリング2とを備える。鋼管1の両端には、外面に雄ねじ部を有するピン3が形成される。カップリング2の両端には、内面に雌ねじ部を有するボックス4が形成される。ピン3とボックス4とをねじ締めすることによって、鋼管1の端に、カップリング2が取り付けられる。
【0031】
図6は、ねじ締め初期の管用ねじ継手の断面図である。図6を参照して、ピン3は、ピン側ショルダー部33、ピン側金属シール部32及びピン側ねじ部31を備える。ボックス4は、ボックス側ショルダー部43、ボックス側金属シール部42及びボックス側ねじ部41を備える。ねじ締めの初期では、ピン側ねじ部31とボックス側ねじ部41とが接触及び摺動する。ねじ締めが進むと、次にピン側金属シール部32とボックス側金属シール部42とが接触及び摺動する。続いて、ピン側ショルダー部33とボックス側ショルダー部43とが接触する。この時のトルクがショルダリングトルクTsである。
【0032】
ピン側ショルダー部33とボックス側ショルダー部43とが接触する前には、ピン側ねじ部31とボックス側ねじ部41、及び、ピン側金属シール部32とボックス側金属シール部42とが接触及び摺動している。つまり、ショルダリングトルクTsに大きく影響する部分は、ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43以外の部分であると考えられる。つまり、ショルダリングトルクTsに大きく影響するのは、ピン側ねじ部31、ボックス側ねじ部41、ピン側金属シール部32及びボックス側金属シール部42であると考えられる。
【0033】
図7は、ショルダリング後の管用ねじ継手の断面図である。図7を参照して、ピン側ショルダー部33とボックス側ショルダー部43とが接触した後、ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43は、鋼管1の軸方向に強い力を受けながら摩擦摺動する。そのため、ピン側ねじ部31、ボックス側ねじ部41、ピン側金属シール部32及びボックス側金属シール部42が受ける圧力よりも、ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43が受ける圧力の方が大きいと予想される。つまり、イールドトルクTyに大きく影響するのは、ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43であると考えられる。
【0034】
以上の検討より、本発明者らは次の知見を得た。ショルダリングトルクTsに大きく影響するピン側ねじ部31、ボックス側ねじ部41、ピン側金属シール部32及びボックス側金属シール部42の少なくとも一部の上に低摩擦係数のめっき層を形成し、イールドトルクTyに大きく影響する、ピン側ショルダー部33及び/又はボックス側ショルダー部43上に高摩擦係数のめっき層を形成する。この構成によれば、ショルダリングトルクTsを低く維持したまま、イールドトルクTyを高めることができる。この結果、大きなデルタトルクΔTを有し、従来と同等の締結トルクTo及び従来よりも高い締結トルクTohの両方でねじ締め可能な管用ねじ継手が得られる。
【0035】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態の管用ねじ継手はピンとボックスとを含む。ピンは、ピン側ねじ部、ピン側金属シール部及びピン側ショルダー部を含む。ボックスは、ボックス側ねじ部、ボックス側金属シール部及びボックス側ショルダー部を含む。管用ねじ継手はさらに、ショルダー部めっき層と、非ショルダー部めっき層とを備える。ショルダー部めっき層は、ピン側ショルダー部及び/又はボックス側ショルダー部上に配置される。ショルダー部めっき層は、1層又は複数の層を含む。ショルダー部めっき層は、最表層が高摩擦係数めっき層である。非ショルダー部めっき層は、ピン側ねじ部、ピン側金属シール部、ボックス側ねじ部及びボックス側金属シール部の少なくとも一部の上に配置される。非ショルダー部めっき層は、1層又は複数の層を含む。非ショルダー部めっき層は、最表層が高摩擦係数めっき層よりも摩擦係数の低い低摩擦係数めっき層である。
【0036】
本実施形態による管用ねじ継手は、大きいデルタトルクを有し、かつ、従来と同等の締結トルク及び従来よりも高い締結トルクの両方でねじ締め可能である。
【0037】
上記ショルダー部めっき層は、ピン側ショルダー部上に配置され、上記非ショルダー部めっき層はピン側ねじ部上及びピン側金属シール部上に配置されてもよい。
【0038】
上記ショルダー部めっき層は、ボックス側ショルダー部上に配置され、上記非ショルダー部めっき層はボックス側ねじ部上及びボックス側金属シール部上に配置されてもよい。
【0039】
上記ショルダー部めっき層の厚さは1~50μmであり、上記非ショルダー部めっき層の厚さは1~50μmであってもよい。
【0040】
各めっき層の厚さが上記範囲の場合、ショルダリングトルクを低く抑え、イールドトルクを高める効果がより安定的に得られる。
【0041】
管用ねじ継手はさらに、潤滑被膜を備えてもよい。潤滑被膜は、液体状又は半固体状であって、ピン側ねじ部、ピン側金属シール部、ピン側ショルダー部、ボックス側ねじ部、ボックス側金属シール部及びボックス側ショルダー部の少なくとも一部の上に最表層として配置される。
【0042】
管用ねじ継手が潤滑被膜を最表層として備える場合、管用ねじ継手の潤滑性が高まる。
【0043】
高摩擦係数めっき層は、Ni-P合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Cuめっき層、Crめっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択されてもよく、低摩擦係数めっき層は、Zn-Ni合金めっき層、Cuめっき層、Crめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択されてもよい。
【0044】
各めっき層の組成が上記組成の場合、ショルダリングトルクを低く維持したまま、イールドトルクを高める効果がより安定的に得られる。
【0045】
高摩擦係数めっき層は、Ni-P合金めっき層及びZn-Ni合金めっき層からなる群から選択されてもよく、低摩擦係数めっき層は、Cuめっき層、Crめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択されてもよい。
【0046】
各めっき層の組成が上記組成の場合、ショルダリングトルクを低く維持したまま、イールドトルクを高める効果がさらに安定的に得られる。
【0047】
以下、本実施形態の管用ねじ継手について詳述する。
【0048】
[管用ねじ継手]
本実施形態による管用ねじ継手は、ピン及びボックスを備える。図5は、本実施形態によるカップリング型の管用ねじ継手の構成を示す図である。図5を参照して、カップリング型の管用ねじ継手は、鋼管1とカップリング2とを備える。鋼管1の両端には、外面に雄ねじ部を有するピン3が形成される。カップリング2の両端には、内面に雌ねじ部を有するボックス4が形成される。ピン3とボックス4とをねじ締めすることによって、鋼管1の端に、カップリング2が取り付けられる。図示していないが、相手部材が装着されていない鋼管1のピン3及びカップリング2のボックス4には、それぞれのねじ部を保護するため、プロテクターが装着される場合がある。
【0049】
一方で、カップリング2を使用せず、鋼管1の一方の端をピン3とし、他方の端をボックス4とした、インテグラル形式の管用ねじ継手を用いてもよい。図8は、本実施形態によるインテグラル型の管用ねじ継手の構成を示す図である。図8を参照して、インテグラル型の管用ねじ継手は、鋼管1を備える。鋼管1の一方の端には、外面に雄ねじ部を有するピン3が形成される。鋼管1の他方の端には、内面に雌ねじ部を有するボックス4が形成される。ピン3とボックス4とをねじ締めすることによって、複数の鋼管1同士を連結できる。本実施形態の管用ねじ継手は、カップリング方式及びインテグラル形式の両方の管用ねじ継手に使用できる。
【0050】
図9は、管用ねじ継手の断面図である。図9を参照して、ピン3は、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32及びピン側ショルダー部33を備える。ボックス4は、ボックス側ねじ部41、ボックス側金属シール部42及びボックス側ショルダー部43を備える。
【0051】
図9では、ピン3においては、鋼管1の端から、ピン側ショルダー部33、ピン側金属シール部32及びピン側ねじ部31の順で配置される。また、ボックス4においては、鋼管1又はカップリング2の端から、ボックス側ねじ部41、ボックス側金属シール部42及びボックス側ショルダー部43の順で配置される。しかしながら、ピン側ねじ部31及びボックス側ねじ部41、ピン側金属シール部32及びボックス側金属シール部42、及び、ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43の配置は図9の配置に限定されず、適宜変更できる。たとえば、図8において示すように、ピン3においては、鋼管1の端から、ピン側金属シール部、ピン側ねじ部、ピン側金属シール部、ピン側ショルダー部、ピン側金属シール部及びピン側ねじ部の順で配置されてもよい。ボックス4においては、鋼管1又はカップリング2の端から、ボックス側金属シール部、ボックス側ねじ部、ボックス側金属シール部、ボックス側ショルダー部、ボックス側金属シール部及びボックス側ねじ部の順に配置されてもよい。
【0052】
図10は、本実施形態の管用ねじ継手の断面図である。図10を参照して、本実施形態による管用ねじ継手はさらに、ショルダー部めっき層5と、非ショルダー部めっき層6とを備える。
【0053】
[ショルダー部めっき層]
本実施形態によるショルダー部めっき層5は、ピン側ショルダー部33及び/又はボックス側ショルダー部43上に配置される。図10を参照して、ショルダー部めっき層5は、ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43の両方の上に配置されてもよい。
【0054】
本実施形態によるショルダー部めっき層5はさらに、ピン側ショルダー部33又はボックス側ショルダー部43の一方の上のみに配置されてもよい。図11は、図10とは異なる、他の実施形態による管用ねじ継手の断面図である。図12は、図10及び図11とは異なる、他の実施形態による管用ねじ継手の断面図である。図13は、図10図12とは異なる、他の実施形態による管用ねじ継手の断面図である。図11及び図13を参照して、ショルダー部めっき層5は、ピン側ショルダー部33のみの上に配置されてもよい。図12を参照して、ショルダー部めっき層5はさらに、ボックス側ショルダー部43のみの上に配置されてもよい。
【0055】
本実施形態によるショルダー部めっき層5は、1層又は複数の層を含む。図14は、本実施形態のショルダー部めっき層5の拡大図である。図14を参照して、ショルダー部めっき層5は、1層で構成されていてもよい。この場合、ショルダー部めっき層5は、高摩擦係数めっき層50である。図15は、図14とは異なる、他の実施形態によるショルダー部めっき層5の拡大図である。図15を参照して、ショルダー部めっき層5は、複数の層で構成されていてもよい。この場合、ショルダー部めっき層5は、その最表層に高摩擦係数めっき層50が配置される。図15に示すように、ショルダー部めっき層5は、高摩擦係数めっき層50の下に、任意めっき層70を備えてもよい。任意めっき層70はさらに、複数のめっき層が積層していてもよい。
【0056】
[高摩擦係数めっき層]
高摩擦係数めっき層50の摩擦係数は、後述する低摩擦係数めっき層60の摩擦係数よりも高い。ピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43は、ねじ締めの最終段階において、高い面圧を受けながら摩擦摺動する。そのため、ピン側ショルダー部33及び/又はボックス側ショルダー部43上のショルダー部めっき層5の最表層が高摩擦係数めっき層50であれば、ねじ締めの最終段階において高いトルクが得られる。その結果、イールドトルクTyが高まる。高摩擦係数めっき層50の摩擦係数は、低摩擦係数めっき層60の摩擦係数よりも高ければ特に限定されない。好ましくは、高摩擦係数めっき層50の摩擦係数の下限は0.10であり、より好ましくは0.11であり、さらに好ましくは0.12であり、さらに好ましくは0.13である。好ましくは、高摩擦係数めっき層50の摩擦係数の上限は0.40であり、より好ましくは0.30であり、さらに好ましくは0.20である。高摩擦係数めっき層50の摩擦係数は、たとえば、高摩擦係数めっき層50の組成を変えることによって、調整することができる。
【0057】
本実施形態において、高摩擦係数めっき層50は単一金属のめっき層であってもよく、合金めっき層であってもよい。本実施形態ではさらに、高摩擦係数めっき層50の化学組成は特に限定されない。高摩擦係数めっき層50の化学組成は、周知のめっき層の化学組成から適宜選択できる。高摩擦係数めっき層50はたとえば、Cuめっき層、Crめっき層、Znめっき層、Niめっき層、Cu-Sn合金めっき層、Zn-Co合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Ni-P合金めっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択されてもよい。高摩擦係数めっき層50は、Ni-P合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Cuめっき層及びCrめっき層からなる群から選択されてもよい。高摩擦係数めっき層50は、Ni-P合金めっき層及びZn-Ni合金めっき層からなる群から選択されてもよい。
【0058】
上述のとおり、ショルダー部めっき層5が複数の層を含む場合、高摩擦係数めっき層50は、ショルダー部めっき層5の最表層に配置される。しかしながら、高摩擦係数めっき層50は、ピン側ショルダー部33及び/又はボックス側ショルダー部43の最表層に配置されなくてもよい。図16は、図14及び図15とは異なる、他の実施形態によるショルダー部めっき層5の拡大図である。図16を参照して、ショルダー部めっき層5の上に、潤滑被膜80を備えてもよい。潤滑被膜80については後述する。
【0059】
[非ショルダー部めっき層]
本実施形態による非ショルダー部めっき層6は、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ボックス側ねじ部41及びボックス側金属シール部42の少なくとも一部の上に配置される。図10を参照して、非ショルダー部めっき層6は、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ボックス側ねじ部41及びボックス側金属シール部42の全ての上に配置されてもよい。
【0060】
本実施形態による非ショルダー部めっき層6はさらに、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ボックス側ねじ部41及びボックス側金属シール部42のうち、一部に配置されてもよい。図11を参照して、非ショルダー部めっき層6は、ピン側ねじ部31及びピン側金属シール部32上のみに配置されてもよい。図12及び図13を参照して、非ショルダー部めっき層6は、ボックス側ねじ部41及びボックス側金属シール部42上のみに配置されてもよい。
【0061】
非ショルダー部めっき層6はさらに、ピン側ねじ部31及びボックス側ねじ部41上のみに配置されてもよい。非ショルダー部めっき層6は、ピン側金属シール部32及びボックス側金属シール部42上のみに配置されてもよい。このように、非ショルダー部めっき層6は、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ボックス側ねじ部41及びボックス側金属シール部42の少なくとも一部の上に配置されればよい。
【0062】
本実施形態による非ショルダー部めっき層6は、1層又は複数の層を含む。図17は、本実施形態の非ショルダー部めっき層6の拡大図である。図17を参照して、非ショルダー部めっき層6は、1層で構成されていてもよい。この場合、非ショルダー部めっき層6は、低摩擦係数めっき層60である。図18は、図17とは異なる、他の実施形態による非ショルダー部めっき層6の拡大図である。図18を参照して、非ショルダー部めっき層6は、複数の層で構成されていてもよい。この場合、非ショルダー部めっき層6は、その最表層に低摩擦係数めっき層60が配置される。図18に示すように、低摩擦係数めっき層60の下に、任意めっき層70を備えてもよい。任意めっき層70はさらに、複数のめっき層が積層していてもよい。
【0063】
[低摩擦係数めっき層]
本実施形態による低摩擦係数めっき層60の摩擦係数は、高摩擦係数めっき層50の摩擦係数よりも低い。ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ボックス側ねじ部41及びボックス側金属シール部42は、ねじ締めのショルダリング前において、互いに摩擦摺動する。そのため、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ボックス側ねじ部41及びボックス側金属シール部42の少なくとも一部の上の非ショルダー部めっき層6の最表層が低摩擦係数めっき層60であれば、ねじ締めの初期段階において低いトルクが得られる。その結果、ショルダリングトルクTsが低く抑えられる。低摩擦係数めっき層60の摩擦係数は、高摩擦係数めっき層50の摩擦係数より低ければ特に限定されない。しかしながら、低摩擦係数めっき層60の摩擦係数の下限は、好ましくは0.01、より好ましくは0.05、さらに好ましくは0.08、さらに好ましくは0.10である。低摩擦係数めっき層60の摩擦係数の上限は、好ましくは0.13未満、より好ましくは0.12、さらに好ましくは0.11である。低摩擦係数めっき層60の摩擦係数は、たとえば、低摩擦係数めっき層60の組成を変えることによって、調整することができる。
【0064】
本実施形態において、低摩擦係数めっき層60は単一金属のめっき層であってもよく、合金めっき層であってもよい。本実施形態ではさらに、低摩擦係数めっき層60の化学組成は特に限定されない。低摩擦係数めっき層60の化学組成は、周知のめっき層の化学組成から適宜選択できる。低摩擦係数めっき層60はたとえば、Cuめっき層、Crめっき層、Znめっき層、Niめっき層、Cu-Sn合金めっき層、Zn-Co合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Ni-P合金めっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択されてもよい。低摩擦係数めっき層60は、Zn-Ni合金めっき層、Cuめっき層、Crめっき層及びZnめっき層からなる群から選択されてもよい。低摩擦係数めっき層60は、Cuめっき層、Crめっき層及びZnめっき層からなる群から選択されてもよい。
【0065】
上述のとおり、非ショルダー部めっき層6が複数の層を含む場合、低摩擦係数めっき層60は、非ショルダー部めっき層6の最表層に配置される。しかしながら、低摩擦係数めっき層60は、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ボックス側ねじ部41又はボックス側金属シール部42の最表層に配置されなくてもよい。図19は、図17及び図18とは異なる、他の実施形態による非ショルダー部めっき層6の拡大図である。図19を参照して、非ショルダー部めっき層6の上に、潤滑被膜80を備えてもよい。潤滑被膜80については後述する。
【0066】
[高摩擦係数めっき層及び低摩擦係数めっき層の摩擦係数]
本実施形態において、高摩擦係数めっき層50及び低摩擦係数めっき層60の摩擦係数は、次の方法によって測定できる。高摩擦係数めっき層50又は低摩擦係数めっき層60を形成したサンプルを準備する。高摩擦係数めっき層50又は低摩擦係数めっき層60に対してバウデン摺動試験を行う。バウデン摺動試験は次の条件によって行う。摺動圧子:3/16”(直径4.7625mm)の鋼球(Fe、鋼種SUJ2)、押付荷重:3kgf、摺動様式:直線往復摺動、摺動幅:30mm、摺動往復回数:5回、摺動速度:4mm/秒、試験温度:25℃、潤滑油:JET-LUBE株式会社製(商品名)SEAL-GUARD ECF、潤滑油塗布量:40g/m2。5回の摺動往復によって得られた摩擦係数の算術平均値を、各めっき層の摩擦係数と定義する。
【0067】
[任意めっき層]
本実施形態において、任意めっき層70は形成されてもよく、形成されなくてもよい。任意めっき層70はさらに、1層であってもよく、複数の層で構成されていてもよい。本実施形態において、任意めっき層70は単一金属のめっき層であってもよく、合金めっき層であってもよい。すなわち、本実施形態において、任意めっき層70の化学組成は特に限定されない。任意めっき層70の化学組成は、周知のめっき層の化学組成から適宜選択できる。任意めっき層70はたとえば、Cuめっき層、Crめっき層、Znめっき層、Niめっき層、Cu-Sn合金めっき層、Zn-Co合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Ni-P合金めっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択されてもよい。
【0068】
任意めっき層70の構成は、ピン3側とボックス4側とで同じであってもよく、異なっていてもよい。任意めっき層70の構成は、高摩擦係数めっき層50の下と、低摩擦係数めっき層60の下とで同じであってもよく、異なっていてもよい。任意めっき層70の化学組成は、ピン3側とボックス4側とで同じであってもよく、異なっていてもよい。任意めっき層70の化学組成は、高摩擦係数めっき層50の下と、低摩擦係数めっき層60の下とで同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0069】
[ショルダー部めっき層と非ショルダー部めっき層の配置]
本実施形態において、ショルダー部めっき層5と非ショルダー部めっき層6との配置は図10に限定されない。たとえば、図11を参照して、ショルダー部めっき層5は、ピン側ショルダー部33上に配置され、非ショルダー部めっき層6はピン側ねじ部31上及びピン側金属シール部32上に配置されてもよい。この場合、ボックス側ショルダー部43、ボックス側金属シール部42及びボックス側ねじ部41上には何も配置されなくてもよく、後述する潤滑被膜80が配置されてもよく、リン酸塩被膜などの化成処理被膜が配置されてもよい。
【0070】
また、図12を参照して、ショルダー部めっき層5は、ボックス側ショルダー部43上に配置され、非ショルダー部めっき層6はボックス側ねじ部41上及びボックス側金属シール部42上に配置されてもよい。この場合、ピン側ショルダー部33、ピン側金属シール部32及びピン側ねじ部31上には何も配置されなくてもよく、後述する潤滑被膜80が配置されてもよく、リン酸塩被膜などの化成処理被膜が配置されてもよい。さらに、図13を参照して、ショルダー部めっき層5は、ピン側ショルダー部33上に配置され、非ショルダー部めっき層6はボックス側ねじ部41上及びボックス側金属シール部42上に配置されてもよい。
【0071】
[ショルダー部めっき層と非ショルダー部めっき層の厚さ]
本実施形態において、ショルダー部めっき層5の厚さは特に限定されない。好ましくは、ショルダー部めっき層5の厚さは1~50μmである。この場合、イールドトルクTyを高める効果が、より安定して得られる。ショルダー部めっき層5の厚さのより好ましい下限は3μmであり、さらに好ましくは5μmである。ショルダー部めっき層5の厚さのより好ましい上限は40μmであり、さらに好ましくは25μmである。
【0072】
本実施形態において、非ショルダー部めっき層6の厚さは特に限定されない。好ましくは、非ショルダー部めっき層6の厚さは1~50μmである。この場合、ショルダリングトルクTsを低く維持する効果が、より安定して得られる。非ショルダー部めっき層6の厚さのより好ましい下限は3μmであり、さらに好ましくは5μmである。非ショルダー部めっき層6の厚さのより好ましい上限は40μmであり、さらに好ましくは25μmである。
【0073】
[高摩擦係数めっき層と低摩擦係数めっき層との組合せ]
本実施形態において、高摩擦係数めっき層50の摩擦係数が、低摩擦係数めっき層60の摩擦係数よりも高ければ、その組成の組合せは、特に限定されない。高摩擦係数めっき層50と低摩擦係数めっき層60との組成の組合せは、たとえば、次のとおりである。高摩擦係数めっき層50がNi-P合金めっき層である場合、低摩擦係数めっき層60は、Cuめっき層、Crめっき層、Znめっき層、Niめっき層、Cu-Sn合金めっき層、Zn-Co合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択されてもよい。高摩擦係数めっき層50がZn-Ni合金めっき層である場合、低摩擦係数めっき層60は、Cuめっき層、Crめっき層、Znめっき層、Niめっき層、Cu-Sn合金めっき層、Zn-Co合金めっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択されてもよい。
【0074】
低摩擦係数めっき層60がCuめっき層である場合、高摩擦係数めっき層50は、Niめっき層、Cu-Sn合金めっき層、Zn-Co合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Ni-P合金めっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択されてもよい。低摩擦係数めっき層60がCrめっき層である場合、高摩擦係数めっき層50は、Cuめっき層、Niめっき層、Cu-Sn合金めっき層、Zn-Co合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Ni-P合金めっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択されてもよい。低摩擦係数めっき層60がZnめっき層である場合、高摩擦係数めっき層50は、Crめっき層、Cuめっき層、Niめっき層、Cu-Sn合金めっき層、Zn-Co合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Ni-P合金めっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択されてもよい。
【0075】
好ましくは、高摩擦係数めっき層50は、Ni-P合金めっき層、Zn-Ni合金めっき層、Cuめっき層、Crめっき層及びCu-Sn-Zn合金めっき層からなる群から選択される。好ましくは、低摩擦係数めっき層60は、Zn-Ni合金めっき層、Cuめっき層、Crめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択される。すなわち、高摩擦係数めっき層50と、低摩擦係数めっき層60とは、次の(1)~(5)に記載の組み合わせが好ましい。
(1)高摩擦係数めっき層50がNi-P合金めっき層の場合、低摩擦係数めっき層60は、Zn-Ni合金めっき層、Cuめっき層、Crめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択され、
(2)高摩擦係数めっき層50がZn-Ni合金めっき層の場合、低摩擦係数めっき層60は、Cuめっき層、Crめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択され、
(3)高摩擦係数めっき層50がCuめっき層の場合、低摩擦係数めっき層60は、Crめっき層、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択され、
(4)高摩擦係数めっき層50がCrめっき層の場合、低摩擦係数めっき層60は、Cu-Sn-Zn合金めっき層及びZnめっき層からなる群から選択され、
(5)高摩擦係数めっき層50がCu-Sn-Zn合金めっき層の場合、低摩擦係数めっき層60は、Znめっき層である。
【0076】
[めっき層の化学組成]
上述する各めっき層の化学組成は、たとえば、次のとおりである。Cuめっき層は、Cu及び不純物からなる化学組成を有するめっき層である。Crめっき層は、Cr及び不純物からなる化学組成を有するめっき層である。Znめっき層は、Zn及び不純物からなる化学組成を有するめっき層である。Niめっき層は、Ni及び不純物からなる化学組成を有するめっき層である。Cu-Sn合金めっき層は、Sn:10~75%、残部:Cu及び不純物からなる化学組成を有するめっき層である。Zn-Co合金めっき層は、Co:5~25%、残部:Zn及び不純物からなる化学組成を有するめっき層である。Zn-Ni合金めっき層は、Ni:5~25%、残部:Zn及び不純物からなる化学組成を有するめっき層である。Ni-P合金めっき層は、P:0.1~20%、残部:Ni及び不純物からなる化学組成を有するめっき層である。Cu-Sn-Zn合金めっき層は、Sn:20~60%、Zn:3~30%、残部:Cu及び不純物からなる化学組成を有するめっき層である。
【0077】
本実施形態では、めっき層の化学組成は、次の方法で測定することができる。具体的には、測定したいめっき層の化学組成を、ハンドヘルド蛍光X線分析装置(日本電子株式会社製DP2000(商品名DELTA Premium))を用いて測定する。測定は、高摩擦係数めっき層50、低摩擦係数めっき層60、又は、任意めっき層70の表面の4箇所(管用ねじ継手の管周方向0°、90°、180°、270°の4箇所)を組成分析する。なお、ハンドヘルド蛍光X線分析装置では、Alloy Plusモードを用いることで、化学組成を分析できる。
【0078】
[潤滑被膜]
本実施形態による管用ねじ継手はさらに、潤滑被膜80を備えてもよい。図16を参照して、潤滑被膜80は、ショルダー部めっき層5上に配置されてもよい。図19を参照して、潤滑被膜80は、非ショルダー部めっき層6上に配置されてもよい。しかしながら、潤滑被膜80の配置は、図16及び図19に限定されない。本実施形態による管用ねじ継手が潤滑被膜80を備える場合、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ピン側ショルダー部33、ボックス側ねじ部41、ボックス側金属シール部42及びボックス側ショルダー部43の少なくとも一部上に最表層として配置されればよい。すなわち、ショルダー部めっき層5が形成されない場合、潤滑被膜80は、ピン側ショルダー部33又はボックス側ショルダー部43上に直接配置されてもよい。非ショルダー部めっき層6が形成されない場合、潤滑被膜80は、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ボックス側ねじ部41及びボックス側金属シール部42の少なくとも一部の上に直接配置されてもよい。潤滑被膜80は、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32及びピン側ショルダー部33全体の上に最表層として配置されてもよい。潤滑被膜80は、ボックス側ねじ部41、ボックス側金属シール部42及びボックス側ショルダー部43全体の上に最表層として配置されてもよい。管用ねじ継手が潤滑被膜80を最表層として備える場合、管用ねじ継手の潤滑性が高まる。
【0079】
潤滑被膜80は、液体状又は半固体状である。液体状とは、一定の体積を有するが一定の形状を持たない状態をいう。半固体状とは、静止状態では流動性を失っているが、外部からの力(圧力及び熱等)を受けて流動性を獲得し得る状態をいう。液体状又は半固体状には、グリースのような高粘性体が含まれる。潤滑被膜80は、周知の潤滑剤を使用できる。潤滑被膜80はたとえば、潤滑性粒子、塩基性芳香族有機酸金属塩、ロジン、金属石鹸及びワックスを含有する。潤滑被膜80は、必要に応じて、溶媒及びその他の成分を含有してもよい。
【0080】
潤滑性粒子は、潤滑性を有する粒子であれば特に限定されない。潤滑性粒子はたとえば、黒鉛、MoS2(二硫化モリブデン)、WS2(二硫化タングステン)、BN(窒化ホウ素)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、CFx(フッ化黒鉛)及びCaCO3(炭酸カルシウム)からなる群から選択される1種又は2種以上である。潤滑性粒子の含有量は、溶媒を除く潤滑被膜80の全成分の合計を100%とした場合に、たとえば1~20%である。
【0081】
塩基性芳香族有機酸金属塩は、芳香族有機酸と過剰のアルカリ(アルカリ金属又はアルカリ土類金属)とから構成される塩である。塩基性芳香族有機酸金属塩の含有量は、溶媒を除く潤滑被膜80の全成分の合計を100%とした場合に、たとえば40~90%である。
【0082】
ロジンは、C20302で示されるアビエチン酸を主成分とする天然樹脂である。ロジンの含有量は、溶媒を除く潤滑被膜80の全成分の合計を100%とした場合に、たとえば5~30%である。金属石鹸は、脂肪酸の金属塩である。金属石鹸の含有量は、溶媒を除く潤滑被膜80の全成分の合計を100%とした場合に、たとえば2~30%である。ワックスとは、常温で固体であり、加熱すると液体となる有機物である。ワックスの含有量は、溶媒を除く潤滑被膜80の全成分の合計を100%とした場合に、たとえば2~30%である。
【0083】
潤滑被膜80は、水及び有機溶剤等の溶媒を含有してもよい。潤滑被膜80は、公知の防錆添加剤、防腐剤及び着色顔料等を合計で10%以下含有してもよい。
【0084】
潤滑被膜80は市販の潤滑剤を使用してもよい。市販の潤滑剤はたとえば、JET-LUBE株式会社製、(商品名)SEAL-GUARD ECFである。ピン3側に形成される潤滑被膜80の化学組成と、ボックス4側に形成される潤滑被膜80の化学組成とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0085】
潤滑被膜80の厚さは特に限定されない。潤滑被膜80の厚さはたとえば、10~300μmである。潤滑被膜80の厚さが10μm以上であれば、管用ねじ継手の潤滑性が安定して高まる。潤滑被膜80の厚さが300μmを超えても、ねじ締め時に過剰分の潤滑被膜80が排除されるため、上記効果は飽和する。
【0086】
潤滑被膜80の厚さは、次の方法で測定できる。潤滑被膜80を備えたピン3又はボックス4を準備する。潤滑被膜80の任意の測定箇所(面積:5mm×20mm)を、エタノールを染み込ませた脱脂綿で拭き取る。拭き取る前の脱脂綿の重量と、拭き取った後の脱脂綿の重量との差から、潤滑被膜80の量(g)を算出する。潤滑被膜80の量(g)と、潤滑被膜80の密度(g/cm3)及び測定箇所の面積とから、潤滑被膜80の平均厚さを算出し、潤滑被膜80の厚さ(μm)とする。
【0087】
[管用ねじ継手の母材]
本実施形態による管用ねじ継手の母材の化学組成は、特に限定されない。母材はたとえば、炭素鋼、ステンレス鋼及び合金鋼等である。合金鋼の中でも、Cr、Ni及びMo等の合金元素を含んだ二相ステンレス鋼及びNi合金等の高合金鋼は耐食性が高い。そのため、これらの高合金鋼を母材に使用すれば、管用ねじ継手の耐食性が高まる。
【0088】
[製造方法]
本実施形態による管用ねじ継手は、たとえば次の方法で製造できる。製造方法は、めっき層形成工程を備える。めっき層形成工程では、高摩擦係数めっき層50及び低摩擦係数めっき層60を形成する。高摩擦係数めっき層50及び低摩擦係数めっき層60はたとえば、マスキング法又はブラシめっき法で製造できる。以下、一例として、高摩擦係数めっき層50としてZn-Ni合金めっき層を、低摩擦係数めっき層60としてCuめっき層を形成する場合の製造方法について説明する。
【0089】
[めっき層形成工程]
マスキング法で本実施形態による管用ねじ継手を製造する場合は以下の手順で製造できる。以下、めっき層形成工程を具体的に説明するため、ピン側ねじ部31、ピン側金属シール部32、ボックス側ねじ部41、及び、ボックス側金属シール部42にCuめっき層を形成し、ピン側ショルダー部33、及び、ボックス側ショルダー部43にZn-Ni合金めっき層を形成する場合について説明する。初めに、2種類のめっき液を準備する。2種類のめっき液はたとえば、Zn-Ni合金めっき層を形成するためのめっき液と、Cuめっき層を形成するためのめっき液である。Zn-Ni合金めっき層を形成するためのめっき液は、亜鉛イオン及びニッケルイオンを含有する。金属イオンの濃度はたとえば、亜鉛イオン:1~100g/L、ニッケルイオン:1~150g/Lである。Cuめっき層を形成するためのめっき液はたとえば、市販のめっき浴を使用できる。Cuめっき層を形成するためのめっき液はたとえば、大和化成株式会社製(商品名)DAIN COPPER LS-001である。
【0090】
次に、ピン3及び/又はボックス4を、Cuめっき層を形成するためのめっき液に浸漬する。具体的に、ピン3及びボックス4に通電して、ピン側ショルダー部33、ピン側金属シール部32、ピン側ねじ部31、ボックス側ショルダー部43、ボックス側金属シール部42、及び、ボックス側ねじ部41にCuめっき層を形成する。電気めっきの条件は適宜設定できる。電気めっきの条件はたとえば、めっき液pH:1~10、めっき液温度:10~60℃、電流密度:1~100A/dm2、及び、処理時間:0.1~250分である。これにより、低摩擦係数めっき層60に相当するCuめっき層がピン3の表面全体及び/又はボックス4の表面全体に形成される。
【0091】
続いて、低摩擦係数めっき層60に相当するCuめっき層を形成したピン側金属シール部32及びピン側ねじ部31、及び/又は、ボックス側金属シール部42及びボックス側ねじ部41の上にマスキングをする。マスキングは周知の方法で実施できる。具体的に、ピン側金属シール部32、ピン側ねじ部31、ボックス側金属シール部42、及び、ボックス側ねじ部41の上にアルミテープを張り付けてマスキングをしてもよく、コーキング剤で覆ってマスキングをしてもよい。
【0092】
マスキングしたピン3及び/又はマスキングしたボックス4を、Zn-Ni合金めっき層を形成するためのめっき液に浸漬する。具体的に、ピン3及び/又はボックス4に通電して、Zn-Ni合金めっき層を形成する。ピン側金属シール部32、ピン側ねじ部31、ボックス側金属シール部42、及び、ボックス側ねじ部41はマスキングされているため、マスキングされていないピン側ショルダー部33及びボックス側ショルダー部43のみにZn-Ni合金めっき層が形成される。電気めっきの条件は適宜設定できる。電気めっきの条件はたとえば、めっき液pH:1~10、めっき液温度:10~60℃、電流密度:1~100A/dm2、及び、処理時間:0.1~250分である。これにより、高摩擦係数めっき層50に相当するZn-Ni合金めっき層が、ピン側ショルダー部33及び/又はボックス側ショルダー部43上に形成される。最後に、ピン側金属シール部32及びピン側ねじ部31、及び/又は、ボックス側金属シール部42及びボックス側ねじ部41から、マスキングを除去すればよい。
【0093】
ブラシ法で本実施形態による管用ねじ継手を製造する場合は、以下の手順で製造できる。初めに、上記マスキング法と同様に2種類のめっき液を準備する。2種類のめっき液はたとえば、Cuめっき層を形成するためのめっき液と、Zn-Ni合金めっき層を形成するためのめっき液である。
【0094】
次に、上記マスキング法と同様にしてピン側ショルダー部33、ピン側金属シール部32及びピン側ねじ部31、及び/又は、ボックス側ショルダー部43、ボックス側金属シール部42及びボックス側ねじ部41にCuめっき層を形成する。
【0095】
続いて、電極の周りに脱脂綿を巻いたブラシを準備する。脱脂綿をZn-Ni合金めっき層を形成するためのめっき液に浸漬して、脱脂綿にめっき液を含ませる。めっき液を含んだ脱脂綿及び電極を、ピン側ショルダー部33及び/又はボックス側ショルダー部43に接触させて通電する。これにより、ピン側ショルダー部33及び/又はボックス側ショルダー部43にZn-Ni合金めっき層を形成できる。電気めっきの条件は適宜設定できる。電気めっきの条件はたとえば、めっき液pH:1~10、めっき液温度:10~60℃、電流密度:1~100A/dm2、及び、処理時間:0.1~200分である。これにより、高摩擦係数めっき層50に相当するZn-Ni合金めっき層が、ピン側ショルダー部33及び/又はボックス側ショルダー部43上に形成される。
【0096】
各めっき層の形成後に、必要に応じて、水洗や乾燥を行ってもよい。任意めっき層70を形成する場合は、上記Cuめっき層の形成前に任意めっき層70を形成するためのめっき液にピン3又はボックス4を浸漬して、任意めっき層70を形成する。任意めっき層70を形成する条件は適宜設定できる。
【0097】
以上の工程により、本実施形態の管用ねじ継手を製造できる。なお、上述の製造方法の説明では、高摩擦係数めっき層50としてZn-Ni合金めっき層を、低摩擦係数めっき層60としてCuめっき層を形成する場合について説明したが、高摩擦係数めっき層50と低摩擦係数めっき層60として異なるめっき層を形成してもよい。その場合は、形成したいめっき層に含まれる金属のイオンを含有するめっき浴を使用して、上述の製造方法と同様に製造すればよい。
【0098】
[潤滑被膜形成工程]
上述のめっき層を形成した後に、潤滑被膜形成工程を実施してもよい。潤滑被膜形成工程では、ピン側ショルダー部33、ピン側金属シール部32、ピン側ねじ部31、ボックス側ショルダー部43、ボックス側金属シール部42及びボックス側ねじ部41の少なくとも一部の上に、最表層として潤滑被膜80を形成する。
【0099】
上述のピン側ショルダー部33、ピン側金属シール部32、ピン側ねじ部31、ボックス側ショルダー部43、ボックス側金属シール部42及びボックス側ねじ部41の少なくとも一部の上に、上述の成分を含有する組成物を塗布することで、潤滑被膜80が形成できる。塗布方法は特に限定されない。塗布方法はたとえば、スプレー塗布、刷毛塗り及び浸漬である。スプレー塗布を採用する場合、上述の成分を含有する組成物を加熱して、流動性を高めた状態で噴霧してもよい。潤滑被膜形成工程は、ピン3及びボックス4の両方に実施してもよく、片方のみに実施してもよい。
【0100】
[下地処理工程]
上記製造方法は、必要に応じて、めっき層形成工程の前に下地処理工程を備えてもよい。下地処理工程はたとえば、酸洗及びアルカリ脱脂である。下地処理工程では、接触表面上に付着した油分等を洗浄する。下地処理工程はさらに、サンドブラスト及び機械研削仕上げ等の研削加工を備えてもよい。これらの下地処理は、1種のみ実施してもよく、複数の下地処理を組み合わせて実施してもよい。
【実施例
【0101】
以下、実施例を説明する。実施例中の%は、質量%を意味する。
【0102】
[めっき層形成工程]
炭素鋼の鋼板表面に各種めっき層を形成し、その摩擦係数を測定した。鋼板は、株式会社パルテック製SPCC(JIS G3141(2017))を使用した。鋼板の組成は、C≦0.15%、Mn≦0.60%、P≦0.100%、S≦0.050%であった。鋼板の表面に以下の条件でめっき層を形成した。
【0103】
Ni-P合金めっき層
日本カニゼン株式会社製(商品名)SEK797めっき液を用いて、鋼板表面に10μm厚さのNi-P合金めっき層を形成した。めっき条件は、めっき液温度:90℃、処理時間:40分であった(無電解めっき)。Ni-P合金めっき層は、P:5~15質量%、残部:Ni及び不純物からなる化学組成を有した。
【0104】
Zn-Ni合金めっき層
大和化成株式会社製(商品名)ダインジンアロイN-PLめっき液を用いて、鋼板表面に10μm厚さのZn-Ni合金めっき層を形成した。めっき条件は、めっき液温度:35℃、電流密度:4A/dm2、及び、処理時間:15分であった。Zn-Ni合金めっき層は、Ni:10~20質量%、残部:Zn及び不純物からなる化学組成を有した。
【0105】
Cuめっき層
市販の試薬を調合して建浴しためっき液を用いて、鋼板表面に10μm厚さのCuめっき層を形成した。めっき液は、硫酸銅五水和物を200g/L及び硫酸を50g/L含有した。めっき条件は、めっき液温度:35℃、電流密度:10A/dm2、及び、処理時間:5分であった。Cuめっき層は、Cu:99質量%以上、残部:不純物からなる化学組成を有した。
【0106】
Znめっき層
市販の試薬を調合して建浴しためっき液を用いて、鋼板表面に10μm厚さのZnめっき層を形成した。めっき液は、硫酸亜鉛七水和物を350g/L及び硫酸ナトリウムを75g/L含有し、pH:2であった。めっき条件は、めっき液温度:50℃、電流密度:10A/dm2、及び、処理時間:4分であった。Znめっき層は、Zn:99質量%以上、残部:不純物からなる化学組成を有した。
【0107】
Cu-Sn-Zn合金めっき層
日本化学産業株式会社製のめっき浴を用いて、鋼板表面に10μm厚さのCu-Sn-Zn合金めっき層を形成した。めっき条件は、めっき液pH:14、めっき液温度:45℃、電流密度:2A/dm2及び、処理時間:40分であった。Cu-Sn-Zn合金めっき層は、Sn:40質量%、Zn:7質量%、残部:Cu及び不純物からなる化学組成を有した。
【0108】
Crめっき層
SIFCO Industries製Chromiumめっき液を用いて、鋼板表面に10μm厚さのCrめっき層を形成した。めっき条件は、めっき液温度:40℃、電流密度:30A/dm2、及び、処理時間:30分であった。Crめっき層は、Cr:95質量%以上、残部:不純物からなる化学組成を有した。
【0109】
[摩擦係数測定試験]
各めっき層を形成した鋼板に対してバウデン摺動試験を実施して、各めっき層の摩擦係数を測定した。バウデン摺動試験は次の条件で実施した。摺動圧子:3/16”(直径4.7625mm)の鋼球(Fe、鋼種SUJ2)、押付荷重:3kgf、摺動様式:直線往復摺動、摺動幅:30mm、摺動往復回数:5回、摺動速度:4mm/秒、試験温度:25℃、潤滑油:JET-LUBE株式会社製(商品名)SEAL-GUARD ECF、潤滑油塗布量:40g/m2。5回の摺動往復で得られた摩擦係数の算術平均値を、各めっき層の摩擦係数とした。各めっき層の摩擦係数を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
[FEM解析]
表1の結果を基に、管用ねじ継手へ各めっき層を形成したときのショルダリングトルク、イールドトルク及びデルタトルクについてFEM解析を行った。管用ねじ継手は、日本製鉄株式会社製(商品名)VAM21HT、サイズ:9-5/8” 53.5#を適用した。ボックス側にはめっき層を形成せず(ボックス側は研削まま、ボックス側の表面はFe)、ピン側にのみめっき層を形成した条件でFEM解析を行った。試験番号7は全面にCuめっき層を形成した例であり、従来例に相当する。結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表2中、「解析値」の欄には、FEM解析によって得られた各トルク値(ft.lbs)を示す。表2中、「増減率」の欄には、試験番号7の従来例(ピン側の全面にCuめっき層を形成)の数値を基準とした増減率(%)を示す。表2中、Tsはショルダリングトルクを示し、Tyはイールドトルクを示し、ΔTはデルタトルクを示す。
【0114】
[評価結果]
表1及び表2を参照して、ショルダー部に摩擦係数の高いめっき層を形成し、ねじ部及び金属シール部に摩擦係数の低いめっき層を形成した試験番号1及び試験番号2では、各トルク値が改善された。具体的には、試験番号1及び試験番号2では、ショルダリングトルクが、試験番号7(従来例)と比較して変わらなかったにもかかわらず、イールドトルクが試験番号7よりも高かった。さらに、デルタトルクも試験番号7(従来例)と比較して大きくなった。
【0115】
一方、ショルダー部のみではなく、金属シール部にも摩擦係数の高いめっき層を形成した試験番号3及び試験番号4では、イールドトルクは試験番号7(従来例)と比較して高くなったものの、ショルダリングトルクも試験番号7(従来例)と比較して高くなってしまった。
【0116】
ねじ部に摩擦係数の高いめっき層を形成し、金属シール部及びショルダー部に摩擦係数の低いめっき層を形成した試験番号5及び試験番号6では、ショルダリングトルクが試験番号7(従来例)と比較して低くなったものの、イールドトルクも試験番号7(従来例)と比較して低くなってしまった。試験番号5及び試験番号6ではさらに、デルタトルクも試験番号7(従来例)と比較して低くなってしまった。
【0117】
ねじ部、金属シール部及びショルダー部に、従来のCuめっきよりも摩擦係数の高いめっき層を形成した試験番号8及び試験番号9では、イールドトルクは試験番号7(従来例)と比較して高くなったものの、ショルダリングトルクも試験番号7(従来例)と比較して高くなってしまった。
【0118】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 鋼管
2 カップリング
3 ピン
31 ピン側ねじ部
32 ピン側金属シール部
33 ピン側ショルダー部
4 ボックス
41 ボックス側ねじ部
42 ボックス側金属シール部
43 ボックス側ショルダー部
5 ショルダー部めっき層
50 高摩擦係数めっき層
6 非ショルダー部めっき層
60 低摩擦係数めっき層
70 任意めっき層
80 潤滑被膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図19