(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】代謝型及びイオンチャネル型膜貫通受容体の新規モジュレーター及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07C 237/22 20060101AFI20230626BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20230626BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230626BHJP
A61P 11/14 20060101ALI20230626BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230626BHJP
A61P 11/08 20060101ALI20230626BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230626BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230626BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230626BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20230626BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230626BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230626BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230626BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20230626BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230626BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230626BHJP
C07C 231/02 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C07C237/22 CSP
A61K31/198
A61P43/00 111
A61P11/14
A61P11/06
A61P11/08
A61P11/00
A61P29/00
A61P11/02
A61P1/12
A61P1/04
A61P1/00
A61P17/06
A61P17/04
A61P37/08
A61K45/00
C07C231/02
(21)【出願番号】P 2021513748
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 RU2019050060
(87)【国際公開番号】W WO2019216795
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-04-05
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】520440320
【氏名又は名称】アイビーディー セラピューティクス エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】IBD THERAPEUTICS LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ネボルシン, ブラッドミア エヴゲニエヴィチ
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-512010(JP,A)
【文献】特表平11-500436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
【化1】
の2-フェニルエチルアミドN-(p-ヒドロキシフェニルアセチル)フェニルアラニン化合物、又はそ
の水和物
若しくは溶媒和物。
【請求項2】
アセトニトリル媒体中で縮合剤を使用して、(S)-メチル2-(2-(4-ヒドロキシフェニル)アセトアミド)-3-フェニルプロパノエートとフェニルエチルアミンとを反応させるステップを含む、請求項1に記載の化合物を生成する方法。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物で表される、オピオイド受容体のアゴニスト、タキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのアンタゴニスト。
【請求項4】
オピオイド及びタキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性に関連する障害の予防及び/又は処置のための医薬組成物であって、治療有効量の請求項1に記載の化合物と、少なくとも1種の薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項5】
オピオイド及びタキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性に関連する前記障害が、咳、喘息、COPD、気管支炎、鼻炎、下痢、過敏性腸症候群、クローン病、大腸炎、乾癬、痒疹、アトピー性皮膚炎及び/又は掻痒症である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の医薬組成物の製造における、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項7】
医薬の製造における、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項8】
前記医薬が、オピオイド及びタキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性に関連する障害を予防及び/又は処置するために使用される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
1種又は複数の他の追加の治療剤と組み合わせて用いられる、治療有効量の請求項1に記載の化合
物を含む
医薬組成物。
【請求項10】
前記他の追加の治療剤が、咳反射を阻害する薬剤、粘液溶解剤、粘液調節剤、去痰剤、抗生剤、NSAID又は麻酔剤から選択される、請求項9に記載の
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機化学、薬理学及び薬に関し、特に、侵害受容、血管拡張、神経原性炎症の発症及び免疫系細胞の走化作用に関与する代謝型及びイオンチャネル型膜貫通受容体のモジュレーターである化合物を使用することによる、炎症性及び自己免疫疾患、消化器疾患、呼吸器疾患、咳及び一連の他の疾患の処置に関係する。
【背景技術】
【0002】
代謝型及びイオンチャネル型膜貫通受容体は、動物及びヒトの体内で侵害受容、血管拡張、炎症及び他の重要なプロセスを調整する2つの最も大きなタンパク質の群である。大部分の膜貫通受容体の生物学的作用は、対応する細胞受容体の活性を活性化又は抑制する内因性モジュレーターと相互作用することにより実現される。
【0003】
特に、内因性タキキニン及びオピオイドは、神経原性炎症及び掻痒症の発症、侵害受容、血管拡張、筋肉繊維の収縮及び免疫系細胞の走化作用に関与するニューロペプチドの群である。内因性タキキニン及びオピオイドの生物学的作用は、タキキニン(ニューロキニン)とオピオイド代謝型受容体との相互作用により実現される。Gタンパク質にコンジュゲートするこれらの受容体は中枢神経系及び末梢神経系において広範囲にわたり、呼吸器及び尿路(Life Sci.2000年;66巻(23号):2221~31頁)、並びに消化管(Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes.、2016年2月;23巻(1号):3~10頁;Cell Tissue Res.、2014年5月;356巻(2号):319~32頁)、乳頭状真皮及び他の皮膚区画(J Comp Neurol.、1999年6月14日;408巻(4号):567~79頁;Physiol Rev.、2014年1月;94巻(1号):265~301頁)に位置する第1次求心性神経ニューロンに主に局在する。末梢神経系のタキキニン及びオピオイド受容体の活性のモジュレーションは、幅広い範囲の生物学的作用に関連する。
【0004】
消化管(GIT)において、オピオイド及びタキキニン受容体は、粘膜筋板細胞、免疫細胞、及び粘膜下層及び筋肉神経叢のニューロンに主に発現する(J Comp Neurol、2007年、503巻、381~91頁;Regul Pept.、2009年6月5日;155巻(1~3号):11~7頁)。GIT内のオピオイド及びタキキニン受容体の活性のモジュレーションは、腸運動、分泌活性及び免疫活性、内臓の感受性及び侵害受容に影響を及ぼす(Holzer P.Tachykinins.Handbook of Biologically Active Peptides(第2版);Kastin A. J.編;Elsevier、2013年;1330~1337頁;Regul Pept.2009年6月5日;155巻(1~3号):11~7頁)。よって、例えば、GIT内のμオピオイド受容体(MOR)の活性化は、腹痛及び内臓の痛覚過敏の減少をもたらす(Biochemical Pharmacology 92(2014年)448~456)。同時に、動物において示されている通り、末梢性NK3受容体活性の抑制(Neurogastroenterol Motil、2003年、15巻、363~9頁;Neurogastroenterol Motil、2004年、16巻、223~31)は、結腸直腸の緊張、さらにストレス誘発性過敏症により引き起こされる侵害受容を減少させる。NK1及びNK2タキキニン受容体、並びにμオピオイド受容体は、これらの受容体が機能的腸疾患及び特に下痢の処置に対する最も見込みのある標的であることを考慮すると、GIT運動性に対して顕著な作用を有する(Pharmacol Ther、1997年、73巻、173~217頁;Expert Opin Investig Drugs.、2007年2月;16巻(2号):181~94頁)。いくつかの臨床前及び臨床研究において、オピオイド受容体の活性化及びタキキニン受容体活性の抑制はイオン及び流体の分泌を減少させ、小腸及び大腸を介した輸送を遅らせ、肛門括約筋の圧力を増加させる(Expert Opin Investig Drugs.2007年2月;16巻(2号):181~94頁;Pharmacol Ther、1997年、73巻、173~217頁)ことが示されている。
【0005】
ダブル及びトリプルタキキニン受容体アンタゴニストは、消化器疾患の処置において選択的アンタゴニストより明らかに効果的であることに注目することが重要である。よって、例えば、選択的タキキニン受容体アンタゴニストは、コリン作動性構成成分が遮断された場合のみ、動物の腸運動性に対して著しい作用を有することが示されている(Holzer P. Role of tachykinins in the gastrointestinal tract.、Holzer P編、Tachykinins.、Handbook of experimental pharmacology、164巻、Berlin:Springer;2004年、511~58頁)。しかし、3つのタキキニン受容体をすべて同時に遮断する間、モルモットの大腸下部における蠕動は、アセチルコリンエステラーゼ受容体アンタゴニストの参入なしで有意に減少した(Gastroenterology、2001年、120巻、938~45頁)。
【0006】
よって、オピオイド及びタキキニン受容体のモジュレーターは、GITのいくつかの機能的及び炎症性疾患、例えば、下痢、過敏性腸症候群、大腸炎、クローン病などの治療に使用することができる。さらに、オピオイド及びタキキニン受容体に対する同時作用は、GITの慢性腹痛及び機能障害の処置において相乗効果をもたらすことができる(J Med Chem.、2011年4月14日;54巻(7号):2029~2038頁)。さらに、オピオイド及びタキキニン受容体のシグナル伝達に対する同時作用は、低用量の調製物の使用及びオピオイド治療に典型的な副作用の発症率の低下を潜在的に可能にする(Regul Pept.、2009年6月5日;155巻(1~3号):11~7頁)。
【0007】
オピオイド及びタキキニン受容体のモジュレーターはまた呼吸器疾患の治療に対して使用することもできる。特に、タキキニンは気道平滑筋の強力な収縮筋である。さらに、血管内皮細胞に対するタキキニンの作用は、血管拡張の進行を引き起こし、呼吸器のミクロ循環血流の血管透過性を増加させる(Drug News Perspect、1998年、11巻(8号):480頁;BMC Pulm Med.、2011年8月2日;11:41)。加えて、タキキニンは、呼吸器の粘液腺及び上皮細胞の分泌を増加させ(Pflugers Arch.、2008年11月;457巻(2号):529~37頁;Physiol Rev.、2015年10月;95巻(4号):1241~319頁)、呼吸器組織内の強力な化学誘引物質及び免疫系細胞の活性因子である(Drug News Perspect.、1998年10月;11巻(8号):480~9頁;Trends Immunol.、2009年6月;30巻(6号):271~6頁)。タキキニン及びオピオイドは、咳反射を含む様々な肺反射(Pharmacol Ther.、2009年12月;124巻(3号):354~75頁;Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol.、2000年10月;279巻(4号):R1215~23頁;Am J Respir Crit Care Med.、1998年7月;158巻(1号):42~8頁)、副交感神経系、コリン作動性、気管支収縮性反射(Nat Neurosci.、2012年7月26日;15巻(8号):1063~7頁;Prog Histochem Cytochem.、2010年2月;44巻(4号):173~202頁)をモジュレートする。呼吸器疾患におけるタキキニンの病態生理学的役割は明らかにNK1及びNK2受容体の活性化により媒介されるのに対して、NK2及びNK3受容体の活性化は咳の発生に関与する(Am J Respir Crit CareMed.、1998年7月;158巻(1号):42~8頁;Eur J Pharmacol.、2002年8月23日;450巻(2号):191~202頁)。さらに、タキキニンは、イオンチャネル型受容体(Neuropeptides.、2010年2月;44巻(1号):57~61頁)、特に、温度感覚認知の検出及び調節に関与し、第1次求心性神経ニューロン及び呼吸器の周辺組織に発現するTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性を効果的にモジュレートするようである(Gut.、2008年7月;57巻(7号):923~9頁;J Neurosci.、2008年1月16日;28巻(3号):566~75頁)。咳及び鼻炎の発生におけるTRPV1の関与に加えて、TRPV1は、疼痛感受性の発症において重要な役割を果たす(Expert Opin Ther Pat.、2012年6月;22巻(6号):663~95頁;Recent Pat CNS Drug Discov.、2013年12月;8巻(3号):180~204頁;Expert Opin Investig Drugs.、2012年9月;21巻(9号):1351~69頁)。いくつかの臨床研究及び動物モデルにおいて、TRPV1イオンチャネルアンタゴニストの投与は、咳に対する限界反応を増加させ(J Allergy Clin Immunol. 2014年7月;134巻(1号):56~62頁)、COPDの症状の強度(Am J Respir Crit Care Med.、2016年6月15日;193巻(12号):1364~72頁;Sci Transl Med.、2012年11月7日;4巻(159号):159ra147)及び喘息を減少させることが示されている(Br J Pharmacol.、2012年7月;166巻(6号):1822~32頁)。同時に、タキキニン及びオピオイド受容体は複合体フィードバックシステムによりTRPV1イオンチャネルに接続されていることに注目することが重要である。よって、例えば、TRPV1の活性化は、オピオイド鎮痛剤に対する耐性の発生をもたらす(Channels(Austin).、2015年;9巻(5号):235~43頁)。この理由により、オピオイド受容体を活性化と同時にTRPV1イオンチャネル活性を抑制することは、様々な疾患の疼痛症状を処置するための効果的な戦略である。他方では、TRPV1イオンチャネルの活性の抑制はタキキニン産生の減少をもたらし、神経原性炎症の強度を低減する(Pulm Pharmacol Ther.、2018年4月;49巻:1~9頁)。高温により活性化されるTRPV1イオンチャネルとは対照的に、TRPM8イオンチャネルは、30℃未満の周辺組織の温度で活性化される。TRPM8の活性化は、炎症促進性サイトカインの発現の増強及びヒト気管支上皮細胞(Inflammation.、2018年8月;41巻(4号):1266~1275頁)及び鼻腔(Medicine(Baltimore).、2017年8月;96巻(31号):e7640頁)による粘液の過剰分泌をもたらす。よって、タキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性の抑制と共にオピオイド受容体を活性化させることは、いくつかの呼吸器疾患、例えば、喘息、肺線維症、COPD及び気管支炎に対する特徴的症状としての咳の処置において相乗効果を有することができる。文字データによると、オピオイド及びタキキニン受容体、TRPV1及びTRPM8イオンチャネルのモジュレーターは、これら呼吸器疾患に対して直接的病原性作用を有し得ることに注目することが重要である。よって、特に、喘息の患者において、タキキニン受容体アンタゴニストが気管支攣縮を阻害し、気道反応亢進を減少させることが臨床研究で示されている(Eur Respir J.、2004年1月;23巻(1号):76~81頁;Pulm Pharmacol Ther.、2006年;19巻(6号):413~8頁;BMC Pulm Med.、2011年8月2日;11巻:41頁)。COPDモルヒネ吸入を行っている患者では、息切れ及び疾患の他の症状の実質的な軽減をもたらした(BMC Pulm Med.、2017年12月11日;17巻(1号):186頁)。
【0008】
オピオイド及びタキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのモジュレーターはまた、炎症性及び自己免疫疾患の治療、特に乾癬及び非定型皮膚炎における掻痒症(Br J Dermatol.、2019年1月8日、J Am Acad Dermatol.、2018年3月;78頁)及びクローン病及び潰瘍性大腸炎における疼痛症候性(Pharmaceuticals(Basel).、2019年3月30日;12巻(2号);InflammBowel Dis.、2015年2月;21巻(2号):419~27頁)の治療に使用することもできる。感覚神経終末及び皮膚の周辺組織に位置するTRPV1イオンチャネルの活性化は、物質P及び他の内因性タキキニンの産生及び神経原性炎症の発生において著しい増加をもたらす(Br J Dermatol.、2019年1月8日)。さらに、物質Pの産生の増加は、肥満細胞のNK1媒介性活性化、腫瘍壊死因子の産生の増加及び掻痒症の発症をもたらす(J Am Acad Dermatol.、2018年3月;78巻(3付録1):S63~S66頁)。痒疹の発症における物質P及びNK1受容体の関与が臨床研究において示されており、この研究ではNK1受容体アンタゴニストは、ベースライン値と比較して、疾患症状の強度を確実に減少させた(Acta Derm Venereol.、2018年1月12日;98巻(1号):26~31頁)。よって、TRPV1イオンチャネル及びタキキニン受容体の活性の抑制は、アトピー性皮膚炎、痒疹及び掻痒症の発症を伴う他の疾患を処置するための可能な治療手段である。
【0009】
文字データに基づき、オピオイド受容体の活性化を、タキキニン受容体、TRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性の抑制と同時に行うことを対象とする戦略は、炎症性及び自己免疫疾患(例えば、乾癬、アトピー性皮膚炎、クローン病及び潰瘍性大腸炎)、消化器疾患(例えば、過敏性腸症候群、大腸炎及び手術後の腸閉塞)、呼吸器疾患(例えば、喘息、COPD、気管支炎、鼻炎)及び肺線維症、気管支炎、喘息、COPD及び他の疾患の症例における咳を含めた、咳の処置に対して可能な手法であると結論づけることが可能である。
【0010】
オピオイド受容体の様々なアゴニスト、タキキニン受容体のアンタゴニスト、並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのアンタゴニストが、高アフィン3-シアノ-1-ナフタミド誘導体(WO2001077089、WO2002026724)又はナフトエ酸アミド(WO2001077069、WO2000059873)に基づく選択的NK1アンタゴニスト及び受容体の混合NK1/NK2アンタゴニストを含めて、今日までに知られている。オピオイド受容体のアゴニスト、タキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのアンタゴニストであるいかなる化合物も科学的文献に記載されていないことに注目することが重要である。近い発明の例として、Boehringer Ingelheim社の働きを示すことができ、これは、炎症性皮膚疾患の処置のためのアリールグリシンアミド誘導体(EP1295599)に主に関する。Menariniのグループ会社は、過敏性腸症候群の処置のために、NK2受容体のグリコシル化二環式シクロヘキサペプチドアンタゴニストの開発を行っている(Br J Pharmacol.、2001年9月;134巻(1号):215~23頁、Eur J Pharmacol.、2006年11月7日;549巻(1~3号):140~8頁)。本発明の目的である化合物に最も近い類似体は、Ciba-Geigy社による公報(WO1996026183)に付与されている。中枢神経系疾患の処置のための、フェニルアラニン誘導体を含むタキキニン受容体の非選択的アンタゴニストが本明細書に記載されている。しかし、Ciba-Geigy社により公開された化合物の構造において、リガンドは、化合物の代謝安定性を有意に減少させる2つのエステル置換基を含有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、今日までに、炎症性及び自己免疫疾患、消化管、肺及び呼吸器疾患の治療に使用されている、オピオイド受容体のアゴニスト、タキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのアンタゴニストとして作用する薬物は存在しない。したがって、オピオイド及びタキキニン受容体、並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのモジュレーターを含む新規の効果的な薬物の開発及び臨床診療への導入が依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、炎症性、自己免疫疾患、消化管疾患、呼吸器及び咳の治療において、オピオイド受容体の活性化、並びにタキキニン受容体及びTRPV1及びTRPM8イオンチャネル活性の抑制に効果的な新規化学化合物の取得及び使用に関する。
【0013】
発明の開示
【0014】
本発明の目的は、オピオイド受容体のアゴニスト(μ、デルタ及びカッパ)、タキキニン受容体(NK1、NK2及びNK3)、並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのアンタゴニストである新規の薬物であって、炎症性及び自己免疫疾患、消化管疾患、呼吸器疾患並びに咳の処置に効果的な薬物を提供することである。
【0015】
本発明の技術的結果は、オピオイド受容体の効果的アゴニスト、タキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのアンタゴニストの開発及び生産であり、これにより、咳、喘息、COPD、気管支炎、鼻炎、下痢、過敏性腸症候群、クローン病、大腸炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、掻痒症、並びにオピオイド及びタキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性に関連する他の疾患の処置のための経口及び局所的適用において化合物を使用することが可能となる。
【0016】
上記技術的結果は、2-フェニルエチルアミドN-(p-ヒドロキシフェニルアセチル)フェニルアラニン化合物(化合物I)
【化1】
又は付加体、水和物、溶媒和物を、オピオイド受容体のアゴニスト、タキキニン受容体、並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのアンタゴニストとして使用することにより達成される。
【0017】
本発明はまた、化合物Iに相当するオピオイド及びタキキニン受容体、並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのモジュレーターに関する。
【0018】
本発明はまた、2-フェニルエチルアミドN-(p-ヒドロキシフェニルアセチル)フェニルアラニン化合物の調製のための方法に関する。
【0019】
本発明はまた、炎症性、自己免疫疾患、消化器疾患、呼吸器疾患、咳、例えば、喘息、COPD、気管支炎、鼻炎、下痢、過敏性腸症候群、クローン病、大腸炎、さらにオピオイド受容体、タキキニン受容体(NK1、NK2及びNK3)、TRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性に関連する他の疾患の予防及び/又は処置のための医薬組成物の調製のための、2-フェニルエチルアミドN-(p-ヒドロキシフェニルアセチル)フェニルアラニン化合物又はその付加体、水和物、溶媒和物の使用に関する。
【0020】
さらに、本発明は、疾患、呼吸器疾患、尿路疾患、消化器疾患、咳、例えば、喘息、COPD、気管支炎、鼻炎、過敏性腸症候群、クローン病、大腸炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、痒疹、並びにオピオイド及びタキキニン受容体、並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性に関連する他の疾患の予防及び/又は処置のための医薬組成物であって、有効量の本発明による化合物Iと、少なくとも1種の薬学的に許容されるアジュバントとを含む医薬組成物に関する。一部の実施形態では、アジュバントは薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤である。
【0021】
本発明はまた、このような処置を必要とする対象において、オピオイド、タキキニン受容体、並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性に関連する障害を予防及び/又は処置するための方法であって、本発明による医薬組成物を前記対象に投与するステップを含む方法を含む。本発明の一部の非限定的実施形態では、疾患は、咳、喘息、COPD、気管支炎、鼻炎、下痢、過敏性腸症候群、大腸炎、乾癬、アトピー性皮膚炎である。本発明の特定の実施形態では、生物はヒト又は動物という生物である。
【0022】
本発明は、このような処置を必要とする対象において、オピオイド、タキキニン受容体、並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの活性に関連する障害を予防及び/又は処置する方法であって、治療有効量の化合物Iを前記対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0023】
本発明はまた、このような処置を必要とする対象において、咳、喘息、COPD、気管支炎、鼻炎、下痢、過敏性腸症候群、クローン病、大腸炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、痒疹を予防及び/又は処置するための方法であって、治療有効量の化合物Iを前記対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0024】
本発明はまた、医薬の製造における化合物Iの使用に関する。
【0025】
本発明の発明はまた、1種又は複数の他の追加の治療剤と組み合わせて化合物Iを含む組合せに関する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の化合物Iは、以下に記載されている合成技術の使用を含めて、様々な周知の合成技術を使用して調製することができる。
【0027】
化合物Iの薬理学的標的をスクリーニングする過程で、驚くことに、化合物Iは、オピオイドμ受容体、デルタ受容体及びカッパ受容体のアゴニストであり、1型、2型及び3型タキキニン受容体のアンタゴニストであり、並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルの遮断剤であることが判明した。実験的に決定された化合物Iの治療ターゲット範囲に従い、化合物Iの使用が最も有望な徴候を決定した。化合物Iの使用は、炎症性、自己免疫疾患(例えば、乾癬、アトピー性皮膚炎、クローン病、潰瘍性大腸炎)、消化器疾患(例えば、下痢、過敏性腸症候群)、呼吸器疾患(例えば、咳、喘息、COPD、気管支炎、鼻炎)、さらに痒疹の治療に対して有望的であることが判明した。
【0028】
よって、化合物Iは、オピオイド受容体の新規アゴニスト、タキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのアンタゴニストであり、咳、喘息、COPD、気管支炎、鼻炎、下痢、過敏性腸症候群、クローン病、大腸炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、痒疹の処置のために使用することができる。
【0029】
用語及び定義
【0030】
「化合物I」という用語は、構造式:
【化2】
でもまた表される2-フェニルエチルアミドN-(p-ヒドロキシフェニルアセチル)フェニルアラニンに関する。
【0031】
「C」という用語は、温度についての言及と共に使用されている場合、摂氏スケール又は摂氏温度スケールを意味する。
【0032】
「IC50」という用語は、試験下において、酵素の最大半量の阻害が達成される化合物濃度を意味する。
【0033】
「薬学的に許容される付加体」又は「付加体」という用語は、比較的非毒性の化合物を使用して得られた、分子に互いに直接付加している生成物を含む。薬学的に許容される非毒性付加体の例は、非有毒性ニトロ誘導体又はウレアにより形成された付加体であってよい。他の薬学的に許容される付加体は、非イオン性界面活性剤、シクロデキストリン及びその他の付加体、さらに電荷移動錯体(π付加体)である。「付加体」という用語は非化学量論的付加体も含むことに注目することが必要である。
【0034】
「溶媒和物」という用語は、本発明による化合物と、薬学的に許容される溶媒、例えば、エタノールの1つ又は複数の分子とを含む分子複合体について記載するために使用される。「水和物」という用語は、示された溶媒が水である場合に使用される。
【0035】
本発明の文書内での感覚神経終末の「異常な刺激」という用語は、体内で、病理の不在下で、ベースラインとは有意に異なる刺激である。異常な刺激は免疫系細胞の、器官又は組織へのオーバーフローにより引き起こされることもあり、プロセスの異常、さらに他の要因が感覚神経終末の刺激をもたらす。
【0036】
「アジュバント」という用語は、必要な物理化学的特性を得るために医薬の製剤内に存在する又は医薬を生成、製造するプロセスにおいて使用される薬学的に許容される無機物質又は有機物質のいずれかを意味する。
【0037】
「処置」、「治療」という用語は、哺乳動物、好ましくはヒトにおける病理学的状態の処置を包含し、用語が使用されている疾患若しくは状態、又は疾患若しくは状態の1種若しくは複数の症状を、a)減少させる、b)疾患の過程を遮断する(止める)、c)疾患の重症度を回復させる、すなわち疾患の退縮を誘導する、d)逆転することを含む。
【0038】
「予防法」、「予防」という用語は、哺乳動物、好ましくはヒトにおける、リスクファクターの排除、さらに疾患の臨床的段階の発生の可能性確率を低減することを対象とした、疾患の無症状段階での予防的処置を包含する。予防的治療に対する患者は、公知のデータに基づき、集団と比較して、疾患の臨床的段階のリスク源の増加を含む要因に基づいて選択される。予防的治療は、a)第1次予防及びb)第2次予防である。第1次予防は、疾患の臨床的段階に未だ到達していない患者における予防的処置と定義される。第2次予防は疾患の同じ又は類似の病態の再発の予防である。
【0039】
本発明の目的である化合物Iは、オピオイド受容体、タキキニン受容体(NK1、NK2及びNK3)、TRPV1及びTRPM8イオンチャネルに対するその作用により媒介される感覚神経終末の異常な刺激及び伝達物質の活性に関連する疾患の処置に対して、特に、最初の病理学的変化によりもたらされるもの、又は様々な疾患又は一部の薬物の長期投与に関連するものを含めて、呼吸器疾患(例えば、咳、喘息、慢性気管支炎、鼻炎)、消化器疾患(例えば、過敏性腸症候群、クローン病、大腸炎、手術後の腸閉塞)、全身性及び局所的泌尿器疾患の治療に対して有望である。
【0040】
一部の特定の実施形態では、本発明による化合物は、感覚神経終末の異常な状況に関連する他の疾患を処置するために使用することができる。
【0041】
化合物の治療的使用方法
【0042】
本発明の目的はまた、対応する処置を必要とする対象への、治療有効量の本発明による化合物の投与も含む。
【0043】
治療有効量とは、患者において処置(予防法)への所望の応答が明らかとなる可能性が最も高い、患者に投与又は送達されるような化合物の量を意味する。正確な必要量は、患者の年齢、体重及び全身症状、疾患の重症度、薬物の投与方法、他の薬物を使用する併用処置などに応じて、各対象により異なってもよい。
【0044】
本発明の化合物又は化合物を含む医薬組成物は、疾患を処置又は予防するのに効果的である、任意の量で(好ましくは、活性物質の1日用量は、1日当たり患者1一人当たり0.5gまで、最も好ましくは、1日用量は5~50mg/日である)及び任意の投与経路で(好ましくは、経口の投与経路)、患者に投与することができる。
【0045】
薬物を特定の適切な薬学的に許容される担体と、所望の用量で混合した後、本発明の組成物は、ヒト又は他の動物に、経口的、非経口的、局所的に(吸入により、鼻腔内、皮膚上)投与することができる。
【0046】
投与は、1日当たり、1週当たり(又は任意の他の時間間隔で)、又は時々、1回でも数回でも行うことができる。さらに、1種又は複数の化合物は、特定の日数の期間(例えば2~10日)毎日患者に投与し、その後薬物摂取なしの期間(例えば、1~30日)が続いてもよい。
【0047】
本発明の化合物が併用治療レジメンの一部として使用される場合、併用治療の構成成分のそれぞれの用量は、所望の処置期間の間投与される。併用治療を構成する化合物は、すべての構成成分を含有する剤形、及び構成成分の個々の剤形の両方で同時に患者の身体に投与することができる。
【0048】
医薬組成物
【0049】
本発明はまた、本発明による化合物(又はプロドラッグ又は他の薬学的に許容される誘導体)、並びに、例えば、本発明の本質である化合物と組み合わせて患者の身体に投与することができ、治療量の化合物を送達するのに十分な用量で投与された場合、化合物の薬理学的活性に影響を与えず、無毒性である1種又は複数の薬学的に許容される担体、アジュバント、溶媒及び/又は賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0050】
本発明において特許請求されている医薬組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて本発明による化合物を含み、この薬学的に許容される担体は、特定の投薬形態に適した任意の溶媒、希釈剤、分散液又は懸濁液、界面活性剤、等張剤、増粘剤及び乳化剤、保存剤、粘着性物質、流動促進剤などを含む。薬学的に許容される担体として機能することができる物質は、これらに限定されないが、単糖及びオリゴ糖、さらにこれらの誘導体;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、坐剤用カカオ油及びワックス;油、例えば、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;アルギン酸;パイロジェンを含まない水;等張液、リンガー液;エチルアルコール及びリン酸緩衝液を含む。組成物はまた、他の無毒性相容性滑沢剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、並びに着色剤、膜形成剤、甘味剤、香味料及び調味料、保存剤及び抗酸化剤を含んでもよい。
【0051】
本発明の対象はまた、剤形、すなわち1つのクラスの医薬組成物であり、推奨された用量で、治療有効量で身体に投与する特定の経路に対して、例えば、経口的に、局所的に、吸入により、例えば、吸入スプレーの形態で、又は血管内経路により、鼻腔内、皮下、筋肉内、並びに点滴法により身体に投与することに対して最適化された製剤である。
本発明の医薬剤形は、リポソームを使用した方法により、マイクロカプセル化法により、ナノ形態の調製法により、又は医薬品業界において公知の他の方法により得た製剤を含み得る。
【0052】
例えば、錠剤の形態で組成物を調製する場合、活性成分は、1種又は複数の医薬賦形剤、例えば、ゼラチン、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ、アラビアガム、マンニトール、微結晶性セルロース、ヒプロメロース又は類似の化合物と混合する。
【0053】
錠剤は、スクロース、セルロース誘導体、又はコーティングに適した他の物質でコーティングすることができる。錠剤は、様々な方式、例えば、直圧縮、乾式若しくは湿式造粒法、又は高温溶融で調製することができる。
【0054】
ゼラチンカプセル剤の形態の医薬組成物は、活性成分を他の物質と混合し、生成した混合物を軟質又は硬質カプセルに充填することにより得ることができる。
【0055】
非経口投与用には、水性懸濁剤、等張生理食塩水溶液、又は注射可能な滅菌溶液が使用され、これらは薬理学的に相容性のある薬剤、例えばプロピレングリコール又はブチレングリコールを含有する。
【0056】
医薬組成物の例
【0057】
本発明に記載されている物質は、以下の製剤の形態でヒト又は動物における疾患の予防及び/又は処置のために使用することができる(活性成分は「物質」と同様の意味):
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
これらの製剤は、標準的な医薬品手順に従い調製することができる。錠剤(I)~(II)は、例えば、酢酸フタル酸セルロースを用いた腸溶コーティングでコーティングすることができる。
【0071】
併用治療における化合物Iの使用
【0072】
本発明による化合物Iは個々の活性のある薬剤として投与することができるという事実にも関わらず、化合物Iは、1種又は複数の他の薬剤と組み合わせて使用されてもよく、特に他の薬剤は、咳反射抑制剤(コデイン、グラウシン、ブタミレート、ビチオジン)、粘液溶解剤(ブロムヘキシン、アンブロキソール)、粘液調節剤(カルボシステイン)、去痰剤(タイム、ヨウ化カリウム、ブロンコリチン)、抗生剤、NSAID又は他の抗炎症剤などに相当し得る。一緒に摂取する場合、治療剤は、同時又は異なる時間で逐次的に投与される異なる医薬剤形を意味してもよいし、又は治療剤を合わせて1つの医薬剤形にしてもよい。
【0073】
他の薬剤と組み合わせた本発明の化合物に関する「併用治療」という句は、薬物の組合せの有益な作用を何らかの形で提供することになるすべての薬剤の同時又は連続的投与を意味する。共投与とは、特に、例えば、固定された比率の活性物質を有する1つの錠剤、カプセル剤、注射又は他の形態での共同送達、並びに各化合物に対するいくつかの、別個の剤形でのそれぞれ同時の送達を意味する。
【0074】
よって、本発明の化合物の投与は、抗菌剤及び抗炎症剤、すなわち、薬物の1つの症状又は副作用を抑制するための薬物の使用を含めた、対応する疾患の予防及び処置の分野の当業者に公知の追加の治療と組み合わせて行うことができる。
【0075】
医薬剤形が一定用量である場合、組合せは許容される用量範囲内で本発明の化合物を使用する。本発明の化合物Iはまた、これらの薬物の組合せが可能でない場合、患者に他の薬剤と共に逐次的に投与することができる。本発明は、投与の順序に限定はない。本発明の化合物は、別の薬物の投与前又は後に患者の身体に共投与されてもよい。
【実施例】
【0076】
本発明による化合物の調製
【0077】
2-フェニルエチルアミンN-(p-ヒドロキシフェニルアセチル)フェニルアラニンの調製:
【化3】
【0078】
(S)-メチル2-(2-(4-ヒドロキシフェニル)アセトアミド(acetomido))-3-フェニルプロパノエート(04)(1.50g、5.29mmol)、フェニルエチルアミン(0.86g、6.35mmol、1.2Eq)、TBTU(2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)(2.04g、6.35mmol、1.2Eq)及びトリエチルアミン(0.64g、6.35mmol、1.2Eq)を20mlの乾燥アセトニトリルに溶解し、室温で5時間混和する。反応物の塊を炭酸カリウムの3%溶液(500ml)で希釈し、ジクロロメタン(2×40ml)で抽出した。抽出物を水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を真空中で除去した。蒸発後に得た残渣(1.65g)を分取HPLCの助けを借りて精製した。結果として、分析HPLCのデータにより純度99%を有する1.1gの生成物を調製した。
APCI-MS(m/z(強度)):402.90([M+H]+、100%)。
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ9.05(s,1H)、7.94~7.83(m,2H)、7.30~7.09(m,10H)、6.92~6.84(m,2H)、6.64~6.56(m,2H)、4.43(td,J=8.8,5.2Hz,1H)、3.36~3.12(m,4H)、2.90(dd,J=13.7,5.2Hz,1H)、2.79~2.60(m,3H)。
【0079】
本発明による化合物の生物学的活性の特徴
【0080】
本発明の目的である化合物の生物学的活性を異なるin vitro及びin vivo実験で試験した。特に、異なるin vitro及びin vivoモデルにおける化合物Iの活性の試験により、化合物Iの阻害作用がモルモットにおけるカプサイシン投与により誘発された咳モデルにおいて示された。
in vitroでの化合物Iの生物学的活性の試験により、化合物Iがオピオイド受容体のアゴニスト、タキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのアンタゴニストであると確証された。明らかに、咳モデルにおいて、さらに消化器疾患の異なるモデルにおいても、化合物Iの活性は前述のタンパク質に対する影響に関連する。
【0081】
実施例1-タキキニン受容体1型の活性に対する化合物Iの作用の試験
【0082】
化合物Iを、100mMの濃度になるようにDMSOに溶解した。次いでストック溶液をDMSOで連続希釈した。物質の最大開始濃度は100μMである。作用は8つの濃度の試験化合物で決定し、各濃度は2回調査した。ヒトNK1Rを発現するU373細胞を実験に使用し、アゴニスト[Sar9,Met(O2)11]-SP(1nM)とのプレインキュベーション後、前記細胞を化合物Iと共にインキュベートした。蛍光分光法を使用して、細胞内カルシウム濃度により受容体の活性を決定した(Glia.、1992年;6巻(2号):89~95頁)。
【0083】
試験の結果、化合物Iは、IC50=59μMを有する、タキキニン受容体1型のアンタゴニストであることが確立された。
【0084】
実施例2-タキキニン受容体2型の活性に対する化合物Iの作用の試験
【0085】
化合物Iを100mMの濃度になるようにDMSOに溶解した。次いで、ストック溶液をDMSOで連続希釈した。物質の最大開始濃度は100μmである。作用は8つの濃度の試験化合物で決定し、各濃度は2回調査した。ヒトNK2Rを発現するCHO細胞を実験に使用し、アゴニスト[Nleu10]-NKA-(4-10)(10nM)とのプレインキュベーション後、前記細胞を試験化合物と共にインキュベートした。蛍光分光法を使用して、細胞内カルシウム濃度により受容体の活性を決定した(Biochem Biophys Res Commun.、1994年5月16日;200巻(3号):1512~20頁)。
【0086】
試験の結果、化合物Iは、IC50=6.4μMを有する、タキキニン受容体2型のアンタゴニストであることが確立された。
【0087】
実施例3-タキキニン受容体3型の活性に対する化合物Iの作用の試験
【0088】
化合物Iを100mMの濃度になるようにDMSOに溶解した。次いで、ストック溶液をDMSOで連続希釈した。物質の最大開始濃度は100μMである。作用は5つの濃度の試験化合物で決定し、各濃度は2回調査した。NK3Rを発現するCHO-K1細胞を実験に使用し、アゴニスト[MePhe10]-NKB(1nM)とのプレインキュベーション後、前記細胞を試験化合物と共にインキュベートした。蛍光分光法を使用して、細胞内カルシウム濃度により受容体の活性を決定した(Br J Pharmacol.、1999年10月;128巻(3号):627~36頁)。
【0089】
試験の結果、化合物Iは、IC50=15μMを有する、タキキニン受容体3型のアンタゴニストであることが確立された。
【0090】
実施例4-μオピオイド受容体の活性に対する化合物Iの作用の試験
【0091】
化合物Iを100mMの濃度になるようにDMSOに溶解した。次いで、ストック溶液をDMSOで連続希釈した。物質の最大開始濃度は300μMである。作用は10の濃度の試験化合物で決定し、各濃度は2回調査した。ヒト組換えμオピオイド受容体を実験に使用し、アゴニスト[3H]DAMGO(0.5nM)とのプレインキュベーション後、前記受容体を次いで試験化合物と共に120分間インキュベートした。受容体の活性を放射リガンド置換法で決定した。試験の結果、化合物Iは、IC50=4.1μMを有する、μオピオイド受容体のアゴニストであることが確立された。
【0092】
実施例5-デルタ-オピオイド受容体の活性に対する化合物Iの作用の試験
【0093】
化合物Iを100mMの濃度になるようにDMSOに溶解した。次いで、ストック溶液をDMSOで連続希釈した。物質の最大開始濃度は300μMである。作用は10の濃度の試験化合物で決定し、各濃度は2回調査した。組換えヒトデルタオピオイド受容体を実験に使用し、アゴニスト[3H]DADLE(0.5nM)とのプレインキュベーション後、前記受容体を次いで試験化合物と共に120分間インキュベートした。受容体の活性を放射リガンド置換法で決定した。試験の結果、化合物Iは、IC50=64μMを有する、デルタオピオイド受容体のアゴニストであることが確立された。
【0094】
実施例6-カッパオピオイド受容体の活性に対する化合物Iの作用の試験
【0095】
化合物Iを100mMの濃度になるようにDMSOに溶解した。次いで、ストック溶液をDMSOで連続希釈した。物質の最大開始濃度は300μMである。作用は10の濃度の試験化合物で決定し、各濃度は2回試験した。ヒト組換えデルタオピオイド受容体を実験に使用し、アゴニスト[3H]U69593(0.5nM)とのプレインキュベーション後、前記受容体を次いで試験化合物と共に120分間インキュベートした。受容体の活性を放射リガンド置換法で決定した。試験の結果、化合物Iは、IC50=7.1μMを有する、カッパオピオイド受容体のアゴニストであることが確立された。
【0096】
実施例7-TRPV1イオンチャネルの活性に対する化合物Iの作用の試験
【0097】
化合物Iを100mMの濃度になるようにDMSOに溶解した。次いで、ストック溶液をDMSOで連続希釈して、50μMと等しい物質濃度を有する試験溶液を調製した。CHO細胞を発現するTRPV1を実験に使用した。実験当日、細胞を蛍光指示薬Fluo-4AMの4μM溶液と共にインキュベートした。TRPC1イオンチャネルの公知のアゴニストであるカプサイシン(30nM)とのプレインキュベーション後、細胞を試験化合物と共にインキュベートした。蛍光分光法を使用して、受容体の活性を細胞内カルシウム濃度により決定した(Behrendt,H.J.ら、(2004年)、Br.J.Pharmacol.、141巻:737~745頁.FINAL)。
【0098】
試験の結果、化合物Iは、IC50=51μMを有する、TPRV1イオンチャネルの遮断剤であることが確立された。
【0099】
実施例8-TRPM8イオンチャネルの活性に対する化合物Iの作用の試験
【0100】
化合物Iを100mMの濃度になるようにDMSOに溶解した。次いで、ストック溶液をDMSOで希釈して、50μMと等しい物質濃度を有する試験溶液を調製した。HEK293細胞を発現するTRPM8を実験に使用した。実験当日、細胞を蛍光指示薬Fluo-4AMの4μM溶液と共にインキュベートした。TRPM8イオンチャネルの公知のアゴニストであるIcilin(100nM)とのプレインキュベーション後、細胞を試験化合物と共にインキュベートした。蛍光分光法を使用して、受容体の活性を細胞内カルシウム濃度により決定した(Behrendt、H.J.ら、(2004年)、Br.J.Pharmacol.、141巻:737~745頁.FINAL)。
【0101】
試験の結果、化合物Iは、IC50=62μMを有する、TRPM8イオンチャネルの遮断剤であることが確立された。
【0102】
実施例9-in vivoでの消化管の運動性に対する化合物Iの作用の試験
【0103】
GITの運動性に対する化合物Iの作用を標準的手順で試験した(Li Y.Y.、Li Y.N.、Ni J.B.、Chen C.J.、Lv S.、Chai S.Y.、Wu R.H.、Yuce B.、Storr M.、Involvement of cannabinoid-1 and cannabinoid-2 receptors in septic ileus//Neurogastroenterol Motil.、2010年、22巻、350~388頁)。雄のbalb/cマウスに対して試験を行った。マウスの個々の体重は性別の平均値の±20%以内のずれとする。動物には活性炭溶液(10ml/kg中50mg/ml)の胃内投与が付与され、動物の腸での活性炭の動きの速度(分単位)を評価した。活性炭投与の1時間前に、化合物Iを1回胃内投与した。比較用調製物として、ヒオスシンブチルブロミド(hyoscin butyl bromide)(ブスコパン(Buscopan))を用量3mg/kgで、トリメブチン(トリメダット(Trimedat))を用量33mg/kgで、メベベリン(ダスパタリン(Duspatalin))を用量30mg/kgで使用した。得たデータは、グラブス検定を使用して、試料中の最も大きな又は最も小さな異常な所見の存在をチェックした(排除)。この検定で「排除すべき」と決定された値は、さらなるアッセイに使用されなかった。すべてのデータに対して、記述統計学を使用した:平均値(M)及び標準誤差値(m)をカウントした。実験の過程で得た値の分布の正常性を、コルモゴロフスミルノフ検定の助けを借りてチェックした。正常な分布の場合、スチューデントのt検定(t検定)を使用して、群間の差異を評価した。正常な分布以外の分布の場合、いくつかの群の比較のためにクラスカルウォリス検定を(ダンの事後検定と共に)使用した。差異は信頼度5%で決定した。試験の結果は表1に提示されている。
【0104】
【0105】
マウスにおいて、化合物Iの投与は、活性炭の排出時間を1.5~2倍増加させた。得たデータから、化合物Iは顕著な鎮痙作用を有し、下痢、過敏性腸症候群、並びにGIT運動障害に関連した他の疾患の処置に有用であると結論づけることが可能となる。化合物Iの作用は、ヒオスシンブチルブロミド、トリメブチン及びメベベリンの作用より優れている。
【0106】
実施例10-ラットにおける、ストレス誘発性排便モデルにおける化合物Iの活性の試験
【0107】
ストレス誘発性排便モデルにおいて、化合物Iの活性の試験を標準的な手順で行ったで(Taguchi R.、Shikata K.、Furuya Y.、Hirakawa T.、Ino M.、Shin K.、Shibata H.Selective corticotropin-releasing factor 1 receptor antagonist E2508 reduces restraint stress-induced defecation and visceral pain in rat models//Psychoneuroendocrinology.、2017年、110~115頁)。
【0108】
ラットは、実験を24時間行う部屋に適合させた。適合したラットに試験を行った。化合物Iを1回、胃内に投与した。1時間後、前方の足が身体を圧縮するようにラットを布の中に配置した。このような形で、ラットをゲーティング付きの個々のケージに入れ、40分間そのままおいた。即座に、40分の観察期間中に放出された糞便の全体を次いで秤量した。
【0109】
すべてのデータに対して、記述統計学を適用する。数学的平均値(M)及び標準誤差(m)をカウントする。実験の過程で得た値の分布の正常性をシャピロウィルク検定の助けを借りてチェックした。正常な分布の場合、1方向ANOVA(ダンの事後検定と共に)を使用して、群間の差異を評価した。正常な分布以外の分布の場合、いくつかの群の比較のために1方向ANOVA(ターキーの事後検定と共に)を使用した。
【0110】
試験の結果は、ラットにおいて、化合物Iの胃内投与がストレス誘発性排便を用量依存的に減少させることを示した。得たデータから、化合物Iは顕著な鎮痙作用を有し、下痢を伴う過敏性腸症候群の治療に対して有用であると結論づけることが可能である。
【0111】
【0112】
実施例11-オキサゾロン誘発性炎症性腸疾患モデルに対する化合物Iの活性の試験
【0113】
オキサゾロン誘発性炎症性腸疾患モデル(潰瘍性大腸炎及びクローン病モデル)に対して化合物Iの活性の試験を、標準的な手順により行った(Heller F.、Fuss I.J.、Nieuwenhuis E.E.、Blumberg R.S.、Strober W.Oxazolone colitis、a Th2 colitis model resembling ulcerative colitis、 is mediated by IL-13-producing NK-T cells//Immunity.、2002年、629~638頁)。
【0114】
雌のbalb/cマウスに対して試験を行った。3.5Fカテーテルを大腸の深さ3~4cmまで導入した。次いで、50%エタノール中1%オキサゾロン溶液150μlを結腸内腔にゆっくりと導入し、カテーテルをゆっくりと除去し、マウスを垂直の位置(逆さまの状態で)で60秒保持して、導入した溶液が流れ出るのを防いだ。実験動物をケージに戻し、動物を温かく保った。化合物Iを3回胃内に投与した:オキサゾロンの直腸投与から1時間後、25時間後及び49時間後。オキサゾロンの直腸投与から72時間後、腸壁の損傷の巨視的評価を、スコアスケールを用いて行う:0ポイント-病変なし、1ポイント-充血、潰瘍なし、2ポイント-充血及び腸壁の肥厚、潰瘍なし、3ポイント-腸壁の肥厚はないが、潰瘍1つ、4ポイント-2つ以上の潰瘍又は炎症部位、5ポイント-2つ以上の激しい潰瘍及び炎症部位、又は潰瘍/炎症の1つの部位が腸の長さにして>1cmにおよぶ、6~10ポイント-病変が腸の長さにして>2cmにおよぶ、スコアはダメージを受けた部分1cmごとに1ポイント増加する。
【0115】
すべてのデータに対して、記述統計学を適用する:数学的平均値(M)及び標準誤差(m)をカウントする。実験の過程で得た値の分布の正常性をシャピロウィルク検定の助けを借りてチェックした。正常な分布の場合、1方向ANOVA(ダンの事後検定と共に)を使用して、群間の差異を評価した。正常な分布以外の分布の場合、いくつかの群の比較のために1方向ANOVA(ターキーの事後試験と共に)を使用した。差異は信頼度5%で決定した。試験の結果は表3に提示されている。
【0116】
試験の結果では、炎症性腸疾患モデルに対して、胃内投与による化合物Iは顕著な治療効果があり、特に大腸壁の損傷を無処理の動物のレベルまで減少させることが示された。得たデータから、化合物Iはクローン病及び潰瘍性大腸炎の治療に対して有用であると結論づけることが可能である。
【0117】
【0118】
実施例12-マウスにおけるカラシナ油の投与に応答した急性疼痛応答モデルに対する化合物Iの活性の試験
【0119】
急性疼痛応答モデルに対する化合物の活性の試験を、標準的な手順を使用して行った(Laird M.A.、Martinez-Caro L.、Garcia-Nicas E.、Cervero F.、A new model of visceral pain and referred hyperalgesia in the mouse//J. Pain 92巻(2001年).、335~342頁)。
【0120】
雄のbalb/cマウスに対して試験を行った。マウスの個々の体重は性別の平均値の±10%以内のずれとする。最初に、マウスを軽い麻酔下においた(24時間の絶食後)。次いで、カラシナ油の生理溶液中1%溶液をカテーテル3.5Fを用いて深さ4cmまで動物に導入した。健康な対照には溶媒を導入した。カラシナ油の導入から5分後、動物における疼痛の存在(いくつかの腹部をなめる行為、腹部の壁の外転、下腹部の床への傾き、腹部の膨満)を最初の20分間評価した。カラシナ油投与の1時間前、化合物Iを胃内に1回投与した。得たデータは、グラブス検定を使用して、試料中の最も大きな又は最も小さな異常な所見の存在をチェックした(排除)。本試験において「排除すべき」と決定された値は、さらなるアッセイに使用されなかった。すべてのデータに対して、記述統計学を使用した。平均値(M)及び標準誤差値(m)をカウントした。実験の過程で得た値の分布の正常性をコルモゴロフスミルノフ検定の助けを借りてチェックした。正常な分布の場合、スチューデントのt検定(t検定)を使用して群間の差異を評価した。正常な分布以外の分布の場合、いくつかの群の比較のためにクラスカルウォリス検定を(ダンの事後検定と共に)使用した。差異は信頼度5%で決定した。試験の結果は表4に提示されている。
【0121】
【0122】
化合物Iの投与は、カラシナ油の動物への直腸投与により引き起こされた痛覚の回数を、無処理の値のレベルまで減少させた。得たデータから、化合物Iは腸における疼痛症候群の顕著な鎮痛効果を有し、よって化合物Iは、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病及び他の消化器疾患における疼痛症状の治療に対して有用であると結論づけることが可能である。
【0123】
実施例13-モルモットのカプサイシン咳モデルにおける吸入投与による化合物Iの活性の試験
【0124】
カプサイシン咳モデルを標準的な手順に従い実現した(Tanaka M.、Maruyama K.、Mechanisms of Capsaicin- and Citric-Acid-Induced Cough Reflexes in Guinea Pigs//J Pharmacol Sci.、2005年、99巻、77~82頁)。Agouti系統のモルモットに試験を行った。個々の体重値は性別の平均値の±10%以内のずれとする。モルモットをプラスチックチャンバー内に配置した。咳を誘発させるため、ネブライザーを使用して、動物に濃度30μMのカプサイシン溶液を5分間吸入させた。吸入用溶液を以下の通り調製した:1.2mgのカプサイシンを20mlの混合物:10%エタノール及び10%Tween-80中で希釈した。カプサイシン溶液の吸入の15分前に、化合物Iを吸入で1回、1分間投与した。カプサイシン吸入後、咳発作の回数を15分間カウントした。得たデータは、グラブス検定を使用して、試料中の最も大きな又は最も小さな異常な所見の存在をチェックした(排除)。本試験において「排除すべき」と決定された値は、さらなるアッセイに使用されなかった。すべてのデータに対して、記述統計学を使用した。平均値(M)及び標準誤差値(m)をカウントした。実験の過程で得た値の分布の正常性をコルモゴロフスミルノフ検定の助けを借りてチェックした。正常な分布の場合、スチューデントのt検定(t検定)を使用して群間の差異を評価した。正常な分布以外の分布の場合、いくつかの群の比較のために、クラスカルウォリス検定をダンの事後検定と共に使用した。差異は信頼度5%で決定した。試験の結果は表5に提示されている。
【0125】
【表17】
化合物Iの吸入投与は、モルモットへのカプサイシン吸入後、15分間の咳発作の回数を有意に減少させた。得た結果から、化合物Iは顕著な鎮咳剤作用を有すると結論づけることが可能である。
【0126】
実施例14-モルモットのクエン酸塩咳モデルに対する吸入投与による化合物Iの活性の試験
【0127】
標準的な手順に従い、クエン酸塩咳モデルを実現した(Tanaka M.、Maruyama K.Mechanisms of Capsaicin- and Citric-Acid-Induced Cough Reflexes in Guinea Pigs//J Pharmacol Sci.、2005年、99巻.77~82頁)。Agouti系統のモルモットに対して試験を行った。個々の体重値は性別の平均値の±0%以内のずれとする。モルモットをプラスチックチャンバー内に配置した。咳を誘発させるため、ネブライザーを使用して、動物に生理食塩水中の濃度0.4mのクエン酸溶液を10分間吸入させた。クエン酸溶液の吸入の15分前に、化合物Iを吸入で1回1分間投与した。10分間のクエン酸吸入に対して、咳発作の回数を計算した。得たデータは、グラブス検定を使用して、試料中の最も大きな又は最も小さな異常な所見の存在をチェックした(排除)。本試験において「排除すべき」と決定された値は、さらなるアッセイに使用されなかった。すべてのデータに対して、記述統計学を使用した。平均値(M)及び標準誤差値(m)をカウントした。実験の過程で得た値の分布の正常性をコルモゴロフスミルノフ検定の助けを借りてチェックした。正常な分布の場合、スチューデントのt検定(t検定)を使用して群間の差異を評価した。正常な分布以外の分布の場合、いくつかの群の比較のために、クラスカルウォリス検定を(ダンの事後検定と共に)使用した。差異は信頼度5%で決定した。
【0128】
化合物Iの吸入投与は、クエン酸溶液のモルモットへの吸入後の10分間の間、咳発作の回数を有意に減少させた。薬理効果は、動物への試験化合物の投与の15分後にはすでに現れていた。
【0129】
【0130】
得た結果から、化合物Iは、高い作用開始率を特徴とする、吸入投与により顕著な鎮咳作用を有すると結論づけることが可能である。よって、化合物Iは、咳、さらに他の呼吸器疾患、例えば、COPD、気管支炎及び喘息の治療に使用することができる。
【0131】
実施例15-ラットへの経口投与後の化合物Iの薬物動態及び組織生物学的利用能の試験
【0132】
化合物Iはオピオイド受容体のアゴニストであるため、その高い全身性生物学的利用能により、及び脳血液バリアを介して、副作用の発症が潜在的に生じ得る。
【0133】
化合物1の低い全身利用度を確認するため、用量10mg/kgをラットに経口投与した後、化合物1の薬物動態及び生物学的利用能の試験を行った。試験は、18匹の雄Vistarラットで行った。動物の血液サンプリングは、調製物の投与後24時間の間の所与の時間点において行った。血漿試料中の化合物1の含有量をHPLC-MS/MSで分析すると、収量は1ng/mlであった。試験の結果は表7に示されている。
【0134】
【0135】
in vitro試験の過程で、化合物Iが1μM超の濃度で、オピオイド及びタキキニン受容体に対してモジュレート作用を示すことが示されたので、化合物Iは全身投与によりいかなる毒性作用も有さないと主張することが可能である。さらに、治療量で投与された場合、化合物Iはすラットの脳に浸透せず、動物のCNSに対していかなる作用も有し得ない。
【0136】
実施例16-マウスへの経口投与後の化合物Iの薬物動態及び組織生物学的利用能の試験
【0137】
化合物1の低い全身利用度を確認し、経口投与での化合物1の組織生物学的利用能を評価するために、用量10mg/kgをマウスに経口投与した後、化合物1の薬物動態及び生物学的利用能を試験した。動物の血液サンプリングは、調製物の投与後24時間の間の所与の時間点において行った。血漿試料中の化合物1の含有量をHPLC-MS/MSで分析すると、収量は1ng/mlであった。試験の結果は表8に提示されている。
【0138】
【0139】
in vitro試験の過程で化合物Iが1μM超の濃度(すなわち、300ng/ml超)でオピオイド及びタキキニン受容体に対してモジュレート作用を示すことが示されたので、経口投与された場合、化合物Iは、消化管組織に位置する受容体のみに薬理効果を引き起こすと主張することが可能である。さらに、脳内物質の平均濃度は、最低有効濃度より約3桁低い。
【0140】
実施例17-マウスの中枢神経系の機能的状態に対する化合物Iの作用の試験
【0141】
経口投与における化合物Iの安全性の最終確認のため、マウスの中枢神経系の機能的状態に対する化合物Iの作用の試験をオープンフィールド試験で行った。「オープンフィールド」試験は、動物の自然な挙動の登録における運動及び研究活動、方向性反応並びに情緒的反応の評価にある。標準的な技術に従い試験を行った(Buresh Y.、Bureshova O.、Joseph P.Houston.、Methods and main experiments to study the brain and behavior(Moscow、1991年、119~122頁)。
【0142】
雄のbalb/cマウスに対して試験を行った。マウスの個々の体重は性別の平均値の±10%以内のずれとする。
【0143】
化合物Iを1回、胃内に投与した。「オープンフィールド」におけるマウスの近似する研究挙動の試験において、化合物Iの投与の2時間後、中枢神経系に対する作用の評価を行った。実験的「オープンフィールド」施設は、正方形の床及び白色の壁を有するサイズ100×100×60cmのチャンバーであった。チャンバーの床は16個の正方形に分割されており、各正方形の中には直径6cmの丸い開口部がある。チャンバーは、チャンバーの床から1mの高さに位置する100ワットの電力の白熱電球で照らされている。動物はチャンバーの1つの角に配置し、15分間の間、マウスが横断した水平正方形の数(水平活動)、その後肢で立ち上がった回数(垂直活動)、洗浄の回数(毛づくろい)、及び糞便球の数による排便の回数を記録した。次いで全部の運動活性を計算し、活動性を、水平な正方形の横断、後肢立ち及び洗浄の合計として計算した。
【0144】
得たデータは、グラブス検定を使用して、試料中の最も大きな又は最も小さな異常な所見の存在をチェックした(排除)。本試験において「排除すべき」と決定された値は、さらなるアッセイに使用されなかった。すべてのデータに対して、記述統計学を使用した。平均値(M)及び標準誤差値(m)をカウントした。実験の過程で得た値の分布の正常性を、コルモゴロフ-スミルノフ検定の助けを借りてチェックした。正常な分布の場合、スチューデントのt検定(t検定)を使用して、群間の差異を評価した。正常な分布以外の分布の場合、いくつかの群の比較のために、クラスカルウォリス検定をダンの事後検定と共に使用した。差異は信頼度5%で決定した。試験の結果は表9に提示されている。
【0145】
胃内投与での化合物Iは、動物の実験群と対照群の指標に統計学的に有意な差異がないことにより証明されるように、マウスの近似する研究挙動の値に対して、「オープンフィールド」試験において有毒性影響を有さなかった。
【0146】
【表21】
実施例18-単回胃内投与における化合物Iの急性毒性の試験
【0147】
急性毒性試験を24匹の雄及び24匹の雌のラット、さらに24匹の雄及び24匹の雌のマウスに対して実施した。化合物Iの投与前に、動物の体重を記録し、投与の1時間後、実験動物の状態を観察した。次いで、物質投与後、14日間毎日ラット及びマウスの体重を記録し、動物の死亡及び状態の異常の症例を検出するための検査を行った。
【0148】
化合物Iを、ラット及びマウスに、胃内に5000mg/kgの用量、腹腔内に2000mg/kgの用量を投与した。対照群(雌の及び雄の対象)には、溶媒(水中0.1%Tween-80溶液)を与えた。化合物の弱い溶解度に関連して、2000mg/kgの用量を15分間ごとに2回腹腔内投与した。
【0149】
雄及び雌のラット及びマウスに投与した化合物Iの最大可能用量、胃内に5000mg/kg及び腹腔内に2000mg/kgの投与は、動物の死亡を引き起こさなかった。化合物Iの用量5000mg/kgでの胃内投与、及び用量2000mg/kgでの腹腔内投与において、雄及び雌のマウス並びにラットにおける体重増加の時間差があることが示された。実験動物の自然な挙動、引き起こされた反応に対する応答の差異は観察されなかった。得たデータに基づくと、化合物Iはやや有毒性化合物であり、GOST 12.1.007-76に従い毒性クラスIIIに属する。
【0150】
よって、行われた試験の過程で、化合物1はオピオイド及びタキキニン受容体並びにTRPV1及びTRPM8イオンチャネルのモジュレーターであることが示された。これらの治療ターゲットに対する影響により、化合物1は、咳、腹痛、炎症性及び機能的腸疾患のモデルにおいて顕著な治療効果を有することが可能である。全身性生物学的利用能が低く、脳への浸透がないことから、このような多薬剤の全身的用途において生じる副作用の発生を排除することが可能となる。
【0151】
本発明は開示された実施形態を参照して記載されているという事実に関わらず、詳細に記載されている特定の実験は、本発明を例示する目的のために単に提示されたものであり、決して本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではないことは当業者に明らかである。本発明の本質を逸脱することなく、様々な修正がなされ得ることを理解すべきである。