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  • 特許-半導体膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】半導体膜
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20230626BHJP
   C30B 25/16 20060101ALI20230626BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20230626BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20230626BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/16
C23C16/40
H01L21/205
H01L21/368 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021528677
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2019025042
(87)【国際公開番号】W WO2020261355
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】福井 宏史
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-146442(JP,A)
【文献】特開2016-027636(JP,A)
【文献】特開2018-002544(JP,A)
【文献】KIM,Kyoung-Ho, et al.,Growth of 2-Inch α-Ga2O3 Epilayers via Rear-Flow-Controlled Mist Chemical Vapor Deposition,ECS Journal of Solid State Science and Technology,2019年03月20日,vol.8,no.7,Q3165-Q3170,<DOI:10.1149/2.0301907jss>
【文献】HA,Minh-Tan, et al.,Understanding Thickness Uniformity of Ga2O3 Thin Films Grown by Mist Chemical Vapor Deposition,ECS Journal of Solid State Science and Technology,2019年04月19日,vol.8,no.7,Q3206-Q3212,<DOI:10.1149/2.0381907jss>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205,21/365,21/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-Ga23又はα-Ga23系固溶体で構成されるコランダム型結晶構造を有する半導体膜であって、
膜表面の面積が19cm2以上であり、
最小膜厚が最大膜厚の50%以上95%以下であり、
膜表面の面積20cm 2 あたりのクラック数が20個以下であり、
前記半導体膜を平面視したときの平面視図形において、前記平面視図形の重心である点Gから4つの直線を90°おきに引き、各直線が前記平面視図形の外縁と交差する点を点P,Q,R,Sとし、線分GP,GQ,GR,GSの長さを点Gから8:2に分ける点を点A,B,C,Dとしたとき、点G,A,B,C,Dにおける膜厚Gt,At,Bt,Ct,Dtのうちの最小値を前記最小膜厚、最大値を前記最大膜厚に設定し、
膜厚Gtは、膜厚At,Bt,Ct,Dtのいずれよりも大きい、
半導体膜。
【請求項2】
膜厚At,Bt,Ct,Dtのうちの最小値は、膜厚At,Bt,Ct,Dtのうちの最大値の80%以上である、
請求項に記載の半導体膜。
【請求項3】
膜厚Gt,At,Ctは、
Z=(|At-Gt|+|Ct-Gt|)/AC<8.0×10-6
(式中、ACは線分ACの長さである)
を満たす、
請求項1又は2に記載の半導体膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化ガリウム(Ga23)が半導体用材料として着目されている。酸化ガリウムはα、β、γ、δ及びεの5つの結晶形を有することが知られているが、この中で、準安定相であるα-Ga23はバンドギャップが5.3eVと非常に大きく、パワー半導体用材料として期待を集めている。
【0003】
例えば、特許文献1には、コランダム型結晶構造を有する下地基板と、コランダム型結晶構造を有する半導体層と、コランダム型結晶構造を有する絶縁膜とを備えた半導体装置が開示されており、サファイア基板上に、半導体層としてα-Ga23膜を成膜した例が記載されている。また、特許文献2には、コランダム構造を有する結晶性酸化物半導体を主成分として含むn型半導体層と、六方晶の結晶構造を有する無機化合物を主成分とするp型半導体層と、電極とを備えた半導体装置が開示されている。この特許文献2の実施例には、c面サファイア基板上に、n型半導体層として準安定相であるコランダム構造を有するα-Ga23膜を、p型半導体層として六方晶の結晶構造を有するα-Rh23膜を形成して、ダイオードを作製することが開示されている。
【0004】
ところで、異種基板上にα-Ga23膜を結晶成長させる際に、クラックや結晶欠陥が生じるという問題がある。α-Ga23と異種コランダム材料との混晶であるInAlGaO系の半導体膜を成膜する際も、通常、異種基板上に結晶成長を行うため、エピタキシャル膜にクラックが入る等の問題が生じている。この問題に対処する技術として、特許文献3では、クラックの少ないα-Ga23膜を作製することが開示されている。また、特許文献4には、エピタキシャル膜の成膜時にボイドを含ませることにより、クラックが低減されたα-Ga23膜を作製することが開示されている。
【0005】
特許文献5には、2層以上の酸化物層が形成されている成膜用下地基板を用いることで、大面積で実質的にクラックを含まない結晶性酸化物半導体膜を得た例が開示されている。しかしながら、下地基板上に複数の層を形成する必要があり、作業が煩雑でコスト的にも不利となる。また、この手法を用いて作製した膜を成膜用下地基板から分離して自立化する場合や、他の支持基板に転載する場合は、依然としてクラック等が生じやすい。そのため、成膜時のみならず自立化した後においてもクラック等が生じにくいα-Ga23系半導体膜及びその製造方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-72533号公報
【文献】特開2016-25256号公報
【文献】特開2016-100592号公報
【文献】特開2016-100593号公報
【文献】特開2018-2544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、低コストなパワー半導体デバイスを作成するには、大口径の基板上にα-Ga23系半導体膜を形成することが好ましいが、膜表面の面積が大きくなると、半導体膜にクラックが発生しやすくなるという問題があった。例えば、特許文献3,4では、1辺が10mmの正方形の結晶成長用基板を用いてその基板上にα-Ga23系半導体膜を形成しているため、得られる半導体膜の膜表面の面積は1cm2程度に過ぎず、半導体膜にクラックが発生しにくい条件であった。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、膜表面の面積が大きいにもかかわらずクラックが少ないα-Ga23系半導体膜を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体膜は、α-Ga23又はα-Ga23系固溶体で構成されるコランダム型結晶構造を有する半導体膜(α-Ga23系半導体膜)であって、膜表面の面積が19cm2以上であり、最小膜厚が最大膜厚の50%以上95%以下のものである。
【0010】
この半導体膜によれば、膜表面の面積が大きいにもかかわらずクラックが少なくなる。そのメカニズムは、明確ではないが、膜厚の分布を一定範囲内とすることで、α-Ga23系半導体膜においては膜内の応力集中が起きにくくなるものと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】半導体膜の膜厚測定位置の説明図である。
図2】ミストCVD装置10の構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[半導体膜]
本実施形態の半導体膜は、α-Ga23又はα-Ga23系固溶体からなるコランダム型結晶構造を有する。こうした半導体膜を、α-Ga23系半導体膜と称する。α-Ga23は、三方晶系の結晶群に属し、コランダム型結晶構造をとる。また、α-Ga23系固溶体は、α-Ga23に他の成分が固溶したものであり、コランダム型結晶構造が維持されている。他の成分としては、例えば、Al23、In23、Cr23、Fe23、Rh23、V23、Ti23などが挙げられる。半導体膜を平面視したときの平面視図形は、特に限定されるものではなく、例えば円形であってもよいし、多角形(正方形や長方形などの四角形のほか、五角形や六角形など)であってもよい。
【0013】
半導体膜の膜表面の面積は、好ましくは19cm2以上、より好ましくは70cm2以上、さらに好ましくは170cm2以上である。このように半導体膜を大面積化することにより、一枚の半導体膜から半導体素子を多数個取りすることが可能となり、製造コストの低減化を図ることができる。半導体膜の大きさの上限は特に限定されるものではないが、典型的には、片面700cm2以下である。
【0014】
半導体膜は、最小膜厚が最大膜厚の50%以上95%以下であることが好ましい。膜厚の分布をこの範囲に入るようにすることで、半導体膜内の応力集中が起きにくくなるものと推定される。最小膜厚が最大膜厚の50%未満であったり95%超であったりすると、クラック数が増加するため好ましくない。
【0015】
半導体膜の最小膜厚と最大膜厚は、例えば以下のように設定することができる。図1は半導体膜の膜厚測定位置の説明図である。まず、半導体膜を平面視したときの平面視図形において、その平面視図形の重心である点Gから4つの直線を90°おきに引き、各直線が半導体膜の外縁と交差する点を点P,Q,R,Sとする。そして、線分GP,GQ,GR,GSの長さを点Gから8:2に分ける点を点A,B,C,Dとし、点G,A,B,C,Dにおける膜厚Gt,At,Bt,Ct,Dtのうちの最小値を最小膜厚、最大値を最大膜厚に設定する。膜厚の測定は、例えば断面TEM観察によって行うことができる。膜厚Gtは、膜厚At,Bt,Ct,Dtの平均値AVtよりも大きいことが好ましく、膜厚At,Bt,Ct,Dtのいずれよりも大きいことが好ましい。また、膜厚At,Bt,Ct,Dtのうちの最小値である外周最小値は、膜厚At,Bt,Ct,Dtのうちの最大値である外周最大値の80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。クラック数をより少なくする観点からすると、膜厚Gt,At,Ctは、下記式を満たすようにすることが好ましい。なお、下記式中、ACは線分ACの長さ、Constは定数である。Constは8.0×10-6 であることが好ましく、5.0×10-6 であることがより好ましく、2.5×10-6 であることがさらに好ましい。半導体膜は平面視図形が円形であることが好ましい。なお、下記式において、膜厚Atを膜厚Btに、膜厚Ctを膜厚Dtに、ACをBD(線分BDの長さ)に置き換えたとしても、下記式の関係を満たすことが好ましい。
Z=(|At-Gt|+|Ct-Gt|)/AC<Const
【0016】
半導体膜の膜表面の面積20cm2あたりのクラック数は、好ましくは20個以下、より好ましくは15個以下、さらに好ましくは10個以下、特に好ましくは5個以下である。クラック数のカウントは、工業用顕微鏡(ニコン製ECLIPSE LV150N)を用いて行うことができる。接眼レンズを10倍、対物レンズを5倍とし、偏光・微分干渉モードにて膜表面全体を観察し、クラックが確認された場合は対物レンズを10倍に変更し、画像を取得する。本実施形態では、長さ50μm以上のクラックのみ、クラックとしてカウントする。また、あるクラックから別のクラックまでの距離が500μm以下の場合は一つのクラックとみなす。半導体膜のサイズに関わらず、膜表面の全面でのクラック数を計測し、膜面積20cm2当たりに換算する。
【0017】
半導体膜は、ドーパントとして14族元素を1.0×1015~1.0×1021/cm3の割合で含むことができる。ここで、14族元素はIUPAC(国際純正・応用化学連合)が策定した周期表による14族元素のことであり、具体的には、炭素(C)、珪素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)及び鉛(Pb)のいずれかの元素である。ドーパント量は所望の特性に合わせて適宜変更することができるが、好ましくは、1.0×1015~1.0×1021/cm3、より好ましくは1.0×1017~1.0×1019/cm3である。これらのドーパントは膜中に均一に分布し、半導体膜の表面と裏面のドーパント濃度は同程度であることが好ましい。
【0018】
さらに、半導体膜は、特定の面方位に配向した配向膜であるのが好ましい。半導体膜の配向性は公知の方法で調べることができるが、例えば、電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて、逆極点図方位マッピングを行うことで、調べることができる。例えば、半導体膜は、c軸配向していてもよいし、c軸配向すると共に面内方向にも配向していてもよい。
【0019】
半導体膜の平均膜厚は、コスト面及び要求される特性の観点から適宜調整すればよい。すなわち、厚すぎると成膜に時間がかかるため、コスト面からは極端に厚くない方が好ましい。また、特に高い絶縁耐圧が要求されるデバイスを作製する場合には、厚い膜とすることが好ましい。一方、縦方向(厚さ方向)の導電性が要求されるデバイスを作製する場合には、薄い膜とすることが好ましい。このように所望の特性に合わせて平均膜厚を適宜調整すればよいが、典型的には0.1~50μm、好ましくは0.2~20μm、より好ましくは0.2~10μmである。膜厚をこのような範囲とすることで、コスト面や半導体特性の両立が可能となる。また、自立した半導体膜が必要な場合は平均膜厚を厚くすればよく、例えば50μm以上、好ましくは100μm以上であり、コスト面の制限がない限り特に上限はない。
【0020】
[半導体膜の製造方法]
本実施形態の半導体膜の製造方法は、上述した半導体膜を製造することができるのであれば、特に限定されるものではない。例えば、ミストCVD、HVPE、MBE、MOCVD及びスパッタリングなどを用いることができるが、このうちミストCVD及びHVPEが好ましく、ミストCVDがより好ましい。半導体膜の膜厚の分布は、ミストCVDでは、結晶成膜用の下地基板の回転数や、ミストを噴出するノズルの上端と下地基板の下面との距離などにより制御することができる。HVPEでは、ガス流路の幅に対する基板サイズの割合や、基板を載置する治具の形状、ガスの流れを制御する整流板、基板の回転有無等により制御することができ、スパッタリングでは、基板を載置する治具の形状、ターゲットと基板のサイズ関係や位置関係、マスクの適用等により制御することができる。以下には、ミストCVDについて詳説する。
【0021】
図2は、ミストCVD装置10の構成を示す模式断面図である。ミストCVD装置10は、ミスト発生器12と、ミスト供給管18と、成長室20とを備えている。ミスト発生器12は、底面に設けられた超音波振動子14を作動することにより、ミスト発生器12内に蓄えられた原料溶液を超音波で振動させてミストを発生する。ミスト発生器12の側面には、ガス導入口16が設けられている。ガス導入口16は、外部からキャリアガスをミスト発生器12内に導入可能となっている。ミスト供給管18は、ミスト発生器12と成長室20とを連結している。ミスト供給管18の下端は、ミスト発生器12の天井面を貫通してミスト発生器12の内部と連通している。ミスト供給管18の上端は、成長室20の床面に取り付けられたノズル22と連通している。そのため、ミスト発生器12で発生したミストは、ミスト供給管18を経て成長室20内に供給される。成長室20は、円筒容器であり、側面上部にガス排出口24を備えると共に、天井面に回転ステージ26を備える。回転ステージ26は、円盤状の回転体であり、図示しないモータによって回転軸26aが回転するのに伴って回転する。回転ステージ26の下面には、結晶成長用の下地基板28が着脱可能に保持される。成長室20の天井面には、回転ステージ26に保持された下地基板28を加熱するためのヒータ30が設けられている。
【0022】
ミストCVD装置10を用いて本実施形態の半導体膜を形成する場合について説明する。ミストCVD法に用いる原料溶液としては、α-Ga23又はα-Ga23系固溶体からなる半導体膜が得られる溶液であれば限定されるものではないが、例えば、Ga及び/又はGaと固溶体を形成する金属の有機金属錯体やハロゲン化物を溶媒に溶解させたものが挙げられる。又、金属Gaを酸で溶解させたものでも良い。有機金属錯体としてはアセチルアセトナート錯体を挙げることができる。また、半導体膜にドーパントを加える場合には、原料溶液にドーパント成分の溶液を加えてもよい。さらに、原料溶液には塩酸等の添加剤を加えてもよい。溶媒としては水やアルコール等を使用することができる。用意した原料溶液をミスト発生器18内に入れる。回転ステージ26の下面に、下地基板28としてα-Al23であるサファイア基板を着脱可能に保持する。このとき、ノズル22の上端と下地基板28の下面との距離d(図2参照)を適正な値(例えば100mm以上200mm以下)に設定する。そして、回転ステージ26を所望の回転数(例えば5rpm以上100rpm以下)で回転させる。また、ヒータ30によって回転ステージ26を所望の温度(例えば300℃以上800℃以下、好ましくは400℃以上700℃以下)に加熱する。そして、ミスト発生器18において、原料溶液を超音波振動子14により霧化してミストを発生させる。ミスト発生器18で発生したミストは、ガス導入口16から導入されるキャリアガス(例えばN2や希ガスなど)と共に、ミスト供給管18を通って成長室20の床面に設けられたノズル22から成長室20内へ上向きに供給される。これにより、原料溶液内のハロゲン化ガリウムは熱分解されて酸化ガリウムとなり、下地基板28の下面でヘテロエピタキシャル成長してα-Ga23系半導体膜となる。成長時間は、半導体膜の膜厚の設計値に応じて適宜設定すればよい。得られた半導体膜は、そのままの形態又は分割して半導体素子とすることが可能である。あるいは、半導体膜を下地基板28から剥離して膜単体の形態としてもよいし、剥離した半導体膜を下地基板28とは別の材料からなる支持基板に転載してもよい。
【0023】
下地基板28は、コランダム構造を有する基板が好ましく、特にc軸及びa軸の二軸に配向した基板(二軸配向基板)が好ましい。二軸配向基板は、多結晶やモザイク結晶(結晶方位が若干ずれた結晶の集合)であってもよいし、単結晶であってもよい。下地基板28は、コランダム構造を有する限り、単一の材料で構成されるものでもよいし、複数の材料の固溶体であってもよい。下地基板28は、コランダム構造を有する材料のベース基板上に、その材料よりも格子定数がα-Ga23に近い材料の層を備えた複合下地基板であってもよい。複合下地基板は、例えば、(a)コランダム構造を有する材料のベース基板を準備し、(b)格子定数がベース基板の材料よりもα-Ga23に近い材料を用いて配向前駆体層を作製し、(c)ベース基板上で配向前駆体層を熱処理してその少なくともベース基板近くの部分を配向層に変換し、所望により、(d)研削や研磨等の加工を施して配向層の表面を露出させることにより、製造することができる。下地基板28としては、例えばサファイア基板や、サファイア基板の一面に格子定数がサファイアよりもα-Ga23に近い酸化物(α-Cr23やα-Fe23など)の層を備えた複合下地基板などが挙げられる。
【0024】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0025】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]
1.膜の作製
(1)原料溶液の作製
塩酸に金属Gaを添加し、室温で3週間撹拌することでガリウムイオン濃度が3mol/Lとなる塩化ガリウム溶液を得た。得られた塩化ガリウム溶液に水を加えてガリウムイオン濃度が40mmol/Lとなるように水溶液を調整した。更に水酸化アンモニウムを添加して、pHを4.0となるように調整し、原料溶液とした。
【0027】
(2)成膜準備
図2に示した構成を有するミストCVD装置10において、上記(1)の原料溶液をミスト発生器12内に収容した。次に、下地基板28としてφ50.8mm(面積20.3cm2)のc面サファイア基板をセットし、ノズル22の上端と下地基板28の下面との間の距離dを150mmとした。ヒータ30により、回転ステージ26の温度を500℃まで昇温させ、温度安定化のため30分保持した。次に、ガス導入口16に備えられた図示しない流量調節弁を開いてキャリアガスをミスト発生器12及び成膜室20の内部に供給し、ミスト発生器12及び成膜室20の雰囲気をキャリアガスで十分置換した後、キャリアガスの流量を1.0L/minに調節した。ここでは、キャリアガスとして窒素ガスを用いた。
【0028】
(3)成膜
回転ステージ26の回転数を5rpmとし、超音波振動子14によって原料溶液を霧化し、発生したミストをキャリアガスによって成膜室20内に導入し、成膜室20内で反応させることで下地基板28の下面に円形の膜を形成した。成膜温度は500℃、成膜時間は1時間であった。膜の面積は、下地基板28の面積から、下地基板28を回転ステージ26に保持する治具で覆われていた面積1cm2を差し引いた19.3cm2であった。
【0029】
2.膜の評価
(1)表面EDX
得られた膜の表面のEDX測定を実施した結果、Ga、Oのみが検出された。これにより、得られた膜はGa酸化物であることが分かった。
【0030】
(2)EBSD
Ga酸化物膜のEBSD測定を行った。得られた逆極点図方位マッピングから、Ga酸化物膜は基板法線方向にc軸配向、面内も配向した二軸配向のコランダム型結晶構造を有することが分かった。これらより、α-Ga23からなる配向膜が形成されていることが示された。
【0031】
(3)膜厚
膜厚は、断面TEM観察により評価することができる。一般的な透過型電子顕微鏡を用いて行うことが可能であり、例えば、日立製H-90001UHR-Iを用いる場合、加速電圧300kVでTEM観察を行えばよい。TEM観察に用いる試験片は、膜厚測定箇所の膜及び基板をFIBによりサンプリングし、イオンミリングにより薄片化することで作製すればよい。こうして得られた試験片断面のTEM像から膜厚を評価することができる。膜厚は、基板上の点G,A,B,C,Dの5点の位置にて、膜厚Gt,At,Bt,Ct,Dtを測定した。そして、膜厚At,Bt,Ct,Dtの平均値を平均膜厚AVtとし、Gt/AVtを求めた。また、膜厚Gt,At,Bt,Ct,Dtのうちの最小値及び最大値をそれぞれ最小膜厚及び最大膜厚とし、最小膜厚/最大膜厚を求めた。更に、膜厚At,Bt,Ct,Dtのうちの最小値及び最大値をそれぞれ外周最小値及び外周最大値とし、外周最小値/外周最大値を求めた。加えて、[発明を実施するための形態]の欄で説明したZの値も求めた。それらの結果を表1に示す。
【0032】
(4)クラック数
膜表面の面積20cm2あたりのクラック数は、[発明を実施するための形態]の欄で述べた方法によりカウントした。すなわち、工業用顕微鏡(ニコン製ECLIPSE LV150N)を用いて、接眼レンズを10倍、対物レンズを5倍とし、偏光・微分干渉モードにて膜表面全体を観察し、クラックが確認された場合は対物レンズを10倍に変更し、画像を取得した。そして、長さ50μm以上のクラックのみ、クラックとしてカウントした。また、あるクラックから別のクラックまでの距離が500μm以下の場合は一つのクラックとみなした。膜のサイズに関わらず、膜表面の全面でのクラック数を計測し、膜面積20cm2当たりに換算した。その結果を表1に示す。
【0033】
[実施例2]
回転ステージの回転数を100rpmとした以外は、実施例1と同様の方法で成膜・評価を行った。その結果を表1に示す。実施例2で得られた半導体膜も、EDX測定からGa酸化物であること、EBSD測定から二軸配向のコランダム型結晶構造を有する配向膜であることが分かった。
【0034】
[実施例3]
回転ステージの回転数を20rpmとした以外は、実施例1と同様の方法で成膜・評価を行った。その結果を表1に示す。実施例3で得られた半導体膜も、EDX測定からGa酸化物であること、EBSD測定から二軸配向のコランダム型結晶構造を有する配向膜であることが分かった。
【0035】
[実施例4]
回転ステージの回転数を10rpmとし、下地基板のサイズをφ100mm(面積78.5cm2)とした以外は、実施例1と同様の方法で成膜・評価を行った。その結果を表1に示す。実施例4で得られた半導体膜も、EDX測定からGa酸化物であること、EBSD測定から二軸配向のコランダム型結晶構造を有する配向膜であることが分かった。
【0036】
[比較例1]
回転ステージの回転数を1000rpmとした以外は、実施例1と同様の方法で成膜・評価を行った。その結果を表1に示す。比較例1で得られた半導体膜も、EDX測定からGa酸化物であること、EBSD測定から二軸配向のコランダム型結晶構造を有する配向膜であることが分かった。
【0037】
[比較例2]
ノズル先端と基板の間の距離を50mmとした以外は、実施例2と同様の方法で成膜・評価を行った。その結果を表1に示す。比較例2で得られた半導体膜も、EDX測定からGa酸化物であること、EBSD測定から二軸配向のコランダム型結晶構造を有する配向膜であることが分かった。
【0038】
[考察]
実施例1~4では、最小膜厚/最大膜厚が50%以上95%以下であったため、膜表面20cm2あたりのクラック数は20個以下であった。これに対して、比較例1では最小膜厚/最大膜厚が95%超、比較例2では最小膜厚/最大膜厚が50%未満だったため、膜表面20cm2あたりのクラック数は100個を超えた。
【0039】
実施例1~4のうち、実施例1,3,4は、膜厚Gtが平均膜厚AVtよりも大きかった(つまりGt/AVt>1だった)ため、そうではない実施例2に比べてクラック数が少なかった。また、実施例1,3,4は、膜厚Gtが膜厚At,Bt,Ct,Dtのいずれよりも大きかったため、そうではない実施例2に比べてクラック数が少なかった。また、実施例1,3,4のうち、実施例3,4は外周最小値が外周最大値の80%以上であったため、そうではない実施例1に比べてクラック数が少なかった。実施例3,4のうち、実施例3はZが8.0×10-6 未満だったため、そうではない実施例4に比べてクラック数が少なかった。
【0040】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えばパワー半導体用材料などに利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 ミストCVD装置、12 ミスト発生器、14 超音波振動子、16 ガス導入口、18 ミスト供給管、20 成長室、22 ノズル、24 ガス排出口、26 回転ステージ、26a 回転軸、28 下地基板、30 ヒータ。
図1
図2