IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミルボンの特許一覧 ▶ 学校法人 関西大学の特許一覧

特許7302033被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体
<>
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図1
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図2
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図3
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図4
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図5
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図6
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図7
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図8
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図9
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図10
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図11
  • 特許-被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】被験物の安全性予測方法、化粧品の製造方法、安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法、および安全性予測用媒体
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20230626BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230626BHJP
   A61K 8/00 20060101ALI20230626BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
A61Q1/00
A61Q19/00
A61K8/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021572616
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2021015435
(87)【国際公開番号】W WO2021225063
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2020082451
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【弁理士】
【氏名又は名称】合路 裕介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 廉
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】豊田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 勇希
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-185129(JP,A)
【文献】特開2014-211442(JP,A)
【文献】特開2018-173336(JP,A)
【文献】NAKAMURA DAISUKE、外2名,Nontoxic organic solvents identified using an a priori approach with Hansen solubility parameters,Chemical Communications,2017年,Vol.53,No.29 , Page.4096-4099
【文献】山本博志,溶解度パラメータの計算方法と、溶解性評価への利用,Material Stage,日本,2009年,Vol.9, No.5,pp.21-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
A61Q 1/00
A61Q 19/00
A61K 8/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
OECD毒性試験ガイドラインのリストに含まれる試験に対応する安全性試験(但し、適合対象である細胞に対して適合性のあるハンセン溶解度パラメータ(HSP)を有する生体適合性液体を、使用する試験を除く)における被験物の安全性を予測するための被験物の安全性予測方法であって、
複数種類の参考物において前記安全性試験に対する安全性が高いものを高安全性物、安全性が低いものを低安全性物とみなして、各参考物におけるハンセン溶解度パラメータ(HSP値)の少なくとも1つのパラメータを基に特定された高安全性範囲及び/又は低安全性範囲に対し、
被験物のHSP値のパラメータが含まれるか否かに基づいて、被験物における安全性を予測するようにしたことを特徴とする被験物の安全性予測方法。
【請求項2】
高安全性範囲及び/又は低安全性範囲として、各参考物におけるHSP値の3つのパラメータを基に特定されたものを用いる請求項1に記載の被験物の安全性予測方法。
【請求項3】
高安全性範囲及び/又は低安全性範囲として、各参考物を基に作成されたハンセン溶解球を用いる請求項1または2に記載の被験物の安全性予測方法。
【請求項4】
被験物を構成する成分毎に安全性を予測するようにした請求項1~3のいずれか1項に記載の被験物の安全性予測方法。
【請求項5】
被験物を構成する組成物に対して安全性を予測するようにした請求項1~4のいずれか1項に記載の被験物の安全性予測方法。
【請求項6】
化粧品の安全性を予測するための化粧品の安全性予測方法であって、
化粧品を被験物として、請求項1~5のいずれか1項に記載の安全性予測方法を用いて安全性を予測するようにしたことを特徴とする化粧品の安全性予測方法。
【請求項7】
化粧品に配合される原料の安全性を予測するための化粧品原料の安全性予測方法であって、
化粧品の原料を被験物として、請求項1~5のいずれか1項に記載の安全性予測方法を用いて安全性を予測するようにしたことを特徴とする化粧品原料の安全性予測方法。
【請求項8】
化粧品を製造するための化粧品の製造方法であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載の安全性予測方法において安全性が高いと予測された被験物を用いて化粧品を製造するようにしたことを特徴とする化粧品の製造方法。
【請求項9】
OECD毒性試験ガイドラインのリストに含まれる試験に対応する安全性試験(但し、適合対象である細胞に対して適合性のあるハンセン溶解度パラメータ(HSP)を有する生体適合性液体を、使用する試験を除く)に対する被験物の安全性を、被験物のHSP値の少なくとも1つのパラメータを基に予測する際に用いられる高安全性範囲及び/又は低安全性範囲を特定するための方法であって、
複数種類の参考物において前記安全性試験に対する安全性が高いものを高安全性物、安全性が低いものを低安全性物溶解物とみなして、各参考物におけるHSP値の少なくとも1つのパラメータを基に高安全性範囲及び/又は低安全性範囲を特定するようにしたことを特徴とする安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法。
【請求項10】
前記安全性試験に対して複数種類の参考物において安全性が高いか否かの情報を取得する工程と、
各参考物のHSP値の少なくとも1つのパラメータを取得する工程とを含む請求項9に記載の安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法。
【請求項11】
各参考物のHSP値の3つのパラメータを取得する工程と、
被験物のHSP値の3つのパラメータを取得する工程とを含む請求項9または10に記載の安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化粧品等の被験物においてその安全性を予測するための被験物の安全性予測方法及びその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品、医療品等においては言うまでもなく安全性を確保することは重要な事項である。その一方、近年においては、社会的に自然志向や動物愛護の考え方が拡がるなか、欧州では化粧品に関する動物実験の禁止を定めた指令が制定されたこともあり、化粧品業界等では動物実験を行わずに化粧品の安全性や有効性の評価試験を行うことができる動物実験代替法が多くの注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-100号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように化粧品業界等においては、動物実験を可及的に制限しつつ化粧品の安全性を担保できる化粧品の安全性予測方法の開発が強く求められているというのが現状である。
【0005】
この発明は、上記の実状に鑑みてなされたものであり、動物実験に依存せず又は動物実験への依存を抑えつつ、化粧品等の被験物の安全性を予測することができる被験物の安全性予測方法及びその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者は、鋭意努力した結果、所定の安全性試験における被験物の安全性を予測するに際し、高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の予測範囲を、ハンセン溶解度パラメータ(HSP値)を基に特定できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0008】
[1]所定の安全性試験における被験物の安全性を予測するための被験物の安全性予測方法であって、
複数種類の参考物において所定の安全性試験に対する安全性が高いものを高安全性物、安全性が低いものを低安全性物とみなして、各参考物におけるハンセン溶解度パラメータ(HSP値)の少なくとも1つのパラメータを基に特定された高安全性範囲及び/又は低安全性範囲に対し、
被験物のHSP値のパラメータが含まれるか否かに基づいて、被験物における安全性を予測するようにしたことを特徴とする被験物の安全性予測方法。
【0009】
[2]高安全性範囲及び/又は低安全性範囲として、各参考物におけるHSP値の3つのパラメータを基に特定されたものを用いる前項[1]に記載の被験物の安全性予測方法。
【0010】
[3]高安全性範囲及び/又は低安全性範囲として、各参考物を基に作成されたハンセン溶解球を用いる前項[1]または[2]に記載の被験物の安全性予測方法。
【0011】
[4]被験物を構成する成分毎に安全性を予測するようにした前項[1]~[3]のいずれか1項に記載の被験物の安全性予測方法。
【0012】
[5]被験物を構成する組成物に対して安全性を予測するようにした前項[1]~[4]のいずれか1項に記載の被験物の安全性予測方法。
【0013】
[6]所定の安全性試験は、OECD毒性試験ガイドラインのリストに含まれる試験に対応する試験である前項[1]~[5]のいずれか1項に記載の被験物の安全性予測方法。
【0014】
[7]化粧品の安全性を予測するための化粧品の安全性予測方法であって、
化粧品を被験物として、前項[1]~[6]のいずれか1項に記載の安全性予測方法を用いて安全性を予測するようにしたことを特徴とする化粧品の安全性予測方法。
【0015】
[8]化粧品に配合される原料の安全性を予測するための化粧品原料の安全性予測方法であって、
化粧品の原料を被験物として、前項[1]~[6]のいずれか1項に記載の安全性予測方法を用いて安全性を予測するようにしたことを特徴とする化粧品原料の安全性予測方法。
【0016】
[9]化粧品を製造するための化粧品の製造方法であって、
前項[1]~[6]のいずれか1項に記載の安全性予測方法において安全性が高いと予測された被験物を用いて化粧品を製造するようにしたことを特徴とする化粧品の製造方法。
【0017】
[10]所定の安全性試験に対する被験物の安全性を、被験物のHSP値の少なくとも1つのパラメータを基に予測する際に用いられる高安全性範囲及び/又は低安全性範囲を特定するための方法であって、
複数種類の参考物において所定の安全性試験に対する安全性が高いものを高安全性物、安全性が低いものを低安全性物溶解物とみなして、各参考物におけるHSP値の少なくとも1つのパラメータを基に高安全性範囲及び/又は低安全性範囲を特定するようにしたことを特徴とする安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法。
【0018】
[11]所定の安全性試験に対して複数種類の参考物において安全性が高いか否かの情報を取得する工程と、
各参考物のHSP値の少なくとも1つのパラメータを取得する工程とを含む前項[10]に記載の安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法。
【0019】
[12]各参考物のHSP値の3つのパラメータを取得する工程と、
被験物のHSP値の3つのパラメータを取得する工程とを含む前項[10]または[11]に記載の安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法。
【0020】
[13]前項[10]~[12]のいずれか1項に記載の特定方法によって特定された高安全性範囲及び/又は低安全性範囲に関する情報が記憶されたことを特徴とする安全性予測用媒体。
【発明の効果】
【0021】
発明[1]の被験物の安全性予測方法によれば、ハンセン溶解度パラメータ(HSP値)を基に、参考物である高安全性物及び/又は低安全性物から高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の予測範囲を特定して、その範囲を基準にして被験物の安全性を予測するものであるため、動物実験に依存せず又は動物実験への依存を抑えつつ、被験物の安全性を予測することができる。
【0022】
発明[2]~[6]の被験物の安全性予測方法によれば、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0023】
発明[7]の化粧品の安全性予測方法によれば、上記と同様、動物実験に依存せず又は動物実験への依存を抑えつつ、化粧品の安全性を予測することができる。
【0024】
発明[8]の化粧品の安全性予測方法によれば、上記と同様、動物実験に依存せず又は動物実験への依存を抑えつつ、化粧品原料の安全性を予測することができる。
【0025】
発明[9]の化粧品の製造方法によれば、安全性が高いと予測された被験物を用いて化粧品を製造することができる。
【0026】
発明[10]~[12]の安全性予測用の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲の特定方法によれば、動物実験に依存せず又は動物実験への依存を抑えつつ、被験物の安全性予測の指標となる高安全性範囲及び/又は低安全性範囲を特定することができる。
【0027】
発明[13]の安全性予測用媒体を利用することによって、動物実験に依存せず又は動物実験への依存を抑えつつ、被験物の安全性を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1はこの発明の実施例1においてTG491の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図2図2は実施例2においてTG442Bの安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図3図3は実施例3においてTG404の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図4図4は実施例4においてTG457の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図5図5は実施例5においてTG438の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図6図6は実施例6においてTG460の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図7図7は実施例7においてTG430の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図8図8は実施例8においてTG435の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図9図9は実施例9においてTG429の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図10図10は実施例10においてTG440の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図11図11は実施例11においてGHS Part3. Chapter3.2の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
図12図12は実施例12においてGHS Part3. Chapter3.1の安全性予測範囲に関するハンセン溶解球を説明するための3次元グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態である化粧品等の被験物の安全性予測方法は、所定の安全性試験に対し、複数種類の参考物における安全性の評価を入手し、各参考物のうち安全性が高いものを高安全性物、安全性が低いものを低安全性物とみなし、高安全性物及び低安全性物におけるハンセン溶解度パラメータ(HSP値)に基づいて、所定の安全性試験におけるHSP値による高安全性範囲及び低安全性範囲を特定する。そして化粧品等の被験物のHSP値を入手して、そのHSP値が高安全性範囲に含まれる場合には、安全性が高いと予測し、低安全性範囲に含まれる場合には、安全性が低いと予測する。なお、各参考物のうち「安全性が高いもの」と「安全性が低いもの」との区別の仕方は、特に限定されず、例えば、入手された複数種類の参考物における安全性の評価に基づいて相対的に定めることができる。例えば、所定の評価基準と比較して安全性の評価が高いものを「安全性が高いもの」とし、所定の評価基準と比較して安全性の評価が低いものを「安全性が低いもの」とすることができる。
【0030】
本実施形態において用いられるHSP値は「δd」「δp」「δh」の3つのパラメータを含む。これらのパラメータのうちの「δd」は分散力項であり、ほぼ全ての物質がもつファンデルワールス相互作用から生じる非極性相互作用のパラメータである。「δp」は双極子間力項であり、双極子間相互作用が基となるパラメータである。「δh」は水素結合力項であり、水素結合による相互作用に基づくパラメータである。
【0031】
本実施形態において、高安全性範囲及び低安全性範囲は例えば、各参考物を基に作成されたハンセン溶解球を用いて特定する。
【0032】
この安全性範囲に関するハンセン溶解球は後述の実施例でも説明するが、具体的にはまず各参考物のHSP値を入手しておき、各参考物のHSP値を3次元空間の位置座標とみなして、3次元グラフ上にプロットする。
【0033】
次に低安全性物の座標を含み、かつ高安全性物の座標を含まない最小の球(ハンセン溶解球)を作成する。こうして作成したハンセン溶解球の内側の範囲を、上記所定の安全性試験におけるHSP値の低安全性範囲とし、外側の範囲を高安全性範囲と特定する。
【0034】
その一方、被験物である化粧品等のHSP値を入手しておく。そして既述した通り、被験物のHSP値が高安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かによって被験物の安全性を予測する。 なお被験物のHSP値が、ハンセン溶解球の球面(境界面)上に位置する場合には、対象となる安全性試験の種類、被験物の種類、参考物の種類等に応じて適宜、安全性を予測するようにすれば良い。
【0035】
本実施形態において、所定の安全性試験に対して各参考物の安全性が高いか低いかの情報の取得方法は、特に限定されるものではなく、以前に行った実験データを利用しても良いし、各種文献に記載された情報等を利用しても良いし、実験等を行って改めて参考物の安全性の情報について取得するようにしても良い。
【0036】
また本実施形態において、参考物および被験物のHSP値の入手方法も特に限定されるものではなく、以前に行った実験データを利用しても良いし、各種文献に記載された参考物および被験物のHSP値を利用しても良いし、実験等を行って改めて参考物および被験物のHSP値を算出しても良い。
【0037】
本実施形態において参考物および被験物のHSP値の算出方法は特に限定するものではなく、どのような方法を用いても良いが、例えば溶解性評価を用いた溶解度パラメータの算出法、物性値を用いた溶解度パラメータの算出法、グループ寄与法による溶解度パラメータの算出法を好適に用いることができる。
【0038】
これらの算出法において、溶解性評価を用いた溶解度パラメータの算出法としては、ハンセン溶解球法(Hansen Solubility Sphere method)を用いる方法がある。物性値を用いた溶解度パラメータとしては、蒸発熱ΔHを用いた計算法、表面張力を用いた計算法、屈折率を用いた計算法、粘度の活性化エネルギーを用いた計算法を用いる方法がある。グループ寄与法による溶解度パラメータの算出法としては、Fedorsの計算法、van Kreveren & Hoftyzerの計算法、Hoyの計算法、Stefanis & Panayiotouの計算法がある。
【0039】
以上のように本実施形態の化粧品等の被験物の安全性予測方法によれば、参考物である高安全性物及び低安全性物から、HSP値による高安全性範囲及び/又は低安全性範囲を特定して、その安全性範囲を基に被験物の安全性を予測するものであるため、動物実験に依存せずに被験物の安全性を予測することができる。
【0040】
また本実施形態においては、化粧品を被験物として安全性を予測しても良いし、化粧品を構成する組成物を被験物として安全性を予測しても良いし、化粧品を構成する各種の成分を被験物として安全性を予測するようにしても良い。
【0041】
さらに本実施形態においては、化粧品を製造するに際して、化粧品に配合される原料を被験物として安全性を予測するようにしても良い。
【0042】
さらに本実施形態の安全性予測方法によって安全性が高いと予測された原料を用いて、化粧品を製造しても良く、その場合には、安全性の予測性が高い化粧品を製造することができる。
【0043】
また本実施形態において採用される所定の安全性試験は特に限定されるものではないが、ヒトパッチ試験、経済開発協力機構(OECD)が実施するOECD毒性ガイドラインのリストに含まれる試験に対応する試験を採用するのが好ましい。この試験の他、本実施形態において採用される所定の安全性試験は、GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)に含まれる危険有害性分類のための試験に対応する試験を採用するのが好ましい。これらにより各種の安全性試験を効率良く行うことができる。
【0044】
なお、上記OECD毒性ガイドラインは、例えばウェブサイト「http://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/oecdindex.html」や「https://www.oecd-ilibrary.org/environment/oecd-guidelines-for-the-testing-of-chemicals-section-4-health-effects_20745788」において公開されている。OECD毒性ガイドラインに掲載されている安全性試験としては、例えば、ペプチド結合性試験(DPRA)(TG442C)、ヒト細胞株活性化試験(h-CLAT)(TG442E)、角化細胞株レポーターアッセイ(ARE-Nrf2 Luciferase Test Method)(TG442D)、i)眼に対する重篤な損傷性を引き起こす化学物質、およびii)眼刺激性または眼に対する重篤な損傷性への分類が不要な化学物質を同定するための、in vitro短時間曝露試験法(TG491)、細菌復帰突然変異試験(TG471)、哺乳類のin vitro染色体異常試験(TG473)、急性経口毒性試験(TG401)、In vitro 3T3 NRU光毒性試験(TG432)、急性皮膚刺激性/腐食性(TG404)、In vitro皮膚腐食性:再構築ヒト表皮(RhE)試験法(TG431)、i)眼に対する重篤な損傷性を引き起こす化学品、およびii)眼刺激性または眼に対する重篤な損傷性に分類する必要のない化学品を同定するための、ウシ角膜を用いる混濁度および透過性試験法(TG437)、i)眼に対する重篤な損傷性を引き起こす化学物質、およびii)眼刺激性または眼に対する重篤な損傷性への分類が不要な化学物質を同定するための、ニワトリ摘出眼球を用いる試験法(TG438)、In vitro皮膚刺激性:再生ヒト表皮試験法(TG439)、哺乳類細胞を用いたin vitro小核試験(TG487)、チミジンキナーゼを用いた哺乳類細胞のin vitro遺伝子突然変異試験(TG490)、眼腐食性物質および眼に対する重篤な刺激性物質を同定するためのフルオレセイン漏出試験法(TG460)、In vitro皮膚腐食性:経皮電気抵抗試験(TER)(TG430)、エストロゲン受容体アゴニストとアンタゴニストを特定するためのBG1Lucエストロゲン受容体転写活性化試験法(TG457)、男性ホルモン受容体の転写活性化試験(TG458)、皮膚感作 局所リンパ節試験(TG429)、皮膚感作(TG406)、皮膚感作性局所リンパ節試験:DA(TG442A)、皮膚感作性局所リンパ節試験:BrdU-ELISA(TG442B)、げっ歯類における子宮肥大試験:エストロゲン様作用の短期スクリーニング試験(TG440)、眼刺激性または重度の眼損傷性として分類および表示する必要のない化学品を同定するための再構築ヒト角膜様上皮モデル法(RhCE法)(TG492)が挙げられる。
【0045】
また、上記GHSは、例えばウェブサイト「https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/ghs_text.html」や「https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/ghs_text.html」において公開されている。GHSに掲載されている危険有害性分類のための試験としては、例えば、急性毒性試験(急性経口毒性試験、急性経皮毒性試験、急性吸入毒性試験など)、皮膚腐食性試験、皮膚刺激性試験、目に対する重篤な損傷性試験、眼刺激性試験が挙げられる。
【0046】
一方、本実施形態において、ハンセン溶解球等の高安全性範囲及び/又は低安全性範囲に関する情報を、各試験に関連付けして、被験物の安全性予測用のデータベースとして、パーソナルコンピュータの記憶装置(ハードディスク)、クラウドコンピューティングの記憶装置、フロッピーディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)等の記憶媒体(安全性予測用媒体)に記憶させておくのが好ましい。そうしておくと、新たな被験物における所定の安全性試験による安全性を予測する場合、当該所定の安全性試験についての高安全性範囲及び/又は低安全性範囲に関する情報を安全性予測用媒体から抽出するとともに、新たな被験物のHSP値を入手すれば、そのHSP値と、抽出した安全性範囲の情報とを照合するだけで簡単に安全性を予測することができる。
【0047】
なお本実施形態においては、参考物のHSP値としての3つのパラメータを用いて、安全性を予測するようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、HSP値の3つのパラメータのうち、いずれか1つ又は2つのパラメータを用いて、安全性を予測するようにしても良い。例えば各参考物のいずれか1つ又は2つのパラメータから、高安全性範囲及び/又は低安全性範囲を特定し、被験物における上記いずれか1つ又は2つのパラメータに対応する1つ又は2つのパラメータが、高安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かによって安全性を予測することも可能である。
【0048】
また本発明において、被験物の濃度が異なる場合、被験物自体のHSP値は変わらないが、高安全性範囲や低安全性範囲の大きさが変化する。例えば安全性範囲に関連するハンセン溶解球の大きさ(半径)が変化することになる。
【0049】
以下に本発明に関連した実施例について詳細に説明する。
【実施例
【0050】
<実施例1>
・OECD TG491(i)眼に対する重篤な損傷性を引き起こす化学物質、およびii)眼刺激性または眼に対する重篤な損傷性への分類が不要な化学物質を同定するための、in vitro短時間曝露試験法)
【0051】
【表1A】
【0052】
【表1B】
【0053】
この試験は、角膜上皮細胞に対する細胞毒性を指標として、眼刺激性を評価する試験である。この試験では、ウサギ角膜由来株化細胞である、SIRC細胞に参考物の希釈液を5分間暴露し、細胞生存率を測定し、眼刺激性を評価する。参考物は表1Aの「solvent」の欄に示すものである。表1Aには、各参考物のHSP値(δd、δp、δh)と、そのHSP値から算出したHildebrand溶解度パラメータ(δt)とが記載されている。
【0054】
そしてこの試験では、各参考物の5%および0.05%の希釈溶液を用いて、細胞の生存率(Viability)より、刺激性(Irritation)を評価し、ランク付けを行う。すなわち表1Bに示すように、5%の希釈液で生存率が70%超の参考物には5%Rankが「0」、70%未満の参考物には5%Rankが「1」と評価し、0.05%の希釈液で生存率が70%超の参考物には0.05%Rankが「1」、70%未満の参考物には0.05%Rankが「2」と評価する。各参考物において5%Rankに0.05%Rankを加えたものを、各参考物のSTE Rankとする(5%Rank+0.05%Rank=STE Rank)。
【0055】
さらにこのSTE RankをHSP Scoreに変換する。すなわち、STE Rankが「3」のものは、HSP Scoreが「1」となり、STE Rankが「2」のものは、HSP Scoreが「2」となり、STE Rankが「1」のものは、HSP Scoreが「0」となる。各参考物のHSP Scoreは表1Aの「Score」の欄に記載される通りである。
【0056】
次にHSP Scoreが「1」又は「2」の参考物は、低安全性物である良溶媒(溶解物)とみなし、HSP Scoreが「0」の参考物は、高安全性物である貧溶媒(非溶解物)とみなす。
【0057】
さらに図1に示すように各参考物のHSP値を3次元空間の位置座標とみなして、3次元グラフ上にプロットする。
【0058】
続いて良溶媒(低安全性物)の参考物(図1の「●」)の座標を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の参考物(図1の「■」)の座標を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。
【0059】
実施例1においてこのハンセン溶解球Sの中心位置は表1Cに示すように、ウサギの目(Eye)のHSP値に相当するものである。なお表1Cの「R」はハンセン溶解球Sの半径である。
【0060】
【表1C】
【0061】
実施例1では、図1に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、この安全性範囲に基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0062】
すなわち被験物のHSP値を入手し、そのHSP値が低安全性範囲に含まれる場合には、安全性が低いと予測し、高安全性範囲に含まれる場合には、安全性が高いと予測する。
【0063】
<実施例2>
・OECD TG442B(皮膚感作性局所リンパ節試験 BrdU-ELISA)
【0064】
【表2A】
【0065】
表2Aの「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果が「陽性」の参考物は、「Score」の欄に「1」と記載されて低安全性である良溶媒とみなし、「陰性」の参考物は、「Score」の欄に「0」と記載されて高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図2に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図2の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図2の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表2Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(皮膚感作性局所リンパ節試験 BrdU-ELISAのHSP値)を示す。
【0066】
【表2B】
【0067】
さらにこの実施例2においても上記と同様、図2に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0068】
<実施例3>
・OECD TG404(急性皮膚刺激性/腐食性試験)
【0069】
【表3A】
【0070】
表3Aの「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果で「Score」が「1」の安全性が低い参考物は、低安全性である良溶媒とみなし、「Score」が「0」の安全性が高い参考物は、高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図3に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図3の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図3の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表3Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(TG404のHSP値)を示す。
【0071】
【表3B】
【0072】
さらにこの実施例3においても上記と同様、図3に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0073】
<実施例4>
・OECD TG457(エストロゲン受容体アゴニストを特定するためのBG1Lucエストロゲン受容体転写活性化試験法)
【0074】
【表4A】
【0075】
表4Aの「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果で「Score」が「0」の安全性が高い参考物は、高安全性である貧溶媒とみなし、「Score」が「1」の安全性が低い参考物は、低安全性である良溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図4に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図4の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図4の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表4Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(TG457のHSP値)を示す。
【0076】
【表4B】
【0077】
さらにこの実施例4においても上記と同様、図4に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0078】
<実施例5>
・OECD TG438(眼に対する重篤な損傷性を引き起こす化学物質、および眼刺激性または眼に対する重篤な損傷性への分類が不要な化学物質を同定するための、ニワトリ摘出眼球を用いる試験法)
【0079】
【表5A】
【0080】
表5Aの「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果が「陽性」の参考物は、「Score」の欄に「1」と記載されて低安全性である良溶媒とみなし、「陰性」の参考物は、「Score」の欄に「0」と記載されて高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図5に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図5の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図5の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表5Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(TG438のHSP値)を示す。
【0081】
【表5B】
【0082】
さらにこの実施例5においても上記と同様、図5に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0083】
<実施例6>
・OECD TG460(眼腐食性物質および眼に対する重篤な刺激性物質を同定するためのフルオレセイン漏出試験法)
【0084】
【表6A】
【0085】
表6Aの「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果が「陽性」の参考物は、「Score」の欄に「1」と記載されて低安全性である良溶媒とみなし、「陰性」の参考物は、「Score」の欄に「0」と記載されて高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図6に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図6の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図6の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表6Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(TG460のHSP値)を示す。
【0086】
【表6B】
【0087】
さらにこの実施例6においても上記と同様、図6に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0088】
<実施例7>
・OECD TG430(In vitro皮膚腐食性:経皮電気抵抗試験)
【0089】
【表7A】
【0090】
表7Aの「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果が「陽性」の参考物は、「Score」の欄に「1」と記載されて低安全性である良溶媒とみなし、「陰性」の参考物は、「Score」の欄に「0」と記載されて高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図7に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図7の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図7の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表7Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(TG430のHSP値)を示す。
【0091】
【表7B】
【0092】
さらにこの実施例7においても上記と同様、図7に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0093】
<実施例8>
・OECD TG435(皮膚腐食性評価のためのin vitro膜バリア試験法)
【0094】
【表8A】
【0095】
OECD TG435では、動物3匹中2匹以上の腐食性を示す区分として「腐食性細区分1A」、「腐食性細区分1B」、「腐食性細区分1C」を定めおり、表8Aの「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果が「陽性」の参考物は、「Score」の欄に、腐食性細区分1Aに該当するものを「1」、腐食性細区分1Bに該当するものを「2」、腐食性細区分1Cに該当するものを「3」と記載されて低安全性である良溶媒とみなす。また、「陰性」の参考物は、「Score」の欄に「0」と記載されて高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図8に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図8の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図8の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表8Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(TG435のHSP値)を示す。
【0096】
【表8B】
【0097】
さらにこの実施例8においても上記と同様、図8に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0098】
<実施例9>
・OECD TG429(皮膚感作:局所リンパ節試験)
【0099】
【表9A】
【0100】
表9Aの「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果が「陽性」の参考物は、「Score」の欄に「1」と記載されて低安全性である良溶媒とみなし、「陰性」の参考物は、「Score」の欄に「0」と記載されて高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図9に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図9の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図9の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表9Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(TG429のHSP値)を示す。
【0101】
【表9B】
【0102】
さらにこの実施例9においても上記と同様、図9に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0103】
<実施例10>
・OECD TG440(げっ歯類における子宮肥大試験:エストロゲン様作用の短期スクリーニング試験)
【0104】
【表10A】
【0105】
表10Aの「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果が「陽性」の参考物は、「Score」の欄に「1」と記載されて低安全性である良溶媒とみなし、「陰性」の参考物は、「Score」の欄に「0」と記載されて高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図10に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図10の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図10の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表10Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(TG440のHSP値)を示す。
【0106】
【表10B】
【0107】
さらにこの実施例10においても上記と同様、図10に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0108】
<実施例11>
・GHS Part3. Chapter3.2 眼に対する重篤な損傷性/目刺激性
【0109】
【表11A(1)】
【0110】
【表11A(2)】
【0111】
GHS Part3. Chapter3.2では、眼に対して重篤な損傷を与える可能性のある物質に分類される「区分1」、可逆的な眼刺激作用を起こす可能性のある物質に分類される「区分2A」及び「区分2B」を定めおり、表11A(1)、(2)の「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果が「陽性」の参考物は、「Score」の欄に、区分1に該当するものを「1」、区分2A又は区分2Bに該当するものを「2」と記載されて低安全性である良溶媒とみなす。上記区分1、区分2A、区分2Bに分類されていなかったもの(NC:not categorized)を、「Score」の欄に「0」と記載されて高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図11に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図11の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図11の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表11Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(「GHS Part3. Chapter3.2 眼に対する重篤な損傷性/目刺激性」のHSP値)を示す。
【0112】
【表11B】
【0113】
さらにこの実施例11においても上記と同様、図11に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【0114】
<実施例12>
・GHS Part3. Chapter3.1 急性経口毒性
【0115】
【表12A(1)】
【0116】
【表12A(2)】
【0117】
GHS Part3. Chapter3.1では、急性経口毒性についての推定値(ATE)が開示され、ATE≦5のものを「区分1」、5<ATE≦50のものを「区分2」、50<ATE≦300のものを「区分3」、300<ATE≦2000のものを「区分4」、2000<ATE≦5000のものを「区分5」と示しており、表12A(1)、(2)の「solvent」の欄に示す各参考物において、本試験による結果が「陽性」の参考物は、「Score」の欄に、区分1に該当するものを「1」、区分2に該当するものを「2」、区分3に該当するものを「3」、区分4に該当するものを「4」、区分5に該当するものを「5」と記載されて低安全性である良溶媒とみなす。上記区分1~5に分類されていなかったもの(UC:uncategorized)を、「Score」の欄に「0」と記載されて高安全性である貧溶媒とみなす。そして上記と同様にして、図12に示すように各参考物のHSP値を3次元グラフ上にプロットして、良溶媒(低安全性物)の座標(図12の「●」)を含み、かつ貧溶媒(高安全性物)の座標(図12の「■」)を含まない最小の球(ハンセン溶解球)Sを作成する。なお表12Bにこのハンセン溶解球Sの中心座標(「GHS Part3. Chapter3.1 急性経口毒性」のHSP値)を示す。
【0118】
【表12B】
【0119】
さらにこの実施例12においても上記と同様、図12に示すハンセン溶解球Sの内側を低安全性範囲とし、外側を高安全性範囲と特定し、被験物のHSP値が低安全性範囲及び/又は低安全性範囲に含まれるか否かに基づいて、被験物の安全性を予測する。
【産業上の利用可能性】
【0120】
この発明の被験物の安全性予測方法は、所定の安全性試験に対し、化粧品等の被験物の安全性を予測する際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0121】
S:ハンセン溶解球

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12