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▶ ファロン ファーマシューティカルズ オサケ ユキチュアの特許一覧

特許7302049CLEVER-1、TNF-アルファおよびHLA-DR結合剤を用いた免疫活性化の診断
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  • 特許-CLEVER-1、TNF-アルファおよびHLA-DR結合剤を用いた免疫活性化の診断 図1A
  • 特許-CLEVER-1、TNF-アルファおよびHLA-DR結合剤を用いた免疫活性化の診断 図1B
  • 特許-CLEVER-1、TNF-アルファおよびHLA-DR結合剤を用いた免疫活性化の診断 図2A
  • 特許-CLEVER-1、TNF-アルファおよびHLA-DR結合剤を用いた免疫活性化の診断 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】CLEVER-1、TNF-アルファおよびHLA-DR結合剤を用いた免疫活性化の診断
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230626BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230626BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230626BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230626BHJP
【FI】
G01N33/53 P ZNA
G01N33/53 Y
C12N15/12
C12Q1/04
C07K14/47
【請求項の数】 3
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022020859
(22)【出願日】2022-02-14
(62)【分割の表示】P 2018554537の分割
【原出願日】2017-04-18
(65)【公開番号】P2022065088
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】20165336
(32)【優先日】2016-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】504459559
【氏名又は名称】ファロン ファーマシューティカルズ オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホルメン、マイヤ-レーナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィータラ、ミロ
(72)【発明者】
【氏名】ヤルカネン、マルック
(72)【発明者】
【氏名】マクシモウ、ミカエル
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-524536(JP,A)
【文献】特表2005-523247(JP,A)
【文献】国際公開第2014/209802(WO,A1)
【文献】PALANI, S. et al.,Monocyte stabilin-1 suppresses the activation of Th1 lymphocytes,J Immunol,2016年01月01日,Vol.196, No.1,p.115-123
【文献】三重元弥, 外,がん免疫療法の評価動物モデルの現状と課題,日薬理誌,2016年,Vol.148,p.144-148
【文献】KUNG, A. L.,Practices and pitfalls of mouse cancer models in drug discovery,Adv Cancer Res,2006年,Vol.96,p.191-212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
C12N 15/12
C12Q 1/04
C07K 14/47
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M2マクロファージのM1マクロファージへの変化をモニタリングする方法であって、
(a)ヒト末梢血単球PBLsを提供する工程、
(b)前記PBLsをヒト共通リンパ管内皮および血管内皮受容体-1(CLEVER-1)のエピトープに結合することのできるヒト化抗-CLEVER-1抗体またはその断片で処理する工程;
(c)前記PBLsのTNF-アルファ分泌を測定する工程、およびCD14陽性PBLs上のHLA-DR発現を測定する工程、ならびに
(d)工程(c)で測定されたTNF-アルファ分泌およびHLA-DR発現の値を対照値と比較する工程であって、対照値が、ヒト抗CLEVER-1抗体またはその断片で処理する前に測定された値、または異なる時点で行われた1つ以上の先の測定値であり、TNF-アルファ分泌またはHLA-DR発現の増加がM2マクロファージのM1マクロファージへの変化および抗-CLEVER-1抗体の有効性を示す工
を含み、
前記エピトープが不連続であり、かつヒトCLEVER-1の配列:
PFTVLVPSVSSFSSR(配列番号1)、および
QEITVTFNQFTK(配列番号2
含む方法。
【請求項2】
不連続エピトープがさらにヒトCLEVER-1の配列:
ATQTGRVFLQ(配列番号:3)、
DSLRDGRLIYLF(配列番号:4)、
SKGRILTMANQVL(配列番号:5)、および
LCVYQKPGQAFCTCR(配列番号:6)
を含む請求項1項に記載の方法。
【請求項3】
対照値と比較した測定されたTNF-アルファ分泌の少なくとも2倍の増加が、M2マクロファージのM1マクロファージへの変化を示す請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫活性化における使用のためのCLEVER-1に結合することのできる薬剤およびそれに基づく方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景を説明するために本明細書中において使用される刊行物およびその他の文献、およびとりわけ実施に関する追加的な詳細を提供するケースは、参考文献として組み込まれる。
【0003】
CLAVER-1は、特許文献1に開示されるタンパク質、共通リンパ管内皮および血管内皮受容体-1であり、スタビリン-1またはFeel-1としても知られる。CLEVER-1は、非特許文献1にも概説されている。CLEVER-1は、リンパ管内皮細胞、ある血管内皮細胞において発現されるが、マクロファージの亜集団においても発現される。CLEVER-1は、2型マクロファージの亜群およびヒト単球に対する除去(scavenging)能力を与える多機能分子である。
【0004】
マクロファージは、腫瘍の増殖または退行において重要な役割を果たす。腫瘍随伴マクロファージ(TAMs)の機序は、例えば、非特許文献2に開示されている。M2マクロファージは、ヒトがんにおいて優勢であり、腫瘍の増殖を刺激するが、これらの腫瘍促進マクロファージは、がん増殖を遅くさせるまたは停止させることを目指して腫瘍増殖阻害マクロファージ(M1マクロファージあるいは炎症性マクロファージとも呼ばれる)へと変化させることができる。したがって、マクロファージ亜型(phenotype)の変化は、種々のがんの免疫療法における有望なアプローチである。しかしながら、TAMsを標的とすることを目指す最近利用可能となった治療薬でがんを治療する試みは、望まない副作用を伴い、例えば、マクロファージ治療アプローチはすべてのマクロファージを標的とするため、全身毒性を示すかまたは逆説的に腫瘍増殖を促進する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第03/057130号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kzhyshkowska J. (2010), The Scientific world JOURNAL 10, 2039-2053.
【文献】Noy R. and Pollard J. W., 「腫瘍随伴マクロファージ:機序から治療まで(Tumour-Associated Macrophages: From Mechanisms to Therapy)」 Immunity 41, July 17, 2014, p.49-61.
【発明の概要】
【0007】
ヒトCLEVER-1に結合することのできる薬剤は、マクロファージを活性化し、それらの亜型をM2マクロファージからM1マクロファージへ切り替えるために使用できることを見出した。特に、TAMs上のCLEVER-1に結合することのできる、抗体およびその断片、ペプチドまたはマクロ分子などの薬剤は、腫瘍促進マクロファージ(M2)の炎症性マクロファージ(M1)への変化を成し遂げるために使用することができる。本発明は、マクロファージの亜型を切り替えるマクロファージの能力を利用する方法に関する。
【0008】
ここで、M2マクロファージのM1マクロファージへの変化は、マクロファージ/単球TNF-アルファ分泌および/またはHLA-DR発現を測定することによりモニターできることを見出した。その結果として、本発明は、患者における抗-CLEVER-1治療の有効性をモニターおよび/または評価する方法を提供する。
【0009】
本発明は、CLEVER-1に結合することのできる薬剤を患者に投与した後に、M2マクロファージのM1マクロファージへの変化の発生をモニタリングすることによる抗-CLEVER-1治療の有効性の評価方法であって、
(a)上記患者から採取された血液試料から末梢血単球(PBLs)を得る工程、
(b)上記PBLsのTNF-アルファ分泌を測定する工程、および/または
(c)CD14陽性PBLs上のHLA-DR発現を測定する工程、および
(e)工程(b)および(c)で測定されたTNF-アルファ分泌および/またはHLA-DR発現の値を、抗-CLEVER-1治療の有効性を評価するために対照値と比較する工程であって、対照値が、患者においてCLEVER-1に結合することのできる薬剤を投与する前に測定された値、または同じ患者において異なる時点で行われた1つ以上の先の測定値であり、TNF-アルファ分泌またはHLA-DR発現の増加がM2マクロファージのM1マクロファージへの変化を示す工程
を含む方法に関する。
【0010】
一実施態様においては、個体においてCLEVER-1に結合することのできる薬剤は、M2マクロファージをM1マクロファージに変化させることにより、腫瘍または抗原免疫抑制の除去において好適である。好ましくは、本発明は、CLEVER-1分子上のエピトープに結合することのできる、抗体またはその断片などの薬剤に関し、該エピトープは、不連続であり、かつヒトCLEVER-1の配列:
PFTVLVPSVSSFSSR(配列番号1)および
QEITVTFNQFTK(配列番号2)
を含む。
【0011】
マクロファージ亜型の変化は、T-細胞活性化を増加させ、最終的には、例えば原発性がん免疫抑制の除去を引き起こす。その結果として、本知見は、個体における免疫系に影響を与える方法を提供し、がんの治療または転移の予防に有用であるが、このアプローチに限定されるものではない。したがって、TAMs上のCLEVER-1に、好ましくはCLEVER-1分子の特定の配列に結合することのできる抗体またはその断片、ペプチドまたはマクロ分子などの薬剤は、個体におけるがんの治療または転移の予防に好適であり、悪性腫瘍周辺の免疫抑制が、M2マクロファージをM1マクロファージに変化させることにより除去される。
【0012】
CLEVER-1に、好ましくはCLEVER-1分子の特定の配列に結合することのできる抗体またはその断片、ペプチドまたはマクロ分子などの薬剤は、個体における慢性
感染症の治療に好適であり、感染性抗原に対する免疫抑制が、M2マクロファージをM1マクロファージに変化させることにより除去される。
【0013】
したがって、抗-CLEVER-1治療の有効性を評価するための本発明の方法は、特に、CLEVER-1に結合することのできる薬剤が、がんの治療または転移の予防、または慢性感染症の治療における使用のために患者に投与される場合に適用することができる。
【0014】
さらに、CLEVER-1に、好ましくはCLEVER-1分子の特定の配列に結合することのできる薬剤は、ワクチンのアジュバントとしても好適であり、ワクチン抗原に対する免疫抑制が、M2マクロファージをM1マクロファージに変化させることにより除去される。
【0015】
もう1つの実施態様において、本発明は、それを必要とする対象に、本願に開示されるCLEVER-1に、好ましくはCLEVER-1分子の特定の配列に結合することのできる薬剤を投与することを含むM2マクロファージをM1マクロファージに変化させる方法に関する。さらに、本発明は、個体におけるがんの治療または転移の予防、または個体における慢性感染症の治療における、そのM2マクロファージをM1マクロファージに変化させる方法の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】CD14陽性細胞からのHLA-DR発現の測定の結果を示す。細胞を、ヒトIgGsまたはCLEVER-1標的化ヒト化抗体VH3/VK5で処置した。CD14陽性細胞からのHLA-DR発現を測定するために使用された方法は、実験の部に詳細に示す。
図1B】TNF-アルファELISAキット(インビトロゲン)を用いて培養培地から測定した可溶性TNF-アルファの結果を示す。
図2A】CLEVER-1に結合する抗体の投与後の同系E0771乳癌におけるTAM再分極を示す。TAMs再分極は、フローサイトメトリーにより、MHCII(ヒトHLA-DRにおいて)を発現するマクロファージ集団の増加により測定される。各ドットは、一匹のマウスにおけるMHCIICD11b+F4/80+TAMsの百分率を示す。
図2B】CLEVER-1に結合する抗体の投与後のE0771同系乳癌由来のTAMs上のTNF-アルファの分泌の増加を示す。各ドットは、一匹のマウスから単離されたTAMsを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の定義と詳細な説明
用語「CLEVER-1」は、特許文献1に開示されたタンパク質、共通リンパ内皮および血管内皮受容体-1を示すために使用される。
【0018】
用語「ヒトCLEVER-1に結合することのできる薬剤」は、抗体およびその断片、またはペプチドなどであって、ヒトCLEVER-1に結合することのできる薬剤を意味する。その薬剤はまた、本願において定義されるヒトCLEVER-1の特定のエピトープに結合する十分な親和性を有するあらゆる他のマクロ分子であってもよい。
【0019】
用語「抗体またはその断片」は、個体においてCLEVER-1分子を結合する能力がある抗体またはその断片を包含する最も広い意味で使用される。特に、キメラ、ヒト化または霊長類化抗体、ならびに抗体断片および一本鎖抗体(例えばFab、Fv)を、それらが所望の生物学的な活性を発揮するかぎり、含むことが理解されるべきである。
【0020】
特に好ましいCLEVER-1アンタゴニストモノクローナル抗体3-266(DSM ACC2519)および3-372(DSM ACC2520)は、両方とも、2001年8月21日に特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブタペスト条約のもとDSMZ-ドイチェ・ザンルング・フォン・ミクロオルガニズメン・ウント・ツェルクルツレン・ゲーエムベーハー、デー-38124 ブラウンシュヴァイク マシェロデル ヴェク 1ベー(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Mascheroder Weg 1b, D-38124 Braunschweig)に寄託されており、特許文献1に開示されている。
【0021】
用語「患者」または「個体」は、ヒトを意味する。
【0022】
用語「治療(treatment)」または「治療すること(treating)」は、疾患の完全な治癒のみならず該疾患の改善または軽減を含むものと理解されるべきである。用語「予防(prevention)」は、完全な予防(prevention)、予防(prophylaxis)、ならびに個体の該疾患または障害により罹患するリスクの低下を含むものと理解されるべきである。
【0023】
マクロファージは、2つの異なる亜型:M1およびM2マクロファージに分けることができる。M1マクロファージは、古典的な炎症性マクロファージであり、大量の炎症性サイトカインおよび共刺激分子を産生し、T-細胞応答の活性化に非常に効率的である。M2マクロファージは、対照的に、免疫抑制細胞であり、抗炎症性サイトカインを合成し、制御性T-細胞を誘導し、したがって、抗原誘導T細胞活性化を大いに弱める。腫瘍随伴マクロファージ(TAMs)は、腫瘍環境内でそれらがM2マクロファージ(腫瘍促進マクロファージ)に成熟し、抗腫瘍免疫応答を抑制し、がん増殖における重要な段階である脈管新生スイッチを媒介することから有害であるとみなされている。M2マクロファージは、M1マクロファージ(炎症性マクロファージ)に変化させることができ、そのようなM2からM1への亜型の変換は、腫瘍拒絶を直接または間接に引き起こし得る。
【0024】
本文脈において、表現「M1マクロファージ」または「炎症性マクロファージ」は、マクロファージ/単球TNF-アルファ(TNF-α)分泌またはHLA-DR発現の測定レベルの増加により特徴付けられるマクロファージをいう。M2マクロファージのM1マクロファージへの変化は、患者にヒトCLEVER-1に結合することのできる薬剤を投与前に測定された対照値、または同じ患者において異なる時点で行われた1つ以上の先の測定の値と比較して、単球TNF-アルファ分泌およびHLA-DR発現も増加させるであろう。これらのマーカーのレベルは、個体によって異なり、例えばインターフェロン-ガンマなどのサイトカインやLPS活性化は、M2マクロファージによるTNF-アルファ発現を増加させ得るので、単球TNF-アルファ分泌およびHLA-DR発現の測定値を同じ患者の値と比較することは重要である。
【0025】
驚くべきことに、M2マクロファージをヒトCLEVER-1に結合することのできる薬剤に接触させることにより活性化し、M1マクロファージに変化させることができるということ見出した。特に、悪性腫瘍に関連したM2マクロファージは、TAMs上のCLEVER-1に結合することのできる薬剤に接触させることにより、M1マクロファージに変化または再分極させることができるということを見出した。両亜型は、同時に存在し、その亜型の両方が腫瘍中に見ることができる。
【0026】
抗原またはそのフラグメント、ペプチドまたはマクロ分子などの薬剤は、上記マクロファージ亜型の変化または再分極を達成するためにヒトCLEVER-1に結合される。CLEVER-1タンパク質に特異的な抗体などの薬剤は、特定のCLEVER-1エピトープを認識することが同定された。結果として、薬剤は、マクロファージの亜型の変化を達成するために、好ましくはCLEVER-1分子上の特異的配列、例えばエピトープに結合し、該エピトープは不連続であり、かつヒトCLEVER-1のアミノ酸配列:
PFTVLVPSVSSFSSR(配列番号1)および
QEITVTFNQFTK(配列番号2)
を含む。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、不連続エピトープは、さらにヒトCLEVER-1の
ATQTGRVFLQ(配列番号:3)、
DSLRDGRLIYLF(配列番号:4)、
SKGRILTMANQVL(配列番号:5)、および
LCVYQKPGQAFCTCR(配列番号:6)
からなる群より選択される1つ以上の配列を含む。
【0028】
標的タンパク質ヒトCLEVER-1、すなわちヒトスタビリン-1の一部は、配列番号:7に示されている。CLEVER-1分子上のエピトープ配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5および配列番号:6は、配列番号:7に示された標的タンパク質ヒトCLEVER-1のアミノ酸420-434、473-484、390-399、576-587、615-627および313-327に対応する。ヒトCLEVER-1の不連続エピトープマッピングは、フィンランド特許出願第20165335号により詳細に開示されている。
【0029】
TAMs上のCLEVER-1の2つ以上の上記エピトープ配列への特異的結合は、マクロファージ亜型の所望の変化を達成するために特定のエピトープを標的とすることができるため、有害な副作用を伴わない新規ながんの治療方法、または転移の予防方法を提供する。結果として、本明細書に記載された知見は、腫瘍促進マクロファージの増加した量を伴うあらゆる種類の悪性腫瘍または個体が免疫抑制の優位性を示す慢性炎症などの他の病状の治療または予防において特に有用である。その結果として、がんの治療方法または転移の予防方法は、上述の、ヒトCLEVER-1に、好ましくはCLEVER-1分子の特定のエピトープに結合することのできる薬剤を個体に投与することを含む。この方法は、腫瘍の大きさを縮小することによる、および/または;個体における腫瘍の増殖を減少することによる;および/またはがん細胞の移動および転移形成を阻害することによるがんの治療または予防を含む。したがって、良性もしくは悪性腫瘍または悪性腫瘍の転移、例えば皮膚がんおよび結腸癌などを治療することができる。また、白血病、リンパ腫および多発性骨髄腫も治療することができる。とりわけ、黒色腫およびリンパ腫が、動物モデルに基づき治療に非常に良好に応答することが期待される。
【0030】
マクロファージの亜型を変化させる方法は、線維肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、血管肉腫、リンパ管肉腫、平滑筋肉腫および横紋筋肉腫などのすべての種類の肉腫、中皮腫、髄膜腫、白血病、リンパ腫、ならびに扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、乳糖癌、嚢胞腺癌、気管支癌、黒色腫、腎細胞癌、肝細胞癌、移行上皮癌、絨毛腫、セミノーマおよび胎生期癌などのすべての種類の癌腫の治療または予防に有用であると考えられる。
【0031】
マクロファージはまた、腫瘍の増殖または退行に影響を及ぼす以外に、炎症および感染の消散のあいだに重要な役割を有する。感染において、M1からM2マクロファージへの切り替えが起こり、エフェクター免疫を無効にする抑制環境の発生につながる。その結果として、マクロファージの亜型を変化させる本明細書に記載される知見は、感染性抗原に対する免疫抑制の除去のため慢性感染症の治療においても有用である。上記CLEVER-1に、好ましくはCLEVER-1分子上の2つ以上の特異的エピトープ配列に結合することのできる薬剤を個体に投与することを含む慢性感染症を治療する方法において、該薬剤はM2からM1にマクロファージの亜型を切り替えるためにそれらを活性化し得る。
【0032】
さらに、個体におけるマクロファージおよび単球上のCLEVER-1に結合することのできる薬剤は、ワクチンのアジュバントとして使用することができる。該薬剤は、マクロファージの再分極を実現し、したがって、ワクチン抗原に対する免疫抑制を除去または少なくとも減少させる。任意の抗原誘導性ワクチン接種は、宿主またはワクチン接種部位が、免疫抑制性エレメントから一時的に外され得る場合に有益である。
【0033】
CLEVER-1に結合することのできる薬剤および適切な賦形剤を含む医薬組成物は、がんの治療または予防、または慢性感染症の治療における使用に好適である。本発明において用いられる医薬組成物は、意図する目的を達成する任意の手段により投与することができる。例えば、投与は、静脈内、関節内、腫瘍内または皮下ですることができる。薬理学的な活性化合物に加え、化合物の医薬製剤は、好ましくは、活性化合物の薬学的に使用することのできる製剤への加工を容易にする賦形剤および助剤を含む適切な薬学的に許容され得る担体を含む。
【0034】
M2マクロファージのM1マクロファージへの変化は、ヒト血液試料から単球TNF-アルファ分泌を測定することにより検証することができる。結果として、TNF-アルファの分泌の増加は、個体における治療応答のモニタリングのためのマーカーとして使用することができる。TNF-アルファ分泌は、患者から採取した血液から富化された末梢血単球から測定され得る。測定されたTNF-アルファのレベルは、CLEVER-1に結合することのできる薬剤を患者に投与することを含む治療への患者の応答に対するマーカーとして使用することができ、そのレベルは、該薬剤を患者に投与する前に同じ患者から測定された対照レベルと、または同じ患者における異なる時点で行われた1つ以上の先の測定値と比較される。
【0035】
M2マクロファージのM1マクロファージへの変化の発生をモニタリングすることによる抗-CLEVER-1療法の有効性の評価方法は、CLEVER-1に、好ましくはCLEVER-1上の2つ以上の特異的エピトープ配列に結合することのできる薬剤が患者に投与された場合、
(a)該患者から採取した血液試料から末梢血単球(PBLs)を得る工程、
(b)該PBLsのTNF-α分泌を測定する工程、および/または
(c)CD14陽性PBLs上のHLA-DR発現を測定する工程、および
(e)工程(b)および(c)で測定されるTNF-α分泌および/またはHLA-DR発現の値を、抗CLEVER-1治療の有効性を評価するために対照値と比較する工程であって、対照値が、CLEVER-1に結合することのできる薬剤を患者に投与する前に測定された値、または同じ患者における異なる時点で行われた1つ以上の先の測定の値であり、TNF-アルファ分泌またはHLA-DR発現の増加はM2マクロファージのM1マクロファージへの変化を示す工程
を含む。
【0036】
患者から採取した血液試料から得られた末梢血単球からのTNF-アルファ分泌の測定は、一般的な公知の方法、例えば、市販のTNF-アルファELISAキットを用いて行うことができる。CD14陽性単球上のHLA-DR発現も、フローサイトメトリーによる公知の方法を用いてモニターすることができる。
【0037】
M2マクロファージのM1マクロファージへの変化の発生は、単球TNF-アルファ分泌の測定レベルを、患者におけるCLEVER-1に結合することのできる薬剤の投与前に特定された対照値または同じ患者における異なる時点で行われた1つ以上の先の測定の値と比較することによりモニターすることができる。例えば、先の測定の結果または対照と比較した単球TNF-アルファ分泌のレベルの減少は、M2マクロファージの高い発現を示すために使用され得、一方、先の測定の結果または対照と比較したTNF-アルファのレベルの増加は、M2マクロファージのより低い発現を伴うM1マクロファージのより多い発現を示すために使用され、抗-CLEVER-1治療の有効性を示すために使用することもできる。TNF-アルファのレベルの増加は、M2マクロファージのより低い発現を伴うM1マクロファージのより多くの発現を示し、言い換えれば、それは該療法に対する応答性を特徴付ける。CLEVER-1に結合することのできる薬剤は、M2マクロファージの少なくとも一部を活性化し、M1マクロファージに再分極し、該薬剤の投与後、両マクロファージ亜型が存在し得るが、M1マクロファージの発現の増加が、該薬剤の投与前の状態と比較して観察され得る。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、測定されるTNF-アルファ分泌の対照値と比較して少なくとも2倍の増加は、M2マクロファージのM1マクロファージへの変化を示し、したがって治療に対する患者の応答性を示す。
【0039】
本発明は、以下の非限定的な実施例により説明される。上述の記載に挙げられた実施態様および実施例は、ただ説明の目的のためのものであり、様々な変更や改変が本発明の範囲内で可能であるということが理解されるべきである。
【実施例
【0040】
実施例1:インビトロでの抗体結合
健常ドナー由来のヒト末梢血単球を集め、それらを約9mlの末梢血からFicoll-グラジエント遠心分離により富化した。その後、それらを低接着96ウェルプレートに、1%ヒトAB血清を補足したIMDM培地中、1.2×106細胞/ウェルの密度で蒔いた。細胞を1μg/mlまたは10μg/mlの抗-CLEVER-1抗体3-372(2001年8月21日にDSMZ-ドイチェ・ザンルング・フォン・ミクロオルガニズメン・ウント・ツェルクルツレン・ゲーエムベーハーに寄託されたDSM ACC2520)またはVH3/VK5(上記特定のCLEVER-エピトープを認識するヒト化抗-CLEVER-1抗体、その抗体の詳細は以下に示す。)で48時間処理した。HLA-DR発現は、48時間後、CD14陽性細胞からLSR Fortessaフローサイトメトリーを用いて測定した。死んだ細胞は、7-AAD細胞生存染色に関する陽性シグナルに基づき解析から除外した。
【0041】
ヒトIgGsを参照として用いた。
【0042】
図1Aは、CD14陽性細胞からのHLA-DR発現の測定の結果を示す。CD14陽性細胞におけるHLA-DR発現は、ヒト化抗-CLEVER-1抗体VH3/VK5の処置により、ヒトIgGsの参照と比較して増加した。
【0043】
処置間の細胞生存率における差異は観察されなかった。したがって、CLEVER-1標的化抗体は単球の生存に影響を与えないと結論付けることができる。
【0044】
ヒト化抗-CLEVER-1抗体VH3/VK5
ヒト化抗-CLEVER-1抗体VH3/VK5は、3-372マウスモノクローナル抗体(2001年8月21日にDSMZ-ドイチェ・ザンルング・フォン・ミクロオルガニズメン・ウント・ツェルクルツレン・ゲーエムベーハーに寄託されたDSM ACC2520)から、フィンランド特許出願第20165335号により詳細に開示されているComposite Human Antibody(商標)技術を用いて作製された。ヒト化抗-CLEVER-1抗体VH3/VK5は、本願に定義されるヒトCLEVER-1のエピトープ配列を認識する。
【0045】
実施例2:TNF-αの測定
健常ドナー由来のヒト末梢血単球を集め、実施例1に記載したように富化した。赤血球溶解緩衝液で処理した血液3mlからの単球は、6ウェルプレートに一晩接着させ、PBSで一回洗浄し、3日間、10μg/mlの抗-CLEVER-1抗体3-372またはAK-1と共に培養した。
【0046】
可溶性TNF-アルファは、市販のTNF-アルファELISAキット(インビトロゲン)を用いて培養培地から測定した。測定の結果は、図1Bに示す。TNF-アルファ分泌の増加は、非処理試料またはAK-1による対照処理試料と比較して、抗-CLEVER-1抗体で処理した試料により気付く。
【0047】
実施例3:マウス同系がんモデル
樹立したE0771マウス乳癌を、5mg/kgの抗-CLEVER-1(mStab1)または同位体対照で3~4日毎に腫瘍が1mm3の大きさに達するまで処置した。フローサイトメトリーを用いて、TAMs、別の単球亜群、および腫瘍浸潤白血球の補充および亜型に対する抗-CLEVER-1処置の効果を評価した。
【0048】
図2Aは、CLEVER-1に結合する抗体の投与後の同系E0771乳がんにおけるTAM再分極を示す。抗-CLEVER-1で処置した腫瘍は、対照処置腫瘍と比較して同様のレベルのTAMs(CD11b+F4/80+)を示した。しかしながら、抗-CLEVER-1腫瘍におけるTAMs集団は、II型マーカー、CD206の低い発現を有するより炎症性のマクロファージ(Ly6CloMHCIIhi)から構成される
【0049】
抗-CLEVER-1処置TAMsは、図2Bに示すように、IgG処置TAMsと比較して有意に多くのTNF-アルファを分泌した。これと一致して、FoxP3+腫瘍浸潤白血球における減少も観察された。
【0050】
結果は、CLEVER-1が、マクロファージを標的とした免疫療法のための将来性のある標的であること、および抗-CLEVER-1治療の有効性が単球TNF-α分泌によりモニターできるということを示している。
図1A
図1B
図2A
図2B
【配列表】
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