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特許7302096特殊な立体湾曲ハプティックを有する眼内レンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】特殊な立体湾曲ハプティックを有する眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022512394
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2020072215
(87)【国際公開番号】W WO2021037523
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】102019123295.3
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506085066
【氏名又は名称】カール・ツアイス・メディテック・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,シュテファニ
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08043372(US,B2)
【文献】特開2014-221084(JP,A)
【文献】特開2015-131104(JP,A)
【文献】特開昭51-151149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の光学部(2)を含み、且つ前記光学部(2)に連結されたハプティック(5)を含み、及び前記光学部(2)の前面(3)と後面(4)とを通過する主光軸(A)を有する眼内レンズ(1)であって、前記ハプティック(5)は、第一のリング(6)の形態であり、且つ前記光学部(2)を取り囲む第一のハプティック部と、第二のリング(11)の形態であり、且つ前記光学部(2)を取り囲み、及び前記第一のハプティック部に対して弾性的に移動可能な少なくとも1つの第二のハプティック部とを含み、前記2つのリング(6、11)の少なくとも1つは、前記主光軸(A)の周囲で円周方向に不均一な形態を有する、眼内レンズ(1)において、
前記2つのリング(6、11)の少なくとも1つは、正確に2つのリング谷部(8、17、12、13)と、正確に2つのリング山部(9、10、14、15)とを有することを特徴とする眼内レンズ(1)。
【請求項2】
前記正確に2つのリング谷部(8、17、12、13)及び正確に2つのリング山部(9、10、14、15)を有する前記少なくとも1つのリング(6、11)は、サドル形態のエッジリングの形状を有することを特徴とする、請求項1に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項3】
前記少なくとも1つのリング(6、11)は、そのリング谷部(8、17、12、13)で円周面に沿って前記光学部(2)に融合し、及びそのリング山部(9、10、14、15)は、前記光学部(2)と接触しないように配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項4】
前記リング谷部(8、17、12、13)は、前記主光軸(A)の方向への投影図の場合に前記主光軸(A)に関して第一の半径(r1)に配置され、及び前記リング山部(9、10、14、15)は、前記投影図の場合に前記第一の半径(r1)より比較的大きい第二の半径(r2)に配置されることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項5】
前記正確に2つのリング谷部(8、17、12、13)及び正確に2つのリング山部(9、10、14、15)を有する前記少なくとも1つのリング(6、11)は、前記第一のリング谷部(8、12)から第一のリング山部(9、10、14、15)にわたって前記第二のリング谷部(17、13)まで延びる第一のリング部分(6a、6b、11a、11b)を有し、前記リング谷部(8、17、12、13)間で測定される前記リング部分(6a、6b、11a、11b)の正幅(L)は、前記光学部(2)の直径の少なくとも90%であることを特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項6】
前記正確に2つのリング谷部(8、17、12、13)及び正確に2つのリング山部(9、10、14、15)を有する前記少なくとも1つのリング(6、11)は、前記第一のリング谷部(8、12)から第一のリング山部(9、10、14、15)にわたって前記第二のリング谷部(17、13)まで延びる第一のリング部分(6a、6b、11a、11b)を有し、前記第一のリング部分(6a、6b、11a、11b)の湾曲は、前記主光軸(A)に関して半径方向に外側に向けられることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項7】
前記リング山部(9、10、14、15)は、前記主光軸(A)に平行に考慮されるとき、前記リング谷部(8、17、12、13)よりも大きい、前記光学部(2)の中心面(M)からの距離を有し、ここで、前記中心面(M)は前記主光軸(A)に対して直角であることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項8】
前記第一のリング(6)は、前記第二のリング(11)と同じ形状を有し、及び前記リング(6、11)は、前記光学部(2)の中心面(M)であって前記主光軸(A)に対して直角である中心面(M)に関して対称に配置されることを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項9】
前記リング(6、11)は、そのそれぞれのリング谷部(8、17、12、13)により、前記光学部(2)の円周壁において前記光学部(2)に直接接続され、特にそれと一体部品において形成されることを特徴とする、請求項8に記載の眼内レンズ(1)。
【請求項10】
眼の水晶体嚢(16、16’、16’’)に植え込むための後眼房レンズであることを特徴とする、請求項1~9の何れか一項に記載の眼内レンズ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の1つの態様は、単一の光学部を含み、且つ光学部に連結されたハプティックを含み、及び光学部の前面と後面とを通過する主光軸を有する眼内レンズであって、ハプティックは、第一のリング形態であり、且つ光学部を取り囲む第一のハプティック部と、第二のリングの形態であり、且つ光学部を取り囲み、及び第一のハプティック部に対して弾性的に移動可能な少なくとも1つの第二のハプティック部とを含み、2つのリングの少なくとも1つは、主光軸の周囲で円周方向に不均一な形態を有する、眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼内レンズは、様々な実施形態で知られている。典型的に、眼内レンズは、少なくとも2つの別々のハプティックを有し、これらは、主光軸の周囲で円周方向に相互に反対側に形成され、光学部と半径方向に隣接するように形成される。3つ以上のこのような別々のハプティック、例えば3つのハプティックを形成することも可能である。
【0003】
眼内レンズは、眼内の様々な所定の位置に眼の天然の水晶体の代わりに植え込まれ得る。したがって、これに関して、特殊な眼内レンズが眼の前眼房に植え込まれることが想定される。例えば、このような前眼房レンズは、前側虹彩角膜角内に固定され得る。
【0004】
虹彩クリップレンズと呼ばれる既知の眼内レンズもある。このような眼内レンズは、瞳孔に固定される。具体的には、これらは、瞳孔開口部を挟み込んで留められる。このような眼内レンズは、例えば、独国特許出願公開第10 2007 057 122 A1号明細書から知られている。その中の眼内レンズは、眼内のこの具体的な植込み部位において、反対の2つのハプティックを有する。これらのハプティックの各々は、L字形の2つのハプティックアームを有する。これらのハプティックアームの相互に対向する端部は、この眼内レンズの主光軸に対して直角の平面内で見たときに相互に対向するように配置されるが、接触せず、重複しないように配置される。このように形成されたハプティックアームにより、ハプティックアームの端部間において主光軸の周囲の円周方向に形成されるギャップは、瞳孔を挟むために使用され得る。しかしながら、このようなレンズは、眼の水晶体嚢に植え込むことを意図されておらず、それに適していない。
【0005】
これに関して、後眼房レンズと呼ばれ得、眼の水晶体嚢に植え込まれる別の既知の具体的な眼内レンズがある。
【0006】
独国特許第103 10 961 B4号明細書は、後眼房レンズである眼内レンズを開示している。この後眼房レンズにおいて、2つの別々のハプティックが形成され、これらは、光学部に、光学部の反対側の領域において半径方向に隣接する。それぞれのハプティックは、何れも2つのハプティック部から形成される。ハプティックの2つのハプティック部は、相互に対して移動可能である。この目的のために、一体形態で相互に接続されたハプティック部間の所定の接続部位に所定のキンク点が例えば一体ヒンジの形態で形成される。このようにして、このハプティックの半径方向に外側のハプティック部は、折り畳むか、又は光学部と直接接触する第一のハプティック部に関して旋回させることができる。この旋回運動は、光軸に直角な平面内でのみ起こり得る。これは、そこでの眼内レンズ全体の半径方向の幅を小さくして、これらのハプティックを原因とする水晶体嚢内部の炎症を回避できるようにするためのものである。
【0007】
このような後眼房レンズは、多かれ少なかれ平坦な構造を有する。その結果、水晶体嚢は、植込み後に収縮し、光学部の後面と接触する。接触領域で細胞移動が起こる可能性があり、そのため、水晶体後嚢が混濁し得る。水晶体後嚢のこのような混濁は、眼内レンズの光学部の後面を十分な生理液で洗浄すれば回避又は少なくとも軽減できることが知られている。これには、眼内レンズの光学部のこの後面と水晶体後嚢との間に距離が存在することが必要となる。
【0008】
眼内レンズが水晶体嚢内に植え込まれた状態で眼内レンズの光学部の後面と水晶体嚢との間の距離を保持することは、独国特許第103 10 961 B4号明細書では不可能である。したがって、前述の問題は、この後眼房レンズでも解決されない。
【0009】
米国特許出願公開第2007/0100444 A1号明細書は、組紐の形態の立体型ハプティックを有する眼内レンズを開示している。このハプティックは、複数のアーチを有し、これらは、主光軸に関して半径方向に膨らんでいる。その2つの端部を有して、これらのアーチは、眼内レンズの主光軸の方向において異なる位置に配置される。アーチの1つの端部は、眼内レンズの光学部の円周面に考慮された状態で配置される。アーチの第二の端部は、光学部から軸方向に前方に突出するように固定され、ハプティックの環に固定される。環は、完全に光学部からある距離に配置され、レンズの光軸に対して直角の向きの平坦面内に配置される。
【0010】
米国特許第8 043 372 B2号明細書は、同様に立体型ハプティックを有する眼内レンズを開示しており、それらの形状は、平面内に延びていない。1つの例示的な実施形態において、このハプティックは、主光軸を取り囲む2つのリングを有する。これらのリングの各々は、蛇行する波型である。多くのループを有する蛇行形状は、主光軸を取り囲むように設計される。2つのリングは、波の屈曲点で相互に接続され、半径方向に内側を越えるリングのピークは、自由に突出して相互に対向するか、又は主光軸と対向する。
【0011】
このような立体ハプティックは、水晶体嚢内での眼内レンズの確実な保持を改善するためのものである。しかしながら、これらのハプティックは、複雑な形状を有し、したがって製造が難しい。形状の複雑さから、眼内レンズの水晶体嚢への植込みもさらに困難となる。そのうえ、これらのハプティックには、水晶体嚢内において、これらが主軸の周囲で対称である領域において大きい半径方向の圧縮を受けるという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、眼の水晶体嚢内での改善された位置決めを容易にする眼内レンズを開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、独立請求項の特徴による人工眼内レンズによって達成される。
【0014】
本発明の1つの態様は、単一の光学部を有する人工眼内レンズに関する。光学部は、レンズである。光学部は、特殊な光結像特性を有し、それを用いて視覚障害の具体的な矯正を実施することができる。
【0015】
さらに、眼内レンズは、光学部に連結されたハプティックを含む。眼内レンズは、光軸又は主光軸を有し、これは、光学部の前面及び後面を通過し、特にこれらを中央領域の中心で通過する。ハプティックは、第一のリングの形態の第一のハプティック部を有する。第一のリングは、光学部を取り囲むように形成される。ハプティックは、第二のリングの形態の少なくとも1つの第二のハプティック部を有する。第二のリングは、光軸を取り囲むように形成される。2つのハプティック部は、弾性的に移動可能である。2つのリングの少なくとも1つは、主光軸に関して考慮されるとき、円周方向に不均一な形態を有する。これは、リングが、その長さ方向軸に見たとき、したがってそのリング形状に沿って考慮されるとき、平面内に形成されるのではなく、この点で不均一なプロファイルを有することを意味する。2つのリングの少なくとも1つは、正確に2つのリング谷部と、正確に2つのリング山部とを有する。このような実施形態により、この少なくとも1つのハプティック部の比較的単純な形状が形成される。これは、製造の観点から有利である。さらに、水晶体嚢内への眼内レンズの取付けは、このような実施形態によって改善される。特に、水晶体嚢内の眼内レンズの望ましくない回転及び光軸の望ましくない傾きの両方を少なくとも軽減させることが可能である。これにより、水晶体嚢内の眼内レンズの位置のよりよい固定を容易にすることができる。正確に2つのリング谷部及び正確に2つのリング山部に関して、この高さの指定は、光学部の中心面に関して考慮される。この中心面は、主光軸に対して直角の向きであり、特に中央で光学部を通して延びる。リング谷部は、リング山部よりもこの中心面の近くに配置される。
【0016】
さらに、このような実施形態により、水晶体嚢において、眼内レンズを軸方向及びしたがって主光軸の方向におけるその位置により確実に位置決めすることも可能である。
【0017】
有利な実施形態において、正確に2つのリング谷部及び正確に2つのリング山部を有する少なくとも1つのリングは、エッジリングの形状又はサドル形態の境界を有するようになされる。これは、サドル形状から進んで、リングがこの点であたかもこのようなサドル形態の境界線又はエッジを表すようであることを意味する。その結果、このリングは、サドル形エッジリングとも呼ばれ得る。本明細書では、2つのリング谷部及び正確に2つのリング山部を有する構成について明記する。
【0018】
正確に2つのリング谷部及び正確に2つのリング山部を有するこのリングの形状は、主光軸に対して直角の軸に関して湾曲する面内にリングが形成され、それによりリングのこの立体形状が得られるものとして理解することもできる。このリングがその周囲で湾曲するこの軸は、特に光学部の中心面内に延びる。
【0019】
正確に2つのリング谷部及び正確に2つのリング山部を有する少なくとも1つのリングのこの特殊な形状により、前述の利点をよりよく考慮することができる。第一に、これにより、ごく単純な構造が得られるが、第二に、光学部への標的を絞った選択的接続が容易となる。それにより、このリングの、特にリング山部の領域における大きい個別の変形可能性が得られるが、同時に光学部との十分な機械的接続が確立される。
【0020】
特に、少なくとも1つのリングは、その正確に2つのリング谷部で光学部と融合し、及びそのリング山部は、光学部と接触しないように配置されるようになされる。特に、リングは、その正確に2つのリング谷部で円周面に沿った2つの異なる位置において光学部と融合する。このような構成の結果、リングと光学部との間に直接の機械的接続点があたかも2つのみあるようになり、これは、特に2つの対向するリング谷部による。その結果、リングと光学部との間に接続の対称的の機械的実施形態が確立される。その結果、光学部との望ましくない非対称の接続を回避することができる。眼内レンズの製造は、リングと光学部との間の機械的接続点を2のみとすることによって単純化され得る。同時に、これも同様に眼内レンズ全体の形態の複雑さを軽減させる。
【0021】
眼内レンズは、一体の実施形態を有することができる。しかしながら、ハプティックと光学部とが別々のコンポーネントであるようにもなされ得る。特に、ハプティックは、その場合、光学部に機械的に接続することができる。例えば、光学部の縁領域とハプティックとの間にクランプ接続、又はプラグイン接続、又はスナップ式接続を形成することが可能である。例えば、ハプティックは、内面上の特にリング谷部において陥凹部を有し得、光学部の縁領域は、前記陥凹部内に係合し、それによって保持される。しかしながら、接着剤結合による接続も提供され得る。
【0022】
有利な実施形態において、リング谷部は、主光軸の方向への投影図の場合に主光軸に関して第一の半径に配置され、及びリング山部は、この投影図の場合に第一の半径と比較してより大きい第二の半径に配置されるようになされる。その結果、この投影図では、リングは、その端部位置において投影面では円形を形成せず、この点で変形される。これに関して、リング谷部は、リング山部よりさらに内側に位置付けられる。その結果、リング山部は、リング谷部よりも主光軸から半径方向にさらに離れる。これは、特に、投影面で観察した場合に当てはまる。これにより、リングの弾性的可動性が特にリング山部において改善される。その結果、水晶体嚢の具現形態への嵌め合いをより個別化することができ、その結果、水晶体嚢内におけるはるかによく微調整されたより精密な眼内レンズの位置決めを得ることが可能となる。この変形仕様及びこれらの変形特性は、特に半径方向にさらに外側に突出し、したがって光学部から自由に突出し、それと接触しないようにも具現化され、主光軸の方向に考慮されるときにリング谷部よりも大きい、中心面からの距離を有するこれらのリング山部によって格段に改善される。この利点により、水晶体嚢の大きく異なる具現形態との変形適合も改善され得、その結果、したがって異なる水晶体嚢内の眼内レンズの位置決めの改善を容易にし得る。
【0023】
好ましくは、正確に2つのリング谷部及び正確に2つのリング山部を有する少なくとも1つのリングは、第一のリング谷部から第一のリング山部にわたって後続の第二のリング谷部まで延びる第一のリング部分を有するようになされる。リング谷部間で測定されるリング部分の正幅は、光学部の直径の少なくとも90パーセントである。特に、この正幅は、この直径の100パーセント又は100パーセントをわずかに超える。したがって、この実施形態では、そのスパンで第一のリング谷部から第二のリング谷部まで延び、単一のU字形アーチを表すリング部分が作られる。このU字形アーチは、したがって、第一の半面円周領域において光学部を取り囲むか、又は前記光学部を包囲する。特に、これは、前述の投影面においても明らかである。
【0024】
好ましくは、2つの連続するリング谷部は、リング長さ方向軸の方向に反対側のリング山部に直接続くが、主光軸の周囲で円周方向に180°ずれている。その結果、これらは、この方位角方向において両側にある。
【0025】
好ましくは、正確に2つのリング谷部及び正確に2つのリング山部を有する少なくとも1つのリングは、第一のリング谷部から第一のリング山部にわたって後続の第二のリング谷部まで延びる第一のリング部分を有するようになされ、第一のリング部分の湾曲は、主光軸に関して半径方向に外側に向けられる。この第一のリング部分の湾曲の方向は、半分のリングを表し、その結果、特にその全長にわたって光学部の円周の湾曲に対応して形成される。したがって、これらの湾曲の方向は、同じように向けられるが、大きさの点で異なる。特に、リング部分は、不均一なU字形アーチとして形成される。Uの開口は、主光軸に面する。
【0026】
特に、これは、第一のリング部分の2つの隣接するリング谷部間の全アーチ範囲に関する。
【0027】
好ましくは、リング山部は、主光軸の方向に考慮されるとき、リング谷部よりも大きい、光学部の中心面からの距離を有するようになされる。特に、第一のリングは、第二のリングと同じ形状を有するようになされる。特に、これらの2つのリングは、光学部の中心面に関して対称に配置されるようになされる。これは、特に、リング谷部が相互に直接当接し、リング山部がそれぞれ主光軸に関して円周方向に同じ方位角位置に配置され、最大に離間されることを意味する。これは、主光軸の方向に測定された距離が主光軸の周囲で円周方向に変化し、これらの2つのリングのリング谷部の位置で最小であり、2つのリングのリング山部の位置で最大であることを意味する。
【0028】
光学部は、特に中心厚さを有する。この中心厚さは、主光軸に沿って測定され、光学部の最大厚さを表す。光学部の厚さが形成され、これは、主光軸に沿って考慮されるとき、湾曲した前面の極大部及び/又は光学部の湾曲した後面の極大部と光学部の中心面との間で測定される。特に、この厚さは、光学部の中心厚さの半分である。特に、眼内レンズの植え込まれていない状態では、中心面からのリング山部の距離は、その結果、中心面に対して直角に測定され、その結果、主光軸の方向に考慮されるが、この厚さより大きい。これによって特に有利な点として実現されるのは、特に、光学部の上面、特に後面を、眼内で植え込まれた状態で、水晶体嚢壁からある距離、特に水晶体後嚢壁からある距離に位置付けられることである。
【0029】
好ましくは、2つのハプティックリングは、主光軸の周囲の円周方向において、それらの2つのリング谷部で同じ方位角位置に配置されるようになされる。特に、2つのハプティックリング、すなわち第一のリングと第二のリングとは、それらの2つのリング山部において主光軸の周囲で円周方向に同じ方位角位置に配置される。
【0030】
好ましくは、リングは、相互に関して、これらがリング山部の領域で半径方向に外側に向く開いたジョー又はジョーの形状を表すように配置されるようになされる。半径方向に考慮されるとき、このジョーは、半径方向に最も外側の端部において最大のジョー開口を有する。それぞれのリング谷部から進んで主光軸の周囲で円周方向に考慮されるとき、これらの2つのリングは、半径の点で他方の次のリング谷部へと増大し、これらの2つのリング間の距離は、主光軸の方向に考慮されるとき、2つのリング山部へと連続的に増大し、その後、リング山部からそれぞれの後続の第二のリング谷部へと再び減少する。
【0031】
有利な実施形態において、リングは、そのそれぞれのリング谷部により、光学部の円周壁において光学部に直接接続され、特にそれと一体部品において形成されるようになされる。2つのリングの隣接するリング谷部は、この特定の方位角位置において直接隣接して、重複しないように配置するように、又は相互に重複するように形成されるようにもなされ得る。リングは、リングアンサンブルとして相互に一体部品で設計することもできる。
【0032】
有利な実施形態において、リングは、これらが平面に折り開かれ、したがって二次元のみの設計が示される状態の環の形態となるようにもなされ得る。この点において、面内の2次元実体として考慮されるとき、これらは、楕円のリングの形態でもあり得る。
【0033】
好ましくは、2つのリングの少なくとも1つは、円周方向に中断なく形成され、したがって完全に閉じた状態に形成される。有利な実施形態において、リングのリング山部の光学部の中心面からの軸方向の距離は、光学部のアーチ極大部、特に中心アーチ極大部の中心面からの距離より大きくなるようになされる。その結果、眼内レンズは、水晶体嚢内において、光学部が水晶体後壁からある距離に配置されるように位置付けることもできる。特に、これは、光学部の後面にとって有利である。したがって、この後面は、水晶体嚢内において、水晶体後嚢壁からある距離に配置することができる。その結果、眼房水がこの後面と水晶体後嚢との間に到達することができる。その結果、細胞の移動を回避し、したがって水晶体後嚢の混濁を回避することが可能となる。
【0034】
特に、眼内レンズは、眼の水晶体嚢内に植え込むための後眼房レンズである。
【0035】
この点で提案される眼内レンズは、折り畳み可能であり、軸方向の変位を生じさせずに水晶体嚢内に対称に位置付けることができる。この点で明示されるハプティックは、水晶体嚢内の空間条件に改善された方法で個別に適応することができる。その結果、光学部又は眼内レンズの光学部の位置の望ましくない変化を回避することができる。特に、ハプティックのこの実施形態により、水晶体嚢内の眼内レンズの改善された回転安定性も実現される。
【0036】
特に、眼内レンズは、ポリマー材料から一体部品として形成される。
【0037】
特に、眼内レンズは、水晶体嚢内に植え込まれる眼内レンズの形態をとる。それは、この点で水晶体嚢内植込み眼内レンズとも呼ばれ得る。特に、それは、この点で眼の水晶体嚢内に植え込むための後眼房レンズである。これは、眼内レンズが眼の水晶体嚢内に植え込まれることが特にそれのみを意図されることを意味する。
【0038】
本発明の他の特徴は、特許請求の範囲、図及び図の説明から明らかとなる。上の説明に記載された特徴及び特徴の組合せ並びに以下の図の説明に記載され、且つ/又は図中のみに示される特徴及び特徴の組合せは、それぞれ明示された組合せだけでなく、他の組合せでも使用され得、それも本発明の範囲から逸脱しない。本発明は、したがって、図中に示されず、明確に説明されていないが、説明された詳細からの特徴の別の組合せの結果として得られ、且つそれから創出され得る実施形態も含み、それも開示しているとみなされるものとする。本開示は、したがって、当初の文言の独立請求項の特徴の全てを必ずしも有するとは限らない実施形態及び特徴の組合せにも及ぶとみなされるものとする。本開示は、特に前述の実施形態により、特許請求の範囲の従属性の言及において記された特徴の組合せを越えるか又はそれと異なる実施形態及び特徴の組合せにも及ぶとさらにみなされるものとする。
【0039】
眼用レンズの例示的な実施形態の定義のためのパラメータ及びパラメータの比又はパラメータの値に関する指標に関して本明細書で示される具体的な数値は、例えば、測定誤差、系統故障、DIN公差等による偏差についても本発明の範囲により付随的に包含されるとみなされるべきであり、これは、実質的に対応する数値及び指標に関する説明もそれに従って理解されるべきであることを意味する。
【0040】
本発明の実施例を、概略図を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明による眼内レンズの例示的な実施形態の斜視図を示す。
図2】眼内レンズのためのハプティックの例示的な実施形態の斜視図を示す。
図3】眼内レンズの主光軸の方向への平面図における、図1による眼内レンズの概略図を示す。
図4】リングが環である二次元の基本形状のハプティックのリングの概略図を示す。
図5】リングの別の例示的な実施形態が基本形状で楕円のリングとして表される、図4による図を示す。
図6a】水晶体嚢内に植え込まれた眼内レンズの例示的な実施形態の概略図を示す。
図6b】眼内レンズが、図6aのものより大きい水晶体嚢内に植え込まれた、図6aに準じた図を示す。
図6c】眼内レンズが、さらにより大きい水晶体嚢内に植え込まれた、図6a及び6bに準じた図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図中では、同じ又は機能的に均等な要素には、同じ参照記号が付されている。
【0043】
図1は、人工眼内レンズ1の例示的な実施形態の斜視図を示す。この眼内レンズ1は、眼の水晶体嚢内に植え込まれる後眼房レンズである。したがって、それは、水晶体内植込み眼内レンズとも呼ばれ得る。眼内レンズ1は、光学部2を含む。光学部2は、レンズの形態である。これは、眼内レンズ1の所定の光学結像特性を創出するように設計される。眼内レンズ1は、光軸又は主光軸Aを有する。これは、光学部2の中心において、中央部で光学部2の前面3と光学部2の後面4とを通過する。
【0044】
眼内レンズ1は、ハプティック5を含む。図の例示的な実施形態において、ハプティック5は、2つのリング6及び7から形成される。この例示的な実施形態の第一のリング6は、少なくとも領域ごとに弾性変形可能である。第一のリング6は、主光軸Aの周囲で円周方向に不均一な形態を有する。これは、第一のリング6の形状全体又は幾何学形状全体が単一の面内に配置されないことを意味する。むしろ、第一のリング6は、立体形状のリングとして形成される。その立体形状に関して、第一のリング6は、正確に2つのリング谷部8及び17を有する。さらに、第一のリング6は、正確に2つのリング山部9及び10を有する。リング谷部8及び17とリング山部9及び10とは、特に光学部2の中心面M(図6a~6c)に関して見るべきである。レンズの形態の光学部2のこの中心面Mは、この光学部2を通して延び、特に中心に延び、主光軸Aに対して直角に向かう。その結果、主光軸Aの方向に考慮されるとき、2つのリング谷部8及び17は、リング山部9及び10より中心面Mから短い距離を有する。特に、円周方向において、リング谷部8及び17が主光軸Aの周囲で相互に180°ずれて配置されるようになされる。対応する実施形態は、好ましくは、リング山部9及び10にも当てはまる。リング山部9及び10は、第一のリング6の長さ方向軸Bに沿って2つのリング谷部8及び17から同じ距離に形成される。
【0045】
特に、第一のリング6は、サドル形態のエッジリングの形状を有する。眼内レンズ1の完成した最終状態でその位置にあるとき、第一のリング6は、環又は楕円リングの形態であり、これは、中心面M内にあり、主光軸Aに対して直角に向かう軸の周囲で湾曲する。その結果、このサドル形状が得られる。第一のリング6のこの端部位置は、中空円柱の側壁から切り出されたリング形状として形成されるようにもなされ得、この中空円柱の円柱軸は、中心面M内にある円柱軸であり、主光軸Aに対して直角に向かう。
【0046】
円周面において、第一のリング6は、光学部2にそのリング谷部8及び17により連結される。特に、これは、光学部2との直接接続部を有する。第一のリング6のリング山部9及び10は、光学部2と接触しないように配置される。その結果、これらのリング山部9及び10は、主光軸Aに関して半径方向に見たとき、半径方向の外に自由に突出する。
【0047】
図1の例からさらに明らかであるように、この例示的な実施形態では、ハプティック5は、第二のリング11を有する。この第二のリング11も、同様に主光軸Aの周囲で円周方向に中断のない形態を有し、主光軸Aを完全に取り囲む形態を有する。特に、この第二のリング11も、同様に正確に2つのリング谷部12及び13と2つのリング山部14及び15とを有するようになされる。第二のリング11は、好ましくは、第一のリング6に関して、主光軸Aの周囲で円周方向において、2つのリング谷部8及び12が同じ方位角位置に配置され、2つのリング谷部17及び13も同じ方位角位置に配置される。特に、2つのリング6及び11は、リング山部9及び14が同じ方位角位置に配置され、リング山部10及び15が同じ方位角位置に配置されるように形成され、配置される。
【0048】
それ以外には、光学部2に関する形状と配置について、第一のリング6に関して行った説明が第二のリング11にも当てはまる。
【0049】
光学部2のない状態の眼内レンズ1のハプティック5が図2の斜視図に示されている。この場合、2つのリング6及び7を有するハプティック5が一体部品で形成されている。破線の分離線は、この場合、リング6及び7のそれぞれの幾何学形状を明示するための補助線としてのみ理解されるべきである。リング6及び7は、別の実施形態も有し得る。
【0050】
図3において例示的に、且つ図が主光軸Aの方向に見た眼内レンズ1のものである場合として概略的に示される平面図から、第一のリング6のリング谷部8及び17は、主光軸Aに関して第一の半径r1に配置されることが明らかである。この半径r1は、半径r2より小さい。この第二の半径r2は、リング山部9及び10の主光軸Aからの半径方向の距離を表す。半径方向において、第一のリング6のリング山部9及び10は、その結果、リング谷部8及び17より主光軸Aから離れている。同じことが、第二のリング11のリング山部14及び15と比較したリング谷部12及び13にも当てはまる。
【0051】
特に、第一のリング6は、第一のリング部分6aを有し、それは、第一のリング谷部8から第一のリング山部9にわたって第二のリング谷部17まで延びるようになされる。この第一のリング部分6aの湾曲又は湾曲方向は、主光軸Aに関して半径方向に外側に向けられる。その結果、図3による投影図において、第一のリング部分6aは、U字形アーチを表す。それは、光学部2の円周上のある点から、これに関して180°前者からずらされた光学部2の円周上の別の点まで延びる。対応する説明は、第一のリング6の第二のリング部分6bにも当てはまる。まとめて、2つのリング部分6a及び6bは、第一のリング6を形成する。同じことが第二のリング11の第一のリング部分11aと第二のリング部分11bにも当てはまる。
【0052】
リング谷部8及び17間に直線に延び、主光軸Aを通して延びる正幅Lは、光学部2の直径の少なくとも90パーセント、特に少なくとも100パーセントである。同じことがリング谷部12及び13間の正幅にも当てはまる。
【0053】
主光軸Aに関するその湾曲に関して、この第一のリング部分6aは、半径方向に外側に向けられる。同じことが第二のリング部分6bにも当てはまる。対応する記述は、リング部分11a及び11bの湾曲又は湾曲方向にも当てはまる。
【0054】
眼内レンズ1の植え込まれていない基本状態において、リング山部9及び14は距離a1を有し、これは、主光軸Aの方向に測定される。この距離a1は、リング谷部8及び12及び/又はリング谷部17及び13間に任意選択的に存在する、主光軸Aの方向に測定される距離より大きい。特に、対応する距離a1は、リング山部10及び15間にも形成される。主光軸Aの周囲で円周方向に考慮されるとき、2つのリング6及び11間の距離は、リング谷部8、12及び17、13における極小値、すなわち距離0と、リング山部9、14及び/又はリング山部10、15間の距離a1により形成されるそれぞれの極大値との間で変化する。
【0055】
さらに、第一のリング6のリング山部9及び10は、主光軸Aの方向に考慮されるとき、リング谷部8及び17よりも大きい、光学部2の中心面Mからの距離を有するようになされる。特に、この距離は、距離a1の半分である。対応する記述は、特にリング谷部12及び13に関して、リング山部14及び15の中心面Mからの距離にも当てはまる。
【0056】
特に、2つのリング6及び11は、中心面Mに関して対称に形成される。
【0057】
図4は、第一のリング6の例示的な実施形態を示す。このリング6は、図面の平面内に示され、図1と比較して対応するように折り開かれており、したがって平坦に示されている。これは、この折り開いた面の表現において環の形状を有する。これに関して、図5は、図面のこの平面内での第一のリング6の代替的な実施形態を示し、このリングは、したがって、眼内レンズ1の最終位置と比較して折り開いた状態で示されており、その結果、二次元表現で示されている。この場合、この折り開かれた基本形状は、平面図において楕円リングであり得る。図4及び図5において、第一のリング6の二次元の折り開かれた基本形状で示されているように、対応する形状は、第二のリング11についても形成され得る。
【0058】
水晶体嚢16に植え込まれた眼内レンズ1の状態が図6aの概略図に示されている。水晶体嚢16は、この場合、比較的小さく、リング山部9、10、14及び15を相互に向かってかなり大きく移動させる必要があり、前記山部は、したがって、この点に関して弾性変形される。光学部2は、中心厚さDを有する。この中心厚さDは、主光軸Aに沿って測定され、光学部2の最大厚さを表す。主光軸Aに沿って前面3と中心面Mとの間で測定される厚さは、この中心厚さDの半分を表す。特に、眼内レンズ1の植え込まれていない状態では、リング山部9、10の中心面Mからの距離は、主光軸Aの方向に考慮されるとき、この距離D/2より大きい。
【0059】
特に、この実施形態では、眼内レンズ1の光学部2を、前記眼内レンズ1が水晶体嚢6に植え込まれた状態にあるとき、水晶体嚢壁、特に水晶体後嚢壁からある距離に配置することができる。したがって、眼房水が後面4と水晶体嚢16の水晶体後嚢壁との間に到達することができる。
【0060】
眼内レンズ1の水晶体嚢16’に植え込まれた状態の別の例示的な実施形態が図6bに示されている。この水晶体嚢16’は、水晶体嚢16と大きさ及び/又は形状の点で異なる。ハプティック5の弾性及び特殊な形状により、位置的に固定され、及び/又は回転的に安定な且つ/若しくは傾かない位置決めがその中でも得られる。眼内レンズ1の、同様にこの点でさらに異なる水晶体嚢16’’に植え込まれた状態の別の図が図6cに概略的に示されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c