(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いたウィンタータイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/06 20060101AFI20230627BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20230627BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230627BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230627BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20230627BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C08L9/06
C08K9/02
C08K3/04
C08K3/36
C08K9/04
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2019156026
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】平林 和也
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154822(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208723(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00- 21/02
C08K 3/00- 13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状分子と、直鎖状分子を包接する環状分子と、直鎖状分子から環状分子が脱離しないように直鎖状分子の両末端に配置された封鎖基とを有するロタキサンをシリカで被覆した微粒子と、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、カーボンブラック及び/又はシリカとを含有し、
前記微粒子、前記カーボンブラック、及び前記シリカ(ロタキサンを被覆するシリカは除く)の合計の含有量が、ゴム成分100質量部に対して70~150質量部であ
り、
前記微粒子の含有量が、ゴム成分100質量部に対して10~100質量部であり、
前記カーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して5~30質量部であり、
前記シリカ(ロタキサンを被覆するシリカを含む)の含有量が、ゴム成分100質量部に対して10~90質量部である、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ロタキサンが、前記環状分子にカプロラクトンによる修飾基を有する、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記微粒子の平均粒子径が1~50μmである、請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ロタキサンの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、9.8~98質量部である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたウィンタータイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いたウィンタータイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウィンタータイヤには、積雪路面を走行する際の制動性能(スノー性能)が求められている。積雪路面における制動性能を向上させるためには、ゴム組成物の低温での柔軟性の向上が求められる。一方、柔軟性が向上すると補強性が低下するといった問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-201629号公報
【文献】特開2018-24768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、ゴム組成物に低温での柔軟性を付与する手段として、ロタキサンをゴム組成物に配合することに想到した。
【0005】
引用文献1,2には、亀裂の発生しにくいゴム組成物としてロタキサンを配合したものが記載されているが、ロタキサンの効果を得るためには、ゴム成分とロタキサンを結合させるために、ゴム成分合成時(重合段階)においてロタキサンを添加するか、あるいは、ゴム成分やロタキサンの環状分子を変性する必要があった。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、ゴム成分合成時の化合物の添加やゴム成分の変性を要さず、補強性充填材として一般的なカーボンブラックとシリカのみを配合した従来のタイヤ用ゴム組成物と比較して、補強性を維持しつつ、スノー性能を向上させることができるタイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いたウィンタータイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物は、上記課題を解決するために、直鎖状分子と、直鎖状分子を包接する環状分子と、直鎖状分子から環状分子が脱離しないように直鎖状分子の両末端に配置された封鎖基とを有するロタキサンをシリカで被覆した微粒子と、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、カーボンブラック及び/又はシリカとを含有し、上記微粒子、上記カーボンブラック、及び上記シリカ(ロタキサンを被覆するシリカは除く)の合計の含有量が、ゴム成分100質量部に対して70~150質量部であり、上記微粒子の含有量が、ゴム成分100質量部に対して10~100質量部であり、上記カーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して5~30質量部であり、上記シリカ(ロタキサンを被覆するシリカを含む)の含有量が、ゴム成分100質量部に対して10~90質量部であるものとする。
【0008】
上記ロタキサンは、上記環状分子にカプロラクトンによる修飾基を有するものとすることができる。
【0009】
上記微粒子の平均粒子径は1~50μmであるものとすることができる。
【0011】
上記ロタキサンの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、9.8~98質量部であるものとすることができる。
【0012】
本発明の一実施形態に係るウィンタータイヤは、上記ゴム組成物をトレッド部に用いたものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物によれば、従来のタイヤ用ゴム組成物と比較して、補強性を維持しつつ、スノー性能が向上した空気入りタイヤを得ることができる。また、未加硫ゴムにロタキサンをシリカで被覆した微粒子を他の添加剤と同様に添加することでロタキサンの効果が得られ、ロタキサンをゴム成分合成時に添加する必要がなく、ゴム成分を変性させる必要もない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係るタイヤ用ゴム組成物は、直鎖状分子と、直鎖状分子を包接する環状分子と、直鎖状分子から環状分子が脱離しないように直鎖状分子の両末端に配置された封鎖基とを有するロタキサンをシリカで被覆した微粒子と、スチレンブタジエンゴムを含むゴム成分と、カーボンブラック及び/又はシリカとを含有し、上記微粒子、上記カーボンブラック、及び上記シリカ(ロタキサンを被覆するシリカは除く)の合計の含有量が、ゴム成分100質量部に対して70~150質量部であるものとする。
【0016】
本実施形態に係るゴム成分は、スチレンブタジエンゴム(SBR)を含有するものであるが、これに限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、またはこれらの末端や主鎖の一部を変性した変性ゴムなどをさらに含有するものであってもよく、好ましくは、スチレンブタジエンゴムと、天然ゴムと、ブタジエンゴムとの併用である。なお、スチレンブタジエンゴム(SBR)には、これらの末端や主鎖の一部を変性した変性SBRも含まれるものとする。
【0017】
ゴム成分として、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、及びブタジエンゴムを併用する場合、ゴム成分100質量部中のスチレンブタジエンゴム(SBR)の含有量は、特に限定されないが、20~70質量部であることが好ましく、30~60質量部であることがより好ましい。ゴム成分100質量部中の天然ゴムの含有量は、特に限定されないが、20~60質量部であることが好ましく、30~50質量部であることがより好ましい。ゴム成分100質量部中のブタジエンゴムの含有量は、特に限定されないが、10~40質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。
【0018】
本実施形態に係るロタキサンは、上述のとおり、直鎖状分子と、上記直鎖状分子を包接する環状分子と、上記直鎖状分子から上記環状分子が脱離しないように、上記直鎖状分子の両末端に配置された封鎖基とを有するものである。なお、本明細書において、「ロタキサン」には、2以上の環状分子を有するポリロタキサンも含まれるものとする。
【0019】
上記直鎖状分子としては、特に限定されないが、例えば、ポリアルキル類、ポリエステル類、ポリエーテル類、ポリアミド類、ポリアクリル類、ベンゼン環を有する直鎖状分子を挙げることができる。これらは、単独で含有されていてもよく、2種以上が混合されて含有されていてもよい。
【0020】
上記ポリアルキル類としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどを挙げることができるが、ポリエステル類、ポリアミド類、ベンゼン環を有する直鎖状分子、ポリアクリル類も通常使用される一般的な材料を使用できる。
【0021】
更に、ポリエーテル類としては、例えばポリエチレングリコールを挙げることができ、環状分子の包接性が優れるという観点から好適に用いることができる。
【0022】
上記直鎖状分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、10000~40000であることが好ましく、15000~35000であることがより好ましく、20000~30000であることがさらに好ましい。
【0023】
上記環状分子は、環状構造を有し、直鎖状分子を包接し後述するスライドリング効果を奏するものであれば特に制限されない。なお、本明細書において、「環状構造」とは、必ずしも閉環した形状である必要はない。すなわち、環状分子は、例えば、「C」字状のように、実質的に環状構造を有するものであればよい。
【0024】
また、環状分子は、反応基を有することが好ましい。これによって、シリカとの相互作用が得られ易く、また修飾基などの導入が行い易くなる。このような反応基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基、アルデヒド基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、反応基としては、後述する封鎖基を形成(ブロック化反応)する際に、この封鎖基と反応しない基が好ましい。このような点を考慮すると、反応基は、水酸基、エポキシ基、アミノ基であることが好ましく、水酸基であることが特に好ましい。
【0025】
具体的には、環状分子としては、シクロデキストリン、クラウンエーテル類、ベンゾクラウン類、ジベンゾクラウン類、ジシクロヘキサノクラウン類、これらの誘導体又は変性体などが挙げられる。これらのうち、シクロデキストリン及びシクロデキストリン誘導体が好ましく使用される。ここで、シクロデキストリン及びシクロデキストリン誘導体の種類は、特に制限されない。シクロデキストリンは、α型、β型、γ型、δ型、ε型のいずれでもよい。また、シクロデキストリン誘導体としてもα型、β型、γ型、δ型、ε型のいずれでもよい。なお、シクロデキストリン誘導体とは、例えば、アミノ体、トシル体、メチル体、プロピル体、モノアセチル体、トリアセチル体、ベンゾイル体、スルホニル体、モノクロロトリアジニル体等の化学修飾体を意図したものである。本発明で使用できるシクロデキストリン及びシクロデキストリン誘導体のより具体的な例としては、α-シクロデキストリン(グルコース数=6個)、β-シクロデキストリン(グルコース数=7個)、γ-シクロデキストリン(グルコース数=8個)等のシクロデキストリン;ジメチルシクロデキストリン、グルコシルシクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン、2,6-ジ-O-メチル-α-シクロデキストリン、6-O-α-マルトシル-α-シクロデキストリン、6-O-α-D-グルコシル-α-シクロデキストリン、ヘキサキス(2,3,6-トリ-O-アセチル)-α-シクロデキストリン、ヘキサキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-α-シクロデキストリン、ヘキサキス6-O-トシル)-α-シクロデキストリン、ヘキサキス(6-アミノ-6-デオキシ)-α-シクロデキストリン、ヘキサキス(2、3-アセチル-6-ブロモ-6-デオキシ)-α-シクロデキストリン、ヘキサキス(2,3,6-トリ-O-オクチル)-α-シクロデキストリン、モノ(2-O-ホスホリル)-α-シクロデキストリン、モノ[2,(3)-O-(カルボキシルメチル)]-α-シクロデキストリン、オクタキス(6-O-t-ブチルジメチルシリル)-α-シクロデキストリン、スクシニル-α-シクロデキストリン、グルクロニルグルコシル-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6-ジ-O-エチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(6-O-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-アセチル-6-O-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-ジ-O-メチル-6-O-スルホ)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-アセチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-ベンゾイル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(3-O-アセチル-2,6-ジ-O-メチル)-β-シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3-O-アセチル-6-ブロモ-6-デオキシ)-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシエチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、(2-ヒドロキシ-3-N,N,N-トリメチルアミノ)プロピル-β-シクロデキストリン、6-O-α-マルトシル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ヘキサキス(6-アミノ-6-デオキシ)-β-シクロデキストリン、ビス(6-アジド-6-デオキシ)-β-シクロデキストリン、モノ(2-O-ホスホリル)-β-シクロデキストリン、ヘキサキス[6-デオキシ-6-(1-イミダゾリル)]-β-シクロデキストリン、モノアセチル-β-シクロデキストリン、トリアセチル-β-シクロデキストリン、モノクロロトリアジニル-β-シクロデキストリン、6-O-α-D-グルコシル-β-シクロデキストリン、6-O-α-D-マルトシル-β-シクロデキストリン、スクシニル-β-シクロデキストリン、スクシニル-(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、2-カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、2-カルボキシエチル-β-シクロデキストリン、ブチル-β-シクロデキストリン、スルホプロピル-β-シクロデキストリン、6-モノデオキシ-6-モノアミノ-β-シクロデキストリン、シリル[(6-O-t-ブチルジメチル)2,3-ジ-O-アセチル]-β-シクロデキストリン、2-ヒドロキシエチル-γ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン、ブチル-γ-シクロデキストリン、3A-アミノ-3A-デオキシ-(2AS,3AS)-γ-シクロデキストリン、モノ-2-O-(p-トルエンスルホニル)-γ-シクロデキストリン、モノ-6-O-(p-トルエンスルホニル)-γ-シクロデキストリン、モノ-6-O-メシチレンスルホニル-γ-シクロデキストリン、オクタキス(2,3,6-トリ-O-メチル)-γ-シクロデキストリン、オクタキス(2,6-ジ-O-フェニル)-γ-シクロデキストリン、オクタキス(6-O-t-ブチルジメチルシリル)-γ-シクロデキストリン、オクタキス(2,3,6-トリ-O-アセチル)-γ-シクロデキストリン等のシクロデキストリン誘導体が挙げられる。ここで、上述のシクロデキストリン等の環状分子は、その1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記環状分子の中では、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン及びこれらの誘導体が好ましく、包接性の観点からは、α-シクロデキストリン及びこれらの誘導体を使用することが特に好ましい。
【0026】
上記封鎖基は、上述のように直鎖状分子の両末端に配置されて、環状分子が直鎖状分子を包接した状態を保持できる基であれば、特に限定されない。
【0027】
このような基としては、「嵩高さ」を有する基又は「イオン性」を有する基などを挙げることができる。ここで、「基」とは、分子基及び高分子基を含む種々の基を意味する。「嵩高さ」を有する基としては、球形の基や側壁状の基を例示できる。
【0028】
また、「イオン性」を有する基のイオン性と、環状分子の有するイオン性とが相互に影響を及ぼし合い、例えば反発し合うことにより、環状分子が直鎖状分子に串刺しにされた状態を保持することができる。
【0029】
このような封鎖基の具体例としては、2,4-ジニトロフェニル基、3,5-ジニトロフェニル基などのジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、これらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0030】
上記ロタキサンは、環状分子が修飾基を有するものであってもよく、例えば、カプロラクトンによる修飾基である(-CO(CH2)5OH)基を備えた修飾ロタキサンが挙げられる。具体的には環状分子がシクロデキストリンであり、当該シクロデキストリンの水酸基の一部又は全部が修飾基で修飾され、その修飾基がカプロラクトンによる修飾基である(-CO(CH2)5OH)基を有するロタキサンである。より具体的には、その修飾基が、環状分子の-O-C3H6-O-基と結合した、カプロラクトンによる修飾基である(-CO(CH2)5OH)基を有するロタキサンである。
【0031】
本発明で用いる、ロタキサンをシリカで被覆した微粒子とは、上記ロタキサンの表面の少なくとも一部をシリカで被覆し、上記ロタキサンとシリカが化学的に結合したものとする。
【0032】
このようなロタキサンをシリカで被覆した微粒子としては、市販されているものも使用することができる。具体的には、アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製「SH2400B-0501」や「SH2400B-2001」等が挙げられる。
【0033】
上記微粒子の含有量は、ゴム成分100質量部に対して10~100質量部であることが好ましく、20~90質量部であることがより好ましく、20~80質量部であることがさらに好ましい。
【0034】
上記ロタキサンの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、9.8~98質量部であることが好ましく、19.6~88.2質量部であることがより好ましく、19.6~78.4質量部であることがさらに好ましい。
【0035】
上記微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、1~50μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましく、1~20μmであることがさらに好ましい。上記微粒子の平均粒子径が上記範囲内であることにより、ロタキサンによる効果が得られ易い。ここで、本明細書において、平均粒子径とは、島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2200」、及び、光源として赤色半導体レーザ(波長680nm)を用いてレーザ回折・散乱法により測定し、得られた粒度分布(体積基準)における積算値90%での粒子径(90%体積粒径(D90))を意味する。
【0036】
本実施形態に係るゴム組成物には、無機充填剤として、カーボンブラック及び/又はシリカを含有するものである。すなわち、無機充填剤は、カーボンブラック単独でも、シリカ単独でも、カーボンブラックとシリカの併用でもよい。ここで、上記微粒子とは別にシリカを配合する場合、そのシリカはロタキサンとは化学的に結合せずに、上記微粒子とは別にゴム組成物に分散するものであり、ロタキサンを被覆するシリカとは区別できるものである。
【0037】
上記微粒子とカーボンブラックとシリカ(ロタキサンを被覆するシリカは除く)の合計の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、70~150質量部であるが、好ましくは80~140質量部であり、より好ましくは80~120質量部である。なお、上記微粒子とカーボンブラックとシリカ(ロタキサンを被覆するシリカは除く)の合計の含有量は、上記ロタキサンとカーボンブラックとシリカ(ロタキサンを被覆するシリカを含む)の合計の含有量と換言することができる。上記微粒子とカーボンブラックとシリカ(ロタキサンを被覆するシリカは除く)の合計の含有量が、上記範囲内であると、補強性を維持しつつ、スノー性能の向上効果が得られやすい。
【0038】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5~30質量部であることが好ましく、5~20質量部であることがより好ましく、5~15質量部であることがさらに好ましい。
【0039】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。その含有量(ロタキサンを被覆するシリカを含む)は、ゴムのtanδのバランスや補強性などの観点からゴム成分100質量部に対して、10~90質量部であることが好ましく、10~80質量部であることがより好ましい。
【0040】
本実施形態に係るゴム組成物は、ロタキサンをシリカで被覆した微粒子と、カーボンブラック及び/又はシリカを所定の含有量となるように添加することで、従来のタイヤ用ゴム組成物と比較して、補強性を維持しつつ、優れたスノー性能が得られる。このメカニズムは定かではないが、次のように推測される。すなわち、ロタキサンの環状分子表面のシリカとゴム成分との化学的な相互作用により、ゴム伸長時にロタキサンの環状分子と直鎖状分子との間にすべりが生じる(以下、スライドリング効果ともいう)。このスライドリング効果により、小さな応力でもゴムがよく伸びるため、ゴム組成物の柔軟性が向上し、スノー性能に寄与すると考えられる。また、微粒子表面のシリカが補強性充填剤として機能するため、上記微粒子、カーボンブラック、及びシリカの合計量を所定の含有量とすることにより、補強性を維持できると考えられる。
【0041】
また、上記微粒子を用いることにより、微粒子表面のシリカを介して、ロタキサンとゴム成分が結合できるため、他の添加剤と同様に未加硫ゴムに配合すればよく、ゴム成分合成時にロタキサンを添加する必要もなければ、ゴム成分を変性させる必要もない。
【0042】
本実施形態に係るゴム組成物は、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤をさらに含有してもよい。シランカップリング剤の含有量は、上記微粒子と補強性充填剤として配合するシリカとの合計量100質量部に対して2~20質量部であることが好ましい。
【0043】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているプロセスオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0044】
加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられる。加硫剤の含有量はゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。また、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0045】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練して作製することができる。すなわち、第1工程で、ゴム成分に対し、ロタキサンをシリカで被覆した微粒子とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、得られた混合物に、最終工程で加硫剤及び加硫促進剤を添加し、混合してゴム組成物を調製することができる。
【0046】
このようにして得られるゴム組成物は、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど、各種用途・サイズの空気入りタイヤのトレッド部やサイドウォール部などに適用することができ、好ましい実施形態においてはトレッド部に適用することができる。ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば130~190℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【0047】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、上述の通り、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第1工程で、加硫促進剤、及び硫黄を除く成分を添加混合し(排出設定温度=160℃)、得られた混合物に、最終工程で、加硫促進剤及び硫黄を添加混合して(排出設定温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0050】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0051】
・天然ゴム:RSS#3
・SBR1:旭化成(株)製「タフデン1834」
・SBR2:JSR(株)製「HPR340」、アルコキシル基及びアミノ基末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム
・BR:宇部興産(株)製「BR150B」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストKH」
・シリカ:東ソー(株)製「ニップシールAQ」
・微粒子1:アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製「SH2400B-0501」(直鎖状分子:ポリエチレングリコール、環状分子:カプロラクトンによる修飾基を有するシクロデキストリン、封鎖基:アダマンタン基、表面がシリカで被覆されている)、平均粒子径=7.4μm、真比重(He置換法)=1.18g/cc、シリカ含有割合=2%
・微粒子2:アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製「SH2400B-2001」(直鎖状分子:ポリエチレングリコール、環状分子:カプロラクトンによる修飾基を有するシクロデキストリン、封鎖基:アダマンタン基、表面がシリカで被覆されている)、平均粒子径=20μm、真比重(He置換法)=1.16g/cc、シリカ含有割合=2%
・ロタキサン化合物:アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)製「SH3400P」
(直鎖状分子:ポリエチレングリコール、環状分子:カプロラクトンによる修飾基を有するシクロデキストリン、封鎖基:アダマンタン基、表面がシリカで被覆されていない)
・シランカップリング剤:エボニック・ジャパン(株)製「Si69」
・オイル:JXTGエネルギー(株)製「プロセスNC140」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛2種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0052】
得られた各ゴム組成物について、160℃で30分間加硫した所定形状の試験片を用いて、硬度、及びスノー性能を評価した。評価方法は次の通りである。
【0053】
・硬度:JIS K7215に準拠し測定した。従来のタイヤ用ゴム組成物の配合である比較例1の値を100として指数で表示し、指数が小さいほど、硬度が低いことを示す。指数が95~105であれば、補強性は維持されたと評価した。
【0054】
・スノー性能:試験タイヤ4本を自動車に装着し、雪上路面上で60km/h走行からABS作動させて20km/hまで減速時の制動距離を測定し(n=10の平均値)、制動距離の逆数について従来のタイヤ用ゴム組成物の配合である比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、スノー性能に優れることを示す。
【0055】
【0056】
結果は、表1に示す通りであり、比較例1と実施例1~10との対比より、微粒子、カーボンブラック、及びシリカ(ロタキサンを被覆するシリカは除く)の合計の含有量が、ゴム成分100質量部に対して70~150質量部である場合、従来の配合と比較して、補強性を維持しつつ、優れたスノー性能が得られることがわかる。
【0057】
比較例1と比較例2との対比より、微粒子、カーボンブラック、及びシリカ(ロタキサンを被覆するシリカは除く)の合計の含有量が、ゴム成分100質量部に対して150質量部を超える場合、補強性を維持できず、スノー性能も劣っていることがわかる。
【0058】
また、比較例1と比較例3との対比より、上記微粒子を含有し、カーボンブラック及びシリカを含有しない場合、補強性を維持できないことがわかる。
【0059】
また、比較例1と比較例4との対比より、シリカで被覆されていないロタキサン化合物を用いた場合、補強性を維持できないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のゴム組成物は、乗用車、ライトトラック・バス等の各種タイヤに用いることができる。