(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ジャイロ装置およびジャイロ装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01C 19/5677 20120101AFI20230627BHJP
【FI】
G01C19/5677
(21)【出願番号】P 2019069619
(22)【出願日】2019-04-01
【審査請求日】2022-03-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、エネルギー・環境新技術先導プログラム/未踏チャレンジ2050/周波数変調・積分型 MEMSジャイロスコープの開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】塚本 貴城
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀治
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/159429(WO,A1)
【文献】特開2010-96765(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109470228(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C19/00-19/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転振動モードに対応する駆動信号および第2回転振動モードに対応する駆動信号によって駆動される単一の2次元振動子と、
前記2次元振動子から出力される信号から、前記第1回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出する第1検出部と、
前記2次元振動子から出力される信号から、前記第2回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出する第2検出部と、
前記第1回転振動モードに対応する駆動信号の位相および振幅を調整する第1位相・振幅調整部と、
前記第2回転振動モードに対応する駆動信号の位相および振幅を調整する第2位相・振幅調整部
と、
前記第1検出部によって検出された位相に基づいて、前記第1回転振動モードに対応する第1共振周波数と、位相が前記第1検出部により検出された位相と一致する信号とを出力する第1発振回路と、
前記第1検出部によって検出された振幅が第1設定値となるようにゲインをコントロールする第1ゲインコントロール部と、
前記第2検出部によって検出された位相に基づいて、前記第2回転振動モードに対応する第2共振周波数と、位相が前記第2検出部により検出された位相と一致する信号とを出力する第2発振回路と、
前記第2検出部によって検出された振幅が第2設定値となるようにゲインをコントロールする第2ゲインコントロール部と、
第1参照信号を使用して、前記第2回転振動モードに対応したエラー成分を検出する第3検出部と、
第2参照信号を使用して、前記第1回転振動モードに対応したエラー成分を検出する第4検出部とを備え、
前記第1位相・振幅調整部による処理で用いられる、前記第1回転振動モードに対応する駆動信号の位相に対する第1位相補正値、および、前記第1回転振動モードに対応する駆動信号の振幅に対する第1振幅補正値が自動で求められ、
前記第2位相・振幅調整部による処理で用いられる、前記第2回転振動モードに対応する駆動信号の位相に対する第2位相補正値、および、前記第2回転振動モードに対応する駆動信号の振幅に対する第2振幅補正値が自動で求められ
、
前記第1検出部は、前記第1発振回路からフィードバックされる信号を前記第1参照信号として使用して同期検波を行うことにより前記第1回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
前記第2検出部は、前記第2発振回路からフィードバックされる信号を前記第2参照信号として使用して同期検波を行うことにより前記第2回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
前記第2回転振動モードに対応したエラー成分に基づいて、前記第1位相補正値および前記第1振幅補正値が求められ、
前記第1回転振動モードに対応したエラー成分に基づいて、前記第2位相補正値および前記第2振幅補正値が求められる
ジャイロ装置。
【請求項2】
前記第1位相・振幅調整部による処理で用いられる位相補正値および振幅補正値を変化させることにより、前記第3検出部が複数のエラー成分を検出し、
前記第3検出部により検出された複数のエラー成分により規定される平面に基づいて、前記第1位相補正値および前記第1振幅補正値が求められ、
前記第2位相・振幅調整部による処理で用いられる位相補正値および振幅補正値を変化させることにより、前記第4検出部が複数のエラー成分を検出し、
前記第4検出部により検出された複数のエラー成分により規定される平面に基づいて、前記第2位相補正値および前記第2振幅補正値が求められる
請求項
1に記載のジャイロ装置。
【請求項3】
前記第3検出部により検出されるエラー成分と、前記第4検出部により検出されるエラー成分とが所定以下になるまで、前記第1位相補正値、前記第1振幅補正値、前記第2位相補正値および前記第2振幅補正値を求める処理が繰り返される
請求項
1又は
2に記載のジャイロ装置。
【請求項4】
前記第1共振周波数と前記第2共振周波数とに基づいて回転の角速度を検出する角速度検出部を備える
請求項
1から
3までの何れか1項に記載のジャイロ装置。
【請求項5】
前記第1回転振動モードに対応した成分と前記第2回転振動モードに対応した成分との位相差に基づいて、回転の角度を検出する角度検出部を備える
請求項1乃至
4の
何れか1項に記載のジャイロ装置。
【請求項6】
第1検出部が、第1回転振動モードに対応する駆動信号および第2回転振動モードに対応する駆動信号によって駆動される単一の2次元振動子から出力される信号から、前記第1回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
第2検出部が、前記2次元振動子から出力される信号から、前記第2回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
第1位相・振幅調整部が、前記第1回転振動モードに対応する駆動信号の位相および振幅を調整し、
第2位相・振幅調整部が、前記第2回転振動モードに対応する駆動信号の位相および振幅を調整し、
第1発振回路が、前記第1検出部によって検出された位相に基づいて、前記第1回転振動モードに対応する第1共振周波数と、位相が前記第1検出部により検出された位相と一致する信号とを出力し、
第1ゲインコントロール部が、前記第1検出部によって検出された振幅が第1設定値となるようにゲインをコントロールし、
第2発振回路が、前記第2検出部によって検出された位相に基づいて、前記第2回転振動モードに対応する第2共振周波数と、位相が前記第2検出部により検出された位相と一致する信号とを出力し、
第2ゲインコントロール部が、前記第2検出部によって検出された振幅が第2設定値となるようにゲインをコントロールし、
第3検出部が、第1参照信号を使用して、前記第2回転振動モードに対応したエラー成分を検出し、
第4検出部が、第2参照信号を使用して、前記第1回転振動モードに対応したエラー成分を検出し、
前記第1位相・振幅調整部による処理で用いられる、前記第1回転振動モードに対応する駆動信号の位相に対する第1位相補正値、および、前記第1回転振動モードに対応する駆動信号の振幅に対する第1振幅補正値が自動で求められ、
前記第2位相・振幅調整部による処理で用いられる、前記第2回転振動モードに対応する駆動信号の位相に対する第2位相補正値、および、前記第2回転振動モードに対応する駆動信号の振幅に対する第2振幅補正値が自動で求めら
れ、
前記第1検出部は、前記第1発振回路からフィードバックされる信号を前記第1参照信号として使用して同期検波を行うことにより前記第1回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
前記第2検出部は、前記第2発振回路からフィードバックされる信号を前記第2参照信号として使用して同期検波を行うことにより前記第2回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
前記第2回転振動モードに対応したエラー成分に基づいて、前記第1位相補正値および
前記第1振幅補正値が求められ、
前記第1回転振動モードに対応したエラー成分に基づいて、前記第2位相補正値および
前記第2振幅補正値が求められる
ジャイロ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャイロ装置およびジャイロ装置の制御方法に関し、例えば、単一(1個)のモードマッチ(直交する2軸の共振周波数が一致)した2次元振動子を用いたジャイロ装置およびジャイロ装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転の角速度を検出するためのジャイロ装置が提案されており、本件発明者も、下記特許文献1に開示されている、2次元振動子を用いたジャイロ装置を提案している。特許文献1に開示されたジャイロ装置では、2次元振動子の不完全性により生じ得るX方向およびY方向における周波数やQ値のずれをキャンセルするために、位相調整部による位相調整処理および振幅調整部による振幅調整処理が行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたジャイロ装置で行われる位相調整処理により補正される位相差や振幅調整処理により補正される振幅は、自動で設定されることが望まれる。
【0005】
本発明の目的の一つは、これらの問題を解決するための新規かつ有用なジャイロ装置およびジャイロ装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様は、
第1回転振動モードに対応する駆動信号および第2回転振動モードに対応する駆動信号によって駆動される単一の2次元振動子と、
2次元振動子から出力される信号から、第1回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出する第1検出部と、
2次元振動子から出力される信号から、第2回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出する第2検出部と、
第1回転振動モードに対応する駆動信号の位相および振幅を調整する第1位相・振幅調整部と、
第2回転振動モードに対応する駆動信号の位相および振幅を調整する第2位相・振幅調整部と、
第1検出部によって検出された位相に基づいて、第1回転振動モードに対応する第1共振周波数と、位相が第1検出部により検出された位相と一致する信号とを出力する第1発振回路と、
第1検出部によって検出された振幅が第1設定値となるようにゲインをコントロールする第1ゲインコントロール部と、
第2検出部によって検出された位相に基づいて、第2回転振動モードに対応する第2共振周波数と、位相が第2検出部により検出された位相と一致する信号とを出力する第2発振回路と、
第2検出部によって検出された振幅が第2設定値となるようにゲインをコントロールする第2ゲインコントロール部と、
第1参照信号を使用して、第2回転振動モードに対応したエラー成分を検出する第3検出部と、
第2参照信号を使用して、第1回転振動モードに対応したエラー成分を検出する第4検出部とを備え、
第1位相・振幅調整部による処理で用いられる、第1回転振動モードに対応する駆動信号の位相に対する第1位相補正値、および、第1回転振動モードに対応する駆動信号の振幅に対する第1振幅補正値が自動で求められ、
第2位相・振幅調整部による処理で用いられる、第2回転振動モードに対応する駆動信号の位相に対する第2位相補正値、および、第2回転振動モードに対応する駆動信号の振幅に対する第2振幅補正値が自動で求められ、
第1検出部は、第1発振回路からフィードバックされる信号を第1参照信号として使用して同期検波を行うことにより第1回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
第2検出部は、第2発振回路からフィードバックされる信号を第2参照信号として使用して同期検波を行うことにより第2回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
第2回転振動モードに対応したエラー成分に基づいて、第1位相補正値および第1振幅補正値が求められ、
第1回転振動モードに対応したエラー成分に基づいて、第2位相補正値および第2振幅補正値が求められる
ジャイロ装置である。
【0007】
本発明の他の態様は、
第1検出部が、第1回転振動モードに対応する駆動信号および第2回転振動モードに対応する駆動信号によって駆動される単一の2次元振動子から出力される信号から、第1回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
第2検出部が、2次元振動子から出力される信号から、第2回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
第1位相・振幅調整部が、第1回転振動モードに対応する駆動信号の位相および振幅を調整し、
第2位相・振幅調整部が、第2回転振動モードに対応する駆動信号の位相および振幅を調整し、
第1発振回路が、第1検出部によって検出された位相に基づいて、第1回転振動モードに対応する第1共振周波数と、位相が第1検出部により検出された位相と一致する信号とを出力し、
第1ゲインコントロール部が、第1検出部によって検出された振幅が第1設定値となるようにゲインをコントロールし、
第2発振回路が、第2検出部によって検出された位相に基づいて、第2回転振動モードに対応する第2共振周波数と、位相が第2検出部により検出された位相と一致する信号とを出力し、
第2ゲインコントロール部が、第2検出部によって検出された振幅が第2設定値となるようにゲインをコントロールし、
第3検出部が、第1参照信号を使用して、第2回転振動モードに対応したエラー成分を検出し、
第4検出部が、第2参照信号を使用して、第1回転振動モードに対応したエラー成分を検出し、
第1位相・振幅調整部による処理で用いられる、第1回転振動モードに対応する駆動信号の位相に対する第1位相補正値、および、第1回転振動モードに対応する駆動信号の振幅に対する第1振幅補正値が自動で求められ、
第2位相・振幅調整部による処理で用いられる、第2回転振動モードに対応する駆動信号の位相に対する第2位相補正値、および、第2回転振動モードに対応する駆動信号の振幅に対する第2振幅補正値が自動で求められ、
第1検出部は、第1発振回路からフィードバックされる信号を第1参照信号として使用して同期検波を行うことにより第1回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
第2検出部は、第2発振回路からフィードバックされる信号を第2参照信号として使用して同期検波を行うことにより第2回転振動モードに対応した成分の振幅および位相を検出し、
第2回転振動モードに対応したエラー成分に基づいて、第1位相補正値および第1振幅補正値が求められ、
第1回転振動モードに対応したエラー成分に基づいて、第2位相補正値および第2振幅補正値が求められる
ジャイロ装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジャイロ装置で行われる位相調整処理により補正される位相差や振幅調整処理により補正される振幅を自動で設定することができる。なお、本明細書により例示された効果により、本発明の内容が限定して解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、リング型の共振器における振動の一例を説明するための図である。
【
図2】
図2は、リング型の共振器における振動の一例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、一般的な同期検波方式を説明するための図である。
【
図4】
図4は、入力信号からCWモードの成分およびCCWモードの成分を検出する構成、方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、入力信号からCWモードの成分およびCCWモードの成分を検出する構成、方法を詳細に説明するための図である。
【
図6】
図6は、所定の参照信号で検波した場合の出力の一例を説明するための図である。
【
図7】
図7は、所定の参照信号で検波した場合の出力の他の例を説明するための図である。
【
図8】
図8は、所定の参照信号で検波した場合の出力の他の例を説明するための図である。
【
図9】
図9は、所定の参照信号で検波した場合の出力の他の例を説明するための図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係るジャイロ装置の構成例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係る第1検出部の構成例を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係る第2検出部の構成例を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係るジャイロ装置における信号の流れを模式的に示した図である。
【
図14】
図14は、本発明の第1実施形態に係る角速度検出部の構成例を示す図である。
【
図18】
図18Aおよび
図18Bは、理想的な振動では、共振周波数においてX方向の振幅とY方向の振幅とが一致し、位相差が90°となることを説明するための図である。
【
図21】
図21は、振動子の不完全性により生じる問題点を説明するための図である。
【
図22】
図22Aおよび
図22Bは、振動子の不完全性により生じる問題点を解決するための方法を説明するための図である。
【
図23】
図23は、振動子の不完全性により生じる問題点を説明するための図である。
【
図25】
図25Aおよび
図25Bは、振動子の不完全性により生じる問題点を解決するための方法を説明するための図である。
【
図26】
図26は、第3実施形態に係るジャイロ装置の構成例を示すブロック図である。
【
図29】
図29は、CWモードの系に不要なCCWモードの成分が含まれてしまう問題、および、CCWモードの系に不要なCWモードの成分が含まれてしまう問題を説明する際に参照される図である。
【
図30】
図30は、第4実施形態にかかるジャイロ装置の構成例を説明する際に参照される図である。
【
図31】
図31は、第4実施形態にかかるジャイロ装置の構成例を説明する際に参照される図である。
【
図32】
図32は、第4実施形態にかかる第1位相補正値等を求める具体的な方法を説明する際に参照される図である。
【
図33】
図33は、第4実施形態にかかる第1位相補正値等を求める具体的な方法を説明する際に参照される図である。
【
図34】
図34は、第4実施形態にかかる第1位相補正値等を求める具体的な方法を説明する際に参照される図である。
【
図35】
図35は、第4実施形態にかかる第1位相補正値等を求める具体的な方法を説明する際に参照される図である。
【
図36】
図36は、第4実施形態にかかる第1位相補正値等を求める具体的な方法を説明する際に参照される図である。
【
図37】
図37は、第4実施形態にかかる第1位相補正値等を求める具体的な方法の変形例を説明する際に参照される図である。
【
図38】
図38は、第4実施形態にかかる第1位相補正値等を求める具体的な方法の変形例を説明する際に参照される図である。
【
図39】
図39は、第4実施形態にかかる第1位相補正値等を求める具体的な方法の変形例を説明する際に参照される図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態等について図面を参照しながら説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
<1.第1実施形態>
<2.第2実施形態>
<3.第3実施形態>
<4.第4実施形態>
<5.変形例>
以下に説明する実施形態等は本発明の好適な具体例であり、本発明の内容がこれらの実施形態等に限定されるものではない。
【0011】
<1.第1実施形態>
「一般的なジャイロ装置について」
本発明の理解を容易とするために、一般的なジャイロ装置(ジャイロスコープ)について説明する。なお、以下の説明では、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を使用した小型の振動型ジャイロ装置を例にして説明する。ジャイロ装置では、回転の角速度(以下、回転角速度と適宜、称する)を検出し、回転角速度を積分して回転の角度(以下、回転角度と適宜、称する)を得る処理が行われる。回転角速度Ωzを検出する方法として、複数の方法が知られている。第1の方法として、AM(Amplitude Modulation)モードと称される方法が知られている。AMモードでは、ドライブ軸(例えばX軸)方向に振動を与えたときに、コリオリ力によって変化するセンス軸(例えばY軸)方向の振幅(変位)を計測することで角速度を得る。センス軸方向の振幅が回転角速度Ωzに比例することから、当該振幅を検出することにより回転角速度Ωzを検出することができる。AMモードでは、ドライブ軸方向に与えられる振動がセンス軸方向を直接励振してしまう点を考慮して、ドライブ軸、センス軸方向における共振周波数が異なるように設定される(モードミスマッチ)。しかしながら、AMモードでは、共振周波数から離れた周波数で計測を行うため,感度が低下する等の問題がある。
【0012】
第2の方法は、フォースリバランスと呼ばれる方法であり、AMモードのセンス軸方向の振幅が常に0になるようにフィードバック制御をかけ、そのフィードバック信号の大きさから回転角速度を得る方法である。この場合は、ドライブ軸とセンス軸の共振周波数を合わせた(モードマッチさせた)振動子を用いることができる。しかしながら、スケールファクタ(回転角速度に対する出力の大きさ)が、温度等により変動してしまう等の問題がある。
【0013】
以上のような第1、第2の方法の問題に鑑み、本発明における実施形態では、FM(Frequency Modulation)モードによるジャイロ装置の駆動を採用している。FMモードの特徴としては、他の方法に比べ、感度(スケールファクタ)が正確で安定する、原理的に温度特性に優れている、ダイナミックレンジに制限がない等の利点を有している点が挙げられる。
【0014】
ここでFMモードの基本的な原理について説明する。なお、FMモードの原理そのものは公知であるのでここでは概略的な説明に留める。FMモードのジャイロは、直交(独立)する2軸方向に振動する振動子(共振子、共振器とも称される)で構成される。FMモードでは、各軸における共振周波数を一致させた振動子(モードマッチ)を用いる。この状態において、振動子に対して回転角速度を与えると、下記の数式1が導出されることが知られている。なお、数式1におけるλは共振周波数、ωは回転を与えていない場合の共振周波数(モードマッチしてあるので、2軸ともに同じ共振周波数)、Ωzは振動子に与えられる回転角速度を表している。
【0015】
なお、以下で言及する振動は直線方向(例えばX方向、Y方向)に限らず、平面内のモードマッチした直交振動モードであれば、どのような振動でも利用できる。例えば、リング型の共振器の場合は、
図1、2に示すように、直交する2つの振動は必ずしも単純な直線振動にはならないが、それぞれの振動モードにおける変位の状態をモード座標(一般化座標)で表すと、直線振動と全く同じように扱うことができる。以下では、これらのモード座標(一般化座標)も含めて、一つのモードを"X軸(もしくはX方向)"、これと直交するモードを"Y軸(もしくはY方向)"と呼ぶ(なお、
図1、2におけるモード1、2は数学的、もしくは振動学的に直交している状態を示している)。
【0016】
【0017】
数式1から下記の数式2が導出される。
【0018】
【0019】
すなわち、数式2により示されるように、回転が与えられない時にはX軸、Y軸方向の共振周波数が一致していた、すなわちモードマッチしていたものが、回転を与えることにより共振周波数λがω+Ωzとω-Ωzとに分かれる。この2つの共振周波数をλ1、λ2とすると、共振周波数λ1、λ2の差(ずれ)が回転角速度Ωzに比例することから、2つの共振周波数をλ1、λ2を検出すれば、下記の数式3により回転角速度Ωzを得ることができる。
【0020】
【0021】
ここで、λ1(ω+Ωz)に対応する運動は時計回り(CW)に対応しており、λ2(ω-Ωz)に対応する運動は反時計回り(CCW)に対応している。すなわち、モードマッチしている振動子に回転が与えられた場合には、固有振動モードは直線(X方向もしくはY方向単独の振動)ではなく、回転振動(X方向とY方向の振動の位相が±90度(°)ずれている2次元振動)になる。なお、実際の振動子の回転は、これらCWモードおよびCCWモードの重ねあわせとなる。
【0022】
「各モードの成分の検出方法について」
以上、FMモードについて説明した。本発明の実施形態では、上述したFMモードで2次元にモードマッチした1個の振動子(以下、2次元振動子と適宜、称する)を励振させる。したがって、回転角速度Ωzを得るためには、2次元振動子の回転振動(出力)に含まれるCWモード(第1の回転振動モード)の成分とCCWモード(第2の回転振動モード)の成分を独立して検出する必要がある。そこで、次に、2次元振動子の出力からCWモードの成分とCCWモードの成分を分離して検出する方法について説明する。
【0023】
図3は、一般的な同期検波方式を説明するための図である。入力信号(Signal)SIにある所定の振幅(Amplitude)および位相(Phase)を有する信号が入力される。入力信号SIが分岐され、乗算器(ミキサ)1、3のそれぞれに入力される。同期検波方式では、位相を90度ずらした2つの信号を参照信号として使用し、この参照信号を別々の乗算器1、3で乗算した後、フィルタ処理を行うことで復調出力を得る。例えば、参照信号としてcos波およびsin波が使用され、入力信号SIにcos波を乗算する処理が乗算器1により行われ、入力信号SIにsin波を乗算する処理が乗算器3により行われる。
【0024】
乗算器1から出力される信号がLPF(Low Pass Filter)2に入力されフィルタ処理がなされる。LPF2によるフィルタ処理により、LPF2からは、参照信号(本例ではcos波)と同じ周波数であり、且つ、同じ位相を持つ成分のみが出力される。
【0025】
一方、乗算器3から出力される信号がLPF4に入力され、フィルタ処理がなされる。LPF4によるフィルタ処理により、LPF4からは、乗算器3における参照信号(本例ではsin波)と同じ周波数であり、且つ、同じ位相を持つ成分のみが出力される。
【0026】
LPF2、4からの出力により入力信号SIが復調され、復調出力に基づいて入力信号SIの振幅rと位相θとが検出される。
【0027】
本発明の実施形態では、この同期検波方式を発展、応用してCWモードの成分とCCWモードの成分とを検出する処理が行われる。なお、以下の説明では、2次元振動子内に生じているCWモードとCCWモードとが組み合わさった信号から、CWモードの成分のみを検出する例について説明するが、同様の処理によりCCWモードの成分を検出することができる。
【0028】
図4は、入力信号SIからCWモードの成分を検出する方法を説明するための図である。入力信号SIとして、2次元振動子から出力される信号が入力される。2次元振動子を使用した場合には、図示するように、X、Y方向の成分を含むベクトル的な表記で入力信号SIを示すことができる。
【0029】
入力信号SIが分岐され、乗算器1、3のそれぞれに入力される。参照信号として信号CW-I(In phase)、CW-Q(Quadrature Phase)が使用され、入力信号SIに信号CW-Iを乗算する処理が乗算器1により行われ、入力信号SIに信号CCW-Iを乗算する処理が乗算器3により行われる。信号CW-I、信号CW-Qは、
図4にシンボル的に示されているように、振幅、周波数、回転方向は同じで位相が90度ずれている信号である。
【0030】
入力信号SIに対して信号CW-Iが乗算器1により乗算され、その出力がLPF2に供給される。入力信号SIに対して信号CW-Qが乗算器3により乗算され、その出力がLPF4に供給される。LPF2、4のそれぞれによるフィルタ処理の結果、入力信号SIが復調され、復調出力に基づいて入力信号SIに含まれるCWモードの成分の振幅rおよび位相θを検出することができる。
【0031】
図5は、上述した乗算器1、3の詳細な構成例を説明するための図である。乗算器1は、例えば、乗算器1aと、乗算器1bと、加算器1cとを備えている。乗算器3は、例えば、乗算器3aと、乗算器3bと、加算器3cとを備えている。
【0032】
上述したように、2次元振動子の場合は入力信号SIとしてX軸、Y軸方向の信号(振幅)(以下、信号SIX、SIYと適宜、称する)が乗算器1に入力される。乗算器1aは、信号SIXに対して信号CW-IのX軸方向の成分を乗算し、乗算器1bは、信号SIYに対して信号CW-IのY軸方向の成分を乗算する。加算器1cは、乗算器1a、1bの出力を加算してLPF2に出力する。
【0033】
乗算器3aは、信号SIXに対して信号CW-QのX軸方向の成分を乗算し、乗算器3bは、信号SIYに対して信号CW-QのY軸方向の成分を乗算する。加算器3cは、乗算器3a、3bの出力を加算してLPF4に出力する。
【0034】
上述した方法により、2次元振動子の出力に含まれるCWモードの成分を検出できる点について、
図6乃至
図9を参照して更に詳細に説明する。
図6に示される例は、参照信号として信号CW-Iを使用して検波する例である。なお、本例では、CW-IのX軸方向の信号をsin波とし、Y軸方向の信号をcos波としている。入力信号SIが信号CW-Iの成分のみと仮定した場合には、乗算器1aの出力波形は波形WA1aとなり、乗算器1bの出力波形は波形WA2aとなる。各乗算器の出力を加算器1cで加算した信号の波形は、波形WA3aとなる。この信号波形をLPF2に通すと、LPF2によるフィルタ処理は平均を得る処理と等価の処理であることから、得られる信号の波形は波形WA3aと同様の波形WA4a(直流成分)となる。すなわち、入力信号SIに信号CW-Iの成分が含まれる場合は、信号CW-Iを使用した検波によりその成分を検出することができる。
【0035】
図7に示される例は、参照信号として信号CW-Iを使用して検波する例であるが、入力信号SIが信号CW-Iと位相が90度異なる信号CW-Qの成分のみと仮定した例である。この場合には、乗算器1aの出力波形は波形WA1bとなり、乗算器1bの出力波形は波形WA2bとなる。これらの波形の出力を加算器1cで加算した信号は図示する通り0となり、したがって、LPF2の出力も図示する通り0となる。
【0036】
図8に示される例は、参照信号として信号CW-Iを使用して検波する例であるが、入力信号SIが信号CW-Iと回転方向が異なる反時計回りの信号CCW-Iの成分のみと仮定した例である。この場合には、乗算器1aの出力波形は波形WA1cとなり、乗算器1bの出力波形は波形WA2cとなる。各乗算器の出力を加算器1cで加算した信号の波形は、0を中心として対称となる波形WA3cとなる。この波形WA3aの信号をLPF2に通すとその出力は図示する通り0となる。
【0037】
図9に示される例は、参照信号として信号CW-Iを使用して検波する例であるが、入力信号SIが信号CW-Iと回転方向が異なる反時計回りの信号であり、信号CCW-Iと位相が90度異なる信号CCW-Qの成分のみと仮定した例である。この場合には、乗算器1aの出力波形は波形WA1dとなり、乗算器1bの出力波形は波形WA2dとなる。各乗算器の出力を加算器1cで加算した信号の波形は、0を中心として対称となる波形WA3dとなる。この波形WA3dの信号をLPF2に通すとその出力は図示の通り0となる。
【0038】
すなわち、2次元振動子内に生じている任意の2次元振動(CW-I,CW-Q,CCW-I,CCW-Qの線型結合で表される)を、信号CW-Iを参照信号として同期検波ですると、2次元振動子の出力信号に含まれる信号CW-Iの成分のみが得られる。このことは参照信号として他の信号を使用した場合の検出される成分についても当てはまる。以上をまとめると下記の表1が得られる。
【0039】
【0040】
表1に示すように、2次元振動子の出力に信号CW-Qの成分が含まれている場合には、参照信号を信号CW-Qとして検波できる一方、他の信号の成分については出力が0となる。2次元振動子の出力に信号CCW-Iの成分が含まれている場合には、参照信号を信号CCW-Iとして検波できる一方、他の信号の成分については出力が0となる。2次元振動子の出力に信号CCW-Qの成分が含まれている場合には、参照信号を信号CCW-Qとして検波できる一方、他の信号の成分については出力が0となる。つまり、例えば2個の検出器を設け、各検出器における参照信号を信号CW-Iおよび信号CW-Qの組合せ、信号CCW-Iおよび信号CCW-Qの組合せにそれぞれ設定すれば、2次元振動子の出力からCWモードの成分およびCCWモードの成分を独立して検出できることになる。
【0041】
「ジャイロ装置の構成例」
以上の説明を踏まえて、本発明の第1実施形態に係るジャイロ装置について説明する。
図10は、本発明の第1実施形態に係るジャイロ装置(ジャイロ装置10)の構成例を示す図である。ジャイロ装置10は、例えば、単一の2次元振動子15と、駆動信号生成部20と、第1検出部30aと、第1発振回路の一例としての第1PLL(Phase Locked Loop)回路40aと、第1ゲインコントロール部の一例としての第1AGC(Automatic Gain Control)部50aと、第2検出部30bと、第2発振回路の一例としての第2PLL回路40bと、第2ゲインコントロール部の一例としての第2AGC部50bと、2次元振動子15の入力側に設けられた増幅器61a、61bと、2次元振動子15の出力側に設けられた増幅器62a、62bとを備えている。
【0042】
なお、図示は省略しているが、ジャイロ装置10は、DA(Digital to Analog)変換器およびAD(Analog to Digital)変換器を備え、デジタル信号処理により実現しても良い。この場合、DA変換器は、例えば、増幅器61a、61bの前段に設けられ、駆動信号生成部20から出力されるデジタル形式の駆動信号をアナログ形式に変換するように構成される。また、AD変換器は、例えば、増幅器62a、62bの後段に設けられ、2次元振動子15から出力されるアナログ形式の信号をデジタル形式に変換するように構成される。
【0043】
2次元振動子15は、例えば、リング形状を成しCWモードおよびCCWモードのそれぞれに対応した駆動信号により励振可能な振動部材である。なお、2次元振動子15の形状はリング形状に限定されるものではなく、正四角板、円柱、正四角柱、4個のマスを使用した4重マス型等、任意の形状とすることが可能である。
【0044】
駆動信号生成部20は、CWモードに対応する駆動信号およびCCWモードに対応する駆動信号を生成し、これらを多重化した駆動信号を2次元振動子15に供給する。駆動信号生成部20から供給される駆動信号により2次元振動子15が励振させられる。本例では、CWモードに対応するX軸方向の駆動信号としてcos波(以下、coscw信号と表記する)、Y軸方向の駆動信号として-sin波(以下、-sincw信号と表記する)を用いている。なお、駆動信号は、Y方向信号がX方向信号に比べて90度位相が進んでいれば、必ずしもcos波、-sin波である必要はない。また、CCWモードに対応するX軸方向の駆動信号として-cos波(以下、-cosCCW信号と表記する)、Y軸方向の駆動信号として-sin波(以下、-sinCCW信号と表記する)を用いている。なお、駆動信号は、Y方向信号がX方向信号に比べて90度位相が遅れていれば、必ずしも-cos波、-sin波である必要はない。より具体的には、駆動信号生成部20は、例えば、乗算器201と、乗算器202と、乗算器203と、乗算器204と、加算器205と、加算器206とを備えている。
【0045】
第1検出部30aは、2次元振動子15の出力に含まれるCW成分の振幅rcwおよび位相θcwを検出する。なお、第1検出部30aの詳細については後述する。
【0046】
第1PLL回路40aは、位相比較器41aと、PID(Proportional Integral Differential)制御部42aと、VCO(Voltage Controlled Oscillator)やNCO(Numerical Controlled Oscillator)等の発振周波数を変化することができる発振器43aとを備えている。図示が煩雑となることを防止するために詳細な図示を省略しているが、第1PLL回路40aの出力(全ての出力でもよいし一部の出力でもよい)が駆動信号生成部20、第1検出部30aのそれぞれにフィードバックされるように構成されている。
【0047】
第1AGC部50aは、振幅比較器51aと、PID制御部52aとを備えている。第1AGC部50aの出力が駆動信号生成部20にフィードバックされるように構成されている。
【0048】
第2検出部30bは、2次元振動子15の出力に含まれるCCW成分の振幅rCCWおよび位相θCCWを検出する。なお、第2検出部30bの詳細については後述する。
【0049】
第2PLL回路40bは、位相比較器41bと、PID制御部42bと、VCOやNCO等の発振周波数を変化することができる発振器43bとを備えている。図示が煩雑となることを防止するために詳細な図示を省略しているが、第2PLL回路40bの出力(全ての出力でもよいし一部の出力でもよい)が駆動信号生成部20、第2検出部30bのそれぞれにフィードバックされるように構成されている。
【0050】
第2AGC部50bは、振幅比較器51bと、PID制御部52bとを備えている。第2AGC部50bの出力が駆動信号生成部20にフィードバックされるように構成されている。
【0051】
「第1、第2検出部の構成例」
図11は、第1検出部30aの構成例を説明するための図である。第1検出部30aは、2次元振動子15から出力される信号が分岐されて入力される検出器31a、32aと、検出器31aの出力にフィルタ処理を行うLPF33aと、検出器32aの出力にフィルタ処理を行うLPF34aと、LPF33aおよびLPF34aからの出力に基づいて2次元振動子15の出力信号に含まれるCW成分の振幅r
cwおよび位相θ
cwを検出する振幅位相検出部35aとを備えている。
【0052】
検出器31aは、2次元振動子15からの出力のうちX軸方向の成分が入力される乗算器310aと、2次元振動子15からの出力のうちY軸方向の成分が入力される乗算器311aと、乗算器310a、311aのそれぞれの出力を加算する加算器312aとを備えている。検出器32aは、2次元振動子15からの出力のうちX軸方向の成分が入力される乗算器320aと、2次元振動子15からの出力のうちY軸方向の成分が入力される乗算器321aと、乗算器320a、321aのそれぞれの出力を加算する加算器322aとを備えている。
【0053】
なお、本例では、X軸方向のCW-I成分をsin信号とし、Y軸方向のCW-I成分をcos信号とし、X軸方向のCW-Q成分をcos信号とし、Y軸方向のCW-Q成分を-sin信号としている。
【0054】
図12は、第2検出部30bの構成例を説明するための図である。第2検出部30bは、2次元振動子15からの信号が分岐されて入力される検出器31b、32bと、検出器31bの出力にフィルタ処理を行うLPF33bと、検出器32bの出力にフィルタ処理を行うLPF34bと、LPF33bおよびLPF34bからの出力に基づいて2次元振動子15の出力信号に含まれるCCW成分の振幅r
CCWおよび位相θ
CCWを検出する振幅位相検出部35bとを備えている。
【0055】
検出器31bは、2次元振動子15からの出力のうちX軸方向の成分が入力される乗算器310bと、2次元振動子15からの出力のうちY軸方向の成分が入力される乗算器311bと、乗算器310b、311bのそれぞれからの出力を加算する加算器312bとを備えている。検出器32bは、2次元振動子15からの出力のうちX軸方向の成分が入力される乗算器320bと、2次元振動子15からの出力のうちY軸方向の成分が入力される乗算器321bと、乗算器320b、321bのそれぞれの出力を加算する加算器322bとを備えている。
【0056】
なお、本例では、X軸方向のCCW-I成分を-sin信号とし、Y軸方向のCCW-I成分をcos信号とし、X軸方向のCCW-Q成分を-cos信号とし、Y軸方向のCCW-Q成分を-sin信号としている。
【0057】
「ジャイロ装置の動作例」
次に、ジャイロ装置10の動作例について
図10~
図12を参照しながら説明する。駆動信号生成部20は、2次元振動子15に対する駆動信号を生成する。cos
cw信号および-sin
cw信号のそれぞれに対して、PID制御部52aからフィードバックされた信号が乗算器201、202で乗算された後、乗算器201からの出力信号が加算器205に供給され、乗算器202からの出力信号が加算器206に供給される。-cos
CCW信号および-sin
CCW信号のそれぞれに対して、PID制御部52bからフィードバックされた信号が乗算器203、204で乗算された後、乗算器203からの出力信号が加算器205に供給され、乗算器204からの出力信号が加算器206に供給される。加算器205は、乗算器201からの出力信号と乗算器203からの出力信号とを加算して出力する。加算器205からの出力信号が増幅器61aにより適宜な増幅率でもって増幅された後、2次元振動子15に入力X
dとして入力される。一方、加算器206は、乗算器202からの出力信号と乗算器204からの出力信号とを加算して出力する。加算器206からの出力信号が増幅器61bにより適宜な増幅率でもって増幅された後、2次元振動子15に入力Y
dとして入力される。
【0058】
入力Xd、Ydによって2次元振動子15が励振され、2次元振動子15からの出力Xs、Ysが得られる。2次元振動子15からの出力Xs、Ysが増幅器62a、62bによって適宜な増幅率でもって増幅された後、出力Xsが分岐されて第1、第2検出部30a、30bのそれぞれに入力され、出力Ysが分岐されて第1、第2検出部30a、30bのそれぞれに入力される。
【0059】
第1検出部30aは、2次元振動子15の出力に含まれるCW成分を検出する。具体的には、第1検出部30aにおける検出器31aが信号CW-Iを使用して検波し、その結果にLPF33aによるフィルタ処理を行うことで2次元振動子15の出力に含まれるCW-I成分を検出し、検出結果を振幅位相検出部35aに供給する。また、第1検出部30aにおける検出器32aが信号CW-Qを使用して検波し、その結果にLPF34aによるフィルタ処理を行うことで2次元振動子15の出力に含まれるCW-Q成分を検出し、検出結果を振幅位相検出部35aに供給する。振幅位相検出部35aは、LPF33aおよびLPF34aからの出力に基づいて2次元振動子15の出力信号に含まれるCW成分の振幅rcwおよび位相θcwを検出する。すなわち、既述したように、信号CW-I、信号CW-Qのそれぞれを参照信号として同期検波することで、2次元振動子15の出力に含まれるCW成分のみを検出することができる。
【0060】
第1検出部30aにより検出された位相θcwが第1PLL回路40aに供給される。第1PLL回路40aにおける位相比較器41aは、位相θcwと設定位相θcw,set(以下の説明ではθcw,set =90°として話を進める)とを比較し、比較結果に基づいてPID制御部42aが位相θcwを90°すなわち共振周波数fcwとなる制御を実行する。PID制御部42aからの出力で発振器43aを制御し、これにより発振器43aからは位相が一致した換言すれば共振周波数fcwの信号sincwおよび信号coscwが出力される。これらの信号が入力側にフィードバックされ、CWモードに対応する駆動信号の共振周波数が共振周波数fcwで維持される制御がなされる。また、信号sincwおよび信号coscwが第1検出部30aにフィードバックされ、これに基づいて参照信号としての信号CW-I、信号CW-Qが生成される。本例では、フィードバックされる信号と参照信号との間に、sin=sincw、cos=coscw、-sin=-1*sincwの関係が成り立っている。
【0061】
第1検出部30aにより得られた振幅rcwが第1AGC部50aに供給される。第1AGC部50aにおける振幅比較器51aは、振幅rcwと所定の第1設定値Rset,cwとを比較し、比較結果に基づいてPID制御部52aが、振幅rcwが所定の第1設定値Rset,cwとなる制御を実行する。PID制御部52aからの出力が駆動信号生成部20にフィードバックされ、CWモードに対応する駆動信号の振幅が第1設定値Rset,cwで維持されるようにゲインをコントロールする制御がなされる。
【0062】
2次元振動子15の出力に含まれるCCW成分を検出する系についても同様の処理が実行される。具体的には、第2検出部30bにおける検出器31bが信号CCW-Iを使用して検波し、その結果にLPF33bよるフィルタ処理を行うことで2次元振動子15の出力に含まれるCCW-I成分を検出し、検出結果を振幅位相検出部35bに供給する。また、第2検出部30bにおける検出器32bが信号CCW-Qを使用して検波し、その結果にLPF34bによるフィルタ処理を行うことで2次元振動子15の出力に含まれるCCW-Q成分を検出し、検出結果を振幅位相検出部35bに供給する。振幅位相検出部35bは、LPF33bおよびLPF34bからの出力に基づいて2次元振動子15の出力信号に含まれるCCW成分の振幅rCCWおよび位相θCCWを検出する。すなわち、上述したように、信号CCW-I、信号CCW-Qのそれぞれを参照信号として同期検波することで、2次元振動子15の出力に含まれるCCW成分のみを検出することができる。
【0063】
第2検出部30bにより得られた位相θCCWが第2PLL回路40bに供給される。第2PLL回路40bにおける位相比較器41bは、位相θCCWと90°とを比較し、比較結果に基づいてPID制御部42bが位相θCCWを0すなわち共振周波数fcwとなる制御を実行する。PID制御部42bからの出力で発振器43bを制御し、これにより発振器43bからは位相が一致した換言すれば共振周波数fCCWの信号sinCCWおよび信号cosCCWが出力される。共振周波数fCCWが入力側にフィードバックされ、CCWモードに対応する駆動信号の共振周波数が共振周波数fCCWとなるように維持する制御がなされる。また、信号sinCCWおよび信号cosCCWが第2検出部30bにフィードバックされ、これに基づいて参照信号としての信号CCW-I、信号CCW-Qが生成される。本例では、フィードバックされる信号と参照信号との間に、-sin=sinccw、cos=cosccw、-cos=-1*cosccw、の関係が成り立っている。
【0064】
第2検出部30bにより得られた振幅rCCWが第2AGC部50bに供給される。第2AGC部50bにおける振幅比較器51bは、振幅rCCWと第2設定値Rset,CCWとを比較し、比較結果に基づいてPID制御部52bが、振幅rCCWが第2設定値Rset,CCWとなる制御を実行する。PID制御部52bからの出力が駆動信号生成部20にフィードバックされ、CCWモードに対応する駆動信号の振幅が第2設定値Rset,CCWで維持されるようにゲインをコントロールする制御がなされる。
【0065】
図13は、ジャイロ装置10における信号の流れを模式的に示した図である。
図13における太線が信号の流れを示している。2次元振動子15の出力に含まれるCCW成分は第1検出部30aによりカットされ、CW成分のみが一方の系(
図13における上側の系)をループすることになる。2次元振動子15の出力に含まれるCW成分は第2検出部30bによりカットされ、CCW成分のみが他方の系(
図13における下側の系)をループすることになる。
【0066】
「角速度検出部の構成例」
次に、本発明の第1実施形態に係る角速度検出部(角速度検出部70)の構成例について説明する。なお、角速度検出部70は、ジャイロ装置10に組み込まれているものとして説明するが、他の装置に組み込まれていてもよい。
【0067】
図14は、角速度検出部70の構成例を示す図である。角速度検出部70は、例えば、減算器71と、乗算器72とを備えている。角速度検出部70は、第1PLL回路40aから出力される共振周波数f
cwおよび第2PLL回路40bから出力される共振周波数f
CCWを得、両共振周波数を減算器71で減算し、その結果を乗算器72で定数倍(理想的な振動子の場合は1/2倍)する。すなわち、角速度検出部70は、上述した数式3と同様の演算を行うことで回転角速度Ω
zを検出する。この回転角速度Ω
zを積分することでジャイロ装置10は、回転した角度を検出することができる。
【0068】
「効果」
本発明の第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。単一の2次元振動子により構成しているので、装置を小型化することが可能となるとともに、複数の振動子を使用した場合のように振動子の特性や使用環境を一致させる必要がなくなる。また、単一の2次元振動子をモードマッチで駆動しているので高いQ値を実現することができ、高性能なジャイロ装置を実現することができる。さらに、2次元振動子の出力からCW、CCWモードに対応する成分を独立して検出することができ、それらの検出結果から回転角速度を検出し、最終的には回転した角度を検出することができる。
【0069】
<2.第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において同一の名称、符号については、特に断らない限り同一もしくは同質の部材を示しており、重複する説明を適宜省略する。第2実施形態は、ホールアングルモード(Whole Angle Mode)(積分ジャイロ等とも称される、代表例にはフーコーの振り子がある)のジャイロ装置として構成した実施形態である。ホールアングルモードのジャイロ装置は、回転した角度そのものを検出することができる。
【0070】
ホールアングルモードについて
図15を参照して概略的に説明する。振動子にCWモード(共振周波数ω+Ω
z)およびCCWモード(共振周波数ω-Ω
z)の回転を与えると、両回転の振幅が同じで位相差φがない(φ=0)の場合には、
図15Aに示すように直線振動となる。ここで、振動子に回転が加わると位相差φが生じ、この位相差φにより
図15Bに示すように振動の方向が回転する。振動の方向の回転角度は、CWモードとCCWモードの位相差φの1/2となることが知られている。例えば、
図15Bは位相差φが60度の例であり、この位相差φの1/2(30度)だけ振動の方向が回転する。すなわち、ホールアングルモードのジャイロ装置ではこの位相差φを検出し、位相差φに係数(理想的な振動子の場合には1/2)を乗算することで回転した角度そのものを検出することができる。
【0071】
第2実施形態に係るジャイロ装置は、上述した第1実施形態に係るジャイロ装置10と同一の構成とすることができる。ジャイロ装置10の構成に回転角度を検出する構成を設ければよい。
図16Aは、回転角度を検出する角度検出部(角度検出部80a)の構成例を示す図である。角度検出部80aは、減算器81aと、乗算器82aとを備えている。CW、CCW各モードの位相(θ
cw,θ
CCW(これらは、各モードの励振信号に対する実際の振動の位相を表す)とは異なる)をθ'
cw、θ'
CCWとすると、これらは、例えばNCOの内部変数等を読み取ることで得ることができる。減算器81aには、この位相θ'
cwをθ'
CCWが入力される。減算器81aが位相θ'
cw、位相θ'
CCWを減算して位相差φを得、その結果を乗算器82aで定数倍(理想的なX-Y振動子では1/2倍)することにより回転角度(Angle)を検出することができる。
【0072】
図16Bは、角度検出部の他の構成例を示す図である。
図16Bに示す角度検出部80bは、例えば、復調部81bと、少なくとも位相差を検出する位相差検出部82bと、乗算器83bとを備えている。復調部81bは、第2PLL回路40bから供給されるcos
CCW信号をcos
cw信号およびsin
cw信号を使用して復調(同期検波)する。その結果に基づいて位相差検出部82bが位相差φを検出し、乗算器83bが検出された位相差φを定数倍(理想的なX-Y振動子では1/2倍)することにより回転角度を検出することができる。
【0073】
なお、角度検出部80a、80bは、ジャイロ装置10とは異なる他の装置に組み込まれていてもよく、当該他の装置によって回転角度を検出する処理が行われてもよい。また、ジャイロ装置10が、角速度検出部70(
図14参照)および角度検出部80a(角度検出部80bでもよい)を備える構成でもよい。この構成により、FMモードおよびホールアングルモードの両方に対応したジャイロ装置とすることができる。さらに、数値的に積分することなく回転角度を検出できるので、数値計算による誤差の発生、計算負荷による消費電力の増大、演算速度による帯域幅の制限等の不都合を回避することができる。
【0074】
なお、第2実施形態は、例えば、以下のような変形が可能である。第2実施形態のように、ホールアングルモードでのジャイロ装置10の駆動は、フーコーの振り子と同様の原理にて電力がない状態でも機械的に積分動作を継続することが可能となる。この特性を使用して、間欠的な制御を行いジャイロ装置10における消費電力を低減することができる。
【0075】
例えば、一定期間、図示しない電源から電力を供給してジャイロ装置10を動作させて2次元振動子15を励振させ、その後、電力の供給を停止することで、ジャイロ装置10に対する電力が間欠的になされる構成とする。電力の供給を停止した場合でも2次元振動子15の振動が継続している間は機械的な積分動作が継続していることになる。もちろん、電力の供給が停止したままでは2次元振動子15の振動が減衰してしまうので、一定期間後は電力の供給を再開する。この制御を、通常動作を実行するモードとは異なるモード(節電モード)としてユーザが設定可能としてもよい。また、ジャイロ装置10にタイマを設けて、電力供給開始後、一定期間経過後に電力の供給を自動的に停止する構成としてもよい。第1検出部30aおよび第2検出部30bから出力される振幅rcwおよび振幅rCCWが一定値に達した段階で電力の供給を停止する構成でもよい。このような構成は、例えば、ジャイロ装置10が、電源部(一次電池、二次電池、太陽光発電装置等何でもよい)と、電源部と電力が供給される構成(ジャイロ装置10の全てまたは一部の構成)との間に設けられたスイッチをオン/オフする制御部とを備える構成を例示することができる。
【0076】
<3.第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。特に断らない限り、上述した第1および第2実施形態で説明した事項は、第3実施形態に適用することができる。なお、同一の構成については同一の参照符号を付し、重複した説明を適宜、省略する。
【0077】
第3実施形態は、振動子の不完全性(X-Y非対称性)による性能劣化を回避するための実施形態である。振動子の不完全性とは、主に振動子の作製誤差による構造の非対称性によって生じる、X、Y方向の共振周波数、減衰係数の差を意味する。
【0078】
ここで、理想振動子(モードマッチで駆動される振動子)について
図17および
図18を参照して説明する。
図17Aの上段はX方向の駆動信号の例を示したグラフであり、
図17Aの下段はY方向の駆動信号の例を示したグラフである。それぞれのグラフにおける縦軸は駆動信号のレベルを示し、横軸は時間(t)を示している。図示の通り、X方向およびY方向の駆動信号の位相差(Δθ)は90°である。
【0079】
図17Bは、
図17Aに示した駆動振動でもって振動子を励振した場合の振動を示し、
図17Bの上段は振動子の出力のうちX方向の振動を示し、
図17Bの下段は振動子の出力のうちY方向の振動を示している。各方向の振動は、対応する方向における駆動信号の位相が90°遅れたものになっており、X方向の振動とY方向の振動との位相差が90°に維持されている。すなわち、X方向およびY方向における位相差が90°の駆動信号で振動子を励振した場合、理想的には、
図18Aおよび
図18Bに示すように、共振点(共振周波数f
0)においてX方向およびY方向の振動の振幅が同一となり、X方向およびY方向における振動の位相差が90°となる。
【0080】
しかしながら、上述した振動子の不完全性(モードミスマッチ)により、振動子の振動が非理想的な振動となる場合がある。例えば、
図19Aに示すように、X方向とY方向の共振周波数がずれていると、
図19Bに示すように駆動信号(周波数f
0)に対する振動の位相遅れ量が、X方向およびY方向のそれぞれにおいて異なってしまう。そのため、
図19Bに示すように、駆動周数数f
0におけるX、Y方向の位相遅れ量が90°にはならず、位相差Δφが生じてしまう。
【0081】
その結果、
図20Aおよび
図20Bに示すように、振動子の不完全性により、X方向の振動の位相遅れがX方向の駆動信号の位相に対して90°より小さく(若しくは大きく)、Y方向の振動の位相遅れがY方向の駆動信号の位相に対して90°より大きく(若しくは小さく)なる場合がある。このような場合には、励振された振動のX方向およびY方向の振動の位相差は90°にはならない。
【0082】
上述したミスマッチが第1実施形態で説明したジャイロ装置10の処理系統に与える影響について説明する。
図21は、ジャイロ装置10を簡略化して示したブロック図である。なお、第1実施形態で説明したように、第1検出部30aは、2次元振動子15の振動に含まれるCW成分を検出するものであることから、
図21ではCWディテクタと表記している。同様に、第2検出部30bは、2次元振動子15の振動に含まれるCCW成分を検出するものであることから、
図21ではCCWディテクタと表記している。
【0083】
上述した駆動周波数において位相差が生じると言うことは、CW(CCW)で駆動したつもりでも純粋なCW(CCW)振動(X、Y方向のそれぞれの振動の位相差が90°(-90°)の振動)が励振できなくなりCCW(CW)成分が同時に生じてしまっていることを意味する。
【0084】
第1実施形態で説明したように(
図13等参照)、ジャイロ装置10では、CWモードの成分がループする系とCCWモードの成分がループする系は、本来は独立であるべきところ、CWモードの成分に含まれる不要なCCWモードの成分は、CCWディテクタを通り抜けてしまう。つまり、CCWモードのループの系にCWモードの情報を持った信号が漏れ、CCWモードのループにおけるPLL(第2PLL回路40b)にCWモードの情報が入ってしまう。これにより、第2PLL回路40bの動作がCWモードに含まれる不要なCCWモードの成分によって乱され、第2PLL回路40bがロックする周波数が乱れてしまう。
【0085】
なお、上述した例では、CWモードの成分に不要なCCWモードの成分が含まれる例について説明したが、CCWモードの成分に不要なCWモードの成分が含まれる場合も同様である。すなわち、CCWモードの成分に含まれる不要なCWモードの成分により、第1PLL回路40aがロックする周波数が乱れてしまう。
【0086】
そこで、この問題に対応するために、2次元振動子15の不完全性により生じる不要な位相差をキャンセルするために、駆動信号の位相を予めずらしておく(位相調整処理)。
図22Aおよび
図22Bの上段にそれぞれ示すように、例えば、X方向における駆動振動の位相と振動の位相との位相差が90°より小さい場合には、その位相差分、駆動信号の位相を予め遅らせておく。また、
図22Aおよび
図22Bの下段にそれぞれ示すように、例えば、Y方向における駆動振動の位相と振動の位相との位相差が90°より大きい場合には、その位相差分、駆動信号の位相を予め進めておく。これにより、X方向の振動とY方向の振動との位相差を90°とすることができ、純粋な固有モードが励振できる。
【0087】
補償すべき位相差は、例えば、共振周波数の差より求めることができる。なお、X方向の振動とY方向の振動とが最も直交する位相差を予め実験等により求めておき、当該位相差の分だけ駆動信号の位相を遅らせまたは進めて補償してもよい。
【0088】
振動子の不完全性は、上述の周波数のずれだけでなく、X方向におけるQ値(ダンピング)とY方向におけるQ値との間のずれも招く。X方向およびY方向におけるQ値にずれが生じると、
図23および
図24に示すように、共振点において、X方向の振動の振幅とY方向の振動の振幅とが異なってしまう。X方向の振動の振幅とY方向の振動の振幅とが異なると、固有振動(円振動)ではなくなり、上述した事象と同様に、CWモードの振動にCCWモードの成分が含まれて(CCWモードの振動にCWモードの成分が含まれて)しまう問題を生じる。
【0089】
そこで、
図25に示すように、駆動信号の振幅を予めずらしておくことによりQ値のずれ(ミスマッチ)を補償する(振幅調整処理)。例えば、
図25Bに示すように、共振点において一致すべきX方向の振動の振幅およびY方向の振動の振幅を振幅A
Cとする。この振幅A
Cに対するずれの分だけ、X方向の駆動信号の振幅およびY方向の駆動信号の振幅を予めずらしておく。
図25Aの上段に示す例では、X方向の駆動信号の振幅とX方向の振動の振幅との間に生じる振動の減衰分(ΔA
x分)だけ駆動信号の振幅を大きくしている。
図25Aの下段に示す例では、Y方向の駆動信号の振幅とY方向の振動の振幅との間に生じる振動の増加分(ΔA
y分)だけ駆動信号の振幅を小さくしている。もちろん、X方向の駆動信号の振幅を小さくしたり、Y方向の駆動信号の振幅を大きくしたりする補償の場合もある。
【0090】
振幅の補償分は、例えば、Q値の差から求められる。なお、X方向の振動とY方向の振動とが最も直交する振幅の補償分を予め実験等により求めておき、当該振幅の補償分だけ駆動信号の振幅を大きくまたは小さくしてもよい。
【0091】
図26は、上述した位相や振幅を調整する機能を適用した第3実施形態におけるジャイロ装置(ジャイロ装置10A)の構成例を示すブロック図である。ジャイロ装置10と同一の構成については同一の符号を付している。ジャイロ装置10Aの駆動信号生成部20Aは、第1実施形態における駆動信号生成部20の構成に加え、位相調整部91、92、93、94および振幅調整部95、96、97、98を有している。位相調整部91、92および振幅調整部95、96により第1位相・振幅調整部が構成され、位相調整部93、94および振幅調整部97、98により第2位相・振幅調整部が構成される。
【0092】
位相調整部91は、乗算器201の入力段に接続されており、振幅調整部95は、乗算器201の出力段に接続されている。位相調整部91および振幅調整部95は、2次元振動子15の不完全性により生じる不要な位相差やQ値のずれを解消するために、CWモードのX方向の駆動信号に対して、上述した位相調整処理および振幅調整処理を実行する。
【0093】
位相調整部92は、乗算器202の入力段に接続されており、振幅調整部96は、乗算器202の出力段に接続されている。位相調整部92および振幅調整部96は、2次元振動子15の不完全性により生じる不要な位相差やQ値のずれを解消するために、CWモードのY方向の駆動信号に対して、上述した位相調整処理および振幅調整処理を実行する。
【0094】
位相調整部93は、乗算器203の入力段に接続されており、振幅調整部97は、乗算器203の出力段に接続されている。位相調整部93および振幅調整部97は、2次元振動子15の不完全性により生じる不要な位相差やQ値のずれを解消するために、CCWモードのX方向の駆動信号に対して、上述した位相調整処理および振幅調整処理を実行する。
【0095】
位相調整部94は、乗算器204の入力段に接続されており、振幅調整部98は、乗算器204の出力段に接続されている。位相調整部94および振幅調整部98は、2次元振動子15の不完全性により生じる不要な位相差やQ値のずれを解消するために、CCWモードのY方向の駆動信号に対して、上述した位相調整処理および振幅調整処理を実行する。なお、各位相調整部を各乗算器の出力段に設けても良いが、乗算器による演算処理(掛算)の前に駆動信号の位相を調整する方が回路構成を簡略化できる。また、振幅調整は乗算器201~204の倍率を個々に調整することでも実現できる。
【0096】
振幅調整部95、97の出力が加算器205により加算された後、増幅器61aにより増幅され、X方向の駆動信号として2次元振動子15に供給される。振幅調整部96、98の出力が加算器206により加算された後、増幅器61bにより増幅され、Y方向の駆動信号として2次元振動子15に供給される。2次元振動子15は、それぞれの方向に対応する駆動振動により励振される。上述したように、駆動信号の位相および振幅が予め調整されているので、CWモードの駆動信号は純粋なCWモードの振動のみ(CCWモードの駆動信号は純粋なCCWモードの振動のみ)を励振することができる。
【0097】
本実施形態における処理を適用したことによる効果について説明する。
図27Aおよび
図27Bに示すグラフの横軸は時間(t)(s)を示し、縦軸は発振器43aの周波数f
cwと発振器43bの周波数f
ccwとの差Δf(Hz)を示している。
図27Aのグラフは本実施形態における処理を適用しない場合の結果を示し、
図27Bのグラフは本実施形態における処理を適用した場合の結果を示す。
図27Aに示すように、位相遅れ量およびQ値のミスマッチによりCWモードとCCWモードとが直交しないので、一定速度で回しているのにも関わらず、干渉による周波数の周期的変動が見られる。一方で、本実施形態における処理を適用し、駆動信号の位相および振幅を調整した場合には、モード間の直交性が良くなり、
図27Aに示したような周波数の周期的変動が見られない。したがって、正確に角速度を検出できる。
【0098】
第3実施形態で説明した処理は、第2実施形態(ホールアングルモードのジャイロ装置)にも適用することができる。この場合にも同様の効果が得られる。この効果について説明する。
図28Aおよび
図28Bに示すグラフの横軸は時間(t)(s)を示し、縦軸は第2実施形態に係るジャイロ装置により検出される回転角度θを示している。
図28Aのグラフは本実施形態における処理を適用しない場合の結果を示し、
図28Bのグラフは本実施形態における処理を適用した場合の結果を示す。2次元振動子15を一定の角速度で回していることから検出される角度は直線になるべきところ、
図28Aに示すように、方向による位相遅れ量の違いおよびQ値のミスマッチにより、検出される角度に周期的誤差が現れる。一方で、本実施形態における処理を適用し、駆動信号の位相および振幅を調整した場合には、モード間の直交性が良くなり、
図28Aに示したような周期的誤差が見られない。したがって、正確に角度を検出できる。
【0099】
<4.第4実施形態>
次に、第4実施形態について説明する。特に断らない限り、上述した第1~第3実施形態で説明した事項は、第4実施形態に適用することができる。なお、同一の構成については同一の参照符号を付し、重複した説明を適宜、省略する。
【0100】
上述した第3実施形態において、ジャイロ装置10では、CWモードの成分がループする系(
図13における上側のループ)とCCWモードの成分がループする系(
図13における下側のループ)は、本来は独立であるべきところ、
図29に模式的に示すように、CWモードの成分に不要なCCWモードの成分が含まれてしまう問題、および、CCWモードの成分に不要なCWモードの成分が含まれてしまう問題について説明した。
【0101】
かかる問題に対応するために、第3実施形態では、第1、第2位相・振幅調整部のそれぞれが位相調整処理および振幅調整処理を行うようにした。ところで、予め実験を行う必要がなくなる等の観点から、第1位相・振幅調整部により補償される位相差(以下、第1位相補正値と適宜、称する)および振幅(以下、第1振幅補正値と適宜、称する)は、自動で求められる方が好ましい。第2位相・振幅調整部により補償される位相差(以下、第2位相補正値と適宜、称する)および振幅(以下、第2振幅補正値と適宜、称する)についても同様である。かかる点に鑑み、第4実施形態は、第1位相補正値、第1振幅補正値、第2位相補正値および第2振幅補正値が自動で求められるようにした実施形態である。
【0102】
なお、本実施形態で振幅補正値という場合、振幅補正値は、CWループにおけるX方向の振幅の補正値(絶対値)に対するY方向の振幅の補正値(絶対値)の比(第1振幅補正値であればAcw,y/Acw,x、第2振幅補正値であればAccw,y/Accw,x)で表される。この比を満たすのであれば、振幅(絶対値)としては、任意の値をとることができる。
【0103】
第4実施形態にかかるジャイロ装置10の構成例について説明する。第4実施形態にかかるジャイロ装置10が第3実施形態にかかるジャイロ装置と異なる点は、第1検出部30aの構成が検出部30Aに置き換わり、第2検出部30bの構成が検出部30Bに置き換わる点である。検出部30Aは、主としてCW成分がループする系に配置され、検出部30Bは、主としてCCW成分がループする系に配置される構成である。
【0104】
図30は、検出部30Aの構成例を示す図である。検出部30Aは、一対の検出部として、CWディテクタとして機能する第1検出部30aと、CCWディテクタとして機能する第3検出部30cとを有している。それぞれに対して2次元振動子15の出力が供給される。第1検出部30aの出力は、上述した第3実施形態と同様に、第1PLL回路40aおよび第1AGC部50aに供給される。第3検出部30cは、第2検出部30bと同様の構成であるが、入力される参照信号が異なる。上述したように、第2検出部30bには、第2PLL回路40bからフィートバックされる、信号sin
CCWおよび信号cos
CCWが参照信号として入力される。これに対して、第3検出部30cには、第1検出部30aと同一の参照信号、即ち、第1PLL回路40aからフィートバックされる信号sin
cwおよび信号cos
cwが参照信号(第1参照信号の一例)として入力される。
【0105】
図31は、検出部30Bの構成例を示す図である。検出部30Bは、一対の検出部として、CCWディテクタとして機能する第2検出部30bと、CWディテクタとして機能する第4検出部30dとを有している。それぞれに対して2次元振動子15の出力が供給される。第2検出部30bの出力は、上述した第3実施形態と同様に、第2PLL回路40bおよび第2AGC部50bに供給される。第4検出部30dは、第1検出部30aと同様の構成であるが、入力される参照信号が異なる。即ち、上述したように、第1検出部30aには、第1PLL回路40aからフィートバックされる、信号sin
cwおよび信号cos
cwが参照信号として入力される。これに対して、第4検出部30dには、第2検出部30bと同一の参照信号、即ち、第2PLL回路40bからフィードバックされる信号sin
CCWおよび信号cos
CCWが参照信号(第2参照信号の一例)として入力される。
【0106】
検出部30Aに入力される信号が、CWモードの成分のみである場合には、第3検出部30cが、信号sin
CWおよび信号cos
CWを参照信号として同期検波したとしてもその出力は0になる(表1参照)。しかしながら、上述したように、振動子の不完全性のために検出部30Aの系にもCCWモードの成分が含まれるため、CCWモードに対応したエラー成分である、I
CCWおよびQ
CCWが第3検出部30cにより検出される(
図30参照)。
【0107】
同様に、検出部30Bに入力される信号が、CCWモードの成分のみである場合には、第4検出部30dが、信号sin
CCWおよび信号cos
CCWを参照信号として同期検波したとしてもその出力は0になる(表1参照)。しかしながら、上述したように、振動子の不完全性のために検出部30Bの系にもCWモードの成分が含まれるため、CWモードに対応したエラー成分である、I
CWおよびQ
CWが第4検出部30dにより検出される(
図31参照)。
【0108】
第4の実施形態にかかるジャイロ装置10では、CCWモードに対応したエラー成分であるICCWおよびQCCW、および、CWモードに対応したエラー成分であるICWおよびQCWが最小値(理想的には0であるが、実際にはノイズ等の影響による測定限界以下の値)となるように、第1位相補正値、第1振幅補正値、第2位相補正値および第2振幅補正値が自動で求められる。以下、第1位相補正値等を求める具体的な方法について説明する。
【0109】
まず、
図32を用いて位相補正値と振幅補正値が、モード間結合(CW信号によって駆動された振動子から生じるCCW振動成分、つまりエラー成分)とどのような関係にあるのか説明する。(なお、この図の結果は実際のMEMS振動子を用いた実験結果であり、シミュレーヨン等の結果ではない。)
図32から見てとれるように、X軸を振幅補正値、Y軸を位相補正値、Z軸をモード間結合として描画すると、モード間結合成分は平面で近似できることがわかる。(これは、言い換えれば、モード間結合成分(I
CCW、 Q
CCW)が、位相補正値と振幅補正値の変化に対して線形に変化するということである。)よって、
図32において、I
CCWの平面、 Q
CCWの平面、 Z=0の平面の3つの平面の交点P(互いに並行でない3平面は必ず1点で交わる)を求めることで、 I
CCW=0 とQ
CCW=0 を同時に満たす補正値(点PのX、Y軸の値)が求められる。なお、
図32におけるA.Uは、軸の値を所定の基準値を用いて正規化した任意単位(A.U:Arbitrary Unit)を意味している。
図33も本質的に同じことを説明しているが、これはCCW信号で駆動した場合の、CW振動成分を測定した例である。
【0110】
始めに、第1位相・振幅調整部を構成する位相調整部91,92に対して初期値としての所定の位相補正値(位相差)が設定される。また、第1位相・振幅調整部を構成する振幅調整部95,96に対して初期値として所定の振幅補正値が設定される。位相補正値および振幅補正値の初期値は、0でも良いし、所定の値でも良い。位相補正値および振幅補正値の初期値でジャイロ装置10が駆動されることで、第3検出部30cにより、エラー成分ICCW-1およびエラー成分QCCW-1が検出される。
【0111】
次に、初期値から所定分ずらした位相補正値が位相調整部91,92に対して新たに設定される。また、初期値から所定分ずらした振幅補正値が振幅調整部95,96に対して新たに設定される。どの程度ずらすかについては適宜、設定することができる(例えば、ソフトウエア的に設定することができる。)。新たに設定された位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動される。ジャイロ装置10が駆動されることで、第3検出部30cにより、エラー成分ICCW-2およびエラー成分QCCW-2が検出される。
【0112】
次に、初期値若しくは2回目に設定された位相補正値から所定分ずらした位相補正値が位相調整部91,92に対して新たに設定される。また、初期値若しくは2回目に設定された振幅補正値から所定分ずらした振幅補正値が振幅調整部95,96に対して新たに設定される。どの程度ずらすかについては適宜、設定することができる。新たに設定された位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動される。ジャイロ装置10が駆動されることで、第3検出部30cにより、エラー成分ICCW-3およびエラー成分QCCW-3が検出される。このように、位相補正値および振幅補正値を変化させてジャイロ装置10を駆動することにより6個の測定結果を得ることができる。
【0113】
次に、エラー成分により規定される平面(I平面)を求める処理が行われる。直交座標系(X軸、Y軸およびZ軸)を設定し、
図34に示すように、例えば、X軸を位相差(ΔΦ)に対応させ、Y軸を振幅補正値(A
cw,y/A
cw,x)に対応させ、Z軸を測定結果であるエラー成分I
ccwに対応させる。1~3回のジャイロ装置10の駆動により得られる測定結果がプロットされる。P
0が1回目の測定結果(I
CCW-1)に基づいてプロットされた点であり、P
0,1が2回目の測定結果(I
CCW-2)に基づいてプロットされた点であり、P
0,2が3回目の測定結果(I
CCW-3)に基づいてプロットされた点である。3個の点に基づいて、当該3個の点を通る平面EPI
CCWを規定することができる。なお、
図34において、点線により示される平面は、Z=0となる平面(エラー成分が0となる平面)である。
【0114】
同様に、エラー成分により規定される平面(Q平面)を求める処理が行われる。Z軸を測定結果であるエラー成分Q
ccwに対応させる。
図35に示すように、P
0が1回目の測定結果(Q
CCW-1)に基づいてプロットされた点であり、P
0,1が2回目の測定結果(Q
CCW-2)に基づいてプロットされた点であり、P
0,2が3回目の測定結果(Q
CCW-3)に基づいてプロットされた点である。
図35に示すように、3個の点に基づいて、当該3個の点を通る平面EPQ
CCWを規定することができる。
【0115】
そして、
図36に示すように、平面EPI
CCW、平面EPQ
CCWおよびZ=0となる平面の3個の平面の交点Pが求められる。交点Pは、各平面を規定する平面方程式=0とした連立方程式を解くことにより求めることができる。交点Pに対応する位相補正値が第1位相補正値に対応し、交点Pに対応する振幅補正値が第1振幅補正値に対応する。
【0116】
第4検出部30dに検出されるエラー成分ICWおよびエラー成分QCWを用いて、同様の処理が行われる。処理の内容について、概略的に説明する。位相調整部93,94に設定される位相補正値、および、振幅補正値を変化させることにより、3回、ジャイロ装置10が駆動され、6個の測定結果(ICW-1,ICW-2,ICW-3,QCW-1,QCW-2,QCW-3)が得られる。
【0117】
1回目の測定結果(ICW-1)に基づいてプロットされた点、2回目の測定結果(ICW-2)に基づいてプロットされた点、3回目の測定結果(ICW-3)に基づいてプロットされた点に基づいて、3個の点を通る平面EPICWが規定される。
【0118】
同様に、エラー成分により規定される平面(Q平面)を求める処理が行われる。1回目の測定結果(Q
CW-1)に基づいてプロットされた点、2回目の測定結果(Q
CW-2)に基づいてプロットされた点、3回目の測定結果(Q
CW-3)に基づいてプロットされた点に基づいて、3個の点を通る平面EPQ
CWが規定される。そして、平面EPI
CW、平面EPQ
CWおよびZ=0となる平面の3個の平面の交点P'が求められる(
図36参照)。交点P'に対応する位相補正値が第2位相補正値に対応し、交点P'に対応する振幅補正値が第2振幅補正値に対応する。
【0119】
以上のようにして、エラー成分を0にする、第1位相補正値、第1振幅補正値、第2位相補正値および第2振幅補正値が自動で求められる。なお、第1位相補正値等を自動で求める処理(以下、自動算出処理と適宜、称する。)は、例えば、ジャイロ装置10の電源投入時におけるキャリブレーション処理で行われる。
【0120】
なお、上述した自動算出処理は、第3検出部30cにより検出されるエラー成分および第4検出部30dにより検出されるエラー成分が所定以下になるまで繰り返されるようにしても良い。この点について、
図37、
図38および
図39を参照して、説明する。
【0121】
図37のグラフにおける横軸はCWループの系で用いられる振幅補正値を示し、縦軸はCWループの系で用いられる位相補正値を示している。
図38のグラフにおける横軸はCCWループの系で用いられる振幅補正値を示し、縦軸はCCWループの系で用いられる位相補正値を示している。
図39のグラフにおける横軸は手順番号を示し、
図37,
図38の各点(P0, P1, ...等)に対応する。また、縦軸は第3検出部30cから出力されるエラー成分および第4検出部30dから出力されるエラー成分を示している。本例では、エラー成分の大きさをクロスカップリングターム、即ち、二乗和の平方根により規定している。より具体的には、第3検出部30cから出力されるエラー成分の大きさがエラー成分I
CCWおよびエラー成分Q
CCWの二乗和の平方根で規定される。なお、
図39では、第3検出部30cから出力されるエラー成分の大きさが「×」によりプロットされている。また、第4検出部30dから出力されるエラー成分の大きさがエラー成分I
CWおよびエラー成分Q
CWの二乗和の平方根で規定される。なお、
図39では、第4検出部30dから出力されるエラー成分の大きさが「○」によりプロットされている。本例では、エラー成分の閾値を10
-3として説明する。
【0122】
図37のグラフでプロットされているP
0に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動され、その結果、
図39のグラフでプロットされているP
0に対応し、×により示されるエラー成分が検出される。また、
図38のグラフでプロットされているP
0に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動され、その結果、
図39のグラフでプロットされているP
0に対応し、○により示されるエラー成分が検出される。なお、
図39で示されるように、×と○が重なっていることは、第3検出部30cおよび第4検出部30dで検出されるエラー成分の大きさが略同等であることを意味している。
【0123】
図37のグラフでプロットされているP
0,1に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動され、その結果、
図39のグラフでプロットされているP
0,1に対応し、×により示されるエラー成分が検出される。また、
図38のグラフでプロットされているP
0,1に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動され、その結果、
図39のグラフでプロットされているP
0,1に対応し、○により示されるエラー成分が検出される。
【0124】
図37のグラフでプロットされているP
0,2に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動され、その結果、
図39のグラフでプロットされているP
0,2に対応し、×により示されるエラー成分が検出される。また、
図38のグラフでプロットされているP
0,2に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動され、その結果、
図39のグラフでプロットされているP
0,2に対応し、○により示されるエラー成分が検出される。
【0125】
以上の測定結果を使用した自動算出処理が行われることにより、第1位相補正値等が求まる。具体的には、
図37のグラフでプロットされているP
1に対応する位相補正値および振幅補正値が第1位相補正値及び第1振幅補正値に対応する。また、
図38のグラフでプロットされているP
1に対応する位相補正値および振幅補正値が第2位相補正値及び第2振幅補正値に対応する。
【0126】
求められた第1位相補正値等を使用してジャイロ装置10を駆動した場合に検出されるエラー成分の大きさが
図39のグラフでプロットされているP
1により示されている。
図39に示されているように、エラー成分の大きさは、10
-3より大きく閾値以下となっていない。かかる場合には、再度、第1位相補正値等を求める自動算出処理が行われる。
【0127】
2回目に行われる自動算出処理では、P
1が2回目の自動算出処理における初期値として用いられる。そして、P
1から所定分ずらしたP
1,1が設定され、
図37のグラフでプロットされているP
1,1に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動される。その結果、
図39のグラフでプロットされているP
1,1に対応し、×により示されるエラー成分が検出される。また、
図38のグラフでプロットされているP
1,1に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動され、その結果、
図39のグラフでプロットされているP
1,1に対応し、○により示されるエラー成分が検出される。
【0128】
また、P
1から所定分ずらしたP
1,2が設定される。そして、
図37のグラフでプロットされているP
1,2に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動される。その結果、
図39のグラフでプロットされているP
1,2に対応し、×により示されるエラー成分が検出される。また、
図38のグラフでプロットされているP
1,2に対応する位相補正値および振幅補正値を使用してジャイロ装置10が駆動され、その結果、
図39のグラフでプロットされているP
1,2に対応し、○により示されるエラー成分が検出される。
【0129】
P
1、P
1,1、P
1,2のそれぞれに対応する位相補正値、振幅補正値およびエラー成分により規定される平面を使用して、再度、第1位相補正値等が求められる。具体的には、
図37のグラフでプロットされているP
2に対応する位相補正値および振幅補正値が、再度の自動算出処理により求められた第1位相補正値及び第1振幅補正値に対応する。また、
図38のグラフでプロットされているP
2に対応する位相補正値および振幅補正値が、再度の自動算出処理により求められた第2位相補正値及び第2振幅補正値に対応する。
【0130】
2回目の自動算出処理により求められた第1位相補正値等を使用してジャイロ装置10を駆動した場合に検出されるエラー成分の大きさが
図39のグラフでプロットされているP
2により示されている。
図39に示されているように、エラー成分の大きさは、10
-3より小さく閾値以下となっている。従って、2回目の自動算出処理で得られた第1位相補正値等が、第1位相・振幅調整部および第2位相・振幅調整部のそれぞれに設定され、ジャイロ装置10が動作する際の補正値として用いられる。なお、本例では、2回の自動算出処理が行われる例について説明したが、自動算出処理が行われる回数は1回の場合もあれば、3回以上の場合もあり得る。
【0131】
<5.変形例>
以上、本発明の複数の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく各種の変形が可能である。
【0132】
本発明は、2次元にモードマッチする振動子であれば、形状、励振方法(静電、電磁、圧電など)等は特定の方法等に限定されることはない。
【0133】
2次元振動子15の出力を処理する回路は、ASIC(Application Specific integrated Circuit)等の集積回路で構成することも可能である。
【0134】
本発明の作用効果を奏する範囲で、ジャイロ装置10が他の回路素子等を備える構成でもよい。
【0135】
本発明のジャイロ装置は、他の装置(例えば、ゲーム機器、撮像装置、スマートフォン、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の各種の電子機器や、自動車、電車、飛行機、ヘリコプター、小型飛行体、宇宙用機器等の移動体、ロボット等)に組み込まれて使用されてもよい。
【0136】
上述した実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。また、本発明は、装置、方法、複数の装置からなるシステム(クラウドシステム等)により実現することができ、複数の実施形態および変形例で説明した事項は、技術的な矛盾が生じない限り相互に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0137】
10・・・ジャイロ装置
15・・・2次元振動子
20・・・駆動信号生成部
30a・・・第1検出部
30b・・・第2検出部
30c・・・第3検出部
30d・・・第4検出部
40a・・・第1PLL回路
40b・・・第2PLL回路
50a・・・第1ゲインコントロール部
50b・・・第2ゲインコントロール部
70・・・角速度検出部
80a、80b・・・角度検出部
91~94・・・位相調整部
95~98・・・振幅調整部
CW・・・第1モード
CCW・・・第2モード