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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ゴム材料の変形解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20230627BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20230627BHJP
【FI】
G01N3/00 K
G01N23/04
G01N3/00 U
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019209804
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021081337
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】鷺谷 智
(72)【発明者】
【氏名】米山 聡
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-100814(JP,A)
【文献】特開2017-203685(JP,A)
【文献】特開2011-169727(JP,A)
【文献】DUPRE,J. C.,Displacement Discontinuity or Complex Shape of Sample: Assessment of Accuracy and Adaptation of Loca,Strain,2015年10月01日,Volume 51, Issue 5,Pages 391-404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00
G01N 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料の破壊試験における変形解析方法であって、
ゴム材料からなる試験片にランダムパターンを付与すること、
前記試験片を変形させながら撮影して解析すべき変形の初期画像から最終画像までの複数の画像を得ること、
前記最終画像において複数の解析点およびサブセットを設定して解析領域を設定し、その際、試験片の輪郭が通らないように各サブセットを設定すること、及び、
前記最終画像から前記初期画像に向けて前記変形とは逆方向でデジタル画像相関法により各解析点の変位を計算すること、
を含むゴム材料の変形解析方法。
【請求項2】
前記計算により得られた各解析点の変位を、前記初期画像を基準とした変位に変換すること、及び、変換した変位から前記最終画像における歪みを算出すること、を更に含む、請求項1に記載の変形解析方法。
【請求項3】
前記サブセットは前記解析点を中心とした長方形の領域であり、前記解析領域を設定する際に前記試験片の輪郭との間にサブセットサイズの半分以上の隔たりを持たせて各解析点を設定する、請求項1又は2に記載の変形解析方法。
【請求項4】
前記撮影はX線を用いてX線透過像を得るものであり、前記ランダムパターンが金属元素含有粒子によるものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の変形解析方法。
【請求項5】
前記破壊試験が引き裂き試験であり、前記解析領域が引き裂き試験における裂け目の先端部を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の変形解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料の変形解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム材料の変形解析のため、ゴム材料の面内歪みを可視化する技術としてデジタル画像相関法(DIC)が知られている。製品使用時の面内歪みはもとより、力学試験時の歪みを可視化することもゴム製品の研究開発には有用である。
【0003】
ゴム材料の変形解析方法として、例えば、非特許文献1には、可視光を用いたカメラによる撮影とデジタル画像相関法を用いて、ゴム材料からなる試験片の切れ込み部の歪みを可視化することが記載されている。また、特許文献1には、X線イメージング法とデジタル画像相関法を組み合わせた方法を用いて、ゴム材料の引き裂き挙動を解析する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-100814号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】チャン・リュー(Chang Liu)、他4名、「カーボンブラック充填SBRの引き裂き抵抗についての裂け目近傍での歪み増大の影響(Influence of Strain Amplification Near Crack Tip on the Fracture Resistanceof Carbon Black-filled SBR)」、Rubber Chemistry andTechnology, Vol.88, No.2, pp276-288 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引き裂き試験のように試験片に力を加えて変形させる際に試験片の破壊を伴う破壊試験においては、裂け目の成長等のように破壊が進行することで試験片の輪郭が変化する。そのため、試験片の輪郭近傍において安定的に計算することが困難となり、破壊の進行によってゴム材料が存在しなくなった領域であるにもかかわらず解析計算がなされ、異常値が算出される。これにより計算エラーとなって解析が中断することがある。
【0007】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、ゴム材料の破壊試験において安定した解析を可能にする変形解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る変形解析方法は、ゴム材料の破壊試験における変形解析方法であって、ゴム材料からなる試験片にランダムパターンを付与すること、前記試験片を変形させながら撮影して解析すべき変形の初期画像から最終画像までの複数の画像を得ること、前記最終画像において複数の解析点およびサブセットを設定して解析領域を設定し、その際、試験片の輪郭が通らないように各サブセットを設定すること、及び、前記最終画像から前記初期画像に向けて前記変形とは逆方向でデジタル画像相関法により各解析点の変位を計算すること、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態であると、ゴム材料の破壊試験において安定した変形解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る変形解析方法を示すフローチャート。
図2】一実施形態に係る破壊試験を説明するための概略図。
図3】実施例におけるX線透過像。(A)は初期画像、(B)は最終画像。
図4】実施例における最終画像から作成した二値化画像。
図5】解析点及びサブセットの設定方法を説明するための説明図
図6】試験片の輪郭近傍における解析点の設定方法を説明するための説明図
図7】実施例における初期画像と最終画像のX方向変位及びY方向変位の解析結果を示す図
図8】実施例における初期画像と最終画像のX方向歪み、Y方向歪み及びせん断歪みの解析結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
一実施形態に係る変形解析方法は、ゴム材料の破壊試験における変形解析方法であって、以下の工程を含む。図1はそのフローチャートである。
(a)試験片にランダムパターンを付与する工程(ステップS1)、
(b)試験片を変形させながら撮影して画像を取得する工程(ステップS2)、
(c)最終画像において解析点およびサブセットを設定して解析領域を設定する工程(ステップS3)、
(d)変形とは逆方向でデジタル画像相関法により解析点の変位を計算する工程(ステップS4)、
(e)初期画像を基準とした変位に変換する工程(ステップS5)、及び、
(f)最終画像における歪みを算出する工程(ステップS6)。
【0013】
変形解析の対象とするゴム材料の破壊試験としては、ゴム材料の破壊を伴う種々の力学試験が挙げられ、特に限定されない。詳細には、試験片に力を加えることで破壊が進行して輪郭が変化するものが挙げられ、例えば、引き裂き試験、亀裂成長屈曲試験などが挙げられ、好ましくは引き裂き試験である。
【0014】
ゴム材料とは、ゴム状弾性を持つ物質であり、加硫ゴムだけでなく、熱可塑性エラストマーのようなエラストマーも含む概念である。一実施形態として、ゴム材料としては、加硫ゴムが好ましく用いられ、すなわち、ゴムポリマーに硫黄等の加硫剤を含む種々の配合剤を配合したゴム組成物を加硫してなる加硫ゴムが挙げられる。ゴムポリマーとしては、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、又はこれらの組み合わせなどの各種ジエン系ゴムが挙げられる。また、配合剤としては、カーボンブラックやシリカなどの充填剤、軟化剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、加硫促進剤など、通常ゴム工業で使用される各種配合剤を用いることができる。
【0015】
試験片の形状としては、変形解析の対象とする破壊試験の種類に応じて指定することができ、特に限定されない。例えば工程(b)において放射線を透過させて画像を取得する場合、試験片の形状は放射線が透過可能であればよく、シート状、円柱状、ブロック状等の種々の形状が挙げられ、好ましくはシート状である。
【0016】
また、試験片には、破壊の起点となる部位(破壊起点部位)を設けてもよい。破壊起点部位としては、試験片の縁部に設けられた切れ込みやノッチ、試験片の内部に設けられたスリットや穴(即ち、開口部)などが挙げられる。例えば、図2に示された引き裂き試験における試験片10では、短冊状をなす試験片10の幅方向の一方側の辺において、その長手方向の中央部に破壊起点部位としての切れ込み12が設けられている。切れ込み12は、試験片10の長手方向に垂直な方向に切れ目を入れることで形成されている。
【0017】
実施形態に係る変形解析方法では、まず、工程(a)において、ゴム材料からなる試験片にランダムパターンを付与する(ステップS1)。
【0018】
ランダムパターンは、デジタル画像相関法を行うために試験片に付されるランダムなパターンである。そのため、ランダムパターンは少なくとも測定対象部位に付与されるが、測定対象部位に付与されていれば、例えば試験片の全体に付与されてもよい。測定対象部位は、試験片において変形解析を行うために工程(b)において画像を撮影する領域であり、上記破壊起点部位を含むその周辺部位である。
【0019】
ランダムパターンは、試験片の表面又は内部に付与することができる。例えば、工程(b)における撮影が放射線を用いて透過像を得るものである場合、ランダムパターンは試験片の表面又は内部に付与してもよい。また、工程(b)における撮影が可視光を用いて画像を取得する場合、ランダムパターンは試験片の表面に付与してもよい。
【0020】
ランダムパターンを試験片の表面に付与する場合、例えば、マーカ粒子を含むコート液を試験片の表面にスプレーする等して塗布してもよく、あるいはまた、マーカ粒子を含むゴム層を試験片の表面に設けてもよい。また、例えば可視光を用いて画像を取得する場合、着色剤を用いて試験片表面に斑模様などのランダムパターンを付与してもよい。
【0021】
ランダムパターンを試験片の内部に付与する場合、ゴム材料中にマーカ粒子を配合して、試験片内部にマーカ粒子を分散させることにより、試験片にランダムパターンを付与してもよい。
【0022】
マーカ粒子とは、デジタル画像相関法で利用されるランダムパターンを形成するための微粒子である。例えば、X線等の放射線によって検出可能な微粒子、即ち放射線イメージング法において検出対象とする微粒子である。マーカ粒子としては、放射線によりコントラストがつきやすい金属元素を含む粒子(即ち、金属元素含有粒子)が用いられ、ゴム材料の大部分を構成する炭素よりも原子番号の大きい金属元素を含み、単粒子として安定なものが挙げられる。具体的には、例えば、タングステン粒子、銀粒子、鉛粒子などの金属粒子、アルミナ粒子などが挙げられる。
【0023】
マーカ粒子の粒径は、特に限定されず、例えば放射線イメージング法による空間分解能(実行ピクセル数)以上のものを用いてもよい。なお、空間分解能は、使用する放射線の線幅や発散の仕方により異なる。
【0024】
実施形態に係る変形解析方法では、次いで、工程(b)において、試験片を変形させながら撮影して、解析すべき変形の初期画像から最終画像までの複数の画像を取得する(ステップS2)。
【0025】
詳細には、試験片に力を加えて変形、即ち歪みを付与しながら、測定対象部位を撮影する。試験片に与える歪みとしては、変形解析の対象とする破壊試験の種類に応じて指定することができ、例えば引き裂き試験であれば、試験片を引っ張ることにより伸長歪みを与えればよい。
【0026】
このように試験片を変形させながら、試験片を所定時間毎に連続して撮影することにより、試験片の破壊挙動を表す複数の2次元の静止画像を取得する。これには、解析すべき変形の初期画像と最終画像が含まれる。ここで、初期画像とは、変形解析を行う基準となる画像であり、例えば変形前(即ち、歪みを付与する前)の画像でもよい(図3(A)参照)。最終画像とは、変形解析においてターゲットとなる変形状態での画像であり、例えば破壊試験における破壊終期の画像でよく、より具体的には引き裂き試験において試験片が破断する直前の画像でもよい(図3(B)参照)。
【0027】
画像の取得方法は特に限定されない。例えば、通常の可視光を用いたカメラによる撮影でもよく、X線などの放射線を試験片に照射する放射線イメージング法でもよい。放射線イメージング法では、試験片に放射線が透過するように放射線を照射して透過像を取得する。放射線イメージング法による画像取得方法自体は、公知の方法で行うことができ、特に限定されない。ここで、放射線とは、広義の放射線を意味し、中性子線などの粒子放射線、X線、ガンマ線、紫外線などの電磁波を包含する。好ましくはX線であり、従って画像としてX線透過像を得ることが好ましい。
【0028】
図2は、一実施形態に係るX線イメージング試験装置の概略を示したものである。短冊状の試験片10は、その長手方向の両端部が不図示のつかみ具に保持された状態で引張試験機に取り付けられ、両側のつかみ具を互いに離隔する方向に移動させることにより伸長歪みが付与される。試験装置には、試験片10にX線を照射する照射手段としてのX線管22と、試験片10を透過したX線を検知する検出器24とが設けられており、検出器24で検知したX線に基づいてX線透過像を取得する。X線管22と検出器24は、試験片10における切れ込み12を含むその周辺を測定対象部位として、当該測定対象部位を挟んで一直線上に配置されている。
【0029】
使用するX線としては、例えば1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上の高輝度X線であることが好ましい。このようなX線を放射するシンクロトロンとしては、高輝度光科学研究センターのSPring-8、「知の拠点あいち」のあいちシンクロトロン光センターなどが挙げられる。
【0030】
また、X線のエネルギーとしては、特に限定されず、例えば、1~100keVでもよく、10~50keVでもよい。X線の照射時間(即ち、露光時間)も、特に限定されず、例えば、0.0001~10000msでもよく、1~1000msでもよい。フレームレートも、特に限定されず、例えば、1~10000fpsでもよく、1~2000fpsでもよい。
【0031】
実施形態に係る変形解析方法では、次いで、工程(c)において、最終画像において複数の解析点およびサブセットを設定して解析領域を設定する(ステップS3)。このように本実施形態では、初期画像ではなく最終画像を用いて、解析点とサブセットを設定する。これは、次工程(d)において、変形とは逆方向(即ち、逆再生)でデジタル画像相関法による変位計算を行うためである。
【0032】
工程(c)では、まず、最終画像において、上記測定対象部位における試験片の輪郭を求めてもよい。試験片の輪郭の取得方法は、特に限定されないが、例えば最終画像を二値化することで取得することができる。詳細には、ゴムポリマーと背景(空気)とマーカ粒子との輝度値差を利用して二値化することにより、最終画像から二値化画像を作成し、該二値化画像から試験片の輪郭を取り出すことができる。図4は、最終画像から作成した二値化画像の一例を示したものである。かかる二値化画像による輪郭の取得は、X線などの放射線を用いた画像との組み合わせにおいて、可視光を用いた画像の場合に比べて、ゴムポリマーと背景とのコントラスト差が大きく容易に輪郭情報を抽出することができるというメリットがある。
【0033】
試験片の輪郭は、少なくとも解析対象とする破壊が進行している部分で取得すればよく、従って、破壊起点部位を設けた試験片では、当該破壊起点部位に相当する部分の輪郭を取得すればよい。図4に示す引き裂き試験の例では、試験片に伸長歪みを与えることで切れ込みが伸長方向に広がっており、この広がった切れ込みに沿う部分の輪郭を取得すればよい。
【0034】
輪郭を取得した後、最終画像における試験片内(即ち、試験片に相当する領域内)に解析点とサブセットを設定して解析領域を設定する。ここで、解析点とは、デジタル画像相関法において変位を算出するために用いられる試験片内の任意の点であり、解析点の変位を算出することで試験片の変形を解析することができる。
【0035】
サブセットとは、変形前後での解析点の位置を特定するために輝度値分布等の相関性によってパターンマッチングを行うための微小な計算領域であり、複数の画素からなる。サブセットは解析点毎に設定され、従ってサブセットにはそれぞれ1つの解析点が含まれ、通常はサブセットの中心に解析点が設定される。この例では、サブセットは、解析点を中心とした長方形の領域である。なお、長方形は正方形も含む概念である。
【0036】
解析領域とは、上記測定対象部位のうち解析点とサブセットを設定した領域であり、この領域内でデジタル画像相関法による計算が行われ、各解析点の変位が算出される。解析領域は、破壊が進行している部分を含んで設定され、破壊起点部位を設けた試験片では当該破壊起点部位に相当する部分を含む範囲で設定される。例えば、引き裂き試験の例では、図5に示すように、解析領域28は裂け目の先端部を含む範囲に設定される。
【0037】
本実施形態では、解析領域を設定する際に、試験片の輪郭が通らないように各サブセットを設定する。すなわち、サブセットは、試験片の輪郭がその領域内に入ることで当該領域内に試験片の背景となる空気領域が含まれないように設定される。
【0038】
図5は、このことを模式的に示した図であり、放物線状の輪郭30の左側が試験片領域32であり、輪郭30の右側が背景領域34である。黒丸が解析点36であり、上記試験片領域32内において、Y方向(伸長方向)に延びる複数の等間隔に配された格子子38と、X方向(伸長方向に垂直な方向)に延びる複数の等間隔に配された格子子40との交点である各格子点に、解析点36が設定されている。各解析点36を中心として長方形(図5の例では正方形)の領域からなるサブセット42が設定されている。なお、図5においては一部のサブセット42のみを図示しているが、図示を省略しているだけであり、各解析点36に同様のサブセット42が設定される。
【0039】
輪郭30の近傍では、背景領域34内に存在する格子点だけでなく、試験片領域32内に存在する格子点であっても、当該格子点を中心としてサブセットを設定したときにそのサブセット内に輪郭30に通るような格子点については、解析点36を設定しておらず、そのため、サブセット42も設定していない。輪郭30近傍においてサブセット42を設定すべきでない位置を、図5において点線の枠44で示している。
【0040】
試験片の輪郭がサブセット内を通らないように設定するためには、一実施形態において次のように設定することが好ましい。例えば、サブセットが解析点を中心とした長方形の領域である場合において、解析領域を設定する際に、試験片の輪郭部分では当該輪郭との間にサブセットサイズの半分以上の隔たりを持たせて各解析点を設定する。より詳細には、試験片の輪郭部分では、当該輪郭との間にサブセットサイズの半分以上かつサブセットサイズ未満の隔たりを持たせて解析点を設定することが好ましい。
【0041】
詳細には、図6(A)に示すように、格子子38,40に対して傾斜して延在する輪郭30に対して長方形のサブセット42を設定する場合を考える。この場合、サブセットサイズの半分は、X方向ではサブセット42をX方向に二等分する範囲42Aであり、Y方向ではサブセット42をY方向に二等分する範囲42Bである。同図において黒丸で示す格子点46については、輪郭30との間でX方向にサブセットサイズの半分の範囲42A以上の隔たり(即ち、余白)がある。詳細には、サブセットサイズの半分の範囲42A以上であり、かつサブセットサイズ1個分未満の隔たりがある。また、輪郭30との間でY方向にもサブセットサイズの半分の範囲42B以上の隔たり(即ち、余白)がある。詳細には、サブセットサイズの半分の範囲42B以上であり、かつサブセットサイズ1個分未満の隔たりがある。そのため、この格子点46については解析点36を設定し、該解析点36を中心としたサブセット42を設定する。
【0042】
一方、該格子点46の右側に隣接する格子点48と下側に隣接する格子点50については、輪郭30との間でX方向及びY方向にそれぞれサブセットサイズの半分の範囲42A及び42Bの隔たりがない。そのため、これらの格子点48,50には解析点36は設定せず、サブセット42も設定しない。
【0043】
図6(B)に示すように、Y方向の格子子38に対して平行に延在する輪郭30に対して長方形のサブセット42を設定する場合、黒丸で示す格子点52については、輪郭30との間でY方向についてはもちろんのこと、X方向についてもサブセットサイズの半分の範囲42Aの隔たりがある。詳細には、X方向において、サブセットサイズの半分の範囲42A以上、かつサブセットサイズ1個分未満の隔たりがある。そのため、この格子点52については解析点36を設定し、該解析点36を中心としたサブセット42を設定する。一方、該格子点52の右側に隣接する格子点54については、輪郭30との間でX方向にサブセットサイズの半分の範囲42Aの隔たりがない。そのため、格子点54には解析点36は設定せず、サブセット42も設定しない。X方向の格子子40に対して平行に延在する輪郭30に対しても同様であり、その他の形状ないし位置関係にある輪郭についても同様の考え方を適用すればよい。
【0044】
以上のようにして解析領域を設定した後、実施形態に係る変形解析方法では、工程(d)において、最終画像から初期画像に向けて変形とは逆方向でデジタル画像相関法により各解析点の変位を計算する(ステップS4)。すなわち、一般的な変形解析では変形の進む方向に向かってデジタル画像相関法による変位計算を行うのに対し、本実施形態では、これとは逆に変形を遡って(即ち、逆再生)でデジタル画像相関法による変位計算を行うことを特徴とする。
【0045】
デジタル画像相関法は、物体に付与されたランダムパターンの変形前後の画像を比較して物体の変形を解析する手法であり、輝度値パターンの移動追跡を測定原理とする。詳細には、1時刻目t=tと2時刻目t=t+dtにおける画像について、1時刻目の画像におけるサブセットの輝度地分布と高い相関性を示すサブセットを、2時刻目の画像における任意のサブセットを対象として数値解析で探索し、対応するサブセットを同定する。これにより、当該サブセットについて1時刻目から2時刻目への変形における解析点の移動方向と移動量、即ち変位を算出することができる。画像相関法自体については、「可視化情報ライブラリー4 PIVと画像解析技術」((株)朝倉書店発行、(社)可視化情報学会編、2012年4月25日発行)の31~46頁に記載の方法を用いて行うことができ、また市販のソフトウェアを用いて行うこともできる。
【0046】
本実施形態では、図3に示すように、最終画像から初期画像に向けて逆再生でデジタル画像相関法(DIC)により各解析点の変位を計算する。すなわち、最終画像から初期画像まで基準となる画像を順次更新しながら計算する。より詳細には、最終画像を上記1時刻目の画像とし、その1つ前の変形時の画像を上記2時刻目の画像としてデジタル画像相関法による計算を行い、次いで、最終画像の1つ前の変形時の画像を上記1時刻目の画像とし、最終画像の2つ前の変形時の画像を上記2時刻目の画像としてデジタル画像相関法による計算を行い、以下同様にして初期画像に至るまで順次遡った画像を用いてデジタル画像相関法による計算を行う。
【0047】
これにより、解析領域内の各解析点について最終画像から初期画像までの変位が得られる。
【0048】
実施形態に係る変形解析方法では、次いで、上記計算により得られた各解析点の変位を、工程(e)において、初期画像を基準とした最終画像での変位に変換する(ステップS5)。
【0049】
その場合、上記のように変形とは逆方向で順次更新しながら計算した各解析点の変位を、更新毎に変形前の画像を基準とした変位に変換することで初期画像を基準とした変位に変換してもよい。あるいは、複数の更新毎に変形前の画像を基準とした変位に変換することで初期画像を基準とした変位に変換してもよい。あるいは、最終画像を基準とした初期画像での変位を算出してから、これを直接初期画像を基準とした最終画像での変位に変換してもよい。
【0050】
これにより、解析領域内の各解析点について初期画像を基準とした最終画像での変位が得られ、例えば、各解析点についての最終画像でのX方向変位(伸長方向に垂直な方向での変位)及びY方向変位(伸長方向での変位)が得られる。
【0051】
このようにして初期画像を基準とした変位に変換した後、工程(f)において、該変換した変位から最終画像における各解析点での歪みを算出する(ステップS6)。
【0052】
歪みは変位の分布を微分することにより求めることができ、例えば、X方向歪み(伸長方向に垂直な方向での歪み)及びY方向歪み(伸長方向での歪み)のように直交2方向での歪みを求めてもよく、また、せん断歪みを求めてもよい。せん断歪みは、X方向変位をY方向座標で微分した値とY方向変位をX方向座標で微分した値とを加えることで求められる。
【0053】
このように本実施形態であると、ゴム材料の破壊を伴う力学試験に関してデジタル画像相関法を適用した変形解析を行うことができる。詳細には、解析すべき変形の最終画像から初期画像に向けて逆再生で画像解析を行うようにしたことで、当該最終画像において解析領域を設定することになるので、破壊が進行することで試験片の輪郭が変化する破壊試験の解析でありながら、輪郭近傍において安定的に計算できる解析領域を定義することができる。
【0054】
また、解析領域を設定する際に、試験片の輪郭部分では当該輪郭が通らないように各サブセットを設定するので、背景となる空気領域がサブセット内に含まれることがなく、解析の安定性を高めることができる。
【0055】
そのため、本実施形態によれば、破壊が進行することで試験片の輪郭が変化する破壊試験の解析でありながら、計算エラーが発生しにくく、安定して計算を行うことができ、破壊試験時における歪み分布を得ることができる。よって、ゴム製品の材料開発に役立てることができる。
【実施例
【0056】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
バンバリーミキサーを用いて、スチレンブタジエンゴム(JSR(株)製「JSR1502」)100質量部に、カーボンブラック(東海カーボン(株)製「シースト3」)50質量部と、亜鉛華(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」)2質量部と、ステアリン酸(花王(株)製「ルナックS-20」)1質量部と、硫黄(細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」)2質量部と、加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」)1質量部を添加し混練した。次いで、マーカ粒子(シグマアルドリッチ製「製品番号327077 Silver flakes 10μ品」)4質量部をロール表面温度60℃でロール混合して、未加硫ゴム組成物を調製した。
【0058】
得られた未加硫ゴム組成物を、ロールを用いて、厚み1mmの未加硫ゴムシートに成形し、金型モールドでプレス加工(160℃、30分)することにより、厚み1mmのゴムシートを作製した。得られたゴムシートを幅9mm×長さ30mmの短冊状に打ち抜き、その中央部に長さ5mmの切れ込みを入れることにより試験片を作製した。
【0059】
得られた試験片を用いて、図2に示すように引き裂き試験を実施ながら、X線イメージング法により画像を取得した。引き裂き試験は、試験片を引張試験機にセットし、50mm/分の引っ張り速度で、0~100%伸長時(両側のつかみ具間の距離が2倍)まで実施した。X線の条件及び撮影条件は、フレームレート:100fsp、X線の露光時間:10ms、X線のエネルギー:15keV、撮影画像の分解能:7μm/pxとした。
【0060】
次いで、得られた複数の画像のうち最終画像について、輝度値差を利用して二値化することにより二値化画像を作成して試験片の輪郭を求め、解析点およびサブセットを設定することで解析領域を設定した。サブセットは21×21画素の正方形の領域とし、その中心に解析点を設定した。その際、上記のとおり、試験片の輪郭部分では当該輪郭との間にサブセットサイズの半分以上の隔たりを持たせて各解析点を設定することで、各サブセットに試験片の輪郭が通らないようにした。
【0061】
次いで、最終画像から初期画像に向けて逆再生でデジタル画像相関法を適用することで各解析点の変位を計算したところ、異常値が算出されることなく、安定して変位を計算することができた。得られた変位に対し初期画像を基準とした変位に変換し、変換した変位から各解析点での最終画像における歪みを算出した。
【0062】
図7は、初期画像(伸長0%)と最終画像(伸長100%)についての、初期画像を基準としたX方向変位とY方向変位の分布を示した図である。各画像において、X軸とY軸の数値の単位はμmであり、右側のスケールバーの数値の単位もμmである。解析領域をグレースケールで示しており、最終画像において設定した解析領域は、初期画像において特に切り欠き周辺でY方向に大きく縮んだ形状となっている。初期画像を基準とした変位分布であるため、初期画像における変位は解析領域の全範囲で0μmである。最終画像では、X方向変位は切り欠きからX方向において離れるほど大きく、Y方向変位は裂け目先端からY方向に離れるほど絶対値が大きくなっていた。
【0063】
図8は、初期画像(伸長0%)と最終画像(伸長100%)についての、初期画像を基準としたX方向歪みとY方向歪みとせん断歪みの分布を示した図である。各画像において、X軸とY軸の数値の単位はμmであり、右側のスケールバーの数値の単位は%である。図7と同様、解析領域をグレースケールで示している。初期画像を基準とした歪み分布であるため、初期画像における歪みは解析領域の全範囲で0%である。最終画像におけるグレースケールから、当該試験片の引き裂き試験におけるX方向歪み、Y方向歪み及びせん断歪みの分布が分かる。
【0064】
比較例として、逆再生ではなく順再生、即ち、初期画像において解析領域を設定した上で、初期画像から最終画像に向けてデジタル画像相関法による計算を行い、その他は上記実施例と同様にして解析を行ったところ、輪郭近傍においてゴム材料が存在しなくなった領域であるにもかかわらず解析計算がなされることで異常値が算出され、安定した計算ができなかった。
【符号の説明】
【0065】
10…試験片、12…切れ込み、28…解析領域、30…輪郭、36…解析点、42…サブセット、42A,42B…サブセットサイズの半分の範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8