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▶ 住友電工ウインテック株式会社の特許一覧

<図1>
  • 特許-導体軟化処理装置及び導体軟化処理方法 図1
  • 特許-導体軟化処理装置及び導体軟化処理方法 図2
  • 特許-導体軟化処理装置及び導体軟化処理方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】導体軟化処理装置及び導体軟化処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/60 20060101AFI20230627BHJP
   C21D 9/573 20060101ALI20230627BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20230627BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230627BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20230627BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
C21D9/60 102
C21D9/573 102
C21D1/42 K
H01B13/00 501B
C22F1/08 Y
C22F1/08 C
C22F1/04 M
C22F1/04 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020566060
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001340
(87)【国際公開番号】W WO2020148877
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】中澤 善洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 春彦
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079436(JP,A)
【文献】特開昭48-006908(JP,A)
【文献】特開昭55-094447(JP,A)
【文献】特開2010-244763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52-9/66
C21D 1/42
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導体を連続的に加熱及び冷却する導体軟化処理装置であって、
上記導体をその軸方向に連続的に搬送する送り機構と、
上記送り機構により搬送される上記導体を加熱するヒーターと、
上記ヒーターにより加熱された上記導体を浸漬する冷却水を貯留する冷却槽と、
上記冷却槽に貯留されている冷却水の溶存酸素量を予め定められる設定範囲内に維持する溶存酸素量調節機構とを備え、
上記ヒーターが、
導体の搬送方向に延び、上記導体を搬送するための空洞がその内部に形成されている搬送管と、
上記搬送方向に沿って上記搬送管内に埋設され、上記空洞の上記搬送方向に垂直な面内の中心で磁場が強まるように配線される複数の導電線と
を有し、
上記空洞の少なくとも下端が冷却水に浸漬されるように配置されている導体軟化処理装置。
【請求項2】
上記搬送管の主成分が耐熱樹脂である請求項1に記載の導体軟化処理装置。
【請求項3】
上記ヒーターが、上記搬送方向に沿って上記搬送管内に埋設又は上記搬送管の空洞を構成する側壁に配設され、上記空洞を取り囲む遮熱板を有する請求項1又は請求項2に記載の導体軟化処理装置。
【請求項4】
上記遮熱板の平均厚さが0.5mm以上5mm以下である請求項3に記載の導体軟化処理装置。
【請求項5】
上記ヒーターが、上記搬送方向に沿って上記搬送管内に埋設され、上記空洞を取り囲む磁性体を有する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の導体軟化処理装置。
【請求項6】
上記搬送方向に垂直な面内での上記空洞の中心における磁束方向の磁性体間距離が、上記磁束方向と直交する方向の磁性体間距離より短い請求項5に記載の導体軟化処理装置。
【請求項7】
上記搬送管が、上記空洞を開放するように分割可能に構成される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の導体軟化処理装置。
【請求項8】
上記導電線が絶縁被覆されている請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の導体軟化処理装置。
【請求項9】
上記空洞の長さが50mm以上1500mm以下である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の導体軟化処理装置。
【請求項10】
線状の導体を連続的に加熱及び冷却する導体軟化処理方法であって、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の導体軟化処理装置を用い、
上記導体をその軸方向に連続的に搬送する工程と、
搬送される上記導体を加熱する工程と、
加熱された上記導体を冷却水への浸漬により冷却する工程と、
上記冷却水の溶存酸素量を予め定められる設定範囲内に維持する工程と
を備える導体軟化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導体軟化処理装置及び導体軟化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2016-79436号公報)には、導体の酸化を抑制できる導体軟化処理装置が記載されている。この導体軟化処理装置は、溶存酸素量が予め定められる設定範囲内の冷却水に加熱後の導体を浸漬することによって、加熱状態から冷却される導体の周囲の酸素量を低減して、導体の酸化を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-79436号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様に係る導体軟化処理装置は、線状の導体を連続的に加熱及び冷却する導体軟化処理装置であって、上記導体をその軸方向に連続的に搬送する送り機構と、上記送り機構により搬送される上記導体を加熱するヒーターと、上記ヒーターにより加熱された上記導体を浸漬する冷却水を貯留する冷却槽と、上記冷却槽に貯留されている冷却水の溶存酸素量を予め定められる設定範囲内に維持する溶存酸素量調節機構とを備え、上記ヒーターが、導体の搬送方向に延び、上記導体を搬送するための空洞がその内部に形成されている搬送管と、上記搬送方向に沿って上記搬送管内に埋設され、上記空洞の上記搬送方向に垂直な面内の中心で磁場が強まるように配線される複数の導電線とを有する。
【0005】
本発明の別の一態様に係る導体軟化処理方法は、線状の導体を連続的に加熱及び冷却する導体軟化処理方法であって、本発明の導体軟化処理装置を用い、上記導体をその軸方向に連続的に搬送する工程と、搬送される上記導体を加熱する工程と、加熱された上記導体を冷却水への浸漬により冷却する工程と、上記冷却水の溶存酸素量を予め定められる設定範囲内に維持する工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る導体軟化処理装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す導体軟化処理装置のヒーターのA-A線での模式的断面図である。
図3図3は、図2に示すヒーターの磁性体を分割した状態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1には、導体を加熱するヒーターとして、透明ガラス等により構成される管状部材に導体を挿通し、管状部材の外側に配置される誘導加熱コイルにより加熱する構成が記載されている。このような構成において加熱効率を高めるには、コイルを導体に近づける方法が有効である。しかしながら、コイルを導体に近づけるためには管状部材を細くする必要がある。このため、管状部材が破損し易い、管状部材に導体を挿通し難い、管内部の状態確認や清掃が困難となるといった弊害が生じ易い。従って、上記従来のヒーターの構成では管状部材を細くしてコイルを導体に近づけることには限度があり、加熱効率を高めることが難しい。
【0008】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、装置の破損を抑止しつつ、導体の加熱効率を高められるヒーターを有する導体軟化処理装置及びこの導体軟化処理装置を用いた導体軟化処理方法の提供を目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の導体軟化処理装置のヒーターは、装置の破損を抑止しつつ、導体の加熱効率を高められる。従って、本開示の導体軟化処理装置を用いた導体軟化処理方法は、導体軟化処理装置の破損を抑止しつつ導体軟化処理装置のエネルギー効率を高められるので、製造効率に優れる。
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る導体軟化処理装置は、線状の導体を連続的に加熱及び冷却する導体軟化処理装置であって、上記導体をその軸方向に連続的に搬送する送り機構と、上記送り機構により搬送される上記導体を加熱するヒーターと、上記ヒーターにより加熱された上記導体を浸漬する冷却水を貯留する冷却槽と、上記冷却槽に貯留されている冷却水の溶存酸素量を予め定められる設定範囲内に維持する溶存酸素量調節機構とを備え、上記ヒーターが、導体の搬送方向に延び、上記導体を搬送するための空洞がその内部に形成されている搬送管と、上記搬送方向に沿って上記搬送管内に埋設され、上記空洞の上記搬送方向に垂直な面内の中心で磁場が強まるように配線される複数の導電線とを有する。
【0011】
当該導体軟化処理装置は、溶存酸素量が予め定められる設定範囲内の冷却水に加熱後の導体を浸漬することによって、加熱状態から冷却される導体の周囲の酸素量を低減して、導体の酸化を抑制することができる。また、当該導体軟化処理装置のヒーターでは、導体を搬送するための空洞が搬送管の内部に形成され、さらに導体を加熱する磁場を発生する導電線が導体の搬送方向に沿って搬送管内に埋設されている。このため、当該導体軟化処理装置のヒーターは、導電線を導体に近づけて加熱効率を向上した構成としても搬送管の肉厚を薄くする必要がないので、搬送管の破損が抑止される。従って、当該導体軟化処理は、装置の破損を抑止しつつ、導体の加熱効率を高められる。
【0012】
上記搬送管の主成分が耐熱樹脂であるとよい。このように上記搬送管の主成分を導電性を有さない耐熱樹脂とすることで、導体の加熱効率を維持しつつ、搬送管の破損抑止効果を高めることができる。また、搬送管の耐熱効果をさらに高められるので、ヒーターを高温となる導体からの熱に容易に耐え得るようにできる。
【0013】
上記ヒーターが、上記搬送方向に沿って上記搬送管内に埋設され、上記空洞を取り囲む遮熱板を有するとよい。このように上記ヒーターを、上記搬送方向に沿って上記搬送管内に埋設され、上記空洞を取り囲む遮熱板を有する構成とすることで、導体の加熱効率をさらに高めることができる。
【0014】
上記遮熱板の平均厚さとしては、0.5mm以上5mm以下が好ましい。このように上記遮熱板の平均厚さを上記範囲内とすることで、導電線による導体の加熱効率を維持しつつ、遮熱効果を高めることができる。
【0015】
上記ヒーターが、上記搬送方向に沿って上記搬送管内に埋設され、上記空洞を取り囲む磁性体を有するとよい。このように上記ヒーターを、上記搬送方向に沿って上記搬送管内に埋設され、上記空洞を取り囲む磁性体を有する構成とすることで、空洞の磁場がより高められるので、導体の加熱効率をさらに高めることができる。
【0016】
上記搬送方向に垂直な面内での上記空洞の中心における磁束方向の磁性体間距離が、上記磁束方向と直交する方向の磁性体間距離より短いとよい。このように上記搬送方向に垂直な面内での上記空洞の中心における磁束方向の磁性体間距離を、上記磁束方向と直交する方向の磁性体間距離より短くすることで、上記空洞内の磁場がより高められるので、導体の加熱効率をさらに高めることができる。
【0017】
上記搬送管が、上記空洞を開放するように分割可能に構成されるとよい。このように上記搬送管を、上記空洞を開放するように分割可能に構成することで、上記空洞への導体の挿通を容易化できるほか、上記空洞内の状態確認や清掃を容易化できる。
【0018】
上記導電線が絶縁被覆されているとよい。このように上記導電線を絶縁被覆することで、上記磁性体を分割可能な構成とした場合においても搬送管内部への水の浸入等により複数の導電線間で電気的な短絡が生じることを抑止できる。従って、当該導体軟化処理装置の破損をさらに抑止できる。
【0019】
上記空洞の長さとしては、50mm以上1500mm以下が好ましい。上記空洞の長さを上記範囲内とすることで、当該導体軟化処理装置の大型化を抑止しつつ、導体の周囲の酸素量を低減して、導体の酸化抑制効果を高められる。
【0020】
本発明の別の一態様に係る導体軟化処理方法は、線状の導体を連続的に加熱及び冷却する導体軟化処理方法であって、本発明の導体軟化処理装置を用い、上記導体をその軸方向に連続的に搬送する工程と、搬送される上記導体を加熱する工程と、加熱された上記導体を冷却水への浸漬により冷却する工程と、上記冷却水の溶存酸素量を予め定められる設定範囲内に維持する工程とを備える。
【0021】
当該導体軟化処理方法は、本発明の導体軟化処理装置を用いるので、導体軟化処理装置の破損を抑止しつつ導体軟化処理装置のエネルギー効率を高められる。従って、当該導体軟化処理方法は、製造効率に優れる。
【0022】
ここで、「溶存酸素量」とは、JIS-K-0101:1998に準拠して測定される値である。「主成分」とは、最も含有量が多い成分をいい、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。また、「平均厚さ」とは、任意の10点で測定される厚さの平均値を指す。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る導体軟化処理装置及び導体軟化処理方法の実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0024】
〔導体軟化処理装置〕
図1に示す導体軟化処理装置は、線状の導体Cを連続的に加熱及び冷却する。この導体軟化処理装置は、導体Cをその軸方向に連続的に搬送する送り機構1と、この送り機構1により搬送される導体Cを加熱するヒーター2と、このヒーター2により加熱された導体Cを浸漬する冷却水Wを貯留する冷却槽3と、冷却槽3に貯留されている冷却水Wの溶存酸素量を予め定められる設定範囲内に維持する溶存酸素量調節機構4と、導体Cにエアーを吹き付けて表面に付着している水分を除去するエアーブロー5とを備える。
【0025】
<導体>
当該導体軟化処理装置において軟化処理される導体Cとしては、特に限定されないが、例えば銅線、銅合金線、錫めっき銅線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、鋼心アルミニウム線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミニウム線等が挙げられ、典型的には銅線とされる。導体Cの平均断面積としては、特に限定されないが、例えば0.01mm以上10mm以下とされる。また、導体Cの断面形状としては、特に限定されず、例えば円形状や長方形状とされる。
【0026】
<送り機構>
送り機構1は、導体Cが架け渡される複数のガイドシーブ(プーリー)を含み、導体Cを矢印Dで示す一定の方向に搬送するよう構成される。図1の送り機構1では、搬送方向の上流側から第1ガイドシーブ11、第2ガイドシーブ12及び第3ガイドシーブ13の3つのガイドシーブにより構成されている。上流側の第1ガイドシーブ11及び下流側の第3ガイドシーブ13が冷却槽3の上方に配設され、中間の第2ガイドシーブ12が冷却槽3の中に配設されることにより、送り機構1は、冷却槽3に貯留されている冷却水Wの中を通過させるよう導体Cを搬送する。好ましくは、送り機構1は、冷却槽3に貯留されている冷却水Wに鉛直方向下向きに進入するよう導体Cを搬送する。
【0027】
送り機構1による導体Cの搬送速度としては、特に限定されないが、例えば1m/min以上1000m/min以下、典型的には5m/min以上100m/min以下とされる。
【0028】
<ヒーター>
ヒーター2は、図1から図3に示すように、導体Cの搬送方向に延びる搬送管21と、上記搬送方向に沿って搬送管21内に埋設される複数の導電線22、遮熱板23及び磁性体24とを有する。
【0029】
(搬送管)
搬送管21は、導体Cを搬送するための空洞21aがその内部に形成されている。この空洞21aの中で、導体Cは加熱された後、冷却水Wによって冷却される。加熱状態の導体Cが冷却水Wに浸漬されると、冷却水Wが導体Cの熱を奪い取って水蒸気となる。このようにして空洞21aの中で発生した水蒸気は、空洞21a内を上昇し、空洞21a内に存在する酸素を含む空気を押し出す。これにより、加熱状態の導体Cへの酸素の供給が遮断され、導体Cの酸化が抑制される。
【0030】
搬送管21の内部に形成される空洞21aの横断面形状は、特に限定されないが、例えば図2に示すような方形状や円形状とすることができる。また、空洞21aは、搬送管21の横断面の略中央、つまり空洞21aの横断面(上記搬送方向に垂直な面)の中心Mが搬送管21の横断面の中心と一致するように配設されることが好ましい。なお、搬送管21の横断面と空洞21aの横断面とは相似形であってもよいが、異なる形状であってもよい。
【0031】
空洞21aはその内側を導体Cが搬送されるので、空洞21aの横断面は、少なくとも導体Cの最大横断面が包含できる大きさとされる。導体Cの最大横断面積に対する空洞21aの横断面積の比の下限としては、2倍が好ましく、4倍がより好ましい。一方、上記横断面積の比の上限としては、20倍が好ましく、10倍がより好ましい。上記横断面積の比が上記下限未満であると、導体Cが空洞21aの内壁に接触することにより導体Cが損傷したり軟化処理が不均一となったりするおそれがある。逆に、上記横断面積の比が上記上限を超えると、搬送管21内に埋設される複数の導電線22を導体Cに近接配置することが難しくなるため、導体Cの加熱効率が十分に高められないおそれがあるほか、水蒸気による酸素の排除が不十分となるおそれがある。なお、空洞21aは、例えば図2に示すように、その内壁の一部又は全部が搬送管21に埋設される遮熱板23等で構成されることがあるが、空洞21aの横断面積は、その構成要素に関わらず内壁で囲まれる空間の面積を指す。
【0032】
上記搬送方向に垂直な面内での空洞21aの中心における磁束方向(図2のS方向で、詳細は後述する)の磁性体間距離(図2のT1)は、磁束方向Sと直交する方向の磁性体間距離(図2のT2)より短いことが好ましい。このように上記搬送方向に垂直な面内での空洞21aの中心Mにおける磁束方向Sの磁性体間距離T1を、磁束方向Sと直交する方向の磁性体間距離T2より短くすることで、空洞21a内の磁場がより高められるので、導体Cの加熱効率をさらに高めることができる。
【0033】
空洞21aの長さ(空洞21aが形成されている搬送管21の長さ)としては、少なくとも導体Cの酸化し易い部分、つまり加熱状態である部分を空洞21aが取り囲むことができる長さとするとよい。つまり、空洞21aは、少なくとも下端が冷却水Wに浸漬され、上端は後述する導電線22の上端以上の高さに配置される。
【0034】
空洞21aの長さの下限としては、50mmが好ましく、100mmがより好ましい。一方、空洞21aの長さの上限としては、1500mmが好ましく、1000mmがより好ましい。空洞21aの長さが上記下限未満であると、導体Cが加熱状態となる位置における導体Cの雰囲気の酸素量を十分に低減できないおそれがある。逆に、空洞21aの長さが上記上限を超えると、当該導体軟化処理装置が不必要に大型化するおそれがある。
【0035】
上述のように空洞21aの下端(ヒーター2の下端)は、冷却槽3に貯留されている冷却水W内に位置するように構成される。空洞21aの下端の構成としては、図1では、導電線22、遮熱板23及び磁性体24を含まず搬送管21のみを下方に延長することによって空洞21aの下端を冷却水W内に位置させる構成であるが、空洞21aの下端の構成はこれに限定されるものではなく、他の構成であってもよい。この他の構成としては、例えば導電線22のみを含まず搬送管21、遮熱板23及び磁性体24を下方に延長することによって空洞21aの下端を冷却水W内に位置させる構成などを挙げることができる。導電線22の下端を冷却水W内に位置させることもできるが、加熱効率の観点から導電線22の下端は冷却水Wの液面より上に位置することが好ましい。
【0036】
上述の下端の構成としては、図1に示すように、導電線22、遮熱板23及び磁性体24を含まず搬送管21のみを下方に延長し、空洞21aの下端を冷却水W内に位置させる構成が好ましい。このような構成とする場合において、後述する導電線22の下端と冷却水Wの液面との距離の下限としては、0.01mが好ましく、0.05mがより好ましい。一方、導電線22の下端と冷却水Wの液面との距離の上限としては、1mが好ましく、0.7mがより好ましい。導体Cは、導電線22の下端より下方へ搬送された後も、ある程度温度が保たれ、焼鈍効果が持続する。その後、導体Cは、冷却水Wの液面下まで搬送され、急激に冷却される。このため、導電線22の下端と冷却水Wの液面との距離が上記下限未満であると、持続する焼鈍効果が減少し、加熱効率が低下するおそれがある。逆に、導電線22の下端と冷却水Wの液面との距離が上記上限を超えると、当該導体軟化処理装置が不必要に大型化するおそれがある。
【0037】
空洞21aの下端が冷却水Wに浸漬する部分の長さの下限としては、0.01mが好ましく、0.03mがより好ましい。一方、空洞21aの下端が冷却水Wに浸漬する部分の長さの上限としては、0.15mが好ましく、0.1mがより好ましい。空洞21aの下端が冷却水Wに浸漬する部分の長さが上記下限未満であると、導体Cの冷却水Wによる冷却により発生した水蒸気が空洞21aの外部に漏れ易くなり、導体Cの雰囲気の酸素量を十分に低減できないおそれがある。逆に、空洞21aの下端が冷却水Wに浸漬する部分の長さが上記上限を超えると、当該導体軟化処理装置が不必要に大型化するおそれがある。
【0038】
上述のように空洞21aの上端は導電線22の上端以上の高さに配置される。空洞21aの上端と導電線22の上端との差の下限としては、0.01mが好ましく、0.03mがより好ましい。一方、空洞21aの上端と導電線22の上端との差の上限としては、0.15mが好ましく、0.1mがより好ましい。空洞21aの上端と導電線22の上端との差が上記下限未満であると、導体Cが加熱状態となる位置における導体Cの雰囲気の酸素量を十分に低減できないおそれがある。逆に、空洞21aの上端と導電線22の上端との差が上記上限を超えると、当該導体軟化処理装置が不必要に大型化するおそれがある。
【0039】
搬送管21の主成分としては、耐熱樹脂が好ましい。このように搬送管21の主成分を導電性を有さない耐熱樹脂とすることで、導体Cの加熱効率を維持しつつ、搬送管21の破損抑止効果を高めることができる。また、搬送管21の耐熱効果をさらに高められるので、ヒーター2を高温となる導体Cからの熱に容易に耐え得るようにできる。
【0040】
上記耐熱樹脂としては、公知のエンジニアリングプラスチック、例えばポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン66、変性ポリフェニルエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等を挙げることができる。
【0041】
上記耐熱樹脂の連続使用温度(UL)の下限としては、120℃が好ましく、200℃がより好ましい。上記耐熱樹脂のULが上記下限未満であると、搬送管21の耐熱が不十分となるおそれがある。一方、上記耐熱樹脂の連続使用温度(UL)の上限は、特に限定されず、高いほどよい。なお、「連続使用温度」とは、UL規格のUL746Bに規定される温度である。
【0042】
上記耐熱樹脂の靭性の下限としては、1kJ/mが好ましく、3kJ/mがより好ましい。上記耐熱樹脂の靭性が上記下限未満であると、搬送管21の破損抑止効果が不足するおそれがある。一方、上記耐熱樹脂の靭性の上限としては、特に限定されず、高いほどよい。ここで、「靭性」とは、JIS-K-7111-1:2012に記載のシャルピー衝撃特性の求め方に基づいて求められる数値をいう。
【0043】
なお、搬送管21の厚さは、ヒーター2の強度を維持しつつ、ヒーター2が過度に大きくならない範囲で適宜決定できる。
【0044】
(導電線)
複数の導電線22は、交流を流すことで磁束密度の変化する磁場を発生させる。この磁場の変化により導体C内に渦電流が発生し、そのジュール損によって導体C自体が発熱する。複数の導電線22による導体Cの加熱温度としては、導体Cの材質等に応じて選択されるが、例えば300℃以上500℃以下とされる。
【0045】
導電線22の本数は、特に限定されないが、磁場を強め易い2本又は4本とすることが好ましい。導電線22の本数を2本とする場合、図2に示すように、導電線22は空洞21aの中心Mを中心として点対称位置に配設するとよい。また、導電線22の本数を4本とする場合、導電線22は、磁束方向Sの両側に2本ずつ磁束方向Sに沿って空洞21aの中心Mを中心として点対称となるように配設するとよい。以下、図2のように2本の導電線22が配設されている場合を例に説明するが、導電線22の本数や配設位置を限定するものではなく、導電線22の本数や配設位置が異なる場合であっても同様である。
【0046】
2本の導電線22は、空洞21aの上記搬送方向に垂直な面内の中心Mで磁場が強まるように配線されている。つまり、導電線22に加わる電圧は交流であるので、この交流電圧が正となった場合において、図2で空洞21aの中心Mの下側にある導電線22は紙面の下から上向きの電流が流れるように配線され、空洞21aの中心Mの上側にある導電線22は紙面の上から下向きの電流が流れるように配線されるとよい。このように配線を行うと、交流電圧が正となった場合に2本の導電線22の磁束が磁束方向Sの磁束を強める向きとなるので、空洞21aの中心Mで磁場が強まる。なお、上述の例では磁束方向Sを図2の右から左へ向かう向きに取ったが、逆に左から右へ向かう向きに取ることもできる。この場合は、上述とは逆に、空洞21aの中心Mの下側にある導電線22は紙面の上から下向きの電流が流れるように配線され、空洞21aの中心Mの上側にある導電線22は紙面の下から上向きの電流が流れるように配線される。
【0047】
導電線22は、電気の流れる導体部22aと、導体部22aの周囲を被覆する被覆部22bとを有することが好ましい。つまり、導電線22は絶縁被覆されていることが好ましい。このように導電線22を絶縁被覆することで、搬送管21を分割可能な構成とした場合においても搬送管21内部への水の浸入等により複数の導電線間で電気的な短絡が生じることを抑止できる。従って、当該導体軟化処理装置の破損をさらに抑止できる。なお、被覆部22bは、例えば耐熱性の樹脂チューブ等により構成することができる。
【0048】
導体Cの加熱の均一性の観点から、複数の導電線22は、同じ長さとすることが好ましい。導電線22の長さは、導体Cが十分加熱可能なように決定されるが、具体的な長さとしては、例えば10cm以上200cm以下とされる。
【0049】
導電線22の導体部22aは、熱くなり過ぎないようにするため、その内部に冷却水を通水可能な管状とするとよい。このように導体部22aを管状とする場合、導体部22aの太さは、細くなり過ぎて冷却水の圧損が増大しないように、また太くなり過ぎて加熱効率が低下しないように、適宜決定される。また、被覆部22bの平均厚さは導体部22aと外部との絶縁性が担保されるように適宜決定される。
【0050】
(遮熱板)
遮熱板23は、空洞21aを取り囲む。このように遮熱板23を、空洞21aを取り囲むように配設することで、空洞21aから外部へ熱が拡散することを抑止し、導体Cの加熱効率を高めることができる。
【0051】
遮熱板23の配設位置としては、加熱効率の向上効果の観点から、空洞21aに近いほど好ましく、導電線22より空洞21aに近い位置とすることがより好ましく、図2に示すように、空洞21aの側壁を構成する位置とすることがさらに好ましい。
【0052】
遮熱板23は絶縁性を有する。これにより、遮熱板23は、埋設されている導電線22に対し絶縁板としても機能し、複数の導電線22間で電気的な短絡が生じることを抑止できる。従って、当該導体軟化処理装置の破損がさらに抑止される。
【0053】
遮熱板23の平均厚さの下限としては、0.5mmが好ましく、0.7mmがより好ましい。一方、遮熱板23の平均厚さの上限としては、5mmが好ましく、3mmがより好ましい。遮熱板23の平均厚さが上記下限未満であると、遮熱効果が不足するおそれがある。逆に、遮熱板23の平均厚さが上記上限を超えると、導体Cの加熱効率を十分に高められないおそれがある。
【0054】
遮熱板23の連続使用温度(UL)の下限としては、350℃が好ましく、500℃がより好ましい。遮熱板23のULが上記下限未満であると、遮熱効果が不足するおそれがある。一方、遮熱板23の連続使用温度(UL)の上限は、特に限定されず、高いほどよい。
【0055】
遮熱板23の靭性の下限としては、0.5kJ/mが好ましく、1kJ/mがより好ましい。遮熱板23の靭性が上記下限未満であると、遮熱板23が破損し易くなるおそれがある。一方、遮熱板23の靭性の上限としては、特に限定されず、高いほどよい。
【0056】
(磁性体)
磁性体24は、空洞21aを取り囲む。磁性体24は、導電線22により誘起される磁場を強め、導体Cの加熱を促進する。具体的には、図2に示すように、磁束方向Sに平行な1対の磁性体24及び磁束方向に垂直な1対の磁性体24の合計4つの磁性体24により空洞21aが取り囲まれている。このようにヒーター2を、空洞21aを取り囲む磁性体24を有する構成とすることで、空洞21aの磁場がより高められるので、導体Cの加熱効率をさらに高めることができる。
【0057】
磁性体24の材料としては、特に限定されず、公知のフェライト等の材料を用いることができる。
【0058】
磁性体24の個々の横断面形状は、特に限定されないが、例えば方形状(正方形状又は長方形状)などとできる。磁性体24の横断面の全体の大きさ(図2では4つの磁性体24を合計した大きさ)は、導体Cを十分に加熱できるように導体Cの材質等に応じて適宜決定される。
【0059】
磁性体24は、図2に示すように、4つの磁性体24で取り囲まれる空間内に導電体22が位置するように配設することが好ましい。このように磁性体24を配設することで、磁性体24による導体Cの加熱効率向上効果を維持しつつ、導電線22を空洞21aに近づけられるので、導体Cの加熱効率がさらに高まる。
【0060】
(搬送管の分割)
搬送管21は、空洞21aを開放するように分割可能に構成される。この分割により、空洞21aの一部が、上記搬送方向に沿って外部へ開放される。このように搬送管21を、空洞21aを開放するように分割可能に構成することで、空洞21aへの導体Cの挿通を容易化できるほか、空洞21a内の状態確認や清掃を容易化できる。
【0061】
空洞21aの開放される部分の幅(上記搬送方向に垂直な方向の長さ)は、少なくとも導体Cを空洞21aに出し入れ可能な大きさとされ、空洞21a内の清掃等のメインテナンス性を考慮すれば空洞21aの最大幅とすることが好ましい。例えば、横断面が図2に示すような方形状の空洞21aを有する搬送管21であれば、図3に示すような姿勢に分割されることが好ましい。具体的には、上記搬送方向に垂直な面において、磁束方向Sと直交する空洞21aの内壁面の1つを含み、かつ複数の導電線22を含まない位置を通るような折れ線で、上記搬送方向に沿って切断される2つの部分に分割するとよい。
【0062】
分割可能に構成される搬送管21の開閉方法は、閉じた状態で気密性を確保できる限り特に限定されないが、例えば耐熱ゴム等を材料とするシール材を用いる方法や、本体部と分割部とに係合機構を設ける方法などを挙げることができる。
【0063】
<冷却槽>
冷却槽3は、冷却水Wを貯留する上部が開放した水槽である。この冷却槽3は、ヒーター2に貫通される穴が形成された蓋体31により上部が封止されている。また、冷却槽3は、冷却水Wの水位を予定範囲に保つオーバーフロー機構32を有する。
【0064】
この冷却槽3の容量としては、特に限定されず、第2ガイドシーブ12の大きさ等に応じて選択される。冷却槽3を構成する材料としては、例えば金属、樹脂、ガラス等の一種又は複数種の組合せが用いられる。
【0065】
(冷却水)
冷却水Wは、冷却槽3内にヒーター2の下端(空洞21aの下端)を浸漬するよう貯留される。
【0066】
冷却槽3における導体Cの浸漬深さ、つまり冷却水Wの液面から冷却槽3内の第2ガイドシーブ12の下端までの垂直距離としては、導体Cの横断面積や搬送速度に応じて導体Cを十分に冷却できる深さとされる。
【0067】
(蓋体)
蓋体31は、冷却槽3への空気の出入りを制限するが、冷却槽3内の圧力を大気圧と異ならせるほどの気密性は有しない。この蓋体31を構成する材料としては、例えば金属、樹脂、ガラス等の一種又は複数種の組合せが用いられる。
【0068】
(オーバーフロー機構)
オーバーフロー機構32は、冷却槽3の水位が一定の高さ以上とならないよう、冷却水Wをオーバーフローさせる。当該導体軟化処理装置では、冷却槽3内の冷却水Wに雰囲気中の酸素が溶け込んで溶存酸素量が上昇すると、冷却槽3に後述する溶存酸素量調節機構4から溶存酸素量の小さい新しい冷却水Wが供給される。当該導体軟化処理装置は、このオーバーフロー機構32を有することにより、新しい冷却水Wが供給された際、古い冷却水Wを優先的にオーバーフローさせることで、冷却槽3内の冷却水Wの溶存酸素量を設定範囲内に維持することができる。
【0069】
このオーバーフロー機構32としては、冷却槽3の側壁に開口するパイプ等が用いられる。オーバーフロー機構32は、図1に示すように、冷却槽3の内部空間と外部との間をオーバーフローした冷却水Wによって隔離するトラップ32aを有してもよい。
【0070】
<溶存酸素量調節機構>
溶存酸素量調節機構4は、冷却槽3に新しい冷却水Wを供給する供給部41と、冷却槽3に貯留されている冷却水Wの溶存酸素量を測定する溶存酸素量検出部42と、この溶存酸素量検出部42の検出値に基づいて供給部41の冷却水供給量を制御する制御部43と、供給部41が供給する冷却水Wの溶存酸素量を低減する脱酸素部44とを有する。
【0071】
この溶存酸素量調節機構4は、例えば溶存酸素量検出部42が冷却槽3に貯留されている冷却水Wの溶存酸素量を検出し、その検出値が予め設定される設定範囲の上限値を超えたとき、脱酸素部44により溶存酸素量を低減した新しい冷却水Wが供給部41から冷却槽3へ供給される。また、溶存酸素量調節機構4は、溶存酸素量検出部42の検出値が上記設定範囲の下限値未満となったとき、供給部41から冷却槽3への新しい冷却水Wの供給を停止する。これにより、冷却槽3に貯留されている冷却水Wの溶存酸素量は上記設定範囲内に維持される。また、溶存酸素量検出部42の検出値が上記設定範囲内の代表値となるよう、冷却水Wの供給量を調整してもよい。
【0072】
冷却槽3内の冷却水Wの溶存酸素量の上記設定範囲の下限値としては、0.1mg/Lが好ましく、0.3mg/Lがより好ましい。一方、上記設定範囲の上限値としては、6mg/Lが好ましく、3mg/Lがより好ましく、2mg/Lがさらに好ましく、1mg/Lが特に好ましい。冷却槽3内の冷却水Wの溶存酸素量を上記設定範囲の下限値に満たないようにするためには、大きな設備コスト及びランニングコストが必要となり、不経済となるおそれや、中途半端に酸化被膜が形成されることにより導体Cの表面の密着性が低くなるおそれがある。逆に、冷却槽3内の冷却水Wの溶存酸素量が上記上限を超えると、導体Cの酸化を十分に抑制できないおそれがある。つまり、冷却槽3内の冷却水Wの溶存酸素量は、大気開放状態の水の溶存酸素量より低い値に維持されることが好ましいが、小さければ小さいほど軟化処理後の導体C表面の密着性を向上できるというわけではない。従って、冷却槽3内の冷却水Wの溶存酸素量を上述の好ましい範囲内に維持することで軟化処理後の導体Cの表面の密着性を最大化することができる。なお、オペレーション及び制御上の問題がなければ、上記設定範囲の下限値は0mg/Lであってもよい。この場合、冷却槽3内の冷却水Wの溶存酸素量は、予め設定される設定値(上記設定範囲の上限に相当)以下でありさえすればよい。また、上記設定範囲の下限値は上限値と同じであってもよい。つまり、冷却槽3内の冷却水Wの溶存酸素量は、溶存酸素量調節機構4によって、設定値からの差が極力小さくなるよう調節されてもよい。
【0073】
(供給部)
供給部41は、冷却槽3に新たな冷却水Wを供給する配管から形成され、冷却槽3に供給される冷却水Wの流量を調整する調整弁45を有する。
【0074】
供給部41が冷却水Wを供給する冷却槽3内の位置は、冷却槽3のオーバーフロー機構32から離れた位置とすることが好ましい。この配置により、供給部41から溶存酸素量が小さい新しい冷却水Wを供給することで、溶存酸素量が増加した古い冷却水Wがオーバーフローし、冷却槽3内の冷却水W全体として、溶存酸素量を減少させられる。
【0075】
さらに、供給部41は、冷却槽3に貯留する冷却水Wの中に開口する配管を介して新しい冷却水Wを供給することが好ましい。このように新しい冷却水Wを冷却槽3の内部に供給することにより、冷却水Wの液面の撹拌により液面上の空間に存在する酸素が冷却水Wに溶け込むことを防止できる。
【0076】
(溶存酸素量検出部)
溶存酸素量検出部42は、冷却槽3内に貯留されている冷却水Wの溶存酸素量を検出し、検出信号として制御部43に送信する。この溶存酸素量検出部42としては、例えばJIS-K-0803:1995に準拠した溶存酸素自動計測器を用いることができる。
【0077】
溶存酸素量検出部42の配設位置としては、供給部41から新しい冷却水Wが供給されることにより他の部分より溶存酸素量が小さくなり得る位置を避けることが好ましく、導体Cの酸化抑制に寄与する冷却水Wの溶存酸素量を測定できる位置、つまり導体Cが冷却水Wに進入する位置の近傍がより好ましい。
【0078】
(制御部)
制御部43は、溶存酸素量検出部42の検出値を予め定められる設定範囲内に維持するよう供給部41の調整弁45の開度を調節することにより、供給部41の冷却槽3への新しい冷却水Wの供給量を制御する。
【0079】
制御部43は、例えば汎用コンピューター、PIDコントローラー、シーケンサー等で構成することができる。また、その制御方法としては、例えばPID制御、比例制御、オンオフ制御、ファジィ(メンバーシップ関数)制御等が適用できる。
【0080】
(脱酸素部)
脱酸素部44は、例えば化学的脱酸素器、加熱脱酸素器、真空脱酸素器、逆浸透膜脱酸素器、窒素脱酸素器等によって構成される。
【0081】
上記化学的脱酸素器は、補給水に脱酸素剤を添加することで、化学反応により酸素を除去するものである。上記脱酸素剤としては、例えばヒドラジン、亜硫酸ナトリウム、天然有機化合物等が挙げられる。
【0082】
上記加熱脱酸素器は、補給水を加熱して沸騰させることによって溶存酸素を除去するものである。補給水を沸騰させる方法としては、補給水をヒーターで加熱する方法や補給水に蒸気を導入する方法等が挙げられる。
【0083】
上記真空脱酸素器は、補給水を減圧することによって溶存酸素を除去するものである。溶存酸素の脱気を促進するため、補給水を噴霧してもよい。
【0084】
上記逆浸透膜脱酸素器は、酸素の透過を阻止する逆浸透膜を用いて、水を濾過することで溶存酸素量の小さい水を得るものである。
【0085】
上記窒素脱酸素器は、補給水に窒素ガスを気液接触させ、補給水中の溶存酸素を分圧の差により窒素ガス側に移動させるものである。
【0086】
以上のような脱酸素部44により補給水から酸素を除去して得られる新しい冷却水Wの溶存酸素量の下限としては、0.05mg/Lが好ましく、0.1mg/Lがより好ましい。一方、上記新しい冷却水Wの溶存酸素量の上限としては、2mg/Lが好ましく、1mg/Lがより好ましい。上記新しい冷却水Wの溶存酸素量を上記下限に満たないようにするためには、大きな設備コスト及びランニングコストが必要となり、不経済となるおそれがある。逆に、上記新しい冷却水Wの溶存酸素量が上記上限を超えると、冷却槽3内の冷却水Wの溶存酸素量を十分低減することができないおそれがある。
【0087】
<エアーブロー>
エアーブロー5は、冷却槽3から出てきた導体Cの表面に空気を吹き付けることにより、導体Cの表面に付着した水滴を払い落とす非接触式のワイパーである。このエアーブロー5は、導体Cの表面に吹き付けた空気が蓋体31の穴から冷却槽3の内部に入り込み易くならないよう、吹き付け方向や蓋体31からの離間距離を設定することが好ましい。
【0088】
<利点>
当該導体軟化処理装置は、溶存酸素量が予め定められる設定範囲内の冷却水Wに加熱後の導体Cを浸漬することによって、加熱状態から冷却される導体Cの周囲の酸素量を低減して、導体Cの酸化を抑制することができる。また、当該導体軟化処理装置のヒーター2では、導体Cを搬送するための空洞21aが搬送管21の内部に形成され、さらに導体Cを加熱する磁場を発生する導電線22が導体Cの搬送方向に沿って搬送管21内に埋設されている。このため、当該導体軟化処理装置のヒーター2は、導電線22を導体Cに近づけて加熱効率を向上した構成としても搬送管21の肉厚を薄くする必要がないので、搬送管21の破損が抑止される。従って、当該導体軟化処理は、装置の破損を抑止しつつ、導体Cの加熱効率を高められる。
【0089】
[導体軟化処理方法]
本発明の一態様に係る導体軟化処理方法は、線状の導体Cを連続的に加熱及び冷却する導体軟化処理方法である。当該導体軟化処理方法は、図1の当該導体軟化装置を用いて行う。
【0090】
当該導体軟化処理方法は、導体Cをその軸方向に連続的に搬送する工程と、搬送される導体Cを加熱する工程と、加熱された導体Cを冷却水Wへの浸漬により冷却する工程と、冷却水Wの溶存酸素量を予め定められる設定範囲内に維持する工程とを備える。
【0091】
<搬送工程>
上記搬送工程は、図1の当該導体軟化装置の送り機構1を用いて行うことができる。従って、搬送速度等の搬送条件は、図1の当該導体軟化装置について説明したものと同様である。
【0092】
なお、導体Cが断面形状が長方形状である平角導体である場合、導体Cの断面の長辺が磁束方向Sに対して垂直となるように導体Cを搬送するとよい。このように搬送することで、導体Cを効率的に加熱することができる。
【0093】
<加熱工程>
上記加熱工程は、図1の当該導体軟化装置のヒーター2を用いて行うことができる。従って、加熱条件は、図1の当該導体軟化装置について説明したものと同様である。
【0094】
<冷却工程>
上記冷却工程は、図1の当該導体軟化装置の冷却槽3に貯留した冷却水Wに導体Cを浸漬することにより行うことができる。
【0095】
<維持工程>
上記維持工程は、図1の当該導体軟化装置の溶存酸素量調節機構4を用いて行うことができる。従って、冷却水Wの条件等は、図1の当該導体軟化装置について説明したものと同様である。
【0096】
<利点>
当該導体軟化処理方法は、本発明の導体軟化処理装置を用いるので、導体軟化処理装置の破損を抑止しつつ導体軟化処理装置のエネルギー効率を高められる。従って、当該導体軟化処理方法は、製造効率に優れる。
【0097】
〔絶縁電線の製造方法〕
続いて、当該導体軟方法を用いた絶縁電線の製造方法について説明する。絶縁電線は、当該導体軟化処理方法により導体を軟化処理する工程と、軟化した導体の表面に絶縁塗料(ワニス)を塗布する工程と、加熱により導体の表面に塗布した絶縁塗料を焼き付ける工程とを備える方法により製造される。
【0098】
<軟化処理工程>
上記軟化処理工程は、上述の当該導体軟化処理方法に従って行われる。
【0099】
<塗布工程>
上記塗布工程では、絶縁塗料を貯留する塗布槽に導体Cを貫通させ、導体Cの表面に付着する絶縁塗料をダイスにより一定の厚さに調整する。
【0100】
絶縁塗料の主成分としては、絶縁性及び耐熱性が高い樹脂であればよく、例えばポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等が挙げられる。また絶縁塗料は、例えばN-メチル-2-ピロリドン、クレゾール等の溶剤を含むことができる。
【0101】
上記ダイスとしては、内面が円錐面状に形成され、楔膜効果により導体Cを自動的に調心して、周方向に膜厚を一定にする効果を有する公知のダイスが使用される。
【0102】
<焼付工程>
上記焼付工程では、表面に絶縁塗料が塗布された導体を加熱することにより、絶縁塗料を硬化させる。絶縁塗料が溶剤を含む場合には、まず樹脂成分の硬化温度未満の温度で溶剤を揮発させ、次に樹脂成分を硬化させる温度に昇温することで、気泡のない絶縁被覆を形成することができる。
【0103】
加熱方法としては、例えば電磁誘導により導体を発熱させる誘導加熱、ヒーターの輻射熱で絶縁塗料を加熱する輻射加熱、熱風を循環させて絶縁塗料を加熱する熱風加熱等を採用することができる。
【0104】
<利点>
上記絶縁電線の製造方法は、当該導体軟化処理方法により導体Cを軟化させてから絶縁被覆を形成するので、導体Cが酸化せず、柔軟性及び導電率が高い絶縁電線を製造することができる。
【0105】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0106】
上記実施形態では、導体軟化処理装置として、ヒーターが空洞を取り囲む遮熱板を有する構成を説明したが、遮熱板は上記空洞を取り囲まなくともよい。例えば遮熱板が空洞の一部に沿って搬送管内に埋設されていても、加熱効率の向上に対して一定の効果を奏する。さらに、遮熱板を省略した構成も本発明の意図するところである。
【0107】
上記実施形態では、合計4つの磁性体により空洞が取り囲まれている場合を説明したが、空洞を取り囲む磁性体は4つに限定されるものではなく、例えば1つの磁性体で空洞を取り囲んでもよい。このように1つの磁性体で空洞を取り囲む構成とすることで、特に変形に対する強度を向上できるので、搬送管の破損の抑止効果をさらに高めることができる。なお、1つの磁性体で空洞を取り囲む場合、搬送管は磁性体のみで構成されてもよい。
【0108】
上記実施形態では、導体軟化処理装置として、遮熱板、磁性体及び導電線が独立して搬送管に埋設されている場合について説明したが、例えば導電線は遮熱板や磁性体に埋設された構成とすることもできる。
【0109】
上記実施形態では、導体軟化処理装置として、搬送管が、内部に形成された空洞を開放するように分割可能に構成される場合を説明したが、搬送管が分割可能である構成は必須ではなく、分割できない搬送管で構成される導体軟化処理装置も本発明の意図するところである。
【0110】
上記実施形態では、導電線が絶縁被覆されている場合を説明したが、これは必須の構成要件ではなく、導電線は絶縁被覆されていなくともよい。例えば導電線が遮熱板内に埋設されている場合においては、遮熱板により絶縁を図ってもよい。
【0111】
当該導体軟化処理装置において、供給部を省略してもよい。冷却槽が十分大きければ、供給部から新しい冷却水を供給しなくても冷却槽中の冷却水の溶存酸素量を一定時間低く保つことができる。
【0112】
当該導体軟化処理装置において、オーバーフロー機構を省略してもよい。新しい冷却水を過剰供給しない場合には、冷却槽から冷却水を排出する必要がなく、冷却槽から冷却水を排出する場合にも、冷却槽の下部に排出流路を形成したり、吸引ポンプで冷却水を引き抜いたりする等、他の手段を用いてもよい。
【0113】
当該導体軟化処理装置において、供給部に替わる溶存酸素量調整機構として、冷却槽に脱酸素部を設けてもよい。例えば、冷却槽に脱酸素剤を供給する装置や窒素ガスを供給する装置を配設することで、冷却槽に貯留する冷却水の溶存酸素量を低く保つことができる。溶存酸素量調整機構は、制御部によって自動で制御されるものだけでなく、オペレーターが操作するものであってもよい。また、冷却槽に予め脱酸素剤を過剰投入しておくことでも、溶存酸素量を一定時間低く維持することができる。
【0114】
当該導体軟化処理装置において、液面から冷却水に溶け込む酸素量が少ない場合等においては、冷却槽の蓋を省略してもよい。
【0115】
また、液面から冷却水に溶け込む酸素量を低減するために、冷却槽の形状を液面の面積が小さくなるように設計してもよい。
【0116】
さらに、当該導体軟化処理装置において、エアーブローを省略してもよい。
【実施例
【0117】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0118】
[No.1]
図1の導体軟化処理装置に準じる構成の装置を用いて、導体としての硬銅線を軟化する試験を行った。
【0119】
No.1において、ヒーターは、導体の搬送方向に延び、上記導体を搬送するための空洞がその内部に形成されているガラス管を用い、このガラス管の外部に上記空洞を挟んで対向するように2本の導電線を配置した構成とした。なお、No.1においてヒーターは磁性体を有しない構成とし、導電線の長さ(導体の搬送方向の長さ)は10cmとした。また、導電線は上記空洞の上記搬送方向に垂直な面内の中心で磁場が強まるように配線されている。
【0120】
導体は平角銅線(横断面が直径3mmの円と同等の面積を有する長方形状)であり、導体の搬送速度は15m/minとした。また、ヒーターによる加熱速度は100℃/秒となるように供給電力量を調整し、導体を300℃まで加熱した。このときの加熱効率を表1に示す。
【0121】
また、表1に示すように、No.1の装置を用いて10回の導体の軟化処理試験を行ったところ、そのうちの3回においてヒーターの破損が確認された。
【0122】
[No.2]
No.2では、ヒーターが一対の磁性体を有する構成とした。No.2では、このヒーターの構成以外は、No.1と同様の構成とした。なお、一対の磁性体は、各導電線を挟んで空洞と反対側にそれぞれ配置した。つまり、磁束方向は開放されており(磁性体間距離T1が無限大)、空洞の中心における磁束方向の磁性体間距離T1が、磁束方向と直交する方向の磁性体間距離T2より長い。
【0123】
上記導体軟化処理装置を用いて、No.1と同様の条件で導体の加熱を行った。このときの加熱効率を表1に示す。
【0124】
また、表1に示すように、No.2の装置を用いて20回の導体の軟化処理試験を行ったところ、そのうちの5回においてヒーターの破損が確認された。
【0125】
[No.3]
No.3では、ヒーターは、導体の搬送方向に延び、上記導体を搬送するための空洞がその内部に形成されている搬送管を用い、この搬送管内に2本の導電線及び4つの磁性体が、図2に示すように埋設された構成とした。空洞の中心における磁束方向の磁性体間距離T1を、磁束方向と直交する方向の磁性体間距離T2より短くした。なお、搬送管は、耐熱樹脂を主成分とし、導電線の長さは10cmとした。
【0126】
上記導体軟化処理装置を用いて、No.1と同様の条件で導体の加熱を行った。このときの加熱効率を表1に示す。
【0127】
また、表1に示すように、No.3の装置を用いて35回の導体の軟化処理試験を行ったところ、ヒーターの破損は確認されなかった。
【0128】
【表1】
【0129】
表1で、「加熱効率」とは、導体の単位長当たりに対し、導体の温度上昇に比熱を乗じた値を投入電力量で除した値をいう。
【0130】
表1から、導電線を搬送管内に埋設したヒーターを用いたNo.3の導体軟化処理装置は、導電線が埋設されていないNo.1やNo.2の導体軟化処理装置に比べてヒーターの破損が発生し難いことがわかる。このことから、導電線を導体の搬送方向に沿って搬送管内に埋設することで、搬送管の破損が抑止できるといえる。
【0131】
また、ヒーターが磁性体を有するNo.2及びNo.3の導体軟化処理装置は、磁性体を有しないNo.1の導体軟化処理装置よりも加熱効率が高い。このことから、磁性体を有するヒーターを用いることで導体の加熱効率をさらに高めることができるといえる。
【0132】
さらに、空洞の中心における磁束方向の磁性体間距離T1を、磁束方向と直交する方向の磁性体間距離T2より短いNo.3の導体軟化処理装置は、上記T1が上記T2より長いNo.2の導体軟化処理装置よりも加熱効率が高い。このことから、搬送方向に垂直な面内での空洞の中心における磁束方向の磁性体間距離を、磁束方向と直交する方向の磁性体間距離より短くすることで、導体の加熱効率をさらに高めることができるといえる。
【符号の説明】
【0133】
1 送り機構
11 第1ガイドシーブ
12 第2ガイドシーブ
13 第3ガイドシーブ
2 ヒーター
21 搬送管
21a 空洞
22 導電線
22a 導体部
22b 被覆部
23 遮熱板
24 磁性体
3 冷却槽
31 蓋体
32 オーバーフロー機構
32a トラップ
4 溶存酸素量調節機構
41 供給部
42 溶存酸素量検出部
43 制御部
44 脱酸素部
45 調整弁
5 エアーブロー
C 導体
M 空洞の中心
W 冷却水
図1
図2
図3