(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】スポット予熱
(51)【国際特許分類】
B22F 10/362 20210101AFI20230627BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230627BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20230627BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20230627BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20230627BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230627BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20230627BHJP
【FI】
B22F10/362
B22F10/28
B29C64/153
B29C64/268
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2021534186
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2020052167
(87)【国際公開番号】W WO2020157133
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-10
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520420584
【氏名又は名称】フリーメルト エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユングブラード、ウルリック
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-544501(JP,A)
【文献】特開2019-007065(JP,A)
【文献】特表2018-523011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源からの電子ビームで粉末床を照射することにより、
前記粉末床の最も上の粉末層の領域が融合または融解される前に、前記粉末床を
予熱するための加熱の方法であって、前記電子源が、前記電子ビームを、前記粉末床における異なる加熱位置に高速移動させるように設計され、
前記加熱の方法が、
少なくとも2つの粉末床加熱位置にて前記電子ビームを連続して静止させることにより、前記少なくとも2つの粉末床加熱位置を局所加熱する段階
を備える方法。
【請求項2】
前記粉末床の選択された領域が、前記選択された粉末床領域上で熱を分散するように、前記粉末床における幾つかの粉末床加熱位置で加熱される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記幾つかの粉末床加熱位置が、前記電子ビームにより直近で加熱される位置同士の距離を
50mmより離隔した最小限に維持するためのパターンを形成する、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
連続する2つの粉末床加熱位置の間の距離が、スポットサイズの5倍より大きい、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記粉末床の選択された領域が、前記選択された粉末床領域上で熱を分散するように、繰り返し加熱される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記粉末床の選択された領域が、前記選択された粉末床領域上で熱を均等に分散するように、前記粉末床における幾つかの粉末床加熱位置で加熱される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
連続する粉末床加熱位置のそれぞれが、予め蓄積される電子ビームエネルギーの関数である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
複数の粉末床加熱位置のパターンが、1つの粉末床加熱位置が繰り返し加熱されるまでの時間を最小限に維持するように、前記粉末床に提供される、
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1つの粉末床加熱位置にて静止する時間が、0.01msより長い、
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
1つの粉末床加熱位置にて静止する時間が、0.1msより長い、
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記粉末床加熱位置が、粉末床平面内の座標である、
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記粉末床が、粉末床プロセス温度を維持するために、電子源からの電子ビームで照射される、
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記加熱の方法は、3次元オブジェクトの付加製造に使用される、
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
連続する加熱位置の位置設定が、ランダムに選択される、
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記連続する加熱位置の位置設定を決定するために、時間
に依存
した最小二乗適合関数が使用される、
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記連続する加熱位置の位置設定が、ランダムに選択され、前記位置設定の確率が、時間
に依存
した2次元ガウス分布または2次元双曲線分布により決定される、
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームにより粉末材料を層ごとに融合させることで3次元オブジェクトを製造する際に、電子源からの電子ビームで、粉末床を照射することで、後続の処理のために上記粉末層を粉末床にて加熱および準備する方法に関する。
【0002】
電子ビーム粉末床融合に基づく付加製造システム(additive manufacturing system)では、最初に粉末床を予熱して、後続の融合段階および固化段階のための適切なプロセス状態を準備しておくことが通常望まれる。電子ビームが製造プロセス中に粉末床に作用すると、多数の電子が、粉末床中の粉末粒子を帯電させることになる。粉末床の電気伝導度が低すぎて、電子ビームにより誘起されたこのような電荷を消散させることができない場合、粉末床が、粉末粒子間の反発し合う静電力が重力を超えるような臨界点まで電荷を蓄積することになり、これにより、粉末粒子が粉末床から浮上する。浮上した帯電粉末粒子は、他の浮上した帯電粉末粒子と反発することになるので、粉末の塵が、瞬時に製造チャンバ中で広がることになる。この現象により通常は、付加製造プロセスが途中で失敗および終了されることになる。この製造プロセスは、粉末の加熱または予熱および粉末の融合を通常は含み、粉末を予熱することの主な目的は、電気伝導および熱伝導を増大させるために、部分的に焼結された粉末床を実現することである。さらに、この部分的に焼結された粉末床は、帯電粉末の浮上および拡散に、より良好に抗することになる。従来技術での粉末床の予熱では、通常、粉末床上で電子ビームスポットを一定の速度で続けて移動させることで、粉末床上で電子ビームが走査されるので、加熱跡または加熱軌跡が、粉末床に作られる。これに対して、本発明は、粉末床をスポットごとに加熱する方法を開示する。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、電子源からの電子ビームで、粉末床を照射することで、後続の処理のために上記粉末床を準備する加熱方法に関する。上記電子源は、上記電子ビームを、上記粉末床における異なる加熱位置に高速移動させるように設計される。本加熱方法は、少なくとも2つの粉末床加熱位置にて上記電子ビームを連続して静止させることにより、上記少なくとも2つの粉末床加熱位置を局所加熱する段階を備える。
【0004】
実施形態では、上記粉末床の選択された領域が、上記選択された粉末床領域上で熱を分散するように、上記粉末床におけるいくつかの粉末床加熱位置で加熱され得る。
【0005】
実施形態では、上記いくつかの粉末床加熱位置が、上記電子ビームにより直近で加熱される位置同士の距離を最小限に維持するためのパターンを形成する。
【0006】
実施形態では、連続する2つの粉末床加熱位置の間の距離が、スポットサイズの5倍より大きくあり得る。
【0007】
実施形態では、上記粉末床の選択された領域が、上記選択された粉末床領域上で熱を分散するように、繰り返し加熱され得る。
【0008】
実施形態では、上記粉末床の選択された領域が、上記選択された粉末床領域上で熱を均等に分散するように、上記粉末床におけるいくつかの粉末床加熱位置で加熱される。
【0009】
実施形態では、連続する粉末床加熱位置のそれぞれが、予め蓄積される電子ビームエネルギーの関数であり得る。
【0010】
実施形態では、複数の粉末床加熱位置のパターンが、1つの粉末床加熱位置が繰り返し加熱されるまでの時間を最小限に維持するように、上記粉末床に提供される。
【0011】
実施形態では、1つの粉末床加熱位置にて静止する時間が、1msより長いこと、もしくは、0.1msより長いこともあり、または、0.01msより長いことが好ましいこともある。
【0012】
実施形態では、上記粉末床加熱位置が、粉末床平面内の座標である。
【0013】
実施形態では、上記粉末床が、粉末床プロセス温度を維持するために、電子源からの電子ビームで照射され得る。
【0014】
実施形態では、上記加熱方法が、好ましくは、3次元オブジェクトの付加製造に使用される。
【0015】
実施形態では、連続する加熱位置の位置設定が、ランダムに選択され得る。
【0016】
実施形態では、連続する加熱位置の位置設定を決定するために、時間依存的数学関数が使用され得る。
【0017】
実施形態では、連続する加熱位置の位置設定が、ランダムに選択され得、上記位置設定の確率が、時間依存的数学関数により決定され得る。
【0018】
本発明の範囲は、特許請求の範囲により規定され、特許請求の範囲を参照により本文書に組み入れる。以下での1つまたは複数の実施形態の詳細な説明を考慮することにより、本発明の実施形態のより完全な理解、ならびに、それら実施形態の更なる利点の実現が当業者に付与されることになる。添付の図面を参照ことになるが、最初に、それらについて簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の説明では、以下の図面を参照する。
【
図1】粉末床内の層に粉末材料層を接合することにより、3次元オブジェクトを作製するための付加製造システムの模式断面図である。
【
図2】連続する時刻(t=0、t
1、t
2等)に、パターンに従って電子ビーム加熱位置を加熱した粉末床面の図である。
【
図3】連続する時刻(t=0、t
1、t
2等)に、電子ビーム加熱位置をランダムに加熱した粉末床面の図である。
【
図4】電子加熱位置からの、粉末床における時間依存的熱影響エリア(x,y)を伴うグラフを示す図であり、ただし、Tは温度である。
【
図5】電子加熱位置からの、粉末床における時間依存的熱影響エリア(x,y)を伴うグラフを示す図であり、ただし、Pは、電子ビームによる局所充電電位である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
付加製造および3D印刷は、層ごとに粉末材料を接合することにより、3Dモデルデータからオブジェクトを製造するプロセスのことである。粉末床融合は、オブジェクトが粉末床内に構築される付加製造または3D印刷を意味する。粉末分散器で、薄い粉末層を粉末床103上で繰り返し広げ、エネルギー源102からのビーム101により融合させて、各層について、予め決められた幾何形状にする。エネルギー源102は、例えば、レーザまたは電子銃とすることが可能である。粉末床融合プロセスが終了すると、融合されたオブジェクト104が、粉末内に埋設される。構築の完了の後、粉末が取り除かれる。本願出願人の出願SE1951071ー8(同時係属)およびWO2019185642A1(公開済)でも、本技術および付加製造についてより多く説明されている。これら出願を参照により本明細書に組み入れる。
【0021】
電子ビーム粉末床の融合は、真空で起こり、電子ビームは、いくつかのプロセス段階にて動作し得る。すなわち、電子ビームは、粉末層を部分的焼結状態になるように予熱することができ、粉末層中の粉末を融解または凝固させることにより粉末を融合させることができ、粉末床の予め決められた温度を構築中に維持するように、粉末床に更なる熱を加えることができる。これらのプロセス段階は、製造オブジェクトの予め決められた品質要件を実現するために、コンピュータ制御の元で実行される。
【0022】
粉末床位置201が、粉末床平面204内の座標として定義され、その位置は、粉末床平面中に(x,y)座標を有する点またはスポットである。位置201は、電子ビームを走査または移動させることなく加熱することが可能である。さらに、「エリア」を、均一な加熱を実現するために、電子ビームのいくらかの走査または移動を必要とする、粉末床の小さな面と定義する。「領域」205を、粉末床の加熱するべき微細部分と定義する。さらに、「小領域」203を、領域205のうちの、エリアより大きい部分と定義する。したがって、これらの定義のサイズは、位置<エリア<小領域<領域となり、エリアは、小さな表面部であり、領域は、大きな表面部である。
【0023】
本発明の目的は、粉末床を電子ビームで加熱する方法を提供することである。付加製造システムでは、粉末床の最も上の粉末層の領域が融合または融解される前に、制御されたやり方で粉末床を予熱することが望まれる。粉末床を予熱することにより、プロセス温度を実現することが可能であり、これにより、凝固された材料を実現するための後続の融合段階にて、粉末床に向けて照射する必要のあるエネルギーが少なくなるという利点がもたらされる。予熱を行う他の理由は、粉末粒子からの表面酸化物を溶かすことである場合もある。粉末床を予熱することにより、粉末を、部分的に焼結させて電気伝導度を増大させることが可能であり、これは、製造プロセスの現行の予熱段階と、その結果である融合段階との両方で、粉末床からの電子の移動を改善するのに有利である。粉末床を予熱することにより、電気伝導度が増大する。粉末床を予熱することにより、熱伝導度を増大させて、後続のプロセス段階での粉末の融合をより効率が良いものにすることも可能である。粉末床が部分的に焼結されると、粉末床中での電気伝導の増大に起因して、粉末が静電的帯電をしにくくなるので、付加製造プロセスで、帯電した粉末粒子の浮上および拡散のリスクが減少する。
【0024】
金属パーツための付加製造プロセスなど、電子ビーム粉末床融合プロセスでは、通常、粉末を部分的に焼結させるために、粉末床を予熱して、後の帯電粉末の浮上のリスクを減少させ、粉末床内での電気伝導を増大させることで、粉末床からの電子の移動が増加する。時間を節約するために、予熱中の帯電に起因する粉末粒子の浮上および拡散のリスクなく、効率の良い加熱パターンで粉末床を予熱することが望まれる。時間効率の良い粉末床の加熱を実現するために、粉末床を予熱する際には、エリア当たりのパワーを最大にすることが通常は望まれる。粉末床が予熱され、粉末が部分的に焼結されると、粉末の静電的浮上および拡散のリスクが減少する。
【0025】
粉末の融合前の粉末床の予熱は、例えば、電子ビーム照射などの、異なる多くの方法で実行することが可能である。電子ビームによる加熱は、真空チャンバ内での粉末床の効率の良い加熱方法である。予熱プロセス段階では、粉末床が、しばしば、3次元コンポーネントの製造のための、選択された領域内での粉末の融合に使用される総エネルギーよりも多くの総エネルギーで照射される。
【0026】
本発明は、粉末床が電子ビームで加熱される場合に、予熱中のビーム移動を規定する最適化された加熱パターンを実現することが望まれるという理解に基づく。この加熱パターンには、時間、ビーム電流、ビームスポットサイズ、ビームエネルギー強度、および、電子が粉末床から運び去られるのにどのくらいの時間がかかるかが考慮される必要がある。
【0027】
本発明は、粉末床の加熱、予熱または部分的焼結のための最適化されたスポット加熱パターンを開示する。電子ビームスポットを次の粉末床加熱位置に移動させる際には、いくつかのパラメータが考えられ得る。それらは、前の加熱位置からの距離および時間、粉末床における温度分布、粉末床における電荷分布、加熱に使用するビームスポットのサイズおよびパワー強度である。連続する2つの粉末床加熱位置の間の距離が、スポットサイズの5倍より大きくなる場合がある。粉末床内の粉末の電子帯電を避けるためには、連続する2つの粉末床加熱位置間の距離が、可能な限り大きいことが好ましく、例えば、50mm超である。連続する2つの粉末床加熱位置間の距離は、粉末床のサイズに依存し、例えば、粉末床の1つの側面から他の側面までの距離であり得る。
【0028】
本発明の一実施形態では、電子源102からの電子ビーム101で粉末床103、204、304を照射することにより、後続の処理のために粉末床103、204、304を準備するための加熱方法を開示する。後続の処理は、例えば、付加製造プロセスでの粉末層の融合であり得る。上記電子源102は、粉末床103、204、304への局所的な加熱および電子移動を無視できるほどに十分に高い速度である高速度または「ジャンピング速度」と、ビームスポットが加熱位置201、301を維持して、粉末床103、204、304への大規模な熱移動をもたらす状態とを切り替えながら、粉末床103、204、304上の電子ビームスポットの高速走査を行うように設計される。電子ビームスポットは、粉末床103、204、304上のビーム加熱位置に留まる。本加熱方法は、粉末床におけるいくつかの加熱位置201の間での、ジャンピング速度による、上記電子ビームスポットの高速走査202、302または上記電子ビームスポットの高速移動を行って、粉末床103、204、304の所望の領域205の加熱または予熱を行うことを含む。電子ビームスポットは、新たな加熱位置に到達すると、静止または固定位置を維持し、その位置の粉末を予め決められた時間だけ加熱する。次いで、電子ビームスポットは、次の加熱位置にジャンピング速度で高速移動し、そこで再度、静止または固定位置を維持し、その位置の粉末を予め決められた時間だけ加熱する。このようにして、粉末床の所望の加熱パターンが実現されるまで、電子ビームスポットは、新たな粉末床加熱位置へと繰り返し走査または移動される。粉末床103、204、304の選択された領域205の加熱パターンが終了した後、所望の加熱結果を実現するために、同じ選択された領域の加熱を数回繰り返すことが可能である。電子ビームを粉末床加熱位置で静止させることにより、電子ビームが、予め決められた時間だけ、その粉末床位置を維持し、粉末床は局所的に加熱されることになる。
【0029】
図2に示すように、各加熱位置201での予め決められた時間は、Δt=t
n+1ーt
nである。さらに、3つの加熱位置で、時間(t)に渡り熱がどのように広がるかを
図4に示す。電子ビームスポットは、スポットサイズが粉末床103、204、304の上面に干渉するような分布を有する。
図4に示すように、時間(t)に渡り熱が面(x、y)上で広がるので、温度(T)が、図中のグラフに従って変化する。
【0030】
さらに、時間(t)に渡り、電子帯電がどのように広がり、3つの加熱位置で消散するかを
図5に示す。
図5に示すように、電荷は、時間(t)に渡り面(x、y)上で広がるが、また、
図5は、3つの加熱位置の加熱後の、下にある粉末床を介した電荷の消散に起因して、どのように電子により誘起した帯電が減少するのかを示す。この消散により、電子ビーム101が面204上の他の加熱位置での加熱を実行するのに十分な量の時間が経過することができた後に、上記3つの加熱位置の領域を更に加熱することが可能になる帯電状況がもたらされる。
【0031】
他の実施形態では、小さなエリアを各加熱位置で加熱することにより粉末床204を準備するための加熱方法が開示される。電子源は、少なくとも2つの異なる走査速度を切り替えながら、粉末床103、204、304上の電子ビームスポットの走査を行うように設計され得る。それらの走査速度の一方は、粉末床204への熱移動および充電電位を無視できるほどに十分に高い速度である高速度または「ジャンピング速度」であり、一方は、粉末床103、204、304への大規模な熱移動をもたらすのに十分に低い速度である低速度または「加熱速度」である。上記のジャンピング速度は、一般に1000m/sよりも高くてもよく、上記の加熱速度は、一般に50m/sよりも低くてもよい。加熱速度は、ゼロであり得、このことは、電子ビームスポットが、粉末床上の特定の場所に留まることを意味する。本加熱方法は、粉末床における、いくつかの加熱位置201間での、またはいくつかエリアの間での、ジャンピング速度による、上記電子ビームスポットの高速走査202または上記電子ビームスポットの高速移動を行って、粉末床103、204、304の所望の領域205の加熱または予熱を行うことを含む。電子ビームスポットは、新たな加熱位置に到達すると、加熱速度に減速し、その加熱位置の限定されたエリアで、粉末を予め決められた時間だけ加熱する。加熱位置の限定されたエリアとは、一般に、直径5mmのサイズ範囲である。小領域のサイズは、一般に、直径10mmのサイズ範囲であり、領域は、直径15mmのサイズ範囲である。次いで、電子ビームスポットは、次の加熱位置にジャンピング速度で高速移動し、そこで、再度、加熱速度に減速し、粉末を予め決められた時間だけ加熱する。このようにして、粉末床の所望の加熱パターンが実現されるまで、電子ビームスポットは、新たな粉末床加熱位置へと繰り返し走査または移動される。粉末床の選択された領域の加熱パターンが終了した後、所望の加熱結果を実現するために、同じ選択された領域の加熱を数回繰り返すことが可能である。
【0032】
選択された領域の加熱シーケンスが終了した後、融合プロセス段階を実行することが可能であり、連続した粉末の層が、分散される。連続した粉末層の厚さは、通常は、製造されるオブジェクトの所望の材料特性を得るような、粉末層の加熱および融合を可能にするように選択される。ポスト加熱などの更なるプロセス段階を加えることも可能である。
【0033】
所望の加熱パターンは、粉末床の選択された領域上で熱を分散するように作られ得る。電子ビームスポットは、粉末床の選択された領域を均等に加熱するために、連続する位置の間の距離を最小限に維持しながら、いくつかの加熱位置の間を高速で移動する。粉末床の局所的エリア内に過度の電荷を構築することを避けるためにも、連続する位置の間の距離を最小限に保つことが有利である。既に述べたように、過度の電荷が構築されると、粉末床からの粉末の浮上および拡散につながる場合がある。加熱パターンを作り出す際にはいくつかの異なるパラメータを検討することが望まれる。例えば、前の加熱位置までの距離、加熱位置に蓄積されるエネルギーおよび電荷の量、加熱位置での継続時間、加熱位置間のビーム移動に必要な時間、熱および電荷が、粉末床および粉末内で消散するのに必要な時間、ならびに、粉末床を照射する電子ビームのスポットサイズなどである。
【0034】
また、電子ビームを異なる加熱位置間で移動させる際に、直近で加熱された、高電荷を保持している位置上を電子ビームが走査または移動することを避けることが望まれる。これは、上記の粉末の静電気的浮上および拡散を阻止するためである。
【0035】
通常、加熱された粉末床の選択された領域で、均等な温度分布を実現することが望まれる。この理由により、他のプロセス段階中に、より高い程度の冷却が行われる、粉末床の特定の小領域203ほど、より多くの熱を加えて、粉末床の選択された領域の均等な温度分布を実現することが有利であり得る。
【0036】
粉末床は、平坦な上面を有する平面として通常は形成され、加熱される粉末床位置は、この粉末床平面内の座標である。粉末床は、粉末床プロセス温度を維持するために、電子源からの電子ビームで照射される。
【0037】
本発明は、電子源からの電子ビームで粉末床を照射することにより、後続の処理のために上記粉末床を準備するための加熱方法を開示する。電子源は、粉末床における異なる加熱位置または加熱エリアに、粉末床上で電子ビームを高速移動または走査するように設計される。本方法は、いくつかの粉末床加熱位置または加熱エリアを、上記いくつかの粉末床加熱位置における、高速電子ビームの連続した位置設定により、局所加熱することを備える。
【0038】
電子ビームを異なる位置にこのように走査することにより、直近で訪れる位置の間の距離を最小限に維持するためのパターンが形成されて、電子ビームによる粉末の融合前に、粉末床の効率的な予熱が実現される。上記粉末床の選択された領域205(または複数の領域)は、上記選択された粉末床領域上で熱を分散するように、繰り返し加熱される。この領域(または複数の領域)は、加熱の必要性に関して選択され、粉末床全体を加熱することが必要であることもあり、または、他を加熱するよりも、いくつかの小領域203を加熱することが興味の対象であることもある。
【0039】
粉末床は、粉末床プロセス温度を維持するために、電子源からの電子ビームで照射され得る。いくつかのケースでは、良好なプロセス条件を実現するために、上記選択された粉末床領域上で熱を均等に分散させることが重要であり得る。連続する粉末床加熱位置は、蓄積される電子ビームエネルギーの関数により決定することが可能である。粉末床が予め決められた温度まで加熱される期間が最小限になるように、粉末床に、粉末床加熱位置のパターンを提供することが可能である。隣接し合う加熱位置の繰り返しの加熱間の時間が最小時間よりも短い場合、粉末床からの帯電した粉末の浮上および拡散のリスクが存在する。
【0040】
本発明の更なる実施形態では、本加熱方法を、電子ビームによる3次元オブジェクトの付加製造に使用することが可能である。粉末床での電子ビームスポットのサイズ、形状および強度を変動させて、粉末床の選択された領域の所望の加熱を実現することが可能である。
【0041】
図3に示す他の実施形態では、粉末床304における連続する加熱位置301の位置設定が、ランダムに選択され得る。電子ビームが、次の加熱位置に高速で移動(302)する。あるいは、連続する加熱位置の位置設定を、ランダムに選択することができるが、位置設定の確率を、例えば、2次元ガウス分布または2次元双曲線分布などの時間依存的数学関数により決定することもできる。
【0042】
他の実施形態では、粉末床の効率の良い予熱を実現し、粉末の拡散を避けるために、例えば、最小二乗適合関数などの時間依存的数学関数を使用して、粉末床における連続する加熱位置の位置設定を決定することができる。
【0043】
本発明の目的は、粉末床のための効率の良い加熱方法であって、製造プロセスでの後続のプロセス段階のために、粉末を準備するための加熱方法を提供することである。この目的は、独立請求項で規定される方法により実現される。従属請求項は、本発明の有利な実施形態、変形形態、および更なる発展形態を含む。