(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】高分岐ポリカーボネートポリオール組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 64/02 20060101AFI20230627BHJP
C08G 18/66 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C08G64/02
C08G18/66
(21)【出願番号】P 2019005331
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2018005557
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】渡部 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】アタポン キティヤナン
(72)【発明者】
【氏名】ナッタパット ナワカンピスット
(72)【発明者】
【氏名】ドンラパン ジッタブンルアン
(72)【発明者】
【氏名】ハタイカン マナッサピヤ
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-009434(JP,A)
【文献】特開平02-289616(JP,A)
【文献】特開平08-012925(JP,A)
【文献】特開平05-295101(JP,A)
【文献】特開平03-163132(JP,A)
【文献】Polymer,vol.39, No.14,1998年,3109-3113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00-64/42
C08G 18/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子数2~12の直鎖状の脂肪族ジオール、炭素原子数3~18の分岐状の脂肪族ジオール、炭素原子数6~18の環状脂肪族ジオールから選択されるジオール由来の構造、及びグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールから選択される多価アルコール由来の構造を有し、脂肪族ジオール及び多価アルコールの使用量(モル比)が、「多価アルコールの総水酸基モル数/脂肪族ジオールの総水酸基モル数」換算で0.3~0.63であり、ゲルパーミッションクロマトグラフィーによりMark-Houwinkプロットを行い算出される分岐度ファクターg’が0.55~0.82であり、数平均分子量(Mn)が200~
1640である、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物。
【請求項2】
水酸基価が50~500mgKOH/gである、請求項1に記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物。
【請求項3】
脂肪族ジオールが、炭素原子数2~12の直鎖状の脂肪族ジオールである、請求項1又は2に記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物。
【請求項4】
高分岐ポリカーボネートポリオール組成物が、前記ジオール、前記多価アルコール及び炭酸エステルを反応させたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物。
【請求項5】
室温で液状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いて得られるポリウレタン組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いて得られる合成皮革。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いて得られる水性ポリウレタン樹脂分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、コーティング剤、レベリング剤、又はそれらの原料として有用なポリウレタン化合物、前記ポリウレタン化合物を含有する組成物、それらの硬化物を与える、新規な高分岐ポリカーボネートポリオール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン化合物は、例えば、航空機・自動車等の内外装用、住宅の外壁面及び床材、家電・電子電材などの部品など、塗料やコーティング剤、接着剤の原料として広く利用されている。上述の塗料やコーティング剤などの塗膜は、外観の美しさを演出するのみならず、基材を保護する役割も兼ねることから、硬度、強度に加え耐久性などが必要とされる。この目的に用いられるポリウレタンの原料として、ポリカーボネートポリオールは、イソシアナート化合物と反応して、例えば剛性フォーム、可撓性フォーム、塗料、接着剤、擬革、インク結合剤等に使用可能なポリウレタン樹脂を与えうることが知られている。ポリカーボネートジオールを用いたポリウレタン樹脂は、カーボネート基に由来する高い凝集力によって耐水性、耐熱性、耐油性、応力緩和性能、耐摩耗性、耐候性等に優れた材料を与える(非特許文献1及び非特許文献2を参照)。高硬度、高弾性率などの物性をもたらすために、例えば、多価アルコールを用いて分岐構造を設けたポリカーボネートポリオールが用いられている(特許文献1)。
【0003】
一方で、新規な材料として、高度に枝分れした3次元構造を有している高分岐ポリマーが注目されている。高分岐ポリマーは単純な分岐状構造のポリマーとは異なり、モル質量及び分岐構造の制御ができないワンポット合成によっても容易に調製される。高分岐ポリマーは、熱的特性、機械的特性、溶解性、レオロジー特性などがその高度な分岐によってもたらされると考えられている(非特許文献3、4及び特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-184380号公報
【文献】米国公開公報20090093589号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Latest polyurethane material and applied techniques, CMC Publishing社、第2章、43ページ
【文献】Costa, V.及びNohales, A, Enhanced polyurethane based on different polycarbonatediols, SAGE Publications, Journal of Elastomer & Plastics, 2012, 45(3), 217-238。)
【文献】Voit, B.I.及びLederer, A., ACS, Chemical Reviews、109、5924-5973、Hyperbranched and highly branched polymer architectures-synthetic strategies and major characterization aspects
【文献】Wang、Z.Fu、Y.Guo、P.Ren、L.Wang、H.及びQiang, T., Synthesis, characterization, and properties of PCDL aliphatic hyperbranched polyurethane coatings John Wiley & Sons, Inc., Journal of Applied Polymer Science, 2013, 2671-2679
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおりポリウレタン樹脂には良好な耐久性、優れた伸び及び高い引張強さ等の物理的特性が要求されるが、線形構造を有するポリカーボネートジオールは、室温で固体であることが多く、ポリウレタンの調製における取扱いの面で不便であることがあった。また、これまで知られていたポリカーボネートポリオールを用いたポリウレタン樹脂では、硬度や弾性率などの物性に関して耐久性がまだ十分ではなく、改良が求められていた。
【0007】
そこで本発明は、取扱い易く、かつ、ポリウレタンとしたときの引張強度並びに伸び率が高く、耐久性に優れるポリカーボネートポリオールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討を重ねたところ、脂肪族ジオール由来の構造、及び多価アルコール由来の構造を有し、分岐度ファクターg’が0.55~0.82である、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物によって、上記課題が解決されることを見出し、本発明に至った。
上記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
[1]脂肪族ジオール由来の構造、及び多価アルコール由来の構造を有し、分岐度ファクターg’が0.55~0.82である、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物である。
[2]高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の数平均分子量(Mn)が200~10000である、前記[1]に記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物である。
[3]水酸基価が50~500mgKOH/gである前記[1]~[2]のいずれか1つに記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物である。
[4]脂肪族ジオール及び多価アルコールの使用量(モル比)が、「多価アルコールの総水酸基モル数/脂肪族ジオールの総水酸基モル数」換算で0.3~4.0である、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物である。
[5]高分岐ポリカーボネートポリオール組成物が、脂肪族ジオール、多価アルコール及び炭酸エステルを反応させたものである、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物である。
[6]室温で液状である、前記[1]~[5]のいずれか1項に記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物である。
[7]前記[1]~[6]のいずれか1つに記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いて得られるポリウレタン組成物である。
[8]前記[1]~[6]のいずれか1つに記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いて得られる合成皮革である。
[9]前記[1]~[6]のいずれか1つに記載の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いて得られる水性ポリウレタン樹脂分散体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、取扱い易く、かつ、ポリウレタンとしたときの引張強度並びに伸び率が高く、耐久性に優れる、ポリカーボネートポリオールが得られる。また、ポリマーはその調製の方法によって物性に変化が生じることがあるが、本発明は、粒子状の分子表面に末端官能基が集中している高分岐ポリマーを用いることで、特に耐久性において問題になる反応点の状態が平均化され、ぶれの少ない物性を得ることが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施態様を詳細に説明する。なお、本発明のような高分子化合物は、複数種類の原料化合物の反応により多数の構造を有する生成物が得られるものである。そのため、高分子化合物は、包含される多数の構造を一般式で記載することができてもその構造により一義的に示されない。また、その物性について、機器分析等により直接的に測定し、特定することや既存の化合物と区別することは困難である。よって、本発明においては、「高分岐ポリカーボネートポリオール組成物」や「水性ポリウレタン樹脂分散体」などのポリマーを含む物を、必要に応じ製造方法により特定する。
【0011】
[高分岐ポリカーボネートポリオール組成物]
本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物は、分岐度ファクターg’が0.55~0.82であるポリカーボネートポリオール組成物である。本発明において「高分岐」とは、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)により算出される分岐度ファクターg’が0.55~0.82である状態を指す。
分岐度ファクターg’は、0.55~0.82、好ましくは、0.58~0.80、より好ましくは、0.60~0.78、さらに好ましくは、0.60~0.75である。以下、特に断りがない限り、分岐度ファクターg’を0.55~0.82であると説明している部分にも、上記好適な範囲の記載が適用される。
【0012】
(分岐度ファクター(g’))
分岐度ファクターg’は、ポリマーがどの程度の分岐を有しているかを評価するための値である。一般に分岐度ファクターg’は、ポリマーの分岐が多いほど小さい値をとる。
高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の分岐度ファクター(g’)は、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)により算出することができる。
GPCは、カラムとしてShodex KF-Gを1本、KF-805Lを2本及びKF-800Dを1本取り付け、検出器としてViscotek製TriSEC302TDAを付けた東ソー社製HLC-8220GPCを用い、溶離液がテトラヒドロフラン、流速が1.0mL/分、濃度が0.1重量/体積%、注入量が300マイクロL、温度が40℃の条件で測定を行い、解析ソフトOmniSec4.0を用いてMark-Houwinkプロットを行い、分子量と固有粘度から分岐度ファクターg’を算出する。
【0013】
分岐度ファクターg’は、高分子がどのくらい分岐を有するかの度合いを示すものである。分岐度ファクターg’は分子量との相関関係があるため、例えば球状に近いのか、楕円に近いのかというような高分子の形状をより詳しく表すことができる。一方で、本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物は、高度に分岐した分子鎖の末端にポリオール由来の水酸基が複数個存在するような構造を有している。つまり分岐の程度に応じて高分子末端の水酸基の数が変動するので、分岐度ファクターg’は、ポリカーボネートポリオール1分子当たりの末端平均水酸基数(以下、「価数」と称することもある)と関連づけることもできる。価数によって本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を表現する場合、価数が4.0~15の範囲であるポリカーボネートポリオール組成物が、本発明においてはより好ましい態様である。そのうえで前記分岐度ファクターg’の範囲を満たしていることが、さらに好ましい。
【0014】
本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の分岐度ファクターg’は、0.55~0.82である。分岐度ファクターg’がこの範囲にあることで、室温で液状の物質として取扱いが容易になり、ポリウレタンとしたときに高強度と高い伸び率を両立することができる。
【0015】
(数平均分子量(Mn))
高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の数平均分子量(Mn)は、200~10000、好ましくは350~10000、更に好ましくは400~8000、より好ましくは450~6000、特に好ましくは500~5000である。
数平均分子量(Mn)は、前記と同様のGPCを用いて、粘度検出器から求める。
【0016】
(水酸基価(OH Value))
高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の水酸基価は、以下の手順により算出することができる。
高分岐ポリカーボネートポリオール組成物0.9gとフタル化剤(無水フタル酸160g、イミダゾール24gとピリジン1000mLとの混合物)10mLとを100℃付近で30分間反応させる。次いで、この反応液に、水4mLとピリジン20mLを添加した後、0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定する。
なお、フタル化剤を0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定した(これはブランク値を求める空試験である)。
得られた滴定量に基づき、以下の式(1)により水酸基価を算出する。
水酸基価(mgKOH/g)=[B(mL)-A(mL)]×f×28.05/S(g)+酸価(mgKOH/g)・・・式(1)
A:試料を滴定するのに必要な0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の使用量(mL)B:ブランクを滴定するのに必要な0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の使用量(mL)
f:0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の力価
S:試料の重量(g)
なお、酸価は、下記の方法で算出することができる。
10gの試料をトルエン/エタノールの50/50(重量比)溶液に溶解させたものを調製し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定した。酸価は、次の式(2):
5.61×(C-B1)×f/s・・・式(2)
によって求められる。
ここで、B1は、ブランクを中和するのに要する0.1NのKOHエタノール標準溶液の量(mL)であり、Cは、試料を中和するのに要する0.1NのKOHエタノール標準溶液の量(mL)であり、fは、0.1NのKOHエタノール標準溶液のファクターであり、sは、試料の重量(g)である。
【0017】
(室温での性状)
高分岐ポリカーボネートポリオールの室温での性状は、80℃で3時間加熱したサンプルを25℃で24時間置いたあとの状態を目視により確認する。液状であるかどうかの判断は、ポリカーボネートポリオールを80℃で3時間加熱した後、室温すなわち25℃で24時間放置した際に、透明で流動性があるかどうかを確認することによって行う。固体が目視できず、白濁していない状態を透明であると判断する。
【0018】
高分岐ポリカーボネートポリオール組成物は実質的に分岐度ファクターg’が0.55~0.82を有していればよく、末端の水酸基の一部が不飽和結合(例えば、末端エチレン)や、エーテル結合(例えば、末端メトキシ基や末端フェノキシ基)となっていてもよい。
ここで、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の末端構造における末端水酸基の割合は、1H-NMRで測定することができ、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。この範囲であることで、例えば、本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いたウレタン化反応の分子量の増大が図れる。
また、末端の水酸基のうち、1級末端水酸基の比率は好ましくは95%以上である。この範囲であることで、例えば、本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いたウレタン化反応がスムーズに進行する。
【0019】
(高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の製造)
高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、多価アルコール、脂肪族ジオール、炭酸エステル及び触媒を混合して、低沸点成分(例えば、副生するアルコールなど)を留去しながら、反応させるなどの方法によって行われる。
なお、本発明の反応は、一旦、高分岐ポリカーボネートポリオールのプレポリマー(目的とする高分岐ポリカーボネートポリオールより低分子量)を得た後、更に分子量を上げるためにプレポリマーを反応させるなど、反応を複数回に分けて行うこともできる。以下、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を構成する各成分及び調製に関する条件について説明する。
【0020】
(脂肪族ジオール)
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオールなどの炭素原子数2~12の直鎖状の脂肪族ジオール;
2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-又は3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオールなどの炭素原子数3~18の分岐状の脂肪族ジオール;
1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの炭素原子数6~18の環状脂肪族ジオール
が使用される。
なお、これらは単独又は2種以上を併用してもよい。
【0021】
(多価アルコール)
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの1分子中に3個以上の水酸基を有する化合物が挙げられる。
なお、これらは単独又は2種以上を併用してもよい。
【0022】
(脂肪族ジオールと多価アルコールのモル比)
脂肪族ジオール及び多価アルコールの使用量(モル比)は、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の分岐度ファクターg’が0.55~0.82の範囲となるような使用量(モル比)であれば特に限定されないが、「多価アルコールの総水酸基モル数/脂肪族ジオールの総水酸基モル数」換算で、好ましくは0.3~4.0である。一例として、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を完全に加水分解し、脂肪族ジオールと多価アルコールをガスクロマトグラフィー、マススペクトル、NMR測定などの手段により同定、定量することで、脂肪族ジオールと多価アルコールのモル比を求めることができる。
【0023】
(炭酸エステル)
炭酸エステルは、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルエチルなどの炭酸ジアルキル;炭酸ジフェニルなどの炭酸ジアリール;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート(4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン)、トリメチレンカーボネート)、ブチレンカーボネート(4-エチル-1,3-ジオキソラン-2-オン)、テトラメチレンカーボネート、5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンなどの環状カーボネートが挙げられるが、好ましくは炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネートが使用される。
なお、これらは単独又は2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記炭酸エステルの使用量は、使用する「多価アルコールと脂肪族ジオールの合計水酸基」1モルに対して、好ましくは0.25~0.65モル、更に好ましくは0.30~0.60モルである。
この範囲とすることで、十分な反応速度で、効率良く目的とする高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を得ることができる。
【0025】
(触媒)
本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を得る反応で使用する触媒として、公知のエステル交換触媒を使用することができ、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、コバルト、ゲルマニウム、スズ、セリウムなどの金属、及びそれらの水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、有機金属などが挙げられるが、好ましくは水素化ナトリウム、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルスズオキサイドが使用される。
なお、これらの触媒は、単独又は二種以上を混合して使用してもよい。
前記触媒の使用量は、「多価アルコールと脂肪族ジオールの合計水酸基」1モルに対して、好ましくは0.001~0.1ミリモル、更に好ましくは0.005~0.05ミリモル、より好ましくは0.01~0.03ミリモルである。
この範囲とすることで、後処理を煩雑とすることなく、効率良く目的とする高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を得ることができる。
なお、当該触媒は、反応開始時に一括で使用しても、反応開始時、及び反応開始後に2回以上分割して使用(添加)してもよい。
【0026】
(反応温度、及び反応圧力)
本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を得る反応における反応温度は、炭酸エステルの種類に応じて適宜調整することができるが、好ましくは50~250℃、更に好ましくは70~230℃である。
また、本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を得る反応における反応圧力は、低沸点成分を除去しながら反応させる態様となるような圧力ならば特に制限されず、好ましくは常圧又は減圧下で行われる。
この範囲とすることで、逐次反応や副反応が起こることなく、効率良く目的とする高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を得ることができる。
【0027】
好ましくは本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物は、下記式(I):
-(O-C(=O)-O-R)n-OH (I)
(式中、Rは、脂肪族ジオールに由来する基であり、nは繰り返し単位の数であり、1以上の整数である)
で示され、多価アルコールに由来する基に結合している構造を、分岐度ファクターg’が0.55~0.82となる量だけ有する。例えば、構造を単純化して多価アルコールとしてペンタエリスリトールに由来する構造を1つだけ有する分子を考えたとき、前記式(I)で示される構造は、C(CH2-)4で表される構造の4つのメチレン基それぞれに結合している。分岐度ファクターg’が0.55~0.82の前記式(I)で示される構造において、各R及びnは、各々異なっていてもよく、また同じであってもよい。また、分岐度ファクターg’が0.55~0.82の前記式(I)で示される構造は、各々独立して、同一の又は異なる多価アルコールに由来する基に結合していてもよい。
【0028】
(高分岐ポリウレタン組成物)
以上のようにして得られる本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物をポリイソシアネートと反応(以下、「ポリウレタン化反応」と称することもある)させることにより、ポリウレタン組成物を得ることができる。本発明は、前記高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いて得られる高分岐ポリウレタン組成物にも関する。
【0029】
(ポリイソシアネート)
前記ポリイソシアネートとしては、目的や用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、フェニレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネート;4,4’-メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジイルビス(メチレン)ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートが使用される。
なお、これらのポリイソシアネートは、単独又は二種以上を混合して使用してもよく、その構造の一部又は全部がイソシアヌレート化、カルボジイミド化、又はビウレット化などにより誘導体化されていてもよい。
【0030】
ポリイソシアネートの使用量は、ポリイソシアネートのイソシアネート基と高分岐ポリカーボネートポリオール組成物の水酸基とのモル比(イソシアネート基/水酸基(モル))により設計することができ、好ましくは該モル比が0.8~1.5、更に好ましくは0.9~1.3となる量である。
【0031】
(鎖延長剤)
ポリウレタン化反応においては、分子量を増大させることを目的として、鎖延長剤を用いることができる。使用する鎖延長剤としては、目的や用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、
水;
エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10-デカンジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、キシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサンなどの低分子ポリオール;
ポリエステルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオールなどの高分子ポリオール;
エチレンジアミン、イソホロンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどのポリアミン
が使用される。
なお、鎖延長剤については、例えば、「最新ポリウレタン応用技術」(株式会社CMC社、1985年に発行)を参照することができ、前記高分子ポリオールについては、例えば、「ポリウレタンフオーム」(高分子刊行会、1987年)を参照することができる。
【0032】
(ウレタン化触媒)
ポリウレタン化反応においては、反応速度を向上させるために公知の重合触媒を用いることができ、例えば、第三級アミン、又はスズ若しくはチタンなどの有機金属塩が使用される。
なお、重合触媒については、吉田敬治著「ポリウレタン樹脂」(日本工業新聞社刊、1969年)の第23~32頁を参照することができる。
【0033】
(溶媒)
ポリウレタン化反応は溶媒の存在下で行うことができ、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどのエステル類;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、2-エトキシエタノールなどのエーテル類;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類が使用される。
【0034】
ポリウレタン化反応は、分子量を調整するために末端停止剤を添加して行うことができる。
また、ポリウレタンには、目的に応じて、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、無機充填剤、滑剤、着色剤、シリコンオイル、発泡剤、難燃剤などを存在させることができる。
【0035】
得られたポリウレタンは、軟質ポリウレタンフォーム、硬質ポリウレタンフォーム、熱可塑性ポリウレタン、溶剤系ポリウレタン溶液、水性ポリウレタン樹脂分散体などとすることができる。また、これらを使って、人工皮革や合成皮革、断熱材、クッション材、接着剤、塗料、コーティング剤、フィルム等の成形体などに加工することができる。
【0036】
[水性高分岐ポリウレタン樹脂分散体]
本発明はまた、前記高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いて得られる水性高分岐ポリウレタン樹脂分散体にも関する。水性高分岐ポリウレタン樹脂分散体は、具体的には、例えば、本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物、ポリイソシアネート、及び酸性基含有ポリオールを、溶媒の存在下、又は非存在下で反応させてウレタンプレポリマーとする工程、前記プレポリマー中の酸性基を中和剤により中和する工程、中和されたプレポリマーを水系媒体に分散させる工程、水系媒体に分散されたプレポリマーと鎖延長剤とを反応させる工程を順次行うことによって製造することができる。
なお、各工程では、必要に応じて触媒を使用することで、反応を促進させたり、副生成物の量を制御することができる。
本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物から誘導される水性高分岐ポリウレタン樹脂分散体は、密着性、柔軟性、触感に優れる膜を与えるため、特に人工皮革や合成皮革に適用することができる。
高分岐ポリカーボネートポリオール組成物、ポリイソシアネート、溶媒、及び鎖延長剤は、先に記載したものを用いることができる。
【0037】
(酸性基含有ポリオール)
水性ポリウレタン樹脂分散体を製造する場合には、水系媒体へ分散させるために酸性基含有ポリオールを使用することができる。そのため、前記ポリイソシアネートの使用量は、ポリイソシアネートのイソシアネート基と、ポリオール(ポリカーボネートポリオール、後述する酸性基含有ポリオール、及び後述する低分子ポリオールなどの全てのポリオール)の合計水酸基とのモル比(イソシアネート基/水酸基(モル))により設計することができ、好ましくは当該モル比が0.8~2.0、更に好ましくは0.9~1.8となる量である。
【0038】
前記酸性基含有ポリオールとしては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸;N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4-ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6-ジヒドロキシ-2-トルエンスルホン酸などが挙げられるが、好ましくはジメチロールアルカン酸、より好ましくは2個のメチロール基を含む炭素数4~12のアルカン酸が使用される。
なお、これらの酸性基含有ポリオールは、単独又は二種以上を混合して使用してもよく、その使用量はポリウレタン樹脂が水系媒体に分散できる量であれば特に制限されない。
【0039】
(中和剤)
前記中和剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、N-メチルモルホリン、ピリジンなどの有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ塩類、アンモニアが挙げられるが、好ましくは有機アミン類、更に好ましくは三級アミンが使用される。
なお、これらの中和剤は、単独又は二種以上を混合して使用してもよく、その使用量はポリウレタン樹脂中の酸性基を中和できる量であれば特に制限されない。
【0040】
(水系媒体)
前記水系媒体としては、例えば、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水などの水や、水と親水性有機溶媒との混合媒体などが挙げられる。
前記親水性有機溶媒としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類;N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドンなどのピロリドン類;ジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類;出光興産社製「エクアミド」に代表されるβ-アルコキシプロピオンアミドなどのアミド類;2-(ジメチルアミノ)-2-メチル-1-プロパノール(DMAP)などの水酸基含有第三級アミンが挙げられる。
前記水系媒体中の前記親水性有機溶媒の量としては、好ましくは0~20質量%である。
【0041】
(低分子ポリオール)
本発明のウレタン化反応においては、分子量を調整するために、低分子ポリオールを存在させることができる。使用できる低分子ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどが挙げられる。
なお、これらの低分子ポリオールは、単独又は二種以上を混合して使用してもよい。
【0042】
本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物は、その性状から取扱い性に優れ、ポリウレタン組成物の原料として有用である。また、本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物は、引張強度、伸び率、耐久性に優れたポリウレタン組成物を与えることができるため、ポリウレタンを適用する各種材料、例えば人工皮革、合成皮革、断熱材、クッション材、接着剤、塗料、コーティング剤などの材料、フィルム等の成形体を得ることができる原料として、産業上有用に用いられる。不織布などにポリウレタンを含浸させる人工皮革、天然の布地にポリウレタンを適用する合成皮革においては、主に表面が強度、伸び、耐久性に優れた層となるため、耐久性に問題があるとされてきた従来のポリウレタンを用いた材料よりも有用である。また塗料やコーティング剤としても、塗布、適用された表面が各種物性に優れたものとなり、有用である。さらに、本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いたポリウレタン組成物そのものも、耐久性等に優れた成形体をもたらすため有用である。
【実施例】
【0043】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0044】
なお、水酸基価、分岐度ファクターg’、数平均分子量及び室温での性状の測定は先に説明した方法により行った。また、酸価、粘度、APHA、ガラス転移温度、引張強度及び破断点伸度の測定は、以下の通り行った。
[酸価]
10gの試料をトルエン/エタノールの50/50(重量比)溶液に溶解させたものを調製し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定した。酸価は、次の式:5.61×(C-B1)×f/s によって求められる。ここで、B1は、ブランクを中和するのに要する0.1NのKOHエタノール標準溶液の量(mL)であり、Cは、試料を中和するのに要する0.1NのKOHエタノール標準溶液の量(mL)であり、fは、0.1NのKOHエタノール標準溶液のファクターであり、sは、試料の重量(g)である。
[粘度]
粘度は、LVDV II + Pro cone及びBrookfield製プレート粘度計をspindle cone model CPE-41と併用して、80℃で溶融させた条件にて測定した。
[APHA]
JIS K 1557に従って測定した。黄変の度合いが、APHAの単位として示される。
[ガラス転移温度]
示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。8~10mgの試料を用い、昇温プログラムは、80℃から加熱率20℃/minで250℃までで設定した。ガラス転移温度は、2回目の走査の変曲点により特定した。
【0045】
[引張強度及び破断点伸度]
ISO 527に従って、温度23℃、湿度50%の環境下で実施した。具体的には、厚さ0.05~0.10mmのポリウレタン樹脂フィルムの試験片を、幅5mm、試験長20mm、試験速度100mm/分で引張強度並びに破断点伸度を測定した。
【0046】
実施例1(高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(1)の合成)
蒸留塔、攪拌機、温度計及び窒素導入管を備えた500mLの4口ガラス製反応器に、トリメチロールプロパン60.00g(0.45モル)、1,6-ヘキサンジオール126.97g(1.07モル)、炭酸ジメチル172.18g(1.91モル)及び水酸化リチウム0.0013g(0.054ミリモル)を混合し(トリメチロールプロパンの総水酸基モル数/1,6-ヘキサンジオールの総水酸基モル数=0.45*3/1.07*2=0.63)、常圧下、低沸点成分を留去しながら100~200℃で7時間反応させた。
更に、10時間かけて圧力を13.3kPaまで下げた後、室温まで冷却し、粘ちょうな液体として高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(1)を得た。
得られた高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(1)の物性値は以下の通りであった。
水酸基価:197mgKOH/g
酸価:0.30mgKOH/g
粘度(80℃):460cP
APHA:75
数平均分子量(Mn):710
分岐度ファクターg’:0.7648
室温での性状:液状
【0047】
実施例2(高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(2)の合成)
蒸留塔、攪拌機、温度計及び窒素導入管を備えた500mLの4口ガラス製反応器に、トリメチロールプロパン60.00g(0.45モル)、1,6-ヘキサンジオール218.62g(1.85モル)、炭酸ジメチル266.89g(2.96モル)及び水酸化リチウム0.0020g(0.083ミリモル)を混合し(トリメチロールプロパンの総水酸基モル数/1,6-ヘキサンジオールの総水酸基モル数=0.45*3/1.85*2=0.36)、常圧下、低沸点成分を留去しながら100~200℃で7時間反応させた。
更に、10時間かけて圧力を13.3kPaまで下げた後、室温まで冷却し、粘ちょうな液体として高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(2)を得た。
得られた高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(2)の物性値は以下の通りであった。
水酸基価:121mgKOH/g
酸価:0.21mgKOH/g
粘度(80℃):3800cP
APHA:65
数平均分子量(Mn):1640
分岐度ファクターg’:0.7298
室温での性状:液状
【0048】
比較例1
比較例1として、1,6-ヘキサンジオール及び炭酸エステルを原料として製造されたポリカーボネートジオール(宇部興産株式会社製、商品名:ETERNACOLL(登録商標)UH-200)を使用した。
比較例1の物性値は以下の通りであった。
水酸基価:56mgKOH/g
酸価:0.01mgKOH/g
粘度(80℃):2000cP
APHA:15
分岐度ファクターg’:1
室温での性状:ワックス状
【0049】
比較例2
蒸留塔、攪拌機、温度計及び窒素導入管を備えた500mLの4口ガラス製反応器に、トリメチロールプロパン33.5g(0.25モル)、1,6-ヘキサンジオール177.0g(1.50モル)、炭酸ジメチル186.57g(2.07モル)及び水酸化リチウム0.0020g(0.083ミリモル)を混合し(トリメチロールプロパンの総水酸基モル数/1,6-ヘキサンジオールの総水酸基モル数=0.25*3/1.50*2=0.25)、常圧下、低沸点成分を留去しながら100~200℃で7時間反応させた。
更に、10時間かけて圧力を13.3kPaまで下げた後、室温まで冷却し、ポリカーボネートポリオールを得た。
得られたポリカーボネートポリオールの物性値は以下の通りであった。
水酸基価:167mgKOH/g
酸価:0.15mgKOH/g
粘度(80℃):440cP
APHA:15
数平均分子量(Mn):926
分岐度ファクターg’:0.8417
室温での性状:ワックス状
【0050】
以上より、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(1)~(2)は室温で液状であるのに対して、比較例1~2はワックス状であり、本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物は、取り扱い易い組成物であることが分かる。
【0051】
実施例3(高分岐ポリウレタン樹脂(A)の合成)
窒素注入口、温度計、冷却管及び攪拌機を備えた500mLの5口反応器に、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(1)1.50g、比較例1のポリカーボネートジオール28.50g、1,4-ブタンジオール2.97g、ジブチルスズジラウレート0.05g、及びジメチルホルムアミド92gを混合し、70℃で攪拌した。次いで、イソホロンジイソシアネート11.74gを加え、攪拌しながら80℃で5時間反応させて高分岐ポリウレタン樹脂(A)を得た。
【0052】
実施例4(高分岐ポリウレタン樹脂(B)の合成)
窒素注入口、温度計、冷却管及び攪拌機を備えた500mLの5口反応器に、高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(2)1.50g、比較例1のポリカーボネートジオール28.50g、1,4-ブタンジオール2.89g、ジブチルスズジラウレート0.05g、及びジメチルホルムアミド92gを混合し、70℃で攪拌した。次いで、イソホロンジイソシアネート11.78gを加え、攪拌しながら80℃で5時間反応させて高分岐ポリウレタン樹脂(B)を得た。
【0053】
比較例3(ポリウレタン樹脂(C)の合成)
窒素注入口、温度計、冷却管及び攪拌機を備えた500mLの5口反応器に、比較例1のポリカーボネートジオール30.00g、1,4-ブタンジオール3.06g、ジブチルスズジラウレート0.05g、及びジメチルホルムアミド92gを混合し、70℃で攪拌した。次いで、イソホロンジイソシアネート11.62gを加え、攪拌しながら80℃で5時間反応させてポリウレタン樹脂(C)を得た。
【0054】
比較例4(ポリウレタン樹脂(D)の合成)
窒素注入口、温度計、冷却管及び攪拌機を備えた500mLの5口反応器に、比較例2のポリカーボネートポリオール1.50g、比較例1のポリカーボネートジオール28.50g、1,4-ブタンジオール2.91g、ジブチルスズジラウレート0.05g、及びジメチルホルムアミド92gを混合し、70℃で攪拌した。次いで、イソホロンジイソシアネート11.84gを加え、攪拌しながら80℃で5時間反応させてポリウレタン樹脂(D)を得た。
【0055】
ポリウレタン樹脂フィルムの製造
ポリウレタン樹脂(A)~(D)を、それぞれガラス基板上に塗布した。なお、基板の型のサイズは20cm×10cm×3mmとした。これを70℃で1時間、120℃で2時間、乾燥させてガラス基板上にポリウレタン樹脂フィルムを形成した。
ポリウレタン樹脂フィルムについて、引張強度、破断点伸度を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0056】
【0057】
表1の結果から、実施例1及び実施例2の本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物(1)及び(2)から製造される実施例3及び実施例4のポリウレタン樹脂フィルムは、比較例1のポリカーボネートジオールから製造される比較例3のポリウレタン樹脂フィルムと比べ、破断点伸度を保持しながら、高い引張強度を有していることがわかる。また、実施例3及び実施例4のポリウレタン樹脂フィルムは、比較例2のポリカーボネートポリオールから製造される比較例4のポリウレタン樹脂フィルムと比べ、引張強度は同等又はそれ以上であり、高い破断点伸度を有しており、機械的特性に優れたフィルムが得られることが示された。
【0058】
[耐久性試験]
本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物から製造されるフィルムを用いて、耐久性の試験を行った。耐候性・耐加水分解性については所定の条件下での時間経過後に歪みの有無を目視にて観察するとともに、引張強度、破断点伸度を測定し、それらの保持率によって評価した。耐熱性は、黄変の度合いにより評価している。
耐候性は、ASTM G154に従ってQUV加速耐候性試験検査器にポリウレタン試料を露出させることによって評価した。試料は、以下の工程:1)0.49W/m2/nmで313nmのUV-Bを60℃で4時間;及び2)50℃で4時間の水による縮合反応を交互に自動的に切り替えながら合計26時間暴露した。引張強度及び破断点伸度の保持率は、上記暴露試験後の試料について引張強度及び破断点伸度の測定を行い、暴露前のフィルムを100としてのパーセンテージで評価した。また、歪みの有無は目視にて判断した。
耐熱性は、ASTM E313-05(C)に従っての黄色度指数(YI)を測定しての黄変の度合いにより評価した。試料に120℃のオーブンで240時間熱を掛け、YIの変化量(ΔYI)により耐熱性を評価した。
耐加水分解性は、試料を40℃の水浴に72時間浸し、引張強度及び破断点伸度の保持率を算出することにより評価した。また、歪みの有無は目視にて判断した。
結果を以下の表2に示す。
【0059】
【0060】
本発明の高分岐ポリカーボネートポリオール組成物を用いて得られるポリウレタン樹脂フィルムは、引張強度、破断点伸度の保持割合が高く、また見た目で歪みは見られなかった。また黄変も小さく、総じて耐久性に優れたポリウレタン樹脂フィルムが得られることが示された。