(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】コネクタ用端子材及びコネクタ用端子
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20230627BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20230627BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/12
H01R13/03 D
(21)【出願番号】P 2019074191
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 圭栄
(72)【発明者】
【氏名】樋口 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】中矢 清隆
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-005549(JP,A)
【文献】特開2015-219975(JP,A)
【文献】特開2016-173889(JP,A)
【文献】特開2008-270192(JP,A)
【文献】特開2013-032588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材と、該基材の表面の少なくとも一部に被覆された銀錫合金からなる銀錫合金めっき層と、該銀錫合金めっき層の上に形成された純度99質量%以上の銀からなる銀めっき層とを備え、前記銀錫合金めっき層は、Agを70at%以上85at%以下の範囲で含み、かつ、銀錫系金属間化合物を主成分としており、前記銀錫合金めっき層の膜厚は0.5μm以上10μm以下であり、前記銀めっき層の膜厚は0.05μm以上2.0μm以下であ
り、
さらに前記銀めっき層では、炭素が0.1質量%以上0.6質量%以下の含有率で共析していることを特徴とするコネクタ用端子材。
【請求項2】
前記基材と前記銀錫合金めっき層との間には、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層が設けられ、該ニッケルめっき層の膜厚は0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用端子材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコネクタ用端子材からなるコネクタ用端子であって、相手方コネクタ用端子との接点部分の表面が前記銀めっき層からなることを特徴とするコネクタ用端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微摺動が発生する自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用される有用な皮膜が設けられたコネクタ用端子材及びコネクタ用端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の電気配線の接続に用いられるコネクタが知られている。この車載用コネクタ(車載用端子)には、メス端子に設けられた接触片が、メス端子内に挿入されたオス端子に所定の接触圧を有して接触することで、電気的に接続されるように設計された端子対を備えるものが用いられている。このようなコネクタ(端子)として、一般的に銅または銅合金板上に錫めっきを施し、リフロー処理を行った錫めっき付き端子が多く用いられていた。しかし、近年、自動車の高電流・高電圧化に伴い、より電流を多く流すことができる耐熱・耐摩耗性に優れた貴金属めっきを施した端子の用途が増加している。
【0003】
このような耐熱性及び耐摩耗性が求められる車載用端子のめっきとして、例えば、特許文献1に記載のように銀めっきを端子に施す方法がある。この点、銀めっき層は、加熱によって銀の結晶径が大きくなるため硬度が低下する。この硬度の低下を抑制するため、銀めっき膜厚を厚くすることが考えられるが、コスト面での問題がある。また、下地にニッケルめっき層を用いた場合、銀めっき層が剥離する問題もある。
一方、特許文献2のように、アンチモンをめっき層に添加することで耐摩耗性を上昇させることも考えられるが、初期硬度は高いものの、加熱によって硬度が低下し、また、アンチモンがめっき層最表面に濃化後、酸化して接触抵抗が増大する。さらに、ニッケルめっき層を下地として用いていた場合、加熱によってニッケルめっき層と銀めっき層との間にニッケル酸化物が生成され、このニッケル酸化物が原因となりめっき層が剥離することがあった。さらに、耐摩耗性については、めっき層の硬度が特定されているが、摺動時にはめっき層同士で凝着が発生するなど、硬度だけで耐摩耗性について評価するのは不十分であった。
【0004】
また、加熱による耐摩耗性低下を防ぐため、特許文献3のように、銀めっき層と錫めっき層とを順に積層してリフロー処理することにより表面を合金化する手法もあるが、めっき層の一部のみが合金化されるため、その合金化した部分が摺動により消耗されると、耐摩耗性の低下を抑制できない。
そこで、特許文献4のように、基材に対して直接銀錫合金めっきを施してめっき層全体の組成を均一に保つことが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-169408号公報
【文献】特開2009-79250公報
【文献】特開2017-79143公報
【文献】特開2015-183216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4に記載の方法では、加熱環境下において、表面に錫の酸化膜が形成され、この酸化膜によって接触抵抗が低下する不具合がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐摩耗性及び耐熱性を向上できるコネクタ用端子材及びコネクタ用端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコネクタ用端子材は、少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材と、該基材の表面の少なくとも一部に被覆された銀錫合金からなる銀錫合金めっき層と、該銀錫合金めっき層の上に形成された純度99質量%以上の銀からなる銀めっき層とを備え、前記銀錫合金めっき層は、Agを70at%以上85at%以下の範囲で含み、かつ、銀錫系金属間化合物を主成分としており、前記銀錫合金めっき層の膜厚は0.5μm以上10μm以下であり、前記銀めっき層の膜厚は0.05μm以上2.0μm以下である。
【0009】
このコネクタ用端子材は、銀錫合金めっき層の上に銀めっき層が形成されているので、加熱環境下においても表面が酸化しにくく、接触抵抗の増大を抑制できる。
なお、銀錫合金めっき層中のAgが70at%未満では、その上の銀めっき層が十分に成膜されず、加熱後の接触抵抗が増加し、Agが85at%を超えると硬い銀錫合金に対する軟らかい銀の割合が増えるため、耐摩耗性が低下する。また、銀錫系金属間化合物としては、Ag3Sn及びAg4Snの金属間化合物を例示できる。
銀錫合金めっき層が0.5μm未満では、コネクタでの使用時の耐摩耗性向上の効果に乏しくなり、耐摩耗性が低下する。10μmを超える膜厚としても問題はないが、コストの面から10μm以下とするのが好ましい。銀めっき層の膜厚が0.05μm未満では薄すぎるため、早期に摩耗して消失し易い。2.0μmを超える厚さでは、軟らかい銀めっき層が厚いため、摩擦係数が増大する。
【0010】
コネクタ用端子材の一つの態様としては、前記基材と前記銀錫合金めっき層との間には、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層が設けられ、該ニッケルめっき層の膜厚は0.5μm以上2μm以下であるとよい。
【0011】
ニッケルめっき層は基材からのCu成分の拡散を防止する効果がある。ニッケル層の厚さが0.5μm未満であると、高温環境下では銅又は銅合金からなる基材からCu成分が銀錫合金めっき層内に拡散して該銀錫合金めっき層の抵抗値が大きくなり、耐熱性が低下する可能性があり、2μmを超えると、曲げ加工時に割れが発生する可能性がある。
また、銀錫合金めっき層がニッケルめっき層上に形成されていることにより、銀錫合金とニッケルとが相互拡散し、かつ錫とニッケルが金属間化合物を生成するので、銀錫合金めっき層が剥離することを抑制できる。
【0012】
本発明のコネクタ用端子は、上記コネクタ用端子材からなるコネクタ用端子であって、相手方コネクタ用端子との接点部分の表面が前記銀めっき層である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コネクタ用端子材及びコネクタ用端子の耐摩耗性及び耐熱性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコネクタ用端子材を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施例における加熱前のコネクタ用端子材の断面のSIM像(傾斜角60°)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
[コネクタ用端子材の構成]
図1は一実施形態のコネクタ用端子材の断面を模式的に示したものである。このコネクタ用端子材は、少なくとも表面が銅又は銅合金からなる板状の基材2と、該基材2の表面に被覆されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層3と、ニッケルめっき層3の表面の少なくとも一部(本実施形態では、ニッケル層3の上面全域)に被覆された銀錫合金めっき層4と、この銀錫合金めっき層4の上に形成された銀めっき層5とを備えている。
基材2は、銅または銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。また、母材の表面に銅又は銅合金からなる銅めっき層が施されためっき材により構成されてもよい。この場合、母材としては銅以外の金属材料であってもよい。
【0016】
ニッケルめっき層3は、基材2上にニッケル又はニッケル合金めっきを施すことにより被覆される。このニッケルめっき層3は、その上に被覆される銀錫合金めっき層4への基材2からのCu成分の拡散を抑制する機能を有する。このニッケルめっき層3の厚さは、0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。ニッケルめっき層3の厚さが0.5μm未満であると、高温環境下では銅又は銅合金からなる基材2からCu成分が銀錫合金めっき層4内に拡散して銀錫合金めっき層4の抵抗値が大きくなり、耐熱性が低下する可能性があり、2μmを超えると、曲げ加工時に割れが発生する可能性がある。なお、ニッケルめっき層3は、ニッケル又はニッケル合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0017】
銀錫合金めっき層4は、ニッケルめっき層3上に銀ストライクめっきが施された後、その上面に被覆される。この銀錫合金めっき層4は、Ag3Sn及びAg4Snの金属間化合物を主成分とし、Agを70at%以上85at%以下の範囲で含んでいる。このような金属間化合物を含んでいるため、耐摩耗性が向上する。
【0018】
また、銀錫合金めっき層4は、その上に形成される軟らかい銀めっき層5を支持して、コネクタでの使用時に滑り性を向上させる効果がある。この銀錫合金めっき層4の厚さは、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。銀錫合金めっき層4が0.5μm未満であると、滑り性向上の効果に乏しくなり、耐摩耗性が低下する。10μを超える膜厚としても問題はないが、コストの面から10μm以下とするのが好ましい。
【0019】
銀めっき層5は、加熱環境下においても表面が酸化しにくく、接触抵抗の増大を抑制できる。この銀めっき層5は、純度99質量%以上、好ましくは99.9質量%以上の純銀からなり、また炭素は0.1質量%以上0.6質量%以下の含有率で共析している。残部にはS,N,Hなどの軽元素が含まれる。純度が99質量%以上としたのは、銀めっき層5のAg濃度が99質量%未満であると不純物が多く含まれることとなり、接触抵抗が高くなるからである。
また、銀めっき層5中に炭素が共析していることにより、コネクタとして摺動したときに銀めっき層5同士の凝着が発生しがたくなり、摩擦係数が低下する。この場合、炭素の含有量が0.1質量%未満では摩擦係数を低減する効果が乏しく、0.6質量%を超えると銀めっき層5が脆くなり加工性が悪化するおそれがある。
銀めっき層5の膜厚は0.05μm以上2.0μm以下である。銀めっき層5の膜厚が0.05μm未満では薄すぎるため、早期に摩耗して消失し易い。2.0μmを超える膜厚では、軟らかい銀めっき層5が厚いため、摩擦係数が増大する。
【0020】
次に、このコネクタ用端子材1の製造方法について説明する。このコネクタ用端子材1の製造方法は、基材2となる銅又は銅合金からなる板材を洗浄する前処理工程と、ニッケルめっき層3を基材2に形成するニッケルめっき層形成工程と、ニッケルめっき層3上に、銀ストライクめっきを施す銀ストライクめっき工程と、銀ストライクめっきが施されたニッケルめっき層3上に銀錫合金めっき層4を形成する銀錫合金めっき層形成工程と、銀めっき層5を銀錫合金めっき層4上に形成する銀めっき層形成工程と、を備える。
【0021】
[前処理工程]
まず、基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意し、この板材に脱脂、酸洗等をすることによって表面を清浄する前処理を行う。
【0022】
[ニッケルめっき層形成工程]
この基材2の表面の少なくとも一部に対して、ニッケル又はニッケル合金めっきを施してニッケルめっき層3を基材2に形成する。例えば、スルファミン酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/Lからなるニッケルめっき液を用いて、浴温45℃、電流密度3A/dm2の条件下でニッケルめっきを施して形成される。なお、ニッケル層3を形成するニッケルめっきは、緻密なニッケル主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のワット浴を用いて電気めっきにより形成してもよい。
【0023】
[銀ストライクめっき工程]
基材2に形成されたニッケルめっき層3の表面に5質量%~10質量%の水酸化カリウム水溶液を用いて活性化処理を行った後、銀ストライクめっきを施す。この銀ストライクめっきは、ニッケルめっき層3上に形成される銀錫合金めっき層4とニッケルめっき層3との密着性を高めるために実行される。この銀ストライクめっきを施すためのめっき液の組成は、ノーシアン浴(シアン化物であるシアン化銀、シアン化銀カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等を含まないめっき浴)であれば特に限定されないが、メタンスルホン酸銀浴を主体としたものが望ましい。
【0024】
[銀錫合金めっき層形成工程]
そして、銀ストライクめっきを施したニッケルめっき層3上に銀錫合金めっきを施して銀錫合金めっき層4を形成する。この銀錫合金めっきのためのめっき浴としては、例えば、メタンスルホン酸、メタンスルホン酸錫、メタンスルホン酸銀、硫黄を含有した有機添加剤を含む組成とする。具体的には、遊離メタンスルホン酸濃度を40g/L、Ag濃度を40g/Lを超えて90g/L以下、Sn濃度を5~35g/Lの範囲で調整した銀錫合金めっき液を用いるとよい。なお、この銀錫合金めっき液は、シアン化銀、シアン化銀カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等のシアン化物を含んでいない。また、錫陽極は、AgとPt/Ti不溶性電極との両方を用い、これらの面積は、陰極の2倍以上、AgとPt/Tiの電流配分はAg:Pt/Ti=4:1とすることが好ましい。さらに、浴温は40℃~60℃、電流密度1~15A/dm2とし、銀錫合金めっき層4を形成する。
【0025】
[銀めっき層形成工程]
銀錫合金めっき層4の上に、銀めっきを施す。この銀めっきのためのめっき浴の組成は、特に限定されないが、例えば、シアン化銀カリウム(K[Ag(CN)2])30g/L~60g/L、シアン化カリウム(KCN)120g/L~160g/L、炭酸カリウム(K2CO3)10g/L~20g/L、めっき層中に取り込まれやすい有機添加剤からなるめっき浴が好適である。有機添加剤としては、例えば、2,2チオエタノールなどのチオアルコール類、ベンゾチアゾール類、ベンゾトリアゾールなどのアゾール類、イミダゾールなどのイミダゾール類を用いることができる。この有機添加剤の添加濃度は0.1g/L以上10g/L以下とするのがよい。メタンスルホン酸、またはヨウ化カリウムと主体にしたノーシアン浴も使用可能である。
そして、この銀めっき浴に対してアノードとして純銀板を用いて、浴温10℃以上40℃以下、電流密度1A/dm2以上10A/dm2以下の条件下で銀めっきを1秒~7分程度施すことにより銀めっき層が形成される。
【0026】
このようにして基材2の表面にニッケルめっき層3が形成され、その表面の少なくとも一部に銀錫合金めっき層4及び銀めっき層5が形成されたコネクタ用端子材1に対してプレス加工等を施し、接点として用いられる部分の表面に銀めっき層5が配置されるコネクタ用端子を形成する。
【0027】
本実施形態では、表面に銀めっき層5が形成されているので、加熱環境下においても表面が酸化しにくい。このため、150℃で250時間加熱後でも接触抵抗が1mΩ以下と小さく、耐熱性を向上できる。銀錫合金めっき層4はニッケル層3上に銀ストライクめっき層を介して形成されているので、銀錫合金めっき層4がニッケルめっき層3から剥離することを抑制できる。なお、銀錫合金めっき層4中のAgが70at%未満では、加熱後の接触抵抗が低下し、Agが85at%を超えると銀錫合金めっき層の粒径が大きくなり、耐摩耗性が低下する。
【0028】
本実施形態の銀錫合金めっき層4は、収束イオンビーム装置(FIB)にて端子材の断面加工を行った後、断面の銀錫合金めっき層4のめっき表面からニッケルめっき層3に向かって0.3μmの深さ位置P1と、ニッケル層3との界面から銀錫合金めっき層4の表面側に向かって0.3μmの深さ位置P2とについて、それぞれEPMAにて組成分析を行い、錫(Sn)と銀(Ag)の組成比をAg/(Sn+Ag)×100(at%)で計算した際の(P1-P2)の差分の絶対値が5以下となる。すなわち、銀錫合金めっき層4は、上記めっき処理により形成されているため、Ag3Sn及びAg4Snの金属間化合物の上記位置P1及び上記位置P2における組成が略同じとなる。このため、銀錫合金めっき層4の耐摩耗性及び耐熱性(接続信頼性)に優れたコネクタ用端子材1を提供できる。
また、銀ストライクめっき、銀錫合金めっきにシアン化物を含まないめっき液を用いており、排水処理が容易になるなど、環境負荷を低減できる。銀めっき層5を形成する際にもノーシアン浴とすれば、さらに環境負荷を低減できる。
【0029】
その他、細部構成は実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では、基材2と銀錫合金めっき層4との間にニッケルめっき層3が設けられていることとしたが、これに限らず、必ずしもニッケルめっき層3は含まれていなくてもよい。すなわち、基材2上に直接銀錫合金めっき層4が形成されてもよく、この場合、ニッケルめっき層形成工程及び銀ストライクめっき工程を行わなくてもよい。
また、端子材の表面の一部、具体的にはコネクタ端子として接点部となる部分に銀錫合金めっき層、銀めっき層を形成したが、表面全体に銀錫合金めっき層、銀めっき層を形成することは妨げない。
【実施例】
【0030】
銅合金からなる厚さ0.25mmの基材上にニッケルめっきを施して、膜厚1.0μmのニッケルめっき層を形成し、該ニッケルめっき層を形成した試料に対して、5質量%の水酸化カリウム水溶液を用いてニッケルめっき層表面を清浄化する活性化処理を行った。この活性化処理後に、ニッケルめっき層が被覆された基材に対して銀ストライクめっきを施した後、その上に銀錫合金めっき層及び銀めっき層を順に形成した各試料(試料1~10)を作製した。この際、銀錫合金めっき液におけるAgの量(g/L)、Snの量(g/L)及び電流密度は、表1に示す値とした。
【0031】
また、比較のため、ニッケルめっき層の上に銀錫合金めっき層を形成せずに、銀めっき層のみ膜厚2μmで形成したもの(試料11)、ニッケルめっき層の上に銀錫合金めっき層のみ膜厚2μmで形成し、銀めっき層を形成しなかったもの(試料12)、ニッケルめっき層の上にアンチモンが添加された銀合金めっき層を膜厚2μmで形成したもの(試料13)も作製した。
なお、各めっきの条件は以下のとおりとした。
【0032】
<ニッケルめっき条件>
・めっき浴組成
スルファミン酸ニッケル:300g/L
塩化ニッケル:30g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:45℃
・電流密度:3A/dm2
【0033】
<銀ストライクめっき条件>
・めっき浴組成
大和化成株式会社製 ダインシルバーGPE-ST
・アノード
IrO2/Ti不溶性アノード
・浴温:25℃
・電流密度:1A/dm2
【0034】
<銀錫合金めっき条件>
・めっき浴組成
遊離メタンスルホン酸:40g/L
メタンスルホン酸錫:20g/L
メタンスルホン酸銀:60g/L
有機添加剤:5mg/L
・浴温:50℃
・電流密度:10A/dm2
【0035】
<銀めっき条件>
・めっき浴組成
シアン化銀カリウム:55g/L
シアン化カリウム:130g/L
炭酸カリウム:15g/L
非イオン性界面活性剤:1g/L
2,2チオエタノール:5g/L
・アノード
純銀板
・浴温:25℃
・電流密度:5A/dm2
【0036】
なお、試料13のアンチモン入り銀合金めっき層は、日進化成株式会社製のアンチモンが添加されたニッシンブライトN浴を用いて、光沢銀めっきを実施することにより作製した。めっき浴の組成は、標準組成を用い、浴温25℃、電流密度1A/dm2とし、アノードとして純銀板を用い、膜厚2μmの銀合金めっき層(AgSb合金層)を形成した。
【0037】
得られた試料について、銀錫合金めっき層中のAg濃度(at%)、銀錫合金めっき層の膜厚、銀めっき層中のAg濃度(質量%)、銀めっき層の膜厚を測定し、耐摩耗性及び接触抵抗、耐熱剥離性を評価した。
【0038】
[銀錫合金めっき中のAg濃度(at%)]
収束イオンビーム装置(FIB)にてめっき材を加工して断面試料を作製し、銀錫合金めっき中のAg濃度は、日本電子株式会社製の電子線マイクロアナライザー:EPMA(型番JXA-8530F)を用いて、加速電圧10kV、ビーム径φ30μmとし、各試料の断面を測定した。
[銀めっき層中のAg濃度(質量%)]
アメテック株式会社製グロー放電質量分析計(Astrum)を用いて、以下の条件で測定した。
積分時間:160msec/Ch
放電電流:2.0mA
放電電圧:1.0kV
放電ガス:Ar(>99.9999)
予備放電:20min
【0039】
[各めっき層の膜厚]
収束イオンビーム装置(FIB)にてめっき材を加工して断面試料を作製し、その断面表面を走査イオン顕微鏡(SIM)で観察して測定した。
[耐摩耗性]
各試料を60mm×10mmの試験片に切り出し、平板サンプルをオス端子の代用とし、この平板サンプルに曲率半径2.5mmの凸加工を行ったサンプルをメス端子の代用とした。摺動試験は、ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置したオス端子試験片にメス試験片の凸面を接触させ、5Nの荷重を負荷した状態で、オス端子試験片を水平に移動距離5mm、摺動速度1Hzで摺動させ、摺動50回後の摩耗深さを、摺動試験後に平板サンプルの下地(ニッケル層)が露出しているか否かで判定した。この際、摩耗深さが2.5μm未満(摺動試験後に下地が露出していない)のものを良好「A」、摺動試験後に下地が露出しているものを不可「B」とした。
【0040】
[接触抵抗]
各試料のそれぞれを60mm×10mmの試験片に切り出し、平板サンプルをオス端子の代用とし、この平板サンプルに曲率半径2.5mmの凸加工を行ったサンプルをメス端子の代用とした。これらを加熱前及び150℃で250時間加熱後について、それぞれ接触抵抗を測定した。ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置したオス端子試験片にメス試験片の凸面を接触させ、オス端子試験片を荷重負荷速度1/15N/secで、0Nから10Nまで荷重をかけた時の10Nの時の接触抵抗値を4端子法により測定した。
【0041】
[耐熱剥離性]
耐熱剥離試験は、大気加熱炉にて150℃で1000時間加熱後、JISK5600-5-6に記載のクロスカット法にて試験を行い、皮膜が剥がれなかったものを良好「A」、1マスでも剥がれたものを不可「B」とした。
【0042】
【0043】
【0044】
表1及び表2から明らかなように、銀錫合金めっき層の上に銀めっき層が形成され、銀錫合金めっき層のAg濃度がAgを70at%以上85at%以下で、銀錫合金めっき層の膜厚が0.5μm以上10μm以下、銀めっき層の膜厚が0.05μm以上2.0μm以下である試料1~4、6、7は、150℃で250時間加熱後でも接触抵抗が1mΩ以下と小さく、耐摩耗性、耐熱剥離性ともに良好であった。なお、
図2は試料3の傾斜角60°の断面SIM像であり、基材(Cuと表記)表面のニッケルめっき層(Niと表記)の上に、銀錫合金めっき層(AgSnと表記)、銀めっき層(Agと表記)が形成されている。なお、ニッケルめっき層はすべて1.0μmの膜厚であった。また、銀めっき層はすべて99質量%以上の銀からなる銀めっき層であった。
これに対して、試料5は、銀錫合金めっき層の膜厚が0.4μmと小さいため、耐摩耗性が劣っていた。
試料8は、銀錫合金めっき層中のAg濃度が65at%であったことから、銀錫合金めっき層の析出が粗雑となり、その上の銀めっき層が成膜できなかった。
試料9は、銀錫合金めっき層中のAg濃度が95at%と高かったため、耐摩耗性に劣っていた。
試料10は、銀めっき層の膜厚が0.02μmと小さいため、加熱後の接触抵抗が増加した。
【符号の説明】
【0045】
1 コネクタ用端子材
2 基材
3 ニッケルめっき層
4 銀錫合金めっき層
5 銀めっき層