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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】回転角検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/12 20060101AFI20230627BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
G01D5/12 K
B62D5/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019091638
(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2020187000
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】蔵座 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊博
(72)【発明者】
【氏名】パランドレ ザビエ
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-249769(JP,A)
【文献】特表2018-527582(JP,A)
【文献】特開2009-98094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12
G01B 7/30
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転検出対象と一体回転する主動歯車と、
前記主動歯車に噛合する歯数の異なる2つの従動歯車と、
前記2つの従動歯車の回転角度を検出する2つのセンサと、
前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度に基づき前記主動歯車の回転角度を演算する演算回路と、を有し、
前記演算回路は、前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度の関係性が、前記演算回路により演算される前記主動歯車の回転角度が正常であるときの関係性と異なるとき、前記演算回路により演算される前記主動歯車の回転角度の異常を検出する異常検出部を有し
前記異常検出部は、前記2つの従動歯車の回転角度の関係性を示す値として演算される前記2つの従動歯車の回転量の積算値の差と、前記2つの従動歯車の回転量の積算値の理想的な差とに基づき、前記主動歯車の回転角度の異常を検出する第1の異常検出部を含み、
前記主動歯車の回転角度の異常は、前記主動歯車と前記2つの従動歯車との間の噛み合いにおける歯飛びに起因する前記主動歯車の回転角度の異常を含む回転角検出装置。
【請求項2】
前記異常検出部は、前記2つの従動歯車の回転角度の関係性を示す値として演算される前記2つの従動歯車の回転角度の差と、前記2つの従動歯車の回転角度の理想的な差とに基づき、前記主動歯車の回転角度の異常を検出する第2の異常検出部を含む請求項1に記載の回転角検出装置。
【請求項3】
前記異常検出部は、前記差が、前記理想的な値を基準として定められる許容範囲外の値であるとき、前記主動歯車の回転角度の異常を検出する請求項1または請求項2に記載の回転角検出装置。
【請求項4】
前記回転検出対象は、車両の操舵装置におけるステアリングシャフトあるいはピニオンシャフトである請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の回転角検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵機構にモータのトルクをアシスト力として付与するEPS(電動パワーステアリング装置)が存在する。EPSの制御装置は、操舵トルクおよび操舵角などに基づきモータを制御する。たとえば特許文献1のEPSは、EPSの動作信頼性を確保する観点から、メインとサブの2つの操舵トルクセンサ、メインとサブの2つの舵角センサ、およびメインとサブの2つのモータ回転角センサを有している。EPSの制御装置は、これらセンサの異常を検出する機能を有している。
【0003】
制御装置は、たとえば舵角センサの異常をつぎのようにして検出する。すなわち、制御装置は、2つのモータ回転角信号に基づき2つの舵角演算信号を演算し、これら舵角演算信号と、2つの舵角センサにより生成される2つの舵角検出信号との比較を通じて、メインあるいはサブの舵角センサにより生成される舵角検出信号の異常を検出する。ちなみに、制御装置は、操舵トルクセンサおよびモータ回転角センサの異常についても、舵角センサと同様に他のセンサの検出信号を使用して検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-58911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているセンサの異常検出方法は、EPSに複数の同一種のセンサが設けられていることを前提としている。製品仕様などによっては、舵角センサにより生成される舵角検出信号、ひいては舵角センサにより検出される操舵角の異常を、舵角センサ単体で検出することが要求される。
【0006】
本発明の目的は、回転角の異常を検出することができる回転角検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得る回転角検出装置は、回転検出対象と一体回転する主動歯車と、前記主動歯車に噛合する歯数の異なる2つの従動歯車と、前記2つの従動歯車の回転角度を検出する2つのセンサと、前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度に基づき前記主動歯車の回転角度を演算する演算回路と、を有している。前記演算回路は、前記2つのセンサを通じて検出される前記2つの従動歯車の回転角度の関係性が、前記演算回路により演算される前記主動歯車の回転角度が正常であるときの関係性と異なるとき、前記演算回路により演算される前記主動歯車の回転角度の異常を検出する異常検出部を有している。
【0008】
たとえば2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度に異常が生じた場合、これら2つの従動歯車の回転角度の関係性は、演算回路により演算される主動歯車の回転角度が正常であるときの関係性と異なる。また、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度に異常が生じた場合、これら2つの従動歯車の回転角度に基づき演算される主動歯車の回転角度は当然に正常値と異なる値となる。このため、上記の構成によるように、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度の関係性が、演算回路により演算される主動歯車の回転角度が正常であるときの関係性と異なることをもって、演算回路により演算される主動歯車の回転角度が異常であることを検出できる。
【0009】
上記の回転角検出装置において、前記異常検出部は、前記2つの従動歯車の回転角度の関係性を示す値として演算される前記2つの従動歯車の回転角度の差と、前記2つの従動歯車の回転角度の理想的な差とに基づき、前記主動歯車の回転角度の異常を検出してもよい。
【0010】
たとえば2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度に異常が生じた場合、これら2つの従動歯車の回転角度の差も異常値を示す。このため、上記の構成によるように、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度の差と、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度の理想的な差とに基づき、主動歯車の回転角度の異常を検出することができる。
【0011】
上記の回転角検出装置において、前記異常検出部は、前記2つの従動歯車の回転角度の関係性を示す値として演算される前記2つの従動歯車の回転量の差と、前記2つの従動歯車の回転量の理想的な差とに基づき、前記主動歯車の回転角度の異常を検出してもよい。
【0012】
たとえば2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度に異常が生じた場合、これら2つの従動歯車の回転量の差も異常値を示す。このため、上記の構成によるように、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転量の差と、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転量の理想的な差とに基づき、主動歯車の回転角度の異常を検出することができる。
【0013】
上記の回転角検出装置において、前記異常検出部は、前記2つの従動歯車の回転角度の関係性を示す値として演算される前記2つの従動歯車の回転量の積算値の差と、前記2つの従動歯車の回転量の積算値の理想的な差とに基づき、前記主動歯車の回転角度の異常を検出してもよい。
【0014】
たとえば2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転角度に異常が生じた場合、これら2つの従動歯車の回転量の積算値の差も異常値を示す。このため、上記の構成によるように、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転量の積算値の差と、2つのセンサを通じて検出される2つの従動歯車の回転量の積算値の理想的な差とに基づき、主動歯車の回転角度の異常を検出することができる。
【0015】
上記の回転角検出装置において、前記異常検出部は、前記差の値が、前記理想的な値を基準として定められる許容範囲外の値であるとき、前記主動歯車の回転角度の異常を検出してもよい。
【0016】
この構成によれば、主動歯車の回転角度の異常が過剰に検出されることを抑制することができる。また、許容範囲の設定如何で、より適切に主動歯車の回転角度の異常を検出することができる。
【0017】
上記の回転角検出装置において、前記回転検出対象は、車両の操舵装置におけるステアリングシャフトあるいはピニオンシャフトであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の回転角検出装置によれば、回転角の異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】回転角検出装置の第1の実施の形態の概略構成を示すブロック図。
図2】第1の実施の形態のマイクロコンピュータのブロック図。
図3】第1の実施の形態の第1の従動歯車と主動歯車の回転角度との関係、および第2の従動歯車の回転角度と主動歯車の回転角度との関係を示すグラフ。
図4】第1の実施の形態において、傾き調整後の第1の従動歯車の回転角度と主動歯車の回転角度との関係、および傾き調整後の第2の従動歯車の回転角度と主動歯車の回転角度との関係を示すグラフ。
図5】第1の実施の形態において、傾き調整後の第1の従動歯車の回転角度と傾き調整後の第2の従動歯車の回転角度との差と、主動歯車の回転角度との関係を示すグラフ。
図6】第1の実施の形態における実際の主動歯車の回転角度と主動歯車の回転角(絶対値)との関係を示すグラフ。
図7】第1の実施の形態における傾き調整後の第1の従動歯車の回転角度と傾き調整後の第2の従動歯車の回転角度との差の許容範囲を示すグラフ。
図8】第1の実施の形態における主動歯車の回転角度を演算する際に使用するテーブル。
図9】第2の実施の形態のマイクロコンピュータのブロック図。
図10】第2の実施の形態の異常検出部のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施の形態>
以下、回転角検出装置を具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、回転角検出装置10は、主動歯車11、第1の従動歯車12,および第2の従動歯車13を有している。これら主動歯車11、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は、合成樹脂材料により形成されている。主動歯車11は、検出対象であるシャフト14に対して一体回転可能に嵌められる。第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は、主動歯車11と噛み合っている。第1の従動歯車12の歯数と第2の従動歯車13の歯数とは互いに異なっている。このため、シャフト14の回転に連動して主動歯車11が回転した場合、主動歯車11の回転角度θに対する第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βは互いに異なる値となる。たとえば主動歯車11の歯数を「z」、第1の従動歯車12の歯数を「m」、第2の従動歯車13の歯数を「n」とした場合、主動歯車11が1回転したとき、第1の従動歯車12は「z/m」回転、第2の従動歯車13は「z/n」回転する。
【0021】
また、回転角検出装置10は、第1の磁石15、第2の磁石16、第1の磁気センサ17、第2の磁気センサ18、およびマイクロコンピュータ19を有している。
第1の磁石15は、第1の従動歯車12に対して一体回転可能に設けられている。第2の磁石16は、第2の従動歯車13に対して一体回転可能に設けられている。第1の磁気センサ17は、第1の磁石15の近傍に設けられていて、第1の磁石15から発せられる磁界を検出する。第2の磁気センサ18は、第2の磁石16の近傍に設けられていて、第2の磁石16から発せられる磁界を検出する。
【0022】
第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18としては、たとえば4つの磁気抵抗素子がブリッジ状に接続されてなるMRセンサが採用される。磁気抵抗素子の抵抗値は、与えられる磁界の向きに応じて変化する。第1の磁気センサ17は、第1の磁石15から発せられる磁束の方向の変化に基づき第1の従動歯車12の回転角度αを検出する。第2の磁気センサ18は、第2の磁石16から発せられる磁束の方向の変化に基づき第2の従動歯車13の回転角度βを検出する。具体的には、つぎの通りである。
【0023】
第1の磁気センサ17は、第1の従動歯車12の回転角度αに応じて連続的に変化する2つのアナログ信号である第1の正弦信号および第1の余弦信号を生成する。第1の正弦信号および第1の余弦信号は、第1の従動歯車12が第1の磁気センサ17の検出範囲Ωだけ回転したとき、すなわち主動歯車11が「(m/z)Ω」だけ回転したときに1周期となる。第1の余弦信号の位相は、第1の正弦信号に対して1/4周期だけずれる。第1の磁気センサ17は、第1の正弦信号および第1の余弦信号に基づく逆正接を演算することにより、第1の磁気センサ17の検出範囲(1周期)Ωにおける第1の従動歯車12の回転角度αを求める。
【0024】
第2の磁気センサ18は、第2の従動歯車13の回転角度βに応じて連続的に変化する2つのアナログ信号である第2の正弦信号および第2の余弦信号を生成する。第2の正弦信号および第2の余弦信号は、第2の従動歯車13が第2の磁気センサ18の検出範囲Ωだけ回転したとき、すなわち主動歯車11が「(n/z)Ω」だけ回転したときに1周期となる。第2の余弦信号の位相は、第2の正弦信号に対して1/4周期だけずれる。第2の磁気センサ18は、第2の正弦信号および第2の余弦信号に基づく逆正接を演算することにより、第2の磁気センサ18の検出範囲(1周期)Ωにおける第2の従動歯車13の回転角度βを求める。
【0025】
主動歯車11の回転角度θの変化に対して第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βは、図3のグラフに示されるように変化する。図3のグラフにおいて、横軸は主動歯車11の回転角度θを示す。また、図3のグラフにおいて、縦軸は第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βを示す。
【0026】
図3のグラフに示されるように、主動歯車11の回転角度θの変化に伴い第1の従動歯車12の回転角度αは、歯数mに応じて所定の周期で立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。具体的には、回転角度αは、第1の従動歯車12が第1の磁気センサ17の検出範囲Ωだけ回転する毎に、換言すれば主動歯車11が「mΩ/z」だけ回転する毎に、立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。また、第2の従動歯車13の回転角度βは、第2の従動歯車13の歯数nに応じて、所定の周期で立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。具体的には、回転角度βは、第2の従動歯車13が第2の磁気センサ18の検出範囲Ωだけ回転する毎に、換言すれば主動歯車11が「nΩ/z」だけ回転する毎に、立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。
【0027】
ここでは一例として、主動歯車11の歯数zを「48」、第1の従動歯車12の歯数mを「26」、第2の従動歯車13の歯数nを「24」、第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲Ωを360°とした場合について検討する。この場合、第1の従動歯車12の回転角度αは主動歯車11が195°だけ回転する毎に立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。また、第2の従動歯車13の回転角度βは主動歯車11が180°だけ回転する毎に、立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す。
【0028】
第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲Ωにおける第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βの位相差は、主動歯車11の回転角度θが所定値に達したときに無くなる。このため、主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θの演算範囲(演算できる範囲)は、第1の従動歯車12の歯数m、第2の従動歯車13の歯数n、ならびに主動歯車11の歯数zの比により決まる。主動歯車11の回転角度θの演算範囲Raは、たとえば次式(A)で表される。
【0029】
Ra=mnΩ/z(m-n) …(A)
ただし、「m」は第1の従動歯車12の歯数、「n」は第2の従動歯車13の歯数、「z」は主動歯車11の歯数である。また、「Ω」は第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲である。
【0030】
前述と同様に、主動歯車11の歯数zを「48」、第1の従動歯車12の歯数mを「26」、第2の従動歯車13の歯数nを「24」、第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲Ωを360°とした場合、主動歯車11の回転角度θの演算範囲は、2340°となる。
【0031】
図3のグラフでは、主動歯車11の回転角度θの演算範囲Raの中点を原点(回転角度θ=0°)としている。ここでは主動歯車11の回転角度θの演算範囲Raが2340°であることから、演算範囲Raの上限値は+1170°、下限値は-1170°となる。すなわち、この例では、「-1170°~+1170°」の範囲で主動歯車11の回転角度θを絶対値で演算することができる。この演算範囲Raは、シャフト14の6.5回転(±3.25回転)に相当する。また、主動歯車11の回転角度θは、シャフト14が原点である0°を基準として正方向へ回転するときにはプラス方向へ増大し、逆方向へ回転するときにはマイナス方向へ増大する。
【0032】
マイクロコンピュータ19は、第1の磁気センサ17により検出される第1の従動歯車12の回転角度α、および第2の磁気センサ18により検出される第2の従動歯車13の回転角度βを使用して主動歯車11、すなわちシャフト14の360°を超える多回転の回転角度θを絶対値で演算する。
【0033】
つぎに、マイクロコンピュータの構成を詳細に説明する。
図2に示すように、マイクロコンピュータ19は、傾き調整部21、差分演算部22、回転演算部23、絶対角度演算部24、および異常検出部25を有している。
【0034】
傾き調整部21は、主動歯車11の回転角度θの変化量に対する第1の従動歯車12の回転角度αの変化量の比率である第1の傾き、および主動歯車11の回転角度θの変化量に対する第2の従動歯車13の回転角度βの変化量の比率である第2の傾きを、これら傾きが同じ値になるように調整する。
【0035】
傾き調整部21は、たとえば第1の磁気センサ17により検出される第1の従動歯車12の回転角度αに次式(B1)で表される重みWαを乗ずるとともに、第2の磁気センサ18により検出される第2の従動歯車13の回転角度βに次式(B2)で表される重みWβを乗ずる。これにより、主動歯車11の回転角度θに対する第1の従動歯車12の回転角度αの傾きと、主動歯車11の回転角度θに対する第2の従動歯車13の回転角度βの傾きとが同じになる。
【0036】
α=m/LCMmn …(B1)
β=n/LCMmn …(B2)
ただし、「m」は第1の従動歯車12の歯数、「n」は第2の従動歯車13の歯数である。また、「LCMmn」は、第1の従動歯車12の歯数mと第2の従動歯車13の歯数nとの最小公倍数である。
【0037】
図4のグラフに示すように、主動歯車11の回転角度θの変化に対する傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′の変化を示す第1の波形の傾きと、主動歯車11の回転角度θの変化に対する傾き調整後の第2の従動歯車13の回転角度β′の変化を示す第2の波形の傾きとは互いに平行となる。
【0038】
差分演算部22は、傾き調整部21による傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβを演算する。主動歯車11の回転角度θと差Δαβとの関係は、つぎの通りである。
【0039】
図5のグラフに示すように、差Δαβの値は、第1の従動歯車12の回転角度αあるいは傾き調整部21による傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′が立ち上がりと立ち下がりを繰り返す周期ごとに、主動歯車11の回転角度θに対して固有の値となる。すなわち、差Δαβの値は、第1の従動歯車12の回転角度αあるいは傾き調整部21による傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′の周期数に対して固有の値となる。
【0040】
また、差Δαβの値は、第2の従動歯車13の回転角度βあるいは傾き調整部21による傾き調整後の第2の従動歯車13の回転角度β′が立ち上がりと立ち下がりを繰り返す周期ごとに、主動歯車11の回転角度θに対して固有の値となる。すなわち、差Δαβの値は、第2の従動歯車13の回転角度βあるいは傾き調整部21による傾き調整後の第2の従動歯車13の回転角度β′の周期数に対して固有の値となる。
【0041】
回転演算部23は、差分演算部22により演算される差Δαβの値に基づき第1の従動歯車12の周期数γを演算する。周期数γとは、第1の磁気センサ17により生成される第1の正弦信号および第1の余弦信号の何周期目か、すなわち第1の磁気センサ17の検出範囲(1周期)を何回繰り返しているかを示す整数値をいう。
【0042】
回転演算部23は、図示しない記憶装置に格納されるテーブルを参照することにより第1の従動歯車12の周期数γを演算する。
図8に示すように、テーブルTBは、3つの項目、すなわち傾き調整後の回転角度α′と回転角度β′との差Δαβの値の後述する許容範囲、差Δαβの理想値、および第1の従動歯車12の周期数γの関係を規定する。図8の例では、分類番号TN1~TN27で示されるように、主動歯車11の回転角度θの演算範囲の全域において、第1の磁気センサ17の検出範囲である360°毎に前述の3つの項目が規定されている。
【0043】
ただし実際には、テーブルTBとして、第1の磁気センサ17の分解能および第1の従動歯車12の歯数mなどに応じて決まる第1の従動歯車12の回転角度αの最小検出角度(たとえば2°)ごとに、前述の3つの項目を分類番号TN1~TN27に振り分けて設定したものを採用する。
【0044】
回転演算部23は、差分演算部22により演算される差Δαβの値が属する分類番号TN1~TN27を判定し、その判定される分類番号に対応する第1の従動歯車12の周期数γを検出する。たとえば、差分演算部22により演算される差Δαβの値が「-2160°」である場合、この差Δαβの値は分類番号TN7に属するため、第1の従動歯車12の周期数γ1が「-6」であることが分かる。
【0045】
絶対角度演算部24は、第1の磁気センサ17により検出される第1の従動歯車12の回転角度αおよび回転演算部23により演算される第1の従動歯車12の周期数γに基づき、主動歯車11の回転角度θを絶対角で演算する。主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θは、たとえば次式(C)に基づき求められる。
【0046】
θ=mα/z+(m/z)Ωγ …(C)
ただし、「m」は第1の従動歯車12の歯数、「n」は第2の従動歯車13の歯数、「z」は主動歯車11の歯数である。「Ω」は第1の磁気センサ17および第2の磁気センサ18の検出範囲である。「α」は第1の磁気センサ17により検出される第1の従動歯車12の回転角度である。「mα/z」は、第1の磁気センサ17の検出範囲Ωにおける第1の従動歯車12の回転角度αに対する主動歯車11の回転角度を示す。
【0047】
主動歯車11の実際の回転角度θと、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θ(絶対角)との関係は、図6のグラフに示される通りである。
図6のグラフにおいて、横軸は主動歯車11の実際の回転角度θ、縦軸は絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θ(絶対角)を示す。図6のグラフに示すように、主動歯車11の回転角度θ(絶対角)は、主動歯車11の実際の回転角度θの変化に伴い直線的に変化する。主動歯車11の実際の回転角度θと、主動歯車11の回転角度θ(絶対角)とが比例関係にあることから、主動歯車11の実際の回転角度θと主動歯車11の回転角度θ(絶対角)とは1対1で対応する。すなわち、主動歯車11の回転角度θ(絶対角)、すなわちシャフト14の絶対回転角度を即時に検出することが可能となる。
【0048】
異常検出部25は、差分演算部22により演算される傾き調整後の回転角度α′と回転角度β′との差Δαβの値に基づき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θ(絶対角)の異常を検出する。これは、差Δαβの値が異常であるとき、当該差Δαβの値に基づき演算される第1の従動歯車12の周期数γ、ひいては当該周期数γに基づき演算される主動歯車11の回転角度θについても異常である蓋然性が高いことに基づく。異常検出部25は、差Δαβの値が理想的な差Δαβの値である理想値を基準として定められる許容範囲外の値であるとき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θ(絶対角)が異常である旨判定する。
【0049】
図7のグラフに示すように、差Δαβの許容範囲は、上限値εと下限値-εとで規定される。上限値εは、差Δαβの理想値である「0」を基準とする正の値に設定される。下限値-εは、差Δαβの理想値である「0」を基準とする負の値に設定される。これら上限値εおよび下限値-εの設定方法については、後に詳述する。
【0050】
異常検出部25は、傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβの値が、その理想値に対して「±ε」の範囲内の値であるとき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θが正常である判定する。異常検出部25は、傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβの値が、その理想値に対して「±ε」の範囲外の値であるとき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θが異常である旨判定する。
【0051】
ちなみに、主動歯車11の回転角度θの異常が検出される場合、その旨運転者などに報知することにより、回転角検出装置10を修理するなどの何らかの対処を促すことが可能となる。また、主動歯車11の回転角度θの異常が検出される場合、主動歯車11の回転角度θの演算を中止したり、演算される回転角度θを使用しないようにしたりすることによって、回転角検出装置10の検出信頼性を確保することも可能となる。
【0052】
<上限値および下限値の設定方法>
つぎに、上限値εおよび下限値-εの設定方法を説明する。
上限値εおよび下限値-εは、傾き調整後の回転角度α′と回転角度β′との差Δαβの理想値と実際値とに基づき求められる。差Δαβの理想値Δαβは、次式(D1)で表される。差Δαβの実際値Δαβは、次式(D2)で表される。
【0053】
Δαβ=α′・Wα-β′・Wβ …(D1)
Δαβ=Δαβ+δαβ=(α′+δα)・Wα-(β′+δβ)・Wβ …(D2)
ただし、「α′」は傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度、「β′」は傾き調整後の第2の従動歯車13の回転角度である。また、「Wα」は先の式(B1)により求められる第1の従動歯車12の回転角度αに対する重み、「Wβ」は先の式(B2)により求められる第2の従動歯車13の回転角度βに対する重みである。
【0054】
また、「δαβ」は、差Δαβの理想値Δαβに対して許容される最大の公差である。「δα」は、回転角検出装置10が正常である場合、傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′を演算する際に許容される最大の公差である。「δβ」は、回転角検出装置10が正常である場合、傾き調整後の第2の従動歯車13の回転角度β′を演算する際に許容される最大の公差である。
【0055】
公差δαには、たとえば主動歯車11と第1の従動歯車12との間のバックラッシおよび組み立て公差などの機械的な公差、ならびに第1の磁気センサ17の検出精度および温度特性などに起因する電気的な公差が含まれる。また、公差δβには、たとえば主動歯車11と第2の従動歯車13との間のバックラッシおよび組み立て公差などの機械的な公差、ならびに第2の磁気センサ18の検出精度および温度特性などに起因する電気的な公差が含まれる。
【0056】
したがって、次式(D3)で表されるように、先の式(D1),(D2)から差Δαβの理想値Δαβに対して許容される最大の公差δαβを求めることができる。
δαβ=δα・Wα-δβ・Wβ …(D3)
本実施の形態では、次式(D4)で表されるように、差Δαβの理想値Δαβに対して許容される最大の公差δαβの絶対値が上限値εおよび下限値-εの絶対値として設定される。
【0057】
│δαβ│=│±ε│ …(D4)
このため、差Δαβの許容範囲Rαβは、次式(D5)で表される。
αβ=Δαβ±ε …(D5)
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0058】
(1)傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβの値に基づき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θの異常を検出することができる。これは、差Δαβの値が異常であるとき、当該差Δαβの値に基づき演算される第1の従動歯車12の周期数γ、ひいては当該周期数γに基づき演算される主動歯車11の回転角度θについても異常である蓋然性が高いことに基づく。
【0059】
(2)異常検出部25は、差分演算部22により演算される差Δαβの値が、その差Δαβの理想値を基準として定められる許容範囲外の値であるとき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θの異常を検出する。このため、主動歯車11の回転角度θが異常である旨過剰に判定されることが抑制される。
【0060】
たとえば、単に差Δαβの値と、その理想値との比較に基づき主動歯車11の回転角度θの異常を判定するようにした場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13の寸法公差などに起因して差Δαβの値が理想値と異なる値になることがあるところ、このような場合であれ主動歯車11の回転角度θが異常である旨判定されるおそれがある。このため、差Δαβの値がその理想値を基準として定められる許容範囲内の値であるかどうかに基づき主動歯車11の回転角度θの異常を判定することが好ましい。本実施の形態では、差Δαβの値の許容範囲を製品仕様などに応じて許容される最大の公差に基づき設定されるため、主動歯車11の回転角度θの異常をより適切に検出することができる。また、回転角検出装置10の動作信頼性を確保することもできる。
【0061】
(3)主動歯車11、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は、合成樹脂材料により形成されている。このため、歯車の噛合に伴う異音の発生を抑えることができる反面、長期間の使用に伴い第1の従動歯車12および第2の従動歯車13が摩耗するおそれがある。この摩耗に起因して、主動歯車11に対する従動歯車(12,13)の噛合状態が変化することにより、磁気センサ(17,18)により検出される従動歯車の回転角度α,β、ひいてはこれら回転角度α,βに基づき演算される主動歯車11の回転角度θが異常な値を示すことが懸念される。したがって、主動歯車11、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13が合成樹脂材料により形成されている場合、主動歯車11の回転角度θの異常を検出することが特に要求される。
【0062】
(4)主動歯車11の回転角度θの異常を検出するための特別な構成を回転角検出装置10に設ける必要がない。このため、回転角検出装置10の構成が複雑になることもない。
【0063】
(5)図5のグラフに示されるように、傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβの値は、傾き調整後の回転角度α′,β′が主動歯車11の回転角度θの変化に対して立ち上がりと立ち下がりとを繰り返す周期ごとに、主動歯車11の回転角度θに対して固有の値となる。このため、差Δαβの値は、第1の従動歯車12の周期数γあるいは第2の従動歯車13の周期数γ、ひいては主動歯車11の回転角度θを検出する用途に好適である。また、図5のグラフに示されるように、差Δαβの値は、主動歯車11の回転角度θの変化に対して矩形波状に変化する。このため、異常検出部25は、差Δαβの値をパターンとして認識しやすくなり、ひいては差Δαβの値とその理想値との比較を行いやすくなる。したがって、差Δαβの値は、主動歯車11の回転角度θの異常を検出する用途に好適である。ちなみに、傾き調整前の回転角度α,βの差の値は、たとえば主動歯車11の回転角度θの変化に対して直線状に変化する。
【0064】
<第2の実施の形態>
つぎに、回転角検出装置を具体化した第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、主動歯車11の回転角度θの異常判定方法の点で第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0065】
先の第1の実施の形態によれば、傾き調整後の第1の従動歯車12の回転角度α′と第2の従動歯車13の回転角度β′との差Δαβの値が、その許容範囲外の値であるかどうかに基づき、主動歯車11の回転角度θの異常を検出することができる。
【0066】
ところが、回転角検出装置10には、つぎのような事象が発生することが懸念される。たとえば主動歯車11と第1の従動歯車12との噛み合い、あるいは主動歯車11と第2の従動歯車13との噛み合いにおいて、いわゆる歯飛びが発生することが考えられる。また、磁気センサ(17,18)などの異常に起因して、従動歯車(12,13)の回転角度(α,β)として実際とは異なる異常値が演算される、いわゆるオフセット誤差が発生することも考えられる。そして、これらの事象に起因して、差Δαβの値が本来の周期数γに対応する許容範囲を大きく外れることにより、本来と異なる他の周期数γに対応する許容範囲内の値になることが想定される。
【0067】
たとえば、先の図8に示すように、差Δαβの値が本来は「0」であるにもかかわらず、回転角検出装置10の異常に起因して差Δαβの値が「360」と誤って演算される場合、回転演算部23は本来の周期数γが「0」であるにもかかわらず、周期数γを「-1」と誤って認識する。この場合、誤って認識された差Δαβの値である「360」は、周期数γが「-1」であるときの差Δαβの許容範囲内の値であるため、異常検出部25は異常を検出することが困難である。そこで、本実施の形態では、マイクロコンピュータ19として、つぎの構成を採用している。
【0068】
図9に示すように、マイクロコンピュータ19は、異常検出部25に加えて、もう一つの異常検出部26を有している。この異常検出部26は、第1の従動歯車12の回転量および第2の従動歯車13の回転量に基づき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θの異常を検出する。
【0069】
図10に示すように、異常検出部26は、2つの前回値保持部31a,31b、2つの減算器32a,32b、2つの積算値保持部33a,33b、2つの加算器34a,34b、換算部35、差分演算部36、および判定部37を有している。
【0070】
前回値保持部31aは、第1の磁気センサ17により演算される第1の従動歯車12の回転角度αを取り込み、この取り込まれる回転角度αを保持する。第1の磁気センサ17は、所定の演算周期で回転角度αを演算するところ、前回値保持部31aに保持される回転角度αは第1の磁気センサ17により回転角度αが演算される度に更新される。すなわち、前回値保持部31aに保持されている回転角度αは、第1の磁気センサ17により演算される今回値としての回転角度αに対する前回値(一演算周期前の回転角度α)である。
【0071】
減算器32aは、第1の磁気センサ17により演算される回転角度αの今回値から、前回値保持部31aに保持されている回転角度αの前回値を減算することにより、第1の従動歯車12の一演算周期における回転量Δαを演算する。
【0072】
積算値保持部33aは、後述する加算器34aにより演算される積算値Σαを取り込み、この取り込まれる積算値Σαを保持する。積算値保持部33aに保持される積算値Σαは加算器34aにより積算値Σαが演算される度に更新される。すなわち、積算値保持部33aに保持されている積算値Σαは、加算器34aにより演算される積算値Σαの今回値に対する前回値(一演算周期前の積算値Σα)である。
【0073】
加算器34aは、減算器32aにより演算される第1の従動歯車12の一演算周期における回転量Δαの今回値と、積算値保持部33aに保持されている回転量Δαの積算値Σαの前回値とを加算することにより、積算値Σαの今回値を演算する。
【0074】
前回値保持部31bは、第2の磁気センサ18により演算される第2の従動歯車13の回転角度βを取り込み、この取り込まれる回転角度βを保持する。前回値保持部31bに保持されている回転角度βは、第2の磁気センサ18により演算される回転角度βの今回値に対する前回値(一演算周期前の回転角度β)である。
【0075】
減算器32bは、第2の磁気センサ18により演算される回転角度βの今回値から、前回値保持部31bに保持されている回転角度βの前回値を減算することにより、第2の従動歯車13の一演算周期における回転量Δβを演算する。
【0076】
積算値保持部33bは、後述する加算器34bにより演算される積算値Σβを取り込み、この取り込まれる積算値Σβを保持する。積算値保持部33bに保持されている積算値Σβは、加算器34bにより演算される積算値Σβの今回値に対する前回値である。
【0077】
加算器34bは、減算器32bにより演算される第2の従動歯車13の一演算周期における回転量Δβの今回値と、積算値保持部33bに保持されている回転量Δβの積算値Σβの前回値とを加算することにより、積算値Σβの今回値を演算する。
【0078】
換算部35は、加算器34aにより演算される回転量Δαの積算値Σαを主動歯車11の回転角度θαに換算する。また、換算部35は加算器34bにより演算される回転量Δβの積算値Σβを主動歯車11の回転角度θβに換算する。これら換算される回転角度θα,θβは、理論的には同じ値になる。
【0079】
換算部35は、たとえば加算器34aにより演算される回転量Δαの積算値Σαに対して、主動歯車11と第1の従動歯車12とのギヤ比(=z/m)を乗算することにより、主動歯車11の回転角度θαを演算する。また、換算部35は、加算器34bにより演算される回転量Δβの積算値Σβに対して、主動歯車11と第2の従動歯車13とのギヤ比(=z/n)を乗算することにより、主動歯車11の回転角度θβを演算する。
【0080】
差分演算部36は、換算部35により演算される2つの回転角度θα,θβの差Δθαβを演算する。回転角度θαと回転角度θβとは理論的には同じ値になるため、差Δθαβの値は理論的には「0」となる。
【0081】
判定部37は、差分演算部36により演算される2つの回転角度θα,θβの差Δθαβの値が理想的な差Δθαβの値である理想値を基準として定められる許容範囲外の値であるとき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θが異常である旨判定する。
【0082】
差Δθαβの許容範囲は、上限値κと下限値-κとで規定される。上限値κは、差Δθαβの理想値である「0」を基準とする正の値に設定される。下限値-κは、差Δθαβの理想値である「0」を基準とする負の値に設定される。これら上限値κおよび下限値-κの設定方法については、後に詳述する。
【0083】
判定部37は、差分演算部36により演算される2つの回転角度θα,θβの差Δθαβの値が、その理想値(ここでは、「0」)に対して「±κ」の範囲内の値であるとき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θが正常である判定する。判定部37は、差分演算部36により演算される2つの回転角度θα,θβの差Δθαβの値が、その理想値に対して「±κ」の範囲外の値であるとき、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θが異常である旨判定する。
【0084】
つぎに、上限値κおよび下限値-κの設定方法を説明する。
上限値κおよび下限値-κは、差分演算部36により演算される2つの回転角度θα,θβの差Δθαβの理想値と実際値とに基づき求められる。差Δθαβの理想値Δθαβ1は、次式(E1)で表される。差Δθαβの実際値Δθαβ2は、次式(E2)で表される。
【0085】
Δθαβ1=θα・λ-θβ・λ=0 …(E1)
Δθαβ2=(θα+δ)・λ-(θβ+δ)・λ=0 …(E2)
ただし、「λ」は主動歯車11と第1の従動歯車12とのギヤ比(=z/m)、「λ」は主動歯車11と第2の従動歯車13とのギヤ比(=z/n)である。「δ」は、回転角検出装置10が正常である場合、差分演算部36により演算される回転角度θαに許容される最大の公差である。「δ」は、回転角検出装置10が正常である場合、差分演算部36により演算される回転角度θβに許容される最大の公差である。
【0086】
公差δには、たとえば主動歯車11と第1の従動歯車12との間のバックラッシおよび組み立て公差などの機械的な公差、ならびに第1の磁気センサ17の検出精度および温度特性などに起因する電気的な公差が含まれる。また、公差δには、たとえば主動歯車11と第2の従動歯車13との間のバックラッシおよび組み立て公差などの機械的な公差、ならびに第2の磁気センサ18の検出精度および温度特性などに起因する電気的な公差が含まれる。
【0087】
したがって、次式(E3)で表されるように、先の式(E1),(E2)から差Δθαβの理想値Δθαβ1に対して許容される最大の公差δ12を求めることができる。
δ12=δ・λ-δ・λ …(E3)
本実施の形態では、次式(E4)で表されるように、差Δθαβの理想値Δθαβ1に対して許容される最大の公差δ12の絶対値が上限値κおよび下限値-κの絶対値として設定される。
【0088】
│δ12│=│±κ│ …(E4)
このため、差Δθαβの許容範囲RΔαβは、次式(E5)で表される。
Δαβ=Δθαβ1±κ …(E5)
したがって、第2の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0089】
(6)2つの従動歯車(12,13)の少なくとも一方が主動歯車11の回転角度θに対して適切に回転していない場合、差分演算部36により演算される2つの回転角度θα,θβの差Δθαβの値が、その許容範囲RΔαβ外の値となる。このため、差分演算部36により演算される2つの回転角度θα,θβの差Δθαβの値が、その許容範囲RΔαβ内の値であるかどうかに基づき、従動歯車(12,13)が主動歯車11の回転角度θに対して適切に回転しているかどうかを判定することができる。ひいては、絶対角度演算部24により演算される主動歯車11の回転角度θが正常であるかどうかを判定することができる。
【0090】
(7)また、従動歯車(12,13)の回転量(Δα、Δβ)の積算値(Σα,Σβ)を主動歯車11の回転角度θα,θβに換算し、これら換算される回転角度θα,θβに基づき、主動歯車11の回転角度θの異常を検出する。たとえば、主動歯車11と2つの従動歯車(12,13)のいずれか一方との噛み合いにおいて、いわゆる歯飛びが発生した場合、第1の従動歯車12の回転量Δαの積算値Σαと、第2の従動歯車13の回転量Δβの積算値Σβとが大きく乖離する。このため、2つの回転角度θα,θβの差Δθαβは、許容範囲RΔαβから外れた値になる蓋然性が高い。このため、差Δαβの値が本来の周期数γに対応する許容範囲を大きく外れることにより、本来と異なる他の周期数γに対応する許容範囲内の値になるなどの異常についても適切に検出することができる。
【0091】
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態において、マイクロコンピュータ19として、傾き調整部21を割愛した構成を採用してもよい。第1の磁気センサ17により検出される第1の従動歯車12の回転角度αと第2の磁気センサ18により検出される第2の従動歯車13の回転角度αとの差の値と、当該差の理想値との比較を通じて、主動歯車11の回転角度θの異常を検出することも可能である。
【0092】
・第1の実施の形態において、先の図2に二点鎖線で示すように、異常検出部25は、主動歯車11の回転角度θの異常を検出するに際して、回転演算部23により演算される周期数γを取り込み、この取り込まれる周期数γに基づき、先の図8に示されるテーブルTBを参照するようにしてもよい。このようにすれば、異常検出部25は、周期数γが分かることによって、差分演算部22により演算される傾き調整後の回転角度α′と回転角度β′との差Δαβの今回値の許容範囲を、より迅速に認識することができる。このため、異常検出部25は主動歯車の回転角度θの異常をより迅速に検出することができる。
【0093】
・第2の実施の形態において、マイクロコンピュータ19として、主動歯車11の回転角度θの異常を検出する部分として、異常検出部26のみを有する構成を採用してもよい。このようにしても、主動歯車11の回転角度θの異常を検出することができる。
【0094】
・第2の実施の形態において、製品仕様などによって、いわゆる歯飛びなどに起因する主動歯車11の回転角度θの異常を検出しなくてもよいのであれば、先の図10に示される異常検出部26として、加算器34a,34bおよび積算値保持部33a,33bを割愛した構成を採用してもよい。この場合、換算部35は2つの従動歯車(12,13)の回転量Δα,Δβを主動歯車11の回転角度θα,θβに換算する。また、差分演算部36は、換算部35により換算された回転角度θα,θβの差Δθαβを演算する。そして判定部37は、差Δθαβの値が、その理想値を基準として設定される許容範囲内の値であるかどうかに基づき、主動歯車11の回転角度θの異常を検出する。ただし、許容範囲を規定する上限値κおよび下限値-κは、つぎのようにして設定される。
【0095】
すなわち、この場合の差Δθαβの理想値Δθαβ1は、次式(F1)で表される。また、この場合の差Δθαβの実際値Δθαβ2は、次式(F2)で表される。
Δθαβ1=Δα・λ-Δβ・λ=0 …(F1)
Δθαβ2=(Δα+δ)・λ-(Δβ+δ)・λ=0 …(F2)
したがって、次式(F3)で表されるように、先の式(F1),(F2)から差Δθαβの理想値Δθαβ1に対して許容される最大の公差δ12を求めることができる。
【0096】
δ12=δ・λ-δ・λ …(F3)
そして、次式(F4)で表されるように、差Δθαβの理想値Δθαβ1に対して許容される最大の公差δ12の絶対値が上限値κおよび下限値-κの絶対値として設定される。
【0097】
│δ12│=│±κ│ …(F4)
・第1および第2の実施の形態において、主動歯車11、第1の従動歯車12および第2の従動歯車13は、金属材料により形成してもよい。
【0098】
・第1および第2の実施の形態において、回転演算部23は、差分演算部22により演算される差Δαβの値に基づき第2の従動歯車13の周期数γを演算するようにしてもよい。この場合、テーブルTBとしては、差Δαβと第2の従動歯車13の周期数γとの関係を規定するものを採用する。回転演算部23により第2の従動歯車13の周期数γが演算される構成が採用される場合、絶対角度演算部24は、第2の磁気センサ18により検出される第2の従動歯車13の回転角度βおよび回転演算部23により演算される第2の従動歯車13の周期数γに基づき、主動歯車11の360°を超える多回転の回転角度θを絶対値で演算する。このようにしても、主動歯車11の回転角度θ、すなわちシャフト14の絶対回転角度を即時に検出することが可能である。
【0099】
・第1および第2の実施の形態において、2つの従動歯車(12,13)の回転角度α,βを検出する磁気センサ(17,18)として、ホールセンサあるいはレゾルバなどを採用してもよい。また、2つの従動歯車(12,13)の回転角度α,βを検出するセンサとして、光学式のセンサを採用してもよい。
【0100】
・第1および第2の実施の形態において、第1の従動歯車12の回転角度αおよび第2の従動歯車13の回転角度βは、マイクロコンピュータ19、具体的には絶対角度演算部24により演算するようにしてもよい。
【0101】
・第1および第2の実施の形態において、シャフト14の一例としては、車両の操舵装置において、ステアリングホイールの操作に連動して回転するステアリングシャフト、あるいはラックアンドピニオン機構を構成するピニオンシャフトなどが挙げられる。また、回転角検出装置10は、車両の操舵装置以外の種々の機械装置のシャフトの回転角度を検出する用途に好適である。
【符号の説明】
【0102】
10…回転角検出装置、11…主動歯車、12…第1の従動歯車、13…第2の従動歯車、14…シャフト(回転検出対象、ステアリングシャフト、ピニオンシャフト)、17…第1の磁気センサ、18…第2の磁気センサ、19…マイクロコンピュータ(演算回路)、25,26…異常検出部、α…第1の従動歯車の回転角度、β…第2の従動歯車の回転角度、Δα…第1の従動歯車の回転量、Δβ…第2の従動歯車の回転量、Σα…第1の従動歯車の回転量の積算値、Σβ…第2の従動歯車の回転量の積算値。
図1
図2
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図10