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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】光モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/0222 20210101AFI20230627BHJP
   H01S 5/02224 20210101ALI20230627BHJP
   H01S 5/02208 20210101ALI20230627BHJP
【FI】
H01S5/0222
H01S5/02224
H01S5/02208
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019109244
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020202319
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-11-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】京野 孝史
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 陽平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真也
(72)【発明者】
【氏名】池上 隆俊
【審査官】淺見 一喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069775(WO,A1)
【文献】特開2013-076780(JP,A)
【文献】特表2019-511845(JP,A)
【文献】特表2016-522576(JP,A)
【文献】特開2019-074651(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0285936(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を形成する光形成部と、
前記光形成部を収容する第1空間を規定し、前記光形成部を封止する保護部材と、を備え、
前記光形成部は、
レーザダイオードと、
前記レーザダイオードからの光を走査するミラーを含み、前記ミラーが前記第1空間内に露出するように配置されるMEMSと、を含み、
前記保護部材は、平板状の基部と、キャップと、を含み、
前記キャップは、
第1部分と、
前記第1部分により一方の開口が塞がれ、環状である第2部分と、
前記第2部分の他方の開口を取り囲むとともに、前記第2部分と交差するように接続され、環状である第3部分と、
前記基部の厚さ方向に延び、前記第3部分の外周を取り囲むとともに、前記第3部分と直交するように接続され、環状である第4部分と、を含み、
前記基部と前記第4部分とが溶接され、
前記第1空間内の圧力は、大気圧よりも低く、0.15気圧以上である、光モジュール。
【請求項2】
前記第1空間内の圧力は、0.8気圧以下である、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記レーザダイオードは、半導体レーザチップである、請求項1または請求項2に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記第1空間内の酸素の分圧が、0.03気圧以上である、請求項3に記載の光モジュール。
【請求項5】
前記第1空間内の水分濃度が、3000ppm以下である、請求項3または請求項4に記載の光モジュール。
【請求項6】
前記レーザダイオードは、赤外光を出射する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光モジュール。
【請求項7】
前記光形成部は、
複数の前記レーザダイオードと、
前記複数のレーザダイオードから出射される光を合波するフィルタと、をさらに含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光モジュール。
【請求項8】
前記複数のレーザダイオードは、
赤色の光を出射する赤色レーザダイオードと、
緑色の光を出射する緑色レーザダイオードと、
青色の光を出射する青色レーザダイオードと、を含む、請求項7に記載の光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子からの光を出射する発光部と、発光部からの光を走査するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)とを含む光モジュールが知られている(たとえば、特許文献1および2参照)。このような光モジュールは、発光部からの光をMEMSによって所望の経路に沿って走査することにより、文字や図形などを描画することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-3591号公報
【文献】特開2013-200562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記光モジュールにおいては、小型化が求められている。また、上記MEMSは、揺動することにより、発光部からの光を走査するミラーを含む。MEMSのミラーの機械的振れ角は大きいことが望ましい。
【0005】
そこで、小型化を達成しつつ、ミラーの機械的振れ角を大きくすることができる光モジュールを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った光モジュールは、光を形成する光形成部と、光形成部を収容する第1空間を規定し、光形成部を封止する保護部材と、を備える。光形成部は、レーザダイオードと、レーザダイオードからの光を走査するミラーを含み、ミラーが第1空間内に露出するように配置されるMEMSと、を含む。第1空間内の圧力は、大気圧よりも低く、0.15気圧以上である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、小型化を達成しつつ、ミラーの機械的振れ角を大きくすることができる光モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1における光モジュールの構造を示す概略斜視図である。
図2図2は、実施の形態1における光モジュールの構造を示す概略斜視図である。
図3図3は、キャップを取り外した状態における実施の形態1の光モジュールの構造を示す概略斜視図である。
図4図4は、キャップを取り外した状態における実施の形態1の光モジュールの構造を示す概略斜視図である。
図5図5は、実施の形態1における光モジュールの構造を示す概略図である。
図6図6は、実施の形態1における光モジュールの構造を示す概略図である。
図7図7は、実施の形態1における光モジュールの製造方法の概略を示すフローチャートである。
図8図8は、溶接前のキャップの構造を示す概略斜視図である。
図9図9は、基部に対してキャップが溶接される状態を示す概略断面図である。
図10図10は、基部に対してキャップが溶接される状態を示す概略断面図である。
図11図11は、第1空間内の圧力とミラーの機械的振れ角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示の光モジュールは、光を形成する光形成部と、光形成部を収容する第1空間を規定し、光形成部を封止する保護部材と、を備える。光形成部は、レーザダイオードと、レーザダイオードからの光を走査するミラーを含み、ミラーが第1空間内に露出するように配置されるMEMSと、を含む。第1空間内の圧力は、大気圧よりも低く、0.15気圧以上である。
【0010】
本開示の光モジュールにおいては、第1空間に露出するミラーを含むMEMSが、保護部材によって封止されている。したがって、パーケージ内に封止されたMEMSを含む光モジュールに比べて、小型化を図ることができる。また、本開示の光モジュールにおいて、第1空間内の圧力は、大気圧よりも低い。このため、第1空間内に露出するミラーが受ける空気抵抗を抑制することができる。したがって、ミラーの機械的振れ角を大きくすることができる。一方、第1空間内の圧力が0.15気圧未満である場合には、ミラーの機械的振れ角を増加させる効果が飽和してしまう。したがって、第1空間内の圧力は、0.15気圧以上に設定される。このように、本開示の光モジュールによれば、小型化を達成しつつ、ミラーの機械的振れ角を大きくすることができる。
【0011】
上記光モジュールにおいては、第1空間内の圧力が、0.8気圧以下であってもよい。このように第1空間内の圧力を0.8気圧以下とすることで、ミラーの機械的振れ角をさらに大きくすることができる。
【0012】
上記光モジュールにおいては、レーザダイオードが、半導体レーザチップであってもよい。このようにすることで、光モジュールの小型化をより一層図ることができる。ここで、半導体レーザチップとは、CANタイプのような金属製の容器内に封入されておらず、チップが第1空間内に露出した状態のレーザダイオードをいう。
【0013】
上記光モジュールにおいては、第1空間内の酸素(O)の分圧が、0.03気圧以上であってもよい。レーザダイオードの端面には酸化物からなるコーティング膜が形成されている場合がある。酸素の分圧を0.03気圧以上とすることで、上記コーティング膜からの酸素原子の脱離を抑制することができる。したがって、レーザダイオードの耐久性を向上させることができる。
【0014】
上記光モジュールにおいては、第1空間内の水分濃度が、3000ppm以下であってもよい。これにより、レーザダイオードの耐久性を向上させることができる。
【0015】
上記光モジュールにおいては、レーザダイオードは、赤外光を出射してもよい。このようにすることにより、光モジュールを、たとえばセンシング用途に使用可能なものとすることができる。
【0016】
上記光モジュールは、複数のレーザダイオードと、複数のレーザダイオードから出射される光を合波するフィルタと、をさらに備えてもよい。このような構成とすることで、複数のレーザダイオードから出射された光をフィルタによって合波し、合波された光を出射することができる。
【0017】
上記光モジュールにおいて、複数のレーザダイオードは、赤色の光を出射する赤色レーザダイオードと、緑色の光を出射する緑色レーザダイオードと、青色の光を出射する青色レーザダイオードと、を含んでもよい。このような構成とすることで、所望の色の光を形成することができる。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示にかかる光モジュールの実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0019】
(実施の形態1)
まず、図1図6を参照して実施の形態1について説明する。図1は、実施の形態1における光モジュールの構造を示す概略斜視図である。図2は、図1とは異なる視点から見た光モジュールの構造を示す概略斜視図である。図3は、図1のキャップ40を取り外した状態に対応する斜視図である。図4は、図2のキャップ40を取り外した状態に対応する斜視図である。図5は、キャップ40を断面にて、他の部品を平面視にて示したX-Y平面における概略図である。図6は、キャップ40を断面にて、他の部品を平面視にて示したX-Z平面における概略図である。
【0020】
図1図6を参照して、本実施の形態における光モジュール1は、光を形成する光形成部20と、光形成部20を取り囲み、光形成部20を封止する保護部材2とを備える。保護部材2は、ベース体としての基部10と、基部10に対して溶接された蓋部であるキャップ40と、を含む。つまり、光形成部20は、保護部材2によりハーメチックシールされている。光形成部20は、基部10およびキャップ40によって取り囲まれた第1空間40A内に収容されている。
【0021】
基部10は、平板状の形状を有する。光形成部20は、基部10の一方の主面10A上に配置される。キャップ40は、光形成部20を覆うように基部10の一方の主面10A上に接触して配置される。基部10の他方の主面10B側から一方の主面10A側まで貫通し、一方の主面10A側および他方の主面10B側の両側に突出するように、複数のリードピン51が基部10に設置されている。基部10とキャップ40とにより取り囲まれる第1空間40Aには、たとえば乾燥空気などの水分が低減(除去)された気体が封入されている。第1空間40A内の圧力は、大気圧よりも低く、0.15気圧以上である。第1空間40Aの圧力は、好ましくは0.8気圧以下であり、さらに好ましくは0.2気圧以上0.4気圧以下である。第1空間40A内の圧力は、例えば質量分析計を用いて第1空間40A内に封入された気体の20℃、1気圧における体積を測定することにより求めることができる。本実施の形態において、第1空間40A内の酸素の分圧が、0.03気圧以上である。第1空間40A内の酸素の分圧は、例えば質量分析計を用いて測定することができる。本実施の形態において、第1空間40A内の水分濃度が、3000ppm以下である。第1空間40A内の水分濃度は、例えば質量分析計を用いて測定することができる。キャップ40には、窓42が形成されている。窓42には、たとえば平行平板状のガラス部材が嵌め込まれている。本実施の形態において、保護部材2は、内部を気密状態とする気密部材である。
【0022】
図3図6を参照して、光形成部20は、ベース部材4と、レーザダイオード81,82,83と、フィルタ97,98,99と、アパーチャ部材55と、MEMS120とを含む。
【0023】
ベース部材4は、電子温度調整モジュール30と、ベース板60と、MEMSベース65とを含む。電子温度調整モジュール30は、平板状の形状を有する吸熱板31および放熱板32と、電極を挟んで吸熱板31と放熱板32との間に並べて配置される半導体柱33とを含む。吸熱板31および放熱板32は、たとえばアルミナからなっている。放熱板32が基部10の一方の主面10Aに接触するように、電子温度調整モジュール30は基部10の一方の主面10Aに配置される。
【0024】
吸熱板31に接触するように、吸熱板31上にベース板60と、MEMSベース65とが配置される。ベース板60は、板状の形状を有する。ベース板60は、平面的に見て長方形形状(正方形形状)を有する一方の主面60Aを有している。ベース板60の一方の主面60Aは、レンズ搭載領域61と、チップ搭載領域62と、フィルタ搭載領域63とを含んでいる。チップ搭載領域62は、一方の主面60Aの一の辺を含む領域に、当該一の辺に沿って形成されている。レンズ搭載領域61は、チップ搭載領域62に隣接し、かつチップ搭載領域62に沿って配置されている。フィルタ搭載領域63は、一方の主面60Aの上記一の辺と向かい合う他の辺を含む領域に、当該他の辺に沿って配置されている。チップ搭載領域62、レンズ搭載領域61およびフィルタ搭載領域63は、互いに平行である。
【0025】
レンズ搭載領域61におけるベース板60の厚みと、フィルタ搭載領域63におけるベース板60の厚みとは、等しい。レンズ搭載領域61とフィルタ搭載領域63とは同一平面に含まれる。チップ搭載領域62におけるベース板60の厚みは、レンズ搭載領域61およびフィルタ搭載領域63に比べて大きい。その結果、レンズ搭載領域61およびフィルタ搭載領域63に比べて、チップ搭載領域62の高さ(レンズ搭載領域61を基準とした高さ、すなわちレンズ搭載領域61に垂直な方向における高さ)が高くなっている。
【0026】
チップ搭載領域62上には、平板状の第1サブマウント71、第2サブマウント72および第3サブマウント73が、一方の主面60Aの上記一の辺に沿って並べて配置されている。第1サブマウント71と第3サブマウント73とに挟まれるように、第2サブマウント72が配置されている。第1サブマウント71上に、第1レーザダイオードとしての赤色レーザダイオード81が配置されている。第2サブマウント72上に、第2レーザダイオードとしての緑色レーザダイオード82が配置されている。第3サブマウント73上に、第3レーザダイオードとしての青色レーザダイオード83が配置されている。本実施の形態において、レーザダイオード81,82,83は、半導体レーザチップである。赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83の光軸の高さ(一方の主面60Aのレンズ搭載領域61を基準面とした場合の基準面と光軸との距離;Z軸方向における基準面との距離)は、第1サブマウント71、第2サブマウント72および第3サブマウント73により調整されて一致している。
【0027】
レンズ搭載領域61上には、第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93が配置されている。第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93は、それぞれ表面がレンズ面となっているレンズ部91A,92A,93Aを有している。第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93は、レンズ部91A,92A,93Aとレンズ部91A,92A,93A以外の領域とが一体成型されている。第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93のレンズ部91A,92A,93Aの中心軸、すなわちレンズ部91A,92A,93Aの光軸は、それぞれ赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83の光軸に一致する。第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93は、それぞれ赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83から出射される光のスポットサイズを変換する(ある投影面におけるビーム形状を所望の形状に整形する)。第1レンズ91、第2レンズ92および第3レンズ93により、赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83から出射される光がコリメート光に変換される。
【0028】
フィルタ搭載領域63上には、第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99が配置される。赤色レーザダイオード81と第1レンズ91とを結ぶ直線上に、第1フィルタ97が配置される。緑色レーザダイオード82と第2レンズ92とを結ぶ直線上に、第2フィルタ98が配置される。青色レーザダイオード83と第3レンズ93とを結ぶ直線上に、第3フィルタ99が配置される。第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99は、それぞれ互いに平行な主面を有する平板状の形状を有している。第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99は、たとえば波長選択性フィルタである。第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99は、たとえば誘電体多層膜フィルタである。
【0029】
より具体的には、第1フィルタ97は、赤色の光を反射する。第2フィルタ98は、赤色の光を透過し、緑色の光を反射する。第3フィルタ99は、赤色の光および緑色の光を透過し、青色の光を反射する。このように、第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99は、特定の波長の光を選択的に透過および反射する。その結果、第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99は、赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83から出射された光を合波する。
【0030】
アパーチャ部材55は、吸熱板31上に配置される。アパーチャ部材55は、第3フィルタ99から見て第2フィルタ98とは反対側に配置される。アパーチャ部材55は、平板状の形状を有する。アパーチャ部材55は、アパーチャ部材55を厚み方向に貫通する貫通孔55Aを有する。本実施の形態において、貫通孔55Aの延在方向に垂直な断面における形状は円形である。貫通孔55Aが、第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99において合波された光の光路に対応する領域に位置するように、アパーチャ部材55は配置される。貫通孔55Aは、第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99において合波された光の光路に沿って延在する。レーザダイオード81,82,83から出射された光の、光の進行方向に垂直な断面における形状は楕円形である。光の進行方向に垂直な断面において、フィルタ97,98,99にて合波された光の長径よりも貫通孔55Aの直径が小さく、かつ貫通孔55Aの中心軸と合波された光の光軸が一致するように、アパーチャ部材55は配置される。その結果、フィルタ97,98,99にて合波された光の進行方向に垂直な断面における形状は、アパーチャ部材55の貫通孔55Aの内径より小さな形状に整形される。
【0031】
MEMSベース65は、三角柱(直三角柱)形状を有する。三角柱の一の側面において吸熱板31に接触するように、MEMSベース65は吸熱板31上に配置される。MEMSベース65の他の側面上に、ミラー121を含むMEMS120が配置される。MEMSベース65およびMEMS120は、アパーチャ部材55から見て第3フィルタ99とは反対側に配置される。本実施の形態において、ミラー121は円盤状の形状を有する。ミラー121は、第1空間40Aに露出するように配置される。ミラー121が、アパーチャ部材55において整形された光の光路に対応する領域に位置するように、MEMS120は配置される。ミラー121は、所望の方向および角度で揺動させることができる。その結果、ミラー121を含むMEMS120により、アパーチャ部材55において整形された光を走査することができる。
【0032】
図5を参照して、赤色レーザダイオード81、第1レンズ91のレンズ部91Aおよび第1フィルタ97は、赤色レーザダイオード81の光の出射方向に沿う一直線上に並んで(Y軸方向に並んで)配置されている。緑色レーザダイオード82、第2レンズ92のレンズ部92Aおよび第2フィルタ98は、緑色レーザダイオード82の光の出射方向に沿う一直線上に並んで(Y軸方向に並んで)配置されている。青色レーザダイオード83、第3レンズ93のレンズ部93Aおよび第3フィルタ99は、青色レーザダイオード83の光の出射方向に沿う一直線上に並んで(Y軸方向に並んで)配置されている。
【0033】
赤色レーザダイオード81の出射方向、緑色レーザダイオード82の出射方向および青色レーザダイオード83の出射方向は、互いに平行である。第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99の主面は、それぞれ赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83の出射方向(Y軸方向)に対して45°傾斜している。
【0034】
基部10とベース板60およびMEMSベース65との間には、電子温度調整モジュール30が配置されている。吸熱板31がベース板60およびMEMSベース65に接触して配置される。放熱板32は、基部10の一方の主面10Aに接触して配置される。本実施の形態において、電子温度調整モジュール30は、電子冷却モジュールであるペルチェモジュール(ペルチェ素子)である。本実施の形態では、電子温度調整モジュール30に電流を流すことにより、吸熱板31に接触するベース板60の熱が基部10へと移動し、ベース板60およびMEMSベース65が冷却される。その結果、レーザダイオード81,82,83およびMEMS120の温度が適切な温度範囲に調整される。また、赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83の温度を適正な範囲に維持することで、所望の色の光を精度よく形成することが可能となる。さらに、MEMS120を適切な温度に調整することにより、温度変化に対する動作の安定性を向上させることができる。
【0035】
次に、本実施の形態における光モジュール1の動作について説明する。図5を参照して、赤色レーザダイオード81から出射された赤色の光は、光路Lに沿って進行する。この赤色の光は、第1レンズ91のレンズ部91Aに入射し、光のスポットサイズが変換される。具体的には、たとえば赤色レーザダイオード81から出射された赤色の光がコリメート光に変換される。第1レンズ91においてスポットサイズが変換された赤色の光は、光路Lに沿って進行し、第1フィルタ97に入射する。
【0036】
第1フィルタ97は赤色の光を反射するため、赤色レーザダイオード81から出射された光は光路Lに沿ってさらに進行し、第2フィルタ98に入射する。第2フィルタ98は赤色の光を透過するため、赤色レーザダイオード81から出射された光は光路Lに沿ってさらに進行し、第3フィルタ99に入射する。第3フィルタ99は赤色の光を透過するため、赤色レーザダイオード81から出射された光は光路Lに沿ってさらに進行し、アパーチャ部材55に到達する。アパーチャ部材55に到達した光は、アパーチャ部材55により整形され、光路Lに沿ってさらに進行し、ミラー121に到達する。
【0037】
緑色レーザダイオード82から出射された緑色の光は、光路Lに沿って進行する。この緑色の光は、第2レンズ92のレンズ部92Aに入射し、光のスポットサイズが変換される。具体的には、たとえば緑色レーザダイオード82から出射された緑色の光がコリメート光に変換される。第2レンズ92においてスポットサイズが変換された緑色の光は、光路Lに沿って進行し、第2フィルタ98に入射する。
【0038】
第2フィルタ98は緑色の光を反射するため、緑色レーザダイオード82から出射された光は光路Lに沿ってさらに進行し、第3フィルタ99に入射する。第3フィルタ99は緑色の光を透過するため、緑色レーザダイオード82から出射された光は光路Lに沿ってさらに進行し、アパーチャ部材55に到達する。アパーチャ部材55に到達した緑色の光は、アパーチャ部材55により整形され、光路Lに沿ってさらに進行し、ミラー121に到達する。
【0039】
青色レーザダイオード83から出射された青色の光は、光路Lに沿って進行する。この青色の光は、第3レンズ93のレンズ部93Aに入射し、光のスポットサイズが変換される。具体的には、たとえば青色レーザダイオード83から出射された青色の光がコリメート光に変換される。第3レンズ93においてスポットサイズが変換された青色の光は、光路Lに沿って進行し、第3フィルタ99に入射する。
【0040】
第3フィルタ99は青色の光を反射するため、青色レーザダイオード83から出射された光は光路Lに沿ってさらに進行し、アパーチャ部材55に到達する。アパーチャ部材55に到達した青色の光は、アパーチャ部材55により整形され、光路Lに沿ってさらに進行し、ミラー121に到達する。
【0041】
このようにして、赤色、緑色および青色の光が合波されて形成された光(合波光)が光路Lに沿ってミラー121へと到達する。そして、図6を参照して、ミラー121が駆動されることにより合波光が走査され、光路L10に沿って窓42を通ってキャップ40の外部へと出射する合波光により文字、図形などが描画される。
【0042】
次に、本実施の形態1における光モジュール1の製造方法について説明する。図7を参照して、実施の形態1における光モジュール1の製造方法においては、まず、工程(S10)として、基部10と、基部10上に配置され、レーザダイオード81,82,83を含む光形成部20とを含む第1構造体を準備する工程が実施される。この工程(S10)では、レーザダイオード81,82,83を含む各種部品が図3および図4に基づく上記説明に従って組み合された基部10および光形成部20を含む第1構造体が準備される。
【0043】
次に、工程(S20)として、基部10に対してキャップ40を溶接する工程が実施される。図8を参照して、溶接前のキャップ40は、第1部分401と、第2部分402と、第3部分403と、第4部分404と、を含む。Z軸方向に平面的に見て、第1部分401の外形形状は、角丸長方形状である。第2部分402は、筒状の形状を有する。第2部分402の一方の開口を塞ぐように第1部分401が接続されている。Z軸方向に交差(直交)するように環状の第3部分403が配置される。第3部分403は、第2部分402の他方の開口を取り囲む部分に接続されている。第3部分403は、Z軸方向に平面的に見て、第2部分402の外周を含むように接続されている。第3部分403から見て、第2部分とは反対側に環状の第4部分404が配置されている。第4部分404は、Z軸方向に平面的に見て、第3部分403の外周を含むように接続されている。第4部分404は、第3部分に交差(直交)するように延びる。第4部分404は、主面10Aに溶接される部分である。
【0044】
図9を参照して、レーザダイオード81,82,83およびMEMS120が基部10およびキャップ40に取り囲まれるように、キャップ40が基部10上に配置される。より具体的には、溶接前のキャップ40の第4部分404が、基部10の主面10Aに全周に亘って接触するように配置される。
【0045】
そして、溶接前のキャップ40と、第1構造体とが、溶接装置43を用いて溶接される。溶接装置43は、第1電極411と、第2電極412と、容器413と、を含む。第1電極411は直方体状の形状を有する。第1電極411には、キャップ40の第1部分401および第2部分402に対応した形状を有する凹部411Aが形成されている。第2電極412は直方体状の形状を有する。第2電極412には、全ての複数のリードピン51を挿入可能な形状を有する凹部412Aが形成されている。容器413は、第1電極411および第2電極を収容可能な内部空間413Aを有する。容器413は、内部空間413Aに外部から空気や酸素ガスを導入するためのバルブ414を含む。容器413には、内部空間413Aの圧力を減圧するための真空ポンプ415が接続されている。容器413には、内部空間413Aの圧力を計測するための圧力計416が接続されている。
【0046】
第1電極411の凹部411Aにキャップ40の第1部分401および第2部分402が挿入される。この際に、第3部分403と第1電極411とが接触するように配置される。次に、第2電極412の凹部412Aに複数のリードピン51が挿入される。この際に、基部10の主面10Bと第2電極412とが接触するように配置される。そして、第1空間40A内の圧力を圧力計416によって計測しながら、第1空間40A内の圧力が減圧される。第1空間40A内の圧力は、基部10とキャップ40とが溶接された後に大気圧よりも低く、0.15気圧以上になるように調節される。次に、第1電極411を矢印Sの向きに押圧しながら、第3部分403と主面10Aとの間に通電することにより、基部10とキャップ40とが溶接される。その結果、図10に示すようにキャップ40と基部10との接合領域405が形成される。
【0047】
図8に示すようなキャップ40は、開口部の外周領域において、主面10Aに対する平坦性を確保することが難しい。特にプレスによってキャップ40を形成する場合、キャップ40にひずみが生じやすい。そのため主面10Aの上に静置すると、上記外周領域の一部が基部10から離れ、主面10Aと第3部分403との間に部分的にすき間が生じる場合がある。主面10Aと第3部分403との間に部分的にすき間が生じた状態で溶接すると溶接不良によりリークが発生する。上記のように溶接が実施されることで、基部10とキャップ40との間の接合不良を低減することができる。したがって、基部10およびキャップ40に取り囲まれた第1空間40Aをより確実に気密状態とすることができる。
【0048】
ここで、本実施の形態における光モジュール1においては、レーザダイオード81,82,83およびMEMS120が、保護部材2によって封止されている。したがって、小型化を図ることができる。また、第1空間40A内の圧力は、大気圧よりも低く、0.15気圧以上であるため、ミラー121が受ける空気抵抗を抑制することができる。したがって、ミラー121の機械的振れ角を大きくすることができる。このように、本実施の形態における光モジュール1によれば、小型化を達成しつつ、ミラー121の機械的振れ角を大きくすることができる。
【0049】
上記実施の形態においては、第1空間40A内の酸素の分圧が、0.03気圧以上である。第1空間40A内の酸素の上記分圧は、容器413の内部空間413Aに導入される気体の成分を調節しつつ、基部10とキャップ40とを溶接することで実現される。レーザダイオード81,82,83の端面には酸化物からなるコーティング膜が形成されている場合がある。酸素の分圧を0.03気圧以上とすることで、上記コーティング膜からの酸素原子の脱離を抑制することができる。したがって、レーザダイオード81,82,83の耐久性を向上させることができる。
【0050】
上記実施の形態においては、第1空間40A内の水分濃度が、3000ppm以下である。第1空間40A内の上記水分濃度は、容器413の内部空間413Aに乾燥空気などの水分が低減された気体を導入しつつ、基部10とキャップ40とを溶接することで実現される。水分がレーザダイオード81,82,83に付着すると、レーザダイオード81,82,83の熱によって、水分に含まれる有機物が分解する場合がある。分解した有機物がレーザダイオード81,82,83の端面に形成されたコーティング膜に付着すると、コーティング膜が劣化し、レーザダイオード81,82,83の耐久性が低下してしまう。したがって、第1空間40A内の水分濃度を3000ppm以下にすることで、レーザダイオードの耐久性を向上させることができる。
【0051】
上記実施の形態においては、キャップ40の基部10の主面10Aに対向する領域に窓42が配置されている。このような構成とすることで、第2部分402に配置される場合に比べ、基部10に対してキャップ40を溶接する際に窓42に嵌め込まれているガラス部材にかかる応力を低減することができる。したがって、第1空間40Aを良好な気密状態にすることができる。
【0052】
なお、上記の実施の形態においては、光モジュール1は、赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83を含む構成としたが、これに限らず、いずれか1色または2色、すなわち、赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82および青色レーザダイオード83のうち1つまたは2つを含む構成であればよい。また、これらのレーザダイオードの1つに代えて、赤外光を出射する赤外レーザダイオードを用いてもよい。赤外レーザダイオードを用いる場合には、垂直共振器面発光型レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)であってもよい。また、VCSELが複数配置された素子(VCSELアレイ)を用いてもよい。
【0053】
また、上記実施の形態においては、第1フィルタ97、第2フィルタ98および第3フィルタ99として波長選択性フィルタが採用される場合を例示したが、これらのフィルタは、たとえば偏波合成フィルタであってもよい。また、レーザダイオード81,82,83としてチップ状のレーザダイオードが採用される場合について説明したが、レーザダイオードのチップが、たとえばCANタイプのような金属製の容器内に封入された構造を有するものを採用するようにしてもよい。
【実施例
【0054】
上記実施の形態と同様の構造を有する光モジュールにおいて、第1空間40A内の圧力を変化させて、MEMS120のミラー121の機械的振れ角を大きくすることができる効果を確認する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。
【0055】
上記実施の形態1と同様に、赤色レーザダイオード81、緑色レーザダイオード82、青色レーザダイオード83およびMEMS120が、基部10およびキャップ40によって封止されている構造を採用して、光モジュール1のサンプルを作製した。MEMS120に印加される電圧は、10Vである。第1空間40A内の圧力を1atmから5×10-5atmまで変化させた時のMEMS120のミラー121の機械的振れ角(水平振れ角)を測定した。
【0056】
図11は、サンプル1における上記測定結果を示す図である。横軸は第1空間40A内の圧力(atm)を示し、縦軸はミラー121の機械的振れ角(°)を示す。図11を参照して、第1空間40A内の圧力を1atmから減圧することで、ミラー121の機械的振れ角が増加している。また、第1空間40Aの圧力を0.15atm未満に減圧したとしても、ミラー121の機械的振れ角を増加させる効果は飽和している。したがって、第1空間40A内の圧力は、大気圧よりも低く、0.15気圧以上とすることが好ましい。このように本開示の光モジュール1によれば、ミラー121の機械的振れ角を大きくすることができる。
【0057】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示の光モジュールは、小型化を達成しつつ、ミラーの機械的振れ角を大きくすることが求められる場合において特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0059】
1 光モジュール
2 保護部材
4 ベース部材
10 基部
10A,10B,60A 主面
20 光形成部
30 電子温度調整モジュール
31 吸熱板
32 放熱板
33 半導体柱
40 キャップ
40A 第1空間
42 窓
43 溶接装置
51 リードピン
55 アパーチャ部材
55A 貫通孔
60 ベース板
61 レンズ搭載領域
62 チップ搭載領域
63 フィルタ搭載領域
65 MEMSベース
71 第1サブマウント
72 第2サブマウント
73 第3サブマウント
81 赤色レーザダイオード
82 緑色レーザダイオード
83 青色レーザダイオード
91 第1レンズ
91A,92A,93A レンズ部
92 第2レンズ
93 第3レンズ
97 第1フィルタ
98 第2フィルタ
99 第3フィルタ
120 MEMS
121 ミラー
401 第1部分
402 第2部分
403 第3部分
404 第4部分
405 接合領域
411 第1電極
411A,412A 凹部
412 第2電極
413 容器
413A 内部空間
414 バルブ
415 真空ポンプ
416 圧力計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11