(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20230627BHJP
C23C 16/507 20060101ALI20230627BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
H05H1/46 L
C23C16/507
H01L21/302 101C
(21)【出願番号】P 2019122726
(22)【出願日】2019-07-01
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】入澤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-041685(JP,A)
【文献】特開2013-084730(JP,A)
【文献】特開2013-197304(JP,A)
【文献】特表2015-501518(JP,A)
【文献】特開2018-154861(JP,A)
【文献】特表2002-518165(JP,A)
【文献】特表2018-527697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/46
C23C 16/507
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室に配置された被処理物をプラズマを用いて真空処理するプラズマ処理装置であって、
前記処理室を形成する容器本体と、
前記処理室の外部に設けられ、高周波電源に接続されて高周波磁場を生じさせるアンテナと、
前記アンテナに対向するように前記容器本体に設けられ、前記アンテナから生じた高周波磁場を前記処理室内に透過させる磁場透過窓と、
前記磁場透過窓に対する前記アンテナの傾きを調節する傾き調節機構と
を備え、
前記アンテナが、前記磁場透過窓に対向する部分が直線状を成しており、
前記傾き調節機構が、前記アンテナにおける、前記磁場透過窓に対向する部分よりも外側の両端部を把持してこれを上下方向に昇降させることで、前記アンテナの傾きを調節するプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記傾き調節機構が、前記アンテナと前記磁場透過窓との間の距離を調節可能である請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記アンテナが、電気的に直列に接続された複数の導体要素を含む請求項
1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記傾き調節機構が、前記複数の導体要素の傾きを個別に調節する請求項
3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記傾き調節機構が、隣り合う2つの前記導体要素の傾きを同時に調節する請求項
3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記磁場透過窓が、前記容器本体の壁に形成された開口を塞ぐように設けられた窓部材により形成されており、
前記窓部材が、
前記開口を塞ぐように設けられ、厚さ方向に貫通するスリットが形成されている金属板と、
前記金属板に接触して支持され、前記スリットを前記処理室の外部側から塞ぐ誘電体板と、
を備えている請求項1~
5のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
処理室に配置された被処理物をプラズマを用いて真空処理するプラズマ処理装置であって、
前記処理室を形成する容器本体と、
前記処理室の外部に設けられ、高周波電源に接続されて高周波磁場を生じさせるアンテナと、
前記アンテナに対向するように前記容器本体に設けられ、前記アンテナから生じた高周波磁場を前記処理室内に透過させる磁場透過窓と、
前記磁場透過窓に対する前記アンテナの傾きを調節する傾き調節機構と
を備え、
前記アンテナが、電気的に直列に接続された複数の導体要素を含み、
前記傾き調節機構が、前記複数の導体要素の傾きを個別に調節するプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマを用いて被処理物を処理するプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンテナに高周波電流を流し、それによって生じる誘導電界によって誘導結合型のプラズマ(略称ICP)を発生させ、この誘導結合型のプラズマを用いて基板等の被処理物に処理を施すプラズマ処理装置が従来から提案されている。このようなプラズマ処理装置として、特許文献1には、アンテナを真空容器の外部に配置し、真空容器の側壁に設けた誘電体窓を通じてアンテナから生じた高周波磁場を真空容器内に透過させることで、処理室内にプラズマを発生させるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したようなアンテナを真空容器の外部に配置するプラズマ処理装置では、処理室内において基板の表面方向に沿ったプラズマ密度分布の偏りが大きいと、例えばスパッタリング等を行った際に均一な厚みを有する膜を基板上に作製することが困難となる。そのため、このようなプラズマ処理装置では、処理室に供給される高周波磁場の強度分布の偏りを低減し、処理室内に生成されるプラズマ密度の分布を低減することが求められる。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、処理室の外部にアンテナを配置するものにおいて、処理室に生成されるプラズマ密度分布の偏りを低減できるプラズマ処理装置を提供することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係るプラズマ処理装置は、処理室に配置された被処理物をプラズマを用いて真空処理するものであって、前記処理室を形成する容器本体と、前記処理室の外部に設けられ、高周波電源に接続されて高周波磁場を生じさせるアンテナと、前記アンテナに対向するように前記容器本体に設けられ、前記アンテナから生じた高周波磁場を前記処理室内に透過させる磁場透過窓と、前記磁場透過窓に対する前記アンテナの傾きを調節する傾き調節機構とを備えることを特徴とする。
【0007】
アンテナに高周波電力を印加して高周波磁場を生じさせるものでは、アンテナの長手方向に沿って電位が変化するため、処理室内で形成されるプラズマ密度の分布はアンテナの長手方向に沿って均一ではなく偏りを生じる傾向がある。
本発明は上記構成を備えることで、磁場透過窓に対するアンテナの傾きを調節することができるので、例えば、高い強度の高周波磁場を生じさせるアンテナの一端部を磁場透過窓から遠ざけ、あるいは低い強度の高周波磁場を生じさせるアンテナの一端部を磁場透過窓に近づけることにより、処理室内に供給される高周波磁場の強度の偏りを低減し、処理室内に生成されるプラズマ密度分布の偏りを低減することができる。
【0008】
前記プラズマ処理装置は、前記傾き調節機構が前記アンテナと前記磁場透過窓との間の距離を調節可能であることが好ましい。
このような構成であれば、アンテナと磁場透過窓の距離を調節できるので、真空処理の種類や仕様等に応じて、処理室内に供給される高周波磁場の強度を適切な範囲に設定することができる。
【0009】
前記プラズマ処理装置の具体的態様として、前記アンテナが前記磁場透過窓に対向する部分が直線状を成しているものを挙げることができる。より具体的な態様として、前記アンテナが電気的に直列に接続された複数の導体要素を含むものを挙げることができる。
【0010】
アンテナが直列に接続された複数の導体要素を含む場合、前記プラズマ処理装置は、前記傾き調節機構が前記複数の導体要素の傾きを個別に調節するように構成されていることが好ましい。
このような構成であれば、アンテナを構成する複数の導体要素の傾きを個別に調節できるので、アンテナと磁場透過窓間の距離を、アンテナの長手方向に沿って細かく調節することができる。これにより、処理室内に供給される高周波磁場の強度のアンテナ長手方向に沿った偏りをより一層低減し、処理室内に生成されるプラズマ密度分布の偏りをより一層低減することができる。
【0011】
またアンテナが複数の導体要素を含む場合、前記プラズマ処理装置は、前記傾き調節機構が、隣り合う2つの前記導体要素の傾きを同時に調節するように構成されていることが好ましい。
このような構成であれば、2つの導体要素の傾きを一つの動作で同時に(すなわち一挙に)調節できるので、傾きの調節作業に要する労力を低減できる。
【0012】
前記プラズマ処理装置は、前記磁場透過窓が、前記容器本体の壁に形成された開口を塞ぐように設けられた窓部材により形成されており、前記窓部材が、前記開口を塞ぐように設けられ、厚さ方向に貫通するスリットが形成されている金属板と、前記金属板に接触して支持され、前記スリットを前記処理室の外部側から塞ぐ誘電体板と、を備えていることが好ましい。
【0013】
このような構成であれば、金属板に形成されたスリットと、その上に配置された誘電体板とによって、アンテナから発生する高周波磁場を処理室側に透過させる磁場透過窓を形成することができる。これにより、磁場透過窓を形成する部材の一部をセラミックス等の誘電体材料よりも靭性が大きい金属材料で構成しているので、誘電体材料だけで磁場透過窓を構成する場合に比べて磁場透過窓の厚みを小さくすることができる。また、誘電体板が金属板に接触して支持されているので、真空処理時における誘電体板の変形を軽減し、誘電体板内に発生する曲げ応力を低減できる。そのため誘電板自体の厚みを小さくすることができる。これにより、アンテナから処理室までの距離を短くすることができ、アンテナから生じた高周波磁場を処理室内に効率よく供給することができる。
【発明の効果】
【0014】
このようにした本発明によれば、処理室の外部にアンテナを配置するものにおいて、処理室に生成されるプラズマ密度分布の偏りを低減できるプラズマ処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のプラズマ処理装置の全体構成を模式的に示すアンテナの長手方向に直交する断面図。
【
図2】同実施形態のプラズマ処理装置の傾き調節機構の構成を模式的に示すアンテナの長手方向に沿った断面図。
【
図3】同実施形態のプラズマ処理装置の傾き調節機構の構成を模式的に示すアンテナ側から視た平面図。
【
図4】同実施形態のプラズマ処理装置の昇降機構の構成を模式的に示す断面図。
【
図5】同実施形態のプラズマ処理装置のアンテナの傾き調節動作を模式的に示す断面図。
【
図6】他の実施形態のプラズマ処理装置の傾き調節機構の構成を模式的に示すアンテナの長手方向に沿った断面図。
【
図7】他の実施形態のプラズマ処理装置の傾き調節機構の構成を模式的に示すアンテナ側から視た平面図。
【
図8】他の実施形態のプラズマ処理装置の傾き調節機構の構成を模式的に示すアンテナ側から視た平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明するプラズマ処理装置は本発明の技術的思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り本発明を以下のものに限定しない。また、一の実施形態において説明する内容は、他の実施形態にも適用可能である。また、各図面が示す部材の大きさや位置関係などは、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0017】
<装置構成>
本実施形態に係るプラズマ処理装置100は、誘導結合型のプラズマPを用いて基板等の被処理物Wに真空処理を施すものである。ここで基板は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板、フレキシブルディスプレイ用のフレキシブル基板等である。また基板に施す処理は、例えば、プラズマCVD法による膜形成、エッチング、アッシング、スパッタリング等である。なお、本実施形態のプラズマ処理装置100は、プラズマCVD法によって膜形成を行う場合はプラズマCVD装置、エッチングを行う場合はプラズマエッチング装置、アッシングを行う場合はプラズマアッシング装置、スパッタリングを行う場合はプラズマスパッタリング装置とも呼ばれる。
【0018】
具体的にプラズマ処理装置100は、
図1に示すように、真空排気され且つガスGが導入される処理室1が内側に形成された真空容器2と、処理室1の外部に設けられたアンテナ3と、アンテナ3に高周波を印加する高周波電源4とを備えている。真空容器2にはアンテナ3から生じた高周波磁場を処理室1内に透過させる磁場透過窓5が形成されている。高周波電源4からアンテナ3に高周波電力を印加すると、アンテナ3から発生した高周波磁場が磁場透過窓5を透過して処理室1内に供給されることで処理室1内の空間に誘導電界が発生し、これにより誘導結合型のプラズマPが生成される。以下、各部について説明する。
【0019】
真空容器2は、容器本体21と、磁場透過窓5を形成する窓部材22とを備えている。
【0020】
容器本体21は例えば金属製の容器であり、その壁(内壁)によって処理室1が内側に形成されている。容器本体21の壁(ここでは上壁21a)には、厚さ方向に貫通する開口部211が形成されている。窓部材22はこの開口部211を塞ぐように容器本体21に着脱可能に取り付けられている。なお容器本体21は電気的に接地されており、容器本体21と窓部材22との間はOリング等のガスケットや接着剤により真空シールされている。
【0021】
窓部材22は、
図2及び
図3に示すように、処理室1側からアンテナ3側に向かって順に設けられた金属板221と誘電体板222とを備える。金属板221は、その厚さ方向に貫通する複数のスリット221sが形成されており、容器本体21の開口部211を塞ぐように設けられている。誘電体板222は、金属板221に接触して支持され、スリット221sを処理室1の外部側(すなわちアンテナ3側)から塞ぐように、金属板221のアンテナ3側の表面に設けられている。本実施形態では、金属板221のスリット221sとこれを塞ぐ誘電体板222によって磁場透過窓5が形成されている。すなわち、アンテナ3から生じる高周波磁場は、誘電体板222とスリット221sを透過して処理室1に供給される。なお、開口211を塞ぐ金属板221と、金属板221のスリット221sを塞ぐ誘電体板222によって、処理室1内における真空が保持される。
【0022】
ここでは各スリット221sは、平面視してアンテナ3と直交する方向に長手方向をとる細帯状を成すものであり、アンテナ3と処理室1との間に位置するようにアンテナ3の直下に互いに平行に形成されている。各スリット221sの数や向きは適宜変更されてよい。
【0023】
金属板221を構成する材料は、例えばCu、Al、Zn、Ni、Sn、Si、Ti、Fe、Cr、Nb、C、Mo、W又はCoを含む群から選択される1種の金属又はそれらの合金(例えばステンレス合金、アルミニウム合金等)等であってよい。
【0024】
誘電体板222を構成する材料は、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、石英ガラス、無アルカリガラス等の無機材料、フッ素樹脂(例えばテフロン)等の樹脂材料等の既知の材料であってよい。
【0025】
真空容器2は、真空排気装置6によって処理室1が真空排気されるように構成されている。また真空容器2は、例えば流量調整器(図示省略)及び容器本体21に設けられた複数のガス導入口212を経由して、処理室1にガスGが導入されるように構成されている。ガスGは、基板Wに施す処理内容に応じたものにすればよい。例えば、プラズマCVD法によって基板に膜形成を行う場合には、ガスGは、原料ガス又はそれを希釈ガス(例えばH2)で希釈したガスである。より具体例を挙げると、原料ガスがSiH4の場合はSi膜を、SiH4+NH3の場合はSiN膜を、SiH4+O2の場合はSiO2膜を、SiF4+N2の場合はSiN:F膜(フッ素化シリコン窒化膜)を、それぞれ基板上に形成することができる。
【0026】
また、真空容器2内には、基板Wを保持する基板ホルダ7が設けられている。この例のように、基板ホルダ7にバイアス電源8からバイアス電圧を印加するようにしてもよい。バイアス電圧は、例えば負の直流電圧等であるが、これに限られるものではない。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマP中の正イオンが基板Wに入射する時のエネルギーを制御して、基板Wの表面に形成される膜の結晶化度の制御等を行うことができる。基板ホルダ7内に、基板Wを加熱するヒータ71を設けておいてもよい。
【0027】
図3に示すように、プラズマ処理装置100は、電気的に並列に接続された複数本(ここでは2本)のアンテナ3を備えており、各アンテナ3は磁場透過窓5に対向するように処理室1の外部に配置されている。各アンテナ3は、その長手方向が互いに平行になるとともに、処理室1に設けられる基板Wの表面と実質的に平行になるように配置されている。
【0028】
各アンテナ3は同一構成のものであり、磁場透過窓5に対向する部分が直線状を成すものである。アンテナ3の一端部である給電端部3aは、整合回路41を介して高周波電源4が接続されており、他端部である終端部3bは直接接地されている。なお、終端部3bは、コンデンサ又はコイル等を介して接地されてもよい。
【0029】
ここで各アンテナ3は、内部に冷却液(図示しない)が流通可能な流路が形成されている中空構造のものである。具体的に各アンテナ3は、
図2及び
図3に示すように、電気的に直列に接続された少なくとも2つの導体要素31と、互いに隣り合う導体要素31と電気的に直列接続された容量素子であるコンデンサ32とを備えている。ここでは各アンテナ3は、2つの導体要素31と、その間に設けられた1つのコンデンサ32とを備えている。各導体要素31は、外観視してU字形状を成し、かつ磁場透過窓5に対向する部分が直線状を成す同一形状のものである。各導体要素31には、内部に冷却液が流れる流路が形成されている。各導体要素31の材質は、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金又はステンレス等の金属であるが、これに限られるものではなく適宜変更してもよい。
【0030】
各アンテナ3をこのように構成することによって、アンテナ3の合成リアクタンスは、簡単に言えば、誘導性リアクタンスから容量性リアクタンスを引いた形になるので、アンテナ3のインピーダンスを低減させることができる。その結果、アンテナ3を長くする場合でもそのインピーダンスの増大を抑えることができ、アンテナ3に高周波電流が流れやすくなり、処理室1内に誘導結合型のプラズマPを効率良く発生させることができる。
【0031】
高周波電源4は、整合回路41を介して各アンテナ3に高周波の電力を印加する。これにより、各アンテナ3には高周波電流が流れ、処理室1内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。当該高周波の周波数は、例えば例えば13.56MHz~100MHzが好ましいが、これに限られるものではない。
【0032】
しかして本実施形態のプラズマ処理装置100は、処理室1内に生成されるプラズマPの密度分布を細かく調節できるように、
図2及び
図3に示すように、磁場透過窓5に対するアンテナ3の傾きを調節する傾き調節機構9を備える。ここで「磁場透過窓5に対するアンテナ3の傾き」とは、例えばアンテナ3の長手方向に沿った距離の変化量に対する、磁場透過窓5とアンテナ3間の距離の変化量の比を意味する。
【0033】
傾き調節機構9は、少なくとも各アンテナ3の両端部をそれぞれ把持するように設けられた複数の昇降機構91を有している。この昇降機構91は、容器本体21の上面21bに取り付けられ、アンテナ3の端部を把持してこれを上下方向(基板Wの被処理面に対して垂直な方向)に昇降させるものである。傾き調節機構9は、各アンテナ3の両端部に設けられた昇降機構91によりアンテナ3の両端部をそれぞれ昇降させることで、各アンテナ3の磁場透過窓5に対する傾き、さらには各アンテナ3の磁場透過窓5からの距離を調節することができる。ここで「アンテナ3の端部」とは、アンテナ3における磁場透過窓5に対向している部分よりも外側の部分を意味する。
【0034】
ここで、1つの昇降機構91の構成について説明する。具体的にこの昇降機構91は、
図4に示すように、アンテナ3を把持する把持部911と、把持部911を上下方向に沿って昇降させる昇降部912とを有する。
【0035】
把持部911は、アンテナ3の側周面を挟んで保持するものであり、具体的にはクランプ部材913により構成される。このクランプ部材913は、少なくともアンテナ3と接触する部分が絶縁性が高い材料によって構成されている。
【0036】
昇降部912は、把持部911が上下方向に沿って真っすぐ昇降できるように誘導するガイド部912aと、把持部911に対して上下方向への駆動力を与える駆動部912bとを有する。
【0037】
ガイド部912aは、具体的には、容器本体21の上面21bに取り付けられた略板状を成すベース部材914と、ベース部材914の上面914aから上下方向の上向きに真っすぐ伸びるように設けられた1つ又は複数のガイド軸915と、クランプ部材913の上面913aから下面913bにかけて形成された貫通孔913оとを含む。クランプ部材913は、その貫通孔913о内をガイド軸915が挿通するように配置されており、これにより把持部911は、ガイド軸915に沿って上下方向に沿って真っすぐ昇降できる。
【0038】
駆動部912bは、具体的には、胴部917aにネジ溝が形成されたボルト部材917を含む。
【0039】
ボルト部材917は、その軸方向が前記上下方向と平行になるように、ベース部材914の上面914aに起立させて設けられている。ボルト部材917の先端部はベース部材914の上面914aに回転自在に取り付けられている。クランプ部材913には、上面913aから下面913bにかけて貫通し、周面にネジ溝が設けられた貫通孔が形成されており、ボルト部材917はその胴部917aがこの貫通孔に螺合するように設けられている。そしてこのボルト部材917を軸周りに回転させると、クランプ部材913に対する軸方向への推力に変化され、以てクランプ部材913を該軸方向に沿って進退させることができる。
【0040】
このボルト部材917を軸周りの一方向に回転させると、クランプ部材913を下方向に進める推力が生じ、これにより把持部911は下方向に移動する。一方、ボルト部材917を軸周りの逆方向に回転させると、クランプ部材913を上方向に進める推力が生じ、これにより把持部911は上方向に移動する。このようにボルト部材917を軸周りに回転させるだけで、把持部911により把持されるアンテナ3を昇降させることができる。
【0041】
なお昇降機構91は、弾性力によってクランプ部材913の下面913bに対して上向きの力を作用させる弾性部材916を備えている。弾性部材916は、具体的には圧縮コイルバネであり、その伸縮方向がボルト部材917の軸方向と平行になるように、ベース部材914とクランプ部材913との間に設けられている。弾性部材916は、その一端がベース部材914の上面914aに接触し、他端がクランプ部材913の下面913bに接触しており、クランプ部材913の下面913bに対して常に上向きの力を作用させる。これにより、クランプ部材913がガタつかないようにしている。
【0042】
傾き調節機構9は、
図2及び
図3に示すように、このような構成の昇降機構91を、アンテナ3が有する各導体要素31の両端部にそれぞれ備えている。これにより傾き調節機構9は、各導体要素31の両端部をそれぞれ把持して昇降させ、磁場透過窓5に対する各導体要素31の傾きを個別に調節することができる。またこれにより、各導体要素31の磁場透過窓5からの距離を個別に調節することができる。
【0043】
ここで本実施形態の傾き調節機構9では、
図2及び
図3に示すように、直列に接続された互いに隣り合う2つの導体要素31の間に設けられた2つの昇降機構91(すなわち、隣接する2つの導体要素31の互いの近接する端部を昇降させる2つの昇降機構91)が共通化されている。具体的には、この2つの昇降機構91は、昇降部912を構成するボルト部材917及び弾性部材916を共有しており、1つの昇降部912により、それぞれの把持部911を一体的に昇降できるように構成されている。これにより傾き調節機構9は、
図5に示すように、1つのボルト部材917を回転させることで、互いに隣り合う2つの導体要素31の互いの近接する端部を同時に(又は一挙に)昇降させることができ、以てこれらの導体要素31の傾きを同時に調節することができる。
【0044】
<本実施形態の効果>
このように構成された本実施形態のプラズマ処理装置100によれば、磁場透過窓5に対するアンテナ3の傾きを調節することができるので、例えば、高い強度の高周波磁場を生じさせるアンテナ3の一端部を磁場透過窓5から遠ざけ、あるいは低い強度の高周波磁場を生じさせるアンテナ3の一端部を磁場透過窓5に近づけることにより、処理室1内に供給される高周波磁場の強度の偏りを低減し、処理室1内に生成されるプラズマ密度分布の偏りを低減することができる。
特に本実施形態のプラズマ処理装置100では、アンテナ3を構成する複数の導体要素31の傾きを個別に調節できるので、アンテナ3と磁場透過窓5間の距離を、アンテナ3の長手方向に沿って細かく調節することができる。これにより、処理室1内に供給される高周波磁場の強度のアンテナ3長手方向に沿った偏りをより一層低減し、処理室1内に生成されるプラズマ密度分布の偏りをより一層低減することができる。
【0045】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0046】
前記実施形態の傾き調節機構9は、直列に接続された互いに隣り合う2つの導体要素31の間に設けられた2つの昇降機構91が共通化されており、これらの2つの導体要素31の近接する端部を同時に昇降できるように構成されていたが、これに限らない。他の実施形態の傾き調節機構9は、
図6及び
図7に示すように、直列に接続された互いに隣り合う2つの導体要素31の間に設けられた2つの昇降機構91が互いに独立しており、これらの2つの導体要素31の近接する端部を個別に昇降し、以てこれらの2つの導体要素31の傾きを個別に調節できるものであってもよい。
【0047】
また前記実施形態の傾き調節機構9は、電気的に並列に接続された各アンテナ3の傾きを個別に調節するものであったが、これに限らない。他の実施形態の傾き調節機構9は、電気的に並列に接続された各アンテナ3の傾きを同時に調節するものであってもよい。この場合、傾き調節機構9は、
図8に示すように、並列に接続された互いに隣り合う2つの導体要素31の近接する端部に設けられた昇降機構91が共通化されており、これらの2つの導体要素31の近接する端部を同時に昇降できるように構成されていてよい。
【0048】
また前記実施形態では、昇降機構91はアンテナ3の両端部に設けられていたがこれに限らない。他の実施形態では、昇降機構91はアンテナ3の一方の端部にのみ設けられており、アンテナ3の他方は例えばヒンジ等により回動可能に容器本体21に接続されていてもよい。このようなものであっても、昇降機構91によりアンテナ3の一方の端部を昇降させることで、磁場透過窓5に対するアンテナの3の傾きを調節することができる。
【0049】
前記実施形態の昇降機構91は、把持部911を昇降させる昇降部912がボルト部材917を含んで構成されるものであったが、これに限らない。昇降機構91は、アンテナ3を把持する把持部911を上下方向に沿って昇降することができる態様であれば、どのような構成であってもよい。例えば昇降部912は、ボルト部材917を有しておらず、容器本体21の上面21bとクランプ部材913との間に設けられて、クランプ部材913と容器本体21の上面21bとの間の距離を変更できるスペーサ部材等であってもよい。
【0050】
前記実施形態のプラズマ処理装置100は、磁場透過窓5は、スリット221sが形成された金属板221と誘電体板222とを備える窓部材22により形成されていたが、これに限らない。他の実施形態では、磁場透過窓5は、容器本体21に形成された開口部211を塞ぐように設けられた誘電体部材によって構成されていてもよい。
【0051】
前記実施形態ではアンテナ3が有する各導体要素31はU字形状であったが、これに限らず直管状のものであってもよい。
【0052】
前記実施形態のプラズマ処理装置100は、アンテナ3を複数本備えていたが、これに限らずアンテナ3を1本のみ備えていてもよい。
【0053】
前記実施形態のプラズマ処理装置100は、アンテナ3は、複数の導体要素31と、互いに隣り合う導体要素31と電気的に直列接続された容量素子であるコンデンサ32とを備えるものであったがこれに限らない。他の実施形態では、アンテナ3は1つの導体要素31のみを備え、コンデンサ32を備えていなくてもよい。
【0054】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
100 ・・・プラズマ処理装置
1 ・・・処理室
3 ・・・アンテナ
4 ・・・高周波電源
5 ・・・磁場透過窓
9 ・・・傾き調節機構