(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ゴム押出物の製造装置およびゴム押出物の形状予測方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20230627BHJP
B29C 48/07 20190101ALI20230627BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20230627BHJP
B29K 21/00 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/07
B29C48/305
B29K21:00
(21)【出願番号】P 2019141501
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】平井 秀憲
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-237508(JP,A)
【文献】特開平09-277353(JP,A)
【文献】特開平10-286873(JP,A)
【文献】特開2019-081287(JP,A)
【文献】特開2015-212135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫のゴム押出物を押し出す押出機と、この押出機の押出口の前方に配置されて前記ゴム押出物を搬送する引き取り手段とを備えたゴム押出物の製造装置において、
前記押出機の押出流路の前後方向に間隔をあけた少なくとも二か所の前後検知点での圧力を検知する前後方向圧力センサと、前記押出流路の同じ前後方向位置で幅方向に間隔をあけた少なくとも二か所の左右検知点での圧力を検知する幅方向圧力センサと、それぞれの前記前後検知点およびそれぞれの前記左右検知点での圧力が入力される演算部とを有し、少なくとも二か所の前記前後検知点での検知圧力の比に基づいて、前記演算部により前記ゴム押出物のスウェルの程度が推定され、少なくとも二か所の前記左右検知点での検知圧力の比に基づいて、前記演算部により前記スウェルの程度の前記ゴム押出物の幅方向での分布が推定され、推定された前記スウェルの程度およびこのスウェルの程度の前記幅方向での分布に基づいて、前記演算部により前記ゴム押出物の形状が予測される構成にしたことを特徴とするゴム押出物の製造装置。
【請求項2】
前記前後検知点の一か所が前記押出機の前端部に配置されているヘッドに設定され、前記前後検知点の一か所が前記ヘッドの前方に配置されているダイに設定されている請求項1に記載のゴム押出物の製造装置。
【請求項3】
それぞれの前記左右検知点の前記押出流路での前後方向位置が、前記ダイに設定されている前記前後検知点の前記押出流路での前後方向位置と同じ位置に設定されている
請求項2に記載のゴム押出物の製造装置。
【請求項4】
押出機の押出口の前方に配置された引き取り手段に向かって前記押出機から押出された未加硫のゴム押出物の形状を予測するゴム押出物の形状予測方法において、
前記押出機の押出流路の前後方向に間隔をあけた少なくとも二か所の前後検知点で圧力を検知し、かつ、前記押出流路の同じ前後方向位置で幅方向に間隔をあけた少なくとも二か所の左右検知点で圧力を検知し、それぞれの前記前後検知点およびそれぞれの前記左右検知点での圧力を演算部に入力し、少なくとも二か所の前記前後検知点での検知圧力の比に基づいて、前記演算部により前記ゴム押出物のスウェルの程度を推定し、少なくとも二か所の前記左右検知点での検知圧力の比に基づいて、前記演算部により前記スウェルの程度の前記ゴム押出物の幅方向での分布を推定し、推定した前記スウェルの程度およびこのスウェルの程度の前記幅方向での分布に基づいて、前記演算部により前記ゴム押出物の形状を予測することを特徴とするゴム押出物の形状予測方法。
【請求項5】
前記演算部には前記ゴム押出物の目標形状を特定する目標形状データを入力しておき、予測した前記ゴム押出物の形状の予測形状データと前記目標形状データとを比較して、前記予測した前記ゴム押出物の形状が、前記目標形状に対して予め設定された許容範囲の形状であるか否かを前記演算部により判断する請求項4に記載のゴム押出物の形状予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム押出物の製造装置およびゴム押出物の形状予測方法に関し、さらに詳しくは、簡素な構成でありながら、スウェルを考慮したゴム押出物の形状を精度よく予測できるゴム押出物の製造装置およびゴム押出物の形状予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ等のゴム製品の製造工程では、押出機によって押し出された未加硫のゴム押出物が部材として使用されている。このゴム押出物は、押出機のヘッドに取り付けられたダイの押出口から押出されるが、押し出されるとスウェル(膨張)する特性がある。そのため、ゴム押出物の断面形状は、押出口の開口形状と同一にはならない。所望の断面形状のゴム押出物を得るために、押出口の面積を変化させる押出口可変部材や、押出流路に出入りする整流体を用いることも提案されている(特許文献1参照)。この提案では、押出口可変部材や整流体のような可動部品をダイに対して設置する必要がある。
【0003】
ゴム押出物のスウェルの程度やこのスウェルの程度の幅方向分布は、ゴム特性や押出流路の仕様等によって異なる。そのため、スウェルしたゴム押出物がどのような形状になるのかを予測することは難しい。それ故、簡素な構成でありながら、スウェルを考慮したゴム押出物の形状を精度よく予測するには更なる工夫が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、簡素な構成でありながら、スウェルを考慮したゴム押出物の形状を精度よく予測できるゴム押出物の製造装置およびゴム押出物の形状予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のゴム押出物の製造装置は、未加硫のゴム押出物を押し出す押出機と、この押出機の押出口の前方に配置されて前記ゴム押出物を搬送する引き取り手段とを備えたゴム押出物の製造装置において、前記押出機の押出流路の前後方向に間隔をあけた少なくとも二か所の前後検知点での圧力を検知する前後方向圧力センサと、前記押出流路の同じ前後方向位置で幅方向に間隔をあけた少なくとも二か所の左右検知点での圧力を検知する幅方向圧力センサと、それぞれの前記前後検知点およびそれぞれの前記左右検知点での圧力が入力される演算部とを有し、少なくとも二か所の前記前後検知点での検知圧力の比に基づいて、前記演算部により前記ゴム押出物のスウェルの程度が推定され、少なくとも二か所の前記左右検知点での検知圧力の比に基づいて、前記演算部により前記スウェルの程度の前記ゴム押出物の幅方向での分布が推定され、推定された前記スウェルの程度およびこのスウェルの程度の前記幅方向での分布に基づいて、前記演算部により前記ゴム押出物の形状が予測される構成にしたことを特徴とする。
【0007】
本発明のゴム押出物の形状予測方法は、押出機の押出口の前方に配置された引き取り手段に向かって前記押出機から押出された未加硫のゴム押出物の形状を予測するゴム押出物の形状予測方法において、前記押出機の押出流路の前後方向に間隔をあけた少なくとも二か所の前後検知点で圧力を検知し、かつ、前記押出流路の同じ前後方向位置で幅方向に間隔をあけた少なくとも二か所の左右検知点で圧力を検知し、それぞれの前記前後検知点およびそれぞれの前記左右検知点での圧力を演算部に入力し、少なくとも二か所の前記前後検知点での検知圧力の比に基づいて、前記演算部により前記ゴム押出物のスウェルの程度を推定し、少なくとも二か所の前記左右検知点での検知圧力の比に基づいて、前記演算部により前記スウェルの程度の前記ゴム押出物の幅方向での分布を推定し、推定した前記スウェルの程度およびこのスウェルの程度の前記幅方向での分布に基づいて、前記演算部により前記ゴム押出物の形状を予測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、押出流路の前後方向に間隔をあけた少なくとも二か所の前後検知点での検知圧力の比に基づいて、演算部によりゴム押出物のスウェルの程度を推定できる。さらに、押出流路の同じ前後方向位置で幅方向に間隔をあけた少なくとも二か所の左右検知点での検知圧力の比に基づいて、演算部によりスウェルの程度のゴム押出物の幅方向での分布を推定できる。そして、推定されたスウェルの程度およびスウェルの程度の幅方向での分布に基づいて、演算部によりゴム押出物の形状を予測することができる。このように押出流路の前後方向および幅方向のそれぞれの複数箇所の検知点での検知圧力の比を利用することで、簡素な構成でありながらも、スウェルを考慮したゴム押出物の形状を精度よく予測することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のゴム押出物の製造装置を平面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1のゴム押出物の製造装置を側面視で例示する説明図である。
【
図3】スウェルしているゴム押出物を平面視で例示し、
図3(A)は短い押出流路、
図3(B)は長い押出流路の場合を示す説明図である。
【
図4】スウェルしているゴム押出物を横断面視で例示し、
図4(A)は押出口が幅方向中心に対して対称形状の場合、
図4(B)は押出口が幅方向中心に対して非対称形状の場合を示す説明図である。
【
図5】押出流路の前後方向に間隔をあけた前後検知点の圧力比とゴム押出物のスウェルの程度との関係を例示するグラフ図である。
【
図6】押出流路の前後方向に間隔をあけた前後検知点の圧力比の押出流路の幅方向での分布を例示するグラフ図である。
【
図7】
図6の圧力比を、それぞれの左右検知点の圧力比の平均値で除したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のゴム押出物の製造装置およびゴム押出物の形状予測方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1~
図2に例示する本発明のゴム押出物の製造装置1の実施形態は、押出機2と、前後方向圧力センサ8a、8bと、幅方向圧力センサ8c、8dと、引取りコンベヤ9と、演算部10と、制御部11を備えている。押出機2は、筒状のシリンダ2aと、シリンダ2aの内部に配置されるスクリュー4と、スクリュー4を回転させる駆動モータ4aと、シリンダ2aの先端に設置されるヘッド3とを備えている。ヘッド3の先端にはダイ5が取り付けられている。ダイ5には所定形状の押出口6が形成されている。ヘッド3およびダイ5には、シリンダ前後方向に押出流路7が貫通している。押出流路7とシリンダ2aの内部とは連通している。
【0012】
シリンダ2aの内部には、後方側上部に突設されたホッパを通じてゴム材料Rが投入される。投入されたゴム材料Rは、回転するスクリュー4によってシリンダ4の内部で前方に送られつつ粘度を低くされて(可塑化されて)、押出口6から型付けされた未加硫のゴム押出物Rfとしてシート状に押し出される。
【0013】
駆動モータ4aの動きは制御部11により制御される。即ち、制御部11からに指令によって、スクリュー4(駆動モータ4a)の回転および回転停止、回転速度が制御される。スクリュー4の回転速度に応じてゴム押出物Rfの押出速度V1が変化し、回転速度を速くすると押出速度V1は速くなり、回転速度が遅くすると押出速度V1は遅くなる。
【0014】
前後方向圧力センサ8a、8bは、押出流路7の前後方向に間隔をあけた前後検知点での圧力を検知する。この実施形態では、ヘッド3とダイ5とにそれぞれ一個ずつ前後方向圧力センサ8a、8bが配置されていて、ヘッド3とダイ5とにおける前後検知点での押出流路7の圧力を検知する。それぞれの前後方向圧力センサ8a、8bの押出流路7における幅方向位置は同じ位置(厳密に一致していなくても実質的に同じであればよい)に設定されている。即ち、それぞれの前後検知点は、押出流路7において実質的に同じ幅方向位置に設定されている。
【0015】
ゴム押出物Rfのスウェルの程度をより高精度で推定するには、前後検知点は、押出流路7においてゴムの流れがより安定している位置にすることが好ましい。そこで、それぞれの前後方向圧力センサ8a、8bは押出流路7の幅方向中央部に配置するとよい。
【0016】
前後方向圧力センサ8a、8bと演算部10とは有線または無線によって通信可能に接続されている。前後方向圧力センサ8a、8bにより検知された検知圧力は逐次、演算部10に入力される。押出流路7の前後方向に間隔をあけた少なくとも二か所の前後検知点での圧力を検知できればよいので、前後検知点を三か所以上にして前後検知点に対応する数の前後方向圧力センサを設けることもできる。
【0017】
幅方向圧力センサ8c、8dは、押出流路7の幅方向に間隔をあけた左右検知点での圧力を検知する。この実施形態では、ダイ5に二個の前後方向圧力センサ8c、8dが配置されていて、ダイ5におけるそれぞれの左右検知点での押出流路7の圧力を検知する。それぞれの幅方向圧力センサ8c、8dの押出流路7における前後方向位置は同じ位置(厳密に一致していなくても実質的に同じであればよい)に設定されている。即ち、それぞれの左右検知点は、押出流路7において実質的に同じ前後方向位置に設定されている。
【0018】
この実施形態では、前後方向圧力センサ8bが配置されている一方の前後検知点と、それぞれの幅方向圧力センサ8c、8dが配置されている左右検知点とが、押出流路7において実質的に同じ前後方向位置に設定されている。したがって、この前後方向圧力センサ8bは。一個の幅方向圧力センサとしても機能する。そのため、幅方向圧力センサ8c、8dのいずれか一方を省略することもできる。
【0019】
幅方向圧力センサ8c、8dと演算部10とは有線または無線によって通信可能に接続されている。幅方向圧力センサ8c、8dにより検知された検知圧力は逐次、演算部10に入力される。押出流路7の幅方向に間隔をあけた少なくとも二か所の左右検知点での圧力を検知できればよいので、左右検知点を三か所以上にして左右検知点に対応する数の幅方向圧力センサを設けることもできる。
【0020】
演算部10には様々なデータが入力、記憶される。例えば、ゴム押出物Rfの目標形状(横断面形状)を特定する目標形状データが記憶されている。また、この目標形状に対する許容範囲の形状を特定する許容範囲データが記憶されている。許容範囲データとしては、例えば、目標形状の幅寸法および厚さ寸法に対する許容値である。演算部10にはさらに、それぞれの圧力センサ8a、8b、8c、8dが配置される前後検知点および左右検知点の位置データ(それぞれの検知点の前後方向間隔データや左右方向間隔データ)も記憶されている。
【0021】
押出口6の前方には引き取りコンベヤ9が配置されている。引取りコンベヤ9は、押出口6から押出されたゴム押出物Rfを搬送する。この実施形態では、ゴム押出物Rfの押出方向と同じ方向に引き取りコンベヤ9が延在していて、押出方向と同じ方向にゴム押出物Rfが引き取りコンベヤ9によって搬送される。引取りコンベヤ9に限らず、ゴム押出物Rfを能動的に搬送できる引取り手段を採用することができる。引取りコンベヤ9の動きは制御部11により制御される。即ち、制御部11からに指令によって、引取りコンベヤ9による搬送および搬送停止、搬送速度V2が制御される。制御部11と演算部10とは互いに通信可能に接続されている。演算部10および制御部11として例えばコンピュータを用いる。この実施形態では演算部10と制御部11とが一体的な構造になっているが、互いを分離した構造にすることもできる。
【0022】
制御部11は例えば、ゴム押出物Rfの押出速度V1と引取りコンベヤ9の搬送速度V2とが同じになるように、押出機2または引き取りコンベヤ9の少なくとも一方の動きを制御する。この制御を行うとゴム押出物Rfには不要なテンションが作用しない。別の制御として、ゴム押出物Rfのシュリンクを考慮して、制御部11が押出機2または引き取りコンベヤ9の少なくとも一方の動きを制御して、搬送速度V2を押出速度V1よりも若干速くするようにして、ゴム押出物Rfに所定のテンションを作用させて、ゴム押出物Rfに生じるシュリンクを相殺することもできる。
【0023】
押出機2を稼働して押出口6から単純にゴム押出物Rfを押出すと、
図3に例示するようにゴム押出物Rfはスウェルして、押出口6の開口形状よりも大きくて若干異なる断面形状になる。このゴム押出物Rfのスウェルの程度は、
図3(A)に例示する短い押出流路7の場合、
図3(B)に例示する長い押出流路7の場合とで異なる。ゴム押出物Rfのゴム特性(粘度)によってこのスウェルの程度は異なる。また、押出速度V1もこのスウェルの程度に影響する。このようにスウェルの程度は、様々な要因に影響を受けるので予測することが難しい。
【0024】
また、
図4に例示するように、ゴム押出物Rfの同じ長手方向位置(同じ横断面位置)であっても、ゴム押出物Rfの幅方向位置に応じてスウェルの程度が異なる。即ち、スウェルの程度には幅方向分布がある。
図4では押出口6(ゴム押出物Rf)の幅方向中心が一点鎖線CLで示されている。
図4(A)は幅方向中心CLに対して対称形状である長方形の押出口6の場合、
図4(B)は幅方向中心CLに対して非対称形状である台形の押出口6の場合を例示している。このようなスウェルの程度の幅方向分布も、ゴム押出物Rfのゴム特性(粘度)、押出速度V1、押出口6の形状等、様々な要因に影響を受けるので予測することが難しい。
【0025】
本願発明者の種々の検討、分析の結果、押出流路7の前後方向に間隔をあけた位置での圧力比がスウェルの程度に大きく影響することを見出した。即ち、この圧力比の大きさが概ね普遍的にスウェルの程度と相関することが判明した。そこで、上述したように押出流路7の前後方向に間隔をあけた少なくとも二か所の前後検知点での前後方向圧力センサ8a、8bにより圧力を検知する。それぞれの前後方向圧力センサ8a、8bによる検知圧力の比とゴム押出物Rfのスウェルの程度(断面積の変化具合)との相関関係R1は予め把握して演算部10に入力、記憶しておく。
【0026】
同様に、押出流路7の幅方向に間隔をあけた位置での圧力比がスウェルの程度の幅方向でのばらつき(幅方向分布)に影響する。即ち、この圧力比の大きさが概ね普遍的にスウェルの程度の幅方向でのばらつきと相関することが判明した。このスウェルの程度の幅方向のばらつきとは、端的にいうと、ゴム押出物Rfのスウェルによって生じる厚さ寸法の変化程度のばらつきである。
【0027】
そこで、上述したように押出流路7の幅方向に間隔をあけた少なくとも二か所の左右検知点での幅方向圧力センサ8c、8dにより圧力を検知する。それぞれの幅方向圧力センサ8c、8dによる検知圧力の比とゴム押出物Rfの幅方向でのスウェルの程度(厚さ寸法の変化具合)との相関関係R2は予め把握して演算部10に入力、記憶しておく。
【0028】
本発明のゴム押出物の形状予測方法では、押出機2を稼働してゴム押出物Rfを製造する際に、前後方向圧力センサ8a、8bによる検知圧力の比と相関関係R1とを用いて、演算部10によってゴム押出物Rfのスウェルの程度が推定される。さらに、幅方向圧力センサ8c、8dによる検知圧力の比と相関関係R2とを用いて、演算部10によってスウェルの程度のゴム押出物Rfの幅方向での分布が推定される。
【0029】
演算部10では、推定された押出物Rfのスウェルの程度およびこのスウェルの程度のゴム押出物Rfの幅方向の分布に基づいて、ゴム押出物Rfの形状を予測する。即ち、前後方向圧力センサ8a、8bによる検知圧力の比と相関関係R1とに基づいて、ゴム押出物Rfの横断面全体でのスウェルの程度が演算部10によって算出される。さらに、幅方向圧力センサ8c、8dによる検知圧力の比と相関関係R2とに基づいて、ゴム押出物Rfの横断面でのスウェルによる厚さ寸法の変化具合の分布が演算部10によって算出される。この推定計算によって、スウェルしたゴム押出物Rfの断面形状が予測される。
【0030】
この製造装置1では、演算部10にゴム押出物Rfの目標形状を特定する目標形状データを入力されている。そこで、予測したゴム押出物Rfの形状の予測形状データと目標形状データとが演算部10によって比較されて、予測したゴム押出物Rfの形状が、目標形状に対して予め設定された許容範囲の形状であるか否かが判断される。具体的には、予測したゴム押出物Rfの断面形状の幅寸法が目標形状の幅寸法に対する許容値を超えて大きいまたは小さい場合、予測したゴム押出物Rfの断面形状の厚さ寸法が目標形状の厚さ寸法に対する許容値を超えて大きいまたは小さい場合は、予測したゴム押出物Rfの形状が、目標形状に対して予め設定された許容範囲の形状ではないと判断される。一方、予測したゴム押出物Rfの断面形状の幅寸法および厚さ寸法がそれぞれ、目標形状の幅寸法および厚さ寸法に対する許容値の範囲内の場合は、予測したゴム押出物Rfの形状が、目標形状に対して予め設定された許容範囲の形状であると判断される。このように予測したゴム押出物Rfの形状が、目標形状に対して予め設定された許容範囲の形状であるか否かを判断することで、形状に不具合があるゴム押出物Rfがそのまま製造ラインで使用されることを回避できる。
【0031】
本発明によれば上述したように、前後方向圧力センサ8a、8bによる検知圧力の比および幅方向圧力センサ8c、8dによる検知圧力の比を利用することで、多くの要因を考慮することなくゴム押出物Rfのスウェルの程度とそのスウェルの程度の幅方向分布を推定できる。それ故、簡素な構成の製造装置1でありながらも、スウェルを考慮したゴム押出物Rfの形状を精度よく予測することが可能になる。
【0032】
前後検知点は、一か所をヘッド3に設定し、もう一か所をダイ5に設定して、可能な限り前後間隔を大きくするとよい。これにより、検知圧力の比を明確に検知し易くなるので、ゴム押出物Rfのスウェルの程度を精度よく推定するに有利になる。また、左右検知点(幅方向圧力センサ)の数が多い程、ゴム押出物Rfのスウェルの程度の幅方向の分布を詳細に推定し易くなる。
【0033】
それぞれの左右検知点は、押出される直前の押出流路7での幅方向圧力分布を把握するために、押出口6の近傍位置になるダイ5に設定することが好ましい。これに伴い、ゴム押出物Rfの幅方向でのスウェルの程度の分布を精度よく推定し易くなる。したがって、それぞれの左右検知点(幅方向圧力センサ8c、8d)の押出流路7での前後方向位置は、ダイ5に設定されている前後検知点の押出流路7での前後方向位置と同じ位置に設定するとよい。
【実施例】
【0034】
同じ押出機を用いて、粘度が異なる同種類の未加硫ゴムA、Bを用いて表1に示すように押出条件を4種類(ケース1~4)に異ならせて、ゴム押出物を単純に押し出して製造し、その際に押出流路の前後方向に間隔をあけた二か所の前後検知点で圧力を検知した。それぞれの前後検知点での検知圧力の圧力比とゴム押出物のスウェルの程度とを表1に示し、この圧力比とスウェルの程度との関係を
図5に示す。上流側の前後検知点はヘッドの幅方向中央部に設定し、下流側の前後検知点はダイの幅方向中央部に設定した。また、押出流路長さは、
図3に例示したようにダイの長さを異ならせることで短い押出流路(ケース1、3)と長い押出流路(ケース2、4)とにした。
【0035】
表1中の上流側圧力指数は、ヘッドでの検知圧力をケース1~4におけるヘッドでの検知圧力の平均値で除した値である。下流側圧力指数は、ダイでの検知圧力をケース1~4におけるダイでの検知圧力の平均値で除した値である。上流側圧力指数、下流側圧力指数はそれぞれの数値が大きい程、検知圧力が大きいことを意味する。
表1、
図5中の圧力比とは、ダイでの検知圧力をヘッドでの検知圧力で除した値である。表1、
図5中のスウェル指数とは、(ゴム押出物の断面積Ar-ダイの押出口の開口面積Ao)/(ダイの押出口の開口面積Ao)×100(%)をケース1~4のそれぞれについて算出し、それぞれのケースでの算出値を、ケース1~4の算出値の平均値で除した値である。スウェル指数の数値が大きい程、スウェルの程度が大きい(膨張具合が大きい)ことを意味する。
【0036】
【0037】
表1、
図5の結果から、押出流路の前後方向に間隔をあけた二か所の前後検知点での検知圧力の圧力比と、ゴム押出物のスウェルの程度とには高い相関関係があることが分かる。したがって、この圧力比に基づいてゴム押出物のスウェルの程度を把握することができる。
【0038】
また、
図4(A)に例示する幅方向中心に対して対称形状の押出口(押出流路)を使用して、粘度が異なる同種類の未加硫ゴムC、Dを用いてゴム押出物を単純に押し出して製造し、その際に押出流路の幅方向に間隔をあけた四か所の左右検知点で圧力を検知し、その結果を
図6に示す。それぞれの左右検知点はダイに設定し、押出流路でのそれぞれの左右検知点の前後方向位置は同じにした。
【0039】
図7は、
図6のデータ(縦軸の圧力比のデータ)を整理して表示したものである。即ち
図7では縦軸が、ゴムC、D毎に、それぞれの幅方向位置での圧力比を、それぞれの幅方向位置での圧力比の平均値で除した値になっている。ゴムC、Dともに幅方向中心に近くなる程、圧力比が高くなっている。このように、押出流路では圧力比が幅方向分布を有していて、この圧力比の幅方向分布がスウェルの程度の幅方向分布に対応していることが分かった。押出口の断面形状が異なると、この圧力比の幅方向分布も変化することになる。
【符号の説明】
【0040】
1 ゴム押出物の製造装置
2 押出機
2a シリンダ
3 ヘッド
4 スクリュー
4a 駆動モータ
5 ダイ
6 押出口
7 押出流路
8a、8b 前後方向圧力センサ
8c、8d 幅方向圧力センサ
9 引取りコンベヤ(引取り手段)
10 演算部
11 制御部
R ゴム材料
Rf ゴム押出物