(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】コネクタ用端子材及びコネクタ用端子
(51)【国際特許分類】
C25D 5/12 20060101AFI20230627BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C25D5/12
H01R13/03 D
H01R13/03 A
(21)【出願番号】P 2019143826
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 圭栄
(72)【発明者】
【氏名】久保田 賢治
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056422(JP,A)
【文献】特開2011-198683(JP,A)
【文献】特開昭58-221291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材と、該基材の表面に形成されたニッケルめっき層と、該ニッケルめっき層の上に形成された中間めっき層と、該中間めっき層の上に形成された銀錫合金めっき層とを備え、前記中間めっき層は
、Pd,Co,Mnのいずれか一種を主成分として含有し、前記中間めっき層の膜厚が0.02μm以上であり、前記銀錫合金めっき層は、Agを70at%以上85at%以下の範囲で含み、前記銀錫合金めっき層の膜厚は0.5μm以上5μm以下であることを特徴とするコネクタ用端子材。
【請求項2】
前記銀錫合金めっき層の上に純度99質量%以上のAgからなる銀めっき層が0.1μm以上2.0μm以下の膜厚で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用端子材。
【請求項3】
請求項1に記載のコネクタ用端子材からなるコネクタ用端子であって、相手方コネクタ用端子との接点部分の表面が前記銀錫合金めっき層からなることを特徴とするコネクタ用端子。
【請求項4】
請求項2に記載のコネクタ用端子材からなるコネクタ用端子であって、相手方コネクタ用端子との接点部分の表面が前記銀めっき層からなることを特徴とするコネクタ用端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微摺動が発生する自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用される有用な皮膜が設けられたコネクタ用端子材及びコネクタ用端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の電気配線の接続に用いられるコネクタが知られている。この車載用コネクタ(車載用端子)には、メス端子に設けられた接触片が、メス端子内に挿入されたオス端子に所定の接触圧を有して接触することで、電気的に接続されるように設計された端子対を備えるものが用いられている。このようなコネクタ(端子)として、一般的に銅または銅合金板上に錫めっきを施し、リフロー処理を行った錫めっき付き端子が多く用いられていた。しかし、近年、自動車の高電流・高電圧化に伴い、より電流を多く流すことができる耐熱・耐摩耗性に優れた貴金属めっきを施した端子の用途が増加している。
【0003】
このような耐熱性及び耐摩耗性が求められる車載用端子のめっきとして、例えば、特許文献1に記載のように銀めっきを端子に施す方法がある。この点、銀めっき層は、加熱によって銀の結晶粒径が肥大化するため硬度が低下する。この硬度が低下すると、同時に耐摩耗性も低下して、銀めっき層が摩耗し易くなるため、その対策として銀めっき層の膜厚を厚くすることが考えられるが、コスト面での問題がある。また、銀めっき層の下地にニッケルめっき層を用いた場合、ニッケルめっき層の酸化によって銀めっき層が剥離する問題もある。
一方、特許文献2のように、アンチモンを銀めっき層に添加することで、銀めっき層中の結晶粒を微細化し、銀めっき層の硬度を高くすることも考えられる。しかし、初期硬度は高いものの、加熱によって銀めっき層中のアンチモンがめっき層最表面に濃化して硬度が低下し、さらに表層のアンチモンが酸化して接触抵抗が増大する。さらに、ニッケルめっき層を下地として用いていた場合、加熱によってニッケルめっき層と銀めっき層との間にニッケル酸化物が生成され、このニッケル酸化物が原因となりめっき層が剥離することがあった。
【0004】
また、特許文献3のように、銀めっき層と錫めっき層とを順に積層してリフロー処理することにより表面を合金化する手法もあるが、加熱処理によって酸化膜が生成するため、接続信頼性が低下する。
そこで、特許文献4のように、基材に対して直接銀錫合金めっきを施してめっき層全体の組成を均一に保つことが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-169408号公報
【文献】特開2009-79250公報
【文献】特開2017-79143公報
【文献】特開2015-183216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4の銀錫めっき層は、ニッケルめっき層上に直接均一に成膜させるためには、銀錫合金めっきを施す前に銀ストライクめっきを施す方が望ましい。しかし、ニッケルと銀は相互拡散し難く、さらに合金化した銀錫めっき層は非常に硬いため、摺動時に、密着の弱いニッケルめっき層と銀ストライクめっき層との界面から剥離する恐れがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、銀錫合金めっき層の密着性を高めて、耐摩耗性及び耐熱性を向上できるコネクタ用端子材及びコネクタ用端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコネクタ用端子材は、少なくとも表面が銅又は銅合金からなる基材と、該基材の表面に形成されたニッケルめっき層と、該ニッケルめっき層上の少なくとも一部に形成された中間めっき層と、該中間めっき層の上に形成された銀錫合金めっき層とを備え、前記中間めっき層は、Cu,Pd,Co,Mnのいずれか一種を主成分として含有し、前記中間めっき層の膜厚が0.02μm以上であり、前記銀錫合金めっき層は、Agを70at%以上85at%以下の範囲で含み、前記銀錫合金めっき層の膜厚は0.5μm以上5μm以下である。
【0009】
このコネクタ用端子材は、硬い銀錫合金層により、優れた耐摩耗性を有する。この場合、基材の表面にニッケルめっき層が形成されているので、高温環境下での基材からのCu成分の拡散を防止し、銀錫合金めっき層の性能低下を抑制する。ニッケルめっき層の膜厚は0.5μm以上2.0μm以下であるとよい。
また、このニッケルめっき層の上に中間層としてCu,Pd,Co,Mnのいずれか一種を主成分として含有する中間層が形成されているので、これらの間の密着性が良好となり、銀錫合金めっき層の耐摩耗性を有効に発揮させることができる。この中間めっき層の膜厚は0.02μm未満では全面に均質に成膜されないため、耐摩耗性向上の効果が低下し、銀錫合金めっき層が剥がれやすくなる。なお、加工性の面から中間めっき層の膜厚は0.5μm以下とするのが好ましい。
なお、銀錫合金めっき層中のAgが70at%未満では、加熱後の接触抵抗が増加し、Agが85at%を超えると、硬い銀錫合金に対する軟らかい銀の割合が増えるため、耐摩耗性が低下する。また全面に均一な成膜が困難となる。
銀錫系金属間化合物としては、Ag3Sn及びAg4Snの金属間化合物を例示できる。
銀錫合金めっき層が0.5μm未満では、コネクタとして使用する際の耐摩耗性向上の効果に乏しくなる。5μmを超える膜厚としても問題はないが、コストと加工性の面から5μm以下とするのが好ましい。
【0010】
コネクタ用端子材の一つの態様として、前記銀錫合金めっき層の上に純度99質量%以上のAgからなる銀めっき層が0.1μm以上2.0μm以下の膜厚で形成されているとよい。
【0011】
このコネクタ用端子材は、銀錫合金めっき層の上に銀めっき層が形成されているので、加熱環境下においても表面が酸化しにくく、接触抵抗の増大を抑制できる。また、比較的硬い銀錫合金めっき層の上に、この銀錫合金めっき層より軟質の銀めっき層が形成されているので、滑り性が向上し、コネクタとして使用する際の着脱抵抗が小さくなる効果もある。銀めっき層の膜厚が0.1μm未満では薄すぎるため、加熱後の接触抵抗の増大を抑制する効果が低く、早期に摩耗して消失し易い。2.0μmを超える厚さでは、軟らかい銀めっき層が厚いため、摩擦係数が増大する。
【0012】
本発明のコネクタ用端子材からなるコネクタ用端子において、相手方コネクタ用端子との接点部分の表面が前記銀錫合金めっき層又は前記銀めっき層からなるものとするとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銀錫合金めっき層の密着性を高められ、コネクタ用端子材の耐摩耗性及び耐熱性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコネクタ用端子材を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施例における加熱前のコネクタ用端子材の断面の走査イオン顕微鏡(SIM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
[コネクタ用端子材の構成]
図1は一実施形態のコネクタ用端子材の断面を模式的に示したものである。このコネクタ用端子材1は、少なくとも表面が銅又は銅合金からなる板状の基材2と、該基材2の表面に被覆されたニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層3と、ニッケルめっき層3の一部の表面に形成された中間めっき層4と、中間めっき層4の上に形成された銀錫合金めっき層5と、この銀錫合金めっき層5の上に形成された銀めっき層6とを備えている。
【0016】
基材2は、銅または銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。また、母材の表面に銅又は銅合金からなる銅めっき層が施されためっき材により構成されてもよい。この場合、母材としては銅以外の金属材料であってもよい。
【0017】
ニッケルめっき層3は、基材2上にニッケル又はニッケル合金めっきを施すことにより被覆される。このニッケルめっき層3は、その上に被覆される銀錫合金めっき層5への基材2からのCu及び合金成分の拡散を抑制する機能を有する。このニッケルめっき層3の厚さは、0.5μm以上2.0μm以下であることが好ましい。ニッケルめっき層3の厚さが0.5μm未満であると、高温環境下では銅又は銅合金からなる基材2から銅及び合金成分が上層のめっき層を拡散することによりコネクタ用端子材1の表面の接触抵抗値が大きくなり、耐熱性が低下する可能性があり、2.0μmを超えると、曲げ加工時に割れが発生する可能性がある。なお、ニッケルめっき層3は、ニッケル又はニッケル合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0018】
中間めっき層4は、Cu,Pd,Co,Mnのいずれか一種を主成分として含有する。この中間めっき層4は、ニッケルめっき層3と銀錫合金めっき層5の両方にに対して密着性が良好で耐摩耗性が向上する。この中間めっき層4の膜厚は0.02μm以上であり、0.02μm未満では全面に均質に成膜されないため、耐摩耗性向上の効果が低下し、銀錫合金めっき層が剥がれやすくなる。なお、特に限定されないが、コストと加工性の面から中間めっき層4の膜厚は0.5μm以下とするのが好ましい。なお、この中間めっき層4におけるCu,Pd,Co,Mnの含有量は特に限定されるものではないが、90質量%以上あるとよい。
【0019】
銀錫合金めっき層5は、中間めっき層4上に後述する銀ストライクめっきが施された後、その上面に被覆される。この銀錫合金めっき層5は、Ag3Sn及びAg4Snの金属間化合物を主成分とし、Agを70at%以上85at%以下の範囲で含んでいる。このような金属間化合物を含んでいるため、耐摩耗性が向上する。
【0020】
また、銀錫合金めっき層5は、その上に形成される軟らかい銀めっき層6を支持して、コネクタとして使用する際に耐摩耗性を向上させる効果がある。この銀錫合金めっき層5の厚さは、0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。銀錫合金めっき層5が0.5μm未満であると、耐摩耗性向上の効果に乏しくなる。5μmを超える膜厚としても問題はないが、加工性の面から5μm以下とするのが好ましい。
【0021】
銀めっき層6は、加熱環境下においても表面が酸化しにくく、接触抵抗の増大を抑制できる。この銀めっき層6は、純度99質量%以上、好ましくは99.9質量%以上の純銀からなる。純度が99質量%以上としたのは、銀めっき層6のAg濃度が99質量%未満であると不純物が多く含まれることとなり、接触抵抗が高くなるからである。
銀めっき層6の膜厚は0.1μm以上2.0μm以下である。銀めっき層6の膜厚が0.1μm未満では薄すぎるため、早期に摩耗して消失し易い。2.0μmを超える膜厚では、軟らかい銀めっき層6が厚くなるため、摩擦係数が増大する。
【0022】
次に、このコネクタ用端子材1の製造方法について説明する。このコネクタ用端子材1の製造方法は、基材2となる銅又は銅合金からなる板材を洗浄する前処理工程と、ニッケルめっき層3を基材2に形成するニッケルめっき層形成工程と、ニッケルめっき層3上に中間めっき層4を形成する中間めっき層形成工程と、中間めっき層4上に銀ストライクめっきを施す銀ストライクめっき工程と、銀ストライクめっきの後に銀錫合金めっき層5を形成する銀錫合金めっき層形成工程と、銀めっき層6を銀錫合金めっき層5上に形成する銀めっき層形成工程と、を備える。
【0023】
[前処理工程]
まず、基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意し、この板材に脱脂、酸洗等をすることによって表面を清浄する前処理を行う。
【0024】
[ニッケルめっき層形成工程]
この基材2の表面の少なくとも一部に対して、ニッケル又はニッケル合金めっきを施してニッケルめっき層3を基材2に形成する。例えば、スルファミン酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/Lからなるニッケルめっき液を用いて、浴温45℃、電流密度3A/dm2の条件下でニッケルめっきを施して形成される。なお、ニッケル層3を形成するニッケルめっきは、緻密なニッケル主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のワット浴を用いて電気めっきにより形成してもよい。
【0025】
[中間めっき層形成工程]
基材2に形成されたニッケルめっき層3の表面に5質量%~10質量%の硫酸水溶液を用いて活性化処理を行った後、中間めっき層4を形成する。この中間めっき層4形成のためのめっき浴は、均一に成膜できれば、浴種は問わない。中間めっき層4が銅めっき層であれば硫酸銅浴、パラジウムめっき層であれば塩化パラジウム等のパラジウム化合物を含むめっき浴、コバルトめっき層であれば硫酸コバルトを含むめっき浴、マンガンめっき層であれば硫酸マンガンを含むめっき浴など、その金属種に代表的なめっき浴を用いればよい。
【0026】
[銀ストライクめっき工程]
中間めっき層4の表面に銀めっきを短時間施して薄い銀めっき層を形成する。この場合の銀めっきとしては銀ストライクめっきが好ましい。この銀ストライクめっきを施すためのめっき液の組成は、ノーシアン浴(シアン化物であるシアン化銀、シアン化銀カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等を含まないめっき浴)であれば特に限定されないが、メタンスルホン酸銀浴を主体としたものが望ましい。この銀ストライクめっきにより形成される銀ストライクめっき層は、その後に銀錫合金めっき層が形成されることにより、層としての識別は困難になる。
【0027】
[銀錫合金めっき層形成工程]
そして、銀ストライクめっきを施した後に銀錫合金めっきを施して銀錫合金めっき層5を形成する。この銀錫合金めっきのためのめっき浴としては、例えば、メタンスルホン酸、メタンスルホン酸錫、メタンスルホン酸銀、硫黄を含有した有機添加剤を含む組成とする。具体的には、メタンスルホン酸濃度を40g/L、Ag濃度を40g/Lを超えて90g/L以下、Sn濃度を5~35g/Lの範囲で調整した銀錫合金めっき液を用いるとよい。なお、この銀錫合金めっき液は、シアン化銀、シアン化銀カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等のシアン化物を含んでいない。また、錫陽極は、AgとPt/Ti(チタン製板に白金を被覆した)不溶性電極との両方を用い、これらの面積は、陰極の2倍以上、AgとPt/Tiの電流配分はAg:Pt/Ti=4:1とすることが好ましい。さらに、浴温は40℃~60℃、電流密度1~15A/dm2とし、銀錫合金めっき層5を形成する。
【0028】
[銀めっき層形成工程]
銀錫合金めっき層5の上に、銀めっきを施して銀めっき層6を形成する。この銀めっきのためのめっき浴の組成は、特に限定されないが、例えば、シアン化銀カリウム(K[Ag(CN)2]30g/L~60g/L、シアン化カリウム(KCN)120g/L~160g/L、炭酸カリウム(K2CO3)10g/L~20g/L、めっき層中に取り込まれやすい有機添加剤からなるめっき浴が好適である。有機添加剤としては、例えば、2,2チオエタノールなどのチオアルコール類、ベンゾチアゾール類、ベンゾトリアゾールなどのアゾール類、イミダゾールなどのイミダゾール類を用いることができる。この有機添加剤の添加濃度は0.1g/L以上10g/L以下とするのがよい。メタンスルホン酸、またはヨウ化カリウムと主体にしたノーシアン浴も使用可能である。
そして、この銀めっき浴に対してアノードとして純銀板を用いて、浴温10℃以上40℃以下、電流密度1A/dm2以上10A/dm2以下の条件下で銀めっきを1秒~7分程度施すことにより銀めっき層6が形成される。
【0029】
このようにして基材2の表面にニッケルめっき層3が形成され、その表面の少なくとも一部に形成された中間めっき層4の上に、銀錫合金めっき層5及び銀めっき層6が順次形成されたコネクタ用端子材1に対して、プレス加工等を施し、接点として用いられる部分の表面に銀めっき層6が配置されるコネクタ用端子を形成する。
【0030】
本実施形態では、表面に銀めっき層6が形成されているので、加熱環境下においても表面が酸化しにくい。このため、150℃で250時間加熱後でも接触抵抗が1mΩ以下と小さく、耐熱性を向上できる。
銀錫合金めっき層5が形成されているため、表層から酸素が透過せず、加熱試験でニッケルめっき層3から剥離することを抑制できる。なお、銀錫合金めっき層5中のAgが70at%未満では、加熱後の接触抵抗が低下し、Agが85at%を超えると銀錫合金めっき層の粒径が大きくなり、耐摩耗性が低下する。
【0031】
なお、実施形態では、基材2表面のニッケルめっき層3の上の一部に中間めっき層4、銀錫合金めっき層5、銀めっき層6を形成したが、本発明の端子材としては、基材2の表面の全面に各めっき層が積層されていてもよい。中間めっき層4、銀錫合金めっき層5、銀めっき層6は、少なくとも端子材の表面の一部、具体的にはコネクタ用端子として接点部となる部分に形成されていればよい。
【実施例】
【0032】
銅合金からなる厚さ0.25mmの基材上にニッケルめっきを施して、膜厚1.0μmのニッケルめっき層を形成し、該ニッケルめっき層を形成した試料に対して、5質量%の硫酸水溶液を用いてニッケルめっき層表面を清浄化する活性化処理を行った。この活性化処理後に、ニッケルめっき層が被覆された基材に対して、中間めっき、銀ストライクめっき、銀錫合金めっき層及び銀めっき層を順に形成した各試料(試料1~10)を作製した。この際、銀錫合金めっき液におけるAgの量(g/L)、Snの量(g/L)は、表1に示す値とした。
【0033】
また、比較のため、ニッケルめっき層の上に中間めっき層を形成しなかったものも作製した(試料19~21)。これら試料は、銀錫合金めっき層のみ膜厚1μmで形成し、銀めっき層を形成しなかったもの(試料18)、銀錫合金めっき層及び銀めっき層をそれぞれ膜厚0.5μmで積層したもの(試料19)、銀錫合金めっき層を形成せずに銀めっき層のみ膜厚1μmで形成したもの(試料20)、アンチモンが添加された銀合金めっき層を膜厚1μmで形成したもの(試料21)とした。
なお、各めっきの条件は以下のとおりとした。
【0034】
<ニッケルめっき条件>
・めっき浴組成
スルファミン酸ニッケル:300g/L
塩化ニッケル:30g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:45℃
・電流密度:3A/dm2
【0035】
<銅めっき条件>
・めっき浴組成
硫酸銅5水和物 250g/L
硫酸 50g/L
・浴温:50℃
・電流密度:3A/dm2
・アノード:リン含有銅
【0036】
<パラジウムめっき条件>
・めっき浴組成
塩化パラジウム 17g/L
リン酸アンモニウム 100ml/L
塩化アンモニウム 25g/L
・浴温:30℃
・電流密度:1A/dm2
・アノード:Pt/Ti(チタン製板に白金を被覆した不溶性電極)
【0037】
<コバルトめっき条件>
・めっき浴組成
硫酸コバルト7水和物 140g/L
ホウ酸 40g/L
・浴温:30℃
・電流密度:1A/dm2
・アノード:Pt/Ti
【0038】
<マンガンめっき条件>
・めっき浴組成
硫酸マンガン 200g/L
硫酸アンモニウム 100g/L
・浴温:30℃
・電流密度:8A/dm2
・アノード:Pt/Ti
【0039】
<銀ストライクめっき条件>
・めっき浴組成
大和化成株式会社製ダイシルバー使用
・浴温:25℃
・電流密度:1A/dm2
・アノード:Ir/Ti
(チタン製板にイリジウム酸化物(IrO2)を被覆した不溶性電極)
【0040】
<銀錫合金めっき条件>
・めっき浴組成
メタンスルホン酸:40g/L
メタンスルホン酸錫:13~91g/L
メタンスルホン酸銀:75~170g/L
有機添加剤:5mg/L
・浴温:50℃
・電流密度:1~15A/dm2
【0041】
<銀めっき条件>
・めっき浴組成
シアン化銀カリウム:55g/L
シアン化カリウム:130g/L
炭酸カリウム:15g/L
非イオン性界面活性剤:1g/L
2,2チオエタノール:5g/L
・浴温:25℃
・電流密度:5A/dm2
・アノード: 純銀板
【0042】
なお、試料21のアンチモン入り銀合金めっき層は、日進化成株式会社製のアンチモンが添加されたニッシンブライトN浴を用いて、光沢銀めっきを実施することにより作製した。めっき浴の組成は、標準組成を用い、浴温25℃、電流密度5A/dm2とし、アノードとして純銀板を用い、膜厚1μmの銀合金めっき層(AgSb合金層)を形成した。
【0043】
得られた試料について、銀錫合金めっき層中のAg含有量、銀錫合金めっき層の膜厚、銀めっき層の膜厚を測定し、中間めっき層の膜厚、接触抵抗を測定し、かつ耐摩耗性を評価した。
【0044】
[銀錫合金めっき中のAg含有量]
収束イオンビーム装置(FIB)にてめっき材を加工して断面試料を作製し、銀錫合金めっき中のAg含有量(at%)は、日本電子株式会社製の電子線マイクロアナライザー:EPMA(型番JXA-8530F)を用いて、加速電圧10kVで各試料の断面を測定した。
【0045】
[各めっき層の膜厚]
収束イオンビーム装置(FIB)にてめっき材を加工して断面試料を作製し、その断面表面を走査イオン顕微鏡(SIM)で観察し、得られたSIM像から膜厚(μm)を測定し、得られた数値を膜厚とした。
【0046】
[接触抵抗]
加熱前の各試料及び150℃で250時間加熱後の各試料のそれぞれを60mm×10mmの試験片に切り出し、平板サンプルをオス端子の代用とし、この平板サンプルに曲率半径3mmの凸加工を行ったサンプルをメス端子の代用とした。これらを加熱前及び150℃で250時間加熱後について、それぞれ接触抵抗(mΩ)を測定した。測定に際しては、ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置したオス端子試験片にメス試験片の凸面を接触させ、オス端子試験片を20Nの荷重をかけた時の接触抵抗値を4端子法により測定した。
【0047】
[耐摩耗性]
各試料を60mm×10mmの試験片に切り出し、平板サンプルをオス端子の代用とし、この平板サンプルに曲率半径3mmの凸加工を行ったサンプルをメス端子の代用とした。摺動試験は、ブルカー・エイエックスエス株式会社の摩擦摩耗試験機(UMT-Tribolab)を用い、水平に設置したオス端子試験片にメス試験片の凸面を接触させ、2Nの荷重を負荷した状態で、オス端子試験片を水平に移動距離5mm、摺動速度1Hzで摺動させた。摺動試験後に凸加工サンプルの下地(ニッケル層)が露出しているか否かで耐摩耗性を判定した。この際、摺動試験後に下地が露出していないものを良好「A」、摺動試験後に下地が露出しているものを不可「B」とした。
【0048】
これらの結果を表1及び表2に示す。表中「-」は、めっきを実施しなかった、あるいは成膜できなかったために測定、評価しなかったことを示す。
【0049】
【0050】
【0051】
表1及び表2から明らかなように、中間めっき層の膜厚が0.02μm以上であり、銀錫合金めっき層が、Agを70at%以上85at%以下の範囲で含んでおり、銀錫合金めっき層の膜厚が0.5μm以上5μm以下である試料1~4,7,8,10,11,13~17は、加熱後の接触抵抗が2mΩ以下と良好で、耐摩耗性も良好であった。これらのうち、最表面に銀めっき層を0.1μm以上2μm以下の膜厚で形成した試料8,10,11,13~17は、銀めっき層を形成しなかった試料1~4、銀めっき層の膜厚が0.1μmであった試料7に比べて、加熱後の接触抵抗値が低く、加熱環境下における使用に適していることがわかる。
図2は試料13のSIM像であり、基材(Base Materialと表記)表面のニッケルめっき層(Niと表記)の上に、中間めっき層としてCuからなる層(Cuと表記)、銀錫合金めっき層(AgSnと表記)、銀めっき層(Agと表記)が形成されている。
これに対して、試料5は、銀錫合金めっき層の膜厚が0.4μmと小さいため、耐摩耗性が劣っていた。
試料6は、銀錫合金めっき層中のSnの含有量が多い(Agの含有量が少ない)ため、加熱によって拡散したSnが最表層に酸化膜を形成して接触抵抗が増加している。
試料9は、銀錫合金めっき層中のAg含有量が87at%であったことから、銀錫合金めっき層の結晶粒の大きさが極端にばらついて、均一な成膜ができなかった。
試料12は、中間めっき層の膜厚が0.01μmであったため、耐摩耗性に劣っていた。
中間めっき層を形成しなかった試料18~21は、耐摩耗性に劣っていた。
【符号の説明】
【0052】
1 コネクタ用端子材
2 基材
3 ニッケルめっき層
4 中間めっき層
5 銀錫合金めっき層
6 銀めっき層