(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置および方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/58 20060101AFI20230627BHJP
B05B 13/04 20060101ALI20230627BHJP
B05B 13/06 20060101ALI20230627BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20230627BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B29C33/58
B05B13/04
B05B13/06
B29C33/02
B29C35/02
(21)【出願番号】P 2019150677
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】西尾 悟
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-051776(JP,A)
【文献】特開2015-047834(JP,A)
【文献】特開2014-195873(JP,A)
【文献】特開平07-195002(JP,A)
【文献】特開平10-034667(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2018-0040778(KR,A)
【文献】韓国公開特許第2006-0087845(KR,A)
【文献】中国実用新案第202845253(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 35/00-35/18
B29D 30/00-30/72
B05B 1/00- 3/18
B05B 7/00- 9/08
B05B 12/00-12/14
B05B 13/00-13/06
B05C 5/00- 5/04
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫タイヤが横倒し状態で載置されるタイヤ保持部と、前記未加硫タイヤのタイヤ内面に向かって液状の離型剤を噴霧する噴霧機と、前記未加硫タイヤと前記噴霧機の噴霧ノズルとを相対移動させる相対移動機構と、噴霧された余分な離型剤を吸引する捕集機とを備えた未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置において、
前記未加硫タイヤの全体が収容されるケーシングと、複数台の前記捕集機と、前記噴霧機の噴霧動作を制御するとともに、前記噴霧動作に基づいてそれぞれの前記捕集機の吸引動作を独立に制御する制御部とを備えて、
前記未加硫タイヤの内側空間がタイヤ上側開口およびタイヤ下側開口を通じて前記ケーシングの内部空間と連通し、かつ、前記未加硫タイヤが前記ケーシングと非接触の状態で前記ケーシングに収容され、前記捕集機として、前記ケーシングの前記タイヤ上側開口または前記タイヤ下側開口のうち一方に対向する位置に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの前記内部空間と連通する捕集機と、前記ケーシングの側面に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの前記内部空間と連通する捕集機とを有することを特徴とする未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置。
【請求項2】
前記捕集機として、前記ケーシングの前記タイヤ上側開口または前記タイヤ下側開口のうち他方に対向する位置に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの前記内部空間と連通する捕集機を有する請求項1に記載の未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置。
【請求項3】
前記未加硫タイヤの仕様毎に、前記
噴霧機の噴霧動作およびそれぞれの前記捕集機の吸引動作が予め前記制御部に記憶されている請求項1または2に記載の未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置。
【請求項4】
前記制御部により制御される外気流入量調整機構を有し、前記噴霧動作に基づいて前記外気流入量調整機構を制御することにより、前記ケーシングの外部から内部へ外気の流入量が調整されて、噴霧された余分な前記離型剤のそれぞれの前記捕集機による吸引具合が調整される請求項1~3のいずれかに記載の未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置。
【請求項5】
前記未加硫タイヤの下側ビード部が前記タイヤ保持部に非接触の状態で前記未加硫タイヤが前記タイヤ保持部に載置される構成にした請求項1~4のいずれかに記載の未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置。
【請求項6】
横倒し状態の未加硫タイヤのタイヤ内面に向かって、前記未加硫タイヤと噴霧機の噴霧ノズルとを相対移動させながら、液状の離型剤を前記噴霧ノズルから噴霧して前記タイヤ内面に前記離型剤を塗布し、噴霧された余分な前記離型剤を捕集機により吸引する未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布方法において、
ケーシングに前記未加硫タイヤの全体を前記ケーシングとは非接触の状態で収容し、前記捕集機として、前記ケーシングの前記未加硫タイヤのタイヤ上側開口またはタイヤ下側開口の一方に対向する位置に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの内部空間と連通する捕集機と、前記ケーシングの側面に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの内部空間と連通する捕集機とを設け、
前記未加硫タイヤの内側空間を前記タイヤ上側開口および前記タイヤ下側開口を通じて前記ケーシングの前記内部空間と連通させ、前記噴霧機の噴霧動作を制御部により制御し、前記噴霧動作に基づいて、それぞれの前記捕集機の動作を前記制御部により独立に制御することを特徴とする未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置および方法に関し、さらに詳しくは、未加硫タイヤ内面に対して離型剤の塗布ムラを抑制しつつ、離型剤のタイヤ外面への付着および周辺環境への飛散を防止できる未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
未加硫タイヤのタイヤ内面には、加硫後にタイヤ内面と加硫ブラダとの密着を防止して円滑に加硫したタイヤを取り出し易くするために離型剤を塗布されている。この離型剤がタイヤ外面に付着したり、周辺環境に飛散することを防止するために、置き台に未加硫タイヤを横倒し状態で載置し、タイヤ上側開口を上蓋で閉じて離型剤を噴射しつつ、余分な離型剤を置き台に接続されたダクトを通じて吸引する方法が提案されている(特許文献1参照)。或いは、横倒し状態の未加硫タイヤのタイヤ上側開口および下側開口をそれぞれ粉体飛散防止蓋で閉じて粉体の離型剤を供給しつつ、余分な離型剤をそれぞれの粉体飛散防止蓋に接続された吸引ホースを通じて吸引する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
これら従来方法では、タイヤ内部を実質的に閉空間状態にして離型剤を塗布している。このようにタイヤ内部を閉空間にすると、蓋部材と当接するタイヤビード部周辺での離型剤の塗布量が過大または過小になって塗布ムラが生じ易い。それ故、離型剤の塗布ムラを抑制しつつ、離型剤のタイヤ外面への付着および周辺環境への飛散を防止するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-288430号公報
【文献】特開2001-198503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、未加硫タイヤ内面に対して離型剤の塗布ムラを抑制しつつ、離型剤のタイヤ外面への付着および周辺環境への飛散を防止できる未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の未加硫タイヤ内面への離型剤塗布装置は、未加硫タイヤが横倒し状態で載置されるタイヤ保持部と、前記未加硫タイヤのタイヤ内面に向かって液状の離型剤を噴霧する噴霧機と、前記未加硫タイヤと前記噴霧機の噴霧ノズルとを相対移動させる相対移動機構と、噴霧された余分な離型剤を吸引する捕集機とを備えた未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置において、前記未加硫タイヤの全体が収容されるケーシングと、複数台の前記捕集機と、前記噴霧機の噴霧動作を制御するとともに、前記噴霧動作に基づいてそれぞれの前記捕集機の吸引動作を独立に制御する制御部とを備えて、前記未加硫タイヤの内側空間がタイヤ上側開口およびタイヤ下側開口を通じて前記ケーシングの内部空間と連通し、かつ、前記未加硫タイヤが前記ケーシングと非接触の状態で前記ケーシングに収容され、前記捕集機として、前記ケーシングの前記タイヤ上側開口または前記タイヤ下側開口のうち一方に対向する位置に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの前記内部空間と連通する捕集機と、前記ケーシングの側面に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの前記内部空間と連通する捕集機とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の未加硫タイヤ内面への離型剤塗布方法は、横倒し状態の未加硫タイヤのタイヤ内面に向かって、前記未加硫タイヤと噴霧機の噴霧ノズルとを相対移動させながら、液状の離型剤を前記噴霧ノズルから噴霧して前記タイヤ内面に前記離型剤を塗布し、噴霧された余分な前記離型剤を捕集機により吸引する未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布方法において、ケーシングに前記未加硫タイヤの全体を前記ケーシングとは非接触の状態で収容し、前記捕集機として、前記ケーシングの前記未加硫タイヤのタイヤ上側開口またはタイヤ下側開口の一方に対向する位置に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの内部空間と連通する捕集機と、前記ケーシングの側面に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの内部空間と連通する捕集機とを設け、前記未加硫タイヤの内側空間を前記タイヤ上側開口および前記タイヤ下側開口を通じて前記ケーシングの前記内部空間と連通させ、前記噴霧機の噴霧動作を制御部により制御し、前記噴霧動作に基づいて、それぞれの前記捕集機の動作を前記制御部により独立に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記未加硫タイヤの内側空間を前記タイヤ上側開口および前記タイヤ下側開口を通じて前記ケーシングの前記内部空間と連通させ、かつ、前記未加硫タイヤの全体を前記ケーシングとは非接触の状態で前記ケーシングに収容することで、前記未加硫タイヤの内側空間を前記ケーシングの内部で開空間状態にする。この状態で、液状の離型剤を前記噴霧ノズルから噴霧してタイヤ内面に前記離型剤を塗布し、前記ケーシングの前記未加硫タイヤのタイヤ上側開口またはタイヤ下側開口のうちの一方に対向する位置に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの内部空間と連通する捕集機と、前記ケーシングの側面に接続された吸引ダクトを通じて前記ケーシングの内部空間と連通する捕集機とを用いて、噴霧された余分な前記離型剤を吸引する。それぞれの前記捕集機のこの吸引動作を、噴霧動作に基づいて前記制御部により独立して制御することで、噴霧されたミスト状の離型剤をタイヤ内面に対して偏りを抑制して付着させることができる。また、タイヤ内側空間およびケーシング内部のタイヤ外側空間に漂っている余分な離型剤は、吸引口の位置を異ならせた複数系統の吸引ダクトを通じて捕集機によって吸引される。これより、離型剤の塗布ムラを抑制しつつ、離型剤のタイヤ外面への付着および周辺環境への飛散を防止できる
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置の実施形態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1の塗布装置を平面視で例示する説明図である。
【
図3】
図1の上面を移動させてケーシングを開いた状態を平面視で例示する説明図である。
【
図4】噴霧機および捕集機の作動タイミングを例示する説明図である。
【
図5】塗布装置の別の実施形態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図6】塗布装置のさらに別の実施形態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図7】
図6の外気流入量調整機構の変形例を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置および方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1、
図2に例示する本発明の未加硫タイヤ内面への離型剤の塗布装置1(以下、塗布装置1という)は、横倒し状態の未加硫タイヤG(以下、タイヤGという)のタイヤ内面に、ミスト状の離型剤Lを噴霧して塗布する。離型剤Lとしては、所定濃度に水で希釈されたシリコーン液などの公知の液体の離型剤Lが使用される。
【0012】
この塗布装置1は、ケーシング2と、タイヤGが横倒し状態で載置されるタイヤ保持部4と、タイヤ内面に向かって液状の離型剤Lを噴霧する噴霧機6と、タイヤGと噴霧機6の噴霧ノズル6aを相対移動させる駆動モータ5と、噴霧された余分な離型剤Lを吸引する複数台の捕集機7(7A、7B、7C)と、制御部10とを備えている。制御部10は、噴霧機6の噴霧動作を制御するとともに、この噴霧動作に基づいてそれぞれの捕集機7の吸引動作を独立に制御する。
【0013】
横倒し状態のタイヤGの全体が、ケーシング2とは非接触の状態でケーシング2に収容される。このタイヤGの内側空間は、タイヤ上側開口Guおよびタイヤ下側開口Gdを通じてケーシング2の内部空間と連通している。タイヤ上側開口Gu、タイヤ下側開口Gdはそれぞれ、環状の上側ビード部Bu、下側ビード部Bdで形成される開口である。したがって、タイヤGの内側空間がケーシング2の内部で開空間状態になっている。
【0014】
ケーシング2は、上面2a、底面2cおよび側面2bを有していて、これらの面で囲まれた閉空間が形成されている。底面2cから下方に脚部が延在していて、底面2cは底上げされた状態になっている。この実施形態では、四角柱状のケーシング2が用いられているが、対向する上面2aおよび底面2cとこれらに間に配置される側面2bを有していればよく、円柱状や多角柱状のケーシング2などを用いることもできる。
【0015】
この実施形態では、
図2、
図3に例示するように、上面2aをスライドさせてケーシング2を開閉する上面開閉機構3が備わっている。上面開閉機構3としては、例えば上面2aに接続された流体圧シリンダなどのアクチュエータが用いられる。上面開閉機構3の動作は制御部10により制御される。
図2に例示する閉じられたケーシング2は、上面開閉機構3を作動させることで、
図3に例示するように開いた状態になる。ケーシング2にタイヤGを出し入れする際には、このようにケーシング2を開いた状態する。
【0016】
タイヤ保持部4は外側上方に向かって拡径する皿状体になっていて、平面視の中央部に上下に貫通する貫通穴4aが形成されている。タイヤ保持部4は底面2cに配置された駆動モータ5によって回転可能に支持されている。駆動モータ5を作動させることでタイヤ保持部4は平面視中心まわりに回転する。駆動モータ5の動作は制御部10により制御される。
【0017】
この実施形態の塗布装置1は2台の噴霧機6を備えているが、噴霧機6の数は単数、または適切な複数にすることができる。それぞれの噴霧機6は、噴霧ノズル6aと、噴霧ノズル6aが一端部に接続された支持パイプ6bと、支持パイプ6bの他端部に接続された供給ポンプ6cと、供給ポンプ6cが収容されたタンク6dとを有している。タンク6dには所定濃度に調製された離型剤Lが貯留されている。供給ポンプ6cが作動することで、タンク6dに貯留されている離型剤Lは、支持パイプ6bを通じて噴霧ノズル6aに供給される。供給ポンプ6cの動作(噴霧動作)は制御部10により制御される。
【0018】
供給ポンプ6cおよびタンク6dは底面2cの下方に配置されている。それぞれの支持パイプ6bは、底面2cを上下に貫通し、タイヤ保持部4の貫通穴4aを挿通して上下に延在している。一方の噴霧ノズル6aは、タイヤ内面の上側ショルダ部に向かって上向きに離型剤Lを噴霧し、他方の噴霧ノズル6aはタイヤ内面の下側ショルダ部に向かって下向きに離型剤Lを噴霧するように設定されている。尚、供給ポンプ6cおよびタンク6dは底面2cの下方位置に限らず、例えばケーシング2の側方などに配置することもできる。
【0019】
この実施形態では、噴霧ノズル6aが所定位置に固定された状態で、タイヤ保持部4がタイヤGとともに回転駆動されるので、駆動モータ5が、タイヤGと噴霧ノズル6aとを相対移動させる相対移動機構として機能している。タイヤ保持部4が所定位置に固定された状態で、噴霧ノズル6aをタイヤ保持部4の平面視中心まわりで回転させる相対移動機構を用いることもできる。
【0020】
捕集機7としては、ケーシング2のタイヤ上側開口Guに対向する位置(上面2a)に接続された吸引ダクト8Aを通じてケーシング2の内部空間と連通する捕集機7Aと、ケーシング2のタイヤ下側開口Gdに対向する位置(下面2c)に接続された吸引ダクト8Cを通じてケーシング2の内部空間と連通する捕集機7Cと、ケーシング2の側面2bに接続された吸引ダクト8Bを通じてケーシング2の内部空間と連通する捕集機7Bとの3台を有している。捕集機7は、吸引ダクト8Aに連結された捕集機7Aと吸引ダクト8Cに連結された捕集機7Cの少なくとも一方と、吸引ダクト8Bに連結された捕集機7Bとを有していればよい。
【0021】
したがって塗布装置1は、吸引口8PがタイヤGの内側空間に隣接して設置された吸引ダクト8A、8Cを有する系統と、吸引口8PがタイヤGのトレッド部に隣接した設置された吸引ダクト8Bを有する系統との複数の吸引系統を備えている。側面2bの周方向に間隔をあけた複数の位置に吸引ダクト8を接続して(吸引口8Pを設置して)、それぞれの吸引ダクト毎に捕集機7を連結することもできる。
【0022】
次に、タイヤGのタイヤ内面に離型剤Lを塗布する方法を説明する。
【0023】
まず、
図3に例示するように、上面2aをスライドさせてケーシング2を開いた状態にした後、タイヤGを横倒し状態でタイヤ保持部4に載置する。自動制御されたローダ等用いてタイヤGの平面視中心とタイヤ保持部4の平面視中心とを位置合わせしてタイヤGを載置するとよい。その後、上面2aをスライドさせてケーシング2を閉じた状態にする。
【0024】
次いで、
図1、
図2に例示するように、タイヤGの内面への離型剤Lの塗布工程を開始する。尚、タイヤGの仕様に基づいて、噴霧ノズル6aは適切な位置および向きに設定されている。
【0025】
この塗布工程では、横倒し状態のタイヤGのタイヤ内面に向かって、タイヤGと噴霧ノズル6aとを相対移動させながら、離型剤Lを噴霧ノズル6aからミスト状に噴霧する。また、噴霧された余分な離型剤Lを捕集機7により吸引する。この実施形態では、駆動モータ5によってタイヤ保持部4とともにタイヤGを平面視中心まわりに回転させながら、離型剤Lを噴霧する。
【0026】
塗布工程では、制御部10が噴霧機6の噴霧動作を制御する。また、この噴霧動作に基づいて、それぞれの捕集機7(7A、7B、7C)の動作を独立に制御する。例えば、事前に塗布テストを行って、タイヤ仕様毎に基準どおりに離型剤Lを塗布することができる噴霧動作の適切な条件(設定値)、吸引動作の適切な条件(設定値)を把握する。そして、把握したこれらの適切な条件(設定値)は、例えば制御部10に記憶しておくとよい。これにより、塗布工程の作業効率を向上させることができ、特に、仕様の異なる複数種類のタイヤGに離型剤Lを塗布する際には、作業の煩雑さを解消することに大きく寄与する。
【0027】
制御部10は、上述した適切な条件(設定値)に基づいて、噴霧機6およびそれぞれの捕集機7の動作を制御する。例えば、
図4に示す動作チャート(プログラム)に従って噴霧機6の噴霧動作を制御する。
図4の動作チャートでは、塗布工程の開始時点から経過時間t3まで噴霧機6を作動させて噴霧動作を行う。捕集機7Aは、塗布工程の開始から経過時間t2の時点で吸引動作を開始して、経過時間t4の時点まで吸引動作を行う。捕集機7Bは、塗布工程の開始時点から経過時間t5の時点まで吸引動作を行う。捕集機7Cは、塗布工程の開始から経過時間t1の時点で吸引動作を開始して、経過時間t4の時点まで吸引動作を行う。
【0028】
捕集機7A、7Cは、噴霧動作の開始と同時に作動させると、噴霧した離型剤Lが直ちに吸引ダクト8A、8Cを通じて捕集機7A、7Cに吸引されて、タイヤ内面に付着し難くなる。そのため、捕集機7A、7Cの作動開始のタイミングは、噴霧動作の開始よりも遅らせるとよい。また、タイヤ外面に離型剤Lの付着を防止するために、捕集機7Bの作動開始のタイミングは、噴霧動作の開始と同等時点、または、噴霧動作より早い時点に設定するとよい。このように、それぞれの捕集機7A、7B、7Cの吸引動作が独立して制御される。尚、それぞれの捕集機7を独立に制御して結果として同じタイミングで吸引動作のオン・オフが行われることもある。
【0029】
ミスト状に噴霧される離型剤Lの多くはタイヤGの内面に付着し、残りはタイヤGの内側空間を漂う。この塗布装置1では、ケーシング2の内部でタイヤGの内側空間が開空間状態になっているので、漂っている離型剤LはタイヤGの内側空間に広く拡散し易くなっている。そして、タイヤ上側開口Guおよびタイヤ下側開口Gdが蓋部材によって塞がれていないので、上側ビード部Bu周辺や下側ビード部Bd周辺での離型剤Lの付着量(塗布量)が過大または過小になることを防止できる。これに伴い、離型剤Lの塗布ムラを抑制できる。
【0030】
ここで例えば、タイヤ上側開口Guやタイヤ下側開口Gdを閉じる蓋部材を使用すると、離型剤Lを塗布するタイヤGの外径サイズが切り替わった場合、蓋部材のタイヤGに接触する位置が変化する。このような蓋部材には、余分な離型剤Lが付着、堆積しているので、外径サイズが異なるタイヤGに使用すると、蓋部材に付着、堆積していた離型剤Lがタイヤ外面のビード部Bu、Bdの周辺に付着する不具合が生じる。この塗布装置1は、蓋部材を使用しないのでこのような不具合が生じることがなく、外径サイズが異なるタイヤGのタイヤ内面に離型剤Lを塗布する場合にも有利になる。
【0031】
尚、横倒し状態のタイヤGが載置されるタイヤ保持部4が、タイヤGと接触する部品になる。そこで、余分な離型剤Lが付着し易い下側ビード部Bdをタイヤ保持部4に対して非接触の状態にするとよい。例えば、タイヤ保持部4の上側表面の形状を工夫して、タイヤGの下側ショルダ部周辺のみを接触させてタイヤGがタイヤ保持部4に載置される構成にする。このように構成すると、離型剤Lを塗布するタイヤGの外径サイズが切り替わった場合にも、タイヤ保持部4の表面に付着、堆積していた離型剤Lがタイヤ外面の下側ビード部Bdの周辺に付着することを防止できる。
【0032】
タイヤGの内側空間に漂っている離型剤Lの大部分は、吸引ダクト8A、8Cを通じて捕集機7A、7Cによって直接的に吸引される。一方、タイヤGのタイヤ外面周辺(トレッド側など)に流出した離型剤Lは、吸引ダクト8Bを通じて捕集機7Bによって吸引される。それ故、離型剤Lのタイヤ外面への付着および周辺環境への飛散を防止することができる。尚、タイヤ1本に塗布される離型剤Lの量は僅かなので、タイヤ外面周辺に流出した極僅かな量のミスト状の離型剤Lは、捕集機7Bによって十分に吸引することができる。
【0033】
この塗布工程が終了した後は、例えば、駆動モータ5によりタイヤGを回転させながら、噴霧ノズル6aからエアのみを噴射して、塗布した離型剤Lを乾燥させることもできる。その後、上面2aをスライドさせてケーシング2を開いてタイヤGを取り出す。取り出されたタイヤGは加硫工程に搬送されて加硫される。
【0034】
本発明によれば、タイヤGの内側空間が上述したとおり、ケーシング2の内部で開空間状態になっているので、噴霧機6の噴霧動作を制御するとともに、この噴霧動作に基づいてそれぞれの捕集機7A、7B、7Cの吸引動作を独立に制御することで、タイヤ内面に対してミスト状の離型剤Lを偏りを抑制して付着させることができる。また、タイヤGの内側空間およびケーシング2の内部のタイヤ外側空間に漂っている余分な離型剤Lは、吸引口8Pの位置を異ならせた複数系統の吸引ダクト8A、8B、8Cを通じてそれぞれの捕集機7A、7B、7Cによって吸引される。したがって、離型剤Lの塗布ムラを抑制しつつ、離型剤Lのタイヤ外面への付着および周辺環境への飛散を防止できる。
【0035】
本発明では、
図5に例示するように捕集機7として、
図1に例示した捕集機7Cを省略して、捕集機7Aと捕集機7Bの2台にした形態を採用することもできる。或いは、
図1に例示した捕集機7Aを省略して、捕集機7Bと捕集機7Cの2台にした形態を採用することもできる。
【0036】
図6に例示する別の実施形態は、制御部10により制御される外気流入量調整機構9aを有している。具体的には、上面2aを上下移動させる流体圧シリンダなどのアクチュエータが外気流入量調整機構9aとして使用されている。外気流入量調整機構9aを作動させて上面2aの上方移動量を大きくして側面2bの上端面とのすき間を大きくすると外気流入量が増大し、このすき間を小さくすると外気流入量が減少する。
【0037】
この実施形態では、噴霧機6の噴霧動作に基づいて外気流入量調整機構9aを制御することで、ケーシング2の外部から内部へ外気の流入量が調整される。これに伴い、ケーシング2の内部の気流に変化が生じるので、それぞれの捕集機7A、7Bによる吸引具合を調整することができる。即ち、ケーシング2の内部への外気の流入量に起因して、タイヤ内面への離型剤Lの付着状態や余分な離型剤Lの吸引効率が影響を受けるので、事前テスト等を行って適切な外気の流入量を予め把握しておくとよい。そして、この把握した適切な外気の流入量になるように、外気流入量調整機構9aを制御しながら、塗布工程を行うこともできる。
【0038】
図7に、別の外気流入量調整機構9bを例示する。この塗布装置1では、開閉弁が内設されたエアダンパが、外気流入量調整機構9bとして使用されている。この開閉弁の弁開度を制御することでケーシング2の外部から内部へ外気の流入量を調整することができる。この外気流入量調整機構9bは、ケーシング2の所望の位置に設置し易いというメリットがある。
【0039】
尚、
図6、7に例示した塗布装置1においても、
図1に例示した捕集機7Cおよび吸引ダクト8Cを備えることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 塗布装置
2 ケーシング
2a 上面
2b 側面
2c 底面
3 上面開閉機構
4 タイヤ保持部
4a 貫通穴
5 駆動モータ(相対移動機構)
6 噴霧機
6a 噴霧ノズル
6b 支持パイプ
6c 供給ポンプ
6d タンク
7(7A、7B、7C) 捕集機
8(8A、8B、8C) 吸引ダクト
8P 吸引口
9a、9b 外気流入量調整機構
10 制御部
L 離型剤
G 未加硫タイヤ
Gu タイヤ上側開口
Gd タイヤ下側開口
Bu 上側ビード部
Bd 下側ビード部