(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】特性算出プログラム、特性算出方法および情報処理システム
(51)【国際特許分類】
G01H 13/00 20060101AFI20230627BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20230627BHJP
G01B 21/00 20060101ALI20230627BHJP
G01B 21/30 20060101ALI20230627BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20230627BHJP
G01C 7/04 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
G01H13/00
G08G1/00 J
G01B21/00 T
G01B21/30 101F
G01M99/00 Z
G01C7/04
(21)【出願番号】P 2019216621
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】小森谷 均
(72)【発明者】
【氏名】北川 英志
(72)【発明者】
【氏名】渡部 勇
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223640(JP,A)
【文献】特開2014-77257(JP,A)
【文献】特開2018-96753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01M 99/00
G01B 21/00-21/30
G01C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、前記複数回の走行それぞれで測定された前記車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データをそれぞれ取得し、
前記車両のサスペンションのバネ共振周波数と減衰係数とをパラメータとし、各時点における居室の垂直加速度、垂直速度および居室の高さ偏差から、前記各時点に対応する位置における道路の高さ偏差を導出する関数を用いて、前記バネ共振周波数と前記減衰係数との複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得した前記時系列データに対応する走行ごとに、当該時系列データから前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出し、
算出した前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を、前記複数回の走行のうちの異なる走行間で比較した結果に基づいて、前記複数通りの組み合わせのうち、前記走行間の道路の高さ偏差の差が最小となる組み合わせを特定し、
特定した前記組み合わせから、前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを決定する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする特性算出プログラム。
【請求項2】
前記取得する処理は、
複数の車両の各車両が複数の道路を走行した際に測定された前記各車両の居室の垂直加速度を示す走行データを記憶する記憶部を参照して、所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、前記複数回の走行それぞれで測定された前記車両の居室の垂直加速度を示す走行データ群をそれぞれ抽出することにより、前記時系列データをそれぞれ取得する、ことを特徴とする請求項1に記載の特性算出プログラム。
【請求項3】
前記走行データは、前記車両の識別情報、位置情報および時点情報と対応付けて、測定された前記車両の居室の垂直加速度を示す、ことを特徴とする請求項2に記載の特性算出プログラム。
【請求項4】
前記算出する処理は、
前記各時点における道路の高さ偏差を、前記各時点の前記車両の位置情報に基づいて、前記各時点に対応する位置における道路の高さ偏差に変換することにより、前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出する、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の特性算出プログラム。
【請求項5】
決定した前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを、前記車両を特定する情報と対応付けて出力する、処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の特性算出プログラム。
【請求項6】
決定した前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを用いて、劣化状態の判断対象となる道路を前記車両で走行した際に測定された前記車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データに基づいて、各時点における道路の高さ偏差を算出し、
算出した前記各時点における道路の高さ偏差に基づいて、前記道路の道路平坦度を算出する、
処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の特性算出プログラム。
【請求項7】
所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、前記複数回の走行それぞれで測定された前記車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データをそれぞれ取得し、
前記車両のサスペンションのバネ共振周波数と減衰係数とをパラメータとし、各時点における居室の垂直加速度、垂直速度および居室の高さ偏差から、前記各時点に対応する位置における道路の高さ偏差を導出する関数を用いて、前記バネ共振周波数と前記減衰係数との複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得した前記時系列データに対応する走行ごとに、当該時系列データから前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出し、
算出した前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を、前記複数回の走行のうちの異なる走行間で比較した結果に基づいて、前記複数通りの組み合わせのうち、前記走行間の道路の高さ偏差の差が最小となる組み合わせを特定し、
特定した前記組み合わせから、前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを決定する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする特性算出方法。
【請求項8】
所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、前記複数回の走行それぞれで測定された前記車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データをそれぞれ取得し、
前記車両のサスペンションのバネ共振周波数と減衰係数とをパラメータとし、各時点における居室の垂直加速度、垂直速度および居室の高さ偏差から、前記各時点に対応する位置における道路の高さ偏差を導出する関数を用いて、前記バネ共振周波数と前記減衰係数との複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得した前記時系列データに対応する走行ごとに、当該時系列データから前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出し、
算出した前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を、前記複数回の走行のうちの異なる走行間で比較した結果に基づいて、前記複数通りの組み合わせのうち、前記走行間の道路の高さ偏差の差が最小となる組み合わせを特定し、
特定した前記組み合わせから、前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを決定する、
ことを特徴とする情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性算出プログラム、特性算出方法および情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、舗装した道路の補修の必要性を判断するために、道路の劣化状態の測定が行われることがある。しかし、道路の保守のための専用車両による道路の劣化状態の測定には大きなコストがかかる。このため、スマートフォンなどを利用して計測されるデータを用いて、道路の劣化状態の測定を低コストで実現することが望まれている。
【0003】
先行技術としては、垂直方向の加速度およびピッチ軸に関する角速度を取得し、シミュレーションモデルに基づいて、車両の状態変数の時間発展を予測し、取得した加速度および角速度ならびに算出した垂直方向の変位およびピッチ軸に関する角度変位と、観測モデルに基づき状態変数から算出した加速度、角速度、変位および角度変位とのデータ同化によって、状態変数を更新し、状態変数に基づいて、路面のプロファイルを推定するものがある。
【0004】
また、第1変位データを時間軸に対して所定量ずらしながら第2変位データとの差の二乗平方根和を算出し、差の二乗平方根和が最小になった場合に係るずらし時間に基づき車両の速度を推定し、当該車両の速度によりジョイント部に係る振動データを特定し、特定データに基づきジョイント部に係る平坦性および段差量を算出する技術がある。
【0005】
また、バネ上上下加速度センサで検出したサスペンション装置のバネ上上下加速度をバンドパスフィルタでフィルタリングし、0.7Hz~1.0Hzのバネ上共振周波数領域の振動の実効値と、バネ上共振周波数領域およびバネ下共振周波数領域の中間の3.0Hz~8.0Hzの中間周波数領域の振動の実効値とを算出し、(バネ上共振周波数領域の振動の実効値)/(中間周波数領域の振動の実効値)で表される比を閾値と比較することで、波状路、コブ状路等を判定する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-185276号公報
【文献】特開2018-004469号公報
【文献】特開2006-082755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では、車載のスマートフォンなどで計測される加速度データから道路の劣化状態を判断するにあたり、車両のサスペンションのバネ共振周波数や減衰係数を測定することができず、サスペンションの影響を考慮した状態判断を行うことができない場合がある。
【0008】
一つの側面では、本発明は、車両のサスペンションの特性を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの実施態様では、所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、前記複数回の走行それぞれで測定された前記車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データをそれぞれ取得し、前記車両のサスペンションのバネ共振周波数と減衰係数とをパラメータとし、各時点における居室の垂直加速度、垂直速度および居室の高さ偏差から、前記各時点に対応する位置における道路の高さ偏差を導出する関数を用いて、前記バネ共振周波数と前記減衰係数との複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得した前記時系列データに対応する走行ごとに、当該時系列データから前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出し、算出した前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を、前記複数回の走行のうちの異なる走行間で比較した結果に基づいて、前記複数通りの組み合わせのうち、前記走行間の道路の高さ偏差の差が最小となる組み合わせを特定し、特定した前記組み合わせから、前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを決定する、特性算出プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、車両のサスペンションの特性を推定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施の形態にかかる特性算出方法の一実施例を示す説明図である。
【
図2】
図2は、情報処理システム200のシステム構成例を示す説明図である。
【
図3】
図3は、情報処理装置101のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、走行データDB220の記憶内容の一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、情報処理装置101の機能的構成例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、路面データ間の差の判断例を示す説明図である。
【
図7A】
図7Aは、計算用テーブルの記憶内容の一例を示す説明図(その1)である。
【
図7B】
図7Bは、計算用テーブルの記憶内容の一例を示す説明図(その2)である。
【
図7C】
図7Cは、計算用テーブルの記憶内容の一例を示す説明図(その3)である。
【
図7D】
図7Dは、計算用テーブルの記憶内容の一例を示す説明図(その4)である。
【
図9】
図9は、路面高さデータの具体例を示す説明図である。
【
図13A】
図13Aは、各区間の路面高さの標準偏差を示す説明図(その1)である。
【
図13B】
図13Bは、各区間の路面高さの標準偏差を示す説明図(その2)である。
【
図13C】
図13Cは、各区間の路面高さの標準偏差を示す説明図(その3)である。
【
図13D】
図13Dは、各区間の路面高さの標準偏差を示す説明図(その4)である。
【
図14】
図14は、情報処理装置101のデータ抽出処理手順の一例を示すフローチャート(その1)である。
【
図15】
図15は、情報処理装置101のデータ抽出処理手順の一例を示すフローチャート(その2)である。
【
図16】
図16は、情報処理装置101の特性算出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図17】
図17は、情報処理装置101の道路平坦度算出処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、本発明にかかる特性算出プログラム、特性算出方法および情報処理システムの実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかる特性算出方法の一実施例を示す説明図である。
図1において、情報処理装置101は、車両の居室の垂直加速度から、車両のサスペンションの特性を推定するコンピュータである。車両は、例えば、乗用車、トラック、バス、オートバイなどの自動車である。
【0014】
車両の居室は、運転者や同乗者がいる車内のスペースである。垂直加速度は、上下方向の加速度である。居室の垂直加速度は、例えば、車載のスマートフォンのセンサなどを利用して測定することが可能である。サスペンションは、車輪からの振動を緩衝させる懸架装置である。サスペンションの特性は、例えば、バネ共振周波数と減衰係数とによって表される。
【0015】
ここで、舗装した道路は、年月が経つと段々と劣化していく。このため、道路の劣化状態を正確に把握し、道路の補修の必要性を判断することは重要である。道路の劣化状態を判断する指標の一つとして、道路平坦度(IRI:国際ラフネス指数)がある。道路平坦度(IRI)は、進行方向の一定の長さに対する道路の垂直方向の高さ偏差の和である。
【0016】
この道路平坦度(IRI)が一定値を超えたときに、道路の補修が必要であると判断される。道路平坦度(IRI)を計算する方法としては、例えば、既存技術1,2の方法がある。
【0017】
既存技術1の方法は、車のサスペンションのバネ共振周波数と減衰係数とを測定し、車の居室の垂直加速度を測定する。そして、既存技術1の方法は、測定した居室の垂直加速度を積分して得られる居室の高さ偏差と、測定したバネ共振周波数と減衰係数とから、道路平坦度(IRI)を計算する。
【0018】
なお、既存技術1の方法については、例えば、非特許文献1「八木浩一著 自動車のバネ上観測加速度からの路面縦断プロファイルの推定とその精度検証 バンプレコーダー製作委員会 2013」を参照することができる。
【0019】
既存技術2の方法は、私有地等の道路に高さや幅を規定した突起を作り、その突起を車が一定速度で通過したときの加速度応答から、一定速度における突起の大きさと車の垂直加速度の標準偏差の関係を求め、その関係を用いて、車の垂直加速度から道路平坦度(IRI)を計算する。
【0020】
なお、既存技術2の方法については、例えば、特開2013-79889号公報を参照することができる。
【0021】
一方で、近年は技術開発やデータの有効活用のために、自治体などが各種のデータを提供するケースが増えている。例えば、車載のスマートフォンなどで計測されたデータが提供されることがある。このようなデータの場合、車両の諸元情報(車両の寸法、構造、性能など)までは提供されないことが多い。
【0022】
このため、車のサスペンションのバネ共振周波数や減衰係数を測定することが前提である既存技術1の方法では、自治体などから提供されるデータを利用することができないことが多い。また、突起の大きさと車の垂直加速度の標準偏差の関係を求める既存技術2の方法も利用することができない。
【0023】
なお、背景技術で説明したように、走行中の垂直加速度とピッチ軸回りの回転角速度から状態変数を計算して、道路平坦度(IRI)を求める技術もある(例えば、特許文献1参照)。しかし、この技術は、自治体などから提供されるデータが垂直加速度のみであった場合は適用することができない。
【0024】
そこで、本実施の形態では、車両の居室の垂直加速度から、車両のサスペンションの特性(バネ共振周波数、減衰係数)を推定することで、提供されるデータが垂直加速度のみであっても、推定したバネ共振周波数と減衰係数とを用いて、道路平坦度(IRI)を計算可能にする特性算出方法について説明する。
【0025】
ここで、車載のスマートフォンなどで測定される加速度データは、道路の状態(路面高さ)と、車両のサスペンションの特性(バネ共振周波数、減衰係数)と、車両の進行速度と、他のノイズによって決まる。同じ期間(例えば、1ヶ月)において道路の路面高さはあまり変化しない。このため、同じ時期に同じ区間を同じ車両で走行したときの車両の進行方向位置に対する路面高さは、ほぼ同じような変化となる。
【0026】
そこで、情報処理装置101は、車両のバネ共振周波数と減衰係数とを仮決めし、仮決めした値を用いて、同じ時期に同じ区間を同じ車両で複数回走行したときに、それぞれ測定された居室の垂直加速度から、複数の路面高さ(道路の高さ偏差)を計算する。路面高さの計算には、例えば、同じような軌道(道路内の横方向位置が同じ)を走行したときに測定された垂直加速度を示すデータが用いられる。
【0027】
同じ区間の同じ軌道を走行したときの垂直加速度から計算される路面高さは、仮決めしたバネ共振周波数と減衰係数が適切な値であれば、走行間で一致する。換言すれば、計算した路面高さの差が走行間で最も少なくなるときのバネ共振周波数と減衰係数は、適切な値であると判断することができる。
【0028】
このことを利用して、情報処理装置101は、以下のような手順で、車両の居室の垂直加速度から、車両のサスペンションの特性(バネ共振周波数、減衰係数)を推定する。
【0029】
(1)情報処理装置101は、所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、複数回の走行それぞれで測定された車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データをそれぞれ取得する。ここで、所定期間は、任意に設定可能であり、例えば、1ヶ月程度の期間に設定される。
【0030】
図1の例では、所定期間を「2019/10/1~2019/10/31」とし、区間を「地点Aから地点Bまでの区間A-B」とし、車両を「車両102」とする。また、区間A-Bを車両102が複数回走行した際にそれぞれ測定された車両102の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データ110,120,130が取得された場合を想定する。
【0031】
時系列データ110は、「2019/10/10」に区間A-Bを車両102が走行した際に測定された車両102の居室の垂直加速度の時間変化を示す。時系列データ120は、「2019/10/20」に区間A-Bを車両102が走行した際に測定された車両102の居室の垂直加速度の時間変化を示す。時系列データ130は、「2019/10/30」に区間A-Bを車両102が走行した際に測定された車両102の居室の垂直加速度の時間変化を示す。
【0032】
(2)情報処理装置101は、関数Gを用いて、バネ共振周波数と減衰係数との複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得した時系列データに対応する走行ごとに、当該時系列データから区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出する。
【0033】
ここで、関数Gは、車両のサスペンションのバネ共振周波数と減衰係数とをパラメータとし、各時点における居室の垂直加速度、垂直速度および居室の高さ偏差から、各時点に対応する位置における道路の高さ偏差を導出する関数である。各時点における居室の垂直加速度は、取得した時系列データから特定される。また、各時点における居室の垂直速度は、居室の垂直加速度を積分することにより特定される。また、各時点における居室の高さ偏差は、居室の垂直速度を積分することにより特定される。
【0034】
図1の例では、バネ共振周波数と減衰係数との複数通りの組み合わせを、(f
a,C
a)、(f
b,C
b)、(f
c,C
c)の3通りとする。この場合、情報処理装置101は、関数Gを用いて、バネ共振周波数f
aと減衰係数C
aとに基づいて、時系列データ110,120,130に対応する走行ごとに、道路の高さ偏差hr1(a),hr2(a),hr3(a)を算出する。
【0035】
道路の高さ偏差hr1(a),hr2(a),hr3(a)は、区間S内の各位置における道路の高さ偏差を示す。
【0036】
また、情報処理装置101は、関数Gを用いて、バネ共振周波数fbと減衰係数Cbとに基づいて、時系列データ110,120,130に対応する走行ごとに、道路の高さ偏差hr1(b),hr2(b),hr3(b)を算出する。また、情報処理装置101は、関数Gを用いて、バネ共振周波数fcと減衰係数Ccとに基づいて、時系列データ110,120,130に対応する走行ごとに、道路の高さ偏差hr1(c),hr2(c),hr3(c)を算出する。
【0037】
(3)情報処理装置101は、算出した区間内の各位置における道路の高さ偏差を、複数回の走行のうちの異なる走行間で比較した結果に基づいて、複数通りの組み合わせのうち、走行間の道路の高さ偏差の差が最小となる組み合わせを特定する。具体的には、例えば、情報処理装置101は、走行間の道路の高さ偏差の差の合計Δを算出する。そして、情報処理装置101は、算出した合計Δが最小となる組み合わせを特定する。
【0038】
図1の例では、情報処理装置101は、組み合わせ(f
a,C
a)について、道路の高さ偏差hr1(a),hr2(a),hr3(a)から、時系列データ110,120,130に対応する3回の走行のうちの異なる走行間の道路の高さ偏差の差の合計Δ(a)を算出する。ここでは、合計Δ(a)は、「|hr1(a)-hr2(a)|+|hr2(a)-hr3(a)|+|hr3(a)-hr1(a)|」となる。
【0039】
また、情報処理装置101は、組み合わせ(fb,Cb)について、道路の高さ偏差hr1(b),hr2(b),hr3(b)から、時系列データ110,120,130に対応する3回の走行のうちの異なる走行間の道路の高さ偏差の差の合計Δ(b)を算出する。ここでは、合計Δ(b)は、「|hr1(b)-hr2(b)|+|hr2(b)-hr3(b)|+|hr3(b)-hr1(b)|」となる。
【0040】
また、情報処理装置101は、組み合わせ(fc,Cc)について、道路の高さ偏差hr1(c),hr2(c),hr3(c)から、時系列データ110,120,130に対応する3回の走行のうちの異なる走行間の道路の高さ偏差の差の合計Δ(c)を算出する。ここでは、合計Δ(c)は、「|hr1(c)-hr2(c)|+|hr2(c)-hr3(c)|+|hr3(c)-hr1(c)|」となる。
【0041】
つぎに、情報処理装置101は、算出した合計Δ(a),Δ(b),Δ(c)のうちの最小の合計Δに対応する組み合わせを特定する。ここでは、合計Δ(a),Δ(b),Δ(c)のうちの最小の合計Δを「Δ(b)」とする。この場合、情報処理装置101は、合計Δ(b)に対応する組み合わせ(fb,Cb)を特定する。
【0042】
(4)情報処理装置101は、特定した組み合わせから、車両のバネ共振周波数と減衰係数とを決定する。具体的には、例えば、情報処理装置101は、特定した合計Δが最小となる組み合わせの各値を、車両のバネ共振周波数と減衰係数とに決定する。
【0043】
図1の例では、情報処理装置101は、例えば、特定した組み合わせ(f
b,C
b)の各値を、車両102のバネ共振周波数と減衰係数とに決定する。
【0044】
このように、情報処理装置101によれば、同じ時期に同じ道路を同じ車両で複数回走行したときの垂直加速度データから計算される道路の高さは、仮決めしたバネ共振周波数と減衰係数が適切な値であれば、走行間で一致することを利用して、垂直加速度データだけから、車両のバネ共振周波数および減衰係数を高精度に推定することができる。
【0045】
図1の例では、車両102で区間A-Bを走行したときの垂直加速度データ(時系列データ110,120,130)だけから、車両102のバネ共振周波数および減衰係数を高精度に推定することができる。これにより、推定した車両102のバネ共振周波数および減衰係数を用いて、道路平坦度(IRI)を算出することが可能となる。このため、事前に車両102のサスペンションのバネ共振周波数および減衰係数を測定することができない場合であっても、車両102のサスペンションの影響を考慮した路面の劣化状態を判断可能にすることができる。
【0046】
(情報処理システム200のシステム構成例)
つぎに、実施の形態にかかる情報処理システム200のシステム構成例について説明する。情報処理システム200は、例えば、道路の予防保全を行うサービスに適用される。
【0047】
図2は、情報処理システム200のシステム構成例を示す説明図である。
図2において、情報処理システム200は、情報処理装置101と、管理者端末201と、複数の端末装置202と、を含む構成である。情報処理システム200において、情報処理装置101、管理者端末201および複数の端末装置202は、有線または無線のネットワーク210を介して接続される。ネットワーク210は、例えば、インターネット、移動体通信網、LAN、WAN(Wide Area Network)などである。
【0048】
情報処理装置101は、走行データDB(Database)220を有し、車両Crのサスペンションの特性を推定する。情報処理装置101は、例えば、サーバである。走行データDB220の記憶内容については、
図4を用いて後述する。
【0049】
管理者端末201は、情報処理システム200の管理者が使用するコンピュータである。管理者は、例えば、道路の予防保全的な維持管理を行う者である。管理者端末201は、例えば、PC(Personal Computer)、タブレットPC、スマートフォンなどである。
【0050】
端末装置202は、車両Crに搭載されるコンピュータである。車両Crは、乗用車、トラック、バス、オートバイなどである。端末装置202は、各種センサを有し、各種センサの出力値を含むデータを他のコンピュータ(例えば、情報処理装置101や管理者端末201)に送信する。各種センサは、例えば、加速度センサ、GPS(Global Positioning System)センサを含む。
【0051】
加速度センサは、垂直加速度を測定する。加速度センサは、水平横方向加速度や進行方向加速度を測定可能であってもよい。GPSセンサは、自端末(車両Cr)の位置情報を測定する。位置情報は、例えば、緯度、経度などの地球上の1点を特定する情報である。なお、衛星として、準天頂衛星システムの衛星を用いることにしてもよい。端末装置202は、例えば、スマートフォンやタブレットPCなどである。
【0052】
(情報処理装置101のハードウェア構成例)
図3は、情報処理装置101のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図3において、情報処理装置101は、CPU(Central Processing Unit)301と、メモリ302と、ディスクドライブ303と、ディスク304と、通信I/F(Interface)305と、可搬型記録媒体I/F306と、可搬型記録媒体307と、を有する。また、各構成部は、バス300によってそれぞれ接続される。
【0053】
ここで、CPU301は、情報処理装置101の全体の制御を司る。CPU301は、複数のコアを有していてもよい。メモリ302は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびフラッシュROMなどを有する。具体的には、例えば、フラッシュROMがOS(Operating System)のプログラムを記憶し、ROMがアプリケーションプログラムを記憶し、RAMがCPU301のワークエリアとして使用される。メモリ302に記憶されるプログラムは、CPU301にロードされることで、コーディングされている処理をCPU301に実行させる。
【0054】
ディスクドライブ303は、CPU301の制御に従ってディスク304に対するデータのリード/ライトを制御する。ディスク304は、ディスクドライブ303の制御で書き込まれたデータを記憶する。ディスク304としては、例えば、磁気ディスク、光ディスクなどが挙げられる。
【0055】
通信I/F305は、通信回線を通じてネットワーク210に接続され、ネットワーク210を介して外部のコンピュータ(例えば、
図2に示した管理者端末201、端末装置202)に接続される。そして、通信I/F305は、ネットワーク210と装置内部とのインターフェースを司り、外部のコンピュータからのデータの入出力を制御する。通信I/F305には、例えば、モデムやLANアダプタなどを採用することができる。
【0056】
可搬型記録媒体I/F306は、CPU301の制御に従って可搬型記録媒体307に対するデータのリード/ライトを制御する。可搬型記録媒体307は、可搬型記録媒体I/F306の制御で書き込まれたデータを記憶する。可搬型記録媒体307としては、例えば、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disk)、USB(Universal Serial Bus)メモリなどが挙げられる。
【0057】
なお、情報処理装置101は、上述した構成部のほかに、例えば、SSD(Solid State Drive)、入力装置、ディスプレイ等を有することにしてもよい。また、情報処理装置101は、上述した構成部のうち、例えば、ディスクドライブ303、ディスク304、可搬型記録媒体I/F306、可搬型記録媒体307を有していなくてもよい。
【0058】
また、
図2に示した管理者端末201、端末装置202についても、情報処理装置101と同様のハードウェア構成により実現することができる。ただし、管理者端末201は、上述した構成部のほかに、例えば、入力装置、ディスプレイを有する。また、端末装置202は、上述した構成部のほかに、例えば、各種センサを有する。
【0059】
(走行データDB220の記憶内容)
つぎに、
図4を用いて、情報処理装置101が有する走行データDB220の記憶内容について説明する。走行データDB220は、例えば、
図3に示したメモリ302、ディスク304などの記憶装置により実現される。
【0060】
図4は、走行データDB220の記憶内容の一例を示す説明図である。
図4において、走行データDB220は、車両番号、測定日時、緯度、経度、進行方向加速度、水平横方向加速度および垂直方向加速度のフィールドを有する。各フィールドに情報を設定することで、走行データ(例えば、走行データ400-1~400-5)がレコードとして記憶される。
【0061】
ここで、車両番号は、情報処理システム200において車両Crを識別する識別子である。測定日時は、各種加速度が測定された日時に対応する。各種加速度は、例えば、0.1秒間隔で測定される。緯度および経度は、各種加速度が測定された際の車両Crの位置を特定する座標である。進行方向加速度は、車両Crに搭載された端末装置202により測定された車両Crの居室における進行方向(前後)の加速度である。
【0062】
水平横方向加速度は、車両Crに搭載された端末装置202により測定された車両Crの居室における水平横方向(左右)の加速度である。垂直方向加速度は、車両Crに搭載された端末装置202により測定された車両Crの居室における垂直方向(前後)の加速度である。各種加速度の単位は、例えば、[m/s2]である。
【0063】
なお、走行データDB220内の走行データは、例えば、管理者端末201から取得されることにしてもよく、また、端末装置202から直接取得されることにしてもよい。また、走行データには、例えば、データID、UNIX時刻、緯度・経度の測位誤差などが含まれていてもよい。
【0064】
(情報処理装置101の機能的構成例)
図5は、情報処理装置101の機能的構成例を示すブロック図である。
図5において、情報処理装置101は、取得部501と、設定部502と、第1の算出部503と、決定部504と、第2の算出部505と、出力部506と、記憶部510と、を含む。具体的には、例えば、取得部501~出力部506は、
図3に示したメモリ302、ディスク304、可搬型記録媒体307などの記憶装置に記憶されたプログラムをCPU301に実行させることにより、または、通信I/F305により、その機能を実現する。各機能部の処理結果は、例えば、メモリ302、ディスク304などの記憶装置に記憶される。また、記憶部510は、例えば、メモリ302、ディスク304などの記憶装置により実現される。具体的には、例えば、記憶部510は、
図4に示した走行データDB220を記憶する。
【0065】
取得部501は、所定期間T内に同じ車両Crが複数回走行した区間Sについて、複数回の走行それぞれで測定された車両Crの居室の垂直加速度asの時間変化を示す時系列データをそれぞれ取得する。所定期間Tは、任意に設定可能であり、例えば、1ヶ月程度の期間に設定される。区間Sは、任意に指定可能であり、例えば、劣化状態の判断対象となる道路のうち、数十m~数百m程度の直線の区間が指定される。車両Crは、任意に指定可能である。
【0066】
以下の説明では、区間Sを車両Crで走行した際に測定された車両Crの居室の垂直加速度asの時間変化を示す時系列データを「時系列データD」と表記する場合がある。
【0067】
具体的には、例えば、取得部501は、記憶部510を参照して、所定期間T内に同じ車両Crが複数回走行した区間Sについて、複数回の走行それぞれで測定された車両Crの居室の垂直加速度asを示す走行データ群をそれぞれ抽出することにより、時系列データDをそれぞれ取得する。ここで、記憶部510は、複数の車両Crの各車両Crが複数の道路を走行した際に測定された各車両Crの居室の垂直加速度asを示す走行データを記憶する。走行データ群は、時系列に連続する一連の走行データである。
【0068】
より詳細に説明すると、例えば、取得部501は、
図4に示した走行データDB220を参照して、指定された所定期間T内に、指定された区間Sを、指定された車両Crで走行した際の走行データ群をそれぞれ抽出することにより、m個の時系列データDを取得する。mは、任意に設定可能であり、例えば、3程度の値に設定される。
【0069】
取得対象となる時系列データDは、居室の垂直加速度asから計算される道路の高さ偏差hrを比較するものである。道路の高さ偏差hrを比較するには、同じような状況(例えば、信号等で停止せずに走行したとき)で区間Sを走行した際のデータ同士を比較することが望ましい。
【0070】
このため、取得部501は、例えば、走行データDB220を参照して、複数の時系列データD(走行データ群)を取得する。つぎに、取得部501は、取得した時系列データDごとに、垂直加速度asの2乗平均平方根(RMS)を算出する。そして、取得部501は、算出したRMSが小さい順にm個の時系列データDを取得することにしてもよい。
【0071】
これにより、走行中の停止や発進が少なく、道路の高さ変動が垂直加速度asに現れやすい時系列データDを選ぶことができる。なお、走行データDB220から所定期間T内に同じ区間Sを同じ車両Crで走行した際に得られた走行データ群を抽出することにより、時系列データDを取得する際の具体的な処理手順については、
図14および
図15のフローチャートを用いて説明する。
【0072】
また、ユーザが、同じような状況で区間Sを走行した際に得られた時系列データDを選択することにしてもよい。具体的には、例えば、取得部501は、不図示の入力装置を用いたユーザの操作入力により、または、
図2に示した管理者端末201から受信することにより、m個の時系列データDを取得することにしてもよい。
【0073】
なお、m個の時系列データDを人手により選択する場合の情報処理装置101の動作例については後述する。
【0074】
設定部502は、車両Crのサスペンションのバネ共振周波数fと減衰係数Cとの初期値、変化幅および変化範囲を設定する。初期値、変化幅および変化範囲は、任意に指定可能である。例えば、バネ共振周波数fの初期値は、1.6[Hz]に設定される。また、減衰係数Cの初期値は、0.33に設定される。
【0075】
車両Crの大きさや重量から、バネ共振周波数fは、数Hz程度であると予想される。垂直加速度asのサンプリングを10[Hz]とすると、測定可能な周波数は最大4[Hz]と考えらえる。このような状況を考慮すると、例えば、バネ共振周波数fの変化範囲は、0.8~4.0[Hz]の範囲に設定される。また、バネ共振周波数fの変化幅は、0.4[Hz]に設定される。
【0076】
減衰係数は、1.0以上では残留振動が無い状態となるが、一般の車で道路の凹凸を超えた後に残留振動は発生するため、1.0以下と考えられる。このため、初期値「0.33」を考慮すると、例えば、減衰係数の変化範囲は、0.2~1.0の範囲に設定される。また、減衰係数の変化幅は、0.2に設定される。
【0077】
第1の算出部503は、関数G(hs,vs,as,p,f,C)を用いて、バネ共振周波数fと減衰係数Cとの複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得された時系列データDに対応する走行ごとに、区間S内の各位置pにおける道路の高さ偏差hrを算出する。ここで、関数G(hs,vs,as,p,f,C)は、時間領域の関数Fを距離領域に変換したものである。
【0078】
関数Fは、車両Crのサスペンションのバネ共振周波数fと減衰係数Cとをパラメータとし、各時点における居室の垂直加速度as、垂直速度vsおよび居室の高さ偏差hsから、各時点における道路の高さ偏差hrを導出する関数である。
【0079】
各時点における居室の垂直加速度asは、例えば、時系列データDに含まれる各走行データから特定される。また、居室の垂直速度vsは、居室の垂直加速度asを積分することにより特定される。また、居室の高さ偏差hsは、居室の垂直速度vsを積分することにより特定される。
【0080】
関数Fは、時間領域の関数である。一方、区間Sを複数回走行した場合の異なる走行間(時系列データD間)で道路の高さ偏差hrを比較するには、ほぼ同じ位置での比較を行うために、区間S内の各位置pにおける道路の高さ偏差hrが必要となる。関数G(hs,vs,as,p,f,C)は、各時点(サンプリング時刻)に対応する位置p(水平位置)を求めて、区間S内の各位置pにおける道路の高さ偏差hrを導出する。位置pは、各時点の位置情報(緯度、経度)から算出することができる。
【0081】
具体的には、例えば、まず、第1の算出部503は、車両Crのサスペンションのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを仮決めする。例えば、第1の算出部503は、バネ共振周波数fと減衰係数Cとを、バネ共振周波数fの初期値「1.6[Hz]」と減衰係数Cの初期値「0.33」との組み合わせとする。
【0082】
つぎに、第1の算出部503は、取得されたm個の時系列データDのそれぞれについて、下記式(1)を用いて、各時点iにおける居室の垂直加速度asの補正を行う。ただし、iは、サンプリング時刻(測定時刻)を示す。dZ(i)は、補正後の垂直加速度asを示す。Z(i)は、時点iにおける垂直加速度asを示す。Nは、サンプリング周波数を示す。
【0083】
dZ(i)=Z(i)-[Σj=i+5
j=i-5+1 Z(j)/N] …(1)
【0084】
垂直加速度asの補正は、重力加速度等の静的成分を除去するために行う。垂直加速度asの補正を行うことで、積分における誤差の累積を避けることができる。なお、垂直加速度asの補正は行わないことにしてもよい。
【0085】
例えば、1区間の進行方向の距離を「100[m]」、サンプリング周波数を「10[Hz]」、進行方向速度を「10[m/s]程度」とすると、1区間あたりの時系列データDは、100個程度の走行データとなる。上記式(1)では、前後5個(計10個)のデータを平均するため、補正後の垂直加速度asのデータ数は90個程度となる。
【0086】
なお、車両Crの進行方向速度の垂直加速度asへの影響を考慮することにしてもよい。進行方向速度による補正係数については、例えば、非特許文献2「Danilo Rinaldi Bisconsini著,Pavement Roughness Evaluation with Smartphones,サンパウロ大学,2018」を参考にすることができる。
【0087】
つぎに、第1の算出部503は、下記式(2)を用いて、補正後の垂直加速度asを積分して、垂直速度vsを算出する。ただし、Vz(i)は、時点iにおける垂直速度vsを示す。
【0088】
Vz(i)=Vz(i-1)+dZ(i)/N …(2)
【0089】
つぎに、第1の算出部503は、下記式(3)を用いて、各時点(i)における居室の垂直速度vsの補正を行う。ただし、dVz(i)は、補正後の垂直速度vsを示す。Vz(i)は、補正前の垂直速度vsを示す。
【0090】
dVz(i)=Vz(i)-[Σj=i+5
j=i-5+1 Vz(j)/N]…(3)
【0091】
垂直速度vsの補正は、坂を上るときの垂直速度等の静的成分を除去するために行う。1区間あたり、補正後の垂直加速度asのデータ数は90個程度に対して、補正後の垂直速度vsのデータ数は80個程度となる。なお、垂直速度vsの補正は行わないことにしてもよい。
【0092】
そして、第1の算出部503は、下記式(4)を用いて、補正後の垂直速度vsを積分して、垂直位置Lzを算出する。ただし、Lz(i)は、時点iにおける垂直位置を示す。また、最初の時点の1時点前の垂直位置を0とすると、垂直位置Lzは、居室の高さ偏差hsに相当する。
【0093】
Lz(i)=Lz(i-1)+dVz(i)/N …(4)
【0094】
ここで、上述した非特許文献1によれば、垂直位置Lz、垂直速度dVz、垂直加速度dZ、車両Crのサスペンションのバネ共振周波数[角周波数]ω,減衰係数Cおよび、道路の高さuの関係は、下記式(5)の運動方程式で示される。ただし、共振周波数[角周波数]ωとバネ共振周波数fとの関係は、「ω=2πf」で表される。
【0095】
dZ(i)+2Cω(dVz(i)-u’(i))+ω2(Lz(i)-u(i))
=0 …(5)
【0096】
一方、道路の高さとその垂直速度の関係は、下記式(6)で示される。
【0097】
u(i)=u(i-1)+u’(i)/N …(6)
【0098】
上記式(6)を上記式(5)に代入すると、「dZ(i)+2Cω(dVz(i)-u’(i))+ω2(Lz(i)-u(i-1)-u’(i)/N)=0」となる。
【0099】
u’(i)を右辺にまとめると、「dZ(i)+2CωdVz(i)+ω2(Lz(i)-u(i-1))=(2Cω+ω2/N)u’(i)」となる。
【0100】
u’(i)は、下記式(7)で示される。
【0101】
u’(i)=[dZ(i)+2CωdVz(i)+ω2(Lz(i)-u(i-1))]/(2Cω+ω2/N) … (7)
【0102】
上記式(7)を上記式(6)に代入すると、下記式(8)が得られる。
【0103】
u(i)=u(i-1)+[dZ(i)+2CωdVz(i)+ω2(Lz(i)-u(i-1))]/(2Cω+ω2/N)N …(8)
【0104】
上記式(7)および(8)により、現時点iの垂直位置Lz(i)、垂直速度dVz(i)、垂直加速度dZ(i)、1サンプリング前の道路の高さu(i-1)、仮決めした車両Crのサスペンションのバネ共振周波数fと減衰係数Cから、現時点iの道路の高さu(i)を計算することができる。
【0105】
計算された道路の高さu(i)は、垂直加速度dZ(i)から2回積分していて、かつ、最初の高さが不明なため、高さ方向にはオフセットがある。このオフセットを除去するために、第1の算出部503は、例えば、区間Sにおける道路の高さuの平均値を、道路の高さu(i)から減算する。これにより、道路の高さ偏差hrを算出する。
【0106】
具体的には、例えば、第1の算出部503は、下記式(9)を用いて、各時点iの道路の高さ偏差hr(i)を算出することができる。ただし、nmaxは、サンプリングデータの個数を示す。
【0107】
hr(i)=u(i)-Σk=nmax
k=1u(k)/nmax …(9)
【0108】
【0109】
つぎに、第1の算出部503は、各時点iの道路の高さ偏差hr(i)を、各時点iに対応する位置p(i)の道路の高さ偏差hr(i)に変換する。具体的には、例えば、第1の算出部503は、各時点iの位置情報(緯度、経度)から特定される各地点の最初点からの距離を、位置p(i)として算出する。最初点とは、道路の高さ偏差hrが得られた最も古いサンプリング時刻に対応する地点である。
【0110】
これにより、仮決めしたバネ共振周波数fと減衰係数Cとの組み合わせについて、時系列データDごとに、区間S内の各位置p(i)における道路の高さ偏差hr(i)を算出することができる。
【0111】
つぎに、第1の算出部503は、バネ共振周波数fや減衰係数Cを、変化範囲内において初期値から変化幅分変化させながら、新たな組み合わせを設定する。そして、第1の算出部503は、新たな組み合わせについて、時系列データDごとに、区間S内の各位置p(i)における道路の高さ偏差hr(i)を算出する。
【0112】
これにより、バネ共振周波数fと減衰係数Cとの複数通りの組み合わせそれぞれについて、時系列データDに対応する走行ごとに、区間S内の各位置p(i)における道路の高さ偏差hr(i)を算出することができる。
【0113】
例えば、m個の時系列データDのmを「m=3」とすると、バネ共振周波数fと減衰係数Cとの一つの組み合わせについて、3本の路面高さデータが計算される。路面高さデータは、区間S内の各位置p(i)における道路の高さ偏差hr(i)を示す。
【0114】
決定部504は、車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを決定する。具体的には、例えば、決定部504は、バネ共振周波数fと減衰係数Cとの複数通りの組み合わせそれぞれについて、算出された区間S内の各位置pにおける道路の高さ偏差hrを、複数回の走行のうちの異なる走行間(時系列データD間)で比較する。
【0115】
つぎに、決定部504は、比較した結果に基づいて、バネ共振周波数fと減衰係数Cの複数通りの組み合わせのうち、走行間の道路の高さ偏差hrの差が最小となる組み合わせを特定する。そして、決定部504は、特定した組み合わせから、車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを決定する。
【0116】
ここで、
図6を用いて、時系列データD間の道路の高さ偏差hrの差、すなわち、路面データ間の差の判断例について説明する。
【0117】
図6は、路面データ間の差の判断例を示す説明図である。
図6において、路面高さデータ601,602は、同じ区間Sにおける進行方向位置に応じた路面高さを示す情報である。進行方向位置に応じた路面高さは、第1の算出部503によって算出された、区間S内の各位置p(i)における道路の高さ偏差hr(i)に相当する。
【0118】
すなわち、各路面高さデータ601,602は、バネ共振周波数fと減衰係数Cとの一つの組み合わせに対して、各時系列データDから算出された、区間S内の各位置p(i)における道路の高さ偏差hr(i)を示す。
【0119】
ここで、進行方向位置には、GPSの緯度経度から計算しているため、10m以内の測位誤差が含まれる。このため、
図6に示すように、同じ位置の路面の凹凸であっても、路面高さデータ601,602の山や谷のピークの進行方向位置は、ずれることが多い。そこで、路面高さデータ601,602間で、近傍のピークは同じピークと判断して進行方向の位置誤差を吸収する手法を適用する。
【0120】
図6の例では、路面高さデータ601の最初の山ピークをピーク11とすると、路面高さデータ602の中で位置が最もピーク11に近い山ピークはピーク21である。この場合、決定部504は、ピーク11とピーク21との絶対値の差を算出する。決定部504は、このようなピーク同士の絶対値の差を全てのピークで合計する。
【0121】
全てのピークは、全ての山ピークまたは谷ピークであってもよく、また、全ての山ピークおよび谷ピークであってもよい。そして、決定部504は、m本の路面高さデータの全ての2データ間(走行間)で合計した値を評価指標(道路の高さ偏差の差の合計Δ)として算出する。
【0122】
例えば、3本の路面高さデータ1,2,3があるとする。路面高さデータ1,2間の全てのピーク同士の絶対値の差の合計を|hr1-hr2|とし、路面高さデータ2,3間の全てのピーク同士の絶対値の差の合計を|hr2-hr3|とし、路面高さデータ3,1間の全てのピーク同士の絶対値の差の合計を|hr3-hr1|とする。この場合、道路の高さ偏差の差の合計Δは、「Δ=|hr1-hr2|+|hr2-hr3|+|hr3-hr1|」となる。
【0123】
このようにして、決定部504は、バネ共振周波数fと減衰係数Cの複数通りの組み合わせそれぞれについて、道路の高さ偏差の差の合計Δを算出する。つぎに、決定部504は、複数通りの組み合わせのうち、算出した合計Δが最小となる組み合わせを特定する。そして、決定部504は、例えば、特定した組み合わせを、車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cとに決定する。
【0124】
また、決定部504は、算出した合計Δが、(Δmin+α)以下となるいずれかのバネ共振周波数fと減衰係数Cとの組み合わせを、車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cとに決定することにしてもよい。Δminは、路面高さの差分の最小値を示す。αは、任意に設定可能であり、例えば、Δminの10%程度の値に設定される。
【0125】
第2の算出部505は、決定したバネ共振周波数fと減衰係数Cとを用いて、劣化状態の判断対象となる道路を車両Crで走行した際に測定された車両Crの居室の垂直加速度asの時間変化を示す時系列データに基づいて、各時点における道路の高さ偏差hrを算出する。そして、第2の算出部505は、算出した各時点における道路の高さ偏差hrに基づいて、道路平坦度(IRI)を算出する。
【0126】
なお、道路平坦度(IRI)の算出例については後述する。
【0127】
出力部506は、算出された道路の道路平坦度(IRI)を出力する。出力部506の出力形式としては、例えば、メモリ302、ディスク304などの記憶装置への記憶、通信I/F305による他のコンピュータ(例えば、
図2に示した管理者端末201)への送信、不図示のディスプレイへの表示、不図示のプリンタへの印刷出力などがある。
【0128】
具体的には、例えば、出力部506は、道路を特定する情報と対応付けて、算出された道路平坦度(IRI)を出力することにしてもよい。ここで、道路を特定する情報は、例えば、道路の名称やリンク情報(リンクを形成する各ノードの情報)などである。これにより、道路平坦度(IRI)から路面の劣化状態を判断可能にすることができる。
【0129】
また、出力部506は、決定された車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを、車両Crを特定する情報と対応付けて出力することにしてもよい。ここで、車両Crを特定する情報は、例えば、車両番号である。これにより、例えば、他のコンピュータにおいて、決定された車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを用いて、道路の道路平坦度(IRI)を算出することが可能となる。
【0130】
(m個の時系列データDを人手により選択する場合の動作例)
ここで、複数の時系列データDの中から、m個の時系列データDを人手により選択する場合の情報処理装置101の動作例について説明する。
【0131】
まず、情報処理装置101は、車両Crのサスペンションのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを仮決めする。仮決めするバネ共振周波数fと減衰係数Cとの値は、任意に設定可能である。一例としては、バネ共振周波数fは「1.6[Hz]」に、減衰係数Cは「0.33」に仮決めされる。
【0132】
情報処理装置101は、複数の時系列データDのそれぞれについて、上記式(1)を用いて、各時点iにおける居室の垂直加速度asの補正を行う。つぎに、情報処理装置101は、上記式(2)を用いて、補正後の垂直加速度asを積分して、垂直速度vsを算出する。
【0133】
つぎに、情報処理装置101は、上記式(3)を用いて、各時点(i)における居室の垂直速度vsの補正を行う。そして、情報処理装置101は、上記式(4)を用いて、補正後の垂直加速度asを積分して、垂直位置Lzを算出する。
【0134】
つぎに、情報処理装置101は、上記式(7)および(8)により、現時点iの垂直位置Lz(i)、垂直速度dVz(i)、垂直加速度dZ(i)、1サンプリング前の路面高さ:u(i-1)、仮決めした車両Crのサスペンションのバネ共振周波数fと減衰係数Cから、現時点iの路面高さu(i)を計算する。
【0135】
つぎに、情報処理装置101は、オフセットを除去するために、例えば、区間Sにおける路面高さuの平均値を、路面高さu(i)から減算する。また、進行方向の位置はサンプリング周波数2Hzで取得した±10m以内の誤差を含むGPSデータから計算しているので、進行方向の位置に規則性のない誤差があり、この誤差を目視で判断し、除去可能なものはオフセットを加えて除去する。
【0136】
ユーザは、オフセットを除去した後、進行方向位置に対する路面高さが似ている複数のデータ(m個の時系列データD)を選択する。
【0137】
(各時点iの道路の高さ偏差hr(i)の算出例)
つぎに、
図7A、
図7B、
図7Cおよび
図7Dを用いて、各時点iの道路の高さ偏差hr(i)の算出例について説明する。
【0138】
図7A、
図7B、
図7Cおよび
図7Dは、計算用テーブルの記憶内容の一例を示す説明図である。計算用テーブル700において、1列目のmeasurement_timeは、サンプリング時刻(0.1秒ごと)である。2列目のacc_zは、居室の垂直加速度asである。走行データから1列目と2列目が得られる。計算の準備として各行の行番号をn列に書き込む。
【0139】
1番目に、第1の算出部503は、下記式(10)を用いて、各時点iにおける居室の垂直加速度asの補正を行う。ただし、acc_z_adj(i)は、補正後の垂直加速度asを示す。acc_z(i)は、時点iにおける垂直加速度asを示す。nは、データ数を示す。なお、下記式(10)は、上記式(1)に対応する。
【0140】
acc_z_adj(i)
=acc_z(i)-[Σj=i+5
j=i-5+1 acc_z(j)/n] …(10)
【0141】
第1の算出部503は、対象の垂直加速度acc_z(i)の4時点前(lag4)から5時点後(laed5)までのデータをacc_z(i)の行に追加する。ただし、最初の時点に対する前時点等の値のないものに0を代入しておく。第1の算出部503は、4時点前(lag4)~5時点後(laed5)[acc_z(i)]の10点(n=10)の平均を計算し、acc_z_offset列に代入し、acc_z列からacc_z_offset列を引いた値をacc_z_adjに代入する。ただし、lagやleadに0が含まれる場合は、第1の算出部503は、acc_z_offsetとacc_z_adjに0を代入する(n=1~4)。
【0142】
2番目に、第1の算出部503は、下記式(11)を用いて、補正後の垂直加速度asから、居室の垂直速度vsを算出する。ただし、v_z(i)は、時点iにおける垂直速度vsを示す。なお、下記式(11)は、上記式(2)に対応する。
【0143】
v_z(i)=v_z(i-1)+acc_z_adj(i)/N…(11)
【0144】
第1の算出部503は、前時点(前行)の垂直速度v_z(i-1)と現時点の補正後の垂直加速度v_z(i-1)を加えて、現時点の垂直速度v_z(i)を計算する。サンプリング周波数Nは、10[Hz]である。ただし、最初の時点の1時点前の垂直速度は、「v_z(0)=0」とする。
【0145】
3番目に、第1の算出部503は、下記式(12)を用いて、各時点(i)における居室の垂直速度vsの補正を行う。ただし、v_z_adj(i)は、補正後の垂直速度vsを示す。なお、下記式(12)は、上記式(3)に対応する。
【0146】
v_z_adj(i)=v_z(i)-[Σj=i+5
j=i-5+1 v_z(j)/n]
…(12)
【0147】
第1の算出部503は、対象の垂直速度v_z(i)の4時点前(vlag4)から5時点後(vlaed5)までのデータをv_z(i)の行に追加する。ただし、最初の時点に対する前時点等の値のないものに0を代入しておく。第1の算出部503は、4時点前(vlag4)~5時点後(vlaed5)[acc_z(i)]の10点(n=10)の平均を計算し、v_z_offset列に代入し、v_z列からv_z_offset列を引いた値をv_z_adjに代入する。また、vlagやvleadに0が含まれる場合は、第1の算出部503は、v_z_offsetとv_z_adjに0を代入する(n=1~8)。
【0148】
4番目に、第1の算出部503は、下記式(13)を用いて、補正後の垂直速度vsから、垂直位置Lzを算出する。ただし、p_z(i)は、時点iにおける垂直位置を示す。また、最初の時点の1時点前の垂直位置を「p_z(0)=0」とする。なお、下記式(13)は、上記式(4)に対応する。
【0149】
p_z(i)=p_z(i-1)+v_z(i)/N …(13)
【0150】
第1の算出部503は、前時点(前行)の垂直位置p_z(i-1)と現時点の補正後の垂直速度v_z(i-1)を加えて、現時点の垂直位置p_z(i)を計算する。
【0151】
5番目に、第1の算出部503は、道路垂直位置を計算する準備として、現時点の道路の高さroad_p_z(i)、1つ前の時点の道路の高さroad_p_z_1(i)、現時点の道路の高さ速度road_v_z(i)の初期値を全て0にしておく。また、第1の算出部503は、バネ共振周波数f[Hz]からバネ共振周波数ω[rad]を、「ω=2πf」で計算し、減衰係数としてCに値を代入しておく。ここでは、「f=2.4[Hz]」、「C=0.4」とする。
【0152】
6番目に、第1の算出部503は、居室の垂直位置、垂直速度、垂直加速度およびバネ共振周波数、減衰係数から、下記式(14)を用いて、道路の高さ速度を計算する。ただし、road_v_z(i)は、道路の高さ速度を示す。road_p_z(i)は、道路の高さを示す。なお、下記式(14)は、上記式(7)に対応する。
【0153】
road_v_z(i)=[acc_z_adj(i)
+2×C×ω×v_z_adj(i)+ω2×(p_z(i)
-road_p_z(i-1))]/(2×C×ω+ω2/N) …(14)
【0154】
7番目に、第1の算出部503は、下記式(15)を用いて、道路の高さ速度から、道路の高さを計算する。ただし、road_p_z(i)は、道路の高さを示す。なお、下記式(15)は、上記式(8)に対応する。
【0155】
road_p_z(i)
=road_p_z(i-1)+road_v_z(i)/N …(15)
【0156】
8番目に、第1の算出部503は、下記式(16)を用いて、道路の高さ偏差hrを算出する。ただし、road_p_z_adj(i)は、道路の高さ偏差hrを示す。nmaxは、サンプリングデータの個数を示す。なお、下記式(16)は、上記式(9)に対応する。
【0157】
road_p_z_adj(i)=
road_p_z(i)-Σk=nmax
k=1road_p_z(k)/nmax
…(16)
【0158】
(道路平坦度(IRI)の算出例)
つぎに、道路平坦度(IRI)の算出例について説明する。
【0159】
車両Crのサスペンションのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを用いて、道路平坦度(IRI)を算出する手順は、例えば、以下の(i)および(ii)の手順からなる。
【0160】
(i)バネ共振周波数fと減衰係数Cとを用いて、各サンプリング時点で車中(居室)の垂直加速度から、各サンプリング時点での道路の高さ偏差を計算する。
【0161】
(ii)上記(i)の各サンプリング時点での道路の高さ偏差から、道路の進行方向距離0.25mごとの車両Crの進行方向位置での道路の高さ偏差を求め、その高さから道路平坦度(IRI)を計算する。
【0162】
・(i)の手順について
第2の算出部505は、重力加速度等の静的成分を除去するために、下記式(17)を用いて、各時点iにおける居室の垂直加速度asの補正を行う。ただし、das(i)は、補正後の垂直加速度asを示す。as(i)は、時点iにおける垂直加速度asを示す。nは、データ数を示す。
【0163】
das(i)=as(i)-[Σj=i+5
j=i-5+1 as(j)/n]…(17)
【0164】
例えば、1区間の進行方向の距離を「100[m]」、サンプリング周波数を「10[Hz]」、進行方向速度を「10[m/s]程度」とすると、1区間あたり100個程度の走行データとなる。上記式(17)では、前後5個(計10個)のデータを平均するため、補正後の垂直加速度asのデータ数は90個程度となる。
【0165】
つぎに、第2の算出部505は、下記式(18)を用いて、補正後の垂直加速度asを積分して、垂直速度vsを算出する。ただし、vs(i)は、時点iにおける垂直速度vsを示す。
【0166】
vs(i)=vs(i-1)+das(i)/N … (18)
【0167】
つぎに、第2の算出部505は、坂を上るときの垂直速度等の静的成分を除去するために、下記式(19)を用いて、各時点(i)における居室の垂直速度vsの補正を行う。ただし、dvs(i)補正後の垂直速度vsを示す。
【0168】
dvs(i)=vs(i)-[Σj=i+5
j=i-5+1 vs(j)/n]…(19)
【0169】
1区間あたり、補正後の垂直加速度asのデータ数は90個程度に対して、補正後の垂直速度vsのデータ数は80個程度となる。
【0170】
つぎに、第2の算出部505は、下記式(20)を用いて、補正後の垂直速度vsを積分して、垂直位置Lzを算出する。ただし、hs(i)は、時点iにおける垂直位置を示す。
【0171】
hs(i)=hs(i-1)+dvs(i)/N … (20)
【0172】
以上で、居室の垂直方向の位置、補正後の垂直速度、補正後の垂直加速度が計算される。第2の算出部505は、決定部504によって決定されたバネ共振周波数fと減衰係数Cとを用いて、道路の高さhr(i)を算出する。
【0173】
まず、第2の算出部505は、下記式(21)を用いて、バネ共振周波数f[Hz表示]から、バネ共振周波数ω[rad表示]を算出する。
【0174】
ω=2πf …(21)
【0175】
つぎに、第2の算出部505は、下記式(22)を用いて、道路の高さhr(i)を算出する。
【0176】
hr(i)=hr(i-1)+[das(i)+2Cωdvs(i)+ω2(hs(i)-hr(i-1))]/(2Cω+ω2/N)N …(22)
【0177】
なお、「i=1」のときの「i-1=0」の値を、例えば、「vs(0)=0,hs(0)=0,hr(0)=0」と設定する。これにより、「i=1」のvs(1),hs(1),hs(1)を算出し、その値をもとにvs(2),hs(2),hs(2)を算出していくことにより、全ての時点でのvs(i),hs(i),hr(i)を算出することができる。
【0178】
・(ii)の手順について
まず、第2の算出部505は、各時点(例えば、10Hz)での垂直加速度とともに、GPSによる緯度経度データ(位置情報)が2Hzで測定され記録されているとすると、0.5秒間の道路の曲がりは少ないので、下記式(23)および(24)を用いて、緯度経度データを直線補間する。ただし、0秒時の位置を経度:lo0、緯度:la0、0.5秒後の位置を経度:lo1、緯度:la1とする。この場合、0.1×n秒後の補間した位置の経度:lo、緯度:laは、以下となる。
【0179】
lo = lo0 + n(lo1-lo0)/5 …(23)
la = la0 + n(la1-la0)/5 …(24)
【0180】
この計算により、全ての加速度測定時点に緯度経度情報が記録される。なお、データの提供元で緯度経度が補間済みの場合は、この計算は不要となる。
【0181】
つぎに、第2の算出部505は、下記式(25)および(26)を用いて、一般的な関数g1(),g2()から緯度経度を座標(x,y)に変換する。ただし、xは、東西方向の位置を示す。yは、南北方向の位置を示す。loは、経度を示す。laは、緯度を示す。
【0182】
x=g1(lo,la) … (25)
y=g2(lo,la) … (26)
【0183】
つぎに、第2の算出部505は、例えば、対象となる領域において、100点のデータがあるときに、それぞれの位置をx1,y1からx100,y100と名付けて、下記式(27)を用いて、隣のデータ間の距離を算出する。ただし、Dkは、k番目とk-1番目のデータの距離を示す。xkは、k番目のデータの東西方向の位置を示す。ykは、k番目のデータの南北方向の位置を示す。
【0184】
Dk=((xk-xk-1)^2+(yk-yk-1)^2)^0.5 …(27)
【0185】
つぎに、第2の算出部505は、上記式(27)で算出した2点間の距離を用いて、最初の点(x1,x2)からk番目の点(xk,yk)までの距離を、下記式(28)を用いて算出する。ただし、DRkは、最初の点からk番目の点までの距離を示す。Dkは、k番目とk-1番目のデータの距離を示す。
【0186】
DRk=D1+D2+…+Dk …(28)
【0187】
つぎに、第2の算出部505は、上記式(28)で算出した最初の点からの距離を用いて、最初の点から0.25m×p番目の道路の高さ偏差を、0.25[m]×p番目の前後の道路高さ偏差を計算した位置(DRk-1,DRk)から直線補間して、下記式(29)により算出する。ただし、hrp(p)は、最初の点から0.25[m]×p離れた点における道路の高さ偏差を示す。hr(k)は、k番目の点における道路の高さ偏差を示す。DRkは、最初の点からk番目の点までの距離を示す。なお、DRk-1は、0.25pより小さくて0.25pに最も近い距離とする。また、DRkは、0.25pより大きくて0.25pに最も近い距離とする。
【0188】
hrp(p)=hr(k-1)+(hr(k)-hr(k-1))(0.25p-DRk-1)/(DRk-DRk-1) …(29)
【0189】
そして、第2の算出部505は、下記式(30)を用いて、0.25mおきの最初の位置「p=0」から最後の位置「p=max」において、隣接する2点の道路の高さ偏差から道路平坦度(IRI)を算出する。
【0190】
IRI=(|hrp(1)-hrp(0)|+|hrp(2)-hrp(1)|+
…+|hrp(max)-hrp(max-1)|/0.25max …(30)
【0191】
(バネ共振周波数fと減衰係数Cの計算結果)
つぎに、バネ共振周波数fと減衰係数Cの計算結果について説明する。まず、
図8、
図9、
図10A、
図10Bおよび
図10Cを用いて、A市内を車両Crが走行した際に得られた走行データからバネ共振周波数fと減衰係数Cとを計算する場合について説明する。
【0192】
図8は、A市の地図を示す説明図である。
図8において、地
図800は、A市の一部を一定の割合で縮小して平面上に表した図である。A市では、進行方向810に沿って、距離50mごとの区間01,02,03,04において、2018年1月~2018年6月の期間に道路の修復工事が行われている。
【0193】
ここでは、修復工事の前後の2017年7月~2017年12月と2018年7月~2018年12月に、この区間を車両Crが月に10回程度走行した際に得られた走行データからバネ共振周波数fと減衰係数Cとを求めた場合について説明する。
【0194】
図9は、路面高さデータの具体例を示す説明図である。
図9において、路面高さデータ901~903は、修復前の区間01の走行データに対し、バネ共振周波数fを「1.6[Hz]」とし、減衰係数を「0.33」として、路面の高さを計算し、路面の高さと進行方向位置のオフセットを除去して得られた、進行位置に対する路面の高さが似ている3本のデータである。
【0195】
なお、
図9において、区間01はほぼ東西方向の道路のため、横軸を距離[m]の代わりに経度[deg]で表している。路面高さデータ901~903によれば、経度139.92900~139.92950[deg]の範囲で、路面の高さのピークの高さや位置が似ていることを確認できる。
【0196】
この3本の路面高さデータ901~903の元になった走行データに対して、バネ共振周波数fと減衰係数Cとを振って、その最適値を計算する。ここで、同じ時期の同じ区間の計算だけの場合、その区間の路面高さの状態によりバネ共振周波数fと減衰係数Cの最適値がずれる懸念がある。
【0197】
そこで、区間01~04において、区間、時期、方向が異なる3つの領域でそれぞれ最適値を求めて比較することで、ずれる懸念を低減した。なお、時期は、道路修復前(2017年)と道路修復後(2018年)の両方から選ぶことが異なった路面高さの状態が得られるので望ましいが、修復後の時期は道路面の凹凸が少ないため道路高さのピークの位置がばらつき、進行方向位置に対する路面高さが似ているものを見つけることは難しかった。そのため時期は、道路修復前(2017年)に限定している。
【0198】
【0199】
図10Aにおいて、グラフ1011~1015は、バネ共振周波数fと減衰係数Cとに対する、時期「2017年7月」の区間02の路面高さの差分を示している。
図10Bにおいて、グラフ1021~1025は、バネ共振周波数fと減衰係数Cとに対する、時期「2017年9月」の区間04の路面高さの差分を示している。
図10Cにおいて、グラフ1031~1035は、バネ共振周波数fと減衰係数Cとに対する、時期「2017年11月」の区間02の路面高さの差分を示している。
【0200】
ここでは、路面高さの差分が最小となる点のバネ共振周波数fと減衰係数Cとの組み合わせを、最適の値として判断する。
図10Aでは、バネ共振周波数fは「2.4[Hz]」となり、減衰係数Cは「0.6」となる。
図10Bでは、バネ共振周波数fは「2.8[Hz]」となり、減衰係数Cは「0.4」となる。
図10Cでは、バネ共振周波数fは「2.4[Hz]」となり、減衰係数Cは「0.4」となる。
【0201】
なお、
図10Aにおいて、減衰係数C:1.0は単調に減少し、バネ共振周波数f:4.0Hzで路面高さの差分は最小となるが、減衰係数C:1.0の曲線には極小点が無く最適値を求めるのは難しいと考え除外している。
【0202】
3つのパターン(時期、区間)で、車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cは近い値が得られたため、妥当な値であると判断できる。ここでは、3つのパターンの値の多数決をとることにより、バネ共振周波数fを「2.4[Hz]」とし、減衰係数Cを「0.4」とした。
【0203】
上述した説明では、路面高さの差分が最小となる点のバネ共振周波数fと減衰係数Cとの組み合わせを、最適の値として判断することにしたが、これに限らない。例えば、路面高さの差分が、(Δmin+α)以下となるいずれかの点のバネ共振周波数fと減衰係数Cとの組み合わせを、最適の値として判断することにしてもよい。Δminは、路面高さの差分の最小値を示す。αは、例えば、Δminの10%程度の値である。
【0204】
つぎに、
図11、
図12A、
図12Bおよび
図12Cを用いて、B市内を車両Crが走行した際に得られた走行データからバネ共振周波数fと減衰係数Cとを計算する場合について説明する。
【0205】
図11は、B市の地図を示す説明図である。
図11において、地
図1100は、B市の一部を一定の割合で縮小して平面上に表した図である。地
図1100において、第1ブロックと第2ブロックは、距離500mの領域である。第1ブロックは、進行方向1101に沿って、東から距離20mごとに区画番号01~25(不図示)が割り振られている。また、第2ブロックは、進行方向1102に沿って、東から距離20mごとに区画番号26~50(不図示)が割り振られている。
【0206】
【0207】
図12Aにおいて、グラフ1211~1215は、バネ共振周波数fと減衰係数Cとに対する、区画01-05の路面高さの差分を示している。
図12Bにおいて、グラフ1221~1225は、バネ共振周波数fと減衰係数Cとに対する、区画15-19の路面高さの差分を示している。
図12Cにおいて、グラフ1231~1235は、バネ共振周波数fと減衰係数Cとに対する、区画28-32の路面高さの差分を示している。
【0208】
ここでは、路面高さの差分が最小となる点のバネ共振周波数fと減衰係数Cとの組み合わせを、最適の値として判断する。
図12Aでは、バネ共振周波数fは「2.4[Hz]」となり、減衰係数Cは「0.2」となる。
図12Bでは、バネ共振周波数fは「1.6[Hz]」となり、減衰係数Cは「0.6」となる。
図12Cでは、バネ共振周波数fは「4.0[Hz]」となり、減衰係数Cは「0.4」となる。
【0209】
3つの区間の中で、区画01-05と区画15-19は、バネ共振周波数fが「2.4[Hz]」と「1.6[Hz]」、減衰係数Cが「0.2」と「0.6」と近い値となったが、区画28-32は、バネ共振周波数fが「4.0[Hz]」と外れた。
【0210】
3つの区間それぞれの路面高さの差分を見ると、区画28-32の路面高さの差分は、減衰係数Cが「0.4(2番目に濃い)」では、バネ共振周波数fの増加に伴い単調に減少し極小点が見当たらないので、最適値を得るのは難しいと考え除外した。この原因としては、A市と同様に路面の凹凸が少なく路面高さのピークがばらつくことが考えられる。
【0211】
その結果、区画01-05と区画15-19の平均を取り、バネ共振周波数f「2.0[Hz]」と減衰係数C「0.4」とを最適値とした。
【0212】
【0213】
ここでは、
図8、
図9、
図10A、
図10Bおよび
図10Cを用いて説明したA市の車両Crのバネ共振周波数f「2.4[Hz]」と減衰係数C「0.4」とを適用して、A市の各区間01~04の路面高さの偏差を計算した場合について説明する。
【0214】
図13A、
図13B、
図13Cおよび
図13Dは、各区間の路面高さの標準偏差を示す説明図である。
図13Aにおいて、グラフ1301は、区間01の修復前(2017年7月~2017年12月)と修復後(2018年7月~2018年12月)の1か月ごとの路面高さの標準偏差を示す。
【0215】
図13Bにおいて、グラフ1302は、区間02の修復前(2017年7月~2017年12月)と修復後(2018年7月~2018年12月)の1か月ごとの路面高さの標準偏差を示す。
図13Cにおいて、グラフ1303は、区間03の修復前(2017年7月~2017年12月)と修復後(2018年7月~2018年12月)の1か月ごとの路面高さの標準偏差を示す。
図13Dにおいて、グラフ1304は、区間04の修復前(2017年7月~2017年12月)と修復後(2018年7月~2018年12月)の1か月ごとの路面高さの標準偏差を示す。
【0216】
グラフ1301~1304によれば、全てのグラフにおいて、修復前の路面高さの標準偏差に対し修復後の路面高さの標準偏差が減少しており、道路修復の効果を明確に確認することができる。
【0217】
(データ抽出処理手順)
つぎに、
図14および
図15を用いて、情報処理装置101のデータ抽出処理手順について説明する。データ抽出処理は、走行データDB220から所定期間T内に同じ区間Sを同じ車両Crで走行した際に得られた走行データを抽出することにより、時系列データDを取得する処理である。
【0218】
図14および
図15は、情報処理装置101のデータ抽出処理手順の一例を示すフローチャートである。
図14のフローチャートにおいて、まず、情報処理装置101は、車両番号、走行年月、走行場所および走行方向の指定を受け付ける(ステップS1401)。なお、車両番号、走行年月、走行場所および走行方向の指定は、例えば、管理者端末201において行われる。
【0219】
つぎに、情報処理装置101は、走行データDB220から選択されていない未選択の走行データを選択する(ステップS1402)。そして、情報処理装置101は、選択した走行データの車両番号が、指定された車両番号と一致するか否かを判断する(ステップS1403)。
【0220】
ここで、車両番号が一致しない場合(ステップS1403:No)、情報処理装置101は、
図15に示すステップS1501に移行する。一方、車両番号が一致する場合(ステップS1403:Yes)、情報処理装置101は、選択した走行データの測定日時が、指定された走行年月に含まれるか否かを判断する(ステップS1404)。
【0221】
ここで、走行年月に含まれない場合(ステップS1404:No)、情報処理装置101は、
図15に示すステップS1501に移行する。一方、走行年月に含まれる場合(ステップS1404:Yes)、情報処理装置101は、選択した走行データの緯度、経度が、指定された走行場所に含まれるか否かを判断する(ステップS1405)。
【0222】
ここで、走行場所に含まれない場合(ステップS1405:No)、情報処理装置101は、
図15に示すステップS1501に移行する。一方、走行場所に含まれる場合(ステップS1405:Yes)、情報処理装置101は、選択した走行データが、いずれかのグループ内のいずれかの走行データと時系列に連続するか否かを判断する(ステップS1406)。
【0223】
ここで、時系列に連続しない場合(ステップS1406:No)、情報処理装置101は、選択した走行データに、新規のグループ番号を付与して(ステップS1407)、
図15に示すステップS1501に移行する。
【0224】
一方、時系列に連続する場合(ステップS1406:Yes)、情報処理装置101は、選択した走行データに、時系列に連続する走行データと同一のグループ番号を付与する(ステップS1408)。そして、情報処理装置101は、グループの走行方向が、指定された走行方向と一致するか否かを判断する(ステップS1409)。
【0225】
なお、グループの走行方向は、例えば、東、西、南、北などの方角を用いて表され、グループ内の時系列の走行データの緯度、経度から特定することができる。
【0226】
ここで、走行データが一致しない場合(ステップS1409:No)、情報処理装置101は、
図15に示すステップS1501に移行する。一方、走行方向が一致する場合(ステップS1409:Yes)、情報処理装置101は、時系列に連続する走行データを含むグループをセーブ領域に記録して(ステップS1410)、
図15に示すステップS1501に移行する。
【0227】
図15のフローチャートにおいて、まず、情報処理装置101は、走行データDB220から選択されていない未選択の走行データがあるか否かを判断する(ステップS1501)。ここで、未選択の走行データがある場合(ステップS1501:Yes)、情報処理装置101は、
図14に示したステップS1402に戻る。
【0228】
一方、未選択の走行データがない場合(ステップS1501:No)、情報処理装置101は、セーブ領域に記録されたグループのうち選択されていない未選択のグループを選択する(ステップS1502)。そして、情報処理装置101は、選択したグループ内の走行データに基づいて、垂直加速度asのRMS(2乗平均平方根)を算出する(ステップS1503)。
【0229】
つぎに、情報処理装置101は、セーブ領域に記録されたグループのうち選択されていない未選択のグループがあるか否かを判断する(ステップS1504)。ここで、未選択のグループがある場合(ステップS1504:Yes)、情報処理装置101は、ステップS1502に戻る。
【0230】
一方、未選択のグループがない場合(ステップS1504:No)、情報処理装置101は、セーブ領域に記録されたグループから、算出したRMSが小さい順に3つのグループを選択する(ステップS1505)。そして、情報処理装置101は、選択した各グループの走行データをそれぞれ抽出することにより、3つの時系列データDを取得して(ステップS1506)、本フローチャートによる一連の処理を終了する。
【0231】
これにより、走行中の停止や発進が少なく、道路の高さ変動が垂直加速度asに現れやすい時系列データDを取得することができる。
【0232】
(特性算出処理手順)
つぎに、
図16を用いて、情報処理装置101の特性算出処理手順について説明する。特性算出処理は、例えば、
図14および
図15で説明したデータ抽出処理により取得された複数の時系列データD、または、ユーザにより選択された複数の時系列データDに基づいて実行される。
【0233】
図16は、情報処理装置101の特性算出処理手順の一例を示すフローチャートである。
図16のフローチャートにおいて、まず、情報処理装置101は、車両Crのサスペンションのバネ共振周波数fと減衰係数Cとの初期値、変化幅および変化範囲を設定する(ステップS1601)。
【0234】
つぎに、情報処理装置101は、バネ共振周波数fが、設定した変化範囲内であるか否かを判断する(ステップS1602)。ここで、バネ共振周波数fが変化範囲内の場合(ステップS1602:Yes)、減衰係数Cが、設定した変化範囲内であるか否かを判断する(ステップS1603)。
【0235】
なお、初期状態では、バネ共振周波数fおよび減衰係数Cは、ステップS1601において設定された初期値である。
【0236】
ここで、減衰係数Cが変化範囲内の場合(ステップS1603:Yes)、情報処理装置101は、複数の時系列データDに基づいて、複数の走行それぞれに対し、各時点における居室の垂直加速度asから、各時点における居室の垂直速度vsと居室の高さ偏差hsを算出する(ステップS1604)。なお、複数の走行それぞれは、複数の時系列データDそれぞれが得られた際の走行を示す。
【0237】
つぎに、情報処理装置101は、複数の走行それぞれに対し、各時点における居室の垂直加速度as、垂直速度vs、居室の高さ偏差hsおよび車両Crのバネ共振周波数f、減衰係数Cから、区間S内の各位置pにおける道路の高さ偏差hrを算出する(ステップS1605)。
【0238】
そして、情報処理装置101は、複数の走行のうちの異なる走行間ごとに、当該走行間における道路の高さ偏差の差の合計Δを算出する(ステップS1606)。つぎに、情報処理装置101は、バネ共振周波数f、減衰係数Cおよび合計Δの組み合わせを記録する(ステップS1607)。
【0239】
そして、情報処理装置101は、減衰係数Cを、設定した変化幅分増加させて(ステップS1608)、ステップS1603に戻る。ステップS1603において、減衰係数Cが変化範囲外となった場合(ステップS1603:No)、情報処理装置101は、減衰係数Cを初期値に戻し(ステップS1609)、バネ共振周波数fを、設定した変化幅分増加させて(ステップS1610)、ステップS1602に戻る。
【0240】
また、ステップS1602において、バネ共振周波数fが変化範囲外となった場合(ステップS1602:No)、情報処理装置101は、合計Δが最小のときのバネ共振周波数f、減衰係数Cを、車両Crのバネ共振周波数f、減衰係数Cに決定する(ステップS1611)。そして、情報処理装置101は、決定した車両Crのバネ共振周波数f、減衰係数Cを、車両Crを特定する情報と対応付けて出力して(ステップS1612)、本フローチャートによる一連の処理を終了する。
【0241】
これにより、車両Crのサスペンションの特性を表すバネ共振周波数fおよび減衰係数Cを高精度に推定することができる。
【0242】
(道路平坦度算出処理手順)
つぎに、
図17を用いて、情報処理装置101の道路平坦度算出処理手順について説明する。道路平坦度算出処理は、例えば、
図16で説明した特性算出処理により決定された車両Crのバネ共振周波数fおよび減衰係数Cを用いて実行される。
【0243】
図17は、情報処理装置101の道路平坦度算出処理手順の一例を示すフローチャートである。
図17のフローチャートにおいて、まず、情報処理装置101は、劣化状態の判断対象となる道路を車両Crで走行した際に測定された車両Crの居室の垂直加速度asの時間変化を示す加速度データ(時系列データ)を取得する(ステップS1701)。
【0244】
つぎに、情報処理装置101は、決定した車両Crのバネ共振周波数f、減衰係数Cを用いて、取得した加速度データに基づいて、各時点における道路の高さ偏差hrを算出する(ステップS1702)。つぎに、情報処理装置101は、各時点における平面位置(緯度、経度)を特定する(ステップS1703)。
【0245】
そして、情報処理装置101は、特定した各時点における平面位置から、最初点からの道路距離を算出する(ステップS1704)、最初点とは、対象となる領域における最初の点(平面位置)である。つぎに、情報処理装置101は、各時点における道路距離から、0.25[m]ごとの道路距離における道路の高さ偏差hrを補間する(ステップS1705)。
【0246】
つぎに、情報処理装置101は、0.25[m]ごとの道路の高さ偏差hrから、道路平坦度(IRI)を算出する(ステップS1706)。そして、情報処理装置101は、算出した道路平坦度(IRI)を、劣化状態の判断対象となる道路と対応付けて出力して(ステップS1707)、本フローチャートによる一連の処理を終了する。
【0247】
これにより、推定した車両Crのバネ共振周波数fおよび減衰係数Cを用いて、道路の劣化状態を判断するための道路平坦度(IRI)を算出することができる。
【0248】
以上説明したように、実施の形態にかかる情報処理装置101によれば、所定期間T内に同じ車両Crが複数回走行した区間Sについて、複数回の走行それぞれで測定された車両Crの居室の垂直加速度asの時間変化を示す時系列データDをそれぞれ取得することができる。また、情報処理装置101によれば、関数G(hs,vs,as,p,f,C)を用いて、バネ共振周波数fと減衰係数Cとの複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得した時系列データDに対応する走行ごとに、区間S内の各位置pにおける道路の高さ偏差hrを算出することができる。また、情報処理装置101によれば、算出した区間S内の各位置pにおける道路の高さ偏差hrを、複数回の走行のうちの異なる走行間で比較した結果に基づいて、複数通りの組み合わせのうち、走行間の道路の高さ偏差の差が最小となる組み合わせを特定することができる。そして、情報処理装置101によれば、特定した組み合わせから、車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを決定することができる。
【0249】
これにより、同じ時期に同じ道路を同じ車両Crで複数回走行したときの垂直加速度データから計算される道路の高さは、仮決めしたバネ共振周波数fと減衰係数Cが適切な値であれば、走行間で一致することを利用して、垂直加速度データだけから、車両Crのバネ共振周波数fおよび減衰係数Cを高精度に推定することができる。
【0250】
また、情報処理装置101によれば、記憶部510を参照して、所定期間T内に同じ車両Crが複数回走行した区間Sについて、複数回の走行それぞれで測定された車両Crの居室の垂直加速度asを示す走行データ群をそれぞれ抽出することにより、時系列データDをそれぞれ取得することができる。記憶部510は、複数の車両Crの各車両Crが複数の道路を走行した際に測定された各車両Crの居室の垂直加速度asを示す走行データを記憶する。
【0251】
これにより、同じ時期に同じ道路を同じ車両Crで走行した際に測定された車両Crの居室の垂直加速度asの時間変化を示す時系列データDを自動で取得することができる。
【0252】
また、情報処理装置101によれば、抽出した走行データ群ごとに、車両Crの居室の垂直加速度asの2乗平均平方根(RMS)を算出し、抽出した走行データ群のうち、算出した2乗平均平方根が小さいm個の走行データ群それぞれを、時系列データDとして取得することができる。
【0253】
これにより、走行中の停止や発進が少なく、道路の高さ変動が垂直加速度asに現れやすいm個の時系列データDを自動で取得することができる。
【0254】
また、情報処理装置101によれば、各時点における道路の高さ偏差hrを、各時点の車両Crの位置情報に基づいて、各時点に対応する位置pにおける道路の高さ偏差hrに変換することにより、区間S内の各位置pにおける道路の高さ偏差hrを算出することができる。
【0255】
これにより、区間Sを複数回走行した場合の異なる走行間で、同じ位置での道路の高さ偏差hrを比較可能にすることができる。
【0256】
また、情報処理装置101によれば、決定した車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを、車両Crを特定する情報と対応付けて出力することができる。
【0257】
これにより、車両Crの走行データから道路の道路平坦度(IRI)を算出する際に、車両Crを特定する情報(例えば、車両番号など)から、車両Crのサスペンションの特性を表すバネ共振周波数fおよび減衰係数Cを特定することができる。
【0258】
また、情報処理装置101によれば、決定した車両Crのバネ共振周波数fと減衰係数Cとを用いて、劣化状態の判断対象となる道路を車両Crで走行した際に測定された車両Crの居室の垂直加速度asの時間変化を示す時系列データに基づいて、各時点における道路の高さ偏差hrを算出することができる。そして、情報処理装置101によれば、算出した各時点における道路の高さ偏差hrに基づいて、道路の道路平坦度(IRI)を算出し、算出した道路の道路平坦度(IRI)を出力することができる。
【0259】
これにより、推定した車両Crのバネ共振周波数fおよび減衰係数Cを用いて、道路の劣化状態を判断するための道路平坦度(IRI)を算出することができる。
【0260】
これらのことから、実施の形態にかかる情報処理装置101および情報処理システム200によれば、車載のスマートフォンなどで計測可能な垂直加速度データだけから、車両のサスペンションの特性を推定して、サスペンションの影響を考慮した路面の劣化状態を判断可能にすることができる。
【0261】
なお、本実施の形態で説明した特性算出方法は、予め用意されたプログラムをパーソナル・コンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することにより実現することができる。本特性算出プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行される。また、本特性算出プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布してもよい。
【0262】
また、本実施の形態で説明した情報処理装置101は、スタンダードセルやストラクチャードASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの特定用途向けICやFPGAなどのPLD(Programmable Logic Device)によっても実現することができる。
【0263】
上述した実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0264】
(付記1)所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、前記複数回の走行それぞれで測定された前記車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データをそれぞれ取得し、
前記車両のサスペンションのバネ共振周波数と減衰係数とをパラメータとし、各時点における居室の垂直加速度、垂直速度および居室の高さ偏差から、前記各時点に対応する位置における道路の高さ偏差を導出する関数を用いて、前記バネ共振周波数と前記減衰係数との複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得した前記時系列データに対応する走行ごとに、当該時系列データから前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出し、
算出した前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を、前記複数回の走行のうちの異なる走行間で比較した結果に基づいて、前記複数通りの組み合わせのうち、前記走行間の道路の高さ偏差の差が最小となる組み合わせを特定し、
特定した前記組み合わせから、前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを決定する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする特性算出プログラム。
【0265】
(付記2)前記取得する処理は、
複数の車両の各車両が複数の道路を走行した際に測定された前記各車両の居室の垂直加速度を示す走行データを記憶する記憶部を参照して、所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、前記複数回の走行それぞれで測定された前記車両の居室の垂直加速度を示す走行データ群をそれぞれ抽出することにより、前記時系列データをそれぞれ取得する、ことを特徴とする付記1に記載の特性算出プログラム。
【0266】
(付記3)前記走行データは、前記車両の識別情報、位置情報および時点情報と対応付けて、測定された前記車両の居室の垂直加速度を示す、ことを特徴とする付記2に記載の特性算出プログラム。
【0267】
(付記4)前記算出する処理は、
前記各時点における道路の高さ偏差を、前記各時点の前記車両の位置情報に基づいて、前記各時点に対応する位置における道路の高さ偏差に変換することにより、前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出する、ことを特徴とする付記1~3のいずれか一つに記載の特性算出プログラム。
【0268】
(付記5)決定した前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを、前記車両を特定する情報と対応付けて出力する、処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする付記1~4のいずれか一つに記載の特性算出プログラム。
【0269】
(付記6)決定した前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを用いて、劣化状態の判断対象となる道路を前記車両で走行した際に測定された前記車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データに基づいて、各時点における道路の高さ偏差を算出し、
算出した前記各時点における道路の高さ偏差に基づいて、前記道路の道路平坦度を算出する、
処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする付記1~5のいずれか一つに記載の特性算出プログラム。
【0270】
(付記7)算出した前記道路の道路平坦度を出力する、
処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする付記6に記載の特性算出プログラム。
【0271】
(付記8)前記取得する処理は、
抽出した前記走行データ群ごとに、前記垂直加速度の2乗平均平方根を算出し、
抽出した前記走行データ群のうち、算出した前記2乗平均平方根が小さい所定数の走行データ群それぞれを、前記時系列データとして取得する、ことを特徴とする付記2に記載の特性算出プログラム。
【0272】
(付記9)所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、前記複数回の走行それぞれで測定された前記車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データをそれぞれ取得し、
前記車両のサスペンションのバネ共振周波数と減衰係数とをパラメータとし、各時点における居室の垂直加速度、垂直速度および居室の高さ偏差から、前記各時点に対応する位置における道路の高さ偏差を導出する関数を用いて、前記バネ共振周波数と前記減衰係数との複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得した前記時系列データに対応する走行ごとに、当該時系列データから前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出し、
算出した前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を、前記複数回の走行のうちの異なる走行間で比較した結果に基づいて、前記複数通りの組み合わせのうち、前記走行間の道路の高さ偏差の差が最小となる組み合わせを特定し、
特定した前記組み合わせから、前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを決定する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする特性算出方法。
【0273】
(付記10)所定期間内に同じ車両が複数回走行した区間について、前記複数回の走行それぞれで測定された前記車両の居室の垂直加速度の時間変化を示す時系列データをそれぞれ取得し、
前記車両のサスペンションのバネ共振周波数と減衰係数とをパラメータとし、各時点における居室の垂直加速度、垂直速度および居室の高さ偏差から、前記各時点に対応する位置における道路の高さ偏差を導出する関数を用いて、前記バネ共振周波数と前記減衰係数との複数通りの組み合わせそれぞれについて、取得した前記時系列データに対応する走行ごとに、当該時系列データから前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を算出し、
算出した前記区間内の各位置における道路の高さ偏差を、前記複数回の走行のうちの異なる走行間で比較した結果に基づいて、前記複数通りの組み合わせのうち、前記走行間の道路の高さ偏差の差が最小となる組み合わせを特定し、
特定した前記組み合わせから、前記車両のバネ共振周波数と減衰係数とを決定する、
ことを特徴とする情報処理システム。
【符号の説明】
【0274】
101 情報処理装置
102,Cr 車両
110,120,130 時系列データ
200 情報処理システム
201 管理者端末
202 端末装置
210 ネットワーク
220 走行データDB
300 バス
301 CPU
302 メモリ
303 ディスクドライブ
304 ディスク
305 通信I/F
306 可搬型記録媒体I/F
307 可搬型記録媒体
501 取得部
502 設定部
503 第1の算出部
504 決定部
505 第2の算出部
506 出力部
510 記憶部
700 計算用テーブル
800,1100 地図