(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
G01N27/30 361
(21)【出願番号】P 2020148518
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】客野 智彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 愛
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-080573(JP,A)
【文献】特開2001-349866(JP,A)
【文献】特開2009-168694(JP,A)
【文献】特開2015-117939(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0336350(US,A1)
【文献】実開平05-069674(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/30
G01N 27/26
G01N 27/38
G01N 27/416
G01N 27/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル水を貯留する測定槽において、前記サンプル水に浸漬される第1電極及び第2電極と、
前記第1電極を回転させるモータと、
前記サンプル水に流れる電流の測定結果に基づいて前記サンプル水の中の測定対象の濃度を算出する測定モードで動作するように構成される制御部と
、
前記第1電極の表面に接触するように前記測定槽の内部に位置する顆粒部材と
を備え、
前記モータは、回転数を変更可能に構成され
、
前記制御部は、前記顆粒部材が交換された後の慣らしモードで動作する場合の前記回転数の絶対値を、前記測定モードで動作する場合の前記回転数の絶対値よりも大きくするように前記モータの回転を制御する、
測定装置。
【請求項2】
前記モータは、前記回転数が正の値である場合に時計回り又は反時計回りのいずれかを正方向として回転し、前記回転数が負の値である場合に前記正方向の逆方向に回転し、
前記制御部は、前記回転数を正の値と負の値とに交互に変更するように前記モータの回転を制御する、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記測定モード又は前記第1電極を清掃する清掃モードの少なくとも一方のモードで動作する場合、前記回転数を正の値と負の値とに交互に変更するように前記モータの回転を制御する、請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
サンプル水を貯留する測定槽において、前記サンプル水に浸漬される第1電極及び第2電極と、
前記第1電極を回転させるモータと、
前記サンプル水に流れる電流の測定結果に基づいて前記サンプル水の中の測定対象の濃度を算出する測定モードで動作するように構成される制御部と
を備え、
前記モータは、回転数を変更可能に構成され
、
前記モータは、前記回転数が正の値である場合に時計回り又は反時計回りのいずれかを正方向として回転し、前記回転数が負の値である場合に前記正方向の逆方向に回転し、
前記制御部は、前記第1電極を清掃する清掃モードで動作する場合、前記回転数を正の値と負の値とに交互に変更するように前記モータの回転を制御する、
測定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記サンプル水の中の測定対象の濃度を算出しないスタンバイモードで動作する場合の前記回転数の絶対値を、前記測定モードで動作する場合の前記回転数の絶対値よりも小さくするように前記モータの回転を制御する、請求項1から
4までのいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記スタンバイモードで動作する場合、前記モータを停止させる、請求項
5に記載の測定装置。
【請求項7】
サンプル水を貯留する測定槽において、前記サンプル水に浸漬される第1電極及び第2電極と、
前記第1電極を回転させるモータと、
前記サンプル水に流れる電流の測定結果に基づいて前記サンプル水の中の測定対象の濃度を算出する測定モードで動作するように構成される制御部と
を備え、
前記モータは、回転数を変更可能に構成され
、
前記制御部は、前記サンプル水の中の測定対象の濃度を算出しないスタンバイモードで動作する場合の前記回転数の絶対値を、前記測定モードで動作する場合の前記回転数の絶対値よりも小さく、かつ、ゼロより大きくするように前記モータの回転を制御する、
測定装置。
【請求項8】
前記制御部は、既知の測定対象の濃度を有する標準サンプル水に流れる電流の大きさに基づいて、前記回転数を制御する、請求項1から
7までのいずれか一項に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サンプル水中で回転する電極を用いてサンプル水中の塩素濃度を測定する測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
測定装置の利便性の向上が求められる。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、利便性を向上できる測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る測定装置は、サンプル水を貯留する測定槽において、前記サンプル水に浸漬される第1電極及び第2電極と、前記第1電極を回転させるモータと、前記サンプル水に流れる電流の測定結果に基づいて前記サンプル水の中の測定対象の濃度を算出する測定モードで動作するように構成される制御部とを備える。前記モータは、回転数を変更可能に構成される。このようにすることで、測定装置は、種々の運転モードで動作できる。その結果、測定装置の利便性が向上する。
【0007】
一実施形態に係る測定装置において、前記モータは、前記回転数が正の値である場合に時計回り又は反時計回りのいずれかを正方向として回転し、前記回転数が負の値である場合に前記正方向の逆方向に回転してよい。前記制御部は、前記回転数を正の値と負の値とに交互に変更するように前記モータの回転を制御してよい。このようにすることで、第1電極が一方向に引き延ばされにくくなる。その結果、第1電極の寿命が延びる。
【0008】
一実施形態に係る測定装置において、前記制御部は、前記測定モードで動作する場合又は前記第1電極を清掃する清掃モードの少なくとも一方のモードで動作する場合、前記回転数を正の値と負の値とに交互に変更するように前記モータの回転を制御してよい。このようにすることで、第1電極の清掃が容易になる。その結果、測定装置の利便性が向上する。
【0009】
一実施形態に係る測定装置において、前記制御部は、前記サンプル水の中の測定対象の濃度を算出しないスタンバイモードで動作する場合の前記回転数の絶対値を、前記測定モードで動作する場合の前記回転数の絶対値よりも小さくするように前記モータの回転を制御してよい。このようにすることで、第1電極又は回転する第1電極と電気的に接続するスリップリングが摩耗しにくくなる。その結果、部品の寿命が延びる。
【0010】
一実施形態に係る測定装置において、前記制御部は、前記スタンバイモードで動作する場合、前記モータを停止させてよい。このようにすることで、第1電極又は回転する第1電極と電気的に接続するスリップリングが摩耗しにくくなる。その結果、部品の寿命が延びる。
【0011】
一実施形態に係る測定装置は、前記第1電極の表面に接触するように前記測定槽の内部に位置する顆粒部材を更に備えてよい。前記測定装置において、前記制御部は、前記顆粒部材が交換された後の慣らしモードで動作する場合の前記回転数の絶対値を、前記測定モードで動作する場合の前記回転数の絶対値よりも大きくするように前記モータの回転を制御してよい。このようにすることで、顆粒部材の交換後に安定するまでの時間が短縮される。その結果、測定装置の利便性が向上する。
【0012】
一実施形態に係る測定装置において、前記制御部は、既知の測定対象の濃度を有する標準サンプル水に流れる電流の大きさに基づいて、前記回転数を制御してよい。このようにすることで、測定対象の濃度の算出結果の誤差が低減される。その結果、測定装置の利便性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、利便性を向上できる測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る測定装置の構成例を示す断面図である。
【
図3】一実施形態に係る測定装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示において、サンプル水の中の測定対象の濃度を測定する測定装置1(
図1等参照)が説明される。測定装置1は、サンプル水に電極を浸漬してサンプル水に所定電圧を印加し、サンプル水に流れる電流を測定し、電流の測定値に基づいてサンプル水の中の測定対象の濃度を算出する。測定対象は、例えば、塩素、臭素又はヨウ素等を含んでよい。測定対象は、例えば、金属イオンを含んでもよい。
【0016】
測定装置1は、サンプル水に浸漬されている2電極間に流れる拡散電流を測定する。測定装置1は、拡散電流の大きさに寄与する拡散層を安定させるために電極を回転させる。
【0017】
拡散電流の大きさは、電極の状態の影響を受ける。例えば、電極の表面の汚れは、拡散電流の大きさを変化させる。測定装置1は、拡散電流の大きさに寄与する電極の状態を安定させるために、電極の表面にセラミックビーズ又はガラスビーズ等の顆粒部材44(
図1等参照)を接触させることによって電極の表面を洗浄する。電極の表面は、顆粒部材44によって洗浄される一方で、顆粒部材44との摩擦によって変形したり摩耗したりする。電極の表面の変形又は摩耗は、電極の寿命を短くする。
【0018】
また、測定装置1は、回転する電極を他の回路と電気的に導通させるために、回転するスリップリング25(
図1等参照)にブラシ24(
図1等参照)を接触させる構成を備える。スリップリング25とブラシ24とは、回転摺動機能を実現する。スリップリング25又はブラシ24は、摩擦によって摩耗する。摩耗によって、スリップリング25又はブラシ24の寿命が短くなる。
【0019】
電極の変形若しくは摩耗、又は、スリップリング25若しくはブラシ24の摩耗が大きくなるほど、各部品の寿命が短くなる。各部品の寿命を長くすることが求められる。
【0020】
以下、測定装置1の実施形態が、比較例と対比しながら説明される。
【0021】
(比較例)
本開示に係る測定装置1に対する比較例の測定装置が説明される。比較例に係る測定装置は、電極を一方向に一定の速度で回転させる駆動装置を備える。具体的には、測定装置が起動状態である期間において、駆動装置は、常に通電されて一方向に一定の速度で回転する。ここで、測定装置は、起動状態である期間において、所定のサンプリング周期で定まるタイミングで電流を測定する一方で、それ以外のタイミングで電流を測定しない。つまり、比較例に係る測定装置は、起動状態である期間において、電流を測定しているかにかかわらず、電極を常に一方向に一定の速度で回転させる。そうすると、起動状態である期間において、電極の変形若しくは摩耗、又は、スリップリング25若しくはブラシ24の摩耗が発生し続ける。その結果、測定装置の部品の寿命が短くなる。
【0022】
そこで、本開示において、部品の寿命を長くできる測定装置1の実施形態が説明される。
【0023】
(本開示の一実施形態に係る測定装置1の構成例)
図1、
図2及び
図3に示されるように、一実施形態に係る測定装置1は、サンプル水を貯留する測定槽40と、サンプル水に電流を流してサンプル水の特性を測定する測定部とを備える。本実施形態において、測定装置1は、サンプル水の特性として、サンプル水の中の塩素濃度を測定する。つまり、本実施形態において、測定対象は塩素であるとする。測定対象は塩素に限られず、他の種々の物質であってよい。
【0024】
測定部は、制御部10と、電源20と、電流計26と、第1電極21と、第2電極22とを備える。
【0025】
制御部10は、電源20及び電流計26を制御することによってサンプル水に流れる電流を測定し、電流の測定結果に基づいてサンプル水の中の塩素濃度を算出する。制御部10は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよい。制御部10は、プロセッサに所定のプログラムを実行させることによって所定の機能を実現してもよい。
【0026】
測定装置1は、記憶部を更に備えてもよい。記憶部は、制御部10の動作に用いられる各種情報、又は、制御部10の機能を実現するためのプログラム等を格納してよい。記憶部は、制御部10のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部は、制御部10に含まれてもよいし、制御部10と別体として構成されてもよい。
【0027】
測定装置1は、出力部を更に備えてもよい。出力部は、制御部10から取得した情報を出力する。具体的には、出力部は、制御部10で算出したサンプル水の中の塩素濃度を出力する。出力部は、直接又は外部装置等を介して、文字、図形、又は画像等の視覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してよい。出力部は、表示デバイスを備えてもよいし、表示デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。表示デバイスは、例えば液晶ディスプレイ等の種々のディスプレイを含んでよい。出力部は、直接又は外部装置等を介して、音声等の聴覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。出力部は、スピーカ等の音声出力デバイスを備えてもよいし、音声出力デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。出力部は、視覚情報又は聴覚情報だけでなく、直接又は外部装置等を介して、ユーザが他の感覚で知覚できる情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。出力部は、制御部10に含まれてもよいし、制御部10と別体として構成されてもよい。
【0028】
第1電極21と第2電極22とは、測定槽40の中に貯留されているサンプル水に浸漬されるように測定槽40に収容される。電源20は、第1電極21と第2電極22との間に直列に接続され、第1電極21と第2電極22との間に電位差を生じさせる。電源20が第1電極21と第2電極22との間に電位差を生じさせることによって、第1電極21と第2電極22との間に位置するサンプル水に電流が流れる。
【0029】
第1電極21は、本体と、作用極23とを有する。本体は、円柱状に構成され、測定槽40に挿入される。本体は、樹脂等の絶縁体で構成される。作用極23は、サンプル水に浸漬されるように、本体の先端側(測定槽40に挿入される側)に位置し、サンプル水に接触してサンプル水に電流を流す。サンプル水に流れる電流は、作用極23を通って第1電極21に流れる。作用極23は、例えば金(Au)等の金属、又は、他の導電性材料を含んで構成される。本実施形態において、作用極23は、金を含んで構成されるとする。
【0030】
電流計26は、第1電極21と第2電極22とサンプル水とを接続する回路に直列に接続され、サンプル水に流れる電流の大きさを測定する。電流計26は、増幅回路を含んで構成されてよい。
【0031】
サンプル水に流れる電流の大きさは、少なくとも、サンプル水の中の塩素濃度に基づいて定まる。したがって、制御部10は、電流計26から電流の測定結果を取得し、測定結果に基づいてサンプル水の中の塩素濃度を算出できる。制御部10は、第1電極21と第2電極22との間に生じさせる電位差の大きさにも更に基づいてサンプル水の中の塩素濃度を算出してよい。制御部10は、第1電極21及び第2電極22のサンプル水に浸漬されている部分の形状にも更に基づいてサンプル水の中の塩素濃度を算出してもよい。制御部10は、既知の塩素濃度を有する標準サンプル水に流れる電流の測定結果に基づいて検量線の関数又はテーブルを生成してもよい。制御部10は、サンプル水に流れる電流の測定結果と検量線とに基づいてサンプル水の中の塩素濃度を算出してもよい。
【0032】
サンプル水に流れる電流は、作用極23と第2電極22との間に、サンプル水を介して流れる拡散電流の大きさで限定される。つまり、電流計26は、作用極23と第2電極22との間に流れる拡散電流の大きさを測定する。
【0033】
拡散電流の大きさは、作用極23の表面近傍に生じる拡散層の状態による影響を大きく受ける。したがって、拡散層の状態が安定するほど、電流計26による拡散電流の大きさの測定値が安定する。拡散層は、作用極23の表面近傍におけるサンプル水のイオンの濃度分布によって形成される。作用極23の表面近傍におけるサンプル水のイオンの濃度分布は、サンプル水に電流が流れることによって生じる。拡散層の状態は、作用極23の表面近傍におけるサンプル水のイオンの濃度分布を安定化することによって、安定化される。
【0034】
作用極23の表面近傍におけるサンプル水のイオン濃度分布は、拡散電流によって変化する。作用極23の表面近傍に位置するサンプル水が安定して入れ替わることによって、作用極23の表面近傍におけるサンプル水のイオン濃度分布が定常状態で安定する。測定装置1は、作用極23を有する第1電極21を回転させることによって、作用極23の表面近傍におけるサンプル水を安定して入れ替える。
【0035】
そこで、測定部は、第1電極21を回転させるモータ30を更に備える。第1電極21は、長手方向を有する棒状に形成されていてよい。モータ30は、第1電極21がその長手方向に沿う回転軸21Aの周りに回転するように、第1電極21に接続される。モータ30は、測定装置1が起動状態である期間において可変の回転数で回転できる。例えば、モータ30は、回転数を高くしたり低くしたりできる。つまり、モータ30は、その回転数を変更可能に構成される。モータ30は、測定装置1が起動状態のまま、回転数をゼロにして回転を停止できる。
【0036】
モータ30の回転数は、作用極23の表面近傍におけるサンプル水のイオン濃度分布に影響を及ぼす。その結果、モータ30の回転数は、拡散電流の大きさに影響を及ぼす。具体的には、モータ30の回転数が高いほど、同じ塩素濃度を有するサンプル水に流れる拡散電流が大きくなる。測定装置1は、モータ30の回転数を高くすることによって、サンプル水の塩素濃度が低い場合であっても拡散電流を大きくして塩素濃度を算出しやすくすることができる。つまり、測定装置1は、モータ30の回転数を高くすることによって、塩素濃度の検出感度を高めることができる。
【0037】
また、モータ30は、回転の方向を変更できる。具体的には、第1電極21をその長手方向に沿ってモータ30から測定槽40の方向に見たときに、モータ30は、第1電極21を時計回りに回転させたり反時計回りに回転させたりできる。本実施形態において、第1電極21の時計回り及び反時計回りの回転は、それぞれ正方向及び逆方向の回転と称される。第1電極21が正方向に回転するときの回転数は正の値で表されるとする。第1電極21が逆方向に回転するときの回転数は負の値で表されるとする。
【0038】
上述したように、モータ30の回転数は、拡散電流の大きさに影響を及ぼす。しかし、モータ30の回転方向は、拡散電流の大きさに影響を及ぼさない。モータ30の回転数が負の値になり得る場合、モータ30の回転数の絶対値が大きいほど、拡散電流が大きくなる。
【0039】
測定部は、第1電極21が回転している状態でも電源20と導通するように、スリップリング25とブラシ24とを更に備える。スリップリング25は、第1電極21とともにモータ30の駆動によって回転する。ブラシ24は、スリップリング25の円筒面に接触するように配置される。ブラシ24は、スリップリング25が回転している間もスリップリング25に接触し続けるように、スリップリング25に対して付勢される。
【0040】
測定槽40は、第1電極21を収容する第1電極収容部41と、第2電極22を収容する第2電極収容部42とを備える。測定槽40は、第1電極収容部41及び第2電極収容部42にサンプル水を貯留する。測定槽40は、第1電極収容部41と、第2電極収容部42との間でサンプル水を通過させる通路43を更に備える。測定槽40は、サンプル水を受け入れる入り口と、サンプル水を排出する出口とを更に備える。
【0041】
上述したように、作用極23の表面とサンプル水との間に拡散電流が流れる。ここで、拡散電流の大きさは、作用極23の表面積に基づいて定まる。作用極23の表面に汚れが付着した場合、作用極23に拡散電流が流れる実効的な表面積が小さくなる。つまり、作用極23の表面の汚れは、拡散電流の大きさに影響を及ぼす。
【0042】
そこで、測定装置1は、作用極23の表面の汚れを洗浄できるように、作用極23の表面にセラミックビーズ又はガラスビーズ等の顆粒部材44を接触させながら第1電極21を回転させる。作用極23の表面に顆粒部材44を接触させるために、測定槽40は、第1電極収容部41に、サンプル水とともに顆粒部材44を収容する。つまり、顆粒部材44は、測定槽40の内部に位置する。このようにすることで、第1電極収容部41に第1電極21を収容したときに、顆粒部材44が作用極23に接触する。顆粒部材44が作用極23に接触している状態で第1電極21を回転させることによって、顆粒部材44は、作用極23の表面に対して摩擦を生じ、作用極23の表面に付着した汚れを低減させる。つまり、顆粒部材44は、作用極23の表面を洗浄できる。
【0043】
作用極23の表面は、顆粒部材44によって洗浄される一方で、顆粒部材44との摩擦によって変形したり摩耗したりする。作用極23の表面の変形又は摩耗は、作用極23と第2電極22との間に、サンプル水を介して流れる拡散電流を不安定にする。
【0044】
例えば、作用極23が金で構成される場合、作用極23は顆粒部材44との摩擦によって第1電極21の本体の表面において薄く引き延ばされる。作用極23が引き延ばされることによって、作用極23の表面積が変化する。また、作用極23が摩耗することによって、作用極23の表面積が小さくなり得る。作用極23の表面積の変化は、拡散電流の大きさを変化させ、拡散電流を不安定にする。その結果、サンプル水の中の塩素濃度の算出精度が低下する。
【0045】
また、作用極23が引き延ばされることによって、作用極23が薄くなり第1電極21から剥がれやすくなる。作用極23が第1電極21から剥がれそうになったり実際に剥がれたりする場合、拡散電流が急激に変化し得る。つまり、作用極23の剥離は、拡散電流を不安定にする。その結果、サンプル水の中の塩素濃度の算出精度が低下する。
【0046】
以上のことからすると、作用極23の変形又は摩耗は、拡散電流を不安定にする。したがって、作用極23が変形したり摩耗したりした場合、第1電極21を交換する必要が生じる。結果として、電極の表面の変形又は摩耗は、第1電極21の寿命を短くする。
【0047】
(測定装置1の動作例)
本開示の一実施形態に係る測定装置1は、例えば、以下のように動作することによって、各部品の寿命を長くすることができる。
【0048】
<測定モードとスタンバイモードとの切り替え>
制御部10は、測定装置1が起動状態である場合にサンプル水に拡散電流を流し続ける。一方で、制御部10は、所定のサンプリング周期で拡散電流を測定し、サンプル水の中の塩素濃度を算出する。逆に言えば、所定のサンプリング周期で定まるタイミング以外において、制御部10は、拡散電流を測定しない。つまり、制御部10は、測定装置1の動作モードを、サンプル水に流れる拡散電流を測定する測定モードと、拡散電流を測定しないスタンバイモードとに切り替えることができる。
【0049】
上述したように、モータ30の回転数は、拡散電流の大きさに影響を及ぼす。したがって、制御部10は、測定モードで動作する場合、モータ30の回転数を測定のためにあらかじめ定められている値に制御する。一方で、制御部10は、スタンバイモードで動作する場合、モータ30の回転数をあらかじめ定められている値に制御する必要がない。
【0050】
ここで、モータ30の回転数が高いほど、第1電極21の作用極23の変形又は摩耗が進行しやすくなる。また、スリップリング25の摩耗が進行しやすくなる。
【0051】
<<モータ30の停止又は低速化>>
そこで、本実施形態に係る測定装置1の制御部10は、スタンバイモードで動作する場合、モータ30の回転数をゼロにして第1電極21の回転を停止させてよい。このようにすることで、作用極23の変形若しくは摩耗、又は、スリップリング25の摩耗が進行しにくくなる。その結果、各部品の寿命が長くなる。また、サンプル水の供給が停止された状態で第1電極21を回転させ続けた場合、第1電極21と顆粒部材44との間に作用する摩擦力が水中に比べて大きくなる。その結果、第1電極21が激しく消耗するとともに、場合によって、第1電極21が故障し得る。測定装置1は、測定槽40内のサンプル水の減少を検知した場合に、自動的にモータ30の回転を停止させることによって、第1電極21の消耗又は故障のリスクを低減させ得る。さらに、測定装置1は、サンプル水の供給が正常に戻った場合に、自動でモータ30の回転を開始させることによって、サンプル水を節約した間欠測定を実現できる。測定装置1は、2つの電極間の電圧を変動させ、2つの電極間に流れる電流の変化を検知することによって、サンプル水が減少したか、又は、サンプル水の有無を検知することができる。測定装置1は、電流変化に基づいて2つの電極間の抵抗値を測定し、抵抗値の大きさの測定結果に基づいてサンプル水が減少したか、又は、サンプル水の有無を判定してもよい。
【0052】
第1電極21の回転が停止する場合、作用極23の表面近傍におけるサンプル水のイオン濃度分布、つまり拡散層の状態が定常状態から大きく外れることがある。この場合、測定装置1が測定モードで動作するために第1電極21の回転を再開してから、作用極23の表面近傍の拡散層の状態が定常状態に戻るまでにかかる時間が長くなり得る。その結果、測定装置1がスタンバイモードでの動作から測定モードでの動作に戻って測定を再開できる状態に戻るまでにかかる時間が長くなる。
【0053】
ここで、モータ30の回転数の絶対値をゼロにしないことによって、モータ30を停止する場合と比べて、拡散層の状態が定常状態から外れる度合いが低減される。このようにすることで、モータ30の回転数を測定モードで動作する場合の回転数に戻すときに作用極23の表面近傍の拡散層の状態が定常状態に戻るまでにかかる時間が短くなる。したがって、測定装置1は、スタンバイモードで動作する場合に、モータ30の回転数の絶対値をゼロにせずに測定モードで動作する場合の回転数の絶対値よりも小さくしておくことによって、測定モードでの動作に戻る時間を短縮できるとともに、部品の寿命を延長できる。
【0054】
<<モータ30の回転方向の変更>>
モータ30の回転方向が一定方向である場合、作用極23の表面は、顆粒部材44から一定方向の摩擦力を受け続けて、一定方向に引き延ばされる。ここで、本実施形態に係る測定装置1は、モータ30の回転方向を正方向と逆方向とで交互に変更してよい。モータ30の回転方向が交互に変更されることによって、作用極23の表面が受ける摩擦力の方向が交互に変化する。そうすると、作用極23の表面は、一方向だけに引き延ばされなくなる。また、作用極23の表面は、一方向に引き延ばされても逆方向に引き戻され得る。このようにすることで、作用極23の表面積が変化しにくくなる。その結果、拡散電流の大きさが安定する。また、作用極23が剥がれにくくなる。その結果、第1電極21の寿命が長くなる。
【0055】
<清掃モード>
測定装置1は、サンプル水によって汚れることがある。第1電極21及び第2電極22に付着する汚れは、塩素濃度の検出精度に影響を及ぼす。また、第1電極21は、顆粒部材44との接触によって汚れにくくなっているものの、ある程度汚れてくる。したがって、測定装置1の管理者は、第1電極21等を適宜清掃する必要がある。本実施形態に係る測定装置1は、第1電極21等を清掃する清掃モードで動作してよい。制御部10は、清掃モードで動作する場合、第1電極21及び第2電極22を測定槽40から引き上げた状態でモータ30を駆動して第1電極21を回転させる。第1電極21が回転している状態でブラシ又は布等の清掃器具を第1電極21に押し当てることで、第1電極21の清掃が省力化され得る。
【0056】
制御部10は、清掃モードで動作する場合のモータ30の回転数が測定モードで動作する場合の回転数と異なるようにモータ30を制御してもよい。このようにすることで、清掃に適した回転数でモータ30の回転が制御され得る。その結果、第1電極21の表面の汚れが効率的に落とされ得る。
【0057】
また、制御部10は、清掃モードで動作する場合、モータ30の回転方向を正方向と逆方向とで交互に切り替えてもよい。このようにすることで、清掃器具を第1電極21に押し当てるだけで、第1電極21に付着した汚れを往復運動でこすり落とすことが容易になる。その結果、第1電極21の表面の汚れが効率的に落とされ得る。モータ30の回転方向について、制御部10は、測定モード又は清掃モードの少なくとも一方のモードで動作する場合、モータ30の回転数を正の値と負の値とに交互に変更するように、モータ30の回転を制御してよい。
【0058】
<慣らしモード>
測定装置1において第1電極21の表面に接触するセラミックビーズ又はガラスビーズ等の顆粒部材44は、第1電極21との摩擦によって摩耗する。つまり、顆粒部材44は、消耗品として適宜交換される。
【0059】
ここで、交換したばかりの新品の顆粒部材44は、極端に例えると金平糖状のごく微小な突起を表面に有する。顆粒部材44の表面の突起は、第1電極21が回転して顆粒部材44との摩擦が続くほど減少する。その結果、顆粒部材44の表面はなめらかになっていく。
【0060】
顆粒部材44の表面状態、又は、第1電極21と顆粒部材44との摩擦の状態若しくは顆粒部材44同士の摩擦の状態は、交換した後の稼働初期に比較的大きく変化し、ある程度稼働すると安定する傾向にある。これらの状態が安定するほど、拡散電流の大きさ、及び、サンプル水の中の塩素濃度の算出結果が安定する。逆に言えば、顆粒部材44の表面状態又は摩擦の状態が安定するまで、サンプル水の中の塩素濃度の算出結果がドリフトし得る。
【0061】
そこで、本実施形態に係る測定装置1は、顆粒部材44の交換直後において、慣らしモードで動作する。制御部10は、慣らしモードで動作する場合、モータ30の回転数を、測定モードで動作する場合の回転数よりも高くする。顆粒部材44の表面状態又は摩擦の状態は、第1電極21の回転回数が増えるほど安定する。したがって、モータ30の回転数を高くすることによって、状態が安定するまでの時間が短縮される。
【0062】
<環境に応じた回転数の設定>
測定装置1は、例えば、第1電極21に付着し得る汚れ成分がサンプル水の中にあまり含まれていない環境等の、第1電極21に汚れが付着しにくい環境において動作することがある。このような環境において、測定装置1は、第1電極21に付着する汚れの除去を考慮せずにモータ30の回転数を設定できる。そうすると、測定装置1は、モータ30の回転数を低くすることができる。モータ30の回転数を低くして第1電極21の回転数を低くすることで、第1電極21の変形若しくは摩耗、又は、スリップリング25の摩耗が進行しにくくなる。その結果、各部品の寿命が延長される。
【0063】
<感度調整>
作用極23に流れる拡散電流の大きさは、同じ塩素濃度のサンプル水であっても、作用極23の個体差によって異なることがある。拡散電流が作用極23の個体差によって異なることは、感度の違いを生じさせ得る。そこで、測定装置1は、校正によって、機器毎に感度を補正してよい。校正作業は、異なる作用極23に交換したタイミング毎に実施されてよい。仮に校正作業が誤った操作で実施された場合、測定装置1の測定値が異常となったり、大きい誤差を有したりし得る。
【0064】
ここで、上述したように、モータ30の回転数が高いほど、塩素濃度の検出感度が高くなる。制御部10は、モータ30の回転数を変化させることによって、拡散電流の大きさを補償し、測定装置1の感度の個体差を低減して感度を一定にしたり安定化させたりできる。具体的には、制御部10は、既知の塩素濃度を有する標準サンプル水について電流を測定して塩素濃度を算出し、算出結果が既知の塩素濃度に一致するように、モータ30の回転数を設定する。測定装置1は、この回転数の設定の違いを、生産時の1台の代表機器で記憶し、第1電極21に固有の値として値付けする。測定装置1は、電極にIDチップを搭載して、設定値を記憶させてもよい。値付けされた第1電極21は、別の残留塩素計に取り付けた場合にも、設定された回転数で動作する限り、同じ感度で測定することが可能となる。電極交換時の感度差を低減し、校正作業を簡易にすることで、誤った校正による誤差が低減され得る。
【0065】
(まとめ)
以上述べてきたように、本実施形態に係る測定装置1は、第1電極21を回転させるモータ30の回転数を可変とすることによって、種々の動作モードを実現できる。このようにすることで、部品の寿命の延長、塩素濃度の検出感度の設定、及び、塩素濃度の算出結果の誤差の低減等が実現される。その結果、測定装置1の利便性が向上する。
【0066】
(他の実施形態)
以上説明してきた本実施形態に係る測定装置1は、サンプル水の特性として、サンプル水の中の塩素濃度を測定する。測定装置1は、サンプル水の中の塩素濃度を、遊離塩素濃度と結合塩素濃度とを区別して測定できるように構成されてもよい。また、測定装置1は、サンプル水の特性として、サンプル水の中の塩素濃度に限られず、例えば、サンプル水の中の金属イオン濃度を測定するように構成され得る。つまり、測定装置1は、金属イオン濃度計として構成され得る。測定装置1が金属イオン濃度計として構成される場合、顆粒部材44が用いられてもよいし用いられなくてもよい。また、測定装置1は、サンプル水の中の臭素濃度を測定する臭素計としても構成され得る。また、測定装置1は、サンプル水の中のヨウ素濃度を測定するヨウ素計としても構成され得る。
【0067】
第1電極21は、中心軸を有する円盤状に形成されていてもよい。この場合、モータ30は、第1電極21が中心軸の周りに回転するように、第1電極21に接続される。
【0068】
本実施形態に係る測定装置1の測定部は、第1電極21と第2電極22とを有するとして説明されてきた。測定部は、第3電極を更に有してもよい。第3電極は、第1電極21と第2電極22とに電圧を印加する場合の基準となる電位を定める。第3電極は、サンプル水に流れる電流には関与しない。測定部が第3電極を有することによって、第2電極22が溶出しにくくなる。
【0069】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1:測定装置、10:制御部、20:電源、21:第1電極、21A:回転軸、22:第2電極、23:作用極、24:ブラシ、25:スリップリング、26:電流計、30:モータ、40:測定槽、41:第1電極収容部、42:第2電極収容部、43:通路、44:顆粒部材