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特許7302601α位にブチリルオキシ基又はピバロイルオキシ基を有するイソ酪酸エステル化合物及び香料組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】α位にブチリルオキシ基又はピバロイルオキシ基を有するイソ酪酸エステル化合物及び香料組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/24 20060101AFI20230627BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20230627BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20230627BHJP
   C07C 69/22 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
C07C69/24 CSP
C11B9/00 S
A61K8/37
A61Q13/00 101
C07C69/22
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020527577
(86)(22)【出願日】2019-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2019025392
(87)【国際公開番号】W WO2020004464
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2018121102
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018222711
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
(72)【発明者】
【氏名】▲櫛▼田 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】横堀 海
(72)【発明者】
【氏名】木村 杏子
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-524437(JP,A)
【文献】特表2016-528332(JP,A)
【文献】米国特許第3368943(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C11B
A61K
A61Q
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物。
【化1】

(式(1)中、Xはイソプロピル基又はt-ブチル基を示し、Rは炭素数1~5の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。ただし、Xがイソプロピル基で、Rがt-ブチル基であるものを除く。)
【請求項2】
式(1)中、Rがメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、3-メチルブタン-2-イル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(1)中、Xがイソプロピル基である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがメチル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがエチル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがノルマルプロピル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがイソプロピル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがノルマルブチル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがイソブチル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項10】
式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがセカンダリーブチル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項11】
式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rが3-メチルブタン-2-イル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項12】
式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがシクロペンチル基である、請求項1~3のいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
式(1)中、Xがt-ブチル基である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項14】
式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがメチル基である、請求項1、2、13のいずれかに記載の化合物。
【請求項15】
式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがエチル基である、請求項1、2、13のいずれかに記載の化合物。
【請求項16】
式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがノルマルプロピル基である、請求項1、2、13のいずれかに記載の化合物。
【請求項17】
式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがイソプロピル基である、請求項1、2、13のいずれかに記載の化合物。
【請求項18】
式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがノルマルブチル基である、請求項1、2、13のいずれかに記載の化合物。
【請求項19】
式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがイソブチル基である、請求項1、2、13のいずれかに記載の化合物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有する香料組成物。
【請求項21】
請求項1~19のいずれかに記載の化合物の香料としての使用。
【請求項22】
請求項4、5、6、7、11、14、15、17のいずれかに記載の化合物がダマスコン様のフルーティ調、フローラル調、又はウッディ調の香りを付与する、請求項21に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α位にブチリルオキシ基又はピバロイルオキシ基を有するイソ酪酸エステル化合物及び香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イソ酪酸エステルには香料として有用な化合物があることが知られている。例えば、非特許文献1には各種のイソ酪酸エステルが主としてフレーバーとして用いられており、具体的にはイソ酪酸メチルが甘いアプリコット様、イソ酪酸プロピルが重いパイナップル様、イソ酪酸ブチルが新鮮なリンゴ及びバナナ様、イソ酪酸イソアミルが甘いアプリコット及びパイナップル様といった、いずれもフルーツ香のフレーバー素材であることの記載がある。
また、特許文献1にはα位に酸素との結合を持つイソ酪酸エステルとして、α-アルコキシイソ酪酸の直鎖又は分岐した炭素数4~12のアルキルエステルが香料として有用であることが開示されており、α-エトキシイソ酪酸ノルマルヘキシルがラベンダー様の香気を持つと記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第3,368,943号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】「合成香料 化学と商品知識 増補新版」、化学工業日報社、2016年、580~582ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、香料及び調合香料素材として有用なα位にブチリルオキシ基又はピバロイルオキシ基を有するイソ酪酸エステル化合物を提供することである。更に本発明が解決しようとする別の課題は、前記化合物を有効成分として含有する香料組成物、及び該化合物の香料としての使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の化合物を合成し、その香気について鋭意検討したところ、α位にイソブチリルオキシ基、又はピバロイルオキシ基を有するイソ酪酸の特定のエステル化合物が香料及び調合香料素材として有用であることを見出した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0007】
<1> 式(1)で表される化合物。
【化1】

(式(1)中、Xはイソプロピル基又はt-ブチル基を示し、Rは炭素数1~5の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。ただし、Xがイソプロピル基で、Rがt-ブチル基であるものを除く。)
【0008】
<2> 式(1)中、Rがメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、3-メチルブタン-2-イル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択される、<1>に記載の化合物。
<3> 式(1)中、Xがイソプロピル基である、<1>又は<2>に記載の化合物。
<4> 式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがメチル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の化合物。
<5> 式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがエチル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の化合物。
<6> 式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがノルマルプロピル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の化合物。
<7> 式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがイソプロピル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の化合物。
<8> 式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがノルマルブチル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の化合物。
<9> 式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがイソブチル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の化合物。
<10> 式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがセカンダリーブチル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の化合物。
<11> 式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rが3-メチルブタン-2-イル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の化合物。
<12> 式(1)中、Xがイソプロピル基であり、Rがシクロペンチル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の化合物。
<13> 式(1)中、Xがt-ブチル基である、<1>又は<2>に記載の化合物。
<14> 式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがメチル基である、<1>、<2>、<13>のいずれかに記載の化合物。
<15> 式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがエチル基である、<1>、<2>、<13>のいずれかに記載の化合物。
<16> 式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがノルマルプロピル基である、<1>、<2>、<13>のいずれかに記載の化合物。
<17> 式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがイソプロピル基である、<1>、<2>、<13>のいずれかに記載の化合物。
<18> 式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがノルマルブチル基である、<1>、<2>、<13>のいずれかに記載の化合物。
<19> 式(1)中、Xがt-ブチル基であり、Rがイソブチル基である、<1>、<2>、<13>のいずれかに記載の化合物。
<20> <1>~<19>のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有する香料組成物。
<21> <1>~<19>のいずれかに記載の化合物の香料としての使用。
<22> <4>、<5>、<6>、<7>、<11>、<14>、<15>、<17>のいずれかに記載の化合物がダマスコン様のフルーティ調、フローラル調、又はウッディ調の香りを付与する、<21>に記載の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、香料及び調合香料素材として有用なα位にブチリルオキシ基又はピバロイルオキシ基を有するイソ酪酸エステル化合物を提供することができる。更に本発明によれば、前記化合物を有効成分として含有する香料組成物、及び該化合物の香料としての使用を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[式(1)で表される化合物]
本発明の化合物は、下記式(1)で表される。以下、下記式(1)で表される化合物を、「本発明のイソ酪酸エステル」又は「本発明の化合物」ともいう。
【化2】
【0011】
ここで、式(1)中、Xはイソプロピル基又はt-ブチル基(ターシャリーブチル基)を示し、Rは炭素数1~5の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。ただし、Xがイソプロピル基で、Rがt-ブチル基であるものを除く。
Rの例としては具体的にはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基(2-メチルプロピル基)、セカンダリーブチル基(1-メチルプロピル基)、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、2-メチルブタン-2-イル基、1-エチルプロピル基(3-ペンチル基)、3-メチルブタン-2-イル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
Rが不斉炭素を有する場合には、本発明の化合物は、それによって生じる光学異性体のいずれか1つのみを有していてもよく、また、複数の光学異性体を任意の割合で含む混合物であってもよい。
【0012】
式(1)で表される化合物は、新規化合物である。
式(1)で表される本発明のイソ酪酸エステルは、香料及び調合香料素材として有用であり、ミント様の香気を持ち、それに加えてエステル部位のアルキル基の違いによってウッディ調、フローラル調、グリーン調などの香気も同時に示す。
好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rがメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、3-メチルブタン-2-イル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択される化合物である。また、好ましくは、Xがt-ブチル基であり、Rがメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、及びイソブチル基よりなる群から選択される化合物である。
特に好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rがメチル基である。
特に好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rがエチル基である。
特に好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rがノルマルプロピル基である。
特に好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rがイソプロピル基である。
特に好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rがノルマルブチル基である。
特に好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rがイソブチル基である。
特に好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rがセカンダリーブチル基である。
特に好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rが3-メチルブタン-2-イル基である。
特に好ましくは、Xがイソプロピル基であり、Rがシクロペンチル基である。
特に好ましくは、Xがt-ブチル基であり、Rがメチル基である。
特に好ましくは、Xがt-ブチル基であり、Rがエチル基である。
特に好ましくは、Xがt-ブチル基であり、Rがノルマルプロピル基である。
特に好ましくは、Xがt-ブチル基であり、Rがイソプロピル基である。
特に好ましくは、Xがt-ブチル基であり、Rがノルマルブチル基である。
特に好ましくは、Xがt-ブチル基であり、Rがイソブチル基である。
【0013】
本発明において、Xがイソプロピル基である化合物として、以下の式(1-1)~(1-18)のいずれかで表される化合物が例示され、特に好ましい化合物は、以下の式(1-1)~(1-8)、(1-17)のいずれかで表される化合物である。
また、本発明において、Xがt-ブチル基である化合物として、以下の式(2-1)~(2-19)のいずれかで表される化合物が例示され、特に好ましい化合物は、以下の式(2-1)~(2-6)のいずれかで表される化合物である。
【0014】
【化3】
【0015】
【化4】
【0016】
近年、化学物質の毒性や環境への影響が極めて重視される傾向にあり、それは香料や香料組成物についても例外ではない。人体への感作性や環境への蓄積性などを理由に従来用いられてきた香料の使用条件が厳しく制限されたり、使用禁止になるケースが増える傾向にある。そのために環境負荷の少ない香料及び香料組成物が今まで以上に強く求められる状況にある。従って、調合香料素材としても、生分解性に優れることが好ましい。
本発明の化合物は、生分解性に優れる化合物を含み、生分解性の観点からは、Rは、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、3-メチルブタン-2-イル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択された基であることが好ましい。また、同様の観点から、Rは、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択された基であることが好ましい。
【0017】
本発明のイソ酪酸エステルは、それ自体が後述するように優れた香気を有することから、香料として有用である。また、香料は、一般に単品で使用されることは少なく、複数の香料を目的に合わせて配合した調合香料(香料組成物)として使用することが多い。本発明のイソ酪酸エステルは、調合香料(香料組成物)に配合される香料(「調合香料素材」ともいう。)として有用である。香料として、上記式(1)で表される化合物を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、本発明の化合物が、本発明の効果を損なわない範囲で、少量の不純物、副生成物、夾雑物などを含むことを排除するものではない。
式(1)で表される本発明のイソ酪酸エステルは、ミント様の香気を持つと共にウッディ調、フローラル調、グリーン調などの香気を有し、かつ拡散性にも優れる。また、式(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)、(1-17)、(2-1)、(2-2)、(2-4)のいずれかで表される本発明のイソ酪酸エステルは、ダマスコン様のフルーティ調、フローラル調、又はウッディ調の香気を有し、かつ拡散性にも優れる。
本発明のイソ酪酸エステルを単独で香料として各種香粧品類、保健衛生材料をはじめとして医薬品、日用雑貨品、食品などに添加使用することにより香気を付与してもよく、また、本発明のイソ酪酸エステルを他の調合香料素材等と混合して、後述する香料組成物(調合香料)を調製し、これを各種の製品に配合して香気を付与してもよい。これらの中でも、目的とする香気を得る観点から、本発明の化合物を調合香料素材として香料組成物に配合して、該香料組成物を製品に配合することで賦香することが好ましい。
【0018】
[香料組成物]
本発明の香料組成物(調合香料)は、本発明のイソ酪酸エステルを有効成分として含有する。なお、本発明のイソ酪酸エステルを少なくとも1種以上含有すれば特に限定されず、2種以上の本発明のイソ酪酸エステルを含有してもよい。
本発明の香料組成物は、本発明のイソ酪酸エステルを有効成分として含有していればよく、その他の成分については特に限定されないが、他の調合香料素材(以下、「従来香料」ともいう。)を更に含有することが好ましい。
なお、「香料組成物(調合香料)」とは、該香料組成物を各種香粧品類、医薬品、食品、飲料等に添加することで、香気を付与する組成物、又はそれ自体として香水等に使用される組成物であり、従来香料に加え、必要に応じて、溶媒等の添加剤を含有してもよい。
本発明のイソ酪酸エステルの配合量は、本発明のイソ酪酸エステルの種類、目的とする香気の種類及び香気の強さ等により異なるが、式(1)で表される本発明のイソ酪酸エステルの量として香料組成物中に、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0019】
従来香料は、従来公知な香料成分であれば特に制限はなく、広い範囲の香料が使用でき、例えば下記のようなものから単独で又は2種以上を任意の混合比率で選択し、使用することができる。
例えば、リモネン、α-ピネン、β-ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等の炭化水素類;リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス-3-ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、β-フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルヘキサノール、2,2,6-トリメチルシクロヘキシル-3-ヘキサノール、1-(2-t-ブチルシクロヘキシルオキシ)-2-ブタノール、4-イソプロピルシクロヘキサンメタノール、4-t-ブチルシクロヘキサノール、4-メチル-2-(2-メチルプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、イソカンフィルシクロヘキサノール、3,7-ジメチル-7-メトキシオクタン-2-オール等のアルコール類;オイゲノール、チモール、バニリン等のフェノール類;リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート、n-ヘキシルアセテート、シス-3-ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、3-ペンチルテトラヒドロピラン-4-イルアセテート、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2-シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn-ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート、メチル2-ノネノエート、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、メチルサリシレート、n-ヘキシルサリシレート、シス-3-ヘキセニルサリシレート、ゲラニルチグレート、シス-3-ヘキセニルチグレート、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート、メチル-2,4-ジヒドロキシ-3,6-ジメチルベンゾエート、エチルメチルフェニルグリシデート、メチルアントラニレート、フルテート等のエステル類;n-オクタナール、n-デカナール、n-ドデカナール、2-メチルウンデカナール、10-ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、4(3)-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド、2-シクロヘキシルプロパナール、p-t-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-イソプロピル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-エチル-α,α-ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、ピペロナール、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等のアルデヒド類;メチルヘプテノン、4-メチレン-3,5,6,6-テトラメチル-2-ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3-メチル-2-(シス-2-ペンテン-1-イル)-2-シクロペンテン-1-オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、γ-メチルヨノン、α-ヨノン、カルボン、メントン、ショウ脳、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ-ナフチルケトン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、マルトール、7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン等のケトン類;アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールケタール類のアセタール類及びケタール類;アネトール、β-ナフチルメチルエーテル、β-ナフチルエチルエーテル、リモネンオキシド、ローズオキシド、1,8-シネオール、ラセミ体又は光学活性のドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト[2,1-b]フラン等のエーテル類;シトロネリルニトリル等のニトリル類;γ-ノナラクトン、γ-ウンデカラクトン、σ-デカラクトン、γ-ジャスモラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11-オキサヘキサデカノリド等のラクトン類;オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、サンダルウッド、ベチバー、パチョリ、ラブダナム等の天然精油や天然抽出物;合成香料等の他の香料物質等である。
【0020】
また、香料組成物は、調合香料素材以外の構成成分として、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテル等の界面活性剤;ジプロピレングリコール、ジエチルフタレート、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルミリステート、トリエチルシトレート等の溶媒;酸化防止剤;着色剤等も含んでいてもよい。
【0021】
式(1)で表される本発明のイソ酪酸エステルは、ミント様の香気を有すると共に、ウッディ調、フローラル調、グリーン調などの香気を有することから、従来香料と組み合わせることによりミント調と共に自然なウッディ調、フローラル調、グリーン調を付与できるため、各種香粧品類、保健衛生材料をはじめとして医薬品、日用雑貨品、食品などへの添加し、香気を付与するのに有用である。また、式(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)、(1-17)、(2-1)、(2-2)、(2-4)のいずれかで表される本発明のイソ酪酸エステルは、ダマスコン様のフルーティ調、フローラル調、又はウッディ調の香気を有することから、従来香料と組み合わせるなどして、香気を付与するのに有用である。
【0022】
式(1)で表される本発明のイソ酪酸エステルを含有する香料組成物を、香気付与のため、及び配合対象物の香気の改良を行うために添加できるものとしては香粧品類、健康衛生材料、雑貨、飲料、食品、医薬部外品、医薬品等の各種製品を挙げることができ、例えば、香水、コロン類等のフレグランス製品;シャンプー、リンス類、ヘアートニック、ヘアークリーム類、ムース、ジェル、ポマード、スプレーその他毛髪用化粧料;化粧水、美容液、クリーム、乳液、パック、ファンデーション、おしろい、口紅、各種メークアップ類等の肌用化粧料;皿洗い洗剤、洗濯用洗剤、ソフトナー類、消毒用洗剤類、消臭洗剤類、室内芳香剤、ファニチャーケア、ガラスクリーナー、家具クリーナー、床クリーナー、消毒剤、殺虫剤、漂白剤、殺菌剤、忌避剤、その他の各種健康衛生用洗剤類;歯磨、マウスウォッシュ、入浴剤、制汗製品、パーマ液等の医薬部外品;トイレットペーパー、ティッシュペーパー等の雑貨;医薬品等;食品等の香気成分として使用することができる。
【0023】
上記製品中の香料組成物の配合量は特に限定されず、賦香すべき製品の種類、性質及び官能的効果などに応じて、香料組成物の配合量は広い範囲に渡って選択することができる。例えば、0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上、更に好ましくは0.001質量%以上であり、例えば香水等のフレグランスの場合には100質量%であってもよく、好ましくは80質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは40質量%以下である。
【0024】
[本発明のイソ酪酸エステルの製造方法]
式(1)で表される本発明のイソ酪酸エステルの製造方法に特に制限はなく、従来公知の方法から適宜選択して用いればよい。
例えば、α-ヒドロキシイソ酪酸エステルを触媒の存在下、又は不在下にアシル化剤と反応させることによってα位の水酸基をアシル化する方法が挙げられる。使用するアシル化剤としてはイソ酪酸、ピバリン酸のようなカルボン酸や、無水イソ酪酸、無水ピバリン酸のようなカルボン酸無水物や、イソブチリルクロライド、イソブチリルブロマイド、ピバロイルクロライド、ピバロイルブロマイドのようなカルボン酸ハロゲン化物や、ジメチルケテンのようなケテン化合物などが挙げられる。また、これらの中から選ばれる2つ以上のアシル化剤を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0025】
カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物を用いた場合の反応式を下記式(2)に示した。
【0026】
【化5】

式(2)中、Xはイソプロピル基又はt-ブチル基を示し、Rは炭素数1~5の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。Yはアシル化剤の種類によって異なり、例えば水酸基、イソブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、塩素、臭素、ヨウ素などを表す。
【0027】
ケテンを用いた場合の反応式を下記式(3)に示した。
【0028】
【化6】

式(3)中、Rは炭素数1~5の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。
【0029】
また、別種のα-ブチリルオキシイソ酪酸エステル又はα-ピバロイルオキシイソ酪酸エステルとアルコールを触媒の存在下にエステル交換反応させることによって、目的のα-ブチリルオキシイソ酪酸エステル又はα-ピバロイルオキシイソ酪酸エステルを製造することができる。この反応の反応式を下記式(4)に示した。
【0030】
【化7】

式(4)中、Xはイソプロピル基又はt-ブチル基を示し、Rは炭素数1~5の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。R’はRと異なるアルキル基であれば特に制限はない。
【0031】
同様にα-ブチリルオキシイソ酪酸又はα-ピバロイルオキシイソ酪酸とアルコールを触媒の存在下にエステル化反応させることによって、目的のα-ブチリルオキシイソ酪酸エステル又はα-ピバロイルオキシイソ酪酸エステルを製造することができる。この反応の反応式を下記式(5)に示した。
【0032】
【化8】

式(5)中、Xはイソプロピル基又はt-ブチル基を示し、Rは炭素数1~5の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を示す。
【0033】
これらの反応に用いられる触媒や反応方式、反応条件、及び反応装置などについても、従来公知な触媒、反応方法、反応条件、及び反応装置を用いることができ、特に制限はない。また、得られた式(1)の化合物を精製する方法についても、従来公知な精製方法を採用することができ、何ら制限はない。
【実施例
【0034】
以下に、実施例を以って本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
反応成績の評価は下記の式によって評価した。
反応収率(%)=[(反応液中の生成エステルのモル数)/(仕込液中の原料エステルのモル数)]×100%
【0036】
<ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)>
装置:GC-2010((株)島津製作所製、製品名)
検出器:FID
カラム:DB-1(J&W製キャピラリーカラム、製品名)(0.25mmφ×60m×0.25μm)
【0037】
<NMRスペクトル分析>
エステルの同定は1H-NMR測定及び13C-NMR測定によって行った。測定条件を下記に示す。
装置:ECA500(日本電子(株)製、製品名)
1H-NMR〕
核種:1
測定周波数:500MHz
測定試料:5%CDCl3溶液
13C-NMR〕
核種:13
測定周波数:125MHz
測定試料:5%CDCl3溶液
【0038】
<ガスクロマトグラフ-質量分析(GC-MS分析)>
化合物の同定は、GC-MS測定(化学イオン化法[CI+]、高分解能質量分析[ミリマス])により分子量を特定することによっても行った。測定条件を下記に示す。
GC装置:Agilent 7890A(アジレント社製、商品名)
GC測定条件
カラム:DB-1(J&W製キャピラリーカラム、製品名)(0.25mmφ×30m×0.25μm)
MS装置:JMS-T100GCV(日本電子(株)製、製品名)
MS測定条件 化学イオン化法
検出器条件:200eV,300μA
試薬ガス:イソブタン
化学イオン化法によりプロトン化された状態で検出されたフラグメントのExact.Mass値と、それによって帰属された化学組成式を記載した。
【0039】
<クロマトグラフ法による生成物単離>
クロマトグラフ法による生成物単離には下記の材料を使用した。
充填剤:ワコーゲルC-200(和光純薬工業(株)製、商品名)
展開溶媒:酢酸エチル-ヘキサン
【0040】
<実施例1:α-イソブチリルオキシイソ酪酸メチルの合成>
冷却管、撹拌装置を備えた200mlガラス製丸底フラスコにα-ヒドロキシイソ酪酸メチル(三菱ガス化学(株)製)20.0g、無水イソ酪酸(和光純薬工業(株)製)32.1g、ピリジン(和光純薬工業(株)製)13.4g、4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業(株)製)2.1g、ジクロロメタン(和光純薬工業(株)製)31gを充填し、室温~40℃で6時間撹拌を行い、反応させた。反応液のGC分析から無水イソ酪酸との反応によりα-ヒドロキシイソ酪酸メチルが完全に消費され、下記式(6)の反応によりα-イソブチリルオキシイソ酪酸メチルが反応収率92%で得られたことを確認した。その後、10%炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、飽和塩化アンモニウム水溶液で2回、飽和塩化ナトリウム水溶液で2回の洗浄操作を行い、硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮した。引き続き、減圧蒸留を行い、81hPa、80℃の留分としてα-イソブチリルオキシイソ酪酸メチル15.3g(GC分析による純度(以下、GC純度ともいう。):99.9%)を得た。生成物のNMRスペクトル分析及びGC-MS分析の結果を以下に示した。
【0041】
〔α-イソブチリルオキシイソ酪酸メチル〕
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.16 (6H, d, J = 7.0Hz), 1.54 (6H, s), 2.54 (1H, sept, J = 7.0Hz), 3.72 (3H, s)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 18.7, 24.6, 33.9, 52.3, 77.7, 173.2, 176.1
Exact.Mass 189.12751(C9H16O4,親ピーク),157.08686(C8H12O3)
【0042】
【化9】
【0043】
<実施例2:α-ピバロイルオキシイソ酪酸メチルの合成>
実施例1と同様の反応装置を用い、α-ヒドロキシイソ酪酸メチル(三菱ガス化学(株)製)19.9g、無水ピバリン酸(和光純薬工業(株)製)37.8g、ピリジン(和光純薬工業(株)製)13.3g、4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業(株)製)2.1gを用いて室温~70℃で129時間反応を行った。反応液のGC分析から無水ピバリンとの反応によりα-ヒドロキシイソ酪酸メチルがほぼ消費され、下式(7)の反応によりα-ピバロイルオキシイソ酪酸メチルが得られたことを確認した。その後、実施例1と同様に操作を行い、最後にカラムクロマトグラフによってα-ピバロイルオキシイソ酪酸メチル(GC純度:99.6%)を得た。生成物のNMRスペクトル分析及びGC-MS分析の結果を下に示した。
【0044】
〔α-ピバロイルオキシイソ酪酸メチル〕
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.20 (9H, s), 1.54 (6H, s), 3.71 (3H, s)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 24.4, 26.9, 38.5, 52.2, 77.6, 173.2, 177.4
Exact.Mass 203.13468(C10H18O4,親ピーク),171.10112(C9H14O3)
【0045】
【化10】
【0046】
<参考例1:α-ヒドロキシイソ酪酸エチルの合成>
蒸留管を備えた300mlガラス製フラスコにα-ヒドロキシイソ酪酸メチル(三菱ガス化学(株)製)56.7g、エタノール(和光純薬工業(株)製)33.2g、チタンテトラエトキシド(和光純薬工業(株)製)0.92gを充填した。常圧下で加熱還流しながらエステル交換反応を行い、生成するメタノールを系外に抜き出しながら96時間反応を行った。その結果、反応収率97%でα-ヒドロキシイソ酪酸エチルが得られた。反応系に加水して触媒を失活させた後に減圧蒸留を行い、71mmHg、77℃の留分としてα-ヒドロキシイソ酪酸エチル46.9g(GC純度:99.6%)を得た。
【0047】
<参考例2~8:各種α-ヒドロキシイソ酪酸エステルの合成>
参考例1と同様の反応装置を用い、適量のα-ヒドロキシイソ酪酸メチル(三菱ガス化学(株)製)と各種アルコール(ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール)をチタンテトラアルコキシド及び/又はナトリウムアルコキシドのような適当な触媒の存在下、場合によってはヘキサン、トルエンのような溶媒共存下で、加熱しながら適当な反応条件下でエステル交換反応させた。反応によって生成するメタノールを反応条件下で蒸留又は反応溶媒との共沸によって系外へ抜出しながらエステル交換反応を完結し、参考例1と同様の分離操作を行い、以下のα-ヒドロキシイソ酪酸エステルをそれぞれ得た。得られたイソ酪酸エステルのGC純度を併記した。
α-ヒドロキシイソ酪酸ノルマルプロピル(GC純度:99.8%)
α-ヒドロキシイソ酪酸イソプロピル (GC純度:99.6%)
α-ヒドロキシイソ酪酸ノルマルブチル (GC純度:99.9%)
α-ヒドロキシイソ酪酸イソブチル (GC純度:99.6%)
α-ヒドロキシイソ酪酸セカンダリーブチル (GC純度:99.6%)
α-ヒドロキシイソ酪酸3-メチルブタン-2-イル(GC純度:99.7%)
α-ヒドロキシイソ酪酸シクロペンチル (GC純度:99.8%)
【0048】
<実施例3:α-イソブチリルオキシイソ酪酸エチルの合成>
実施例1と同様の反応装置を用い、参考例1で調製したα-ヒドロキシイソ酪酸エチル、無水イソ酪酸(和光純薬工業(株)製)、ピリジン(和光純薬工業(株)製)、4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業(株)製)を適量用いて反応を行った。実施例1と同様に操作して、減圧蒸留により20hPa、90℃の留分としてα-イソブチリルオキシイソ酪酸エチル(GC純度:99.6%)を得た。生成物のNMRスペクトル分析及びGC-MS分析の結果を下に示した。
【0049】
〔α-イソブチリルオキシイソ酪酸エチル〕
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.16 (6H, d, J = 7.0Hz), 1.25 (3H, t, J = 7.0Hz), 1.54 (6H, s), 2.54 (1H, sept, J = 7.0 Hz), 4.17 (2H, q, J = 7.0 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 14.0, 18.7, 24.5, 33.8, 61.1, 77.7, 172.6, 175.9
Exact.Mass 203.13228(C10H18O4,親ピーク),157.08761(C8H12O3)
【0050】
<実施例4~10:α-イソブチリルオキシイソ酪酸エステルの合成>
実施例3と同様の反応装置を用い、参考例2~8で調製したα-ヒドロキシイソ酪酸エステル、無水イソ酪酸(和光純薬工業(株)製)、ピリジン(和光純薬工業(株)製)、4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業(株)製)を適量用いて反応を行った。実施例1と同様に操作して、減圧蒸留により下記のα-イソブチリルオキシイソ酪酸エステル類をそれぞれ得た。得られたエステルのGC純度、減圧蒸留時の留出条件、及びNMRスペクトル分析及びGC-MS分析の結果を併記した。
【0051】
〔α-イソブチリルオキシイソ酪酸ノルマルプロピル〕
GC純度:98.0%、留出条件:20hPa、105-106℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.94 (3H, t, J = 7.0Hz), 1.16 (6H, d, J = 7.0Hz), 1.55 (6H, s), 1.65 (2H, m), 2.54 (1H, sept, J = 7.0 Hz), 4.07 (2H, t, J = 6.5 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 10.3, 18.7, 21.8, 24.6, 33.9, 66.7, 77.8, 172.7, 175.9
Exact.Mass 217.14767(C11H20O4,親ピーク),157.08780(C8H12O3)
【0052】
〔α-イソブチリルオキシイソ酪酸イソプロピル〕
GC純度:99.7%、留出条件:18hPa、91-92℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.16 (6H, d, J = 7.0Hz), 1.22 (6H, d, J = 6.0Hz), 1.53 (6H, s), 2.53 (1H, sept, J = 7.0 Hz), 5.03 (1H, sept, J = 7.0 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 18.8, 21.6, 24.5, 33.9, 68.5, 77.8, 172.1, 175.8
Exact.Mass 217.14808(C11H20O4,親ピーク),157.08808(C8H12O3)
【0053】
〔α-イソブチリルオキシイソ酪酸ノルマルブチル〕
GC純度:99.7%、留出条件:18hPa、113℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.93 (3H, t, J = 7.0Hz), 1.16 (6H, d, J = 7.0Hz), 1.37 (2H, q, J = 7.0 Hz), 1.54 (6H, s), 1.60 (2H, m), 2.54 (1H, sept, J = 7.0 Hz), 4.11 (2H, t, J = 6.5 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 13.6, 18.7, 19.0, 24.6, 30.5, 33.9, 65.0, 77.8, 172.7, 175.9
Exact.Mass 231.16311(C12H22O4,親ピーク),157.08832(C8H12O3)
【0054】
〔α-イソブチリルオキシイソ酪酸イソブチル〕
GC純度:99.1%、留出条件:21hPa、111-112℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.93 (6H, d, J = 6.5Hz), 1.17 (6H, d, J = 7.0Hz), 1.55 (6H, s), 1.93 (1H, m, J = 6.5 Hz), 2.54 (1H, sept, J = 7.0 Hz), 3.90 (2H, d, J = 7.0 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 18.7, 19.0, 24.6, 27.6, 33.9, 71.2, 77.8, 172.7, 175.9
Exact.Mass 231.16636(C12H22O4,親ピーク),157.08929(C8H12O3)
【0055】
〔α-イソブチリルオキシイソ酪酸セカンダリーブチル〕
GC純度:99.9%
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.89 (3H, t, J = 7.5Hz), 1.16 (6H, d, J = 7.0Hz), 1.18 (3H, d, J = 6.0Hz), 1.51-1.63 (2H, m), 1.53 (3H, s), 1.54 (3H, s), 2.53 (1H, sep, J = 7.0Hz), 4.86 (1H, sext, J = 6.0Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 9.5, 18.7, 18.8, 19.1, 24.4, 24.6, 28.6, 33.8, 73.0, 77.8, 172.2, 175.8
Exact.Mass 231.16157(C12H22O4,親ピーク),175.10069(C8H14O4)
【0056】
〔α-イソブチリルオキシイソ酪酸3-メチルブタン-2-イル〕
GC純度:98.7%
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.906 (6H, d, J=6.5Hz), 1.144 (3H, d, J=6.0Hz), 1.161 (3H, d, J=7.5Hz), 1.167 (3H, d, J=7.0Hz), 1.550 (3H, s), 1.532 (3H, s), 1.785 (1H, sept-d, J=6.75Hz, 5.5Hz), 2.534 (1H, sept, J=7.0Hz), 4.762 (1H, qd, J=6.0Hz, 6.0Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 16.43, 17.97, 18.18, 18.87, 19.00, 24.48, 24.97, 32.71, 34.03, 76.17, 78.08, 172.34, 175.89
Exact.Mass 245.17754(C13H24O4,親ピーク),175.10033(C8H14O4)
【0057】
〔α-イソブチリルオキシイソ酪酸シクロペンチル〕
GC純度:99.5%、留出条件:12hPa、121℃
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.16 (6H, d, J = 7.0Hz), 1.52 (6H, s), 1.58 (2H, m), 1.69 (2H, m), 1.71 (2H, m), 1.82 (2H, m), 2.53 (1H, sept, J = 7.0 Hz), 5.19 (1H, m)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 18.7, 23.6, 24.4, 32.3, 33.8, 77.8, 77.9, 172.3, 175.7
Exact.Mass 243.16211(C13H22O4,親ピーク),175.10145(C8H14O4)
【0058】
<実施例11~15:α-ピバロイルオキシイソ酪酸エステルの合成>
実施例4~10と同様の反応装置を用い、参考例1~5で調製したα-ヒドロキシイソ酪酸エステル、無水ピバリン酸(和光純薬工業(株)製)、ピリジン(和光純薬工業(株)製)、4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業(株)製)を適量用いて反応を行った。実施例1と同様に操作して、最後にカラムクロマトグラフによって下記のα-ピバロイルオキシイソ酪酸エステル類をそれぞれ得た。得られたエステルのGC純度、及びNMRスペクトル分析及びGC-MS分析の結果を下に示した。
【0059】
〔α-ピバロイルオキシイソ酪酸エチル〕
GC純度:99.9%
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.20 (9H, s), 1.24 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.53 (6H, s), 4.16 (q, 2H, J = 7.0 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 14.0, 24.5, 26.9, 38.5, 61.1, 77.7, 172.7, 177.3
Exact.Mass 217.14615(C11H20O4,親ピーク),171.10231(C9H14O3)
【0060】
〔α-ピバロイルオキシイソ酪酸ノルマルプロピル〕
GC純度:99.2%
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.94 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.20 (9H, s), 1.54 (6H, s), 1.62-1.66 (2H, m), 4.07 (2H, t, J = 6.5 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 10.3, 21.9, 24.5, 26.9, 38.6, 66.7, 77.7, 172.8, 177.3
Exact.Mass 231.16132(C12H22O4,親ピーク),171.10264(C9H14O3)
【0061】
〔α-ピバロイルオキシイソ酪酸イソプロピル〕
GC純度:99.9%
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 1.20 (9H, s), 1.21 (6H, d, J = 6.0 Hz), 1.52 (6H, s), 5.02 (1H, sept, J = 6.0 Hz )
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 21.6, 24.4, 26.9, 38.5, 68.4, 77.7, 172.1, 177.1
Exact.Mass 231.16334(C12H22O4,親ピーク),171.10296(C9H14O3)
【0062】
〔α-ピバロイルオキシイソ酪酸ノルマルブチル〕
GC純度:99.8%
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.93 (3H, t, J = 7.5 Hz), 1.20 (9H, s), 1.37 (2H, q, J = 7.0 Hz), 1.53 (6H, s), 1.60 (2H, quint, J = 7.0 Hz), 4.11 (2H, t, J = 7.0 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 13.6, 19.0, 24.5, 26.9, 30.4, 38.5, 64.9, 77.7, 172.8, 177.2
Exact.Mass 245.17783(C13H24O4,親ピーク),171.10388(C9H14O3)
【0063】
〔α-ピバロイルオキシイソ酪酸イソブチル〕
GC純度:99.2%
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 0.93 (6H, d, J = 6.5 Hz), 1.20 (9H, s), 1.54 (6H, s), 1.93 (1H, m, J = 6.5 Hz), 3.89 (2H, d, J = 6.5 Hz)
13C NMR (125 MHz, CDCl3) δ 19.0, 24.5, 26.9, 27.6, 38.5, 71.1, 77.7, 172.7, 177.2
Exact.Mass 245.17768(C13H24O4,親ピーク),171.10419(C9H14O3)
【0064】
上記の方法によって得た各種α-イソブチリルオキシイソ酪酸エステルにつき、調香師により香気評価を行った結果を表1に示した。
【0065】
【表1】
【0066】
上記の方法によって得た各種α-ピバロイルオキシイソ酪酸エステルにつき、調香師により香気評価を行った結果を表2に示した。
【0067】
【表2】
【0068】
<香料材料の生分解性評価>
化合物の生分解性の評価方法の一つにOECDテストガイドライン301Cがあり、化合物と好気性微生物の共存する水溶液中における生化学的酸素要求量と実際の酸素消費速度から化合物の生分解性の良否を判断することができる。
この試験方法に準じた化合物の生分解する確率を、被験物質の化学構造から容易、かつ、精度よく推算する方法として「Biowin5」、「Biowin6」という計算ソフトウェアが知られている。
該ソフトウェアはアメリカ合衆国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency, EPA)が化学物質の環境への影響を評価する目的で作成した「The Estimations Programs Interface for Windows version 4.1」という計算ソフトウェアのモジュールの1つとして公共に配布されており、Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals(GHS)の化合物分類やアメリカ合衆国環境保護庁の新規化学物質審査において利用されている。このソフトウェアを用いて、既存の香料材料と本発明の化合物の生分解性の違いを評価した。
【0069】
本発明の化合物に類似する既存の香料材料の代表例としてミントの香調を持つメントール、メントン、カルボン、及びフルーティの香調を持つ(E)-α-ダマスコン、(E)-β-ダマセノンを選択し、本発明の化合物と共に評価を行った。ソフトウェアへの入力に用いたSMILES式と「Biowin5(線形予測モデル)」、「Biowin6(非線形予測モデル)」による良分解性の確率の出力結果を表3~表4に示した。結果の数字は大きい程、良分解性を示し、0.5以上で良分解性(表中、記号“A”)、0.5未満で難分解性(表中、記号“B”)と判定される。
表3~表4から類似する既存の香料材料であるメントール、メントン、カルボン、(E)-α-ダマスコン、(E)-β-ダマセノンに対して、本発明の化合物は良好な生分解性が期待できる結果が得られた。本発明の化合物は香料として環境に放出された後に容易に生分解することにより、より環境への負荷が少ない傾向を示した。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
<実施例16:ウッディタイプの香料組成物>
表5に示す組成を持つ香料組成物54.1質量部に、実施例3で得られたα-イソブチリルオキシイソ酪酸エチル45.9質量部を加えた香料組成物を調合した。
調香師による香気評価により、表5に記載した組成を持つ香料組成物に実施例3のα-イソブチリルオキシイソ酪酸エチルを添加することにより、華やかさが加わりフローラルの甘さが強調され、まとまりがでた。その結果、爽やかなミント様グリーンなニュアンス、フルーティなローズ様フローラル及び、ビターなウッディさが付与された、華やかでエレガントなフローラルでウッディな香気の香料組成物が得られた。
この香料組成物の香気は男性用洗顔フォーム、アフターシェーブローション、ヘアムースなどへの賦香に適すると思われる。
【0073】
【表5】

*表中に括弧の記載がある配合成分は、ジプロピレングリコールで希釈した溶液として用いた。数字は、その溶液に含まれる香料の質量%を表す。
【0074】
<実施例17:ウッディタイプの香料組成物>
表6に示す組成を持つ香料組成物75.0質量部に、実施例1で得られたα-イソブチリルオキシイソ酪酸メチル25.0質量部を加えた香料組成物を調合した。
調香師による香気評価により、表6に記載した組成を持つ香料組成物に実施例1のα-イソブチリルオキシイソ酪酸メチルを添加することにより、香りが引き締まり、フローラルの甘さがスッキリしてまとまりがよくなった。その結果、ミント様、パチュリ様及び、ベチバー様のスモーキーなウッディさが付与された清涼感のある、フローラルでウッディな香気の香料組成物が得られた。
この香料組成物の香気はアフターシェーブローション、男性用スキンクリーム、石鹸などへの賦香に適すると思われる。
【0075】
【表6】

*表中に括弧の記載がある配合成分は、ジプロピレングリコールで希釈した溶液として用いた。数字は、その溶液に含まれる香料の質量%を表す。
【0076】
<実施例18:ウッディタイプの香料組成物>
表7に示す組成を持つ香料組成物79.6質量部に、実施例2で得られたα-ピバロイルオキシイソ酪酸メチル20.4質量部を加えた香料組成物を調合した。
調香師による香気評価により、表7に記載した組成を持つ香料組成物に実施例2のα-ピバロイルオキシイソ酪酸メチルを添加することにより、スパイシーさ及び、フローラルさが強調され、香りの幅、強さがアップした。その結果、ミント様の爽やかさ及び、スパイシーさ及び、フローラルな甘さが付与された、落ち着いた品の良いフローラルでウッディな香気の香料組成物が得られた。
この香料組成物の香気は石鹸、男性用整髪料、アフターシェーブローションなどへの賦香に適すると思われる。
【0077】
【表7】

*表中に括弧の記載がある配合成分は、ジプロピレングリコールで希釈した溶液として用いた。数字は、その溶液に含まれる香料の質量%を表す。
【0078】
<実施例19:ホワイトフローラルタイプの香料組成物>
表8に示す組成を持つ香料組成物85.0質量部に、実施例4で得られたα-イソブチリルオキシイソ酪酸ノルマルプロピル15.0質量部を加えた香料組成物を調合した。
調香師による香気評価により、表8に記載した組成を持つ香料組成物に実施例4のα-イソブチリルオキシイソ酪酸ノルマルプロピルを添加することにより、グリーンでフローラルな感じが強調され、まとまりがよくなり、香り全体の強さもアップした。その結果、ミント様の爽やかさ、柔らかいスパイシーさ及び、グリーンな感じのあるフローラルさが付与された、フレッシュ感のあるホワイトフローラルな香気の香料組成物が得られた。
この香料組成物の香気は化粧水、デオドラントスプレー、デオドラントシート、シャンプーなどへの賦香に適すると思われる。
【0079】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のα位にブチリルオキシ基又はピバロイルオキシ基を有するイソ酪酸エステル化合物は、優れた香気を有し、それ自体を香料として使用することが期待されると共に、該化合物を調合香料素材として使用することにより、香気性に優れた香料組成物が得られ、各種製品に配合することにより、所望の賦香性を発揮するものである。
更に、実施例で得られた化合物は、いずれも優れた生分解性を有し、環境への負荷が低いものであり、使用に適するものであることが示された。