(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】チェーン伸び検出装置、チェーン伸び検出方法および乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
B66B 23/02 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
B66B23/02 B
(21)【出願番号】P 2022504776
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008684
(87)【国際公開番号】W WO2021176515
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋丘 豊
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康太郎
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/96615(WO,A1)
【文献】特開2019-99314(JP,A)
【文献】特開2019-152514(JP,A)
【文献】特開2019-142664(JP,A)
【文献】特開2004-270941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力が伝達されることによって回転する駆動スプロケットと、
回転自在な回転軸に支持された従動スプロケットと、
前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットに巻き掛けられ、前記駆動スプロケットの動力を前記従動スプロケットに伝達するチェーンと、
を備えた伝達装置における前記チェーンの部分伸びを検出するチェーン部分伸び検出装置において、
前記駆動スプロケットまたは前記従動スプロケットと前記チェーンとが噛み合っている範囲における前記チェーンの噛合い高さを測定する噛合い高さ測定装置と、
前記噛合い高さ測定装置で取得された信号を用いて、前記チェーンにおける隣り合うローラの高さの差を求め、求めた前記高さの差から前記チェーンの部分伸びを推定し、前記チェーンに設けられた形状によって前記噛合い高さ測定装置で取得された信号に重畳される波形に基づいて、前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定する信号処理装置と、
を備え
、
前記信号処理装置は、前記チェーンの測定面に塗布された半固形状の材料の位置を検出し、当該半固形状の材料の位置を基準にして前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定するように構成されるチェーン部分伸び検出装置。
【請求項2】
前記信号処理装置は、部分伸びと認識した際に、部分伸びによる最も噛合い高さが高くなるローラとそのローラと隣接するローラの噛合い高さの差によって部分伸びの伸び率を推定する請求項
1に記載のチェーン部分伸び検出装置。
【請求項3】
駆動力が伝達されることによって回転する駆動スプロケットと、
回転自在な回転軸に支持された従動スプロケットと、
前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットに巻き掛けられ、前記駆動スプロケットの動力を前記従動スプロケットに伝達するチェーンと、
を備えた伝達装置における前記チェーンの伸びを検出するチェーン部分伸び検出方法において、
前記駆動スプロケットまたは前記従動スプロケットと前記チェーンとが噛み合っている範囲における前記チェーンの噛合い高さを測定し、
前記チェーンの測定面に噛合い高さの情報を示す信号上に、特定の位置を示し検出することのできる波形を生じるための形状を設け、
前記噛合い高さの情報を示す信号を用いて、前記チェーンにおける隣り合うローラの高さの差を求め、求めた前記高さの差から前記チェーンの部分伸びを推定し、前記チェーンに設けられた形状によって前記噛合い高さ測定装置で取得された信号に重畳される波形に基づいて、前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定するチェーン部分伸び検出方法
であって、
前記チェーンの測定面に塗布された半固形状の材料を検出することで前記チェーンにおける絶対位置の情報を得ることを特徴とするチェーン部分伸び検出方法。
【請求項4】
部分伸びと認識した際に、部分伸びによる最も噛合い高さが高くなるローラと、そのローラと隣接するローラの噛合い高さの差によって部分伸びの伸び率を推定する請求項
3に記載のチェーン部分伸び検出方法。
【請求項5】
モータから駆動力が伝達されることによって回転する駆動スプロケットと、
ステップを駆動するステップ駆動装置に接続され、回転自在な回転軸に支持された従動スプロケットと、
前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットに巻き掛けられ、前記駆動スプロケットの動力を前記従動スプロケットに伝達するチェーンと、
前記駆動スプロケットまたは前記従動スプロケットと前記チェーンとが噛み合っている範囲における前記チェーンの噛合い高さを測定する噛合い高さ測定装置と、
前記噛合い高さ測定装置で取得された信号を用いて、前記チェーンにおける隣り合うローラの高さの差を求め、求めた前記高さの差から前記チェーンの部分伸びを推定し、前記チェーンに設けられた形状によって前記噛合い高さ測定装置で取得された信号に重畳される波形に基づいて、前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定する信号処理装置と、
を備え
、
前記信号処理装置は、前記チェーンの測定面に塗布された半固形状の材料の位置を検出し、当該半固形状の材料の位置を基準にして前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定するように構成される乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チェーン伸び検出装置、チェーン伸び検出方法および乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、チェーン伸び検出装置を開示する。当該チェーン伸び検出装置において、2つの検出器は、スプロケット間のスプロケットと噛合っていない空間上を走行するチェーンに対して理想的なローラ間距離の整数倍の距離だけ離れて配置される。チェーン伸び検出装置は、当該2つの検出器によってローラが通過するタイミングを検出する。チェーン伸び検出装置は、ローラ間距離に差がある場合に両者のローラが通過するタイミングがずれることを利用してチェーンの部分伸びを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のチェーン伸び検出装置は、チェーンを構成する構造部材の摺動する面の間に形成された隙間の分を考慮したチェーンの部分伸びを検出することができない。さらに、特許文献1の記載のチェーン伸び検出装置は、チェーンの部分伸びの位置を特定することができない。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされた。本開示の目的は、チェーンの部分伸びについて伸び量とともに伸びの位置も容易に確認することができるチェーン伸び検出装置、チェーン伸び検出方法および乗客コンベアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るチェーン部分伸び検出装置は、駆動力が伝達されることによって回転する駆動スプロケットと、回転自在な回転軸に支持された従動スプロケットと、前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットに巻き掛けられ、前記駆動スプロケットの動力を前記従動スプロケットに伝達するチェーンと、備えた伝達装置における前記チェーンの部分伸びを検出するチェーン部分伸び検出装置において、前記駆動スプロケットまたは前記従動スプロケットと前記チェーンとが噛み合っている範囲における前記チェーンの噛合い高さを測定する噛合い高さ測定装置と、前記噛合い高さ測定装置で取得された信号を用いて、前記チェーンにおける隣り合うローラの高さの差を求め、求めた前記高さの差から前記チェーンの部分伸びを推定し、前記チェーンに設けられた形状によって前記噛合い高さ測定装置で取得された信号に重畳される波形に基づいて、前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定する信号処理装置と、を備え、前記信号処理装置は、前記チェーンの測定面に塗布された半固形状の材料の位置を検出し、当該半固形状の材料の位置を基準にして前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定するように構成される。
【0007】
本開示に係るチェーン部分伸び検出方法は、駆動力が伝達されることによって回転する駆動スプロケットと、回転自在な回転軸に支持された従動スプロケットと、前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットに巻き掛けられ、前記駆動スプロケットの動力を前記従動スプロケットに伝達するチェーンと、備えた伝達装置における前記チェーンの伸びを検出するチェーン部分伸び検出方法において、前記駆動スプロケットまたは前記従動スプロケットと前記チェーンとが噛み合っている範囲における前記チェーンの噛合い高さを測定し、前記チェーンの測定面に噛合い高さの情報を示す信号上に、特定の位置を示し検出することのできる波形を生じるための形状を設け、前記噛合い高さの情報を示す信号を用いて、前記チェーンにおける隣り合うローラの高さの差を求め、求めた前記高さの差から前記チェーンの部分伸びを推定し、前記チェーンに設けられた形状によって前記噛合い高さ測定装置で取得された信号に重畳される波形に基づいて、前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定するものであり、前記チェーンの測定面に塗布された半固形状の材料を検出することで前記チェーンにおける絶対位置の情報を得るものである。
【0008】
本開示に係る乗客コンベアは、モータから駆動力が伝達されることによって回転する駆動スプロケットと、ステップを駆動するステップ駆動装置に接続され、回転自在な回転軸に支持された従動スプロケットと、前記駆動スプロケットおよび前記従動スプロケットに巻き掛けられ、前記駆動スプロケットの動力を前記従動スプロケットに伝達するチェーンと、前記駆動スプロケットまたは前記従動スプロケットと前記チェーンとが噛み合っている範囲における前記チェーンの噛合い高さを測定する噛合い高さ測定装置と、前記噛合い高さ測定装置で取得された信号を用いて、前記チェーンにおける隣り合うローラの高さの差を求め、求めた前記高さの差から前記チェーンの部分伸びを推定し、前記チェーンに設けられた形状によって前記噛合い高さ測定装置で取得された信号に重畳される波形に基づいて、前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定する信号処理装置と、を備え、前記信号処理装置は、前記チェーンの測定面に塗布された半固形状の材料の位置を検出し、当該半固形状の材料の位置を基準にして前記チェーンの部分伸びが発生する位置を特定するように構成される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、信号処理装置は、チェーンにおける隣り合うローラの高さの差を求め、求めた前記高さの差からチェーンの部分伸びを推定する。信号処理装置は、チェーンに設けられた形状によって噛合い高さ測定装置で取得された信号に重畳される波形に基づいて、チェーンの部分伸びが発生する位置を特定する。このため、チェーンの部分伸びについて伸び量とともに伸びの位置も容易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1におけるチェーン部分伸び検出方法を用いるチェーン伸び検出装置によって伸びが検出されるチェーンの構造を示す断面図である。
【
図2】
図1のチェーンを備えた伝達装置を示す図である。
【
図3】
図1のピンとブッシュの互いの摺動接触面の間に隙間が生じたチェーンを示す断面図である。
【
図4】
図3のチェーンにおいて張力が作用した状態を示す断面図である。
【
図5】
図4のチェーンのリンク数を多くした状態を示す断面図である。
【
図6】伸びが生じていない初期状態のチェーンと従動スプロケットとの噛合いを示す図である。
【
図7】
図6のチェーンおよび従動スプロケットを示す拡大図である。
【
図8】全域に渡って伸びのあるチェーンと従動スプロケットとの巻き掛け状態を示す図である。
【
図9】
図8のチェーンおよび従動スプロケットの要部を示す拡大図である。
【
図10】チェーンの全域に渡って均一な伸びが生じた場合のそれぞれのローラのピッチ円からの移動量を表す図である。
【
図11】チェーンの一部の領域だけ伸びが生じた場合のそれぞれのローラのピッチ円からの移動量を表す図である。
【
図12】チェーンの一部の領域だけ伸びが生じた場合のそれぞれのローラのピッチ円からの移動量を表す図である。
【
図13】実施の形態1におけるチェーン伸び検出装置を示す図である。
【
図15】チェーンに伸びがない場合またはチェーンの伸びが小さい場合のチェーンの噛合い高さを示す図である。
【
図16】チェーンの全域に渡って不均一な伸びが生じた場合のチェーンの噛合い高さを示す図である。
【
図17】チェーンの一部に伸びが生じた場合のチェーンの噛合い高さを示す図である。
【
図18】CADなどを用いた作図的なチェーンの伸びによる噛合い高さを求める方法を示す図である。
【
図19】実施の形態1におけるチェーンの部分伸びの位置を特定するためのグリス材の塗布状態を示すチェーン側面図である。
【
図20】グリス材によるマーキングが3か所に塗布されたチェーンに対して測定される波形を示す図である。
【
図21】実施の形態1における信号処理装置のハードウェア構成図である。
【
図22】実施の形態2に係る均一伸びと部分伸びが混在するチェーンの特に部分伸びの近傍を測定した際の測定波形を示す図である。
【
図23】部分伸びのみが存在する場合と均一伸びと部分伸びとが混在する場合のチェーン1の測定波形を示す図である。
【
図24】同じ伸び率の部分伸びに対して複数の伸び率の均一伸びが混在した場合を想定した幾何検討から得られる図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0012】
実施の形態1.
図1は実施の形態1におけるチェーン部分伸び検出方法を用いるチェーン伸び検出装置によって伸びが検出されるチェーンの構造を示す断面図である。
【0013】
図1に示されるように、チェーン1は、複数組の外プレート11と複数組の内プレート13と複数組のブッシュ14と複数組のピン12と複数組のローラ15とを備える。
【0014】
複数組の外プレート11において、対となる外プレート11は、互いに対向して設けられる。複数組の内プレート13において、対となる内プレート13は、互いに対向して設けられる。複数組の外プレート11の各々と複数組の内プレート13の各々とは、チェーン1の長手方向に交互に配置される。
【0015】
複数組のブッシュ14の各々は、円筒状に形成される。複数組のブッシュ14において、対となるブッシュ14の一方は、対応する一対の内プレート13の一側に渡って固定される。対となるブッシュ14の他方は、対応する一対の内プレート13の他側に渡って固定される。
【0016】
複数組のピン12において、対となるピン12の一方は、対応する一対の外プレート11に渡ってかしめにより固定される。対となるピン12の他方は、対応する一対の外プレート11に渡ってかしめにより固定される。複数組のピン12の各々は、対応する複数組のブッシュ14の各々に挿入される。ピン12は、長手方向に隣り合う一対の外プレート11と一対の内プレート13とを連結する。ピン12において、ブッシュ14に挿入される部分は、チェーン1の屈曲部である関節となる。
【0017】
複数組のローラ15の各々は、対応する複数組のブッシュ14の各々の周囲に設けられる。複数組のローラ15は、対応する複数組のブッシュ14の各々に対して回転自在に設けられる。複数組のローラ15の各々は、図示されないスプロケットの歯と噛み合う。
【0018】
図2は
図1のチェーン1を備えた伝達装置を示す図である。
【0019】
図2に示されるように、伝達装置は、駆動スプロケット2と従動スプロケット3とチェーン1とを備える。
【0020】
駆動スプロケット2は、駆動力が伝達されることによって回転する。従動スプロケット3は、駆動スプロケット2とは離れて設けられる。従動スプロケット3は、回転自在な回転軸に支持される。従動スプロケット3は、負荷となる。チェーン1は、駆動スプロケット2と従動スプロケット3とに渡って巻き掛けられる。チェーン1は、駆動スプロケット2の動力を従動スプロケット3に伝達する。
【0021】
矢印Aに示されるように、駆動スプロケット2が左回りに回転する場合、駆動スプロケット2と従動スプロケット3との間において、チェーン1の上側の部分は、張り側部分となる。駆動スプロケット2と従動スプロケット3との間において、チェーン1の下側の部分は、弛み側部分となる。
【0022】
チェーン1の張り側部分は、伝達される負荷トルクに応じた張力の作用を受ける。チェーン1の弛み側部分は、伝達される負荷トルクに応じた張力の作用を受けない。チェーン1の弛み側部分は、自重とチェーン1の回転動作に伴う振動による微小な変動に応じた張力の作用を受ける。
【0023】
チェーン1において、駆動スプロケット2または従動スプロケット3と噛み合っている部分では、関節の角度は、駆動スプロケット2または従動スプロケット3の歯数で決定される歯毎の角度により決まる。チェーン1において、関節は、駆動スプロケット2または従動スプロケット3に掛かり始める部分からスプロケットから抜け出る部分までチェーン1の進行に伴って回転屈曲動作を行う。
【0024】
関節は、回転屈曲動作中において伝達トルクに応じた張力の作用を受ける。このため、回転屈曲動作において、ピン12とブッシュ14とは、互いの接触摺動面において面圧を有する摺動動作を行う。その結果、ピン12とブッシュ14とは、互いの接触摺動面において摩耗する。特に、ピン12の両端部は、ブッシュ14の角と局所的に接触する。このため、ピン12の両端部において、摩耗は促進する。その結果、ピン12とブッシュ14との隙間は、初期状態に比べて広がる。当該隙間は、チェーン1の伸びに最も影響する要因となる。
【0025】
図3は
図1のピンとブッシュの互いの摺動接触面の間に隙間が生じたチェーンを示す断面図である。
図4は
図3のチェーンにおいて張力が作用した状態を示す断面図である。
図5は
図4のチェーンのリンク数を多くした状態を示す断面図である。
【0026】
図3において、チェーン1は、張力の作用を受けていない。チェーン1の許容張力と内プレート13の材料、形状とが適切に選定された際、内プレート13は、通常のトルク伝達で作用する張力で伸びない。このため、同一の内プレート13において、一対のブッシュ14の間隔は、変化しない。一対のブッシュ14のそれぞれの中心の間隔は、チェーン1の基準ピッチpに設定される。
【0027】
チェーン1の伸びの評価は、隣り合うローラ15の間の寸法で規定される。具体的には、チェーン1の伸びの評価は、基準ピッチpに対してどれだけ変化したかにより規定される。
【0028】
ピン12とブッシュ14とにおいて、互いの接触摺動面は、経年的に摺動と摩耗とに繰り返す。その結果、ピン12とブッシュ14とにおいて、互いの接触摺動面の間には、隙間Bが一律に形成される。
【0029】
図4と
図5とに示されるように、張力がチェーン1に作用すると、ピン12は、ブッシュ14に対して隙間Bの寸法だけ移動する。その結果、ピン12は、ブッシュ14と接触する。
【0030】
この際、隣り合う一対のブッシュ14において、それぞれの中心の間の距離は、隣り合う一対のローラ15のそれぞれの中心の間の距離と同じである。延びたチェーン1においては、同一の外プレート11に設けられた一対のローラ15の間の距離のみが基準ピッチpに対して伸びる。これに対し、同一の内プレート13に設けられた一対のローラ15の間の距離は伸びない。その結果、隣り合うローラ15の間隔は、一つ置きに伸びる。
【0031】
次に、チェーン1と従動スプロケット3との噛合いを説明する。
図6は伸びが生じていない初期状態のチェーンと従動スプロケットとの噛合いを示す図である。
図7は
図6のチェーンおよび従動スプロケットを示す拡大図である。
【0032】
実際のチェーン1においては、円滑な動作が行われるように、各部材間には、微小な隙間が設けられる。当該隙間は、チェーン1の初期状態の伸びとして現れる。当該隙間は、誤差とする。
【0033】
チェーン1のピッチ長さpは、チェーン1の引張強度に応じた型番に対して規格で定められる。チェーン1は、次の(1)式のピッチ径Dの位置で従動スプロケット3の歯と噛み合う。
【0034】
D×sin(180/Z)=p (1)
【0035】
ただし、zは、従動スプロケット3の歯数zである。
【0036】
チェーン1の型番と従動スプロケット3の歯数zとが決まると、ピッチ径Dは、一意に決まる。このため、ローラ15の位置は、従動スプロケット3に対して幾何的な作図によって予め求められる。
【0037】
従来の方法においては、チェーン1が全域に渡って一律に伸びた場合、ローラ15は、上記の(1)式のピッチ長さpに伸びの分の長さΔpを足し合わせた値を用いて算出されるピッチ径Dの位置で噛み合うと仮定される。
【0038】
しかしながら、ピッチ長さpは、チェーン1の構造上の理由から同一の外プレート11に設けられた一対のローラ15の中心間において変化する。これに対し、ピッチ長さpは、同一の内プレート13に設けられた一対のローラ15の中心間において変化しない。
【0039】
つまり、全周に渡って一律に伸びが生じたチェーン1では、外プレート11の部分にだけ、隣り合うローラ15の中心間の距離に伸びが生じる。並べられたローラ15において、1つ置きに隣り合うローラ15の中心間の距離が変化する。このため、チェーン1に伸びが生じた場合において、従動スプロケット3の歯内でのローラ15の噛合い位置は、上記の式(1)によって一律に求められない。
【0040】
図8は全域に渡って伸びのあるチェーンと従動スプロケットとの巻き掛け状態を示す図である。
図9は
図8のチェーンおよび従動スプロケットの要部を示す拡大図である。
【0041】
チェーン1の伸びに関わらず、チェーン1は、従動スプロケット3に巻き掛けられている範囲において特定の歯と同じかみ合い状態となる。
【0042】
経験上、特定の歯は、駆動スプロケット2および従動スプロケット3のそれぞれの回転軸を結んだ線の延長線上にある。正確な位置は、チェーン1に掛かる負荷、チェーン1における撓み側の部分の自重、従動スプロケット3の歯面の摩擦係数などの刻々と変化する条件に応じて移動する。実施の形態1では、特定の歯は、駆動スプロケット2および従動スプロケット3のそれぞれの回転軸を結んだ線の延長線上にあるとする。
【0043】
図9においては、チェーン1の伸びのないときの噛合い位置と同じ位置で噛合う歯から順に、内プレート13は、破線で表される。外プレート11は、実線で表される。
【0044】
第1ローラ15aは、従動スプロケット3の回転方向について内プレート13の後方に配置される。第1ローラ15aは、伸びのない状態のピッチ円上で従動スプロケット3と噛み合う位置にある。
【0045】
第2ローラ15bは、第1ローラ15aよりも回転方向について1つ前側にある。第2ローラ15bは、第1ローラ15aと同一の内プレート13に固定されたブッシュ14と同軸に配置される。このため、第2ローラ15bと第1ローラ15aとの軸間距離は、チェーンピッチと等しい。その結果、第2ローラ15bも、ピッチ円上にある。
【0046】
第3ローラ15cは、第2ローラ15bよりも回転方向について1つ前側にある。第3ローラ15cは、第2ローラ15bに貫通するピン12と同一の外プレート11に固定されたピン12が貫通するブッシュ14と同軸に配置される。第2ローラ15bよりも回転方向について1つ前側にあるピン12とブッシュ14との摩耗によって生じる両者の隙間Bの分だけ、外プレート11に設けられた一対のブッシュ14の間の距離が拡がる。このため、第3ローラ15cと第2ローラ15bとの軸間距離は、チェーンピッチに対して広がる。第3ローラ15cは、第2ローラ15bの軸を中心としてチェーンピッチよりも伸びた分だけ長い長さの半径として回転する。このため、第3ローラ15cは、従動スプロケット3のピッチ円よりも大きな半径の円上で従動スプロケット3における次の歯と噛合う。その結果、第3ローラ15cは、従動スプロケット3の歯の中で、従動スプロケット3の径方向について歯底から歯先にずれた位置で噛み合う。
【0047】
第4ローラ15dは、第3ローラ15cよりも回転方向について1つ前側にある。第4ローラ15dは、第3ローラ15cと同一の内プレート13に固定されたブッシュ14と同軸に配置される。このため、第4ローラ15dと第3ローラ15cとの軸間距離は、チェーンピッチと等しい。第4ローラ15dは、第3ローラ15cの軸を中心としてチェーンピッチを半径として回転する。このため、第4ローラ15dは、第3ローラ15cの位置する従動スプロケット3の中心を中心とする円よりも小さな半径の円上に位置する。
【0048】
このように、伸びのないチェーン1と同じくピッチ円上で従動スプロケット3の歯と噛み合うローラ15を基点として、外プレート11の回転方向について前方にあるローラ15は、従動スプロケット3の歯内における従動スプロケット3の中心からより離れた位置で歯内と噛み合う。回転方向について次に前方に位置するローラ15は、基点のローラ15の外プレート11の回転方向について前方にあるローラ15に対して従動スプロケット3の中心からより近い位置で歯内と噛み合う。
【0049】
図10はチェーン1の全域に渡って均一な伸びが生じた場合のそれぞれのローラのピッチ円からの移動量を表す図である。
【0050】
図10は、第1ローラ15aから第1ローラ15aに対して回転方向について前方に配置された第2ローラ15b、第3ローラ15cなどの順にそれぞれの移動量を表す。
【0051】
図10に示されるように、従動スプロケット3のピッチ円上に位置する第1ローラ15aに対して回転方向についてある程度前方に位置するローラ15について、従動スプロケット3の中心から遠いローラ15の位置と近いローラ15の位置とは、ある一定の値に落ち着く。
【0052】
図11はチェーン1の一部の領域だけ伸びが生じた場合のそれぞれのローラ15のピッチ円からの移動量を表す図である。
【0053】
図11は、チェーン1における伸びの生じた部分にあるローラ15が従動スプロケット3の歯とピッチ円上で噛み合った場合のそれぞれのローラ15の移動量を表す。
【0054】
図11に示されるように、ピッチ円上にあったローラ15に対して回転方向について前方に並べられたいくつかのローラ15は、ピッチ円から大きく離れる。ピッチ円からの移動量が大きいローラ15に対して回転方向について前方に並べられた複数のローラ15の位置は、なだらかにピッチ円に近づく。
【0055】
図12はチェーン1の一部の領域だけ伸びが生じた場合のそれぞれのローラのピッチ円からの移動量を表す図である。
【0056】
図12は、チェーン1における伸びの生じた部分にあるローラ15が従動スプロケット3の歯とピッチ円上で噛合ったローラ15よりも回転方向について前方にある場合のそれぞれのローラ15の移動量を表す。
【0057】
図12に示されるように、チェーン1における伸びの生じていないローラ15の噛合い位置は、ピッチ円上にある。チェーン1における伸びの生じた部分のローラ15の噛合い位置は、ピッチ円から大きく移動する。
【0058】
以上のことから、チェーン1の全域に亘って均一な伸びが生じる場合およびチェーン1の一部の領域だけ伸びが生じる場合のいずれの場合でも、チェーン1の伸び量と相関のある噛合いの高さは、従動スプロケット3との噛合いにおいてピッチ円上で噛合うローラ15の位置から回転方向について概ね15歯程度前方の位置で検出される。
【0059】
次に、チェーン1の伸びと従動スプロケット3に対するローラ15の噛合いとの特徴を利用したチェーン1の伸びの位置とその伸び量の推定方法を説明する。
図13は実施の形態1におけるチェーン伸び検出装置を示す図である。
【0060】
図13に示されるように、チェーン伸び検出装置は、噛合い高さ測定装置4と信号処理装置5とを備える。
【0061】
例えば、噛合い高さ測定装置4は、レーザを用いた非接触型の変位計である。噛合い高さ測定装置4は、チェーン1が従動スプロケット3に対してピッチ円上で噛合う歯から回転方向について前方に15歯以上離れた位置に設けられる。噛合い高さ測定装置4は、従動スプロケット3の歯内におけるチェーン1の高さを測定する。具体的には、噛合い高さ測定装置4は、
図13においては図示されないローラ15の高さを測定する。なお、噛合い高さ測定装置4において、駆動スプロケット2の歯内におけるチェーン1の高さを測定してもよい。
【0062】
信号処理装置5は、噛合い高さ測定装置4の測定結果に対応した信号の入力を受け付ける。信号処理装置5は、信号処理工程を行う。具体的には、信号処理装置5は、噛合い高さ測定装置4からの信号を用いて、チェーン1の全域に渡った伸びの状態の有無を判定する。
【0063】
【0064】
従動スプロケット3の歯内におけるチェーン1の高さの測定において、測定点は、(a)点と(b)点と(c)点とに示されるように噛合い高さとともに従動スプロケット3の中心から半径方向の位置が変化する部分から選定される。
【0065】
この状態において、噛合い高さ測定装置4は、噛合い高さ測定工程を行う。具体的には、噛合い高さ測定装置4は、(a)点と(b)点と(c)点とにレーザを照射することで、歯内におけるチェーン1の噛合い高さの変化を測定する。
【0066】
次に、
図15から
図17を用いて、チェーン1の噛合い高さの測定結果を説明する。
図15はチェーンに伸びがない場合またはチェーンの伸びが小さい場合のチェーンの噛合い高さを示す図である。
図16はチェーンの全域に渡って不均一な伸びが生じた場合のチェーンの噛合い高さを示す図である。
図17はチェーンの一部に伸びが生じた場合のチェーンの噛合い高さを示す図である。
【0067】
図15に示されるように、チェーン1の伸びがない場合またはチェーン1の伸びが小さい場合、信号処理装置5は、各ローラ15の歯内での噛合い高さにおいて大きな差がない波形を得る。
【0068】
図16に示されるように、チェーン1の全域に亘って不均一な伸びが生じた場合、信号処理装置5は、並べられた複数のローラ15において1つ置きに噛合い高さが変わる波形を得る。信号処理装置5は、隣り合うローラ15の噛合い高さの差と予め測定対象となるチェーン1の仕様からCADなどを用いて作図的に求めた値とを比較することでチェーン1の概略の伸び率を推定する。
【0069】
図17に示されるように、チェーン1の一部に伸びが生じた場合、信号処理装置5は、伸びが生じた部分の噛合い位置が他の部分の噛合い位置と明らかに異なる波形を得る。具体的には、信号処理装置5は、伸びが生じた部分に向けて徐々に噛合い高さが高くなり、当該部分を頂点としてまた伸びのない状態に戻る波形を得る。信号処理装置5は、均一な波形部分と最大変位部分との噛合い高さの差と予め測定対象となるチェーン1の仕様からCADなどを用いて作図的に求めた値とを比較することでチェーン1の概略の伸び率を推定する。
【0070】
図18はCADなどを用いた作図的なチェーン1の伸びによる噛合い高さを求める方法を示す図である。
【0071】
図18の(a)において、ローラ15の半径は、rとされる。従動スプロケット3の歯内において、第1ローラ15aは、理想的な位置に噛み合っていると仮定される。この際、第1ローラ15aの表面は、従動スプロケット3の歯3aの歯面と接触する。
【0072】
第2ローラ15bは、第1ローラ15aに対して回転方向に隣り合う。半径rの第2ローラ15bは、第1ローラ15aの中心からチェーンピッチpを半径とする円周上を移動する。
【0073】
図18の(b)に示されるように、第2ローラ15bの表面において、従動スプロケット3の歯8bの歯面と接する位置は、従動スプロケット3の歯3aと噛み合った第1ローラ15aの中心を中心とする円周に沿って半径rの第2ローラ15bを移動させるように作図することで求められる。
【0074】
このように求められた位置が従動スプロケット3と第2ローラ15bとの噛合い位置となる。この際、従動スプロケット3の中心と第2ローラ15bの中心との距離は、第2ローラ15bの噛合い高さとなる。
【0075】
図18の(c)に示されるように、第2ローラ15bと同様にして、第3ローラ15cの噛合い位置および噛合い高さは、求められる。
【0076】
なお、ローラ15の噛合い位置および噛合い高さは、従動スプロケット3の形状、チェーンピッチ長さ、ローラ15の形状が決まれば、幾何的に一意に求められる。このため、ローラ15の噛合い位置および噛合い高さは、
図18に示す手順で求めるほかにも、汎用的な幾何学ツールを用いて求め得る。
【0077】
チェーン1が円滑な動きを維持するために行われる潤滑剤の塗布の部分的な不備、金属片、砂といった外的な異物のチェーン1の関節への混入などがあると、該当部分において、チェーン1の構造部材の摺動摩耗が発生する。当該摺動摩耗により、チェーン1の一部だけが伸びる。
【0078】
当該伸びが進行すると、チェーン1が振動し得る。さらに、チェーン1の伸びが進行すると、噛合い高さが極めて高くなる。この場合、チェーン1のローラ15が駆動スプロケット2または従動スプロケット3の歯を乗り越え得る。
【0079】
チェーン1の振動等を未然に防ぐためには、部分的な伸びの存在を確認するだけでなく、部分的な伸びの位置を特定することが極めて重要である。
【0080】
そこで、信号処理装置5は、チェーン1全周に対する部分的な伸びの位置を判別するためにマーキングの位置を検出する。
【0081】
図19は実施の形態1におけるチェーンの部分伸びの位置を特定するためのグリス材の塗布状態を示すチェーン側面図である。
【0082】
図14に示す測定点の中で、外プレート11の側面である(a)点または内プレート13の側面である(b)点に対し、測定される信号に明らかな特異な凸部として認識できる形状が設けられる。
【0083】
チェーン1は、極めて汎用的な部品である。このため、チェーン1は、大量生産により安定した性能と低価格を実現する。これに対し、マーキングを実現するために特殊な形状を形成すれば、性能、価格の両面で大きな課題を生じ得る。そこで、本実施の形態では、一般的なチェーン1に対して、性能、動きに何ら影響を与えることのないマーキングが設けられる。
【0084】
図19に示されるように、グリス材8は、内プレート13の測定面としての側面に塗布される。その結果、チェーン1は、円滑な動作を維持する。グリス材8は、一般的な機械部品の軸受、摺動部分に用いられる。グリス材8は、鉱物油、リチウム石鹸、あるいは二硫化モリブデンといった成分の半固形状で用いられる。
【0085】
図20はグリス材によるマーキングが3か所に塗布されたチェーンに対して測定される波形を示す図である。
【0086】
波形A1と波形A2と波形A3とは、正常な噛合い高さを測定する波形に対して明らかに特異な波形である。
【0087】
信号処理装置5は、チェーン1に設けられた形状によって噛合い高さ測定装置4で取得された信号に重畳される波形に基づいて、チェーン1の部分伸びが発生する位置を特定する。具体的には、信号処理装置5は、波形A1と波形A2と波形A3との位置を基準にしてチェーン1の部分伸びが発生する位置を特定する。
【0088】
以上で説明した実施の形態1によれば、信号処理装置5は、チェーン1における隣り合うローラの高さの差を求め、求めた高さの差からチェーン1の部分伸びを推定する。信号処理装置5は、チェーン1に設けられた形状によって噛合い高さ測定装置4で取得された信号に重畳される波形に基づいて、チェーン1の部分伸びが発生する位置を特定する。このため、チェーン1が通常に駆動している状態で、チェーン1の全域にわたるチェーン1の伸びを評価することができるだけでなく、チェーン1の部分伸びについて伸び量とともに伸びの位置も容易に確認することができる。
【0089】
また、マーキングには、潤滑剤として用いられるグリス材8が用いられる。グリス材8は、元々良好な動きを維持するために半固形状の材料で形成される。このため、グリス材8の飛散、落下による機械的な損傷、動作不具合、拭き残しといった人為的なミスによる不具合の可能性のない測定方法を提供することができる。さらに、測定時にグリス材8を追加することも極めて容易である。
【0090】
具体的には、信号処理装置5は、グリス材8を検出することによりチェーン1における絶対位置の情報を得る。このため、チェーン1の部分伸びの位置を正確に特定することができる。
【0091】
なお、マーキングとして、グリス材8以外の半固形状の材料を用いてもよい。
【0092】
また、元々のチェーン1の構造を変えることなくマーキングの目的を達するには、外部から後付けでの凸部を設ければよい。例えば、磁力、接着力によりマーキングを後付けしてもよい。
【0093】
次に、
図21を用いて、信号処理装置5の例を説明する。
図21は実施の形態1における信号処理装置のハードウェア構成図である。
【0094】
信号処理装置5の各機能は、処理回路により実現し得る。例えば、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。例えば、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える。
【0095】
処理回路が少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える場合、信号処理装置5の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、少なくとも1つのメモリ100bに格納される。少なくとも1つのプロセッサ100aは、少なくとも1つのメモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、信号処理装置5の各機能を実現する。少なくとも1つのプロセッサ100aは、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。例えば、少なくとも1つのメモリ100bは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等である。
【0096】
処理回路が少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。例えば、信号処理装置5の各機能は、それぞれ処理回路で実現される。例えば、信号処理装置5の各機能は、まとめて処理回路で実現される。
【0097】
信号処理装置5の各機能について、一部を専用のハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、部分的な伸びの位置を特定する機能については専用のハードウェア200としての処理回路で実現し、部分的な伸びの位置を特定する機能以外の機能については少なくとも1つのプロセッサ100aが少なくとも1つのメモリ100bに格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。
【0098】
このように、処理回路は、ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせで信号処理装置5の各機能を実現する。
【0099】
実施の形態2.
図22は実施の形態2に係るチェーン部分伸び検出方法に関する測定波形の一例を示す図である。
【0100】
特にチェーン1の部分伸びが生じる状態では、部分伸びが生じる部分以外の部分においても、多少の経年的な伸びが生じ得る。この場合、均一伸びと部分伸びが混在した状態となる。
図22に示す波形は、均一伸びと部分伸びが混在する場合に測定される波形をCADにより幾何的に求めた例である。
【0101】
部分伸び以外の区間(a)は、均一伸びのみの状態と同じく段々状の波形となる。部分伸びの生じる区間(b)に向けては、噛合い高さは、均一伸びの特徴である段々状を維持した状態でなだらかに上昇する。その後、区間(c)では、噛合い高さは、段々状に下降し再度均一伸びのみの段々状に戻る。
【0102】
実施の形態2のチェーン伸び検出方法においては、信号処理装置5は、隣り合うローラ15同士の噛合い高さの差に基づいてチェーン1の伸び率を推定する。具体的には、信号処理装置5は、隣り合うローラ15同士の噛合い高さの測定値と予め幾何的に求められる値との比較結果に基づいて伸び率を推定する。
【0103】
均一伸びについては、全周の中に一部に部分伸びが存在している場合でも、部分伸び以外の区間(a)での波形を用いれば、その際の均一伸びの伸び率が推定される。部分伸びが検出された場合、部分伸びが存在しない部分での波形を用いることで伸び率が推定される。
【0104】
図23は部分伸びのみが存在する場合と均一伸びと部分伸びとが混在する場合のチェーン1の測定波形を示す図である。
【0105】
均一伸びと部分伸びとが混在する場合とにおいて段々状の波形が得られるだけでなく、部分伸びのみが存在する場合と均一伸びと部分伸びとが混在する場合とにおいて、全体の波形が明らかに異なる。
【0106】
図23において、H1は、均一伸びだけが存在する区間の平均と部分伸びによる最も噛合い高さが高くなる位置との差である。H2は、部分伸びによる最も噛合い高さが高くなる位置とそれと隣り合う噛合い高さの差である。H1とH2とは、部分伸びの伸び率の推定に用いる噛合い高さの情報の候補である。
【0107】
部分伸びのみが存在する場合と均一伸びと部分伸びとが混在する場合とにおいて、H1は、同じ部分伸び率に対して明らかに異なる値となる。このため、均一伸びの有無、程度がわからない状態において、H1は、部分伸びの伸び率の推定に用いられない。
【0108】
図24は同じ伸び率の部分伸びに対して複数の伸び率の均一伸びが混在した場合を想定した幾何検討から得られる図である。
図24において、横軸は、混在する均一伸びの伸び率である。縦軸は、H2の値である。
【0109】
図24に示されるように、均一伸びが混在しても、その均一伸びの伸び率にかかわらずH2の値はほぼ一定の値を示す。このため、均一伸びの有無、程度がわからない状態においても、H2は、部分伸びの伸び率の推定に用いられる。
【0110】
以上で説明した実施の形態2によれば、信号処理装置5は、部分伸びと認識した際に、部分伸びによる最も噛合い高さが高くなるローラ15とそのローラ15と隣接するローラ15の噛合い高さの差H2によって部分伸びの伸び率を推定する。このため、認識された部分伸びに対して、周囲に均一伸びが混在することの影響を受けることなく、部分伸び率の推定を行うことができる。その結果、均一伸びが混在するか否かにかかわらず部分伸びの伸び率を精度よく推定することができる。
【0111】
なお、実施の形態1または実施の形態2のチェーン伸び検出方法を乗客コンベアに適用してもよい。この場合、モータから伝達される駆動力により駆動スプロケット2を回転させればよい。ステップを駆動するステップ駆動装置に従動スプロケット3を接続すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上のように、チェーン伸び検出装置、チェーン伸び検出方法および乗客コンベアは、伝達装置を用いたシステムに利用できる。
【符号の説明】
【0113】
1 チェーン、2 駆動スプロケット、3 従動スプロケット、4 噛合い高さ測定装置、5 信号処理装置、 8 グリス材、 11 外プレート、12 ピン、13 内プレート、14 ブッシュ、15 ローラ