(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】保持器の製造方法及び転がり軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/46 20060101AFI20230627BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20230627BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20230627BHJP
B29C 70/12 20060101ALI20230627BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20230627BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20230627BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20230627BHJP
F16C 33/44 20060101ALI20230627BHJP
F16C 33/56 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B29C70/46
B29C43/18
B29C43/34
B29C70/12
B29C70/68
F16C19/06
F16C19/26
F16C33/44
F16C33/56
(21)【出願番号】P 2022554737
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2022020276
(87)【国際公開番号】W WO2022239869
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2021082611
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022071024
(32)【優先日】2022-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】常増 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松本 兼明
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/056243(WO,A1)
【文献】特開2005-193587(JP,A)
【文献】特開2021-024172(JP,A)
【文献】特開昭57-069015(JP,A)
【文献】特開2020-028984(JP,A)
【文献】特開2002-086578(JP,A)
【文献】特開2009-154339(JP,A)
【文献】特開2015-135153(JP,A)
【文献】特開2015-093479(JP,A)
【文献】特開2020-011465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29B 11/16,15/08-15/14
C08J 5/04- 5/24
B29C 39/18
B29C 43/00-43/58
B29C 45/14
B62D 5/04
F16C 19/00-19/56
33/30-33/66
F16H 57/00-57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受に使用される保持器の製造方法であって、
前記保持器は、軸方向に対向する一対の円環部と、前記一対の円環部同士を接続する複数の柱部と、を備え、周方向に対向する一対の前記柱部と軸方向に対向する一対の前記円環部とに囲まれた領域に転動体が収容される構造を有し、
前記柱部を得るために、平均繊維長0.5mm以上の強化繊維と熱硬化性樹脂とを溶媒中で分散混合した溶液から、前記溶媒を抄造によって除去して、前記強化繊維が第1のかさ密度を有する基準プリフォームを製造し、
前記円環部を得るために、前記強化繊維と熱硬化性樹脂とを溶媒中で分散混合した溶液から、前記溶媒を抄造によって除去して、前記強化繊維が前記第1のかさ密度よりも高い第2のかさ密度を有する高密度プリフォームを製造し、
前記高密度プリフォームを、前記保持器を成形する成形型のキャビティ内における前記円環部の形成部位に配置し、
前記基準プリフォームを、前記キャビティ内における前記柱部の形成部位に配置し、
前記成形型を型締めして加熱し、溶融した樹脂を前記キャビティ内に注入して樹脂成形する、
保持器の製造方法。
【請求項2】
前記第1のかさ密度は、0.4g/cm
3以上、1.0g/cm
3以下である、請求項1に記載の保持器の製造方法。
【請求項3】
前記基準プリフォームと前記高密度プリフォームとには、前記強化繊維の間に前記熱硬化性樹脂が混在している、請求項1に記載の保持器の製造方法。
【請求項4】
前記強化繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサザール繊維から選ばれる少なくとも一つである、請求項1から3のいずれか1項に記載の保持器の製造方法。
【請求項5】
前記保持器を成形する工程は、前記強化繊維を10質量%以上、60質量%以下で含まれる熱可塑性樹脂を形成する、請求項1から3のいずれか1項に記載の保持器の製造方法。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリアミノアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも一つである、請求項1から3のいずれか1項に記載の保持器の製造方法。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂は、粉末状である、請求項1から3のいずれか1項に記載の保持器の製造方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の保持器の製造方法により製造された保持器を用いて、転がり軸受を製造する、転がり軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器の製造方法及び転がり軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工作機械の主軸用軸受には、円筒ころ軸受やアンギュラ玉軸受等が使用されている。これらの軸受の保持器としては、綿布補強のフェノール樹脂を切削加工した保持器や、ガラス繊維や炭素繊維で強化された66ナイロン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等を材料とする、いわゆるプラスチック保持器(合成樹脂製保持器)が使用されている。プラスチック保持器は、軽量であるため回転時の遠心力が小さく、さらに自己潤滑性を有するという特長を備えているので、高速回転に有利である。
【0003】
例えば、特許文献1では、保持器の保持器本体を樹脂材の圧縮成形体によって構成し、金属製のリングプレートを保持器本体の両端面に一体成形することで、保持器の剛性を補強することが提案されている。また、特許文献2では、炭素繊維の織布に熱硬化性樹脂を含浸、被覆させ、円環状の軸方向に圧縮することで、高強度、高剛性の保持器を成形する方法が提案されている。
【0004】
また、電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置が知られている。この電動パワーステアリング装置の減速歯車機構を収容するギヤボックスは、ギヤボックスとカバー等のギヤボックス構成部品からなり、それらは一般にアルミニウム合金等の金属によって形成されている。
近年、自動車の省資源・省エネルギー、CO2低減のための低燃費化の推進が強く叫ばれる中、電動パワーステアリング装置についても、更なる軽量化が求められるようになった。このため、電動パワーステアリング装置のギヤボックスの軽量化が検討されてきたが、その実現には、これらを形成する材料や構造を大きく変更しなければならなかった。
【0005】
例えば、金属製のギヤボックスを、より比重の小さい樹脂材料で形成することが考えられるが、樹脂材料は金属材料に比べて耐衝撃性、クリープ特性、剛性が低く、単純に材料を樹脂材料に変更しただけでは従来品と同等の品質確保は難しい。また、樹脂製の構造体では、金属製の構造体と同等の寸法安定性を確保するのは容易なことでない。
【0006】
このような中、電動パワーステアリング装置のギヤボックス(ハウジング)を樹脂材料で構成した例が、特許文献3、4に開示されている。特許文献3の電動パワーステアリング装置では、ハウジングを全て樹脂材料で構成している。また、特許文献4の電動パワーステアリング装置では、樹脂材料で形成したハウジングを金属のめっき被膜で被膜している。これにより、金属製のハウジングと同等の特性を持たせつつ、その軽量化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2015-232382号公報
【文献】日本国特開2015-135153号公報
【文献】日本国特開2009-298246号公報
【文献】日本国特開2012-20647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の工作機械においては、切削能力を向上させて加工時間を短縮する要請が高まり、これに伴って、主軸の回転数を高速化する傾向が顕著である。そのため、高速回転する主軸を支承する転がり軸受では、保持器の受ける遠心力が増大し、過酷な使用条件にした場合に、保持器が変形して外輪と接触して摩耗が生じたり、高いフープ応力による保持器の破損のおそれが生じたりする。
【0009】
また、上記の特許文献3においては、センサハウジングとギヤハウジングとを全てポリアミド系樹脂材料または強化繊維を充填したポリアミド系樹脂で形成し、レーザ溶着により一体化している。そのため、双方をレーザ溶着するためには繊維含有率を低くする必要があり、高温強度、耐衝撃性、クリープ特性、剛性などの物性を、長期にわたって維持するのは困難となる。特許文献4のハウジングを金属のメッキ被膜で被覆することに関しては、材料の環境劣化を防止してハウジングの強度低下を抑制する効果は得られるが、樹脂材料自体の強度が向上する訳ではないため、十分な強度を担保できない可能性がある。
このように、強化繊維を用いた複合材料成形品を製造する場合には、依然として課題が残されていた。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、強化繊維と樹脂とを含む複合材料成形品の強度と寸法安定性を向上できる複合材料成形品の製造方法の提供を第一の目的としている。
また、本発明は、高速回転環境下での使用においても、良好な潤滑状態が保たれ、信頼性が高く、長寿命を達成し得る保持器及び転がり軸受の製造方法の提供を第二の目的としている。
また、本発明は、軽量化が図れ、金属製の場合と同等の耐久性及び信頼性が得られるギヤボックス構成部品の製造方法の提供を第三の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) 複合材料成形品の製造方法であって、
平均繊維長0.5mm以上の強化繊維と熱硬化性樹脂とを溶媒中で分散混合した溶液から、前記溶媒を抄造によって除去してプリフォームを形成する工程と、
得られた前記プリフォームを前記熱硬化性樹脂の硬化温度以上に設定された成形型によりプレス成形して前記複合材料成形品を成形する工程と、
を含む複合材料成形品の製造方法。
(2) (1)に記載の複合材料成形品の製造方法により、転がり軸受に使用される保持器を製造する、保持器の製造方法。
(3) (2)に記載の保持器の製造方法により製造された保持器を用いて、転がり軸受を製造する、転がり軸受の製造方法。
(4) (1)に記載の複合材料成形品の製造方法により、歯車機構を収納するギヤボックスを構成するギヤボックス構成部品を製造する、ギヤボックス構成部品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強化繊維と樹脂とを含む複合材料成形品の強度と寸法安定性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、
図1に示すころ軸受に使用される保持器の斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3の玉軸受に使用される保持器の斜視図である。
【
図5A】
図5Aは、強化繊維と熱硬化性樹脂とを溶媒中で分散混合した溶液を作製する工程説明図である。
【
図5B】
図5Bは、強化繊維と熱硬化性樹脂とを溶媒中で分散混合した溶液を作製する工程で撹拌機駆動前の状態を示す工程説明図である。
【
図6A】
図6Aは、保持器を成形するプレス成形工程を示す工程説明図である。
【
図6B】
図6Bは、保持器を成形するプレス成形工程を示す工程説明図である。
【
図7A】
図7Aは、保持器を成形する他のプレス成形工程を示す工程説明図である。
【
図7B】
図7Bは、保持器を成形する他のプレス成形工程を示す工程説明図である。
【
図8】電動パワーステアリング装置の概略的な構成図である。
【
図9】
図8に示すIX-IX線の部分断面図である。
【
図11B】
図11Bは、芯金を有するギヤボックスカバーを単体で示す平面図である。
【
図12A】
図12Aは、ギヤボックスカバーを模した形状の成形品の構成図であって、成形品の軸方向断面図である。
【
図12B】
図12Bは、ギヤボックスカバーを模した形状の成形品の構成図であって、成形品の平面図である。
【
図14A】
図14Aは、成形品からの試験片の切り出し位置を示す説明図であって、成形品の側面図である。
【
図14B】
図14Bは、成形品からの試験片の切り出し位置を示す説明図であって、成形品の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明では、複合材料成形品として、転がり軸受の保持器とギヤボックス構成部品を例に説明するが、複合材料成形品はこれらに限らず、円筒状又は円環状等の成形品でもよい。
【0015】
[第1構成例]
図1~
図4は、保持器及び転がり軸受の製造方法により製造される保持器及び転がり軸受の例を示す。
図1は、ころ軸受の部分断面図であり、
図2は、
図1に示すころ軸受に使用される保持器の斜視図である。
【0016】
転がり軸受の一例としての
図1に示すころ軸受11は、外輪13と、内輪15と、複数の転動体17と、保持器19とを備える円筒ころ軸受である。保持器19は、外輪案内形式であって、外輪13の内径面によって保持器19を回転案内するように設定されている。上記のころ軸受11は、高速回転する主軸、例えば工作機械の主軸を支承する用途にも適用される。
【0017】
図2に示すように、保持器19は、軸方向に対向する一対の円環部19Aと、一対の円環部19A同士を接続する複数の柱部19Bとを有する。周方向に対向して配置される一対の柱部19Bと、軸方向に対向する一対の円環部19Aとに囲まれる領域は、転動体17が収容される複数の矩形状のポケット19aとなる。各ポケット19aは、ポケット19a内に配置された転動体17をそれぞれ回転可能に保持する。なお、保持器19の案内面19b(外径方向を向く面)及び転動体17と摺接する面19c(周方向に面した面)には、微細な凹凸がランダムに複数個形成されていてもよい。これら微細な凹凸は、種々の公知の方法で形成できる。例えば、成形時の金型成形面に所望の凹凸形状を形成しておくこと等により、成形時の金型からの転写によって凹凸が得られる。このような凹凸は、軸受の高速回転時に外輪の内径面に摺接する際、外輪の内径面の損傷を抑制する。
【0018】
転がり軸受は、上記のころ軸受に限定されるものはなく玉軸受等の他の形式のものであってもよい。
図3は、玉軸受の部分断面図であり、
図4は、
図3の玉軸受に使用される保持器の斜視図である。
転がり軸受の他の例として示す玉軸受21は、外輪23と、内輪25と、複数の転動体27と、保持器29とを備えるアンギュラ玉軸受である。この場合も
図1,
図2に示すころ軸受11と同様に、保持器29は複数の円形状のポケット29aを有し、ポケット29aに配置された転動体27をそれぞれ回転可能に保持する。
【0019】
上記したような転がり軸受は、特に高速回転環境下においては、保持器が受ける遠心力が増大して、保持器と外輪との接触による摩耗の発生、フープ応力による保持器の破損のおそれ等が生じやすくなる。そのため、使用可能な回転速度に制約が課されてしまう。
【0020】
そこで本実施形態の保持器及び転がり軸受の製造方法は、上述した高速回転にも適用可能な軸受構造にするためのものであり、樹脂製の保持器を抄造工程で作製したプリフォームをプレス成形で形成することにより、保持器の強度、剛性等を高め、遠心力による変形に伴う摩耗や破損を抑制可能にする。これにより、転がり軸受の高速回転環境下での使用においても、良好な潤滑状態を維持したまま、信頼性が高め、長寿命を達成し得る。以下、このような保持器及び転がり軸受を製造し得る、保持器及び転がり軸受の製造方法について説明する。
【0021】
転がり軸受に使用される保持器の製造方法は、主として以下の工程を含む。
(1) 平均繊維長0.5mm以上の強化繊維と熱硬化性樹脂とを溶媒中で分散混合した溶液を作製する工程。
(2) (1)で分散混合した溶液から溶媒を抄造によって除去してプリフォームを形成する工程。
(3) (2)で得られたプリフォームを熱硬化性樹脂の硬化温度以上に設定された成形型によりプレス成形して保持器を成形する工程。
【0022】
次に、上記の各工程について詳細に説明する。
図5A,
図5Bは、強化繊維と熱硬化性樹脂とを溶媒中で分散混合した溶液を作製する工程説明図である。
図5Aに示すように、例えばピレット状の強化繊維31を、溶媒35を収容した容器37内に投入して攪拌機39を駆動する。さらに、例えば粉末状の熱硬化性樹脂33を容器37内に投入して、攪拌機39による混合、拡散を続ける。これにより、
図5Bに示すように、強化繊維31を溶媒35中で開繊させるとともに、強化繊維31と熱硬化性樹脂33とを溶媒中で分散混合した均質な繊維含有スラリーである溶液41を得る。溶媒35としては、安定性、取扱性、材料コストの観点から水(白水)が好ましいが、エタノール、メタノール等の溶剤、又はこれらの混合物であってもよい。
【0023】
強化繊維31は、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサザール繊維から選ばれる少なくとも一つである。特に炭素繊維、ガラス繊維は補強性が良好であるため好ましい。また、上記した各繊維から2種類以上の強化繊維を用いることも可能であり、2種類目以降の強化繊維の種類は特に限定されない。
【0024】
投入する強化繊維31の平均繊維長は0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上がより好ましい。これにより、強化繊維による補強性を安定して確保できる。
【0025】
強化繊維31の溶液41中の配合量は、例えば、10質量%以上、60質量%以下が好ましい。配合量が10質量%以上であれば機械的強度の改善が顕著に得られ、配合量が60質量%以下であれば、材料の靭性を損なわず、目的の強度、剛性を確保できる。
【0026】
熱硬化性樹脂33は、例えば、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリアミノアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも一種類の樹脂からなる。また、熱硬化性樹脂33は、粉末状の形態が好ましい。熱硬化性樹脂33が粉末状であれば、次の抄造工程において、強化繊維31と熱硬化性樹脂33とを十分に分散、混合できる。
【0027】
次に、強化繊維31と熱硬化性樹脂33とが分散、混合された溶液41から溶媒35を抄造(抄紙)によって除去してプリフォームを形成する。つまり、
図5Bにおいて、攪拌により強化繊維31と熱硬化性樹脂33の粉末とを十分に分散させた後、定着剤を投入して混合する。これにより、強化繊維31と熱硬化性樹脂33とを凝着させる。その後、溶媒35を脱水(脱液)し、得られた混合物を乾燥させることでプリフォームを得る。ここで使用する定着剤の種類は特に制限されない。溶媒35の脱水(脱液)は、自重による自然脱水、圧搾等の周知の方法を使用できる。
【0028】
次に、得られたプリフォームを熱硬化性樹脂の硬化温度以上に加熱、保温された金型(以下、「成形型」、「プレス成形金型」ともいう。)でプレス成形して保持器を得る。
図6A,
図6Bは保持器を成形するプレス成形工程を示す工程説明図である。
【0029】
図6Aに示すプレス成形金型51は、円柱状の内径側金型53と、円筒状の外径側金型55と、ベース金型57と、可動金型59とを備える。可動金型59は、円環状の突出部59aを有する。内径側金型53と外径側金型55とは、一方の側面をベース金型57に当接させた状態で、中心軸Axを中心として同芯に配置される。内径側金型53と外径側金型55のそれぞれは、ボルト等の締結具によってベース金型57に固定される。内径側金型53の外周面と外径側金型55の内周面との間には円筒状のクリアランス部61が形成される。プリフォーム63は、プレス成形金型のクリアランス部61にセットされる。
【0030】
上記構成のプレス成形金型51では、クリアランス部61を画成する内径側金型53の外周面が、保持器の内径面を形成し、外径側金型55の内周面が、保持器の外径面を形成する。プリフォーム63は、プレス成形金型51に配置される前の抄造工程において、円環形状に形成されており、この円環形状より大きな円環状空間となるクリアランス部61内に配置される。
【0031】
成形工程では、プレス成形金型51に設けた不図示のヒータ等により金型を予備加熱しておくことが好ましい。これにより、プリフォーム63に含まれる熱硬化性樹脂33を後段の加熱硬化処理時において、容易に流動可能な状態にできる。そして、
図6Bに示す可動金型59の移動(加圧)によるプレス工程にて、プリフォーム63の内径面と外径面とを拘束しながら、円環形状の軸方向(中心軸Axの方向)に加圧して圧縮する。
【0032】
より詳細には、内径側金型53の外周面によりプリフォーム63の内径面を拘束し、外径側金型55の内周面によりプリフォーム63の外径面を拘束し、クリアランス部61に嵌合する円環状の突出部59aを有する可動金型59を、ベース金型57に向けて移動させる。これにより、プリフォーム63を中心軸Axの方向に圧縮する。
【0033】
ここでの拘束とは、圧縮成形前においてはプリフォーム63が金型と軽接触または隙間を有して配置されているが、可動金型59による圧縮に伴って、徐々に密に接して圧縮される状態をいう。この工程では、金型内に配置したプリフォーム63の熱硬化性樹脂33が流動可能な状態であればよく、成形前のプリフォーム63の加熱溶融の有無は問わない。
【0034】
可動金型59をベース金型57に向けて加圧し、プリフォーム63を圧縮成形した後、プレス成形金型51内でプリフォーム63を加熱し、プリフォーム63に含まれる熱硬化性樹脂33を熱硬化させる。このときのプリフォーム63の加熱は、プレス成形金型51を熱硬化性樹脂33の熱硬化開始温度以上に加熱する処理となる。熱硬化性樹脂33の熱硬化条件は、用いるプリフォーム63の樹脂の種類等に応じて適宜設定すればよい。なお、プリフォーム63を圧縮成形しながらプレス成形金型51を加熱して、プレス成形と熱硬化処理とを同時に実施してもよい。その場合にはタクトタイムを短縮できる。上記の圧縮成形と加熱処理によって、圧縮成形体65が得られる。
【0035】
また、上記の熱硬化処理を、保持器の実使用中における寸法収縮の抑制及び機械的特性の向上を目的としたポストキュア工程としてもよい。一般的に、ポストキュア工程を加えることで、成形品の疲労特性、引張強度、耐薬品性が向上する。さらに、上記の熱硬化処理は、金型のキャビティ内にプリフォーム63を配置して、液体の樹脂をキャビティ内に注入して樹脂成形する工程を含んでいてもよい。
【0036】
プレス成形及び熱硬化処理後の圧縮成形体65は、保持器の形状であってもよく、更に圧縮成形体65を機械加工して保持器の形状に仕上げることでもよい。例えば、保持器19,29のポケット19a,29a(
図2、
図4)等は、後加工で形成できる。この場合のポケットの形成手段は、例えば、機械加工、レーザ加工、ウォータカットなどの任意の手段を採用できる。また、プレス成形金型51にスライドコア等を設けて、ポケットをプレス成形と同時に形成してもよい。
【0037】
上記のように製造した保持器を用いて、
図1及び
図3に示す転がり軸受11,21を組み立てて製造する。
【0038】
本実施形態によれば、工作機械の主軸のように、高速回転環境で使用される転がり軸受において、保持器を従来の繊維強化樹脂材料に代えて、抄造(抄紙)工程を用いて作製したプリフォームをプレス成形及び熱硬化処理することで得る。この保持器の製造方法によれば、高強度、高剛性の保持器が得られ、保持器の破損を抑制するとともに、信頼性が高く、長寿命を達成し得る転がり軸受が得られる。
【0039】
次に、プレス成形工程の変形例を説明する。
図7A,
図7Bは、保持器を成形する他のプレス成形工程を示す工程説明図である。
図7Aに示すプレス成形金型71は、外径側金型73が内径側金型53の周方向に沿って複数のブロック73aに分割され、各ブロック73aが中心軸Axを中心とする径方向へ移動可能なスライドコア構造に変更された点以外は、前述のプレス成形金型51と同様である。各ブロック73aは、中心軸Ax方向から見た平面視で放射状に移動する。
【0040】
本構成のプレス成形金型71では、内径側金型53の外周面と外径側金型73の内周面との間の円筒状のクリアランス部61にプリフォーム63がセットされる。そして、可動金型59が不図示の駆動機構によりベース金型57に向けて移動してプリフォーム63の側面を固定する。そして、
図7Bに示すように、複数のブロック73aが不図示の駆動機構により径方向内側に移動することで、プリフォーム63が径方向外側から内側に向けてプレス成形される。この場合のプレス成形は、主に複数のブロック73aの径方向移動により行われるが、可動金型59によるプレスとの協働であってもよい。
【0041】
本構成の場合も、プレス成形金型71を予備加熱しておくことが好ましい。また、複数のブロック73aを径方向内側に向けて加圧し、プリフォーム63を圧縮成形した後、プレス成形金型71内でプリフォーム63を加熱し、プリフォーム63に含まれる熱硬化性樹脂33を熱硬化させる。これにより、前述した場合と同様に圧縮成形体65が得られる。
【0042】
図7A,
図7Bに示す工程によれば、複数のブロック73aを径方向に移動するため、転動体を配置するポケット(
図2,
図4参照)をプレスによって容易に形成できる。これにより加工工数を削減して、効率よく保持器を製造できる。
【0043】
[第2構成例]
次に、複合材料成形品がギヤボックス構成部品の場合を説明する。ここでは、ギヤボックス構成部品を、電動パワーステアリング装置に用いられるギヤボックスの一構成部品として説明するが、ギヤボックス構成部品は、これに限らず他の装置に用いる部品であってもよい。
【0044】
<電動パワーステアリング装置の構成>
図8は電動パワーステアリング装置の概略的な構成図である。
電動パワーステアリング装置100は、電動モータ111による補助出力を、減速歯車機構113を介して車両のステアリング機構115に伝達する。なお、図示例の電動パワーステアリング装置100は一例であって、他の種類の機構であってもよい。
【0045】
図8に示す電動パワーステアリング装置100においては、不図示のステアリングホイールを上端部に固定したステアリング軸117が、ステアリング軸用ハウジング119の内部に回転自在に支承される。また、ステアリング軸用ハウジング119は、その下部を車両の前方に向けて傾斜した状態で、車室内部の所定位置に固定される。
【0046】
ステアリング軸117の回転を左右の操舵輪の運動に変換するラックアンドピニオン機構121は、軸方向に移動自在なラック123と、ピニオン軸125と、ラック123及びピニオン軸125を支承する筒状のラック用ハウジング127とを備える。ピニオン軸125は、ラック123の軸芯に対して斜め方向に支承され、ラック123のギア歯に噛み合うギア歯を備えたピニオンを有する。
【0047】
ラックアンドピニオン機構121は、その長手方向が車両の幅方向に沿うようにして、車両前部のエンジンルーム内にほぼ水平に配置される。また、ピニオン軸125の上端部とステアリング軸117の下端部とは、2個の自在継手129,131で連結される。更に、ラック123の両端部には、不図示の操舵輪が連結される。
【0048】
運転者によりステアリングホイールに操舵トルク(回転力)が加えられると、ステアリング軸117が回転し、その操舵トルクはステアリング軸117に取り付けられたトルクセンサ(不図示)で検出される。そして、検出された操舵トルクに基づいて、電動モータ111の出力(操舵を補助する回転力)が制御される。電動モータ111の出力は、減速歯車機構113を介してステアリング軸117の中間部分に供給され、操舵トルクと合わされて、ラックアンドピニオン機構121によって操舵輪を転舵する運動に変換される。
【0049】
図9は、
図8に示すIX-IX線の部分断面図、
図10は、
図9に示すX-X線の一部断面図である。
図9、
図10に示すように、車体(図示せず)に取り付けられた電動パワーステアリング装置100の減速歯車機構113を収納するギヤボックス133は、
図10に示す有底筒状のギヤボックス本体135及びギヤボックスカバー137をギヤボックス構成部品として備える。ギヤボックスカバー137は、ギヤボックス本体135の開口を塞いでギヤボックス本体135に固定される。即ち、ボルト139をギヤボックスカバー137側に設けた開口に挿通し、ギヤボックス本体135側に設けたねじ孔に締結する。これにより、ギヤボックス本体135とギヤボックスカバー137とが、ボルト139の締結によって一体にされたギヤボックス133が得られる。
【0050】
ギヤボックス133の内部には、中間ステアリング軸148が、第1転がり軸受151及び第2転がり軸受153によって回転自在に支承される。また、ギヤボックス133の内部には、減速歯車機構113が収容されると共に、操舵状態検出センサとしてのトルクセンサ159が収容される。
【0051】
減速歯車機構113は、
図9に示すウォームホイール155と、ウォーム軸157とから構成される。ウォームホイール155は、
図10に示す中間ステアリング軸148の軸方向中間部に固定される。また、
図9に示すウォーム軸157は、電動モータ111の回転軸161にスプライン継手163を介して連結され、ウォームホイール155と噛合する。
【0052】
図10に示すように、ウォームホイール155は、中間ステアリング軸148に、一体回転可能に固定された円板部155aと、円板部155aの外径部に形成された合成樹脂歯155bとを備える。中間ステアリング軸148は、ウォームホイール155の軸方向両側に配置された第1転がり軸受151及び第2転がり軸受153によって、回転自在に支承される。
【0053】
トーションバー167は、ステアリング軸117、及び中間ステアリング軸148の軸中心を貫通して配設され、図中左端部を連結ピン169によって中間ステアリング軸148と一体に固定され、更に、図中右端部をステアリング軸117に圧入されて固定されている。
よって、ステアリング軸117の回転力(操舵トルク)は、トーションバー167を介して中間ステアリング軸148に伝達される。
【0054】
図9に示すように、ウォームホイール155と噛合するウォーム軸157は、ギヤハウジング173によって保持される第3転がり軸受175及び第4転がり軸受177によって回転自在に支承される。ウォーム軸157の基端側の端部は、電動モータ111の回転軸161にスプライン継手163を介して連結されている。
【0055】
<ギヤボックス構成部品>
次に、上記したギヤボックス133について詳述する。
(ギヤボックスの構造)
図10に示すように、ギヤボックス133は、ギヤボックス本体135と、ギヤボックスカバー137とを含む複数のギヤボックス構成部品からなる。ギヤボックス本体135とギヤボックスカバー137のそれぞれは、主に、長繊維の強化繊維(繊維状充填材)が樹脂材料内に分散された樹脂組成部を有して構成される。強化繊維は、使用目的に応じて樹脂材料中に所定の割合で含まれる。これにより、ギヤボックス133を樹脂材料単体で成形した場合と比較して、耐衝撃性、クリープ性、剛性、寸法安定性が向上する。
【0056】
図示例のギヤボックス133は、ギヤボックス本体135とギヤボックスカバー137との2部品で構成されるが、これに限らず、更に他の部品が組み合わされていてよい。その場合、他の部品が上記した長繊維の繊維状充填材を含む樹脂材料であってもよい。
【0057】
強化繊維を含む樹脂製のギヤボックス本体135と、ギヤボックスカバー137とは、互いにボルト139で締結されることで、一体となってギヤボックス133を構成する。ギヤボックス本体135とギヤボックスカバー137とのボルト139による締結部は、金属製のギヤボックス本体135側の芯金143と、金属製のギヤボックスカバー137側の芯金147とをインサート成形して、これにより埋設された芯金143,147同士を連結する構成としてもよい。また、ギヤボックス本体135は、第1転がり軸受151を固定する芯金145を備え、ギヤボックスカバー137は、第2転がり軸受153を固定する芯金149を備えた構成としてもよい。本構成のギヤボックス133は、樹脂組成部を有して構成されるため、全体が金属製の従来品の場合よりも軽量化されると共に、従来品と同等の耐久信頼性を有する。
【0058】
なお、ギヤボックス本体135とギヤボックスカバー137とがボルト締結される接合面には、図示はしないが、Oリング溝と、Oリング溝内に装着されるOリングとを設けることで、ギヤボックス133内に封入されたグリースの漏出を防止することが好ましい。
【0059】
芯金を有する場合のギヤボックス本体135とギヤボックスカバー137は、概略的には
図11A,
図11Bに示す構造となる。
図11Aは、芯金を有するギヤボックス本体135を単体で示す平面図、
図11Bは、芯金を有するギヤボックスカバー137を単体で示す平面図である。
図11Aに示すギヤボックス本体135には、ギヤボックスカバー137との締結部分となる芯金143と、第1転がり軸受151と嵌合される芯金144とが、樹脂組成部141と一体に設けられる。
図11Bに示すギヤボックスカバー137には、ギヤボックス本体135との締結部分となる芯金145と、第2転がり軸受153と嵌合される芯金146とが、樹脂組成部142と一体に設けられる。これら芯金143,144,145,146は、インサート材として樹脂組成部141,142と一体に成形される。
【0060】
上記構成のギヤボックス本体135、ギヤボックスカバー137(以下、ギヤボックス構成部品とも称する)は、概略的には次のように製造される。
まず、平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維を溶媒中で開繊させる。溶媒としては、例えば水を用いることができる。この溶媒中に上記した強化繊維と、樹脂(粉体状、繊維状)とを分散、混合させて繊維含有スラリーを得る。この繊維含有スラリーを、シート又は抄造型により脱水して、水分を除去(乾燥)させることでプリフォームを形成する。ここでは、強化繊維のかさ密度を異ならせた複数種のプリフォーム(詳細は後述)を用意する。ここで形成したプリフォームが基準密度プリフォームであって、基準密度プリフォームを更に圧縮成形することで高密度プリフォームを得る。形成した各かさ密度のプリフォームを成形型にセットし、プリフォームに分散、混合した樹脂が熱硬化性樹脂の場合であれば、加熱硬化させる。熱硬化性樹脂を加熱する温度は特に限定されないが、母材となる樹脂の含浸や溶融が十分進行し、且つ劣化しない温度の範囲内で適宜選定すればよい。これにより、繊維強化樹脂組成物をベースとするギヤボックス構成部品が得られる。
【0061】
(ギヤボックス構成部品の構成材料)
ギヤボックス構成部品の構成材料としては、例えば、樹脂材料としてエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂に、繊維状充填材として、ガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維を配合した材料が好ましい。また、熱硬化性樹脂の一部を熱可塑性樹脂に置き換えてもよい。熱硬化性樹脂を構成材料として用いることで、耐熱性、機械的強度に優れた構成にできる。
また、成形品としての耐久性及び信頼性を考慮すると、熱硬化性樹脂をベース樹脂とし、このベース樹脂に強化繊維を充填させた繊維強化樹脂組成物を用いることが望ましい。
この繊維強化樹脂組成物を用いることにより、ギヤボックス構成部品の耐衝撃性能を必要十分に確保できる。
【0062】
強化繊維は、特に限定されないが、例えばガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、芳香族ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セルロース、セルロースナノファイバー等を例示できる。
【0063】
特に、ガラス繊維、ボロン繊維は、引張強度が高く好ましい。炭素繊維は、耐摩耗性、耐熱性、熱伸縮性、耐酸性、電気伝導性に優れる。金属繊維は、ステンレス、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅等の金属糸を用いることができる。アラミド繊維は、引張強度や摩擦抵抗力が強く、高温・耐薬品性にも優れる。芳香族ポリアミド繊維は、非常に優れた耐熱性と強度を持つ。液晶ポリエステル繊維は、非強化状態でもフィラー強化されたエンジニアリングプラスチックを上回る剛性を持つ。アルミナ繊維は、高温域でも使用でき、耐火性を有する。
【0064】
更に、強化繊維の繊維長さは、平均繊維長が0.5mm以上のものが好ましく、より好ましくは0.7mm以上、さらに好ましくは1mm以上である。平均繊維長が0.5mm未満の繊維を添加したものよりも、平均繊維長が0.5mm以上の繊維を添加した場合には、耐衝撃性、寸法安定性の向上効果が大きい。このため、平均繊維長を0.5mm以上にすることで、複合材における樹脂材の補強効果が確実に得られるようになる。
【0065】
また、繊維強化樹脂組成物中の強化繊維の配合量は、10~60質量%となることが好ましい。強化繊維の繊維強化樹脂組成物中の配合量が10質量%以上であることで、従来品よりも高い耐久性が得られる。また、強化繊維の配合量が60質量%以下であることで、材料の靱性が損なわれず、例えば、耐冷熱衝撃性が不足することがない。
【0066】
繊維強化樹脂組成物は、強化繊維をシラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤等のカップリング剤で処理することで、樹脂材料と強化繊維との親和性を向上できる。これにより、樹脂材料と強化繊維との密着性、並びに分散性を向上できる。なお、カップリング剤は、シラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤に限定されるものではない。
【0067】
そして、本発明の目的を損なわない範囲で、繊維強化樹脂組成物に各種添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、黒鉛、六方晶窒化ホウ素、フッ素雲母、四フッ化エチレン樹脂粉末、二硫化タングステン、及び二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、無機粉末、有機粉末、潤滑油、可塑剤、ゴム、酸化防止材剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光保護剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、流動性改良材、熱伝導性改良剤、非粘着性付与剤、結晶化促進剤、増核剤、顔料、染料剤等を例示できる。
【0068】
(ギヤボックス構成部品の具体的な成形手順)
上記した樹脂材料と強化繊維と各種添加剤とを混合してギヤボックス構成部品を製造する場合には、平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維のかさ密度を異ならせた複数種のプリフォームを、プレス成形により樹脂材及びインサート材と一体に成形する。
【0069】
上記のプリフォームとして、基準とするかさ密度で形成した基準密度プリフォームと、基準密度より高いかさ密度で形成した高密度プリフォームとを用いる。基準密度プリフォームは、平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維のかさ密度(第1のかさ密度)が0.4g/cm3以上、1.0g/cm3以下のものであり、樹脂成形後に必要最小限の強度が得られるように設定される。高密度プリフォームは、上記した第1のかさ密度より高いかさ密度に設定されたものであり、例えば、成形品(金属部を除く樹脂組成物)の密度の50%以上、80%以下となる密度のものが好ましい。
【0070】
上記の基準密度プリフォームは、種々の形状に加工しやすいため、成形品の形状に応じた自在な形状にできる。高密度プリフォームは、形成された基準密度プリフォームを圧縮することで成型でき、強度を向上できる。基準密度プリフォームと高密度プリフォームとには、強化繊維の間に樹脂が分散、混合した状態となっている。つまり、プリフォーム単体のときに強化繊維と樹脂とが混在しているため、後工程の樹脂成形時に基準密度プリフォーム及び高密度プリフォームの内部全体に樹脂が確実に含浸されるようになる。
【0071】
高密度プリフォームは、ギヤボックス構成部品における高い強度を必要とする部位に選択的に設けることが好ましい。こうすることで、高い強度を必要とする部位に強化繊維が高い密度となり、それ以外の部位には比較的低い密度となる形態にでき、成形品の強度を局所的に調整できる。その結果、成形品の部位毎に異なる必要な強度を的確に持たせることができ、且つ、特に強度が必要ない部位には強化繊維の配合量を抑えることができる。また、ギヤボックス構成部品の軽量化を実現できるとともに、金属製の従来品と同等の耐久性及び信頼性を備えた構成にできる。また、強化繊維を無駄に使用することがないため、経済的にも優れた構成にできる。
【0072】
また、芯金143,144,145,146との境界付近の樹脂組成部141,142には、外力の作用によって他の部位よりも大きな応力が発生しやすい。そこで、樹脂組成部141,142のうち、芯金143,144,145,146との境界を含む領域に高密度プリフォームを配置し、他の領域に基準密度プリフォームを配置した構成にしてもよい。
【0073】
図12A,
図12Bは、ギヤボックスカバーを模した成形品80の構成図で、
図12Aは軸方向断面図であり、
図12Bは平面図である。
成形品80は、軸部80aとフランジ部80bとを有し、軸部80aに大きな応力が発生するものとする。その場合、成形型の軸部80aとなる部分に高密度プリフォームを配置し、フランジ部80bとなる部分に基準密度プリフォームを配置し、成形型のキャビティ内に樹脂を供給することで成形する。キャビティ内に供給する樹脂は、基準密度プリフォーム及び高密度プリフォームに分散、混合させる樹脂と同じであることが好ましいが、それ以外にも、他の樹脂に代替えしたり、又は適宜な添加物を混入させたりしてもよい。
【0074】
高密度プリフォームと基準密度プリフォームとは、それぞれ別々にキャビティ内に配置してもよいが、双方を予め一体にしておくことで成形工程を簡素化できる。
図13A,
図13B,
図13Cは、一体化プリフォームの加工工程を示す工程説明図である。
図13Aに示すように、固定側金型83の内側における軸部80a(
図12A,
図12B)に対応する部分に高密度プリフォーム85を配置し、フランジ部80bに対応する部分に基準密度プリフォーム87を配置する。そして、
図13Bに示すように、可動側金型89を固定側金型83に向けて移動させて、双方を一体に、成形品の形状と近くなるように加圧成型する。このとき、配置された各プリフォームに樹脂を追加して盛り付け、樹脂の含浸状態をより均一化することもできる。こうして、
図13Cに示すように、金型内に高密度プリフォーム85と基準密度プリフォーム87とが一体化された一体化プリフォーム90が得られる。
【0075】
次に、得られた一体化プリフォーム90を固定側金型83及び可動側金型89を型開きして取り出す。そして、取り出した一体化プリフォーム90を不図示の樹脂成形型のキャビティに配置し、樹脂成形する。これにより、
図12A,
図12Bに示す成形品80が成形される。これによれば、高密度プリフォーム85と基準密度プリフォーム87とを一体に扱えるため、ハンドリング性が向上して、成形工程の作業性を向上できる。
【0076】
また、一体化プリフォーム90は、固定側金型83及び可動側金型89から取り出さず、そのまま金型内のキャビティに樹脂を供給することで樹脂成形してもよい。つまり、一体化プリフォーム90を形成する金型を、そのまま樹脂成形用の金型として使用して、成形工程を簡略化してもよい。
【0077】
以上より、歯車機構を収納するギヤボックスを構成するギヤボックス構成部品の製造方法は、次の各工程を有する。
(1)平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維が第1のかさ密度で形成された基準プリフォームと、強化繊維が第1のかさ密度(例えば、0.4g/cm3以上、1.0g/cm3以下)よりも高い第2のかさ密度で形成された高密度プリフォームとを用意する工程。
(2)基準プリフォーム及び高密度プリフォームを、成形型のキャビティに配置する工程。
(3)キャビティに樹脂を充填して、基準プリフォーム及び高密度プリフォームとともに樹脂成形する工程。
【0078】
本構成のギヤボックス構成部品は、高密度プリフォームを設けた部分と、基準プリフォームを設けた部分とを有し、高密度プリフォームを設けた部分は、他の部位と比較して強化繊維の密度が高められ、成形品の耐衝撃性、クリープ特性、剛性を向上できる。また、
従前の金属製のギヤボックス構成部品と比べて軽量化を実現できる。基準密度プリフォームだけで成形する場合には、成形時に強化繊維が流動して配向方向に乱れが生じ、強度低下が生じやすくなる。一方、高密度プリォームを用いて成形すると、成形時に強化繊維の流動が生じないため、成形品の強度が高くなるが、製品の末端に強化繊維が充填されない場合がある。そのため、高密度プリフォームと基準密度プリフォームとを組み合わせることにより、高密度プリフォームにより成形品強度を維持しつつ、基準密度プリフォームにより成形品の末端まで強化繊維を充填させ、これにより、成形品全体に強化繊維が分散された構成となる。
【0079】
また、高密度プリフォームをインサート材に接合してキャビティに配置することで、インサート材との境界を含む領域の強度を選択的に向上できる。成形品がインサート材の部分に大きな外力が負荷される場合には、高強度な優れた構成にできる。
【0080】
図11A,
図11Bに示すようなギヤボックス本体135とギヤボックスカバー137の場合には、締結部分の芯金143,145、及び第1転がり軸受151及び第2転がり軸受153と嵌合する芯金144,146をコアとした、樹脂材料のインサート成形により製造される。これにより、成形品の寸法安定性が良好となる。また、ギヤボックス本体135とギヤボックスカバー137との双方の固定強度を高められる。そして、ギヤボックス本体135とギヤボックスカバー137とを金属製の場合と同様にボルトで締結できるため、軽量化の実現と同時に、従来品と同等の耐久性及び信頼性が得られる。
【0081】
さらに、本構成のギヤボックス本体135及びギヤボックスカバー137においては、樹脂材料として熱硬化性樹脂材料を適用する場合、金属製の心金と転がり軸受の内外輪とに粗面化処理を施さなくとも、必要十分な信頼性で互いを接着できる。更に高信頼性の接着強度を確保するためには、芯金表面、軌道輪表面、即ち、接合面に接着剤を塗布することが好ましい。その場合、所望の強い接着状態が得られるようになる。
【0082】
以上の方法によれば、金属製の芯金部以外は、0.5mm以上の平均繊維長を有する強化繊維が、必要とされる強度に応じたかさ密度で樹脂材料に含ませて成形した、高強度なギヤボックス構成部品が得られる。
【0083】
上記の製造方法では、予めある程度の樹脂が含浸させてあるプリフォームを金型のキャビティ内に配置した後、溶融した樹脂をキャビティに注入し、加圧する樹脂成形プロセスを実施する。この方法によれば、成形品の表面に強化繊維を包み込む樹脂からなり、平滑面を有するスキン層が形成される。このスキン層の形成により、成形品の機械的強度が向上し、寸法安定性が向上する。上記の製造方法は、例えば保持器の製造に好適に使用でき、高強度で寸法精度の高い案内面を容易に形成できる。
【0084】
ここで、高密度プリフォームと基準密度プリフォームを用いる保持器の製造方法を説明する。
例えば、
図2に示す保持器19を例に説明すると、保持器19の円環部19Aには高密度プリフォームを適用し、柱部19Bには基準密度プリフォームを適用するのが好ましい。その場合の具体的な製造工程は、次の手順を有する。
【0085】
まず、保持器19の形状に合わせて、円環部19Aに対応する円環形状の高密度プリフォームと、柱部19Bに対応する柱形状の基準密度プリフォームを前述した抄造により形成する。得られた高密度プリフォームを、成形型のキャビティ内における円環部19Aを成形する部位に配置し、基準密度プリフォームを、キャビティ内における柱部19Bを成形する部位に配置する。そして、成形型を型締めし、加熱した後、溶融した樹脂をキャビティ内に注入する。キャビティ内の溶融樹脂が硬化した後に型開きすることで、高密度プリフォームを含む円環部19Aと、基準密度プリフォームを含む柱部19Bとが一体となって樹脂が含浸された複合材料成形品の保持器が得られる。この保持器の表面には、スキン層が形成される。
【0086】
このように成形した保持器によれば、円環部19Aが高強度で、且つ高精度に形成されるため、外輪案内方式又は内輪案内方式の保持器として好適となる。また、柱部19Bは、円環部19Aと比較して柔軟性を有するため、転動体(ころ)をポケットに挿入しやすくなる。
【0087】
また、ここで用いるプリフォームは、高密度プリフォームと低密度プリフォームとを別々に作成することでもよいが、保持器形状の全体を低密度プリフォームで一旦形成し、円環部19Aに対応する部分を選択的に圧縮して高密度プリフォームにしてもよい。その場合、円環部19Aに対応する部分は、圧縮分を加味した大きな寸法の低密度プリフォームで形成して、圧縮により所望の寸法にすればよい。
【0088】
上記の複合材料成形品は、保持器に限らず、円筒状又は円環状のものであれば、上記と同様に成形できる。さらに、円筒面からなる内周面を有する成形品の場合、この成形品の内周面に、対応する形状の外周面を有する部材を容易に嵌合できる。例えば、ハウジングに、転がり軸受の外輪外周面を嵌入する孔部を高強度且つ高精度に形成できる。
【実施例】
【0089】
以下に複合材料成形品であるギヤボックス構成部品として、前述した
図12A,
図12Bに示すギヤボックスカバーを模した形状の成形品80を例に、その強度を評価した結果を説明する。ただし、本発明は
図12A,
図12Bに示す形状によって何ら制限されるものはない。
【0090】
(試験例1)
強化繊維のかさ密度が1.1g/cm3となるように配合を計算のうえ抄造したものを含む軸部80aに対応する形状の高密度プリフォームと、強化繊維のかさ密度が0.6g/cm3となるように配合を計算のうえ抄造したものを含む円筒部以外の部位に対応する形状の基準プリフォームとをそれぞれ作製し、これらプリフォームを成形型のキャビティに設置した後、溶融した樹脂材料をキャビティに注入してプリフォームとともにプレス成形し、成形品を作製した。
【0091】
(試験例2)
強化繊維のかさ密度が0.6g/cm3となるように配合を計算のうえ抄造したものを含み、成形品に対応する形状の基準プリフォームを作製し、成形型のキャビティに設置した後、溶融した樹脂材料をキャビティに注入してプリフォームとともにプレス成形した。これにより、成形品を作製した。
【0092】
試験例1、2では、強化繊維として平均繊維長が5.0mmの炭素繊維を使用し、樹脂材としてフェノール樹脂を使用した。また、高密度プリフォームは、基準密度プリフォームを棒体に巻き付け、円筒形状を二分した半割の金型2つを用いて、棒体に向けて径方向に圧縮することで形成した。圧縮時の温度は、樹脂の硬化温度を超えないように調整した。その後、加熱により樹脂を硬化させた。
【0093】
試験例1と試験例2の成形品から、
図14A,
図14Bに示すフランジ部80bの上面を含む平面部91と、フランジ部80bの側面を含む側面部93と、軸部80aの側面の円筒部95との各部位から試験片を切り出し、各試験片の曲げ試験を実施した。試験結果を表1に示す。なお、曲げ試験は、ISO178(JIS K7171)に準拠した試験方法である。
【0094】
【0095】
表1に示すように、試験例2では、平面部91と側面部93との曲げ強度よりも、円筒部95の曲げ強度が低くなった。一方、試験例1は、平面部91、側面部93、円筒部95の全ての部位でほぼ同等の高い曲げ強度が得られる結果となった。つまり、試験例2の基準密度プリフォームでは、成形品の部位によって曲げ強度が低下するが、試験例1の高密度プリフォームを使用した場合には、成形品の部位によらず、高い強度が安定して得られることがわかった。
【0096】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(A1) 転がり軸受に使用される保持器の製造方法であって、
平均繊維長0.5mm以上の強化繊維と熱硬化性樹脂とを溶媒中で分散混合した溶液を作製する工程と、
前記分散混合した溶液から前記溶媒を抄造によって除去してプリフォームを形成する工程と、
得られた前記プリフォームを前記熱硬化性樹脂の硬化温度以上に設定された金型によりプレス成形して前記保持器を成形する工程と、
を含む、保持器の製造方法。
この保持器の製造方法によれば、抄造によって形成されたプリフォームをプレス成形して保持器を成形するため、高速回転環境下での使用においても、良好な潤滑状態が保たれ、信頼性が高く、長寿命を達成できる。
(A2) 前記強化繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサザール繊維から選ばれる少なくとも一つである、(A1)に記載の保持器の製造方法。
この保持器の製造方法によれば、強化繊維による補強性を確保できる。
(A3) 前記強化繊維の前記溶液中の配合量は、10質量%以上、60質量%以下である、(A1)又は(A2)に記載の保持器の製造方法。
この保持器の製造方法によれば、機械的強度の改善が顕著に得られ、材料の靭性を損なわず、目的の強度、剛性を確保できる。
(A4) 前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリアミノアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも一つである、(A1)から(A3)のいずれか1つに記載の保持器の製造方法。
この保持器の製造方法によれば、熱硬化処理により保持器を容易に硬化できる。
(A5) 前記熱硬化性樹脂は、粉末状である、(A4)に記載の保持器の製造方法。
この保持器の製造方法によれば、抄造工程において強化繊維と熱硬化性樹脂とを十分に分散、混合できる。
(A6) 前記プレス成形は、前記保持器の径方向外側から圧縮成形する、(A1)から(A5)のいずれか1つに記載の保持器の製造方法。
この保持器の製造方法によれば、プリフォームを径方向外側から径方向内側に向けてプレス成形できる。
(A7) (A1)から(A6)のいずれか1つに記載の保持器の製造方法により製造された前記保持器を用いて、転がり軸受を製造する、転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、高速回転環境下での使用においても、良好な潤滑状態を維持したまま、信頼性を高め、長寿命を達成できる。
【0097】
(B1) 歯車機構を収納するギヤボックスを構成するギヤボックス構成部品の製造方法であって、
平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維が第1のかさ密度で形成された基準プリフォームと、前記強化繊維が前記第1のかさ密度よりも高い第2のかさ密度で形成された高密度プリフォームとを用意する工程と、
前記基準プリフォーム及び前記高密度プリフォームを、成形型のキャビティ内に配置する工程と、
前記キャビティに樹脂を充填して、前記基準プリフォーム及び前記高密度プリフォームとともに樹脂成形する工程と、
を含むギヤボックス構成部品の製造方法。
このギヤボックス構成部品の製造方法によれば、高密度プリフォームが設けられた部分と、基準プリフォームが設けられた部分とを有するギヤボックス構成部品が成形される。
これにより、特に高い強度が必要となる部位を、高密度プリフォームの配置により、他の部位と比較して強化繊維の密度を高められる。よって、耐衝撃性、クリープ特性、剛性、寸法安定性に優れた特性が得られ、金属製の場合と比較して、軽量化を実現できる。
【0098】
(B2) 前記第1のかさ密度は、0.4g/cm3以上、1.0g/cm3以下である、(B1)に記載のギヤボックス構成部品の製造方法。
このギヤボックス構成部品の製造方法によれば、必要最小限の強度を維持できる。
【0099】
(B3) 前記基準プリフォームと前記高密度プリフォームとには、前記強化繊維の間に前記樹脂が混在している、(B1)又は(B2)に記載のギヤボックス構成部品の製造方法。
このギヤボックス構成部品の製造方法によれば、基準プリフォームと高密度プリフォームに予め樹脂が混在していることで、プリフォームの内部まで確実に樹脂を含浸させることができる。
【0100】
(B4) 前記成形型への樹脂充填前に、前記基準プリフォームと前記高密度プリフォームとを一体に加圧成形する工程を含む、(B1)から(B3)のいずれか1つに記載のギヤボックス構成部品の製造方法。
このギヤボックス構成部品の製造方法によれば、基準プリフォームと高密度プリフォームとが一体になるため、プリフォーム同士がすき間なく接合されて、強化繊維を一様に分布させることができる。また、一体となったプリフォームを取り扱う場合に、プリフォームのハンドリング性を向上でき、成形工程の作業性を向上できる。また、基準プリフォームは加圧成型時に様々な形状に加工しやすいため、種々の形状のギヤボックスを製造できる。
【0101】
(B5) 前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維の少なくとも一つを含む、(B1)から(B4)のいずれか1つに記載のギヤボックス構成部品の製造方法。
このギヤボックス構成部品の製造方法によれば、ギヤボックス構成部品を軽量で高強度な部品にできる。
【0102】
(B6) 前記樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂のいずれかである、(B1)から(B5)のいずれか1つに記載のギヤボックス構成部品の製造方法。
このギヤボックス構成部品の製造方法によれば、ギヤボックス構成部品を、耐熱性、曲げ、歪曲等のクリープ特性に優れた部品にできる。
【0103】
(B7) 前記樹脂成形により、前記強化繊維を10~60質量%含む熱可塑性樹脂組成物を形成する、(B1)から(B6)のいずれか1つに記載のギヤボックス構成部品の製造方法。
このギヤボックス構成部品によれば、樹脂単体と比較して、耐衝撃性、クリープ性、剛性、寸法安定性を向上できる。
【0104】
(B8) 前記高密度プリフォームを前記キャビティ内に配置する工程は、前記高密度プリフォームを金属製のインサート材に接合して配置する、(B1)から(B7)のいずれか1つに記載のギヤボックス構成部品の製造方法。
このギヤボックス構成部品の製造方法によれば、高密度プリフォームがインサート材と接触して設けられることで、インサート材の周囲における強化繊維の密度を選択的に増加させて、成形後の強度を高められる。
【0105】
(B9) 前記ギヤボックス構成部品は、電動モータによる補助出力を、減速歯車機構を介して車両のステアリング機構に伝達する電動パワーステアリング装置における、前記減速歯車機構を収納するギヤボックスを構成する部品である、(B1)から(B8)のいずれか1つに記載のギヤボックス構成部品の製造方法。
このギヤボックス構成部品の製造方法によれば、軽量で、且つ金属製の場合と同等の耐久性及び信頼性を有する、電動パワーステアリング装置のギヤボックスが得られる。
【0106】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。例えば、複合材料成形品としての歯車装置などへの適用も可能である。
【0107】
なお、本出願は、2021年5月14日出願の日本特許出願(特願2021-082611)、及び2022年4月22日出願の日本特許出願(特願2022-071024)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0108】
11 ころ軸受(転がり軸受)
19,29 保持器
19A 円環部
19B 柱部
19a ポケット
21 玉軸受(転がり軸受)
29 保持器
29a ポケット
31 強化繊維
33 熱硬化性樹脂
35 溶媒
37 容器
39 攪拌機
41 溶液
51 プレス成形金型(成形型)
53 内径側金型
55 外径側金型
57 ベース金型
59 可動金型
59a 突出部
61 クリアランス部
63 プリフォーム
65 圧縮成形体
71 プレス成形金型(成形型)
73 外径側金型
73a ブロック
80 成形品
111 電動モータ
113 減速歯車機構
115 ステアリング機構
117 ステアリング軸
119 ステアリング軸用ハウジング
121 ラックアンドピニオン機構
123 ラック
125 ピニオン軸
127 ラック用ハウジング
129,131 自在継手
133 ギヤボックス
135 ギヤボックス本体(ギヤボックス構成部品)
137 ギヤボックスカバー(ギヤボックス構成部品)
139 ボルト
141,142 樹脂組成部
143,144,145,146,147,149 芯金(インサート材)
148 中間ステアリング軸
151 第1転がり軸受
153 第2転がり軸受
155 ウォームホイール
155a 円板部
155b 合成樹脂歯
157 ウォーム軸
159 トルクセンサ
161 回転軸
163 スプライン継手
167 トーションバー
169 連結ピン
173 ギヤハウジング
175 第3転がり軸受
177 第4転がり軸受
100 電動パワーステアリング装置