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特許7302754ガスバリア性塗料組成物及びガスバリア性積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ガスバリア性塗料組成物及びガスバリア性積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20230627BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230627BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/63
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022555526
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2021036942
(87)【国際公開番号】W WO2022075352
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020168908
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】宮井 智弘
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 碧
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-062495(JP,A)
【文献】特開2007-111613(JP,A)
【文献】特公昭57-042032(JP,B2)
【文献】国際公開第2011/122036(WO,A1)
【文献】特開2008-115375(JP,A)
【文献】国際公開第2017/200020(WO,A1)
【文献】特開2005-126528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物、リン酸化合物、及びリン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩を含有することを特徴とするガスバリア性塗料組成物。
【請求項2】
前記多価金属のカルボン酸塩が、多価金属イオン及び有機カルボン酸を含むアミン化合物から成る請求項1記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項3】
前記多価金属イオンが、アルミニウムイオンである請求項2記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項4】
前記アミン化合物が、アミノ酸である請求項2又は3記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項5】
前記多価金属のカルボン酸塩が、アルミニウムグリシナートである請求項1~4の何れかに記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項6】
前記金属酸化物が、ジルコニウム酸化物である請求項1~5の何れかに記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項7】
前記リン酸化合物が、オルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、環状ポリリン酸の少なくとも1種である請求項1~5の何れかに記載のガスバリア性塗料組成物。
【請求項8】
基材上に、請求項1~7の何れかに記載のガスバリア性塗料組成物からなる塗膜を有することを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項9】
前記塗膜が、赤外線吸収スペクトルにおいて1000~1130cm-1の範囲に赤外吸収が最大となる吸収ピークを有する請求項8記載のガスバリア性積層体。
【請求項10】
前記塗膜が、金属酸化物を有することを特徴とする請求項8又は9記載のガスバリア性積層体。
【請求項11】
前記塗膜が、XPSによるNの結合エネルギーが400~405eVの範囲で最大となるピークを有する請求項8~10記載のガスバリア性積層体。
【請求項12】
前記塗膜が、ポリアミド縮合物を含有する請求項8~11記載のガスバリア性積層体。
【請求項13】
前記塗膜が、多価金属のカルボン酸塩を含有する請求項8~12の何れかに記載のガスバリア性積層体。
【請求項14】
前記基材と塗膜の間にアンカーコート層を有する請求項8~13の何れかに記載のガスバリア性積層体。
【請求項15】
前記基材が12μm厚の二軸延伸ポリエステルから成り、該基材上に塗工量1.0g/mの前記塗膜が形成され、該塗膜の上に50μm厚の無延伸ポリプロピレンフィルムが配置されている場合に、酸素透過量が25cc/m・day・atm(40℃90%RH)以下であり、且つ水蒸気透過量が5.5g/m・day(40℃90%RH)以下である請求項8~14の何れかに記載のガスバリア性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物、リン酸化合物及びリン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩を構成成分とするガスバリア性塗料組成物に関するものであり、より詳細には、酸素バリア性及び水分バリア性に優れていると共に、塗膜形成時に無機酸の発生が有効に防止された塗料組成物、並びに該塗膜を含むガスバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック基材上に、金属原子とリン原子とを構成成分とするフィルムを形成して成るガスバリア性積層体が従来から知られている。
例えば下記特許文献1には、金属対リンの原子比が約2.3~0.5であり、金属原子の50~100%がアルミニウムであり、金属原子の0~50%が錫、チタン及びジルコニウムから選ばれ、金属原子の0~約20%が亜鉛、クロム及びマグネシウムから選ばれた金属オルトリン酸塩から成る実質的に連続的でかつ実質的に非結晶性のガス透過防止膜が提案されている。
【0003】
しかしながら、かかるガス透過防止膜は、酸素バリア性と水蒸気バリア性の点で未だ満足するものではなかった。また、被覆する基質への付着力向上として樹脂を添加することが示されているが、樹脂の添加により、塗膜の酸素と水蒸気バリア性能を向上する効果については、明らかとされていなかった。
このような問題を解決するために、下記特許文献2には、基材(X)と前記基材(X)に積層された層(Y)とを有する複合構造体であって、前記層(Y)は反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応して成る反応生成物であり、800~1400cm-1の範囲における前記層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて赤外線吸収が最大となる端数(n)が1080~1130cm-1の範囲にあり、前記金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)がアルミニウムである、複合構造体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭57-42032号公報
【文献】特許第4961054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2による複合構造体は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性の両方を満足するものであるが、アルミニウム酸化物を原料とするものであることから、内容物が有する酸やアルカリに対し、安定性の点で懸念があった。
本発明者等はこのような問題を解決するために、ジルコニウム酸化物、リン酸化合物及びアミン化合物から成るガスバリア性塗料組成物を提案した(特願2020-55007)。
かかるガスバリア性塗料組成物は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性の両方を有する塗膜を形成することができるが、ジルコニウム酸化物分散体を安定化させるために添加される無機酸がガスバリア塗膜の形成時に揮発して、設備や作業環境へ悪影響を与えるという問題があった。このような問題を解決するために、安定化剤として無機酸を使用しないジルコニウム酸化物を使用することが考えられるが、一方でアミン化合物を添加しても十分な水分バリア性能が得られないという他の問題が生じていた。
【0006】
従って本発明の目的は、金属酸化物及びリン酸化合物から成るガスバリア性塗料組成物において、より優れた酸素バリア性及び水蒸気バリア性並びに透明性を有するガスバリア性塗膜を、無機酸の揮発を生じることなく形成可能な塗料組成物、及びこのガスバリア性塗膜(ガスバリア層)を備えたガスバリア性積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、金属酸化物、リン酸化合物、及びリン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩を含有することを特徴とするガスバリア性塗料組成物が提供される。
本発明のガスバリア性塗料組成物においては、
1.前記多価金属のカルボン酸塩が、多価金属イオン及び有機カルボン酸を含むアミン化合物から成ること、
2.前記多価金属イオンが、アルミニウムイオンであること、
3.前記アミン化合物が、アミノ酸であること、
4.前記多価金属のカルボン酸塩が、アルミニウムグリシナートであること、
5.前記金属酸化物が、ジルコニウム酸化物であること、
6.前記リン酸化合物が、オルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、環状ポリリン酸の少なくとも1種であること、
が好適である。
【0008】
本発明によればまた、基材上に、上記ガスバリア性塗料組成物からなる塗膜を有することを特徴とするガスバリア性積層体が提供される。
本発明のガスバリア性積層体においては、
1.前記塗膜が、少なくとも2種類の金属のリン酸塩化合物から成り、赤外線吸収スペクトルにおいて1000~1130cm-1の範囲に赤外吸収が最大となる吸収ピークを有すること、
2.前記塗膜中に、少なくとも一種の金属酸化物を含むこと、
3.前記塗膜が、XPSによるNの結合エネルギーが400~405eVの範囲で最大となるピークを有すること、
4.前記基材と塗膜の間にアンカーコート層を有すること、
5.前記基材が12μm厚の二軸延伸ポリエステルから成り、該基材上に塗工量1.0g/mの前記塗膜が形成され、該塗膜の上に50μm厚の無延伸ポリプロピレンフィルムが配置されている場合に、酸素透過量が25cc/m・day・atm(40℃90%RH)以下であり、且つ水蒸気透過量が5.5g/m・day(40℃90%RH)以下であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガスバリア性塗料組成物においては、金属酸化物及びリン酸化合物と共に、リン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩が使用されていることにより、多量の無機酸を使用することなく金属酸化物粒子が高度に分散したバリア性塗料組成物を得ることが可能となる。その結果、塗膜の形成時に無機酸が揮発することがないため、設備への影響を低減できると共に、作業環境が悪化することもなく、金属酸化物とリン酸化合物による均一且つ緻密な架橋構造を形成することができ、優れた酸素バリア性及び水蒸気バリア性を発現可能な塗膜を形成することが可能になる。
また多価金属のカルボン酸塩は、多価金属イオンが金属イオンを補足して金属イオン不足を解消することができると共に、有機カルボン酸を含むアミン化合物が金属イオン及びリン酸と反応して上記架橋構造に取り込まれ、金属酸化物粒子間のバインダーとして機能することから、欠陥の少ない塗膜が形成されるため、上述した均一且つ緻密な架橋構造と相俟って、より優れた酸素バリア性及び水蒸気バリア性を発現することができる。その結果、本発明のガスバリア性塗料組成物によれば、非レトルト用途はもちろん、レトルト殺菌にも対応可能なガスバリア性積層体を提供することができる。
また金属化合物としてジルコニウム酸化物を用いることにより、内容物が有する酸やアルカリに対しても安定な塗膜を形成することが可能であり、更に優れた酸素バリア性及び水蒸気バリア性が発現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のガスバリア性積層体の一例の断面構造を示す図である。
図2】本発明のガスバリア性積層体の他の一例の断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ガスバリア性塗料組成物)
本発明のガスバリア性塗料組成物は、金属酸化物、リン酸化合物及びリン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩を含有することが重要な特徴である。
前述したとおり、本発明においては金属酸化物とリン酸化合物と共に、リン酸に可溶な多価金属のカルボン塩を含有することにより、無機酸を含有しなくとも、金属酸化物粒子の分散性を向上することができ、優れた酸素バリア性及び水蒸気バリア性が得られることを見出した。
【0012】
[金属酸化物]
本発明のガスバリア性塗料組成物に用いられる金属酸化物としては、2価以上の金属原子の酸化物であることが好適であり、これに限定されないが、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム等の酸化物を例示することができ、中でもジルコニウム酸化物を好適に使用できる。
ジルコニウム酸化物は、成分元素としてZrとOを含有するものであり、非晶質ジルコニウム酸化物としては、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))及び/又は水酸化ジルコニル(ZrO(OH))を主成分として含有し、結晶質ジルコニウム酸化物としては、主成分として水和酸化ジルコニウム(ZrO・xHO)及び/又は酸化ジルコニウム(ZrO)を主成分として含有する。尚、主成分とは50%以上の割合で含有する成分を意味する。ジルコニウム酸化物、及びガスバリア性塗膜化したジルコニウム酸化物の結晶性については、従来公知のX線構造回折装置を用い、結晶性ジルコニウムに固有のX線ピークを同定することで評価することができる。
本発明においては、ジルコニウム酸化物は、結晶質又は非晶質のいずれのジルコニウム酸化物(ジルコニア)を使用することもできる。
【0013】
一般にジルコニウム酸化物は、ジルコニウム酸化物粒子を分散質とし、安定化剤として硝酸等の無機酸が配合されたゾルの状態で使用されているが、本発明においては、前述した通り、無機酸を含有することによる塗膜形成時の酸の揮散を防止するために、硝酸等の無機酸に変えて、炭酸塩や炭酸アンモニウム塩、有機系の分散剤等が用いられた酸化ジルコニウムのゾルを使用することが好適である。
またリン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩として、後述するアルミニウムグリシナートのようなアミン化合物を配合することにより均一且つ緻密で欠陥のない塗膜形成が可能であることから、結晶質のジルコニウム酸化物を用いた場合でも、リン酸化反応に利用される水酸基が多い非晶質ジルコニウムを用いた場合と同等の酸素バリア性及び水分バリア性の両方を兼ね備えることができる。
またジルコニウム酸化物は、一次粒子の平均粒径(D50)が100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下であることが望ましく、これにより透明性に優れた均一な塗膜を形成することができる。尚、平均粒径(D50)は、レーザー回折・散乱法により測定された体積平均粒径であり、D50は体積基準の粒度分布における50%の値である。このような微粒子タイプのジルコニウム酸化物を原料として用いることで、優れた透明性を発現することができる。
【0014】
[リン酸化合物]
本発明に用いるリン酸化合物としては、オルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体が挙げられる。ポリリン酸の具体例としては、ピロリン酸、三リン酸、4つ以上のリン酸が縮合したポリリン酸などが挙げられる。上記の誘導体の例としては、オルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、の塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(塩化物等)、脱水物(五酸化ニリン等)などが挙げられる。また、ホスホン酸の誘導体の例には、ホスホン酸(H-P(=O)(OH))のリン原子に直接結合した水素原子が種々の官能基を有していてもよいアルキル基に置換されている化合物(例えば、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)等)や、その塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物及び脱水物も含まれる。更に、リン酸化でんぷんなど、リン原子を有する有機高分子も使用することができる。これらのリン酸化合物は、単独或いは2種以上の組み合わせで使用することができる。
本発明においては特にオルトリン酸、メタリン酸、ポリリン酸、環状ポリリン酸の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0015】
[多価金属のカルボン酸塩]
本発明に用いるリン酸に可溶な多価金属のカルボン酸塩としては、多価金属イオンと、有機カルボン酸を含有するアミン化合物とから成るものを好適に使用することができる。リン酸によって溶解された多価金属のカルボン酸塩から溶出した多価金属イオンが、金属酸化物とリン酸との架橋構造における粒子間のバインダー中の金属イオン不足を補うことにより、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を更に向上することができる。
多価金属のカルボン酸塩における多価金属イオンとしては、カルボキシル基を架橋可能な多価金属イオンを提供できる限り特に制限されない。多価金属イオンとしては、アルカリ土類金属(マグネシウムMg、カルシウムCa、ストロンチウムSr、バリウムBa等)、周期表8族金属(鉄Fe、ルテニウムRu等)、周期表11族金属(銅Cu等)、周期表12族金属(亜鉛Zn等)、周期表13族金属(アルミニウムAl等)等の金属イオンが例示できるが、特に2~3価であることが好ましく、好適にはアルミニウムイオンを使用できる。また、上記金属イオンは1種又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0016】
多価金属イオンと多価金属のカルボン酸塩を形成可能な、有機カルボン酸を含有するアミン化合物としては、アミノ基及びカルボキシ基を有するアミノ酸化合物を例示することができる。
アミノ酸化合物としては、グリシン、アラニン、セリン、トリプトファン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸等のα-アミノ酸、β-アラニン等のβ-アミノ酸、γ-アミノ酪酸等のγ-アミノ酸、並びにアミノ酸のポリマー等を例示でき、これらの1種以上を組み合わせで用いることができ、特にグリシン、アスパラギン酸を好適に使用することができる。
本発明においては、多価金属のカルボン酸塩としては特に、アルミニウムグリシナートを好適に使用することができる。
【0017】
[組成物の調製]
本発明のガスバリア性塗料組成物は、上述した金属酸化物、リン酸化合物及び多価金属のカルボン酸塩を含有する限り、水系又は溶剤系のいずれの組成物であってもよいが、水性組成物であることが好適である。
ガスバリア性塗料組成物においては、上記金属酸化物として、金属酸化物微粒子を分散質とするゾルを使用することが望ましい。前述した通り、本発明においては、金属酸化物微粒子を分散質とするゾルにおいて、安定化剤として無機酸を含有しないゾルを使用することが好ましい。
また同様の理由から、本発明のガスバリア性塗料組成物においては、金属酸化物微粒子の分散性を向上し、透明性及び粘度安定性に優れた分散液とするために使用されていた、硝酸、塩酸、酢酸等の揮発性と腐食性を有する無機酸を解膠剤として使用しないことが望ましい。
【0018】
次いでリン酸化合物及び多価金属のカルボン酸塩を溶解可能な溶媒中で、リン酸化合物、多価金属のカルボン酸塩及び金属ジルコニウム酸化物を混合する。
このような水性媒体としては、蒸留水、イオン交換水、純水等を従来公知の水性媒体を使用することができ、公知の水性組成物と同様に、アルコール、多価アルコール、その誘導体等やケトン等の有機溶媒を含有することができる。このような共溶剤を用いる場合には、水性組成物中の樹脂分に対して、1~90重量%含有することができる。上記範囲で溶剤を含有することにより、製膜性能が向上する。このような有機溶媒としては、両親媒性を有するものが好ましく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0019】
また、本発明においてはガスバリア積層体形成用の塗料の調製には、一般的に知られる分散処理を行うことができる。分散処理の方法として、超音波ホモジナイザーを用いたキャビテーションによる微粒子の粉砕処理や、回転羽根を用いたディスパーによる機械的な分散処理、ガラスやジルコニアビーズを用いたミルによる分散が知られている。本発明においては、これら塗料の微分散化処理を好適に用いることができる。
【0020】
本発明のガスバリア性塗料組成物において、リン酸化合物及び多価金属のカルボン酸塩は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を損なわない範囲で添加することができる。
リン酸化合物は、前記金属酸化物又は多価金属のカルボン酸塩と、リン酸化合物の蛍光X線測定によるネット強度比P(P-kα)/M(M-kα)が0.5~20の範囲となるように配合することが好適であり、金属酸化物としてジルコニウム酸化物を使用する場合には、ジルコニウム酸化物とリン酸化合物の蛍光X線測定によるネット強度比P(P-kα)/Zr(Zr-kα)が1.0~8.0の範囲、特に2.0~7.0の範囲となるように配合することが好適である。また多価金属のカルボン酸塩としてアルミニウム塩を使用する場合には、アルミニウム塩とリン酸化合物の蛍光X線測定によるネット強度比P(P-kα)/Al(Al-kα)が0.1~12.0の範囲、特に3.0~8.0の範囲となるように配合することが好適である。
【0021】
またガスバリア性塗料組成物において、多価金属のカルボン酸塩は、用いる多価金属のカルボン酸塩の種類によってその添加量は異なり一概に規定できないが、金属酸化物100質量部に対して1~300質量部、特に5~50質量部の量で添加することが好適である。上記範囲よりも添加量が少ない場合には、多価金属のカルボン酸塩を添加することにより得られる作用効果が上記範囲にある場合に比して十分に得られず、上記範囲よりも添加量が多くてもさらなる効果が得られないだけでなく、上記範囲にある場合に比して塗膜のバリア構造に欠陥を生じるおそれがある。
ガスバリア性塗料組成物においては、上記成分の他に、架橋剤、金属錯体、高分子化合物、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤等を含有することもできる。
【0022】
(ガスバリア性塗膜)
本発明のガスバリア性塗料組成物から形成されるガスバリア性塗膜は、前述した金属酸化物、リン酸化合物及び多価金属のカルボン酸塩から成り、具体的には、リン酸エステル結合が形成され、金属酸化物とリン酸化合物が架橋されていることにより緻密な架橋構造を形成することが可能となる。また多価金属のカルボン酸塩における有機カルボン酸を含有するアミン化合物は、金属イオン及びリン酸と反応してアンモニウム塩化合物を形成して上記架橋構造に取り込まれるか、アミン化合物同士が縮合したポリアミドの形となり複合構造体を形成している。
従って、本発明のガスバリア性塗料組成物から成る塗膜は、塗膜単体のFT-IR測定による800~1400cm-1の範囲における赤外線吸収スペクトルにおいて、1000~1130cm-1の範囲に赤外線吸収が最大となる吸収ピークを有するという特徴を有すると共に、ガスバリア性塗膜単体のX線光電子分光(XPS)による窒素(N)の結合エネルギー(400~405eV)の範囲に最大ピークを有しているという特徴を有している。ポリアミドについては、FT-IRにより1650cm-1の赤外線吸収波長により形成を確認することができる。
【0023】
また、本発明のガスバリア性塗料組成物から成る塗膜は、前記金属酸化物又は多価金属のカルボン酸塩とリン酸化合物の蛍光X線測定によるネット強度比P(P-kα)/M(M-kα)が0.5~20、金属酸化物がジルコニウム酸化物の場合で1.0~8.0の範囲、特に2.0~7.0の範囲にあり、多価金属のカルボン酸塩がアルミニウム塩の場合で0.1~12.0の範囲、特に3.0~8.0の範囲にあることが好適である。ネット強度比P(P-kα)/M(M-kα)が上記範囲にあることにより、塗膜中に金属酸化物の水酸基に対しリン酸化合物が過不足なく効率よく反応して、均一且つ緻密な塗膜を形成することが可能になり、優れた酸素バリア性及び水蒸気バリア性を発現可能になる。すなわち、蛍光X線測定によるネット強度比が上記範囲よりも小さく、リン酸化合物が不足すると、金属原子粒子同士の結合が不十分になると共に、金属原子粒子表面に存在する水酸基量が多くなり、酸素バリア性及び水蒸気バリア性が低下するおそれがある。その一方蛍光X線測定によるネット強度比が上記範囲よりも大きく、リン酸化合物が過剰になると、リン酸基由来の水酸基の量が多くなり、やはり酸素バリア性及び水蒸気バリア性が低下するおそれがある。
【0024】
(ガスバリア性積層体)
本発明のガスバリア性積層体は、基材上の少なくとも一方の表面に、前述したガスバリア性塗膜から成るガスバリア層が形成されて成る積層体であり、好適には、図1に示すように、基材1に後述するアンカーコート層2を介してガスバリア層3が形成されている。アンカーコート層2はプラスチック基材1との密着性に優れた塗膜であり、この塗膜の上にガスバリア層が形成されていることにより、ガスバリア層とプラスチック基材との間の層間密着性が顕著に向上され、レトルト殺菌に付された場合にも、ガスバリア層が基材から剥離することが有効に防止できる。
また本発明のガスバリア性積層体においては、図2に示すように、上記ガスバリア層3の上に、無延伸ポリプロピレン樹脂フィルム等の熱可塑性樹脂から成る耐湿性樹脂層4を形成することが好適である。
【0025】
本発明のガスバリア性積層体は、ガスバリア層自体が充分なガスバリア性能、特に酸素バリア性及び水蒸気バリア性を有しており、12μm厚の二軸延伸ポリエステルから成る基材フィルム、塗工量1.0g/mの前記ガスバリア性フィルム(ガスバリア層)、及び厚み50μmの無延伸ポリプロピレンフィルムを備えて成る場合において、酸素透過量(JIS K-7126に準拠)が25cc/m・day・atm(40℃90%RH)以下であり、且つ水蒸気透過量が5.5g/m・day(40℃90%RH)以下である、という優れた酸素バリア性及び耐レトルト性を有している。
また上記構成のガスバリア性積層体で、全光線透過量が85%以上、ヘイズが30%以下と優れた透明性も有している。
【0026】
[基材]
ガスバリア性積層体の基材としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂、紙、不織布等の繊維等から成る従来公知の基材を使用することができるが、好適には、熱成形可能な熱可塑性樹脂から、押出成形、射出成形、ブロー成形、延伸ブロー成形或いはプレス成形等の手段で製造された、フィルム、シート、或いはボトル状、カップ状、トレイ状、缶形状等の任意の包装材を挙げることができる。
【0027】
基材を構成する熱可塑性樹脂としては、低-、中-或いは高-密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のオレフィン系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、メタキシリレンアジパミド等のポリアミド;ポリスチレン、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル系共重合体;ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート・エチルアクリレート共重合体等のアクリル系共重合体;ポリカーボネート等を例示できる。
本発明においては特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート或いはポリプロピレンから成るシートを好適に使用できる。
【0028】
これらの熱可塑性樹脂は単独で使用しても或いは2種以上のブレンド物の形でも、また異なる樹脂が積層体の形で存在していてもよい。またプラスチック基体は、単層の構成でも、或いは例えば同時溶融押出しや、その他のラミネーションによる2層以上の積層構成であってもよい。
前記溶融成形可能な熱可塑性樹脂には、所望に応じて顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の添加剤の1種或いは2種類以上を、樹脂100質量部に対して合計量として0.001部~5.0部の範囲内で添加することもできる。
また、例えば、この容器を補強するために、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、カーボン繊維、パルプ、コットン・リンター等の繊維補強材、或いはカーボンブラック、ホワイトカーボン等の粉末補強材、或いはガラスフレーク、アルミフレーク等のフレーク状補強材の1種類或いは2種類以上を、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して合計量として2~150質量部の量で配合でき、更に増量の目的で、重質乃至軟質の炭酸カルシウム、雲母、滑石、カオリン、石膏、クレイ、硫酸バリウム、アルミナ粉、シリカ粉、炭酸マグネシウム等の1種類或いは2種類以上を前記熱可塑性樹脂100質量部に対して合計量として5~100質量部の量でそれ自体公知の処方に従って配合することもできる。
更に、ガスバリア性の向上を目的として、鱗片状の無機微粉末、例えば水膨潤性雲母、クレイ等を前記熱可塑性樹脂100質量部に対して合計量として5~100質量部の量でそれ自体公知の処方に従って配合しても何ら差支えない。
同様に、ガスバリア性の向上を目的として、プラスチック基材上に物理的或いは化学的に気相蒸着法を用いて、例えば酸化ケイ素や酸化アルミニウムのような無機物系の薄膜層を設けても何ら差し支えない。
【0029】
また基材は、最終フィルム、シート、或いは容器等の成形品であっても良いし、容器に成形するための予備成形物にこの被覆を予め設けることもできる。このような予備成形体としては、二軸延伸ブロー成形のための有底又は無底の筒状パリソン、プラスチック容器成形のためのパイプ、真空成形、圧空成形、プラグアシスト成形のためのシート、或いはヒートシール蓋、製袋のためのフィルム等を挙げることができる。
【0030】
[アンカーコート層]
基材表面に必要により形成するアンカーコート層としては、ガスバリア性積層体に使用されているものを使用することができ、アクリル系樹脂やポリオール等の主剤となる水酸基含有化合物と、イソシアネート系硬化剤を組み合わせて成る従来公知のポリウレタン系樹脂から成るアンカーコート層、或いは更にシランカップリング剤を配合して成るアンカーコート層を好適に使用できる。
【0031】
<ポリウレタン系樹脂>
アンカーコート層を構成するポリウレタン系樹脂としては、従来よりアンカーコート層として使用されていた公知のアクリル系樹脂やポリオール等の主剤となる水酸基含有化合物と、イソシアネート化合物から成るポリウレタン系樹脂を使用することができる。
本発明においては、ポリウレタン系樹脂はガラス転移温度(Tg)が80℃以上、特に80~120℃の範囲にあるものを使用することが望ましい。上記範囲よりもガラス転移温度が低い場合には、上記範囲にある場合に比して、アンカーコート層の耐熱性に劣るようになると共に、ガスバリア層の乾燥の際、加熱によりガスバリア塗膜が収縮した際にガスバリア層にクラックが生じ、バリア性が低下するおそれがある。
【0032】
アクリル系樹脂としては、従来より知られるラジカル開始剤等を用いて溶液重合や懸濁重合により合成した重合体および共重合体を用いることができる。
前記アクリル系樹脂のガラス転移温度は、-50~100℃が好ましく、40℃~100℃がより好ましい。またアクリル系樹脂の数平均分子量は50~10万が好ましく、50~8万がより好ましい。また、アクリル系樹脂の水酸基価としては、10~200mgKOH/gが好ましく、80~180mgKOH/gがより好ましい。
共重合体形成用のモノマーとしては、特に限定されないが、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸ターシャリーブチル等、必要に応じて組み合わせた共重合体を用いることができる。
ポリオールとしては、グリコール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、或いはこれらのウレタン変性物等を例示できるが、特に、アクリルポリオール、グリコールを用いることが好ましい。
【0033】
前記ポリエステルポリオールのガラス転移温度は、-50~100℃が好ましく、-20℃~80℃がより好ましい。また、これらのポリエステルポリオールの数平均分子量は50~10万が好ましく、50~8万がより好ましい。
グリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6ーヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0034】
ポリウレタン系樹脂の硬化剤であるイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート等を使用できる。
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(2,4-または2,6-トリレンジイソシアネートもしくはその混合物)(TDI)、フェニレンジイソシアネート(m-、p-フェニレンジイソシアネートもしくはその混合物)、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-、2,4’-、または2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネートもしくはその混合物)(MDI)、4,4’-トルイジンジイソシアネート(TODI)、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート等が例示できる。
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、キシレンジイソシアネート(1,3-または1,4-キシレンジイソシアネートもしくはその混合物)(XDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(1,3-または1,4-テトラメチルキシレンジイソシアネートもしくはその混合物)(TMXDI)、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン等が例示できる。
【0035】
脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート(1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート)、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロジイソシアネート、IPDI)、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(4,4’-、2,4’-または2,2’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート))(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(1,3-または1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンもしくはその混合物)(水添XDI)等を挙げることができる。
【0036】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート(テトラメチレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、2,4,4-または2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカフェート等を挙げることができる。
【0037】
ポリイソシアネート成分は、上記ポリイソシアネート単量体から誘導されたイソシアヌレート、ビューレット、アロファネート等の多官能ポリイソシアネート化合物、あるいはトリメチロールプロパン、グリセリン等の3官能以上のポリオール化合物との反応により得られる末端イソシアネート基含有の多官能ポリイソシアネート化合物等を用いることもできる。
ポリイソシアネート成分は、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上、数平均分子量(Mn)が400以上、特にガラス転移温度(Tg)が60℃以上、数平均分子量(Mn)が500以上であることが好ましい。
本発明においては、上記イソシアネート成分の中でも、キシレンジイソシアネートを用いることが好適である。
【0038】
<シランカップリング剤>
アンカーコート層に用いるシランカップリング剤としては、エポキシシラン系カップリング剤を好適に使用することができる。
このようなエポキシシラン系カップリング剤としては、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等を使用することができる。
シランカップリング剤としては、他にテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどがあげられ、必要に応じ使用することができる。
また、これら用いるシランカップリング剤については、耐熱水密着力の向上を目的として、必要に応じて加水分解を行い、シランカップリング剤の縮合反応を進めたものを用いても良い。
【0039】
[アンカーコート層形成用組成物]
本発明において、アンカーコート層形成用組成物は、上述したポリウレタン系樹脂、或いは更にシランカップリング剤を含有して成ることが好適である。またアンカーコート層形成用組成物は水系又は溶剤系のいずれであってもよいが、作業環境の観点から好適には水性組成物とすることが望ましく、用いるポリウレタン系樹脂は水溶性又は水分散性のポリウレタンであることが望ましい。
アンカーコート層形成用組成物において、エポキシシラン化合物はポリウレタン系樹脂100質量部(固形分)に対して1~80質量部の量で含有することが好ましい。上記範囲よりもエポキシシラン化合物が少ない場合は、上記範囲にある場合に比して乾燥時の耐クラック性能を満足することができず、一方上記範囲よりもエポキシシラン化合物が多くても更に密着性や耐クラック性を向上させることは困難であり、経済性の観点からみても劣るようになる。
【0040】
また水性媒体としては、ガスバリア層形成用組成物に用いた同様の、従来公知の水性媒体、アルコール、多価アルコール、その誘導体等の有機溶媒を含有することができる。
アンカーコート層形成用組成物においては、上記成分の他に、公知の硬化促進触媒、充填剤、軟化剤、老化防止剤、安定剤、接着促進剤、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、無機フィラー、粘着付与性樹脂、繊維類、顔料等の着色剤、可使用時間延長剤等を含有することもできる。
【0041】
(ガスバリア性積層体の製造方法)
本発明のガスバリア性積層体の製造方法においては、上述した基材の少なくとも一方の表面に直接、本発明のガスバリア性塗料組成物を塗布することもできるが、ガスバリア性塗料組成物の塗工に先だって、前述したアンカーコート層形成用組成物を塗布することが好適である。
アンカーコート層形成用組成物の塗工量は、組成物中のポリウレタン系樹脂及びシランカップリング剤の含有量によって決定され、一概に規定できないが塗膜の固形分重量で0.05~1.00g/m、特に0.10~0.50g/mの範囲となるように塗布することが好ましい。上記範囲よりもアンカーコート塗工量が少ないと、上記範囲にある場合に比してアンカーコート層を基材に固着させられないおそれがあり、一方上記範囲よりもアンカーコート塗工量が多いと経済性に劣るようになる。
基体上に塗布されたアンカーコート層形成用組成物は、用いる組成及び塗工量にもよるが、80~150℃の温度で1~60秒間乾燥することにより、組成物中の溶媒を除去する。これにより基材がポリプロピレンのような融点の低いプラスチックから成る場合でも影響を与えることなく、経済的にアンカーコート層を形成できる。
【0042】
次いで溶媒が除去され乾燥状態にあるアンカーコート層形成用組成物の上に、ガスバリア性塗料組成物を塗布する。ガスバリア性塗料組成物の塗工量は、組成物中の金属酸化物、リン酸化合物及び多価金属のカルボン酸塩の含有量によって決定され、一概に規定できないが、塗膜の固形分重量で0.05~3.0g/m、特に0.1~1.0g/mの範囲となるように塗布することが好ましい。上記範囲よりも塗工量が少ないと、十分なバリア性が得られない。一方上記範囲よりも塗工量が多くても経済性に劣るだけで格別なメリットがない。
次いで、ガスバリア性塗料組成物は、用いる組成物中の金属酸化物、リン酸化合物及び多価金属のカルボン酸塩の組成及び塗工量にもよるが、80~220℃、特に140~220℃の温度で、1秒~10分間加熱することによって、ガスバリア層を形成する。これにより、ガスバリア層及びアンカーコート層の加熱による収縮の差を低減して、ガスバリア層の耐クラック性を向上させることが可能になると共に、ガスバリア層及びアンカーコート層間の層間密着性も顕著に向上し、レトルト殺菌に付された場合にも、ガスバリア層が基材から剥離することが防止される。
【0043】
上述したアンカーコート層形成用組成物及びガスバリア性塗料組成物の塗布、及び乾燥或いは加熱処理は、従来公知の方法により行うことができる。
塗布方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等により塗布することが可能である。
また乾燥或いは加熱処理は、オーブン乾燥(加熱)、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができる。
【実施例
【0044】
本発明を次の実施例によりさらに説明するが、本発明は次の例により何らかの制限を受けるものではない。なお、実施例及び比較例の各種測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0045】
(実施例1)
ガスバリア性塗料組成物の主剤として、ジルコニウム酸化物ゾル(第一稀元素化学工業株式会社製、ジルコニアゾル ZSL-00120B(結晶質ジルコニウム酸化物、正方晶系、分散安定剤は炭酸塩、固形分(ZrO換算)=20%)を用いた。まずジルコニウム酸化物ゾルに対し、水とイソプロパノールを加え希釈した。次いでジルコニウム酸化物ゾルの固形分(ZrO換算)100phrに対し、添加剤溶液として、水と、リン酸(和光純薬製 75%)をリン酸の不揮発分で50phrと、多価金属のカルボン酸塩であるアルミニウムグリシナート(東京化成株式会社)を29phrで混合して調液した。最後にジルコニウム酸化物ゾルの希釈溶液に対し、添加剤溶液を加え所定時間攪拌した。塗料固形分が12%、水とイソプロパノールの比率が80/20となるよう調液されたガスバリア性塗料組成物を得た。
【0046】
(ガスバリア性積層体サンプルの作製方法)
ガスバリア性積層体のサンプルは、作製したガスバリア性塗料組成物を用いて、以下の通り実施した。12μm厚の二軸延伸ポリエステルフィルム(東レフィルム加工株式会社製、ルミラーP60)の基材上に、バーコーターを用いて前述のガスバリア性塗料組成物を塗布量が1.3g/mになるように塗布、ボックスオーブンにて220℃の温度で10分間の加熱乾燥を行い、ガスバリア性積層体のサンプルを得た。
【0047】
(ガスバリア性評価用積層体サンプルの作製方法)
ガスバリア性評価用の積層体サンプルは、前述のガスバリア性積層体のガスバリア性塗料組成物を塗布した面に対し、塗布量4.0g/mのウレタン系接着剤(三井化学株式会社製、タケネートA-315/タケネートA―50)をバーコーターにて塗布、ドライヤーにて乾燥した後、厚み50μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工株式会社製、トレファンZK401)をラミネートすることで、ガスバリア性評価用の積層体を作製した。
【0048】
(実施例2)
アンカーコート層として、水分散型ポリウレタン系樹脂(タケラックWPB341 固形分=30%、Tg=115℃、三井化学株式会社製)100phrに対し、3-グリシドキシトリメトキシシラン(東京化成株式会社製)を30phrとなるよう配合し、さらに固形分が8.0%となるよう純水で希釈し攪拌して、アンカーコート塗料組成物Aを得た。得られたアンカーコート塗料組成物Aを、バーコーターにて塗布量が0.20g/mとなるよう塗布し、140℃-1分の乾燥を行った。
さらに、塗布量が2.0g/mとなる以外は、実施例1と同様の方法でアンカーコート層上にガスバリア層を形成し、ガスバリア性積層体及びガスバリア性評価用積層体を得た。
【0049】
(実施例3)
アンカーコート層として、アクリル系樹脂(アクリナール TZ # 9515、Tg=83℃、固形水酸基価=180mgKOH/g、東栄化成株式会社製)100phrに対し、ポリイソシアネート硬化剤(タケネートD-110N、固形分=75%、メタキシレンジイソシアネートのTPIアダクト型)を40phrとなるよう配合し、さらに固形分が4.0%となるように2-ブタノン/酢酸エチル=70/30を用いて希釈し攪拌して、アンカーコート塗料組成物Bを得た。得られたアンカーコート塗料組成物Bを、バーコーターにて塗布量が0.25g/mとなるよう塗布し、140℃-1分で乾燥熱処理を行った。
さらに、塗布量が1.9g/mとなる以外は、実施例1と同様の方法でアンカーコート層上にガスバリア層を形成し、ガスバリア性積層体及びガスバリア性評価用積層体を得た。
【0050】
(実施例4)
実施例2において、塗布量が2.1g/mとなる以外は、実施例2と同様の方法でガスバリア性積層体及びガスバリア性評価用積層体を得た。得られたガスバリア性評価用積層体2枚を対向させてヒートシールを行い、シール幅5mmで三方シールパウチを得た(130cm×170cm)。得られたパウチに、純水200gを充填し、レトルト装置により121℃-30分の加熱殺菌処理を行った後サンプルを切り出し、レトルト処理後のガスバリア性評価用積層体を得た。
【0051】
(比較例1)
実施例1において、ガスバリア性塗料組成物のリン酸の配合量を51phrとし、アルミニウムグリシナートを添加しないこと以外は同様の方法とし、塗布量を1.1g/mとする以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性積層体、ガスバリア性評価用積層体を得た。
【0052】
(比較例2)
実施例1において、ガスバリア性塗料組成物の多価金属のカルボン酸塩をアルミニウムグリシナートにかえてグリシン48phrとすることと、塗布量を1.1g/mとする以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性積層体、ガスバリア性評価用積層体を得た。
【0053】
(参考例1)
実施例1において、金属酸化物としてジルコニウム酸化物ゾル(第一稀元素化学工業株式会社製、ZSL-00120A、結晶質ジルコニウム酸化物、正方晶系、分散安定剤は硝酸、固形分=30%)を用い、リン酸の添加量を54phrとし、塗膜の膜厚を1.0g/mとする以外は、実施例1と同様の方法で、ガスバリア性積層体、ガスバリア性評価用積層体を得た。
【0054】
(参考例2)
実施例1において、ガスバリア性塗料組成物を塗布せず、12μm厚の二軸延伸ポリエステルフィルム(東レフィルム加工株式会社製、ルミラーP60)を基材として用いた以外は、実施例1と同様の方法でガスバリア性評価用積層体を得た。
【0055】
(評価方法)
以下の評価方法を用いて、表2に示すように、ガスバリア性積層体、ガスバリア性評価用積層体の評価結果を得た。
【0056】
[酸素透過量]
実施例、比較例及び参考例で得られた各ガスバリア性評価用積層体を酸素透過量測定装置(Modern Control社製、OX―TRAN2/21)を用いて測定した。測定条件は、温度40℃、相対湿度90%とした。
【0057】
[水蒸気透過量]
実施例、比較例及び参考例で得られた各ガスバリア性評価用積層体を水蒸気透過量測定装置(Modern Control社製、PERMATRAN-W 3/31)を用いて測定した。測定条件は温度40℃、相対湿度90%とした。
【0058】
[赤外線吸収スペクトル]
実施例及び比較例で得られた各ガスバリア性積層体について、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社 FT/IR-6600)を用いて、ポリエステル基材上に塗布したガスバリア塗膜の赤外線吸収スペクトルを測定した。基材として用いたプラスチックフィルムのスペクトルが干渉する場合は、これを差スペクトルにより差し引いて補正を行った。
<FT-IR装置の測定条件>
使用機器: JASCO製 FT/IR-6600
測定条件: 方法 ATR(Geプリズム)
検出器 MCT
アタッチメント Thunder Dome
波数範囲 800~1400cm-1
フィルム測定面 バリア塗膜面
【0059】
[蛍光X線評価]
実施例及び比較例で得られた各ガスバリア性積層体に含まれる元素の評価方法として、リン元素及びジルコニウム元素について、市販の蛍光X線分析装置によって定量した。各ガスバリア性積層体の測定で得られたネット強度を、P及びZr及びAlについて、P/Zr及びP/Alとすることで、塗膜中の金属元素の含有比を算出し評価に用いた。Alに関しては、塗膜成分として蛍光X線測定を用いて検出されたものに関して評価を○とした。
<蛍光X線分析装置の測定条件)
使用機器: 理学電機製 ZSX100e
測定条件: 測定対象 Zr-Kα線、P-Kα線、Al-Kα線
測定径 10mm
測定X線 Rh(4.0kw)50kv 72mA(2θ=
0~90)
フィルム測定面 バリア塗膜面側からX線を入射して測定
【0060】
[X線光電子分光法]
実施例及び比較例で得られた各ガスバリア性積層体に含まれる元素の化学結合状態の評価方法として、サンプル表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで、サンプルの構成元素とその電子状態を分析することができる。窒素元素及びジルコニウム元素について、市販のX線光電子分光装置によって分析を行った。各ガスバリア性積層体の測定で得られた元素の結合エネルギーを、Zr3d5/2のピーク位置を185.0として解析し、塗膜中における窒素元素の結合状態を評価した。ピーク補正に用いたZr3d5/2の数値は、文献 J. inorg. nucl. Chem. Vol.43, No.12, pp.3329-3334, 1981を参考にした。
<X線光電子分光装置の測定条件>
使用機器: Thermo Fisher SCIENTIFIC製 K-ALPHA
測定条件: 測定元素 Zr3d、N1s
ピーク補正 Zr3d5/2:185.0
X線種 Alモノクロメーター
Pass Energy 150.0eV
測定径 400μm
フィルム測定面 バリア塗膜面
【0061】
上記実施例、比較例及び参照例の各種測定及び評価結果を、表1及び表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
[表中の略号]
ZSL-00120B:結晶質ジルコニウム酸化物(炭酸塩タイプ)、
ZSL-00120A:結晶質ジルコニウム酸化物(硝酸タイプ)、
P-Kα/Zr-Kα:塗膜中におけるリン酸化合物に由来するリン元素(P)と、ジルコニウム元素(Zr)の含有比を意味する、
P-Kα/Al-Kα:塗膜中におけるリン酸化合物に由来するリン元素(P)と、アルミニウム元素(Al)の含有比を意味する、
蛍光X線評価:赤外線吸収スペクトルの最大波長が1000cm-1~1130cm-1のリン酸塩にみられ、かつ蛍光X線測定により、少なくともアルミニウムとジルコニウムの多価金属元素が検出されたものを○とする。
【0065】
表2において、「ND」は、「検出されない」を意味する。「―」は未測定を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のガスバリア性塗料組成物は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れた塗膜形成が可能であり、透明ハイバリア包装材料として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 基材、2 アンカーコート層、3 ガスバリア層(ガスバリア性フィルム)、4 耐湿性樹脂層。
図1
図2