(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】異常検知システム、異常検知装置、異常検知方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
B23Q17/09 E
B23Q17/09 F
(21)【出願番号】P 2022574118
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2022024155
【審査請求日】2022-12-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 類
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-77658(JP,A)
【文献】国際公開第2021/261418(WO,A1)
【文献】特開2021-112800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/09;
G05B 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の工具の異常を検知する異常検知システムであって、
前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサと、
前記センサの計測データに基づいて前記工具の異常を検知する異常検知装置と、
を備え、
前記異常検知装置は、
前記センサの時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取る同期部と、
前記基準データと前記対象データとにおいて同一の加工工程の対象期間を設定する期間設定部と、
前記期間設定部によって設定された前記対象期間において、前記同期部によって同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出する距離算出部と、
前記距離算出部によって算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知する異常検知部と、
を含み、
前記期間設定部は、
一定の長さの期間である前記対象期間を
、所定時間ずつずらすように順次設定し、
前記異常検知部は、順次設定される前記対象期間のそれぞれにおいて前記異常を検知する、
異常検知システム。
【請求項2】
前記加工工程は、前記加工対象物の切削と非切削とを繰り返す断続加工工程である、
請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項3】
前記センサは、前記物理量として前記工具の歪みを計測する歪みセンサである、
請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項4】
前記センサは、前記物理量として前記工具の加速度を計測する加速度センサである、
請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項5】
前記異常検知装置は、前記対象データのベースラインを補正する補正部をさらに含み、
前記距離算出部は、前記補正部によって前記ベースラインを補正された前記対象データと、前記基準データとの間の距離を算出する、
請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項6】
前記基準データと前記対象データとの間の距離は、前記基準データの時系列波形と前記対象データの時系列波形との間の距離、又は、前記基準データの分布と前記対象データの分布との差である、
請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項7】
前記異常検知システムは、前記距離算出部によって算出された前記基準データと前記対象データとの間の距離の時系列グラフを表示する表示装置をさらに備える、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の異常検知システム。
【請求項8】
工作機械の工具の異常を検知する異常検知装置であって、
前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサから出力された時系列の計測データを取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取る同期部と、
前記基準データと前記対象データとにおいて同一の加工工程の対象期間を設定する期間設定部と、
前記期間設定部によって設定された前記対象期間において、前記同期部によって同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出する距離算出部と、
前記距離算出部によって算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知する異常検知部と、
を備え、
前記期間設定部は、
一定の長さの期間である前記対象期間を
、所定時間ずつずらすように順次設定し、
前記異常検知部は、順次設定される前記対象期間のそれぞれにおいて前記異常を検知する、
異常検知装置。
【請求項9】
工作機械の工具の異常を検知する異常検知装置によって実行される異常検知方法であって、
前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサから出力された時系列の計測データを取得するステップと、
取得された前記時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取るステップと、
前記基準データと前記対象データとにおいて同一の加工工程の対象期間を設定するステップと、
設定された前記対象期間において、同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出するステップと、
算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知するステップと、
を含み、
前記対象期間を設定するステップにおいて、
一定の長さの期間である前記対象期間を
、所定時間ずつずらすように順次設定し、
前記異常を検知するステップにおいて、順次設定される前記対象期間のそれぞれにおいて前記異常を検知する、
異常検知方法。
【請求項10】
工作機械の工具の異常を検知するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサから出力された時系列の計測データを取得するステップと、
取得された前記時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取るステップと、
前記基準データと前記対象データとにおいて同一の加工工程の対象期間を設定するステップと、
設定された前記対象期間において、同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出するステップと、
算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知するステップと、
を実行させ、
前記対象期間を設定するステップにおいて、
一定の長さの期間である前記対象期間を
、所定時間ずつずらすように順次設定し、
前記異常を検知するステップにおいて、順次設定される前記対象期間のそれぞれにおいて前記異常を検知する、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常検知システム、異常検知装置、異常検知方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作機械の工具の異常を検知する異常検知装置が開示されている。特許文献1に開示された異常検知装置は、工具の振動情報、切削力情報、音情報、主軸負荷、モータ電流、電力値の各測定データを1クラスSVM法で学習して、正常モデルを作成し、正常モデル作成後の加工時に測定データを取得しながら、正常モデルに基づいて、測定データが正常か異常かを診断する。異常検知装置はさらに、異常と診断された測定データについて、インバリアント解析などの1クラスSVM法とは異なる方法で再診断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る異常検知システムは、工作機械の工具の異常を検知する異常検知システムであって、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサと、前記センサの計測データに基づいて前記工具の異常を検知する異常検知装置と、を備え、前記異常検知装置は、前記センサの時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取る同期部と、前記同期部によって同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出する距離算出部と、前記距離算出部によって算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知する異常検知部と、を含む。
【0005】
本開示は、上記のような特徴的な構成を備える異常検知システムとして実現することができるだけでなく、異常検知システムに含まれる異常検知装置として実現したり、異常検知システムにおける特徴的な処理をステップとする異常検知方法として実現したりすることができる。本開示は、コンピュータを異常検知装置として機能させるコンピュータプログラムとして実現したり、異常検知装置の一部又は全部を半導体集積回路として実現したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態に係る異常検知システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施形態に係る切削工具の構成の一例を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【
図2C】
図2Cは、実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【
図2D】
図2Dは、実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るセンサモジュールの構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る異常検知装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る異常検知装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。
【
図6】
図6は、切削工具の歪みの時系列の波形の一例を示すグラフである。
【
図7】
図7は、基準データの一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、対象データの一例を示すグラフである。
【
図9】
図9は、同一の加工条件の工程が複数回繰り返される場合の歪みセンサの計測結果の一例を示すグラフである。
【
図10】
図10は、対象データの第1移動平均及び第2移動平均の一例を示すグラフである。
【
図13】
図13は、切出期間の決定の一例を説明するためのグラフである。
【
図15】
図15は、基準データと切出データとの間のDTWを説明するためのグラフである。
【
図17】
図17は、実施形態に係る異常検知装置による異常検知処理の一例を示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、同期処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<本開示が解決しようとする課題>
特許文献1に開示された異常検知装置では、工具の振動を測定する振動センサ、工具の切削力を測定する切削動力計、工具の音を測定する音センサ等の多数のセンサを必要とする。さらに、機械学習には大量の測定データを取得する必要があり、機械学習のための測定データを取得できたとしても、取得された測定データを入力する必要がある。このように、機械学習には多くの手間を要する。
【0008】
<本開示の効果>
本開示によれば、多数のセンサ及び大量のデータを必要とすることなく、工作機械の工具の異常を検知することができる。
【0009】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
【0010】
(1) 本実施形態に係る異常検知システムは、工作機械の工具の異常を検知する異常検知システムであって、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサと、前記センサの計測データに基づいて前記工具の異常を検知する異常検知装置と、を備え、前記異常検知装置は、前記センサの時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取る同期部と、前記同期部によって同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出する距離算出部と、前記距離算出部によって算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知する異常検知部と、を含む。これにより、機械学習を用いた異常判定のように、多数のセンサを必要とせず、機械学習のための大量の計測データを必要としない。基準データと対象データとの同期を取ることにより、工具の現在(異常検知時)の状態と正常時の状態との差異を距離として正確に算出することができ、異常を正確に検知することができる。
【0011】
(2) 上記(1)において、前記異常検知装置は、前記基準データと前記対象データとにおいて同一の加工工程の対象期間を設定する期間設定部をさらに含み、前記距離算出部は、前記期間設定部によって設定された前記対象期間において、前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出してもよい。これにより、同一の加工工程における基準データと対象データとを比較することができ、工具の現在の状態と正常時の状態との差異を正確に表した距離を算出することができる。
【0012】
(3) 上記(2)において、前記加工工程は、前記加工対象物の切削と非切削とを繰り返す断続加工工程であってもよい。断続加工工程では、加工対象物の切削が連続して行われる連続加工工程に比べて工具の状態が物理量に表れやすい。したがって、工具の現在の状態と正常時の状態との差異を正確に表した距離を算出することができる。
【0013】
(4) 上記(1)から(3)のいずれか1つにおいて、前記センサは、前記物理量として前記工具の歪みを計測する歪みセンサであってもよい。歪みセンサの計測値は、工具が加工対象物に接触している(加工対象物を切削している)間に高い値を示し、工具が加工対象物に接触していない(加工対象物を切削していない)間に低い値を示す。このような歪みセンサの計測データを用いて、工具の異常を正確に検知することができる。
【0014】
(5) 上記(1)から(3)のいずれか1つにおいて、前記センサは、前記物理量として前記工具の加速度を計測する加速度センサであってもよい。加速度センサの計測値は、工具が振動している間に高い値と低い値とを繰り返し、工具が振動していない間に低い値を示す。このような加速度センサの計測データを用いて、工具の異常を正確に検知することができる。
【0015】
(6) 上記(1)から(5)のいずれか1つにおいて、前記異常検知装置は、前記対象データのベースラインを補正する補正部をさらに含み、前記距離算出部は、前記補正部によって前記ベースラインを補正された前記対象データと、前記基準データとの間の距離を算出してもよい。これにより、対象データ毎にベースラインが異なっていても、工具の異常を安定して検知することができる。
【0016】
(7) 上記(1)から(6)のいずれか1つにおいて、前記基準データと前記対象データとの間の距離は、前記基準データの時系列波形と前記対象データの時系列波形との間の距離、又は、前記基準データの分布と前記対象データの分布との差であってもよい。これにより、計測データに応じて、異常検知に適した距離を算出することができる。
【0017】
(8) 上記(1)から(7)のいずれか1つにおいて、前記異常検知システムは、前記距離算出部によって算出された前記基準データと前記対象データとの間の距離の時系列グラフを表示する表示装置をさらに備えてもよい。これにより、ユーザは、工具の状態の時間的な変化を視覚的に確認することができる。
【0018】
(9) 本実施形態に係る異常検知装置は、工作機械の工具の異常を検知する異常検知装置であって、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサから出力された時系列の計測データを取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取る同期部と、前記同期部によって同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出する距離算出部と、前記距離算出部によって算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知する異常検知部と、を備える。これにより、機械学習を用いた異常判定のように、多数のセンサを必要とせず、機械学習のための大量の計測データを必要としない。基準データと対象データとの同期を取ることにより、工具の現在(異常検知時)の状態と正常時の状態との差異を距離として正確に算出することができ、異常を正確に検知することができる。
【0019】
(10) 本実施形態に係る異常検知方法は、工作機械の工具の異常を検知する異常検知装置によって実行される異常検知方法であって、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサから出力された時系列の計測データを取得するステップと、取得された前記時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取るステップと、同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出するステップと、算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知するステップと、を含む。これにより、機械学習を用いた異常判定のように、多数のセンサを必要とせず、機械学習のための大量の計測データを必要としない。基準データと対象データとの同期を取ることにより、工具の現在(異常検知時)の状態と正常時の状態との差異を距離として正確に算出することができ、異常を正確に検知することができる。
【0020】
(11) 本実施形態に係るコンピュータプログラムは、工作機械の工具の異常を検知するためのコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記工作機械が前記工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサから出力された時系列の計測データを取得するステップと、取得された前記時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取るステップと、同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出するステップと、算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知するステップと、を実行させる。これにより、機械学習を用いた異常判定のように、多数のセンサを必要とせず、機械学習のための大量の計測データを必要としない。基準データと対象データとの同期を取ることにより、工具の現在(異常検知時)の状態と正常時の状態との差異を距離として正確に算出することができ、異常を正確に検知することができる。
【0021】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態の詳細を説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0022】
[1.異常検知システム]
図1は、本実施形態に係る異常検知システムの全体構成の一例を示す図である。異常検知システム10は、工作機械20の切削工具30の異常を検知する。切削工具30は、工作機械20に取り付けられる。工作機械20は、切削工具30を用いて加工対象物を切削加工する。ここでいう「切削加工」は、回転する加工対象物を切削工具30によって切削する「旋削加工」、及び、固定された加工対象物を、回転する切削工具30によって切削する「転削加工」を含む。工作機械20は、旋盤等の旋削機械であってもよく、フライス盤等の転削機械であってもよい。
【0023】
異常検知システム10は、切削工具30と、無線機200と、異常検知装置300とを含む。無線機200は、異常検知装置300に例えば有線で接続されている。無線機200は、たとえばアクセスポイントである。
【0024】
切削工具30は、センサモジュール100を備える。後述するように、センサモジュール100は、センサを含む。
【0025】
なお、異常検知システム10は、1つの切削工具30を備える構成に限らず、複数の切削工具30を備えてもよい。
【0026】
切削工具30は、センサモジュール100におけるセンサの計測結果を時系列で異常検知装置300へ送信する。
【0027】
より詳細には、切削工具30は、計測値を格納したパケットを含む無線信号を無線機200へ無線送信する。
【0028】
無線機200は、切削工具30から受信した無線信号に含まれるパケットを取得して異常検知装置300へ中継する。
【0029】
異常検知装置300は、無線機200経由で切削工具30からセンサパケットを受信すると、受信したセンサパケットから計測情報を取得し、取得した計測情報を処理する。
【0030】
切削工具30及び無線機200は、例えば、IEEE 802.15.4に準拠したZigBee、IEEE 802.15.1に準拠したBluetooth(登録商標)及びIEEE802.15.3aに準拠したUWB(Ultra Wide Band)等の通信プロトコルを用いた無線による通信を行う。なお、切削工具30及び無線機200間において、上記以外の通信プロトコルが用いられてもよい。
【0031】
[2.切削工具の具体例]
図2Aは、本実施形態に係る切削工具の構成の一例を示す図である。
【0032】
切削工具30の一例である旋削工具30Aは、回転する加工対象物の加工に用いられる旋削加工用の工具であり、旋盤等の工作機械に取り付けられる。旋削工具30Aは、切削部31Aと、切削部31Aに設けられたセンサモジュール100とを含む。
【0033】
例えば、切削部31Aは、切刃を有する切削インサート32を取り付け可能である。具体的には、切削部31Aは、切削インサート32を保持するシャンクである。すなわち、旋削工具30Aは、いわゆるスローアウェイバイトである。
【0034】
より詳細には、切削部31Aは、固定用部材33A,33Bを含む。固定用部材33A,33Bは、切削インサート32を保持する。
【0035】
切削インサート32は、例えば、上面視で三角形、正方形、ひし形、及び五角形等の多角形状である。切削インサート32は、例えば、上面の中央において貫通孔が形成され、固定用部材33A,33Bにより切削部31Aに固定される。
【0036】
図2Bは、本実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【0037】
切削工具30の一例である旋削工具30Bは、旋削加工用の工具であり、旋盤等の工作機械に取り付けられる。旋削工具30Bは、切削部31Bと、切削部31Bに設けられたセンサモジュール100とを含む。
【0038】
例えば、切削部31Bは、切刃34を有する。すなわち、旋削工具30Bは、むくバイトまたはろう付けバイトである。
【0039】
図2Cは、本実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
図2Cは、切削工具の断面図を示している。
【0040】
切削工具30の一例である転削工具30Cは、固定された加工対象物の加工に用いられる転削加工用の工具であり、フライス盤等の工作機械に取り付けられる。転削工具30Cは、切削部31Cと、切削部31Cに設けられたセンサモジュール100とを含む。
【0041】
例えば、切削部31Cは、切刃を有する切削インサート32を取り付け可能である。具体的には、切削部31Cは、切削インサート32を保持するホルダである。すなわち、転削工具30Cは、いわゆるフライスである。
【0042】
より詳細には、切削部31Cは、複数の固定用部材33Cを含む。固定用部材33Cは、切削インサート32を保持する。
【0043】
切削インサート32は、固定用部材33Cにより切削部31Cに固定される。
【0044】
図2Dは、本実施形態に係る切削工具の構成の他の例を示す図である。
【0045】
切削工具30の一例である転削工具30Dは、転削加工用の工具であり、フライス盤等の工作機械に取り付けられる。転削工具30Dは、切削部31Dと、切削部31Dに設けられたセンサモジュール100とを含む。
【0046】
例えば、切削部31Dは、切刃35を有する。すなわち、転削工具30Dは、エンドミルである。
【0047】
[3.センサモジュール]
図3は、本実施形態に係るセンサモジュールの構成の一例を示す図である。
【0048】
センサモジュール100は、プロセッサ101と、不揮発性メモリ102と、揮発性メモリ103と、通信インタフェース(I/F)104と、歪みセンサ110A,110Bとを含む。
【0049】
揮発性メモリ103は、例えばSRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリである。不揮発性メモリ102は、例えばフラッシュメモリ、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリである。不揮発性メモリ102には、例えば図示しないコンピュータプログラム及び及び当該コンピュータプログラムの実行に使用されるデータが格納される。コンピュータプログラムは、歪みセンサ110A,110Bの計測値を時系列で送信するためのプログラムである。
【0050】
プロセッサ101は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。ただし、プロセッサ101は、CPUに限られない。プロセッサ101は、GPU(Graphics Processing Unit)であってもよい。具体的な一例では、プロセッサ101は、マルチコアGPUである。プロセッサ101は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)であってもよいし、ゲートアレイ、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスであってもよい。
【0051】
通信I/F104は、例えば、IEEE 802.15.4に準拠したZigBee、IEEE 802.15.1に準拠したBluetooth及びIEEE802.15.3aに準拠したUWB等の通信プロトコル用の通信インタフェースである。通信I/F104は、例えば、通信用IC(Integrated Circuit)等の通信回路により実現される。
【0052】
センサモジュール100は、電池105を含む。電池105は、プロセッサ101、不揮発性メモリ102、揮発性メモリ103、通信I/F104、及び歪みセンサ110A,110Bに電力を供給する。
【0053】
歪みセンサ110A,110Bは、例えば、切削工具30における切刃の近傍に設けられる。歪みセンサ110A及び110Bは、互いに異なる方向の歪みを計測するように切削工具30に取り付けられる。例えば、歪みセンサ110Aは、切削工具30の長手方向の歪みを計測し、歪みセンサ110Bは、切削工具30の幅方向の歪みを計測する。以下、歪みセンサ110A,110Bを総称して歪みセンサ110ともいう。歪みセンサ110は、センサの一例である。センサは、電池105から供給される電力により駆動される。
【0054】
なお、センサモジュール100は、2つの歪みセンサ110を含む構成に限らず、1つまたは3つ以上の歪みセンサ110を含んでもよい。また、センサモジュール100は、歪みセンサ110の代わりに、又は、歪みセンサ110に加えて、加速度センサ、圧力センサ、音センサ及び温度センサ等の他のセンサを含んでもよい。
【0055】
[4.異常検知装置のハードウェア構成]
図4は、本実施形態に係る異常検知装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0056】
異常検知装置300は、プロセッサ301と、不揮発性メモリ302と、揮発性メモリ303と、入出力インタフェース(I/O)304と、グラフィックコントローラ305と、表示装置306とを含む。
【0057】
揮発性メモリ303は、例えばSRAM、DRAM等の揮発性メモリである。不揮発性メモリ302は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスク、ROM等の不揮発性メモリである。不揮発性メモリ302には、コンピュータプログラムである異常検知プログラム307及び異常検知プログラム307の実行に使用されるデータが格納される。異常検知装置300の各機能は、異常検知プログラム307がプロセッサ301によって実行されることで実現される。異常検知プログラム307は、フラッシュメモリ、ROM、CD-ROMなどの記録媒体に記憶させることができる。
【0058】
不揮発性メモリ302には、基準データ308が記憶されている。基準データ308は、異常検知プログラム307によって使用されるデータであり、切削工具30の正常時における歪みの時系列の計測結果である。
【0059】
不揮発性メモリ302には、計測結果データベース(DB)309が設けられている。計測結果DB309は、歪みセンサ110による計測結果を格納する。さらに具体的には、計測結果DB309には、一定のサンプリング周期毎に歪みセンサ110から出力された歪みの計測値が時系列で蓄積される。基準データ308は、例えば、計測結果DB309に格納された過去の計測結果から作成されたデータである。
【0060】
プロセッサ301は、例えばCPUである。プロセッサ301は、1又は複数のCPUであってもよい。ただし、プロセッサ301は、CPUに限られない。プロセッサ301は、GPUであってもよい。具体的な一例では、プロセッサ301は、マルチコアGPUである。プロセッサ301は、例えば、ASICであってもよいし、ゲートアレイ、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスであってもよい。この場合、ASIC又はプログラマブルロジックデバイスは、異常検知プログラム307と同様の処理を実行可能に構成される。
【0061】
I/O304は、無線機200に接続されている。I/O304は、例えば、通信I/Fであり、特定の通信プロトコルによる通信を行うことが可能である。I/O304は、例えばイーサネットインタフェース(「イーサネット」は登録商標)を含む。I/O304は、無線機200を介して、切削工具30から歪みセンサ110の計測結果を受信することができる。
【0062】
グラフィックコントローラ305は、表示装置306に接続されており、表示装置306における表示を制御する。グラフィックコントローラ305は、例えば、GPU及びVRAM(Video RAM)を含み、表示装置306に表示するデータをVRAMに保持し、VRAMから1フレーム分の映像データを定期的に読み出し、映像信号を生成する。生成された映像信号は表示装置306に出力され、表示装置306に映像が表示される。グラフィックコントローラ305の機能は、プロセッサ301に含まれてもよい。揮発性メモリ303の一部の領域を、VRAMとして利用してもよい。
【0063】
表示装置306は、例えば液晶パネル又はOEL(有機エレクトロルミネッセンス)パネルを含む。表示装置306は、文字又は図形の情報を表示することができる。
【0064】
[5.異常検知装置の機能]
図5は、本実施形態に係る異常検知装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。異常検知装置300は、取得部311、同期部312、期間設定部313、補正部314、距離算出部315、異常検知部316、及び表示制御部317の各機能を有する。
【0065】
取得部311は、工作機械20が切削工具30によって加工対象物を加工している間の切削工具30の歪みの計測データを取得する。計測データは、歪みセンサ110の計測値の時系列データである。切削工具30の歪みは、工作機械20が切削工具30によって加工対象物を加工している間に変動する物理量の一例である。
【0066】
図6は、切削工具の歪みの時系列の波形の一例を示すグラフである。
図6において、縦軸は歪みを示し、横軸は時間を示す。加工対象物の切削加工には、加工条件が異なる複数の工程が含まれる。例えば、1つの加工対象物に対する旋盤による旋削加工には、複数の外径の外径加工工程、及び複数の内径の内径加工工程が含まれる。一連の切削加工において、工程毎に切削工具30の歪みの計測値の波形パターンは変化する。
図6の例では、1つの加工対象物の切削加工において、工程A、工程B、工程C、工程D、工程E、及び工程Fが含まれる。期間P1に工程Aが実行され、期間P2に工程Bが実行され、期間P3に工程Cが実行され、期間P4に工程Dが実行され、期間P5に工程Eが実行され、期間P6に工程Fが実行される。工程A、工程B、工程C、工程D、工程E、及び工程Fのそれぞれの加工条件は互いに異なっている。このため、工程A、工程B、工程C、工程D、工程E、及び工程Fのそれぞれにおける歪みの波形パターンは互いに異なっている。
【0067】
図5に戻り、同期部312は、取得部311によって取得された時系列の計測データである対象データと、切削工具30の正常時における歪みの時系列の計測結果である基準データ308との同期を取る。切削加工の工程によって歪みの大きさは異なるため、特定の工程での歪みの計測値を評価しなければ、切削工具30の異常の検知を正しく行うことができない。同期部312は、同一の工程における対象データと基準データ308との比較を可能とするために、対象データと基準データ308との同期を取る。
【0068】
図7は、基準データの一例を示すグラフであり、
図8は、対象データの一例を示すグラフである。
図7及び
図8において、縦軸は歪みを示し、横軸は時間を示す。異常検知装置300は、対象データ400を基準データ308と比較し、切削工具30の異常を検知する。このため、対象データ400と基準データ308との同期を取る必要がある。なお、対象データ400と基準データ308との同期を取るとは、対象データ400における工程の開始時刻と基準データ308における工程の開始時期とを合わせ、対象データ400における工程の終了時刻と基準データ308における工程の終了時期とを合わせることである。
図8は、
図7に示される基準データ308と同期が取られた対象データ400を示している。このように対象データ400と基準データ308との同期を取ることによって、同一の工程における基準データの波形と対象データ400の波形とを比較することができ、切削工具30の異常を高精度に検知することができる。
【0069】
図9は、同一の加工条件の工程が複数回繰り返される場合の歪みセンサの計測結果の一例を示すグラフである。
図9の例では、工程A1、工程A2、及び工程A3の3つの工程における歪みセンサの計測結果が示されている。工程A1、工程A2、及び工程A3は同一の加工条件の工程である。
図9では、熱ドリフトによって工程A2及びA3の波形がシフトしている。波形シフトについては後述する。
図9に示すように、同一の加工条件の工程が複数回繰り返される場合、各工程A1,A2,A3のそれぞれでの歪みの波形パターンが取得される。
【0070】
同期部312は、対象データ400における1つの工程を含む切出期間を決定し、決定された切出期間の時系列波形パターンを対象データ400から抽出する(切り出す)。切出期間は、基準データ308において波形パターンを示す期間に対応する期間である。
図9の例では、同期部312は、工程A1,A2,A3それぞれの切出期間P_A1,P_A2,P_A3を決定し、工程A1,A2,A3それぞれの時系列波形パターンを対象データ400から切り出す。
【0071】
同期部312による切出期間の決定について説明する。同期部312は、切出期間を決定するために、対象データ400の第1移動平均と第2移動平均とを算出する。
図10は、対象データ400の第1移動平均及び第2移動平均の一例を示すグラフである。
図10において、縦軸は歪みの移動平均値を示し、横軸は時間を示す。
図10において、上側のグラフは第1移動平均を示し、下側のグラフは第2移動平均を示す。第1移動平均と第2移動平均は、平均値を算出するためのデータ点数が互いに異なる。例えば、第1移動平均のデータ点数は100点であり、第2移動平均のデータ点数は200点である。
【0072】
図11は、
図10におけるT部を拡大したグラフである。
図11において、縦軸は歪みの移動平均値を示し、横軸は時間を示す。
図11において、黒の線のグラフは第1移動平均を示し、グレーの線のグラフは第2移動平均を示す。
図11に示すように、第1移動平均と第2移動平均とは、データ点数が相違するため値の変化が相違する。すなわち、第1移動平均と第2移動平均とは、概ね一定値の期間P_Sにおいては実質的に同一の値を示し、値が変化している期間P_Cにおいては互いに異なる値を示す。同期部312は、このような値の変化を利用して、移動平均の値の変化点、すなわち、期間P_Sと期間P_Tとの境界点を特定する。
【0073】
具体的な一例では、同期部312は、第1移動平均と第2移動平均との差の絶対値(以下、「移動平均の差」という)を算出する。
図11における期間P_Sでは移動平均の差は小さく、期間P_Tでは移動平均の差は大きい値を含む。
図12は、移動平均の差の一例を示すグラフである。
図12において、縦軸は移動平均の差を示し、横軸は時間を示す。同期部312は、移動平均の差と閾値(第1閾値)とを比較し、移動平均の差が第1閾値を超えた時点ts0を特定する。すなわち、同期部312は、移動平均の差の開始時刻から、時間順に移動平均の差と第1閾値とを比較し、移動平均の差が第1閾値を初めて超えた時点ts0を特定する。
【0074】
同期部312は、特定された時点ts0から始まる仮期間を決定する。仮期間は、基準データ308に基づいて予め登録された登録期間を用いて決定される。例えばユーザは、基準データ308に含まれる特定の1つの工程の期間を、登録期間として登録する。登録期間の情報は、例えば不揮発性メモリ302に格納されている。同期部312は、時点ts0を始点として、登録期間と同じ長さの期間を、仮期間として決定する。
【0075】
同期部312は、仮期間の終点である時刻te01から、時間の逆順に移動平均の差と第1閾値とを比較し、移動平均の差が第1閾値を初めて超えた時点te02を特定する。同期部312は、時点ts0から時点te02の期間を工程期間として決定する。
【0076】
同期部312は、工程期間に基づいて、切出期間を決定する。切出期間は、対象データ400から波形データを切り出すための期間である。
図13は、切出期間の決定の一例を説明するためのグラフである。
図13において、縦軸は移動平均の差を示し、横軸は時間を示す。同期部312は、時点ts0からマージン分前の時点ts1を特定し、時点te02からマージン分後の時点te1を特定する。同期部312は、時点ts1から時点te1までの期間を切出期間として決定する。マージンは、工程期間に基づいて定められる。例えば、マージンは、登録期間と工程期間との差の1/2である。ただし、マージンは、予め定められた期間であってもよい。
【0077】
上記のような切出期間は、切削工具30を用いて特定の工程が行われている期間に設定される。具体的な一例では、切出期間は、加工対象物の切削と非切削とを繰り返す断続加工工程に設定される。加工対象物の切削が連続する連続加工工程では、切削工具30に異常が発生していても、切削工具30に安定して一定の歪みが生じる。これに対して、断続加工工程では、非切削時には切削工具30に歪みが生じず、切削時には切削工具30に歪みが生じる。すなわち、切削工具30に歪みが生じる状態と生じない状態とが繰り返される。このため、切削工具30に生じた異常は、例えば、切削工具30における歪みの変動として表れる。したがって、断続加工工程における歪みの計測結果を用いて、切削工具30の異常を正確に検知することができる。
【0078】
図5に戻り、同期部312は、決定された切出期間の波形データを対象データ400から切り出す。切り出された波形データ(以下、「切出データ」という)は、基準データ308と同期が取られている。
【0079】
期間設定部313は、基準データ308と切出データとにおいて同一の加工工程の対象期間(以下、「窓」という)を設定する。
図7及び
図8を参照し、窓について説明する。窓Wは、1つの工程における一部の期間である。窓Wは、基準データ308及び切出データにおいて共通する期間である。例えば、期間設定部313は、基準データ308の一部の期間を窓Wに設定する。
【0080】
図5に戻り、補正部314は、切出データのベースラインを補正する。上述したように、歪みの計測値の波形データは、熱ドリフトによってシフトする。
図9を参照する。切削加工では切削工具30に摩擦熱が発生する。歪みセンサ110の計測結果は、熱による影響を受けて変動する。これが熱ドリフトである。
図9に示すように、熱ドリフトによって、歪み波形はシフトする。補正部314は、切削工具30の異常を正確に検知するために、熱ドリフトによる歪み波形のシフトを補正する。
【0081】
図9の例では、1回の切削加工において同じ工程が繰り返し行われ、熱ドリフトによって、後の工程A2及びA3の歪みの波形パターンが、先の工程A1の歪みの波形パターンに対して正側にシフトする。同様に、熱ドリフトによって、後の工程A3の歪みの波形パターンが、先の工程A2の歪みの波形パターンに対して正側にシフトする。
【0082】
図14Aは、補正前の切出データの一例を示すグラフであり、
図14Bは、補正後の切出データの一例を示すグラフである。
図14A及び
図14Bにおいて、縦軸は歪みを示し、横軸は時間を示す。
図14A及び
図14Bにおいて、黒の線のグラフは基準データ308を示し、グレーの線のグラフは切出データ410を示す。例えば、基準データ308は、補正後のデータである。すなわち、基準データ308は、熱ドリフトによる波形シフトが予め補正されている。
【0083】
具体的な一例では、補正部314は、窓Wの切出データ410の歪み計測値の平均値を算出し、窓Wの切出データ410の各計測値から平均値を差し引くことによって切出データ410のベースラインを補正する。
図14Bに示すように、補正後の切出データ410Aのベースラインは、基準データ308のベースラインと合致する。なお、基準データ308のベースラインは予め補正されていなくてもよい。この場合、補正部314が、窓Wの基準データ308の各計測値から平均値を差し引くことによって、基準データ308のベースラインを補正する。
【0084】
図5に戻り、距離算出部315は、同期部312によって同期が取られた基準データ308と対象データ400(切出データ410A)との間の距離を算出する。具体的な一例では、距離算出部315は、期間設定部313によって設定された窓Wにおいて、基準データ308と切出データ410Aとの間の距離を算出する。距離算出部315は、補正部314によってベースラインを補正された切出データ410Aと、基準データ308との間の距離を算出する。
【0085】
基準データ308と切出データ410Aとの間の距離の一例は、基準データ308の時系列波形と切出データ410Aの時系列波形との間の距離である。さらに具体的な一例では、基準データ308と切出データ410Aとの間の距離は、基準データ308と切出データ410Aとの間のDTW(動的時間伸縮)である。
【0086】
図15は、基準データ308と切出データ410Aとの間のDTWを説明するためのグラフである。
図15において、縦軸は歪みを示し、横軸は時間を示す。
図15において、上側のグラフは基準データ308を示し、下側のグラフは切出データ410Aを示す。
図15では、理解を容易にするために、基準データ308と切出データ410Aとを別々の座標系で示しているが、実際には1つの共通の座標軸(歪みの軸及び時間軸)における基準データ308の波形と切出データ410Aの波形との間のDTWが算出される。DTWの算出では、距離算出部315は、基準データ308の各点と切出データ410Aの各点との距離(誤差の絶対値)を総当たりで算出し、算出された距離のうちの最小値を、基準データ308と切出データ410Aとの距離として決定する。決定された距離は、切削工具30の異常度とされる。
【0087】
図5に戻り、異常検知部316は、距離算出部315によって算出された距離(異常度)と閾値(第2閾値)とを比較することによって切削工具30の異常を検知する。具体的には、異常検知部316は、異常度が第2閾値を超えている場合に、切削工具30に異常が発生していると判定し、異常度が第2閾値以下である場合に、切削工具30に異常が発生していない(正常である)と判定する。第2閾値は、窓Wの位置に基づいて定められる。ただし、第2閾値は、予め設定されてもよい。例えば、第2閾値は、ホテリングのT
2法によって定められる。ただし、第2閾値は、他の方法を用いて定められてもよい。
【0088】
期間設定部313は、1つの窓Wについて異常度と第2閾値との比較が行われた場合に、元の窓Wから少しずらした期間を新たな窓Wとして設定する。新たな窓Wにおいて、対象データ400から切出データ410が切り出され、補正部314が切出データ410のベースラインを補正し、距離算出部315が基準データ308と切出データ410Aとの距離を算出し、異常検知部316が異常度と第2閾値との比較を行う。例えば、対象データ400において異常検知を行う期間(以下、「検知対象期間」)が予め設定され、期間設定部313は、検知対象期間の始点から終点まで、窓Wを所定時間ずつずらして順次設定することができる。これにより、検知対象期間の全体において異常度が順次算出され、切削工具30の異常検知が行われる。検知対象期間は、例えば、切出期間の一部又は全部の期間として設定される。
【0089】
表示制御部317は、映像信号を表示装置306に出力し、表示装置306の表示を制御する。異常検知部316が切削工具30の異常を検知した場合、表示制御部317は、異常の検知を表示装置306に表示させる。これにより、ユーザに異常検知が通知される。
【0090】
表示制御部317は、距離算出部315によって算出された異常度の時系列グラフ(以下、「異常度グラフ」という)を、表示装置306に表示させることができる。
図16Aは、異常度グラフの一例を示すグラフであり、
図16Bは、異常度グラフの他の例を示すグラフである。
図16A及び
図16Bにおいて、縦軸は異常度を示し、横軸は時間を示す。
図16Aは、切削工具30が正常な場合の異常度グラフであり、
図16Bは、切削工具30が異常な場合の異常度グラフである。
図16A及び
図16Bに示すような異常度グラフを表示することで、ユーザは、異常度の時間的推移を確認することができる。異常度の時系列グラフを表示することで、切削工具30が摩耗し、正常な状態から異常な状態に変化した場合に、ユーザはどのように状態が変化したかを確認することができる。
【0091】
[6.異常検知装置の動作]
異常検知装置300のプロセッサ301が異常検知プログラム307を実行することにより、プロセッサ301は、以下に説明する異常検知処理を実行する。
図17は、本実施形態に係る異常検知装置による異常検知処理の一例を示すフローチャートである。
【0092】
切削工具30が使用され、工作機械20によって加工対象物が切削加工されている間、歪みセンサ110が切削工具30の歪みを計測する。センサモジュール100は、歪みセンサ110による計測結果を無線によって異常検知装置300へ送信する。異常検知装置300は、歪みの計測結果を受信し、計測結果DB309に計測結果を格納する。このようにして、時系列の計測データが計測結果DB309に蓄積される。
【0093】
プロセッサ301は、計測結果DBから、異常検知の対象となる計測データである対象データ400を取得する(ステップS101)。
【0094】
プロセッサ301は、取得した対象データ400と、基準データ308との同期を取る同期処理を実行する(ステップS102)。
【0095】
図18は、同期処理の一例を示すフローチャートである。
【0096】
同期処理において、プロセッサ301は、対象データ400の第1移動平均及び第2移動平均を算出し、移動平均の差を算出する(ステップS201)。次にプロセッサ301は、移動平均の差と第1閾値とを比較し、移動平均の差が第1閾値を超えた時点ts0を特定する(ステップS202)。
【0097】
プロセッサ301は、登録期間を用いて、特定された時点ts0を始点として仮期間を決定する(ステップS203)。プロセッサ301は、仮期間の終点である時刻te01から、時間の逆順に移動平均の差と第1閾値とを比較し、移動平均の差が第1閾値を初めて超えた時点te02を特定する。プロセッサ301は、時点ts0から時点te02の期間を工程期間として決定する(ステップS204)。
【0098】
プロセッサ301は、工程期間の前と後にマージンを追加し、切出期間を決定する(ステップS205)。プロセッサ301は、対象データ400から切出期間の波形データ(切出データ)を切り出す(ステップS206)。以上で、同期処理が終了する。
【0099】
図17に戻り、プロセッサ301は、同期化された切出データ410及び基準データ308に窓Wを設定する(ステップS103)。最初の窓Wは、検知対象期間の始端に設定される。
【0100】
プロセッサ301は、窓Wの切出データ410の計測値の平均値を算出し、各計測値を平均値を差し引く。これによって、切出データ410のベースラインが補正される(ステップS104)。
【0101】
プロセッサ301は、補正後の切出データ410Aと基準データ308との間の距離を、異常度として算出する(ステップS105)。
【0102】
プロセッサ301は、異常度と第2閾値とを比較する(ステップS106)。異常度が第2閾値以下である場合(ステップS106においてNO)、プロセッサ301はステップS109に進む。
【0103】
異常度が第2閾値を超える場合(ステップS106においてYES)、プロセッサ301は、切削工具30の異常が発生したと判断する。すなわち、プロセッサ301は、切削工具30の異常を検知する(ステップS107)。
【0104】
プロセッサ301は、切削工具30の異常検知を表示装置306に表示させる(ステップS108)。これにより、異常検知がユーザに通知される。
【0105】
プロセッサ301は、窓Wが検知対象期間の終端に到達したか否かを判定する(ステップS109)。窓Wが検知対象期間の終端に到達していない場合(ステップS109においてNO)、プロセッサ301は、ステップS103に戻り、窓Wから所定時間後の期間を新たな窓Wに設定する。プロセッサ301は、ステップS104以降を実行する。窓Wが順次更新されていくことで、検知対象期間の全体において異常度が算出され、切削工具30が異常か否かが判定される。
【0106】
窓Wが検知対象期間の終端に到達した場合(ステップS109においてYES)、プロセッサ301は、検知対象期間の異常度グラフを作成し、異常度グラフを表示装置306に表示させる(ステップS110)。以上で、異常検知処理が終了する。
【0107】
[7.変形例]
上述した実施形態では、断続加工工程に切出期間を設定し、断続加工工程における切削工具の異常を検知したが、これに限定されない。連続加工工程に切出期間を設定し、連続加工工程における切削工具の異常を検知してもよい。さらに、一又は複数の断続加工工程と、一又は複数の連続加工工程とを含む期間を切出期間として設定し、切出期間における切削工具の異常を検知してもよい。
【0108】
上述した実施形態では、異常度として、基準データの時系列波形と切出データ(対象データ)の時系列波形との距離を算出したが、これに限定されない。異常度として、基準データの分布と切出データ(対象データ)の分布との差を算出してもよい。基準データの時系列波形と切出データの時系列波形との距離は、DTWに限られない。例えば、ユークリッド距離であってもよい。ユークリッド距離を異常度とする場合、切出データの時系列波形との位相を、基準データの時系列波形の位相と合わせてもよい。基準データの分布と切出データの分布との差として、交差エントロピーを算出してもよいし、密度比を推定してもよい。
【0109】
上述した実施形態では、歪みセンサ110による切削工具30の歪みの計測データを用いて、切削工具30の異常を検知したが、これに限定されない。切削工具30に加速度センサを設け、加速度センサによって計測される時系列の加速度を用いて、切削工具30の異常を検知してもよい。加速度センサを用いる場合、加速度の基準データの分布と、加速度の対象データの分布との差を異常度として算出することができる。
【0110】
[8.補記]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的ではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及びその範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0111】
10 異常検知システム
20 工作機械
30,30A,30B,30C,30D 転削工具
31A,31B,31C,31D 切削部
32 切削インサート
33A,33B,33C 固定用部材
34,35 切刃
100 センサモジュール
101 プロセッサ
102 不揮発性メモリ
103 揮発性メモリ
104 通信インタフェース(通信I/F)
105 電池
110,110A,110B 歪みセンサ
200 無線機
300 異常検知装置
301 プロセッサ
302 不揮発性メモリ
303 揮発性メモリ
304 入出力インタフェース(I/O)
305 グラフィックコントローラ
306 表示装置
307 異常検知プログラム
308 基準データ
309 計測結果DB
311 取得部
312 同期部
313 期間設定部
314 補正部
315 距離算出部
316 異常検知部
317 表示制御部
400 対象データ
410,410A 切出データ
A,B,C,D,E,F,A1,A2,A3 工程
P1,P2,P3,P4,P5,P6,P_S,P_C 期間
P_A1,P_A2,P_A3 切出期間
ts0,ts1,te01,te02,te1 時点
W 窓
【要約】
異常検知システムは、工作機械が工具によって加工対象物を加工している間に変動する前記工具の物理量を計測する、前記工具に設けられたセンサと、前記センサの計測データに基づいて前記工具の異常を検知する異常検知装置と、を備え、前記異常検知装置は、前記センサの時系列の計測データである対象データと、前記工具の正常時における前記物理量の時系列の計測結果である基準データとの同期を取る同期部と、前記同期部によって同期が取られた前記基準データと前記対象データとの間の距離を算出する距離算出部と、前記距離算出部によって算出された前記距離と閾値とを比較することによって前記工具の異常を検知する異常検知部と、を含む。