(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】トルク検出センサおよび動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
G01L3/10 311
(21)【出願番号】P 2019119540
(22)【出願日】2019-06-27
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】ニデックドライブテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】羽泉 喬平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】ゴドレール イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】坪根 太平
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-198400(JP,A)
【文献】特開2003-014410(JP,A)
【文献】特開昭61-134271(JP,A)
【文献】特開平10-148591(JP,A)
【文献】特開2002-237401(JP,A)
【文献】特開2008-305985(JP,A)
【文献】特開2013-092427(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108444378(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0074332(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/00-3/26,1/22
H01C 7/00,
G01B 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形体に掛かるトルクを検出するトルク検出センサであって、
導体層を有する基板
を備え、
前記導体層は、円弧状または円環状の抵抗線パターンを含み、
前記抵抗線パターンは、
前記円形体の半径方向に対して周方向一方側に一定角度傾斜した複数の抵抗線と、
前記複数の抵抗線の端部同士を接続する複数の折り返し部位と、
を含み、
前記複数の抵抗線が、周方向に等間隔に配列されて、前記周方向に隣り合う前記抵抗線の端部同士が、前記半径方向の両側で交互に前記折り返し部位により接続されて、全体として直列に接続され、
前記折り返し部位は、少なくとも1つの緩曲部を有し、
前記緩曲部の内側形状が、隣り合う前記抵抗線の間の離間距離の半分よりも大きい曲率半径を有
し、
前記緩曲部は、その内側形状の接線方向が、前記円形体の半径方向と略一致する、トルク検出センサ。
【請求項2】
円形体に掛かるトルクを検出するトルク検出センサであって、
導体層を有する基板
を備え、
前記導体層は、円弧状または円環状の抵抗線パターンを含み、
前記抵抗線パターンは、
前記円形体の半径方向に対して周方向一方側に一定角度傾斜した複数の抵抗線と、
前記複数の抵抗線の端部同士を接続する複数の折り返し部位と、
を含み、
前記複数の抵抗線が、周方向に等間隔に配列されて、前記周方向に隣り合う前記抵抗線の端部同士が、前記半径方向の両側で交互に前記折り返し部位により接続されて、全体として直列に接続され、
前記折り返し部位は、第1緩曲部を有し、
前記第1緩曲部の内側形状の曲率中心が、隣り合う前記抵抗線の両方を接線とする円の中心を、順次繋いで形成される線分の両端を通る仮想直線を挟んで、前記第1緩曲部とは反対側に位置し、
前記第1緩曲部は、その内側形状の接線方向が、前記円形体の半径方向と略一致する、トルク検出センサ。
【請求項3】
円形体に掛かるトルクを検出するトルク検出センサであって、
導体層を有する基板
を備え、
前記導体層は、円弧状または円環状の抵抗線パターンを含み、
前記抵抗線パターンは、
前記円形体の半径方向に対して周方向一方側に一定角度傾斜した複数の抵抗線と、
前記複数の抵抗線の端部同士を接続する複数の折り返し部位と、
を含み、
前記複数の抵抗線が、周方向に等間隔に配列されて、前記周方向に隣り合う前記抵抗線の端部同士が、前記半径方向の両側で交互に前記折り返し部位により接続されて、全体として直列に接続され、
前記折り返し部位は、第1緩曲部を有し、
前記第1緩曲部の内側形状の曲率中心が、隣り合う前記抵抗線の両方を接線とする円の中心を、順次繋いで形成される線分の両端を通る仮想直線を挟んで、前記第1緩曲部とは反対側に位置し、
前記折り返し部位は、第2緩曲部を有し、
前記第2緩曲部の内側形状の曲率中心が、前記仮想直線に対して、前記第2緩曲部と同じ側に位置する、トルク検出センサ。
【請求項4】
請求項
1に記載のトルク検出センサであって、
互いに離れた前記緩曲部を、複数有する、トルク検出センサ。
【請求項5】
請求項
4に記載のトルク検出センサであって、
前記折り返し部位は、隣り合う前記緩曲部の間において、その内側形状が、前記離間距離の半分よりも小さい曲率半径を有する部位を含む、トルク検出センサ。
【請求項6】
請求項1から請求項
5までのいずれか1項に記載のトルク検出センサであって、
前記折り返し部位の内側形状に内接する内接円の中心を順次繋いで形成される曲線は、
前記抵抗線の側から前記折り返し部位の側に向かうにつれて、前記半径方向に近づく、トルク検出センサ。
【請求項7】
請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載のトルク検出センサであって、
前記折り返し部位の前記周方向における幅は、隣り合う前記抵抗線同士の周方向における間隔よりも短い、トルク検出センサ。
【請求項8】
請求項1から請求項
7までのいずれか1項に記載のトルク検出センサであって、
前記抵抗線パターンは、ホイートストンブリッジ回路に組み込まれる、トルク検出センサ。
【請求項9】
請求項
8に記載のトルク検出センサであって、
前記ホイートストンブリッジ回路の出力信号に基づいて、前記円形体に掛かるトルクを検出する信号処理回路
を備える、トルク検出センサ。
【請求項10】
請求項1から請求項
9までのいずれか1項に記載のトルク検出センサと、
前記円形体と、
を有する動力伝達装置。
【請求項11】
請求項
10に記載の動力伝達装置であって、
前記円形体は、
軸方向に筒状に延びる可撓性の筒状部と、
前記筒状部の外周面に設けられた複数の外歯と、
前記筒状部の軸方向の一方側から半径方向外側または半径方向内側へ向けて広がる平板状のダイヤフラム部と、
を有し、
前記基板は、前記ダイヤフラム部に固定される、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク検出センサおよび動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばロボットの関節などに搭載される減速機の出力歯車において、トルクを精度よく検出することが求められている。斯かる用途に用いられるトルク検出装置は、例えば特開2004-198400号公報に記載されている。
【文献】特開2004-198400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特開2004-198400号公報に記載されたトルク検出装置は、減速機の可撓性外歯歯車の表面に貼り付けられる歪みゲージユニットを有する。特開2004-198400号公報の歪みゲージユニットは、360度の円弧形状をした検出セグメントが形成された歪みゲージパターンを備える。上記検出セグメントは、一定の間隔で抵抗線を配列したグリッドパターンが所定形状となるように形成されたものである。斯かるトルク検出装置によれば、可撓性外歯歯車の全周に掛かるトルクを、精度よく検出することができると考えられる。
【0004】
しかしながら、特開2004-198400号公報に記載されたトルク検出装置では、歪みゲージパターンの一部に応力が集中しやすいと考えられる。とりわけ、隣り合う抵抗線同士を繋ぐ接続箇所には、応力が集中しやすく、歪みゲージパターンの断線を招いてしまう虞もあった。
【0005】
本発明の目的は、円形体に掛かるトルクを精度よく検出することができ、しかも断線が生じ難いトルク検出センサおよび動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の1つの観点では、円形体に掛かるトルクを検出するトルク検出センサであって、導体層を有する基板を備えるトルク検出センサが提供される。このトルク検出センサにおいては、前記導体層は、円弧状または円環状の抵抗線パターンを含む。前記抵抗線パターンは、前記円形体の半径方向に対して周方向一方側に一定角度傾斜した複数の抵抗線と、前記複数の抵抗線の端部同士を接続する複数の折り返し部位と、を含む。前記複数の抵抗線が、周方向に等間隔に配列されて、前記周方向に隣り合う前記抵抗線の端部同士が、前記半径方向の両側で交互に前記折り返し部位により接続されて、全体として直列に接続される。前記折り返し部位は、少なくとも1つの緩曲部を有する。前記緩曲部の内側形状は、隣り合う前記抵抗線の間の離間距離の半分よりも大きい曲率半径を有する。
【0007】
本願の別の1つの観点では、円形体に掛かるトルクを検出するトルク検出センサであって、導体層を有する基板を備えるトルク検出センサが提供される。このトルク検出センサにおいては、前記導体層は、円弧状または円環状の抵抗線パターンを含む。前記抵抗線パターンは、前記円形体の半径方向に対して周方向一方側に一定角度傾斜した複数の抵抗線と、前記複数の抵抗線の端部同士を接続する複数の折り返し部位と、を含む。前記複数の抵抗線が、周方向に等間隔に配列されて、前記周方向に隣り合う前記抵抗線の端部同士が、前記半径方向の両側で交互に前記折り返し部位により接続されて、全体として直列に接続される。前記折り返し部位は、第1緩曲部を有する。前記第1緩曲部の内側形状の曲率中心は、隣り合う前記抵抗線の両方を接線とする円の中心を、順次繋いで形成される線分の両端を通る仮想直線を挟んで、前記第1緩曲部とは反対側に位置する。
【発明の効果】
【0008】
本願の観点によれば、円形体に掛かるトルクを精度よく検出することができ、しかも断線が生じ難いトルク検出センサおよび動力伝達装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る動力伝達装置の縦断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る動力伝達装置の横断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るトルク検出センサの平面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るホイートストンブリッジ回路の回路図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る抵抗線パターンの拡大図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る抵抗線パターンの拡大図である。
【
図7】
図7は、変形例に係るトルク検出センサの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、動力伝達装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、動力伝達装置の中心軸に直交する方向を「半径方向」、動力伝達装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0011】
<1.第1実施形態>
<1-1.動力伝達装置の構成>
図1は、第1実施形態に係る動力伝達装置1の縦断面図である。
図2は、
図1のA-A位置から見た動力伝達装置1の横断面図である。この動力伝達装置1は、モータから得られる第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数に減速させつつ後段へ伝達する装置である。動力伝達装置1は、例えば、ロボットの関節に、モータとともに組み込まれて使用される。ただし、本発明の動力伝達装置は、アシストスーツ、無人運搬車などの他の装置に用いられるものであってもよい。
【0012】
図1および
図2に示すように、本実施形態の動力伝達装置1は、インタナルギア10、フレックスギア20、波動発生器30、およびトルク検出センサ40を備えている。
【0013】
インタナルギア10は、内周面に複数の内歯11を有する円環状のギアである。インタナルギア10は、動力伝達装置1が搭載される装置の枠体に、例えばねじ止めで固定される。インタナルギア10は、中心軸9と同軸に配置される。また、インタナルギア10は、フレックスギア20の後述する筒状部21の半径方向外側に位置する。インタナルギア10の剛性は、フレックスギア20の筒状部21の剛性よりも、はるかに高い。このため、インタナルギア10は、実質的に剛体とみなすことができる。インタナルギア10は、円筒状の内周面を有する。複数の内歯11は、当該内周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各内歯11は、半径方向内側へ向けて突出する。
【0014】
フレックスギア20は、可撓性を有する円環状のギアである。フレックスギア20は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。フレックスギア20は、本発明における「円形体」の一例である。
【0015】
本実施形態のフレックスギア20は、筒状部21と平板部22とを有する。筒状部21は、中心軸9の周囲において、軸方向に筒状に延びる。筒状部21の軸方向の先端は、波動発生器30の半径方向外側、かつ、インタナルギア10の半径方向内側に位置する。筒状部21は、可撓性を有するため、半径方向に変形可能である。特に、インタナルギア10の半径方向内側に位置する筒状部21の先端部は、自由端であるため、他の部分よりも大きく半径方向に変位可能である。
【0016】
フレックスギア20は、複数の外歯23を有する。複数の外歯23は、筒状部21の軸方向の先端部付近の外周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各外歯23は、半径方向外側へ向けて突出する。上述したインタナルギア10が有する内歯11の数と、フレックスギア20が有する外歯23の数とは、僅かに相違する。
【0017】
平板部22は、ダイヤフラム部221と肉厚部222とを有する。ダイヤフラム部221は、筒状部21の軸方向の基端部から、半径方向外側へ向けて平板状に広がり、かつ、中心軸9を中心として円環状に広がる。ダイヤフラム部221は、軸方向に僅かに撓み変形可能である。肉厚部222は、ダイヤフラム部221の半径方向外側に位置する、円環状の部分である。肉厚部222の軸方向の厚みは、ダイヤフラム部221の軸方向の厚みよりも、厚い。肉厚部222は、動力伝達装置1が搭載される装置の、駆動対象となる部品に、例えばねじ止めで固定される。
【0018】
波動発生器30は、フレックスギア20の筒状部21に、周期的な撓み変形を発生させる機構である。波動発生器30は、カム31と可撓性軸受32とを有する。カム31は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。カム31は、軸方向に視たときに楕円形の外周面を有する。可撓性軸受32は、カム31の外周面と、フレックスギア20の筒状部21の内周面との間に介在する。したがって、カム31と筒状部21とは、異なる回転数で回転できる。
【0019】
可撓性軸受32の内輪は、カム31の外周面に接触する。可撓性軸受32の外輪は、フレックスギア20の内周面に接触する。このため、フレックスギア20の筒状部21は、カム31の外周面に沿った楕円形状に変形する。その結果、当該楕円の長軸の両端に相当する2箇所において、フレックスギア20の外歯23と、インタナルギア10の内歯11とが噛み合う。周方向の他の位置においては、外歯23と内歯11とが噛み合わない。
【0020】
カム31は、直接または他の動力伝達機構を介して、モータに接続される。モータを駆動させると、カム31は、中心軸9を中心として第1回転数で回転する。これにより、フレックスギア20の上述した楕円の長軸も、第1回転数で回転する。そうすると、外歯23と内歯11との噛み合い位置も、周方向に第1回転数で変化する。また、上述の通り、インタナルギア10の内歯11の数と、フレックスギア20の外歯23の数とは、僅かに相違する。この歯数の差によって、カム31の1回転ごとに、外歯23と内歯11との噛み合い位置が、周方向に僅かに変化する。その結果、インタナルギア10に対してフレックスギア20が、中心軸9を中心として、第1回転数よりも低い第2回転数で回転する。したがって、フレックスギア20から、減速された第2回転数の回転運動を取り出すことができる。
【0021】
<1-2.トルク検出センサについて>
トルク検出センサ40は、フレックスギア20に掛かる周方向のトルクを検出するセンサである。
図1に示すように、本実施形態では、円板状のダイヤフラム部221の円形の表面に、トルク検出センサ40が固定されている。
【0022】
図3は、トルク検出センサ40を軸方向に視た平面図である。
図3に示すように、トルク検出センサ40は、基板41を備える。本実施形態の基板41は、柔軟に変形可能なフレキシブル基板である。基板41は、中心軸9を中心とする円環状の本体部411と、本体部411から半径方向外側へ向けて突出したフラップ部412とを有する。基板41は、導体層L1を有する。本実施形態の導体層L1は、基板41の軸方向における一方側の表面に位置する。
【0023】
図3に示すように、導体層L1は、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含む。後述するように、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2は、ホイートストンブリッジ回路42に組み込まれる。別の言い方をすれば、本体部411の表面にホイートストンブリッジ回路42が実装されている。また、信号処理回路43が、フラップ部412に実装されている。
【0024】
第1抵抗線パターンR1は、1本の導体が曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第1抵抗線パターンR1が設けられている。第1抵抗線パターンR1の材料には、例えば、銅または銅を含む合金が用いられる。第1抵抗線パターンR1には、複数の第1抵抗線r1と、複数の折り返し部位r11とが含まれる。複数の第1抵抗線r1は、互いに略平行な姿勢で、周方向に等間隔に配列される。第1抵抗線パターンR1においては、周方向に隣り合う第1抵抗線r1同士が、半径方向の一方側と他方側とで折り返し部位r11により交互に接続されて、全体として直列に接続されている。各第1抵抗線r1は、基板41の軸方向における一方側から視たときに、フレックスギア20の半径方向に対して、周方向一方側に傾斜している。半径方向に対する第1抵抗線r1の傾斜角度は、例えば45°とされる。折り返し部位r11については、後に詳述する。
【0025】
第2抵抗線パターンR2は、1本の導体が曲折しながら周方向に延びる、全体として円弧状または円環状のパターンである。本実施形態では、中心軸9の周囲の約360°の範囲に、第2抵抗線パターンR2が設けられている。第2抵抗線パターンR2の材料には、例えば、銅または銅を含む合金が用いられる。第2抵抗線パターンR2は、第1抵抗線パターンR1よりも、半径方向内側に位置する。すなわち、第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、互いに重ならない位置に配置される。第2抵抗線パターンR2には、複数の第2抵抗線r2と、複数の折り返し部位r12とが含まれる。複数の第2抵抗線r2は、互いに略平行な姿勢で、周方向に等間隔に配列される。第2抵抗線パターンR2においては、周方向に隣り合う第2抵抗線r2同士が、半径方向の一方側と他方側とで折り返し部位r12により交互に接続されて、全体として直列に接続されている。各第2抵抗線r2は、基板41の軸方向における一方側から視たときに、フレックスギア20の半径方向に対して、周方向他方側に傾斜している。半径方向に対する第2抵抗線r2の傾斜角度は、例えば-45°とされる。折り返し部位r12については、後に詳述する。
【0026】
図4は、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含むホイートストンブリッジ回路42の回路図である。
図4に示すように、本実施形態のホイートストンブリッジ回路42は、第1抵抗線パターンR1、第2抵抗線パターンR2、第1固定抵抗Ra、および第2固定抵抗Rbを含む。第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、直列に接続される。第1固定抵抗Raと第2固定抵抗Rbとは、直列に接続される。そして、電源電圧の+極と-極との間において、2つの抵抗線パターンR1,R2の列と、2つの固定抵抗Ra,Rbの列とが、並列に接続される。また、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の中点M1と、第1固定抵抗Raおよび第2固定抵抗Rbの中点M2とが、電圧計Vに接続される。
【0027】
第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の各抵抗値は、フレックスギア20に掛かるトルクに応じて変化する。例えば、フレックスギア20に、軸方向の一方側から視たときに、中心軸9を中心として周方向の一方側へ向かうトルクが掛かると、第1抵抗線パターンR1の抵抗値が低下し、第2抵抗線パターンR2の抵抗値が増加する。一方、フレックスギア20に、軸方向の一方側から視たときに、中心軸9を中心として周方向の他方側へ向かうトルクが掛かると、第1抵抗線パターンR1の抵抗値が増加し、第2抵抗線パターンR2の抵抗値が低下する。このように、第1抵抗線パターンR1と第2抵抗線パターンR2とは、トルクに対して互いに逆向きの抵抗値変化を示す。
【0028】
そして、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の各抵抗値が変化すると、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2の中点M1と、第1固定抵抗Raおよび第2固定抵抗Rbの中点M2との間の電位差が変化するので、電圧計Vの計測値が変化する。したがって、この電圧計Vの計測値に基づいて、フレックスギア20に掛かるトルクの向きおよび大きさを検出することができる。
【0029】
信号処理回路43は、電圧計Vにより計測される中点M1,M2の間の電位差信号に基づいて、フレックスギア20に掛かるトルクを検出するための回路である。別の言い方をすれば、信号処理回路43は、ホイートストンブリッジ回路42の出力信号に基づいて、フレックスギア20に掛かるトルクを検出する。第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2を含むホイートストンブリッジ回路42は、信号処理回路43と電気的に接続されている。信号処理回路43には、例えば、中点M1,M2の間の電位差を増幅する増幅器や、増幅後の電気信号に基づいて、トルクの向きおよび大きさを算出するための回路が含まれる。検出されたトルクは、有線または無線により信号処理回路43に接続された外部の装置へ出力される。
【0030】
トルク検出センサ40は、例えば両面接着テープにより、フレックスギア20のダイヤフラム部221に固定される。具体的には、ダイヤフラム部221の表面と、基板41の裏面とが、両面接着テープを介して固定される。両面接着テープは、接着力を有する材料がテープ状に成形されて、形状を維持できる程度に硬化されたものである。このような両面接着テープを用いれば、流動性を有する接着剤を用いる場合よりも、ダイヤフラム部221に対するトルク検出センサ40の固定作業が容易となる。また、作業者による固定作業のばらつきを低減できる。
【0031】
以上のような構成の動力伝達装置1において、フレックスギア20の回転に伴ってダイヤフラム部221は撓み変形を繰り返す。そのため、第1抵抗線パターンR1の半径方向外側の折り返し部位r11、および第2抵抗線パターンR2の半径方向内側の折り返し部位r12において、応力が集中し易い。より具体的には、折り返し部位r11,r12を仮に単純な円弧状とした場合、当該円弧の始端または終端において、特に応力が集中する。そのため、当該部分において、断線が生じ易くなってしまう。この点、本実施形態では、折り返し部位r11,r12での断線を防ぐために、折り返し部位r11,r12を特有の形状としている。
【0032】
<1-3.折り返し部位の詳細についての説明>
以下では、折り返し部位r11,r12について、
図5を参照して詳細に説明する。
図5は、抵抗線パターンR1の拡大図である。なお、折り返し部位r12は、折り返し部位r11と同様の形状・機能を有するため、以下では、折り返し部位r11のみについて説明する。
【0033】
折り返し部位r11は、周方向に隣り合う抵抗線r1の端同士を、曲率が緩やかに移り変わる曲線により一連に繋いだ内側形状および外側形状を有する。本実施形態では、折り返し部位r11の外側形状は、内側形状と略相似な形状を有する。各折り返し部位r11は、複数の緩曲部である第1緩曲部r111と、第2緩曲部r112とを有する。
【0034】
第1緩曲部r111は、隣り合う抵抗線r1のうちの一方の抵抗線r1と折り返し部位r11の始端との接続箇所に近い部位に設けられる。第1緩曲部r111は、その内側形状の接線方向が、フレックスギア20の半径方向と略一致する。
図5に示すように、第1緩曲部r111は、その内側形状が、隣り合う抵抗線r1の間の離間距離D1の半分よりも大きい曲率半径を有する。
【0035】
第2緩曲部r112は、隣り合う抵抗線r1のうちの他方の抵抗線r1と折り返し部位r11の終端との接続箇所に近い部位に設けられる。第2緩曲部r112は、その内側形状の接線方向が、フレックスギア20の半径方向と略一致する。
図5に示すように、第2緩曲部r112は、その内側形状が、隣り合う抵抗線r1の間の離間距離D1の半分よりも大きい曲率半径を有する。
【0036】
折り返し部位r11は、第1緩曲部r111と第2緩曲部r112との間において、その内側形状が、離間距離D1の半分よりも小さい曲率半径を有する部位を含んでいる。詳細には、本実施形態の折り返し部位r11は、第1緩曲部r111から第2緩曲部r112に近づくにつれて内側形状の曲率半径が小さくなり、さらに第2緩曲部r112に近づくにつれて内側形状の曲率半径が再び大きくなる。このように、本実施形態の折り返し部位r11の内側形状は、急激に曲率半径が小さくなる部分が無い。本実施形態の折り返し部位r11の内側形状は、曲率半径が連続的にかつ緩やかに変化する曲線でできている。
【0037】
このような構成の折り返し部位r11においては、全体が曲率の大きい曲線で繋がれているため、フレックスギア20が回転したときに極端に応力が集中する部分がない。とりわけ、折り返し部位r11と抵抗線r1との接続箇所の近傍には、フレックスギア20の半径方向に延びる部分が存在する。この部分には、応力が集中し易いが、本実施形態では、当該箇所の内側形状の曲率半径が特に大きくなっている。そのため、抵抗線パターンR1,R2の断線を効果的に防止することができる。
【0038】
以上に示したように、本実施形態のトルク検出センサ40においては、折り返し部位r11は、少なくとも1つの緩曲部である第1緩曲部r111を有する。第1緩曲部r111の内側形状は、隣り合う抵抗線r1の間の離間距離D1の半分よりも大きい曲率半径を有する。これにより、曲率半径を大きく設定した第1緩曲部r111において、応力集中を抑制できる。したがって、抵抗線パターンR1の断線を抑制できる。
【0039】
また、本実施形態のトルク検出センサ40においては、第1緩曲部r111は、その内側形状の接線方向が、フレックスギア20の半径方向と略一致する。これにより、折り返し部位r11のうち特に応力が集中し易い部位において、内側形状により応力集中を抑制できる。したがって、抵抗線パターンR1の断線をより抑制できる。
【0040】
また、
図5に示すように、本実施形態のトルク検出センサ40においては、折り返し部位r11の内側形状に内接する内接円の中心を順次繋いで形成される曲線S1は、抵抗線r1の側から折り返し部位r11の側に向かうにつれて、フレックスギア20の半径方向に近づく。これにより、折り返し部位r11の内側形状が、全体として、局所的な応力集中を抑制できる形状となる。
【0041】
また、本実施形態のトルク検出センサ40においては、折り返し部位r11の周方向における幅は、隣り合う抵抗線r1同士の周方向における間隔よりも短い。これにより、抵抗線パターンR1の折り返し部位r11の長さを過剰に長くすることなく、応力集中を抑制し、抵抗線パターンR1の断線を抑制することができる。その結果、トルク検出センサ40を小型化することができる。
【0042】
また、本実施形態のトルク検出センサ40においては、第1抵抗線パターンR1および第2抵抗線パターンR2は、ホイートストンブリッジ回路42に組み込まれる。これにより、ホイートストンブリッジ回路42を用いて、フレックスギア20に掛かるトルクを検出することができる。
【0043】
また、本実施形態の動力伝達装置1においては、フレックスギア20は、筒状部21と、複数の外歯23と、ダイヤフラム部221とを有する。トルク検出センサ40の基板41は、ダイヤフラム部221に固定される。これにより、フレックスギア20のダイヤフラム部221に掛かるトルクを検出することができる。
【0044】
<1-4.別の観点からの折り返し部位の詳細についての説明>
以下では、
図6を参照して、上述とは別の観点から、折り返し部位r11,r12について詳細に説明する。
図6は、抵抗線パターンR1の拡大図である。なお、折り返し部位r12は、折り返し部位r11と同様の形状・機能を有するため、以下では、折り返し部位r11のみについて説明する。
【0045】
折り返し部位r11は、周方向に隣り合う抵抗線r1の端同士を、曲率が緩やかに移り変わる曲線により一連に繋いだ内側形状および外側形状を有する。本実施形態では、折り返し部位r11の外側形状は、内側形状と略相似な形状を有する。折り返し部位r11は、複数の緩曲部である第1緩曲部r111と、第2緩曲部r112とを有する。
【0046】
第1緩曲部r111は、隣り合う抵抗線r1のうちの一方の抵抗線r1と折り返し部位r11の始端との接続箇所に近い部位に設けられる。第1緩曲部r111は、その内側形状の接線方向が、フレックスギア20の半径方向と略一致する。
図6に示すように、第1緩曲部r111の内側形状の曲率中心C1は、隣り合う抵抗線r1の両方を接線とする円の中心を、順次繋いで形成される線分の両端P1,P2を通る仮想直線S2を挟んで、第1緩曲部r111とは反対側に位置する。そのため、第1緩曲部r111は、折り返し部位r11のその他の大部分の領域の内側形状よりも、曲率が大きくなっている。別の言い方をすれば、第1緩曲部r111の内側形状は、折り返し部位r11のその他の領域(第2緩曲部r112を除く領域)の内側形状よりも、緩いカーブとなっている。
【0047】
第2緩曲部r112は、隣り合う抵抗線r1のうちの他方の抵抗線r1と折り返し部位r11の終端との接続箇所に近い部位に設けられる。第2緩曲部r112は、その内側形状の接線方向が、フレックスギア20の半径方向と略一致する。
図6に示すように、第2緩曲部r112の内側形状の曲率中心C2は、隣り合う抵抗線r1の両方を接線とする円の中心を、順次繋いで形成される線分の両端P1,P2を通る仮想直線S2に対して、第2緩曲部r112が配置される側と同じ側に位置する。より詳細には、第2緩曲部r112の内側形状の曲率中心C2は、第2緩曲部r112と仮想直線S2との間に位置する。ただし、第2緩曲部r112は、折り返し部位r11のその他の大部分の領域の内側形状よりも、曲率が大きくなっている。別の言い方をすれば、第2緩曲部r112の内側形状は、折り返し部位r11のその他の領域(第1緩曲部r111を除く領域)の内側形状よりも、緩いカーブとなっている。
【0048】
折り返し部位r11は、第1緩曲部r111と第2緩曲部r112との間において、その内側形状が、離間距離D1の半分よりも小さい曲率半径を有する部位を含んでいる。詳細には、本実施形態の折り返し部位r11は、第1緩曲部r111から第2緩曲部r112に近づくにつれて内側形状の曲率半径が小さくなり、さらに第2緩曲部r112に近づくにつれて内側形状の曲率半径が再び大きくなる。このように、本実施形態の折り返し部位r11の内側形状は、急激に曲率半径が小さくなる部分が無い。本実施形態の折り返し部位r11の内側形状は、曲率半径が連続的にかつ緩やかに変化する曲線でできている。
【0049】
このような構成の折り返し部位r11においては、全体が曲率の大きい曲線で繋がれているため、フレックスギア20が回転したときに極端に応力が集中する部分がない。とりわけ、折り返し部位r11と抵抗線r1との接続箇所の近傍には、フレックスギア20の半径方向に延びる部分が存在する。この部分には、応力が集中し易いが、本実施形態では、当該箇所の内側形状の曲率半径が特に大きくなっている。そのため、抵抗線パターンR1,R2の断線を効果的に防止することができる。
【0050】
以上に示したように、本実施形態のトルク検出センサ40においては、折り返し部位r11は第1緩曲部r111を有する。第1緩曲部r111の内側形状の曲率中心C1は、隣り合う抵抗線r1の両方を接線とする円の中心を、順次繋いで形成される線分の両端P1,P2を通る仮想直線S2を挟んで、第1緩曲部r111とは反対側に位置する。これにより、折り返し部位r11のうち、第1緩曲部r111において、応力集中を抑制することができる。したがって、抵抗線パターンR1の断線を抑制できる。
【0051】
また、本実施形態のトルク検出センサ40においては、第1緩曲部r111は、その内側形状の接線方向が、フレックスギア20の半径方向と略一致する。これにより、折り返し部位r11のうち特に応力が集中し易い部位において、内側形状により応力集中を緩和することができる。したがって、抵抗線パターンR1の断線をより抑制できる。
【0052】
<2.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0053】
上記の実施形態では、第1抵抗線パターンR1の、半径方向内側および半径方向外側の折り返し部位r11の両方に、本願に特有の形状が適用されていた。同様に、第2抵抗線パターンR2の、半径方向内側および半径方向外側の折り返し部位r12の両方に、本願に特有の形状が適用されていた。しかしながら、これに代えて、第1抵抗線パターンR1の半径方向外側の折り返し部位r11と、第2抵抗線パターンR2の半径方向内側の折り返し部位r12とにのみ、本願に特有の形状を適用してもよい。これは、フレックスギア20のダイヤフラム部221が特に撓み変形し易いのが、半径方向外側の端の領域、および半径方向内側の端の領域のためである。斯かる例を、
図7に示してある。
図7は、変形例に係るトルク検出センサ40の平面図である。
【0054】
上記の実施形態では、折り返し部位r11の外側形状は、内側形状と略相似であったが、これに限定されない。例えば、折り返し部位における金属線の幅が、抵抗線r1の幅よりも太くなっていてもよい。
【0055】
また、上記の実施形態のフレックスギア20では、ダイヤフラム部221が、筒状部21の基端部から半径方向外側へ向けて広がっていた。しかしながら、ダイヤフラム部221は、筒状部21の基端部から半径方向内側へ向けて広がるものであってもよい。
【0056】
また、上記の実施形態では、トルク検出の対象物が、フレックスギア20であった。しかしながら、上記実施形態と同等の構造を有するトルク検出センサ40を、フレックスギア20以外の円形体に掛かるトルクを検出するために、用いてもよい。
【0057】
上記の実施形態の抵抗線パターンは、全て、円形体のトルクを検出するために用いられる抵抗線パターンである。これらの抵抗線パターンの数や位置は、適宜に設計変更可能である。その他、トルク検出センサおよび動力伝達装置の細部の構成についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の各実施形態および各変型例に登場した要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願は、トルク検出センサおよび動力伝達装置に利用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 動力伝達装置
9 中心軸
10 インタナルギア
11 内歯
20 フレックスギア(円形体)
21 筒状部
22 平板部
23 外歯
30 波動発生器
31 カム
32 可撓性軸受
40 トルク検出センサ
41 基板
42 ホイートストンブリッジ回路
43 信号処理回路
221 ダイヤフラム部
222 肉厚部
411 本体部
412 フラップ部
L1 導体層
R1 第1抵抗線パターン
R2 第2抵抗線パターン
S2 仮想直線
r1 抵抗線
r11 折り返し部位
r111 第1緩曲部
r112 第2緩曲部
r12 折り返し部位
r2 第2抵抗線