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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/08 20060101AFI20230627BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230627BHJP
   A01N 59/06 20060101ALI20230627BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230627BHJP
   C01F 11/06 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 35/618 20150101ALN20230627BHJP
【FI】
A61K33/08
A61P17/00 101
A61P17/02
A61P31/04
A01N59/06 Z
A01P3/00
C01F11/06
A61K35/618
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019108932
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020200278
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】518353038
【氏名又は名称】株式会社プラスラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】518353049
【氏名又は名称】有限会社エルシオン
(73)【特許権者】
【識別番号】520381090
【氏名又は名称】株式会社ITO知財インベストメント
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】沢田 新一
(72)【発明者】
【氏名】福田 孝一
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077648(JP,A)
【文献】特開2019-006660(JP,A)
【文献】特開2001-026508(JP,A)
【文献】国際公開第2009/104670(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194284(WO,A1)
【文献】Journal of Health Science,2000年,Vol.46, No.2,p.98-103
【文献】富山大学看護学会誌,2008年,第7巻2号,p.39-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P,A01N,A01P,C01F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを含有する貝殻を焼成して一次焼成物を得る一次焼成工程と、
一次焼成物を微粉砕する微粉砕工程と、
一次焼成物を再度焼成して二次焼成物を得る二次焼成工程と、
二次焼成物を真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下にて外気温まで冷却させる却工程と、
を有することを特徴とする、酸化カルシウム含有焼成物を含む、緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤の製造方法
【請求項2】
前記貝殻がホタテ貝殻又はカキ貝殻である、請求項記載の製造方法
【請求項3】
差熱熱重量分析(TG-DTA)で測定される酸化カルシウム含有率が95重量%以上であり、また水酸化カルシウム含有率が5重量%以下であり、
蛍光X線分析法(XRF)で測定されるカルシウム元素含有率が95atom%以上であり、
X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が95質量%以上であり、
平均粒径が20μm以下であり、
BET比表面積が0.5m/g以上3.0m/g以下である、貝殻を焼成して得られた酸化カルシウム含有焼成物である
ことを特徴とする緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤。
【請求項4】
前記貝殻がホタテ貝殻又はカキ貝殻である、請求項記載の緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
緑膿菌は、病院や家庭内において深刻な感染を惹き起こす原因菌として知られている。この緑膿菌をコンロールするために、o-フェニルフェノールやtert-アルキルアンモニウム塩のような殺菌成分が特に用いられているが、これらの成分でも緑膿菌を十分に阻害することができない。このような課題を踏まえ、例えば、特許文献1では、(a)アナカルド酸、リモネン、β-ピネン、ファルネソール、β-シトロネロール、松脂及びヒノキチオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の天然由来物質並びに(b)該天然由来物質1重量部当たり0.2乃至100重量部のインドールを有効成分として含有する抗緑膿菌剤が提案されている。
【先行特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-271073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の有機系とは異なる、無機系材料を主体とした、新規な緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明(1)は、
炭酸カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを含有する開始材料を焼成して一次焼成物を得る一次焼成工程と、
一次焼成物を微粉砕する微粉砕工程と、
一次焼成物を再度焼成して二次焼成物を得る二次焼成工程と、
二次焼成物を真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下にて外気温まで冷却させる二次冷却工程と、
により得られた酸化カルシウム含有焼成物である
ことを特徴とする、緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤である。
本発明(2)は、
前記開始材料が貝殻である、前記発明(1)の緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤である。
本発明(3)は、
前記貝殻がホタテ貝殻又はカキ貝殻である、前記発明(2)の緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤である。
本発明(4)は、
繭状の緻密な粒子表面構造を有し、
示差熱熱重量分析(TG-DTA)で測定される酸化カルシウム含有率が95重量%以上であり、また水酸化カルシウム含有率が5重量%以下であり、
蛍光X線分析法(XRF)で測定されるカルシウム元素含有率が95atom%以上であり、
X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が95質量%以上であり、
平均粒径が20μm以下であり、
BET比表面積が0.5m/g以上3.0m/g以下である、貝殻を焼成して得られた酸化カルシウム含有焼成物である
ことを特徴とする緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤である。
本発明(5)は、
前記貝殻がホタテ貝殻又はカキ貝殻である、前記発明(4)の緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来の有機系とは異なる、無機系材料を主体とした、新規な緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】例1のSEM写真である。
図2】実施例における、消毒剤の緑膿菌に対するin vitro 殺菌活性を示す。ここで、緑膿菌をそれぞれの濃度のBisCaO懸濁液、次亜塩素酸水、ポピドンヨード溶液と5分間反応させた。生存菌数が、それぞれの消毒液の有効最低濃度を検証するために計測された (N=6)。
図3】実施例における、消毒剤の緑膿菌感染創に対するin vivo除菌活性を示す。ここで、ヘアレスラットにおける緑膿菌感染創は毎日5回3mLのそれぞれの消毒液で当初の3日間、ガーゼで丁寧に擦りながら洗浄し、その後CNFSで被覆した。引き続いて、days4~9の間毎日生理食塩水のみで洗浄し、感染創をCNFSで被覆した。それぞれの消毒液での洗浄前(days1,2,3,6,9)、感染創から一片の滅菌ガーゼを用いたふき取り試験により、生存菌数を計測した。データは平均値 ± 標準偏差(SD)(N=7)を示す。尚、図中のBisCaOは、実施例に係る懸濁液を意味する(以下も同様)。
図4】実施例における、感染創開放部のデジタル写真を示す。ここで、ヘアレスラットにおける緑膿菌感染創を毎日それぞれの消毒液又は生理食塩水で洗浄し、CNFSで被覆した。指定された日で洗浄前のそれぞれの感染開放創(N=7) は写真撮影され、開放率が計測された。
図5】実施例における、開放創の率(パーセンテージ)を示す。ここで、Day1での開放創面積を100とし、図3のデジタル写真を用いてそれぞれの開放創のパーセンテージを計算した。データは、平均値 ± 標準偏差(SD)(N=7);P<0.05(Student‘s t-test)を示す。
図6】実施例における、Day9での肉芽組織と新生血管形成についての組織学的試験を示す。ここで、それぞれの消毒液洗浄群の創部を含んだ周辺の皮膚をDay9に切除し、ヘマキシリン・エオジン(H&E)染色してスライド固定した。その組織スライドの顕微鏡写真(×100)観察により、それぞれの組織における肉芽組織形成及び血管新生が評価された (N=7)。実線は肉芽組織幅、矢印は新生血管を示す。提示した写真は、それぞれの群の代表的なものである。これらの顕微鏡写真は、表2の作製に使われた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤は、特定の酸化カルシウム焼成物を含む。以下、当該焼成物、当該焼成物の製造方法、当該焼成物の用途(緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤)、の順で説明する。
【0009】
≪焼成物≫
本発明に係る焼成物を製造する開始材料は、貝殻である。貝殻とは、一般に貝と呼称される生物やこれに類する生物(多くは貝殻亜門に属する)が外殻として形成する、炭酸カルシウムを含む材料を指す。
【0010】
貝は、一般的に一枚貝、二枚貝、巻貝といった分類に分けられる。一枚貝としては、アワビ、トコブシなどが挙げられ、二枚貝としては、ホタテ、カキ、シジミ、ハマグリ、アサリなどが挙げられ、巻貝としては、サザエ、ツブ、カタツムリなどが挙げられる。いずれの貝の貝殻も開始材料として使用可能であるが、洗浄が容易で不純物の混入リスクを低減できることから二枚貝の貝殻が好ましい。二枚貝の貝殻の中でもホタテ貝殻とカキ貝殻がより好ましく、ホタテ貝殻が特に好ましい。
【0011】
本発明に係る焼成物の平均粒径は、好適には、20.0μm以下、15.0μm以下、10.0μm以下、8.0μm以下、6.0μm以下、5.0μm以下、又は2.0μm以下である。
【0012】
本発明に係る焼成物の平均粒径は、粒度分布測定装置を用いて測定すればよい。このような装置として、例えば、CILAS(株式会社アイシンナノテクノロジーズ)が挙げられる。また、本発明の焼成物の形状や表面構造は、2000倍~10000倍の任意の倍率のSEM画像から求めることができる。
【0013】
焼成物の波長分散型の蛍光X線分析法(XRF)によって測定可能な元素に占めるカルシウム元素の割合は、90atom%以上、91atom%以上、92atom%以上、93atom%以上、94atom%以上、95atom%以上、96atom%以上、97atom%以上、98atom%以上、99atom%以上としてもよい。
【0014】
蛍光X線分析(XRF)により、カルシウム以外にもカリウム、硫黄、リン、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、ケイ素、ストロンチウムなどの微量な含有率も測定できる。尚、波長分散型の蛍光X線分析法(XRF)では炭素や酸素は測定されない。
【0015】
波長分散型蛍光X線分析法(XRF)の装置として、RIX3100(理学電機工業株式会社製)が挙げられる。
【0016】
本発明に係る焼成物の酸化カルシウム、水酸化カルシウム、及び炭酸カルシウム含有割合は、示差熱熱量重量分析装置を用いて推定される。示差熱熱量重量分析により、300℃前後の重量変化から水分の含有を推定し、350℃前後の重量変化から水酸化カルシウムの含量を推定し、600℃前後の重量変化から炭酸カルシウムの含量を推定できる。
【0017】
本発明に係る焼成物の示差熱熱量重量分析(TG-DTA)によって測定される30~1000℃における重量維持割合(酸化カルシウム含有割合とも表現する)は、好適には、75.0重量%以上、80.0重量%以上、85.0重量%以上、90.0重量%以上、95.0重量%以上、99.0重量%以上、99.3重量%以上、又は99.5重量%以上である。重量維持割合とは、30℃時点における重量に対する1000℃時点における重量の百分率である。
【0018】
示差熱熱重量分析(TG-DTA)の装置として、例えば、TGA851e(メトラー・トレド社製)が挙げられる。示差熱熱重量分析の測定は、窒素100mL/min気流中、10℃/分の昇温速度にて30℃から1000℃まで昇温して行う。
【0019】
本発明に係る焼成物のX線回折分析法(XRD)によって測定される純度は、好適には、90.0質量%以上、92質量%以上、94質量%以上、96質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、又は99.5質量%以上である。
【0020】
X線回折分析法(XRD)の装置として、例えば、X’Pert-PRO(Philips)が挙げられる。
【0021】
本発明に係る焼成物のBET比表面積は、好適には、0.2m/g以上、0.3m/g以上、0.4m/g以上、0.5m/g以上、0.6m/g以上、0.7m/g以上、0.8m/g以上、0.9m/g以上、又は1.0m/g以上である。他方、好適には、3.0m/g以下、2.8m/g以下、2.6m/g以下、2.4m/g以下、2.2m/g以下、又は2.0m/g以下である。
【0022】
BET比表面積を解析する装置として、例えば、Quantachrome社製ChemBET3000が挙げられる。BET比表面積の測定方法は特に制限されず通常使用される条件で測定してよい。
【0023】
本発明に係る焼成物を水蒸気等と水和反応させると、表面化から水酸化カルシウムの形成による結晶の微細化、裂け目と細孔の形成による表面構造の変化が生じ、親水性が向上した特性変化が生じる。実際に、X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が99%以上、平均粒径が5μm以下の貝殻焼成物は、X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が75~95%、水酸化カルシウム含有率が5~20%、平均粒径が5μm以下である貝殻焼成物と比べ、水を添加した当初は親水性、水懸濁性が悪く、より多量の沈殿を生じる。
【0024】
≪焼成物の製造方法≫
上述の焼成物を製造するための方法の1例を以下説明する。当然のことながら、以下の方法を改変した方法や全く異なる方法によって上述の焼成物を製造してもよい。
【0025】
当該製造方法は、以下の工程(1)~(6)を記載した順に実行する。
(1)貝殻を焼成する一次焼成工程、
(2)焼成された一次焼成物を外気温まで自然冷却させる工程、
(3)一次焼成物を各フィルター(エアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルター)を通して不純物を除去し、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)及び/又はバグ又はサイクロン集塵装置により、高圧ガスとして大気を乾燥させた空気の他、不活性ガスの窒素ガスやアルゴンガスを注入して二酸化炭素及び水蒸気を置換除去しながら均一微粉砕化及び集塵する工程、
(4)一次焼成物を二次焼成する二次焼成工程、
(5)二次焼成物を気圧10Pa以下の低気圧条件下、及び/又は、不活性ガス雰囲気条件下で外気温まで自然冷却させる工程、
(6)焼成炉開閉扉を窒素ガス又はアルゴンガス雰囲気下内(焼成炉開閉扉の外側もアルゴンガス雰囲気下にする。)で冷却焼成物を搬出し、真空及び/又は窒素ガス又はアルゴンガス充填包装する工程
【0026】
以下、各工程について、貝殻としてホタテ貝を用いた場合を例に採り説明する。
【0027】
尚、本発明において「外気温」とは、焼成を行う装置(焼成炉)が置かれている周囲環境の気温を意味する。焼成炉が配される地域や場所並びに時刻や季節によって周囲環境の気温は変動するものであり、一律に定義することはできないが、100℃未満、80℃未満、60℃未満又は50℃未満の温度と解釈してもよい。
【0028】
工程(1)は、開始材料を一次焼成する工程である。この焼成において開始材料に含まれるタンパク質などに由来する炭素や水素が放出され、主成分の炭酸カルシウムは酸化カルシウムへと変質する。
【0029】
焼成温度は、好適には、1200℃以上、1400℃以上、又は1600℃以上である。これら温度以上にすることで充分に有機物を除去でき酸化カルシウムの純度が高くなる。他方、焼成温度の上限については酸化カルシウムの融点(約2600℃)以下であれば特に制限はないが、焼成炉への負荷やエネルギーコストの観点から、1650℃以下、1600℃以下、1550℃以下、又は1500℃以下が好ましい。当然のことながら、焼成工程に亘って、上記範囲内である限り、焼成温度は一定でも変動してもよい。
【0030】
焼成時間は、好適には、3時間以上、4時間以上、又は5時間以上である。他方、焼成時間の上限は8時間以下、7.5時間以下、7時間以下、又は6.5時間以下が好ましい。
【0031】
工程(1)は有機物の除去を行うため酸素含有雰囲気下(通常は大気雰囲気下)で実行する。タンパク質などに含まれる炭素や水素は酸素と反応し、二酸化炭素や水となって開始材料から遊離する。
【0032】
外気温から先の焼成温度に昇温する速度に特に制限はないが、通常は100~500℃/時間、150~450℃/時間、200~400℃/時間又は250~350℃/時間である。
【0033】
工程(2)は、工程(1)によって焼成された一次焼成物を冷却する工程である。積極的に冷却させるのではなく、加熱を停止させ放熱によって外気温まで自然冷却させる。工程(2)に要する時間は外気温の温度や開始材料によって左右されると考えられるが、凡そ、10時間以上、15時間以上、20時間以上である。
【0034】
工程(2)は、任意の雰囲気下で行ってよい。例えば、不活性ガス(ヘリウムや窒素ガスなど)雰囲気下でもよいし、大気雰囲気下でもよい。また工程(1)の雰囲気下と同じでも異なっていてもよい。水和反応を防ぐため、低湿度環境で冷却することが好ましい。
【0035】
緩やかに自然冷却させる過程において、酸化カルシウムが高い結晶性を維持したまま冷却されるものと解される。
【0036】
工程(3)において、粉末状態になった焼成物をエアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルター等のフィルターを通じて不純物を除去し、特殊コンプレッサーで非常に乾燥された高圧ガスエネルギーで粒子を加速し、粒子衝突により超微粉砕を実現できる装置(ナノジェットマイザー;NJ-300-D)を使用して微粉砕する。高圧ガスとして大気を乾燥させた空気の他、不活性ガスの窒素ガスやアルゴンガスの使用も可能である。
【0037】
工程(4)は、焼成物を更に焼成する二次焼成工程である。一次焼成物焼成後において、大気中の水蒸気や焼成による生成ガスである二酸化炭素と反応することにより酸化カルシウムの割合が減少すると考えられる。このため、酸化カルシウムの純度を維持、向上させるため、再焼成を行う。
【0038】
二次焼成工程の焼成温度は、好適には、600℃以上、700℃以上、800℃以上、850℃以上、900℃以上、950℃以上である。これら温度以上で焼成することで充分に炭酸カルシウム、水酸化カルシウムを酸化カルシウムへと変化させることができる。二次焼成工程の焼成温度は、約2600℃(酸化カルシウムの融点)以下であり、通常1500℃以下、1200℃以下、1000℃以下である。
【0039】
二次焼成工程の焼成時間は、好適には、1時間以上、1.5時間以上又は2時間以上である。他方、焼成炉への負荷やエネルギーコストの観点から7時間以下、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下が好ましい。
【0040】
工程(5)は、二次焼成後の冷却工程である。二次焼成物中の酸化カルシウム含有割合を維持するため、気圧10Pa以下の低気圧条件下、及び/又は、不活性ガス条件下で自然冷却を行う。
【0041】
工程(6)では、焼成炉内に不活性ガスを注入し、焼成炉開閉扉を行う。この場合は観音開き状態の扉ではなく、引き戸の扉が望ましい。不活性ガス雰囲気下内状態のカバーが容易である。更にこの不活性ガス雰囲気下で焼成物を真空包装する。
【0042】
本発明における不活性ガスとしては、酸化カルシウムと反応性を有しないガスであれば特に制限はなく、例えばヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス、酸素ガスが挙げられる。
【0043】
尚、上述したものはあくまで1例であり、例えば、工程(5)は、工程(2)に代えて実行してもよい。工程(5)は省略して、工程(3)そして工程(6)を引き続いて実行してもよい。
【0044】
≪焼成物の用途≫
本発明に係る緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤は、前記焼成物を含む。ここで、本発明に係る緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤を製剤化する場合には、特に限定されることなく、公知の方法を用いることができる。例えば、その目的や用途に応じて、液剤(水懸濁剤及び油剤を含む)、分散剤、ペースト剤、粉剤、粒剤、マイクロカプセル等の公知の種々の剤型を挙げることができる。これらのうち、例えば、液剤として製剤化する場合には、前記焼成物を適宜溶剤に分散すればよい。より具体的には、例えば、液剤中に、前記焼成物が0.1~99重量%(好ましくは、1~80重量%、より好ましくは、5~50重量%)となる割合で配合し、分散させればよい。
【実施例
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
≪酸化カルシウム焼成体の製造≫
(例1)
ホタテ貝殻を1450℃で6時間焼成し、外気温まで自然冷却させた。これをエアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルターを通して不純物を除去し、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)により微粉砕した。その後、950℃で2時間焼成した。この二次焼成物を低気圧条件下(10-4Pa以下)にて外気温まで自然冷却させた。
【0047】
(例2)
ホタテ貝殻を1450℃で6時間焼成し、外気温まで自然冷却させた。これをエアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルターを通して不純物を除去し、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)により不活性ガスの窒素ガスやアルゴンガスを注入して二酸化炭素及び水蒸気を置換除去しながら微粉砕した。
【0048】
(例3)
ホタテ貝殻を1100℃で4時間焼成し、外気温まで自然冷却させた。
【0049】
(平均粒径)
各粉体の平均粒径は、粒度分布測定装置(CILAS;株式会社アイシンナノテクノロジーズ)を用いて測定した。
【0050】
(カルシウム元素含有割合)
各粉体のカルシウム元素含有割合は、蛍光X線分析装置(RIX3100;理学電機株式会社製)を用いて測定した。
【0051】
(酸化カルシウム含有割合)
各粉体の酸化カルシウム含有割合及び水酸化カルシウム含有割合は、示差熱熱量重量分析装置(TGA851e;メトラー・トレド社)及びX線回折装置(X’Pert-PRO(Philips))を用いて測定した。
【0052】
(BET比表面積)
例1~例3のBET比表面積は、Quantachrome社製ChemBET3000を用いて測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
(電子顕微鏡観察)
上記焼成物について、ネオオスミウムコータ(Neoc-STB;メイワフォーシス株式会社、東京)でオスミウム金属被覆後、電界解放射型走査電子顕微鏡(JSM-6340F;日本電子株式会社、東京)を用いた3000倍、10000倍のSEM画像に基づいて乾燥粉末状態の表面形状を解析した。
【0055】
例1及び2は、皆繭状の緻密な表面構造が観察されており、そのBET比面積は、粉末の平均粒径と反比例の関係が観察された。また、例1及び例2に係る焼成物は、隣接する粒子同士が固く融着し、繭状の緻密な結晶及び粒子が成長し、細孔の閉塞により反応界面積が減少している様子が観察された(図1)。
【0056】
(実施例に係る緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤の調製)
例1に係る焼成物(1g) を1Lの純水に加え、回転混合させて1000ppm(0.1重量%)の緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤を調製し、1時間以内に使用した。
【0057】
(比較例に係る緑膿菌感染創の消毒剤又は創傷治癒剤の調製)
次亜塩素酸水 (500ppm,pH6.5) を、1/10(vol/vol)の0.5%(5000ppm)次亜塩素酸ソーダ(吉田製薬)を滅菌純水に添加することで調製した。500ppm次亜塩素酸水のpHは、1Nの塩酸を添加して6.5に調整した。次亜塩素酸水の濃度は、残留(遊離)塩素としてClO(HClO及びClO-)選択試験紙 (高濃度測定範囲;25-500ppm、 低濃度測定範囲;1-25ppm、共立理化学研究所(株)、東京) を用いて測定した。
【0058】
(In vitro殺微生物活性)
緑膿菌 (ATCC27853(American Type Culture Collection(ATCC),Manassas,USA)は、50%滅菌グリセロールを含んだルリア-ベルターニ(LB)スープを用いて-80℃で貯蔵・保管した。実験の都度、新たに1.0×106コロニー形成単位 (CFU/mL)に増大させて用いた。様々な濃度の実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水、ポピドンヨードを緑膿菌懸濁液に添加し、15分間室温で培養した。それぞれの緑膿菌懸濁液は、緑膿菌用分離寒天(Neogen Ltd.,Michigan,USA)が入ったペトリ皿(90×15mm)上に塗布し、37℃で24時間培養した。培養後、生成したコロニーをカウントし、それぞれの消毒液のin vitro緑膿菌殺菌活性を評価した。
【0059】
(In vivo緑膿菌感染創洗浄)
ヘアレスラット(オス、300-350 g)は日本SLC株式会社より購入した。動物は適切な環境下(26℃、湿度55%)で飼育した。本研究でのDay0に、ラットはペントバルビタールナトリウム(大日本住友製薬)の腹腔内注射投与による全身麻酔下、滅菌した8mm真皮パンチ(貝印株式会社)と手術用ハサミを使って、ラット背部に円形全損創を造った。感染創とするために、冷凍保管している緑膿菌保存液(1.0×106CFU/mL)の100μLを上記の全損創上に滴下し、キチンナノファイバーシート(CNFS、脱アセチル化度:30%、ベスキチンW、ニプロ)の断片で覆った。それらのラットは、ケージに戻され24時間飼育し、感染創が形成された。それぞれの感染創は、その後Days1-3の3日間毎日、1cm四方の滅菌ガーゼを使い35-40℃に保温した3mLの殺菌剤や生理食塩水(計15mL)で、5回丁寧に洗浄し、感染創をCNFSの断片で覆った。引き続いて、Days4-9の6日間毎日、1cm四方のガーゼを使い35-40℃に保温した3mLの生理食塩水のみで、5回丁寧に洗浄し、感染創をCNFSの断片で覆った。Days1,2,3,6,9では、感染創洗浄前後で1cm四方の滅菌ガーゼを用いたふき取り試験で付着緑膿菌数を測定した。生じた緑膿菌懸濁液は10倍希釈法により濃度を調整し、緑膿菌用分離寒天ペトリ皿上に塗布し、37℃で24時間培養した。培養後、生成したコロニーをカウントし、緑膿菌数を評価した。尚、顕微鏡を使った菌体の形態観察により、感染創において生成した殆どすべての菌体は、緑膿菌であることを確認している。さらに、Days1,2,3,6,9における各々感染創はデジタル写真をとり、創閉塞率を評価した。また実験期間中、急性炎症、膿瘍形成、血清腫蓄積のような合併症の兆候がない事を確認した。
【0060】
(組織学的試験)
創形成後Day9での創洗浄後、ラットはペントバルビタールナトリウムで全身麻酔をかけた。続いて、感染創を含んだ周辺の皮膚が、組織学的試験に供するために取り出された (N=6)。それぞれの感染創を含んだ周辺の皮膚サンプルは、10%ホルムアルデヒド溶液で固定化、パラフィンで包埋、続いて4μm厚に切片を調製した(大和光機工業)。その切片は、創部表面と前後軸に直角に作られ、およそ10×1.5mmの切片がガラススライドに移し、ヘマキシリン・エオジン(H&E)染色された。カバーガラスが置かれ、組織は顕微鏡観察で評価した。各々の切片(N=8)において、創部を示す顕微鏡視野が写真撮影され、肉芽組織の長さと直径 ≧10μm、あるいは5つ以上の赤血球を含む新生毛細血管数を計測した。
【0061】
(統計解析)
結果は平均値 ± 標準偏差(means ± SDs)で表した。対応のあるスチューデントt‐検定により有意差の蓋然性は統計ソフトウェアJMP(SAS Institute Inc.)を用いた両側検定として決定した。
【0062】
{結果}
(In vitro殺微生物活性)
実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水、ピドンヨード溶液の緑膿菌に対する殺菌試験を、純水や生理食塩水に異なる濃度のそれぞれ殺菌剤で処理した時の細菌コロニーをカウントすることで行った(図2)。緑膿菌は、500ppm以上の実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水、ピドンヨード溶液で完全に殺菌した。250ppmの実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水は完全に殺菌したが、比較例に係るピドンヨード溶液は僅かながら細菌コロニーが残った。125ppm以下では濃度依存的にlog10CFU/mL値は増大した。
【0063】
(In vivo緑膿菌感染創洗浄)
ヘアレスラットにおける緑膿菌感染創を、毎日5回3mLの保温した実施例に係る1000ppm懸濁液(pH12.2)、比較例に係る500ppm次亜塩素酸水(HClO;pH6.5)、1000ppmポピドンヨード(Isodine solution)溶液(計15mL)で当初の3日間、ガーゼで丁寧に擦りながら洗浄し、その後CNFSで被覆した。引き続いて、Days4-9の6日間毎日、保温した3mLの生理食塩水のみで5回丁寧に洗浄し、感染創をCNFSの断片で覆った。非洗浄群は、9日間の実験期間創洗浄をせず、CNFSでの被覆のみを実施した。それぞれの消毒液での洗浄前(days1,2,3,6,9)、感染創から一片の滅菌ガーゼを用いたふき取り試験により、生存菌数を計測した(図3)。全ての実験動物は、9日間の実験期間の間、創部での急性炎症、膿瘍形成、血清腫蓄積のような合併症の兆候がなかった。Day1の洗浄前、感染創の拭き取り試験で得た懸濁液には2.0×10CFU以上の緑膿菌が検出された。実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水, ポピドンヨード溶液、生理食塩水での創洗浄後では、生菌数はそれぞれ約1.8×103、1.1×10、1.2×10、7.3×10CFUであった。この結果は、Day1の最初の洗浄から、実施例に係る懸濁液を用いた洗浄は、他のグループと比較して効率的に除菌できることを示している。他方何らかの洗浄もしない群は、Day1で菌数が僅かに増加することが観察された。Day3で実施例に係る懸濁液、次亜塩素酸水、 ポピドンヨード溶液、生理食塩水で創洗浄後の残存菌数は、それぞれ約70、8.5×103、9×103、2.5×10CFUであった。Day6では実施例に係る懸濁液で3日間洗浄した感染創から緑膿菌は完全に除菌されたが、次亜塩素酸水, ポピドンヨード溶液、生理食塩水で洗浄した感染創からそれぞれ7.8×102、1.8×10、2.0×10CFUが検出されたが、3グループ間で統計的有意差はない。さらにday9では、次亜塩素酸水, ポピドンヨード溶液、生理食塩水で洗浄した感染創から緑膿菌は完全に除菌されたが、非洗浄創からは9×10CFUの残存菌が検出された。この結果から消毒液を用いた感染創の洗浄、特に実施例に係る懸濁液での洗浄は、効果的な除菌効果を示すことが分かった。
【0064】
(In vivo感染創洗浄による緑膿菌感染創の治癒)
実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水, ポピドンヨード溶液、生理食塩水、非洗浄群は、days1,2,3,6,9に創傷閉鎖率を測定するため、デジタル写真を撮った(図4)。Days1,2では全ての群で有意な創傷閉鎖の差は観察されなかった。Days3-9においては実施例の洗浄群で他の群に比較して創傷閉鎖の有意な促進が観察された(図5)。Day3での実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水, ポピドンヨード溶液、生理食塩水、非洗浄群の開放創率は、それぞれ68,95,93,98,105%であった。この結果は、感染創に対して実施例に係る懸濁液を適用した洗浄は、Day3以降創傷治癒の遅延を引き起こすことなく、むしろ促進することが明らかになった。
【0065】
(組織学的試験)
図6は、H&E染色された組織スライドの顕微鏡写真(×100)観察による組織学的試験は、day9の実施例に係る 懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水、 ポピドンヨード溶液、生理食塩水で洗浄した群と、非洗浄群の代表的顕微鏡写真である。特に非洗浄群の肉芽組織形成は、他の洗浄群と比較して抑制されており(図6)、反対に実施例に係る懸濁液及び比較例に係る次亜塩素酸水洗浄群の肉芽組織形成は、非洗浄群よりも有意に促進されていた(表2)。Day9の実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水、ポピドンヨード溶液、生理食塩水で洗浄した群と、非洗浄群について、同じく組織スライドの顕微鏡写真(×100)観察により、それぞれの組織における血管新生が評価された。おのおの群の創部での血管新生は図6で矢印によって示されている。その結果は、day9の非洗浄群は、実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水、ポピドンヨード溶液、生理食塩水で洗浄した群と比較して血管新生が有意に低下していることが明らかになった。Day9の実施例に係る懸濁液洗浄群は、他の群と比較して、最もよく血管新生が促進されていた。
【0066】
(考察)
臨床現場で、創傷の緑膿菌感染は主要な合併症である。In vitroでの緑膿菌の殺菌試験では、100ppmの実施例に係る懸濁液、比較例に係る次亜塩素酸水及び500ppmのポピドンヨード溶液は、完全に緑膿菌を殺菌した(図2)。更に、ヘアレスラット背部の緑膿菌感染創の除菌活性と創傷治癒を評価するため、当初の3日間毎日、実施例に係る懸濁液 (1000ppm,pH12.2)での創洗浄とCNFSでの被覆、その後day4以降毎日生理食塩水での創洗浄とCNFSでの被覆を繰り返す実験を実施した。その結果、実施例に係る洗浄群は、比較例に係る次亜塩素水、ポピドンヨード溶液、生理食塩水洗浄群と比較して、in vivoで除菌とともに創傷治癒を有意に促進した(図3、4)。組織学的試験では、3日間毎日、実施例に係る懸濁液で創洗浄することで、感染創部での肉芽組織形成と血管新生が促進された(図6、表2)。加えて、当初の3日間おのおの消毒液で洗浄した全感染創、及びその後のdays4-9の間、実験で用いたヘアレスラットには問題となるような合併症は認められなかった。これらの結果は、当初の3日間に制限した感染創傷の、実施例に係る懸濁液での洗浄は、創傷治癒を遅延することなく、不全患者の慢性創の感染を予防する臨床使用の可能性があることを示唆する。比較例に係る次亜塩素酸水、 ポピドンヨード溶液のような臨床現場で使われている消毒薬は、殺菌活性のために必要な高濃度では、創傷治癒にかかわる細胞に対して細胞毒性があり、正常な創傷治癒を遅延させることが示されている。したがって、創傷治癒を阻害することなく細菌数を減少させる局所殺菌剤の開発が、慢性創傷治療の課題である。
【0067】
【表2】
データは平均値 ± 標準偏差(SD)を示す。肉芽組織形成では、*P < 0.05vs.saline, **P < 0.01 vs.no cleansing(n=7),血管新生では、*P < 0.05vs.saline, **P < 0.01 vs.no cleansing and providone-iodine(n=7).

図1
図2
図3
図4
図5
図6