(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】光治療装置及び光治療装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/067 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
A61N5/067
(21)【出願番号】P 2019157036
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592042543
【氏名又は名称】株式会社ユニタック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】南條 卓也
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一哲
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102015101880(DE,A1)
【文献】特開2000-334053(JP,A)
【文献】特開2012-231978(JP,A)
【文献】特開2000-342702(JP,A)
【文献】実開昭63-182764(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2019/0015681(US,A1)
【文献】特開昭61-023910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/06- 5/067
A61B 18/20-18/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的部位に対してレーザを照射するレーザ光源と、
前記レーザ光源が標的部位に対して所定の距離まで接近したことを検出して近接信号を出力する近接検出部と、
標的部位までの距離を検出して前記距離に応じた距離信号を出力する距離検出部と、を具備し、
前記近接信号が検出された後に検出された前記距離信号に基づき基準値が設定され、前記基準値に対する前記距離信号の変動量に応じて前記レーザ光源によるレーザの照射が許可されるように構成されている光治療装置。
【請求項2】
前記距離信号が前記基準値に対して所定範囲内にあるとき、前記レーザ光源によるレーザの照射が許可される請求項1に記載の光治療装置。
【請求項3】
前記距離信号が前記基準値に対して所定範囲外になると、前記レーザ光源によるレーザの照射が禁止される請求項2に記載の光治療装置。
【請求項4】
前記距離信号が前記基準値に対して所定範囲外になると、前記基準値がリセットされる請求項3に記載の光治療装置。
【請求項5】
前記距離検出部が複数の検出部を有し、前記複数の検出部による標的部位までの距離の検出が順次行われる請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光治療装置。
【請求項6】
前記レーザ光源によるレーザの照射において、レーザ照射期間及びレーザ停止期間が交互に繰り返され、前記距離検出部が、標的部位に対して発光する発光部と標的部位から反射した光を受光する受光部とを有する光学センサを有し、前記発光部による発光及び前記受光部による受光が前記レーザ停止期間において行われる請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の光治療装置。
【請求項7】
前記距離検出部が、前記発光部による発光が行われたときに標的部位から反射した光を前記受光部によって受光した検出値と、前記発光部による発光が行われないときに標的部位から反射した光を前記受光部によって受光した検出値との差分に基づく前記距離信号を出力する請求項
6に記載の光治療装置。
【請求項8】
前記近接検出部が接触式のセンサを有する請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の光治療装置。
【請求項9】
プローブをさらに具備し、
前記プローブが、前記レーザ光源と、前記近接検出部と、前記距離検出部と、本体部と、標的部位に対して押圧することによって前記本体部の軸線方向に沿って移動可能な可動部とを有し、
前記近接検出部が、前記本体部と前記可動部との相対移動によって前記レーザ光源が標的部位に対して所定の距離まで接近したことを検出するように配置され、
前記距離検出部が、前記可動部に配置されている請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の光治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光治療装置及び光治療装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血行促進及び代謝促進等、治療や治療の補助の目的で生体組織にレーザを照射するために、光治療装置が用いられる。中でもレーザの安全基準JIS C 6802におけるレーザクラスにおいて、クラス3以上の高出力な光治療装置を在宅医療として使用する場合、クラス1Cの適合が必須要件となる。クラス1Cでは、意図した標的組織以外への露光を制限することが求められる。そのため、光治療装置のレーザ光源を備えたプローブと、標的組織である所定箇所の皮膚とが、所定距離だけ、例えば指1本分に相当する12mmの距離だけ離間するとレーザの照射を停止するように、光治療装置がインターロック機構を有している必要がある。
【0003】
ところで、プローブ又はレーザ光源と皮膚との距離等を光学センサ等で検出し、検出値に応じて、すなわち検出値が予め定められた許容範囲内であるか否かでレーザの照射を制御するように構成された光治療装置が公知である(特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-512783号公報
【文献】特表2013-509222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載の光治療装置による検出方法によれば、標的とされた皮膚の部位や状態、すなわち皮膚の色や水分量、皺の程度等が異なれば、検出値も異なる。このことは、対象者が異なれば尚更のこと、同一の対象者であっても生じうる。したがって、検出値に応じて、レーザの照射を行うための設定値を、逐一調整する必要がある。また、特許文献1に記載の光治療装置では、センサが皮膚に対して斜めになった場合、レーザ光源と標的組織との距離を誤検知する場合がある。さらに、焦点ずれを計測する光学変位センサの実現には高度な光学系が求められ、製造コストが高くなる。したがって、対象者並びに皮膚の部位及び状態等に依存しない簡便な方法で、レーザの照射を適切に行うことができることが好ましい。
【0006】
本発明は、レーザの照射を適切に行うことができる光治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、標的部位に対してレーザを照射するレーザ光源と、前記レーザ光源が標的部位に対して所定の距離まで接近したことを検出して近接信号を出力する近接検出部と、標的部位までの距離を検出して前記距離に応じた距離信号を出力する距離検出部と、を具備し、前記近接信号が検出された後に検出された前記距離信号に基づき基準値が設定され、前記基準値に対する前記距離信号の変動量に応じて前記レーザ光源によるレーザの照射が許可されるように構成されている光治療装置が提供される。
【0008】
本発明の別態様によれば、レーザ光源が標的部位に対して所定の距離まで接近したことを検出して近接信号を出力する工程と、標的部位までの距離を検出して前記距離に応じた距離信号を出力する工程と、前記近接信号が検出された後に検出された前記距離信号に基づき基準値を設定する工程と、前記基準値に対する前記距離信号の変動量に応じて前記レーザ光源によるレーザの照射を許可する工程と、を含む光治療装置の作動方法が提供される。
【0009】
前記距離信号が前記基準値に対して所定範囲内にあるとき、前記レーザ光源によるレーザの照射が許可されるようにしてもよい。前記距離信号が前記基準値に対して所定範囲外になると、前記レーザ光源によるレーザの照射が禁止されるようにしてもよい。前記距離信号が前記基準値に対して所定範囲外になると、前記基準値がリセットされるようにしてもよい。前記距離検出部が複数の検出部を有し、前記複数の検出部による標的部位までの距離の検出が順次行われるようにしてもよい。前記距離検出部が複数の検出部を有し、前記複数の検出部による複数の前記距離信号が所定の偏差に収まる場合に、複数の前記距離信号に基づき前記基準値が設定されるようにしてもよい。前記レーザ光源によるレーザの照射において、レーザ照射期間及びレーザ停止期間が交互に繰り返され、前記距離検出部が、標的部位に対して発光する発光部と標的部位から反射した光を受光する受光部とを有する光学センサを有し、前記発光及び前記受光が前記レーザ停止期間において行われるようにしてもよい。前記距離検出部が、前記発光部による発光が行われたときに標的部位から反射した光を前記受光部によって受光した検出値と、前記発光部による発光が行われないときに標的部位から反射した光を前記受光部によって受光した検出値との差分に基づく前記距離信号を出力するようにしてもよい。前記近接検出部が接触式のセンサを有するようにしてもよい。プローブをさらに具備し、前記プローブが、前記レーザ光源と、前記近接検出部と、前記距離検出部と、本体部と、標的部位に対して押圧することによって前記本体部の軸線方向に沿って移動可能な可動部とをさらに有し、前記近接検出部が、前記本体部と前記可動部との相対移動によって前記レーザ光源が標的部位に対して所定の距離まで接近したことを検出するように配置され、前記距離検出部が、前記可動部に配置されているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、レーザの照射を適切に行うことができる光治療装置を提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による光治療装置の概略図である。
【
図3】
図3は、距離信号の変化とレーザの照射との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、光治療装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、光治療装置の別の動作を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、レーザの照射と距離信号の検出との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、発光部及び受光部の動作の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0013】
図1は、本発明の実施形態による光治療装置1の概略図であり、
図2は、プローブ3の動作を示す図である。
【0014】
光治療装置1は、制御装置2と、プローブ3と、制御装置2及びプローブ3とを電気的に接続するケーブル4とを有している。制御装置2は、1つ又は複数のプロセッサ、記憶部及びその周辺回路等を有している。制御装置2は、予め記憶部に記憶されているコンピュータプログラムに基づいて、後述するフローチャートに示されるような、プローブ3の全体的な動作を統括的に制御する。その処理の際に、制御装置2は、後述する光学センサ等の各種センサから信号を受信し、レーザ光源の照射及び停止等に関する制御信号を送信する。制御装置2は、入出力部、例えば、ディスプレイ等の表示部や、操作ボタンやタッチパネル等の入力インターフェースを有していてもよい。
【0015】
プローブ3は、円筒状の本体部5と、本体部5内において本体部5の軸線方向に沿って移動可能に配置された円筒状の可動部6と、可動部6の前端面に設けられた4つの光学センサ7と、本体部5の内部に配置されたレーザ光源8と、本体部5の前面に設けられた光学窓9と、本体部5内に配置されたリミットスイッチ10と、を有している。可動部6は、図示しない弾性部材によって本体部5に対して前方に付勢されている。
【0016】
光学センサ7及びリミットスイッチ10は、プローブ3の内部に配置されており、直接皮膚等に接触しないように配置されている。それによって、光学センサ7及びリミットスイッチ10に皮脂汚れ等が付着するリスクが小さく、安定した性能を維持することができる。また、光学センサ7及びリミットスイッチ10は、可動部6の移動及びレーザ光源8によるレーザの照射を妨げないように配置されている。
【0017】
レーザの安全基準JIS C 6802におけるレーザクラスにおいて、クラス3以上の高出力なレーザ光源8を搭載した光治療装置1を在宅医療として使用する場合、光治療装置1はクラス1Cに適合する必要があるが、これに限定されない。その他の基準等で在宅医療に適合したレーザ光源8を適用することができる。
【0018】
図2(A)は、プローブ3を、生体の標的組織、すなわち標的部位Tに押圧する前の状態を示し、
図2(B)は、プローブ3を標的部位Tに押圧している状態を示している。
図2(A)に示された状態から、プローブ3を標的部位Tに押圧すると、可動部6が後退し、リミットスイッチ10がONとなる(
図2(B))。すなわち、リミットスイッチ10は、レーザ光源8が標的部位Tに対して所定の距離まで接近したことを検出して近接信号を出力する近接検出部を構成する。出力された近接信号は、制御装置2によって検出される。一方、プローブ3の標的部位Tに対する押圧を解除すると、可動部6は弾性部材の付勢力によって後退し、リミットスイッチ10がOFFとなる(
図2(A))。
【0019】
4つの光学センサ7は、可動部6の前端面において、周方向に沿って等間隔に配置されている。なお、光治療装置1は、1つ、2つ又は3つの光学センサ7を有するようにしてもよく、5つ以上の光学センサ7を有するようにしてもよい。光治療装置1が複数の光学センサ7を有する場合、複数の光学センサ7は、周方向に沿って等間隔に配置されていることが好ましい。1つ又は複数の光学センサ7の各々は、検出部であり、全体として、標的部位Tまでの距離を検出して距離に応じた距離信号を出力する距離検出部を構成する。出力された距離信号は、制御装置2によって検出される。光学センサ7は、標的部位Tに対して発光する、図示しない発光部と、標的部位Tから反射した光を受光する、図示しない受光部とを有する。光学センサ7は、標的部位Tとの距離を、受光部によって受光された反射光強度の変位で評価する。距離信号によって、例えばレーザ光源8から標的部位Tまでの距離を算出することができる。
【0020】
光治療装置1の動作について、
図3及び
図4を参照しながら説明する。
図3は、距離信号Sの変化とレーザの照射との関係を示す図である。
図3において、上のグラフは光学センサ7による距離信号Sの値の経時的変化を示し、下のグラフはレーザの照射の状況を示している。
図4は、光治療装置1の動作を示すフローチャートである。
【0021】
図4において、まず、ステップ101では、使用者がプローブ3を標的部位Tに押圧し、リミットスイッチ10がONになることによって出力された近接信号が検出される。次いで、ステップ102では、近接信号をトリガとして、標的部位Tまでの距離に応じて出力された距離信号Sの検出が開始される(時刻t1)。次いで、ステップ103において、リミットスイッチ10がONになった後に、すなわち近接信号が検出された後に検出された距離信号Sに基づき、基準値L0が設定される。次いで、ステップ104において、距離信号Sが、基準値L0に対して所定範囲内、すなわち下限L1及び上限L2間の範囲内であるか否かが判定される。距離信号Sが基準値L0に対して所定範囲内にある場合には、ステップ105へと進み、標的部位Tに対してレーザ光源8によるレーザの照射が許可され、レーザの照射が行われる。
【0022】
一方、ステップ104において、標的部位Tに対するプローブ3の位置及び姿勢が変化すること等によって、距離信号Sが基準値L0に対して所定範囲外になった場合(時刻t2)には、ステップ106へと進む。次いで、ステップ106では、レーザ光源8によるレーザの照射が禁止される。したがって、ステップ105を経てレーザの照射が行われている場合には、レーザの照射が停止される。次いで、ステップ107では、ステップ103で設定された基準値L0がリセットされ、光治療装置1の動作が終了する。
【0023】
ここで、基準値L0は、光学センサ7の距離信号Sに基づいて設定されるが、任意の方法で基準値L0を設定することができる。例えば、近接信号が検出された後に、4つの光学センサ7の所定時間のサンプリングによる平均値を距離信号Sとして、これを基準値L0に設定してもよい。また、4つの光学センサ7の各々の距離信号Sが、所定の偏差に収まる場合にのみその平均値を距離信号Sとしてこれを基準値L0に設定してもよい。所定の偏差に収まらない場合には、仮に近接信号が検出されたとしても、基準値L0を設定することなく、光治療装置1の動作を終了してもよい。
【0024】
4つの光学センサ7の各々の距離信号Sが、所定の偏差に収まらない場合とは、例えば、プローブ3が標的部位Tに対して傾いた状態で押圧された場合である。この場合、プローブ3の可動部6の先端の一部分が標的部位Tに対して当接し、反対側の部分が標的部位Tに対して離間している。したがって、周方向に沿って等間隔に配置された複数の光学センサ7による距離信号Sの各々は、互いに大きく異なることになる。この状態でレーザの照射を行うと、レーザが標的部位T以外に照射されることになるから、レーザの照射は禁止されなければならない。したがって、複数の距離信号Sが所定の偏差に収まっているか否かを判定することは有効である。
【0025】
基準値L0に対する所定範囲は、
図3に示されるように、下限L1及び上限L2間の範囲である。下限L1及び上限L2は、例えば基準値に対して±5%であり、基準値に対する比で設定される。上限L0及び下限L1は、治療の効果や安全性等を考慮して決定される。例えば、下限L1は、レーザ光源8が標的部位Tから離間し、標的部位以外の部位への照射の可能性が生じるか否かで決定される。すなわち、光学センサ7の反射光と対象までの距離との関係を予め求め、例えば指1本分に相当する12mmの隙間に該当する反射光変位量から上下限の範囲を設定してもよい。距離信号Sが基準値L0に対して所定範囲外であるということは、許容範囲以上に隙間が空いている状況であり、隙間に指が入ってしまう可能性がある。その結果、高出力なレーザが標的部位T以外の生体組織に直射されてしまう。なお、下限L1及び上限L2を、基準値に対する比ではなく、絶対値で設定してもよい。また、レーザ光源8が標的部位Tから離間することのみを判定するために、上限L2を設定せず、下限L1だけを設定してもよい。
【0026】
なお、基準値L0を、近接信号をトリガとすることなく、予め測定された距離信号S等に基づいて設定してもよい。すなわち、光治療装置1において、リミットスイッチ10を省略してもよい。
【0027】
図5は、光治療装置1の別の動作を示すフローチャートである。
図5において、まず、ステップ201では、使用者がプローブ3を標的部位Tに押圧し、リミットスイッチ10がONになることによって出力された近接信号が検出される。次いで、ステップ202では、近接信号をトリガとして、標的部位Tまでの距離に応じて出力された距離信号Sの検出が開始される(時刻t1)。次いで、ステップ203において、リミットスイッチ10がONになった後に、すなわち近接信号が検出された後に検出された距離信号Sに基づき、基準値L0が設定される。次いで、ステップ204において、距離信号Sが、基準値L0に対して所定範囲内、すなわち下限L1及び上限L2間の範囲内であるか否かが判定される。距離信号Sが基準値L0に対して所定範囲内である場合には、ステップ205へと進む。次いで、ステップ205では、リミットスイッチ10がONであることを示す近接信号が検出されるか否かが判定される。近接信号が検出された場合には、ステップ206へと進み、標的部位Tに対してレーザ光源8によるレーザの照射が許可され、レーザの照射が行われる。
【0028】
一方、ステップ204において、標的部位Tに対するプローブ3の位置及び姿勢が変化すること等によって、距離信号Sが基準値L0に対して所定範囲外になった場合(時刻t2)には、ステップ207へと進む。同様に、ステップ205において、近接信号が検出されなかった場合には、ステップ207へと進む。次いで、ステップ207では、レーザ光源8によるレーザの照射が禁止される。したがって、ステップ206を経てレーザの照射が行われている場合には、レーザの照射が停止される。次いで、ステップ208では、ステップ203で設定された基準値L0がリセットされ、光治療装置1の動作が終了する。
【0029】
図4のフローチャートに示された光治療装置1の動作と、
図5のフローチャートに示された光治療装置1の動作とは、レーザの照射開始後に、近接信号が検出されるか否か、すなわちリミットスイッチ10がONであるか否かが判定され続ける点においてのみ異なる。なお、
図4のフローチャートに示された光治療装置1の動作において、予め定められた設定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして、レーザの照射開始後に、リミットスイッチ10がONであり、近接信号が検出されるか否かを判定するようにしてもよい。レーザの照射開始後においても近接信号が検出されるか否かを判定することによって、意図せずプローブ3が標的部位Tから離間してしまうことを検出することができる。それによって、レーザが標的部位T以外に照射されることを防止し、レーザの照射をより適切に行うことができる。
【0030】
光治療装置1によれば、近接信号が検出された後に検出された距離信号Sに基づき基準値L0が設定され、基準値L0に対する距離信号Sの変動量に応じてレーザ光源8によるレーザの照射が行われる。したがって、レーザ光源8が標的部位Tに十分近接していることから、標的部位Tに対してのみ、レーザを確実に照射することができ、標的部位T以外にレーザが照射されることはない。また、光治療装置1によれば、標的部位Tに応じて基準値L0が設定されるため、標的とされた皮膚の部位や状態、すなわち皮膚の色や水分量、皺の程度等が異なれば、設定される基準値L0も異なる。また、基準値L0に対する、下限L1及び上限L2による所定範囲も異なる。したがって、標的部位Tに応じてレーザの照射を行うための設定値を、逐一調整する必要がない。その結果、光治療装置1によれば、レーザの照射を適切に行うことができる。
【0031】
さらに、光治療装置1では、距離信号Sが基準値L0に対して所定範囲外となるとレーザの照射が停止される。基準値L0は標的部位Tに応じて設定されることから、光治療装置1によれば、様々な皮膚の部位や状態の標的部位Tに対応可能なインターロック機構が実現される。例えば、プローブ3が標的部位Tから所定距離だけ、例えば指1本分に相当する12mmの距離だけ離間するとレーザの照射を停止するように、基準値L0に対応する下限L1及び上限L2を予め設定してもよい。それによって、使用者が、単にプローブ3を持ち替えたり移動させたりしただけでレーザが停止してしまうことを防止することができ、治療アドヒアランスの低下を防止することができる。レーザの照射の禁止は、近接信号及び距離信号以外にも、プローブ3における温度等の異常を検出することによってなされるようにしてもよい。
【0032】
ところで、光治療装置1において、距離検出部として光学センサ7を用いると、レーザ光源8によるレーザが標的部位Tから反射した光を光学センサ7が誤検出してしまい、標的部位Tまでの距離に応じた正確な距離信号が得られない場合がある。その結果、標的部位Tまでの距離を正確に測定できなくなり、レーザの照射を適切に行うことができない。これに関し、
図6を参照しながら説明する。
【0033】
図6は、レーザの照射と距離信号Sの検出との関係を示す図である。
図6において、上のグラフはレーザ光源8によるレーザの照射のON又はOFFのタイミングを示し、下のグラフは光学センサ7による検出のON又はOFFのタイミングを示している。
【0034】
光治療装置1において、レーザ光源8によるレーザの照射は、連続的な連続発振(CW)ではなく、パルス状のパルス発振(PW)である。したがって、レーザ光源8によるレーザの照射において、レーザ照射期間d1及びレーザ停止期間d2が交互に繰り返される。それによって、レーザの照射による標的部位の温度上昇を容易に抑制することができる。レーザ照射期間d1は、例えば20msであり、レーザ停止期間d2は、例えば180msである。
【0035】
なお、連続発振(CW)の出力波形を有するレーザ光源を用いて、パルス発振(PW)の場合よりも十分長い周期で、レーザ照射期間及びレーザ停止期間が交互に繰り返されるように制御を行ってもよい。なお、レーザ照射期間及びレーザ停止期間を設けずに、連続発振(CW)としてもよい。
図3に示されるレーザがONとなっている期間は、レーザの照射が許可された状態を示しており、発振されるレーザは、当該期間において、連続発振(CW)であってもパルス発振(PW)であってもよい。
【0036】
光学センサ7による検出は、光学センサ7がONのときに、発光部が標的部位Tに対して発光し、受光部が標的部位Tから反射した光を受光することによって行われる。光学センサ7がONである時間、すなわち検出時間をd3とし、光学センサ7がOFFである時間、すなわち停止期間をd4とすると、d3及びd4は、例えば1msである。光学センサ7による検出、すなわち発光部による発光及び受光部による受光は、レーザ停止期間d2において行われる。それによって、レーザ光源8によるレーザが標的部位Tから反射した光を光学センサ7が検出してしまうことはなく、標的部位Tまでの距離に応じた正確な距離信号が得られ、標的部位Tまでの距離を正確に測定できる。結果としてレーザの照射を適切に行うことができる。
【0037】
光治療装置1において、レーザ光源8のレーザ波長の全部又は少なくとも一部が、光学センサ7の受光部の受光波長域に含まれるように、受光部が構成されている。それによって、光学センサ7に搭載する受光素子の仕様に制限がなくなり、安価で高品質な受光素子を選択することができる。
【0038】
また、レーザ停止期間d2において行われる光学センサ7による標的部位Tまでの距離の検出について、4つの光学センサ7が、
図6に示されたタイミングで同時に検出を行ってもよい。しかしながら、4つの光学センサ7による検出を、順次行うようにしてもよい。すなわち、1つの光学センサ7における発光及び受光を、他の光学センサ7の発光及び受光と重複しないタイミングで行うようにしてもよい。それによって、他の光学センサ7の発光によって標的部位から反射した光を受光してしまうことを防止することができる。光学センサ7による検出は、レーザ停止期間d2の全体に亘って行ってもよく、レーザ停止期間d2の一部において行ってもよい。
【0039】
次に、
図7を参照しながら、光学センサ7による正確な検出について説明する。
図7は、発光部及び受光部の動作の関係を示す図である。
図7において、上のグラフは発光部による発光のON又はOFFのタイミングを示し、下のグラフは受光部による受光のON又はOFFのタイミングを示している。
【0040】
図7に示されるように、光学センサ7において、受光部は、発光部による発光と同一のタイミングの期間P1で、標的部位Tから反射した光を受光すると共に、発光部による発光と次の発光との間のタイミングの期間P2においても標的部位Tから反射した光を受光する。したがって、光学センサ7は、発光部による発光が行われたときに標的部位Tから反射した光を受光部によって受光した検出値と発光部による発光が行われないときに標的部位Tから反射した光を受光部によって受光した検出値との差分に基づく距離信号Sを出力する。
【0041】
仮に、光学センサ7において、受光部が、発光部による発光と同一のタイミングの期間P1だけで標的部位Tから反射した光を受光すると、光学センサ7と標的部位Tとの間から迷光又は外乱光が入射している場合、検出値が見かけ上増加し、正確な距離を測定することができない。他方、光学センサ7において、受光部が、さらに、発光部による発光と次の発光との間のタイミングの期間P2においても標的部位Tから反射した光を受光することによって、検出値の見かけ上の増分を知ることができる。したがって、期間P1及び期間P2における受光部による検出値の差分を取得することで、迷光等に由来する変更分を除去することができ、外乱に強い光学センサ7とすることができる。
【0042】
光学センサ7の受光部が、さらに、レーザ光源8によるレーザが標的部位Tから反射した光を検出するように構成されていてもよい。すなわち、光学センサ7の受光部を、常時又は少なくともレーザ光源8によるレーザの照射の際に、作動させることによって、レーザ光源8によるレーザが標的部位Tから反射した光も検出することができる。それによって、レーザ光源8によるレーザの照射時間を実測することができ、レーザ照射の有無を確認することができる。
【0043】
上述した実施形態では、近接検出部としてリミットスイッチ10を用いたが、レーザ光源8が標的部位Tに対して所定の距離まで接近したことを検出して近接信号を出力することができる限りにおいて、他のセンサ等であってもよい。可動部6の皮膚に対する接触、又は、可動部6の後退を検知することができる限りにおいて、他の接触式のセンサであってもよい。接触式のセンサとすることによって、皮膚の部位や状態等の影響を排除することができる。
【0044】
距離検出部として光学センサ7を用いたが、標的部位Tまでの距離を検出して距離に応じた距離信号Sを出力することができる限りにおいて、他のセンサ等であってもよい。ただし、距離検出部は、費用及び性能を考慮して、上述したように、光学センサであることが好ましい。光学センサは、非接触で測定できるため、皮脂汚れ等が付着するリスクが小さく、安定した性能を維持することができる。
【0045】
近接検出部及び距離検出部は、光学センサ、静電容量センサ、温度センサ、超音波センサ、音響センサ、マイクロ波センサ及び物理センサからそれぞれ選択されてもよい。光治療装置1の堅牢性を高めるために、近接検出部及び距離検出部は互いに異なる方式のセンサであることが好ましい。また、近接検出部を、同一又は互いに異なる方式の複数のセンサから構成してもよく、同様に、距離検出部を、同一又は互いに異なる方式の複数のセンサから構成してもよい。
【0046】
上述した光治療装置1において、リミットスイッチ10、すなわち近接検出部を省略してもよい。この場合、光治療装置は、標的部位に対してレーザを照射するレーザ光源と、標的部位までの距離を検出して距離に応じた距離信号を出力する距離検出部と、を具備し、レーザ光源によるレーザの照射において、レーザ照射期間及びレーザ停止期間が交互に繰り返され、距離検出部が、標的部位に対して発光する発光部と標的部位から反射した光を受光する受光部とを有する光学センサを有し、発光及び受光が停止期間において行われ、距離信号の変動量に応じてレーザ光源によるレーザの照射が行われるように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 光治療装置
2 制御装置
3 プローブ
4 ケーブル
5 本体部
6 可動部
7 光学センサ
8 レーザ光源
9 光学窓
10 リミットスイッチ
S 距離信号
T 標的部位
L0 基準値
L1 下限
L2 上限
d1 レーザ照射期間
d2 レーザ停止期間