(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20230627BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230627BHJP
H01M 8/0258 20160101ALI20230627BHJP
H01M 8/1011 20160101ALI20230627BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230627BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M4/86 H
H01M8/0258
H01M8/1011
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019189184
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】高里 明洋
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】中井 基生
(72)【発明者】
【氏名】久保 厚
(72)【発明者】
【氏名】武田 恭英
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕介
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-242306(JP,A)
【文献】特開2005-071765(JP,A)
【文献】特開2008-270146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸またはアルコールを含む液体を燃料とする直接液体型の燃料電池であって、
燃料極触媒層と燃料極拡散層と燃料極集電体とを有する燃料極と、
空気極触媒層と空気極拡散層と空気極集電体とを有する空気極と、
前記燃料極の前記燃料極触媒層と前記空気極の前記空気極触媒層とに挟まれた電解質膜と、
を有し、
前記燃料極集電体には、前記燃料が供給される燃料流入口と、前記燃料が排出される燃料流出口と、が設けられており、
前記燃料極集電体における前記燃料極拡散層の側の面である燃料流通面には、前記燃料を、前記燃料極拡散層に接触させながら前記燃料流通面に沿って前記燃料流入口から前記燃料流出口へと導く燃料流通溝が形成されており、
前記燃料極拡散層と前記燃料極触媒層は、親水領域と、前記親水領域よりも親水性が劣る非親水領域と、を有しており、
前記燃料流通溝の少なくとも一部と対向している前記燃料極拡散層の位置から、前記燃料極集電体から前記空気極集電体に向かう方向である積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記燃料極拡散層の個所と前記燃料極触媒層の個所は、前記親水領域とされて
おり、
前記燃料極拡散層と前記燃料極触媒層の前記親水領域は、小径の繊維または小径の粒子の少なくとも一方にて層状に形成されており、
前記燃料極拡散層と前記燃料極触媒層の前記非親水領域は、前記親水領域の繊維よりも大径の繊維または前記親水領域の粒子よりも大径の粒子の少なくとも一方にて層状に形成されているとともに、隣り合う前記繊維または前記粒子との隙間が前記親水領域における前記隙間よりも広くなるように形成されている、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記燃料流通溝は、複数の流通溝部と複数の折り返し溝部とを有しており、
それぞれの前記流通溝部は、前記燃料流通面における一方縁部の側から、前記一方縁部とは反対側となる他方縁部の側へと延びるように形成されており、
単数または隣り合う複数の前記流通溝部にて、複数の流通溝部グループが形成され、
隣り合う前記流通溝部グループに流れる燃料が逆方向となるように、隣り合う前記流通溝部グループの前記一方縁部の側の端部、あるいは、隣り合う前記流通溝部グループの前記他方縁部の側の端部、がそれぞれの前記折り返し溝部にて接続されており、
少なくとも前記流通溝部と対向している前記燃料極拡散層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記燃料極拡散層の個所と前記燃料極触媒層の個所は、前記親水領域とされている、
燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池であって、
前記空気極集電体には、酸素を含む空気が供給される空気流入口と、前記空気が排出される空気流出口と、が設けられており、
前記空気極集電体における前記空気極拡散層の側の面である空気流通面には、前記空気を、前記空気極拡散層に接触させながら前記空気流通面に沿って前記空気流入口から前記空気流出口へと導く空気流通溝が形成されており、
前記空気極拡散層と前記空気極触媒層は、空気極親水領域と、前記空気極親水領域よりも親水性が劣る空気極非親水領域と、を有しており、
前記空気流通溝の少なくとも一部と対向している前記空気極拡散層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記空気極拡散層の個所と前記空気極触媒層の個所は、前記空気極非親水領域とされている、
燃料電池。
【請求項4】
ギ酸またはアルコールを含む液体を燃料とする直接液体型の燃料電池であって、
燃料極触媒層と燃料極拡散層が一体とされた燃料極一体層と、燃料極集電体と、を有する燃料極と、
空気極触媒層と空気極拡散層が一体とされた空気極一体層と空気極集電体、あるいは、空気極触媒層と空気極拡散層と空気極集電体、を有する空気極と、
前記燃料極の前記燃料極一体層と前記空気極の前記空気極一体層とに挟まれた電解質膜、あるいは、前記燃料極の前記燃料極一体層と前記空気極の前記空気極触媒層とに挟まれた電解質膜と、
を有し、
前記燃料極集電体には、前記燃料が供給される燃料流入口と、前記燃料が排出される燃料流出口と、が設けられており、
前記燃料極集電体における前記燃料極一体層の側の面である燃料流通面には、前記燃料を、前記燃料極一体層に接触させながら前記燃料流通面に沿って前記燃料流入口から前記燃料流出口へと導く燃料流通溝が形成されており、
前記燃料極一体層は、親水領域と、前記親水領域よりも親水性が劣る非親水領域と、を有しており、
前記燃料流通溝の少なくとも一部と対向している前記燃料極一体層の位置から、前記燃料極集電体から前記空気極集電体に向かう方向である積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記燃料極一体層の個所は、前記親水領域とされて
おり、
前記燃料極一体層は、前記燃料極触媒層を形成可能な触媒繊維または触媒粒子の少なくとも一方を含んでおり、
前記燃料極一体層の前記親水領域は、小径の前記触媒繊維または小径の前記触媒粒子を含んで層状に形成されており、
前記燃料極一体層の前記非親水領域は、前記親水領域の前記触媒繊維よりも大径の前記触媒繊維または前記親水領域の前記触媒粒子よりも大径の前記触媒粒子を含んで層状に形成されているとともに、隣り合う前記触媒繊維または前記触媒粒子との隙間が前記親水領域における前記隙間よりも広くなるように形成されている、
燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記燃料流通溝は、複数の流通溝部と複数の折り返し溝部とを有しており、
それぞれの前記流通溝部は、前記燃料流通面における一方縁部の側から、前記一方縁部とは反対側となる他方縁部の側へと延びるように形成されており、
単数または隣り合う複数の前記流通溝部にて、複数の流通溝部グループが形成され、
隣り合う前記流通溝部グループに流れる燃料が逆方向となるように、隣り合う前記流通溝部グループの前記一方縁部の側の端部、あるいは、隣り合う前記流通溝部グループの前記他方縁部の側の端部、がそれぞれの前記折り返し溝部にて接続されており、
少なくとも前記流通溝部と対向している前記燃料極一体層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記燃料極一体層の個所は、前記親水領域とされている、
燃料電池。
【請求項6】
請求項4または5に記載の燃料電池であって、
前記空気極集電体には、酸素を含む空気が供給される空気流入口と、前記空気が排出される空気流出口と、が設けられており、
前記空気極集電体における前記空気極一体層あるいは前記空気極拡散層の側の面である空気流通面には、前記空気を、前記空気極一体層あるいは前記空気極拡散層に接触させながら前記空気流通面に沿って前記空気流入口から前記空気流出口へと導く空気流通溝が形成されており、
前記空気極一体層、あるいは、前記空気極拡散層と前記空気極触媒層は、空気極親水領域と、前記空気極親水領域よりも親水性が劣る空気極非親水領域と、を有しており、
前記空気流通溝の少なくとも一部と対向している前記空気極一体層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記空気極一体層の個所は、前記空気極非親水領域とされている、あるいは、前記空気流通溝の少なくとも一部と対向している前記空気極拡散層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記空気極拡散層の個所と前記空気極触媒層の個所は、前記空気極非親水領域とされている、
燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池には様々な種類があり、その中には、液体の燃料を改質せずに燃料極に直接投入する直接液体型燃料電池がある。直接液体型燃料電池は、燃料を酸化する燃料極と、空気などの酸化剤ガスを還元する空気極と、空気極と燃料極との間にイオン伝導を行う電解質膜とを備えている。ここで、燃料極はアノードで、空気極はカソードである。燃料極および空気極の両方の電極では、電極の酸化還元反応の速度を促進させる電極触媒を含む触媒層が設けられている。
【0003】
例えば特許文献1には、空気極のカソード電極とカソード側の集電体との間に、多孔質であり、かつ撥水性を有する撥水性多孔質体を配置した燃料電池が開示されている。特許文献1に記載の燃料電池では、空気極に撥水性多孔質体が配置されたことにより、カソード側の撥水性が変化し、燃料貯留槽からカソードへの水の透過量が増加し、燃料極の触媒層の触媒材質の表面の吸着物が洗い流される。これにより、時間の経過に伴う燃料電池の出力の低下が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直接液体型燃料電池では、燃料極に設けられた燃料流入口から燃料が供給され、燃料極内に形成された燃料通路に燃料を流しながら燃料極内に燃料を拡散させて酸化反応を促進させて発電し、燃料極に設けられた燃料流出口から使用済の燃料が回収されている。ギ酸またはアルコールを含む液体を燃料として使用する直接液体型燃料電池の燃料極内では酸化反応によって二酸化炭素が発生する。燃料極内で発生した二酸化炭素は、燃料極内での燃料の拡散を阻害して酸化反応しにくくするので、燃料電池の出力を低下させる。また燃料極内で発生した二酸化炭素は、燃料極に供給された燃料の通路である燃料通路内に侵入する場合がある。大量の二酸化炭素が気泡となって燃料通路内に侵入すると、燃料通路内での燃料の流れが阻害され、燃料電池の出力が低下する。
【0006】
従って、燃料極内で発生した二酸化炭素の、燃料極内での拡散と、燃料通路内への侵入と、を抑制することが望まれている。しかし特許文献1に記載の撥水性多孔質体は、空気極に設けられているので、燃料極内で発生した二酸化炭素の燃料極内での拡散の抑制や、当該二酸化炭素の燃料通路内への侵入の抑制を行うことが困難である。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、燃料極内で発生した二酸化炭素が、燃料極内へ拡散することと、燃料極内の燃料通路内へ侵入することと、を抑制することで、出力(発電量)の低下を抑制することができる燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の発明は、ギ酸またはアルコールを含む液体を燃料とする直接液体型の燃料電池であって、燃料極触媒層と燃料極拡散層と燃料極集電体とを有する燃料極と、空気極触媒層と空気極拡散層と空気極集電体とを有する空気極と、前記燃料極の前記燃料極触媒層と前記空気極の前記空気極触媒層とに挟まれた電解質膜と、を有し、前記燃料極集電体には、前記燃料が供給される燃料流入口と、前記燃料が排出される燃料流出口と、が設けられており、前記燃料極集電体における前記燃料極拡散層の側の面である燃料流通面には、前記燃料を、前記燃料極拡散層に接触させながら前記燃料流通面に沿って前記燃料流入口から前記燃料流出口へと導く燃料流通溝が形成されており、前記燃料極拡散層と前記燃料極触媒層は、親水領域と、前記親水領域よりも親水性が劣る非親水領域と、を有しており、前記燃料流通溝の少なくとも一部と対向している前記燃料極拡散層の位置から、前記燃料極集電体から前記空気極集電体に向かう方向である積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記燃料極拡散層の個所と前記燃料極触媒層の個所は、前記親水領域とされている、燃料電池である。
【0009】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る燃料電池であって、前記燃料流通溝は、複数の流通溝部と複数の折り返し溝部とを有しており、それぞれの前記流通溝部は、前記燃料流通面における一方縁部の側から、前記一方縁部とは反対側となる他方縁部の側へと延びるように形成されており、単数または隣り合う複数の前記流通溝部にて、複数の流通溝部グループが形成され、隣り合う前記流通溝部グループに流れる燃料が逆方向となるように、隣り合う前記流通溝部グループの前記一方縁部の側の端部、あるいは、隣り合う前記流通溝部グループの前記他方縁部の側の端部、がそれぞれの前記折り返し溝部にて接続されており、少なくとも前記流通溝部と対向している前記燃料極拡散層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記燃料極拡散層の個所と前記燃料極触媒層の個所は、前記親水領域とされている、燃料電池である。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る燃料電池であって、前記燃料極拡散層と前記燃料極触媒層の前記非親水領域には、撥水溶液が沁み込んだ状態とされている、あるいは、前記燃料極拡散層と前記燃料極触媒層の前記非親水領域における前記燃料極集電体の側の面には、撥水コーティングが施されている、燃料電池である。
【0011】
次に、本発明の第4の発明は、上記第3の発明に係る燃料電池であって、前記空気極集電体には、酸素を含む空気が供給される空気流入口と、前記空気が排出される空気流出口と、が設けられており、前記空気極集電体における前記空気極拡散層の側の面である空気流通面には、前記空気を、前記空気極拡散層に接触させながら前記空気流通面に沿って前記空気流入口から前記空気流出口へと導く空気流通溝が形成されており、前記空気極拡散層と前記空気極触媒層は、空気極親水領域と、前記空気極親水領域よりも親水性が劣る空気極非親水領域と、を有しており、前記空気流通溝の少なくとも一部と対向している前記空気極拡散層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記空気極拡散層の個所と前記空気極触媒層の個所は、前記空気極非親水領域とされている、燃料電池である。
【0012】
次に、本発明の第5の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る燃料電池であって、前記燃料極拡散層と前記燃料極触媒層の前記親水領域は、小径の繊維または小径の粒子の少なくとも一方にて層状に形成されており、前記燃料極拡散層と前記燃料極触媒層の前記非親水領域は、前記親水領域の繊維よりも大径の繊維または前記親水領域の粒子よりも大径の粒子の少なくとも一方にて層状に形成されているとともに、隣り合う前記繊維または前記粒子との隙間が前記親水領域における前記隙間よりも広くなるように形成されている、燃料電池である。
【0013】
次に、本発明の第6の発明は、上記第5の発明に係る燃料電池であって、前記空気極集電体には、酸素を含む空気が供給される空気流入口と、前記空気が排出される空気流出口と、が設けられており、前記空気極集電体における前記空気極拡散層の側の面である空気流通面には、前記空気を、前記空気極拡散層に接触させながら前記空気流通面に沿って前記空気流入口から前記空気流出口へと導く空気流通溝が形成されており、前記空気極拡散層と前記空気極触媒層は、空気極親水領域と、前記空気極親水領域よりも親水性が劣る空気極非親水領域と、を有しており、前記空気流通溝の少なくとも一部と対向している前記空気極拡散層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記空気極拡散層の個所と前記空気極触媒層の個所は、前記空気極非親水領域とされている、燃料電池である。
【0014】
次に、本発明の第7の発明は、ギ酸またはアルコールを含む液体を燃料とする直接液体型の燃料電池であって、燃料極触媒層と燃料極拡散層が一体とされた燃料極一体層と、燃料極集電体と、を有する燃料極と、空気極触媒層と空気極拡散層が一体とされた空気極一体層と空気極集電体、あるいは、空気極触媒層と空気極拡散層と空気極集電体、を有する空気極と、前記燃料極の前記燃料極一体層と前記空気極の前記空気極一体層とに挟まれた電解質膜、あるいは、前記燃料極の前記燃料極一体層と前記空気極の前記空気極触媒層とに挟まれた電解質膜と、を有し、前記燃料極集電体には、前記燃料が供給される燃料流入口と、前記燃料が排出される燃料流出口と、が設けられており、前記燃料極集電体における前記燃料極一体層の側の面である燃料流通面には、前記燃料を、前記燃料極一体層に接触させながら前記燃料流通面に沿って前記燃料流入口から前記燃料流出口へと導く燃料流通溝が形成されており、前記燃料極一体層は、親水領域と、前記親水領域よりも親水性が劣る非親水領域と、を有しており、前記燃料流通溝の少なくとも一部と対向している前記燃料極一体層の位置から、前記燃料極集電体から前記空気極集電体に向かう方向である積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記燃料極一体層の個所は、前記親水領域とされている、燃料電池である。
【0015】
次に、本発明の第8の発明は、上記第7の発明に係る燃料電池であって、前記燃料流通溝は、複数の流通溝部と複数の折り返し溝部とを有しており、それぞれの前記流通溝部は、前記燃料流通面における一方縁部の側から、前記一方縁部とは反対側となる他方縁部の側へと延びるように形成されており、単数または隣り合う複数の前記流通溝部にて、複数の流通溝部グループが形成され、隣り合う前記流通溝部グループに流れる燃料が逆方向となるように、隣り合う前記流通溝部グループの前記一方縁部の側の端部、あるいは、隣り合う前記流通溝部グループの前記他方縁部の側の端部、がそれぞれの前記折り返し溝部にて接続されており、少なくとも前記流通溝部と対向している前記燃料極一体層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記燃料極一体層の個所は、前記親水領域とされている、燃料電池である。
【0016】
次に、本発明の第9の発明は、上記第7の発明または第8の発明に係る燃料電池であって、前記燃料極一体層は、前記燃料極触媒層を形成可能な触媒繊維または触媒粒子の少なくとも一方を含んでおり、前記燃料極一体層の前記親水領域は、小径の前記触媒繊維または小径の前記触媒粒子を含んで層状に形成されており、前記燃料極一体層の前記非親水領域は、前記親水領域の前記触媒繊維よりも大径の前記触媒繊維または前記親水領域の前記触媒粒子よりも大径の前記触媒粒子を含んで層状に形成されているとともに、隣り合う前記触媒繊維または前記触媒粒子との隙間が前記親水領域における前記隙間よりも広くなるように形成されている、燃料電池である。
【0017】
次に、本発明の第10の発明は、上記第9の発明に係る燃料電池であって、前記空気極集電体には、酸素を含む空気が供給される空気流入口と、前記空気が排出される空気流出口と、が設けられており、前記空気極集電体における前記空気極一体層あるいは前記空気極拡散層の側の面である空気流通面には、前記空気を、前記空気極一体層あるいは前記空気極拡散層に接触させながら前記空気流通面に沿って前記空気流入口から前記空気流出口へと導く空気流通溝が形成されており、前記空気極一体層、あるいは、前記空気極拡散層と前記空気極触媒層は、空気極親水領域と、前記空気極親水領域よりも親水性が劣る空気極非親水領域と、を有しており、前記空気流通溝の少なくとも一部と対向している前記空気極一体層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記空気極一体層の個所は、前記空気極非親水領域とされている、あるいは、前記空気流通溝の少なくとも一部と対向している前記空気極拡散層の位置から、前記積層方向に沿って前記電解質膜へと続く、前記空気極拡散層の個所と前記空気極触媒層の個所は、前記空気極非親水領域とされている、燃料電池である。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、燃料流通溝の少なくとも一部と対向している燃料極拡散層の位置から、積層方向に沿って電解質膜へと続く燃料極拡散層の個所と燃料極触媒層の個所が、親水領域とされている。そして、燃料極内で発生した二酸化炭素は、親水領域よりも非親水領域に拡散される。従って、燃料極内で発生した二酸化炭素が燃料極内の全体に拡散されることを抑制し、親水領域にて燃料を燃料極触媒層へと拡散させることできる。また、燃料流通溝の少なくとも一部と対向している燃料極拡散層の個所は親水領域とされているので、燃料極内で発生した二酸化炭素が燃料通路溝内へ侵入することを抑制することができる。これにより、燃料電池の出力(発電量)の低下を抑制することができる。
【0019】
第2の発明によれば、少なくとも流通溝部と対向している燃料極拡散層の位置から、積層方向に沿って電解質膜へと続く燃料極拡散層の個所と燃料極触媒層の個所が、親水領域とされている。また燃料流通溝のほとんどが流通溝部であるので、より多くの燃料を親水領域にて燃料極触媒層へと拡散させることができる。従って、燃料電池の出力(発電量)の低下を、より抑制することができる。
【0020】
第3の発明によれば、非親水領域を、比較的容易に実現することができる。
【0021】
第4の発明によれば、燃料極に親水領域と非親水領域を作るだけでなく、空気極にも空気極親水領域と空気極非親水領域を作る。空気極では、大気(酸素)を空気極内に拡散させて酸化還元反応を促進させ、空気極内では水が発生する。空気極内で発生した水は、空気極内での大気(酸素)の拡散を阻害する。従って、空気極内で発生した水が空気極内に拡散することはあまり好ましくない。第4の発明では、空気極内で発生した水を空気極親水領域に拡散させ、空気極非親水領域に大気(酸素)を拡散させる。従って、空気極での酸化還元反応をより促進させ、燃料電池の出力(発電量)の低下を抑制することができる。
【0022】
第5の発明によれば、隣り合う隙間が小さくなる小径の繊維または小径の粒子にて液体燃料の浸透を促進できる親水領域を構成する。そして、隣り合う隙間が大きくなる大径の繊維または大径の粒子にて二酸化炭素がより流れやすくなる非親水領域を構成する。従って、親水領域と非親水領域を、比較的容易に実現することができる。
【0023】
第6の発明によれば、空気極非親水領域を適切な個所(空気流通溝の少なくとも一部と対向する個所)に形成することで、空気極内で発生した水に阻害されることなく、大気(酸素)を空気極内の空気極非親水領域にて適切に拡散させることができる。従って、燃料電池の出力(発電量)の低下を抑制することができる。
【0024】
第7の発明によれば、第1の発明と同様、燃料流通溝の少なくとも一部と対向している燃料極一体層の位置から、積層方向に沿って電解質膜へと続く燃料極一体層の個所が、親水領域とされている。そして、燃料極内で発生した二酸化炭素は、親水領域よりも非親水領域に拡散される。従って、燃料極内で発生した二酸化炭素が燃料極内の全体に拡散されることを抑制し、親水領域にて燃料を燃料極一体層へ拡散させることできる。また、燃料流通溝の少なくとも一部と対向している燃料極一体層の個所は親水領域とされているので、燃料極内で発生した二酸化炭素が燃料通路溝内へ侵入することを抑制することができる。これにより、燃料電池の出力(発電量)の低下を抑制することができる。また、燃料極触媒層と燃料極拡散層の代わりに燃料極一体層を用いることで、燃料極をよりシンプル、かつ、より薄く構成することができる。
【0025】
第8の発明によれば、少なくとも流通溝部と対向している燃料極一体層の位置から、積層方向に沿って電解質膜へと続く燃料極一体層の個所が、親水領域とされている。また燃料流通溝のほとんどが流通溝部であるので、より多くの燃料を親水領域にて燃料極一体層へ拡散させることができる。従って、燃料電池の出力(発電量)の低下を、より抑制することができる。
【0026】
第9の発明によれば、隣り合う隙間が小さくなる小径の触媒繊維または小径の触媒粒子にて液体燃料の浸透を促進できる親水領域を構成する。そして、隣り合う隙間が大きくなる大径の触媒繊維または大径の触媒粒子にて二酸化炭素がより流れやすくなる非親水領域を構成する。従って、親水領域と非親水領域を、比較的容易に実現することができる。
【0027】
第10の発明によれば、空気極非親水領域を適切な個所(空気流通溝の少なくとも一部と対向する個所)に形成することで、空気極内で発生した水に阻害されることなく、大気(酸素)を空気極内の空気極非親水領域にて適切に拡散させることができる。従って、燃料電池の出力(発電量)の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1の実施の形態の燃料電池システムの全体構成を説明する図である。
【
図2】第1の実施の形態の燃料電池の構成を説明する分解斜視図である。
【
図3】
図2における燃料極集電体に形成された燃料流通溝を説明する図である。
【
図4】
図2における燃料極触媒層及び燃料極拡散層に形成した親水領域と非親水領域を、
図3に示す燃料流通溝の位置に対応させた様子を説明する図である。
【
図5】
図4に示す親水領域及び非親水領域が形成された燃料極触媒層及び燃料極拡散層の斜視図である。
【
図6】
図5に示す燃料極触媒層の親水領域中及び非親水領域中の繊維、粒子の例を説明する拡大図である。
【
図7】
図2における空気極集電体に形成された空気流通溝を説明する図である。
【
図8】
図2における空気極触媒層及び空気極拡散層に形成した空気極親水領域と空気極非親水領域を、
図7に示す空気流通溝の位置に対応させた様子を説明する図である。
【
図9】
図8に示す空気極親水領域及び空気極非親水領域が形成された空気極拡散層及び空気極触媒層の斜視図である。
【
図10】空気極内での酸化還元反応によって発生した水が空気極親水領域に浸透する様子、及び、燃料極内での酸化反応によって発生した二酸化炭素が非親水領域に拡散する様子を説明する図である。
【
図11】第1の実施の形態において、燃料極触媒層及び燃料極拡散層に形成する親水領域及び非親水領域の別の例(別例1)を説明する図である。
【
図12】第1の実施の形態において、燃料極触媒層及び燃料極拡散層に形成する親水領域及び非親水領域の別の例(別例2)を説明する図である。
【
図13】第1の実施の形態において、空気極触媒層及び空気極拡散層に形成する空気極親水領域及び空気極非親水領域の別の例(別例3)を説明する図である。
【
図14】第1の実施の形態において、空気極触媒層及び空気極拡散層に形成する空気極親水領域及び空気極非親水領域の別の例(別例4)を説明する図である。
【
図15】第2の実施の形態の燃料電池の全体構成を説明する図である。
【
図16】第2の実施の形態の燃料電池の構成を説明する分解斜視図である。
【
図17】第2の実施の形態の、親水領域及び非親水領域が形成された燃料極一体層の斜視図である。
【
図18】第2の実施の形態の、空気極親水領域及び空気極非親水領域が形成された空気極一体層の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本実施の形態にて説明する燃料電池システムの燃料電池は、ギ酸またはメタノール等のアルコールの水溶液を燃料とする直接液体型燃料電池であり、以下ではギ酸を燃料とする直接ギ酸型燃料電池を例として説明する。ここで、直接液体型燃料電池とは、液体の燃料を、改質せずに燃料極に直接投入する燃料電池を意味する。そして、直接ギ酸型燃料電池は、燃料としてギ酸を用い、ギ酸を改質せずに燃料極10(
図2参照)に直接投入する燃料電池である。なお、図中にX軸、Y軸、Z軸が記載されている場合、各軸は互いに直交しており、Z軸方向は鉛直上方に向かう方向を示し、X軸方向とY軸方向は水平方向を示している。以下に、第1の実施の形態の燃料電池システム1について、図面を用いて説明する。
【0030】
●[第1の実施の形態の燃料電池システム1の全体構成(
図1)]
図1は、燃料電池7を含む燃料電池システム1の全体構成を示す図であり、
図2は燃料電池7の構成を説明する分解斜視図である。燃料電池システム1は、
図1に示すように、燃料タンク50、ポンプ52、燃料電池7、排液タンク60等を有している。
【0031】
燃料タンク50には、燃料となる所定濃度のギ酸を含む液体(ギ酸水溶液)が蓄えられている。燃料となるギ酸の濃度は、例えば10~40[%]程度である。また燃料タンク50には燃料供給配管51の一方端が接続され、燃料供給配管51の他方端は燃料電池7の燃料流入口7Aに接続されている。
【0032】
ポンプ52は電動ポンプであり、燃料供給配管51に設けられており、燃料タンク50内の燃料を燃料電池7の燃料流入口7Aに向けて圧送する。
【0033】
排液タンク60には、燃料電池7内で使用された後の燃料と、空気極20にて発生して回収された水が蓄えられている。排液タンク60には燃料排出配管61の他方端が接続され、燃料排出配管61の一方端は燃料電池7の燃料流出口7Bに接続されている。また排液タンク60には、回収配管62の他方端が接続され、回収配管62の一方端の側は、空気極20の下方に設けられた回収口7D(空気流出口に相当)に接続されている。さらに、排液タンク60の上部には、内部と外部を連通する排気口(不図示)が設けられており、排液タンク60の内部の圧力が高まると、排液タンク60内の気体が排気口(不図示)から排液タンク60外へ流出する。
【0034】
燃料電池7は、燃料タンク50からの燃料が流入される燃料流入口7Aと、使用された燃料を排出する燃料流出口7Bとを有し、流入された燃料を用いて発電する。なお、燃料電池7の構造の詳細について、以下に説明する。
【0035】
●[第1の実施の形態の燃料電池7の構造(
図2)]
燃料電池7は、
図2に示すように、空気極20と燃料極10にて電解質膜30を挟んだ構成を有している。空気極20は、空気極触媒層21、空気極拡散層22、空気極集電体23が積層されて構成されている。燃料極10は、燃料極触媒層11、燃料極拡散層12、燃料極集電体13が積層されて構成されている。
【0036】
空気極集電体23は、厚みが約1~10[mm]程度の導電性を有する板状の金属等である。空気極集電体23には、周囲の空気(酸素)を空気極拡散層22に流入させるため、圧送された空気(酸素を含む空気)を外部から供給する供給口7C(空気流入口に相当)が上方に設けられ、使用された空気と発生した水を回収する回収口7D(空気流出口に相当)が下方に設けられている。空気極集電体23には、
図1に示すように、電気負荷(例えば、電動モータ)の一方端が接続される。また、空気極集電体23の空気極拡散層22に接触する側の面である空気流通面23Aには、供給口7Cから供給された空気を、空気極拡散層22に接触させながら空気流通面23Aに沿って供給口7Cから回収口7Dへと導く空気流通溝23Bが形成されている。なお、空気流通溝23Bは、後述する燃料流通溝13Bと同形状とされていると、より好ましい。つまり、
図2に示す積層方向DR1に沿って見た場合、燃料流通溝13Bと空気流通溝23Bが、ほぼ重なる形状とされていると、より好ましい。
【0037】
空気極拡散層22は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。空気極拡散層22は、水および空気を透過できるとともに、電子伝導性を有する多孔質材であり、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスを用いることができる。空気極拡散層22は、空気極集電体23の供給口7C(空気流入口)から流入した空気(酸素)を、拡散させながら空気極触媒層21に導く。外気の空気に含まれる酸素は、空気極拡散層22に浸透して空気極触媒層21の電極触媒粒子に到達する。
【0038】
空気極触媒層21は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。空気極触媒層21は、空気極の電極触媒粒子(不図示)と、電極触媒粒子を担持する電極触媒担持体(不図示)とを備えている。空気極20の電極触媒粒子は、空気中の酸素を還元する反応の反応速度を促進させる触媒の粒子であり、例えば白金(Pt)粒子を用いることができる。電極触媒担持体は、電極触媒粒子を担持できるとともに、導電性を備えればよく、例えばカーボン粉末を用いることができる。燃料としてギ酸を用いた場合、空気極触媒層21の電極触媒粒子によって、(式1)に示す酸化還元反応が進行する。なお、生成された水(H
2O)は、
図1に示すように、回収口7Dを介して回収されて回収配管62を経由して排液タンク60に導かれる。
2H
+ +1/2 O
2 +2e
- → H
2O (式1)
【0039】
燃料極集電体13は、厚みが約1~10[mm]程度の導電性を有する板状の金属等である。燃料極集電体13は、燃料極拡散層12に接触する燃料流通面13Aを有しており、燃料流通面13Aには、燃料極拡散層12の側が開口された燃料流通溝13Bが形成されている。燃料流通溝13Bは、淀みなく燃料が流れるように、幅が狭い流路とされている。また、電子e
-を回収するために、燃料流通溝13Bの周囲には、燃料極拡散層12に接触するランド部13Eが形成されている。燃料極集電体13には、
図1に示すように、電気負荷(例えば、電動モータ)の他方端が接続される。
【0040】
また燃料流通溝13Bは、燃料極集電体13の一方縁部(または他方縁部)から、対向する他方縁部(または一方縁部)へと略水平方向に延びる複数の流通溝部13C(
図3の符号13C(1)~符号13C(8)参照)を有している。また複数の流通溝部13Cのそれぞれは、燃料極集電体13の一方縁部または他方縁部の近傍に形成されて略鉛直方向に延びる折り返し溝部13D(
図3の符号13D(1)~符号13D(3)参照)にて接続されている。また燃料流通溝13Bは、燃料極集電体13の下方に形成された燃料流入口7Aと、燃料極集電体13の上方に形成された燃料流出口7Bと、に接続されている。
【0041】
従って、燃料流入口7Aに流入された燃料は、流通溝部13Cにて一方縁部の側から他方縁部の側へと導かれ、折り返し溝部13Dにて方向転換されて、次の流通溝部13Cにて他方縁部の側から一方縁部の側へと導かれ、次の折り返し溝部13Dにて方向転換されることを繰り返しながら、つづら折り状(ジグザグ状)とされた燃料流通溝13B内を流れ、燃料極拡散層12中に拡散される。
【0042】
燃料極拡散層12は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。燃料極拡散層12は、ギ酸水溶液が内部に浸透できるとともに、電子伝導性を有する多孔質材であり、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスを用いることができる。燃料極拡散層12は、燃料極集電体13の燃料流通面13Aに形成された燃料流通溝13Bに流される燃料を、拡散させながら燃料極触媒層11に導く。
【0043】
燃料極触媒層11は、厚みが約0.05~0.5[mm]程度の層状に形成されている。燃料極触媒層11は、電極触媒粒子(不図示)と、電極触媒粒子を担持する電極触媒担持体(不図示)とを備えている。燃料極10の電極触媒粒子は、燃料であるギ酸の酸化反応の速度を促進させる触媒の粒子であり、例えばパラジウム(Pd)粒子を用いることができる。電極触媒担持体は、電極触媒粒子を担持できるとともに、導電性を備えればよく、例えばカーボン粉末を用いることができる。燃料としてギ酸を用いた場合、燃料極触媒層11の電極触媒粒子によって、(式2)に示す酸化反応が進行する。
HCOOH → CO2 + 2H+ +2e- (式2)
【0044】
電解質膜30は、厚みが約0.01~0.3[mm]程度の薄膜状に形成されている。電解質膜30は、燃料極10の燃料極触媒層11と空気極20の空気極触媒層21との間に挟まれており、電子伝導性を持たず、水およびH+を透過できるプロトン交換膜である。電解質膜30には、例えば、Du Pont社製のNafion(登録商標)等のパーフルオロエチレンスルフォン酸系膜を用いることができる。以上で説明した、燃料極触媒層11と、燃料極拡散層12と、電解質膜30と、空気極触媒層21と、空気極拡散層22とが接合されて一体化されたものを、本明細書では、膜/電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)と記載する場合もある。
【0045】
●[燃料電池の作動について]
ギ酸水溶液は、燃料タンク50内から燃料供給配管51に送りだされて、燃料極集電体13の燃料流入口7Aから、燃料流通溝13Bに流入する。ギ酸水溶液は、燃料流通溝13Bを流れるにつれ、燃料極拡散層12に浸透して、燃料極触媒層11の電極触媒粒子の表面に到達する。そして、燃料極触媒層11の電極触媒粒子の表面上で、上記の(式2)に示すギ酸の酸化反応が進行する。
【0046】
(式2)に示す、ギ酸の酸化反応で生成された二酸化炭素CO2は、集まって泡となり燃料極10から排出され、プロトンH+は電解質膜30を透過して空気極触媒層21の電極触媒粒子に到達する。また、ギ酸から生成された電子e-は、燃料極拡散層12、燃料極触媒層11、燃料極集電体13を流れ、さらに、燃料極集電体13から外部回路(電気負荷)に流れる。
【0047】
電子e-は、外部回路(電気負荷)から空気極集電体23へ流れ、さらに、空気極集電体23、空気極拡散層22、空気極触媒層21を流れて空気極触媒層21に到達する。空気極触媒層21の電極触媒粒子表面には、外部回路(電気負荷)からのe-と、電解質膜30を透過したプロトンH+と、空気極拡散層22を透過した外気の酸素とが到達し、上記の(式1)に示す酸化還元反応が進行し、水が生成される。
【0048】
以上の様に、燃料電池7は発電する。そして、燃料極触媒層11において、(式2)のギ酸の酸化反応で生成される二酸化炭素は、集まって泡となり、燃料極拡散層12、燃料流通溝13Bを流れて、燃料流出口7Bから排出され、燃料排出配管61を経由して排液タンク60に溜められる。
【0049】
燃料極触媒層11にて生成された二酸化炭素が燃料極拡散層12内に広く拡散されると、燃料のギ酸水溶液が燃料極拡散層12内に拡散されて燃料極触媒層11に到達することを阻害するので、燃料電池7の出力の低下を招く可能性がある。また、空気極触媒層21にて生成された水が空気極拡散層22内に広く拡散されると、大気(酸素)が空気極拡散層22内に拡散されて空気極触媒層21に到達することを阻害するので、燃料電池7の出力の低下を招く可能性がある。そこで、第1の実施の形態では、以下に説明する構造を有することで、燃料電池の出力の低下を抑制する。
【0050】
●[燃料極集電体13に形成された燃料流通溝13B(
図3)]
まず
図3を用いて、燃料極集電体13の燃料流通面13Aに形成された燃料流通溝13Bについて説明する。燃料流通溝13Bは、燃料極集電体13の下方に設けられた燃料流入口7Aと、燃料極集電体13の上方に設けられた燃料流出口7Bと、を接続しており、燃料流通面13Aの側が開口された溝である。そして燃料流通溝13Bは、複数の流通溝部13Cと、複数の折り返し溝部13Dにて構成されている。
図3の例は、流通溝部13C(1)~13C(8)と、折り返し溝部13D(1)~13D(3)にて構成された燃料流通溝13Bの例を示している。
【0051】
それぞれの流通溝部13C(1)~13C(8)は、燃料流通面13Aにおける一方縁部(例えば
図3の例の左側縁部)の側から、一方縁部とは反対側となる他方縁部(例えば
図3の例の右側縁部)の側へと延びるように形成されている。そして単数または隣り合う複数の流通溝部にて、複数の流通溝部グループが形成されている。
図3の例では、隣り合う流通溝部13C(1)と流通溝部13C(2)にて流通溝部グループG1が形成され、隣り合う流通溝部13C(3)と流通溝部13C(4)にて流通溝部グループG2が形成されている。同様に、隣り合う2つの流通溝部にて、流通溝部グループG3、G4が形成されている。なお、流通溝部グループを構成する流通溝部は、2つに限定されず、単数でも2つ以上の複数でもよい。
【0052】
それぞれの折り返し溝部13D(1)~13D(3)は、隣り合う流通溝部グループに流れる燃料が逆方向となるように、隣り合う流通溝部グループの一方縁部(例えば
図3の例の左側縁部)の側の端部、あるいは、隣り合う流通溝部グループの他方縁部(例えば
図3の例の右側縁部)の側の端部、を接続している。
図3の例では、折り返し溝部13D(1)は、隣り合う流通溝部グループG1と流通溝部グループG2の一方縁部の側の端部を、流通溝部グループG1を流れる燃料の方向と、流通溝部グループG2を流れる燃料の方向が逆方向となるように接続している。同様に、折り返し溝部13D(2)は隣り合う流通溝部グループG2と流通溝部グループG3の他方縁部の側の端部を接続し、折り返し溝部13D(3)は隣り合う流通溝部グループG3と流通溝部グループG4の一方縁部の側の端部を接続している。
【0053】
●[燃料流通溝13Bの位置に対応させた親水領域と非親水領域を有する燃料極拡散層12と燃料極触媒層11(
図4~
図6)]
図4及び
図5に示すように、燃料極触媒層11は、親水領域11Aと非親水領域11BがZ軸方向に沿って(燃料流通面13Aに沿って流通溝部13Cに直交する方向に沿って)交互に積層されて構成されている。同様に、燃料極拡散層12は、親水領域12Aと非親水領域12BがZ軸方向に沿って(燃料流通面13Aに沿って流通溝部13Cに直交する方向に沿って)交互に積層されて構成されている。親水領域11A、12Aは、親水性を有する領域であり、非親水領域11B、12Bは、親水領域11A、12Aよりも親水性が劣る領域である。
【0054】
また
図4(及び
図5)に示すように、燃料極触媒層11の親水領域11Aと燃料極拡散層12の親水領域12Aは、Z軸方向(親水領域と非親水領域が交互に積層された領域積層方向DR2)において位置が一致している。そして親水領域11A、12Aの個所は、流通溝部13Cに対向している燃料極拡散層12の位置から、燃料極集電体13から空気極集電体23に向かう方向である積層方向DR1(
図2におけるY軸方向とは反対の方向)に沿って電解質膜30(
図2参照)へと続いている。
【0055】
図10に示すように、流通溝部13Cに流れている燃料は、燃料極拡散層12の親水領域12Aに浸透して、燃料極触媒層11の親水領域11Aに浸透する。また、燃料極触媒層11にて生成された二酸化炭素は、燃料極触媒層11の非親水領域11Bと燃料極拡散層12の非親水領域12Bに誘導される。
【0056】
なお、燃料極触媒層11の親水領域11Aの範囲(
図4におけるXZ平面上の範囲)、燃料極拡散層12の親水領域12Aの範囲(
図4におけるXZ平面上の範囲)は、
図4に示す例に限定されない。例えば
図11に示すように、流通溝部13Cと折り返し溝部13Dを含む燃料流通溝13Bを覆う範囲でもよいし、
図12に示すように流通溝部13Cの一部を覆う範囲でもよい。従って、親水領域11A、12Aは、空気極集電体23から燃料極集電体13の方向を見た場合に、流通溝部13Cの少なくとも一部と対向している範囲(流通溝部13Cの少なくとも一部を覆う範囲)であればよい。
【0057】
また
図6は、燃料極触媒層11の親水領域11A、非親水領域11Bの拡大図の例を示している。燃料極触媒層11の親水領域11Aは、小径の電極触媒粒子11G、小径の電極触媒繊維11H、小径の担持体粒子11L、小径の担持体繊維11Kにて層状に形成されており、隣り合う粒子または繊維との隙間は、非親水領域11Bにおける隙間よりも狭い(密とされている)。従って、親水領域11Aは、非親水領域11Bよりも液体が浸透しやすい。
【0058】
燃料極触媒層11の非親水領域11Bは、大径の電極触媒粒子11C、大径の電極触媒繊維11D、大径の担持体粒子11E、大径の担持体繊維11Fにて層状に形成されており、隣り合う粒子または繊維との隙間は、親水領域11Aにおける隙間よりも広い(疎とされている)。従って、非親水領域11Bは、親水領域11Aよりも液体が浸透しにくい(親水性が劣る)。電極触媒繊維11H、11D、電極触媒粒子11G、11Cは、燃料極触媒層を形成可能な触媒繊維、触媒粒子に相当している。
【0059】
同様に、燃料極拡散層12の親水領域12Aは小径のカーボン粒子と小径のカーボン繊維にて層状に形成され、燃料極拡散層12の非親水領域12Bは大径のカーボン粒子と大径のカーボン繊維にて層状に形成されている。
【0060】
上記の説明では、粒子と繊維を混在させた例を説明したが、燃料極触媒層11と燃料極拡散層12の親水領域11A、12Aは、小径の繊維または小径の粒子の少なくとも一方にて層状に形成されていればよい。また燃料極触媒層11と燃料極拡散層12の非親水領域11B、12Bは、親水領域の繊維よりも大径の繊維または親水領域の粒子よりも大径の粒子の少なくとも一方にて層状に形成されて、隣り合う繊維または粒子の隙間が、親水領域における隙間よりも広くなるように形成されていればよい。
【0061】
なお、粒子や繊維の径の大きさで親水領域と非親水領域を区別するのでなく、非親水領域を撥水領域としてもよい。この場合、撥水領域(非親水領域)としたい場所を開口したマスキング部材で覆って、撥水溶液を沁み込ませたり(撥水溶液が沁み込んだ状態としたり)、撥水コーティングを施したりする。なお撥水コーティングを施す場合は、燃料極拡散層12と燃料極触媒層11における燃料極集電体13の側の面に撥水コーティングを施す。
【0062】
撥水溶液や撥水コーティングに用いる撥水剤としては、各種の撥水剤を用いることができる。例えば、商品名テフロン(登録商標)として知られている、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を使用することができる。その他にも、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体)等、各種のフッ素含有樹脂を使用することができる。
【0063】
●[空気極集電体23に形成された空気流通溝23B(
図7)]
次に
図7を用いて、空気極集電体23の空気流通面23Aに形成された空気流通溝23Bについて説明する。空気流通溝23Bは、燃料流通溝13Bとほぼ同じ形状とされている。空気流通溝23Bは、空気極集電体23の上方に設けられた供給口7C(空気流入口に相当)と、空気極集電体23の下方に設けられた回収口7D(空気流出口に相当)と、を接続しており、空気流通面23Aの側が開口された溝である。そして空気流通溝23Bは、複数の空気極流通溝部23Cと、複数の空気極折り返し溝部23Dにて構成されている。
図7の例は、空気極流通溝部23C(1)~23C(8)と、空気極折り返し溝部23D(1)~23D(3)にて構成された空気流通溝23Bの例を示している。
【0064】
それぞれの空気極流通溝部23C(1)~23C(8)は、空気流通面23Aにおける一方縁部(例えば
図7の例の左側縁部)の側から、一方縁部とは反対側となる他方縁部(例えば
図7の例の右側縁部)の側へと延びるように形成されている。そして単数または隣り合う複数の空気極流通溝部にて、複数の空気極流通溝部グループが形成されている。
図7の例では、隣り合う空気極流通溝部23C(1)と空気極流通溝部23C(2)にて空気極流通溝部グループG1Aが形成され、隣り合う空気極流通溝部23C(3)と空気極流通溝部23C(4)にて空気極流通溝部グループG2Aが形成されている。同様に、隣り合う2つの空気極流通溝部にて、空気極流通溝部グループG3A、G4Aが形成されている。なお、空気極流通溝部グループを構成する空気極流通溝部は、2つに限定されず、単数でも2つ以上の複数でもよい。
【0065】
それぞれの空気極折り返し溝部23D(1)~23D(3)は、隣り合う空気極流通溝部グループに流れる空気が逆方向となるように、隣り合う空気極流通溝部グループの一方縁部(例えば
図7の例の左側縁部)の側の端部、あるいは、隣り合う空気極流通溝部グループの他方縁部(例えば
図7の例の右側縁部)の側の端部、を接続している。
図7の例では、空気極折り返し溝部23D(1)は、隣り合う空気極流通溝部グループG1Aと空気極流通溝部グループG2Aの一方縁部の側の端部を、空気極流通溝部グループG1Aを流れる空気の方向と、空気極流通溝部グループG2Aを流れる空気の方向が逆方向となるように接続している。同様に、空気極折り返し溝部23D(2)は隣り合う空気極流通溝部グループG2Aと空気極流通溝部グループG3Aの他方縁部の側の端部を接続し、空気極折り返し溝部23D(3)は隣り合う空気極流通溝部グループG3Aと空気極流通溝部グループG4Aの一方縁部の側の端部を接続している。
【0066】
●[空気流通溝23Bの位置に対応させた空気極親水領域と空気極非親水領域を有する空気極拡散層22と空気極触媒層21(
図8、
図9)]
図8及び
図9に示すように、空気極触媒層21は、空気極親水領域21Aと空気極非親水領域21BがZ軸方向に沿って(空気流通面23Aに沿って空気極流通溝部23Cに直交する方向に沿って)交互に積層されて構成されている。同様に、空気極拡散層22は、空気極親水領域22Aと空気極非親水領域22BがZ軸方向に沿って(空気流通面23Aに沿って空気極流通溝部23Cに直交する方向に沿って)交互に積層されて構成されている。空気極親水領域21A、22Aは、親水性を有する領域であり、空気極非親水領域21B、22Bは、空気極親水領域21A、22Aよりも親水性が劣る領域である。
【0067】
また
図8(及び
図9)に示すように、空気極触媒層21の空気極親水領域21Aと空気極拡散層22の空気極親水領域22Aは、Z軸方向(空気極親水領域と空気極非親水領域が交互に積層された領域積層方向DR2)において位置が一致している。そして空気極親水領域21A、22Aの個所は、空気極流通溝部23Cに対向している空気極拡散層22の位置から、燃料極集電体13から空気極集電体23に向かう方向である積層方向DR1(
図2におけるY軸方向とは反対の方向)に沿って電解質膜30(
図2参照)へと続いている。
【0068】
図10に示すように、空気極流通溝部23Cに流れている空気は、空気極拡散層22の空気極非親水領域22B中に拡散して、空気極触媒層21の空気極非親水領域21B中に拡散する。また、空気極触媒層21にて生成された水は、空気極触媒層21の空気極親水領域21Aから空気極拡散層22の空気極親水領域22Aへと浸透する。
【0069】
なお、空気極触媒層21の空気極非親水領域21Bの範囲(
図8におけるXZ平面上の範囲)、空気極拡散層22の空気極非親水領域22Bの範囲(
図8におけるXZ平面上の範囲)は、
図8に示す例に限定されない。例えば
図13に示すように、空気極流通溝部23Cと空気極折り返し溝部23Dを含む空気流通溝23Bを覆う範囲でもよいし、
図14に示すように空気極流通溝部23Cの一部を覆う範囲でもよい。従って、空気極非親水領域21B、22Bは、空気極集電体23から燃料極集電体13の方向を見た場合に、空気極流通溝部23Cの少なくとも一部と対向している範囲(空気極流通溝部23Cの少なくとも一部を覆う範囲)であればよい。
【0070】
また、空気極親水領域21A、22A、空気極非親水領域21B、22Bは、上述した径の異なる粒子や繊維、撥水溶液や撥水コーティングにて同様に実現可能であり、これらについては上述したとおりであるので、説明を省略する。
【0071】
以上に説明したように、第1の実施の形態の燃料電池7の燃料極拡散層12及び燃料極触媒層11は、燃料を親水領域11A、12Aに積極的に誘導し、発生した二酸化炭素を非親水領域11B、12Bに積極的に誘導する。従って、燃料極触媒層11に向けた燃料の拡散が二酸化炭素に阻害されることを、抑制することができる。また、第1の実施の形態の燃料電池7の空気極拡散層22及び空気極触媒層21は、大気(酸素)を空気極非親水領域22B、21Bに積極的に誘導し、発生した水を空気極親水領域21A、22Aに積極的に誘導する。従って、空気極触媒層21に向けた大気(酸素)の拡散が水に阻害されることを、抑制することができる。これにより、燃料電池7の出力(発電量)の低下を抑制することができる。
【0072】
●[第2の実施の形態の燃料電池7ABの構造(
図15、
図16)]
第2の実施の形態の燃料電池システムは、
図1に示す第1の実施の形態の燃料電池システム1における燃料電池7を燃料電池7ABに置き換えたものである。つまり、第1の実施の形態と第2の実施の形態は、燃料電池7(
図1、
図2参照)が燃料電池7AB(
図15、
図16参照)に置き換えられている。燃料電池7ABは、燃料極拡散層12と燃料極触媒層11(
図2参照)の代わりに燃料極一体層14が用いられ、空気極拡散層22と空気極触媒層21(
図2参照)の代わりに空気極一体層24が用いられている点が、燃料電池7(
図2参照)とは異なる。以下、燃料電池7ABの構造の相違点について主に説明する。
【0073】
図15は、燃料電池7ABの斜視図を示しており、
図16は、
図15の燃料電池7ABの分解斜視図を示している。第2の実施の形態の燃料電池7ABは、第1の実施の形態の燃料電池7(
図2参照)と同様、空気極20と燃料極10にて電解質膜30を挟んだ構成を有している。なお、空気極20は、空気極一体層24、空気極集電体23が積層されて構成されている。燃料極10は、燃料極一体層14、燃料極集電体13が積層されて構成されている。空気極一体層24は、空気極拡散層22と空気極触媒層21(
図2参照)が一体とされて形成されており、空気極拡散層22と空気極触媒層21(
図2参照)と同様の機能を有する。燃料極一体層14は、燃料極拡散層12と燃料極触媒層11(
図2参照)が一体とされて形成されており、燃料極拡散層12と燃料極触媒層11(
図2参照)と同様の機能を有する。なお、空気極一体層24の厚さは、空気極拡散層22と空気極触媒層21の厚さよりも薄く、燃料極一体層14の厚さは、燃料極拡散層12と燃料極触媒層11の厚さよりも薄い。従って、燃料電池7ABの厚さ(積層方向DR1の厚さ)は、燃料電池7(
図1参照)の厚さ(積層方向DR1の厚さ)よりも薄いので、燃料電池がより小型化されている。
【0074】
空気極集電体23には、周囲の空気(酸素)を空気極一体層24に流入させるため、圧送された空気(酸素を含む空気)を外部から供給する供給口7C(空気流入口に相当)が上方に設けられ、使用された空気と発生した水を回収する回収口7D(空気流出口に相当)が下方に設けられている。
【0075】
●[燃料極流通溝の位置に対応させた親水領域と非親水領域を有する燃料極一体層14(
図17)]
燃料極一体層14は、
図5に示す燃料極触媒層11の親水領域11A、非親水領域11Bのそれぞれと同じ位置が、
図17に示すように親水領域14A、非親水領域14Bとされている。そして親水領域14Aの個所は、流通溝部13C(
図3、
図16参照)に対向している燃料極一体層14の位置から、燃料極集電体13から空気極集電体23に向かう方向である積層方向DR1(
図16におけるY軸方向とは反対の方向)に沿って電解質膜30(
図16参照)へと続いている。
【0076】
また親水領域14Aは、
図6に示す小径の電極触媒繊維11Hまたは電極触媒粒子11Gの少なくとも一方にて層状に形成され、非親水領域14Bは、
図6に示す大径の電極触媒繊維11Dまたは電極触媒粒子11Cの少なくとも一方にて層状に形成されている。なお、電極触媒繊維11H、11D、電極触媒粒子11G、11Cは、燃料極触媒層を形成可能な触媒繊維、触媒粒子に相当している。非親水領域14Bにおける隣り合う繊維の隙間は、親水領域14Aにおける隣り合う繊維の隙間よりも広い。従って、非親水領域14Bは、親水領域14Aよりも液体が浸透しにくい(親水性が劣る)。
【0077】
なお第1の実施の形態と同様に、径が異なる電極触媒繊維でなく、径が異なる電極触媒粒子にて(または径が異なる電極触媒繊維と電極触媒粒子を混合させて)親水領域14Aと非親水領域14Bを構成してもよいし、撥水溶液や撥水コーティングにて親水領域14Aと非親水領域14Bを構成してもよい。また
図11、
図12に示すように親水領域を形成してもよい。
【0078】
●[空気極流通溝の位置に対応させた空気極親水領域と空気極非親水領域を有する空気極一体層24(
図18)]
空気極一体層24は、
図9に示す空気極触媒層21の空気極親水領域21A、空気極非親水領域21Bのそれぞれと同じ位置が、
図18に示すように空気極親水領域24A、空気極非親水領域24Bとされている。そして空気極親水領域24Aの個所は、空気極流通溝部23C(
図3、
図16参照)に対向している空気極一体層24の位置から、燃料極集電体13から空気極集電体23に向かう方向である積層方向DR1(
図16におけるY軸方向とは反対の方向)に沿って電解質膜30(
図16参照)へと続いている。
【0079】
また空気極親水領域24Aは、小径の電極触媒繊維にて層状に形成され、空気極非親水領域24Bは、大径の電極触媒繊維にて層状に形成されている。空気極非親水領域24Bにおける隣り合う繊維の隙間は、空気極親水領域24Aにおける隣り合う繊維の隙間よりも広い。従って、空気極非親水領域24Bは、空気極親水領域24Aよりも液体が浸透しにくい(親水性が劣る)。
【0080】
なお第1の実施の形態と同様に、径が異なる電極触媒繊維でなく、径が異なる電極触媒粒子にて(または径が異なる電極触媒繊維と電極触媒粒子を混合させて)空気極親水領域24Aと空気極非親水領域24Bを構成してもよいし、撥水溶液や撥水コーティングにて空気極親水領域24Aと空気極非親水領域24Bを構成してもよい。また
図13、
図14に示すように、空気極非親水領域を形成してもよい。
【0081】
以上の構成により、第1の実施の形態と同様、燃料を親水領域14Aに積極的に誘導し、発生した二酸化炭素を非親水領域14Bに積極的に誘導する。従って、燃料極一体層14に向けた燃料の拡散が二酸化炭素に阻害されることを、抑制することができる。また第1の実施の形態と同様、大気(酸素)を空気極非親水領域24Bに積極的に誘導し、発生した水を空気極親水領域24Aに積極的に誘導する。従って、空気極一体層24に向けた大気(酸素)の拡散が水に阻害されることを、抑制することができる。これにより、燃料電池7ABの出力(発電量)の低下を抑制することができる。
【0082】
本発明の、燃料電池7、7ABは、本実施の形態で説明した構成、構造、形状、外観等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、ギ酸の代わりにメタノール等のアルコールを含む液体を燃料としてもよい。
【0083】
第2の実施の形態では、燃料極一体層と空気極一体層を有する燃料電池の例を説明したが、空気極一体層の代わりに空気極拡散層と空気極触媒層を有する燃料電池であってもよい。また、第1及び第2の実施の形態の説明では、燃料極10に親水領域と非親水領域を設けることに加えて、空気極20に空気極親水領域と空気極非親水領域を設ける例を説明したが、燃料極10に親水領域と非親水領域を設ければ、空気極20に空気極親水領域と空気極非親水領域を設けなくてもよい。
【0084】
本実施の形態の説明では、流通溝部グループG1~G4のそれぞれに2本の流通溝部13C、空気極流通溝部G1A~G4Aのそれぞれに2本の空気極流通溝部23C、を有する例を説明したが1つの流通溝部グループ、空気極流通溝部グループに、何本の流通溝部、空気極流通溝部が含まれていてもよい。また本実施の形態の説明では、燃料流通溝13Bと空気流通溝23Bが、ほぼ同一形状(ほぼ重なる形状)の例を説明したが、燃料流通溝13Bと空気流通溝23Bの形状は、異なる形状であってもよい。
【0085】
また燃料極の親水領域と非親水領域の構造や作成方法、空気極の空気極親水領域と空気極非親水領域の構造や作成方法は、本実施の形態にて説明した構造や作成方法でなくてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 燃料電池システム
7、7AB 燃料電池
7A 燃料流入口
7B 燃料流出口
7C 供給口(空気流入口)
7D 回収口(空気流出口)
10 燃料極
11 燃料極触媒層
11A、12A 親水領域
11B、12B 非親水領域
11C、11G 電極触媒粒子(触媒粒子)
11D、11H 電極触媒繊維(触媒繊維)
11E、11L 担持体粒子
11F、11K 担持体繊維
12 燃料極拡散層
13 燃料極集電体
13A 燃料流通面
13B 燃料流通溝
13C 流通溝部
13D 折り返し溝部
13E ランド部
14 燃料極一体層
14A 親水領域
14B 非親水領域
20 空気極
21 空気極触媒層
21A、22A 空気極親水領域
21B、22B 空気極非親水領域
22 空気極拡散層
22M 大気側面
23 空気極集電体
23A 空気流通面
23B 空気流通溝
23C 空気極流通溝部
23D 空気極折り返し溝部
24 空気極一体層
24A 空気極親水領域
24B 空気極非親水領域
24M 大気側面
30 電解質膜
50 燃料タンク
51 燃料供給配管
52 ポンプ
60 排液タンク
61 燃料排出配管
62 回収配管
DR1 積層方向
DR2 領域積層方向
G1~G4 流通溝部グループ