(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】抵抗溶接機の溶接監視システム及び溶接監視方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/25 20060101AFI20230627BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230627BHJP
【FI】
B23K11/25
B23K11/25 511
B23K11/25 512
G06N20/00 130
(21)【出願番号】P 2019083225
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2021-12-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 新規性の喪失の例外証明書提出書の提出あり。(【整理番号】PP02012J)
(73)【特許権者】
【識別番号】391009833
【氏名又は名称】株式会社ナ・デックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信也
(72)【発明者】
【氏名】西井 悟
(72)【発明者】
【氏名】浅見 学
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-318377(JP,A)
【文献】特開2012-076146(JP,A)
【文献】特開2002-239745(JP,A)
【文献】特開2018-094575(JP,A)
【文献】特開2019-005809(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0069112(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/25
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗溶接部の電極部を被溶接部材に当接させて前記抵抗溶接部の前記電極部から前記被溶接部材への通電により前記被溶接部材に金属溶融部位を生じさせて前記被溶接部材を溶接する
に際し、1回の溶接を複数種類の電流量のうちのいずれかの電流量での通電のサイクルと通電停止のサイクルの組み合わせの抵抗溶接とする抵抗溶接機の溶接監視システムであって、
前記溶接監視システムは、
前記抵抗溶接部に接続され前記抵抗溶接部の
1回の抵抗溶接における前記通電のサイクル毎の電流、電圧、抵抗、熱量の溶接条件を
常時測定する溶接条件測定部と、
前記溶接条件測定部を通じて測定される、前記被溶接部材を溶接する際の前記抵抗溶接部にお
いて1回の抵抗溶接における前記通電のサイクル毎の電流、電圧、抵抗、熱量の溶接条件を取得する溶接条件取得部と、
前記溶接条件取得部において取得した溶接条件を複数蓄積する溶接条件蓄積部と、
前記抵抗溶接部における溶接条件の実施時、当該溶接条件下の金属溶融部位の形態情報を取得する形態情報取得部と、
前記形態情報取得部において取得した形態情報を複数蓄積する形態情報蓄積部と、
前記溶接条件蓄積部に蓄積された複数の溶接条件と前記形態情報蓄積部に蓄積された複数の形態情報との相関性を解析して最適な形態情報に必要な最適溶接条件を算出する機械学習部と、
前記溶接条件測定部を通じて測定される溶接条件が、前記最適溶接条件から所定の範囲を超えているか否かの判定をする判定部と、
を備えることを特徴とする抵抗溶接機の溶接監視システム。
【請求項2】
前記形態情報が被溶接部材における金属溶融部位の直径である請求項
1に記載の抵抗溶接機の溶接監視システム。
【請求項3】
前記機械学習部が、マハラノビス・タグチ法により前記最適溶接条件を算出する請求項1
または2に記載の抵抗溶接機の溶接監視システム。
【請求項4】
前記判定部における前記判定の結果を報知する報知部が備えられる請求項1ないし
3のいずれか1項に記載の抵抗溶接機の溶接監視システム。
【請求項5】
前記溶接監視システムは、複数の前記抵抗溶接部を備える請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の抵抗溶接機の溶接監視システム。
【請求項6】
抵抗溶接部
の電極部を被溶接部材に当接させて前記抵抗溶接部
の前記電極部から前記被溶接部材への通電により前記被溶接部材に金属溶融部位を生じさせて前記被溶接部材を溶接する
に際し、1回の溶接を複数種類の電流量のうちのいずれかの電流量での通電のサイクルと通電停止のサイクルの組み合わせの抵抗溶接とする抵抗溶接機の溶接監視方法であって、
前記
抵抗溶接機の溶接監視システムのコンピュータが、
前記抵抗溶接部に接続され
前記抵抗溶接部の1回の抵抗溶接における前記通電のサイクル毎の電流、電圧、抵抗、熱量の溶接条件を常時測定する溶接条件測定部を通じて測定される、前記被溶接部材を溶接する際の前記抵抗溶接部にお
いて1回の抵抗溶接における前記通電のサイクル毎の電流、電圧、抵抗、熱量の溶接条件を取得する溶接条件取得ステップと、
前記溶接条件取得ステップにおいて取得した溶接条件を複数蓄積する溶接条件蓄積ステップと、
前記抵抗溶接部における溶接条件の実施時、当該溶接条件下の金属溶融部位の形態情報を取得する形態情報取得ステップと、
前記形態情報取得ステップにおいて取得した形態情報を複数蓄積する形態情報蓄積ステップと、
前記溶接条件蓄積ステップにおいて蓄積された複数の溶接条件と前記形態情報蓄積ステップにおいて蓄積された複数の形態情報との相関性を解析して最適な形態情報に必要な最適溶接条件を算出する機械学習ステップと、
前記溶接条件測定部を通じて測定される溶接条件が、前記最適溶接条件から所定の範囲を超えているか否かの判定をする判定ステップと、
を備えることを特徴とする抵抗溶接機の溶接監視方法。
【請求項7】
抵抗溶接部
の電極部を被溶接部材に当接させて前記抵抗溶接部
の前記電極部から前記被溶接部材への通電により前記被溶接部材に金属溶融部位を生じさせて前記被溶接部材を溶接する
に際し、1回の溶接を複数種類の電流量のうちのいずれかの電流量での通電のサイクルと通電停止のサイクルの組み合わせの抵抗溶接とする抵抗溶接機の溶接監視プログラムであって、
前記
抵抗溶接機の溶接監視システムのコンピュータに、
前記抵抗溶接部に接続され
前記抵抗溶接部の1回の抵抗溶接における前記通電のサイクル毎の電流、電圧、抵抗、熱量の溶接条件を常時測定する溶接条件測定部を通じて測定される、前記被溶接部材を溶接する際の前記抵抗溶接部にお
いて1回の抵抗溶接における前記通電のサイクル毎の電流、電圧、抵抗、熱量の溶接条件を取得する溶接条件取得機能と、
前記溶接条件取得機能において取得した溶接条件を複数蓄積する溶接条件蓄積機能と、
前記抵抗溶接部における溶接条件の実施時、当該溶接条件下の金属溶融部位の形態情報を取得する形態情報取得機能と、
前記形態情報取得機能において取得した形態情報を複数蓄積する形態情報蓄積機能と、
前記溶接条件蓄積機能において蓄積された複数の溶接条件と前記形態情報蓄積機能において蓄積された複数の形態情報との相関性を解析して最適な形態情報に必要な最適溶接条件を算出する機械学習機能と、
前記溶接条件測定部を通じて測定される溶接条件が、前記最適溶接条件から所定の範囲を超えているか否かの判定をする判定機能と、
を実行させることを特徴とする抵抗溶接機の溶接監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接機の溶接監視システム及び溶接監視方法に関し、特に、抵抗溶接に際しての溶接条件を監視することにより溶接の不良を検出することができる抵抗溶接機の溶接監視システム及び溶接監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接は金属部材同士を重ね合わせて接合する際の溶接に多用される。電極により金属部材が圧着され、ここに電極を通じて電流が通電される。金属部材同士を重ね合わせの部位に生じた抵抗発熱により金属が溶融し相互に融着する。溶融により接合部位(ナゲット)が生じる。
【0003】
抵抗溶接は時間当たりの処理能力が高いため、生産性向上に大きく貢献している。しかしながら、抵抗溶接の溶接箇所の不良は皆無ではない。現状、抵抗溶接後の部材は定期的に抜き取られ、接合部位に対し「たがねチェック」等と称されるハンマーで叩いて溶接強度を確認する検査が行われていた。このことから、抵抗溶接を終えた後の現場作業者の検査の負担は大きい。さらに、精度の面から抜き取り数が増えることによっても現場負担もより大きくなる。
【0004】
このようなことから、検査作業の効率化、すなわち自動的な良否判定が求められるに至った。そこで、溶接部の周囲に磁場計測器を備え、溶接部における局所的な電流を計測する磁場計測装置と、溶接部における発光状態を撮影し、発光の輝度のムラから、溶接部における局所的な温度を計測するための画像を撮影する高速カメラと、磁場計測装置から取得する磁場情報を基に算出される電流情報と、過去の電流情報とを比較するとともに、高速カメラの画像から取得する温度情報と、過去の温度情報とを比較することで、電流情報及び温度情報の少なくとも一方が異常値であるか否かを判定する比較判定部を有する溶接監視システムが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
前出の溶接監視システムによると、溶接の適否について一定の貢献を果たしている。しかしながら、あくまで、画像のデータ収集と溶接条件に基づく機械学習の域に留まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、実際に抵抗溶接を実施した際の溶接箇所のデータと、そのときの溶接条件とを取得し、これらを元に機械学習することにより、より正確に抵抗溶接箇所の良否の判定を行い、現場作業者の検査負担の軽減を図ることができる抵抗溶接機の溶接監視システム及び溶接監視方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、抵抗溶接機の溶接監視システムは、抵抗溶接部の電極部を被溶接部材に当接させて抵抗溶接部の電極部から被溶接部材への通電により被溶接部材に金属溶融部位を生じさせて被溶接部材を溶接する抵抗溶接機の溶接監視システムであって、溶接監視システムは、抵抗溶接部に接続され抵抗溶接部の溶接条件を測定する溶接条件測定部と、溶接条件測定部を通じて測定される、被溶接部材を溶接する際の抵抗溶接部における溶接条件を取得する溶接条件取得部と、溶接条件取得部において取得した溶接条件を複数蓄積する溶接条件蓄積部と、抵抗溶接部における溶接条件の実施時、当該溶接条件下の金属溶融部位の形態情報を取得する形態情報取得部と、形態情報取得部において取得した形態情報を複数蓄積する形態情報蓄積部と、溶接条件蓄積部に蓄積された複数の溶接条件と形態情報蓄積部に蓄積された複数の形態情報との相関性を解析して最適な形態情報に必要な最適溶接条件を算出する機械学習部と、溶接条件測定部を通じて測定される溶接条件が、最適溶接条件から所定の範囲を超えているか否かの判定をする判定部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、抵抗溶接機の溶接監視方法は、抵抗溶接部を被溶接部材に当接させて抵抗溶接部からの通電により被溶接部材に金属溶融部位を生じさせて被溶接部材を溶接する抵抗溶接機の溶接監視システムによる溶接監視方法であって、溶接監視システムのコンピュータが、抵抗溶接部に接続された溶接条件測定部を通じて測定される、被溶接部材を溶接する際の抵抗溶接部における溶接条件を取得する溶接条件取得ステップと、溶接条件取得ステップにおいて取得した溶接条件を複数蓄積する溶接条件蓄積ステップと、抵抗溶接部における溶接条件の実施時、当該溶接条件下の金属溶融部位の形態情報を取得する形態情報取得ステップと、形態情報取得ステップにおいて取得した形態情報を複数蓄積する形態情報蓄積ステップと、溶接条件蓄積ステップにおいて蓄積された複数の溶接条件と形態情報蓄積ステップにおいて蓄積された複数の形態情報との相関性を解析して最適な形態情報に必要な最適溶接条件を算出する機械学習ステップと、溶接条件測定部を通じて測定される溶接条件が、最適溶接条件から所定の範囲を超えているか否かの判定をする判定ステップと、を備えることを特徴とする。
【0010】
さらに、抵抗溶接機の溶接監視プログラムは、抵抗溶接部を被溶接部材に当接させて抵抗溶接部からの通電により被溶接部材に金属溶融部位を生じさせて被溶接部材を溶接する抵抗溶接機の溶接監視システムの溶接監視プログラムであって、溶接監視システムのコンピュータに、抵抗溶接部に接続された溶接条件測定部を通じて測定される、被溶接部材を溶接する際の抵抗溶接部における溶接条件を取得する溶接条件取得機能と、溶接条件取得機能において取得した溶接条件を複数蓄積する溶接条件蓄積機能と、抵抗溶接部における溶接条件の実施時、当該溶接条件下の金属溶融部位の形態情報を取得する形態情報取得機能と、形態情報取得機能において取得した形態情報を複数蓄積する形態情報蓄積機能と、溶接条件蓄積機能において蓄積された複数の溶接条件と形態情報蓄積機能において蓄積された複数の形態情報との相関性を解析して最適な形態情報に必要な最適溶接条件を算出する機械学習機能と、溶接条件測定部を通じて測定される溶接条件が、最適溶接条件から所定の範囲を超えているか否かの判定をする判定機能と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抵抗溶接機の溶接監視システムは、抵抗溶接部に接続され抵抗溶接部の溶接条件を測定する溶接条件測定部と、溶接条件測定部を通じて測定される、被溶接部材を溶接する際の抵抗溶接部における溶接条件を取得する溶接条件取得部と、溶接条件取得部において取得した溶接条件を複数蓄積する溶接条件蓄積部と、抵抗溶接部における溶接条件の実施時、当該溶接条件下の金属溶融部位の形態情報を取得する形態情報取得部と、形態情報取得部において取得した形態情報を複数蓄積する形態情報蓄積部と、溶接条件蓄積部に蓄積された複数の溶接条件と形態情報蓄積部に蓄積された複数の形態情報との相関性を解析して最適な形態情報に必要な最適溶接条件を算出する機械学習部と、溶接条件測定部を通じて測定される溶接条件が、最適溶接条件から所定の範囲を超えているか否かの判定をする判定部と、を備えるため、実際に抵抗溶接を実施した際の溶接箇所のデータとそのときの溶接条件とを取得し、これらを元に機械学習することにより、より正確に抵抗溶接箇所の良否の判定を行い、現場作業者の検査負担の軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の抵抗溶接機の溶接監視システムの構成を示す模式図である。
【
図2】溶接監視システムの監視部の構成を示す概略ブロック図である。
【
図3】監視部内の機能部を示す概略ブロック図である。
【
図5】抵抗溶接機の溶接条件の例を示す概略図である。
【
図6】抵抗溶接部の主要部分を示す概略断面図である。
【
図8】金属溶融部位の形態情報の例を示す概略図である。
【
図10】抵抗溶接機の監視状態を示す第1表示例である。
【
図11】抵抗溶接機の監視状態を示す第2表示例である。
【
図12】実施形態の抵抗溶接機の溶接監視システムにおける処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】他の実施形態の抵抗溶接機の溶接監視システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態の抵抗溶接機の溶接監視システム1の構成は
図1の模式図として表される。抵抗溶接機の溶接監視システム1では、抵抗溶接機10Aと、同抵抗溶接機10Aに接続されたインライン計測器30と、抵抗溶接コントローラ40、PLC60(プログラマブルロジックコントローラ)が備えられ、これらが監視部50(コンピュータ)に接続される。また、監視部50にはサーバ70、ディスプレイ107が接続される。図示では、抵抗溶接機10Aは1台としている。抵抗溶接機の台数は1台に限らず複数台に拡張可能である。むろん、当該構成例は一例であり、各機器は必要に応じて追加、省略される。
【0014】
溶接監視システム1の監視部50は、抵抗溶接機10Aの溶接条件を監視し、溶接条件と溶接箇所の形態情報を取得し溶接の適否を判定するコンピュータである。監視部50(コンピュータ)は、
図2の概略ブロック図のとおり、ハードウェア的には、内部にCPU101、ROM102、RAM103、記憶部104、入力部105、出力部106等を実装する。その他にメインメモリ、LSI等も含まれる。入力部105及び出力部106は公知の入出力のインターフェースであり、
図1に開示のインライン計測器30と、抵抗溶接コントローラ40、PLC60、サーバ70が適式に接続される。監視部50は、パーソナルコンピュータ(PC)、メインフレーム、ワークステーション、タブレット端末、スマートフォン等の種々の電子計算機(計算リソース)である。
【0015】
入力部105には、その他、CD、DVDのドライブ、キーボード、マウス等も接続される。出力部106には、公知のディスプレイ107(液晶表示装置、有機EL表示装置等)またはスピーカ等が接続され、後出の
図9ないし
図11の画像、判定の結果の報知等が表示される。入力部105にタッチパネル機能を有するディスプレイを用いることが可能であり、出力部106との兼用も可能である。その他、監視部50には、信号の入出力のためのI/Oバッファ(図示せず)も備えられる。これらは例示であり、適宜組み合わせられ、最適に選択される。
【0016】
監視部50の記憶部104は、HDDまたはSSD等の公知の記憶装置である。また、監視部50内の各種の演算を実行する各機能部はCPU101等の演算素子である。監視部50のCPU101における各機能部は、
図3の概略ブロック図のとおり、溶接条件取得部110、溶接条件蓄積部120、形態情報取得部130、形態情報蓄積部140、機械学習部150、判定部160、報知部170等を備える。監視部50の動作、実行は、ソフトウェア的に、メインメモリにロードされた抵抗溶接機の溶接監視プログラム等により実現される。
【0017】
図1の溶接監視システム1の各機能部をソフトウェアにより実現する場合、溶接監視システム1の監視部50は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行することで実現される。このプログラムを格納する記録媒体は、「一時的でない有形の媒体」、例えば、CD、DVD、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、このプログラムは、当該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワーク、放送波等)を介して溶接監視システム1の監視部50に供給されてもよい。
【0018】
図4の模式図は抵抗溶接機10Aの主要部分を示す。抵抗溶接機10Aの先端部分に抵抗溶接部11が備えられる。図示の抵抗溶接部11は逆C字状のクランプ構造の部位である。抵抗溶接の対象部位に応じて抵抗溶接部11の形状も適式に選択される。抵抗溶接部11には電極部12,13が接続される。電極部12,13は消耗品のため着脱自在であり、摩耗等により抵抗溶接部11から交換される。また、抵抗溶接部11には、同抵抗溶接部11の溶接条件を測定する溶接条件測定部20が接続される。抵抗溶接機10Aは、アーム部を関節部により接続しており、関節部にサーボモータ(図示せず)が備えられる。
【0019】
図6の断面模式図から理解されるように、抵抗溶接部11の電極部12と電極部13の間に被溶接部材W1及びW2が載置される。そして電極部12が電極部13側へ前進することにより、電極部12と電極部13は被溶接部材W1及びW2に当接し圧着する。そこで、抵抗溶接部11の電極部12と電極部13から被溶接部材W1及びW2への通電により抵抗発熱が生じて被溶接部材W1及びW2の金属が部分的に溶融し被溶接部材W1及びW2の間に金属溶融部位14が生じる。
【0020】
抵抗溶接部11の電極部12と電極部13の間の通電は、例えば、
図7のグラフとして示される。横軸の単位のサイクルは電流通電長さであり、1サイクルは50Hzまたは60Hzの周期の1つ分の時間に相当する。横軸は通電時の電流量であり、単位はkAである。始めに7kAで3サイクル、1サイクル通電停止し、8kAで10サイクル、4kAで5サイクルの通電が行われる。これらの計19サイクル分が1回の抵抗溶接である。なお、抵抗溶接部11には、電極部12,13と被溶接部材W1及びW2との当接時の荷重(加圧力)を検知する荷重検知センサ(図示せず)も備えられる。
【0021】
図1に戻り、インライン計測器30には公知の計測機器が用いられる。計測対象は抵抗溶接部11の実際の通電時の電流、電圧である。そこで、抵抗溶接の都度、溶接条件測定部20を通じて常時通電時の電流、電圧が計測(測定)され、その計測値はインライン計測器30により取得され、当該計測値はインライン計測器30から監視部50に送信される。
【0022】
例えば、抵抗溶接機10Aが交流式の場合、変圧器(図示せず)により供給電圧は降圧される。このとき、変圧器の二次側の降圧後の電圧が溶接条件測定部20の電圧計測器21を通じて計測される。また、抵抗溶接部11には、CT方式電流計等の非接触電流計22(
図5参照)が装着される。
図5の細破線は抵抗溶接部11の通電時(溶接時)に電圧計測器21により計測される実際の二次側の電圧量である。
図5の太破線は抵抗溶接部11の通電時(溶接時)に非接触電流計22により計測される実際の二次側の電流量である。抵抗溶接部11に電圧計測器21、非接触電流計22等が備えられているため、抵抗溶接の都度、溶接条件は常時測定(常時モニタリング)される。むろん、図示及び説明の計測方式は一例であり、抵抗溶接機10Aの方式により適式に計測される。
【0023】
再び
図1に戻り、抵抗溶接コントローラ40は、抵抗溶接部11に接続された溶接条件測定部20の電圧計測器21及び非接触電流計22等を通じて取得した電流、電圧の溶接条件から抵抗溶接部11の通電時(溶接時)に生じた抵抗値(溶接条件)を計測(測定)する。なお、被溶接部材の金属の材質及び抵抗値から熱量(抵抗発熱量)も算出可能であり、熱量も溶接条件に含められる。計測された抵抗値は抵抗溶接コントローラ40から、監視部50、PLC60に送信される。インライン計測器30及び抵抗溶接コントローラ40は一体化した装置とすることもできる。実施形態では、極力抵抗溶接部11の電流、電圧の溶接条件を取得するため二次側とした。これに代えて変圧器の一次側の電流、電圧の溶接条件の取得とすることもできる。
【0024】
PLC60(プログラマブルロジックコントローラ)には公知品が用いられる。抵抗溶接機10Aの動作はPLC60により制御される。具体的には、PLC60は、抵抗溶接機10Aの関節部に装着されたサーボモータの回動量の制御、電極部12,13と被溶接部材W1及びW2との当接の制御、抵抗溶接部11における通電と通電停止等の実際の動作に関する制御を監視部50の指示の下で行う。また、抵抗溶接機10Aの状態を監視するためのセンサ61,62もPLC60に接続される。
【0025】
サーバ70(データ収集サーバ)は監視部50に集約された各種のデータを蓄積する。例えば、抵抗溶接機10Aにおける溶接の履歴、抵抗溶接機10A自体の動作の履歴、溶接条件測定部20の計測器、各種センサから取得される計測のデータ等が蓄積される。サーバ70は抵抗溶接機10Aと同一の敷地、工場内に設置されることに加え、各種通信ネットワーク回線を介して遠隔地に設置される場合もある。
【0026】
これより、前出の
図2及び
図3を用い溶接監視システム1の監視部50(そのCPU101)における個々の機能部を順に説明する。
【0027】
溶接条件取得部110は、被溶接部材W1及びW2(
図6参照)を溶接する際の抵抗溶接部11における溶接条件を取得する。溶接条件は、溶接条件測定部20の電圧計測器21及び非接触電流計22等を通じて取得した電流、電圧である。また、抵抗溶接部11の通電時(溶接時)に生じた抵抗値も溶接条件に含められる。さらには、被溶接部材の金属の材質及び抵抗値に基づく熱量(抵抗発熱量)、電極部12,13が被溶接部材W1及びW2と当接した際の荷重値等も、溶接条件に含められる。
【0028】
溶接条件蓄積部120は、溶接条件取得部110において取得した溶接条件を複数蓄積する。溶接条件は、記憶部104またはサーバ70のいずれかもしくは両方に蓄積される。溶接条件の蓄積とは、1回毎に抵抗溶接した際の電圧、電流、抵抗等の各種溶接条件を逐一蓄積することである。すなわち、後出の機械学習のための母集団(教師データ)が集積される。
【0029】
形態情報取得部130は、抵抗溶接部11における溶接条件の実施時、当該溶接条件下の金属溶融部位14(
図6参照)の形態情報を取得する。本実施形態の形態情報は、
図8の模式図に示すように、被溶接部材W1及びW2に生じた金属溶融部位14の直径R1である。形態情報の取得に際し、被溶接部材同士を抵抗溶接した後、当該被溶接部材は引き離される。そのとき、被溶接部材の表面に現れる金属溶融部位の直径が逐次計測される。金属溶融部位はナゲットと称され、金属溶融部位の径(ナゲット径)を計測することにより、抵抗溶接の良否は簡便かつ、物理的、客観的に判別される。図示紙面左側の金属溶融部位14の直径R1は良好な抵抗溶接の場合である。これに対し、同右側の金属溶融部位14sの直径R2は直径R1よりも小さく不良の抵抗溶接の場合である。他に、形状がいびつな場合も含まれる。
【0030】
形態情報蓄積部140は、形態情報取得部130において取得した形態情報、この例では、金属溶融部位の直径(ナゲット径)を複数蓄積する。形態情報も、記憶部104またはサーバ70のいずれかもしくは両方に蓄積される。形態情報の蓄積とは、1回毎の抵抗溶接した際の電圧、電流、抵抗等の各種溶接条件に対応して、逐一当該溶接条件における形態情報(金属溶融部位の直径)を蓄積することである。すなわち、後出の機械学習のための溶接条件と対応する形態情報の母集団(教師データ)が集積される。
【0031】
機械学習部150は、溶接条件蓄積部120に蓄積された複数の溶接条件と形態情報蓄積部140に蓄積された複数の形態情報との相関性を解析して最良の形態情報に必要な最適溶接条件を算出する。最適溶接条件は、所定の幅を有する範囲として算出される。機械学習部150における機械学習の解析方法として、線形回帰、ロジスティック回帰、サポートベクターマシーン等の回帰分析が挙げられる。実施形態においては、マハラノビス・タグチ法に基づき、複数の溶接条件と複数の形態情報から最適溶接条件の範囲が算出される。
【0032】
具体的には、1台の抵抗溶接機10Aにおいて1回目の抵抗溶接を実施した際のサイクル(
図7参照)毎の電流、電圧、抵抗、熱量(抵抗発熱量)の溶接条件と、当該溶接条件に対応した形態情報が入力される。このような入力が同一の抵抗溶接機において100回目まで行われる。集積された溶接条件に基づいて「マハラノビス・タグチ法」の演算を経ることにより、判定の基準となる単位空間平均、単位空間の分散・共分散行列、単位空間の相関行列・逆行列、良品マハラノビス距離、単位空間距離等が算出される。機械学習部150は、一連の過程を経て抵抗溶接機毎に当該抵抗溶接機に応じた最適溶接条件を算出する。さらに、機械学習部150は、2台目、3台目と複数台の抵抗溶接機においても同様に、各抵抗溶接機の溶接条件、形態情報から機械学習を実行して、当該抵抗溶接機に応じた最適溶接条件を算出する。
【0033】
判定部160は、溶接条件取得部110を通じて計測(測定)される溶接条件が、最適溶接条件から所定の範囲を超えているか否かの判定をする。
図9は最適溶接条件の表示例のグラフである。横軸はサイクル数であり、縦軸は抵抗(Ω)である。すなわち、グラフは、溶射条件が抵抗値であるときの最適溶接条件を示す。最適溶接条件は3本の線の中の中央の線Mである。この中央の線Mの上側に上限M1が設定され、同中央の線Mの下側に下限M2が設定される。このように、判定に際しては、所定の範囲(幅)が閾値として各最適溶接条件に設定される。
【0034】
そこで、新たに溶接条件取得部110を通じて計測(測定)される溶接条件が、当該閾値の範囲内(上限から下限までの範囲内)に含まれているのか否か判定される。最適溶接条件の上限及び下限の範囲は機械学習部150における演算結果により設定される。新たに所得された溶接条件が閾値の範囲内に含まれているのであれば、所望される適切な抵抗溶接が行われたと判定することができる。逆に、新たに取得された溶接条件が閾値の範囲内にから逸脱しているのであれば、その抵抗溶接は不良である蓋然性が高い。
【0035】
報知部170は、判定部160における判定の結果を報知する。具体的には、現在進行中の抵抗溶接について、溶接が正常または異常であるか否かをディスプレイ107(
図1参照)に表示する。
図10は監視状態の表示例であり、全ての測定が正常として表示されている。
図11は一部の抵抗溶接に異常ありと判定されたの監視状態の表示例である。
図11に表示例では、表中の色が変化したり、グラフ中に異常値が表示されたりする。
【0036】
実施形態において、PLC60の制御において抵抗溶接の異常検出時に抵抗溶接機10Aを停止させる設定がされている。そこで、判定部160の判定結果は監視部50からPLC60に送信され、PLC60を通じて抵抗溶接機10Aの抵抗溶接は停止される。または、手動により抵抗溶接機10Aを停止させることもできる。
【0037】
いったん機械学習により最適溶接条件が設定された後は、抵抗溶接部11に接続された溶接条件測定部20の計測(測定)の結果を常時監視することにより、溶接異常の検知が可能となる。そのため、従前の抵抗溶接後の抜き取り、溶接部位をハンマーで叩く等の溶接強度の確認検査の負担は大きく軽減される。
【0038】
これより、
図12のフローチャートを用い、実施形態の抵抗溶接機の溶接監視方法及び溶接監視プログラムをともに説明する。抵抗溶接機の溶接監視方法は、抵抗溶接機の溶接監視プログラムに基づいて、溶接監視システム1の監視部50のCPU101(コンピュータ)により実行される。溶接監視プログラムは、
図2及び
図3の監視部50のCPU101(コンピュータ)に対して、溶接条件取得機能、溶接条件蓄積機能、形態情報取得機能、形態情報蓄積機能、機械学習機能、判定機能、報知機能を実行させる。これらの各機能は図示の順に実行される。各機能は前述の溶接監視システム1の説明と重複するため、詳細は省略する。
【0039】
図12のフローチャートは実施形態の抵抗溶接機の溶接監視方法の流れであり、溶接条件取得ステップ(S110)、溶接条件蓄積ステップ(S120)、形態情報取得ステップ(S130)、形態情報蓄積ステップ(S140)、機械学習ステップ(S150)、判定ステップ(S160)、報知ステップ(S170)の各種ステップを備える。その他、実施形態の溶接監視方法は、演算結果の記憶、その呼び出し、その他の演算、入力、出力、記憶等の各種の図示しない適宜必要なステップも備える。
【0040】
溶接条件取得機能は、抵抗溶接部11に接続された溶接条件測定部20(21,22)を通じて測定される、被溶接部材W1,W2を溶接する際の抵抗溶接部11における溶接条件を取得する(S110;溶接条件取得ステップ)。溶接条件取得機能は
図2及び
図3の監視部50のCPU101(コンピュータ)の溶接条件取得部110により実行される。以下同様である。
【0041】
溶接条件蓄積機能は、溶接条件取得機能において取得した溶接条件を複数蓄積する(S120;溶接条件蓄積ステップ)。溶接条件蓄積機能は溶接条件蓄積部120により実行される。
【0042】
形態情報取得機能は、抵抗溶接部11における溶接条件の実施時、当該溶接条件下の金属溶融部位14の形態情報を取得する(S130;形態情報取得ステップ)。形態情報取得機能は形態情報取得部130により実行される。
【0043】
形態情報蓄積機能は、形態情報取得機能において取得した形態情報を複数蓄積する(S140;形態情報蓄積ステップ)。形態情報蓄積機能は形態情報蓄積部140により実行される。
【0044】
機械学習機能は、溶接条件蓄積機能において蓄積された複数の溶接条件と形態情報蓄積機能において蓄積された複数の形態情報との相関性を解析して最適な形態情報に必要な最適溶接条件を算出する(S150;機械学習ステップ)。機械学習機能は機械学習部150により実行される。
【0045】
判定機能は、溶接条件測定機能を通じて測定される溶接条件が、最適溶接条件から所定の範囲を超えているか否かの判定をする(S160;判定ステップ)。判定機能は判定部160により実行される。
【0046】
報知機能は、判定機能における判定の結果を報知する(S170;通知ステップ)。報知機能は報知部170により実行される。
【0047】
抵抗溶接機の溶接監視プログラムは、例えば、ActionScript、JavaScript(登録商標)、Python、Rubyなどのスクリプト言語、C言語、C++、C#、Objective-C、Swift、Java(登録商標)などのコンパイラ言語などを用いて実装できる。
【0048】
詳述の実施形態の抵抗溶接機の溶接監視システム1は、専ら一箇所の工場等における溶接監視を目的としている。さらに
図13の模式図のとおり、複数箇所の監視部50を組み合わせた抵抗溶接機の溶接監視システム2として拡張することができる。
【0049】
図示では、監視部50Aに抵抗溶接機10A1,10A2,10A3,10A4及びPLC60Aが接続され、監視部50Bに抵抗溶接機10B1,10B2,10B3,10B4及びPLC60Bが接続される。監視部50A及び監視部50Bはサーバ70Aに接続される。また、監視部50Cに抵抗溶接機10C1,10C2,10C3,10C4及びPLC60Cが接続され、監視部50Cはサーバ70Cに接続される。そして、サーバ70Aとサーバ70Cはインターネット回線5により相互接続されている。各機器類の接続は有線または無線のいずれであっても良い。符号30A、30B,30Cはインライン計測器であり、符号40A、40B,40Cは抵抗溶接コントローラである。
【0050】
図13の実施形態の抵抗溶接機の溶接監視システム2では、遠隔地のサーバ同士を相互に連携できるため、複数台の抵抗溶接機毎に取得された溶接条件の蓄積、及び複数台の抵抗溶接機毎に取得された形態情報の蓄積が加速的に進む。従って、機械学習をする上での母集団、教師データの収集に有利となる。また、蓄積された各種のデータ類の相互保存も可能となり、安全性も高まる。
【符号の説明】
【0051】
1,2 抵抗溶接機の溶接監視システム
5 インターネット回線
10A 抵抗溶接機
11 抵抗溶接部
12,13 電極部
14 金属溶融部位
20 溶接条件測定部
21 電圧計測器
22 非接触電流計
30 インライン計測器
40 抵抗溶接コントローラ
50 監視部
60 PLC(プログラマブルロジックコントローラ)
70 サーバ
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 記憶部
105 入力部
106 出力部
107 ディスプレイ
110 溶接条件取得部
120 溶接条件蓄積部
130 形態情報取得部
140 形態情報蓄積部
150 機械学習部
160 判定部
170 報知部
W1,W2 被溶接部材