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特許7302864浄化用組成物及び浄化用組成物の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】浄化用組成物及び浄化用組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20230627BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20230627BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20230627BHJP
   C09K 17/48 20060101ALI20230627BHJP
   C02F 1/42 20230101ALI20230627BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20230627BHJP
【FI】
G21F9/28 521A
G21F9/28 Z
G21F9/12 511A
B09C1/08
C09K17/48 Z
C02F1/42 G
C02F1/28 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019164186
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021043023
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】319010620
【氏名又は名称】株式会社エイワン・ディー
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】川村 義男
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3198799(JP,U)
【文献】特開2014-032060(JP,A)
【文献】特開2014-013159(JP,A)
【文献】米国特許第05880060(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 9/12
B09C 1/08
C09K 17/48
C02F 1/42
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が5μm~10μmの焼成貝殻粉末と、
麦飯石の粉末と、
界面活性剤と、
クエン酸と、
ナトリウム塩と、を含有する
ことを特徴とする浄化用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の浄化用組成物を添加した水に、
固体の被処理物を浸漬する、或いは、固体の被処理物を浸漬しつつ撹拌する
ことを特徴とする浄化用組成物の使用方法。
【請求項3】
前記被処理物は、放射性セシウムで汚染された土壌、及び、重金属で汚染された土壌の少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項2に記載の浄化用組成物の使用方法。
【請求項4】
請求項1に記載の浄化用組成物を、液体の被処理物に添加し撹拌するものであり、
前記被処理物は、放射性セシウムで汚染された水、及び、重金属で汚染された水の少なくとも何れかである
ことを特徴とする浄化用組成物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄化用組成物、及び、該浄化用組成物の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貝から可食部分が除去された後、貝殻は産業廃棄物として廃棄対象となるが、その量は年間数十万トン以上にのぼると言われている。本発明者は、廃棄対象とされている貝殻を資源として有効に活用すべきであるとの考えから種々の検討を続けてきており、その結果として、焼成貝殻粉末から溶出した成分を含む水の除菌・抗菌作用に着目し、このような溶液を噴霧する装置や、このような溶液を多量に調製できる装置を提案している(特許文献1~3参照)。
【0003】
焼成貝殻粉末から溶出した成分を含む溶液を噴霧することにより、環境を除菌すると共に細菌の増殖を抑制することができる。また、焼成貝殻粉末から溶出した成分を含む溶液を大量に調製することにより、大量の野菜や食器などを洗浄する液として使用することができる。
【0004】
その後も本発明者は、貝殻を資源として有効に活用できる用途の探索を進めており、その過程で、新たな洗浄用組成物を開発するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案登録第3172527号公報
【文献】実用新案登録第3199107号公報
【文献】実用新案登録第3199108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のように、貝殻を資源として有効に活用できる新たな洗浄用組成物、及び、該洗浄用組成物の使用方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる浄化用組成物は、
「平均粒子径が5μm~10μmの焼成貝殻粉末と、
麦飯石の粉末と、
界面活性剤と、
クエン酸と、
ナトリウム塩と、を含有する」ものである。
【0008】
「焼成貝殻粉末」とする貝の種類は特に限定されず、ホタテ貝、カキ、ホッキ貝、ハマグリ、アサリ等を使用可能である。わが国では、産業廃棄物として廃棄対象となる貝殻は、ホタテ貝が最も多く全体の6割以上を占めると言われているため、資源の有効利用の点で、ホタテ貝の貝殻を用いることが望ましい。貝殻が「焼成」される温度は、1000℃~1200℃とすることができる。貝殻の結晶相をX線回折で同定すると、未焼成の貝殻の主成分は炭酸カルシウムであるが、700℃以上の加熱により酸化カルシウムの回折ピークが認められるようになり、1000℃以上の加熱でほぼ酸化カルシウムの単一相となる。
【0009】
焼成貝殻粉末の「平均粒子径」は、レーザ回折・散乱法により求めた粒子径分布における体積基準メディアン径である。
【0010】
「麦飯石」は、石英斑岩または花崗斑岩に属し、アルカリ長石と石英を主成分とする鉱物である。化学組成としては、無水ケイ酸を65質量%~70質量%、酸化アルミニウムを12~16質量%を含有する他、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムを、それぞれ2質量%~4質量%含有している。
【0011】
本構成の浄化用組成物は、詳細は後述するように、様々な被処理物の洗浄に使用することができる。この浄化用組成物は、麦飯石が有するイオン交換能に主に着目して発明されたものであるため、そのイオン交換能を十分に発揮できる用途に適している。
【0012】
本発明にかかる浄化用組成物の使用方法(以下、単に「使用方法」と称することがある)は、
「上記に記載の浄化用組成物を添加した水に、
固体の被処理物を浸漬する、或いは、固体の被処理物を浸漬しつつ撹拌する」ものである。
【0013】
特許文献1~3の技術のように溶液のみを使用することとすると、浄化用組成物における麦飯石のイオン交換能を効果的に発揮させることができない。そのため、上記構成の浄化用組成物は、これを添加した水に固体の被処理物を浸漬して使用する。必要に応じて、固体の被処理物を浸漬しつつ撹拌する。
【0014】
本発明にかかる浄化用組成物の使用方法は、上記構成に加え、
「前記被処理物は、放射性セシウムで汚染された土壌、及び、重金属で汚染された土壌の少なくとも何れかである」ものとすることができる。
【0015】
被処理物が放射性セシウムで汚染された土壌である場合、重金属で汚染された土壌である場合、放射性セシウム及び重金属の双方で汚染された土壌である場合、の何れであっても、上記の使用方法を適用することにより、詳細は後述するように、被処理物における汚染物質の濃度を効果的に低減することができる。
【0016】
本発明にかかる浄化用組成物の使用方法は、上記構成に替えて、
「上記に記載の浄化用組成物を、液体の被処理物に添加し撹拌するものであり、
前記被処理物は、放射性セシウムで汚染された水、及び、重金属で汚染された水の少なくとも何れかである」ものとすることができる。
【0017】
被処理物が放射性セシウムで汚染された水である場合、重金属で汚染された水である場合、放射性セシウム及び重金属の双方で汚染された水である場合、の何れであっても、上記の使用方法を適用することにより、詳細は後述するように、被処理物における汚染物質の濃度を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、貝殻を資源として有効に活用できる新たな洗浄用組成物、及び、該洗浄用組成物の使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態である洗浄用組成物、及び、この洗浄用組成物の使用方法について、具体的に説明する。
【0020】
まず、洗浄用組成物の構成について説明する。本実施形態の洗浄用組成物は、焼成貝殻粉末、麦飯石の粉末、界面活性剤、クエン酸、及び、ナトリウム塩を含有している。
【0021】
焼成貝殻粉末は、ホタテの貝殻を温度1130℃で焼成し、粉砕した粉末である。焼成貝殻粉末の粒子径を、マイクロトラック・ベル社製、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置マイクロトラックMT3000IIを使用して測定したところ、体積基準メディアン径で6μm~9μmであった。本実施形態の浄化用組成物は、このような焼成貝殻粉末を3.0質量%~10.0質量%含有している。
【0022】
麦飯石としては、岐阜県白川地区で採取された濃尾流紋岩(白川石)を粉砕した粉末のうち、No.400のメッシュを通過しNo.325のメッシュを通過しない、粒子径37μm~44μmの微細粉末を使用した。本実施形態の浄化用組成物は、このような麦飯石の粉末を0.5質量%~5.0質量%含有している。
【0023】
界面活性剤としては、アルキルエーテル型非イオン系界面活性剤を使用した。非イオン系界面活性剤は低起泡性であるため、洗浄の工程の後ですすぎの工程を行う場合、すすぎの工程が早期に終了する利点がある。また、非イオン系界面活性剤は界面活性剤としての作用が水の硬度に影響されにくいため、浄化用水媒体に用いる「水」として、井戸水などを使用できる利点を有している。本実施形態の浄化用組成物は、かかる非イオン系界面活性剤を5.0質量%~10.0質量%含有している。一般的な洗浄剤が界面活性剤を20質量%~40質量%含有していることを鑑みると、本浄化用組成物における界面活性剤の割合は小さい。
【0024】
ナトリウム塩として、本実施形態では、炭酸水素ナトリウム、無水炭酸ナトリウム、及び、塩化ナトリウムを含有している。
【0025】
次に、上記の浄化用組成物の使用方法を説明する。まず、第一実施形態の使用方法について説明する。第一実施形態の使用方法は、浄化用組成物を添加した水に、固体の被処理物を浸漬しつつ撹拌する浸漬・撹拌工程を行うものである。
【0026】
具体的に、被処理物が放射性セシウムで汚染された土壌である場合を例示する。2011年の東日本大震災の際に発生した福島原子力発電所の事故によって、放射性物質が環境中に放出されたことにより、大量の土壌が放射性物質で汚染された。一般的には、原子力発電所等から排出された放射性廃棄物は、放射線を遮蔽する容器や構造物に密閉された状態で、放射性物質の濃度が基準値以下となるまで長期間にわたり保管される。しかしながら、このように汚染された土壌が大量であると、放射線を遮蔽する容器や構造物に密閉された状態とすることも、長期間にわたり保管することも、極めて困難である。そのため、放射性物質で汚染された土壌を処理することにより、自然界に排出可能なレベルまで放射性物質の濃度を低減させる技術が、強く要請されている。
【0027】
放射性物質で汚染された土壌における放射性核種のほとんどはセシウム134またはセシウム137であると言われており、特に、セシウム137の半減期は約30年と長いため、長期にわたり環境や人体に影響を及ぼす。そのため、汚染された土壌における放射性セシウムの濃度を低減させる方法の確立が、急務である。
【0028】
被処理物を、放射性セシウムで汚染された土壌とする場合の第一実施形態の使用方法は、浄化用組成物を添加した水である浄化用水媒体に、被処理物である放射性セシウムで汚染された土壌を浸漬しつつ撹拌する浸漬・撹拌工程に加え、その後で行う分離工程と、濾過工程とを更に備えている。
【0029】
浸漬・撹拌工程では、浄化用組成物を水に添加して浄化用水媒体とし、放射性セシウムで汚染された土壌と共に撹拌槽に導入し、常温下で撹拌する。撹拌槽には、モータによって駆動される撹拌翼が設けられている。浄化用組成物を添加する「水」としては、水道水、井戸水、雨水、河川水を使用することができる。
【0030】
なお、浄化用組成物を添加した水である浄化用水媒体のpHは、9.0~10.5に調整されている。浄化用組成物に含有されている炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウムの水溶液は、弱アルカリ性を示す。また、焼成貝殻粉末である焼成されたホタテの貝殻粉末から溶出した成分を含む水溶液は、強アルカリ性を示す。本実施形態では、浄化用組成物に含有させているクエン酸により、浄化用水媒体のpHを調整している。
【0031】
このような撹拌工程において、次のような現象が生じていると考えられる。放射性セシウムは、土壌に含まれる粘土に強固に保持されていると考えられている。粘土鉱物は、ケイ素と酸素による四面体が二次元的に結合した四面体単位層と、アルミニウムに酸素イオンまたは水酸化物イオンが六配位した八面体が二次元的に結合した八面体単位層とを有しており、カオリナイト、パイロフィライト、白雲母、モンモリロナイト、緑泥石など粘土鉱物の種類により、これらの単位層の組み合わせが異なっている。四面体単位層のケイ素の一部をアルミニウムが置換することにより、また、八面体単位層のアルミニウムをケイ素が置換することにより、その単位層が負電荷を帯びるため、荷電の中和のために単位層間にカリウム、ナトリウム、カルシウムイオン等の陽イオンが保持されている。汚染された土壌では、これらの陽イオンと置換して、単位層間に放射性セシウムイオンが保持されていると考えられる。
【0032】
浄化用組成物を含む水(浄化用水媒体)の中で汚染された土壌を撹拌すると、浄化用組成物に含まれる界面活性剤の作用により、粘土の粒子がミセル内に取り込まれ、浄化用水媒体に分散する。浄化用組成物に含まれるナトリウム塩の溶解により、浄化用水媒体には多数のナトリウムイオンが存在する。そのため、粘土の粒子内で荷電の中和のために単位層間に保持されている陽イオンは、浄化用水媒体に溶存しているナトリウムイオンとイオン交換されやすい。セシウムは、ナトリウムと同じくアルカリ金属であり、価数が等しい。そのため、粘土の粒子に保持されていた放射性セシウムイオンは、浄化用水媒体内のナトリウムイオンとイオン交換し、浄化用水媒体内に溶出する。
【0033】
一方、浄化用組成物に含まれる麦飯石は、上記のように陽イオンをイオン交換させる性質があるが、浄化用水媒体にはナトリウム塩から供給されたナトリウムイオンが既に多数存在しているため、それ以外のイオン種であるカリウムイオンやカルシウムイオンが優先的に麦飯石から溶出する。カリウムもセシウムと同じくアルカリ金属であり、価数が等しいため、溶出したカリウムイオンは、分散している粘土粒子に保持されている放射性セシウムイオンとイオン交換し、放射性セシウムイオンが浄化用水媒体内に溶出する。
【0034】
ナトリウムイオン及びカリウムイオンとのイオン交換により、浄化用水媒体に溶出したセシウムイオンは、カリウムイオンやカルシウムイオンを溶出させた麦飯石に、電荷の補償のために保持される。
【0035】
このように、本実施形態の使用方法では、麦飯石のイオン交換能に着目し、“汚染された土壌と共に麦飯石の粉末を水中で撹拌する”ところを特徴のひとつとしている。従来、汚染された土壌の処理に麦飯石が使用されることはあったが、それは麦飯石の多孔質性に着眼した濾過材としての使用であった。本実施形態では、濾過材ではなく、汚染された土壌と共に水中で撹拌する浄化用組成物の成分のひとつとして、麦飯石を使用する。
【0036】
なお、浄化用水媒体中に溶出した放射性セシウムイオンは、麦飯石に保持される他、多孔質である焼成貝殻粉末にも吸着されると考えられる。また、浄化用水媒体中に溶出したセシウムイオンは、浄化用組成物に含まれるクエン酸とキレートを生成する。キレートを生成すると体積的に嵩張るため、粘土の粒子において単位層間に保持されている陽イオンと再びイオン交換されることはない。一方、麦飯石の粉末の表面では、空間的な制限がないため、キレートを生成しているセシウムイオンであっても、電荷補償のために保持される。従って、浸漬・撹拌工程を経て、土壌に含まれていた放射性セシウムは麦飯石の粉末及び焼成貝殻粉末に移行する。このように本実施形態では、浄化用組成物に含有されるクエン酸は、浄化用水媒体のpHを調整する作用を発揮させていると共に、セシウムイオンとキレートを生成させる作用を発揮させている。
【0037】
分離工程では、撹拌翼の回転を停止し、静置する。これにより、浄化用水媒体を若干含んだ土壌が撹拌槽の底部に沈殿する。一方、放射性セシウムを担持している麦飯石の粉末及び焼成貝殻粉末は、微細であることにより、また、浄化用組成物に含まれる界面活性剤の作用により、浄化用水媒体中に懸濁させることができるため、土壌と分離される。そこで、焼成貝殻粉末及び麦飯石の粉末が懸濁している浄化用水媒体のみを撹拌槽から排出し、濾過工程に供する。
【0038】
濾過工程では、分離工程を経た浄化用水媒体を、濾過材が充填された濾過層に通す。これにより、放射性セシウムを担持している麦飯石の粉末と焼成貝殻粉末が、濾過材に捕集される。濾過層は濾過材の種類が異なる複数を設けることができ、複数の濾過層を通すことによって、放射性セシウムを担持している麦飯石の粉末と焼成貝殻粉末を、より確実に捕集することができる。これにより、放射性セシウムを含有する物質は、土壌から濾過材に変わり、大幅に減容される。また、汚染された土壌から浄化用水媒体に溶出したまま、麦飯石の粉末や焼成貝殻粉末に担持されずに残存している放射性セシウムイオンも、複数の濾過層による濾過工程で、濾過材に吸着されると考えられる。濾過材としては、不織布、ゼオライト等の多孔質セラミックス、活性炭を、例示することができる
【0039】
濾過材を通過した水(以下、「処理後の水」と称する)における放射性セシウムの濃度は、後述するように検出限界以下であるため、処理後の水を自然界に排出することができる。
【0040】
ここで、焼成貝殻粉末の主成分である酸化カルシウムは、水和により水酸化カルシウムとなり一部が水に溶解するが(水酸化カルシウムの水に対する溶解度は、20℃で約0.16)、その他にも焼成貝殻粉末から水に溶出する成分があると考えられる。後述するように、焼成貝殻粉末から水に溶出した成分は、除菌・抗菌作用を有している。従って、浄化用水媒体に用いる水が、例えば河川水であることにより、何らかの細菌を含んでいても、焼成貝殻粉末から溶出した成分による作用を浄化用水媒体が受けることにより、処理後の水を、除菌されると共に細菌の増殖が抑制された状態で、自然界に排出することができる。また、焼成貝殻粉末から溶出した成分の除菌・抗菌作用により、処理に供された土壌も除菌されると共に細菌の増殖が抑制されるため、臭気の発生を抑制することができる。
【0041】
撹拌工程、分離工程、濾過工程の順に行われる土壌浄化工程は、汚染された土壌に対して複数回行うことができ、これにより、処理後の汚泥における放射性セシウムの濃度を、より低減させることができる。複数回の土壌浄化工程を行うに際し、その前の濾過工程で濾過層を通過した水(処理後の水)を、次の処理工程における撹拌工程で、浄化用組成物を添加する「水」として使用することができる。このようにすることにより、最終的に自然界に排出される処理後の水の量を、低減することができる。上記のように、焼成貝殻粉末が浄化用組成物に含有されていることにより、浄化用水媒体は除菌されるため、複数回の土壌浄化工程に循環させて使用しても、細菌が増殖するおそれが低減されている。
【0042】
上記のような土壌浄化工程を経て、放射性セシウムの濃度が低減した土壌は、分離工程で懸濁液と分離された後、硬化剤との混合により固化させる。固化した土壌は、路盤材などとして使用することが可能である。
【0043】
実際に、放射性セシウムで汚染された土壌(福島県で採取)1kgに対し、水11リットル、浄化用組成物2グラムの割合で、上記の土壌浄化工程を行った。処理前の土壌と、一回の処理後の土壌について、セシウム134とセシウム137の濃度を測定した。測定には、ガンマ線スペクトル測定装置NaI(TI)シンチレーションスペクトロメータ(応用光研工業株式会社製、FNF-401)を使用した。その結果を、表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、1回の土壌浄化工程で、汚染された土壌における放射性セシウムの濃度は大幅に低減し、約二分の一となった。2回以上の土壌浄化工程を行うことにより、土壌における放射性セシウムの濃度は更に低減させることができる。
【0046】
また、1回の土壌浄化工程を行った処理後の水について、同様にセシウム134とセシウム137の濃度を測定したところ、何れも検出限界以下であった。
【0047】
次に、第二実施形態の使用方法について、説明する。第二実施形態の使用方法は、浄化用組成物を、液体の被処理物に添加して撹拌するものである。実際に、被処理物を放射性セシウムで汚染された水とし、汚染された水12リットルに対して浄化用組成物を2グラムの割合で添加し、浄化処理を行った。処理前の水と、処理後に上記の濾過層を通してして麦飯石の粉末及び焼成貝殻粉末を除去した処理後の水について、セシウム134とセシウム137の濃度を測定した。測定には、ゲルマニウム半導体検出器(ORTEC製、GEM25-70-XLB-C)を使用し、70000秒以上測定した。その結果を、表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から分かるように、汚染された水に含有されていた放射性セシウムの濃度は、浄化用組成物を使用した浄化処理を経て、検出限界以下の濃度まで低減していた。これは、麦飯石からナトリウムイオン以外の陽イオンとしてカリウムイオンが溶出し、これに代替して水中の放射性セシウムイオンが麦飯石に保持されるイオン交換が行われた結果であると考えられた。また、水中の放射性セシウムイオンは、多孔性の焼成貝殻粉末に吸着されることによっても、系外に除かれたと考えられた。
【0050】
また、同じ浄化処理前の水と浄化処理後の水について、重金属の濃度を測定した。その結果を、測定方法と共に表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3から明らかなように、汚染された水における重金属の濃度も、浄化用組成物を使用した浄化処理を経て、検出限界以下の濃度まで大幅に低減していた。これも、麦飯石からナトリウムイオン以外の陽イオンが溶出し、そのイオンに代替して水中の重金属陽イオンが麦飯石に保持されるイオン交換が行われた結果であると考えられた。麦飯石は、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなど価数の異なる陽イオンについてイオン交換が可能であるため、被処理物である水中に価数の異なる複数種類の重金属陽イオンが存在しても、電荷補償のために麦飯石に保持されると考えられた。加えて、被処理物である水中の重金属陽イオンは、多孔性の焼成貝殻粉末に吸着されることによっても、系外に除かれたと考えられた。
【0053】
このような結果を参照すると、被処理物が重金属に汚染された土壌であっても、浸漬・撹拌工程、分離工程、濾過工程の順に浄化処理を行うことにより、放射性セシウムに汚染された土壌の場合と同様の機構で、土壌における重金属の濃度を低減することができると考えられた。
【0054】
次に、本実施形態の浄化用組成物を分散させた水が、除菌・抗菌作用を有することを示す。複数種類の生菌液を摂取した培地に、浄化用組成物を分散させた水を添加した検体と、添加しない対照試料を、温度25℃で保存して培養した。時間の経過に伴い、生菌数を測定した。その結果を表4に示す。なお、対照試料において、浄化用組成物を分散させた水の代わりに添加した液は、黄色ブドウ球菌では生理食塩水であり、腸炎ビブリオについては3%塩化ナトリウム溶液であり、その他の菌については精製水とした。
【0055】
【表4】
【0056】
表4に示すように、何れの菌についても、対照試料は30分の経過後も開始時と同程度の生菌数であったのに対し、浄化用組成物を分散させた水を適用した検体は、少なくとも30分経過するまでに、生菌数が検出限界以下となるまで減少していた。このことから、本実施形態の浄化用組成物は、除菌・抗菌作用を有することが分かる。
【0057】
以上のように、本実施形態によれば、貝殻を資源として有効に活用できる新たな洗浄用組成物であって、被処理物から汚染物質を除去する浄化処理ができると共に、除菌・抗菌作用を有する洗浄用組成物を提供することができる。また、被処理物の態様に応じて、浄化処理を効果的に発揮できる洗浄用組成物の使用方法を提供することができる。
【0058】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0059】
例えば、上記の実施形態では、被処理物が汚染されたが土壌、または汚染された水である場合を例示したが、金属屑が付着した機械部品や、サビによるシミが付着した衣類など、多様なものを被処理物とすることができる。また、被処理物が機械部品や衣類などの場合、浄化処理の後に真水で被処理物を洗うすすぎ工程を行うことができる。すすぎ工程を行うことにより、洗浄後の被処理物の表面に、麦飯石の粉末や焼成貝殻の粉末が残存するおそれを低減することができる。