IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】発電素子及びアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/18 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
H02N2/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019190620
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2020078237
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2018197521
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日:平成30年10月20日、刊行物:第27回MAGDAコンファレンスin Katsushika(MAGDA2018)講演論文集、第236~239頁、発行者:第27回MAGDAコンファレンスin Katsushika実行委員会、公開者:竹中裕亮、上野敏幸 開催日:平成30年10月21日、集会名:第27回日本AEM学会MAGDAコンファレンスin Katsushika(電磁現象及び電磁力に関するコンファレンス)、開催場所:東京理科大学 葛飾キャンパス(東京都葛飾区新宿6-3-1)、公開者:竹中裕亮、上野敏幸
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「発電デバイスの高性能化と励振メカニズムに関する研究」委託研究、産業技術力強化法第17 条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】南谷 保
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148791(JP,A)
【文献】特開2018-153094(JP,A)
【文献】特表2007-531482(JP,A)
【文献】特開2013-118766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料からなり固定端及び自由端を備えるフレームヨークと、前記フレームヨークに磁気バイアスを与える主磁石と、前記自由端に接する位置に形成される第1ギャップとで主直列磁気回路が構成され、
磁性材料からなり前記フレームヨークに取り付けられる補助ヨークと、前記補助ヨークに磁気バイアスを与える補助磁石と、前記自由端を挟んで前記第1ギャップに対向する位置に形成される第2ギャップと、前記フレームヨークと、前記主磁石と、前記第1ギャップとで補助直列磁気回路が構成され、
前記主直列磁気回路を通る磁束を主磁束、前記補助直列磁気回路を通る磁束を補助磁束とした場合に、前記第1ギャップを通過する前記主磁束と前記補助磁束の向きが一致しており、
外力の付加により前記自由端が振動して前記第1ギャップと前記第2ギャップの磁気抵抗が相反的に増減することを利用して前記フレームヨークに巻かれたコイルの内部を通過する主磁束の変化量を増加させることを特徴とする発電素子。
【請求項2】
前記フレームヨークについて、コ字状の屈曲箇所を挟んで一方の端部が前記固定端、他方の端部が前記自由端であることを特徴とする請求項1に記載の発電素子。
【請求項3】
前記フレームヨークの一部に形成される磁性部と、磁歪材料からなる磁歪板とを備えており、
前記磁性部は前記磁歪板に一様な圧縮力又は引張力を加えるための剛性及び形状を有しており、
前記磁歪板は前記磁性部と平行になるように前記フレームヨークに取り付けられており、
外力の付加により前記磁歪板が伸長又は収縮することを特徴とする請求項1又は2に記載の発電素子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の発電素子と同一の構造を備えており、前記コイルに電流を流すことで前記第1ギャップの長さを変化させ、前記自由端を振動させることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項5】
請求項3に記載の発電素子と同一の構造を備えており、前記コイルに電流を流すことで前記磁歪板を伸縮させ、前記自由端を振動させることを特徴とするアクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動発電用の発電素子及びアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、身近な振動を利用して発電する技術の開発が進んでおり、その技術の1つに強磁性体の磁歪効果を利用するものがある。
磁歪効果とは強磁性体に磁場を付与した際(強磁性体が磁化した際)に変形する効果を指し、磁歪効果による変形量が大きい材料は磁歪材料と呼ばれる。
【0003】
磁歪材料はまた、外力の付加に起因してその内部に生じる圧縮/引張応力によって変形し、磁化(磁力線)を大きく変化させる逆磁歪効果も備えている。例えば圧縮力を受けて1テスラ以上も磁力線が変化する磁歪材料が存在する。逆磁歪効果による磁束の時間的変化を利用する発電素子は小さな外力の付加に対して高効率で発電できるため注目が高まっている(特許文献1及び2)。
【0004】
図28(a)に逆磁歪効果を利用する発電素子の一般的な構成を示す。
この発電素子は発電部とフレームヨークと磁石から概略構成されている。
発電部は磁歪材料からなる磁歪板、磁歪板に巻かれるコイル、磁歪板に一様な圧縮力又は引張力を加えるための剛性及び形状を有しており磁歪板と平行に配置される磁性部から概略構成される。
フレームヨークはコ字状に屈曲した磁性材料からなり、当該屈曲箇所を挟んで一方の端部が固定端、他方の端部が自由端になる。自由端は固定端及び屈曲箇所と比較して幅が狭くなっており、この狭くなった箇所が磁性部にあたる。磁性部の上面に磁歪板を固定している。固定端の内面(上面)に磁石を取り付けており、磁石と自由端の内面(下面)との聞に空隙を形成している。
そして、図28(b)に示す静止状態から振動源を駆動させて自由端及び固定端を振動させ、図28(c)に示す自由端及び固定端が開いた状態では磁歪板の内部に圧縮応力を生じさせ、図28(d)に示す閉じた状態では引張応力を生じさせることで逆磁歪効果を利用して発電部で発電する仕組みになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4905820号公報
【文献】国際公開第2015/141414号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した従来技術では次のような問題が生じる。
図29に示すように、外力の付加により自由端及び固定端が振動し、磁歪板の内部に生じる応力が圧縮から引張りへと転じる間に、磁歪板を通る磁束の磁束密度が増加するのに対し(矢印A参照)、磁性部を通る磁束の磁束密度は減少する(矢印B参照)。発電部での起電力(誘導電圧又は誘導電流)はコイルの内部を通る磁束(磁力線)の時間変化の大きさに比例するため、従来技術のように磁歪板を通る磁束の磁束密度が増加/減少する際に磁性部を通る磁束の磁束密度が減少/増加することは起電力を低下させる要因になっていた。
また、磁歪材料を使用すると発電素子の製造コストが高くなるため、より低コストで大量生産できる振動発電用の発電素子が求められることがある。
【0007】
本発明は、このような問題を考慮して、起電力が増加して低コストで大量生産できる振動発電用の発電素子及びアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発電素子は、磁性材料からなり固定端及び自由端を備えるフレームヨークと、前記フレームヨークに磁気バイアスを与える主磁石と、前記自由端に接する位置に形成される第1ギャップとで主直列磁気回路が構成され、磁性材料からなり前記フレームヨークに取り付けられる補助ヨークと、前記補助ヨークに磁気バイアスを与える補助磁石と、前記自由端を挟んで前記第1ギャップに対向する位置に形成される第2ギャップと、前記フレームヨークと、前記主磁石と、前記第1ギャップとで補助直列磁気回路が構成され、前記主直列磁気回路を通る磁束を主磁束、前記補助直列磁気回路を通る磁束を補助磁束とした場合に、前記第1ギャップを通過する前記主磁束と前記補助磁束の向きが一致しており、外力の付加により前記自由端が振動して前記第1ギャップと前記第2ギャップの磁気抵抗が相反的に増減することを利用して前記フレームヨークに巻かれたコイルの内部を通過する主磁束の変化量を増加させることを特徴とする。
また、前記フレームヨークについて、コ字状の屈曲箇所を挟んで一方の端部が前記固定端、他方の端部が前記自由端であることを特徴とする。
また、前記フレームヨークの一部に形成される磁性部と、磁歪材料からなる磁歪板とを備えており、前記磁性部は前記磁歪板に一様な圧縮力又は引張力を加えるための剛性及び形状を有しており、前記磁歪板は前記磁性部と平行になるように前記フレームヨークに取り付けられており、外力の付加により前記磁歪板が伸長又は収縮することを特徴とする。
本発明のアクチュエータは、上記発電素子と同一の構造を備えており、前記コイルに電流を流すことで前記第1ギャップの長さを変化させ、前記自由端を振動させることを特徴とする。
本発明のアクチュエータは、上記発電素子と同一の構造を備えており、前記コイルに電流を流すことで前記磁歪板を伸縮させ、前記自由端を振動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では外力の付加により自由端が振動すると第1ギャップと第2ギャップの磁気抵抗が相反的に増減することを利用して、コイルの内部を通過する主磁束の変化量を増加させるので、従来の発電素子と比較して起電力を増加させることができる。
また、発電素子が磁歪板を備えない構成であっても主磁束の変化量を増加させることができるので、発電素子をより低コストで大量生産できる。
また、発電素子が磁歪板を備える構成の場合、自由端が振動して第1ギャップと第2ギャップの磁気抵抗が相反的に増減することに伴う主磁束の磁束密度の減少/増加と、磁歪板に生じる圧縮応力/引張応力の変化に伴う主磁束の磁束密度の減少/増加のタイミングを一致させることができるので、更に起電力を増加することができる。
上記構成の発電素子に対して、コイルに電流を流すことにすれば、コイルから発生する磁界により第1ギャップの長さが変化したり、磁歪板が伸縮したりしてフレームヨークの自由端が振動するのでアクチュエータとして機能させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施の形態の発電素子の構造を示す縦断面図(a1)及び正面図(a2)、静止状態の発電素子を示す縦断面図(b1)及び正面図(b2)、開状態の発電素子を示す縦断面図(c1)及び正面図(c2)、閉状態の発電素子を示す縦断面図(d1)及び正面図(d2)
図2】フレームヨークの静止状態、開状態及び閉状態の磁化曲線のグラフ
図3】第2の実施の形態の発電素子の構造を示す縦断面図(a1)及び正面図(a2)、静止状態の発電素子を示す縦断面図(b1)及び正面図(b2)、開状態の発電素子を示す縦断面図(c1)及び正面図(c2)、閉状態の発電素子を示す縦断面図(d1)及び正面図(d2)
図4】フレームヨーク及び磁歪板の静止状態、開状態及び閉状態の磁化曲線のグラフ
図5】第3の実施の形態の発電素子の構造を示す縦断面図(a)及び平面図(b)
図6】発電素子の変形例を示す縦断面図
図7】第4の実施の形態の発電素子を示す縦断面図(a)、磁歪板300の端部と溝の拡大図(b)、発電素子の平面図
図8】第5の実施の形態の発電素子を示す縦断面図(a)及び正面図(b)
図9】第6の実施の形態の発電素子を示す縦断面図
図10】第7の実施の形態のフレームヨークと補助ヨークを一体化した構成を示す側面図(a)、発電素子の側面図(b)、発電素子の変形例の側面図(c)及び(d)
図11】第8の実施の形態の発電素子の右側面図(a)、左側面図(b)、A-A線断面図とその部分拡大図(c)、変形状態を示すA-A線断面図(d)
図12】第8の実施の形態の発電素子を右側から見た場合の斜視図(a)及び左側から見た場合の斜視図(b)
図13】第8の実施の形態の発電素子の変形例の右側面図(a)及び受風用部材の縦断面図(b)、他の変形例を示す左側面図(c)及びA-A線断面図、発電素子の他の固定方法を示す右側面図(d)
図14】第9の実施の形態の発電素子の構造を示す縦断面図(a)、A-A線切断部端面図(b)、B-B線切断部端面図(c)、平面図(d)及び他の変形例を示すA-A線切断部端面図(e)
図15】実施例1のモデル1の構造を示す図
図16】実施例1のモデル2の構造を示す図
図17】実施例1のモデル3の構造を示す図
図18】磁束密度の計算方法を示す図
図19】磁束密度計算モデルを示す図
図20】モデル1の磁束密度の分布を示す図(a)及びグラフ(b)
図21】モデル2の磁束密度の分布を示す図(a)及びグラフ(b)
図22】モデル3の磁束密度の分布を示す図(a)及びグラフ(b)
図23】モデル1~3の磁束変化量と磁束密度変化量を示す表
図24】実施例2の発電素子の構造を示す写真(a)~(c)
図25】発電素子を加振機に取り付けた状態を示す写真
図26】開放電圧の時間変化を示すグラフ(a)及び磁束と変位の関係を示すグラフ
図27】実施例3の発電素子の開放電圧の時間変化を示すグラフ
図28】従来の発電素子の構造を示す縦断面図(a1)及び正面図(a2)、静止状態の発電素子を示す縦断面図(b)、開状態の発電素子を示す縦断面図(c)及び閉状態の発電素子を示す縦断面図(d)
図29】従来の発電素子のフレームヨーク及び磁歪板の静止状態、開状態及び閉状態の磁化曲線のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
次に、本発明の発電素子1の第1の実施の形態について説明する。
図1(a1)及び(a2)に示すように、本実施の形態の発電素子1は主直列磁気回路100と補助直列磁気回路200とで概略構成される。
主直列磁気回路100はフレームヨーク110、主磁石120及び第1ギャップ130を備える。
フレームヨーク110は磁性材料からなり自由端111と固定端113を備える。本実施の形態のフレームヨーク110は自由端111、屈曲箇所112及び固定端113を備える側面視コ字状であり、磁性材料から成る。フレームヨーク110用の磁性材料として炭素鋼(SS400、SC、SK材)、フェライト系ステンレス(SUS430)などを利用できる。
フレームヨーク110は屈曲箇所112を挟んで一方の端部が固定端113、他方の端部が自由端111になるようにいわゆる片持ち梁の状態で固定支持される。本発明において「コ字状」にはフレームヨーク110の自由端111側から固定端113側に滑らかなカーブを描いて曲がるいわゆる「U字状」も含まれ、また、自由端111側と固定端113側の間隔が屈曲箇所112から自由端111側の端部及び固定端113側の端部に向かうにつれて次第に広がっていくいわゆる「V字状」も含まれるものとする。
図1(a2)に示すように固定端113と屈曲箇所112の幅(左右方向の長さ)は等しくなっており、自由端111は固定端113及び屈曲箇所112よりも幅が狭くなっている。
フレームヨーク110の自由端111に振動時の共振周波数を調整するための錘や振動板を取り付けてもよい。
【0012】
コイル140はフレームヨーク110の自由端111に巻かれている。コイル140は電磁誘導の法則によりその空芯部内を通る磁束の時間変化に比例して電圧を発生させる。コイル140の材質は特に限定されるものではないが、例えば銅線を用いることができる。また、コイル140の巻数を変更することにより電圧の大きさを調整できる。コイル140を巻く位置は自由端111に限らず固定端113や屈曲箇所112でもよい。また、複数のコイル140をフレームヨーク110に巻いてもよい。
フレームヨーク110の固定端113に発電素子1を振動源に固定するための金具を取り付けてもよい。
主磁石120はフレームヨーク110に磁気バイアスを与えるための部材である。本実施の形態の主磁石120は永久磁石であり、その下部のS極側を固定端113の内面(上面)に固定している。主磁石120として永久磁石ではなく電磁石を用いてもよい。電磁石のコイルに流す電流を調整することで主直列磁気回路100を構成する各部への磁気バイアスの量を調整できるという利点がある。また、発電素子1を大型化する場合、ネオジ鉄ボロン系の永久磁石を利用することが困難になる。大型の永久磁石は高価で、また強力な磁力が働くため組み上げが難しくなるのが理由である。このように大型の発電素子1には電磁石を用いるのが適している。主磁石120として電磁石を用いる場合、固定端113の内面の一部を上方に突出させ、この突出箇所に電磁石のコイルを巻き付けたり、或いはフレームヨーク110の一部に電磁石のコイルを直接巻き付けたりすればよい。
第1ギャップ130は自由端111に接する位置に形成される空間である。本実施の形態では自由端111の下面と、主磁石120の上部のN極側とに上下を挟まれた空間が第1ギャップ130となる。外力の負荷により自由端111が振動すると第1ギャップ130の長さh1が変化する。
図1(b1)及び(b2)に示すように主直列磁気回路100を通る主磁束150は、主磁石120のN極から出て第1ギャップ130、フレームヨーク110の自由端111、屈曲箇所112、固定端113を通過して主磁石120のS極に戻る。主直列磁気回路100は一つの閉磁気回路であり、主磁束150によって主直列磁気回路100を構成する各部に磁気バイアスがかかった状態になっている。
主磁石120の位置は、主直列磁気回路100に主磁束150を通すことができれば特に限定されないが、固定端113と自由端111とに挟まれた内部空間に配置するのが好ましい。
【0013】
補助直列磁気回路200は補助ヨーク210、補助磁石220、第2ギャップ230、フレームヨーク110、主磁石120及び第1ギャップ130を備える。
補助ヨーク210は磁性材料から成りフレームヨーク110に取り付けられる。補助ヨーク210用の磁性材料として炭素鋼(SS400、SC、SK材)、フェライト系ステンレス(SUS430)などを利用できる。本実施の形態の補助ヨーク210は鉛直部211と水平部212とで正面視L字状になっている。鉛直部211の下端を固定端113の側面に固定しており、鉛直部211の上端から自由端111の上方を覆う位置まで水平部212をのばしている。補助ヨーク210の他の形状として例えば図11に示すように、鉛直部211の下端から水平方向にのびる第2水平部213を設けることで正面視コ字状にして、第2水平部213の上面を固定端113の下面に固定してもよい。
補助磁石220は補助ヨーク210に磁気バイアスを与えるための部材である。本実施の形態の補助磁石220は永久磁石であり、その上部のN極側を水平部212の下面に固定している。補助磁石220として永久磁石ではなく電磁石を用いてもよい。
第2ギャップ230は自由端111を挟んで第1ギャップ130に対向する位置に形成される空間である。本実施の形態では補助磁石220の下部のS極側と自由端111の上面とに上下を挟まれた空間が第2ギャップ230となる。なお、第1ギャップ130と第2ギャップ230は自由端111を挟んで対向する位置に形成されるとしているが、「対向」とは少なくとも自由端111が第1ギャップ130と第2ギャップ230の間に存在するという意味である。
外力の負荷により自由端111が振動すると第2ギャップ230の長さh2が変化する。つまり、外力の付加により自由端111が上方に移動して第1ギャップ130の長さh1が増加すると第2ギャップ230の長さh2が減少し、自由端111が下方に移動して第1ギャップ130の長さh1が減少すると第2ギャップ230の長さh2が増加する。換言すると、自由端111によってギャップが第1ギャップ130と第2ギャップ230とに分割されており、自由端111の上下動に伴って長さh1とh2が相反的に増減するようになっている。なお、長さh1及びh2は上下方向に振動する自由端111が主磁石120及び補助磁石220に接触しない程度の値に設定する必要がある。
【0014】
図1(b1)及び(b2)に示すように補助直列磁気回路200を通る補助磁束240は、補助磁石220のN極から出て補助ヨーク210の水平部212、鉛直部211を通過し、フレームヨーク110の固定端113から主磁石120、第1ギャップ130、自由端111、第2ギャップ230を通過して補助磁石220のS極に戻る。補助直列磁気回路200は一つの閉磁気回路であり、補助磁束240によって補助直列磁気回路200を構成する各部に磁気バイアスがかかった状態になっている。
補助磁石220の位置は、補助直列磁気回路200に補助磁束240を通すことができれば特に限定されないが、外部空間すなわち固定端113と自由端111とに挟まれた内部空間以外の空間に配置するのが好ましい。但し、第1ギャップ130を通過する主磁束150と補助磁束240の向きを一致させる必要がある。
【0015】
次に、発電素子1の動作について説明する。
図1(b1)及び(b2)に示すように振動源に固定した状態で静止している発電素子1に対して外力を付加して励振させると、図1(c1)及び(c2)に示すようにフレームヨーク110の自由端111及び固定端113は開くように変形した状態(以下、「開状態」という)と図1(d1)及び(d2)に示すように閉じるように変形した状態(以下、「閉状態」という)を繰り返す。
開状態では、静止状態と比較して第1ギャップ130の長さh1が増加するので第1ギャップ130の磁気抵抗も増加し、第2ギャップ230の長さh2が減少するので第2ギャップ230の磁気抵抗も減少する。第1ギャップ130の磁気抵抗が増加したことにより主磁束150は減少するが、減少した分の磁束は補助直列磁気回路200を通るので補助磁束240は増加する。
一方、閉状態では、静止状態と比較して第1ギャップ130の長さh1が減少するので第1ギャップ130の磁気抵抗も減少し、第2ギャップ230の長さh2が増加するので第2ギャップ230の磁気抵抗も減少する。第2ギャップ230の磁気抵抗が増加したことにより補助磁束240は減少するが、減少した分の磁束は主直列磁気回路100を通るので主磁束150は増加する。
このように、外力の付加により自由端111が振動すると第1ギャップ130と第2ギャップ230の磁気抵抗が相反的に増減することを利用して、コイル140の内部を通過する主磁束150の変化量を増加させ、起電力を増加させることができる。
図2はフレームヨーク110の静止状態、開状態及び閉状態の磁化曲線のグラフを示している。
発電素子1が補助直列磁気回路200を備えない場合には開状態の○から閉状態の○までしか磁束は変化していない(矢印C参照)。一方、本発明のように発電素子1が補助直列磁気回路200を備える場合には開状態の□から閉状態の□まで磁束が変化することが分かる(矢印D参照)。発電素子1が補助直列磁気回路200を備えない構成であってもフレームヨーク110が振動して第1ギャップ130の長さh1が増減することでフレームヨーク110を通る磁束を変化させ発電することはできるが、本発明のように補助直列磁気回路200を備えることで主磁束150の変化量を更に増加させて起電力を更に増加させることができる。
【0016】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の発電素子の第2の実施の形態について説明するが、上記第1の実施の形態と同一の構造になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図3(a1)及び(a2)に示すように本実施の形態の発電素子2は磁歪板300及び磁性部310を備える点に特徴を有する。
磁歪板300は磁歪材料から成る棒状部材である。磁歪板300は外力を受けて収縮/伸長するため延性を有する磁歪材料で構成するのが好ましい。磁歪材料の種類は特に限定されるものではないが、例えば鉄ガリウム合金を用いることができ、他には例えば鉄コバルト合金であってもよいし、Fe-Al、Fe-Si-B合金など周知の磁歪材料を利用できる。また、結晶状態の材料だけでなく、アモルファス状態の材料であってもよい。さらに、引張応力に対する磁化の変化を大きくするために、予め応力焼きなまし処理を施すことにより圧縮応力を付加した磁歪材料を用いてもよい。磁歪板300の形状は棒状であればよく、例えば直方体が挙げられる。
磁歪板300は磁性部310の上面にはんだ接合、蝋付け、抵抗溶接、レーザ溶接、超音波接合などの周知の手法により取り付けられる。
【0017】
磁性部310はフレームヨーク110の一部に形成される。磁性部310と磁歪板300とで平行梁部320を構成している。
本実施の形態では自由端111の一部の幅を左右方向に狭くして当該箇所を磁性部310にしている。上述のとおりフレームヨーク110は磁性材料から成るため、磁性部310も磁性材料で構成される。磁性部310の上下方向の厚さを僅かに薄くすることで磁性部310と磁歪板300との間に空間を設けてもよい。
磁性部310はフレームヨーク110に外力が付加された際に、磁歪板300の断面に一様な圧縮力又は引張力を加えられるような剛性及び形状を有している。つまり、外力の付加により平行梁部320が撓む際に、中立軸(応力がゼロになることで収縮/伸長しない面)を磁歪板300の断面外に位置させるために必要な剛性及び形状を備えるように磁性部310が設計されている。磁歪板300内の応力が一様な引張り、もしくは圧縮になるための条件は、応力がゼロになる中立軸が磁歪板300と磁性部310の間、もしくは磁性部310に存在することである。
磁性部310の形状の一例として、磁歪板300の材料としてFe-Ga合金を利用した場合、磁性部310の左右の幅2mm、上下の厚さ0.5mm程度が好ましい。また、フレームヨーク110の材料としてSUS430もしくはSS400、SC50鋼を利用した場合、磁性部310の左右の幅2mm、上下の厚さ0.5mm、平行梁部320(磁歪板300及び磁性部310)の長さ7mm程度が好ましい。また、磁歪板300と磁性部310の間に空間を設ける場合は空間の厚さは1mm程度が好ましい。
コイル140を平行梁部320の周囲に巻いているが、これに限らず固定端113の周囲に巻いてもよい。
【0018】
図3(b1)及び(b2)に示すように振動源に固定した状態で静止している発電素子2に対して外力を付加して励振させると、図3(c1)及び(c2)に示すようにフレームヨーク110は開状態と図3(d1)及び(d2)に示すように閉状態を繰り返す。
平行梁部320の中立軸(応力がゼロの位置)は磁歪板300と磁性部310の間にあるため、開状態では磁歪板300の内部の応力は一様な圧縮になり、閉状態では磁歪板300の内部の応力は一様な引張りになる。この結果、磁歪板300を通る主磁束150は逆磁歪効果によって開状態では減少、閉状態では増加する。
第1の実施の形態で説明したとおり、開状態では第1ギャップ130の磁気抵抗が増加することにより主磁束150の磁束密度は減少する。更に本実施の形態では磁歪板300が圧縮されることによっても主磁束150の磁束密度が減少する。一方、閉状態では第1ギャップ130の磁気抵抗が減少することにより主磁束150の磁束密度は増加する。更に磁歪板300が伸長されることによって主磁束150の磁束密度が増加する。
【0019】
図4はフレームヨーク110の静止状態(無負荷)、開状態(磁歪板300が圧縮)及び閉状態(磁歪板300が引張り)の磁化曲線のグラフを示している。
磁歪板300の内部に生じる応力が圧縮から引張りへと転じる間に、磁歪板300を通る磁束の磁束密度は○から○まで増加しており(矢印E参照)、更に磁性部310を通る磁束の磁束密度も□から□まで増加している(矢印F参照)。
本実施の形態では、自由端111が振動して第1ギャップ130と第2ギャップ230の磁気抵抗が相反的に増減することに伴う主磁束150の磁束密度の減少/増加と、磁歪板300に生じる圧縮応力/引張応力の変化に伴う主磁束150の磁束密度の減少/増加のタイミングを一致させることができるので、第1の実施の形態の構成と比較して更に起電力を増加することができる。
【0020】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の発電素子の第3の実施の形態について説明するが、上記各実施の形態と同一の構造になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図5に示すように本実施の形態の発電素子は固定端113と主磁石120の間にスペーサ330を備える点に特徴を有する。
スペーサ330を備えない構成の場合、固定端113の内面(上面)のうち主磁石120の端部と接触する位置付近の磁束密度が局所的に高くなり、磁気飽和が発生する可能性がある。局所的な磁気飽和は主磁束150の通過を妨げ、起電力を低下させる要因になる。本実施の形態のように固定端113と主磁石120の間にスペーサ330を介在させることで、主磁石120が固定端113に直接接触することがなくなり、局所的な磁気飽和の発生を防止できる。
スペーサ330の材料としては磁性体でも非磁性体でもよいが、磁性体の場合は主磁束150が通過する磁路を拡げる効果が得られ、主磁束150が通過しやすくなるのでより好ましい。
図6に示すように自由端111と固定端113の各々に磁歪板300を取り付ける構成の場合、主磁石120を取り付けた固定端113側の主磁束150の磁束密度が大きく、自由端111側の主磁束150の磁束密度が小さくなる。これにより自由端111側の磁歪板300の特性と固定端113側の磁歪板300の特性が異なってしまい、磁束が流れにくくなる問題がある。本実施の形態のように固定端113と主磁石120の間にスペーサ330を配置して、固定端113の上面から主磁石120までの距離と主磁石120から自由端111の下面までの距離をほぼ等しくすることで、固定端113と自由端111の主磁束150の磁束密度がほぼ等しくなり、固定端113側の磁歪板300の特性と自由端111側の磁歪板300の特性をほぼ一致させることができる。
【0021】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の発電素子の第4の実施の形態について説明するが、上記各実施の形態と同一の構造になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図7に示すように本実施の形態では自由端111の上面のうち磁歪板300の下面の角部と接触する位置付近に溝340を設ける点に特徴を有する。
本発明では主磁束150の変化量が大きくなり、磁歪効果によって磁歪板300の伸縮量が増加するため、磁性部310の上に固定した磁歪板300が外れるおそれがある。これは磁歪板300の端部とフレームヨーク110の自由端111の上面がつくる角部に生じる応力集中の影響が大きい。本実施の形態のようにフレームヨーク110の自由端111の上面に溝340を設けて、磁歪板300の端部が溝340の端部に直線状につながるような構造にし、角部をなくすことで応力集中を防止して磁歪板300が外れることを防止できる。
溝340の形状としては縦断面において前後方向に沿った半円形が好ましいが、これに限定されない。また、溝340の左右方向の長さは磁歪板300の幅(左右方向の長さ)よりも長く、フレームヨーク110の幅よりも短い程度であればフレームヨーク110の耐久性を低下させることがないので好ましい。
溝340を自由端111の上面のうち磁歪板300の角部と接触する前後2箇所に設けてもよい。
【0022】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の発電素子の第5の実施の形態について説明するが、上記各実施の形態と同一の構造になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図8に示すように本実施の形態では補助磁石220として電磁石350を用いる点に特徴を有する。電磁石350を構成するコイル351は補助ヨーク210の鉛直部211に巻きつけてある。コイル351に流す電流を調整することで補助ヨーク210の磁気バイアスの量を調整できるという利点がある。
【0023】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の発電素子の第6の実施の形態について説明するが、上記各実施の形態と同一の構造になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図9に示すように本実施の形態では補助ヨーク210の位置を前後方向に変更可能である点に特徴を有する。
補助ヨーク210の位置を変更するための機構としては特に限定されないが、例えば固定端113の側面に前後方向にのびる凸部を設け、補助ヨーク210の鉛直部211の側面に前後方向にのびる凹部を設け、凸部を凹部に嵌め込む構成が挙げられる。補助ヨーク210の前後方向への移動は凸部によって案内されることになる。補助ヨーク210の前後方向の位置を調節することで、補助直列磁気回路200を構成する各部への磁気バイアスの量を調整できる。
【0024】
[第7の実施の形態]
次に、本発明の発電素子の第7の実施の形態について説明するが、上記各実施の形態と同一の構造になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図10(a)に示すように本実施の形態ではフレームヨーク360と補助ヨーク370を一体化させた点に特徴を有する。
フレームヨーク360は上記各実施の形態と同様に自由端361、屈曲箇所362及び固定端363から成る。補助ヨーク370の鉛直部371は固定端363の端部から上方にのびており、鉛直部371の上端から前方に水平部372がのびている。水平部372の先端の下面に補助磁石220を取り付けている。
フレームヨーク360と補助ヨーク370を一体構造にすることで、例えば磁性体を型で打ち抜くだけでフレームヨーク360と補助ヨーク370を同時に成形できるため発電素子の低コスト化及び大量生産に貢献できる。
図10(b)に示すようにフレームヨーク360の自由端361の先端に錘380を取り付けてもよい。錘380を取り付けることで振動時の共振周波数を調整することができる。
図10(c)に示すように補助ヨーク370の水平部372の上下方向の長さを後方から前方に向かうにつれて大きく(或いは小さく)して、補助磁石220の位置を変更できる構造にしてもよい。補助磁石220の前後方向の位置を変更して第2ギャップ230の長さh2を変更することで補助直列磁気回路200を構成する各部への磁気バイアスの量を調整できる。
図10(d)に示すように鉛直部400をフレームヨーク360の屈曲箇所362から上方にのばし、鉛直部400の上端から後方に水平部410をのばす構成でもよい。この場合、自由端361の先端側に大きな空間ができるので、この空間内に錘380を配置することで錘380の上下方向への振幅量を大きくできる。また、自由端361を長くすることができる利点や、コイル140を自由端361の先端側から容易に挿入できるという利点もある。
【0025】
[第8の実施の形態]
次に、本発明の発電素子の第8の実施の形態について説明するが、上記各実施の形態と同一の構造になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図11及び図12に示すように本実施の形態ではフレームヨーク500が平面で屈曲する点に特徴を有する。具体的にはフレームヨーク500が平面の形状で2つのコ字状の屈曲箇所501を挟んで2つの固定端502と1つの自由端503を備え、更に2つの固定端502の表面の先端同士を連結し、磁気回路の役割を担う主ヨーク504を備える。
主ヨーク504はその長手方向の中央が隆起することで凸部504aを形成している。図11(c)に示すように主ヨーク504の凸部504aの内面に主磁石505のS極側を取り付けている。
補助ヨーク506は固定端502の裏面の先端同士を連結している。補助ヨーク506はその長手方向の中央が隆起することで凸部506aを形成している。図11(c)に示すように補助ヨーク506の凸部506aの内面に補助磁石507のN極を取り付けている。
自由端503は屈曲箇所501から凸部504a,506a内の空間を通過して更に前方にのびる。自由端503の先端に錘508を取り付けている。錘508に外力を作用させると自由端503の先端が紙面上下方向に振動する。
【0026】
図11(c)及び図12(b)に示すように磁歪板509を自由端503の補助ヨーク506側の表面に取り付けている。磁歪板509を取り付けない構成でも発電効果を得られるが、磁歪板509を取り付けた方がより大きな発電効果を得られる。
本実施の形態では自由端503のうち磁歪板509を取り付けている部分が第2の実施の形態における磁性部510に相当する。磁性部510と磁歪板509とで平行梁部を構成している。上述のとおりフレームヨーク500は磁性材料から成るため、磁性部510も磁性材料で構成される。磁性部510の上下方向の厚さを僅かに薄くすることで磁性部510と磁歪板509との間に空間を設けてもよい。
コイル511を自由端503に巻いている。本実施の形態の構成の場合、自由端503をコイル511の空芯部内に通した後に主ヨーク504と補助ヨーク506を固定端502の先端に連結することにすれば、コイル511を自由端503に巻く作業の手間を省くことができる。
第1ギャップ512は自由端503の表面と主磁石505のN極側に左右を挟まれた空間である。外力の負荷により自由端503が振動すると第1ギャップ512の長さh1が変化する。
主直列磁気回路はフレームヨーク500(固定端502、主ヨーク504及び自由端503)、主磁石505及び第1ギャップ512で構成される。図11に示すように主直列磁気回路を通る主磁束513は、主磁石505のN極から出て第1ギャップ512、自由端503、固定端502、主ヨーク504を通過して主磁石505のS極に戻る。主直列磁気回路は一つの閉磁気回路であり、主磁束513によって主直列磁気回路を構成する各部に磁気バイアスがかかった状態になっている。
【0027】
本実施の形態では図12(b)に示すように磁歪板509が補助磁石507の直近までのびているので、第2ギャップ514は補助磁石507のS極側と磁歪板509の表面で挟まれた空間になる。磁歪板509を短くして補助磁石507のS極側と自由端503(磁歪板509でない磁性体の部分)に挟まれた空間を第2ギャップ514としてもよい。
外力の付加により自由端503が振動すると第2ギャップ514の長さh2が変化する。つまり、外力の付加により自由端503が補助磁石507側に移動して第1ギャップ512の長さh1が増加すると第2ギャップ514の長さh2が減少し、自由端503が主磁石505側に移動して第1ギャップ512の長さh1が減少すると第2ギャップ514の長さh2が増加する。換言すると、自由端503によってギャップが第1ギャップ512と第2ギャップ514とに分割されており、自由端503の振動に伴って長さh1とh2が相反的に増減するようになっている。なお、長さh1及びh2は振動する自由端503が主磁石505及び補助磁石507に接触しない程度の値に設定する必要がある。
補助直列磁気回路は補助ヨーク506、補助磁石507、第2ギャップ514、フレームヨーク500(固定端502、主ヨーク504及び自由端503)、主磁石505及び第1ギャップ512で構成される。図11に示すように補助直列磁気回路を通る補助磁束515は、補助磁石507のN極から出て補助ヨーク506を通過し、固定端502から主ヨーク504、主磁石505、第1ギャップ512、自由端503、第2ギャップ514を通過して補助磁石507のS極に戻る。補助直列磁気回路は一つの閉磁気回路であり、補助磁束515によって補助直列磁気回路を構成する各部に磁気バイアスがかかった状態になっている。
【0028】
平行梁部の中立軸(応力がゼロの位置)は磁性部510にあるため、振動により自由端503が補助磁石507側に移動した状態では磁歪板509の内部の応力は一様な圧縮になり、自由端503が主磁石505側に移動した状態では磁歪板509の内部の応力は一様な引張りになる。この結果、磁歪板509を通る主磁束513は逆磁歪効果によって自由端503が補助磁石507側に移動した状態では減少、自由端503が主磁石505側に移動した状態では増加する。
第1の実施の形態で説明したとおり、自由端503が補助磁石507側に移動した状態では、静止状態と比較して第1ギャップ512の長さh1が増加するので第1ギャップ512の磁気抵抗も増加し、第2ギャップ514の長さh2が減少するので第2ギャップ514の磁気抵抗も減少する。第1ギャップ512の磁気抵抗が増加したことにより主磁束513は減少し、更に磁歪板509が圧縮されることによっても主磁束513の磁束が減少する。しかし、減少した分の磁束は補助直列磁気回路を通るので補助磁束515は増加する。
一方、自由端503が主磁石505側に移動した状態では、静止状態と比較して第1ギャップ512の長さh1が減少するので第1ギャップ512の磁気抵抗も減少し、第2ギャップ514の長さh2が増加するので第2ギャップ514の磁気抵抗は増加する。第1ギャップ512の磁気抵抗が減少したことにより主磁束513は増加し、更に磁歪板509が伸長されることによっても主磁束513の磁束密度が増加する。また、第2ギャップ514の磁気抵抗が増加したことにより補助磁束515は減少するが、減少した分の磁束は主直列磁気回路を通るので主磁束513は増加する。
このように、自由端503が振動して第1ギャップ512と第2ギャップ514の磁気抵抗が相反的に増減することに伴う主磁束513の磁束の減少/増加と、磁歪板509に生じる圧縮応力/引張応力の変化に伴う主磁束513の磁束の減少/増加のタイミングを一致させることができるので、第1の実施の形態の構成と比較して更に起電力を増加することができる。
【0029】
本実施の形態の構成の場合、固定端502と自由端503を有するフレームヨークが平面の形状で、打ち抜き加工等により一体成形することができるので、第1の実施の形態のようにフレームヨーク500を曲げ加工等により成形する場合と比較して製造コストを抑制できる。また、錘508の可動範囲を第1の実施の形態の構成と比較して大きくすることができる。また、図11(d)に矢印Bで示すように示すように主ヨーク504や補助ヨーク506を変形させて凸部504aや凸部506aの高さを変更できるので第1ギャップ512の長さh1及び第2ギャップ514の長さh2を容易に調整できる。
図13(a)及び(b)に示すように自由端503の先端に受風用部材516を取り付けてもよい。受風用部材516の断面を半円形にして、その平面部分を受風面517とすれば、受風面517が矢印Cで示す風を受け、ギャロッピング現象や、その後方に形成されるカルマン渦列を利用して自由端503を振動させることができる。風ではなく水流を利用しても同様に自由端503を振動させることができる。
また、図13(c)及び(d)に示すようにフレームヨークが1つのコ字状の屈曲箇所501を挟んで1つの固定端502と1つの自由端503を備え、更に固定端502の表面の先端から自由端503の近傍までのびる主ヨーク518を備えることにしてもよい。この場合、補助ヨーク519は固定端502の裏面の先端から自由端503の近傍までのばせばよい。主ヨーク518は凸部518aを備え、補助ヨーク519は凸部519aを備える。この構成の場合、図11に示した2つの固定端502を備える構成と比較して構造を簡略化でき、製造コストを抑えることができる。一方、図11に示した2つの固定端502を備える構成の場合、フレームヨークの一部としての固定端502の幅を広くすることができるので磁束の流れをスムーズにできると共に剛性を高められるという利点がある。
また、図13(e)に示すように固定端502の大部分を固定することで自由端503の振動をより長続きさせることができるので好ましい。
【0030】
[第9の実施の形態]
次に、本発明の発電素子の第9の実施の形態について説明するが、上記各実施の形態と同一の構造になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
第2の実施の形態の発電素子と比較して、図14(a)に示すように本実施の形態の発電素子の第1の特徴は自由端111の先端部分を上方に屈曲させ、固定端113の先端部分を下方に屈曲させることで自由端111から固定端113までの距離を大きくした点である。第2の特徴は図14(c)及び(d)に示すように自由端111の先端部分及び固定端113の先端部分を二股状に分岐させた点である。第3の特徴は図14(c)及び(d)に示すように固定端113の幅を狭めたことである。このようにすることで補助直列磁気回路200よりもフレームヨーク110の先端側(図14(a)の破線の円で囲んだ部分)の磁気抵抗が大きくなるので、この部分に漏れて流れる磁束を減少させることができ、第2の実施の形態の発電素子と比較して起電力を増加させることができる。また、固定端113の幅を狭めることで振動が発電素子の外部に逃げにくくなり、振動損失を減らすことができる。
本実施の形態の発電素子の第4の特徴は図14(b)に示すように主磁石120及び補助磁石220の幅を拡げると共に、主磁石120及び補助磁石220の幅と同程度の幅を有する拡張ヨーク600を主磁石120と補助磁石220の間の自由端111に取り付ける点である。なお、理解を容易にするために図14(d)ではフレームヨーク110と拡張ヨーク600のみを示している。
第1ギャップ130の長さh1及び第2ギャップ230の長さh2が変化したときの磁束の変化を増加するには,第1ギャップ130及び第2ギャップ230のパーミアンス(磁気抵抗の逆数)が大きく変化した方がよい。拡張ヨーク600を取り付けることでパーミアンスの分子となる断面積が増加するので磁束の変化を増加させることができる。拡張ヨーク600としては図14(a),(b)に示すように上下2枚の磁性部材を取り付けてもよく、或いは図14(e)に示すように1枚のハット型の磁性部材を取り付けてもよい。
【実施例1】
【0031】
本発明の発電素子の磁束の変化量及び磁束密度の変化量に関してシミュレーションを行った。
モデル1は磁歪板、磁性部、補助ヨーク及び補助磁石を備える構成(図15)、モデル2は磁歪板の替わりに磁性材(SPCC材)を使用し、磁性部、補助ヨーク及び補助磁石を備える構成(図16)、モデル3は磁歪板及び磁性部を備えており、補助ヨーク及び補助磁石を備えない構成(図17)である。モデル1及び2は本発明に含まれ、モデル3は本発明の発電素子に含まれない比較例となる。
図18に磁束密度の計算方法、図19に磁束密度計算モデル(圧縮応力作用時、応力なし及び引張応力作用時)を示す。
図20図22にモデル1~3のシミュレーション結果を示す。
図23の表から補助ヨーク及び補助磁石を備えるモデル1と3、すなわち補助直列磁気回路を備える構成の場合に磁束の変化量及び磁束密度の変化量が特に大きいことが分かった。また、モデル1と3のうち、磁歪板を備えるモデル1の方がより磁束の変化量及び磁束密度の変化量が大きいことが分かった。
【実施例2】
【0032】
磁歪板を備え且つ補助直列磁気回路を備えない発電素子と、磁歪板を備え且つ補助直列磁気回路を備える発電素子の発電量を比較した。
試作した発電素子の写真を図24に示す。図24(a)は補助直列磁気回路を備えない発電素子で、図24(b)及び(c)は補助直列磁気回路を備える発電素子である。
磁歪板はFe-Ga合金の4×0.5×16mmで、フレーム(ベーナイト鋼)の厚さは0.5mm、コイルは1494巻(抵抗値は59.3 Ω)とした。また主磁石は永久磁石でそのサイズは補助直列磁気回路を備えない発電素子は5×3×3mm、補助直列磁気回路を備える発電素子は5×5×2 mmと3×4×2 mmを上下に重ねたものを使用した。また、補助直列磁気回路で使用する補助磁石も永久磁石でそのサイズを2×3×1mmとした。
補助直列磁気回路の補助ヨークは図15と同様にコ字状とし、フレームヨークの固定端の下面に取り付けた。補助磁石と磁歪板の間に適当な隙間を設けて第2ギャップとした。各発電素子を図25のように加振機に取り付け、それぞれの共振周波数(補助直列磁気回路を備えない発電素子は120Hz、補助直列磁気回路を備える発電素子は115.1 Hz)で磁歪板の端部の変位が同じになるように振動させた。磁歪板の端部の変位は周知のレーザ変位センサで計測した。
その結果、図26(a)に示す開放電圧が発生した。補助直列磁気回路を備える場合、備えない場合と比較して周波数が低いにもかからず、発生電圧が20.0 %増加した。図26(b)は磁歪板の端部の変位と発生電圧を積分して算出した磁束の関係を示しており、発生電圧の増加は補助直列磁気回路の効果による磁束の増加が原因であることがわかる。
【実施例3】
【0033】
磁歪素子の替わりに磁性材(SPCC)を備え且つ補助直列磁気回路を備えない発電素子と、磁歪素子の替わりに磁性材(SPCC)を備え且つ補助直列磁気回路を備える発電素子の発電量を比較した。
磁歪板の替わりとして使用する磁性材(SPCC材)のサイズを4×0.5×16mmにした。
フレーム(ベーナイト鋼)の厚さは1.0mm、コイルは1494巻(抵抗値は59.3 Ω)とした。また主磁石は永久磁石でそのサイズは5×5×2 mmと3×4×2 mmを上下に重ねたものを使用した。また、補助直列磁気回路で使用する補助磁石も永久磁石でそのサイズを3×4×1mmとした。
補助直列磁気回路の補助ヨークは図15と同様にコ字状とし、フレームヨークの固定端の下面に取り付けた。補助磁石とSPCC材の間に適当な隙間を設けて第2ギャップとした。各発電素子を加振機に取り付け、それぞれの共振周波数(115.6 Hz)でSPCC材の端部の変位が同じになるように振動させた。変位を0.1mm, 0.2mm, 0.3mmの3パターンとした。SPCC材の端部の変位は周知のレーザ変位センサで計測した。
その結果、図27に示す開放電圧が発生した。補助直列磁気回路を備える場合は備えない場合と比較して発生電圧が増加したが、実施例2で示した磁歪板を備え且つ補助直列磁気回路を備える発電素子と比較すると発生電圧は低くなった。また、変位を大きくするほど発生電圧が大きくなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、起電力が増加して低コストで大量生産できる振動発電用の発電素子及びアクチュエータに関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0035】
1 発電素子
2 発電素子
100 主直列磁気回路
110 フレームヨーク
111 自由端
112 屈曲箇所
113 固定端
120 主磁石
130 第1ギャップ
140 コイル
150 主磁束
200 補助直列磁気回路
210 補助ヨーク
211 鉛直部
212 水平部
213 第2水平部
220 補助磁石
230 第2ギャップ
240 補助磁束
300 磁歪板
310 磁性部
320 平行梁部
330 スペーサ
340 溝
350 電磁石
351 コイル
360 フレームヨーク
361 自由端
362 屈曲箇所
363 固定端
370 補助ヨーク
371 鉛直部
372 水平部
380 錘
400 鉛直部
410 水平部
500 フレームヨーク
501 コ字状の屈曲箇所
502 固定端
503 自由端
504 主ヨーク
504a 凸部
505 主磁石
506 補助ヨーク
506a 凸部
507 補助磁石
508 錘
509 磁歪板
510 磁性部
511 コイル
512 第1ギャップ
513 主磁束
514 第2ギャップ
515 補助磁束
516 受風用部材
517 受風面
518 主ヨーク
518a 凸部
519 補助ヨーク
519a 凸部
600 拡張ヨーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29