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特許7302871リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全によって特徴付けられる障害を治療するための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全によって特徴付けられる障害を治療するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7016 20060101AFI20230627BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 31/4375 20060101ALI20230627BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61K31/7016
A61P25/00
A61P37/02
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K31/4375
A61K31/445
A61P3/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019531851
(86)(22)【出願日】2017-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 US2017028904
(87)【国際公開番号】W WO2017185010
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-20
(31)【優先権主張番号】62/325,535
(32)【優先日】2016-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/475,295
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391058060
【氏名又は名称】ベイラー カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】サーディエロ,マルコ
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/097088(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/200705(WO,A1)
【文献】Youg-Li Jiang et al.,Synthesis and Evaluation of Trehalose-Based Compounds as Novel Inhibitors of Cancer Cell Migration and Invasion,Chem Biol Drug Des 2015,2015年,86,p.1017-1029,doi:10.1111/cbdd.12569
【文献】Shun-ichi Wada et al.,Novel autophagy inducers lentztrehaloses A, B and C,The Journal of Antibiotics,2015年,68,p.521-529,doi:10.1038/ja.2015.23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
若年性神経セロイドリポフスチン症(CLN3病)を治療するための、トレハロース、その塩、または類似体を含む組成物であって、前記トレハロース類似体が、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択される、組成物
【請求項2】
前記トレハロース、その塩、または類似体が、汚染物質を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ミグルスタットと一緒に投与されるものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ミグルスタットは、30~100mg/kgの範囲の用量で存在する、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
50%、40%、30%、20%、10%、または5%以下のトレハロース(w/v)を含むトレハロースの水溶液として投与されることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が非経口投与されることが意図される、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、静脈内投与用であることが意図される、請求項1~に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年4月21日に出願された米国仮特許出願第62/325,535号および2017年3月23日に出願された米国仮特許出願第62/475,295号の利益を主張するものであり、当該出願はその全開示内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害の治療のための、プロテインキナーゼBの阻害剤を含む組成物を提供する。本開示はさらに、リソソーム蓄積障害およびリソソームの機能不全および状態を特徴とする障害を、トレハロースを含む組成物を用いて治療する方法、ならびにトレハロースを用いて、AKTによって媒介される疾患状態を治療する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
リソソームは、動物細胞における分解過程の中心となる膜結合型細胞小器官である。食作用によって取り込まれた微生物、エンドサイトーシスによって取り込まれた巨大分子、および不要な細胞小器官などの細胞外物質は、リソソームと融合し、それらの基本分子に分解される。したがって、リソソームは細胞のリサイクル単位である。リソソームはまた、分泌、原形質膜修復、細胞シグナル伝達、およびエネルギー代謝におけるそれらの役割のために細胞恒常性にも関与している。
【0004】
細胞分解過程におけるリソソームの本質的な役割が、これらの細胞小器官を、健康および疾患にとって重大な関わりのあるいくつかの細胞過程の分岐点に据えている。60種のリソソーム酵素、膜貫通タンパク質、またはこの細胞小器官の他の成分の1つに欠陥があると、標的分子の分解が妨げられ、まとめてリソソーム蓄積障害として知られる60を超えるさまざまなヒト遺伝子疾患の原因となる。異常なリソソーム機能によって引き起こされない限り、特徴付けられる多種多様なヒトの病態は、細胞代謝に対するオートファジー-リソソーム経路の決定的な重要性を強調する。これらの疾患ならびにリソソーム機能不全を特徴とする疾患では、分解されていない物質がリソソーム内に蓄積し、リソソーム蓄積障害から神経変性疾患、癌、心血管疾患に至るまでの疾患の存在または重症度に寄与する。例えば、バッテン病としても知られているリソソーム蓄積障害である神経セロイドリポフスチン症(NCL)は、いくつかの集団において12,500人に1人の有病率を有する、最も一般的な神経遺伝性蓄積症と考えられる一群の神経変性障害である。現在のところ、14種類のバッテン病のいずれに対しても治療法または承認済みの治療法は存在しない。
【0005】
本発明者らは、細胞クリアランス経路が、マスター転写調節因子がTFEBであるCLEAR遺伝子ネットワーク(Coordinated Lysosomal Expression and Regulation)と名付けられた統合制御系によって調和されることをすでに発見している。しかしながら、TFEBおよびCLEARネットワークを調節するインビボ経路は十分に理解されておらず、このような疾患を治療するための薬物開発を困難にしている。例えば、TFEBを標的とする治療法または承認済みの治療法は現在存在しない。さらに、これらの疾患のいくつかに対する治療候補について臨床試験が進行中であるが、大多数のリソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全によって特徴付けられる多くの障害に対する承認済みの治療は現在のところ存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、当技術分野において、リソソームクリアランスの増強および細胞凝集体の除去に基づく、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害を治療するための組成物および方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本開示は、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害を、それを必要とする対象において治療する方法を提供する。この方法は、プロテインキナーゼB阻害剤を含む組成物の治療有効量を投与することを含む。リソソーム機能不全障害は、若年性神経セロイドリポフスチン症であり得る。プロテインキナーゼB阻害剤は、トレハロースおよびMK-2206から選択することができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、プロテインキナーゼB阻害剤はトレハロースであり得る。プロテインキナーゼB阻害剤がトレハロースである場合、組成物は、プロテインキナーゼBを阻害するためのトレハロースからなる単一活性成分を含み得る。プロテインキナーゼB阻害剤がトレハロースである場合、組成物はトレハラーゼ阻害剤をさらに含み得る。トレハラーゼ阻害剤はミグルスタットであり得る。ミグルスタットは、約30~約100mg/Kg、約100~約300mg/Kg、または約100~約150mg/Kgの投薬量範囲で投与することができる。さらに、プロテインキナーゼB阻害剤はトレハロース類似体であり得る。好ましくは、トレハロース類似体は、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択される。トレハロースを含む組成物は、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間で非経口投与でき、投与は120分以内に完了させてよい。組成物がミグルスタットをさらに含む場合、組成物は、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間、ならびにミグルスタットの1回投与用量が約30から約100mg/kg、約100から約300mg/Kg、または約100から約150mg/Kgの範囲で非経口投与することができる。
【0009】
または、トレハロースを含む組成物は、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間で経口投与することができる。組成物がミグルスタットをさらに含む場合、組成物は、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間、ならびにミグルスタットの1回投与用量が約30から約100mg/kg、約100から約300mg/Kg、または約100から約150mg/Kgの範囲で経口投与することができる。
【0010】
プロテインキナーゼB阻害剤はMK-2206であり得る。プロテインキナーゼB阻害剤がMK-2206であるとき、組成物は約30~約100mgのMK-2206を含み得る。または、組成物は約100~約300mgのMK-2206を含み得る。プロテインキナーゼB阻害剤がMK-2206である場合、組成物は、約100mg/kg~約150mg/kgの1回投与用量で投与することができる。MK-2206を含む組成物は1日1回投与することができる。または、MK-2206を含む組成物は1日2回投与してもよい。組成物はトレハラーゼ阻害剤をさらに含み得る。トレハラーゼ阻害剤はミグルスタットであり得る。
【0011】
トレハロースを含む組成物は1日1回投与することができる。または、トレハロースを含む組成物は1日2回投与してもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、プロテインキナーゼB阻害剤はMK-2206であり得る。組成物は、約30~約100mgのMK-2206を含み得る。または、組成物は約100~約300mgのMK-2206を含み得る。組成物は非経口投与することができる。組成物は、MK-2206の1回投与用量が約100mg/kgから約150mg/kgで投与することができる。組成物は1日1回投与される。または、組成物は1日2回投与される。
【0013】
別の態様では、本開示は、トレハロースを含む組成物の治療有効量を対象に投与することによって、それを必要とする対象におけるリソソーム機能不全を特徴とするリソソーム蓄積障害を治療する方法を提供する。リソソーム機能不全障害は、若年性神経セロイドリポフスチン症であり得る。トレハロースを含む組成物の治療有効量を投与することにより、プロテインキナーゼBの活性を阻害することができる。
【0014】
組成物はトレハラーゼ阻害剤をさらに含み得る。トレハラーゼ阻害剤はミグルスタットであり得る。または、組成物は、プロテインキナーゼBを阻害するためのトレハロースからなる単一活性成分を含み得る。
【0015】
組成物は、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間で非経口投与することができ、投与は120分以内に完了してよい。または、組成物は、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間で経口投与することができる。組成物は1日1回または1日2回投与することができる。
【0016】
さらに別の態様では、本開示は、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、MK-2206を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。リソソーム機能不全障害は、若年性神経セロイドリポフスチン症であり得る。組成物は、約30~約100mgのMK-2206、または約100~約300mgのMK-2206を含み得る。組成物は、100mg/kgから150mg/kgの間の1回投与用量で投与することができる。組成物は1日1回または1日2回投与される。
【0017】
組成物はトレハラーゼ阻害剤をさらに含み得る。トレハラーゼ阻害剤はミグルスタットであり得る。ミグルスタットは、約30~約100mg/Kg、約100~約300mg/Kg、または約100~約150mg/Kgの投薬量範囲で投与することができる。
【0018】
別の態様では、本開示は、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、トレハラーゼ類似体を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。リソソーム機能不全障害は、若年性神経セロイドリポフスチン症であり得る。組成物は、トレハロース類似体からなるプロテインキナーゼBを阻害するための単一活性成分を含み得る。組成物はトレハラーゼ阻害剤をさらに含み得る。トレハラーゼ阻害剤はミグルスタットであり得る。
【0019】
さらなる態様では、本開示は、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、トレハロースおよびトレハラーゼ阻害剤を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。リソソーム機能不全障害は、若年性神経セロイドリポフスチン症であり得る。トレハラーゼ阻害剤はミグルスタットであり得る。ミグルスタットは、約30~約100mg/Kg、約100~約300mg/Kg、または約100~約150mg/Kgの投薬量範囲で投与することができる。トレハロースはトレハロース類似体であってもよく、前記トレハロース類似体はレンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択することができる。組成物がミグルスタットを含む場合、前記組成物は、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間、およびミグルスタットの1回投与用量が約30から約100mg/kg、約100から約300mg/kg、または約100から約150mg/kgの範囲で非経口投与することができる。組成物がミグルスタットを含む場合、前記組成物は、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間、ならびにミグルスタットの1回投与用量が約30から約100mg/kg、約100から約300mg/Kg、または約100から約150mg/Kgの範囲で経口投与することができる。組成物は1日1回または1日2回投与することができる。
【0020】
さらに別の態様では、本開示は、トレハロースを使用する方法であって、プロテインキナーゼBとトレハロースを含む組成物とを接触させることによってプロテインキナーゼBの活性を阻害することを含む方法を提供する。トレハロースはトレハロース類似体であってもよい。トレハロース類似体は、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択することができる。プロテインキナーゼBは、プロテインキナーゼBを有する細胞を接触させることによって、トレハロースを含む組成物と接触させることができる。または、プロテインキナーゼBは、トレハロースを含む組成物を対象に投与することによって接触させることができる。
【0021】
この方法は、プロテインキナーゼBによって媒介される病状を、それを必要とする対象において治療するために使用することができる。病状は、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害、過剰増殖性疾患、および免疫障害から選択することができる。リソソーム機能不全障害は、若年性神経セロイドリポフスチン症であり得る。
【0022】
別の態様では、本開示は、トレハロースを使用する方法であって、プロテインキナーゼBとトレハロース類似体を含む組成物とを接触させることによってプロテインキナーゼBの活性を阻害することを含む方法を提供する。トレハロース類似体は、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択することができる。
【0023】
さらなる態様では、本開示は、過剰増殖性疾患をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース、および任意選択でトレハラーゼ阻害剤を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0024】
一態様では、本開示は、過剰増殖性疾患をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース類似体を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0025】
さらに別の態様では、本開示は、免疫障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース、および任意選択でトレハラーゼ阻害剤を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0026】
別の態様では、本開示は、免疫障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース、およびミグルスタットを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0027】
さらなる態様では、本開示は、免疫障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース類似体を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0028】
さらに別の態様では、本開示は、機能不全リソソームクリアランスを示す細胞中の未分解物質のクリアランスを増強する方法であって、前記細胞をプロテインキナーゼB阻害剤を含む組成物と接触させることによって細胞中のプロテインキナーゼBを阻害することを含む方法を提供する。細胞はインビトロで接触させることができる。または、細胞は、ある量のプロテインキナーゼB阻害剤を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することによってインビボで接触させることができる。プロテインキナーゼB阻害剤は、トレハロース、トレハロース類似体、およびMK-2206から選択さすることができる。いくつかの実施形態では、プロテインキナーゼB阻害剤はトレハロースである。組成物は、プロテインキナーゼBを阻害するためのトレハロースからなる単一活性成分を含む。または、組成物はトレハラーゼ阻害剤をさらに含み得る。トレハラーゼ阻害剤はミグルスタットであり得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、プロテインキナーゼB阻害剤は、MK-2206またはトレハロース類似体であり得る。トレハロース類似体は、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択することができる。
本発明は、たとえば、以下の項目を提供する。
(項目1)
リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、プロテインキナーゼB阻害剤を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法。
(項目2)
前記リソソーム機能不全障害が、若年性神経セロイドリポフスチン症である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記プロテインキナーゼB阻害剤がトレハロースおよびMK-2206から選択される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記プロテインキナーゼB阻害剤がトレハロースである、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記組成物が、プロテインキナーゼBを阻害するためのトレハロースからなる単一活性成分を含む、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記組成物がトレハラーゼ阻害剤をさらに含む、項目4に記載の方法。
(項目7)
前記トレハラーゼ阻害剤がミグルスタットである、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記ミグルスタットが、約30~約100mg/kg、約100~約300mg/kg、または約100~約150mg/kgの投薬量範囲で投与される、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記トレハロースがトレハロース類似体である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記トレハロース類似体が、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択される、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記組成物が、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間で非経口投与される、項目4に記載の方法。
(項目12)
前記投与が120分以内に完了する、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記組成物が、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間、ならびにミグルスタットの1回投与用量が約30から約100mg/kg、約100から約300mg/Kg、または約100から約150mg/Kgの範囲で非経口投与される、項目7に記載の方法。
(項目14)
前記組成物が、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間で経口投与される、項目4に記載の方法。
(項目15)
前記組成物が、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間、ならびにミグルスタットの1回投与用量が約30から約100mg/kg、約100から約300mg/Kg、または約100から約150mg/Kgの範囲で経口投与される、項目7に記載の方法。
(項目16)
前記組成物が1日1回投与される、項目4に記載の方法。
(項目17)
前記組成物が1日2回投与される、項目4に記載の方法。
(項目18)
前記プロテインキナーゼB阻害剤がMK-2206である、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記組成物が、約30~約100mgのMK-2206を含む、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記組成物が約100~約300mgのMK-2206を含む、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記組成物が非経口投与される、項目18に記載の方法。
(項目22)
前記組成物が、MK-2206の1回投与用量が約100mg/kgから約150mg/kgで投与される、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記組成物が1日1回投与される、項目21に記載の方法。
(項目24)
前記組成物が1日2回投与される、項目21に記載の方法。
(項目25)
リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、トレハロースを含む組成物の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
(項目26)
前記リソソーム機能不全障害が若年性神経セロイドリポフスチン症である、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記組成物がトレハラーゼ阻害剤をさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目28)
前記トレハラーゼ阻害剤がミグルスタットである、項目27に記載の方法。
(項目29)
トレハロースを含む組成物の治療有効量を投与することにより、プロテインキナーゼBの活性を阻害する、項目25に記載の方法。
(項目30)
前記組成物が、プロテインキナーゼBを阻害するためのトレハロースからなる単一活性成分を含む、項目25に記載の方法。
(項目31)
前記組成物が、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間で非経口投与される、項目25に記載の方法。
(項目32)
前記投与が120分以内に完了する、項目28に記載の方法。
(項目33)
前記組成物が、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間で経口投与される、項目22に記載の方法。
(項目34)
前記組成物が1日1回投与される、項目22に記載の方法。
(項目35)
前記組成物が1日2回投与される、項目22に記載の方法。
(項目36)
リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、MK-2206を含む組成物の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
(項目37)
前記リソソーム機能不全障害が、若年性神経セロイドリポフスチン症である、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記組成物が、約30~約100mgのMK-2206を含む、項目36に記載の方法。
(項目39)
前記組成物が約100~約300 mgのMK-2206を含む、項目36に記載の方法。
(項目40)
前記組成物が、100mg/kgから150mg/kgの間の1回投与用量で投与される、項目36に記載の方法。
(項目41)
前記組成物が1日1回投与される、項目36に記載の方法。
(項目42)
前記組成物が1日2回投与される、項目36に記載の方法。
(項目43)
前記組成物がトレハラーゼ阻害剤をさらに含む、項目36に記載の方法。
(項目44)
前記トレハラーゼ阻害剤がミグルスタットである、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記ミグルスタットが、約30~約100mg/kg、約100~約300mg/kg、または約100~約150mg/kgの投薬量範囲で投与される、項目44に記載の方法。
(項目46)
リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、トレハロース類似体を含む組成物の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
(項目47)
前記リソソーム機能不全障害が若年性神経セロイドリポフスチン症である、項目46に記載の方法。
(項目48)
前記組成物が、プロテインキナーゼBを阻害するための前記トレハロース類似体からなる単一活性成分を含む、項目46に記載の方法。
(項目49)
前記組成物がトレハラーゼ阻害剤をさらに含む、項目46に記載の方法。
(項目50)
前記トレハラーゼ阻害剤がミグルスタットである、項目49に記載の方法。
(項目51)
リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、トレハロースおよびトレハロース阻害剤を含む組成物の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
(項目52)
リソソーム機能不全障害が若年性神経セロイドリポフスチン症である、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記トレハラーゼ阻害剤がミグルスタットである、項目51に記載の方法。
(項目54)
前記ミグルスタットが、約30~約100mg/kg、約100~約300mg/kg、または約100~約150mg/kgの投薬量範囲で投与される、項目53に記載の方法。
(項目55)
前記トレハロースがトレハロース類似体である、項目51に記載の方法。
(項目56)
前記トレハロース類似体が、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択される、項目55に記載の方法。
(項目57)
前記組成物が、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間、ならびにミグルスタットの1回投与用量が約30から約100mg/kg、約100から約300mg/Kg、または約100から約150mg/Kgの範囲で非経口投与される、項目53に記載の方法。
(項目58)
前記組成物が、トレハロースの1回投与用量が0.1g/kgから1g/kgの間、ならびにミグルスタットの1回投与用量が約30から約100mg/kg、約100から約300mg/Kg、または約100から約150mg/Kgの範囲で経口投与される、項目53に記載の方法。
(項目59)
前記組成物が1日1回投与される、項目51に記載の方法。
(項目60)
前記組成物が1日2回投与される、項目51に記載の方法。
(項目61)
トレハロースを使用する方法であって、プロテインキナーゼBとトレハロースを含む組成物とを接触させることによって前記プロテインキナーゼBの活性を阻害することを含む方法。
(項目62)
前記トレハロースがトレハロース類似体である、項目61に記載の方法。
(項目63)
前記トレハロース類似体が、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択される、項目62に記載の方法。
(項目64)
前記プロテインキナーゼBが、プロテインキナーゼBを有する細胞をトレハロースを含む組成物と接触させることによって接触させられる、項目61に記載の方法。
(項目65)
前記プロテインキナーゼBが、トレハロースを含む組成物を対象に投与することによって接触させられる、項目61に記載の方法。
(項目66)
プロテインキナーゼBによって媒介される病状を、それを必要とする対象において治療するために使用される、項目61に記載の方法。
(項目67)
前記病状が、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害、過剰増殖性疾患、および免疫障害から選択される、項目66に記載の方法。
(項目68)
前記リソソーム機能不全障害が、若年性神経セロイドリポフスチン症である、項目67に記載の方法。
(項目69)
トレハロースを使用する方法であって、プロテインキナーゼBとトレハロース類似体を含む組成物とを接触させることによって前記プロテインキナーゼBの活性を阻害することを含む方法。
(項目70)
前記トレハロース類似体が、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択される、項目69に記載の方法。
(項目71)
過剰増殖性疾患をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース、および任意選択でトレハラーゼ阻害剤を前記対象に投与することを含む方法。
(項目72)
過剰増殖性疾患をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース、およびミグルスタットを前記対象に投与することを含む方法。
(項目73)
過剰増殖性疾患をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース類似体を前記対象に投与することを含む方法。
(項目74)
免疫障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース、および任意選択でトレハラーゼ阻害剤を前記対象に投与することを含む方法。
(項目75)
免疫障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース、およびミグルスタットを前記対象に投与することを含む方法。
(項目76)
免疫障害をそれを必要とする対象において治療する方法であって、治療有効量のトレハロース類似体を前記対象に投与することを含む方法。
(項目77)
機能不全リソソームクリアランスを示す細胞中の未分解物質のクリアランスを増強する方法であって、前記細胞をプロテインキナーゼB阻害剤を含む組成物と接触させることによって前記細胞中のプロテインキナーゼBを阻害することを含む方法。
(項目78)
前記細胞がインビトロで接触させられる、項目77に記載の方法。
(項目79)
前記細胞が、ある量のプロテインキナーゼB阻害剤を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することによってインビボで接触させられる、項目77に記載の方法。
(項目80)
前記プロテインキナーゼB阻害剤が、トレハロース、トレハロース類似体、およびMK-2206から選択される、項目77に記載の方法。
(項目81)
前記プロテインキナーゼB阻害剤がトレハロースである、項目77に記載の方法。
(項目82)
前記組成物が、プロテインキナーゼBを阻害するためのトレハロースからなる単一活性成分を含む、項目81に記載の方法。
(項目83)
前記組成物がトレハラーゼ阻害剤をさらに含む、項目81に記載の方法。
(項目84)
前記トレハラーゼ阻害剤がミグルスタットである、項目83に記載の方法。
(項目85)
前記プロテインキナーゼB阻害剤がMK-2206である、項目80に記載の方法。
(項目86)
前記プロテインキナーゼB阻害剤がトレハロース類似体である、項目80に記載の方法。
(項目87)
前記トレハロース類似体が、レンツトレハロースA、レンツトレハロースB、およびレンツトレハロースCから選択される、項目86に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】トレハロースを給餌したJNCLマウスにおける疾患病状の改善を示す図である。(a)トレハロースはCln3Δex7-8マウスの生存期間を有意に延長した。処置(Tre)Cln3Δex7-8マウス:n=13。未処置(UT)Cln34ex7-8マウス:n=12。(b)トレハロース処置を行った、および行わなかった12ヶ月齢のWTマウスおよびCln3Δex7-8マウスの脳重量。すべてのマウス群、n=4または5。(c)トレハロース処置を行った、および行わなかった12ヶ月齢のWTおよびCln3Δex7-8マウスの脳の異方性比率。左パネル:4つの群の脳の代表的な冠状画像;脳梁は黄色い矢印で示されている。右パネル:脳梁容積の定量化。すべてのマウス群、n=3または4。スケールバー、2μm。処置群および対照群のマウスにおける脳梁の3次元再構成は、補足動画1~4で報告される。(d)ホットプレートテストでは、Cln3Δex7-8マウスは、野生型(WT)同腹仔と比較して50℃の加熱された金属表面に置かれ多場合の反応が遅くなり、痛覚感受性が低下することを示している。トレハロース(Tre)処置により、Cln3Δex7-8マウスにおいてこの表現型は救済された。すべてのマウス群、n=14~19。データは平均値±平均値の標準誤差を表す。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【0031】
図2】処置マウスおよび未処置マウスにおける体重の評価を示す図である。12ヶ月齢のWTマウスおよびCln3Δex7-8マウスの体重のヒストグラムは、トレハロース(Tre)処置にかかわらず、遺伝子型間に差がないことを明らかにしている。ns、非有意。すべてのマウス群、n=8~11。データは平均値±SEMを表す。
【0032】
図3】処置および未処置マウスにおける聴覚機能の評価を示す図である。(a)生後10ヶ月の聴性脳幹反応(ABR)は、WT同腹仔と比較してCln3Δex7-8マウスにおいてABR閾値の上昇を示し、これは聴力損失を示す。(b)トレハロース処置は両方の遺伝子型においてABR閾値を低下させ、これは聴覚の改善を示している。すべてのマウス群、n=4~6。データは平均値±SEMを表す。P<0.05。
【0033】
図4】蓄積負荷の評価を示す図である。(a、b)トレハロース処置(Tre)マウスおよび未処置マウスの、7ヶ月齢での一次体性感覚皮質(S1BF;a)、および相互接続視床中継核(VPM/VPL;b)における蓄積物質の共焦点画像および定量化。閾値画像分析により、Cln3Δex7-8マウスの皮質および視床においてより高レベルの自己蛍光蓄積物質が明らかになり、これがトレハロース処置により減少した。スケールバー、50μmすべてのマウス群、n=3または4。(c、d)12ヶ月齢のトレハロース処置マウスおよび対照マウスの、一次体性感覚皮質(S1BF;c)、および相互接続視床中継核(VPM/VPL;d)における蓄積物質の量の共焦点画像および定量化。閾値画像分析により、Cln3Δex7-8マウスの皮質および視床においてより高レベルの自己蛍光蓄積物質が明らかになり、これがトレハロース処置により部分的に減少した。すべてのマウス群、n=3または4。スケールバー、50μm(a~d)。データは平均値±平均値の標準誤差を表す。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。(e、f)未処理(UT)Cln3Δex7-8マウス脳のTEM分析は、プルキンエ細胞(e)および皮質ニューロン(f)の両方において、高電子密度の細胞質物質(黄色の矢じり)の顕著な蓄積を示す。FPP計数の頻度分布は、トレハロース(Tre)処置マウスにおけるFPPの有意な減少を明らかにした。マウスの群当たりの細胞数n=18。頻度分析にはコルモゴロフ-スミルノフ検定を適用した。スケールバー、2μm。
【0034】
図5】処置および未処置のCln3Δex7-8マウスにおける12ヶ月齢でのリソソーム蓄積負荷の透過型電子顕微鏡観察を示す図である。電子顕微鏡写真は、未処置のJNCLマウスのリソソームにおけるフィンガープリントプロファイル(FPP)の存在を示し、これは処置マウスでは劇的に減少している。顕微鏡写真は、未処置(UT)および処置(Tre)マウスのコホートからのプルキンエ細胞の代表例である。矢印はFPPを示す。スケールバーは0.2μmである。
【0035】
図6】神経炎症の評価の図である。(a、b)一次体性感覚皮質(S1BF;a)および相互接続視床中継核(VPM/VPL;b)におけるGFAPの免疫組織化学的染色を用いた、7ヶ月齢でのトレハロース処置(Tre)および未処置(UT)のWTおよびCln3Δex7-8マウスにおける星状細胞増加症の分析および定量化。(c、d)S1BF(c)およびVPM/VPL(d)脳領域におけるCD68の免疫組織化学的染色を用いたミクログリア活性化の分析および定量化。ミクログリア活性化は、Cln3Δex7-8マウスのS1BFおよびVPM/VPL領域の両方で明らかであり、これはS1BF領域におけるトレハロース処置によって有意に救済される。すべてのマウス群、n=4または5。(e、f)S1BF(e)およびVPM/VPL(f)におけるGFAPの免疫組織化学的染色を用いた、12ヶ月齢でのトレハロース処置(Tre)マウスおよび対照(UT)マウスにおける星状細胞増加症の分析および定量化。トレハロース処置は、Cln3Δex7-8マウスにおけるGFAP免疫反応性を、S1BF領域で43%およびVPM/VPL領域で67%減少させた。(g、h)S1BF(g)およびVPM/VPL(h)脳領域における、CD68に対する免疫組織化学的染色を用いたミクログリア活性化の分析および定量化。ミクログリア活性化は、Cln3Δex7-8マウスのS1BFおよびVPM/VPL領域の両方において明らかであり、これはトレハロース処置によりVPM/VPL領域において48%減少される。すべてのマウス群、n=3または4。スケールバー、50mm。データは平均値±平均値の標準誤差を表す。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【0036】
図7】トレハロース処理におけるTFEBのmTORC1非依存性核内移行を示す図である。(a)トレハロース処理におけるTFEBの時間依存性核内移行(緑色のシグナル)を示すHeLa/TFEB細胞の共焦点顕微鏡分析。(b)24時間のトレハロース処理(Tre)後または未処理細胞(UT)中のTFEB細胞内局在化(C、細胞質;N、核)の定量化。a、bのスケールバーは40μmである。(c)免疫ブロット分析により、mTORC1の下流の基質の発現レベルが示される。野生型(WT)およびTSC2ヌルMEF細胞をトレハロース(Tre;100mM)で24時間処理するか、または未処理のままにした。対照として、細胞をTorin1(300nM)またはラパマイシン(300nM)で2時間処理し、その後溶解物を抽出した。ホスホ-および総S6K1(P-S6K1およびT-S6K1)、ホスホ-および総S6(P-S6およびT-S6)、ならびにホスホ-および総4E-BP1(P-4E-BP1およびT-4E-BP1)が、mTORC1活性の読み出しとして検出された。(d)WT細胞および(e)TSC2ヌルMEF細胞をTFEB-3×FLAGで一過性にトランスフェクトし、トレハロース投与後のTFEBの核内移行について試験した。(f)TFEB-3×FLAGおよびmTORまたは(g)TFEB-3×FLAGおよび構成的に活性なmTOR(CA-mTOR、C2419K)構築物を同時トランスフェクトしたHeLa細胞を、トレハロース処理(100mMで24時間)または未処理のままにし、その後、それぞれFLAGおよびmTOR抗体を用いてTFEB(赤)およびmTOR(緑)を免疫蛍光標識した。スケールバー、10μm(d~g)。データは平均値±平均値の標準誤差を表す。
【0037】
図8】トレハロースがmTORC1活性を変化させないことを示す図である。HeLa細胞を、トレハロースで24時間または48時間、またはmTORC1阻害の対照としてラパマイシン(600nM、16時間)またはTorin1(300nM、2時間)で処理した。mTORC1基質の免疫ブロット分析は、トレハロース処理においてそれらのリン酸化状態が変化しないことを示している。GAPDHを負荷対照として使用した。
【0038】
図9】トレハロースはS211でTFEBのリン酸化を修正しない。TFEB-Flagを、TFEB-FlagをトランスフェクトしたHeLa細胞から免疫沈降させ、24時間トレハロースで処理するか、または未処理のままにした。免疫ブロット分析は、ホスホ(Ser)-14-3-3結合モチーフに対する抗体および対照抗体を用いて行った。
【0039】
図10】TFEBの細胞内局在はmTORC2には依存しないことを示す図である。(a)HeLa細胞に、指示されている場合にはRictorに対するsiRNAを72時間トランスフェクトした。細胞を、指示されている場合、分析前に24時間トレハロースで処理した。棒グラフは、3回の繰り返しの平均値を表す。データは平均値±SEMを表す。P<0.05、**P<0.001(b)HeLa/TFEB-Flag細胞を(a)のように処理し、免疫蛍光共焦点分析のために標識した。スケールバーは20μmである。
【0040】
図11】トレハロースによるCLEARネットワークの活性化を示す図である。(a、b)トレハロース処理におけるリソソーム遺伝子の上方制御を示す、対照(CTRL;a)およびJNCL線維芽細胞(b)の発現分析。遺伝子発現は、ハウスキーピング遺伝子、GAPDHに対して正規化した。(c)トレハロース投与により上方制御された遺伝子を表すCytoscape生成ネットワーク。ドット(遺伝子を表す)は青い線によって接続されており、色強度は共調節の程度に比例している。ネットワークはTFEBリソソーム標的を含むより緊密な発現関係を有する遺伝子のコア(ネットワークの中心)を有するが、よりゆるやかに相関している他の遺伝子がネットワークの周辺に見出される。(d、e)リソソーム遺伝子を用いた、CTRL(d)およびJNCL線維芽細胞(e)へのトレハロース投与後のトランスクリプトーム変化のGSEA。上のパネルは、ランク付けされた遺伝子発現データについてのGSEAによって生成された濃縮プロットを示す(左、赤:上方制御;右、青:下方制御)。垂直の青いバーは、ランク付けされたリスト内の各選択された遺伝子セットにおける遺伝子の位置を示す。下のパネルは、ランク付けされたリスト内のリソソーム遺伝子の累積分布を示す。分析した遺伝子の50%を含むランキング位置が示されている。分析は、トレハロース投与後に上方制御された遺伝子の中のリソソーム遺伝子の濃縮を示す。(f、g)CTRL(f)およびJNCL線維芽細胞(g)へのトレハロース投与後の、リソソーム遺伝子およびリソソーム代謝において公知の役割を有するTFEB標的を含むトランスクリプトームの変化のGSEAを報告している。TFEBリソソーム標的は、一般的なリソソーム遺伝子よりも高いESスコアを有し、トレハロースが、対照およびJNCL線維芽細胞の両方においてリソソーム機能に関与するTFEB標的を優先的に上方制御したことを示している。データは平均値±平均値の標準誤差を表す。
【0041】
図12】インビボでのTFEB核内移行とCLEARネットワーク活性化を示す図である。(a、b)E17.5でのWT(a)およびCln3Δex7-8胚(b)からの培養皮質ニューロンの発現分析は、トレハロース投与におけるリソソーム遺伝子の転写活性化を示す。(c、d)WT(c)およびCln3Δex7-8(d)マウスからの脳切片の共焦点顕微鏡観察は、処置マウスのプルキンエにおけるTFEBの優勢な核分布を示す。棒グラフのCとNは、それぞれ細胞質ゾルおよび核の分布を示している。スケールバー、20μm。(e、f)未処置マウスと比較した、トレハロース投与におけるWT(e)およびCln3Δex7-8(f)マウスからの脳ホモジネートの発現分析は、リソソーム遺伝子の転写活性化を示している。遺伝子発現は、ハウスキーピング遺伝子S16に対して正規化した。赤い破線は未処置マウスにおける相対的遺伝子発現を示す。データは平均値±平均値の標準誤差を表す。
【0042】
図13】WTおよびCln3Δex7-8マウス由来の処理された星状細胞におけるリソソームの増強を示す図である。野生型(WT)およびJNCL(Cln3Δex7-8)マウスから単離した培養星状細胞におけるリソソームマーカー、Lamp1の免疫ブロット分析。
【0043】
図14】AktがTFEBをSer467でリン酸化することを示す図である。(a)トレハロースおよびキナーゼ阻害剤の添加時のTFEBの核内移行を示すHeLa/TFEB細胞の共焦点顕微鏡分析(AktについてはMK2206;PI3KについてはLY294002;mTORについてはtorin1およびラパマイシン)。破線ボックス(上段)は、高出力インサート(下段)の位置を示している。(b)同じキナーゼ阻害剤と共にインキュベートしたHeLa/TFEB細胞の細胞内分画。(c)以下の種からのTFEBアミノ酸配列のマルチアラインメント:Ac、グリーンアノール(Anolis carolensis);Bt、ウシ(ボース・タウルス(Bos taurus));Dr、ゼブラフィッシュ(ダニオ・レニオ(Danio rerio));Fc、イエネコ(フェリス・カトゥース(Felix catus));Gg、セキショクヤケイ(ガルス・ガルス(gallus gallus);Hs、ホモサピエンス;La、アフリカゾウ(ロクソドンタ・アフリカーナ(Loxodonta africana));Mm、ハツカネズミ(ムス・ムスクルス(Mus musculus));Rn、ドブネズミ(ラトス・ノルベギクス(Rattus Norvegicus));Sh、タスマニアデビル(Sarcophilus harrisii);Sp、アメリカムラサキウニ(Strongylocentrotus purpuratus);XI、アフリカツメガエル(キセノプス・レヴィス(Xenopus laevis))。Aktリン酸化部位のコンセンサスロゴ(weblogo.berkeley.edu/logo.cgiで作成)はTFEB配列と整列している。位置467はヒトタンパク質配列を指す。(d)TFEBおよびTFEB(S467A)の細胞内局在化。(e)TFEBまたはTFEB(S467A)をトランスフェクトしたHeLa細胞におけるリソソームおよびオートファジー遺伝子の発現分析。遺伝子発現を、ハウスキーピング遺伝子、GAPDHに対して正規化した。破線は、空のベクターをトランスフェクトした細胞における相対的遺伝子発現を示す。(f)HeLa細胞における14-3-3タンパク質とTFEB-FlagまたはTFEB(S467A)との共局在化アッセイ。(g)TFEBまたはTFEB(S467A)と14-3-3タンパク質との免疫共沈降アッセイ。(h)Aktインビトロキナーゼアッセイ。組換え活性AKT1および精製TFEB-FlagまたはTFEB(S467A)-Flagを[32P]ATPの存在下でインキュベートしたところ、AktがTFEBをリン酸化すること、およびこの反応がS467を必要とすることが明らかになった。(i)3つの異なるAKTsiRNAによって媒介されるAKTサイレンシングは、ウエスタンブロット分析によって示されるように、TFEB核内移行およびリソソーム拡大をもたらした。(j)HeLa細胞の経時分析は、LAMP1、p62およびLC3マーカーによって示されるように、トレハロース誘導性AKT不活性化およびオートファジーフラックスの増加を示す。(k)TFEB-FLAGと、AKT-GFPまたはAKT(DD)-GFPのいずれかとを共トランスフェクトしたHeLa細胞を、24時間トレハロースで処理し、その後TFEB(赤色)およびAKT-GFP(緑色)で免疫蛍光標識した。DAPIは細胞の核を示す。(1)トレハロース処置マウスからのWTおよびCln3Δex7-8の脳ホモジネートにおいてAKTの活性化の減少が観察された。スケールバー、10μm(a、e、f、k)。データは平均値±平均値の標準誤差を表す。P<0.05。
【0044】
図15】血清刺激がAkt活性を調節することによりTFEBの細胞内局在を調節することを示す図である。(a)WT細胞およびTsc2-/-細胞を血清飢餓状態にし(16時間)、指示されている場合は飢餓の最後の2時間にMK2206で処理し、指示されている場合は最後の30分間透析血清で刺激した。示したように細胞溶解物を抗体でプローブした。(b)WT細胞およびTsc2-/-細胞にTFEB-Flagを一過性にトランスフェクトし、(a)と同様に処理し、免疫蛍光共焦点顕微鏡によって分析した。スケールバーは60μmである。
【0045】
図16】トレハロースがGSK3β非依存的にTFEBのAkt調節を制御することを示す図である。(a)HeLa細胞を24時間トレハロースで処理するか、または未処理のままにした。免疫ブロット分析を用いて、GSK33のレベルおよびそのリン酸化状態を評価した。GAPDHを負荷対照として使用した。(b)HeLa細胞に、TFEB-3×Flagおよび構成的に活性なGSK3β(CA-GSK3β)を同時トランスフェクトし、トレハロースまたはMK2206で24時間処理し、Flag(赤色)およびGSK3β(緑色)についての免疫蛍光標識により調べた。スケールバーは20&mである。(c)HeLa細胞に、TFEB-3×Flagおよび構成的に活性なAkt(Akt-DD)を同時トランスフェクトし、GSK3β阻害剤CHIR99021で24時間処理し、Flag(赤)およびAkt(緑)についての免疫蛍光標識により調べた。スケールバーは20μmである。
【0046】
図17】トレハロースがERKを阻害しないことを示す図である。TFEB-FlagまたはTFEB-S467A-Flagプラスミドを一過性にトランスフェクトされたHeLa細胞からの全タンパク質抽出物のウエスタンブロット分析は、TFEB-S467Aのより低い分子量へのシフトを示す。
【0047】
図18】S467A TFEB型の分子量のシフトを示す図である。TFEB-FlagまたはTFEB-S467A-Flagプラスミドを一過性にトランスフェクトされたHeLa細胞からの全タンパク質抽出物のウエスタンブロット分析は、TFEB-S467Aのより低い分子量へのシフトを示す。
【0048】
図19】TFEB-S142AおよびTFEB-S211Aの共焦点顕微鏡分析を示す図である。HeLa細胞に指示された構築物を一過性にトランスフェクトし、免疫蛍光共焦点顕微鏡分析により分析した。スケールバーは10μmである。
【0049】
図20】WTおよびTsc2-/-マウス胚性線維芽細胞におけるTFEB(S467A)核局在化を示す図である。Tsc2-/-マウス胚性線維芽細胞。WTおよびTsc2-/-MEFにTFEB(S467A)を一過性にトランスフェクトし、共焦点顕微鏡によって分析した。スケールバーは10μmである。
【0050】
図21】AktがTFEBの安定性を調節することを示す図であるバイシストロン性TFEB-Flag-IRES-GFPまたはTFEB(S467A)-Flag-IRES-GFPと、Akt(DD)-GFPベクターを同時トランスフェクトした細胞、またはAkt(DD)-GFPベクターをトランスフェクトしない細胞由来の溶解物の免疫ブロットは、変異型TFEBタンパク質が野生型TFEBよりも安定であることを示す。
【0051】
図22】AktがTFEBと相互作用することを示す図である。(a)TFEBとAktとの相互作用を示す免疫共沈降アッセイ。(b)AlaによるTFEB Ser467の置換は、Aktとの結合に影響を及ぼさない。
【0052】
図23】AKTの薬理学的阻害は、TFE3およびMITFの核内移行を誘導する。HeLa細胞にTFE3-3×Flag(a)およびMITF-3×Flag(b)を一過性にトランスフェクトし、共焦点顕微鏡により分析した。スケールバーは10μmである。
【0053】
図24】Akt阻害が、TFEB核内移行およびCLEARネットワークの活性化を促進することを示す図である。(a)トレハロースまたはMK2206で処理した細胞における点の数の増加を示すLC3染色。(b)LC3脂質化のイムノブロット分析。(c)トレハロースまたはMK2206で処理した試料中の自食性小胞(黄色の矢印)の数の増加を示すHeLa細胞の顕微鏡写真。(d)MK2206で処理したHeLa細胞におけるリソソームおよびオートファジー遺伝子の発現分析。遺伝子発現は、ハウスキーピング遺伝子、GAPDHに対して正規化した。破線は未処理細胞における相対的遺伝子発現を示す。(e~g)Cln3Δex7-8マウスへのMK2206の腹腔内注射により、Aktの不活性化(e)、TFEBの核内移行(f)、およびリソソーム遺伝子とオートファジー遺伝子の上方制御(g)が示される。スケールバー、10μm(a)、50nm(c)、20μm(f)。
【0054】
図25】Aktの薬理学的阻害が、リソソーム内セロイド脂肪色素を有する患者からの初代細胞における細胞クリアランスを調節することを示す図である。(a~d)欠陥のあるCLN3(c.461-677del;a)、PPT1(c.665T>C、p.L222P;b)、TPP1(c.380G>A、p.R127Q;g.3556、IVS5-1G>C;c)またはMFSD8(c.103C>T、p.R35X;d)を有する初代線維芽細胞の共焦点顕微鏡分析は、MK2206およびトレハロースがセロイド脂肪色素沈着物(緑色)のクリアランスを誘導することを示す。欠陥タンパク質が示されている。各パネルについて60を超える細胞が分析された。スケールバー、30μm。(e)TFEBのAkt依存性トレハロース活性化の概略図。データは平均値±平均値の標準誤差を表す。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【0055】
図26】リソソーム内セロイド脂肪色素の蓄積に対するトレハロースおよびAktの効果を示す図である。欠陥のあるCLN3を有する初代線維芽細胞の共焦点顕微鏡分析(c.461-677del)。(a)細胞をトレハロースで7日間または4日間処理し、続いてトレハロースを除去し、さらに3日間増殖させた。(b)細胞を4日間7日間MK2206で処理し、続いてMK2206を除去し、さらに3日間増殖させた。データは平均値±SEMを表す。P<0.05、**P<0.01。スケールバーは30μmである。
【0056】
図27図7、8、9、10、13、14、15、16、17、18、21、22および24に示すウエスタンブロットの全スキャンを示す図である。
【0057】
図28】トレハロースおよびレンツトレハロースA、B、およびCの化学構造を示す図である。
【0058】
図29】トレハロースおよびその類似体であるラクトトレハロース(b);ガラクトトレハロース(c);6-アジドトレハロース(d)の化学構造を示す図である。
【0059】
図30】バッテン病マウスの神経細胞死に対するトレハロース、ミグルスタット、およびトレハロースとミグルスタットの併用の効果を示す図である。野生型マウス、未処置バッテン病マウス、ならびにトレハロース、低濃度のミグルスタット、高濃度のミグルスタット、およびミグルスタットとトレハロースとの併用で処置したバッテン病マウスにおけるCAS-3陽性細胞の密度のヒストグラム(細胞数/面積)。
【0060】
図31】バッテン病マウスのアストログリア増殖症に対するトレハロース、ミグルスタット、およびトレハロースとミグルスタットとの併用の効果を示す図である。(A)野生型マウス、未処置のバッテン病マウス、ならびにトレハロース、低濃度のミグルスタット、高濃度のミグルスタット、およびミグルスタットとトレハロースとの併用で処置したバッテン病マウス由来の神経組織におけるGFAP染色を示す顕微鏡画像。(B)野生型マウス、未処置バッテン病マウス、ならびにトレハロース、低濃度のミグルスタット、高濃度のミグルスタット、およびミグルスタットとトレハロースとの併用で処置したバッテン病マウスにおけるGFAP陽性細胞の密度(細胞数/面積)のヒストグラム。
【0061】
図32】バッテン病マウスのマクロファージ浸潤に対するトレハロース、ミグルスタット、およびトレハロースとミグルスタットとの併用の効果を示す図である。(A)野生型マウス、未処置のバッテン病マウス、ならびにトレハロース、低濃度のミグルスタット、高濃度のミグルスタット、およびミグルスタットとトレハロースとの併用で処置したバッテン病マウス由来の神経組織におけるCD68染色を示す顕微鏡画像。(B)野生型マウス、未処置バッテン病マウス、ならびにトレハロース、低濃度のミグルスタット、高濃度のミグルスタット、およびミグルスタットとトレハロースとの併用で処置したバッテン病マウスにおけるCAS-3陽性細胞の密度(細胞数/面積)のヒストグラム。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本開示は、プロテインキナーゼB(PKBおよびRelated to A and C(RAC)としても知られる;これ以降AKTとも呼ばれる)がリソソーム蓄積障害、リソソーム機能不全を特徴とする障害ならびにリソソーム関連細胞クリアランス経路の主な調節因子であるという発見に部分的に基づく。本発明者らは、インビボで、AKTがTFEB、およびTFEBによって転写的に調節されるCLEAR遺伝子ネットワークをmTORC1非依存的に調節することを発見した。さらに、AKTを阻害すると、TFEBのAKTリン酸化が防止され、それによってTFEBおよびCLEAR遺伝子ネットワークおよびCLEAR遺伝子ネットワークによって調整される細胞クリアランス経路が活性化され、リソソーム依存性細胞クリアランス経路によるクリアランスの増強をもたらすことを発見した。驚くべきことに、公知のAKT阻害剤を使用してAKTを阻害すると、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害において未分解物質の除去が誘導される。例えば、AKTを阻害すると、リソソーム代謝の障害によって引き起こされる神経変性疾患において、未分解物質が取り除かれ、症状が改善された。重要なことには、AKTを、二糖であるトレハロースを含む組成物を用いて阻害できることもまた顕著に発見された。
【0063】
したがって、本開示は、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害ならびにリソソーム機能不全および細胞老廃物の蓄積を特徴とする、またはこれらにより悪化する他の状態を治療する組成物および方法に関する。本開示はさらに、対象においてプロテインキナーゼBによって媒介される病状を治療するためにトレハロースを使用する方法に関する。これらの知見に基づく組成物および方法を、以下に詳細に記載する。
【0064】
I.組成物
一態様では、本開示は、活性成分としてプロテインキナーゼBの阻害剤(AKT)を含む組成物を提供する。AKTは、他の細胞プロセスの中でもとりわけ、グルコース代謝、アポトーシス、細胞増殖、転写、および細胞遊走において中心的な役割を果たすセリン/スレオニン特異的プロテインキナーゼ酵素である。
【0065】
本開示の組成物に適したAKT阻害剤は、任意のAKTタンパク質アイソフォームを阻害することができる。ヒトにおける公知のAKTタンパク質アイソフォームとしては、AKT1(PKBα)、AKT2(PKBβ)、およびAKT3(PKBγ)が挙げられる。本開示の組成物は、AKTアイソフォームのうちの1つに特異的なAKT阻害剤を含み得る。例えば、組成物は、AKT1阻害剤、AKT2阻害剤、またはAKT3阻害剤を含み得る。または、組成物は、2つ以上のAKTアイソフォームを阻害できるAKT阻害剤を含み得る。例えば、組成物は、AKT1およびAKT2を阻害し得るAKT阻害剤、AKT1およびAKT3を阻害し得るAKT阻害剤、AKT2およびAKT3を阻害し得るAKT阻害剤、またはAKT1、AKT2およびAKT3を阻害し得る汎-AKT阻害剤を含み得る。組成物はまた、1または複数のAKTアイソフォームに特異的なAKT阻害剤の組み合わせを含み得る。
【0066】
「AKT阻害剤」または「AKTの阻害剤」という用語は本明細書では互換的に使用され、AKTの活性を優先的に直接低下させるかまたは遮断する効果を有する任意の化合物を指すことができる。AKT阻害剤は、AKTの活性を阻害することによってAKTに直接作用し得る。例えば、直接AKT阻害剤は、基質が酵素の活性部位に入るのを阻害することによって、AKTキナーゼ活性を直接阻害することができる。直接AKT阻害剤はまた、阻害剤が基質結合部位以外のAKT上の部位に結合するアロステリック阻害剤であり得る。または、直接AKT阻害剤は、阻害剤がAKTリガンドの結合に影響を及ぼすことによって、AKTの活性を阻害するオルソステリック阻害剤であり得る。AKT阻害剤は、競合的、不競合的、非競合的な阻害剤、または可逆的阻害剤であり得る。さらに、AKT阻害剤によるAKTの阻害は不可逆的であり得る。
【0067】
AKT阻害剤はまた、AKTの1または複数の上流のアクチベーターを阻害することによって、またはAKT活性を調節し得る1または複数のシグナル伝達経路におけるAKTの1または複数の上流の阻害剤の活性化を介してAKT活性を阻害することができる。AKT阻害剤はまた、効果的な阻害が達成されるように複数の経路を遮断することによって、AKT活性を直接的または間接的に阻害するためのメカニズムの組み合わせを介して作用することができる。さらに、AKTの阻害剤は、AKTの転写、翻訳、翻訳後プロセシング、動員(すなわち、AKTの発現を減少させる)、またはAKTの発現の上流のアクチベーター、またはこれらの組み合わせを防止または減少させることによってAKT活性を阻害することができる。したがって、本開示の組成物に適したAKT阻害剤の非限定的な例としては、PI3KまたはPI3Kの下流エフェクターを阻害する化合物、PDPK1および/またはmTORC2または関連キナーゼを阻害する化合物、コリンキナーゼを阻害する化合物、bcl-2を阻害する化合物、Hsp-90を阻害する化合物、mTORキナーゼを阻害する化合物、プロテアソーム阻害剤、マルチキナーゼ阻害剤、AKTを直接阻害する化合物、PTENを活性化する化合物、およびAKT活性化の低下をもたらす他の化合物が挙げられる。さらに、AKT阻害剤は、小さな化学物質、ペプチド、抗体、抗体フォーマット、タンパク質ならびに非タンパク質結合剤、低分子干渉RNA、二本鎖RNA、またはリボザイムであり得る。阻害剤が、AKTに結合してその活性を阻害するAKT基質ではない場合、AKTの阻害はアロステリックであり得る。直接AKT阻害剤はまた、阻害剤がAKTリガンドの結合に影響を及ぼすことによってAKTの活性を阻害するオルソステリック阻害剤であり得る。
【0068】
(a)トレハロース
上記のように、本発明者らはトレハロースがAKTを阻害することを発見した。したがって、本開示はまた、活性成分としてトレハロースを含む組成物を提供する。本明細書で使用される「トレハロース」という用語は、トレハロース化合物自体の形態、ならびに塩、多形体、エステル、アミド、プロドラッグ、類似体、誘導体などの任意の他の形態を、前記塩、多形体、エステル、アミド、プロドラッグ、類似体、または誘導体が、AKTを阻害することができるトレハロース類似体として薬理学的に適していることを条件に指す。
【0069】
トレハロースは、ミコースまたはトレマロースとしても知られており、2つのグルコース分子が1,1配置で結合している安定な非還元二糖である。トレハロースの構造を以下に図示する。トレハロースはタンパク質安定化特性を有し、冷凍食品の安定剤として、生物系および細胞の凍結乾燥において、治療用非経口タンパク質の安定剤として、ならびに錠剤およびIV溶液中の賦形剤として広く使用されている。トレハロースは、FDAによりGRAS(食品医薬品局合格証)食品成分として認識されており、USP-NF(米国薬局方全国処方集)、EP(欧州薬局方)およびJP(日本薬局方)に記載されている。トレハロースの安全性と毒性は広く研究されており、この物質は、意図された治療用量よりも実質的に高い用量で経口投与と静脈内投与の両方で投与した場合に安全であることが見出されている。
【化1】

トレハロース
【0070】
トレハロースは酵素トレハロースによって効率的に加水分解され、微生物を含む多くの生物において広く発現されている。ヒトでは、トレハロースは、上皮刷子縁において消化管内のトレハラーゼによって2つのD-グルコース分子に代謝される。摂取されたトレハロースの0.5%未満が血流に吸収され、そこで腎臓刷子縁細胞のトレハラーゼにより肝臓および腎臓によってさらに代謝される。1日当たり40~50グラムを超える量の経口トレハロースは下痢および腹部膨満を引き起こす可能性がある。したがって、当業者は、治療量のトレハロースの増強を提供するために、胃腸管または腎臓におけるトレハロースの代謝を、トレハロースを非経口投与して、胃腸管における代謝を迂回することによって、トレハロースを含む組成物中にトレハラーゼ阻害剤をさらに提供することによって、またはこれらの組み合わせによって迂回することができる。組成物中にトレハラーゼ阻害剤を使用して、組成物中のトレハロースの安定性を高めることもできる。したがって、トレハロースが活性成分である場合、本開示の組成物は1または複数のトレハラーゼ阻害剤をさらに含み得る。
【0071】
トレハロース類似体またはトレハロースベースの化合物もまた、トレハロースと同様の治療特性を有することがある。さらに、トレハロース類似体は、トレハラーゼまたは他の分解酵素による分解に対してさらに耐性があり得る。したがって、本開示はまた、AKTを阻害することができる任意のトレハロース類似体またはトレハロースベースの化合物の使用を想定している。当技術分野で公知のトレハロース類似体は、Walmagh et al.,Int.J.Mol.Sci.2015,16,13729-13745;Wada et al.,Journal of Agricultural and Food Chemistry 2016,64,7121-7126;Wyatt et al.,Carbohydr.Res.2015,411,49-55;Babu et al.,J.Carbohydr.Chem.2005,24,169-177;Umezawa et al.,J.Antibiot.1967,20,388;Uramoto et al.,J.Antibiot.1967,20,236;に開示されているものであってよく、これらの開示内容は、その全体が本明細書に組み込まれる。本開示の組成物への使用に適し得るトレハロース類似体の非限定的な例としては、レンツトレハロース化合物、マンノピラノシル置換トレハロース化合物、GlcNAc-α-(1,1)-α-GlcおよびGlcNAc-α-(1,1)-α-Man、などのトレハロースのアミノ類似体、グルコース以外の炭水化物部分を含有するトレハロースの類似体、トレハロースの非還元α-(1,1)-α連結を維持する二糖、オリゴ糖または多糖が挙げられる。本開示の組成物への使用に適し得るトレハロース類似体の非限定的な例としては、図28に示すトレハロースベースのトリ-、テトラ-およびペンタオリゴ糖、ネオサルトース(neosartose)、フィシェロース(fischerose)、ラクトトレハロース、レンツトレハロースA、BまたはC、ならびに図29に示すラクトトレハロース、ガラクトトレハロース、または6-アジドトレハロースが挙げられる。
【0072】
トレハロースまたはトレハロース類似化合物が本開示の組成物中の活性成分である場合、活性成分は薬学的に許容される形態である。活性成分は、化合物自体の形態、ならびに塩、多形体、エステル、アミド、プロドラッグ、誘導体などを、前記塩、多形体、エステル、アミド、プロドラッグ、類似体、または誘導体が、薬理学的に適していることを条件に投与することができる。活性薬剤の塩、エステル、アミド、プロドラッグ、および他の誘導体は、有機合成化学の当業者に公知の手順を使用して調製することができ、例えば、J.March,Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms and Structure,4th Ed.(New York:Wiley-Interscience,1992)に記載されている。エナンチオマー形態で存在し得る任意の活性薬剤について、活性薬剤は、ラセミ体としてまたはエナンチオマー的に純粋な形態のいずれかで本組成物に組み込むことができる。
【0073】
さらに、トレハロースまたはトレハロース類似体を含み、トレハラーゼ阻害剤を含むか、または含まない組成物は、好ましくは医療用グレードのトレハロースを含む。好ましくは、トレハロースは、トレハロースの単離および精製プロセスから生じる汚染物質を実質的に含まない。トレハロースは、乾燥酵母などからの抽出によって、酵素的産生および単離によって、および微生物の培養によって単離することができる。したがって、トレハロースは、酵素、アンモニウム、アセトニトリル、アセトアミドなどの有機溶媒、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、またはイソプロパノール)、TFA、エーテル、またはトレハロースを調製および精製する工程で使用される他の汚染物質などの汚染物質を実質的に含まないことが好ましい。汚染物質を「実質的に」含まないという用語は、汚染物質含有量が、好ましくはトレハロースの総重量の0.5%未満、0.3%未満、0.25%未満、0.1%未満、0.05%未満、0.04%未満、0.03未満%、0.02%未満、0.01%未満、0.005%未満、0.003%未満、または0.001%未満のトレハロースを指すことができる。汚染物質の含有量を決定する方法は当技術分野において公知であり、ガスクロマトグラフィーなどの従来の方法によって決定することができる。好ましくは、本発明の精製トレハロース中の残留溶媒は、ICHガイドライン、例えば、IMPURITIES:GUIDELINE FOR RESIDUAL SOLVENTS Q3C(R5)(www.ich.Org/fileadmin/Public_Web_Site/ICH_Products/Guidelines/Quality/Q3C/Ste p4/Q 3C_R5_Step4.pdfで利用可能)に設定されている限度未満である。例えば、精製トレハロースは、<5000ppmのエタノール(例えば<140ppm)、および/または<3000ppmのメタノールを含有する。
【0074】
トレハロースまたはトレハロース類似体を含み、トレハラーゼ阻害剤を含むか、または含まない組成物は、好ましくは低レベルのエンドトキシンを含む。細菌性エンドトキシンはリポ多糖類(LPS)であり、血流に注入されると発熱や病気を引き起こすことが知られているグラム陰性菌細胞壁の成分である。細菌内エンドトキシンは熱安定性であり、毒性は細菌細胞の存在には依存しない。トレハロースを含む多くの治療薬は細菌で産生され得るので、治療用製品がエンドトキシンを含まないことを確実にするためにエンドトキシン試験が用いられる。トレハロースを含む組成物は、1.0、0.9、0.8、0.75、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1以下のエンドトキシン単位/mLを含有してもよい。好ましくは、トレハロースを含む組成物は、0.75エンドトキシン単位/mLを含有する。
【0075】
上記のように、本開示の組成物中の活性成分がトレハロースである場合、組成物はトレハロースに加えてトレハラーゼ阻害剤をさらに含み得る。トレハラーゼは、小腸の刷子縁細胞および他の細胞中の、トレハロースのグルコースへの変換を触媒するグリコシドヒドロラーゼ酵素である。トレハラーゼは炭水化物活性酵素(CAZy)分類のファミリーGH37に分類される(EC 3.2.1.28)。トレハラーゼの酵素活性を阻害することができる任意の化合物をトレハラーゼ阻害剤として使用することができる。トレハラーゼ阻害剤の非限定的な例としては、バリドキシルアミンA、バリダマイシンA、トレハゾリン、1-チアトレハゾリン、スイダトレスチン(suidatrestin)、サルボスタチン、MDL 26537、カスアリン-6-O-α-D-グルコピラノシド、ミグルスタット、およびワモンゴキブリ(ペリプラネタ・アメリカーナ(Periplaneta americana))由来の86kDタンパク質が挙げられ(Hayakawa et al.,J Biol Chem 1989;264(27):16165-16169を参照されたい)、その開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。他のトレハラーゼ阻害剤は、米国特許第5354685号および中国特許第101627763号に記載のものであってよく、それらの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらなる適切なトレハラーゼ阻害剤は、当技術分野において公知の方法を使用して決定することができる。例えば、化合物のトレハラーゼへの結合親和性を用いて、該化合物がトレハラーゼの阻害剤であり得るかどうかを決定することができ、化合物のトレハラーゼへの親和性結合の高さが、該化合物がトレハラーゼの阻害剤であり得ることを示す。さらに、化合物の存在下でのトレハラーゼの酵素活性を使用して、該化合物がトレハラーゼの阻害剤であるかどうかを決定することができ、酵素活性の低下が、該化合物がトレハラーゼの阻害剤であることを示す。さらに、化合物は、該化合物がトレハラーゼの阻害剤であるかどうかを決定するためにトレハラーゼの活性部位上でモデル化することができ、化合物がトレハラーゼの活性部位において多数の相互作用を有するようにモデル化される場合、そのときは該化合物はトレハラーゼ阻害剤である。例えば、Gibson et al.,Angew.Chem.Int.Ed 2007;46:4115-4119は、トレハラーゼの構造を実証し、トレハラーゼ阻害剤を決定する方法を特定しており、当該文献の開示内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。好ましくは、適切なトレハラーゼ阻害剤はミグルスタットである。
【0076】
本明細書に開示される組成物中のトレハロースまたはトレハロース類似体、および任意選択のトレハラーゼ阻害剤の量は、対象ごとに変動し得るものであり、実際に変動すると思われ、いくつかの要因に依存する。このような要因としては、組成物に使用されるトレハロースの形態(プロドラッグまたは塩など)、治療されるリソソーム蓄積障害、または治療されるリソソーム機能不全を特徴とする障害、該障害の症状の重症度、トレハロースを含む組成物の投与経路、投与される組成物中のトレハラーゼ阻害剤の有無、患者の年齢、体重および全身状態、ならびに処方医の判断が挙げられる。
【0077】
一般に、本開示の組成物は、約50%、40%、30%、20%、10%、または約5%以下(w/v)のトレハロースを含むトレハロースの水溶液である。組成物が経口投与を意図している場合、組成物は約50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、または約1%以下のトレハロース(w/v)を含み得る。例えば、経口投与を意図した組成物は、約50%、49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、約40%のトレハロース(w/v)、約39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、または約30%のトレハロース(w/v)、約29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、または約20%のトレハロース(w/v)、約19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、または約10%のトレハロース(w/v)、または約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または約1%以下のトレハロース(w/v)を含み得る。好ましくは、経口投与を意図したトレハロースを含む組成物は、約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または約1%以下のトレハロース(w/v)を含み得る。
【0078】
トレハロースを含む組成物が非経口投与を意図している場合、組成物は約50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、または約1%のトレハロース(w/v)を含み得る。例えば、非経口投与を意図した組成物は、約50%、49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、もしくは約40%のトレハロース(w/v)、約39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、もしくは約30%のトレハロース(w/v)、約29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、もしくは約20%のトレハロース(w/v)、約19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、もしくは約10%のトレハロース(w/v)、または約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、もしくは約1%以下のトレハロース(w/v)を含み得る。好ましくは、経口投与を意図したトレハロースを含む組成物は、約29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、または約20%のトレハロース(w/v)を含み得る。本明細書に開示されているトレハロースを含む非経口組成物中のトレハロース、および任意選択のトレハラーゼ阻害剤の量についての他のガイドラインは、米国特許第9,125,924号に記載されている通りであってよく、当該特許の開示はその全体が本明細書に組み込まれる。
【0079】
トレハロースを含む組成物のpHは、約2から約9の範囲であり得る。好ましくは、トレハロースのpHは約4.5から約8.0の範囲である。より好ましくは、トレハロースのpHは約4.5から約7.0の範囲である。
【0080】
上記のように、トレハロースを含む組成物は、トレハラーゼ阻害剤をさらに含み得る。好ましくは、トレハラーゼ阻害剤はミグルスタットである。トレハロースを含む組成物がミグルスタットをさらに含む場合、該組成物は約10、50、100、150、200、250、300、350、400、450、または約500mgのミグルスタットを含み得る。例えば、トレハロースを含む組成物は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、もしくは約200mgのミグルスタット、約100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、もしくは約200mgのミグルスタット、約200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、もしくは約350mgのミグルスタット、または約300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、もしくは約400mgのミグルスタットをさらに含む。
【0081】
本開示の組成物がトレハロースを含む場合、該組成物はトレハロースからなる、プロテインキナーゼBを阻害するための単一活性成分を含むことが当業者には理解されよう。したがって、好ましい組成物は単一の活性成分としてトレハロースを含む組成物である。別の好ましい組成物はトレハロースおよびミグルスタットを含む組成物である。
【0082】
または、本開示の組成物がトレハロースを含む場合、該組成物はトレハロース以外の1または複数のAKT阻害剤をさらに含み得る。例えば、トレハロースを含む組成物は、トレハロース以外の1、2、3、またはそれ以上のAKT阻害剤をさらに含み得る。トレハロース以外のAKT阻害剤は、下記のものであり得る。
【0083】
(b)他のAKT阻害剤
本開示の組成物は、トレハロース以外のAKT阻害剤も含み得る。トレハロース以外のAKT阻害剤の非限定的な例としては、抗体または抗体フラグメント、受容体リガンド、小分子、ペプチド、ポリペプチド、脂質、炭水化物、核酸、siRNA、shRNA、アンチセンスRNA、デンドリマー、マイクロバブル、もしくはアプタマー、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。トレハロース以外の本開示の組成物に適したAKT阻害剤は当技術分野において公知である。本開示の組成物に適したAKT阻害剤の非限定的な例としては、8-[4-(1-アミノシクロブチル)フェニル]-9-フェニル-1,2,4-トリアゾロ[3,4-f][1,6]ナフチリジン-3(2H)-オン(MK-2206)、N-{(1S)-2-アミノ-1-[(3,4-ジフルオロフェニル)メチル]エチル}-5-クロロ-4-(4-クロロ-1-メチル-1H-ピラゾール-5-イル)-2-フランカルボキサミド、API-2、AKT VIII、ペリフォシン、GSK690693、GSK690693、GSK2141795、イパタセルチブ(GDC-0068)、SR13668、BAY1125976、AZD5363、BKM120、TIC10、Akti-1/2、SC79、アフレセルチブ(GSK2110183)、PF-04691502、AT7867、AT13148、類似体、トリシリビン、PHT-427、A-674563、CCT128930、A-443654、VQD-002、パロミド529、ホノキオール、A-674563、BX795、ミルテフォシン、ペリフォシン、ホスホ-Akt(Ser473)抗体、ホスホ-(Ser/Thr)Akt基質抗体、汎-AKT抗体、およびAKT抗体が挙げられる。当該技術分野において以前に記載された他のAKT阻害剤は、国際特許公開第2008070016号、第2006135627号、第2008006040号、第2008070134号、第2011055115号、第2010088177号、第2011077098号、および第2008070041号のAKT阻害剤を含むことができ、これらの開示はその全体が本明細書に組み込まれる。当業者には、本開示の組成物に適したAKT阻害剤が開発中のAKT阻害剤および/または臨床試験を受けているAKT阻害剤であってもよいことが認識されるであろう。例えば、臨床試験を受けているAKT阻害剤は、clinicaltrials.gov/ct2/results?term=AKt&Search=Searchに記載されているものであってよい。
【0084】
トレハロース以外のAKT阻害剤を含む組成物は、トレハロース以外の複数のAKT阻害剤の組み合わせを含み得る。例えば、組成物はトレハロース以外の1、2、3種、またはそれ以上のAKT阻害剤を含み得る。さらに、上記のように、本開示の組成物がトレハロース以外のAKT阻害剤を含む場合、該組成物はトレハロースをさらに含み得ることが認識されるであろう。
【0085】
本開示の組成物に適した好ましいAKT阻害剤はMK-2206である。MK-2206は、抗悪性腫瘍活性を有する経口で生物学的に利用可能なアロステリック汎AKT阻害剤である。MK-2206は、非ATP競合的にAKTに結合して、その活性を阻害する。MK-2206の化学構造式を以下に示す。
【化2】
【0086】
当業者に認識されるように、本開示の組成物中のAKT阻害剤の量は、AKT阻害剤、投与経路、リソソーム障害、症状の重症度、対象の年齢、体重、および全身状態、ならびに医師の判断などの要因に応じて変動し得るものであり、実際に変動すると思われ、実験的に決定することができる。本開示の組成物がAKT阻害剤としてMK-2206を含む場合、該組成物は好ましくは経口投与用に製剤化され、約1から約500mgのMK-2206、約10から約200mgのMK-2206、約30から約100mgのMK-2206、または約100から約300mgのMK-2206を含み得る。
【0087】
(c)医薬組成物
本開示は、AKT阻害剤を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤をさらに含み得る。賦形剤は希釈剤であり得る。希釈剤は、圧縮性(すなわち、塑性変形可能)または摩耗性で脆いものであり得る。適切な圧縮性希釈剤の非限定的な例としては、微結晶セルロース(MCC)、セルロース誘導体、セルロース粉末、セルロースエステル(すなわち、アセテートおよびブチレート混合エステル)、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、コーンスターチ、リン酸化コーンスターチ、アルファ化コーンスターチ、米デンプン、ジャガイモデンプン、タピオカデンプン、デンプン-ラクトース、デンプン-炭酸カルシウム、デンプングリコール酸ナトリウム、グルコース、フルクトース、ラクトース、ラクトース一水和物、スクロース、キシロース、ラクチトール、マンニトール、マリトール、ソルビトール、キシリトール、マルトデキストリン、およびトレハロースが挙げられる。適切な摩耗性脆性希釈剤の非限定的な例としては、二塩基性リン酸カルシウム(無水または二水和物)、リン酸カルシウム三塩基性、炭酸カルシウム、および炭酸マグネシウムが挙げられる。
【0088】
賦形剤は結合剤でもあり得る。適切な結合剤としては、限定するものではないが、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルオキソアゾリドン、ポリビニルアルコール、C12-C18脂肪酸アルコール、ポリエチレングリコール、ポリオール、糖類、オリゴ糖、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0089】
賦形剤は充填剤であり得る。適切な充填剤としては、限定するものではないが、炭水化物、無機化合物、およびポリビニルピロリドンが挙げられる。非限定的な例として、充填剤は、硫酸カルシウム、二塩基性および三塩基性の両方、デンプン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、微結晶セルロース、二塩基性リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、タルク、加工デンプン、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールであり得る。
【0090】
賦形剤は緩衝剤であり得る。適切な緩衝剤の代表例としては、限定するものではないが、リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、Tris緩衝液、および緩衝生理食塩水(例えば、Tris緩衝食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水)が挙げられる。賦形剤はまた、浸透圧を変えるための塩であってもよい。
【0091】
賦形剤はpH調整剤であり得る。非限定的な例として、pH調整剤は炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸、またはリン酸であり得る。
【0092】
賦形剤は、浸透圧を変えるための塩であり得る。当業者に認識されるように、非経口製剤の浸透圧は、通常、ヒト血漿の浸透圧(290m Osm/L)と一致するように調整される。したがって、本開示の非経口製剤の浸透圧は、約280から約330m Osm/kgであり得る。
【0093】
賦形剤は崩壊剤であり得る。崩壊剤は、非発泡性または発泡性であり得る。非発泡性崩壊剤の適切な例としては、限定するものではないが、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、それらのアルファ化デンプンおよび加工デンプンなどのデンプン、甘味料、ベントナイトなどの粘土、微結晶セルロース、アルギン酸塩、デンプングリコール酸ナトリウム、寒天、グアー、ローカストビーン、カラヤ、ペチチン、トラガカントなどのガムが挙げられる。適切な発泡性崩壊剤の非限定的な例としては、重炭酸ナトリウムとクエン酸との組み合わせ、および重炭酸ナトリウムと酒石酸との組み合わせが挙げられる。
【0094】
賦形剤は、分散剤または分散促進剤であり得る。適切な分散剤としては、限定するものではないが、デンプン、アルギン酸、ポリビニルピロリドン、グアーガム、カオリン、ベントナイト、精製木材セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、イソアモルファスケイ酸塩(isoamorphous silicate)、および微結晶セルロースが挙げられ得る。
【0095】
賦形剤は防腐剤であり得る。適切な防腐剤の非限定的な例としては、BHA、BHT、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、またはレチニルパルミテート、クエン酸、クエン酸ナトリウムなどの酸化防止剤;EDTAやEGTAなどのキレート剤;ならびにパラベン、クロロブタノール、フェノールなどの抗菌剤が挙げられる。
【0096】
賦形剤は滑沢剤であり得る。適切な滑沢剤の非限定的な例としては、タルクまたはシリカなどの鉱物、ならびに植物性ステアリン、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸などの脂肪が挙げられる。
【0097】
賦形剤は矯味剤であり得る。矯味剤としては、セルロースエーテル;ポリエチレングリコール;ポリビニルアルコール;ポリビニルアルコールおよびポリエチレングリコールコポリマー;モノグリセリドまたはトリグリセリド;アクリル系ポリマー;アクリルポリマーとセルロースエーテルとの混合物;酢酸フタル酸セルロース;ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0098】
賦形剤は香味剤であり得る。香味剤は、合成香味油および香味芳香剤および/または天然油、植物、葉、花、果実からの抽出物、ならびにこれらの組み合わせから選択することができる。
【0099】
賦形剤は着色剤であり得る。適切な着色添加剤としては、限定するものではないが、食品、薬物および化粧品色素(FD&C)、薬物および化粧品色素(D&C)、または外用薬物および化粧品色素(Ext.D&C)が挙げられる。
【0100】
組成物中の賦形剤または賦形剤の組み合わせの重量分率は、組成物の総重量の約99%以下、約97%以下、約95%以下、約90%以下、約85%以下、約80%以下、約75%以下、約70%以下、約65%以下、約60%以下、約55%以下、約50%以下、約45%以下、約40%以下、約35%以下、約30%以下、約25%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約5%以下、約2%、または約1%以下であり得る。
【0101】
本発明の医薬組成物は、その意図された投与経路に適合するように製剤化することができる。投与経路の例としては、非経口、例えば静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜および直腸投与が挙げられる。非経口、皮内、または皮下適用に使用される溶液または懸濁液は、以下の成分を含み得る:注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコール、メチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝剤、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度調整剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投与用バイアルに封入することができる。
【0102】
経口組成物は一般に、不活性希釈剤または食用担体を含み得る。経口組成物は、ゼラチンカプセルに封入するか、または錠剤に圧縮することができる。経口治療投与の目的では、活性化合物を賦形剤に組み込み、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の形態で使用することができる。経口組成物はまた、洗口剤として使用するための流体担体を使用して調製されてもよく、ここで、流体担体中の化合物は経口適用され、局所使用され、吐き出されるかまたは飲み込まれる。薬学的に適合性のある結合剤および/またはアジュバント物質を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の成分のいずれか、または類似の性質の化合物を含有していてもよい:微結晶セルロース、トラガカントゴムもしくはゼラチンなどの結合剤;デンプン、もしくはラクトースなどの賦形剤;アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、もしくはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはステロテス(Sterotes)などの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの滑剤、スクロース、もしくはサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジ風味などの香味剤。吸入による投与のために、化合物は、適切な噴射剤、例えば二酸化炭素のようなガスを含む加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからのエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0103】
本発明の医薬組成物はまた、非経口投与に適合するように製剤化することもできる。例えば、注射用途に適した医薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末を挙げることができる。静脈内投与の場合、適切な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(BASF;Parsippany、N.J.)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が含まれる。例示的実施形態では、本発明の医薬組成物はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて製剤化される。
【0104】
すべての場合において、組成物は無菌であり得、そして容易な注射可能性が存在する程度まで流動性であり得る。組成物は製造および貯蔵の条件下で安定であり得、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存され得る。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成され得る。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、または塩化ナトリウムを含むことが好ましい場合がある。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらすことができる。
【0105】
滅菌注射用溶液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上記に列挙した成分の1つまたは組み合わせと共に適切な溶媒中に組み入れ、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基礎分散媒および上記に列挙したものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、これにより活性成分と任意の追加の所望成分との粉末が、予め滅菌濾過したこれらの溶液から得られる。
【0106】
全身投与もまた、経粘膜的手段または経皮的手段によるものであり得る。経粘膜または経皮投与のためには、浸透させるべき障壁に適した浸透剤を製剤に使用する。このような浸透剤は、当技術分野において一般的に知られており、例えば、経粘膜投与用には、洗剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含み得る。経粘膜投与は、鼻腔用スプレーまたは坐剤の使用によって達成され得る。経皮投与の場合、活性化合物は、当技術分野で一般的に知られている軟膏、膏薬、ゲルまたはクリームに製剤化される。化合物はまた、坐剤(例えば、カカオ脂および他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を含む)または直腸送達用の停留浣腸剤の形態で調製することもできる。
【0107】
活性化合物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤など、身体からの急速な排泄に対して化合物を保護するであろう担体を用いて調製することができる。エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。このような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。これらは、例えば米国特許第4,522,811号に記載されているように、当業者に公知の方法に従って製造することができる。
【0108】
特定の実施形態では、本開示の活性成分は、化合物の標的細胞への送達を助けるため、組成物の安定性を高めるため、または組成物の潜在的な毒性を最小限に抑えるために適切なビヒクルに封入される。当業者には理解されるように、さまざまなビヒクルが本発明の組成物を送達するのに適している。適切な構造化流体送達システムの非限定的な例としては、ナノ粒子、リポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル、デンドリマーおよび他のリン脂質含有システムを挙げることができる。組成物を送達媒体に組み込む方法は当技術分野において公知である。
【0109】
一代替実施形態では、リポソーム送達ビヒクルを利用することができる。リポソームは、その実施形態にもよるが、それらの構造的および化学的性質の観点から、本発明の化合物の送達に適している。一般的に言って、リポソームはリン脂質二重層膜を有する球状小胞である。リポソームの脂質二重層は他の二重層(例えば、細胞膜)と融合することができ、したがってリポソームの内容物を細胞に送達することができる。このようにして、本開示の活性成分は、標的細胞の膜と融合するリポソーム中に封入することによって細胞に選択的に送達することができる。
【0110】
リポソームは、さまざまな炭化水素鎖長を有するさまざまな異なる種類のリン脂質から構成され得る。リン脂質は一般に、グリセロールリン酸を介してさまざまな極性基のうちの1つに連結された2つの脂肪酸を含む。適切なリン脂質としては、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ジホスファチジルグリセロール(DPG)、ホスファチジルコリン(PC)、およびホスファチジルエタノールアミン(PE)が挙げられる。リン脂質を含む脂肪酸鎖は、長さが約6~約26個の炭素原子の範囲であり得、脂質鎖は飽和であっても、または不飽和であってもよい。適切な脂肪酸鎖としては(一般名を括弧内に示す)、n-ドデカン酸(ラウリン酸)、n-トレトラデカン酸(tretradecanoate)(ミリスチン酸)、n-ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、n-オクタデカン酸(ステアリン酸)、n-エイコサン酸(アラキジン酸)、n-ドコサン酸(ベヘン酸)、n-テトラコサン酸(tetracosanoate)(リグノセリン酸)、シス-9-ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、シス-9-オクタデカン酸(オレイン酸)、シス,シス-9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸)、オールシス-9,12,15-オクタデカトリエン酸(リノレン酸)、およびオールシス-5,8,11,14-エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)が挙げられる。リン脂質の2つの脂肪酸鎖は同一であっても、または異なっていてもよい。許容されるリン脂質としては、ジオレオイルPS、ジオレオイルPC、ジステアロイルPS、ジステアロイルPC、ジミリストイルPS、ジミリストイルPC、ジパルミトイルPG、ステアロイル、オレオイルPS、パルミトイル、リノレニルPSなどが挙げられる。
【0111】
リン脂質は、任意の天然源に由来してよく、したがって、リン脂質の混合物を含んでもよい。例えば、卵黄はPC、PG、およびPEが豊富で、大豆はPC、PE、PI、およびPAを含有し、動物の脳または脊髄はPSが豊富である。リン脂質は合成起源由来であってもよい。さまざまな比率の個々のリン脂質を有するリン脂質の混合物を使用することができる。異なるリン脂質の混合物は、有利な活性または活性特性の安定性を有するリポソーム組成物をもたらし得る。上記のリン脂質は、カチオン性脂質、例えばN-(1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロリド、1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニンペルクロアラート(perchloarate)、3,3’-デヘプチルオキサカルボシアニンヨージド、1,1’-デドデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニンペルクロアラート(perchloarate)、1,1’-ジオレイル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニンメタンスルホネート、N-4-(デリノレイルアミノスチリル)-N-メチルピリジニウムヨージド、または1,1,-ジリノレイル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニンペルクロアラート(perchloarate)、と最適な比率で混合することができる。
【0112】
リポソームは、スフィンゴシンがグリセロールの構造的対応物であり、ホスホグリセリドの脂肪酸の1つであるスフィンゴ脂質、または動物細胞膜の主成分であるコレステロールを任意選択で含んでもよい。リポソームは、ポリエチレングリコール(PEG)のポリマーに共有結合した脂質であるペグ化脂質を任意選択で含有してもよい。PEGは、約500~約10,000ダルトンのサイズ範囲であり得る。
【0113】
リポソームは適切な溶媒をさらに含み得る。溶媒は有機溶媒であっても、または無機溶媒であってもよい。適切な溶媒としては、限定するものではないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルピロリドン、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、アルコール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0114】
本開示の活性成分を担持する(すなわち、少なくとも1つのメチオニン化合物を有する)リポソームは、例えば米国特許第4,241,046号、第4,394,448号、第4,529,561号、第4,755,388号、第4,828,837号、第4,925,661号、第4,954,345号、第4,957,735号、第5,043,164号、第5,064,655号、第5,077,211号および第5,264,618号に詳述されているような、薬物送達用のリポソームの任意の公知の調製方法によって調製することができ、それらの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。例えば、リポソームは、水溶液中で脂質を超音波処理すること、溶媒注入、脂質水和、逆蒸発、または凍結融解を繰り返すことによる凍結乾燥によって調製することができる。好ましい実施形態において、リポソームは超音波処理によって形成される。リポソームは、タマネギのような多くの層を有する多層でも、または単層でもあり得る。リポソームは大きくても小さくてもよい。継続的な高剪断超音波処理は、より小さい単層リポソームを形成する傾向がある。
【0115】
当業者に明らかであるように、リポソーム形成を支配するすべてのパラメータは変動し得る。これらのパラメータには、限定するものではないが、温度、pH、メチオニン化合物の濃度、脂質の濃度および組成、多価カチオンの濃度、混合速度、溶媒の存在および濃度が含まれる。
【0116】
別の実施形態では、本開示の活性成分はマイクロエマルジョンとして細胞に送達されてもよい。マイクロエマルジョンは、一般に、水溶液、界面活性剤、および「油」を含む透明で熱力学的に安定な溶液である。この場合の「油」は超臨界流体相である。界面活性剤は油-水界面に留まる。本明細書に記載されているもの、または当技術分野で公知の他のものを含むさまざまな界面活性剤のすべてが、マイクロエマルジョン製剤における使用に適している。本発明での使用に適した水性マイクロドメインは一般に、約5nmから約100nmまでの特徴的な構造寸法を有する。このサイズの凝集体は、可視光の散乱性が低いため、これらの溶液は光学的に透明である。当業者によって理解されるように、マイクロエマルジョンは、球状、棒状、または円盤状凝集体を含む多数の異なる微視的構造を有し得るものであり、実際に有すると思われる。一実施形態では、構造はミセルであってもよく、これは一般に球形または円筒形の物体である最も単純なマイクロエマルジョン構造である。ミセルは水中油の液滴のようなもので、逆ミセルは油中水の液滴のようなものである。代替の実施形態では、マイクロエマルジョン構造はラメラである。ラメラは界面活性剤の層によって分離された水と油の連続層を含む。マイクロエマルジョンの「油」は最適にはリン脂質を含む。リポソームについて上で詳述したリン脂質のすべてがマイクロエマルジョンを対象とする実施形態に適している。本開示の活性成分は、当技術分野において一般的に知られている任意の方法によってマイクロエマルジョン中に封入することができる。
【0117】
さらに別の実施形態では、本開示の活性成分は、樹状巨大分子またはデンドリマー中で送達され得る。一般的に言えば、デンドリマーは分枝した木のような分子で、それぞれの枝が一定の長さの後に2つの新しい枝(分子)に分かれる分子の連結した鎖である。この分枝は枝(分子)がとても密集して天蓋が球体を形成するまで続く。一般に、デンドリマーの性質はそれらの表面の官能基によって決まる。例えば、カルボキシル基などの親水性末端基は、典型的には水溶性デンドリマーを形成する。または、リン脂質をデンドリマーの表面に組み込んで皮膚を越える吸収を促進することができる。リポソームの実施形態での使用について詳述されたリン脂質のいずれも、デンドリマーの実施形態での使用に適している。当技術分野において一般的に知られている任意の方法を利用して、デンドリマーを製造し、その中に本開示の活性成分を封入することができる。例えば、デンドリマーは、反応工程の連続反復によって生成されてもよく、その場合、さらなる反復のたびに、より高次のデンドリマーがもたらされる。その結果、それらは、ほぼ均一なサイズおよび形状を有する、規則的で高度に分枝した3D構造を有する。さらに、デンドリマーの最終サイズは典型的には、合成中に使用される反復工程の数によって制御される。さまざまなデンドリマーサイズが本発明における使用に適している。一般に、デンドリマーのサイズは、約1nmから約100nmの範囲であり得る。
【0118】
医薬組成物のさらなる製剤は、例えば、Hoover,John E.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.(1975)およびLiberman,H.A.and Lachman,L.,Eds.,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Decker,New York,N.Y.(1980)中のものであってよい。
【0119】
当業者は、医薬組成物中の本発明の活性成分の濃度が、投与経路、対象、および投与の理由に部分的に依存して変動し得るものであり、実際に変動すると思われ、実験的に決定できることを認識されよう。医薬組成物中の本発明のナノ粒子などの活性剤の濃度を実験的に決定する方法は、当技術分野において公知である。
【0120】
II.リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全によって特徴付けられる障害を治療する方法
別の態様では、本開示は、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害を、対象において治療する方法を提供する。本発明の方法は、対象においてAKTを阻害することによって、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害を、対象において治療することを含む。AKTは、AKT阻害剤を含む組成物の治療有効量を対象に投与することによって対象において阻害することができる。AKT阻害剤はトレハロースであり得る。または、AKT阻害剤はトレハロース以外のAKT阻害剤である。
【0121】
本明細書中で使用される場合、用語「治療する」は、リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全および/またはその関連症状の1または複数を特徴とする障害の予防、改善、防止または治癒を説明するために使用することができる。例えば、既存のリソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害の治療は、その障害を軽減、改善、または完全に排除する、またはそれが悪化することを防ぐことができる。予防的治療は、障害が発症するリスクを低減し、および/または障害が後に発症する場合にその重症度を低下させる可能性がある。
【0122】
用語「リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害」は、本明細書において、リソソーム代謝の損傷によって引き起こされ得る任意の状態、またはリソソーム機能不全を示すか、もしくはそれによって悪化する任意の状態を説明するために使用され得る。少なくとも60の公知のリソソーム蓄積障害および骨格、脳、皮膚、心臓、および中枢神経系を含む体のさまざまな部分に影響を及ぼし得るリソソーム機能不全を特徴とする他の多くの障害がある。リソソーム機能不全を特徴とするさらなる障害が同定され続けている。本開示の方法を用いて治療することができるリソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害の非限定的な例としては、アスパルチルグルコサミン尿症、若年性神経セロイドリポフスチン症(JNCL、若年性バッテン病またはCLN3病)、シスチン症、ファブリ病、ゴーシェ病I、IIおよびIII型、グリコーゲン蓄積症II型(ポンペ病)、GM2-ガングリオシド蓄積症I型(テイ・サックス病)、GM2-ガングリオシド蓄積症II型(サンドホフ病)、異染性白質ジストロフィー、ムコリピド症I型、II/III型およびIV型、ムコ多糖蓄積症(ハーラー病およびその変種、ハンター症候群、サンフィリッポ症候群A型、B型、C型、D型、モルキオ症候群A型およびB型、マルトー・ラミー症候群、およびスライ病)、ニーマンピック病A/B型、C1およびC2、ハンチントン病、脊髄小脳性運動失調症、パーキンソン病およびアルツハイマー病、ならびにシンドラー病I型およびII型が挙げられる。
【0123】
本開示の方法は、対象においてAKTを阻害することによって、若年性神経性セロイドリポフスチン症(JNCL)を患っている対象においてJNCLを治療することを含み得る。したがって、本開示の方法は、AKT阻害剤を含む組成物の治療有効量を対象に投与することによって、対象においてJNCLを治療することを含む。好ましくは、AKT阻害剤はトレハロースである。また好ましくは、AKT阻害剤はMK-2206である。
【0124】
JNCLは小児期の最も一般的な神経変性障害である。JNCLの特徴は、オートファジー-リソソーム経路の損傷を示す、大部分の神経細胞およびさまざまな脳外組織におけるセロイド脂肪色素のリソソーム内蓄積である。JNCLは視力障害と難聴を示し、発作、運動機能障害、および認知症を含むように進行する。JNCL患者は、人生の30年間で死に至る容赦のない身体的および認知的機能低下を経験する。したがって、本開示の方法を使用してJNCLを治療することは、JNCLを有する対象の神経細胞およびさまざまな脳外組織におけるセロイド脂肪色素のリソソーム内蓄積を防ぐことができ、またはセロイド脂肪色素のリソソーム内蓄積を低減または排除することができる。セロイド脂肪色素のリソソーム内蓄積を判定する方法は当技術分野において公知であり、実施例に記載されている通りであり得る。さらに、本開示の方法を使用してJNCLを治療することにより、対象における認知機能低下を予防、逆転、または阻止することができる。対象におけるJNCLに起因する認知機能低下を判定する方法は当技術分野において公知であり、実施例に記載されている通りであり得る。例えば、本開示の方法を使用してJNCLを治療することにより、視力障害を予防、逆転、または阻止することができる。本開示の方法を使用してJNCLを治療することによりまた、難聴を予防、逆転、または阻止することができる。本開示の方法を使用してJNCLを治療することによりまた、発作の重症度および/または強度を低減させることができる。さらに、本開示の方法を使用してJNCLを治療することにより、運動機能障害を改善または予防することができる。本開示の方法を使用してJNCLを治療することによりまた、認知症を改善または予防することができる。
【0125】
本開示の方法を使用してJNCLを治療することによりまた、それを必要とする対象の寿命を延ばすことができる。本開示の方法を使用することにより、JNCLを有する対象の寿命中央値は、約1%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、もしくは約90%、または障害がもはや対象の寿命の要因ではなくなる時点まで延ばすことができる。例えば、本開示の方法は、JNCLを有する対象の寿命の中央値を約60%、65%、70%、75%、80%、85%、もしくは約90%、または障害がもはや対象の寿命の要因ではなくなる時点まで延ばすことができる。または、本開示の方法により、JNCLを有する対象の寿命の中央値を約20%、25%、30%、35%、40%、45%または約50%延ばすことができる。本開示の方法によりまた、JNCLを有する対象の寿命の中央値を約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、または約25%延ばすことができる。
【0126】
さらに別の態様では、本開示は、トレハロースを使用する方法であって、プロテインキナーゼBとトレハロースを含む組成物とを接触させることによってプロテインキナーゼBの活性を阻害することを含む方法を提供する。プロテインキナーゼBは、プロテインキナーゼBを有する細胞をトレハロースを含む組成物と接触させることによって、またはトレハロースを含む組成物を対象に投与することによって接触させる。病状は、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全特徴とする障害、過剰増殖性疾患、または免疫障害であり得る。
【0127】
別の態様では、本開示は、機能不全リソソームクリアランスを示す細胞中の未分解物質のクリアランスを増強する方法であって、前記細胞をプロテインキナーゼB阻害剤を含む組成物と接触させることによって細胞中のプロテインキナーゼBを阻害することを含む方法を提供する。細胞はインビトロで接触させることができる。または、細胞は、ある量のプロテインキナーゼB阻害剤を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することによってインビボで接触させることができる。
【0128】
(a)対象
対象は、げっ歯類、ヒト、家畜動物、コンパニオンアニマル、または動物学上の動物であり得る。一実施形態では、対象はげっ歯類、例えばマウス、ラット、モルモットなどであり得る。別の実施形態では、対象は家畜動物であり得る。適切な家畜動物の非限定的な例は、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラマおよびアルパカを含み得る。さらに別の実施形態では、対象はコンパニオンアニマルであり得る。コンパニオンアニマルの非限定的な例は、イヌ、ネコ、ウサギ、およびトリなどのペットを含み得る。さらに別の実施形態では、対象は動物学上の動物であり得る。本明細書中で使用される場合、「動物学上の動物」とは、動物園で見ることができる動物を指す。そのような動物には、非ヒト霊長類、大型ネコ科動物、オオカミ、およびクマが含まれ得る。いくつかの好ましい実施形態において、対象はマウスである。他の好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0129】
対象は、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害に関連する徴候または症状を有していても、または有していなくてもよい。当業者には、病理学的リソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害は、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害に関連する症状の診断もしくは発症前に始まっている可能性が高いことは理解されよう。したがって、それを必要とする対象は、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害に関連する症状を有する対象、またはリソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害に関連する任意の症状を有さない対象、またはリソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害に関連する症状の1つもしくはいくつかのみを有する対象であり得る。
【0130】
(b)投与
治療適用のためには、治療有効量の本発明の組成物が対象に投与される。本明細書中で使用される場合、「治療有効量」のAKT阻害剤という用語は、治療されるリソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害に対して測定可能な効果を生じるのに十分な量のAKT阻害剤を指す。本発明の治療用組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、特定の対象に対して所望の治療応答を達成するのに有効な量の(1または複数の)活性成分を投与するように変動させてよい。
【0131】
AKTのいずれの阻害剤についても、治療期間は、一回限りで投与される単回投与から生涯にわたる一連の治療的治療までの範囲であり得る。治療期間は、治療される対象および疾患に応じて変動し得るものであり、実際に変動すると思われる。例えば、治療期間は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、または7日間であり得る。または、治療期間は、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間または6週間であり得る。または、治療期間は、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、または12ヶ月であり得る。治療期間は、1年、2年、3年、4年、5年、または5年を超えることもあり得る。投与はある期間頻繁であり得、次いで投与は一定期間間隔が空いてもよいこともまた企図される。例えば、治療期間は5日間であり、次いで9日間は治療がなく、その後5日間の治療であり得る。
【0132】
疾患自体に対する治療の投与のタイミングおよび治療期間は、症例を取り巻く状況によって決定されるであろう。診断時などに治療を直ちに開始することも、他の治療の後に治療を開始することも可能である。治療は、病院または診療所自体で、または退院後の後の時点で、または外来診療所で診察された後に開始してもよい。
【0133】
本明細書中に記載される組成物の投与は、AKT阻害剤を含む1または複数の組成物の投与、ならびに他の薬学的に活性な組成物の投与の複数の過程を含み得る治療レジメンの一部として行うことができる。このようなレジメンは、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害の治療方法として、および/または障害の治療後の患者の健康の長期維持方法(防止)として設計することができる。治療レジメンは、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害について無症候性である対象を治療する方法として設計することができる。このような治療レジメンは、対象において、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害の発症、および/またはリソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害の症状を遅らせることができる。適切な治療レジメンの決定は当業者の技量の範囲内であることが理解されよう。
【0134】
投与は、末梢(すなわち、中枢神経系への投与によるものではない)または中枢神経系への局所投与を含む標準的な有効な技術を用いて行うことができる。末梢投与は、限定するものではないが、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、および腹腔内を含み得る。中枢神経系(CNS)への直接投与を含む局所投与としては、限定するものではないが、腰椎、脳室内、または実質内カテーテルを介した投与、または外科的に埋め込まれた制御放出製剤の使用が挙げられる。本発明の組成物は注入(連続またはボーラス)によって投与することができる。
【0135】
当業者であれば、本開示の複数の組成物の組み合わせが使用可能であることは理解されよう。本開示の組成物による治療の前、後、および/または最中に、本開示の組成物を他の治療剤と組み合わせて使用できることも当業者には理解されよう。さらに、本発明の方法は、特定のリソソーム蓄積障害およびリソソーム機能不全を特徴とする障害に対する標準的な治療法と組み合わせて使用することができる。
【0136】
選択された投薬量レベルは、組成物中のAKTの特定の阻害剤、治療用組成物の活性、製剤、投与経路、他の薬物または治療との組み合わせ、疾患および寿命、ならびに治療を受けている対象の体調および過去の病歴を含むさまざまな要因に依存し得る。例えば、活性成分がトレハロースである場合、組成物中のトレハラーゼ阻害剤の存在ならびにトレハロースおよび任意選択でトレハラーゼを含む組成物の意図される投与経路は、選択されたトレハロースの投薬量レベルへの要因であり得る。
【0137】
トレハロースは、意図された治療用量より実質的に高い用量で安全かつ無毒性であると判定されている。トレハロース以外のAKT阻害剤を含む組成物の毒性および治療有効性は、未知であれば、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順、例えば最大耐量(MTD)、ED50および治療指数(TI)を決定するために用いられる手順によって決定することができ、ED50は最大応答の50%を達成するための有効量であり、治療指数(TI)はED50に対するMTDの比である。明らかに、高いTIを有する組成物が本明細書における最も好ましい組成物であり、好ましい投薬量計画は、トレハロースの血漿レベルを所望の治療効果を維持するための最小濃度以上に維持するものである。いくつかの実施形態では、AKT阻害剤を含む組成物の最小用量を投与することができ、用量制限毒性がない場合は用量を漸増させる。治療有効用量の決定および調整、ならびにそのような調整をいつ、どのように行うかの評価は、医薬の当業者には公知である。
【0138】
投与経路が経口である場合、トレハロースを含む組成物は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、300mg/kg体重/日から、または約400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950および1000mg/kg体重/日までの投薬量範囲で投与することができる。例えば、トレハロースを含む組成物は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、または約300mg/Kg体重/日の投薬量範囲で経口投与することができる。トレハロースを含む組成物はまた、約150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、または約300mg/kg体重/日の投薬量範囲で経口投与することもできる。または、トレハロースを含む組成物はまた、約400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950および1000mg/kg体重/日の投薬量範囲で経口投与することもできる。好ましくは、トレハロースを含む組成物は、約0.1g/kg/日から1g/kg/日の投薬量範囲で経口投与することができる。
【0139】
または、トレハロースを含む本開示の組成物が非経口投与される場合、トレハロース組成物は、米国特許第9,125,924号に開示されているように投与されてもよく、当該特許の開示はその全体が本明細書に組み込まれる。投与経路が非経口である場合、トレハロースを含む組成物は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、300mg/kg体重/日から、または約400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950および1000mg/kg体重/日までの投薬量範囲で投与することができる。例えば、トレハロースを含む組成物は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、または約300mg/Kg体重/日の投薬量範囲で非経口投与することができる。トレハロースを含む組成物はまた、約150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、または約300mg/kg体重/日の投薬量範囲で非経口投与することもできる。または、トレハロースを含む組成物はまた、約400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950および1000mg/kg体重/日の投薬量範囲で非経口投与することもできる。トレハロースを含む組成物は、約0.1グラム/kg/日から1g/kg/日の投薬量範囲で投与することができる。用量は0.54グラム/kg/日未満であり得る。
【0140】
本開示の投与組成物がトレハロースを含み、トレハラーゼ阻害剤としてミグルスタットをさらに含む場合、ミグルスタットは、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、300mg/kg体重/日から、または約400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950および1000mg/kg体重/日までの投薬量範囲で投与することができる。例えば、組成物は、約30から約100mg/kgのミグルスタット、約100から約300mg/kgのミグルスタット、または約100から約150mg/kgのミグルスタットの投薬量範囲で投与することができる。
【0141】
静脈内投与する場合、トレハロースを含む組成物は、約5分から数日または数週間にわたって投与することができる。好ましくは、静脈内投与する場合、トレハロースを含む組成物は、約75、80、85、90、95から約120分かけて投与することができる。より好ましくは、静脈内投与する場合、トレハロースを含む組成物は90分以内に投与することができる。
【0142】
さらに、トレハロースを含む組成物は、最大エンドトキシンレベルが5EU/キログラム体重/時未満になるように静脈内投与することができる。特に、トレハロースを含む組成物は、エンドトキシンレベルが約1、2、3、または約4エンドトキシン単位/キログラム体重/時未満になるように静脈内投与することができる。
【0143】
経口投与でも非経口投与でも、トレハロースを含む組成物は、トレハロース投与後約10から約20、または30、または40、または50、または60分以内にトレハロースの有効血清レベルを達成するように投与することができる。特定の実施形態では、有効成分の有効血清レベルは、トレハロース投与後約5から約20、または30、または40、または50、または60分以内に達成される。特定の実施形態では、有効成分の有効血清レベルは、トレハロース投与後約10から約20、または30、または40、または50、または60分以内に達成される。特定の実施形態では、有効成分の有効血清レベルは、トレハロース投与後約5、10、15、20、30、40、50または60分以内に達成される。
【0144】
トレハロースを含む組成物は、(投与当日の)1日の総用量が約5グラムから50グラムの間になるように投与することができる。好ましい実施形態では、トレハロースの投与用量の合計は8、15または30グラムである。特定の実施形態では、トレハロースは5、8、15、30、40または50グラムの単回用量として投与される。
【0145】
トレハロースの投与頻度は、症状または疾患を効果的に治療するために必要に応じて、1日1回、2回、3回、もしくはそれ以上、または1週間もしくは1ヶ月に1回、2回、3回もしくはそれ以上であり得る。特定の実施形態では、投与頻度は、1日に1、2または3回であり得る。例えば、用量は、24時間ごと、12時間ごと、または8時間ごとに投与することができる。特定の実施形態では、投与頻度は1週間に3回であり得る。別の特定の実施形態では、投与頻度は週に1回であり得る。さらに別の特定の実施形態では、投与頻度は毎日であり得る。
【0146】
組成物がAKT阻害剤としてMK-2206を含む場合、MK-2206は約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、300mg/Kg体重/日の投薬量範囲で投与することができる。例えば、MK-2206は約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、または約300mg/Kg体重/日の投薬量範囲で投与することができる。MK-2206はまた、約150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、または約300mg/Kg体重/日の投薬量範囲で投与することもできる。または、MK-2206はまた、約400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950および1000mg/kg体重/日の投薬量範囲で投与することもできる。好ましくは、MK-2206はまた、約100mg/kg/日~150mg/kg/日の投薬量範囲で投与することもできる。
【0147】
III.トレハロースの使用法
別の態様では、本開示はトレハロースを使用する方法を提供する。この方法は、トレハロースをそれを必要としている対象に投与して、その対象においてプロテインキナーゼBによって媒介される病状を治療することを含む。プロテインキナーゼBによって媒介される病状は、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害、過剰増殖性疾患、子宮内膜症、代謝性疾患、および関節炎疾患であり得る。好ましくは、トレハロースを使用する方法は、リソソーム蓄積障害またはリソソーム機能不全を特徴とする障害を治療することを含み、上記の通りであり得る。
【0148】
トレハロースを使用する方法は、癌などの過剰増殖性疾患を治療することをさらに含み得る。トレハロースを含む組成物およびトレハロースを投与する方法は、上記の通りであり得る。治療され得る新生物または癌細胞の非限定的な例としては、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、AIDS関連癌、AIDS関連リンパ腫、肛門癌、虫垂癌、星状細胞腫(小児小脳または脳)、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、骨癌、脳幹神経膠腫、脳腫瘍(小脳星状細胞腫、大脳星細胞腫/悪性神経膠腫、上衣腫、髄芽腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、視経路および視床下部神経膠腫)、乳癌、気管支腺癌/カルチノイド、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍(小児期、消化管)、未知の原発性癌、中枢神経系リンパ腫(原発)、小脳星状細胞腫、脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、子宮頸癌、小児癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性障害、大腸癌、皮膚T細胞リンパ腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、子宮内膜癌、上衣腫、食道癌、腫瘍のユーイングファミリーのユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍(小児期)、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管癌、眼癌(眼球内黒色腫、網膜芽細胞腫)、胆嚢癌、胃癌(胃)癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、生殖細胞腫瘍(小児期頭蓋外、性腺外、卵巣)、妊娠性絨毛腫瘍、神経膠腫(成人、小児の脳幹、小児脳星状細胞腫、小児視経路および視床下部)、胃カルチノイド、有毛細胞白血病、頭頸部癌、肝細胞(肝臓)癌、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、視床下部および視経路神経膠腫(小児)、眼球内黒色腫、膵島細胞癌、カポジ肉腫、腎臓癌、(腎細胞癌)、喉頭癌、白血病(急性リンパ芽球性、急性骨髄性、慢性リンパ球性、慢性骨髄性、有毛性)、口唇および口腔癌、肝癌(原発性)、肺癌(非小細胞、小細胞)、リンパ腫(AIDS関連、バーキット、皮膚T細胞、ホジキン、非ホジキン、原発性中枢神経系)、マクログロブリン血症(ワンデルストレーム(Waldenstrom))、骨/骨肉腫の悪性線維性組織球腫、髄芽腫(小児)、黒色腫、眼球内黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫(成人悪性、小児)、原発不明転移性扁平上皮頸部癌、口腔癌、多発性内分泌腫瘍症候群(小児)、多発性骨髄腫/形質細胞新生物、菌状息肉症、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄性白血病(慢性)、骨髄性白血病(成人急性、小児急性)、多発性骨髄腫、骨髄増殖性障害(慢性)、鼻腔および副鼻腔癌、上咽頭癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、口腔癌、中咽頭癌、骨の骨肉腫/悪性線維性組織球腫、卵巣癌、卵巣上皮癌(表面上皮間質腫瘍)、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓癌、膵臓癌(膵島細胞)、副鼻腔および鼻腔癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、褐色細胞腫、松果体星状細胞腫、松果体胚腫、松果体芽細胞腫およびテント上原始神経外胚葉性腫瘍(小児)、下垂体腺腫、形質細胞腫瘍、胸膜肺芽腫、原発性中枢神経系リンパ腫、前立腺癌、直腸癌、腎細胞癌(腎臓癌)、尿管;腎盂移行上皮癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫(小児期)、唾液腺癌、肉腫(腫瘍のユーイングファミリー、カポジ、軟部組織、子宮)、セザリー症候群、皮膚癌(非黒色腫、黒色腫)、皮膚癌(メルケル細胞)、小細胞肺癌、小腸癌、軟部組織肉腫、扁平上皮癌、原発不明扁平上皮頸部癌(転移性)、胃癌、テント上原始神経外胚葉性腫瘍(小児)、T細胞リンパ腫(皮膚)、精巣癌、咽頭癌、胸腺腫(小児)、胸腺腫および胸腺癌、甲状腺癌、甲状腺癌(小児)、尿管;腎盂移行上皮癌、絨毛性腫瘍(妊娠性)、未知の原発部位(成人、小児)、尿管;腎盂移行上皮癌、尿道癌、子宮癌(子宮内膜)、子宮肉腫、膣癌、視経路および視床下部神経膠腫(小児)、外陰癌、ワンデルストレームクログロブリン血症、およびウィルムス腫瘍(小児)が挙げられる。
【0149】
トレハロースを使用する方法は、AKTによって媒介される免疫障害を治療することをさらに含み得る。したがって、本発明の方法はまた、関節リウマチ、変形性関節症、クローン病、血管線維腫、眼疾患(例えば、網膜血管新生、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性、黄斑変性など)、肥満、アルツハイマー病、再狭窄、自己免疫疾患、アレルギー、喘息、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症、静脈グラフト狭窄、前立腺肥大、慢性閉塞性肺疾患、乾癬、組織修復による神経障害の抑制、瘢痕組織形成(および創傷治癒を助けることができる)、多発性硬化症、炎症性腸疾患、感染症、特に細菌性、ウイルス性、レトロウイルス性または寄生虫性感染症(アポトーシスの増加による)、肺疾患、新生物、パーキンソン病、移植拒絶反応(免疫抑制剤として)、敗血症性ショックなど疾患および状態を治療するためにトレハロースを使用することを含み得る。
【0150】
定義
本開示またはその(1または複数の)実施形態の要素を紹介するとき、冠詞「a」、「an」、「the」、および「said」は、1または複数の要素の存在を意味することを意図している。「含む(comprising)」、「含む(including)」および「有する(having)」という用語は、包括的であり、列挙された要素以外の追加の要素が存在し得ることを意味することを意図している。
【0151】
本明細書で使用される用語「治療すること」および「治療」は、徴候または症状の重症度および/または頻度の減少、徴候または症状および/または根本原因の排除、症状の発生および/またはそれらの根本原因の予防(例えば、予防的治療)、ならびに損傷の改善または改善を指す。
【0152】
「有効量」および「治療有効量」という用語は互換的に使用され、所望の効果を提供するための薬物または薬剤の無毒ではあるが十分な量を指す。
【0153】
「薬学的に許容される」という用語は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、またはそれが含まれる組成物の他の成分のいずれとも有害な方法で相互作用することなく、患者に投与される医薬組成物に組み込まれ得る物質を指す。「薬学的に許容される」という用語が薬学的担体または賦形剤を指すために使用される場合、その担体または賦形剤は毒性試験および製造試験の要求基準を満たしていること、またはそれは米国食品医薬品局によって作成された不活性成分ガイドに含まれることを意味する。
【0154】
本明細書に記載された開示はさまざまな修正および代替の反復の影響を受けやすいが、その特定の実施形態は上記により詳細に記載されている。しかしながら、詳細な説明は、本開示を開示された特定の実施形態に限定することを意図したものではないことを理解されたい。むしろ、本開示は、特許請求の範囲の文言によって定義されるような本開示の精神および範囲内に含まれるすべての修正形態、等価物、および代替形態を網羅するように意図されていることを理解されたい。
【実施例
【0155】
以下の実施例は本発明のさまざまな実施形態を例示するものである。
【0156】
実施例1~3の導入
神経変性疾患は、平均余命の延長および世界的な人口高齢化のために今後数十年で増加すると予想される、公衆衛生に大きな負担をかけるものである。他のヒトの健康状態とは異なり、神経変性疾患はその進行を停止させたり遅らせたりしようとする試みに対して非常に難治性であることが証明されている。実際、寿命を大幅に延ばしたり臨床経過を変えたりする、神経変性疾患のための承認済みの治療法は存在しない。したがって、神経変性疾患は、有効な薬理学的に作用可能な標的の同定が緊急に必要とされている、未だ対処されていない医学的状態の代表である。
【0157】
増加している遺伝的および実験的証拠は、神経変性疾患の病因に関与する主な過程として細胞クリアランス経路に集中している。確かに、神経変性状態を有する患者の圧倒的多数は、圧倒されたまたは損なわれた細胞分解系の結果として、未消化の巨大分子の異常なニューロン蓄積を有する2、3。同定された原因の中には、細胞によって効率的に廃棄されない凝集しやすいタンパク質の異常な生成、および直接または間接的にオートファジー-リソソーム分解経路に影響を及ぼす遺伝的欠陥がある。したがって、これらの疾患状態における細胞クリアランスの増強が細胞の恒常性を維持しそして神経細胞死を防ぐのを助けることを提唱する一般的なパラダイムが出現している5、6。リソソームの生合成および機能を監督する遺伝的プログラムの本発明者らによる最近の同定は、リソソーム分解経路を操作するための適切な標的を提供した。基本的なヘリックス-ループ-ヘリックス転写因子EB(TFEB)は実際に、リソソーム増殖、分解酵素の発現8、9、オートファジー10、リソソームエキソサイトーシス11、およびリソソームタンパク質恒常性12を含むいくつかの過程の強化を通じて細胞クリアランスの主な調節因子として作用する。TFEBの異種発現に基づくインビボ研究は、アルツハイマー病13、14、タウオパチー15、パーキンソン病16、ハンチントン病8、17などの神経変性障害のげっ歯類モデルにおいて、クリアランスの改善と疾患表現型の改善を示している。TFEBの薬理学的活性化の機会は細胞ベースの研究から生じており、TFEBはオートファジー誘導を制限する主要な公知の因子であるラパマイシン複合体1(mTORC1)18~20の機構的標的によって負に調節されることを示している。細胞におけるmTORC1の触媒阻害はTFEB活性化をもたらすが、ラパマイシン(その類似体と同様にmTOR関連の翻訳用途において研究を先導しているmTORC1アロステリック阻害剤)は、TFEB18~20の活性化には全く効果がない。実際に、TFEB活性化の薬理学的療法はまだ提案されていない。したがって、TFEBを活性化するための代替経路の同定は、翻訳用途においてこの分野を前進させるために必要とされる。
【0158】
以下の実施例は、セリン/トレオニンキナーゼAkt(プロテインキナーゼB)を、mTORC1とは無関係にTFEB活性を制御する薬理学的に作用可能な標的として同定する。グルコースの非還元性二糖のα-D-グルコピラノシル、α-D-グルコピラノシドまたはトレハロースであるmTOR非依存性オートファジー誘導物質21は、Aktを阻害することによってTFEBの核内移行を促進することがわかった。トレハロース投与は、原型の神経変性疾患のマウスモデルにおいて疾患負荷を軽減し、未分解タンパク質物質の異常なリソソーム内蓄積を提示することが示されている。TFEB活性がSer467におけるAktリン酸化によって調節されること、およびAktの薬理学的阻害がリソソーム経路の障害を呈する遺伝病のさまざまなモデルにおいて細胞クリアランスを促進することが実証されている。Akt活性の調節は、重要な臨床試験の主題である。
【0159】
実施例1~3の方法
細胞培養および処理
対照(Coriell Institute、USA)およびJNCL線維芽細胞(Gaslini Institute、Italy)を、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS、Atlanta Biologicals)、2mM L-グルタミン、100U/ml ペニシリンおよび100mg/ml ストレプトマイシン(Invitrogen)を添加したDMEM(1:1、HyClone)中で増殖させた。HeLa細胞を、LY294002(50mM、Cell Signaling)、Torin 1(300nM、Cayman Chemical)と共に2時間、またはトレハロース(100mM、Sigma)、ラパマイシン(300nM、Sigma)、MK2206(1μM、Selleckchem)、U0126(10mM、Tocris)と共に24時間および透析血清(GE Healthcare Life Sciences)と共に30分間インキュベートした。
【0160】
皮質および海馬のニューロン培養
皮質および海馬ニューロンをE17.5および生後0~1日のマウスから調製し、ポリ-D-リジンコーティング6ウェルプレート(BD Biosciences)においてGlutaMAX-1(Invitrogen)、B-27および1%FBSを添加したNeurobasal培地にプレーティングした。インビトロでの日数(DIV)4にニューロンを100mMトレハロースで処理した。DIV8において、ニューロンを収集し、RNA抽出を行った。
【0161】
皮質星状細胞培養
星状細胞をP0-1マウスから単離し、10%FBSおよび100U/mlのペニシリンおよび100mg/mlのストレプトマイシンを添加したDMEM高グルコースの存在下でポリ-D-リジンコーティング6ウェルプレート(BD Biosciences)にプレーティングした。7日後、グリア細胞層を除去し、星状細胞を処理のためにプレーティングした。翌日、100mMの量のトレハロースを培地に溶解し、4日間保持した。最後に、星状細胞を収集し、タンパク質抽出物をウエスタンブロットアッセイにより分析した。
【0162】
免疫蛍光アッセイ
免疫蛍光アッセイのために、細胞を24ウェルプレート中のカバーガラス上で増殖させた。処理後、細胞をPBSで洗浄し、メタノールで10分間固定した。次いで細胞をブロッキング剤(PBS中0.1%サポニン、10%ウシ血清)で1時間ブロックし、適切な一次抗体(1:100)と共に室温で3時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、細胞を適切な二次抗体(1:500)と共に室温で1時間インキュベートした。次いで、共焦点顕微鏡による画像化のために、4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(H-1200)を含有するベクタシールド(vectashield)でカバーガラスを封入した。
【0163】
ウエスタンブロット
脳組織および培養細胞を収集し、プロテアーゼのカクテル(Roche)およびホスファターゼ(SIGMA)阻害剤を含むRIPA緩衝液(50mM Tris-HCl、pH7.4、1%NP40、0.5%Na-デオキシコール酸、0.1%SDS、150mM NaCl、2mM EDTAおよび50mM NaF)中で溶解した。タンパク質濃度を、標準としてウシ血清アルブミンを使用して、ビシンコニン酸タンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL)を用いて測定した。溶解物をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で分離し、ニトロセルロースメンブレンに転写した。ブロットをブロッキング緩衝液(Tris緩衝食塩水、pH7.4および0.2%Tween 20、TBST中5%w/vの乾燥脱脂粉乳)中でインキュベートし、続いてブロッキング緩衝液(5%乾燥乳)中に希釈した適切な抗体と共に一晩インキュベートした。ウエスタンブロット画像をLAS 4000(GE Healthcare)によって取得し、ImageJを用いて定量化した。画像を発表用にトリミングした。フルサイズ画像を図27に示す。
【0164】
抗体
以下に対する抗体:Akt(#9272、1:1,000)、ホスホ-Akt(S473)(#4060、1:500)、ホスホ-Akt(T308)(#13038、1:500)、p70 S6K(#9202、1:1,000)、ホスホ-P70 S6K(T389)(#9205、1:500)、4E-BP1(#39452、1:1,000)、ホスホ-4EBP1(T37/46)(#9459、1:500)、S6リボソームタンパク質(#2217、1:1,000)、ホスホ-S6リボソームタンパク質(S240/244)(#2214、1:1,000)、LAMP1(#3243、1:1,000)、ヒストン3(#4469、1:1,000)、ホスホ-(Ser)14-3-3結合モチーフ(#9601S、1:500)、Rictor(#2114、1:500)、Raptor(#2280、1:500)、ERK1/2(#9102、1:1,000)、蛍光体-ERK1/2(#9101、1:1,000)、GSK-3b(D5C5Z)XP(#12456S、1:1,000)、ホスホ-GSK-3b(Ser9)(#9336S、1:500)、GFP(D5.1)(#29556、1:1,000)およびヒトTFEB(#4240、1:500)を、Cell Signalingから購入した。GAPDHに対する抗体(#32233、1:1,000)はSanta Cruzから購入した。GFAPに対する抗体はDAKOから購入した(#Z0334、1:1,000)。CD68に対する抗体はAbD Serotec(#MCA1957、1:1,000)から購入した。マウスTFEBに対する抗体は、Proteintechから購入した(#13372-1-AP、1:500)。マウス抗FLAG M2(#F1804、1:1,000)およびウサギ抗FLAG(#F7425、1:1,000)抗体は、Sigmaから購入した。汎14-3-3抗体(K-19)(#SC629、1:300)は、Santa Cruzから購入した。TSC2に対する抗体はAbcamから購入した(#32554、1:1,000)。
【0165】
細胞質ゾルおよび核タンパク質の分取
細胞ペレットを、阻害剤と共に溶解緩衝液(10mM Hepes pH 7.9、10mM KCl、0.1mM EDTAおよび0.4%Nonidet P40)中にピペッティングにより再懸濁し、氷中で30分間保持した。最高速度で1分間遠心した後、上清を細胞質ゾル画分として回収した。ペレットを溶解緩衝液で2回洗浄し、ホスファターゼおよびプロテアーゼ阻害剤を含有する核緩衝液(20mM Hepes pH7.9、0.4M NaClおよび1mM EDTA)に再懸濁した。エッペンドルフシェーカーで15分間激しく振とうした後、ペレットを10分間最高速度で遠心沈殿させた。上清を核画分として使用した。
【0166】
インビトロキナーゼアッセイ
精製された活性AKT1酵素(SignalChem、Richmond、Canada)を使用してインビトロキナーゼアッセイを実施した。IP用の全細胞溶解物を、プロテアーゼ阻害剤および1mMのNaVOを含有するIP溶解緩衝液(20mM Tris、pH7.5、150mM NaCl、1mM EDTAおよび1% Triton X-100)中で調製した。細胞溶解物(1,000μg)を、プロテインA/Gビーズ(Pierce Crosslink IPキット、Life Technologies、Grand Island、NY)に架橋した10μgのマウス抗FLAG抗体またはマウスIgG(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)のいずれかと共に4℃において一晩インキュベートし、IP溶解緩衝液で総量300μlにした。免疫複合体を遠心分離により収集し、IP溶解緩衝液中で5回洗浄し、10μlの3×FLAGペプチドで溶出した。溶出液を、1×キナーゼ緩衝液(25mM Tris、pH7.5、5mM β-グリセロールホスフェート、10μM ATP、2mMジチオトレイトール、0.1mM NaVOおよび10mM MgCl)で30μlに希釈した。20μlのキナーゼ緩衝液中200ngのAKT1および0.5μCiの[γ-32P]ATP(3,000Ci/mmol、PerkinElmer Life Sciences)を添加することによって、キナーゼ反応を開始させた。30℃で15分間インキュベートした後、SDS-PAGE添加液を添加し、95℃で10分間加熱することにより反応を停止させた。試料を4~12%SDS-PAGEゲルで分離し、オートラジオグラフィーで分析した。TFEB-S467A-3xFlagを、QuikChange XLII部位特異的突然変異誘発キット(Agilent)および以下のオリゴ:50-AGCAGCCGCCGGAGCGCCTTCAGCATGGAGGAG-3’、5-CTCCTCCATGCTGAAGGCGCTCCGGCGGCTGCT-3’を、製造業者の指示書に従って使用することによって生成した。
【0167】
定量的リアルタイムPCR
製造業者の説明書に従ってRNEasyキット(Qiagen)を用いて、対照およびJNCL線維芽細胞ならびにWTおよびCln3Δex7-8皮質ニューロン培養物から全RNAを抽出した。マウス脳の半分をRNA抽出のために処理し、1マイクログラムをQuantiTect Reverse Transcription kit(Qiagen)による相補的DNA合成に使用した。逆転写反応を用いるPCR用のプライマーを表S1に列挙する。定量的リアルタイムPCRは、CFX96 Touch Real-Time Detection System(Bio-Rad Laboratories)においてiQ SYBR Green Supermixを使用することによって実施した。試料を95℃で3分間加熱し、95℃で11秒間、60℃で45秒間で39サイクル、および最終サイクルは95℃で10秒間、65℃で5秒間および95℃で5秒間で増幅させた。分析は、CFXマネージャーソフトウェア(Bio-Rad)を用いて行い、閾値サイクル(C)はPCR増幅プロットから抽出した。相対的遺伝子発現は、ΔΔC法を使用して決定し、GAPDH(ヒト遺伝子について)およびシクロフィリン(マウス遺伝子について)に対して正規化した。遺伝子のメッセンジャーRNAレベルの変化は、以前に記載されたように倍数変化で表した。エラーバーは平均値の標準誤差を表す。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【表1】
【0168】
RNA干渉
siRNAノックダウンのために、Lipofectamine RNAiMAXトランスフェクション試薬(Invitrogen)を使用して、細胞に、Stealth RNAi Negative Control Duplex(Thermo-Scientific 12935-300)またはAKT1を標的とするStealth siRNA二本鎖(Thermo Scientific、HSS176614、HSS100346およびHSS100345)をトランスフェクトした。Rictorに対するsiRNAはCell Signalingから購入した(8622)。トランスフェクションの72時間後に細胞を分析した。
【0169】
マイクロアレイ実験
トレハロース処理あり、およびなしの対照およびJNCL線維芽細胞由来の全RNA(100mM、4日間)を用いて、Illumina Human HT-12 V4.0アレイプラットフォームへのハイブリダイゼーションのための相補的DNAを調製した。実験は3連に行った。発現分析は、Microarray Core and Cell and Regulatory Biology、University of Texas、Houston、TX、USAで行った。差次的遺伝子発現を評価するための有意性の閾値として、Po0.01を用いた。GSEAを前記のように実施した10、11。累積分布関数は、1,000個のランダム遺伝子セットメンバーシップ割り当てを行うことによって構築した。名目上のP<0.01およびFDR<10%を、ESの有意性についての閾値として使用した。遺伝子オントロジー解析は、デフォルトパラメータを使用し、ウェブツールDAVID(https://david.ncifcrf.gov/)を用いて行った。経路共発現分析は、前記のように行われ8、9、Cytoscapeを使用して発現相関データをグラフで表した。
【0170】
動物の飼育
Cln3Δex7-8マウス(ストック番号004685;Cln3tm1.1Mem/J;CD-1バックグラウンド)32をJackson Laboratoryから入手した。対照(CD-1)マウスおよびCln3Δex7-8マウスを3~4匹/ケージで、12時間明期/12時間暗期周期の部屋で飼育した。食料と水は自由に与えた。この研究で使用されたすべてのマウスは、生後8ヶ月齢および12ヶ月齢において分析し、ヘテロ接合性Cln3Δex7-8マウスを交配することによって産生された同腹仔であった。この分析には雄のみを使用した。データを分析する際に研究者は盲検化されており、無作為化は不要であった。この研究から除外されたデータはなかった。
【0171】
腹腔内注射
マウスにMK2206(120mg/kg)を1日おきに4回腹腔内注射した。MK2206は水中30%のカプチソール中に配合した。4匹のCln3Δex7-8マウスにMK2206を注射し、4匹にビヒクル対照として30%のカプチソールを注射した。
【0172】
トレハロース治療
トレハロース(Swanson)を飲料水に最終濃度2%まで溶解し、週に2回交換した。トレハロース含有水を、21日齢から始めてマウスが自然に死亡するかまたは他の研究のために屠殺する日まで継続する自発経口投与(寿命評価)によってCln3Δex7-8マウスおよびWTマウスに与えた。
【0173】
免疫組織化学
8ヶ月齢および12ヶ月齢のホモ接合性Cln3Δex7-8マウスおよび同齢対照をイソフルランで麻酔し、経心的にPBSで潅流し、続いて0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4中4%の緩衝化パラホルムアルデヒドで灌流した。続いて脳を取り出し、一晩後固定した。切片化する前に、Tris-緩衝食塩水(TBS:50mM Tris、pH7.6)中30%のスクロースを含有する溶液中で脳を凍結保護した。連続した40mmの浮遊冠状切片を96ウェルプレートに収集した。次に一連の切片をCD68またはGFAPに対する一次抗血清、続いてウサギ抗ラット(VectorLab)およびブタ抗ウサギ(DAKO)二次抗体のいずれかで染色し、そして免疫反応性をVectastain ABC(アビジン-ビオチン)キット(Vector)および色素原としてのジアミノベンジジンで検出した。
【0174】
グリア表現型の定量分析
目的の各領域を通して、3つの連続した切片において30の重複しない画像を撮影した。すべてのRGB画像は、X40対物レンズを用いたZeiss Axioplan顕微鏡に据え付けられたライブビデオカメラ(JVC、3CCD、KY-F55B)により撮影し、JPEGとして保存した。ランプ強度、ビデオカメラの設定および較正を含むすべてのパラメータは、画像撮影の間を通じて一定に維持された。続いて、ImageJ分析ソフトウェア(NIH)を使用して、背景より上の前景免疫反応性を選択する適切な閾値を使用して、画像を分析した。次いで、この閾値を、動物のバッチごとに分析したすべてのその後の画像および各領域の各抗原についての免疫反応性の特異的領域を決定するために使用した試薬に定数として適用した。この分析は遺伝子型に対して盲検的に行われた。データは、各領域について視野当たりの免疫反応性の平均面積百分率±平均値の標準誤差としてグラフにプロットした。
【0175】
蓄積負荷
各脳領域に存在する自己蛍光蓄積物質の相対レベルを分析するために、S1BFおよびVPM/VPLにまたがるマウス脳切片をゼラチンクロムコーティングスライド上に載置し、Vectashield(Vector Laboratories、Peterborough、UK)で封入した。各切片からの非重複画像を、Leica SP5共焦点顕微鏡および488nm励起レーザー(Leica Microsystem)を使用して倍率×63で撮影した。各領域に存在する蓄積負荷を決定するために閾値画像分析を実施した。画像撮影中、すべてのレーザーパラメータおよび較正は一定に保たれた。ImageJ(NIH)を用いて半定量的閾値画像分析を行った。
【0176】
TEM
マウスを麻酔し、生理食塩水、続いて0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中2%ホルムアルデヒド+2.5%グルタルアルデヒドで心臓内灌流した。脳を摘出し、小脳および皮質の小片を収集し、さらに2%ホルムアルデヒド+ 2.5%グルタルアルデヒド、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中で24時間後固定した。100マイクロメートルの冠状切片をビブラトームで切断し、0.1Mカコジル酸中1%OsOで1時間固定し、脱水した酢酸ウラニルで染色し、Eponate 812に包埋した。60nmの超薄切片をRMC MT6000ウルトラミクロトームで得て、日立H7500透過型電子顕微鏡で調べた。Gatan US1000高解像度デジタルカメラおよびDigital Micrographソフトウェア(v1.82.366)を用いて画像を撮影した。
【0177】
MRI用の組織標本
画像化の前にマウスを経心的に灌流した。頭部を取り除き、次いで頭蓋骨を露出させるために皮膚、筋肉、耳、鼻の先端および下顎を取り除いた。頭部を4℃の4%パラホルムアルデヒドで一晩固定した。次に頭部をPBS中0.01%アジ化ナトリウム40mLに移し、4℃で7日間振とうした。頭部をPBS中5mMガドペンテト酸ジメグルミン(Bayer HealthCare Pharmaceuticals Inc.、Wayne、NJ)および0.01%アジ化ナトリウムの溶液に移し、4℃で25~35日間振とうした。ガドペンテト酸ジメグルミンとのインキュベーションによりシグナル対ノイズ比が改善された。画像化前に、頭部を6~8時間室温に平衡化した。
【0178】
磁気共鳴プロトコル
マウスあたり合計48スキャンを、9.4 T Bruker Avance Biospec Spectrometer、内径21-cmの水平スキャナー(35mm容積共振器付き)(Bruker Biospin、Billerica、MA)でParavision 5.0ソフトウェア(Bruker Biospin、Billerica、MA)を用いて取得した。3次元DTIスキャンパラメータは以下の通りである:スピンエコー、b値=0および1,000s/mm、20の拡散方向および1つの非拡散強調画像、TR=500ms、TE=14.8ms、FOV=1.7×1.2×2.4cmまたは2.0×1.4×3.2cm、マトリックス=128×96×96、NEX=1、δ=3ms、Δ=7ms。取得時間は約15時間であった。
【0179】
MRI画像処理
MRI画像を最初にDTIスタジオで処理して、異方性比率を推定した。その後、Amiraソフトウェア(Visage Imaging、Inc.、San Diego、CA)を使用してCCのROIを定義し、各マウスの容積を計算した。CCの容量測定は盲検法で行った。
【0180】
ABR測定
ABRを以前に記載されたように測定した69。簡単に説明すると、10ヶ月齢のマウス(n=4~6/遺伝子型/治療群)をケタミン(100 mg/kg)およびキシラジン(10 mg/kg)の腹腔内注射を用いて麻酔し、次いでヘッドホルダーに固定した。マウスを加温パッドの上に置くことによって、この手順の間を通して通常の体温を維持した。4~48kHzの純音刺激を、Tucker-Davis Technologies System 3デジタル信号処理ハードウェアおよびソフトウェア(Tucker-Davis Technologies、Alachua、FL、USA)を使用して発生させ、音刺激の強度をタイプ4,938の1/4インチ音圧音場較正マイクロホン(Bruel and Kjar、Naerum、Denmark)を使用して較正した。応答信号を、頭皮の頂点、耳介後部および後脚(接地)に挿入された皮下針電極を用いて記録した69。聴覚閾値は、応答において再現可能で認識可能な波を有する最低の音強度に達するまで、90から10dBまで5dBごとに各刺激の音強度を減少させることによって決定した。平均聴覚閾値±標準偏差(dB SPL)を刺激周波数(kHz)の関数としてプロットした。統計分析は、周波数固有の効果を評価するために、個々の周波数で両側スチューデントt検定を伴う全体的な傾向を明らかにするための一元配置分散分析で構成された。T検定のP値はHolm法を用いて多重比較について調整した。R(バージョン2.13)をすべての統計分析に使用した。
【0181】
Aktリン酸化予測
Aktが標的とする可能性がある候補リン酸化部位を同定するために、実験的に決定された非重複性Aktリン酸化部位配列をPhosphocitePlusウェブサイト(www.phosphosite.org/)からダウンロードし、MEME Suite 4.11.0(meme-suite.org/)を用いてTFEBアミノ酸配列をスキャンするPWMの構築に使用した。TFEB配列は、デフォルトパラメータを用いてMultAlin(multalin.toulouse.inra.fr/)を使用することによりアライメントした。
【0182】
統計
結果は平均値±平均値の標準誤差として表す。各パラメータの平均差の統計的有意性は、特に明記しない限り、遺伝子型と治療の分散分析とそれに続くTukeyの事後検定によって決定した。P<0.05を有意と見なした。
【0183】
研究の承認
すべてのマウス実験手順は、Baylor College of MedicineのInstitutional Animal Care and Use Committeeによって検討および承認された。
【0184】
データの可用性
著者らは、この研究の調査結果を裏付けるデータはすべて、この論文とその補足情報ファイルに含まれていることを宣言する。遺伝子発現マイクロアレイのGene Expression Omnibusアクセッション番号はGSE76643である。
【0185】
[実施例1]
トレハロースは、JNCLのモデルにおいて神経病理を減弱させる。
細胞クリアランスのmTORC1非依存性活性化の最も実証された例は、トレハロースによって発揮されたものである22~26。本発明者らは、トレハロースがこれまでに特徴付けられていない経路を介してTFEBを活性化するという仮説を立て、小児の最も一般的な神経変性障害である幼若ニューロンセロイドリポフスチン症(JNCLまたはバッテン病;OMIM#204200)に代表される異常なリソソーム内蓄積の原型モデルを用いてこの仮説を検証することにした。JNCLは、リソソームのホメオスタシスの調節に関与する遺伝子であるCLN3の突然変異によって引き起こされ27~29、共焦点顕微鏡および電子顕微鏡で検出可能なオートファジーの障害およびセロイド脂肪色素のリソソーム内蓄積によって特徴付けられる30、31
【0186】
JNCL32の確立されたモデルであるCln3Δex7-8マウスへの経口トレハロース投与は、それらの寿命を有意に延長した。Cln3Δex7-8マウスの生存期間中央値は454日から522日に延び(15%増加、ログランクP=0.00566)、最大寿命は544日から699日に延びた(28%増加;図1a)。JNCL患者の死後検査および神経画像化研究は、脳梁(CC)および脳幹の有意な菲薄化を含む全般的脳萎縮を示した33、34。JNCLマウスにおける磁気共鳴画像法(MRI)の研究は、CLN3タンパク質の欠乏が脳の同様の全般的萎縮をもたらし、それによってヒトの状態に反映されることを報告している35。この研究では、12ヶ月齢のCln3Δex7-8マウスの脳湿重量(0.355±0.024g)を測定したところ、それは同齢野生型(WT)マウスの脳湿重量(0.516±0.021g;P=0.0016)よりも有意に低いことがわかった。しかし、この差はトレハロース処置によって大部分救済された(0.473±0.028g;未処置のCln3Δex7-8マウスとの差、P=0.032;図1b)。対照的に、トレハロース投与はCln3Δex7-8またはWTマウスの体重に影響を及ぼさなかった(図2)。次に、MRI分析により固定脳のCC体積を評価した。48スタック/試料の定量的測定により、Cln3Δex7-8マウスが、それらのWT対応物(16.81±0.89mm;P=0.0081;図1c)と比較してCCの体積の顕著な減少(12.96±0.43mm)を有することが示され、これらも処置によって救済された(15.02±0.33mm;未処置Cln3△ex7-8マウスとの差、P=0.027;図1c)。トレハロースで処置したWTマウスの分析では、CC体積に有意な変化は見られなかった(18.27±0.66mm図1c)。
【0187】
6ヶ月齢のCln3Δex7-8マウスは、ホットプレートアッセイにおいて痛覚感受性の低下を示し、これはトレハロースによって完全に回復した(図1d)。10ヶ月齢のマウスにおける聴性脳幹反応(ABR)分析は、Cln3Δex7-8マウスがWTマウスと比較してABR閾値の上昇を有することを示し(P=0.01027)、これは低周波聴力損失を示す(図3)。トレハロース処置は、未処置の同齢対照と比較して両方の遺伝子型においてABR閾値の低下をもたらし、聴覚機能の保護を示した(図3)。網膜機能の評価はまた、11ヶ月齢のマウスの網膜電図分析を行うことによって試みられた。しかしながら、いくつかの未処置WTマウスは、試験に対する反応が悪く、重度の視力喪失を示した。本明細書で使用されるマウスコロニー(CD-1)の遺伝的背景は、これまで雄の約60%における遺伝性網膜変性および他の視力低下表現型と関連していた36、37。したがって、網膜電図での治療関連変化の評価は実施できなかった。
【0188】
次に、トレハロースがセロイド脂肪色素の蓄積を修正するかどうかを確かめるために、Cln3Δex7-8マウスの脳の顕微鏡分析を行った。これらの研究は、一次体性感覚野バレル領域皮質(S1BF)と、感覚情報をS1BFに中継する視床腹側後方内側および外側核(VPM/VPL)に焦点を当てており、それは、脳の他の領域とは異なり、両方の構造がバッテン病のマウスモデルでは一貫してひどく影響を受けているからである38。7ヶ月齢および12ヶ月齢のCln3Δex7-8マウス由来の両領域は、WTマウスと比較して点状の自己蛍光物質の強い存在を示し、これが両方の時点でトレハロース処置によって有意に減少することが見出された(図4a~d)。Cln3Δex7-8マウス脳の透過型電子顕微鏡(TEM)分析により、プルキンエ細胞および皮質ニューロンの両方における電子密度の高い細胞質の顕著な蓄積が確認された(図4e、f)。倍率を上げると、このような電子密度の高い材料が、ヒトおよびマウスの両方のJNCL病理学にすでに関連している特徴的なフィンガープリントプロファイル構造(図5)からなることが明らかになった31、32。トレハロース処置は、プルキンエ細胞(P=0.047)および皮質ニューロン(P=0.017;図4e、f)におけるフィンガープリントプロファイルの数を有意に減少させ、ニューロンにおける細胞クリアランスの増強が確認された。次に、炎症に対するトレハロースの効果を評価した。以前の研究は、Cln3Δex7-8マウスのVPM/VPLおよびS1BF領域における反応性神経膠症およびミクログリア活性化を報告した38。立体分析により、7ヶ月齢のCln3Δex7-8マウスは同齢のWTマウスと比較してこれらの脳領域でGFAPおよびCD68免疫反応性が著しく増加していることが示され、反応性神経膠症およびミクログリア活性化が確認された(図6a~d)。星状細胞増加症およびミクログリア活性化の両方が12ヶ月齢で悪化した(図6e~h)。この進行性の神経炎症はトレハロース投与によって軽減された(図6a、c、e、f、h)。まとめると、データは、クリアランスのmTORC1非依存性エンハンサーによる処置が、リソソーム系の一次障害によって引き起こされる原型型蓄積障害のモデルにおいて脳萎縮、脂肪色素の蓄積、および神経炎症を減少させることを示す。
【0189】
[実施例2]
TFEBおよびCLEARネットワークのmTORC1非依存的活性化。
Cln3Δex7-8マウスにおいて観察された蓄積物質の減少は、トレハロースがリソソーム機能を増強することを示唆している。TFEBは、それらのプロモーターに存在する「協調的リソソーム発現および調節(coordinated lysosomal expression and regulation)」(CLEAR)部位に直接結合することにより、リソソーム遺伝子の発現を調節する。トレハロースがTFEBの核内移行(TFEB活性化の特徴)を誘導するかどうかを試験するために、TFEB-3xFLAG(HeLa/TFEB)を安定に発現する細胞を調べた。共焦点顕微鏡により、トレハロース投与による24時間以内の進行性TFEB核内移行が示された(図7a)。定量分析は、この時間枠内で、核TFEBを有する細胞が20から>80%に増加したことを明らかにした(図7b)。最近の報告は、mTORC1がTFEBをリン酸化し、それによってTFEBの細胞質ゾル保持を促進することを示している18~20。トレハロースがmTORC1非依存性経路を介してTFEBを活性化するかどうかを機構的に試験するために、mTORC1の構成的活性化の2つのモデルを使用した。第1のモデルは、結節性硬化症複合体2遺伝子、Tsc2(Tsc2-/-)に関してヌルである細胞によって表される39。TSC2は、TSC1とmTORC1活性を抑制するヘテロ二量体複合体を形成し、したがって、TSC2またはTSC1のいずれかが失われると、mTORC1の構成的活性化が起こる40。Tsc2-/-マウス胚性線維芽細胞および対照マウス胚性線維芽細胞のウエスタンブロットおよび共焦点顕微鏡分析は、mTORC1阻害剤(ラパマイシンおよびTorin1)とは異なり、トレハロースがmTORC 1シグナル伝達を変化させず(図7c;図8)、TFEB S211(mTORC1標的部位)のリン酸化を修正しないことを示したが18、19図9)が、活性mTORC1を用いてもTFEB核内移行を誘導する(図7d、e)ことを示した。使用された第2のモデルは、mTORキナーゼドメインにおいてE2419Kアミノ酸置換を有する構築物により得られ、これは構成的に活性なmTOR(mTORE2419K)をもたらす41。共焦点顕微鏡分析は、トレハロース処理が、WT mTORまたはmTORE2419Kをトランスフェクトされた細胞においてTFEBの核内移行を誘導することを示した(図7f、g)。まとめると、これらのデータは、トレハロースシグナル伝達が、TFEB局在化のmTORC1制御を無効にすることを示している。mTORC2がTFEB核内移行を調節しないことを示す以前の研究と一致して、mTORC2特異的成分RICTORの低分子干渉RNA(siRNA)媒介性枯渇は、TFEB細胞内局在化に影響を及ぼさなかった(図10a、b)18
【0190】
次に、TFEBのトレハロース活性化がCLEARネットワークに特異的な転写効果を発揮するかどうか、またはトレハロースがTFEBとは無関係であり得る追加のプログラムを活性化するかどうかを求めた。この問題に取り組むために、トレハロースが正常および病理学的条件においてヒト初代細胞においてCLEARネットワークを活性化することを最初に確認した。培養培地由来のトレハロース投与後に、患者由来のJNCL線維芽細胞および対照線維芽細胞から抽出されたメッセンジャーRNAを用いてリアルタイム定量的PCR(qPCR)を行った。結果は、どちらの遺伝的背景を有する線維芽細胞でも、処理された線維芽細胞対未処理の線維芽細胞において試験されたCLEAR遺伝子の発現の増加を示した(図11a、b)。次に、トレハロース処理後のJNCLおよび対照線維芽細胞のマイクロアレイ発現分析を行った。未処理の対照と比較して少なくとも2倍の発現レベルの変化を有する遺伝子の遺伝子オントロジー分析は、唯一過剰に表されたクラスの遺伝子がJNCLおよび対照線維芽細胞においてリソソーム代謝に関連するものであることを示した(両方の分析について濃縮倍数>5およびP<10-10)。共調節分析8、9により、CLEAR遺伝子はトレハロースによって誘導される遺伝子ネットワークの中心にあることが明らかになり(図11c)、TFEB活性化がトレハロース投与時の細胞の最初の転写応答であり得ることが示唆された。対照線維芽細胞における発現変化の遺伝子セット濃縮分析(GSEA)により、大多数のリソソーム遺伝子がトレハロース投与で上方制御されたことが確認された(濃縮スコア、ES=0.67、P<0.0001;図11d)。リソソーム代謝において公知の役割を有するTFEB直接標的のGSEAはさらに高い濃縮度を示し(ES=0.82、P<0.0001;図11e)、これはトレハロースがTFEB媒介リソソーム調節を特異的に活性化することを示す。JNCL線維芽細胞におけるGSEAの遺伝子発現変化は、同様の結果をもたらし(図11f、g)、したがって、CLN3欠損症がTFEB媒介性リソソーム濃縮を妨害することはない。
【0191】
TFEB活性化は、リアルタイムqPCRにより、WTマウスおよびCln3Δex7-8マウスからの初代皮質ニューロン培養においてCLEARネットワークを誘導することが確認された(図12a、b)。WTマウスおよびCln3Δex7-8マウスからの初代皮質星状細胞培養物から抽出したタンパク質の免疫ブロットは、トレハロース投与時にLAMP1レベルの増加(リソソームのマーカー)を示し(図13)、グリア細胞におけるリソソーム拡大が確認された。マウス脳切片の共焦点顕微鏡検査およびリアルタイムqPCRによるWTおよびCln3Δex7-8マウスからの全脳ホモジネートの発現分析は、経口トレハロース投与がTFEB核内移行(図12c、d)ならびにリソソームおよびオートファジー遺伝子の上方制御をもたらすことを示した(図12e、f)。したがって、TFEBおよびCLEARネットワークはインビボで活性化される。
【0192】
[実施例3]
S467において、Aktはリン酸化を介してTFEB活性を制御する。
データは、薬理学的に作用可能な経路が、mTORC1とは無関係に、TFEBを活性化し、細胞クリアランスを増強することを示している。真核細胞では、調節経路は、絶えず変化する細胞条件への適応性を維持しながら、出力の有効性を最大化する冗長で動的に階層化されたシグナル伝達ネットワークに基づく傾向がある42、43。したがって、TFEBの上流調節因子は、mTORC1を含む同じシグナル伝達カスケードにあり得ると推論された。mTORC1のキナーゼ活性はTSC2によって厳密に調節されており、TSC2はPI3K/Aktシグナル伝達経路によるリン酸化により不活性になる44。PI3KまたはAktのいずれかを阻害すると、Torin 1によるmTORC1阻害と同様のTFEB核内移行が生じたので(図14a、b)、AktがmTORC1とは無関係にTFEB活性を直接調節するかどうかを調べた。Tsc2-/-細胞を用いて、mTORC1の構成的活性化の条件下でAkt活性に対するTFEBの応答性を試験した。以前の研究44と一致して、mtORC1経路が血清除去または刺激に対して非感受性であるTsc2-/-細胞では、Akt活性は血清補充によって刺激される可能性がある(図15a)。重要なことに、血清飢餓Tsc2-/-細胞の血清再刺激は、TFEB核から細胞質ゾルへの移行をもたらし、これはAkt阻害剤MK2206とのプレインキュベーションによって防止された(図15b)。したがって、Akt活性はmTORC1とは無関係に血清刺激におけるTFEB細胞質ゾル局在化に必要である。TFEBの細胞内局在を調節するもう1つの因子であるGSK3βとの相互依存の可能性も確認した45~47。免疫ブロット分析は、GSK3β活性に対するトレハロースの検出可能な効果を示さず(図16a)、共焦点顕微鏡分析は、トレハロースおよびMK2206の両方が構成的に活性なGSK3βを発現する細胞においてTFEBの核内移行を誘導できることを示した(CA-GSK3β/S9A-GSK3β;図16b)。相互実験では、GSK3β阻害剤CHIR-99021は、構成的に活性なAkt(Akt308D/473DまたはAkt-DD)を発現する細胞においてTFEBの核内移行を促進した48図16c)。したがって、これらの結果は、AktおよびGSK3βが独立してTFEBを調節することを示している。トレハロースが、以前に報告されたTFEB活性の調節因子であるERKを阻害しないことも確認した10図17)。
【0193】
AktがTFEBを直接リン酸化するかどうかを決定するために、Akt標的配列の位置重み行列(PWM)を、最初に実験的に確認されたAkt基質を用いて構築し、Akt PWMを用いて複数の種からのTFEBアミノ酸配列をスキャンした。この分析により、S467がAktの保存された候補ホスホアクセプターモチーフとして同定された(図14c)。TFEBの変異型(S467A)は、ウエスタンブロットで分析すると低分子量にシフトし(図18)、mTORC1標的部位の変異体(図19)と同様に細胞質ゾル局在の減少および二重核-細胞質ゾル分布の増加(図14d)を示した。重要なことに、TFEB(S467A)は、WT TFEBと比較してTFEB標的遺伝子の発現を誘導する能力の増加を示した(図14e)。細胞質ゾルTFEBは14-3-3タンパク質と相互作用することが示されている18、19。予想通り、TFEB(S467A)は、おそらくその核局在化の増大に起因して、14-3-3タンパク質との共局在化および相互作用の減少を示した(図14f、g)。TFEB(S467A)はまた、構成的に活性なmTORC1を有する細胞において核局在化を示した(図20)。
【0194】
インビトロAktキナーゼアッセイにより、Aktが精製TFEBをリン酸化するが、S467A変異型のTFEBをリン酸化しないことが示された(図14h)。それ故、これらの結果はTFEBをAktの直接リン酸化基質として同定し、S467がこのようなリン酸化のための重要な残基であることを実施している。バイシストロン性TFEB-Flag-IRES-緑色蛍光タンパク質(GFP)およびTFEB(S467A)-Flag-IRES-GFPベクターのトランスフェクションは、変異型TFEBタンパク質がWT TFEBよりも安定であり、したがってAktもまたTFEBの安定性を調節していることを示した(図21)。AKTのノックダウンは、TFEBの核内移行を増強し、そしてLAMP1発現を増加させ(図14i)、したがって、AktがTFEB活性を負に調節することが確認された。重要なことに、トレハロースはオートファジーフラックスを増加させながらAkt活性を阻害し(図14j)、構成的に活性なAkt(Akt-DD)の発現はTFEB核内移行に対するトレハロースの効果を無効にした(図14k)。これらの実験は、Akt阻害がTFEBのトレハロース活性化を媒介することを機構的に実証する。トレハロース媒介性Akt阻害は、トレハロース処置マウスの脳において確認された(図14l)。共免疫沈降(IP)実験により、AktがTFEBと相互作用し(図22a)、このような相互作用はTFEBのS467A変異型を使用しても実質的に変化しないことが確認され(図22b)、トレハロースがTFEBとのその相互作用ではなく、Aktの活性に影響を及ぼすことを示唆している。TFEBパラログ、MITFおよびTFE3がAkt活性に応答性であるかどうかも試験した。MITFおよびTFE3構築物をトランスフェクトしたHeLa細胞の共焦点顕微鏡分析は、MK2206によるAktの阻害がこれら2つの因子の核内移行を促進することを示し(図23)、したがってこの調節機構の保存可能性を示唆する。
【0195】
Aktは癌に関与しているため、集中的な臨床研究の対象である。Akt調節剤の中で、MK2206は現在、前臨床および第I相臨床試験中である強力なAkt経口阻害剤である49、50。トレハロースと同様に、HeLa細胞へのMK2206の投与は、TEMにより観察されるように、LC3点の数の増加(図24a)、LC3-IIタンパク質レベルの増加(図24b)、およびオートファジー小胞数の増加をもたらし(図24c)、MK2206がオートファジーを活性化することを示した。さらに、MK2206処理はまた、リソソームおよびオートファジー遺伝子の発現を上方制御した(図24d)。MK2206の腹腔内注射はAkt活性の阻害をもたらし(図24e)、マウス脳においてTFEB核内移行(図24f)をもたらし、次ぎに全脳ホモジネートの発現分析によって検出されるように、リソソームおよびオートファジー遺伝子の上方制御を促進した(図24g)まとめると、これらのデータは、Aktの薬理学的阻害がインビトロおよびインビボでオートファジー-リソソーム経路を増強するという証拠を提供する。
【0196】
最後に、直接読み取りとしてセロイド脂肪色素の蓄積を用いて、MK2206が細胞クリアランスを調節するかどうかを試験した。JNCL線維芽細胞におけるMK2206によるAktの阻害は実際に、トレハロース処理で観察されたものと同様のセロイド脂肪色素のクリアランスをもたらし(図25a)、これはMK2206またはトレハロースの中止によって逆転した(図26)。次に、他のリソソーム遺伝子に突然変異を有する細胞株を用いて、その機能不全が異常なリソソーム内蓄積の蓄積をもたらす分子経路とは無関係に、Akt阻害が細胞クリアランスを増強するかどうかを試験した。その欠損がパルミトイル化タンパク質のリソソーム内蓄積および神経変性をもたらす、タンパク質の分解に関与する酵素であるパルミトイルタンパク質チオエステラーゼ-1(PPT1)(OMIM#600722)をコードする遺伝子の突然変異を有する細胞株を最初に試験した。以前の研究は、パルミトイル化タンパク質中のチオエステル結合の化学的切断が、PPT1欠損マウスモデルにおいて神経保護をもたらし、したがって未分解タンパク質の蓄積が疾患の病因に直接結び付くことを示している51。MK2206を用いたAktの阻害は、PPT1に変異を有する患者由来の初代線維芽細胞におけるリソソーム内タンパク質の蓄積を劇的に減少させた(図25b)。同様に、MK2206投与は、タンパク質のN末端からトリペプチドを連続的に除去し、その欠損が神経変性を引き起こすエキソペプチダーゼであるトリペプチジルペプチダーゼI(TPP1;図25c)(OMIM#607998)の欠損を有する初代線維芽細胞においてタンパク質蓄積を減少させた。最後に、膜貫通輸送体、MFSD8(OMIM#611124)の欠損により引き起こされるリソソーム内蓄積のモデルを試験した。MFSD8機能をタンパク質性物質の蓄積に結び付ける分子経路は現在知られていないが、このような異常な蓄積は神経変性と関連している。MK2206によるAkt阻害は、MFSD8を欠損した初代線維芽細胞において細胞クリアランスの著しい増強をもたらした(図25d)。まとめると、これらのデータは、Akt阻害が下流の細胞クリアランスを、一次破壊経路とは無関係に増強できることを実証している。本明細書に提示された結果に基づいて、Akt-TFEBシグナル伝達経路(図25eに図式化されている)を小分子で利用して神経変性疾患における有毒物質のクリアランスを改善することが提案されている。
【0197】
実施例1~3に関する考察
この研究は、神経変性蓄積疾患の治療に関連する可能性のあるmTORC1非依存性の薬理学的に作用可能な標的としてのTFEB活性のAkt制御を特定している。TFEBは実際にリソソームベースの細胞クリアランスを制御する中心的なハブであり、その潜在的な治療上の関連性は、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病を含む主要な神経変性疾患のモデルにおいてTFEBの異種発現に基づく原理証明研究を通して実証されている8、13~17。ニューロンのリソソーム内蓄積のインビボモデルとしてバッテン病マウスを使用して本明細書に提示されたデータは、リソソームの恒常性および機能の一次障害によるクリアランス経路の欠陥を打ち消すためにリソソーム増強を利用できることを実証している。これらの所見は、若年型のバッテン病のように、骨髄移植または遺伝子治療に基づくアプローチが本質的に適用困難である、膜結合タンパク質の欠損によって引き起こされるリソソーム蓄積障害に関連している52。さらに広くは、この知見は、有効な治療標的がまだ確立されていない神経変性蓄積疾患に対する潜在的対象であるが、実験的証拠により、細胞クリアランス経路の増強が治療標的候補として同定されている。先駆的な遺伝的および機構的研究は、実際、これらの疾患における病原性機構とリソソーム機能の間の強い関連性を明らかにした2~6
【0198】
どのようにしてTFEB活性を薬理学的に制御するかを理解することは、この分野を前進させ、神経変性疾患におけるTFEB媒介リソソーム増強の有効性を評価するための臨床試験の設定を助けるために緊急に必要である。最近の細胞ベースの研究は、栄養状態の変化に応じて、TFEB活性が特定のセリン残基でのmTORC1媒介リン酸化によって調節されている可能性があることを示している18~20。mTORC1自体がオートファジーの調節に関与していることが知られており、したがって神経変性疾患のモデルにおける前臨床試験の対象となっているので、これは重要な発見を意味していた。複数の研究の結果から、ハンチントン病53、アルツハイマー病54、55、タウオパチー56、前頭側頭葉性認知症57、脊髄小脳性失調症III型58、および家族性プリオン病59のマウスモデルにおいて、mTORC1阻害によるオートファジーの上方制御は神経変性病理を減弱さえることが示された。しかし、mTORC1は、タンパク質、脂質、およびヌクレオチド60の合成を調節することによって細胞増殖などの同化経路を制御する中心的な調節ハブとして作用し、長期のmTORC1阻害は免疫抑制の誘導および創傷治癒障害の原因となる3、61。臨床的には、mTORC1阻害は、最初に同定されたmTORC1アロステリック阻害剤のラパマイシン62、または薬理学的プロファイルの改善を示すラパマイシン類似体を使用することによって得られる。しかし、ラパマイシンによるmTORC1のアロステリック阻害はTFEBの活性化にほとんどまたは全く影響を与えない18~20。TFEBを薬理学的に活性化するためのmTORC1非依存性経路の本発明者らの同定は、神経変性疾患における細胞クリアランスのTFEB媒介増強を試験するための新たな手段を提供する。興味深いことに、TFEBの薬理学的活性化とmTORC1アロステリック阻害は、オートファジー-リソソームクリアランス経路の直交性相乗的アクチベーターとして使用でき、理想的にはどちらかの薬物の潜在的な副作用を最小限に抑える薬物投薬量を特定する。それ故、Akt阻害剤、そして重要なことには、二重PI3K/mTOR阻害剤の利用可能性の増大は、将来の前臨床試験および臨床試験にとって有益であることが証明され得る。
【0199】
AGCセリン/トレオニンキナーゼファミリーの一員であるAktは、細胞生存およびアポトーシス阻害において重要な役割を果たす。Aktの異常な活性化は、Aktの突然変異や上流のシグナル伝達経路の調節異常などの機構を介して起こる可能性があり、悪性化および化学療法抵抗性の重要な推進力となっている63。このことが、Aktを癌治療の有望な治療標的としている。懸命な前臨床的および臨床的取り組みが、実際にAktによって調節される下流経路の特徴付けおよび癌患者におけるAktの化学的阻害の試験に置かれている49、50、64、65。興味深いことに、先駆的な研究は、Aktがマクロオートファジー66とシャペロン媒介オートファジー67を調節することを示している。トレハロースのような二糖類がAktの活性化をどのように調節するかはまだ決定されていないが、AktがTFEBを介してリソソーム機能を調節するという知見は、オートファジー-リソソームクリアランス経路におけるAktの役割の特徴付けに重要な層を追加し、Akt阻害剤の臨床使用によって影響される細胞プロセスを理解する新しい角度を提供する。PI3K-Akt経路は、mTORC1活性を刺激するための分泌増殖因子からのシグナルの統合において重要な役割を果たすので、トレハロースによるAkt阻害がmTORC1を阻害しないこともまた興味深い。成長因子に応答して、AktはTSC2をリン酸化し、それを阻害し、TSC2はmTORC1直接アクチベーターのRhebをその不活性GDP結合状態に維持することによりmTORC1の負の調節因子として作用する68。同じTSC2/Rhebカスケードを介してAktと並行して作用するmTORC1の別の上流調節因子はERKであり、これは成長因子からのシグナルをRas-ERK Q 5経路を介して統合する。Aktと同様に、ERKもまたTSC2を阻害する。トレハロースはAktを阻害するが、ERK活性は阻害しないことがわかり、したがって、活性なERKがTSC2を不活性に保つために十分であり、その結果修正されていないmTORC1シグナル伝達がもたらされる。TSCタンパク質は他の経路からのシグナルも統合するため、追加の調節層がトレハロースに対するmTORC1の非感受性の原因となる可能性がある。
【0200】
まとめると、TFEBのmTORC1非依存性調節因子としてのAktの同定は、TFEB媒介細胞クリアランスの薬理学的制御のための新たな展望を開くものである。TFEBのAkt調節は、神経変性蓄積障害における細胞クリアランスを増強するために治療的に利用することができ、Akt-TFEBシグナル伝達経路を標的とする薬物の利用可能性は、神経変性疾患におけるTFEB媒介リソソーム増強の臨床翻訳を目的とする将来の研究を保証する。
【0201】
[実施例4]
ミグルスタットならびにトレハロースとミグルスタットとの併用は、バッテン病マウスにおいて神経細胞死を阻害する。
バッテン病マウス(Cln3 KOマウス)にトレハロース、低用量のミグルスタット、高用量のミグルスタット、またはトレハロースとミグルスタットの併用を投与した。これらの実験では2つの対照を使用した:(1)未処置のバッテンマウス、および(2)未処置の野生型マウス。神経細胞死(CAS-3陽性細胞の密度(細胞数/面積)で測定)、神経炎症(神経系のGFAP陽性星状細胞の数で測定)、および神経系へのマクロファージ浸潤(CD68の面積%により測定した)を測定した。
【0202】
ミグルスタットで処置したすべてのバッテン病マウスは、未処置のバッテン病マウスよりも神経細胞死が少ない(P<0.05)。さらに、ミグルスタットで処置したすべてのバッテン病マウスは、神経細胞死に関して野生型マウスと識別不能である。(図30
【0203】
ミグルスタットで処置したマウスはすべて、未処置のバッテンマウスよりもGFAP陽性細胞が少ない(P<0.05)。さらに、ミグルスタットで処置されたすべてのバッテン病マウスは、アストログリア増殖症に関して野生型マウスと識別不能である。(図31
【0204】
ミグルスタットで処置されたすべてのマウスは、未処置のバッテン病マウスよりもマクロファージ浸潤が少ない(P<0.05)。さらに、ミグルスタットで処置したすべてのバッテン病マウスは、マクロファージ浸潤に関して野生型マウスと識別不能である。(図32
参考文献
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