(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】移乗シート、移乗支援装置
(51)【国際特許分類】
A61G 1/003 20060101AFI20230627BHJP
A61G 7/053 20060101ALI20230627BHJP
A61G 5/14 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
A61G1/003 701
A61G7/053
A61G5/14
(21)【出願番号】P 2020104592
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】519277405
【氏名又は名称】倉田 純生
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】倉田 純生
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-234167(JP,A)
【文献】特開平09-117478(JP,A)
【文献】特開2001-104378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 1/003
A61G 7/053
A61G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移乗させる被介護者の下側に敷く移乗シートであって、
被介護者を載置する載置面と、載置面からの荷重を受ける受け面と、を備え、
前記載置面側に、互いに平行に並べられた複数の第一ローラーが配設され、
前記受け面側に、互いに平行に並べられた複数の第二ローラーが配設され、
前記第一,二ローラーは略同径であり、
前記第二ローラーは、前記第一ローラーと互い違いに対向
し、
隣接する第一ローラーを接続する第一接続部材と、隣接する第一ローラーおよび第二ローラーを接続する第二接続部材と、をさらに備え、
前記第二接続部材は、前記第二ローラーを、該第二ローラーに接続された第一ローラーの軸周りに回転可能に接続することを特徴とする移乗シート。
【請求項2】
被介護者の移乗を支援する移乗支援装置であって、
請求項
1に記載の移乗シートと、前記
移乗シートを被介護者の下側に導くガイドレールと、前記ガイドレールを支持するフレームを備えたことを特徴とする移乗支援装置。
【請求項3】
前記ガイドレールが、第1方向から前記第1方向とは異なる第2方向に向けて屈曲する屈曲部を含み、
前記第一ローラーが前記屈曲部を通過する際に、前記第二接続部材が、前記第二ローラーを、該第二ローラーに接続された第一ローラーの軸周りに回転させる、請求項2に記載の移乗支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被介護者の移乗を支援するための移乗シートおよび移乗支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
介護の現場では、被介護者を移乗させる場合、介護者が被介護者を抱きかかえて浮かせ、浮かせた隙間にシートを敷き込み、介護者が被介護者をシートごと持ち上げて移乗させる作業が慣行されている。しかし、このような作業は、介護者に大きな負担がかかるため、従来より、被介護者の移乗を支援する移乗支援装置の開発が進められている。例えば、特許文献1には、被介護者をベッド等から車椅子等へ移乗させることを支援する移乗支援装置の発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の移乗支援装置によれば、本体部分の上面と下面の大部分を無端ベルトで覆い、該ベルトを手前または前方に動かすことにより被介護者の乗降を行う。このため、装置の水平面積が大きくなり、例えば、トイレなどの狭い空間内での使用が難しいという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、被介護者を載置する際の労力を低減でき、また、コンパクトで狭い空間でも利用可能な移乗支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の移乗シートは、以下の特徴を備える。
(1)移乗させる被介護者の下側に敷く移乗シートであって、被介護者を載置する載置面と、載置面からの荷重を受ける受け面と、を備え、載置面側に、互いに平行に並べられた複数の第一ローラーが配設され、受け面側に、互いに平行に並べられた複数の第二ローラーが配設され、第一,二ローラーは略同径であり、第二ローラーは、第一ローラーと互い違いに対向することを特徴とする。
【0007】
(2)このとき、隣接する第一ローラーを接続する第一接続部材と、隣接する第一ローラーおよび第二ローラーを接続する第二接続部材と、を備え、第二接続部材は、第二ローラーを、該第二ローラーに接続された第一ローラーの軸周りに回転可能に接続する。
【0008】
本発明の移乗シートは、被介護者の移乗を支援する移乗支援装置であって、上記(1)または(2)に記載の移乗シートと、移乗支援装置を被介護者の下側に導くガイドレールと、ガイドレールを支持するフレームと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の移乗シートまたは移乗支援装置によれば、略同径の第一,二ローラーを互いに平行に配設し、第二ローラーを第一ローラーと互い違いに対向して配設したため、移乗シートを被介護者の下側に挿入する際に、第一ローラーと第二ローラーが互いに逆方向に回転し、被介護者とベッドのベッド面、車椅子の座面、トイレの座面などとの間に摩擦を生じさせず、スムーズに被介護者の下側に配置することができるという優れた効果を奏する。また、第一,二接続部を設けた場合には、第二ローラーを第一ローラーの軸周りに回転させて移乗シートを折り曲げ、移乗シートの中間位置でスライド方向を調整できるため、狭い空間であっても、柔軟に被介護者の移乗を行えるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態を示す移乗シートの斜視図である。
【
図2】移乗支援装置のローラーの配置を示す(a)要部平面図、(b)A-A断面図である。
【
図3】ローラーの接続状態を示す(a)側面図、(b)B-B断面図、(c)C-C断面図である。
【
図4】被介護者の下側に挿入される第一ローラーおよび第二ローラーの状態を示す模式図である。
【
図5】屈曲部を通過する際の、第一,二接続部材の姿勢を示す模式図である。
【
図6】本発明の一実施形態を示す移乗支援装置の斜視図である。
【
図7】ベッドに腰かけた被介護者を
図6の移乗支援装置に乗せる動作を示す説明図である。
【
図8】
図1の変形例の移乗シートによるローラーの接続状態を示す(a)側面図、(b)D-D断面図、(c)E-E断面図である。
【
図9】移乗シートの様々な使用例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した移乗シート2、移乗支援装置1の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、移乗シート2は、互いに平行に並べられた複数の第一ローラー21と、互いに平行に並べられた複数の第二ローラー22を備える。第一ローラー21の軸21aの端部には、ガイドレール3の凹部に支持されるローラーガイド25を取り付けることが可能である。
【0012】
図2(a)は、移乗シート2の要部を表した平面図である。第二ローラー22は破線の位置に配置されているが、見やすさを確保するため省略した。また、
図2(b)に示すように、第一,二ローラー21,22は略同径のローラーであり、第二ローラー22は、第一ローラー21と互い違いに対向するように設けられている。また、第一ローラー21は、被介護者Pを載置する載置面2a側に配設され、第二ローラー22は、載置面2aからの荷重を受ける受け面2b側に配設されている。
【0013】
図3に示すように、第一ローラー21は、隣接する第一ローラー21’,21’’と、第一接続部材23により接続されている。また、第一接続部材23は、第一ローラー21,21’,21’’を各々軸21a,21a’,21a’’周りに回転可能に軸支している。第一,二ローラー21,22、ローラーガイド21b、ガイドレール3、第一,二接続部材22,23の材質としては、水濡れに強い金属製であることが好ましい。金属製とすることで、トイレや風呂場など、場所を選ばずに使用することができる。
【0014】
一の第一ローラー21は、対向する複数の第二ローラー22,22’と、第二接続部材24により接続されている。このとき、第二接続部材24は、第二ローラー22,22’相互の間隔を維持した状態で、第二ローラー22,22’を第一ローラー21の軸21aの周りに回転可能に軸支している。また、第二接続部材24は、第二ローラー22,22’を各々軸22a,22a’周りに回転可能に軸支している
【0015】
図3(b),(c)に示すように、第一ローラー21は、軸21aと、外輪側の軸受21bと、内輪側の軸受21cと、軸受21bおよび軸受21cの間に設けられ第一ローラー21を滑らかに回転させるためのボールベアリングであるベアリング21eと、所定のピンを挿入するためのピン用孔21dから構成される(
図3(b))。第二ローラー22は、軸22aと、外輪側の軸受22bと、内輪側の軸受22cと、軸受22bおよび軸受22cの間に設けられ第二ローラー22を滑らかに回転させるためのボールベアリングであるベアリング22eと、所定のピンを挿入するためのピン用孔22dから構成される。また、軸受21b,22cおよび第一,二接続部材23,24の嵩高や隙間を調整するため、ワッシャ27が嵌め込まれている。ここで、ローラーガイド25を軸21aに固定する場合には、ローラーガイド25の開口部25aからピン用孔21dに向けて、固定用のスプリングピン28が圧入される。ワッシャ27を軸21aに固定する場合には、割りピン29がピン用孔21dに挿入される。
【0016】
図4は、被介護者Pの下側に挿入される第一ローラー21および第二ローラー22の状態を示す模式図である。被介護者Pの荷重Wと、被介護者Pが横臥するベッド面11aからの反力Nにより、各々の第一ローラー21および第二ローラー22相互の接触抵抗Fが増加する。このため、第一,二ローラー21,22は、載置面2aと受け面2bの相対位置を安定的に保持しつつ、互いに逆向きに回転して隙間を掻き分けるように進行する。
【0017】
図5は、ガイドレール3の屈曲部3cを通過する第一ローラー21、第二ローラー22、第一,二接続部材23,24の姿勢を示す模式図である。屈曲部3cを通過する際、第二ローラー22,22’は、相互の間隔を維持した状態で、軸21aの周りに回転する。当該仕組みにより、移乗シート2を屈曲部3cにスムーズに通過させることが可能となる。
【0018】
以上の構成の移乗シート2によれば、例えば、移乗シート2を被介護者Pが座っているベッド面11aなどに置き、被介護者Pの下側に挿入してゆくと、載置面2a側の第一ローラー21および受け面2b側の第二ローラーが互いに逆方向に回転し、被介護者Pとベッド面11aの隙間を掻き分けて進む。このとき、第一,二ローラー21,22の回転によって、移乗シート2の載置面2aおよび受け面2bは、被介護者Pおよびベッド面11aから挿入方向逆向きの抵抗力を受けないので、移乗シート2全体の姿勢は安定的に保持される。よって、介護者は、移乗シート2を少ない力でスムーズに被介護者Pの下側に挿入したり、被介護者Pの下側から引き出したりすることができる。
【0019】
図6は、移乗支援装置1の斜視図である。移乗支援装置1は、移乗シート2と、移乗シート2を被介護者の下側に導くガイドレール3と、移乗シート2を移動させるための駆動部5と、ガイドレール3を取り付けるフレーム4を備えている。駆動部5は、移乗シート2を牽引するワイヤー53と、ワイヤー53の繰り出しや巻き戻しをするウィンチ52と、ウィンチ52を回転させるモーター51から構成される。また、フレーム4の上部には、移乗支援装置1全体を懸吊し、所望の位置に運搬するための懸吊システム(図示なし)と接続するためのリング7が取り付けられている。所望の位置とは、例えば、ベッド面、車椅子の座面、洋式便座の座面などを想定できる。
【0020】
フレーム4は、背もたれを形成する背もたれフレーム4bと、座板を形成する座板フレーム4aを備え、全体で座椅子形状に形成されている。また、背もたれフレーム4bの正面には、背もたれとして機能するネット6が張架されている。さらに、フレーム4には、背もたれフレーム4bの背面から座板フレーム4aの底面に沿って伸びる一対のガイドレール3が取り付けられている。
【0021】
ガイドレール3は、第一ローラー21のスライド方向を規定している。軸21aには、ローラーガイド25が取り付けられており、ガイドレール3は、ローラーガイド25を介して軸21aを回転可能に支持する凹部31を備えている。また、ガイドレール3の、座板フレーム4aに沿う部分3aと背もたれフレーム4bに沿う部分3bとの間には、屈曲部3cが形成されている。
【0022】
図7(a)は、被介護者Pがベッド11に座り、ベッド11に配置した移乗支援装置1のネット6に背中をもたれさせた状態を示す。このとき、移乗シート2は、ネット6の背後に配置されている。駆動部5が移乗シート2を座板位置に向けて動かすと、移乗シート2は屈曲部3cを経由して、被介護者Pの下側にスムーズに挿入される(
図7(b))。その後は、移乗支援装置1全体を懸吊システムで運搬し、移乗シート2を車椅子などの座面に設置し、駆動部5を用いて移乗シート2をネット6の背後に戻すことにより、移乗が完了する。
【0023】
以上の構成の移乗支援装置1によれば、フレーム4を座椅子形状に設け、座板フレーム4bや背もたれフレーム4bに沿ってガイドレール3を取り付けたため、被介護者Pを移乗させるときに移乗シート2を座板位置に配置し、その他のときには移乗シート2を背もたれフレーム4bに退避させ、座板位置を空けておくことができる。
【0024】
次に、本発明の移乗シート2の変形例について説明する。ここでは、
図1~7の移乗シート2または移乗支援装置1と異なる事項のみ記載し、同じ事項については省略する。また、同一の構成には、同じ符号を付すこととする。
【0025】
図8に示すように、変形例の移乗シート2は、第一,二接続部材23,24に代えて、第一,二ローラー21,22をまとめて保持する金属製のホルダー26を備える。この例では、ホルダー26の抜け止めとして、ピン用孔21d,22dに割りピン29を挿入することが可能である。このように、簡易な構成で移乗シート2を構成することにより、製造コストを削減することが可能である。
【0026】
次に、移乗シート2および移乗支援装置1の様々な使用例について、
図9に基づいて説明する。
図9(a)は、
図1および変形例の移乗シート2を利用でき、
図9(b),(c)は、
図1の移乗シート2および移乗支援装置1を利用できる。
【0027】
図9(a)は、椅子形態に変形させたベッド11に、移乗支援装置1を配置した状態を示している。被介護者Pを乗せた状態で移乗支援装置1をベッド11に配置し、背もたれフレーム4bに移乗シート2を移動させると、被介護者Pをベッド11に移乗させることができ、反対に座板フレーム4aに移乗シート2を移動させると、被介護者Pを移乗支援装置1に乗せることができる。
【0028】
図9(b)は、洋式トイレ12の便座に、移乗支援装置1を配置した状態を示している。被介護者Pを乗せた状態で移乗支援装置1を便座に配置し、背もたれフレーム4bに移乗シート2を移動させると、被介護者Pは洋式トイレ12を使用することができ、反対に座板フレーム4aに移乗シート2を移動させると、再び被介護者Pを移乗支援装置1に乗せることができる。
【0029】
図9(c)は、浴槽13に、移乗支援装置1を配置した状態を示している。被介護者Pを乗せた状態で移乗支援装置1を浴槽内に配置し、背もたれフレーム4bに移乗シート2を移動させ、一旦、移乗支援装置1を吊り上げると、被介護者Pは入浴することができる。入浴が終わったら、移乗支援装置1を降下させ、座板フレーム4aに移乗シート2を移動させると、再び被介護者Pを移乗支援装置1に乗せ、そのまま懸吊システムなどで運搬することができる。
【0030】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各部の形状や構成を適宜に変更して実施することも可能である。例えば、ネット6を背もたれフレーム4bの両側面にも追加し、移乗シート2の目隠しとすることも可能である。また、
図9(a)~(c)の各シーンにおいて、移乗シート2の所望の移動方向に応じ、適宜、移乗支援装置1のガイドレール3、フレーム4などの形状を変更することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 移乗支援装置
2 移乗シート(a:載置面、b:受け面)
3 ガイドレール(a:座板フレームに沿う部分、b:背もたれフレームに沿う部分、c:屈曲部)
4 フレーム(a:座板フレーム、b:背もたれフレーム)
5 駆動部
6 ネット
7 リング
11 ベッド(a:ベッド面)
12 洋式トイレ
13 浴槽
21 第一ローラー(a:軸、b:軸受(外側)、c:軸受(内側)、d:ピン用孔、e:ベアリング)
22 第二ローラー(a:軸、b:軸受(外側)、c:軸受(内側)、d:ピン用孔、e:ベアリング)
23 第一接続部材
24 第二接続部材
25 ローラーガイド
26 ホルダー
31 凹部
P 被介護者
W 荷重
N 反力
F 接触抵抗