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  • 特許-抗がんペプチド及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】抗がんペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20230627BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230627BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230627BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K38/08
A61P1/18
A61P35/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020519380
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2018077033
(87)【国際公開番号】W WO2019068822
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】17382667.8
(32)【優先日】2017-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520113642
【氏名又は名称】スイヘネリス ファルマコスメティクス,エセ.エレ.
【氏名又は名称原語表記】SUIGENERIS FARMACOSMETICS,S.L.
【住所又は居所原語表記】C.Tuset,34,08006 BARCELONA(ES)
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロヨ バルゲス,テレサ
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-501858(JP,A)
【文献】国際公開第2012/001169(WO,A1)
【文献】特開2003-230381(JP,A)
【文献】NCBI Database: hypothetical protein (chloroplast) [Derbesia sp. WEST4838],2016年
【文献】The Journal of Biological Chemistry,2015年,Vol.290,No.19,pp.12195-12209
【文献】BMC Molecular Biology,2008年,9:19
【文献】NCBI Database: ABC transporter RzcB, putative [Synechococcus sp. CC9311],2014年
【文献】NCBI Database: hypothetical protein A3306_05590 [Rickettsia bellii],2017年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/06
A61K 38/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のペプチド又はその薬学的に許容される塩:

CFEXSKY (I)

式中、
前記ペプチドのN末端基は、式-NHRのモノラジカルであり、
前記ペプチドのC末端基は、式-C(O)-Rのモノラジカルであり、
は、水素及び-C(O)-(C-C20)アルキルから選択されるモノラジカルであり、
は、-OH及び-NRラジカルから選択されるモノラジカルであり、
及びRは、水素及び(C-C10)アルキルから独立して選択され、並びに
Ile及びValから選択されるアミノ酸を表す。
【請求項2】
が-C(O)(C-C10)アルキルである、請求項に記載のペプチド。
【請求項3】
が-C(O)-CHである、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
が-NRである、請求項1~のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
及びRが水素である、請求項1~のいずれかに記載のペプチド。
【請求項6】
配列番号1~3の配列からなる群から選択される、請求項に記載のペプチド。
【請求項7】
治療有効量の、請求項1~のいずれかに定義される式(I)のペプチド若しくはその薬学的に許容される塩と、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体と、を含む、腫瘍性疾患の治療又は予防に使用するための医薬組成物。
【請求項8】
前記腫瘍性疾患が膵臓がんである、請求項に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年10月5日に出願の欧州特許出願第17382667号明細書の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、抗腫瘍性化合物の分野、特に抗がんペプチド及びそのペプチドを含む抗がん組成物に関する。本発明はまた、膵臓がんの予防的又は治療的処置のためのペプチド及び組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞内で作用するタンパク質及びペプチドの治療的使用は、がん及び他の疾患の治療に非常に有望である。
【0004】
がんは、異常な細胞成長を伴う疾患の群であり、身体の他の部分に浸潤又は拡散する可能性がある。がんは多因子性疾患であり、すなわち、複数の因子が発生した結果である。因子は通常、細胞増殖を増加させるがん原遺伝子の突然変異の発生に収束する。突然変異はまた、その正常な機能が細胞増殖を調節することである腫瘍抑制遺伝子でも発生する可能性がある。突然変異はDNA修復酵素でも発生する可能性があり、増殖前に損傷を修復する細胞の能力が損なわれ、それによりゲノム不安定性を生成する可能性がある。
【0005】
現在、多くの一般的ながんタイプの治療に有効な選択肢はほとんどない。特定の個人の治療経過は、診断、疾患の進行段階、及び患者の年齢、性別、一般的な健康状態などの因子に依存する。がん治療の最も一般的な選択肢は、手術、放射線療法及び化学療法である。これらの治療法はそれぞれ有効性の程度が異なり、様々な副作用を伴う。これらの副作用は、従来の化学療法ですでに開示されている多剤耐性とともに、新規な抗がん薬又は治療アプローチの緊急の必要性を促している。
【0006】
特に致命的なタイプのがんの1つは膵臓がんである。このタイプのがんは、主に膵管の細胞で発生する膵臓の悪性成長である。この疾患は、最も一般的ながん形態第9位であり、さらに男性と女性のがん死の主因のそれぞれ第4位と第5位である。膵臓のがんはほぼ常に致命的であり、5年生存率は3%未満である。
【0007】
膵臓がんの最も一般的な症状には、黄疸、腹痛及び体重減少があり、これらは他の提示因子と共に本質的に非特異的である。したがって、腫瘍成長の初期段階で膵臓がんを診断することはしばしば困難であり、多くの場合探索的手術を含む広範な精密診断を必要とする。内視鏡超音波検査とコンピューター断層撮影は、膵臓がんの診断に現在利用可能な最良の非侵襲的手段である。しかし、小さな腫瘍の信頼性の高い検出、及び膵臓がんと限局性膵炎との識別は困難である。膵臓がんの患者の大多数は現在、腫瘍がカプセルの外側にすでに広がって周囲の臓器に浸潤している、及び/又は広範囲に転移している後期に診断されている。この疾患の後期検出は一般的であり、早期の膵臓がん診断は臨床設定ではまれである。
【0008】
膵臓がんに利用可能な現在の治療手順は、治癒にも、実質的な生存時間の改善にもつながっていない。外科的切除は、生存の機会を提供する唯一のモダリティであった。ただし、腫瘍の負荷が大きいため、「治癒的切除」の候補となる患者はわずか10%~25%である。外科的治療を受けている患者の場合、5年生存率は依然として低く、平均は約10%にすぎない。したがって、膵臓がんは、効率的な治療法の開発の必要性が高いがんのタイプの1つである。
【0009】
現在開発中のがんに対する最も有望な治療選択肢の1つは、抗がんペプチドである。これらのペプチドには、高い活性、特異性及び親和性、並びに最小限の薬物間相互作用など、従来の抗がん剤を超えるいくつかの重要な利点がある。これらは外科的切除と組み合わせて使用することができる。また、これらは、タンパク質又は抗体に基づく治療と比べていくつかの利点:サイズが小さく、合成が容易であり、細胞膜を透過する能力を有し、並びに生物学的及び化学的多様性が最小限であること、を示す。ペプチドを治療として使用することの追加の利益は、特定の臓器(腎臓や肝臓など)にペプチドが蓄積しないことであり、これにより、毒性副作用を最小限に抑えることができる。また、迅速に合成でき、簡単に改変でき、組換え抗体又はタンパク質よりも免疫原性が低い。これらの特性のすべてにより、ペプチド治療薬は新興の抗がん剤の有望な分野となっている。
【0010】
しかし、治療用ペプチドには、安定性やプロテアーゼに対する耐性が低いことなど、いくつかの重大な欠点があり、そのため開発や臨床への到着が妨げられている。
【0011】
したがって、なされた努力にもかかわらず、腫瘍性疾患の臨床分野における有効な抗がんペプチドなどの治療用代替物の必要性が引き続き存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は、がん細胞の成長を阻害する能力を有する様々なペプチドを開発した。驚くべきことに、本発明者は、末端に少なくとも1つのシステイン残基が存在すると、本発明のペプチドに強力ながん阻害活性が付与されることを発見した。重要なことに、本明細書で提供されるペプチドは、凍結溶液中でも高い溶解性と高い安定性を示し、それにより治療用組成物に適したものになる。これらの特徴のすべてにより、本発明のペプチドは、膵臓腫瘍のような、実際には不治の腫瘍の治療における重要な薬理学的代替物となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様では、本発明は、式(I)のペプチド又はその薬学的に許容される塩を提供する
FEXSKYCj(I)
(式中、
ペプチドのN末端基は、式-NHRのモノラジカルであり、
ペプチドのC末端基は、式-C(O)-Rのモノラジカルであり、
は、水素及び-C(O)-(C-C20)アルキルから選択されるモノラジカルであり、
は、-OH及び-NRラジカルから選択されるモノラジカルであり、
及びRは、水素及び(C-C10)アルキルから独立して選択され、
「a」から「j」は、0から1の整数であり、ただし、「a」から「j」の少なくとも1つは1であり、並びに
は任意のアミノ酸を表す)。
【0014】
下記に示すように、本発明のペプチドは非常に特異的であり、がん細胞を特異的に標的とすることができる。すなわち、本発明のペプチドは、正常細胞とがん細胞とを「区別する」ことができる。現在の抗がん療法の最も広く知られている副作用の1つは、特異性の欠如による副作用であるため、これはがんの分野での大きな進歩を意味する。がん細胞に対するこの特異性はまた、下記に提供される実験データを説明し、様々なタイプのヒト初代細胞に投与された場合のペプチドの非毒性を裏付けている。
【0015】
これらの特性により、本発明の式(I)のペプチドはがん治療薬として適切となる。
【0016】
第2の態様では、本発明は、第1の態様によるペプチドを含むコンジュゲートに関する。
【0017】
本発明の第3の態様は、治療有効量の第1の態様の式(I)のペプチド若しくはその薬学的に許容される塩、又は第2の態様のコンジュゲートと、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体とを含む医薬組成物に関する。
【0018】
本発明の第4の態様は、医薬品として使用するための本発明のペプチド、コンジュゲート又は医薬組成物に関する。
【0019】
そして最後に、第5の態様では、本発明は、腫瘍性疾患の治療又は予防に使用するための本発明のペプチド、コンジュゲート又は医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】アッセイ1に関連する図1は、ヒト膵腫瘍細胞(BXPC3)の成長に対する2つの異なる濃度での本発明の様々なペプチドの阻害効果を、模擬処理細胞と比較して示す2つの棒グラフである。y軸は、処理の72時間後の細胞の数を、模擬処理細胞の数を100%値として、そのパーセンテージとして表している。(A)細胞を20μM濃度のペプチドで処理した。最初の列(対照)は模擬処理細胞に対応し、第2列(P1)は、N末端がアセチル化され、C末端がアミド化されているP1ペプチドに対応し;第3列(P1C)は、N末端がアセチル化され、C末端がアミド化され、末端システインを有する、P1ペプチドの変異体に対応し;第4列(P2)は、N末端がアセチル化され、C末端がアミド化されているP2ペプチドに対応し;第5列(P2C)は、N末端がアセチル化され、C末端がアミド化され、末端システインを有するP2ペプチドの変異体に対応し、第6列(P1A)は、N末端が遊離(アセチル化されていない)で、C末端がアミド化されているP1Cペプチドの変異体に対応し;第7列(P1B)は、N末端がアセチル化され、C末端がアミド化され、イソロイシンがバリンで置換されているP1Cペプチドの変異体に対応する。(B)細胞を40μM濃度のペプチドで処理した。最初の列(対照)は模擬処理細胞に対応し、第2列、第3列、第4列及び第5列はそれぞれP1、P1C、P1A及びP1Bペプチドで処理された細胞に対応する。ペプチドの配列は、実施例2でさらに詳述されている。
図2】アッセイ2に関連する図2は、ヒト臍帯初代内皮細胞(HUVEC)に対する様々な濃度のP1Cペプチド(Ac-CFEISKY-NH)の毒性効果を、模擬処理細胞と比較して示す棒グラフである。y軸は、処理の72時間後の細胞の数を、模擬処理細胞(対照)の数を100%値として、そのパーセンテージとして表している。最初の列(DMSO)は、ペプチドを溶解するビヒクルで処理した細胞に対応する。第2列~第5列は、それぞれ10、20、30、40μMの濃度のP1Cペプチドで処理した細胞に対応している。
【発明の詳細な説明】
【0021】
本出願において本明細書で使用されるすべての用語は、特に明記しない限り、当技術分野で公知の通常の意味で理解されるものとする。本出願で使用される特定の用語の他のより具体的な定義は以下に示すとおりであり、特に明示的に述べた定義がより広い定義を提供しない限り、本明細書及び特許請求の範囲全体に一律に適用されることを意図している。
【0022】
上記のように、本発明者らは、強力ながん阻害活性を有する一連の式(I)のペプチド又は薬学的に許容されるその塩を提案する。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容される塩」は、本発明のペプチドに言及する場合、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などのない、ヒト及び非ヒト動物の組織との接触における使用に適したものであり、合理的な利益/リスク比に見合ったそれらの塩を指す。薬学的に許容される塩は当技術分野において周知である。薬学的に許容される非毒性の酸付加塩の例は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸及び過塩素酸などの無機酸、又は酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸若しくはマロン酸などの有機酸と形成されるアミノ基の塩、又はイオン交換などの当技術分野で使用される他の方法により形成されるアミノ基の塩である。他の薬学的に許容される塩としては、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリル酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩(pectinate)、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸、吉草酸塩などが挙げられる。適切な塩基に由来する塩には、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びアンモニウムが含まれる。代表的なアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩には、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが含まれる。さらなる薬学的に許容される塩には、適切な場合、非毒性のアンモニウム、第四級アンモニウム、並びにハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩及びアリールスルホン酸塩などの対イオンを使用して形成されるアミンカチオンが含まれる。
【0024】
本発明において、「アミノ酸」という用語は、アミノ基とカルボキシル基との両方を含む分子を指す。
【0025】
適切なアミノ酸には、限定するものではないが、例えば、20種の一般的な天然に存在するα-アミノ酸:アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンのα-アミノ酸のL-異性体などのα-アミノ酸;天然のβ-アミノ酸(ベータアラニンなど);並びに非天然アミノ酸が含まれる。
【0026】
「非天然アミノ酸」という用語は、20の一般的な天然に存在するα-アミノ酸のD異性体又は式(A)のアミノ酸を含む。
【化1】

(式中、R及びR´は、以下の表1に示す意味を有する)
【0027】
【表1】
【0028】
非天然アミノ酸のさらなる例示的な非限定例を表2に要約する:
【表2】
【0029】
本発明のペプチドを形成するアミノ酸の各々は、他とは独立して、L-又はD-配置を有することができる。
【0030】
本発明のペプチドの調製に使用されるアミノ酸は、有機合成により調製されてもよく、又は例えば、天然源の分解若しくは天然源からの単離などの他の経路により得られてもよい。
【0031】
第1の態様の特定の一実施形態では、上記又は下記に提供される任意の実施形態との任意選択の組み合わせにおいて、Xはアミノ酸Ala、Ile、Leu、Phe、Val、Pro及びGlyから選択される。より具体的には、XはIle又はValである。さらに詳細には、XはIleである。
【0032】
第1の態様の特定の別の実施形態では、上記又は下記に提供される任意の実施形態との任意選択の組み合わせにおいて、RはC(O)(C-C10)アルキルである。より具体的には、Rは-C(O)(C-C)アルキルである。さらに詳細には、Rは-C(O)-CHである。
【0033】
第1の態様の別の特定の実施形態では、上記又は下記に提供される任意の実施形態との任意選択の組み合わせにおいて、Rは-NRである。より具体的には、R及びRは同一であるか、又は異なり、水素及び(C-C)アルキルから選択される。
【0034】
本発明において、用語「アルキル」は、直鎖及び分枝の炭化水素鎖両方を包含する。
【0035】
「アルキル」の非限定的な例は、メチル(C1)、エチル(C2)、プロピル(C3)、イソプロピル(C3)、イソブチル(C4)、sec-ブチル(C4)、tert-ブチル(C4)、ペンチル(C5)、ヘキシル、(C6)、ヘプチル(C7)、オクチル(C9)、ノニル(C9)及びデシル(C10)などである。
【0036】
第1の態様の特定の別の実施形態では、上記又は下記に提供される任意の実施形態との任意選択の組み合わせにおいて、「a」~「j」のうちの1つは1であり、他は0である。特に、「a」は1であり、「b」、「c」、「d」、「e」、「f」、「g」、「h」、「i」及び「j」は0である。
【0037】
第1の態様の別の特定の実施形態は、表3に要約の配列番号1~配列番号3の配列からなる群から選択されるペプチドを含む。
【0038】
【表3】
【0039】
本発明のペプチドは、(a)結合するアミノ酸を脱保護する、及び(b)保護されたアミノ酸カップリングサイクルの連続ステップが行われる固相合成などによる通常のプロトコルに従って調製することができる。
【0040】
保護基は、N-保護基、C-保護基又は側鎖保護基であり得る。3つのカテゴリすべてに属する市販の保護基がある。
【0041】
アミノ酸保護基の例示的で非限定的な例は、N-保護基t-Boc(又はBoc)及びFmocである。t-Boc又はFmocをペプチドの合成に使用する場合、主な4つのステップは下記のとおりである:(a)保護基を、脱保護反応で後続アミノ酸(市販)から除去する;(b)脱保護試薬を洗い流してきれいなカップリング環境を提供する;(c)カップリング試薬と組み合わせたジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒に溶解した保護アミノ酸をポンプにより合成カラムに通す;並びに(d)カップリング試薬を洗い流してきれいな脱保護環境を提供する。特定のN保護基に応じて、脱保護試薬とカップリング試薬は様々である。当業者は、彼の一般的な知識に基づいて、そして日常的な方法により、必要であれば特定の条件を最適化することができる。
【0042】
あるいは、本発明のペプチドは、組換えDNA技術により得ることができる。
【0043】
上述のように、本発明の第2の態様は、第1の態様のペプチドを含むコンジュゲートに関する。より具体的には、コンジュゲートは細胞透過性要素を含む。さらにより詳細には、細胞透過性要素は細胞透過性ペプチド(CPP)である。
【0044】
本明細書で使用される「コンジュゲート」という用語は、共有結合又は非共有結合のいずれかを介して本発明のペプチドを1又は複数の化合物と結合することにより形成された化合物を指す。
【0045】
本発明において、用語「細胞透過性ペプチド」(「CPP」)は、様々な分子カーゴ(ナノサイズ粒子から小さな化学分子及び大きなDNA断片まで)の細胞取り込みを促進する短いペプチドを指す。「カーゴ」は、共有結合による化学結合を介して、又は非共有結合相互作用を介して、C(t)又はN(t)でペプチドと会合される。CPPの機能は、カーゴを細胞内に送達することであり、これは、研究及び医療で使用するベクターを送達するための、カーゴのエンドサイトーシスによって一般に発生する過程である。現在の使用は、CPP媒介カーゴ送達における細胞特異性の欠如と、それらの取り込みモードの不十分な理解により制限されている。CPPは通常、リジン又はアルギニンなどの正に帯電したアミノ酸を比較的高い相対量で含むか、又は極性/帯電アミノ酸と非極性の疎水性アミノ酸の交互パターンを含む配列を有するかのいずれかのアミノ酸組成を有している。これらの2つのタイプの構造は、それぞれポリカチオン性、又は両親媒性と呼ばれる。CPPの第3のクラスは、正味の電荷が低い非極性残基のみを含むか、又は細胞の取り込みに重要な疎水性アミノ酸基を有するかの疎水性ペプチドである。本発明で提供されるペプチドへのCPPのコンジュゲーションは、固相合成又は溶液選択的キャッピングなどの周知の日常的なプロトコルに従って実施することができる(Copolovici D.M.ら、「Cell-Penetrating Peptides:Design,Synthesis,and Applications」、2014年、ACS Nano、2014年、8(3)、1972~1994頁を参照されたい)。
【0046】
実質的には細胞内にペプチドを内在化する能力を備えたほとんどの細胞透過性ペプチドを使用できるが、特定の実施形態では、担体ペプチドは、「PTD」(「タンパク質形質導入ドメイン」)セグメントを含むペプチドである。タンパク質形質導入ドメイン(PTD)を含むタンパク質の例示的な非限定的な例としては、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)TAT(「トランス作用性翻訳タンパク質」)タンパク質、ショウジョウバエアンテナペディアホメオティック転写因子(Antp)及び単純ヘルペスウイルス1(HSV-1)VP22 DNA結合タンパク質が挙げられるが、他のタンパク質、例えば、インフルエンザウイルス血球凝集素、ラクトフェリン、線維芽細胞成長因子-1、線維芽細胞成長因子-2、並びにHoxa-5、Hoxb-4及びHoxc-8タンパク質が、細胞内にペプチドを内在化するこの特性を有することも示唆されている(Ford K.G.ら、Gene Therapy、2001年;8:1~4頁)。
【0047】
本発明のペプチドは、本発明のペプチドを細胞内に内在化する能力を有する担体ペプチドの(アミノ又はカルボキシル)末端のいずれか1つに結合することができる。したがって、特定の実施形態では、本発明のペプチドのカルボキシル末端は担体ペプチドのアミノ末端に結合し、一方、別の特定の実施形態では、本発明のペプチドのアミノ末端は担体ペプチドのカルボキシル末端に結合する。
【0048】
本発明のペプチドは、細胞透過性ペプチドに直接結合しても、又は直接結合しなくてもよい。したがって、特定の実施形態では、上記又は下記に提供される実施形態のいずれか1つとの任意選択の組み合わせにおいて、本発明のペプチドは細胞透過性ペプチドに直接結合される。別の実施形態において、上記又は下記に提供される実施形態のいずれか1つとの任意選択の組み合わせにおいて、本発明の第2の態様のコンジュゲートは、本発明の第1の態様において定義されるペプチドと細胞透過性ペプチドとの間に配置されたスペーサーペプチドをさらに含む。スペーサーペプチドは、有利には、非構造化ドメインを生じさせるペプチドなどの構造的柔軟性を有するペプチドである。実質的には構造的に柔軟性のあるほとんどのペプチドをスペーサーペプチドとして使用できるが、スペーサーペプチドの例示的な非限定的な例としては、例えばGly及び/又はSerなどのアミノ酸部分の繰り返し、又はアミノ酸部分の任意の他の適切な繰り返しを含むペプチドが挙げられる。
【0049】
本発明の第2の態様の別の実施形態では、細胞透過剤は、生体適合性で活性成分を分解から保護することが公知であるナノ粒子送達系である。
【0050】
本明細書で使用される「ナノ粒子」という用語は、約1nm~約300nmの範囲のナノスケールにおいて少なくとも2次元、特にナノスケールにおいて3次元すべてを有する粒子を指す。特に、ナノ粒子が、ナノワイヤ又はナノチューブなどの実質的に棒状で実質的に円形の断面を有する場合、「ナノ粒子」とは、ナノスケールで少なくとも2次元を有する粒子を指し、これらの2次元はナノ粒子の断面である。
【0051】
細胞内取り込みを増加させる生分解性ナノ粒子送達システム、例えば、米国特許出願公開第2009/0136585号明細書などに記載されているようなポリマー及び表面改質ナノ粒子も使用することができる。例としては、例えば、ヘパリン、ドデシルメチルアンモニウムブロミド(DMAB)、DEAE-デキストラン、リポフェクチン及びフィブリノーゲンなどの公知の表面改質剤で表面改質されたポリDL-ラクチド-コ-グリコリド(PLGA)ナノ粒子が挙げられる。
【0052】
本明細書で使用される「脂質ナノ粒子」という用語は、その膜が完全に脂質で作製されているナノ粒子を指す。適切な脂質には、限定するものではないが、ホスファチジルコリン(「PC」)、ホスファチジルエタノールアミン(「PE」)、ホスファチジルセリン(「PS」)、ホスファチジルグリセロール(「PG」)、ホスファチジルイノシトール(「PI」)及びホスファチジン酸(「PA」)などのリン脂質が含まれる。そのようなリン脂質は一般に2つのアシル鎖を有し、これらは両方とも飽和、両方とも不飽和、又は1つは飽和及び1つは不飽和のいずれかであり、鎖には、限定するものではないが、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸及びリグノセリン酸鎖が含まれる。リン脂質はまた、適切な反応基の結合により誘導体化され得る。そのような基は一般にアミノ基であり、したがって、誘導体化されたリン脂質は典型的にはホスファチジルエタノールアミンである。PEへの結合に適した様々な部分には、限定するものではないが、生体膜へのリポソームの融合性を高めるのに有用なアシル鎖;標的細胞の近くのリポソームを不安定化するのに有用なペプチド;抗体などの標的化部分をリポソームに連結するのに有用なビオチン及びマレイミド部分;並びにガングリオシド、ポリアルキルエーテル、ポリエチレングリコール及び有機ジカルボン酸などの様々な分子が含まれる。ナノ粒子の膜を構成できる他の脂質としては、限定するものではないが、コレステロール及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)が挙げられる。
【0053】
一実施形態では、脂質ナノ粒子は、リポソーム及び固体脂質ナノ粒子からなる群から選択される。別の実施形態では、脂質ナノ粒子はリポソームである。
【0054】
「固体脂質ナノ粒子」という用語は、通常、平均直径10~1000ナノメートルの球形の粒子を指す。固体脂質ナノ粒子は、親油性分子を可溶化できる固体脂質コアマトリックスを有している。脂質コアは、界面活性剤(乳化剤)によって安定化される。本明細書において脂質という用語はより広い意味で使用され、トリグリセリド(例えば、トリステアリン)、ジグリセリド(例えば、グリセロールバヘネート)、モノグリセリド(例えば、グリセロールモノステアレート)、脂肪酸(例えば、ステアリン酸)、ステロイド(例えば、コレステロール)及びワックス(例えば、パルミチン酸セチル)を含む。脂質分散を安定化させるために、(電荷及び分子量に関して)すべてのクラスの乳化剤が使用されている。
【0055】
本発明において、「リポソーム」という用語は、逆向きの両親媒性脂質分子を含む2つの単層をそれぞれが含む1又は複数の脂質二重層を含む自己組織化構造として理解されるべきである。両親媒性脂質は、1つ又は2つの非極性(疎水性)アシル鎖に共有結合した極性(親水性)頭部領域を含む。疎水性アシル鎖と周囲の水性媒体との間のエネルギー的に好ましくない接触により、両親媒性脂質分子は、それらの極性頭部が二重層の表面に向けられ、アシル鎖が二重層の内部に向かって再配向するようにその配列が誘導される。したがって、アシル鎖が水性環境との接触から効果的に遮蔽される、エネルギー的に安定した構造が形成される。
【0056】
リポソームは、単一の脂質二重層(単層リポソーム、「ULV」)又は複数の脂質二重層(多層リポソーム、「MLV」又は「SPLV」)を有することができる。各二重層は、水性コンパートメントを囲んでいるか、又はカプセル化している。脂質分子の保護バリア内に水性容積をこのようにカプセル化すると、リポソームはカプセル化された分子、例えば核酸を、外部環境に存在する因子、例えばヌクレアーゼ酵素の分解効果から隔離することができる。
【0057】
リポソームは、様々なサイズ、例えば、25nmほどの小さい平均直径を有しても、又は10,000nm以上の大きな平均直径を有してもよい。サイズは、脂質組成及び調製方法などの多くの要因の影響を受け、これは、通常の熟練者の決定及び考慮の十分範囲内であり、準弾性光散乱などの多数の技術によって決定され、当業者の知識の範囲内でもある。
【0058】
超音波処理又はホモジナイゼーション及びミリングなどの当業者に周知の様々な方法論を使用して、比較的大きなリポソームからより小さなサイズのリポソームを調製することができる。押し出しを使用してリポソームのサイズを縮小することができ、すなわち、リポソームを、圧力下で選択されたサイズの規定のフィルター孔に強制的に通過させることによって、所定の平均サイズを有するリポソームを作製することができる。タンジェンシャルフローろ過を使用して、リポソームのサイズを一様化することもでき、すなわち、サイズの不均一性がより小さく、より均一で規定されたサイズ分布を有するリポソームの集団を作製することができる。
【0059】
本発明のペプチドは、最新技術の周知の方法、例えば、Tandrup Schmidt S.ら、「Liposome-Based Adjuvants for Subunit Vaccines:Formulation Strategies for Subunit Antigens and Immunostimulators」、Pharmaceutics、2016年3月10日;8(1)に開示の方法を使用して粒子内にカプセル化することができる。
【0060】
細胞透過剤は、腫瘍細胞表面の分子を認識して結合する能力を有する分子とコンジュゲートすることにより、さらに機能化することができる。
【0061】
一実施形態では、細胞透過剤はまた、インプラント及びマイクロカプセル化送達システムを含む制御放出製剤など、身体からの急速な排出から本発明のペプチドを保護する。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤は、標準的な技術を使用して調製するか、又は市販品として入手することができる。
【0062】
所望であれば、本発明のペプチドは、本発明のペプチドの単離又は精製に有用なアミノ酸配列を任意選択で含むことができる。配列は、本発明のペプチドの機能性に悪影響を及ぼさない本発明のペプチドの領域に配置される。実質的に、タンパク質を単離又は精製するために使用できるほとんどのアミノ酸配列(一般にタグペプチドと呼ばれる)が、本発明のペプチドに存在し得る。非限定的な例として、タンパク質の単離又は精製に有用なアミノ酸配列は、例えば、アルギニンタグ(Argタグ)、ヒスチジンタグ(Hisタグ)、FLAGタグ、Strep-タグ、抗体によって認識され得るエピトープ、例えば、c-myc-tag、SBP-tag、S-tag、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、キチン結合ドメイン、グルタチオンS-トランスフェラーゼ-タグ、マルトース結合タンパク質、NusA、TrxA、DsbA、Avi-tag又はβ-ガラクトシダーゼなどであり得る。
【0063】
本発明のペプチドは、本発明のペプチドと、細胞内にペプチドを内在化する能力を有する細胞透過性ペプチドとのカップリング反応によって得ることができ、これは、従来の合成方法、例えば先に言及されている合成方法(例えば、固相化学合成)によって、又は組換え技術を用いて得ることができる。
【0064】
本発明の第3の態様は、治療有効量の式(I)のペプチド、その薬学的に許容される塩、又はそのコンジュゲートと、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体とを含む医薬組成物に関する。
【0065】
「医薬組成物」という表現は、ヒト及び非ヒト動物用の両方の組成物を包含する。
【0066】
本明細書で使用される「治療有効量」という表現は、投与されると、対処される疾患の症状の1又は複数の発症を予防するか、又はある程度緩和するのに十分なペプチド又はコンジュゲートの量を指す。本発明に従って投与される化合物の特定の用量は、当然のことながら、投与される化合物、投与経路、治療される特定の状態、及び同様の考慮事項を含む、症例を取り巻く特定の状況によって決定される。
【0067】
「薬学的に許容される賦形剤又は担体」という表現は、薬学的に許容される材料、組成物又はビヒクルを指す。各成分は、医薬組成物の他の成分と適合性があるという意味で薬学的に許容されなければならない。また、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性若しくは他の問題、又は合理的な利益/リスク比に見合った合併症なしに、ヒト及び非ヒト動物の組織又は臓器と接触して使用するのに適している必要がある。
【0068】
適切な薬学的に許容される賦形剤の例は、溶媒、分散媒、希釈剤又は他の液体ビヒクル、分散助剤又は懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤又は乳化剤、防腐剤、固体結合剤、滑沢剤などである。望ましくない生物学的効果を生じるか、さもなければ医薬組成物の他の(1又は複数の)成分と有害な様式で相互作用するなどして、従来の賦形剤媒体が物質又はその誘導体と不適合である場合を除き、その使用は、本発明の範囲であることが企図される。
【0069】
本発明の医薬組成物中の活性成分、薬学的に許容される賦形剤、及び/又は任意の追加成分の相対量は、治療される対象の同一性、サイズ、及び/又は状態に応じて、さらに組成物が投与される経路に応じて変化するものである。
【0070】
医薬組成物の製造に使用される薬学的に許容される賦形剤としては、限定するものではないが、不活性希釈剤、分散剤及び/又は造粒剤、界面活性剤及び/又は乳化剤、崩壊剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、滑沢剤及び/又は油が挙げられる。配合者の判断に従って、着色剤、コーティング剤、甘味料及び香味料などの賦形剤が組成物に存在してもよい。
【0071】
本発明のペプチド又はコンジュゲートを含む医薬組成物は、任意の剤形、例えば固体又は液体で提供することができ、任意の適切な経路、例えば経口、非経口、直腸、局所、鼻腔内又は舌下により投与することができ、そのために、所望の剤形の製剤、例えば、局所製剤(軟膏、クリーム、リポゲル、ヒドロゲルなど)、点眼薬、エアロゾルスプレー、注射液、浸透圧ポンプに必要な薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0072】
例示的な希釈剤としては、限定するものではないが、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸ナトリウムラクトース、スクロース、セルロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、コーンスターチ、粉砂糖及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0073】
例示的な造粒剤及び/又は分散剤としては、限定するものではないが、ジャガイモデンプン、コーンスターチ、タピオカデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、粘土、アルギン酸、グアーガム、柑橘類パルプ、寒天、ベントナイト、セルロース及び木製品、天然スポンジ、カチオン交換樹脂、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、炭酸ナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン)(クロスポビドン)、カルボキシメチルデンプンナトリウム(デンプングリコール酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロース)、メチルセルロース、アルファ化デンプン(デンプン1500)、微結晶デンプン、水不溶性デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(Veegum)、ラウリル硫酸ナトリウム、第4級アンモニウム化合物及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0074】
例示的な結合剤としては、限定するものではないが、デンプン(例えば、コーンスターチ及びデンプンペースト);ゼラチン;糖(例えば、スクロース、グルコース、デキストロース、デキストリン、糖蜜、乳糖、ラクチトール、マンニトール);天然及び合成のゴム(アカシア、アルギン酸ナトリウム、アイリッシュモスの抽出物、パンワールゴム(panwar gum)、ガッティゴム、イサポール殻の粘液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、酢酸セルロース、ポリビニルピロリドン)、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(Veegum)及びカラマツアラボガラクタン(larch arabogalactan));アルギン酸塩;ポリエチレンオキシド;ポリエチレングリコール;無機カルシウム塩;ケイ酸;ポリメタクリレート;ワックス;水;アルコール;及びその組み合わせが挙げられる。
【0075】
例示的な防腐剤としては、抗酸化剤、キレート剤、抗菌防腐剤、抗真菌防腐剤、アルコール防腐剤、酸性防腐剤及び他の防腐剤を挙げることができる。抗酸化剤の例としては、限定するものではないが、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、オレイン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、及び亜硫酸ナトリウムが挙げられる。例示的なキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸一水和物、エデト酸二ナトリウム、エデト酸二カリウム、エデト酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、エデト酸ナトリウム、酒石酸及びエデト酸三ナトリウムが挙げられる。
【0076】
例示的な緩衝剤としては、限定するものではないが、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、D-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、二塩基性リン酸カルシウム、リン酸、三塩基性リン酸カルシウム、水酸化リン酸カルシウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、二塩基性リン酸カリウム、一塩基性リン酸カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルギン酸、パイロジェンフリー水、等張食塩水、リンゲル溶液、エチルアルコール及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0077】
例示的な滑沢剤としては、限定するものではないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、麦芽、ベヘン酸グリセリル、硬化植物油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0078】
上記のように、本発明の別の態様は、医薬品として使用するための本発明のペプチド、コンジュゲート又は医薬組成物に関する。
【0079】
第5の態様において、本発明は、腫瘍性疾患の治療又は予防、より具体的には膵臓がんの治療又は予防に使用される、本発明のペプチド、コンジュゲート又は医薬組成物を提供する。この態様はまた、腫瘍性疾患の治療又は予防用医薬品の製造のための、本発明のペプチド、コンジュゲート又は医薬組成物の使用に関して製剤化することができる。この態様は、腫瘍性疾患を治療又は予防する方法であって、治療有効量の本発明のペプチド、コンジュゲート又は医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関して製剤化することができる。
【0080】
本発明のペプチド、コンジュゲート及び医薬組成物で治療できる腫瘍性疾患の非限定的な例としては、限定するものではないが、乳頭腫、腺腫、脂肪腫、骨腫、筋腫、血管腫、母斑、成熟奇形腫、がん腫、肉腫、未熟奇形腫、メラノーマ、骨髄腫、白血病、ホジキンリンパ腫、基底細胞腫、棘細胞腫、乳がん、卵巣がん、子宮がん、肺がん、気管支がん、前立腺がん、結腸がん、膵臓がん、腎臓がん、食道がん、肝がん、頭頸部がんなどが挙げられる。第5の態様の特定の実施形態では、腫瘍性疾患は膵臓がんである。本明細書で提供されるデータから、本発明のペプチド、コンジュゲート及び医薬組成物は、代謝性疾患、神経疾患及び炎症性疾患などの他の疾患の治療にも有用であり得る。
【0081】
説明及び特許請求の範囲を通して、「含む」という単語及びその単語の変形は、他の技術的特徴、添加物、成分又は工程を除外することを意図するものではない。さらに、「含む」という言葉は、「からなる」という場合も包含する。本発明の追加の目的、利点及び特徴は、説明を検討することにより当業者に明らかになるか、又は本発明の実施により習得することができる。以下の実施例及び図面は例示のために提供されるものであり、本発明を限定することを意図するものではない。さらに、本発明は、本明細書に記載された特定の好ましい実施形態のすべての可能な組み合わせを網羅する。
【実施例
【0082】
実施例1:本発明のペプチドの合成。
ペプチドは、古典的なFmoc/tBu戦略に従って、自動ペプチド合成装置又は手動で実行された固相合成(SPPS)技術を使用した化学合成によって合成した。
【0083】
Rink-アミド樹脂を、ジメチルホルムアミド(DMF)の添加剤として、合成及びN、N´-ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)とのFmoc-アミノ酸カップリングに使用した。脱保護は、DMF中20%のピペリジン溶液で実施した。
【0084】
アセチル化された配列の場合、DMF中の無水酢酸(AcO)とジイソプロピルエチルアミン(DIEA)との溶液を使用して固相でアセチル化を行い、直後に樹脂を乾燥した。乾燥させたペプチジル樹脂をトリフルオロ酢酸(TFA)カクテルで処理して、樹脂からペプチドを切断した。得られたペプチド粗生成物を、TFAを含むHO/アセトニトリル(can)精製システムを使用した分取逆相HPLCで精製し、純粋な画分を凍結乾燥した。HPLC分析の結果を表4に要約する。
【0085】
【表4】
【0086】
実施例2:細胞培養及び本発明のペプチドによる細胞の処理
細胞培養
ヒト膵臓の原発性腺がん由来のBXPC3細胞株は、バルセロナのBiomedical Research Institute(IRB)から提供され、ヒト臍帯初代内皮細胞(HUVEC)は研究者が直接取得して、実験室で液体窒素中に保存した。BXPC3細胞を、10%ウシ胎児血清及び抗生物質を補充したRPMI-1640培養培地(Gibco)で維持した。HUVEC細胞を、20%ウシ胎児血清、内皮細胞成長補助剤(ECGS)、ヘパリン(Hep)及び抗生物質を補充したM199培養培地(Gibco)で維持した。培養物を、5%COを含む37℃の湿潤雰囲気の細胞インキュベーターで維持した。
【0087】
試験する様々なペプチドをDMSOに50mMの濃度で簡単に溶解し、その後5mMの中間希釈液をダルベッコのPBSで調製し、これを2回の短いサイクルの超音波処理に供し、ペプチドを完全に溶解させた。この後者の希釈液から、10、20、30、及び40uMの濃度での異なる処理液を、補充培地で調製した。異なる処理液を2倍の濃度で調製し、それらの100μlをウェル内の同じ体積の細胞成長培地に加えて、上記の最終濃度に到達させた。
【0088】
細胞処理
以下に説明するプロトコルに従って、様々なペプチドを用いたアッセイを実施した。
【0089】
細胞を、BXPC3細胞の場合はトリプシン0.25%-EDTAで、HUVEC細胞の場合はトリプシン0.25%-EDTAでトリプシン/EDTA消化によって再懸濁した。培養培地に再懸濁したら、トリパンブルーで1:1に希釈した後、ニューバウアーチャンバー(Newbauer´s chamber)においてカウントした。この染色により、懸濁液中の生細胞の数を知ることができる。カウントにより、細胞の適切な希釈液(BXPC3では5000細胞/100μl/ウェル、HUVECでは10000細胞/100μl/ウェル)を調製した。細胞を細胞インキュベーター内で24時間培養した。24時間のインキュベーション後、上記のように調製したペプチドの2倍濃縮溶液を100μl/ウェルで加えた。細胞を細胞インキュベーター内に保持することにより、処理を72時間続けた。アッセイで使用したペプチドの配列を表5に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
72時間後、デカンテーションにより培養培地を除去し、細胞をDPBSで2回洗浄し、その後、細胞を100μlの4%パラホルムアルデヒド溶液で30分間固定した。その後、100μlのmQ HOで2回洗浄し、蒸留水で調製した50μlの0.25%バイオレットクリスタル溶液をすぐに加え、室温(RT)で30分間維持した。染色時間の終わりに、蒸留水で数回洗浄して過剰のバイオレットクリスタルを完全に除去し、プレートを37℃のオーブンで完全に乾燥させた。
【0092】
ウェルあたりの光学濃度値を、590nmのフィルターを使用したBiotek Synergy(商標)2マルチ検出マイクロプレートリーダー及びスキャン読み取りにより取得し、ウェルあたりの平均値を取得した。
【0093】
結果
ペプチドのがん成長阻害活性を試験するためのインビトロ増殖アッセイ
本発明のペプチドの抗がん効果を試験するために、増殖アッセイをヒト膵臓腫瘍細胞株BXPC3に対して実施した。
【0094】
図1-Aに見られるように、BXPC3細胞を最終濃度20μMのペプチドで処理すると、P1Cペプチド(配列番号3)はがん細胞の成長を模擬処理細胞の成長に比べて40%減少させ、これを100%とした。P1Cペプチドのカルボキシ末端のアセチル化が失われた場合(ペプチドP1A(配列番号1))、又はイソロイシン残基をバリン残基と置換した場合(ペプチドP1B(配列番号2)、いずれにおいてもペプチドの顕著な阻害能力が維持された。これらのペプチドを最終濃度40μMで適用した場合(図1-B)、成長阻害効果はさらに高くなった。
【0095】
試験した他のペプチドではいずれについても、がん細胞成長の阻害は観察されなかった。
【0096】
本発明のペプチドの毒性を試験するためのインビトロ増殖アッセイ
がん細胞で最も高い成長阻害活性を示すペプチドP1Cの投与(アッセイ1を参照されたい)は、正常な非形質転換細胞の成長に影響を及ぼさなかった。毒性の欠如は、適用したペプチドの用量とは無関係に維持された(最終濃度10μM~40μMの範囲、図2の2~5列)。
【0097】
これらの結果は、非形質転換細胞での毒性が低く、がん細胞での成長阻害活性が高いことを考えると、本発明のペプチドの抗がん剤としての高い治療可能性を明確に示している。
【0098】
引用リスト
Copolovici D.M.ら、「Cell-Penetrating Peptides:Design,Synthesis,and Applications」、ACS Nano、2014年、8(3):1972~1994頁;
Ford K.G.ら、「Protein transduction:an alternative to genetic intervention?」Gene Therapy、2001年;8:1~4頁;及び
Tandrup Schmidt S.ら、「Liposome-Based Adjuvants for Subunit Vaccines:Formulation Strategies for Subunit Antigens and Immunostimulators」、Pharmaceutics、2016年3月;8(1)。
図1
図2
【配列表】
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