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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】スクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230627BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230627BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230627BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230627BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALN20230627BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20230627BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20230627BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/13
G01N33/48 P
C12Q1/02
C12N5/0781 ZNA
C12N5/0783
C12N1/19
C12N1/21
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022559620
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 CN2021078117
(87)【国際公開番号】W WO2022095311
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】202011211640.9
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516082763
【氏名又は名称】中国科学院蘇州納米技術与納米▲ファン▼生研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】濮 科鋒
(72)【発明者】
【氏名】李 炯
(72)【発明者】
【氏名】蒋 敏
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-163574(JP,A)
【文献】NEWMAN E. et al.,Rapid selection of mammalian cells secreting large amounts of therapeutic proteins or peptides,Nature Methods,2007年03月,Vol.4,pp.i-ii
【文献】BMC Immunol.,2018年12月04日,Vol.19, No.1, 35,pp.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップ(a):候補細胞を第1蛍光分子で標識するステップと、
ステップ(b):前記第1蛍光分子で標識された候補細胞と標的抗体に対する標識抗体を捕捉抗原が固定された容器に加え、混合してインキュベートし、細胞液を得るステップであって、前記捕捉抗原は前記標的抗体と特異的に結合することができ、前記標識抗体は第2蛍光分子で標識され、
前記第1蛍光分子は、以下の性質を有する:前記第1蛍光分子が第1励起光で励起されて放出する蛍光と前記第2蛍光分子が前記第1励起光で励起されて放出する蛍光とが異なり、前記第1蛍光分子が第2励起光で励起された後に光活性化または光変換状態となり、光活性化または光変換状態下で、第3励起光で励起された後第1蛍光を放出し、前記第1蛍光分子が第2励起光で励起されることなく直接第3励起光で励起された後第2蛍光を放出し、前記第1蛍光の波長と前記第2蛍光の波長とが異なり、または前記第1蛍光の波長と前記第2蛍光の波長とが同じであるが蛍光強度が異なり、ここで、前記第1励起光の波長と前記第2励起光の波長とが異なり、前記第2励起光の波長と前記第3励起光の波長とが異なり、
前記第2蛍光分子が前記第1励起光で励起されて放出する蛍光の波長と前記第2励起光の波長とが異なる、ステップと、
ステップ(c):ハイコンテンイメージングシステムを用いて前記細胞液を観察し、前記第1励起光で前記第2蛍光分子を励起して蛍光を放出し、この蛍光に囲まれた候補細胞をスクリーニングして、標的候補細胞とし、次に前記第2励起光で前記標的候補細胞を照射して標識された第1蛍光分子光活性化または光変換状態とするステップと、
ステップ(d):フローサイトメーターを用いて前記細胞液中の候補細胞をソーティングし、ソーティング過程中、ステップ(c)で処理された候補細胞を前記第3励起光で照射して、前記第1蛍光を放出する標的候補細胞を、前記標的抗体を分泌する細胞としてソーティングするステップと、
を含むことを特徴とする標的抗体を分泌する細胞をスクリーニングする方法。
【請求項2】
前記第1蛍光分子は、光活性化蛍光タンパク質と光変換蛍光タンパク質のいずれか1つから選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(d)において、フローサイトメーターにより前記細胞液をソーティングする場合、前記第2蛍光分子は前記第3励起光で励起されて蛍光を放出しない蛍光分子、または前記第3励起光で励起されて放出する蛍光の波長が前記第1蛍光の波長と異なる蛍光分子である、ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記光活性化蛍光タンパク質はPA-GFPであり、
好ましくは、前記第1励起光の波長範囲が390nm~415nm範囲になく、前記第2励起光の波長が390nm~415nmであり、前記第3励起光の波長範囲が450nm~550nmである、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記光変換蛍光タンパク質が、PS-CFP2、PS-CFP、mEosFP、tdEosFP、dEosFP、WtEosFP、Kaede、Dendra2およびKikGRのいずれか1つである、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記第1蛍光分子がPS-CFP2タンパク質であり、前記第1励起光の波長範囲が390nm~415nm範囲になく、前記第2励起光の波長が390nm~415nmであり、前記第3励起光の波長範囲が420nm~520nmであるか、
または、前記第1蛍光分子がKaedeタンパク質であり、前記第1励起光の波長範囲が350nm~400nm範囲になく、前記第2励起光の波長が350nm~400nmnmであり、前記第3励起光の波長範囲が500nm~600nmであるか、
または、前記第1蛍光分子がKikGRタンパク質であり、前記第1励起光の波長範囲が390nm~415nm範囲になく、前記第2励起光の波長が390nm~415nmであり、前記第3励起光の波長範囲が500nm~600nmである、ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)における候補細胞が、Bリンパ球、T細胞、NK細胞、HEK細胞、CHO細胞、細菌および酵母から選択される、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)において、前記候補細胞を前記第1蛍光分子で標識する方法は以下の(I)~(IV)のいずれか1つの方法であることを特徴とする請求項2~6のいずれか1項に記載の方法。
(I):前記第1蛍光分子をコードするヌクレオチドを前記候補細胞に導入し、前記ヌクレオチドが前記候補細胞において第1蛍光分子を発現させる。
(II):前記第1蛍光分子をエレクトロトランスフェクションにより前記候補細胞内に導入させる。
(III):前記第1蛍光分子と前記候補細胞の細胞膜表面特異的マーカーの抗体とを融合して発現させ、この抗体と前記特異的マーカーとの特異的結合により第1蛍光分子を前記候補細胞の表面に接続させる。
(IV):前記第1蛍光分子で脂質物質を標識し、脂質物質を標識した後の第1蛍光分子と前記候補細胞を混合して第1蛍光分子を前記候補細胞の表面に接続させる。
【請求項9】
前記脂質物質が、DSPE-NHS、DSPE-PEG2000-NHS、DSPE-PEG3400-NHS、oleyl-PEG2000-NHS、oleyl-PEG4000-NHSおよびDOPE-PEG2000-NHSから選択される、ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法で標的抗体を分泌する細胞を取得するステップと、
得られた前記標的抗体を分泌する細胞から前記標的抗体をコードするヌクレオチドシーケンスを取得するステップと、
を含むことを特徴とする標的抗体をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2020年11月3日に出願された出願番号202011211640.9、発明名称「スクリーニング方法」の中国特許出願に基づく優先権を主張する。
【0002】
(技術分野)
本出願は、バイオテクノロジーの分野に関し、具体的にはスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0003】
1975年にKohlerとMilsteinによってハイブリドーマ技術が確立されて以来、何千もの異なるシングルクローン抗体が生産され、その一部は科学的試験に、一部は臨床診断に、一部は腫瘍、免疫系疾患、心臓血管および脳血管疾患などの種々の疾患の治療に使用されている。シングルクローン抗体は非常に高い商業的価値を有している。2019年に最も売れた医薬品トップ10のうち、治療用シングルクローン抗体は売上高全体の73%に貢献し、870億ドルに達した。世界の治療用シングルクローン抗体市場は、2025年までに3000億ドルに達すると予想される。創薬ターゲットに対して、臨床研究に使用できる抗体医薬品の候補を選択するためには、多くの抗体をスクリーニングする必要があり、効率的で信頼性の高い抗体探索プラットフォームが不可欠となる。
【0004】
これまで、主なシングルクローン抗体創製技術は、ハイブリドーマ技術、サーフェスディスプレイ技術、単一B細胞技術に分けられる。
【0005】
ハイブリドーマ技術は、細胞融合技術から発展した技術である。脾臓のBリンパ球と骨髄腫細胞を融合してBリンパ球と骨髄腫細胞のハイブリッドを形成し、このハイブリッドのみがHAT培地中で無限に増殖・生存でき、抗体を分泌することができる。この技術は特異的な抗体をスクリーニングすることができるが、デメリットも明らかである。
(1)手作業が必要で、操作回数が多く、繰り返しの工程が多い。
(2)速度が遅く、効率が悪いため、高いスループットなスクリーニングの要求に応えられない。
(3)シングルクローンを保証できず、3~4回のサブクローニングが必要であり、労力と時間がかかる。
(4)限界希釈ELISA試験前に、どのクローンが抗原特異的要件を満たしているのか不明である。
【0006】
そのため、すべてのクローンを少なくとも1回のELISAで同定する必要がある。45年にわたる開発の結果、ハイブリドーマスクリーニングの手作業を減らすClonePixシステムのような装置が生まれた。このシステムでは、半固体培養法を用いて、細胞を培地上で独立・分散した単一のシングルクローンに成長させ、半固形化培地に蛍光標識したクローン検出試薬を添加し、クローン成長時間が長くなり、より多くの細胞がクローンの周りに集まって、ピッキングで必要なクローンを一つずつ選び出す。この技術により、ハイブリドーマのスクリーニングにおける手作業は軽減されるが、デメリットもある。例えば、第一に、ハイブリドーマは半固形培地でよく増殖する必要があるため、適切な培地を開発する必要がある。第二に、クローンの大きさと密度が、自動クローンピッキングの精度に大きな影響を与える。小さすぎるクローンは、同定やピッキングに支障をきたす可能性がある。また、クローンの密度が高すぎると、ピッキングしたクローンの単クローン性に影響を与えやすくなる。最後に、ロボットアームは選択精度に対する要求が比較的高いので、装置の日々のメンテナンスを綿密に行う必要がある。
【0007】
もう一つの代表的な抗体作製法として、サーフェスディスプレイ技術がある。最も広く用いられているのは、ファージディスプレイやイーストディスプレイ技術である。その原理は、Bリンパ球の抗体重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)をPCR法で増幅し、増幅断片をベクターに挿入し、抗体分子をFab断片または一本鎖抗体(scFv)に変換し、一本鎖ファージコートタンパク質や酵母表面のタンパク質と融合して発現させ、抗体をファージまたは酵母表面に表示させる。抗原スクリーニングの方法を用いると、親和性吸着-溶出-増幅などのステップを経て、標的抗原特異的なシングルクローン抗体を得ることができる。しかし、この方法では、可変領域の重・軽抗体鎖がランダムに組み合わされるため、ペアリングが意味をなさない部分が多い。また、これらのディスプレイライブラリからスクリーニングされたほとんどの抗体は、親和性の要件を満たすためにさらなる成熟が必要である。
【0008】
近年、単一B細胞技術が開発され、この技術は、哺乳類やヒトの単一Bリンパ球から直接抗体を分離・発現させることができるため、スクリーニングの時間を大幅に短縮することが可能である。現在、主な単一B細胞技術は、対応するIgGが細胞表面に発現していることから、メモリーB細胞を対象とし、標識抗原(蛍光または磁気)と結合させてソーティング(フローソーティング、または磁気ソーティング、マイクロフルイドソーティング)することで高いスループットのスクリーニングを実現できる。Lotta von Boehmerらはフローソーティングにより、抗原結合メモリーB細胞を96ウェルPCRプレートにソーティングし、重鎖と軽鎖の可変領域を増幅し、発現特異的スクリーニングを行った。しかし、この種の方法は、細胞表面にIgGを発現しているメモリーB細胞のみを対象とすることができる。形質細胞が発現する抗体は分泌型であるため、この方法では検出することができない。Alison M Clargoらは、特定の抗体を分泌している細胞をマイクロマニピュレーションで取り出し、重鎖と軽鎖の可変領域を増幅して抗体を発現させるin situ蛍光法(fluorescent foci method)を確立し、顕微鏡操作により特異的抗体を分泌する細胞を取り出した後重鎖と軽鎖の可変領域の増幅および抗体の発現を行う。標的細胞を取り出すためにマイクロマニピュレーションが必要であり、時間と手間がかかり、高いスループットを実現することができない。
【0009】
これらを鑑み、本出願を提案することに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本出願の目的は、スクリーニング方法を提供し、より具体的には、本出願は、抗体およびその分泌細胞をスクリーニングする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願は以下のように達成される。
【0012】
一態様において、本出願は、標的抗体を分泌する細胞をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、以下のステップを含む。
ステップ(a):候補細胞を第1蛍光分子で標識するステップ。
ステップ(b):前記第1蛍光分子で標識された候補細胞と標的抗体に対する標識抗体を捕捉抗原が固定された容器に加え、混合してインキュベートし、細胞液を得るステップであって、前記捕捉抗原は前記標的抗体と特異的に結合することができ、前記標識抗体は第2蛍光分子で標識され、
前記第1蛍光分子は、以下の性質を有する:前記第1蛍光分子が第1励起光で励起されて放出する蛍光と前記第2蛍光分子が前記第1励起光で励起されて放出する蛍光とが異なり、前記第1蛍光分子が第2励起光で励起された後に光活性化または光変換状態となり、光活性化または光変換状態下で、第3励起光で励起された後第1蛍光を放出し、前記第1蛍光分子が第2励起光で励起されることなく直接第3励起光で励起された後第2蛍光を放出し、前記第1蛍光の波長と前記第2蛍光の波長とが異なり、または前記第1蛍光の波長と前記第2蛍光の波長とが同じであるが蛍光強度が異なり、ここで、前記第1励起光の波長と前記第2励起光の波長とが異なり、前記第2励起光の波長と前記第3励起光の波長とが異なり、
前記第2蛍光分子が前記第1励起光で励起されて放出する蛍光の波長と前記第2励起光の波長とが異なる、ステップ。
ステップ(c):ハイコンテンイメージングシステムを用いて前記細胞液を観察し、前記第1励起光で前記第2蛍光分子を励起して蛍光を放出し、この蛍光に囲まれた候補細胞をスクリーニングして、標的候補細胞とし、次に前記第2励起光で前記標的候補細胞を照射して標識された第1蛍光分子光活性化または光変換状態とするステップ。
ステップ(d):フローサイトメーターを用いて前記細胞液中の候補細胞をソーティングし、ソーティング過程中、前記第3励起光でステップ(c)で処理された候補細胞を照射して前記第1蛍光を放出する標的候補細胞を、前記標的抗体を分泌する細胞としてソーティングするステップ。
【0013】
本出願で提供されるスクリーニング方法は、抗体を分泌する細胞を高いスループットでスクリーニングすることができ、そのスクリーニング原理は以下の通りである。
【0014】
標的抗体は分泌型であるため、細胞外に分泌され、候補細胞の周囲に分布している。したがって、候補細胞に第1励起光を照射すると、第2蛍光分子が励起されて蛍光を放出し、このときに標的抗体を分泌させることができる候補細胞の周囲は蛍光に包まれ、標的抗体を分泌できない候補細胞は蛍光に包まれない。この現象に基づいて、抗体を分泌できる候補細胞を予め決定し、次に第2の励起光を用いて標的に標識した第1の蛍光分子が光活性化状態または光電変換状態となるように励起させ、さらに、フローサイトメーターを用いたスクリーニングステップにおいて、第3の励起光で励起すると、光活性化状態または光電変換状態にある第1の蛍光分子は第1の蛍光を放出し、第2の励起光で励起されない蛍光分子は第2の蛍光を放出する。これに基づいて、第1の蛍光と第2蛍光の差に応じて、標的抗体を分泌することが可能である候補細胞と標的抗体を分泌できない候補細胞は、区別してスクリーニングされる。
【0015】
スクリーニング原理から分かるように、分泌型抗体の細胞スクリーニングにおいて、本出願で提供するスクリーニング方法は、蛍光分子の標識化とハイコンテントイメージングシステムとフローサイトメーターの組み合わせにより、ハイスループットかつ自動で標的候補細胞のソーティングを完了することができ、その後の増幅、その抗体シーケンスの取得、および親和性のある抗体のスクリーニングに十分な数の細胞基盤を提供し、この方法は、スクリーニング効率を大幅に向上させることができる。
【0016】
なお、前記の「前記第1蛍光分子が第1励起光で励起されて放出する蛍光と前記第2蛍光分子が前記第1励起光で励起されて放出する蛍光とが異なり」中の「蛍光が異なり」とは、2つの蛍光分子の蛍光波長が異なる、あるいは第2蛍光分子が蛍光を発するが第1の蛍光分子は蛍光を放出しないことを意味する。また、第2蛍光分子の種類は、第1の励起光の励起下で第2蛍光分子の蛍光と第1の蛍光分子の蛍光とを識別できるものであれば、第1の蛍光分子の種類に応じて合理的に選択することができる。前記内容によれば、第1励起光と第2励起光の波長を異ならせて相互の影響を回避することは、当業者であれば容易に理解できる。
【0017】
選択可能な実施形態では、前記第1蛍光分子は、光活性化蛍光タンパク質及び光変換蛍光タンパク質から選択される。
【0018】
選択可能な実施形態では、ステップ(d)では、前記細胞液がフローサイトメーターによるソーティングに用いられる場合、前記第2蛍光分子は、前記第3励起光によって励起されても蛍光分子を放出しない、または前記第3励起光によって励起されて放出する蛍光の波長が、細胞液中に標識抗体が含まれるか否かで異なる。
【0019】
前記細胞液を直接ソーティングする場合、標識抗体を含んでおり、前記第2蛍光分子の蛍光特性は、前記第3励起光の励起下で蛍光を放出しない、または前記第3励起光の励起下で放出した蛍光の波長が第1蛍光の波長と異なる、という条件(a)を満たす必要がある。この条件を満たすことを前提に、ソーティング時に前記第2蛍光分子によって発生する蛍光干渉を回避することができる。なお、ソーティングに用いる溶液が標識抗体を含む場合と含まない場合では、前記第2蛍光分子が上記条件(a)を満たさない場合がある。
【0020】
直接ソーティングに細胞液を用いるかどうかは、捕捉抗原の固定方法に応じて選択することができる。
【0021】
例えば、捕捉抗原が、抗原を発現する細胞(付着細胞など)によって容器(細胞培養皿など)に固定化されており、この場合、候補細胞の分離が困難である場合には、細胞液を消化し、細胞懸濁液を直接用いてその後のソーティングを行うことが可能である。この場合、ソーティングに使用した細胞液には標識抗体が含まれている。この場合、第2の蛍光分子は上記条件(a)を満たす必要がある。
【0022】
別の例として、捕捉抗原が他の媒体(マイクロスフェアや磁気ビーズなど)により容器(細胞培養皿など)内に直接固定化またはコーティングされている場合、この場合、候補細胞は細胞から容易に洗浄される。この場合、候補となる細胞は、その後、個別に分離し、適切な希釈剤で希釈して、その後の解析ステップに供することができる。この場合、ソーティングに使用される細胞液は標識抗体を含まず、第2蛍光分子は上記条件(a)を満たさない可能性がある。
【0023】
選択可能な実施形態では、前記容器は、捕捉抗原を過剰発現する付着細胞を含む。捕捉抗原は、抗原を発現する付着細胞によって容器内に固定化される。候補細胞から分泌された抗体は、固定化された捕捉抗原によって候補細胞の周囲に集中し、容易に蛍光観察することができる。
【0024】
選択可能な実施形態では、ステップ(c)の処理後、細胞液を消化して細胞懸濁液を得、この細胞懸濁液をフローサイトメトリーによりソーティングする。
【0025】
選択可能な実施形態では、前記光活性化蛍光タンパク質はPA-GFPである。
【0026】
選択可能な実施形態では、前記第1蛍光分子がPA-GFPタンパク質である場合、前記第1励起光の波長範囲が390nm~415nm範囲になく、前記第2励起光の波長が390nm~415nmであり、前記第3励起光の波長範囲が450nm~550nmである(最大励起光波長504nm)。
【0027】
前記第1蛍光分子がPA-GFPタンパク質である場合、ハイコンテントイメージングシステムで前記第2蛍光分子の蛍光に囲まれた候補細胞をソーティングし、強い紫色の光、つまり前記第2励起光(390nm~415nm)で照射し、この変種は100倍の緑の蛍光を発生させた。フローサイトメーターを通じて、励起光波長範囲が450nm~550nm(最大励起光504nm)の第3励起光で照射し、候補細胞の発光光の波長範囲が480nm~600nmであり(最大発光光517nm)、このとき、第2励起光で照射されていない非候補細胞は第3励起光で照射されると、弱い緑色の蛍光を放出し、発光光の波長範囲が480nm~600nmである(最大発光光515nm)。異なる発光光の蛍光強度によって光活性化後のPA-GFPタンパク質を有する標的抗体を分泌できる候補細胞をソーティングすることができる。
【0028】
選択可能な実施形態では、前記光変換蛍光タンパク質は、PS-CFP2、PS-CFP、mEosFP、tdEosFP、dEosFP、WtEosFP、Kaede、Dendra2およびKikGRから選択される。
【0029】
選択可能な実施形態では、前記第1蛍光分子がPS-CFP2タンパク質である場合、前記第1励起光の波長範囲が390nm~415nm範囲になく、前記第2励起光の波長が390nm~415nmであり、前記第3励起光の波長範囲が420nm~520nmである(最大励起光波長が490nm)。
【0030】
前記第1蛍光分子がPS-CFP2タンパク質である場合、ハイコンテンイメージングシステムを用いて、前記第2蛍光分子の蛍光に囲まれた候補細胞をスクリーニングし、強い紫色光である第2励起光(390nm~415nm)で照射し、青緑色蛍光の候補細胞は緑色蛍光への変換を達成する。フローサイトメーターを通じて、第3励起光で励起させ、波長範囲が420nm~520nmであり(最大励起光波長490nm)、第2励起光で照射した候補細胞の発光光の波長範囲が450nm~600nmである(最大発光光波長511nm)。このとき、第2励起光で照射されていない候補細胞が第3励起光で照射される場合、蛍光を放出しない。したがって、標的抗体を分泌する候補細胞をソーティングすることができる。
【0031】
選択可能な実施形態では、前記第1蛍光分子がKaedeタンパク質である場合、前記第1励起光の波長範囲が350nm~400nm範囲になく、前記第2励起光の波長が350nm~400nmであり、前記第3励起光の波長範囲が500nm~600nmである(最大励起光波長572nm)。
【0032】
前記第1蛍光分子がKaedeタンパク質である場合、ハイコンテンイメージングシステムを用いて、前記第2蛍光分子の蛍光に囲まれた候補細胞をスクリーニングし、強い紫色光である第2励起光(350nm~400nm)で照射し、緑色蛍光を有する候補細胞は赤色蛍光への変換を達成する。フローサイトメーターを通じて、第3励起光で励起させ、波長範囲が500nm~600nmであり(最大励起光波長572nm)、第2励起光で照射した候補細胞の発光光の波長範囲が550nm~650nmである(最大発光光580nm)。このとき、第2励起光で照射されていない候補細胞が第3励起光で照射される場合、蛍光を放出しない。したがって、標的抗体を分泌する候補細胞をソーティングすることができる。
【0033】
選択可能な実施形態では、前記第1蛍光分子がKikGRタンパク質であり、前記第1励起光の波長範囲が390nm~415nm範囲になく、前記第2励起光の波長が390nm~415nmであり、前記第3励起光の波長範囲が500nm~600nmである(最大励起光波長583nm)。
【0034】
前記第1蛍光分子がkikGRタンパク質である場合、ハイコンテンイメージングシステムを用いて、前記第2蛍光分子の蛍光に囲まれた候補細胞をスクリーニングし、強い紫色光である第2励起光(390nm~415nm)で照射し、緑色蛍光を有する候補細胞は赤色蛍光への変換を達成する。フローサイトメーターを通じて、第3励起光で励起させ、波長範囲が500nm~600nmであり(最大励起光波長583nm)、第2励起光で照射した候補細胞の発光光の波長範囲が550nm~650nmである(最大発光光波長593nm)。このとき、第2励起光で照射されていない候補細胞が第3励起光で照射される場合、蛍光を放出しない。したがって、標的抗体を分泌する候補細胞をソーティングすることができる。
【0035】
選択可能な実施形態では、ステップ(a)における候補細胞は、Bリンパ球、T細胞、NK細胞、HEK細胞、CHO細胞、細菌および酵母から選択される。
【0036】
候補細胞の種類はニーズに応じて選択することができ、本出願の候補細胞としては、標的抗体を分泌することが期待される細胞であれば、どのような細胞でも使用することができる。例えば、分泌型の代表的な抗体分泌細胞としては、Bリンパ球が挙げられる。また、ある実施形態では、免疫された宿主動物の脾臓細胞、骨髄細胞、リンパ節細胞であってもよい。
【0037】
しかしながら、本発明のスクリーニング原理によれば、本出願の方法は、抗体を分泌する細胞のみならず、任意のタンパク質を分泌する細胞のスクリーニングにも使用できることが理解されることに留意されたい。したがって、タンパク質を分泌する他の細胞をスクリーニングするために本出願の方法を使用することも、本出願の保護範囲内に入る。
【0038】
選択可能な実施形態では、ステップ(a)では、前記候補細胞を前記第1蛍光分子で標識する方法は、以下の(I)~(IV)のいずれか1つの方法から選択される。
(I):前記第1蛍光分子をコードするヌクレオチドを前記候補細胞に導入し、前記ヌクレオチドを前記候補細胞に第1蛍光分子を発現させる。
(II):前記第1蛍光分子をエレクトロトランスフェクションにより前記候補細胞内に導入させる。
(III):前記第1蛍光分子と前記候補細胞の細胞膜表面特異的マーカーの抗体とを融合して発現させ、この抗体と前記特異的マーカーとの特異的結合により第1蛍光分子を前記候補細胞の表面に接続させる。
(IV):前記第1蛍光分子で脂質物質を標識し、脂質物質を標識した後の第1蛍光分子と前記候補細胞を混合して第1蛍光分子を前記候補細胞の表面に接続させる。
【0039】
なお、第1蛍光分子を候補細胞で標識する方法は上記の(I)~(IV)の方法に限定されず、当業者であれば、当技術分野の従来技術に従って第1蛍光分子を容易に標識することができる。他の方法を用いて第1蛍光分子を候補細胞に標識することも本出願の保護範囲に含まれる。さらに、第1蛍光分子は、候補細胞の表面または細胞内、または表面および細胞内の両方で標識することができる。
【0040】
選択可能な実施形態では、前記脂質物質が、DSPE-NHS、DSPE-polyethylene glycol(PEG)2000-NHS、DSPE-PEG3400-NHS、oleyl-PEG2000-NHS、oleyl-PEG4000-NHSおよびDioleoylphosphatidylethanolamine(DOPE)-PEG2000-NHSから選択される。
【0041】
選択可能な実施形態では、ステップ(c)では、低倍率顕微鏡下でイメージングを行い、前記標的候補細胞をソーティングし、その後、高倍率顕微鏡に切り替えて前記標的候補細胞に対する前記第2励起光照射を行う。
【0042】
選択可能な実施形態では、候補細胞の浮遊や分泌された抗体の分散を避けるために、捕捉抗原を発現する細胞、または捕捉抗原が付着したビーズ(例えば、磁気ビーズ)を、培養システムを含む培養容器内に接種することも可能である。これらの細胞やビーズの表面には、抗CD19抗体、抗Bリンパ球抗体、抗CD19のscFvなどの捕捉分子を発現または結合させて、浮遊状態にさせずに候補細胞を捕捉することも可能である。あるいは、インキュベーションシステムにゼラチンを添加して、細胞及び抗体の移動性を低下させ、検出及び観察を容易にすることができる。
【0043】
選択可能な実施形態では、ステップ(d)の前に、ステップ(c)で得られた細胞液を消化して単一細胞懸濁液とし、単一細胞懸濁液をソーティングする。
【0044】
選択可能な実施形態では、ステップ(d)では、マイクロ制御フローチップを使用してソーティングすることもできる。
【0045】
他方、本出願は、標的抗体をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、
上記で述べた方法で標的抗体を分泌する細胞を取得するステップと、
得られた前記標的抗体を分泌する細胞から前記標的抗体をコードするヌクレオチドシーケンスを取得するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0046】
本出願の実施例の技術手段をより明確にするために、以下、実施例で使用される図面を簡単に説明するが、以下の図面は本出願のいくつかの実施例のみを示し、本出願の範囲を限定するものではなく、当業者にとって、創造的な労働をすることなく、これらの図面に基づいて他の関連図面を得ることができる。
【0047】
図1】PCRにより得られた抗体の重鎖可変領域シーケンスおよび軽鎖可変領域シーケンスの模式図であり、両者は約400bpの大きさである。
図2】PCRにより全長抗体シーケンスを構成するために必要な、大きさが約400bpの5’非翻訳領域、大きさが約1200bpの重鎖抗体定常領域および3’非翻訳領域、大きさが約400bpの軽鎖抗体定常領域および3’非翻訳領域の模式図である。
図3】overlap PCRにより、抗体の軽重鎖可変領域重を完全な全長抗体シーケンスに再構成する模式図であり、重鎖全長抗体シーケンスの大きさが約1900bp、軽鎖全長抗体シーケンスの大きさが約1000bpである。
図4】高含有抗体親和性検出において、第2蛍光分子で標識された標識抗体が捕捉抗原の周囲に結合する様子を示す模式図である。
図5】特異的な抗PDL1抗体を分泌するBリンパ球の周囲にハレーションが発生している状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本出願の実施例の目的、技術手段および利点をより明確にするために、以下、本出願の実施例中の技術手段を明確かつ完全に説明する。実施例において具体的な条件が示されていない場合、従来の条件またはメーカーが提案する条件に従って実施される。また、製造者の表示がない試薬または器具は、市場から購入可能な従来品である。
【0049】
以下、実施例を参照しながら本出願の特徴および性能をさらに詳細に説明する。
【0050】
(実施例1)
本実施例では、抗PDL1抗体及びBリンパ球を例にとり、本実施例で提供する抗PDL1抗体を分泌するBリンパ球のスクリーニング方法を説明するが、その内容は以下の通りである。
【0051】
1.PDL1タンパク質を抗原としてマウスを免疫した。当技術分野における従来の方法を参照して実施される。
【0052】
2.Bリンパ球の濃縮
1)マウスから脾臓を採取し、40μmのフィルターに載せ、フィルターを通して脾臓を転がし、1個の脾臓細胞を得、これを予め冷却した無血清1640培地50ml中に入れた。
2)4℃、500g、5分間遠心分離した。
3)上清を捨て、細胞を10ml 1×赤血球ライセート(BD bioscience、cat: 555899)に室温、遮光下で再懸濁し、5分間静置した。
4)無血清1640培地40mlを加え、4℃、500g、5分間遠心分離した。
5)上清を捨て、細胞ペレットを10 mlのMACS Buffer(MACS Buffer:miltenyi biotec order no.130-091-221)に再懸濁し、均等に吹き付けられ、トリパンブルーで染色し、計数した。
6)5×10の細胞を取り、4℃、500g、5分間遠心分離し、上清を捨てた。
7)175μl MACS buffer、25μl FcR Blocking Reagent、50μl Biotin-Antibody Cocktail(Pan B Cell Isolation Kit II, mouse (Order no: 130-104-443))、均一に混合し、4℃、5分間インキュベートした。
8)細胞懸濁液に150μl MACS buffer、100μl Anti-Biotin MicroBeadsを加え、均一に混合し、4℃、10分間インキュベートした。
9)3ml BufferでLSカラムを平衡化した。
10)細胞懸濁液をカラム(500μl)に通しろ液を回収した。
11)3ml BufferをLSカラムに加え、遠心管にろ液を収集した。
12)得られたろ液3.5mlを候補Bリンパ球とした。
【0053】
3.Bリンパ球の濃縮前のレンチウイルスパッケージング
1)密生している293T細胞を80%~90%程度の密度で取り出し、新鮮な培地(DMEM+10%FBS)、10ml/10cm細胞培養ディッシュに入れ替えた。
2)2mlの遠沈管を2本取り、チューブ1にDMEM培地625μlとLipofectamine3000 18.75μlを添加した。チューブ2にDMEM培地625μl、psPAX2プラスミド7.5μg、PMD2Gプラスミド2.5μg、PLVX-Kaede-IRES-PUROプラスミド10μg、P3000を25μl添加した。
3)チューブ1の溶液をチューブ2に移し、チューブ内の溶液をシェーカーで混合し、5分間静置した。
4)293T細胞を取り出し、混合液を穏やかに細胞内に移し、インキュベーターに戻した。
5)48h後、初めてレンチウイルス上清を回収し、10ml/dishの新鮮な培地を細胞に添加した。
6)72時間後、2回目のレンチウイルス上清を回収し、60000g、4℃で2時間遠心分離し、上清を捨てた。ペレットを適量のPBSで再懸濁し、10u/mlの力価の濃縮ウイルスを得た。
【0054】
4.ウイルス感染Bリンパ球で、Kaedeタンパク質(第1蛍光分子)を発現するBリンパ球を得た。
1)MOI=50(10~100、好ましくは50)に従い、分離したBリンパ球を感染させ、6時間(30分~48時間、好ましくは6時間)トランスフェクションした後、細胞懸濁液を500gで5分間遠心分離し、上清を捨て、Kaedeタンパク質を発現するBリンパ球を得た。
【0055】
5.トランスフェクションしたBリンパ球のプレーティング
1)トランスフェクションの1日前にPDL1(捕捉抗原)を過剰発現しているCHO-K1細胞を細胞培養皿に接種した。
2)トランスフェクションしたBリンパ球をディッシュにプレーティングし、プレーティング細胞数は2×10(2×10~2×10でもよい)であることが好ましい。6~48時間培養後、培地を静かに吸引し、新鮮な培地で調製したGoat pAb to Ms IgG (Aleax Flour 647, abcam, cat: ab150115)染色液(第2蛍光分子Alax Flour 647で標識した二次抗体を含有する)を加え、B細胞を攪乱しないように作業濃度0.2μg/mlで、37℃、5% COで30分間インキュベートした後、染色液を静かに吸引し、新鮮な培地に交換した。溶液交換の際、B細胞を攪乱しないようにする。
【0056】
6.細胞培養ディッシュをハイコンテンイメージングシステムにセットし、検出を行う。
1)ハイコンテントイメージングシステムを用い、5倍顕微鏡下で撮像し、第1励起光(550nm~700nm)で励起し、Alax Flour 647の発光波長域は620nm~750nmであり、特異的抗PDL1抗体の分泌を観察することが可能である。Bリンパ球の周囲のPDL1過剰発現CHO-K1細胞は、周囲に赤いハレーションを起こし(図5参照)、その後、Bリンパ球の光活性化のために60倍の高倍率に切り替え、第2励起光の波長(The second excitation light)は365nm(350nm~400nmも使用可能)、露光時間は500ms(50ms~5000msも使用可能)で光電変換が促され発光はない。
【0057】
7.特異抗体を分泌する単一Bリンパ球のフローソーティング
1)ステップ6の細胞を消化して単一細胞懸濁液とし、フローサイトメーターを用いてソーティングを行い、励起に500nm~600nmの励起光(最大励起波長572nm)を用い、550nm~650nmの範囲の発光光を得、(ステップ6の後、ハレーションを持つ標的B細胞(標的抗体を分泌できる)を光電転換させ、波長580nmの赤色の発光光を放出し、ステップ6で光電変換しなかったBリンパ球(標的抗体を分泌できない)は蛍光を持たない)、赤色に発光した光電変換Bリンパ球(すなわち抗PDL1抗体を分泌するBリンパ球)を、細胞溶解液を含むPCRチューブに仕分けた。
【0058】
(実施例2)
本実施例では、実施例1でスクリーニングして得られた抗PDL1抗体を分泌するBリンパ球を例にとり、抗PDL1抗体のスクリーニング方法について説明する。その方法は以下の通りである。
【0059】
1.cDNAの一本鎖を逆引きし、5' RACEの方法で全長cDNAを増幅した。
1)一本鎖cDNAの合成(SMARTer(登録商標) RACE 5’/3’Kit、Takara、cat:634858)
【0060】
A:反応系を準備する
【表1】
【0061】
ピペットで穏やかに混合し、短時間遠心分離した後、室温に置く。
【0062】
【表2】
【0063】
ピペットを用いて穏やかに混合し、短時間遠心分離する。
【0064】
混合反応系2を以下の条件下で反応させる。
【表3】
【0065】
B:反応系の調製:
【表4】
【0066】
ピペットを用いて穏やかに混合し、短時間遠心分離する。
【0067】
C:一本鎖cDNAの合成
【表5】
【0068】
ピペットを用いて穏やかに混合し、短時間遠心分離する。
【0069】
【表6】
【0070】
D:完全長cDNA増幅
【表7】
【0071】
ピペットを用いて穏やかに混合し、短時間遠心分離する。
【0072】
【表8】
【0073】
【表9】
【0074】
2.PCRにより抗体の重鎖可変領域シーケンスと軽鎖可変領域シーケンスを取得する。
【表10】
【0075】
【表11】
【0076】
抗体重鎖可変領域の上流側プライマーをFVH_mixとした(10μMのプライマーFVH_I~IXを等量体積で9本抽取して混合する)。
【0077】
抗体重鎖可変領域の下流側プライマーをRVH_mixとした(10μMのプライマーRVH_I~IVを等量体積で4本抽取して混合する)。抗体重鎖可変領域の上流側プライマーと下流側プライマーは以下の表に示される。
【0078】
【表12】
【0079】
抗体軽鎖可変領域の上流側プライマーをFVK_mixとした(10μMのプライマーFVKFK_I~IXを等量体積で9本抽取して混合する)。
【0080】
抗体軽鎖可変領域の下流側プライマーをRVK_mixとした(10μMのプライマーRVK_I~IIIを等量体積で3本抽取して混合する)。
【0081】
抗体軽鎖可変領域の上流側プライマーと下流側プライマーは以下の表に示される。
【0082】
【表13】
【0083】
PCR実験結果が図1に示される。
【0084】
3.overlap PCRで抗体の軽重鎖可変領域重を完全長抗体シーケンスに再構成し、インビトロでの無細胞発現を行う。
1)pcrによりoverlap PCR用のテンプレート断片(5’UTR, IgG1Fc-3’UTR, IgKc-3’UTR)を取得する。
【0085】
5’UTR断片のPCR増幅体系は以下の通りである。
【表14】
【0086】
【表15】
【0087】
IgG1Fc-3’UTR 断片のPCR増幅体系は以下の通りである。
【表16】
【0088】
【表17】
【0089】
IgKc-3’UTR断片のPCR増幅体系は以下の通りである。
【表18】
【0090】
【表19】
【0091】
PCR結果は図2に示される。
【0092】
2)オーバーラップPCRにより抗体の軽重鎖可変領域を完全な全長抗体シーケンスに再構成する。
【0093】
【表20】
【0094】
【表21】
【0095】
PCR結果は図3に示される。
【0096】
3)インビトロ無細胞発現
overlap PCRで得られた抗体の軽重鎖完全な全長抗体シーケンスPCR生成物1μlを60μlのProteinFactory Rxn(protein factory 1.0)反応系に添加する。20~30℃で3~20時間静置すると、タンパク質の発現が完了し、抗PDL1の抗体を得ることができる。
【0097】
4.発現抗体取得後の抗体の親和性スクリーニング
1)前日までに、PDL1発現CHO-K1細胞(10000/well)とGFP発現CHO-K1細胞(2000/well)を採取し、F-12培地で100μl/well混合し、96wellプレートに接種する。37℃、5% COで一晩インキュベートする。
【0098】
2)培養プレート内の培地を吸引廃棄し、各ウェルに抗体タンパク質を40μlずつ添加し、37℃、5% COで30分間インキュベートする。
【0099】
3)タンパク質を吸引廃棄し、作業濃度0.2μg/mlのGoat pAb to Ms IgG(Aleax Flour 647, cat: ab150115, abcam)と作業濃度0.2μg/mlのHoechest 33342をF-12培地に50μl/wellずつ分取する。37℃、5%COで30分間インキュベートする。
【0100】
4)培地を吸引廃棄し、F-12培地50μlを加える。
【0101】
5)高含有キャプチャーを行い、平均蛍光値を分析した(図4参照)。解析方法は以下の通りである。
a)350nmの励起光を用いてHoechest33342で染色した核を探し、蛍光値を調節して全細胞を求める。
b)a)で出力された細胞の中から、488nmの励起光を用いて、緑色の蛍光を発する細胞を見つけ、蛍光値を調整し、CHO-K1-GFPを出力する。
c)全細胞からb)のCHO-K1-GFPを差し引いた残りがCHO-K1-PDL1となる。
d)647nmの励起光を用いて、細胞膜上の赤色蛍光値を検出し、CHO-K1-GFP膜上の赤色蛍光の平均値とCHO-K1-PDL1膜上の赤色蛍光を計数した。
e)CHO-K1-PDL1膜上の平均赤色蛍光とCHO-K1-GFP膜上の平均赤色蛍光の比率をカウントし、抗体の親和性スクリーニングを実施した。比率が高い抗体を選択し、高親和性の抗PDL1抗体を得た。
【0102】
(実施例3)
本実施例で提供する抗PDL1抗体を分泌するBリンパ球のスクリーニング方法は、トランスフェクションしたBリンパ球をプレーティングするステップが以下の通りである以外は、基本的に実施例1の方法と同じである。
【0103】
1)トランスフェクションの1日前に、Poly-D-Lysine solution(gibco、REF:A3890401)を、滅菌DPBSを用いて50ug/mlの作業濃度に希釈した。他の実施例では、半固形培地やゼラチン等もこのステップで使用することができる。
2)希釈液を6ウェルプレートに加え(このステップは細胞接着性を高めることができる)、1ウェルあたり2mlを加える。
3)室温で1時間インキュベートする。
4)希釈液を捨て、6ウェルプレートを滅菌水で3回洗浄し、残存するPoly-D-Lysine溶液の希釈液を確実に除去する。
5)6ウェルプレートを開封し、生物学的安全キャビネットに入れる。
6)6ウェルプレートが完全に乾燥した後、PDL1を過剰発現しているCHO-K1細胞を6ウェルプレートにプレーティングした。
7)トランスフェクションしたBリンパ球をディッシュにプレーティングした。6~48時間培養後、培地を静かに吸引廃棄し、新鮮な培地で調製したGoat pAb to Ms IgG(Aleax Flour 647, abcam, cat: ab150115)染色液をB細胞を乱さないように作業濃度0.2μg/mlで添加し、37℃、5%COで30分間インキュベートした後、染色液を静かに吸引廃棄し、新鮮な培地と交換した。溶液の交換中、B細胞を攪乱しないようにする。
【0104】
残りの工程は、実施例1と同じである。
【0105】
(実施例4)
本実施例で提供される抗PDL1抗体を分泌するBリンパ球のスクリーニング方法は、第1の蛍光分子がPA-GFPタンパク質であることを除いて、基本的に実施例1と同じであり、また、本実施例では、高含有細胞イメージングステップにおいて、紫色の強い光(390~415nm)を照射すると、候補細胞が発する緑色の蛍光(波長480nm~600nm)が100倍増加し、フローサイトメーターでソーティングする場合、励起光の波長範囲は450nm~550nm(最大励起光は504nm)、発光光の波長範囲は480nm~600nm(最大発光光は517nm)であり、これにより、光活性化後に標的抗体を分泌できるPA-GFPタンパク質を有する標識Bリンパ球をソーティングすることができる。
【0106】
(実施例5)
本実施例で提供される抗PDL1抗体を分泌するBリンパ球のスクリーニング方法は、基本的に実施例1と同じであり、第1蛍光分子はKaedeタンパク質であり、高含有細胞イメージングステップにおいて、強い紫色光(350~400nm)を照射し、緑色蛍光(500nm~600nmの波長範囲)を有する候補Bリンパ球を赤色蛍光(550nm~650nmの波長範囲)に光電変換させ、フローサイトメーターでソーティングする場合、励起光の波長範囲は500nm~600nm(励起光の最大波長は572nm)、発光光の波長範囲は550nm~650nm(発光光の最大波長は580nm)であり、光変換後のKaedeタンパク質で標識された抗体を分泌できるBリンパ球をソーティングすることができる。
【0107】
以上は本出願の好ましい実施例に過ぎず、本出願を制限するものではなく、当業者にとって、本出願に様々な変更や修正を加えることができる。本出願の精神および原則を逸脱することなく、得られた任意の修正、同等置換、改善などはすべて本出願の保護範囲内に含まれるべきである。
【0108】
(付記)
(付記1)
ステップ(a):候補細胞を第1蛍光分子で標識するステップと、
ステップ(b):前記第1蛍光分子で標識された候補細胞と標的抗体に対する標識抗体を捕捉抗原が固定された容器に加え、混合してインキュベートし、細胞液を得るステップであって、前記捕捉抗原は前記標的抗体と特異的に結合することができ、前記標識抗体は第2蛍光分子で標識され、
前記第1蛍光分子は、以下の性質を有する:前記第1蛍光分子が第1励起光で励起されて放出する蛍光と前記第2蛍光分子が前記第1励起光で励起されて放出する蛍光とが異なり、前記第1蛍光分子が第2励起光で励起された後に光活性化または光変換状態となり、光活性化または光変換状態下で、第3励起光で励起された後第1蛍光を放出し、前記第1蛍光分子が第2励起光で励起されることなく直接第3励起光で励起された後第2蛍光を放出し、前記第1蛍光の波長と前記第2蛍光の波長とが異なり、または前記第1蛍光の波長と前記第2蛍光の波長とが同じであるが蛍光強度が異なり、ここで、前記第1励起光の波長と前記第2励起光の波長とが異なり、前記第2励起光の波長と前記第3励起光の波長とが異なり、
前記第2蛍光分子が前記第1励起光で励起されて放出する蛍光の波長と前記第2励起光の波長とが異なる、ステップと、
ステップ(c):ハイコンテンイメージングシステムを用いて前記細胞液を観察し、前記第1励起光で前記第2蛍光分子を励起して蛍光を放出し、この蛍光に囲まれた候補細胞をスクリーニングして、標的候補細胞とし、次に前記第2励起光で前記標的候補細胞を照射して標識された第1蛍光分子光活性化または光変換状態とするステップと、
ステップ(d):フローサイトメーターを用いて前記細胞液中の候補細胞をソーティングし、ソーティング過程中、ステップ(c)で処理された候補細胞を前記第3励起光で照射して、前記第1蛍光を放出する標的候補細胞を、前記標的抗体を分泌する細胞としてソーティングするステップと、
を含むことを特徴とする標的抗体を分泌する細胞をスクリーニングする方法。
【0109】
(付記2)
前記第1蛍光分子は、光活性化蛍光タンパク質と光変換蛍光タンパク質のいずれか1つから選択される、ことを特徴とする付記1に記載の方法。
【0110】
(付記3)
ステップ(d)において、フローサイトメーターにより前記細胞液をソーティングする場合、前記第2蛍光分子は前記第3励起光で励起されて蛍光を放出しない蛍光分子、または前記第3励起光で励起されて放出する蛍光の波長が前記第1蛍光の波長と異なる蛍光分子である、ことを特徴とする付記2に記載の方法。
【0111】
(付記4)
前記光活性化蛍光タンパク質はPA-GFPであり、
好ましくは、前記第1励起光の波長範囲が390nm~415nm範囲になく、前記第2励起光の波長が390nm~415nmであり、前記第3励起光の波長範囲が450nm~550nmである、ことを特徴とする付記3に記載の方法。
【0112】
(付記5)
前記光変換蛍光タンパク質が、PS-CFP2、PS-CFP、mEosFP、tdEosFP、dEosFP、WtEosFP、Kaede、Dendra2およびKikGRのいずれか1つである、ことを特徴とする付記3に記載の方法。
【0113】
(付記6)
前記第1蛍光分子がPS-CFP2タンパク質であり、前記第1励起光の波長範囲が390nm~415nm範囲になく、前記第2励起光の波長が390nm~415nmであり、前記第3励起光の波長範囲が420nm~520nmであるか、
または、前記第1蛍光分子がKaedeタンパク質であり、前記第1励起光の波長範囲が350nm~400nm範囲になく、前記第2励起光の波長が350nm~400nmnmであり、前記第3励起光の波長範囲が500nm~600nmであるか、
または、前記第1蛍光分子がKikGRタンパク質であり、前記第1励起光の波長範囲が390nm~415nm範囲になく、前記第2励起光の波長が390nm~415nmであり、前記第3励起光の波長範囲が500nm~600nmである、ことを特徴とする付記5に記載の方法。
【0114】
(付記7)
ステップ(a)における候補細胞が、Bリンパ球、T細胞、NK細胞、HEK細胞、CHO細胞、細菌および酵母から選択される、ことを特徴とする付記1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0115】
(付記8)
ステップ(a)において、前記候補細胞を前記第1蛍光分子で標識する方法は以下の(I)~(IV)のいずれか1つの方法であることを特徴とする付記2~6のいずれか1つに記載の方法。
(I):前記第1蛍光分子をコードするヌクレオチドを前記候補細胞に導入し、前記ヌクレオチドが前記候補細胞において第1蛍光分子を発現させる。
(II):前記第1蛍光分子をエレクトロトランスフェクションにより前記候補細胞内に導入させる。
(III):前記第1蛍光分子と前記候補細胞の細胞膜表面特異的マーカーの抗体とを融合して発現させ、この抗体と前記特異的マーカーとの特異的結合により第1蛍光分子を前記候補細胞の表面に接続させる。
(IV):前記第1蛍光分子で脂質物質を標識し、脂質物質を標識した後の第1蛍光分子と前記候補細胞を混合して第1蛍光分子を前記候補細胞の表面に接続させる。
【0116】
(付記9)
前記脂質物質が、DSPE-NHS、DSPE-PEG2000-NHS、DSPE-PEG3400-NHS、oleyl-PEG2000-NHS、oleyl-PEG4000-NHSおよびDOPE-PEG2000-NHSから選択される、ことを特徴とする付記8に記載の方法。
【0117】
(付記10)
付記1~9のいずれか1つに記載の方法で標的抗体を分泌する細胞を取得するステップと、
得られた前記標的抗体を分泌する細胞から前記標的抗体をコードするヌクレオチドシーケンスを取得するステップと、
を含むことを特徴とする標的抗体をスクリーニングする方法。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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