IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社テステックス・ジャパンの特許一覧

<>
  • 特許-渦流探傷において使用される検査治具 図1
  • 特許-渦流探傷において使用される検査治具 図2
  • 特許-渦流探傷において使用される検査治具 図3
  • 特許-渦流探傷において使用される検査治具 図4
  • 特許-渦流探傷において使用される検査治具 図5
  • 特許-渦流探傷において使用される検査治具 図6
  • 特許-渦流探傷において使用される検査治具 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】渦流探傷において使用される検査治具
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/9013 20210101AFI20230627BHJP
   G01N 27/904 20210101ALI20230627BHJP
【FI】
G01N27/9013
G01N27/904
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023076942
(22)【出願日】2023-05-08
【審査請求日】2023-05-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523170611
【氏名又は名称】有限会社テステックス・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100121795
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴亀 國康
(72)【発明者】
【氏名】木本 三四郎
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105116050(CN,A)
【文献】実開平6-74961(JP,U)
【文献】特開2010-117370(JP,A)
【文献】特開平8-334498(JP,A)
【文献】中国実用新案第211043171(CN,U)
【文献】中国実用新案第211235671(CN,U)
【文献】特開平2-221858(JP,A)
【文献】特開2004-117138(JP,A)
【文献】特開平7-229873(JP,A)
【文献】特開平6-347250(JP,A)
【文献】特開2013-113708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 - G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油備蓄用のタンクの底面又は隅角部のコーティングされた溶接部分の渦流探傷において使用される検査治具であって、
前記タンクの底面上に固定されるガイドレールと、そのガイドレールに案内されて移動するセンサースライドと、そのセンサースライドに組み込まれる複数のセンサーと、を有し、
前記ガイドレールは、前記タンクの底面上に固定される固定面部とその固定部面に直交して立設し、上縁が前記底面に平行に形成されてなるガイド面部を有し、
前記センサースライドは、前記ガイドレールの上縁を案内面として前記タンクの底面から一定の高さで前記ガイドレールに沿って移動可能であって、前記複数のセンサーを一体のセンサー群として組込むセンサー取付部を有し、そのセンサー取付部は前記センサーのリフトオフ値と前記タンクの底面又は隅角部の溶接ビードの形状に基づいて前記センサーの上下位置又は及び傾斜方向をそれぞれ調整することができるようになっている検査治具。
【請求項2】
ガイドレールは、一対のアングル部材と両端部の幅決め部材から形成される一定幅を有する枠体をなし、
センサースライドは、センサーの前記枠体における幅方向位置を規定するレールガイド部を有することを特徴とする請求項1に記載の検査治具。
【請求項3】
一対のアングル部材は、それぞれ直線状であって、ともにガイド面部の上縁高さが同一になるように、タンクの底面の溶接が突合せ溶接の場合はガイド面部の高さがともに同一のアングル部材とされ、重ね溶接の場合は溶接部の板厚に基づく段差を考慮したガイド面部高さを有するアングル部材の組とされ、
センサースライドのセンサー取付部は、前記一対のアングル部材の間に設けられてなることを特徴とする請求項2に記載の検査治具。
【請求項4】
一対のアングル部材は、タンクの内壁面の曲率に合わせた湾曲状でともにガイド面部の上縁高さが同一であって、
センサースライドのセンサー取付部は、前記ガイドレールの外側であってタンク隅角部側に設けられてなることを特徴とする請求項2に記載の検査治具。
【請求項5】
センサースライドは、4つのセンサーが直列に垂直方向を向いて取り付けられるセンサー取付部を有する請求項1又は2に記載の検査治具。
【請求項6】
センサースライドは、複数のセンサーが直列に垂直方向を向いて取り付けられるセンサー取付部と、これに並列する1つのセンサーが傾斜方向に取り付けられるセンサー取付部を有する請求項1又は4に記載の検査治具。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の検査治具に4つのセンサーを直列に組み込んで溶接ビードの山の高さが3mm以下の溶接部の渦流探傷を行う検査方法であって、左端のセンサーから右端のセンサーまでそれぞれセンサーNo.1~センサーNo.4とし、先ず、センサー群のうちNo.3とNo.4のセンサーの溶接ビード部とのギャップを確認し、必要な場合は所要のギャップが確保されるようにそれらの高さ位置を調整するギャップ調整を行う。そして、No.2とNo.3のセンサーの境界面が溶接ビードの左側の溶接止端部より山側にあるように前記検査治具を設置して走査を行う。次に、No.1とNo2のセンサーのギャップ調整を行った上で、No.2とNo.3のセンサーの境界面が溶接ビードの右側の溶接止端部より山側にあるように前記検査治具を設置して走査を行う検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦流探傷において使用される検査治具に係り、特に石油備蓄用のタンクの底面又は隅角部のコーティングされた溶接部分の渦流探傷において好適に使用される検査治具に関する。
【背景技術】
【0002】
大量の危険物を貯蔵する特定屋外貯蔵タンクの一つである石油備蓄用タンクは、定期的なタンク底の溶接部の検査が求められており、その検査における検査手法を確立する検討がなされている。非破壊検査の方法として、超音波探傷法、磁粉探傷法、渦流探傷法などがあるところ、非特許文献1に、超音波探傷法の一つであるフェーズドアレイ(以下、PA)超音波探傷法は、mmオーダーのマクロ欠陥を長さに加えて部材強度に直結する深さ情報も計測できることから、消防危第93号に基づき、長さ6mm、深さ3mm以上の傷を検出するPA探傷装置を開発し、その有効性を検証したとする報告がなされている。
【0003】
そして、その非特許文献1には試験条件等が記載されており検査対象範囲について、「水平方向の検査対象範囲は図7のとおり、現行の溶接検査の範囲と同様とし、熱影響部を含む溶接部とする。熱影響部は溶接止端から母材板厚の1/2の距離までとする。溶接線幅(溶接最終層のビード幅)については、実タンクでは22mm程度であったため、安全側の評価として25mmとした。よって、水平方向の対象範囲は、熱影響部を含めて溶接線片側18.5mm、両側で37mmとする。」と記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、以下のように記載されている。大型の石油タンクが、洋上タンク方式や地下岩盤タンク方式を含めて10基地に多数建造されている。これらの地上タンクは直径80m、重油貯蔵量10万klを超える巨大建造物であり、タンク底板表面にはコーティングがされ定期検査が義務づけられている。磁粉探傷法によるとコーティングを剥離しなければ定期点検ができないことから、これに変わる探傷法の検討を行った。ビニルエステル樹脂ガラスフレークコーティングの厚さが異なる部分に長さ4mm、深さ1.5mmの放電加工ノッチを施した試験片について、フェーズドアレー探傷と一様渦流プローブを用いた渦流探傷を行った。フェーズドアレー探傷ではノッチがコーティング厚さ1mm以下では安定して検出でき、2mmでもなお検出できる。渦流探傷では厚さ約2mmまでノッチの検出が可能であった。
【0005】
一方、非特許文献3には、鋼橋の定期点検では磁粉探傷法を使用しているが塗膜除去等多大な費用を要することから、塗膜の除去を要しない渦流探傷法による実橋検証を行ったとする結果が記載されている。この渦流探傷によると、まわし止端部に発生した深さの浅いき裂については検出が難しく、表面である程度の長さ以上のき裂は検出しやすいという傾向が見られた。そして、この探傷法により、塗膜割れ1箇所あたりの探傷時間を磁粉探傷法の半分以下に短縮できるとされる。
【0006】
上記非特許文献2又は3に示されるように渦流探傷法は優れた探傷方法であるが、渦流探傷法に係る特許文献は多くはない。例えば、石油備蓄用のタンクや橋などは広い範囲の点検を行わなければならないことから、以下の渦流探傷用点検装置が提案されている。特許文献1には、鉄道車両用台車枠の探傷箇所にセットされるベースに、渦電流探傷方式のプローブを、台車枠の表面に沿って走行し得るように移動自在に取付けている、鉄道車両用台車枠の探傷用センサーユニットが提案されている。この探傷用センサーユニットは、プローブを移動させながら探傷するため、長く延びる探傷箇所を能率良くかつ正確に探傷することができるとされる。また、プローブは、コイルが軸線回りに巻いてある縦巻き方式と、軸線と直交する方向の回りに巻いた横巻き方式があるが、スリットの検出性とノイズ排除性からは横巻き方式が優れるとされる。
【0007】
特許文献2に、探傷支持枠の内に、プロープの移動を案内するガイドを前記探傷支持枠鋼板にほぼ平行に設けるとともに、移動装置に連結されたプロープを前記ガイドに沿って移動走査自在としたことを特徴とする携帯型渦流探傷装置が提案されている。この携帯型渦流探傷装置のプローブは、精度よく亀裂等の欠陥を検出することがでなるとともに、被検箇所が変わる毎に検査者が移動する必要がなく、高所でかつ検査者の視野から外れるIビームの下面等の検査が非常に容易になるとされる。
【0008】
特許文献3には、燃料タンク側板自動点検装置に係る発明が提案されており、この燃料タンク側板自動点検装置の渦流探傷器は、渦流探触子が溶接線上をジグザグ状に横切り、溶接線の中心を追跡するように本体機構を移動させ側板の溶接部を点検するとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】コーティング上からの溶接線検査に係る検討委員会報告書(危険物保安技術協会、令和4年3月、http://www.khk-syoubou.or.jp/pdf/guide/research/17_2022-03-phased%20array.pdf)
【文献】石油タンク底板溶接部のコーティング上からの非破壊検査技術の検討(IIC REVIEW/2010/10. No.44、藤原 貢他、https://www.iic-hq.co.jp/library/044/pdf/044_03.pdf)
【文献】渦流探傷法を用いた塗膜上からのき裂検出に関する検討、第32回日本道路会議(国土交通省関東技術事務所発注の「H27管内橋梁補修補強技術検討業務」、https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000689405.pdf)
【文献】特開2004-117138号公報
【文献】実開昭56-13747号公報
【文献】特開平2-221858号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記に示すように、渦流探傷法は、タンクの底面又は隅角部の溶接部分がコーティングされた石油備蓄用のタンクの定期点検において有効な探傷方法である。そして、かかる広範囲の探傷を行うには、特許文献1~3に示されるように溶接ビードに沿って探傷することができる装置または方法が好ましい。しかしながら、さらなる高精度の渦流探傷を行うには、非特許文献3、特許文献1又は特許文献3に示されるように、渦流探傷に用いられるプローブ(センサー)の構造又は種類、構成、及び走査方法を含めた改善が求められる。
【0011】
本発明は、上記課題に基づいて、石油備蓄用のタンクの底面又は隅角部のコーティングされた溶接部分の渦流探傷を高精度かつ効率的に行うことができる検査治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、複数のセンサーを組み合わせてセンサー群として構成し、タンクの底面又は隅角部の溶接方法、溶接ビードの形状又は位置に応じて走査することにより、タンクの底面又は隅角部のコーティングされた溶接部分の渦流探傷を高精度かつ効率的に行うことができることを見いだした。そして、かかる知見に基づいて以下の発明をなした。
【0013】
本発明に係る検査治具は、石油備蓄用のタンクの底面又は隅角部のコーティングされた溶接部分の渦流探傷において使用される検査治具であって、前記タンクの底面上に固定されるガイドレールと、そのガイドレールに案内されて移動するセンサースライドと、そのセンサースライドに組み込まれるセンサーと、を有し、前記ガイドレールは、前記タンクの底面上に固定される固定面部とその固定部面に直交して立設し、上縁が前記底面に平行に形成されてなるガイド面部を有し、前記センサースライドは、前記ガイドレールの上縁を案内面として前記タンクの底面から一定の高さで前記ガイドレールに沿って移動可能であって、前記センサーの複数個を一体とするセンサー群を組込むセンサー取付部を有し、そのセンサー取付部は前記センサーのリフトオフ値と前記タンクの底面又は隅角部の溶接ビードの形状に基づいて前記センサーの上下位置又は及び傾斜方向をそれぞれ調整することができるようになっている。
【0014】
上記発明において、ガイドレールは、一対のアングル部材と両端部の幅決め部材から形成される一定幅を有する枠体をなし、センサースライドは、センサーの前記枠体における幅方向位置を規定するレールガイド部を有するものとすることができる。
【0015】
また、一対のアングル部材は、直線状であって、ともにガイド面部の上縁高さが同一になるように、タンクの底面の溶接が突合せ溶接の場合はガイド面部の高さがともに同一のアングル部材とされ、重ね溶接の場合は溶接部の板厚に基づく段差を考慮したガイド面部高さを有するアングル部材の組とされ、センサースライドのセンサー取付部は、前記一対のアングル部材の間に設けられてなるものとすることができる。
【0016】
また、一対のアングル部材は、タンクの内壁面の曲率に合わせた湾曲状でともにガイド面部の上縁高さが同一であって、センサースライドのセンサー取付部は、前記ガイドレールの外側であってタンク隅角部側に設けられてなるものとすることができる。
【0017】
また、センサースライドは、複数のセンサーが直列に垂直方向を向いて取り付けられるセンサー取付部を有するものとすることができる。また、センサースライドは、複数のセンサーが直列に垂直方向を向いて取り付けられるセンサー取付部と、これに並列する1つのセンサーが傾斜方向に取り付けられるセンサー取付部を有するものとすることができる。
【0018】
本発明に係る検査方法は、上記検査治具を使用してタンク底面のコーティングされた溶接部分の渦流探傷を行う検査方法である。すなわち、前記センサ治具に4つのセンサーを直列に組み込んで溶接ビードの山の高さが3mm以下の溶接部の渦流探傷を行う検査方法であって、左端のセンサーから右端のセンサーまでそれぞれセンサーNo.1~センサーNo.4とし、先ず、センサー群のうちNo.3とNo.4のセンサーの溶接ビード部とのギャップを確認し、必要な場合は所要のギャップが確保されるようにそれらの高さ位置を調整するギャップ調整を行う。そして、No.2とNo.3のセンサーの境界面が溶接ビードの左側の溶接止端部より山側にあるように前記検査治具を設置して走査を行う。次に、No.1とNo2のセンサーのギャップ調整を行った上で、No.2とNo.3のセンサーの境界面が溶接ビードの右側の溶接止端部より山側にあるように前記検査治具を設置して走査を行う検査方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る検査治具は、石油備蓄用のタンクの底面及び隅角部のコーティングされた溶接部分を、複数のセンサーから構成されるセンサー群により、タンクの底面又は隅角部の溶接、溶接ビードの形状又は溶接方法に応じて走査することができ、溶接部分の渦流探傷を高精度かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る検査治具の構成を示す説明図である。図1(a)は正面断面図、図1(b)は平面図である。
図2】本発明に係るセンサーの構成を示す説明図である。
図3】本発明に係る検査治具の使用方法を示す説明図である。
図4】本発明に係る検査治具の他の使用方法を示す説明図である。
図5】本発明に係る検査治具の他の使用方法を示す説明図である。
図6】実施例のスリットの配置説明図である。
図7】試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明を実施するための形態について説明する。本発明に係る検査治具は、石油備蓄用のタンクの底面又は隅角部のコーティングされた溶接部分の渦流探傷において使用される検査治具であって、前記タンクの底面上に固定されるガイドレールと、そのガイドレールに案内されて移動するセンサースライドと、そのセンサースライドに組み込まれる複数のセンサーと、を有している。図1に示すように、本検査治具10において、ガイドレール20は、タンクの底面上に固定される固定面部21aとその固定部面21aに直交して立設し、上縁21cが前記底面に平行に形成されてなるガイド面部21bを有し、センサースライド11は、ガイドレール20の上縁21cを案内面として前記タンクの底面から一定の高さでガイドレール20に沿って移動可能であって、前記複数のセンサー31を一体のセンサー群30として組込むセンサー取付部15を有し、そのセンサー取付部15はセンサー31のリフトオフ値と前記タンクの底面又は隅角部の溶接ビードの形状に基づいてセンサー31の上下位置又は及び傾斜方向をそれぞれ調整することができるようになっている。
【0022】
本発明において、センサースライド11は、図1に示すように、センサー31を一体に組込むセンサー取付部15を有している。本例のセンサー取付部15は、4つのセンサー31を直列に一体として組み込むことができる。センサー取付部15は、また、図4(b)に示すように、2列(15A、15B)に併設して設けることができる。例えば、1列目のセンサー取付部15Aにはセンサーを垂直状態で取り付け、2列目のセンサー取付部15Bにはセンサーを傾斜状態で取り付けることができる。センサー31はセンサースライド11にボルトで固定されており、センサー31の高さ位置または傾斜方向を容易に調整することができる。
【0023】
また、センサースライド11は、センサー31がガイドレール20に沿って溶接部の所定の位置を走査するようにレールガイドを有する。図1の場合は、センサー群30の両端のセンサー31がレールガイド16を形成する。すなわち、両端のセンサー31が一対のアングル部材21のガイド面部21bに沿って移動し、センサースライド11に組み込まれたセンサー31はガイドレール20に沿ってタンクの底面から所定の高さ及びガイドレール20の所定の幅方向位置で走査される。
【0024】
レールガイド16の形態は種々であり、図4(b)の一列目のセンサー取付部15に示すレールガイド16A(×印部)、または、図4(c)に示すレールガイド16Bであってもよい。レールガイド16Aは、ダミーセンサー(例えば、センサー31をダミーとして使用する)を使用することができる。
【0025】
ガイドレール20は溶接ビードに沿って、溶接方向に並行に設置される。ガイドレール20の長さは、作業効率性の観点から100cm程度が好ましい。ガイドレール20は、図1に示すように、タンクの底面上に固定される固定面部21aとその固定部面21aに直交して立設し、上縁21cが前記底面に平行に形成されてなるガイド面部21bを有している。固定面部21aは、タンクの底面に磁石により固定され、タンクの所定の底面に本検査治具10を固定することができる。ガイドレール20は、固定面部21aに直交するガイド面部21bを有し、その上縁21cがタンクの底面に平行になっている。センサースライド11はこの上縁に案内されてタンクの底面上平行移動することができる。本例のガイドレール20は、一対のアングル部材21(21A、21B)が両端部の幅決め部材25(25A、25B)により結合された枠体をなしている。一対のアングル部材21は、タンクの溶接部分が突合せ溶接である場合は同じ形状のアングル部材が使用され、重ね溶接の場合は、溶接部の板厚に基づく段差を考慮したガイド面部高さを有するアングル部材を一組として、それぞれの上縁のタンク底面からの高さが等しくなるようにされる。
【0026】
ガイドレール20は、単一のアングル部材21からなるモノレールタイプであってもよい。この場合は、ガイド面部21bにセンサースライド11がタンクの底面上所定の高さで移動できる構造を設ける必要がある。アングル部材は、市販のアングル部材を使用することができる。
【0027】
本発明は、センサー31を複数個用い、複数のセンサーをセンサー群30として渦流探傷を行う。センサー群30は、その検知範囲が溶接ビード及び熱影響部をカバーするように設けられる。センサー31は、渦流探傷装置に使用される市販のセンサーを使用することができ、リフトオフ雑音が発生しにくいセンサーが好ましい。例えば、図2に示すタンジェンシャルコイルを励磁コイルとし、互いにコイルの軸方向が直交する検出コイルを有するセンサーを使用することができる。図1~5に示すセンサー31は、図2に示すセンサーを使用しており、センサー31の入出力は図1に示す電源コード35により行われる。
【0028】
センサー群30は、どのセンサー31が溶接亀裂(ノッチ)を検出したかにより、そのノッチの位置が検出される。このため複数のセンサー31は、直列して一体に垂直方向を向いてセンサースライド11のセンサー取付部15に組み込まれるのがよい。この場合、溶接ビードの山の高さが低い場合は、センサー31のリフトオフ値に応じてセンサー31の上下位置を調整することにより測定精度を維持することができる。しかしながら、溶接ビードの山の高さが高くなると、測定精度を維持するためにセンサー軸を傾斜させ、センサー31の端面がなるべく山の傾斜面に対向するようにセンサー31をセンサー取付部15に組み込むのがよい。センサー群30を構成するセンサー31は、取付性又は操作性からその断面形状は方形であるのがよい。
【0029】
本検査治具10は、図3又は図4に示すように使用される。溶接ビードは、非特許文献1に記載されるように溶接ビードの幅が25mm程度、熱影響部が6mm程度と考えられ、渦流探傷において、検出精度はノッチの長さ及び深さが、6mm×3mm であるものが求められる。かかる要求に対して、4つのセンサー31を直列に配設してセンサー群30を構成するのがよい。例えば、センサー31のリフトオフ値が2~3mmである場合において、溶接ビードの形状が滑らかな場合は図1に示すセンサー群30とし、溶接ビードの山の高さが2~3mmの場合は図3に示すセンサー群30として構成するのがよい。
【0030】
本検査治具を用いて渦流探傷を行う検査方法を図3をもとに説明する。図3において、No.1~No.4はそれぞれ幅が15mmのセンサー31、山形の斜線部は幅が25mm、山の高さが2~3mmの溶接ビードを示す。溶接ビードの下方に示す細長枠は、斜線部が溶接ビード幅(25mm)、両端の白色部が熱影響部(6mm)を示す。センサー31の端面側部は、感度が低くまたビードとの接触防止を図るため面取りを行うのがよい。
【0031】
先ず、図3(a)に示すように、センサー群30のうち溶接ビードの山に対向するNo.3とNo.4のセンサー31の溶接ビード部とのギャップが確保されるように、それらの高さ位置を調整する。所要のギャップは、センサー31のリフトオフ値以内であって渦流探傷部位とセンサー31との接触が避けられる範囲である。No.3とNo.4のセンサー31の高さは同等にする。そして、センサー群30の走査を、図3(a)に示すように熱影響部の探傷を広範囲に行うため、No.2とNo.3のセンサー31の境界面が溶接ビードの左側の溶接止端部より山側(例えば、面取り部分程度)にあるように検査治具を設置して行う。そして、図3(b)に示すように、溶接ビードの山に対向するNo.1とNo2のセンサー31の高さ位置を調整した上で、No.2とNo.3のセンサー31の境界面が溶接ビードの右側の溶接止端部より山側にあるように検査治具を設置してセンサー群30の走査を行う。かかる左側及び右側溶接止端部を基準に走査することにより、タンクの溶接部及び熱影響部をもれなく渦流探傷することができる。
【0032】
図4は、溶接ビードの山の高さが3mmを超える場合に有効なセンサー群30の例を示す。No.1、No.2、No.4のセンサー31が1列目のセンサー取付部15Aに垂直状態で配設され、No.3のセンサーが2列目のセンサー取付部15に溶接ビートに対向するように傾斜状態で配設されている。No.1及びNo.2のセンサー31は互いに隣接して同一の高さ位置にあって、No.2のセンサー31の右側(No.4側)が溶接ビードの止端部より山側になるように配設されている。No.4のセンサーは、No.3のセンサー31から少し離れ、溶接ビードの頂部に対向するように配設されている。
【0033】
タンクの隅角部の溶接部分の渦流探傷を行う場合は、図5に示す構成の検査治具を使用するのがよい。本検査治具は、ガイドレール20が形成する一対のアングル部材21は、タンクの内壁面の曲率に合わせた湾曲状でともにガイド面部21bの上縁21cの高さが同一になっている。非特許文献2によると石油備蓄用のタンクの直径は80mを超えるとされるが、直径が50mを超える湾曲に対応できるように、曲率がある程度自在に調整できるものが好ましい。センサー31は、隅角部の湾曲した溶接部分に沿って走査できるように、2個のセンサー31が垂直方向を向き、他の1個のセンサー31が傾斜方向に向いて取り付けられるセンサー群30を配設するのがよい、このため、ガイドレール20の外側のタンク隅角部側に2列のセンサー取付部15を有するセンサースライド11を用いるのがよい。なお、センサー31のガイドレール20からの突出量を小さくするため、レールガイド20を形成する一対のアングル部材21は、図5に示す構成が好ましい。また、センサースライド11は、突出型のレールガイド16Bを設けることができる。
【実施例1】
【0034】
図3に示すセンサー群30を有する検査治具を使用して渦流探傷試験を行った。センサーは、TesTex社製のTRITON(登録商標)II を使用した。試料は、SM400材を突き合わせ溶接した後、放電加工によりノッチを4カ所加工し、コーティングの代わりに1.5mmのポリプロピレン樹脂膜で覆った物を使用した。ノッチは長さ6mm、深さ2mmであった。溶接ビードは山高さが2~3mm、幅が22mmであった。渦流探傷面とセンサー31とのギャップは2.0mmであった。図6にノッチの配置を示す。溶接ビートの山頂部に横ノッチ1と縦ノッチ2、溶接止端部に横ノッチ3と縦ノッチ4を設けた。試験結果を図7に示す。図7のグラフは、センサーC1~C4の出力結果を示し、横軸が走査時間、縦軸が出力強度を示す。上段は位相の出力、下段は振幅の出力を示す。また、グラフの上欄に示す↓1~↓4は、ノッチ1~4の検出出力を示す。センサーC2の↓1と↓2を比較すると、前者の位相出力は先ず急低下した後急上昇しており、後者の位相出力は先ず急上昇した後急低下している。かかる位相出力の変化状態により、ノッチの方向が分かり、↓1の場合は横方向のノッチ↓2は縦方向(溶接ビード方向)のノッチを示す。
【0035】
以上、本検査治具について説明した。石油備蓄用のタンクの底面又は隅角部の各種溶接方法により溶接されてコーティングされた溶接部分の渦流探傷において、本検査治具は、複数のセンサーから構成されるセンサー群を用いて、リフトオフ値以内で走査することができ、ノイズの少ない高精度で渦流探傷を行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
10 検査治具
11 センサースライド
15、15A、15B センサー取付部
16、16A、16B レールガイド
20 ガイドレール
21、21A、21B アングル部材
25 幅決め部材
30 センサー群
31 センサー
【要約】
【課題】石油備蓄用のタンクの底面又は隅角部のコーティングされた溶接部分の渦流探傷を高精度かつ効率的に行うことができる検査治具を提供する。
【解決手段】本発明に係る検査治具は、石油備蓄用のタンクの底面又は隅角部のコーティングされた溶接部分の渦流探傷において使用される検査治具であって、前記タンクの底面上に固定されるガイドレール20と、そのガイドレール20に案内されて移動するセンサースライド11と、そのセンサースライド11に組み込まれる複数のセンサー31からなるセンサー群30を有している。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7