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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】眼科撮影装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/14 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
A61B3/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018157203
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020028597
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100175190
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 裕明
(72)【発明者】
【氏名】松村 和典
(72)【発明者】
【氏名】川上 昭夫
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-079392(JP,A)
【文献】特開2016-010630(JP,A)
【文献】特開2014-083397(JP,A)
【文献】特開2007-135868(JP,A)
【文献】特開平08-117192(JP,A)
【文献】国際公開第2010/113476(WO,A1)
【文献】特開2005-279154(JP,A)
【文献】特開2011-189062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光および不可視光に感度を有する撮像素子と、
被検者眼の眼底を不可視光で照明する観察用の第1照明手段と、
前記眼底を可視光で照明する撮影用の第2照明手段と、
前記第1照明手段によって照明されている前記眼底を前記撮像素子で撮像している間に撮影要求を受けると、前記第1照明手段の発光量を所定の基準光量に変更し、前記基準光量の不可視光で照明された前記眼底の反射光に基づいて決定した発光量で前記第2照明手段を発光させて前記眼底を前記撮像素子で撮影する制御手段と、を備え
前記制御手段は、前記第1照明手段によって照明されている前記眼底を前記撮像素子で撮像している間に前記撮影要求を受けると、前記第1照明手段の発光量を前記基準光量に変更し、前記基準光量の不可視光で照明された前記眼底の反射光によって前記撮像素子に映し出される前記眼底の複数枚の画像の輝度の平均値に基づいて決定した発光量で前記第2照明手段を発光させて前記眼底を前記撮像素子で撮影する、
眼科撮影装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1照明手段によって照明されている前記眼底を前記撮像素子で撮像している間に前記撮影要求を受けると、表示手段への前記眼底の像の表示を停止した状態で前記第1照明手段の発光量を前記基準光量に増量し、前記基準光量の不可視光で照明された前記眼底の反射光に基づいて決定した発光量で前記第2照明手段を発光させて前記眼底を前記撮像素子で撮影する、
請求項1に記載の眼科撮影装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1照明手段によって照明されている前記眼底を前記撮像素子で撮像している間に前記撮影要求を受けると、前記第1照明手段の発光量を前記基準光量に変更し、前記基準光量の不可視光で照明された前記眼底の反射光によって前記撮像素子に映し出される前記眼底の画像の輝度に基づいて決定した発光量で前記第2照明手段を発光させて前記眼底を前記撮像素子で撮影する、
請求項1または2に記載の眼科撮影装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1照明手段によって照明されている前記眼底を前記撮像素子で撮像している間に前記撮影要求を受けると、前記第1照明手段の発光量を前記基準光量に
変更し、前記基準光量の不可視光で照明された前記眼底の反射光によって前記撮像素子に映し出される前記眼底の画像の所定領域の輝度に基づいて決定した発光量で前記第2照明手段を発光させて前記眼底を前記撮像素子で撮影する、
請求項1からの何れか一項に記載の眼科撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼底の撮影に際しては、眼底に照射する撮影照明の光量の調整が行われる(例えば、特許文献1-2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-279154号公報
【文献】特許第5602501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
眼底の撮影は、瞳孔の大きさの影響を受ける。そこで、眼底の撮影においては、眼底に照射する撮影照明の光量を調整するために、赤外光による眼底からの反射光の光量の測定が事前に行われ、当該測定結果に基づいて撮影照明の光量が決定される。
【0005】
眼底からの反射光の光量の測定に用いる測定光としては、例えば、瞬間的な光を放つフラッシュランプの光路に赤外カットフィルタを挿入し、当該フラッシュランプをテスト発光させて得られる赤外光を測定光としたものや、観察用の動画像を得るために眼底に連続照射される赤外光を測定光としたものが挙げられる。しかし、前者の場合にはフラッシュランプを途切れなく連続で発光させることが技術的に難しいため、テスト発光を終えてから撮影のための発光を行うまでの間の時間経過により、瞳孔の状態が変化する可能性がある。また、後者の場合には動画像であるが故に赤外光の光量が絶えず変化しているため、当該赤外光の反射光に基づいて決定される撮影照明の光量が過不足になる可能性がある。
【0006】
そこで、本願は、撮影照明の光量を精度良く決定可能な眼科撮影装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、不可視光で照明している眼底を撮像している間に撮影要求を受けると、光量を基準光量に変更し、その状態における眼底からの反射光に基づいて撮影時の発光量を決定することにした。
【0008】
詳細には、本発明は、眼科撮影装置であって、可視光および不可視光に感度を有する撮像素子と、被検者眼の眼底を不可視光で照明する第1照明手段と、眼底を可視光で照明する第2照明手段と、第1照明手段によって照明されている眼底を撮像素子で撮像している間に撮影要求を受けると、第1照明手段の発光量を所定の基準光量に変更し、基準光量の不可視光で照明された眼底の反射光に基づいて決定した発光量で第2照明手段を発光させて眼底を撮像素子で撮影する制御手段と、を備える。
【0009】
ここで、眼底とは、網膜の表面を含む眼球の内部の領域である。上記の眼科撮影装置では、瞳孔を通じて照明される眼底を撮像素子で撮像する。また、上記の眼科撮影装置には、眼底を照明する照明手段として、不可視光を放つ第1照明手段と、可視光を放つ第2照明手段が備わっている。不可視光とは、人の眼が感知しない光であり、例えば、赤外光が挙げられる。また、可視光とは、人の目が感知する光であり、例えば、波長域が約400nmから約800nmまでの範囲内にある光が挙げられる。
【0010】
上記の眼科撮影装置では、不可視光を放つ第1照明手段によって眼底が照明され、眼底からの反射光によって眼底が撮像されている間に撮影要求があると、第1照明手段の発光量を所定の基準光量に変更する。ここで、撮像とは動画または静止画を撮ることをいい、撮影とは静止画を撮ることをいう。また、撮影要求とは、可視光によって照明された眼底の静止画の取得が求められる際に出される要求であり、例えば、観察者によって押下されるシャッターボタンの信号、眼底を撮影するタイミングの決定を自動で行う処理装置の信号、その他の各種形態の要求が挙げられる。また、基準光量とは、予め定められた所定の光量であり、眼底の観察中に照明する光の光量とは異なる光量である。
【0011】
上記の眼科撮影装置では、撮影要求があると第1照明手段の発光量が基準光量に変更される。よって、基準光量の不可視光で照明された眼底からの反射光の光量は、瞳孔の大きさといった被検者眼の状態を反映したものとなり、且つ、眼底の動画像を得るために発光量が絶えず増減する照明光の変化を含まない安定したものとなる。したがって、上記の眼科撮影装置によれば、撮影照明の光量の決定がこのような安定した反射光を使って行われることになるため、決定される撮影照明の光量が過不足になる可能性を可及的に抑制することができる。
【0012】
ところで、制御手段は、第1照明手段によって照明されている眼底を撮像素子で撮像している間に撮影要求を受けると、表示手段への眼底の像の表示を停止した状態で第1照明手段の発光量を基準光量に増量し、基準光量の不可視光で照明された眼底の反射光に基づいて決定した発光量で第2照明手段を発光させて眼底を撮像素子で撮影するようにしてもよい。
【0013】
このような眼科撮影装置であれば、第1照明手段の発光量が基準光量に増量された際に眼底の像が表示されないため、眼底の観察者に光量の変化を感じさせることがない。
【0014】
また、制御手段は、第1照明手段によって照明されている眼底を撮像素子で撮像している間に撮影要求を受けると、第1照明手段の発光量を基準光量に変更し、基準光量の不可視光で照明された眼底の反射光によって撮像素子に映し出される眼底の画像の輝度に基づいて決定した発光量で第2照明手段を発光させて眼底を撮像素子で撮影するものであってもよい。
【0015】
このような眼科撮影装置であれば、撮像素子によって得られる画像の輝度で発光量を決定できるため、反射光の光量を測定するための構成を撮像素子とは別途に設ける必要が無い。よって、装置構成を簡略化可能である。
【0016】
また、制御手段は、第1照明手段によって照明されている眼底を撮像素子で撮像している間に撮影要求を受けると、第1照明手段の発光量を基準光量に変更し、基準光量の不可視光で照明された眼底の反射光によって撮像素子に映し出される眼底の複数枚の画像の輝度の平均値に基づいて決定した発光量で第2照明手段を発光させて眼底を撮像素子で撮影するものであってもよい。
【0017】
このような眼科撮影装置であれば、1枚の画像の輝度に基づいて発光量が決定される場合に比べて、不適切な発光量で決定される可能性を抑制することができる。
【0018】
また、制御手段は、第1照明手段によって照明されている眼底を撮像素子で撮像している間に撮影要求を受けると、第1照明手段の発光量を基準光量に変更し、基準光量の不可視光で照明された眼底の反射光によって撮像素子に映し出される眼底の画像の所定領域の輝度に基づいて決定した発光量で第2照明手段を発光させて眼底を撮像素子で撮影するも
のであってもよい。
【0019】
ここで、所定領域とは、眼底の画像の一部の領域であり、例えば、迷光が映り込む中心部からやや離れた領域が挙げられる。このような眼科撮影装置であれば、迷光が映り込んでいる部位の輝度が発光量の決定において参照されないため、不適切な発光量で決定される可能性を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
上記の眼科撮影装置であれば、撮影照明の光量を精度良く決定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態の眼科撮影装置の光学系の概略構成を示した図である。
図2図2は、眼科撮影装置に備わる電気回路のブロック線図の一例である。
図3図3は、眼底撮影前後における各処理のタイミングチャートを示した図である。
図4図4は、眼科撮影装置で実現される処理フローを示した図である。
図5図5は、撮影時の発光量の決定に際して輝度値が参照される領域の一例を示した図である。
図6図6は、観察用照明の発光量の変化の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0023】
図1は、本実施形態の眼科撮影装置の光学系の概略構成を示した図である。眼科撮影装置1は、被検眼Eの眼底を撮影する装置であり、対物レンズ2、前眼部照明2A、前眼部結像レンズ2B、有孔ミラー3、フォーカスレンズ4、ハーフミラー5、内部固視灯6、リレーレンズ7、フォーカスドットミラー8、フォーカス指標投影系9、黒点板ガラス10、リレーレンズ11、リングスリット12、拡散板13、撮影用照明14(本願でいう「第2照明手段」の一例である)、観察用照明15(本願でいう「第1照明手段」の一例である)、結像レンズ16、狭角用レンズ17、広角用レンズ18、赤外カットフィルタ19、イメージセンサ20(本願でいう「撮像素子」の一例である)を備える。
【0024】
まず、眼科撮影装置1に備わる各部品の位置関係および機能について説明する。対物レンズ2は、被検眼Eの正面に位置するレンズである。また、前眼部照明2Aは、被検眼Eの前眼部を赤外光で照明する機能と、被検眼Eの前眼部に距離測定用の指標を投射する機能とを兼ね備えた赤外LED(Light Emitting Diode)である。そして、対物レンズ2の後方の光軸上には、前眼部結像レンズ2B、有孔ミラー3、フォーカスレンズ4、ハーフミラー5、内部固視灯6が順に配置されている。前眼部結像レンズ2Bは、対物レンズ2の後方の光軸上に挿抜される可動式のレンズであり、眼科撮影装置1に設けられた切替ボタンや制御信号に連動してアクチュエータで動く。有孔ミラー3は、対物レンズ2の光軸が通過する部位に貫通孔が形成されたミラーであり、対物レンズ2の光軸に対し適当な傾き角で眼科撮影装置1内に固定されている。
【0025】
有孔ミラー3で反射されて被検眼Eに照射される照明光を導く照明光学系の軸上には有孔ミラー3側から順に、リレーレンズ7、フォーカスドットミラー8、黒点板ガラス10、リレーレンズ11、リングスリット12、拡散板13、撮影用照明14、観察用照明15が配置される。よって、可視光を瞬間的に放つフラッシュランプである撮影用照明14や、不可視の赤外光を発光する赤外LEDである観察用照明15から放たれた光は、拡散板13やリングスリット12を通過する過程で環状の照射光となり、リレーレンズ11、
黒点板ガラス10、フォーカスドットミラー8、リレーレンズ7を経て有孔ミラー3で反射され、対物レンズ2を経て被検眼Eの眼底を照明する。
【0026】
黒点板ガラス10は、対物レンズ2による反射光が撮影像に写り込むのを防ぐ目的で設けられており、板ガラスの中心、すなわち光軸のある位置に、小さい遮光物を配置したものである。その黒点板ガラス10とリレーレンズ7との間にあるフォーカスドットミラー8には、反射光がリレーレンズ7の光軸に一致することになる角度でフォーカス指標投影系9からの光が入射する。フォーカス指標投影系9は、被検眼Eの眼底にフォーカス指標を投影する。よって、被検眼Eの眼底には、撮影用照明14や観察用照明15が放つ光の他、フォーカス指標投影系9が放つフォーカス指標の光が入射することになる。フォーカス指標投影系9には、赤外光を放つ赤外LEDが用いられている。
【0027】
撮影用照明14や観察用照明15の光で照明された被検眼Eの眼底からの反射光は、対物レンズ2、有孔ミラー3、フォーカスレンズ4を通過してハーフミラー5に入射する。ハーフミラー5は、対物レンズ2の光軸に対し適当な傾き角で眼科撮影装置1内に固定されている。よって、被検眼Eの眼底からの反射光は、ハーフミラー5において、対物レンズ2の光軸に対し適当な角度をもって反射される。フォーカスレンズ4から入射したハーフミラー5の反射光の光軸上には、結像レンズ16、赤外カットフィルタ19、イメージセンサ20が順に設けられている。そして、結像レンズ16と赤外カットフィルタ19との間には、観察者が所望する倍率に応じて適宜選択される変倍レンズである狭角用レンズ17または広角用レンズ18が挿入される。よって、被検眼Eの眼底からの反射光は、ハーフミラー5で反射された後に結像レンズ16を通過し、狭角用レンズ17または広角用レンズ18を経た後、イメージセンサ20へ入射する。イメージセンサ20では、マトリクス状に配列された光電変換素子が光のエネルギーを受けて電気信号を発し、被検眼Eの眼底の画像が得られる。
【0028】
イメージセンサ20は、可視光および赤外光に感度を有する撮像素子である。よって、イメージセンサ20は、被検眼Eを照明する光の光源が、被検眼Eの前眼部を照明する前眼部照明2A、被検眼Eの眼底を照明する撮影用照明14、同じく被検眼Eの眼底を照明する観察用照明15の何れであっても、前眼部或いは眼底の画像を得ることができる。このようなイメージセンサ20としては、例えば、CMOSが挙げられる。
【0029】
赤外カットフィルタ19は、被検眼Eの眼底を可視光で撮影する際に光路へ挿入され、赤外光による観察の際には光路から抜去される。赤外カットフィルタ19は、赤外光を遮断するフィルター機能を有しており、眼底の撮像画像に赤外光が映り込むのを防止する役割を果たす。
【0030】
なお、眼科撮影装置1では、上記の光学系部品を筐体に収めた撮影装置本体が架台に載っている。そして、眼科撮影装置1には、架台に載っている筐体を操作レバーによる操作で前後、左右或いは上下に移動する移動機構が備わっており、当該操作レバーを操作することで、被検眼Eに対する撮像装置本体の位置関係を調整できるようになっている。
【0031】
図2は、眼科撮影装置1に備わる電気回路(本願でいう「制御手段」の一例である)のブロック線図の一例である。眼科撮影装置1には、例えば、CPU基板21、LCDパネル22(Liquid Crystal Display)、LCDバックライト23、操作部24、メイン基板25が備わっている。図2では、フォーカスレンズ4と赤外カットフィルタ19を動かすアクチュエータ、撮影用照明14を発光させる高圧回路、フォーカス指標投影系9に備わるLED、観察用照明15を全て電子部品類26として纏めて図示している。
【0032】
CPU基板21は、主にイメージセンサ20で取得された画像の処理を担う回路基板で
あり、画像を処理するCPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)、画像を記録するSDカード(「SD」は登録商標)用のドライブ等の各種電子部品が実装されている。イメージセンサ20は、CPU基板21の制御信号に応じて作動し、取得した画像をCPU基板21に提供する。CPU基板21では、イメージセンサ20が取得した画像に対する各種の処理が行われ、処理された画像がLCDパネル22或いはSDカードへ出力される。LCDパネル22では、CPU基板21から出力された画像が表示される。
【0033】
メイン基板25は、眼科撮影装置1全体の制御を司る回路基板であり、FPGAやその他の各種電子部品が実装されている。メイン基板25は、操作部24で受け付けた操作内容に従ってCPU基板21や電子部品類26を作動させる。メイン基板25は、以下の処理フローを実現する。
【0034】
すなわち、眼科撮影装置1の使用が開始されると、イメージセンサ20の作動や観察用照明15の通電が開始される。眼科撮影装置1の使用開始時は、被検眼Eの前眼部がLCDパネル22に映し出される前眼部モードが選択されているため、前眼部結像レンズ2Bが光軸上に挿入された状態となっており、また、前眼部を照明する前眼部照明2Aの通電も行われる。そして、眼科撮影装置1では、被検眼Eの前眼部が鮮明に写るようにアライメント調整が行われた後、瞳孔径のチェック等を経て眼底の観察が開始される。
【0035】
図3は、眼底撮影前後における各処理のタイミングチャートを示した図である。眼底の観察が開始されると、観察用照明15が任意の発光量(以下、「任意光量」という)で60分の1秒毎に点灯と消灯を繰り返し、これに同期して観察画像と判定画像が60分の1秒毎に交互にイメージセンサ20で取得される。任意光量とは、赤外線の反射光によって眼底の像を得ることが可能となる照明光の光量であり、メイン基板25による制御によって絶えず増減する光量である。また、観察画像とは、観察用照明15の点灯によって赤外光で照明された眼底の画像であり、LCDパネル22に表示される画像である。また、判定画像とは、フォーカス指標投影系9によって投影されるワーキングドットとフォーカスドットが写り込んだ眼底の画像である。
【0036】
図4は、眼科撮影装置1で実現される処理フローを示した図である。観察画像が60分の1秒毎に取得されて動画像としてLCDパネル22に表示されている状態(図3の符号F1)で操作部24のシャッターボタンが押されると、眼科撮影装置1では、既定のシーケンスに従い、図3において符号T1~T7で示す既定のタイミングに沿って以下の処理が実現される。
【0037】
すなわち、眼科撮影装置1ではこのシャッターボタンの操作が撮影要求として受け付けられ、観察用照明15の同期発光が停止されると共に、観察用照明15の基準光量による連続点灯が開始される(S101)。また、眼科撮影装置1では、このタイミングでLCDパネル22の表示が一時停止される。ここで、基準光量とは、撮影用照明14の発光量を決定する際に観察用照明15が眼底へ照射する赤外光の光量であり、例えば、上記任意光量よりも大きい所定の光量である。そして、眼科撮影装置1では、観察用照明15が基準光量で連続点灯している状態において、判定画像がイメージセンサ20によって3フレーム分取得される(S102)。そして、眼科撮影装置1では、取得した画像の輝度値に基づいて撮影時の発光量の決定が行われる(S103、図3の符号F2)。
【0038】
図5は、撮影時の発光量の決定に際して輝度値が参照される領域の一例を示した図である。図5では、動画像としてLCDパネル22に表示されている観察画像を図5(A)に、観察用照明15が消灯している状態で取得される判定画像を図5(B)に、観察用照明15が基準光量で連続点灯している状態で取得される判定画像を図5(C)に示す。
【0039】
図5(A)に示されるように、動画像として表示される観察画像には、眼底像と重なるようにして、中心スポットCSの左右両側にワーキングドットWDL,WDR、中心スポットCSの上側にフォーカスドットFDが映っている。また、図5(B)と図5(C)に示されるように、判定画像には、眼底像は殆ど映っておらず、ワーキングドットWDL,WDRとフォーカスドットFDが映っている。そして、撮影時の発光量の決定に際して輝度値が参照される領域は、中心スポットCSからやや下側に離れた領域、すなわち、図5(C)に示される判定エリアHE(本願でいう「所定領域」の一例である)に設定されている。
【0040】
中心スポットCSは、眼底からの反射による迷光が映り込む領域であるため、撮影時の発光量の決定において輝度を参照するには不適切な領域である。そこで、本実施形態の眼科撮影装置1では、判定エリアHEを中心スポットCSからやや離れた領域に設定することにより、迷光が映り込んでいる部位の輝度を発光量の決定において参照することによる不適切な発光量の決定を防いでいる。
【0041】
眼科撮影装置1は、判定エリアHEの輝度値を3フレーム(図3の符号G1~G3で示す3つの判定画像)で平均した平均値を基に、撮影時の発光量の決定を行う。具体的には、眼科撮影装置1は、規定の標準値に対する平均値の差分に応じて撮影時の発光量を増減する。
【0042】
眼科撮影装置1は、撮影時の発光量の決定を行った後、イメージセンサ20の動作モードを可視撮影モードへ切り換える(S104)。イメージセンサ20の動作モードが観察モードから可視撮影モードへ切り替わることにより、動画を取得するために読み出しが省略されていた画素の読み出しが行われ、イメージセンサ20に備わる全ての画素の読み出しが可能な状態となる。そして、眼科撮影装置1は、観察用照明15を消灯し(S105)、光路から抜去されていた赤外カットフィルタ19を光路へ挿入する(S106、図3の符号F3)。そして、眼科撮影装置1は、撮影用照明14をステップS103の処理で決定した発光量で瞬間的に発光させ、撮影用照明14の発光と同時にイメージセンサ20が眼底の撮影を行う(S107、図3の符号F4)。これにより、イメージセンサ20では、可視光を放つ撮影用照明14で照明された眼底の静止画が取得される。
【0043】
眼科撮影装置1は、眼底の静止画をイメージセンサ20で取得した後、光路に挿入されていた赤外カットフィルタ19を光路から抜去する(S108)。そして、眼科撮影装置1は、ステップS105の処理で停止した観察用照明15の同期発光を再開すると共に(S109)、ステップS104の処理で撮影モードに変更していたイメージセンサ20の動作モードを観察モードへ変更する(S110、図3の符号F5)。また、眼科撮影装置1では、このタイミングでLCDパネル22の表示が再開される。イメージセンサ20の動作モードが可視撮影モードから観察モードへ切り替わることにより、鮮明な静止画取得するために行われていた全ての画素の読み出しが停止され、イメージセンサ20に備わる全ての画素のうち一部の読み出しを省略した画素の読み出し、すなわち、動画向けの画素の読み出しが行われる状態となる。これにより、撮影動作が開始される前の状態、すなわち、観察画像が60分の1秒毎に取得されて動画像としてLCDパネル22に表示される状態に戻る(図3の符号F6)。
【0044】
図6は、観察用照明15の発光量の変化の一例を示した図である。本実施形態の眼科撮影装置1では、赤外光を放つ観察用照明15によって眼底が照明され、眼底からの反射光によって眼底が撮像されている間にシャッターボタンが押されると、観察用照明15の発光量が任意光量から基準光量へ変更される。任意光量は、眼底の観察中に照明する光の光量であるから、被検者の周囲の明るさや、観察開始からの経過時間等に応じて、図6に示
されるように、眼底が適切な明るさとなるように絶えず調整される光量である。一方、基準光量は、上述したように、予め定められた所定の光量であり、任意光量のように絶えず増減する光量ではない。よって、基準光量の赤外光で照明された眼底からの反射光の光量は、瞳孔の大きさといった被検者眼の状態を反映したものとなり、且つ、眼底の動画像を得るために発光量が絶えず増減する照明光の変化を含まない安定したものとなる。したがって、本実施形態の眼科撮影装置1によれば、撮影照明の光量の決定がこのような安定した反射光を使って行われることになるため、決定される撮影照明の光量が過不足になる可能性を可及的に抑制することができる。
【0045】
また、上記一連の処理が行われている間はLCDパネル22の表示が停止されているため、観察用照明15の発光量が基準光量に変化した際に眼底の像が表示されない。このため、眼底の観察者には光量の変化を感じさせることがない。
【0046】
なお、上記の眼科撮影装置1は、例えば、以下のように変形してもよい。
【0047】
上記実施形態の眼科撮影装置1では、判定エリアHEが中心スポットCSからやや下側に離れた一領域に設定されていたが、判定エリアHEは、例えば、中心スポットCSから更に離れた一領域に設定されていてもよいし、中心スポットCSから離れた複数箇所の領域に設定されていてもよいし、或いは、中心スポットCSの周囲を複数箇所から取り囲むように複数箇所の領域に設定されていてもよい。判定エリアHEが複数箇所の領域に設定される場合、撮影時の発光量の決定は当該複数箇所の領域にある画素の輝度値を平均した値を使って行われる。
【0048】
また、上記実施形態の眼科撮影装置1では、シャッターボタンが押されると、判定エリアHEにおける輝度値の多寡に関わり無く既定のシーケンスに従って上記一連の処理が実行されていたが、上記一連の処理は、例えば、眼科撮影装置1に備わる電気回路が、瞳孔径が所定の大きさになったことを自動検知したタイミングで実行されるようにしてもよい。
【0049】
また、上記実施形態の眼科撮影装置1では、ステップS102の処理で取得された3フレーム分の画像の輝度値を平均した平均値を基に、撮影時の発光量が決定されていたが、撮影時の発光量は、例えば、複数フレーム分の画像の輝度値の中から多数決で選出された輝度値を基に決定されてもよいし、複数フレーム分の画像のうち特定の1フレームの画像の輝度値を基に決定されてもよいし、或いは、取得した1フレーム分の画像の輝度値のみを基に決定されてもよい。
【0050】
また、上記実施形態の眼科撮影装置1では、イメージセンサ20で取得される画像の輝度値を基に、撮影時の発光量が決定されていたが、撮影時の発光量は、例えば、イメージセンサ20とは別途に用意された受光素子を使って観測される反射光の光量に基づいて決定されてもよい。この場合、別途に用意される受光素子は、少なくとも観察用照明15が発する赤外光に対する感度を有する必要があるが、赤外光のみに感度を有するものであってもよいし、或いは、赤外光と可視光の両方に感度を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1・・眼科撮影装置:2・・対物レンズ:2A・・前眼部照明:2B・・前眼部結像レンズ:3・・有孔ミラー:4・・フォーカスレンズ:5・・ハーフミラー:6・・内部固視灯:7・・リレーレンズ:8・・フォーカスドットミラー:9・・フォーカス指標投影系:10・・黒点板ガラス:11・・リレーレンズ:12・・リングスリット:13・・拡散板:14・・撮影用照明:15・・観察用照明:16・・結像レンズ:17・・狭角用レンズ:18・・広角用レンズ:19・・赤外カットフィルタ:20・・イメージセンサ
:21・・CPU基板:22・・LCDパネル:23・・LCDバックライト:24・・操作部:25・・メイン基板:26・・電子部品類:FD・・フォーカスドット:WDL,WDR・・ワーキングドット:HE・・判定エリア:CS・・中心スポット
図1
図2
図3
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図5
図6